説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの吐出制御方法

【課題】簡単な構造で吐出量を変化させることができる液滴吐出ヘッド等を得る。
【解決手段】液体を液滴として吐出するノズル31と、変位して液体を加圧する振動板22とを有し、ノズル31に連通する液体の流路上に設けられる吐出室21と、吐出室21の一部である振動板22と対向し、電荷供給により振動板22との間に静電気力を発生させて振動板22を当接及び離脱により変位させる個別電極12とを備え、個別電極12は、外部からの電荷が供給される第1個別電極12Aと、第1個別電極12Aと異なる材料からなり、第1個別電極12Aよりも電気抵抗が高く、第1個別電極12Aを介して電荷が供給される第2個別電極12Bとで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッド、その液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、光可変フィルタ、モータのような静電アクチュエータ、圧力センサ等がある。
【0003】
液滴吐出方式(代表的なものとして、インクを吐出して印刷等を行うために用いるインクジェットがある)は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷(プリント)等に利用されている。液滴吐出方式は、微細加工素子である例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを、対象物との間で相対移動させ、対象物の所定の位置に液体を吐出するものである。近年では、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルタ、有機電界発光(Organic ElectroLuminescence )素子を用いた表示基板(OLED)、DNA等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
液滴吐出方式を実現する吐出ヘッドとして、流路上の吐出液体を溜めておく吐出室の少なくとも一面の壁(例えば底壁とする。この壁は他の壁と一体形成されているが、以下、この壁のことを振動板ということにする)が撓んで形状が変化するようにしておき、振動板を撓ませて吐出室内の圧力を高め、吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させるものがある。
【0005】
静電方式による液滴吐出ヘッドの場合には、可動電極である振動板と、振動板と対向する固定電極である個別電極との間に静電力を発生させ、振動板を個別電極に引きつける。その後、静電力を弱める又は発生を停止させると、振動板が元に戻って平衡状態になろうとする復元力(弾性力)の方が働くため、振動板が元の位置に変位する。これらを繰り返すことで振動板を駆動させ、液滴を吐出する。このとき、液滴吐出ヘッドでは、印刷の高画質化、高速化を図るため、さまざまな制御ができた方が都合がよい。着弾場所当たりの液滴吐出量(以下、吐出量という)を変更できたり、安定した吐出が行えたりするように制御したいという要求が高い。そのため、個別電極を複数に分割してそれぞれの電圧印加を制御し、電圧を印加する電極数により静電力を変化させて吐出量を変化させるインクジェットヘッドが提案されている(例えば特許文献1参照)
【0006】
【特許文献1】特開2000−015801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ますます高密度化する中、各ノズルについて、複数の個別電極を設け、独立した配線を行うのは困難である。また、このような配線を行うためのコストも増大する。
【0008】
そこで、簡単な構造で吐出量を変化させることができる液滴吐出ヘッド等を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液体を液滴として吐出するノズルと、変位して液体を加圧する振動板とを有し、ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、吐出室の一部である振動板と対向して電荷供給により振動板との間に静電気力を発生させて振動板を当接及び離脱により変位させる固定電極とを備え、固定電極は、外部からの電荷が供給される第1固定電極と、第1固定電極と異なる材料からなり、第1固定電極を介して電荷が供給される第2固定電極とで構成される。
本発明によれば、固定電極を、第1固定電極と、第1固定電極と異なる材料からなり、第1固定電極を介して電荷が供給される第2固定電極とで構成するようにしたので、固定電極への電荷供給制御により、第1固定電極の部分だけに振動板を当接させる又は第1固定電極及び第2固定電極の部分に振動板を当接させるかを選択して吐出動作を行わせることで、一回に吐出できる液滴吐出量を変化させることができる液滴吐出ヘッドを得ることができる。このとき、段差構造などの複雑な構造を有さないため簡単に製造することができる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいて、第1固定電極から第2固定電極への電荷供給経路となる1又は複数の接続部により、第1固定電極と第2固定電極とを電気的に接続する。
本発明によれば、第1固定電極と第2固定電極とを1又は複数の接続部により電気的に接続するようにしたので、電荷供給経路を規定することができ、接続部の数、幅等を設定することで、第1固定電極から第2固定電極への電荷供給量(時間)を任意に制御することができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、第2固定電極を、第1固定電極よりも電気抵抗率が高い材料で構成する。
