説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置並びにそれらの吐出制御方法

【課題】さまざまな態様の吐出制御を行うことができる構造の液滴吐出ヘッド等を得る。
【解決手段】液体を液滴として吐出するノズル31と、変位して液体を加圧する振動板(上流側振動板22A、下流側振動板22B)を直列に備え、ノズル31に連通する液体の流路上に設けられる吐出室21と、吐出室21の各振動板とそれぞれ対向し、各振動板との間に静電気力を発生させて、それぞれ独立したタイミングで各振動板を変位させる固定電極12A、12Bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッド、その液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、光可変フィルタ、モータのような静電アクチュエータ、圧力センサ等がある。
【0003】
液滴吐出方式(代表的なものとして、インクを吐出して印刷等を行うために用いるインクジェットがある)は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷(プリント)等に利用されている。液滴吐出方式は、微細加工素子である例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを、対象物との間で相対移動させ、対象物の所定の位置に液体を吐出するものである。近年では、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルタ、有機電界発光(Organic ElectroLuminescence )素子を用いた表示基板(OLED)、DNA等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
液滴吐出方式を実現する吐出ヘッドとして、流路上の吐出液体を溜めておく吐出室の少なくとも一面の壁(例えば底壁とする。この壁は他の壁と一体形成されているが、以下、この壁のことを振動板ということにする)が撓んで形状が変化するようにしておき、振動板を撓ませて吐出室内の圧力を高め、吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させるものがある。
【0005】
静電方式による液滴吐出ヘッドの場合には、可動電極である振動板と、振動板と対向する固定電極である個別電極との間に静電力を発生させ、振動板を個別電極に引きつける。その後、静電力を弱める又は発生を停止させると、振動板が元に戻って平衡状態になろうとする復元力(弾性力)の方が働くため、振動板が元の位置に変位する。これらを繰り返すことで振動板を駆動させ、液滴を吐出する(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−007735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、液滴吐出ヘッドでは、振動板がそれぞれ振動しているが、基本的に各個別電極に電荷を供給する又はしないことによる、二者選択的な駆動可否の制御しかできないものが多い。しかしながら、液滴吐出ヘッドでは、印刷の高画質化、高速化を図るため、さまざまな制御ができた方が都合がよい。着弾場所当たりの液滴吐出量(以下、吐出量という)を変更できたり、安定した吐出が行えたりできるように、各ノズルに対応する静電アクチュエータを制御したいという要求が高い。
【0008】
そこで、例えば、吐出室内の液体を小さく振動させておき、振動に共振させて液体を加圧して液滴を吐出する方法がある。ただ、液滴吐出ヘッドの製造のバラツキによって小さい振動の周期が異なる可能性があり、各ヘッドにおいて共振が起こるような、駆動波形(印加電圧)設定を行うのが困難である。また、個別電極を階段状に形成し、各段に合わせて振動板が変位するように制御し、変位に基づいて吐出量を変化させる方法もある。ただ、各段差が小さいと吐出量の変化も小さくなる。しかしながら、個別電極と振動板との距離を広げると静電力が弱まる又は消費電力が高くなるため、吐出量の変化の幅を広くするのは困難である。
【0009】
そこで、以上のことを考慮し、さまざまな態様の吐出制御を行うことができる構造の液滴吐出ヘッド等を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、
ノズルと、変位して液体を加圧する複数の振動板を直列に備え、ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、吐出室の振動板と対向し、各振動板との間に静電気力を発生させて各振動板を変位させる固定電極とを備える。
本発明によれば、ノズルに対する流路上に、複数の振動板を有する吐出室を配し、各振動場との間で静電気力を発生させる固定電極により振動板を変位させ、液体を加圧して吐出するようにしたので、例えば複数の振動板の制御を工夫することで、一回の吐出で複数種の吐出量を使い分けることができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドでは、固定電極は複数で構成され、それぞれ独立して配線されて各振動板と対向する。
本発明によれば、各振動板を変位させるタイミングを異ならせることで、吐出量を大きく変化させることができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、複数の固定電極が分けられて設けられた2つの基板が、複数の吐出室を有する基板の両面に接合されている。
本発明によれば、複数の固定電極を2つの基板に分けて設けるようにしたので、1つの基板に固定電極を配する場合に比べて、固定電極数及び配線数を減らすことができるため、複数の振動板により、吐出量を変化させることができる上、液滴吐出ヘッドの小型化を図ることができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルをヘッド端面に設ける。
