説明

浴室用タッピングねじおよびその製造方法

【課題】浴室の壁面や天井面に下穴なしで切り屑を発生させずにねじ込むことができ、かつ浴室環境に耐える耐食性を備えた浴室用タッピングねじを提供する。
【解決手段】マルテンサイト系ステンレス鋼を母材10として所定のタッピングねじ1形状に形成され、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上とし、さらに表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層14が形成され、必要に応じて、上記亜鉛−ニッケル合金めっき層14の表面にクロメート被膜15を形成し、その上にシリコーン・エポキシ樹脂層16を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムバス等の浴室の壁面や天井面に照明や内装部品を取り付けるための浴室用タッピングねじおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユニットバスの壁面や天井面には、照明やシャワーフック、鏡固定金具等の内装部品をねじ止めで取り付けることが行われる。このような内装部品取り付け用のねじとしては、高い耐食性能が求められるため、一般に、SUS304等のオーステナイト系ステンレス製のねじが用いられている。一方、浴室の壁面や天井面は、一般に、表面に樹脂フィルムがラミネートされた厚み4.5mm程度の鋼板が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、SUS304材のねじでは、鋼板製の壁面にそのままねじ込むことができず、施工現場で必ず壁面にドリルで下穴を開けてから上記ねじで内装部品を取り付けることが行われている。このように、従来、下穴開け作業とねじ止め作業の2工程を必要としていたことから、内装の施工性が良くないという問題があった。加えて、下穴開け作業は、浴室内に飛び散る切り屑の発生が避けられず、浴室内に切り屑が残存すると、新築家屋の浴室にそこから赤錆が発生してクレームとなるため、内装部品の取付作業が終了すると、極めて慎重に切り屑を除去する作業が必要となり、この取付後の清掃作業に多大の時間と労力を要していたのが実情である。一方、切り屑を発生させないで鋼板にねじ込むことができるタッピングねじもあるにはあるのであるが、耐食性能が十分でなく、浴室環境で使用できるものではない。
【0004】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、浴室の壁面や天井面に下穴なしで切り屑を発生させずにねじ込むことができ、かつ浴室環境に耐える耐食性を備えた浴室用タッピングねじおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の浴室用タッピングねじは、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ形状に形成され、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上とし、さらに表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層が形成されいることを要旨とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の浴室用タッピングねじの製造方法は、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ形状に形成し、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上とし、さらに表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成することを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ形状に形成され、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上としたことから、鋼板製の浴室壁面や天井面に対して下穴なしでもねじ込んで内装部品を取り付けることができる。このように、従来、下穴開け作業とねじ止め作業の2工程を必要としていた施工作業が、ねじ止め作業の一工程で済むことから、内装の施工時間が大幅に短縮できる。また、浴室内に切り屑が飛び散らないため、内装部品取付後の清掃作業が不要になることから、施工時間を大幅に短縮することができる。さらに、清掃不良で切り屑が残ってしまい、赤錆によるクレームを生じるリスクが激減する。また、上記母材の表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層が形成されていることから、浴室環境用として十分な耐食性を確保することができた。
【0008】
本発明において、上記亜鉛−ニッケル合金めっき層の表面にクロメート処理層が形成され、その上にシリコーン・エポキシ樹脂層が形成されている場合には、浴室環境用としてさらに十分な耐食性を確保することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明が適用される浴室用タッピングねじ1の一実施形態を示す。このタッピングねじ1は、頭部にねじ回しの先端を嵌合させる十字状の凹部が形成され、2条ねじのねじ部が形成されるとともに、先端はシャープポイントに形成されている。
【0011】
