流体軸受式回転装置
【課題】低温環境下において、NRROの発生を抑制して、高温における軸受擦れを防止しうるスラスト動圧発生溝を提供する。
【解決手段】スラスト軸受の動圧発生溝3Aの溝パターンにおいて最小の溝幅を0.1mmを越え0.15mm未満にすることで、低温環境下でオイル粘度が増大した環境下でもスラスト軸受内部に気泡が滞留することを防止できる。また高温環境下でも軸受での擦れが発生しない。またこれによりスラスト動圧発生溝3Aを形成するための金型や電極の磨耗を抑制し、生産性を向上し、製造コストを抑制することが出来る。
【解決手段】スラスト軸受の動圧発生溝3Aの溝パターンにおいて最小の溝幅を0.1mmを越え0.15mm未満にすることで、低温環境下でオイル粘度が増大した環境下でもスラスト軸受内部に気泡が滞留することを防止できる。また高温環境下でも軸受での擦れが発生しない。またこれによりスラスト動圧発生溝3Aを形成するための金型や電極の磨耗を抑制し、生産性を向上し、製造コストを抑制することが出来る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動圧流体軸受を使用した流体軸受式回転装置に関するものであり、特にハードディスク装置のようなディスク状媒体を用いた情報装置や、ポリゴンスキャナ装置や、データストリーマ装置のようなテープ状媒体を用いた情報装置などに用いられるスピンドルモータ等に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いた記録装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させるため、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら回転装置には高速回転に適した動圧型流体軸受が用いられている。
【0003】
流体軸受式回転装置は、軸とスリーブとの間にオイル等の潤滑剤を介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転する。非接触であるため機械的な摩擦が無く、高速回転に適している。またとりわけハードディスク装置のように、ディスク媒体上のトラック密度や線記録密度を高くすることを要求する情報装置は、情報の記録再生時における非繰り返し性の振れ(以下NRROと略記する)を抑制することが必須であるが、流体軸受は従来の玉軸受などに比べて圧倒的にNRROが小さいためにその点でも好適である。
【0004】
ところで従来の流体軸受の設計においては、動作中に軸受内部に気泡が滞留しないように、内部のポンピング圧力の分布を最適化して、内部に負圧領域が生じにくいように配慮してきた。これは内部に空気が溜まっていき、それが動圧溝内部に入り込んで抜けでなくなった場合は、気泡部分で発生する動圧に軸対称性が無くなるために、軸受剛性に不均一性が生ずる。そしてこの気泡は回転側軸受部材と固定側軸受部材との間で旋回をするために、気泡は回転側部材の回転速度のほぼ半分で回転することになる。そのために例えばモータが3600r/minで回転する場合、回転部材は毎秒60回転することになるが、気泡はその半分の毎秒約30回転することになる。この結果、剛性の変動が30Hxで発生することになるので、それがハーフホワール成分と呼ばれる振動を誘発するためである。
【0005】
また当然の事ながら摩擦トルクを抑制しながら軸受剛性を高めることは流体軸受にとって重要なことであり、そういった点を加味しながら従来から多数の形態の提案がなされてきた。
【0006】
ところで今までハードディスク装置等は、PC用途が主であったために使用環境はオフィスや屋外でも人間がOA作業をする環境であったために、性能保証範囲は5℃〜55℃程度であれば十分であったが、近年はカーナビ用途,携帯電話,デジタル音楽プレーヤ等のモバイル用途として使用環境に広がりを見せ始め、より広範囲な温度条件環境下での使用を要求されるようになってきた。例えば−20℃〜80℃などといったものである。特に低温側は軸受設計や、電磁気回路部分の設計を効率化することによって、軸受摩擦トルクの増大を抑制し、低温での発生トルクを向上してモータが回転できるように対処されてきた。
【特許文献1】特表2000−050310号公報
【特許文献2】特開2004−183768号公報
【特許文献3】特開2005−098324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしこのような温度環境範囲の広がりは、従来の温度領域では生じなかった問題を惹起する。具体的には、0℃以下の低温領域においては、潤滑剤の粘度が急激に増大し、高温では粘度が低下する。
【0008】
したがって低温においては軸受で発生する動圧は大きくなるが、同時に軸受内部で発生した気泡が大きく成長する前に徐々に排出されることが困難になる。そのため気泡は比較的大きく成長した状態でようやく動き出すことになるが、移動・停止の臨界状態においては排出が進行せずに動圧溝内部に再びとどまってしまう事になる。その結果低温状態においては軸受剛性の変動に繋がりハーフホワール成分の振動を生ずる。
【0009】
また高温になると潤滑剤の粘度が低下するために、動圧溝の本数が少ないと十分な動圧を発生できなくなる。その結果、スラスト軸受の中心付近に空気が滞留して所定の圧力が発生できずに軸受装置が擦れるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明の流体軸受式回転装置は、軸と、軸受孔を有するスリーブと、前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、前記スリーブに相対的に固定され、前記軸のアキシャル方向端面に対向配置されたスラスト軸受板と、前記スラスト軸受板と前記軸の間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝とを備え、前記スラスト動圧発生溝は最内周付近の動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなるようにしたことを特徴としたものであり、良好な性能を広い温度範囲で確保できる。
【0011】