本発明によれば、ノズルをヘッド端面に設けるようにしたので、上述のように、液滴吐出ヘッドの両面に固定電極を有する基板が設けられても、端面から液滴を吐出させることができる。製造上においても、固定電極を有する基板にノズルを設けるようにするよりも製造が容易となる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドを搭載しているので、吐出量を制御することができ、例えば、画像印刷等の用途の場合、高画質化を図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの吐出制御方法は、ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、2つの振動板のうち、ノズルに近い方の下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させ、液滴吐出のための圧力を液体に加える工程と、液滴としてノズルから吐出しようとする液体の後端部分を流路内に引き込ませるためにもう一方の振動板である上流側振動板と上流側固定電極との間に静電気力を発生させ、上流側振動板を上流側固定電極側に引き寄せる工程とを有する。
本発明によれば、上流側振動板により、ノズルから吐出しようとする液体の後端部分を流路内に引き込ませるようにしたので、通常よりも吐出量を減らして液滴を吐出する制御を行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの吐出制御方法は、ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、2つの振動板のうち、ノズルから遠い方の上流側振動板を上流側固定電極側に引き寄せて待機する工程と、もう一方の振動板である下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させて下流側固定電極側に引き寄せ、下流側振動板と上流側振動板とにより液滴吐出のための圧力を液体に加える工程とを有する。
本発明によれば、上流側振動板を上流側固定電極側に引き寄せて待機した後、下流側振動板と上流側振動板とにより液滴吐出のための圧力を液体に加えるようにしたので、上流側振動板の加圧により、下流側振動板による加圧がノズルの方向と反対方向に向かう力を抑え、ノズル方向に向かう力を増やすことができ、通常よりも吐出量を増やして液滴を吐出する制御を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの吐出制御方法は、ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、2つの振動板のうち、ノズルに近い方の下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させ、液滴吐出のための圧力を液体に加える工程と、ノズルから液滴を吐出させた後に、もう一方の振動板である上流側振動板と上流側固定電極との間に静電気力を発生させ、流路内の液体の固有振動を打ち消すような振動を上流側振動板に発生させる工程とを有する。
本発明によれば、固有振動を打ち消すような振動を上流側振動板に発生させて液滴吐出後の残留振動を抑制するようにしたので、流路内の液体及び振動板をすぐに安定させることができ、1回の吐出当たりの時間を短くすることができるため、高速化を図ることができる。特に上流側振動板は変位しておらず、下流側振動板のようにオーバーシュートしていないため、上流側振動板には残留振動抑制に必要な静電気力を吐出直後に発生させることができる。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出装置の吐出制御方法は、上記の液滴吐出ヘッドの吐出制御方法を適用して液滴吐出装置の吐出を制御する。
本発明によれば、上記の液滴吐出ヘッドの吐出制御方法を適用したので、吐出量の制御等により、例えば、画像印刷等の用途の場合、高画質化を図ることができる。また、特に1カ所当たりに費やす時間を少なくすることができるため、印刷等の処理の高速化を図ることができる。また、特に吐出間隔を短くすることができるため、印刷等の処理の高速化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1では液滴吐出ヘッドの一部を示している。本実施の形態では、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出ヘッドは、例えば液滴を吐出して画像を形成する等の目的のために、複数の静電アクチュエータが集約されたデバイスである。なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が下から順に積層されて構成される。ここで本実施の形態では、電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合する。また、キャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0021】
