説明

液晶ポリエステル含浸基材、その製造方法及びプリント配線板

【課題】ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材及びその製造方法、並びに前記液晶ポリエステル含浸基材を用いたプリント配線板の提供。
【解決手段】繊維からなるシート状基材に液晶ポリエステルが含浸された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、液晶ポリエステル及び溶媒の合計含有量に占める前記液晶ポリエステルの割合が、15〜45質量%である液晶ポリエステル液状組成物を、前記基材に含浸させる工程と、前記液状組成物が含浸された前記基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる工程と、ロール間を通過した前記基材を、140〜250℃で60〜600秒間加熱処理する工程と、を有する液晶ポリエステル含浸基材の製造方法;かかる製造方法で得られた液晶ポリエステル含浸基材;かかる液晶ポリエステル含浸基材を絶縁層として用いたプリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル含浸基材及びその製造方法、並びに該液晶ポリエステル含浸基材を用いたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコン、デジタル家電など種々の電子機器に組み込まれるプリント配線板(プリント基板、プリント回路基板)には、絶縁層上に金属層が設けられた積層体が用いられる。そして、このときの絶縁層としては、寸法安定性に優れたものとして、例えば、繊維からなるシート状基材に液晶ポリエステルが含浸された液晶ポリエステル含浸基材を絶縁基材としたものが用いられる。
液晶ポリエステル含浸基材としては、例えば、繊維からなるシート状基材として、ガラスクロスを用いたものが開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
一方、プリント配線板は、絶縁層にボイド(隙間)が存在すると、電子部品を搭載する際のはんだ付けによって「ふくれ」が生じる原因となる。ふくれが生じると、前記金属層のパターニングによって形成された配線の絶縁層からの剥離や、絶縁層が複数の絶縁基材が積層されたものである場合には、これら絶縁基材同士の剥離が生じ、プリント配線板の性能や信頼性が低下してしまう。そこで従来は、絶縁層上に金属層を設けたり、複数の絶縁基材を積層して絶縁層とする際に必要な加熱プレスの条件を調節して、ボイドの発生を抑制している。また、樹脂含浸基材を作製するにあたり、樹脂を溶媒に溶解させた樹脂ワニスを減圧室内でシート状基材に含浸させ、樹脂含浸基材中のボイドの発生を抑制する方法(特許文献3参照)、樹脂ワニスをシート状基材に塗布後、この樹脂ワニスを基材内に押し込んで樹脂の含浸性を向上させる方法(特許文献4参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−215800号公報
【特許文献2】特表2010−528149号公報
【特許文献3】特開昭62−48550号公報
【特許文献4】特開2004−188652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2には、液晶ポリエステル含浸基材でのボイドの発生抑制に有効な方法は開示されておらず、特許文献3及び4に記載の方法も、樹脂含浸基材でのボイドの発生抑制効果は必ずしも十分ではなく、ボイドが低減された新規の樹脂含浸基材とその製造方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材及びその製造方法、並びに前記液晶ポリエステル含浸基材を用いたプリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、繊維からなるシート状基材に液晶ポリエステルが含浸された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、液晶ポリエステル及び溶媒の合計含有量に占める前記液晶ポリエステルの割合が、15〜45質量%である液晶ポリエステル液状組成物を、前記基材に含浸させる工程と、前記液状組成物が含浸された前記基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる工程と、ロール間を通過した前記基材を、140〜250℃で60〜600秒間加熱処理する工程と、を有することを特徴とする液晶ポリエステル含浸基材の製造方法を提供する。
本発明の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法においては、前記加熱処理の時間が120〜600秒間であることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られたことを特徴とする液晶ポリエステル含浸基材を提供する。
また、本発明は、上記本発明の液晶ポリエステル含浸基材を絶縁層として用いたことを特徴とするプリント配線板を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材及びその製造方法、並びに前記液晶ポリエステル含浸基材を用いたプリント配線板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液晶ポリエステル液状組成物を基材に含浸させる工程、及び前記液状組成物が含浸された基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる工程を、連続的に行う方法を説明するための概略図である。