本発明によれば、第2固定電極を第1固定電極よりも電気抵抗率が高い材料で構成するようにしたので、第1固定電極の場合に比べて、第2固定電極と振動板との間で当接に必要な静電力発生までの時間差を設けることができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ITOを第1固定電極の材料とし、チタンを第2固定電極の材料とする。
本発明によれば、電気抵抗率の違い、土台となる基板がガラスであったときの密着性等から考えて最もよい組み合わせであるため、長寿命で良好な吐出を行うことができる。また、製造時においても、チタンは、ITOのエッチングを行う際に必要なエッチャント(エッチング溶液)に対して耐性があるため、チタンによる第2固定電極を先に基板に形成しておくことで、基板上に第1固定電極及び第2固定電極を容易に形成することができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、チタンの代わりにクロム、白金又は金を第2固定電極の材料とする。
本発明によれば、第2固定電極としてクロム、白金又は金を材料とすると、電気抵抗率等の点で良好な液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、吐出室の短手方向に対して中央部分に第1固定電極を配し、その両側に第2固定電極を配して、吐出室の短手方向に沿って第1固定電極と第2固定電極とを並べて設ける。
本発明によれば、吐出室の短手方向に沿って固定電極を設けるようにしたので、少なくとも第1固定電極においては、従来と変わらず、液体の流路に沿って、吐出に必要な加圧を加えるために振動板の当接を行うことができる。また、第2固定電極を両側に設けるのでバランスよく当接させることができる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、吐出室の短手方向に対して第2固定電極の外側に、さらに第1固定電極及び第2固定電極と異なる材料からなる1又は複数の固定電極を設ける。
本発明によれば、第2固定電極の外側にさらに1又は複数の固定電極を設けるようにしたので、例えば一回に吐出できる液滴吐出量を3段階以上に変化させることができる。
【0016】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、吐出室の長手方向に沿って第1固定電極と第2固定電極とを並べて設ける。
本発明によれば、吐出室の長手方向に沿って第1固定電極と第2固定電極とを並べて設けるようにしたので、長手方向に沿っても一回に吐出できる液滴吐出量を複数段階に変化させることができる液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0017】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載するものである。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドを搭載するようにしたので、液滴吐出ヘッドを簡単な構造にしつつ、電圧印加時間の制御を行うだけで、一回に吐出できる液滴吐出量を変化させることができ、例えば、画像印刷等の用途の場合、高画質化を図ることができる。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの吐出制御方法は、液体を液滴として吐出するノズルと、変位して液体を加圧する振動板とを有し、ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、吐出室の一部である振動板と対向し、電荷供給により振動板との間に静電気力を発生させて振動板を当接及び離脱により変位させる固定電極とを備え、固定電極は、外部からの電荷が供給される第1固定電極と、第1固定電極と異なる材料からなり、第1固定電極を介して電荷が供給される第2固定電極とで構成される液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、振動板が固定電極と当接する面積を変化させるために、固定電極への電荷供給による電圧印加時間を制御する。
本発明によれば、固定電極への電荷供給による電圧印加時間を制御するだけで、第1固定電極の部分だけに振動板を当接させる又は第1固定電極及び第2固定電極の部分に振動板を当接させるかを選択して吐出動作を行わせることができ、簡単な制御により液滴吐出量を変化させることができる。
【0019】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの吐出制御方法は、第1固定電極と第2固定電極との蓄電に係る時定数に基づいて、振動板と固定電極との間の電圧印加時間を定める。
本発明によれば、蓄電に係る時定数に基づいて、振動板と固定電極との間の電圧印加時間を定めるようにしたので、効率的な設計を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1は液滴吐出ヘッドの一部を示している(図1に見えるノズルだけでなく、実際にはさらに多くのノズルを有している)。本実施の形態では、例えば静電方式で駆動する静電アクチュエータを用いる素子(デバイス)の代表として、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。(なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する。また、ノズルが並んでいる方向が、矩形状の吐出室21(振動板22、個別電極12)において短手方向となるため、短手方向、短手方向と直交する方向を長手方向として説明する)。
【0021】
図1に示すように本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が下から順に積層されて構成される。本実施の形態では、電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合する。また、キャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0022】
