説明

波長変換装置および2次元画像表示装置

【課題】W級の高出力の緑色レーザ出力光を安定して得られる波長変換装置及びこの波長変換装置を用いた2次元画像表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】励起光を発生するレーザ光源の偏光方向と発振器から発せられる光の偏光方向とを直交させ、レーザー共振器とレーザ光源との間に設けられた偏光分離素子により、ASEによる励起光源の劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザと波長変換素子を組み合わせて安定な可視光高出力レーザを得る波長変換装置、および、この波長変換装置を光源として用いた2次元画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単色性が強くかつW級の高出力が出力できる可視光光源は、大型ディスプレイや高輝度ディスプレイ等を実現するうえで必要とされている。赤、緑、青の3原色のうち赤色の光源については、DVDレコーダー等で使用されている赤色高出力半導体レーザが、生産性の高い小型の光源として利用可能である。しかし、緑色または青色の光源については、半導体レーザ等での実現が難しく、生産性の高い小型の光源が求められている。とりわけ、緑色の出力光を得ることは、半導体レーザとして構成できる適当な材料がないこともあり、緑色の光源を実現するうえでの難易度は高い。
【0003】
このような光源として、ファイバレーザと波長変換素子とを組み合わせた波長変換装置が低出力の可視光光源として実現されている。ファイバレーザを励起する励起光の光源として半導体レーザを用い、波長変換素子として非線形光学結晶を用いた緑色や青色の小型の光源はよく知られている。
【0004】
しかしながら、このような波長変換装置からW級の高出力の緑色や青色の出力光を得るためには、いくつかの課題を解決することが必要である。例えば、従来の波長変換装置の構成を用いて緑色の出力光を得る場合、波長変換装置は、基本波を出力するファイバレーザと、基本波を緑色のレーザ光に変換する波長変換素子と、この波長変換素子の端面に基本波の出力を集光するレンズとを備えている必要がある。
【0005】
ここで、このファイバレーザの基本のレーザ動作について説明する。まず、励起用レーザ光源からの励起光がファイバの一端から入射する。入射した励起光は、ファイバに含まれるレーザ活性物質で吸収され、これによりファイバの内部では基本波の種光が発生する。この基本波の種光は、ファイバに形成されたファイバグレーティングと、ここでは別のファイバのファイバグレーティングとを一対の反射ミラーとする共振器の中を何度も反射して往復する。それと同時に、種光は、ファイバに含まれるレーザ活性物質によるゲインで増幅されて、光強度が増大し波長選択もされてレーザ発振に到る。なお、ファイバとファイバとは、接続部で接続されており、レーザ光源は、励起用レーザ電流源により電流駆動される。
【0006】
次に波長変換装置の基本動作について説明する。上記のようにしてファイバレーザにより基本波が出力され、レンズを介して波長変換素子に入射する。このファイバレーザからの基本波は、波長変換素子の非線形光学効果により高調波に変換される。この変換された高調波は、ビームスプリッタで一部反射されるが、透過した高調波は、波長変換装置の出力光である緑色のレーザ光となる。
【0007】
なお、ビームスプリッタで一部反射された高調波は、波長変換装置の出力光をモニターするための受光素子で受光されたのち電気信号に変換されて利用される。この変換された信号の強度が波長変換装置で所望の出力が得られる強度になるように、出力制御部は、励起用レーザ電流源でレーザ光源の駆動電流を調整する。そうするとレーザ光源からの励起光の強度が調整されるとともに、ファイバレーザの基本波の出力強度が調整され、その結果として波長変換装置の出力の強度が調整される。このことにより波長変換装置の出力の強度は、一定に保たれる、いわゆるオートパワーコントロール(以下、「APC」と略する)が安定に動作することとなる。
【0008】
このような構成により、数百mWの緑色の高出力レーザを得ることは可能であるが、W級の緑色の高出力レーザを得ることは難しい。すなわち、波長変換装置の光出力を増大するためには、ファイバレーザの基本波および励起光の出力を増大させる必要がある。一方、レーザ活性物質としてYbを添加したファイバレーザ光源において、ASE(Amplified Spontaneous Emission)と呼ばれる自然発光が発生し、励起用レーザ光源に放射される(いわゆる戻り光)ことにより励起用レーザ光源を劣化させる原因となる事が知られている。また、このASEは、レーザ共振器外部の意図しない光反射により生じ、第2高調波を発生させる非線形光学結晶を破壊するという課題もあった。前者の励起用レーザの劣化を防止するために従来から、ダイクロイックミラーを使用する方法(特許文献1)や、角度を持ってファイバを接続する方法(特許文献2)、ファイバの構造を工夫するもの(特許文献3)、戻り光の光量を調整するための反射量調整器を備えたもの(特許文献4)などが提案されていた。
【特許文献1】特開2004−165396号公報
【特許文献2】特開2005−70608号公報
【特許文献3】特開2005−159142号公報
【特許文献4】特開2003−318480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、レーザディスプレイ用の基本波の波長(1030nm〜1100nm)を得ようとした場合に発生するASEの波長は1040nm〜1080nmのように励起用レーザの波長(例えば915nm、975nm)と近くなる可能性が高い。このような場合には励起効率が低下するほか、誘電体フィルタ等による波長選択によってASEが励起用レーザ光源に戻るのを有効に阻止することが困難であり、ファイバを斜めに接続する方法においても、発生したASEにより接続部が劣化するという問題があった。
【0010】
また、医療用レーザ光源用の基本波の波長(1100nm〜1180nm)を得ようとした場合に生じるASEの波長は励起用レーザの波長から比較的離れたものとなるため、このような場合には誘電体フィルタ等による波長選択によってASEの戻りを阻止することも可能であるが、この場合においてもASEの戻りを阻止するための構成をより容易に構築することが期待されている。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、W級の高出力の緑色や青色のレーザ出力光を安定して得られる波長変換装置と、この波長変換装置を用いた高輝度の2次元画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の波長変換装置は、レーザ活性物質を含むファイバと前記ファイバに形成されたファイバグレーティングとを有するレーザ共振器と、前記ファイバに励起光を入射するためのレーザ光源と、前記レーザ共振器と前記レーザ光源との間に設けられた偏光分離素子と、前記レーザ共振器から出射するレーザの基本波を高調波に変換する波長変換素子とを具備し、前記レーザ共振器は、偏波保持ファイバおよび単一偏光化機構を用いて前記レーザ光源の偏光方向と直交する方向に偏光した光を出射するように単一偏光化されているとともに、一対の反射面とを有し、前記偏光分離素子は、前記各反射面のうち前記レーザ光源に近い反射面と前記レーザ光源との間に配置され、前記レーザ光源から照射される特定の偏光方向の励起光を前記レーザ共振器に導く一方、このレーザ共振器から出射される前記特定の偏光方向と直交する偏光方向の前記基本波を前記レーザ光源から外れた方向へ導くことを特徴とする。