電極基板10は、厚さ約1mmの例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施形態では、ガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板10の表面には、例えば深さ約0.3μmを有する複数の凹部11が形成されている。そして、凹部11の内側(特に底部)に、キャビティ基板20の上流側振動板22A、下流側振動板22Bと対向するように、2つの個別電極(固定電極)が設けられている。ここで、液体の流れに対して上流側(リザーバ24に近い方)の個別電極を上流側個別電極12Aとする。上流側個別電極12Aには、上流側リード部13A及び上流側端子部14Aが一体となって設けられている(以下、特に区別する必要がない限り、これらを合わせて上流側個別電極12Aとして説明する)。また、液体の流れに対して下流側となるノズル31に近い方の個別電極を下流側個別電極12Bとする。下流側個別電極12Bには、下流側リード部13B及び下流側端子部14Bが一体となって設けられている(以下、特に区別する必要がない限り、これらを合わせて下流側個別電極12Bとして説明する。また、上流側個別電極12Aと下流側個別電極12Bとを区別する必要がなければ、これらを合わせて個別電極12として説明する)。そして、上流側振動板22A(下流側振動板22B)と上流側個別電極12A(下流側個別電極12B)との間には、上流側振動板22A、下流側振動板22Bが撓む(変位する)ことができる一定のギャップ(空隙)が凹部11により形成されている。上流側個別電極12A及び下流側個別電極12Bは、例えばスパッタ法により、ITOを0.1μmの厚さで凹部11の内側に成膜することで形成される。また、電極基板10には、外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体供給口15となる貫通穴が設けられている。
【0022】
キャビティ基板20は、例えば表面が(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。キャビティ基板20には、吐出させる液体を一時的にためる吐出室21となる凹部(底壁が可動電極となる上流側振動板22A、下流側振動板22Bとなっている)及びリザーバ24となる凹部が形成されている(上流側振動板22Aと下流側振動板22Bとを区別する必要がなければ、これらを合わせて振動板22として説明する)。ここで、本実施の形態における振動板22の寸法については、例えば、幅(短手方向の長さ)が約100μm、長さが約1.5mm、厚さが2μmとする。ただし、これに限定するものではない。
【0023】
さらに、キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、個別電極12との間を電気的に絶縁等するため、TEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエチルオルソシリケート(珪酸エチル)を原料ガスとして用いてできるSiO2 膜をいう)による絶縁膜23を0.1μm(100nm)成膜している。ここでは絶縁膜23をTEOS膜で成膜しているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。また、各吐出室21に液体を供給するリザーバ(共通液室)24となる凹部が形成されている。さらに、外部の電力供給手段(図示せず)からキャビティ基板20(振動板22)に電荷を供給する際の端子となる共通電極端子27を備えている。
【0024】
ノズル基板30についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板30には、複数のノズル31が形成されている。各ノズル31は、振動板22の変位により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。本実施の形態では、吐出した液滴の直進性向上を図るため、ノズル31の孔を複数段で形成する。また、振動板22が撓むことでリザーバ24方向に加わる圧力を緩衝するダイヤフラム32がさらに設けられている。また、吐出室21とリザーバ24とを連通させるための溝となるオリフィス33が設けられている。
【0025】
図2は液滴吐出ヘッドの断面図である。図2において、吐出室21はノズル31から吐出させる液体をためておく。吐出室21の底壁である振動板22を撓ませることにより、吐出室21内の圧力を高め、ノズル31から液滴を吐出させる。本実施の形態では、各ノズル31に連通する流路上に設けた吐出室21に2つの振動板22(上流側振動板22A、下流側振動板22B)を構成し、2つの振動板の変位(当接、離脱)のタイミング制御を行うことにより、ノズル31から吐出する液滴の吐出量を変化させる。ここで、異物、水分(水蒸気)等がギャップに入り込まないように、ギャップを外気から遮断し、密閉するために電極取り出し口26に封止材25が設けられている。
【0026】
図3は駆動制御回路40を中心とする構成を表す図である。図3に基づいて、振動板22の当接、離脱の制御を行い、液滴吐出ヘッドから液滴を吐出させるための制御を行う手段等について説明する。駆動制御回路40はCPU42aを中心に構成されたヘッド制御部41を備えている。ヘッド制御部41のCPU42aには、例えばコンピュータ等の外部装置50からバス51を介し、印刷用データ等を含む信号が送信される。
【0027】
また、ヘッド制御部41はROM43a、RAM43b及びキャラクタジェネレータ43cを有しており、内部バス42bを介してCPU42aと接続されている。CPU42aは、ROM43a内に格納されている制御プログラムに基づいて処理を実行し、印刷用データに対応した吐出制御信号を生成する。その際、RAM43b内の記憶領域を作業領域として用い、また、文字等を印刷する等の場合、キャラクタジェネレータ43cに記憶されたキャラクタデータ等に基づく処理を行う。CPU42aが生成した吐出制御信号は、内部バス42bを介して論理ゲートアレイ45に送信される。論理ゲートアレイ45は、吐出制御信号に基づいて、後述するように、個別電極12に対する電荷供給に関する信号を生成する。また、COM発生回路46aからは、後述するようにキャビティ基板20(振動板22)に対する電荷供給に関する信号を生成する。駆動パルス発生回路46bは同期のための信号を生成する。これらの信号は、コネクタ47を経由して、ドライバIC48に送信される。
【0028】