電極基板10は、厚さ約1mmの例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施形態では、ガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板10の表面には、後述するキャビティ基板20の吐出室21となる凹部に合わせ、例えば深さ約0.3μmを有する複数の凹部11が形成されている。そして、凹部11の内側(特に底部)に、キャビティ基板20の各吐出室21(振動板22)と対向するように固定電極となる個別電極12が設けられている。ここで、本実施の形態の個別電極12は、それぞれ異なる材料からなる第1個別電極12Aと第2個別電極12B及び接続部12Cとで構成されている(図4参照)。凹部11内の矩形部分において、第1個別電極12Aは短手方向における中央部分に設けられ、第2個別電極12Bは第1個別電極12Aの両側に設けられている。そして、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとは、接続部12Cにより複数箇所で電気的に接続されている。また、個別電極12と外部の電荷供給手段とを電気的に接続するためのリード部13及び端子部14が第1個別電極12Aと一体となって凹部11内に設けられている(以下、特に区別する必要がない限り、これらを合わせて個別電極12として説明する)。個別電極12の詳細については後述する。
【0023】
ここで、凹部11により、振動板22と個別電極12との間には、振動板22が撓む(変位する)ことができる一定のギャップ(空隙)が形成される。ここで、振動板22(絶縁膜23)と個別電極12との間にできるギャップの間隔をギャップ長ということにする。また、電極基板10には、外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体供給口15となる貫通穴が設けられている。
【0024】
キャビティ基板20は、例えば表面が(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。キャビティ基板20には、吐出させる液体を一時的にためる吐出室21となる凹部(底壁が可動電極となる振動板22となっている)及びリザーバ24となる凹部が形成されている。さらに、キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、個別電極12との間を電気的に絶縁等するため、TEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエチルオルソシリケート(珪酸エチル)を原料ガスとして用いてできる酸化シリコン(SiO2 )膜をいう)による絶縁膜23を0.1μm成膜している。ここでは絶縁膜23をTEOS膜で成膜しているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。ここで、特に断らない限り、振動板22と絶縁膜23とは一体であるものとして説明する。また、各吐出室21に液体を供給するリザーバ(共通液室)24となる凹部が形成されている。さらに、外部の電力供給手段(図示せず)からキャビティ基板20(振動板22)に電荷を供給する際の端子となる共通電極端子27を備えている。
【0025】
ノズル基板30についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板30には、複数のノズル31が形成されている。各ノズル31は、振動板22の変位により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。また、吐出室21とリザーバ24とを連通させるための溝となるオリフィス32と、振動板22が撓むことでリザーバ24方向に加わる圧力を緩衝するダイヤフラム33とが設けられている。
【0026】
図2は液滴吐出ヘッドの長手方向における断面図である。図2において、吐出室21はノズル孔31から吐出させる液体をためておく。吐出室21の底壁である振動板22を撓ませることにより、吐出室21内の圧力を高め、ノズル孔31から液滴を吐出させる。ここで、本実施の形態では、電極とすることができ、かつウェットエッチング工程の際に都合がよい高濃度のボロンドープ層をシリコン基板に形成し、振動板22を構成するものとする。また、異物、水分(水蒸気)等がギャップに入り込まないように、ギャップを外気から遮断し、密閉するために電極取り出し口26に封止材25が設けられている。
【0027】
図3は駆動制御回路40を中心とする構成を表す図である。図3に基づいて、振動板22の当接(保持)、離脱の制御を行い、液滴吐出ヘッドから液滴を吐出させるための制御を行う手段等について説明する。駆動制御回路40はCPU42aを中心に構成されたヘッド制御部41を備えている。ヘッド制御部41のCPU42aには、例えばコンピュータ等の外部装置50からバス51を介し、印刷用データ等を含む信号が送信される。
【0028】
また、ヘッド制御部41はROM43a、RAM43b及びキャラクタジェネレータ43cを有しており、内部バス42bを介してCPU42aと接続されている。CPU42aは、ROM43a内に格納されている制御プログラムに基づいて処理を実行し、印刷用データに対応した吐出制御信号を生成する。その際、RAM43b内の記憶領域を作業領域として用い、また、文字等を印刷する等の場合、キャラクタジェネレータ43cに記憶されたキャラクタデータ等に基づく処理を行う。CPU42aが生成した吐出制御信号は、内部バス42bを介して論理ゲートアレイ45に送信される。論理ゲートアレイ45は、吐出制御信号に基づいて、後述するように、各ノズル31について設けられた各個別電極12に対する電荷供給に関するSEG信号を生成する。また、COM発生回路46aからは、後述するようにキャビティ基板20(振動板22)に対する電荷供給に関するCOM信号を生成する。駆動パルス発生回路46bは同期のための信号を生成する。これらの信号は、コネクタ47を経由して、ドライバIC48に送信される。
