説明

温度計測装置、基板処理装置及び温度計測方法

【課題】光干渉を利用して測定対象物の温度を適切に計測することができる温度計測装置、基板処理装置、及び温度計測方法を提供する。
【解決手段】温度計測装置1は、データ入力部16と、ピーク間隔算出部17と、光路長算出部20と、温度算出部21とを備える。データ入力部16は、測定対象物13の表面13aへ測定光が照射され、表面13aにおいて反射された測定光と裏面13bにおいて反射された測定光とが干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力する。ピーク間隔算出部17は、入力されたスペクトルのピーク間隔を算出する。光路長算出部20は、ピーク間隔に基づいて光路長を算出する。温度算出部21は、光路長に基づいて、測定対象物13の温度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の種々の側面及び実施形態は、温度計測装置、基板処理装置及び温度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一種の温度測定システムが記載されている。特許文献1に記載された温度測定システムは、光源、スプリッタ、ミラー、駆動手段及び受光手段を備えている。光源から出射された光は、スプリッタにより測定光と参照光とに分離される。測定光は、測定対象の両端面により、それぞれ反射され、スプリッタを介して受光手段へ到達する。駆動手段によりミラーが移動し、スプリッタからミラーまでの距離がスプリッタから測定対象の一端面までの距離と同一となるとき、干渉ピークが生じる。干渉ピーク間の距離が、測定対象の両端面間の光路長となる。得られた光路長から測定対象の温度が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−220461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光路長から測定対象の温度を計測するためには、高精度な厚さ測定が要求される。このため、反射光のスペクトルをフーリエ変換してピーク値を取得する手法が考えられる。しかし、例えばスペクトルの波形が非対称となる場合には、スペクトルをフーリエ変換した波形からピークの位置を精度よく取得して、光路長を高精度に測定することは困難となる。
【0005】
このため、当技術分野においては、光干渉を利用して測定対象物の温度を適切に計測することができる温度計測装置、基板処理装置、及び温度計測方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る温度計測装置は、第1の主面及び第1の主面に対向する第2の主面を有する測定対象物の温度を計測する温度計測装置であって、測定対象物の第1の主面へ測定光が照射され、第1の主面において反射された測定光と第2の主面において反射された測定光とが干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力手段と、スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出手段と、ピーク間隔に基づいて、第1の主面から第2の主面までの光路長を算出する光路長算出手段と、光路長に基づいて、測定対象物の温度を算出する温度算出手段とを備える。
【0007】
この温度計測装置では、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出して、この光路長に基づいて測定対象物の温度を算出する。すなわち、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出することで、スペクトルの波形によらず光路長を精度よく求めることができる。これにより、測定対象物の温度を適切に計測することができる。
【0008】
一実施形態においては、ピーク間隔算出手段により算出されるピーク間隔は、互いに隣接するピークの間隔であってもよい。これによれば、ピーク間隔を容易に算出することができるので、測定対象物の温度を簡易に計測することができる。
【0009】
一実施形態においては、ピーク間隔算出手段は、複数のピーク間隔の平均値に基づいて光路長を算出してもよい。複数のピーク間隔の平均値に基づいて光路長を算出することで、第1の主面から第2の主面までの光路長をより精度良く算出することができる。
【0010】
一実施形態においては、温度算出手段は、予め取得された測定対象物の温度と光路長との相関関係に基づいて、測定対象物の温度を算出してもよい。また、一実施形態においては、光路長算出手段は、ピーク間隔と光路長との相関関係に基づいて、第1の主面から第2の主面までの光路長を算出してもよい。さらに、一実施形態においては、測定対象物は、シリコン、石英又はサファイアであってもよい。
【0011】
本発明の他の側面に係る基板処理装置は、第1の主面及び第1の主面に対向する第2の主面を有する基板に対し所定の処理を行うと共に、基板の温度を計測する基板処理装置であって、真空排気可能に構成され、基板を収容する処理室と、基板を透過する波長を有する測定光の光源と、波長又は周波数に依存したスペクトルを測定する分光器と、光源及び分光器に接続され、光源からの測定光を基板の第1の主面へ出射するとともに、第1の主面及び第2の主面からの反射光を分光器へ出射する光伝達機構と、分光器により測定された、第1の主面及び第2の主面からの反射光が干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力手段と、スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出手段と、ピーク間隔に基づいて、第1の主面から第2の主面までの光路長を算出する光路長算出手段と、光路長に基づいて、基板の温度を算出する温度算出手段とを備える。
【0012】
この基板処理装置では、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出して、この光路長に基づいて測定対象物である基板の温度を算出する。すなわち、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出することで、スペクトルの波形によらず光路長を精度よく求めることができる。これにより、測定対象物である基板の温度を適切に計測することができる。
【0013】