【図2】実施例4で得られた液晶ポリエステル含浸基材の走査型電子顕微鏡による断面の撮像データである。
【図3】比較例4で得られた液晶ポリエステル含浸基材の走査型電子顕微鏡による断面の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<液晶ポリエステル含浸基材及びその製造方法>
本発明に係る液晶ポリエステル含浸基材の製造方法は、繊維からなるシート状基材(以下、「基材」ということがある。)に液晶ポリエステルが含浸された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、液晶ポリエステル及び溶媒の合計含有量に占める前記液晶ポリエステルの割合が、15〜45質量%である液晶ポリエステル液状組成物を、前記基材に含浸させる工程(以下、「含浸工程」ということがある。)と、前記液状組成物が含浸された前記基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる工程(以下、「ロール通過工程」ということがある。)と、ロール間を通過した前記基材を、140〜250℃で60〜600秒間加熱処理する工程(以下、「加熱処理工程」ということがある。)と、を有することを特徴とする。かかる製造方法では、含浸工程において、特定濃度の液晶ポリエステル液状組成物を用い、加熱処理工程において、溶媒を特定の温度及び時間条件で蒸発させることで、ボイドが顕著に低減された液晶ポリエステル含浸基材が得られる。以下、かかる製造方法について工程ごとに、そして、得られる液晶ポリエステル含浸基材について、それぞれ詳細に説明する。
【0011】
[含浸工程]
含浸工程では、液晶ポリエステル液状組成物を基材に含浸させる。
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0012】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0013】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0014】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0015】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0017】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0018】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが1,3−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0021】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは30〜60モル%、特に好ましくは30〜40モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは20〜35モル%、特に好ましくは30〜35モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0022】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0023】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0024】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基(−NH−)であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶媒に対する溶解性がより優れたものとなる。
【0025】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0026】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃〜350℃、さらに好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、後述する液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0027】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0028】
前記液晶ポリエステル液状組成物は、液晶ポリエステル及び溶媒を含み、液晶ポリエステルが溶媒に溶解された液晶ポリエステル溶液であることが好ましい。
【0029】
前記溶媒としては、例えば、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒]×100)で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0030】
前記溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(N−メチル−2−ピロリドン)等のアミド系化合物(アミド結合を有する化合物);テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、これらの二種以上を用いてもよい。
【0031】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。