【0013】
本発明の波長変換装置によれば、例えば、Ybドープファイバを用いて、1um帯のレーザ光を発生させる際に問題となるASEの発生を抑制することが可能となり、励起用レーザ光源の劣化や発生したレーザ光を波長変換する非線形光学結晶の破壊を防止することができる。
【0014】
具体的に、励起光を発生するレーザ光源の偏光方向と発振器から発せられる光の偏光方向とを直交させ、双方を光学的に結合させる際に偏光分離素子を挿入することで、突発的に生じるASEがレーザ光源に導かれるのを抑制することができるので、当該ASEによる励起光源の劣化を防止することが出来る。
【0015】
前記波長変換装置において、前記各反射面のうち前記波長変換素子に近い反射面は、誘電体多層膜から構成されており、前記波長変換素子に近い反射面の前記基本波発振波長域の反射率が15%以上20%以下であることが好ましい。この反射率はファイバ出射端面の反射率・波長変換素子など外部に配置される光学素子からの反射を考慮して決定されている。何の処理も施していないファイバの出射端面の反射率は大きくて5%程度であるが、強励起とした場合アイソレーションIsが低下する。そのため、ASEの抑制のために波長変換素子に近い側の反射面の反射率を、何の処理も施していないファイバの端面の反射率の3倍程度とすることが望ましい。
【0016】
前記波長変換装置において、前記ファイバレーザ共振器のファイバの端面が、当該ファイバの軸線と直交する方向に対して7°以上の傾きを持った構成とすれば、ASEの発生を抑制することが可能となる。
【0017】
特に、前記レーザ共振器の二つの前記ファイバの端面が非平行となるように構成されている場合、強励起時にファイバ両端面でQ値の小さな共振器を構成することができるので、ASEの発生を抑制することができる。
【0018】
前記波長変換装置において、前記レーザ活性物質は、Ybを含み、前記基本波の波長は、1100nm以上、1180nm以下、である構成とした場合には、励起光の波長(例えば915nm、975nm)とASEの波長とが比較的離れたものとなるため、誘電体フィルタによりASEが励起光源に戻るのを抑制することも可能であるが、前記偏光分離素子を用いた構成としているため、より設計の容易な構成とすることができる。
【0019】
前記波長変換装置において、前記レーザ共振器と前記波長変換素子との間に光リミッタが設けられていることが好ましい。この構成によれば、所定のピーク強度の光が入射されたときにさらなる光の透過を制限することができるので、ASEによる波長変換素子へ与えるダメージを減少することができる。
【0020】
具体的に、前記光リミッタとしてはKTiOPOやCrYAGを用いることができる。これらを用いた場合、所定のピーク強度以上の光が光リミッタに入射すると、当該光の透過した部分が変色し、さらなる光の透過を制限することができる。この変色は過熱機能付保持具の過熱機能を用いて過熱すれば除去することができる。
【0021】
前記波長変換装置において、1030nm以上1100nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が7W以上であること、又は、1100nm以上1190nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が5W以上であることが好ましい。
【0022】
つまり、前記基本波の出力が大きくなるほどASEの発生量も多くなるが、ASEが発生する度合は基本波の波長に応じて変化する。そして、このASEの発生度合は、1030nm以上1100nm以下の基本波長においては基本波の出力が7Wを超えたとき、1100nm以上1190nm以下の基本波長においては基本波の出力が5Wを超えたときに急激に上昇することが実験上明らかとなっているため、これらの条件を満たすことによりASEによる影響を抑制しつつより大きな基本波の出力を得ることができる。
【0023】
前記波長変換装置において、前記一対の反射面をそれぞれファイバグレーティングにより形成することができる。
【0024】
また、上記目的を達成するために、本発明は、前記波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置を提供する。この2次元画像表示装置は、入力信号の輝度情報に応じて光量を制御するように構成されているため、コントラストを向上することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の波長変換装置によれば、W級の高出力の緑色や青色のレーザ出力光を安定して得られる波長変換装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態にかかる波長変換装置および2次元画像表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。また、図面で同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合もある。
【0027】
(実施の形態1)
図1から図11は、本発明の波長変換装置21の第1の実施の形態を示す図である。図1に示すように本実施の形態の波長変換装置21は、ファイバレーザ22と、ファイバレーザ22から出射される基本波23を高調波出力24に変換する波長変換素子25とを備えている。
【0028】
ファイバレーザ22は、ファイバ26に入射する励起光27を出力するレーザ光源28と、基本波の波長を選択して基本波を反射するファイバグレーティング29が内部に形成されたファイバ26と、出力である基本波23を波長変換素子25に導く偏光分離プリズム(偏光分離素子)30とを備えている。なお、偏光分離プリズム30は、励起光27を透過してレーザ光源28とファイバ26を結びつけ、かつファイバ26から出射する基本波23を反射して波長変換素子25に導く機能を果たすとともに、ファイバレーザ22で発生した光がレーザ光源28(励起光源)へ戻ることを防止している。
【0029】