また本発明は、軸と、軸受孔を有するスリーブと、前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、前記軸に略直角に一体的に固定された円盤状のフランジとを備え、前記スラスト軸受板と前記フランジとの間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝とを備え、前記スラスト動圧発生溝は最内周付近の動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え、0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなるようにしたことを特徴としたものであり、良好な性能を広い温度範囲で確保できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明における流体軸受装置によれば、スラスト動圧発生溝のオイルを内周に向けて十分にポンプインする力が得られ、また中心部に空気が残留しないため、0℃以下の(例えば−20℃)といった低温から80℃程度の高温まで設計値どおりに十分なスラスト軸受の性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施をするための最良の形態を具体的に示した実施の形態について、図面とともに記載する。
【0014】
(実施の形態1)
図1から図2を用いて実施の形態1の流体軸受式回転装置について説明する。本実施の形態の流体軸受式回転装置は、図1に示すように、スリーブ1、軸2、フランジ3、スラスト軸受板4、シールキャップ5、オイル、超流動性グリースまたはイオン性液体等の潤滑剤6、ハブ7、ベース8、ロータ磁石9およびステータ10を備えている。
【0015】
軸2は、フランジ3と一体化しており、スリーブ1の軸受穴1Aに回転可能な状態で挿入される。フランジ3は、スリーブ1の段部1Cに収納される。軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方には、非対称形状のヘリングボーンパターン溝からなるラジアル動圧発生溝1Bが形成されている。一方、フランジ3とスラスト軸受板4との対向面のいずれか一方にはスパイラル形状(図2(a)参照)またはヘリングボーン形状(図2(b)参照)をなす第1のスラスト動圧発生溝3Aが形成され、フランジ3とスリーブ1との対向面のいずれか一方には、第2のスラスト動圧発生溝3Bが同様に形成されている。スラスト軸受板4は、スリーブ1またはベース8に固着されている。少なくとも各動圧発生溝1B,3A,3Bの付近の軸受隙間は、潤滑剤6によって充填されており、また、スリーブ1、軸2及びスラスト軸受板4によって形成される袋状の軸受隙間全体についても、必要に応じて潤滑剤6によって充填されている。シールキャップ5はスリーブ1の上端部に位置し、その固定部5Aがスリーブ1またはベース8に取り付けられ、テーパ部5Bと,換気孔5Cを有している。連通孔1Gは軸受穴1Aに略平行に設けられ、シールキャップ5のオイル溜まり部と、フランジ3の外周近傍を連結するように設けられ、連通孔1G,ラジアル動圧発生溝1B,第1スラスト動圧発生溝3A及び第2スラスト動圧発生溝3Bに連なって設けられており、潤滑剤6の循環経路を構成する。また軸受内部に混入した気泡15は連通孔1G等を介して軸受外部に排出される。
【0016】
ベース8には、スリーブ1が固定されている。そして、ステータ10が、ロータ磁石9に対向するようにベース8に固定される。ロータ磁石10は漏れ磁束によって軸方向に吸引力を発生し、ハブ7をスラスト軸受板4の方向に約10〜100グラムの力で押し付けている。一方、ハブ7は、軸2に固定されると共に、ロータ磁石9、記録ディスク11、スペーサ12、クランパー13およびネジ14が固定されている。
【0017】
ここで図1に示す本発明の実施の形態1の流体軸受式回転装置の動作について説明する。図1において、軸受が回転を始めると、ラジアル動圧発生溝1Bは潤滑剤6をかき集めて圧力を発生し軸受穴1Aに対して軸2を浮上させ、第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bは図2(a)(または図2(b))のような圧力分布をなす圧力(P)を発生しフランジ3を浮上させ非接触で回転させる。なお第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bはそれぞれのスラスト軸受部におけるアキシャル方向隙間に応じて異なる圧力を発生し、ロータ磁石9とステータ10の間で作用する磁気的吸引力やロータ重量などと釣り合いを保ち非接触状態を維持する。
【0018】
軸受が回転中にヘリングボーン状パターンからなるラジアル動圧発生溝1Bのポンプ力と、第1スラスト動圧発生溝3Aと第2スラスト動圧発生溝3Bのポンプ力の合力は、シールキャップ5のテーパ部5Bの隙間の潤滑剤6を、軸受穴1Aを通ってフランジ3の外周面に向けて図中黒色矢印方向に運搬するようにそれらの溝パターンが設計されており、潤滑剤6は第2のスラスト動圧発生溝3Bを経由して連通孔1Gに流入し循環することで、軸受内の気泡15は排出され軸受隙間は潤滑剤6で満たされ、ロータ磁石9およびステータ10の相互作用によって、軸受部は非接触状態になって回転する。これにより、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドによって、ハブ7と共に回転する記録ディスク11に対してデータの記録再生を行うことができる。
【0019】
図3は本発明の流体軸受式回転装置における第1のスラスト軸受溝3Aの溝数(n)との浮上性能の一例を示したものであり、縦軸は浮上力発生比率(%)を示している。実線は図2(a)に示すスパイラル形状の場合であり、破線は図2(b)のヘリングボーン形状の場合である。いずれも溝数(n)が少ない場合には十分な浮上性能が得られず、一定本数以上であれば十分な浮上性能が得られる。
【0020】
図3に示されるこの傾向はスラスト動圧発生溝において、所定の浮上隙間において、溝数が少ない場合は、動圧溝の断面上において動圧が高くなる角部の個数が不十分となり圧力の合計発生量が得られにくくなることに起因するものである。一方溝数が十分に多いと動圧が高くなる動圧溝の断面上の角部の個数が十分多くなり圧力の合計発生量が大きく得られる。
【0021】
また溝の深さに関しては、摩擦トルクが許容できる範囲であれば、溝が浅い方が軸受剛性は高くなることが判った。
【0022】