また、前記非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系化合物を用いることが好ましい。
【0032】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0033】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める、1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0034】
液状組成物において、液晶ポリエステル及び溶媒の合計含有量に占める前記液晶ポリエステルの割合([液晶ポリエステルの含有量]/[液晶ポリエステルの含有量+溶媒の含有量]×100)は、15〜45質量%であり、20〜35質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、十分な量の液晶ポリエステルを基材に含浸させることができ、上限値以下とすることで、液状組成物の粘度が高くなり過ぎず、液状組成物を基材に容易に含浸させることができる。
【0035】
液状組成物は、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を一種以上含んでもよい。
【0036】
前記充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0037】
前記添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0038】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0039】
液状組成物は、液晶ポリエステル、溶媒、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、液晶ポリエステルを溶媒に溶解させて、液晶ポリエステル溶液を得、この液晶ポリエステル溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0040】
前記基材は、繊維からなるシート状のものであり、織物(織布)であってもよいし、編物であってもよく、不織布であってもよいが、液晶ポリエステル含浸基材の寸法安定性が向上し易いことから、織物であることが好ましい。
【0041】
前記繊維としては、無機繊維、炭素繊維、有機繊維が例示できる。また、基材を構成する繊維は、一種のみでもよいし、二種以上でもよい。
【0042】
前記有機繊維としては、液晶ポリエステル繊維以外のポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維等が例示できる。
前記無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ系繊維、ケイ素含有セラミック系繊維等のセラミック繊維が例示できる。
前記基材としては、入手性が良好であることから、主としてガラス繊維からなるシート、すなわちガラスクロスが好ましい。
【0043】
前記ガラスクロスとしては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維又は低誘電ガラス繊維からなるものが好ましい。また、ガラスクロスを構成する繊維は、その一部にガラス以外のセラミックからなるセラミック繊維又は炭素繊維が混入していてもよい。また、ガラスクロスを構成する繊維は、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0044】
これら繊維からなるガラスクロスの製造方法としては、ガラスクロスを形成する繊維を水中に分散させ、必要に応じてアクリル樹脂等の糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法が例示できる。
【0045】
繊維の織り方としては、平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等が利用できる。織り密度は、10〜100本/25mmであることが好ましい。
前記ガラスクロスの単位面積当たりの質量は、10〜300g/mであることが好ましい。
【0046】
前記ガラスクロスは、市販品でもよい。容易に入手可能な市販品のガラスクロスとしては、電子部品の絶縁含浸基材用のものが例示でき、ユニチカ株式会社、旭化成イーマテリアルズ株式会社、日東紡績株式会社、有沢製作所株式会社等から入手できる。
なお、市販品のガラスクロスで好適な厚さのものとしては、IPC呼称で1035、1078、2116、7628のものが例示できる。
【0047】
前記基材の厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜180μm、さらに好ましくは10〜100μmである。
【0048】
基材に液状組成物を含浸させる方法としては、浸漬槽中の前記液状組成物に基材を浸漬する方法が例示できる。この方法においては、液状組成物の液晶ポリエステルの含有量、浸漬時間、浸漬した基材の液状組成物からの引き上げ速度を適宜調節することで、基材への液晶ポリエステルの付着量を容易に制御できる。
【0049】
[ロール通過工程]
含浸工程後は、液状組成物が含浸された基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる。本工程により、基材の表面に過剰に付着した液状組成物を除去する。
【0050】