そして、ドライバIC48は、直接又はFPC(Flexible Print Circuit)、ワイヤ等の配線49を介して電気的に上流側端子部14A、下流側端子部14B、共通電極端子27と接続される。ドライバIC48の端子数が液滴吐出ヘッドのノズル31の数に足りなければ、複数のドライバIC48で構成されている場合もある。ドライバIC48は、電源回路52から電力の供給を受け(電圧が印加され)、前述した各種信号に基づいて、キャビティ基板20(振動板22)及び個別電極12への電荷供給に関し、開始(充電)、保持及び放電を実際に行う手段である。電荷供給、保持、放電を繰り返すことにより、例えば、キャビティ基板20側に電荷が供給される一方で、個別電極12側に供給されていない状態をつくることにより電位差を生じさせている。
【0029】
電圧印加により振動板22と個別電極12との間に静電力が発生し、振動板22は個別電極12側に引き寄せられて撓み、当接する。このため吐出室21の容積は広がる。静電力の発生を停止したときに振動板22が元に戻ろうとして個別電極12から離脱するが、このときの復元力による圧力(以下、復元圧力という)が液体に加わり、ノズル31から液体を押し出して液滴が吐出される。吐出された液滴は、最初は、柱状を成して液滴吐出ヘッド(ノズル31)とつながっており、その後、液体の表面張力等で球状になって液滴吐出ヘッドから分離していく。この液滴が例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって印刷等の記録が行われる。このとき、電圧印加のタイミング等をそれぞれ制御することにより、上流側振動板22A、下流側振動板22Bによる当接、離脱のタイミング等をそれぞれ変化させることで吐出量変化等を行うことができる。また、ここでは、静電力の発生を停止して振動板22を離脱させているが、例えば、静電力の発生を完全に停止させずに静電力の調整を行うようにしてもよい。静電力を調整し、振動板22が離脱していく速度を調整することで、振動板22の液体への加圧を制御することができる。
【0030】
次に駆動制御回路40が行うノズル31から吐出する吐出量の制御例について説明する。本実施の形態では、ノズル31からの吐出量に応じて、次に示すモード1〜5の制御を行って、液滴吐出制御を行うものとする。ここでは、5つのモードに関する制御について説明するが、この数に限定するものではない。また、上流側振動板22A、下流側振動板22Bの当接、離脱のタイミングについても、各モードにおけるものに限定するものではなく、別のタイミング設定を行うことができる。
【0031】
モード1
下流側個別電極12Bと下流側振動板22Bとの間に静電力を発生させ、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bに当接させる。そして、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bから離脱させて液体を加圧し、ノズル31から液滴を吐出する。前述したように、吐出された液滴は最初は柱状を成し、液滴吐出ヘッドとつながっている。そこで、液体が液滴吐出ヘッドから分離する前に、上流側個別電極12Aと上流側振動板22Aとの間に静電力を発生させ、上流側振動板22Aを上流側個別電極12Aに当接させる。復元圧力により加圧された柱状の液体の先端側は加圧の勢いを保ってヘッドから離れていくが、後端側は吐出室21B(ノズル31)に引き込まれる。このようにして、液滴後端を強制的に分離させることで、通常の吐出の場合より吐出量(液滴の大きさ)を減らすように制御することができる。
【0032】
モード2
下流側個別電極12Bと下流側振動板22Bとの間に静電力を発生させ、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bに当接させる。そして、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bから離脱させて液体を加圧する。モード1とは異なり、上流側振動板22Aを上流側個別電極12Aに当接させて液滴後端の引き込みを行わずに吐出する。そのため、上流側振動板22Aについては当接及び離脱を行わない。
【0033】
モード3
あらかじめ上流側個別電極12Aと上流側振動板22Aとの間に静電力を発生させ、上流側振動板22Aを上流側個別電極12Aに当接させて待機させておく。そして、下流側個別電極12Bと下流側振動板22Bとの間に静電力を発生させ、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bに当接させる。その後、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bから離脱させて液体を加圧するが、同時に上流側振動板22Aを上流側個別電極12Aから離脱させる。通常、復元圧力による力は、ノズル31の方向だけでなく、リザーバ24の方向にも加わる。モード3においては、あらかじめ上流側振動板22Aを当接させておく。そして、上流側振動板22Aと下流側振動板22Bとを同時に離脱させ、下流側振動板22Bによりリザーバ24の方向に加わる復元圧力を上流側振動板22Aによりノズル31の方向に加わる復元圧力で打ち消すようにする。これにより、吐出室21からリザーバ24に流れ込もうとする液体の流れ(逆流)を軽減し、ノズル31に力が向くようにしてモード2の場合よりも吐出量を多くする。
【0034】
モード4
上流側個別電極12Aと上流側振動板22A及び下流側個別電極12Bと下流側振動板22Bとの間に静電力を発生させ、上流側振動板22Aを上流側個別電極12Aに当接させ、下流側振動板22Bを下流側個別電極12Bに当接させる。その後、上流側振動板22A及び下流側振動板22Bを、同時にそれぞれ上流側個別電極12A、下流側個別電極12Bから離脱させて液体を加圧する。モード3のように、上流側振動板22Aによる復元圧力を液体の逆流防止のために用いるのではなく、ノズル31から吐出させるために積極的に用いることにより、モード3の場合よりも吐出量を多くする。ここで、上流側振動板22Aと下流側振動板22Bとは同時に離脱させるようにしてもよいが、例えば液体の種類、印加電圧等に応じて、下流側振動板22Bの離脱をわずかに早める等、所望する吐出量に応じた制御を行うようにしてもよい。
【0035】