このファイバレーザ22の基本のレーザ動作について次に説明する。図1で半導体レーザ光源28からの励起光27は、コリメートレンズ32aで平行光に変換された状態で偏光分離プリズム30を透過する。さらに励起光27は集光レンズ32bにより集光されて、ファイバ26の第2の反射面33よりファイバ26に入射する。入射した励起光27はファイバ26に含まれるレーザ活性物質で吸収されつつファイバ26中を伝搬する。励起光27はファイバグレーティング29を通過したのち、第1の反射面34で反射されてファイバ26の中を折り返してレーザ活性物質で吸収されつつ伝搬し、第2の反射面33に到達するまでに1往復してほぼレーザ活性物質に吸収されて消失する。従来はファイバ内を一方向に伝搬しつつ励起光が吸収されるだけなので、基本波を増幅するゲインは励起光が伝搬していく方向に進行するに従い減少していく。一方、本実施の形態では、励起光27は、ファイバ26内を折り返して一往復して吸収されるので、基本波を増幅するゲインは、従来に比べてファイバ26内で一様に高くなる。
【0030】
このように本実施の形態では、励起光27がファイバ26の中を一往復してほぼ全て吸収され、ファイバ26内で基本波を増幅するゲインが一様に高くなった状態で、基本波23の種光がファイバ26の内部で発生する。この基本波の種光は、ファイバレーザ22の第2の反射面33とファイバグレーティング29を一組の反射面として、この共振器の中を増幅されて強度を増しつつ何度も反射して往復しレーザ発振に至る。
【0031】
なお、レーザ発振する光の偏光方向は、集光レンズ36により直線偏光となっている。
【0032】
本実施の形態で用いたファイバ26は、例えば、高出力の励起光27を伝播させることが可能なダブルクラッドの偏波保持ファイバを使用した。したがって、励起光27は、ファイバ26のコアと内側のクラッドの比較的広い領域を伝播して、ファイバ26に含まれるレーザ活性物質により吸収される。また、広い範囲を伝播することができるので高出力の励起光27を用いることもできる。
【0033】
このようにしてファイバ26から出力される基本波23は、第2の反射面33から出射したのち、集光レンズ32bにより平行光に変換されて偏光分離プリズム30に到達する。偏光分離プリズム30の表面35は、偏光方向を選択するよう設計されており、励起光27の偏光方向の光は、透過し、基本波23の偏光方向の光は、反射するように構成されているので、基本波23は、偏光分離プリズム30の反射表面35で反射されて波長変換素子25に導かれる。
【0034】
次に波長変換素子25の基本動作について説明する。上記のようにしてファイバレーザ22により基本波23のレーザ光が出力され、集光レンズ53で集光されて波長変換素子25に入射する。このファイバレーザ22からの基本波23が入射波となり波長変換素子25の非線形光学効果により変換されると、波長が基本波の1/2とされた高調波出力24となる。この変換された高調波出力24は、ビームスプリッタ37で一部反射されるが、透過した高調波出力24のほとんど全てが波長変換装置21の出力光となって出射される。
【0035】
なお、ビームスプリッタ37で一部反射された高調波出力38は、波長変換装置21の出力光をモニターするために受光素子39で受光して電気信号に変換されて利用される。この変換された信号の強度が波長変換装置21で所望の出力が得られる強度になるように、出力コントローラー40は、励起用レーザ電流源41でレーザ光源28の駆動電流を調整する。出力コントローラー40は、ペルチェ素子46および47により高調波出力24が最大となるように0.01℃の精度で温度調整も行っている。そうするとレーザ光源28からの励起光27の強度が調整され、ファイバレーザ22の基本波23の出力強度が調整され、その結果として波長変換装置21の出力の強度が調整される。これにより波長変換装置21の出力の強度は、いわゆるオートパワーコントロール(以下、「APC」と略する)によって一定に保たれることとなる。なお、波長変換装置21の出力の強度をAPCにより、さらに精度よく制御するために、ファイバ26の第1の反射面34の外側に受光素子42を配置することもできる。このようにして、ファイバグレーティング29で反射されず僅かに漏れて透過してくる基本波23を検出する、または第1の反射面34で反射されずに僅かに漏れて透過してくる励起光27を検出することができる。この検出データを基に、励起光27や基本波23の全体の強度を各々推定することにより、出力コントローラー40は励起用レーザ電流源41によるレーザ光源28の駆動電流を調整して、波長変換装置21の出力の強度をAPCにより制御する。また同様に、偏光分離プリズム30の基本波23を反射する反射表面35と反対の表面43から僅かに反射してくる励起光の一部44を受光素子50で検出するとともに、この励起光の一部44に基づいて励起光27全体の強度を推定し、出力コントローラー40によるAPCによって波長変換装置21の出力の強度を制御することもできる。
【0036】
本実施の形態では、ASEのジャイアントパルスが発生した場合においても励起用レーザダイオード(励起光源28)や波長変換素子25を劣化させない方法および、不用意な外乱により、ASEのジャイアントパルスが発生を防止する方法を提案している。
【0037】
まず、ASEのジャイアントパルスが発生した場合の励起光源28および波長変換素子25の劣化を回避する構成について図2および図3を用いて説明する。
【0038】
図2は励起光31をファイバレーザ22へ光学的に結合させる結合部の模式図を示している。励起光源28より発せられた励起光31は、コリメートレンズ32aにより平行光になる。続いて偏光分離プリズム30を通過し、結合レンズ32bによりファイバレーザ22の第2の反射面33に励起光を結合させ、ファイバ26へ励起光を導入する。ファイバレーザ22で発生した基本波23は、所望の波長の光だけでなく、ASE等の不用意に発生した光を含め、第2の反射面33より出射される。このときファイバレーザ22は、PANDAなどの偏波保持ファイバと、ポラライザなどの単一偏光化素子とにより、直線偏光で発振するため、第2の反射面33より出力される基本波23も直線偏光となっている。一方、励起光源28としては一般的に半導体レーザ光源が使用されるが、発振した光は、ほぼ直線偏光となっているため(本願実施例では半導体レーザが構成された基板表面と平行方向の偏光方向:TE偏光)、励起光31の偏光方向と基本波23の偏光方向とをあらかじめ直交させておき、偏光分離プリズム30を用いることで、ファイバレーザ22で発生した基本波23と励起光源28で発生した励起光31とで進行方向を変化させることができる。つまり、図2に示すように励起光源28で発生した励起光31は、そのまま通過させ、励起光31と直交した偏光成分を持つ基本波23は、90°向きを変えて出射されることとなり、励起光源28へは入射しない。このことにより、不用意にファイバレーザ22において発生したレーザ光22による励起光源28の劣化を防止することができる。
【0039】