そのため通常のスラスト軸受の設計においては、溝数(n)を可能な限り多く、また溝の長さを出来るだけ大きく、そしてスラスト軸受の摩擦トルクが許容できるならば溝深さは10μm以下の浅めの値に設計することが望ましいが、しかし溝数(n)をあまり多くし過ぎたり、溝を浅くしすぎたりすると、図2(a)及び図2(b)の第1のスラスト動圧溝3Aの最内周部分において、溝が細くかつ浅くなりすぎて、図4(a),(b)に示すように、低温環境下で気泡の移動が十分に出来なくなるなり、NRROが大きくなることがわかった。逆に溝に沿った溝壁の長さが大きく、溝が浅くても、最内周における溝幅が0.1mmを越えればNRROは増大しない。
【0023】
なお溝幅というのは、動圧発生溝3Aの中心付近の拡大図5(a)において、tgとして示す寸法であり、工具顕微鏡等により正確に測定することができる。図の網掛け部分が溝部(凹部)であり、動圧溝よりも内周側はリッジ(凸部、ランドとも呼ばれる)を形成している場合を示している。また、溝幅(tg)は簡易的にはθを溝角度、パターン内径をdi、溝数をn、最内周付近の溝幅比をk、としたとき、次の式(1)で表すことができる。
【0024】
溝幅(tg) =Wg×sinθ ・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
但し円周方向溝幅(Wg)=(π×di×k)/n
図5(b)は図5(a)と凹凸関係が逆の場合であり、動圧溝よりも内周側にはリッジが無く、凹部を構成している場合である。この場合、図面上でWg,tgの定義される場所は図5(a)の場合と若干異なるが、tgを表す式は上記式(1)で近似することが出来る。
【0025】
図8は、第1のスラスト動圧発生溝3A,3Cの最内径部分における溝幅(tg)と浮上圧力発生比率(%)の関係を示す図である。図から最小溝幅(tg)が0.15mm未満であれば十分高い浮上圧力が得られるが、最小溝幅(tg)が大きい場合は浮上量が減少することが分かった。これは溝幅が大きいということは即ち、図3に示す様に溝数が少なくなり、発生圧力が低下するものである。図8と図9の2種のデータにより、最小溝幅(tg)は0.1mmを越え0.15mm未満という大変狭い範囲が、第1のスラスト軸受における動圧発生溝3A、3Cの浮上性能確保とスラスト動圧発生溝の中心部に空気が滞留することを防止し良好な性能が得られる設計範囲であることを発見した。
【0026】
なお第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bは、超硬材料等からなる金型を用いたコイニング加工法、または、カーボン材料等からなる電極を用いた電解加工(電解エッチング加工とも呼ばれる)により加工されるが、最内周の溝幅が狭く、かつ溝に沿ったみぞ壁の長さが長い場合は、数万個から数十万個製造することで、金型や電極が図6のように割れ(図中A)や欠け(図中B)が発生したり、図7のように電極18の最も幅が狭い隆起部分において、放電作用による摩耗(図中C)が生じたりしていた。
【0027】
しかし、本実施の形態のように最内周部の溝幅を0.1mm以上にすることで図9に示すように金型や電極の割れ(図中A)、欠け(図中B)や磨耗(図中C)が抑制され、寿命を大幅に伸ばすことが可能になった。これによって大幅に製造上のコストを抑制することが出来るようになった。
【0028】
(実施の形態2)
図10は実施の形態2における第1のスラスト動圧発生溝3Aの平面図である。説明の都合により、複数本ある動圧発生溝の内、4本のみを示した図である。
【0029】
図10において溝パターンの最内周寸法をDi、内周領域である第1領域の外径寸法をDm、最外周寸法をDoとしたとき、第1領域内では、最内周での溝幅(tg1)と第1領域の最外周部での溝幅(tg2)をほぼ同じとしたものである。
【0030】
なお溝幅(tg)は第1領域よりも外周側に当たる領域では最外周に向けてその幅は広くなるように設計される。
【0031】
tg1=tg2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
tg1=0.1〜0.15mm
tg2<tg3
図10の実施の形態は各部の寸法を式(2)の関係になるよう設計した事例である。
【0032】
これにより、第1領域よりも外周側での溝幅比を変更することなく、内周側領域である第1領域の溝幅を大きくできる。その結果、低温においても気泡がスラスト軸受内部に滞留することなく、スムーズに排出されるため、低温においてNRROが増大することはない。
【0033】
また、金型17または電極18の幅が十分に確保されるため金型17及び電極18に欠けや、摩耗が発生しにくく、加工された溝に欠落もなく、正しく加工されるので良好な浮上性能が得られる。
【0034】
(実施の形態3)
図11(a)は、溝パターンの最内周寸法をdi、内周領域寸法をdm、外周をdoとしたとき、内周領域内における溝数(ni)は外周領域内における溝数(no)より少なく設計され、かつ内径部分の最小溝幅(tg1)、及び、外径部分の最小溝幅は(tg2)はそれぞれ0.1mmを越え0.15mm未満の範囲に設計したものである。この設計条件を数式で表すと、
tg1=0.1〜0.15mm・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
tg2=0.1〜0.15mm
tg1<tg3
tg2<tg4
ni<no
の式(3)で表すことができる。図11(a)は第1領域において溝幅は外周に向かうに従って大きくなるように設定している。図11(b)は第1領域内で溝幅は同一である。こうすることによって、内周部でも十分な溝幅を確保でき空気がスムーズに排出でき、低温においてもNRROの増大を抑制することが出来る。また金型17または電極18の幅が十分に確保されるため溝に欠落もないので良好な浮上性能が得られる。
【0035】
なお、図3、図8、図9に示すデータは、流体軸受回転装置の設計適用範囲は、軸2の直径が1.6mmから5mmの範囲であり、スラスト動圧発生溝は内径が0。5mmから5.5mmの範囲でありかつ、スラスト動圧発生溝外径は1.6mmから16mmの範囲について述べたものである。この設計適用範囲内であれば、最適設計範囲として最小溝幅を0.1mmを越え0.15mm未満の範囲に設計することで同様の効果が得られる。
【0036】
なお、本発明においてスリーブ1は純鉄、ステンレス鋼、銅合金、鉄系焼結金属等により構成し、軸2はステンレス鋼、高マンガンクロム鋼等により構成しその直径は1.6mmから8mmであり、潤滑剤6は低粘度(40℃で6〜11mm^2/sec、0℃で27〜55mm^2/sec)のエステル系オイルを使用している。
【0037】
また、図12に示すように、上記に示した流体軸受式回転装置を記録再生装置に適用することにより、信頼性の高い記録再生装置を提供することができる。図中16は蓋、17はヘッドアクチェータユニットである。