【0029】
そして、ドライバIC48は、直接又はFPC(Flexible Print Circuit)、ワイヤ等の配線49を介して電気的に端子部14、共通電極端子27と接続される。ドライバIC48の端子数が液滴吐出ヘッドのノズル31の数に足りなければ、複数のドライバIC48で構成されている場合もある。ドライバIC48は、電源回路52から電力の供給を受け、前述した各種信号に基づいて、キャビティ基板20(振動板22)及び/又は個別電極12への電荷供給の開始(充電)、電荷保持及び放電(以下、これを出力という)を実際に行って振動板22と個別電極12との間に電圧(駆動電圧)を印加する(電位差を生じさせる)手段である。出力を繰り返すことにより、ドライバIC48が出力により印加しようとする電圧の波形はパルス状となる(現実には立ち上がり時間、立ち下がり時間が0ではないために台形状となるが、便宜上、この出力をパルスということにする)。
【0030】
電荷供給による電圧印加により、振動板22と個別電極12との間に静電力が発生し、振動板22は個別電極12側に引き寄せられて撓み、当接する。このため排除体積(吐出室21の容積)が広がる。また、放電により振動板22と個別電極12との間の電位差がなくなる又は少なくなると、静電力の発生が停止又は少なくなる。振動板22における復元力の方が大きくなると、振動板22が元に戻ろうとして個別電極12から離脱するが、このときの復元力による圧力(以下、復元圧力という)が液体に加わり、ノズル31から液体を押し出して液滴が吐出される。この液滴が例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって印刷等の記録が行われる。
【0031】
図4は凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。上述したように、凹部11内には異なる材料からなる第1個別電極12A及び第2個別電極12Bが形成されている。本実施の形態では、第1個別電極12A(リード部13、端子部14)の材料として、酸化インジウムに酸化錫を不純物としてドープした、可視光領域で透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を用いるものとする。一方、第2個別電極12B及び接続部12Cの材料としては、Ti(チタン)を用いるものとする。温度等の条件によっても異なるが、一般的にチタンの電気抵抗率は、5.5×10-5(Ω・cm)であり、ITOよりも高い。ここで第1個別電極12Aと第2個別電極12Bの幅は特に規定しないが、幅が広いと電気抵抗が低いため、第1個別電極12Aの幅が広い方が、第1個別電極12A全体に電荷が行き渡るのがはやいため、応答をはやくして吐出を行うにはよい。また、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとにおける当接幅等のバランスも考慮する必要がある。
【0032】
本実施の形態においては、接続部12Cは3箇所に設けられており、接続部12Cにより第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとが電気的に接続されている。ドライバIC48からの電荷は、端子部14、リード部13を介して、第1個別電極12Aの方向に供給されていき、第1個別電極12A全体に供給される。そして、ドライバIC48から電荷が供給され続けると、第1個別電極12A、接続部12Cを介してさらに第2個別電極12Bにも電荷が供給されていく。第1個別電極12A、接続部12Cを介して電荷供給され、また第2個別電極12Bにおける電気抵抗が第1個別電極12Aよりも高いため、振動板22を当接させることができる静電力を生じさせる電荷が第2個別電極12B全体に供給されるまでには時間を要する。
【0033】
ここで、例えば第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとが接触する面積が多いと、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bへの電荷供給経路が広くなるため、第2個別電極12B全体に電荷が供給される時間と第1個別電極12A全体に電荷が行き渡る時間との差が生じなくなってしまうことがある。そこで、接続部12Cを設け、第1個別電極12Aから第2個別電極12Bに電荷供給される経路を制限することで、電荷供給の時間に差をつけることができる。ただ、逆に接触面積を減らしすぎた場合には、第2個別電極12Bへの電荷供給に時間を要し過ぎて応答性が悪くなる可能性がある。したがって、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとの電荷供給の時間差を決定する場合には、接続部12Cの幅、設ける数等により調整するようにする。この時間差としては例えば約2μsとなるようにできれば望ましいと考えられる。ここで、前述したように、第1個別電極12Aにおける電荷供給が全体に瞬時に行われるわけではなく、リード部13及び端子部14に近い側から遠い側の方向に電荷が供給されていくため、接続部12Cを設ける位置によっても、若干、時間差が変化することもある。
【0034】
図5は電圧を印加する時間と振動板22の当接との関係を表す図である。図5(a)はドライバIC48が印加しようとする電圧のパルス波形を表す。ここで、共通電極端子27に対するCOM信号の電圧はGNDとし、各個別電極12にそれぞれ個別の電荷供給制御を行うために印加するSEG信号の電圧はVとする。本実施の形態は図5(a)に示すように、ドライバIC48が電荷を供給する時間(電圧を印加する時間)を変化させる。また、振動板22を当接させる静電力が得られるまでの時間について、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとの間で差を設ける。この差は、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとで異なる材料を用いて電気抵抗を異ならせることで設ける。これにより、振動板22を第1個別電極12Aのみに当接させるか(図5(b))、個別電極12全面(第1個別電極12A、第2個別電極12B、接触部12C)に当接させるか(図5(c))を、電荷を供給する時間を調整することで選択することができるようにする。そして、振動板22が個別電極12と当接する面積(以下、当接面積という)を変化させて排除体積(吐出室21の容積)を変化させ、ノズル31から吐出する液滴の吐出量を変化させる。