図1は、長尺の基材を用い、含浸工程及びロール通過工程を連続的に行う方法を説明するための概略図である。ただし、ここに示すのは一例であり、本発明における含浸工程及びロール通過工程は、ここに示すものに限定されない。
基材10は、ガイドローラーGにより誘導されて矢印方向に移動し、浸漬槽3で液状組成物Wに浸漬され、次いで、液状組成物含浸直後の基材11は、浸漬槽3から引き上げられ、一対のロール5A及び5Bを備えたスクイズロール5に送られる。一対のロール5A及び5Bは、前記基材11を挟むように対向配置され、これらの間隔が、少なくとも前記基材11の厚さ(基材10とこれに含浸された液状組成物Wとを含む合計の厚さ)よりも狭くなるように調整されている。前記基材11は、このような一対のロール5A及び5B間を通過することで絞られ、余分な液状組成物が除去されると共に、液状組成物が内部に十分に含浸された液状組成物含浸基材12となる。
【0051】
スクイズロール5において、一対のロール5A及び5B間の間隔は、さらに、目的とする液晶ポリエステル含浸基材の厚さ等にあわせて適宜調整できる。
一対のロール5A及び5Bは、自ら回転(自回転)するものでもよいし、液状組成物含浸直後の基材11の走行に伴って回転するものでもよい。一対のロール5A及び5Bが、自回転するものである場合、液状組成物含浸基材12における液状組成物の付着量を容易に調整でき、また、目的とする液晶ポリエステル含浸基材の表面も十分にならされ、表面の平滑性が向上する。
【0052】
一対のロール5A及び5Bが自回転する場合、これらの回転方向は、液状組成物含浸直後の基材11の進行方向に対して同じでもよいし、反対でもよい。また、一対のロール5A及び5Bの周速度Yと、前記基材11(基材10)の移動速度Zとの比Y/Zは、0より大きく1.0以下であることが好ましく、0より大きく0.5以下であることがより好ましい。このようにすることで、前記基材11の移動に対して一対のロール5A及び5Bが適度に回転し、前記基材11の表面を平滑にしたり、液状組成物Wを除去したりする効果に、より優れる。また、これらの速度差を適度な範囲とすることで、過度な摩擦が生じず、液状組成物含浸基材12の破損等を効果的に抑制できる。
【0053】
[加熱処理工程]
ロール通過工程後は、ロール間を通過した前記基材を、140〜250℃で60〜600秒間加熱処理する。この加熱処理により、基材に含浸された液状組成物の溶媒が蒸発して除去され、目的とする液晶ポリエステル含浸基材が得られる。そして、加熱処理の温度及び時間をこのように設定することにより、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材が安定して得られる。特に、加熱処理の温度を140℃以上とすることで、液晶ポリエステル含浸基材中のボイドが顕著に低減される。また、250℃以下とすることで、液晶ポリエステルの劣化を抑制する効果が高くなる。
なお、本発明においては、特に断りの無い限り、単に「加熱処理」という場合には、溶媒を除去する本加熱処理工程での加熱処理を指すものとする。
【0054】
加熱処理の時間は、60〜600秒間であり、120〜600秒間であることが好ましい。下限値以上とすることで、溶媒が十分に除去され、得られた液晶ポリエステル含浸基材において、ブロッキングが抑制される。例えば、図1に示すように、長尺の基材を用いた場合であれば、液晶ポリエステル含浸基材を巻き取ったロールにおいて、ブロッキングが抑制される。また、上限値以下とすることで、生産性が向上する。
【0055】
先に挙げた「特開2010−215800号公報」、「特表2010−528149号公報」には、繊維からなるシート状基材を用いた液晶ポリエステル含浸基材の製造方法が開示されているが、液状組成物の濃度と、液状組成物の溶媒を除去する乾燥条件とが、ボイドの低減効果に影響を与えることは、何ら開示されていない。これに対して本発明は、前記濃度及び乾燥条件を調節することで、ボイドが低減された液晶ポリエステル含浸基材が得られることを、初めて明らかにするものである。
【0056】
加熱処理は、空気中で行ってもよいし、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行ってもよいが、汎用性の観点から、空気中で行うことが好ましい。
また、加熱処理は、減圧条件下で行ってもよいし、通風条件下で行ってもよく、これらをすべて組み合わせて行ってもよい。
【0057】
溶媒を除去して得られた液晶ポリエステル含浸基材における液晶ポリエステルの付着量は、液晶ポリエステル含浸基材に対して30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。
【0058】
本発明に係る製造方法は、前記加熱処理工程後に、このときよりも高い温度で、さらに液晶ポリエステル含浸基材を追加加熱処理する工程を有していてもよい。このような追加加熱処理を行うことで、含浸されている液晶ポリエステルをより高分子量化でき、耐熱性をより向上させることができる(以下、追加加熱処理する工程を「高分子量化工程」ということがある。)。
【0059】
高分子量化工程は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
そして、加熱温度は、好ましくは270〜330℃、より好ましくは260〜320℃である。下限値以上とすることで、液晶ポリエステルを十分に高分子量化でき、上限値以下とすることで、液晶ポリエステルの劣化を十分に抑制できる。
また、加熱時間は、好ましくは1〜30時間、より好ましくは1〜10時間である。下限値以上とすることで、液晶ポリエステルを十分に高分子量化でき、上限値以下とすることで、液晶ポリエステル含浸基材の生産性がより向上する。
