説明

消磁報知型電動機付ターボチャージャ

【課題】永久磁石の磁力が消失したことを検出して利用者に報知する。
【解決手段】エンジン4に組み合わせ動作可能なターボチャージャ1と、前記ターボチャージャ1に軸結合された永久磁石同期電動機3と、前記永久磁石同期電動機3に各相の電動機駆動電流を供給して駆動制御する駆動制御手段E′と、を備えた電動機付ターボチャージャ2に加えて、前記エンジン4の起動を検出してエンジン起動信号X1を出力するエンジン起動検出手段5と、前記永久磁石同期電動機3の回転子を構成する永久磁石3aの回転を検出して磁束変化信号Y1を出力する磁気センサ6と、前記エンジン起動信号X1と前記磁束変化信号Y1を比較して前記磁束変化信号Y1が閾値よりも弱いと判断された時に消磁報知信号Zを出力する比較検知手段と、を備えた消磁報知型電動機付ターボチャージャE。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機付ターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャの回転軸に回生発電機となる同期電動機を取付け、エンジンの運転状態に応じて発電動作させて排気エネルギーを電力として回収することも可能であるとともに、電動駆動によりターボチャージャの過給動作を助勢する装置が公知である。例えば、エンジンの運転状態に応じて発電動作する永久磁石型の同期電動機に通電する駆動制御装置において、永久磁石が回転することにより回生発電出力が発生し、それを検出することにより、回転位相検出手段が回転数および位相を検出する。その回転位相検出手段からの信号に基づき電力供給手段が同期電動機への供給電力の周波数および位相を設定する同期電動機の駆動制御装置が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−113598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術では、同期電動機の回転子を構成する永久磁石の磁力が不可欠である。もし永久磁石の磁力が過熱により消失した場合には電動駆動の助勢(以下、「電動アシスト」ともいう)の無いターボチャージャとなり、エンジンの運転中に急加速の要求に対して本来可能であったトルク付与ができなくなるという課題があった。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、永久磁石同期電動機を用いたターボチャージャにおいて、永久磁石の磁力が消失したことを検出して利用者に報知することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、第1の発明は、エンジンに組み合わせ動作可能なターボチャージャと、前記ターボチャージャに軸結合された永久磁石同期電動機と、前記永久磁石同期電動機に各相の電動機駆動電流を供給して駆動制御する駆動制御手段と、を備えた電動機付ターボチャージャに加えて、前記エンジンの起動を検出してエンジン起動信号を出力するエンジン起動検出手段と、前記永久磁石同期電動機の回転子を構成する永久磁石の回転を検出して磁束変化信号を出力する磁気センサと、前記エンジンの起動中に前記磁束変化信号が閾値以下か否かを検知する比較検知手段と、を備えたことを特徴とする、を備えたことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、前記エンジン起動検出手段として、前記永久磁石同期電動機の巻線温度の上昇を検出する巻線発熱検出手段と、前記ターボチャージャの温度上昇を検出するターボチャージャ発熱検出手段と、前記ターボチャージャの圧力上昇を検出するターボチャージャ昇圧検出手段と、前記ターボチャージャの流通開始を検出するターボチャージャ流通検出手段と、の少なくとも1つを備えたことを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、前記磁束変化信号に代えて、前記永久磁石同期電動機の回転に伴って発生する逆起電力を兼用したことを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、前記磁気センサは前記駆動制御に用いる回転位相速度検出手段を兼用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、永久磁石同期電動機を用いたターボチャージャにおいて、エンジン起動信号があるにもかかわらず、磁束変化信号が無ければ、モータの磁力が消失したものと判断されて消磁報知信号を出力する。このように、モータの回転子を構成する永久磁石の磁力が過熱により消失したことを検出して利用者に報知することが可能である。
【0010】
第2の発明によれば、永久磁石同期電動機を用いたターボチャージャに既設のセンサ、例えば、巻線発熱検出手段、ターボチャージャ発熱検出手段、ターボチャージャ昇圧検出手段、ターボチャージャ流通検出手段の少なくとも1つを兼用し、またその信号を利用することで、エンジンが起動していることを検出できる。したがって、コストアップも少なく消磁報知の機能を付加することが可能である。
【0011】