【0035】
ドライバIC48は、時間taに電圧印加を開始する。そして、Δt1の間、印加電圧をVに保持した場合には、第1個別電極12Aの部分だけが振動板22との間で当接に必要な静電力を発生するだけの電荷を蓄える(蓄電する)ことができる(第2個別電極12Bには、当接に必要な分の電荷が蓄えられない)。振動板22は第1個別電極12Aの部分と当接した後、個別電極12の電荷放電によって離脱する。このときの復元圧力によってノズル31から液滴が吐出する。
【0036】
一方、Δt2の間、印加電圧をVに保持した場合には、第1個別電極12Aだけでなく、第2個別電極12Bにも振動板22との間で当接に必要な静電力を発生するだけの電荷を蓄えることができる。そのため、振動板22は第1個別電極12A及び第2個別電極12Bの部分と当接した後、個別電極12の電荷放電によって離脱する。このときの復元圧力によってノズル31から液滴が吐出する。第2個別電極12Bにも当接している分、排除体積が拡がるため、Δt1の間、印加電圧をVに保持した場合に比べてノズル31からの液滴の吐出量が多くなる。
【0037】
図6は第1個別電極12A、第2個別電極12Bの幅と時定数との関係例を表す図である。図6においては、ITOからなる第1個別電極12A(図6ではITO部という)とチタンからなる第2個別電極12B(図6ではTi部という)との幅の比、第1個別電極12A(ITO部)における時定数τ1(s)、第2個別電極12B(Ti部)における時定数τ2(s)及び第1個別電極12Aを経て第2個別電極12Bに至るまでの時定数τ3(時定数τ1と時定数τ2との和と考える)を表している。また、図6(a)は1箇所の接続部12Cにおいて、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとを電気的に接続した場合を表す。図6(b)は、図4で示すように、3箇所の接続部12Cにおいて、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとを電気的に接続した場合を表す。なお、第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとの長さは同じである。
【0038】
ここで、時定数τは次式(1)で表される線型系における1次の周波数応答を示す値を表すものであり、通常、最終的な値の約63.2%になるまでの時間を表す。
e(t)=E(1−exp(−t/τ)) …(1)
e:振動板22と個別電極12との間の電圧となる
E:ドライバIC48による印加電圧V
t:時刻
τ:時定数
【0039】
本実施の形態においては、第1個別電極12A、第2個別電極12Bにおいて蓄えることができる電荷の約63.2%が蓄えられる時間をそれぞれτ1、τ2として表すものとする。吐出量、吐出速度等、性能設計事項等にもよるが、静電力を発生させるために必要な電荷が第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとに供給され、蓄えられるまでには、時定数として示された時間以上の時間が必要になると考えられる。例えば時定数の約3倍で当接に必要な静電力が発生するときには約95%の電荷が蓄えられていることになり、このときの時間が図5(a)に示すΔt1、Δt2となって表される。したがって、時定数を直接、電圧印加時間として用いるわけではないが、第1個別電極12A、第2個別電極12Bにおける時定数を参照することができる。そして時定数に基づくことで効率的な設計を行い、電圧を印加する時間を設定することができる。
【0040】
以上のように実施の形態1によれば、個別電極12をITOからなる第1個別電極12Aと、チタンからなり、第1個別電極12Aを介して電荷が供給される第2個別電極12Bとで構成するようにしたので、ドライバIC48からの電荷供給制御により、第1個別電極12Aだけに振動板22を当接させる又は第1個別電極12A及び第2個別電極12Bに振動板22を当接させるかを選択して吐出動作を行わせることにより、一回に吐出できる液滴吐出量を変化させることができる。このとき、1又は複数箇所(ここでは3箇所)において接続部12Cで第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとを電気的に接続しているので、第2個別電極12Bへの電荷供給経路を任意に規定することができる。さらに吐出室21(振動板22)の短手方向に沿って個別電極12を設けるようにしたので、液体の流路に沿って、吐出に必要な加圧を加えるための振動板22の当接を行うことができる。
【0041】
また、第1個別電極12AをITO、第2個別電極12Bをチタンとして、第2個別電極12Bを電気抵抗率が高い材料で構成するようにしたので、振動板22との間で当接に必要な静電力が発生するまでの時間差を設けることができる。特にITOとチタンは、電気抵抗率の違い、土台となる基板がガラスであったときの密着性等から考えて最もよい組み合わせであり、長寿命で良好な吐出を行うことができる。
【0042】
さらに、ドライバIC48においては、個別電極12への電荷供給による電圧印加時間を制御するだけで吐出量の制御を行うことができるため、簡単な制御により一回に吐出できる液滴吐出量を変化させることができる。そして、時定数τ1、τ2に基づいて、電圧印加時間Δt1、Δt2を定めるようにしたので、効率的な設計を行うことができる。
【0043】
実施の形態2.