このタッピングねじ1は、マルテンサイト系のステンレスを母材として形成されている。本発明で使用することができるマルテンサイト系のステンレスとしては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410S、SUS410J1、SUS410F2、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS420F2、SUS429J1、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F等の材質があげられる。これらのなかでも、硬度と耐食性を兼ね備えた浴室用のタッピングねじ1としてSUS410を好適に用いることができる。
【0012】
上記マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ1形状に形成し、焼き入れ処理もしくは窒化処理による硬化処理を行うことにより、少なくとも表面の硬度をHv500以上とする。上記表面の硬度は、Hv550以上であればなお好ましく、さらに好ましいのはHv600以上である。
【0013】
上記硬化処理としての焼き入れ処理としては、例えば、真空焼入れを適用することができる。上記真空焼き入れの条件としては、前室、加熱室、冷却室を有する真空炉を用い、脱脂洗浄したワークであるねじを真空パージした加熱室内で850℃〜1050℃、好ましくは950℃〜1000℃の高温に30〜40分間加熱保持し、冷却室に移動したのち窒素ガスを導入して急冷することにより焼き入れを行う。焼き入れ後は、150℃〜300℃で所定時間焼き戻しを行い、少なくとも表面の硬度をHv500以上とする。
【0014】
上記焼き入れ処理を行わず、硬化処理として窒化処理を行うことによって表面硬度をHv500以上とすることもできる。上記窒化処理としては、例えば、塩浴窒化処理、プラズマ窒化処理(イオン窒化処理)、ガス窒化処理等を採用することができる。
【0015】
上記塩浴窒化の処理条件としては、例えば、シアン酸ソーダ(NaCNO)またはシアン酸カリ(KCNO)を20〜70%含む混合塩を用い、500〜620℃に加熱して溶解した塩浴中に被処理部品を浸漬して処理することが行われる。例えば、570℃で2時間塩浴処理を行うことにより、Hv1000以上の表面硬度を得ることができる。
【0016】
上記プラズマ窒化(イオン窒化)の処理条件としては、窒化炉内を0.5〜10Torrの真空とし、約500Vの電圧をかけ放電を行う。なお、処理雰囲気には窒素と水素の混合ガスを使用する。例えば、520℃で2.5時間プラズマ窒化処理を行うことにより、Hv1000以上の表面硬度を得ることができる。
【0017】
上記ガス窒化の処理条件としては、500〜550℃に加熱した窒化炉内に窒素源ガスとしてNHを導入して処理する。例えば530℃で100時間処理することにより、Hv1000以上の表面硬度を得ることができる。
【0018】
図2(A)は、硬化処理として窒化処理を行ったタッピングねじ1の断面組織を示す。母材10の表層部に、表面から窒素が拡散した窒化層11が形成されている。
【0019】
図2(B)に示すように、本発明では、上記硬化処理を行って表面硬度をHv500以上としたタッピングねじ1の表面に、硬化表面に形成された亜鉛−ニッケル合金めっき層14を形成する。また、必要に応じて、上記亜鉛−ニッケル合金めっき層14の表面に形成されたクロメート被膜15、上記クロメート被膜15の上に形成されたシリコーン・エポキシ樹脂層16から構成された防錆コーティング12を形成する。
【0020】
上記亜鉛−ニッケル合金めっき層14は、酸性浴として、たとえば、荏原ユージライト社のZIN−LOYプロセス(商品名)、アルカリ性浴として、たとえば、ディップソール社のアニックプロセスIZ−260(商品名)を使用する電気めっき法によって形成することができ、亜鉛−ニッケル合金めっき層14のNiの含有率は5〜10%で、層厚みは7〜14μm、好ましくは7〜8μm程度とすることが耐食性の点から好ましい。
【0021】
上記クロメート被膜15は、光沢クロメートとして、たとえば、アルカリ性浴を使用しためっき被膜用としてディップソール社のアニックプロセスIZ−266(商品名)を適用することができる。光沢クロメート以外にも、黄色クロメートとして、たとえば、酸性浴を使用しためっき被膜用として荏原ユージライト社のエバクローZN−81Y(商品名)またはアルカリ性浴を使用しためっき被膜用としてディップソール社のIZ−268(商品名)を、ブロンズクロメートとして、アルカリ性浴を使用しためっき被膜用としてのディップソール社のアニックプロセスIZG−263(商品名)を、黒色クロメートとして、酸性浴を使用しためっき被膜用としての荏原ユージライト社のZN−ATBプロセス(商品名)を適用することもできる。これらのクロメート処理により、目的のクロメート被膜15を、前記のようにして形成した亜鉛−ニッケル合金めっき層14上に形成することができる。上記クロメート被膜15の厚みは2〜4μm、好ましくは2〜3μm程度形成するのが好ましい。
【0022】
上記シリコーン・エポキシ樹脂層16は、例えば東亜合成社のアロンマイティKコートK−111A(商品名)を適用することができ、シリコーン・エポキシ樹脂、溶剤等が混合された処理液に、例えばディップスピン等の手法によりコーティングを行うことができる。このシリコーン・エポキシ樹脂層16の厚みは、1〜2μm程度とするのが好ましい。
【0023】