さらに、不用意に発生したASEのジャイアントパルスで波長変換素子25へ与える光学的ダメージを防止する方法について、図3を用いて説明する。ファイバレーザ22より出射された基本波23は、コリメートレンズ32b(励起光31にとっては結合レンズ)を通過し、平行光となる。その後偏光プリズム30の反射面35により、角度を90°曲げられ出射される。その後、光リミッタ51を通過し、集光レンズ53を介して波長変換素子25へ集光され、第2高調波であるグリーン光やブルー光が発せられる。ここで光リミッタ51の動作について説明する。この光リミッタは基本波23の進行方向に対して長さ5mmのKTP(KTiOPO)結晶で構成されており、加熱用ヒータ52と組み合わせて使用される。KTP結晶にピーク強度の大きな光が入射されることで、KTP結晶の光が透過した部分は茶色く変色する。この現象はフォトダークニングと呼ばれている。ASEは、ファイバレーザの構成にもよるが、今回の構成では1085nm付近の波長で発生するため、KTP結晶の方位は1085nmに対する、第2種位相整合角度に合致するよう配置されている。よって、1060nmの波長を有する光が、KTP結晶において位相整合して、グリーン光を発することはない。また、このKTP結晶にASEのジャイアントパルスが入射され、変色を起こした場合、加熱用ヒータ52で150℃程度に加熱することにより、着色を除去することができる。
【0040】
なお、この時、ファイバレーザ22の第2の反射面33は、励起光の光学的結合効率を最大にするためには、図2、および図3にも示されているように励起光の進行方向と直角であることが望ましい。
【0041】
また、上記光リミッタの作用をする材料としては過飽和吸収体としてのCrYAGも適している。
【0042】
また、ASEのジャイアントパルスの発生を防止するために、図4〜図6のようにファイバの両端面には、当該ファイバの軸線と直交する方向に対して7°以上の角度を持たせている。ジャイアントパルス発生の防止には、第2の反射面33と第1の反射面34が平行とならないようにすることが必要である。つまり、ファイバの両端面に角度を付けることにより、強励起時にファイバ両端面でQ値の小さな共振器を構成することができるので、ASEが発生することを抑制することができる。なお、本願の図面では、ファイバ端面の形状を分かり易くするためにわざと大きく書いているので、実際の場合も端面だけ大きな部材が付いているわけではない。また、第1の反射面34には、励起光である915nmおよび975nmは全反射で、ファイバレーザ22により発生させる1060nmは全透過(低反射)となるようなコーティングが施されている。この状態で、ファイバレーザ22の発振波長帯域において、FBG29の反射率>コーティングの反射率となるように設定すれば、強励起時においてASEの発生を防止することができる。図7は第1の反射面34に施すコーティングの光学特性の一例を示したプロット図である。
【0043】
以上に述べた対策を施した場合と施さなかった場合とのファイバレーザ発振スペクトルを図8及び図9に示す。図8は対策を施さなかった場合、図9は対策を施した場合のスペクトルを示している。このとき双方ともファイバレーザ22からは9Wの1060nm出力が得られている。図8では裾の部分でもブロードな発振が確認される。このブロードな発振は、出力が7W以上となったところで確認されはじめ、以降励起を強くしていくに従い、裾野部分の発振が大きくなる。これがASEによるものである。ここで、外部より不用意な反射光が入射されると、ジャイアントパルスとなり、ファイバグレーティング29で規定された発振波長以外の部分で発振することで、励起光源や光学素子を破壊する原因となる。一方、図9では、同様の出力が得られている状態であるが、裾野部分での光エネルギーの発生は抑制されており、所望の波長のみで光が得られていることが分かる。以上のように、本実施例の構成とすることでASEの発生を抑制でき、さらには、ジャイアントパルスの発生による励起光源や光学素子の破壊を防止することが可能となる。
【0044】
ここで、基本波23とジャイアントパルスとの関係について説明すると、基本波23の強度を上げるとASEの発生度合も増加する。つまり、図8の符号Isで示す基本波のベースライン(裾野部分)からピークの頂点までの範囲(以下、アイソレーションIsと称す)が小さいほどジャイアントパルスの発生度合が大きいことを意味する。具体的には、アイソレーションIsが20dBを基準として、これより小さいときにジャイアントパルスの発生度合が大きいことが実験上明らかとなっている。以下、図10及び図11を参照して具体的に検証する。
【0045】
図10は1064nmの基本波を発生させる際の基本波出力に対するアイソレーションIsを示すチャートである。この図から分かるように、1064nmの基本波を発生させる場合、出力が7W弱の段階でアイソレーションIsが20dBを下回っている。
【0046】
図11は1160nmの基本波を発生させる際の基本波出力に対するアイソレーションIsを示すチャートである。この図から分かるように、1160nmの基本波を発生させる場合、出力が5W弱の段階でアイソレーションIsが20dBを下回っている。
【0047】
したがって、1064nmの基本波を発生させる場合には基本波の出力を7W以上とし、1160nmの基本波を発生させる場合には基本波の出力を5W以上として前記波長変換装置21を使用すれば、高出力で基本波23を得ることができる。なお、これらの出力に設定した場合、ジャイアントパルスも発生していると考えられるが、前記偏光分離プリズム30によりこのジャイアントパルスがレーザ光源28に戻るのを有効に阻止することができる。
【0048】
また、図1で示した構成の波長変換装置21を利用して励起光27の波長を976nmにしたところ、9Wの励起光で4Wの緑色レーザ光が得られ、高調波出力24が高効率で得られることが確認された。
【0049】
なお、本実施の形態ではファイバの長さを従来の半分にできるので、ファイバ中の基本波の吸収量も半分にすることができる。したがって、ファイバに添加する希土類元素の種類や量を調整することにより本実施の形態で用いた基本波よりも短波長の基本波を10W程度の高出力で出力できるので、より短波長の510nmから540nmのW級の緑色レーザ光を得ることができる。
【0050】
(実施の形態2)
図12に本発明の実施の形態2について示す。実施の形態2の波長変換装置71およびファイバレーザ72は、実施の形態1と同様の機能を別の形態で実現するための構成を有している。実施の形態2の構成について図12を用いて順次説明を行う。構成上異なっている部分はファイバレーザ共振器が一対のファイバグラッググレーティング(FBG29a、29b:本実施形態における一対の反射面に相当する)から構成されており、発振したレーザ光が、励起光入射端と異なる端面から出射される構成となっている。
【0051】
図12に示すように本実施の形態の波長変換装置71は、ファイバレーザ72と、ファイバレーザ72から出射される基本波23を高調波出力24に変換する波長変換素子25とから構成されている。