図7は電極基板10の製造工程を表す図である。本実施の形態では、電極基板10の製造を中心とする液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。右側は第1個別電極12A等が形成される部分の長手方向断面を表し、左側は第2個別電極12Bが形成される部分の長手方向断面を表す。ここで実際には電極基板10は、ウェハ状のガラス基板で複数個分を同時形成する。そして、他の基板と接合等をした後、個々に切り離して液滴吐出ヘッドを製造するが、図7では1つの液滴吐出ヘッドの電極基板10の一部分だけを示している(以下でも同様である)。
【0044】
約1mmのガラス基板61の一方の面に対し、例えば、マスクとなるクロム(Cr)等の膜62(以下、マスク膜62という)を成膜する(図7(a))。マスク膜62の形成は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition )法で行う。例えば、PVD法としては、スパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング等の方法がある。さらに、マスク膜62上の全面にフォトレジスト63を塗布する。そして、フォトリソグラフィ(Photolithography)法を用い、クロム膜上の全面に塗布したフォトレジスト用の感光性樹脂をマスクアライナ等で露光し、現像液で現像することで、ガラス基板61に、後に電極基板10の凹部11となる部分を形成するためのフォトレジスト63によるパターンを形成する。
【0045】
フォトレジストパターンを形成した後、例えば硝酸セリウムアンモニウム水溶液によりウェットエッチングを行い、マスク膜62の不要な部分を除去する(図7(b))。これによりガラス基板61上に、マスク膜62による凹部11となる部分のエッチングパターンが形成される。そして、例えばフッ化アンモニウム水溶液によりガラス基板61のウェットエッチングを行って、約0.3μmの高さの側壁を有する凹部11を形成する(図7(c))。その後、マスク膜62を剥離する。
【0046】
そして、第2個別電極12B、接続部12Cとなるチタンの膜64(以下、チタン膜64という)を凹部11を形成した面に対して、例えば全面成膜する(図7(d))。成膜方法については例えばスパッタ等のPVD法により成膜を行う。そして、チタン膜64に対して、前述したフォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト65を塗布し、パターニングを行う。その後、チタン膜64に対して、六フッ化硫黄(SF6 )によりドライエッチングを行い(図7(e))、フォトレジスト65を剥離して第2個別電極12B及び接続部12Cを形成する(図7(f))。
【0047】
さらに、第1個別電極12A、リード部13及び端子部14となるITOの膜66(以下、ITO膜66という)を凹部11を形成した面に対して全面成膜する(図7(g))。ここで、成膜方法については特に限定するものではないが、例えばスパッタリング等により成膜を行う。そして、ITO膜66に対して、フォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト67を塗布し、パターニングを行う。その後、ITO膜66に対して塩酸、硝酸、純水の混合液によりウェットエッチングを行い(図7(h))、フォトレジスト67を剥離して第1個別電極12A、リード部13及び端子部14を形成する(図7(i))。そして、液体供給口15を開口して電極基板10を作製する(図7(j))。ここでは、エッチングによるダメージの点を考慮して、チタンによる第2個別電極12B及び接続部12Cを形成した後に、ITOによる第1個別電極12A、リード部13及び端子部14を形成したが、各電極の材料、エッチングの方法、エッチャント等によっては、この順序に限定するものではない。
【0048】
図8は液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。図8に基づいて液滴吐出ヘッド製造工程について説明する。なお、実際には、ウェハ単位で複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するが、図8ではその一部分だけを示している。
【0049】
シリコン基板71の片面(電極基板10との接合面側となる)を鏡面研磨し、例えば220μmの厚みの基板(キャビティ基板20となる)を作製する(図8(a))。次に、シリコン基板71のボロンドープ層72を形成する面を、B23を主成分とする固体の拡散源に対向させ、縦型炉に入れてボロンをシリコン基板71中に拡散させ、ボロンドープ層72を形成する。そして、ボロンドープ層72を形成した面に、プラズマCVD法により、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は250W、圧力は66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)の条件で絶縁膜23を0.1μm成膜する(図8(b))。
【0050】
そして、シリコン基板71と電極基板10を360℃に加熱した後、電極基板10に負極、シリコン基板71に正極を接続して、800Vの電圧を印加し、陽極接合を行う。陽極接合を終えた基板(以下、接合基板という)に対し、シリコン基板71の厚みが約60μmになるまでシリコン基板71表面の研削加工を行う。その後、加工変質層を除去する為に、水酸化カリウム溶液でシリコン基板71を約10μm分ウェットエッチングを行う。これによりシリコン基板71の厚みを約50μmにする(図8(c))。
【0051】
接合基板のウェットエッチングを行った面に対し、TEOSによる酸化シリコンのハードマスク(以下、TEOSハードマスクという)73をプラズマCVD法により成膜する。成膜条件として、例えば、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は700W、圧力は33.3Pa(0.25Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)とし、その条件で1.5μm成膜する。