上記亜鉛−ニッケル合金めっき層14、クロメート被膜15、シリコーン・エポキシ樹脂層16から構成された防錆コーティング12のトータル厚みは、必要な耐蝕性を確保するために10μm以上とするのが好ましい。また、タッピングねじ1としての機能を確保するとともに不要なコストアップを避けるために上記トータル厚みは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましいのは13μm以下である。
【実施例】
【0024】
母材としてSUS410を用い、真空焼き入れにより表面硬度をHv600にしたねじ部材に対し、亜鉛−ニッケル合金めっき層14を7μm、光沢クロメート被膜15を2μm、シリコーン・エポキシ樹脂層16を1μm形成し、トータル厚み10μmの防錆コーティング12を形成し、本発明品を得た。
【0025】
比較例1として、母材10としてSUS410を用い、真空焼き入れにより表面硬度をHv600にして防錆コーティング12を行わないものを準備した。また、比較例2および3として、炭素鋼の焼き入れ品に上記防錆コーティング12を5μmならびに10μmそれぞれ施したものを準備した。さらに、比較例4として従来のSUS304のねじを準備した。
【0026】
図3は、上記実施例および比較例1〜4につき、1000時間の塩水噴霧試験を実施して耐食性の評価を行った結果である。図3からわかるとおり、実施例は、1000時間の塩水噴霧を行った後でも、頭部、ねじ部ともに白錆の発生しか認められず、浴室環境において十分な耐食性能が得られていることがわかる。比較例1,2,3は、いずれも赤錆の発生が認められ、浴室環境における耐食性能としては不十分である。
【0027】
また、実施例および比較例1〜4につき、厚み4.5mmの鋼板に対する下穴なしのタッピング性能を評価したところ、実施例および比較例1〜3は、所望のタッピング性能が得られたが、比較例4はタッピングが不可能であった。
【0028】
以上のように、実施例のタッピングねじ1では、浴室環境における十分な耐食性と、浴室壁および天井用の鋼板に対するタッピング性能とが両立されていることがわかる。
【0029】
このように、本実施形態によれば、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材10として所定のタッピングねじ1形状に形成され、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上としたことから、鋼板製の浴室壁面や天井面に対して下穴なしでもねじ込んで内装部品を取り付けることができる。このように、従来、下穴開け作業とねじ止め作業の2工程を必要としていた施工作業が、ねじ止め作業の一工程で済むことから、内装の施工時間が大幅に短縮できる。また、浴室内に切り屑が飛び散らないため、内装部品取付後の清掃作業が不要になることから、施工時間を大幅に短縮することができる。さらに、清掃不良で切り屑が残ってしまい、赤錆によるクレームを生じるリスクが激減する。また、上記母材10の表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層14が形成され、上記亜鉛−ニッケル合金めっき層14の表面にクロメート被膜15が形成され、その上にシリコーン・エポキシ樹脂層16が形成されていることから、浴室環境用として十分な耐食性を確保することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用されるタッピングねじの一実施形態を示す外観形状図である。
【図2】上記タッピングねじの断面組織の一例を示す図である。
【図3】実施例および比較例の塩水噴霧試験結果である。
【符号の説明】
【0031】
1 タッピングねじ
10 母材
11 窒化層
12 防錆コーティング
14 亜鉛−ニッケル合金めっき層
15 クロメート被膜
16 シリコーン・エポキシ樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ形状に形成され、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上とし、さらに表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層が形成されていることを特徴とする浴室用タッピングねじ。
【請求項2】
上記亜鉛−ニッケル合金めっき層の表面にクロメート処理層が形成され、その上にシリコーン・エポキシ樹脂層が形成されている請求項1記載の浴室用タッピングねじ。
【請求項3】
マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として所定のタッピングねじ形状に形成し、焼き入れ処理もしくは窒化処理により少なくとも表面の硬度をHv500以上とし、さらに表面に亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成することを特徴とする浴室用タッピングねじの製造方法。
【請求項4】
上記亜鉛−ニッケル合金めっき層の表面にクロメート処理を施し、その上にシリコーン・エポキシ樹脂層を形成する請求項3記載の浴室用タッピングねじの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−163360(P2008−163360A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350733(P2006−350733)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(505154956)松下電工バス&ライフ株式会社 (306)
【Fターム(参考)】