次に上流側振動板22Aによる液体に発生する振動の制御について説明する。例えば、振動板22が個別電極12から離脱して液体を加圧した後、振動板22はすぐに元の位置に戻るのではなく、元の位置に対してオーバーシュートを繰り返しながら減衰していき、最終的に元の位置に収束する自由振動を行う。最初に元の位置に戻ろうとする変位以外の振動(以下、残留振動という)は、液滴の吐出には必要がないばかりでなく、次周期の動作、隣接する他のノズルにおける吐出にも悪影響を及ぼすことになる。そこで残留振動が抑えられるようにする。
【0036】
ここで、液体を加圧した振動板22と個別電極12との間がオーバーシュートにより基の位置における距離より離れると、静電力が急激に弱くなり制御が難しくなる。そのため、振動板22が1つしかない場合、オーバーシュートする振動板22に対して残留振動制御を行うのは難しい。
【0037】
本実施の形態では、ノズル31に対する流路に2つの振動板22を設けているが、例えばモード1、モード2のように、上流側振動板22Aが吐出のための加圧を行わない場合、上流側振動板22Aはオーバーシュートしない。そこで、下流側振動板22Bが液体を加圧した後、上流側振動板22Aの変位制御を行って、吐出室21内の液体の振動(固有振動)を抑えるように加圧を行うことで残留振動を抑えるようにする。
【0038】
以上のように実施の形態1の液滴吐出ヘッドによれば、各ノズル31に対する流路上に、上流側振動板22Aと下流側振動板22Bとを直列に配する。そして、上流側振動板22Aと個別電極12Aとの間、下流側振動板22Bと個別電極12Bとの間でそれぞれ独立して静電力の発生、停止等の制御を行って、上流側振動板22A、下流側振動板22Bの当接、離脱を所定のタイミングで行うようにしたので、ノズル31から吐出する液滴の吐出量を変化させることができる。そのため、1回の吐出で複数種の吐出量を使い分けることができる。そして、2つの振動板22の当接、離脱のタイミングを工夫し、2つの振動板22による液体への加圧、吐出しようとする液体の引き込み等を行うことにより、吐出量の変化を大きくし、変化の幅を広げることができる。
【0039】
また、振動板22を複数有していることで、例えば、オーバーシュートしていない上流側振動板22Aに対して残留振動抑制のための静電力を有効に発生させることができ、残留振動抑制の制御を効率よく行うことができる。そのため、残留振動を抑制し、素早く平衡状態に移行することができるため、駆動周波数を高める(駆動周期を短くする)ことができ、高速化等を図ることができる。また、残留振動が吐出室21にためられた液体を加圧してノズル31から吐出させてしまったり、他のノズル31の流路上にある吐出室21の液体、振動等に悪影響を及ぼすこともない。
【0040】
実施の形態2.
図4は電極基板10の作製工程例を表す図である。本実施の形態では、液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。まず、上述した図4に基づいて電極基板10の作製手順について説明する。ここで、液滴吐出ヘッドの製造では、電極基板10等、各基板は、実際にはウェハ単位で複数個分が同時に作製され、他の基板と接合等をした後に個々に切り離して、液滴吐出ヘッドを製造するが、以下の各工程を示す図では、1つの液滴吐出ヘッドに係る一部分を長辺方向で切ったときの断面を示している。
【0041】
まず、例えば厚さが2〜3mmのガラス基板60を、機械研削、エッチング等によって例えば基板3aの厚さが約1mmになるまで両面を研削(グラインド)する。そして、例えば、ガラス基板60を10〜20μmエッチングして加工変質層を除去する(図4(a))。この加工変質層の除去には、例えばSF6 等によるドライエッチング、フッ酸水溶液によるスピンエッチング等で行ってよい。ドライエッチングを行う場合は、ガラス基板60の片面にできた加工変質層を効率よく除去することができ、反対面の保護を必要としない。またスピンエッチング(ウェットエッチング)を行う場合は、必要とするエッチング液が少量で済み、また常に新しいエッチング液が供給されるため安定したエッチングを行うことができる。
【0042】
ガラス基板60の片面全体に、例えばスパッタ法によってクロム(Cr)からなるエッチングマスク61となる膜を形成する。そして、フォトリソグラフィ法によりエッチングマスク61の表面に、レジスト(図示せず)を凹部11の形状に対応させてパターニングし、さらにウェットエッチング等を行い、ガラス基板60を露出させる(図4(b))。その後、例えばBHF(バッファードフッ酸。フッ酸:フッ化アンモニウム=1:6)水溶液等のフッ酸水溶液でガラス基板60をウェットエッチングし、凹部11を形成する(図4(c))。
【0043】
その後、例えばスパッタ法等によって、導電性を有するITO膜62を、ガラス基板60の凹部11が形成された側の面の全体に形成する(図4(d))。そして、フォトリソグラフィーによってレジスト(図示せず)をパターニングし、個別電極12として残す部分を保護した上でITO膜62をエッチングする。さらに、液体供給口15となる貫通穴をサンドブラスト法または切削加工により形成する(図4(e))。以上の工程により電極基板10が作製される。
【0044】
図5は液滴吐出ヘッドの製造工程を示す図である。シリコン基板70の片面(電極基板10との接合面側となる)を鏡面研磨し、例えば220μmの厚みの基板(キャビティ基板20となる)を作製する。次に、シリコン基板70のボロンドープ層を形成する面を、B23を主成分とする固体の拡散源に対向させ、縦型炉に入れてボロンをシリコン基板70中に拡散させ、高濃度(約5×1019atoms/cm3 )のボロンドープ層を形成する。そして、ボロンドープ層を形成した面に、例えば、プラズマCVD法により、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は250W、圧力は66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)の条件で絶縁膜23を0.1μm成膜する(図5(a))。