【0052】
TEOSハードマスク73を成膜した後、吐出室21及び電極取出し口26となる部分のTEOSハードマスク73をウェットエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液を用いてTEOSハードマスク73が無くなるまで、それらの部分をウェットエッチングしてTEOSハードマスク73をパターニングし、シリコン基板71を露出させる。リザーバ24となる部分については、リザーバ24底部に厚みを残しておくために、TEOSハードマスク73を若干残しておくようにする。また、例えば、面積が大きく、割れやすい電極取出し口26となる部分についても、レジストの厚みを若干残しておき、後の工程で割れを防止するための厚みを残すようにしてもよい。そして、ウェットエッチングした後にレジストを剥離する(図8(d))。
【0053】
次に、接合基板を35wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、吐出室21及び電極取出し口26となる部分の厚みが約10μmになるまでウェットエッチングを行う。さらに、接合基板を3wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ボロンドープ層72が露出し、エッチングの進行が極度に遅くなるエッチングストップが十分効いたものと判断するまでウェットエッチングを続ける(図8(e))。このように、2種類の濃度の異なる水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングを行うことによって、吐出室21となる部分に形成される振動板22の面荒れを抑制し、厚み精度を高くすることができる。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出性能を安定化させることができる。
【0054】
ウェットエッチングを終了すると、接合基板をフッ酸水溶液に浸し、シリコン基板71表面のTEOSハードマスク73を剥離する。次に、電極取出し口26となる部分のボロンドープ層72を除去するため、電極取出し口26となる部分が開口したシリコンマスクを、接合基板のシリコン基板71側の表面に取り付ける。そして、例えば、RFパワー200W、圧力40Pa(0.3Torr)、CF4 流量30cm3 /min(30sccm)の条件で、RIEドライエッチング(異方性ドライエッチング)を30分間行い、電極取出し口26となる部分のみにプラズマを当てて、開口する。ここで、例えば接合基板とマスクとのアライメント精度を高めるため、シリコンマスクの装着は、接合基板とシリコンマスクとにピンを通すピンアライメントにより行うようにするとよい。ここでは、異方性ドライエッチングにより開口しているが、ピン等で突くことで、ボロンドープ層72を壊してもよい。そして、封止材25を用いて、ギャップ部分を外気から遮断するための封止を行う(図8(f))。封止材25の材料、封止方法等については特に限定するものではないが、例えば電極取り出し口26の開口部分にエポキシ系樹脂を塗布したり、酸化シリコンを堆積させたりして形成する。
【0055】
封止が完了すると、例えば、さらに共通電極端子27となる部分を開口したマスクを、接合基板のシリコン基板71側の表面に取り付けて、例えばプラチナ(Pt)をターゲットとしてスパッタ等を行い、共通電極端子27を形成する。そして、あらかじめ別工程で作製していたノズル基板30を、例えばエポキシ系接着剤により、接合基板のキャビティ基板20側から接着し、接合する(図8(g))。そして、ダイシングラインに沿ってダイシングを行い、個々の液滴吐出ヘッドに切断し、液滴吐出ヘッドが完成する。さらに配線49を介してICドライバ48との接続等を行う。
【0056】
以上のように電極基板10の作製時において、特にチタンからなる第2個別電極12Bを形成した後、ITOからなる第1個別電極12Aを形成することで、互いにダメージを受けることなく形成することができる。
【0057】
実施の形態3.
図9は本発明の実施の形態3における凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。上述の実施の形態では、矩形状の振動板22の短手方向に第1個別電極12Aと第2個別電極12Bとを並べて設けるようにしたが、例えば長手方向に並べて設けるようにしてもよい。この場合も、接続部12Cで電気的に接続し、経路を制限するようにしてもよい。
【0058】
実施の形態4.
図10は各金属における一般的な電気抵抗率を表す図である。上記の実施の形態では、ITOを第1個別電極12Aの材料とし、チタンを第2個別電極12Bの材料とした。ITOとの電気抵抗率等の関係等を考えるとチタンが最も適していると考えられるが、材料はこれに限定するものではない。例えば電極基板10の土台となるガラスとの密着性等も考慮する必要があるが、例えば、チタン以外の金属材料としては、クロム(Cr)、プラチナ(白金:Pt)、金(Au)等が考えられる。また、他の合金、酸化チタン等の酸化金属等でもよい。
【0059】
また、第1個別電極12Aの材料についてもITOに限定するものではない。例えば、IZO(Indium Zinc Oxide :酸化インジウム亜鉛)等を材料として用いるようにしてもよい。
【0060】
図11は凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。上述の実施の形態では、中央部分に第1個別電極12Aと両端部分に第2個別電極12Bを設けるようにした。図11に示すように、例えば、第2個別電極12B−1の外側に、さらに別の材料からなる第2個別電極12B−2を設けるようにしてもよい。また、上述の実施の形態では、接続部12Cの材料は第2個別電極12Bと同じチタンを用いたが、これに限定するものではなく、別に材料を用いるようにしてもよい。
【0061】
実施の形態5.