【0052】
ファイバレーザ72は、ファイバ26に入射する励起光27を出力するレーザ光源28と、基本波の波長を選択して基本波を反射するファイバグレーティング29a、29bが内部に形成されたファイバ26と、不用意に発生したASEジャイアントパルスが励起光源28へ入射されることを防止する偏光分離プリズム30とから構成されている。
【0053】
本来、発生させるべきレーザ光である基本波23は、第1の反射面34より出射される。基本波23は、光リミッタ51を通り、折り返しミラー73で曲げられた光路に沿って進行し、波長変換素子25へ入射されて、第2高調波に変換される。
【0054】
ここでファイバグレーティング29aの反射帯域幅は、1nm程度であり、反射率は、99%以上、ファイバグレーティング29bは、反射帯域幅0.05nm程度である。ファイバグレーティング29aの帯域幅>ファイバグレーティング29bの帯域幅という関係にあることが望ましい。また、第1の反射面34には、実施の形態1に記載の図7と同様の仕様のコーティングが施してある。ファイバレーザ72の発振波長帯域における、ファイバグレーティング29bの反射率と第1の反射面34の反射率との関係は、ファイバグレーティング29bの反射率>第1の反射面34の反射率である必要がある。この関係から逸脱する場合、実施の形態1における図8の様にASEが発生し、外部より不用意な反射光が入射されると、ジャイアントパルスとなり、励起光源や光学素子を破壊する原因となる。具体的には、ファイバグレーティング29b(波長変換素子25に近い方の反射面)の反射率を15%以上20%以下にするのが望ましい。20%以上になるとファイバレーザの効率が低下するためこの範囲であることが望ましい。
【0055】
また、ASEのジャイアントパルスの発生を防止するために、図4〜6のようにファイバの両端面は、当該ファイバの軸線と直交する方向に対し7°以上の角度を持って形成されている。ジャイアントパルス発生の防止には、反射面33と34が平行とならないようにすることが必要である。つまり、端面に角度を付けることにより、強励起時にファイバ両端面でQ値の小さな共振器を構成することができるので、ASEが発生することを抑制することができる。なお、本願の図面では、ファイバ端面の形状を分かり易くするためにわざと大きく書いているので、実際の場合も端面だけ大きな部材が付いているわけではない。
【0056】
実施の形態2に記載の構成も、作用としては実施の形態1に記載の構成と同様である。
【0057】
次に波長変換素子25の基本動作について説明する。上記のようにしてファイバレーザ22により基本波23のレーザ光が出力され、集光レンズ53で集光されて波長変換素子25に入射する。このファイバレーザ22からの基本波23は、波長変換素子25の非線形光学効果により変換されると、波長が基本波の1/2である高調波出力24となる。
【0058】
このような構成の波長変換装置71を用いて、実施の形態1と同様に波長変換装置55からW級のG光が得られた。しかし、基本波を折り返す構成でないため、励起光率は低下し、投入電力からグリーン光への変換効率は低下するので、効率という観点では、実施の形態1を用いることがより望ましい。
【0059】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1および2で示した波長変換光源をディスプレイ用途に展開した場合の一例を示している。
【0060】
図13に示すように本実施の形態の2次元画像表示装置800は、液晶3板式プロジェクターの光学エンジンに本願の内容を適用させた一例を示している。2次元画像表示装置800は、画像処理部802と、レーザ出力コントローラー(コントローラー)803と、LD電源804と、赤色、緑色、青色レーザ光源805R、805G、805Bと、ビーム形成ロッドレンズ806R、806G、806Bと、リレーレンズ807R、807G、807Bと、折り返しミラー808G、808Bと、画像を表示させるための2次元変調素子809R、809G、809Bと、偏光子810R、810G、810Bと、合波プリズム811と、投影レンズ812とを備えている。
【0061】
中でも本願実施の形態1および2に述べているのはグリーンレーザ光源805Gに関するものでありグリーンレーザ光源805Gは、グリーン光源の出力をコントロールするレーザ出力コントローラー803およびLD電源804で制御される。
【0062】
各光源806R、806G、806Bからのレーザ光は、ロッドレンズ806R、806G、806Bにより矩形に整形され、リレーレンズ807R、807G、807Bを通って各色の2次元変調素子を照明する。各色で、2次元に変調された画像をクロスプリズム811で合成し、投影レンズ812よりスクリーン上に投影することにより映像を表示する。
【0063】
また、グリーンレーザ光源805Gは、レーザ共振器をファイバ内に閉じた系とし、外部からの塵あるいは反射面のミスアライメントなどで共振器の損失が増加することによる出力の経時低下・出力変動を抑制することができる。
【0064】
一方画像処理部802では、入力される映像信号801の輝度情報に応じてレーザ光の出力を変動させる光量制御信号を発生し、レーザ出力コントローラー803に送出する役割を果たしている。輝度情報に応じて光量を制御することにより、コントラストを向上することが可能となる。
【0065】
一方、2次元変調素子を1枚だけ使用したプロジェクターの構成例を図14に示す。
【0066】
図14の形態では、2次元変調素子として強誘電体LCOSを用いた場合について述べている青色レーザ光源901b、赤色レーザ光源901r、緑色レーザ光源901gから発せられたレーザ光は、コリメートレンズ902r、902g、903bにより平行光にコリメートされる。ミラー903r、903b、903gは、それぞれ赤(波長600nm以上)、青(波長400−460nm)、緑(波長520−560nm)領域に反射特性を持つ誘電体多層ミラーである。ミラー903gの直後では青色光源・赤色光源・緑色光源のビームパスは、同軸となるようにレンズ902r・902g・902b及びミラー903r・903g・903bを調整している。904は、スキャンミラーでありビームを紙面内方向にスキャンする役割を持つ。レンズ905は、シリンドリカルレンズであり、ビームを線状の輝線に整形する。レンズ906・908は、リレーレンズ・フィールドレンズである。リレーレンズ906・フィールドレンズ908の間に配置されている907は、拡散板であり、シリンドリカルレンズ905で輝線に整形されたビームをさらに帯状に形成する。偏光プリズム909は、偏光ビームスプリッタであり、910は、2次元変調素子(LCOS)である。LCOS910のON・OFFは、光の偏光方向を回転させることにより行われているため、偏光プリズム909は、偏光ビームスプリッタである必要がある。合波されスキャンミラー904で光路を振られたビームは、S偏光でプリズム909に入射される。プリズム内の反射膜は、S偏光で反射するように設計されているため、S偏光の光は、LCOS910を照明する。