【0038】
参考までに、従来の温度領域では生じなかった問題を惹起する。具体的には、0℃以下の低温領域においては、潤滑剤の粘度が急激に増大し、高温では粘度が低下する。例えばオイル粘度は表1のように変化する。
【0039】
【表1】
また、ハーフホワール成分の振動を生ずる現象は、内周部において動圧溝の幅や深さが動圧溝の溝壁に沿った長さに対して小さく成りやすいスラスト軸受において顕著であることがわかった。具体的には溝深さが6μm以下で、溝幅に対して溝の壁に沿った長さが10倍以上になる時に生じやすい。なお溝の壁に沿った長さとは、図13に模式的に示すようにスパイラル形状溝(図13(a))の場合は図中Ls、ヘリングボーン形状溝(図13(b))の場合は図中Lh1とLh2の和である。
【0040】
(他の変形例)
上記実施の形態においては、軸受構成は回転する軸にフランジを固着して、スラスト軸受はフランジ部に構成した例をもって説明したが、本願発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
例えばスラスト軸受はハブとスリーブ上端面間に構成しても良い。
【0042】
また、軸をベースに固定して、スリーブが回転する構成でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、溝深さが6μm以下で、内周側溝幅に対して溝に沿った溝壁長さの比が10倍以上の溝のスラスト動圧発生溝の溝パターンにおいて、内周側の最小の溝幅が0.1mmを越え、0.15mm未満にしたので、潤滑剤の粘度が高くなる0℃以下の低温領域においてもスラスト動圧発生溝の中央部分に空気が滞留せず、良好な圧力が発生する。また高温においても動圧が十分に確保できるので、広い温度範囲で性能を確保できる。
【0044】
また、スラスト動圧発生溝加工金型、または電極に欠けや摩耗が生じにくく、スラスト動圧発生溝が設計値どおりに精度良く加工することが可能になり、十分なスラスト軸受の浮上性能が得られ、性能が良好な流体軸受式回転装置を実現できる。また大量生産性に優れ低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1に係る流体軸受回転装置の断面図
【図2】本発明の実施の形態1のスラスト動圧溝の形状図
【図3】本発明の実施例1のスラスト動圧溝数の特性説明図
【図4】溝幅tgと低温動作時NRROの関係図
【図5】本発明の実施の形態1のスラスト動圧発生溝拡大図
【図6】本発明の実施の形態1の加工金型の破損の説明図
【図7】本発明の実施の形態1の加工電極の摩耗の説明図
【図8】本発明の実施の形態1のスラスト動圧溝幅の特性説明図
【図9】本発明の実施の形態1の金型及び電極寿命の溝幅の影響説明図
【図10】本発明の実施例2のスラスト動圧溝パターン詳細図
【図11】本発明の実施例3のスラスト動圧溝パターン詳細図
【図12】本発明の実施の形態の流体軸受回転装置断面図
【図13】溝壁長さを定義する説明図
【符号の説明】
【0046】
1 スリーブ
1A 軸受穴
1B ラジアル動圧発生溝
1G 連通孔
2 軸
3 フランジ
3A 第1スラスト動圧発生溝
3B 第2スラスト動圧発生溝
4 スラスト軸受板
5 シールキャップ
6 潤滑剤
7 ハブ
8 ベース
9 ロータ磁石
10 ステータ
11 記録ディスク
【技術分野】
【0001】
本発明は動圧流体軸受を使用した流体軸受式回転装置に関するものであり、特にハードディスク装置のようなディスク状媒体を用いた情報装置や、ポリゴンスキャナ装置や、データストリーマ装置のようなテープ状媒体を用いた情報装置などに用いられるスピンドルモータ等に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いた記録装置等はそのメモリー容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用される記録装置の軸受は常にディスク負荷を高精度に回転させるため、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら回転装置には高速回転に適した動圧型流体軸受が用いられている。
【0003】
流体軸受式回転装置は、軸とスリーブとの間にオイル等の潤滑剤を介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転する。非接触であるため機械的な摩擦が無く、高速回転に適している。またとりわけハードディスク装置のように、ディスク媒体上のトラック密度や線記録密度を高くすることを要求する情報装置は、情報の記録再生時における非繰り返し性の振れ(以下NRROと略記する)を抑制することが必須であるが、流体軸受は従来の玉軸受などに比べて圧倒的にNRROが小さいためにその点でも好適である。
【0004】
ところで従来の流体軸受の設計においては、動作中に軸受内部に気泡が滞留しないように、内部のポンピング圧力の分布を最適化して、内部に負圧領域が生じにくいように配慮してきた。これは内部に空気が溜まっていき、それが動圧溝内部に入り込んで抜けでなくなった場合は、気泡部分で発生する動圧に軸対称性が無くなるために、軸受剛性に不均一性が生ずる。そしてこの気泡は回転側軸受部材と固定側軸受部材との間で旋回をするために、気泡は回転側部材の回転速度のほぼ半分で回転することになる。そのために例えばモータが3600r/minで回転する場合、回転部材は毎秒60回転することになるが、気泡はその半分の毎秒約30回転することになる。この結果、剛性の変動が30Hxで発生することになるので、それがハーフホワール成分と呼ばれる振動を誘発するためである。
【0005】
また当然の事ながら摩擦トルクを抑制しながら軸受剛性を高めることは流体軸受にとって重要なことであり、そういった点を加味しながら従来から多数の形態の提案がなされてきた。
【0006】
ところで今までハードディスク装置等は、PC用途が主であったために使用環境はオフィスや屋外でも人間がOA作業をする環境であったために、性能保証範囲は5℃〜55℃程度であれば十分であったが、近年はカーナビ用途,携帯電話,デジタル音楽プレーヤ等のモバイル用途として使用環境に広がりを見せ始め、より広範囲な温度条件環境下での使用を要求されるようになってきた。例えば−20℃〜80℃などといったものである。特に低温側は軸受設計や、電磁気回路部分の設計を効率化することによって、軸受摩擦トルクの増大を抑制し、低温での発生トルクを向上してモータが回転できるように対処されてきた。