上述の実施の形態では、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3層構造の液滴吐出ヘッドについて説明したが、例えば、リザーバ部分を独立した基板(以下、リザーバ基板という)で構成した4層構造の液滴吐出ヘッドについても適用することができる。
【0062】
実施の形態6.
図12は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。また、図13は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図12及び図13の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図13において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0063】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモータ106により回転駆動される。また、駆動制御回路40は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モータ106を駆動させ、また、ここでは図示していないが、発振駆動回路を駆動させて振動板22を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0064】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、OLED等の表示基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図3】駆動制御回路40を中心とする構成を表す図である。
【図4】凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。
【図5】電圧を印加する時間と振動板22の当接との関係を表す図である。
【図6】個別電極12の幅と時定数との関係例を表す図である。
【図7】電極基板10の製造工程を表す図である。
【図8】液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。
【図9】凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。
【図10】各金属における一般的な電気抵抗率を表す図である。
【図11】凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。
【図12】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図13】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0066】
10 電極基板、11 凹部、12 個別電極、12A 第1個別電極、12B,12B−1,12B−2 第2個別電極、12C 接続部、13 リード部、14 端子部、15 液体供給口、20 キャビティ基板、21 吐出室、22 振動板、23 絶縁膜、24 リザーバ、25 封止材、26 電極取出し口、27 共通電極端子、30 ノズル基板、31 ノズル、32 ダイヤフラム、33 オリフィス、40 駆動制御回路、41 ヘッド制御部、42a CPU、42b バス、43a ROM、43b RAM、43c キャラクタジェネレータ、45 論理ゲートアレイ、46a COM発生回路、46b 駆動パルス発生回路、47 コネクタ、48 ドライバIC、49 配線、50 外部装置、51 バス、52 電源及び電源回路、61 ガラス基板、62 マスク膜、63,65,67 フォトレジスト、64 チタン膜、66 ITO膜、71 シリコン基板、72 ボロンドープ層、73 TEOSハードマスク、100 プリンタ、101 ドラム、102 液滴吐出ヘッド、103 紙圧着ローラ、104 送りネジ、105 ベルト、106 モータ、110 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を液滴として吐出するノズルと、変位して液体を加圧する振動板とを有し、前記ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、該吐出室の一部である前記振動板と対向し、電荷供給により前記振動板との間に静電気力を発生させて前記振動板を当接及び離脱により変位させる固定電極とを備え、
前記固定電極は、
外部からの電荷が供給される第1固定電極と、
該第1固定電極と異なる材料からなり、前記第1固定電極を介して電荷が供給される第2固定電極と
で構成されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1固定電極から前記第2固定電極への電荷供給経路となる1又は複数の接続部により、前記第1固定電極と前記第2固定電極とを電気的に接続することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2固定電極を、前記第1固定電極よりも電気抵抗率が高い材料で構成することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
ITOを前記第1固定電極の材料とし、チタンを前記第2固定電極の材料とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記チタンの代わりにクロム、白金又は金を前記第2固定電極の材料とすることを特徴とする請求項4記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記吐出室の短手方向に対して中央部分に前記第1固定電極を配し、その両側に前記第2固定電極を配して、前記吐出室の短手方向に沿って前記第1固定電極と前記第2固定電極とを並べて設けることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記吐出室の短手方向に対して前記第2固定電極の外側に、さらに前記第1固定電極及び前記第2固定電極と異なる材料からなる1又は複数の固定電極を設けることを特徴とする請求項6記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記吐出室の長手方向に沿って前記第1固定電極と前記第2固定電極とを並べて設けることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項10】
液体を液滴として吐出するノズルと、変位して液体を加圧する振動板とを有し、前記ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、該吐出室の一部である前記振動板と対向し、電荷供給により前記振動板との間に静電気力を発生させて前記振動板を当接及び離脱により変位させる固定電極とを備え、前記固定電極は、外部からの電荷が供給される第1固定電極と、該第1固定電極と異なる材料からなり、前記第1固定電極を介して電荷が供給される第2固定電極とで構成される液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、
前記振動板が前記固定電極と当接する面積を変化させるために、前記固定電極への電荷供給による電圧印加時間を制御することを特徴とする液滴吐出ヘッドの吐出制御方法。
【請求項11】
前記第1固定電極と前記第2固定電極との蓄電に係る時定数に基づいて、前記振動板と前記固定電極との間の電圧印加時間を定めることを特徴とする請求項10に記載の液滴吐出ヘッドの吐出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−290266(P2008−290266A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135377(P2007−135377)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】