【0045】
シリコン基板70と電極基板10とを360℃に加熱した後、電極基板10に負極、シリコン基板70に正極を接続して、800Vの電圧を印加し、陽極接合を行う。陽極接合した後の基板(以下、接合済み基板という)において、シリコン基板70の厚みが約60μmになるまでシリコン基板70表面の研削加工を行う。その後、加工変質層を除去する為に、32w%の濃度の水酸化カリウム溶液でシリコン基板70を約10μmウェットエッチングする。これによりシリコン基板70の厚みを約50μmにする(図5(b))。
【0046】
次に、ウェットエッチングを行った面に対し、TEOSによるエッチングマスク(以下、TEOSエッチングマスクという)71をプラズマCVD法により成膜する。成膜条件としては、例えば、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は700W、圧力は33.3Pa(0.25Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3 /min(100sccm)、酸素流量1000cm3 /min(1000sccm)の条件で約1.0μm成膜する(図5(c))。TEOSを用いた成膜は比較的低温で行うことができるので、基板の加熱をできる限り抑えられる点で都合がよい。
【0047】
そして、吐出室21及び電極取出し口26となる部分のTEOSエッチングマスク71をエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液を用いてTEOSエッチングマスク71がなくなるまで、その部分をエッチングしてTEOSエッチングマスク71をパターニングし、シリコン基板70を露出させる。そして、エッチングした後にレジストを剥離する。ここで、電極取出し口26となる部分については、全てについてシリコンを露出させなくても、例えば電極取出し口26とキャビティ基板20との境界となる部分を露出させ、残りの部分を島状に残して、シリコンの割れを防ぐようにしてもよい。
【0048】
さらに、リザーバ24となる部分のTEOSエッチングマスク71をハーフエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液でそれらの部分のTEOSエッチングマスク71を例えば、約0.7μmエッチングし、パターニングする。これにより、リザーバ24となる部分に残っているTEOSエッチングマスク71の厚みは約0.3μmとなり、シリコン基板70が露出しない。ここでは、残すTEOSエッチングマスク71の厚みを約0.3μmとするが、所望する流路の大きさ、リザーバ24の深さによって、それぞれの厚みを調整する必要がある。そして、エッチングした後にレジストを剥離する(図5(d))。
【0049】
次に、接合済み基板を35wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、吐出室21となる部分及び電極取出し口26となる部分のシリコンを露出させた部分の厚みが約10μmになるまでウェットエッチングを行う。その後、リザーバ24となる部分のTEOSエッチングマスク71を除去する為、フッ酸水溶液に接合済み基板を浸してエッチングを行い、除去する。そして、さらに、接合済み基板を3wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ボロンドープ層において、エッチングストップが十分効いたものと判断するまでエッチングを続ける。このように、前記2種類の濃度の異なる水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングを行うことによって、形成される振動板22の面荒れを抑制し、厚み精度を向上させることができる。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出性能を安定化することができる(図5(e))。
【0050】
ウェットエッチングを終了すると、接合済み基板をフッ酸水溶液に浸し、シリコン基板70表面のTEOSエッチングマスク71を剥離する。そして、シリコン基板70の電極取出し口26となる部分のシリコンを除去する為に、電極取出し口25となる部分が開口したシリコンマスクを接合済み基板のシリコン基板70側の表面に取り付ける。そして、例えば、RFパワー200W、圧力40Pa(0.3Torr)、CF4 流量30cm3 /min(30sccm)の条件で、RIEドライエッチング(異方性ドライエッチング)を2時間行い、電極取出し口25となる部分のみにプラズマを当てて、開口する。開口することでギャップについても大気開放される。ここで、ピン等で突いて電極取出し口26となる部分のシリコンを除去するようにしてもよい。
【0051】
そして、例えばエポキシ樹脂からなる封止材25を、電極取出し口26の端部(キャビティ基板20と電極基板10の凹部との間で形成されるギャップの開口部分)に沿って流し込み、ギャップを封止する。また、共通電極端子27となる部分を開口したマスクを、接合基板のシリコン基板70側の表面に取り付ける。そして、例えばプラチナ(Pt)をターゲットとしてスパッタ等を行い、共通電極端子27を形成する。また、液体供給口15とリザーバ24とを連通させる貫通穴をシリコン基板70に形成する。ここで、流路を流れる液体からキャビティ基板20を保護するため、例えば酸化シリコン等の液体保護膜(図示せず)をさらに成膜してもよい。これにより、接合済み基板に行う加工処理は完了する(図5(f))。
【0052】
あらかじめノズル孔31、ダイヤフラム32及びオリフィス33を形成することにより、作製していたノズル基板30を例えば、エポキシ系接着剤により、接合済み基板のキャビティ基板20側から接着する。そして、ダイシングを行い、個々の液滴吐出ヘッドに切断し、実施の形態1のような動作を行うことができる液滴吐出ヘッドが完成する(図5(g))。
【0053】
実施の形態3.