第3〜第4の発明によれば、永久磁石同期電動機に各相の電動機駆動電流を供給して駆動制御する駆動制御手段、すなわち、モータドライバに既設のセンサを兼用し、またその信号を利用することで、モータの逆起電力や回転位相速度の検出が容易であり、コストアップも少なく消磁報知の機能を付加することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1と図2を交互に参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る消磁報知型電動機付ターボチャージャ(以下、「本装置」という)Eのブロック図である。図1に示す本装置Eは、電動機付ターボチャージャ2に、消磁報知信号Zを出力する消磁報知機能を付加したものである。
【0013】
電動機付ターボチャージャ2は、エンジン4に組み合わせ動作可能なターボチャージャ1と、ターボチャージャ1に軸結合された永久磁石同期電動機3と、永久磁石同期電動機3に各相の電動機駆動電流を供給して駆動制御する駆動制御手段E′と、を備えて構成されている。駆動制御手段(以下、「ドライバ」という)E′はECU8による制御に基づいて、バッテリー10の電力で動作するインバータ11を駆動制御可能に構成されている。ただし、前記消磁報知機能を付加する以前のドライバE′は周知であるため、その詳細は図面とともに説明を省略する。
【0014】
前記消磁報知機能は、エンジン4の起動を検出してエンジン起動信号X1を出力するエンジン起動検出手段5と、永久磁石同期電動機3の回転子を構成する永久磁石3aの回転を検出して磁束変化信号Y1を出力する磁気センサ6と、エンジン起動信号X1によりエンジン4が起動中と確認されている時に磁束変化信号Y1が閾値よりも弱いと判断されたならば消磁報知信号Zを出力する比較検知手段7を備えて構成されている。
【0015】
ターボチャージャ1は、エンジン5の排気を受けて回転するタービン1aと、そのタービン1aと同軸回転するコンプレッサ1bにより構成されている。電動機付ターボチャージャ2は、ターボチャージャ1と同軸回転自在に結合された永久磁石同期電動機(以下、「モータ」ともいう)3により形成されている。
【0016】
電動機付ターボチャージャ2は、エンジン4の排ガスでタービン1aが駆動されることによって回転数が上昇する一方、モータ3による補助(電動アシスト)によっても回転数が上昇し、電動機付ターボチャージャ2の回転数は、例えば、毎分数千〜約1万回転の低速回転から毎分約10数万回転を超える高速回転まで急速上昇する。
【0017】
エンジン4はECU8の指令により制御される。このECU8に情報接続された電動機付ターボチャージャ制御用マイクロコンピュータ(以下、「制御マイコン」ともいう)9の指令により電動機付ターボチャージャ2も適切に駆動制御される構成である。
【0018】
制御マイコン9にはエンジンの運転状況をパターン化した制御テーブル(図示せず)が格納されており、起動、加速、巡航、減速、停止等の各運転状況に応じて適切に制御信号を発令する。また、モータ3とバッテリー10の間に介在するインバータ11は、制御マイコン9の支援を受けながら、電動アシストON時にバッテリー10の電力をモータ3へ供給する。好ましくは電動アシストOFF時にはモータ3が発電した回生電力をバッテリー10の充電用に戻す構成とする。
【0019】
エンジン起動検出手段5は、エンジン4の起動を検出してエンジン起動信号X1を出力する。磁気センサ(位置センサ)6はモータ3の回転子を構成する永久磁石3aの回転位相と速度を検出して磁束変化信号Y1を出力し、制御マイコン9へ入力する。なお、磁気センサ6はモータ3の駆動制御に用いる回転位相速度検出手段6を兼用している。あるいは、磁束変化信号Y1に代えて、モータ3の回転に伴って発生する逆起電力Y2を兼用利用しても構わない。
【0020】
また、エンジン起動検出手段5として、他の方法を用いても構わない。例えば、巻線発熱検出手段51が出力するモータ巻線温度信号X2によりモータ3の巻線温度の上昇を検出することも有効である。すなわち、エンジン起動時にECU8および制御マイコン9から電動アシスト指令が発令されるので、モータ3の巻線温度が上昇し、モータ巻線温度信号X2を制御マイコン9が認識することにより、エンジン起動を認識することができる。
【0021】
また、エンジン起動検出手段5として、ターボチャージャ発熱検出手段52により、ターボチャージャ1の温度上昇を検出することも有効である。すなわち、エンジン起動時には高温の排気ガスがタービン1aに流通するのでターボチャージャ1が温度上昇することが検出できる。
【0022】
同様にターボチャージャ昇圧検出手段53により、ターボチャージャ1の圧力上昇を検出することも有効である。すなわち、エンジン起動時にはターボチャージャ1が回転を開始する際にタービン1aとコンプレッサ1bの双方ともに圧力上昇するので、そのことが検出できる。
【0023】
また、ターボチャージャ流通検出手段54により、ターボチャージャ1への流通開始を検出するように流量センサ等を設けることも有効である。いずれの場合も、タービン1aとコンプレッサ1bそれぞれの入口または出口に相当のセンサを配設すればよい。
【0024】
図2は消磁報知信号Zを出力する比較検知手段7の説明図である。図2に示す比較検知手段7はエンジン起動信号X1と磁束変化信号Y1を比較して磁束変化信号Y1が閾値よりも弱いと判断された時に消磁報知信号Zを出力する。ここで、制御マイコン9がECU8からエンジン起動信号X1を受けていればエンジン4が起動しているものとみなされる。すなわち、エンジン起動信号X1があるにもかかわらず、磁束変化信号Y1が無ければ、モータ3の磁力が消失したものと判断されて消磁報知信号Zを出力する。