【0060】
上記製造方法で得られた、本発明に係る液晶ポリエステル含浸基材は、ボイドが顕著に低減されたものである。これは、含浸工程で用いる液晶ポリエステル液状組成物の濃度と、加熱処理工程での加熱温度及び加熱時間とが、それぞれ最適な範囲に設定されたことによる。本発明に係る液晶ポリエステル含浸基材は、絶縁基材として極めて有用である。
【0061】
<プリント配線板及びその製造方法>
本発明に係るプリント配線板は、前記液晶ポリエステル含浸基材を絶縁層として用いたことを特徴とする。本発明に係るプリント配線板は、絶縁層として前記液晶ポリエステル含浸基材を用いること以外は、公知のプリント配線板と同様の構成とすることができ、同様の方法で製造できる。
【0062】
本発明に係るプリント配線板は、例えば、一枚の前記液晶ポリエステル含浸基材からなる絶縁層、若しくは複数枚の前記液晶ポリエステル含浸基材が積層されてなる絶縁層の、片面又は両面に、金属層が設けられた積層体を作製し、かかる積層体の金属層にエッチング等により所定の配線パターンを形成し、この配線パターンが形成された積層体をそのまま、又は必要に応じて二枚以上を積層することにより、製造できる。
【0063】
複数枚の前記液晶ポリエステル含浸基材が積層された絶縁層の場合、これら複数枚の液晶ポリエステル含浸基材は、すべて同じでもよいし、一部のみ同じでもよく、すべて異なっていてもよい。また、その枚数は2枚以上であれば特に限定されない。このような絶縁層は、例えば、複数枚の液晶ポリエステル含浸基材を、その厚さ方向に重ね合わせ、加熱プレスして互いに融着させ、一体化させることで作製できる。
【0064】
金属層の材質は、銅、アルミ、銀又はこれらから選択される一種以上の金属を含む合金が好ましい。なかでも、より優れた導電性を有する点から、銅又は銅合金が好ましい。そして、金属層は、材料の取扱いが容易で、簡便に形成でき、経済性にも優れる点から、金属箔からなるものが好ましく、銅箔からなるものがより好ましい。金属層を絶縁層の両面に設ける場合、これら金属層の材質は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
金属層の厚さは、好ましくは1〜70μmであり、より好ましくは3〜35μmであり、さらに好ましくは5〜18μmである。
【0065】
金属層を設ける方法としては、金属箔を絶縁層の表面に融着させる方法、金属箔を絶縁層の表面に接着剤で接着させる方法、絶縁層の表面をめっき法、スクリーン印刷法又はスパッタリング法により、金属粉又は金属粒子で被覆する方法が例示できる。
【0066】
絶縁層が、複数枚の前記液晶ポリエステル含浸基材が積層されてなる場合には、これら液晶ポリエステル含浸基材をその厚さ方向に重ねて配置し、最も外側に位置する一方の又は両方の液晶ポリエステル含浸基材の表面に、さらに金属箔を重ねて、これら金属箔及び複数枚の液晶ポリエステル含浸基材を加熱プレスすることで、絶縁層を形成するときに、絶縁層の片面又は両面に金属層も同時に設けることができる。
【0067】
絶縁層の表面を金属粉又は金属粒子で被覆して、金属層を設ける場合には、めっき法を適用することが好ましく、無電解めっき法又は電解めっき法を適用することがより好ましい。また、金属層の特性をさらに向上させるために、めっき法で形成した金属層を加熱処理することが好ましく、このときの加熱処理の条件は、前記加熱プレスの条件と同様でよい。
【0068】
本発明に係るプリント配線板は、ボイドが低減された前記液晶ポリエステル含浸基材を用いたことにより、電子部品を搭載する際にはんだ付けを行っても「ふくれ」の発生が抑制される。これにより、金属層から形成された配線の絶縁層からの剥離や、絶縁層が複数の液晶ポリエステル含浸基材が積層されたものである場合には、これら液晶ポリエステル含浸基材同士の剥離が顕著に抑制されるので、プリント配線板は性能及び信頼性が高い。
【実施例】
【0069】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度、及び液晶ポリエステル液状組成物の粘度は、それぞれ以下の方法で測定した。
【0070】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0071】
(液晶ポリエステル液状組成物の粘度の測定)
B型粘度計(東機産業社製「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、回転速度20rpmで測定した。
【0072】
<液晶ポリエステル液状組成物の製造>
[製造例1]
(液晶ポリエステルの製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(1976g、10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(1474g、9.75モル)、イソフタル酸(1620g、9.75モル)及び無水酢酸(2374g、23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、15分間かけて室温から150℃まで昇温し、この温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、得られた固形物を粉砕機で粉砕し、比較的低分子量の粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーの流動開始温度は235℃であった。このプレポリマーを窒素ガス雰囲気下において、6時間かけて室温から223℃まで昇温し、223℃で3時間保持して加熱処理することにより、固相重合を行い、次いで冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0073】