図6は本発明の実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドの断面図である。図6において、上述の実施の形態と同じ符号を付しているものは、同様の動作を行うので説明を省略する。上流側電極基板10Aは実施の形態1で説明した上流側個別電極12Aを有する基板である。一方、下流側電極基板10Bは、下流側個別電極12Bを有する基板である。ここで、液体供給口15については、上流側電極基板10A又は下流側電極基板10Bのどちらかに設ければいいので図4では上流側電極基板10Aに設けている。
【0054】
上流側キャビティプレート20Aは、実施の形態1で説明した吐出室21となる凹部及びその凹部の一部である上流側振動板22Aを有している。また、電極基板10Aと対向する面には絶縁膜23Aが成膜されている。そして、封止材25Aにより封止が行われている。
【0055】
一方、下流側キャビティプレート20Bは、上流側キャビティプレート20Aと同様に、実施の形態1で説明した吐出室21となる凹部及びその凹部の一部である下流側振動板22Bを有している。また、絶縁膜23Bも成膜されており、封止材25Bによる封止も行われている。
【0056】
また、本実施の形態においては、上流側キャビティプレート20Aと下流側キャビティプレート20Bとにより、ノズル31Aに連通する孔を液滴吐出ヘッドの端面(側面)となる部分に形成する。この孔をノズルとしてもよいが、例えば結晶面方位等により、形成できる形状が規定される場合がある。吐出を安定させるためには、ノズル形状が円柱、円錐形状等である方がよいため、あらかじめ所定の形状に形成したノズル31Aを有するノズルプレート30Aを液滴吐出ヘッドの端面(側面)に設けるものとする。
【0057】
上述した実施の形態1においては、電極基板10に上流側個別電極12A及び下流側個別電極12Bを設けるようにしたが、1つのノズル31に対して、2つの個別電極12の配線を行うため配線密度が高くなるため配線が困難になることもある。
【0058】
そこで、本実施の形態では、上流側個別電極12Aを上流側電極基板10Aに形成し、下流側個別電極12Bを下流側電極基板10Bに形成する。そして、上流側個別電極12Aに合わせて、上流側キャビティプレート20Aに吐出室21となる凹部及び上流側振動板22Aを形成し、下流側個別電極12Bに合わせて、下流側キャビティプレート20Bに吐出室21となる凹部及び下流側振動板22Bを形成する。
【0059】
そして、例えば、上流側電極基板10Aが下側、下流側電極基板10Bが上側になるように配し、さらに上流側キャビティプレート20Aと下流側キャビティプレート20Bとを対向させる。上流側電極基板10Aと下流側電極基板10Bとを上下に配しているため、本実施の形態の液滴吐出ヘッドは、実施の形態1のようなフェイスイジェクト型ではなく、エッジイジェクト型の液滴吐出ヘッドとし、ノズル31Aを有するノズルプレート30Aをヘッド側面に備える。
【0060】
本実施の形態における液滴吐出ヘッドの製造については、実施の形態2で説明したことと同様の手順により、フォトリソグラフィ、エッチング、切削等を行って、上流側電極基板10Aと上流側キャビティプレート20Aとの積層基板及び下流側電極基板10Bと下流側キャビティプレート20Bとの積層基板を作製する。ここで、吐出室21等の凹部形成の際、ノズル31Aに連通するための流路も形成する。そして、上流側キャビティプレート20Aと下流側キャビティプレート20Bとが対向するように2つの積層基板をエポキシ系接着剤等により接着する。そして、ダイシングを行い、個々の液滴吐出ヘッドに切断する。
【0061】
一方、ノズルプレート30Aの作製については、例えば、シリコン基板に対して、ドライエッチングを行って所定の深さのノズル孔を形成すると共に個々のノズルプレートに分割するための分割溝を形成する。そして、シリコン基板を研磨してノズル孔を貫通させてノズル31Aを形成する。ノズル孔と共に形成された分割溝も同じ深さであるため、ノズル孔貫通と共に、各ノズルプレート30Aに分割される。そして、各ノズルプレート30Aを、ダイシングによって切断した接合基板にエポキシ系接着剤等を用いて接着し、液滴吐出ヘッドが完成する。吐出量制御等、制御については実施の形態1で説明したことと同じであるため、説明を省略する。
【0062】
以上のように、実施の形態3の液滴吐出ヘッドでは、上流側電極基板10Aが下側、下流側電極基板10Bが上側になるように2つに分けてそれぞれの基板に配し、各ノズル31に対する流路上に、上流側振動板22Aと下流側振動板22Bとを直列に配するようにしたので、実施の形態1と同様の効果を有する液滴吐出ヘッドを小型化することができる。
【0063】
実施の形態4.