【特許文献1】特表2000−050310号公報
【特許文献2】特開2004−183768号公報
【特許文献3】特開2005−098324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしこのような温度環境範囲の広がりは、従来の温度領域では生じなかった問題を惹起する。具体的には、0℃以下の低温領域においては、潤滑剤の粘度が急激に増大し、高温では粘度が低下する。
【0008】
したがって低温においては軸受で発生する動圧は大きくなるが、同時に軸受内部で発生した気泡が大きく成長する前に徐々に排出されることが困難になる。そのため気泡は比較的大きく成長した状態でようやく動き出すことになるが、移動・停止の臨界状態においては排出が進行せずに動圧溝内部に再びとどまってしまう事になる。その結果低温状態においては軸受剛性の変動に繋がりハーフホワール成分の振動を生ずる。
【0009】
また高温になると潤滑剤の粘度が低下するために、動圧溝の本数が少ないと十分な動圧を発生できなくなる。その結果、スラスト軸受の中心付近に空気が滞留して所定の圧力が発生できずに軸受装置が擦れるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明の流体軸受式回転装置は、軸と、軸受孔を有するスリーブと、前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、前記スリーブに相対的に固定され、前記軸のアキシャル方向端面に対向配置されたスラスト軸受板と、前記スラスト軸受板と前記軸の間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝とを備え、前記スラスト動圧発生溝は最内周付近の動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなるようにしたことを特徴としたものであり、良好な性能を広い温度範囲で確保できる。
【0011】
また本発明は、軸と、軸受孔を有するスリーブと、前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、前記軸に略直角に一体的に固定された円盤状のフランジとを備え、前記スラスト軸受板と前記フランジとの間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝とを備え、前記スラスト動圧発生溝は最内周付近の動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え、0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなるようにしたことを特徴としたものであり、良好な性能を広い温度範囲で確保できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明における流体軸受装置によれば、スラスト動圧発生溝のオイルを内周に向けて十分にポンプインする力が得られ、また中心部に空気が残留しないため、0℃以下の(例えば−20℃)といった低温から80℃程度の高温まで設計値どおりに十分なスラスト軸受の性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施をするための最良の形態を具体的に示した実施の形態について、図面とともに記載する。
【0014】
(実施の形態1)
図1から図2を用いて実施の形態1の流体軸受式回転装置について説明する。本実施の形態の流体軸受式回転装置は、図1に示すように、スリーブ1、軸2、フランジ3、スラスト軸受板4、シールキャップ5、オイル、超流動性グリースまたはイオン性液体等の潤滑剤6、ハブ7、ベース8、ロータ磁石9およびステータ10を備えている。
【0015】
軸2は、フランジ3と一体化しており、スリーブ1の軸受穴1Aに回転可能な状態で挿入される。フランジ3は、スリーブ1の段部1Cに収納される。軸2の外周面またはスリーブ1の内周面の少なくともいずれか一方には、非対称形状のヘリングボーンパターン溝からなるラジアル動圧発生溝1Bが形成されている。一方、フランジ3とスラスト軸受板4との対向面のいずれか一方にはスパイラル形状(図2(a)参照)またはヘリングボーン形状(図2(b)参照)をなす第1のスラスト動圧発生溝3Aが形成され、フランジ3とスリーブ1との対向面のいずれか一方には、第2のスラスト動圧発生溝3Bが同様に形成されている。スラスト軸受板4は、スリーブ1またはベース8に固着されている。少なくとも各動圧発生溝1B,3A,3Bの付近の軸受隙間は、潤滑剤6によって充填されており、また、スリーブ1、軸2及びスラスト軸受板4によって形成される袋状の軸受隙間全体についても、必要に応じて潤滑剤6によって充填されている。シールキャップ5はスリーブ1の上端部に位置し、その固定部5Aがスリーブ1またはベース8に取り付けられ、テーパ部5Bと,換気孔5Cを有している。連通孔1Gは軸受穴1Aに略平行に設けられ、シールキャップ5のオイル溜まり部と、フランジ3の外周近傍を連結するように設けられ、連通孔1G,ラジアル動圧発生溝1B,第1スラスト動圧発生溝3A及び第2スラスト動圧発生溝3Bに連なって設けられており、潤滑剤6の循環経路を構成する。また軸受内部に混入した気泡15は連通孔1G等を介して軸受外部に排出される。
【0016】
ベース8には、スリーブ1が固定されている。そして、ステータ10が、ロータ磁石9に対向するようにベース8に固定される。ロータ磁石10は漏れ磁束によって軸方向に吸引力を発生し、ハブ7をスラスト軸受板4の方向に約10〜100グラムの力で押し付けている。一方、ハブ7は、軸2に固定されると共に、ロータ磁石9、記録ディスク11、スペーサ12、クランパー13およびネジ14が固定されている。
【0017】
ここで図1に示す本発明の実施の形態1の流体軸受式回転装置の動作について説明する。図1において、軸受が回転を始めると、ラジアル動圧発生溝1Bは潤滑剤6をかき集めて圧力を発生し軸受穴1Aに対して軸2を浮上させ、第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bは図2(a)(または図2(b))のような圧力分布をなす圧力(P)を発生しフランジ3を浮上させ非接触で回転させる。なお第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bはそれぞれのスラスト軸受部におけるアキシャル方向隙間に応じて異なる圧力を発生し、ロータ磁石9とステータ10の間で作用する磁気的吸引力やロータ重量などと釣り合いを保ち非接触状態を維持する。