【0067】
コントローラー913は、マイクロディスプレイ駆動回路914と、LD・スキャンミラー駆動回路915と、レーザ電流源916とを備えている。ビデオ信号917はマイクロディスプレイ駆動回路914に入力され駆動信号918を生成する。駆動信号918の一つであるV−SYNC信号919をトリガとして、スキャンミラーの駆動波形とレーザの発光タイミングである発光トリガを生成する。発光トリガはレーザの電流源に入力され、トリガ信号に合わせてレーザへ電流が供給される。V−SYNCは、60Hzのパルス信号であり、その信号を元にして、2倍速の場合は120Hzのレーザ発光信号が生成される。つまりn倍速の場合でn・60Hzの信号が生成される。レーザの発光時間を決定するデューティー比は、2次元変調素子の駆動方法で決定される。また、赤色・緑色・青色レーザ901r・901g・901bの出力は、フォトディテクタ921r・921gおよび921bでモニターし、LD電流源へフィードバックをかける構成となっている。LD変調信号920と各LDの出力設定値922との積と、フォトディテクタ921からのモニター信号とを比較することにより、各レーザの発光強度を均一にすることができる。
【0068】
このような、ディスプレイ用途において、光量制御や、フィールドシーケンシャル制御を行う際の色切り替え時にパルス発光させる場合がある。このような場合、従来構成のファイバレーザを用いた光源では、図15に示すように励起電流として矩形波の電流波形を入力すると、図16に示すようにパルスの立ち上がりとともに高ピークのASEパルスが発生し、波長変換素子や、励起用レーザを劣化させてしまう課題があった。そして、この場合には、図17に示すように、波長変換素子にレーザダメージを与えてしまい、グリーン光の発生が出来なかった。一方、本願第1及び第2の実施形態の波長変換光源を使用すると、図8及び図9に示すように、種となる自然放出光を抑制できるため、高ピークASEパルスの発生を防止することが出来る。
【0069】
さらに、本願第1及び第2の実施形態の波長変換光源を使用した場合、図18に示すように、1−10μs程度の期間中にファイバレーザ光源の閾値以上の電流値で保持したり、閾値電流を上回るまでスロープ状に電流を増加させたりして立ち上げを行うことで、図19に示すように、さらに確実にASEパルスの発生を防止することができる。その結果として、図20の様な出力波形でグリーン光を出力することが出来た。
【0070】
なお、このような構成の2次元画像表示装置のほかに、スクリーンの背後から投影する形態(リアプロジェクションディスプレイ)をとることも可能である。
【0071】
また、R、G、Bの光の3原色を液晶パネルの背面から照明する構成とすることにより液晶ディスプレイのバックライト光源として使用することも可能である。
【0072】
なお、図13および図14では透過型液晶あるいは反射型液晶による空間変調素子を用いたが、ガルバノミラーやDMDに代表されるメカニカルマイクロスイッチ(MEMS)を用いた2次元変調素子を用いることももちろん可能である。
【0073】
なお、本実施の形態のように、光変調特性に対する偏光成分の影響が少ない光変調素子(反射型空間変調素子やMEMS、ガルバノミラー)に対し、高調波を光ファイバで伝搬する際は、PANDAファイバなどの偏波保持ファイバである必要はない。一方、液晶を用いた2次元変調デバイスを使用する際には、変調特性と偏光特性が大いに関係するため、偏波保持ファイバを使用することが望ましい。
【0074】
なお、第1から第3の実施の形態においてファイバレーザは希土類元素としてYbをドープしたものを用いたが、他の希土類元素、例えば、Nd、Er、Dy、Pr、Tb、Eu、Ce、Tm、Ho、Gd、YおよびLa等から選択された少なくとも1つの希土類元素を用いてもよい。また、波長変換装置の波長や出力に応じて希土類元素のドープ量を変えたり、複数の希土類元素をドープしたりしてもよい。
【0075】
なお、実施の形態1から3においてファイバレーザの励起用レーザ光源には、波長915nmおよび波長976nmのレーザを用いたが、ファイバレーザを励起できるものであれば、これらの波長以外のレーザ光源を用いてもよい。
【0076】
なお、実施の形態1から3において波長変換素子は、周期分極反転MgO:LiNbOを用いたが、他の材料や構造の波長変換素子、例えば、周期的に分極反転構造を有するリン酸チタニルカリウム(KTP)やMg:LiTaO等を用いてもよい。
【0077】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0078】
本発明の波長変換装置は、レーザ活性物質を含むファイバと前記ファイバに形成されたファイバグレーティングとを有するレーザ共振器と、前記ファイバに励起光を入射するためのレーザ光源と、前記レーザ共振器と前記レーザ光源との間に設けられた偏光分離素子と、前記レーザ共振器から出射するレーザの基本波を高調波に変換する波長変換素子とを具備し、前記レーザ共振器は、偏波保持ファイバおよび単一偏光化機構を用いて前記レーザ光源の偏光方向と直交する方向に偏光した光を出射するように単一偏光化されているとともに、一対の反射面とを有し、前記偏光分離素子は、前記各反射面のうち前記レーザ光源に近い反射面と前記レーザ光源との間に配置され、前記レーザ光源から照射される特定の偏光方向の励起光を前記レーザ共振器に導く一方、このレーザ共振器から出射される前記特定の偏光方向と直交する偏光方向の前記基本波を前記レーザ光源から外れた方向へ導くことを特徴とする。
【0079】
本発明の波長変換装置によれば、例えば、Ybドープファイバを用いて、1um帯のレーザ光を発生させる際に問題となるASEの発生を抑制することが可能となり、励起用レーザ光源の劣化や発生したレーザ光を波長変換する非線形光学結晶の破壊を防止することができる。
【0080】
具体的に、励起光を発生するレーザ光源の偏光方向と発振器から発せられる光の偏光方向とを直交させ、双方を光学的に結合させる際に偏光分離素子を挿入することで、突発的に生じるASEがレーザ光源に導かれるのを抑制することができるので、当該ASEによる励起光源の劣化を防止することが出来る。
【0081】
前記波長変換装置において、前記各反射面のうち前記波長変換素子に近い反射面は、誘電体多層膜から構成されており、前記波長変換素子に近い反射面の前記基本波発振波長域の反射率が15%以上20%以下であることが好ましい。この反射率はファイバ出射端面の反射率・波長変換素子など外部に配置される光学素子からの反射を考慮して決定されている。何の処理も施していないファイバの出射端面の反射率は大きくて5%程度であるが、強励起とした場合アイソレーションIsが低下する。そのため、ASEの抑制のために波長変換素子に近い側の反射面の反射率を、何の処理も施していないファイバの端面の反射率の3倍程度とすることが望ましい。