(液晶ポリエステル液状組成物の製造)
得られた液晶ポリエステル(2200g)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、7800g)に加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル液状組成物(液晶ポリエステル溶液)(1)を得た。
【0074】
得られた液晶ポリエステル(2900g)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、7100g)に加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル液状組成物(液晶ポリエステル溶液)(2)を得た。
【0075】
前記液晶ポリエステル溶液(2)に、充填剤としてシリカ(龍森社製「MP−8FS」、体積平均粒径0.5μm)を加え、遠心脱泡機(キーエンス社製「HM−500」)で分散させることで、液晶ポリエステル液状組成物(3)を得た。ここで、シリカの使用量は、液晶ポリエステル及びシリカの合計量に対して、23℃において20体積%とした。
【0076】
<液晶ポリエステル含浸基材の製造>
[実施例1]
ガラスクロス(ユニチカ社製:IPC呼称1078)を液晶ポリエステル溶液(1)に室温で1分間に渡って浸漬してから引き上げ、過剰に表面に付着した液晶ポリエステル溶液を落とすために、一対のロール間を通過させた後、熱風式乾燥機(エスペック社製)を用いて内温250℃、600秒の条件で溶媒を蒸発させることで乾燥させ、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材の樹脂付着量は約56質量%であった。さらに、熱風式乾燥機を用いて、この液晶ポリエステル含浸基材に対して、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間追加加熱処理(液晶ポリエステルの高分子量化)を行った。
【0077】
[実施例2]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて230℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0078】
[実施例3]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて180℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0079】
[実施例4]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて150℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0080】
[実施例5]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて140℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0081】
[実施例6]
ガラスクロス(ユニチカ社製:IPC呼称2116)を液晶ポリエステル溶液(2)に室温で1分間に渡って浸漬してから引き上げ、過剰に表面に付着した液晶ポリエステル溶液を落とすために、一対のロール間を通過させた後、熱風式乾燥機(エスペック社製)を用いて内温180℃、600秒の条件で溶媒を蒸発させることで、液晶ポリエステル含浸基材を得た。この液晶ポリエステル含浸基材の樹脂付着量は約45質量%であった。さらに、熱風式乾燥機を用いて、この液晶ポリエステル含浸基材に対して、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間追加加熱処理を行った。
【0082】
[実施例7]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、180℃に代えて140℃としたこと以外は、実施例6と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0083】
[実施例8]
液晶ポリエステル溶液(2)に代えて、液晶ポリエステル液状組成物(3)を用いたこと以外は、実施例7と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0084】
[実施例9]
熱風式乾燥機を用いて溶媒を蒸発させる時間を、600秒に代えて120秒としたこと以外は、実施例5と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0085】
[実施例10]
熱風式乾燥機を用いて溶媒を蒸発させる時間を、600秒に代えて240秒としたこと以外は、実施例5と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0086】
[比較例1]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて40℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0087】