【0018】
軸受が回転中にヘリングボーン状パターンからなるラジアル動圧発生溝1Bのポンプ力と、第1スラスト動圧発生溝3Aと第2スラスト動圧発生溝3Bのポンプ力の合力は、シールキャップ5のテーパ部5Bの隙間の潤滑剤6を、軸受穴1Aを通ってフランジ3の外周面に向けて図中黒色矢印方向に運搬するようにそれらの溝パターンが設計されており、潤滑剤6は第2のスラスト動圧発生溝3Bを経由して連通孔1Gに流入し循環することで、軸受内の気泡15は排出され軸受隙間は潤滑剤6で満たされ、ロータ磁石9およびステータ10の相互作用によって、軸受部は非接触状態になって回転する。これにより、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドによって、ハブ7と共に回転する記録ディスク11に対してデータの記録再生を行うことができる。
【0019】
図3は本発明の流体軸受式回転装置における第1のスラスト軸受溝3Aの溝数(n)との浮上性能の一例を示したものであり、縦軸は浮上力発生比率(%)を示している。実線は図2(a)に示すスパイラル形状の場合であり、破線は図2(b)のヘリングボーン形状の場合である。いずれも溝数(n)が少ない場合には十分な浮上性能が得られず、一定本数以上であれば十分な浮上性能が得られる。
【0020】
図3に示されるこの傾向はスラスト動圧発生溝において、所定の浮上隙間において、溝数が少ない場合は、動圧溝の断面上において動圧が高くなる角部の個数が不十分となり圧力の合計発生量が得られにくくなることに起因するものである。一方溝数が十分に多いと動圧が高くなる動圧溝の断面上の角部の個数が十分多くなり圧力の合計発生量が大きく得られる。
【0021】
また溝の深さに関しては、摩擦トルクが許容できる範囲であれば、溝が浅い方が軸受剛性は高くなることが判った。
【0022】
そのため通常のスラスト軸受の設計においては、溝数(n)を可能な限り多く、また溝の長さを出来るだけ大きく、そしてスラスト軸受の摩擦トルクが許容できるならば溝深さは10μm以下の浅めの値に設計することが望ましいが、しかし溝数(n)をあまり多くし過ぎたり、溝を浅くしすぎたりすると、図2(a)及び図2(b)の第1のスラスト動圧溝3Aの最内周部分において、溝が細くかつ浅くなりすぎて、図4(a),(b)に示すように、低温環境下で気泡の移動が十分に出来なくなるなり、NRROが大きくなることがわかった。逆に溝に沿った溝壁の長さが大きく、溝が浅くても、最内周における溝幅が0.1mmを越えればNRROは増大しない。
【0023】
なお溝幅というのは、動圧発生溝3Aの中心付近の拡大図5(a)において、tgとして示す寸法であり、工具顕微鏡等により正確に測定することができる。図の網掛け部分が溝部(凹部)であり、動圧溝よりも内周側はリッジ(凸部、ランドとも呼ばれる)を形成している場合を示している。また、溝幅(tg)は簡易的にはθを溝角度、パターン内径をdi、溝数をn、最内周付近の溝幅比をk、としたとき、次の式(1)で表すことができる。
【0024】
溝幅(tg) =Wg×sinθ ・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
但し円周方向溝幅(Wg)=(π×di×k)/n
図5(b)は図5(a)と凹凸関係が逆の場合であり、動圧溝よりも内周側にはリッジが無く、凹部を構成している場合である。この場合、図面上でWg,tgの定義される場所は図5(a)の場合と若干異なるが、tgを表す式は上記式(1)で近似することが出来る。
【0025】
図8は、第1のスラスト動圧発生溝3A,3Cの最内径部分における溝幅(tg)と浮上圧力発生比率(%)の関係を示す図である。図から最小溝幅(tg)が0.15mm未満であれば十分高い浮上圧力が得られるが、最小溝幅(tg)が大きい場合は浮上量が減少することが分かった。これは溝幅が大きいということは即ち、図3に示す様に溝数が少なくなり、発生圧力が低下するものである。図8と図9の2種のデータにより、最小溝幅(tg)は0.1mmを越え0.15mm未満という大変狭い範囲が、第1のスラスト軸受における動圧発生溝3A、3Cの浮上性能確保とスラスト動圧発生溝の中心部に空気が滞留することを防止し良好な性能が得られる設計範囲であることを発見した。
【0026】
なお第1,第2のスラスト動圧発生溝3A,3Bは、超硬材料等からなる金型を用いたコイニング加工法、または、カーボン材料等からなる電極を用いた電解加工(電解エッチング加工とも呼ばれる)により加工されるが、最内周の溝幅が狭く、かつ溝に沿ったみぞ壁の長さが長い場合は、数万個から数十万個製造することで、金型や電極が図6のように割れ(図中A)や欠け(図中B)が発生したり、図7のように電極18の最も幅が狭い隆起部分において、放電作用による摩耗(図中C)が生じたりしていた。
【0027】
しかし、本実施の形態のように最内周部の溝幅を0.1mm以上にすることで図9に示すように金型や電極の割れ(図中A)、欠け(図中B)や磨耗(図中C)が抑制され、寿命を大幅に伸ばすことが可能になった。これによって大幅に製造上のコストを抑制することが出来るようになった。
【0028】
(実施の形態2)
図10は実施の形態2における第1のスラスト動圧発生溝3Aの平面図である。説明の都合により、複数本ある動圧発生溝の内、4本のみを示した図である。
【0029】
図10において溝パターンの最内周寸法をDi、内周領域である第1領域の外径寸法をDm、最外周寸法をDoとしたとき、第1領域内では、最内周での溝幅(tg1)と第1領域の最外周部での溝幅(tg2)をほぼ同じとしたものである。
【0030】
なお溝幅(tg)は第1領域よりも外周側に当たる領域では最外周に向けてその幅は広くなるように設計される。
【0031】
tg1=tg2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
tg1=0.1〜0.15mm
tg2<tg3
図10の実施の形態は各部の寸法を式(2)の関係になるよう設計した事例である。
【0032】
これにより、第1領域よりも外周側での溝幅比を変更することなく、内周側領域である第1領域の溝幅を大きくできる。その結果、低温においても気泡がスラスト軸受内部に滞留することなく、スムーズに排出されるため、低温においてNRROが増大することはない。
【0033】