【0082】
具体的に、前記図1の実施形態における第2の反射面33、図12の実施形態におけるファイバグレーティング29bの基本波発振波長域の反射率を15%〜20%とすることができる。
【0083】
また、前記レーザ共振器を一対のファイバグレーティングを用いることにより構成することもできる。この場合、一方のファイバグレーティングの基本波発振波長域における反射率を98%以上とし、その帯域幅を1nm以上とすることができる。また、他方のファイバグレーティングの基本波発信波長域における反射率を15%以上20%以下とし、その帯域幅を0.1nm以下とすることができる。
【0084】
例えば、図12の実施形態においてレーザ光源28に近いファイバグレーティング29aの反射率を98%以上、その帯域幅を1nm以上とするとともに、レーザ光源28から遠いファイバグレーティング29bの反射率を15%以上20%以下、その帯域幅を0.1nm以下とすることができる。
【0085】
前記波長変換装置において、前記ファイバレーザ共振器のファイバの端面が、当該ファイバの軸線と直交する方向に対して7°以上の傾きを持った構成とすれば、ASEの発生を抑制することが可能となる。
【0086】
特に、前記レーザ共振器の二つの前記ファイバの端面が非平行となるように構成されている場合、強励起時にファイバ両端面でQ値の小さな共振器を構成することができるので、ASEの発生を抑制することができる。
【0087】
なお、前記ファイバレーザ共振器の前記ファイバの端面に7°〜20°の傾きを持たせた上で、狭帯域のファイバグレーティングの反射率を15%以上とした場合、突発的なASEの発生と合わせて、強励起した場合のASEの発生を抑制することが可能となる。よって、本発明の波長変換装置によれば、励起波長と発振波長が非常に近いYbファイバレーザによる1um帯発生時においても、装置の長寿命化・信頼性の向上が可能となる。
【0088】
また、波長が510nmから540nmである緑色レーザ光を出射する構成としてもよい。この構成により、視感度の高い緑色のレーザ出力光を得ることができるので、色再現性の良いディスプレイ等に使用して、さらに原色に近い色表現をすることができる。
【0089】
前記波長変換装置において、前記レーザ活性物質は、Ybを含み、前記基本波の波長は、1100nm以上、1180nm以下、である構成とした場合には、励起光の波長(例えば915nm、975nm)とASEの波長とが比較的離れたものとなるため、誘電体フィルタによりASEが励起光源に戻るのを抑制することも可能であるが、前記偏光分離素子を用いた構成としているため、より設計の容易な構成とすることができる。
【0090】
前記波長変換装置において、前記レーザ共振器と前記波長変換素子との間に光リミッタが設けられていることが好ましい。この構成によれば、所定のピーク強度の光が入射されたときにさらなる光の透過を制限することができるので、ASEによる波長変換素子へ与えるダメージを減少することができる。
【0091】
具体的に、前記光リミッタとしてはKTiOPOやCrYAGを用いることができる。これらを用いた場合、所定のピーク強度以上の光が光リミッタに入射すると、当該光の透過した部分が変色し、さらなる光の透過を制限することができる。この変色は過熱機能付保持具の過熱機能を用いて過熱すれば除去することができる。
【0092】
前記波長変換装置において、1030nm以上1100nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が7W以上であること、又は、1100nm以上1190nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が5W以上であることが好ましい。
【0093】
つまり、前記基本波の出力が大きくなるほどASEの発生量も多くなるが、ASEが発生する度合は基本波の波長に応じて変化する。そして、このASEの発生度合は、1030nm以上1100nm以下の基本波長においては基本波の出力が7Wを超えたとき、1100nm以上1190nm以下の基本波長においては基本波の出力が5Wを超えたときに急激に上昇することが実験上明らかとなっているため、これらの条件を満たすことによりASEによる影響を抑制しつつより大きな基本波の出力を得ることができる。
【0094】
前記波長変換装置において、前記一対の反射面をそれぞれファイバグレーティングにより形成することができる。
【0095】
また、上記目的を達成するために、本発明は、前記波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置を提供する。この2次元画像表示装置は、入力信号の輝度情報に応じて光量を制御するように構成されているため、コントラストを向上することができる。
【0096】
さらに、前記2次元画像表示装置は、スクリーンと、複数のレーザ光源と、レーザ光源を走査する走査部とを備え、レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色および青色をそれぞれ出射する光源を用いた構成からなり、レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光源は上記のいずれかの波長変換装置を用いた構成としてもよい。
【0097】
この構成により、視感度の高い緑色のレーザ出力光を得ることができるので、色再現性の良いディスプレイ等に使用して、さらに原色に近い色表現をすることができる。
【0098】
このような特長を持つ波長変換装置を用いた本発明の2次元画像表示装置は、高輝度で、かつ色再現範囲が広く高画質に加えて、薄型・高効率・低消費電力化も可能であるという大きな効果を奏する。
【0099】
なお、前記波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置において、1枚の2次元変調素子を有し、映像信号のV−SYNC信号を元に赤・緑・青を順次切り替えて表示させる構成とすることができる。
【0100】
また、前記波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置において、パルス発振させる際、光源の駆動電流値を波形立ち上がり時に1−10μsの間光源の閾値以上保持する構成とすることもできる。
【0101】
さらに、前記波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置において、パルス発振させる際、光源の駆動電流値を波形立ち上がり時に1−10μsでスロープ状に光源の閾値電流値まで上昇させる構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の波長変換装置および2次元画像表示装置は、高輝度で色再現範囲が広く低消費電力であるので、大型ディスプレイや高輝度ディスプレイ等のディスプレイ分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施の形態1における波長変換装置の概略構成図である。