【0025】
つぎに、本装置Eが、どのような場合に作動して消磁報知信号Zを発報するか、また、その効果について説明する。モータ3の回転子3aは強磁性材料による永久磁石3a(回転子と同一符号)で構成されている。この永久磁石3aは温度が上がると磁力が下がり、材質別のキュリー温度に到達すると磁力を完全に失う。ちなみに、鉄のキュリー温度は770度C、ニッケルは354度Cである。一方、キュリー温度以下でも弱くなった磁力が戻らなくなる使用温度という定義があり、例えばネオジム磁石の使用温度は約60〜80度Cである。
【0026】
モータ3の使用条件は前記使用温度で制約される。何らかの原因により、エンジン4の排気ガスの温度が異常に上昇した場合、ターボチャージャ1が損傷するのみならず、強磁性材料で決まる使用温度を超える温度環境では永久磁石3aの磁力が急激に弱くなって回復しなくなり、キュリー温度に達するとモータ3は空転するだけで、電動アシストおよび/または回生発電の機能が消滅する。結果的に、電動アシストしないターボチャージャ1はエンジン加速時のトルク増強性能が規定以下となり、回生発電が機能しないことによりバッテリー10の充電も規定以下となり支障をきたすことになる。
【0027】
このようなわけで、永久磁石3aの磁力が消滅したならば、再度着磁処理のため速やかに修理することが望ましい。このことを利用者に知らせるため、本装置Eが消磁報知信号Zを発報し、例えば、自動車のダッシュボート上に警告表示すれば、故障を放置する損失を最小限に抑制できる。また、エンジン4の排気ガスの温度が異常に上昇するのは、エンジン故障である可能性も高く、消失磁力の再着磁処理以前にエンジン故障の原因究明も行うので、本装置Eにより車両寿命を延ばすという二次的な効果もある。
【0028】
なお、エンジン起動信号X1に代わる信号として、前記モータ巻線温度信号X2の他にも、タービン1aの入口温度、出口温度、入口流量、出口流量、入口圧力または出口圧力が上昇する変化を信号X3として用いることができる。さらに、コンプレッサ1bの入口温度、出口温度、入口流量、出口流量、入口圧力、出口圧力が上昇する変化を信号X4として用いることができる。これらは、エンジン起動検出手段5に含まれるターボチャージャ発熱検出手段52、ターボチャージャ昇圧検出手段53、ターボチャージャ流通検出手段54を、少なくとも1つ用いれば容易に実現できるので、既設の温度センサ、圧力センサまたは流量センサの何れかを兼用すればコストアップも少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る消磁報知型電動機付ターボチャージャを示すブロック図である。
【図2】消磁報知信号を出力する比較検知手段の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ターボチャージャ
1a タービン
1b コンプレッサ
2 電動機付ターボチャージャ
3 永久磁石同期電動機(モータ)
3a 永久磁石(回転子)
4 エンジン
5 エンジン起動検出手段
6 磁気センサ
7 比較検知手段
X1 エンジン起動信号
Y1 磁束変化信号
Z 消磁報知信号
E 消磁報知型電動機付ターボチャージャ(本装置)
E′ 駆動制御手段(モータドライバ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに組み合わせ動作可能なターボチャージャと、
前記ターボチャージャに軸結合された永久磁石同期電動機と、
前記永久磁石同期電動機に各相の電動機駆動電流を供給して駆動制御する駆動制御手段と、を備えた電動機付ターボチャージャに加えて、
前記エンジンの起動を検出してエンジン起動信号を出力するエンジン起動検出手段と、
前記永久磁石同期電動機の回転子を構成する永久磁石の回転を検出して磁束変化信号を出力する磁気センサと、
前記エンジンの起動中に前記磁束変化信号が閾値以下か否かを検知する比較検知手段と、を備えたことを特徴とする消磁報知型電動機付ターボチャージャ。
【請求項2】
前記エンジン起動検出手段として、
前記永久磁石同期電動機の巻線温度の上昇を検出する巻線発熱検出手段と、
前記ターボチャージャの温度上昇を検出するターボチャージャ発熱検出手段と、
前記ターボチャージャの圧力上昇を検出するターボチャージャ昇圧検出手段と、
前記ターボチャージャの流通開始を検出するターボチャージャ流通検出手段と、の少なくとも1つを備えたことを特徴とする請求項1に記載の消磁報知型電動機付ターボチャージャ。
【請求項3】
前記磁束変化信号に代えて、前記永久磁石同期電動機の回転に伴って発生する逆起電力を兼用したことを特徴とする請求項1ないし請求項2の何れか1項に記載の消磁報知型電動機付ターボチャージャ。
【請求項4】
前記磁気センサは前記駆動制御に用いる回転位相速度検出手段を兼用したことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の消磁報知型電動機付ターボチャージャ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−175074(P2008−175074A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6787(P2007−6787)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】