また、金型17または電極18の幅が十分に確保されるため金型17及び電極18に欠けや、摩耗が発生しにくく、加工された溝に欠落もなく、正しく加工されるので良好な浮上性能が得られる。
【0034】
(実施の形態3)
図11(a)は、溝パターンの最内周寸法をdi、内周領域寸法をdm、外周をdoとしたとき、内周領域内における溝数(ni)は外周領域内における溝数(no)より少なく設計され、かつ内径部分の最小溝幅(tg1)、及び、外径部分の最小溝幅は(tg2)はそれぞれ0.1mmを越え0.15mm未満の範囲に設計したものである。この設計条件を数式で表すと、
tg1=0.1〜0.15mm・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
tg2=0.1〜0.15mm
tg1<tg3
tg2<tg4
ni<no
の式(3)で表すことができる。図11(a)は第1領域において溝幅は外周に向かうに従って大きくなるように設定している。図11(b)は第1領域内で溝幅は同一である。こうすることによって、内周部でも十分な溝幅を確保でき空気がスムーズに排出でき、低温においてもNRROの増大を抑制することが出来る。また金型17または電極18の幅が十分に確保されるため溝に欠落もないので良好な浮上性能が得られる。
【0035】
なお、図3、図8、図9に示すデータは、流体軸受回転装置の設計適用範囲は、軸2の直径が1.6mmから5mmの範囲であり、スラスト動圧発生溝は内径が0。5mmから5.5mmの範囲でありかつ、スラスト動圧発生溝外径は1.6mmから16mmの範囲について述べたものである。この設計適用範囲内であれば、最適設計範囲として最小溝幅を0.1mmを越え0.15mm未満の範囲に設計することで同様の効果が得られる。
【0036】
なお、本発明においてスリーブ1は純鉄、ステンレス鋼、銅合金、鉄系焼結金属等により構成し、軸2はステンレス鋼、高マンガンクロム鋼等により構成しその直径は1.6mmから8mmであり、潤滑剤6は低粘度(40℃で6〜11mm^2/sec、0℃で27〜55mm^2/sec)のエステル系オイルを使用している。
【0037】
また、図12に示すように、上記に示した流体軸受式回転装置を記録再生装置に適用することにより、信頼性の高い記録再生装置を提供することができる。図中16は蓋、17はヘッドアクチェータユニットである。
【0038】
参考までに、従来の温度領域では生じなかった問題を惹起する。具体的には、0℃以下の低温領域においては、潤滑剤の粘度が急激に増大し、高温では粘度が低下する。例えばオイル粘度は表1のように変化する。
【0039】
【表1】
また、ハーフホワール成分の振動を生ずる現象は、内周部において動圧溝の幅や深さが動圧溝の溝壁に沿った長さに対して小さく成りやすいスラスト軸受において顕著であることがわかった。具体的には溝深さが6μm以下で、溝幅に対して溝の壁に沿った長さが10倍以上になる時に生じやすい。なお溝の壁に沿った長さとは、図13に模式的に示すようにスパイラル形状溝(図13(a))の場合は図中Ls、ヘリングボーン形状溝(図13(b))の場合は図中Lh1とLh2の和である。
【0040】
(他の変形例)
上記実施の形態においては、軸受構成は回転する軸にフランジを固着して、スラスト軸受はフランジ部に構成した例をもって説明したが、本願発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
例えばスラスト軸受はハブとスリーブ上端面間に構成しても良い。
【0042】
また、軸をベースに固定して、スリーブが回転する構成でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、溝深さが6μm以下で、内周側溝幅に対して溝に沿った溝壁長さの比が10倍以上の溝のスラスト動圧発生溝の溝パターンにおいて、内周側の最小の溝幅が0.1mmを越え、0.15mm未満にしたので、潤滑剤の粘度が高くなる0℃以下の低温領域においてもスラスト動圧発生溝の中央部分に空気が滞留せず、良好な圧力が発生する。また高温においても動圧が十分に確保できるので、広い温度範囲で性能を確保できる。
【0044】
また、スラスト動圧発生溝加工金型、または電極に欠けや摩耗が生じにくく、スラスト動圧発生溝が設計値どおりに精度良く加工することが可能になり、十分なスラスト軸受の浮上性能が得られ、性能が良好な流体軸受式回転装置を実現できる。また大量生産性に優れ低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1に係る流体軸受回転装置の断面図
【図2】本発明の実施の形態1のスラスト動圧溝の形状図
【図3】本発明の実施例1のスラスト動圧溝数の特性説明図
【図4】溝幅tgと低温動作時NRROの関係図
【図5】本発明の実施の形態1のスラスト動圧発生溝拡大図
【図6】本発明の実施の形態1の加工金型の破損の説明図
【図7】本発明の実施の形態1の加工電極の摩耗の説明図
【図8】本発明の実施の形態1のスラスト動圧溝幅の特性説明図
【図9】本発明の実施の形態1の金型及び電極寿命の溝幅の影響説明図
【図10】本発明の実施例2のスラスト動圧溝パターン詳細図
【図11】本発明の実施例3のスラスト動圧溝パターン詳細図
【図12】本発明の実施の形態の流体軸受回転装置断面図
【図13】溝壁長さを定義する説明図
【符号の説明】
【0046】
1 スリーブ
1A 軸受穴
1B ラジアル動圧発生溝
1G 連通孔
2 軸
3 フランジ
3A 第1スラスト動圧発生溝
3B 第2スラスト動圧発生溝
4 スラスト軸受板
5 シールキャップ
6 潤滑剤
7 ハブ
8 ベース
9 ロータ磁石
10 ステータ
11 記録ディスク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、
軸受孔を有するスリーブと、
前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、
前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、
前記スリーブに相対的に固定され、前記軸のアキシャル方向端面に対向配置されたスラスト軸受板と、
前記スラスト軸受板と前記軸の間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝と
を備え、
前記スラスト動圧発生溝は最内周付近において、動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなることを特徴とする流体軸受式回転装置。