上述の実施の形態においては、ノズル31に対し、その流路上に2つの振動板22、また、2つの個別電極12を設けるようにしたが、この数に限定するものではなく、3以上の振動板22、個別電極12を設けるようにしてもよい。
【0064】
また、残留振動抑制、吐出量変化のための振動板22の当接、離脱のタイミング制御について説明した。本発明はこれらの制御だけに限定するものではなく、他の制御を行うようにしてもよい。
【0065】
実施の形態5.
例えば上述の実施の形態では、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が積層されて構成された液滴吐出ヘッドについて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、吐出室21とリザーバ24とをそれぞれ別の基板に形成し、積層した4層の基板で構成した液滴吐出ヘッドについても適用することができる。
【0066】
実施の形態6.
図7は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置(プリンタ100)の外観図である。また、図8は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図7及び図8の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図8において、被印刷物であるプリント紙110が支持されるドラム101と、プリント紙110にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0067】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモータ106により回転駆動される。また、駆動制御回路40は、印刷用データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モータ106を駆動させる。また、ここでは図示していないが、実施の形態1で説明したようにドライバIC48から各個別電極12A、12Bに対して電荷供給を制御して任意の電圧を印加して各振動板22を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0068】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図3】駆動制御回路40を中心とする構成を表す図である。
【図4】電極基板10の作製工程例を表す図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの製造工程を示す図である。
【図6】実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図7】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。
【図8】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 電極基板、10A 上流側電極基板、10B 下流側電極基板、11 凹部、12A 上流側個別電極、13A 上流側リード部、14A 上流側端子部、12B 下流側個別電極、13B 下流側リード部、14B 下流側端子部、15 液体供給口、20 キャビティ基板、20A 上流側キャビティ基板、20B 下流側キャビティ基板、21 吐出室、22A 上流側振動板、22B 下流側振動板、23,23A,23B 絶縁膜、24 リザーバ、25,25A,25B 封止材、26 電極取り出し口、27 共通電極端子、30 ノズル基板、31 ノズル、32 ダイヤフラム、33 オリフィス、40 駆動制御回路、41 ヘッド制御部、42a CPU、42b バス、43a ROM、43b RAM、43c キャラクタジェネレータ、45 論理ゲートアレイ、46a COM発生回路、46b 駆動パルス発生回路、47 コネクタ、48 ドライバIC、49 配線、50 外部装置、51 バス、52 電源回路、60 ガラス基板、61 エッチングマスク、62 ITO膜、70 シリコン基板、71 TEOSエッチングマスク、100 プリンタ、101 ドラム、102 液滴吐出ヘッド、103 紙圧着ローラ、104 送りネジ、105 ベルト、106 モータ、107 プリント制御手段、110 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、
変位して液体を加圧する複数の振動板を直列に備え、前記ノズルに連通する液体の流路上に設けられる吐出室と、
該吐出室の振動板と対向し、各振動板との間に静電気力を発生させて前記各振動板を変位させる固定電極と
を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記固定電極は複数で構成され、それぞれ独立して配線されて各振動板と対向することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記複数の固定電極が分けられて設けられた2つの基板が、前記複数の吐出室を有する基板の両面に接合されていることを特徴とする請求項2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルをヘッド端面に設けることを特徴とする請求項3記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、前記振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、
前記2つの振動板のうち、前記ノズルに近い方の下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させ、液滴吐出のための圧力を液体に加える工程と、
液滴として前記ノズルから吐出しようとする液体の後端部分を前記流路内に引き込ませるためにもう一方の振動板である上流側振動板と上流側固定電極との間に静電気力を発生させ、前記上流側振動板を前記上流側固定電極側に引き寄せる工程と
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの吐出制御方法。
【請求項7】
ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、前記振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、
前記2つの振動板のうち、前記ノズルから遠い方の上流側振動板を上流側固定電極側に引き寄せて待機する工程と、
もう一方の振動板である下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させて下流側固定電極側に引き寄せ、前記下流側振動板と前記上流側振動板とにより液滴吐出のための圧力を液体に加える工程と
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの吐出制御方法。
【請求項8】
ノズルに連通する流路上の吐出室に直列に並んで設けられ、変位して前記液体を加圧する2つの振動板と、各振動板との間で生じさせた電位差に基づく静電気力を発生させる2つの固定電極とを備え、前記振動板を変位させて液体を加圧する液滴吐出ヘッドの吐出制御方法において、
前記2つの振動板のうち、前記ノズルに近い方の下流側振動板と下流側固定電極との間に静電気力を発生させ、液滴吐出のための圧力を液体に加える工程と、
ノズルから液滴を吐出させた後に、もう一方の振動板である上流側振動板と上流側固定電極との間に静電気力を発生させ、流路内の液体の固有振動を打ち消すような振動を前記上流側振動板に発生させる工程と
を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの吐出制御方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの吐出制御方法を適用して液滴吐出装置の吐出を制御することを特徴とする液滴吐出装置の吐出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−260237(P2008−260237A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105887(P2007−105887)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】