[比較例2]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、250℃に代えて120℃としたこと以外は、実施例1と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0088】
[比較例3]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、180℃に代えて40℃としたこと以外は、実施例6と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0089】
[比較例4]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、180℃に代えて120℃としたこと以外は、実施例6と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0090】
[比較例5]
溶媒を蒸発させるときの熱風式乾燥機の内温を、140℃に代えて120℃としたこと以外は、実施例8と同様に、追加加熱処理を行った液晶ポリエステル含浸基材を得た。
【0091】
<液晶ポリエステル含浸基材の評価>
上記各実施例及び比較例で得られた、追加加熱処理後の液晶ポリエステル含浸基材について、走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察した。そして、取得した断面の撮像データから、画像解析プログラム(ニレコ社製「LUZEX」)を用いて、ガラスクロス間に存在するボイド部分の断面面積率を算出した。具体的には、前記撮像データにおいて、液晶ポリエステル含浸基材中のボイド部分とそれ以外の部分とを2値化し、液晶ポリエステル含浸基材の断面総面積を基準にして、ボイド部分の断面総面積の割合を算出した。結果を表1に示す。なお、表1中、「LCP」は「液晶ポリエステル」を、「−」は不使用であることを意味する。また、「乾燥温度」及び「乾燥時間」は、それぞれ加熱処理工程における加熱温度及び加熱時間を意味する。取得した前記撮像データのうち、実施例4及び比較例4のものを、それぞれ図2及び3に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、乾燥温度及び乾燥時間が本発明の条件を満たす実施例1〜10の液晶ポリエステル含浸基材は、ボイドの割合が1%以下となっており、本発明の条件を満たさない比較例1〜5の液晶ポリエステル含浸基材よりも際立って低く、ボイドが顕著に低減されていた。例えば、実施例5及び比較例2を比較すると、これらは乾燥温度が20℃異なるだけであるが、得られた液晶ポリエステル含浸基材のボイドの割合は、大きく異なっていた。実施例8及び比較例5の場合も同様であった。
上記のような本発明の奏する効果は、図2及び3からも視覚的に明らかである。図2及び3において、符号1及び1’はそれぞれ液晶ポリエステル含浸基材であり、符号1aはガラスクロスの縦糸、符号1bはガラスクロスの横糸である。液晶ポリエステル含浸基材1及び1’は、縦糸1a同士の間、横糸1b同士の間、縦糸1aと横糸1bとの間に、液晶ポリエステル1cが含浸されて構成されている。そして、図2に示すように、実施例4の液晶ポリエステル含浸基材1では、ボイドがほとんど認められなかった。これに対して、図3に示すように、比較例4の液晶ポリエステル含浸基材1’では、縦糸1a同士の間、横糸1b同士の間、そして縦糸1aと横糸1bとの間のいたる所にボイド2が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、電子機器に組み込まれるプリント配線板に利用可能である。
【符号の説明】
【0095】
1,1’・・・液晶ポリエステル含浸基材、1a・・・ガラスクロスの縦糸、1b・・・ガラスクロスの横糸、1c・・・液晶ポリエステル、2・・・ボイド、3・・・浸漬槽、5・・・スクイズロール、5A,5B・・・ロール、10・・・基材、11・・・液状組成物含浸直後の基材、12・・・液状組成物含浸基材、W・・・液状組成物、G・・・ガイドローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維からなるシート状基材に液晶ポリエステルが含浸された液晶ポリエステル含浸基材の製造方法であって、
液晶ポリエステル及び溶媒の合計含有量に占める前記液晶ポリエステルの割合が、15〜45質量%である液晶ポリエステル液状組成物を、前記基材に含浸させる工程と、
前記液状組成物が含浸された前記基材を、その厚さよりも間隔が狭い一対のロール間を通過させる工程と、
ロール間を通過した前記基材を、140〜250℃で60〜600秒間加熱処理する工程と、
を有することを特徴とする液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の時間が120〜600秒間であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル含浸基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られたことを特徴とする液晶ポリエステル含浸基材。
【請求項4】
請求項3に記載の液晶ポリエステル含浸基材を絶縁層として用いたことを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−1902(P2013−1902A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138224(P2011−138224)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】