【図2】励起用光源からファイバレーザ部への励起光結合部の拡大図である。
【図3】基励起用光源からファイバレーザ部および波長変換結晶部の拡大図である。
【図4】ファイバレーザにおけるファイバ両端面の処理及びファイバポラライザについて示した拡大図である。
【図5】図4の一部を拡大した図である。
【図6】図4の一部を拡大した図である。
【図7】ファイバレーザ22におけるファイバ端面34に施された反射膜の光学特性の一例を示した模式図である。
【図8】ファイバレーザ22の発振スペクトルの一例で本願実施例に記載の方法を採用しなかった場合における、1060nm出力8W時の発振スペクトルを示した図である。
【図9】ファイバレーザ22の発振スペクトルの一例で本願実施例の構成を採用した場合における1060nm出力8W時の発振スペクトルを示した図である。
【図10】1064nmの基本波を発生させる際の基本波出力に対するアイソレーションIsを示すチャートである。
【図11】1160nmの基本波を発生させる際の基本波出力に対するアイソレーションIsを示すチャートである。
【図12】本発明の実施の形態2における波長変換装置の概略構成図である。
【図13】本願で発明した波長変換光源を採用した2次元画像表示装置の一例を示した図である。
【図14】本願で発明した波長変換光源を採用し、2次元変調素子を一枚だけ使用し、フィールドシーケンシャル動作を行う場合の2次元画像表示装置の一例を示した図である。
【図15】従来構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の印加電流波形を示したプロット図である。
【図16】従来構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の基本波の出力波形を示したプロット図である。
【図17】従来構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の第2高調波(グリーン光)の出力波形を示したプロット図である。
【図18】本願構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の印加電流波形を示したプロット図である。
【図19】本願構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の基本波の出力波形を示したプロット図である。
【図20】本願構成の波長変換光源を採用した場合における変調時の第2高調波(グリーン光)の出力波形を示したプロット図である。
【符号の説明】
【0104】
21、71 波長変換装置
22 ファイバレーザ
23 基本波
25 波長変換素子
26 ファイバ
28 レーザ光源
29、29a、29b ファイバグレーティング
30 偏光分離プリズム
72 ファイバレーザ
73 ミラー
800 2次元画像表示装置
805G グリーンレーザ光源
901g 緑色レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ活性物質を含むファイバと前記ファイバに形成されたファイバグレーティングとを有するレーザ共振器と、
前記ファイバに励起光を入射するためのレーザ光源と、
前記レーザ共振器と前記レーザ光源との間に設けられた偏光分離素子と、
前記レーザ共振器から出射するレーザの基本波を高調波に変換する波長変換素子とを具備し、
前記レーザ共振器は、偏波保持ファイバおよび単一偏光化機構を用いて前記レーザ光源の偏光方向と直交する方向に偏光した光を出射するように単一偏光化されているとともに、一対の反射面とを有し、
前記偏光分離素子は、前記各反射面のうち前記レーザ光源に近い反射面と前記レーザ光源との間に配置され、前記レーザ光源から照射される特定の偏光方向の励起光を前記レーザ共振器に導く一方、このレーザ共振器から出射される前記特定の偏光方向と直交する偏光方向の前記基本波を前記レーザ光源から外れた方向へ導くことを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記各反射面のうち前記波長変換素子に近い反射面は、誘電体多層膜から構成されており、前記波長変換素子に近い反射面の前記基本波発振波長域の反射率が15%以上20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記レーザ共振器の前記ファイバの端面は、前記ファイバの軸方向と直交する方向に対して7°以上の傾きを持っていることを特徴とする請求項1又は2に記載の波長変換装置。
【請求項4】
前記レーザ共振器の二つの前記ファイバの端面は、非平行となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記レーザ活性物質は、Ybを含み、前記基本波の波長は、1100nm以上、1180nm以下、であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記レーザ共振器と前記波長変換素子との間に光リミッタが設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記光リミッタは、KTiOPOあるいはCrYAGから構成されているとともに、過熱機能付保持具により保持されていることを特徴とする請求項6に記載の波長変換装置。
【請求項8】
1030nm以上1100nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が7W以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項9】
1100nm以上1190nm以下の波長を有する前記基本波を発生させるときに、前記基本波の出力が5W以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項10】
前記一対の反射面がそれぞれファイバグレーティングからなることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の波長変換装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の波長変換装置を搭載する2次元画像表示装置において、入力映像信号の輝度情報に応じて光量を制御する機構を具備することを特徴とする2次元画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−193057(P2008−193057A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324565(P2007−324565)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】