【請求項2】
前記軸は略直角に一体的に固定された円盤状のフランジ部を有し、前記スラスト動圧発生溝は、前記フランジ部と前記スラスト軸受板との間に形成された請求項1に記載の流体軸受式回転装置。
【請求項3】
軸と、
軸受孔を有するスリーブと、
前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、
前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、
前記軸に略直角に一体的に固定された円盤状のフランジと
前記スラスト軸受板と前記フランジとの間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝と、
を備え、
前記スラスト動圧発生溝は最内周付近において、動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなることを特徴とする流体軸受式回転装置
【請求項4】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域においては動圧溝の幅は0.1mmを越え0.15mm未満の範囲の値で一定であり、溝深さは6μm以上であると共に、前記第1領域よりも外周側である第2領域において、前記幅は外周に向けて徐々に広くなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体軸受式回転装置。
【請求項5】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域における溝数が、前記第1領域よりも外周側にある第2領域における溝数より少なく、前記第1領域の動圧溝の幅はその最内周付近において0.1mmを越え0.15mm未満で、かつ溝深さは6μm以上であり、前記第2領域のみに形成された動圧溝の最内周付近の動圧溝の幅が0.1を越え0.15mm未満であり、これら第1領域及び第2領域の溝の幅は外周に向けて徐々に広くなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体軸受式回転装置。
【請求項6】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域においては動圧溝の幅が一定である請求項5に記載の流体軸受式回転装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の流体軸受式回転装置を備えた記録再生装置。
は再生する記録媒体制御装置。
【請求項1】
軸と、
軸受孔を有するスリーブと、
前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、
前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、
前記スリーブに相対的に固定され、前記軸のアキシャル方向端面に対向配置されたスラスト軸受板と、
前記スラスト軸受板と前記軸の間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝と
を備え、
前記スラスト動圧発生溝は最内周付近において、動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなることを特徴とする流体軸受式回転装置。
【請求項2】
前記軸は略直角に一体的に固定された円盤状のフランジ部を有し、前記スラスト動圧発生溝は、前記フランジ部と前記スラスト軸受板との間に形成された請求項1に記載の流体軸受式回転装置。
【請求項3】
軸と、
軸受孔を有するスリーブと、
前記軸を前記スリーブの軸受孔内に相対的に回転自在な状態で挿入し、
前記軸の外周面または前記スリーブの内周面の少なくとも一方にラジアル動圧発生溝が形成されたラジアル軸受面と、
前記軸に略直角に一体的に固定された円盤状のフランジと
前記スラスト軸受板と前記フランジとの間のアキシャル方向隙間の少なくとも一方に形成され、ヘリングボーン形状またはスパイラルパターン形状をなすスラスト動圧発生溝と、
を備え、
前記スラスト動圧発生溝は最内周付近において、動圧溝の1本当りの幅が0.1mmを越え0.15mm未満で、溝深さが6μm以下であり、かつ前記動圧溝に沿った溝壁の長さが前記最内周付近の前記幅の10倍以上で、前記幅が外周に向けて徐々に広くなることを特徴とする流体軸受式回転装置
【請求項4】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域においては動圧溝の幅は0.1mmを越え0.15mm未満の範囲の値で一定であり、溝深さは6μm以上であると共に、前記第1領域よりも外周側である第2領域において、前記幅は外周に向けて徐々に広くなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体軸受式回転装置。
【請求項5】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域における溝数が、前記第1領域よりも外周側にある第2領域における溝数より少なく、前記第1領域の動圧溝の幅はその最内周付近において0.1mmを越え0.15mm未満で、かつ溝深さは6μm以上であり、前記第2領域のみに形成された動圧溝の最内周付近の動圧溝の幅が0.1を越え0.15mm未満であり、これら第1領域及び第2領域の溝の幅は外周に向けて徐々に広くなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体軸受式回転装置。
【請求項6】
前記スラスト動圧発生溝は、最内周付近である第1領域においては動圧溝の幅が一定である請求項5に記載の流体軸受式回転装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の流体軸受式回転装置を備えた記録再生装置。
は再生する記録媒体制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−215490(P2008−215490A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53802(P2007−53802)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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