本発明の他の側面に係る温度計測方法は、第1の主面及び第1の主面に対向する第2の主面を有する測定対象物の温度を計測する温度計測方法であって、測定対象物の第1の主面へ測定光が照射され、第1の主面において反射された測定光と第2の主面において反射された測定光とが干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力工程と、スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出工程と、ピーク間隔に基づいて、第1の主面から第2の主面までの光路長を算出する光路長算出工程と、光路長に基づいて、測定対象物の温度を算出する温度算出工程とを備える。
【0014】
この温度計測方法では、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出して、この光路長に基づいて測定対象物の温度を算出する。すなわち、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて第1の主面から第2の主面までの光路長を算出することで、スペクトルの波形によらず光路長を精度よく求めることができる。これにより、測定対象物の温度を適切に計測することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の種々の側面及び実施形態によれば、光干渉を利用して測定対象物の温度を適切に計測することができる温度計測装置、基板処理装置、及び温度計測方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る温度計測装置を含む温度計測システムを概略的に示す図である。
【図2】分光器及び温度計測装置の機能ブロック図である。
【図3】温度計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】温度計測装置に入力されるスペクトルの一例である。
【図5】温度校正データの一例である。
【図6】(a)はスペクトルの好適な波形の一例であり、(b)は該スペクトルをフーリエ変換した波形である。(c)はスペクトルの波形の一例であり、(c)は該スペクトルをフーリエ変換した波形である。(d)はスペクトルの波形の一例であり、(e)は該スペクトルをフーリエ変換した波形である。
【図7】一実施形態に係る基板処理装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0018】
図1は、一実施形態に係る温度計測装置を含む温度計測システムの一例を示す構成図である。図1に示すように、温度計測システム50は、測定対象物13の温度を計測するシステムである。温度計測システム50は、光干渉を利用して測定対象物13の温度を計測する。温度計測システム50は、光源10、光サーキュレータ11、コリメータ12、分光器14及び温度計測装置1を備えている。なお、光源10、光サーキュレータ11、コリメータ12及び分光器14のそれぞれの接続は、例えば光ファイバケーブルを用いて行われる。
【0019】
光源10は、測定対象物13を透過する波長を有する測定光を発生させる。光源10として、例えばASE(Amplified Spontaneous Emission:自然光放出)光源が用いられる。なお、測定対象物13は、例えば板状を呈し、第1の主面13a及び第1の主面13aに対向する第2の主面13bを有している。以下では、必要に応じて、第1の主面13aを表面13a、第2主面13bを裏面13bと称して説明する。計測対象とする測定対象物13としては、例えばSi(シリコン)の他にSiO(石英)又はAl(サファイア)等が用いられる。Siの屈折率は、波長4μmにおいて3.4である。SiOの屈折率は、波長1μmにおいて1.5である。Alの屈折率は、波長1μmにおいて1.8である。
【0020】
光サーキュレータ11は、光源10、コリメータ12及び分光器14に接続されている。光サーキュレータ11は、光源10で発生した測定光をコリメータ12へ出射する。コリメータ12は、測定光を測定対象物13の表面13aへ出射する。コリメータ12は、平行光線として調整された測定光を測定対象物13へ出射する。そして、コリメータ12は、測定対象物13からの反射光を入射する。反射光には、表面13aの反射光だけではなく裏面13bの反射光が含まれる。表面13aの反射光と裏面13bの反射光とが互いに干渉して干渉光をなす。コリメータ12は、反射光を分光器14へ出射する。なお、光サーキュレータ11及びコリメータ12を備えて光伝達機構が構成される。
【0021】
分光器14は、光サーキュレータ11から得られた干渉光のスペクトルを測定する。干渉光スペクトルは、干渉光の波長又は周波数に依存した強度分布を示す。図2は、分光器14及び温度計測装置1の機能ブロック図である。図2に示すように、分光器14は、例えば、光分散素子141及び受光部142を備える。光分散素子141は、例えば、回折格子等であり、光を波長ごとに所定の分散角で分散させる素子である。受光部142は、光分散素子141によって分散された光を取得する。受光部142としては、複数の受光素子が格子状に配列されたCCD(Charge Coupled Device)が用いられる。受光素子の数がサンプリング数となる。また、光分散素子141の分散角及び光分散素子141は受光素子との距離に基づいて、波長スパンが規定される。これにより、干渉光は波長又は周波数ごとに分散され、波長又は周波数ごとにスペクトルが取得される。分光器14は、干渉光スペクトルを温度計測装置1へ出力する。
【0022】
温度計測装置1は、干渉光スペクトルに基づいて測定対象物13の温度を計測する。温度計測装置1は、データ入力部(データ入力手段)16、ピーク間隔算出部(ピーク間隔算出手段)17、光路長算出部(光路長算出手段)20、温度算出部(温度算出手段)21及び温度校正データ22を備えている。ピーク間隔算出部17は、ピーク周波数検出部18及び周波数差算出部19を備えている。光路長算出部20は、ピーク間隔に基づいて光路長を算出する。
【0023】
温度算出部21は、光路長に基づいて、測定対象物13の温度を算出する。温度算出部21は、温度校正データ22を参照して測定対象物13の温度を算出する。温度校正データ22は、予め測定されたデータであり、温度と光路長との相関関係を示すものである。
【0024】
上記構成を有する温度計測システム50によって、測定対象物13の表面13aと裏面13bとの光干渉を利用して温度を測定する(周波数領域光コヒーレンストモグラフィ)。以下、干渉光スペクトルのピーク間隔に基づいて光路長を得る方法について説明する。光源10からの測定光を入射光とすると、入射光スペクトルS(λ)は波長λに依存する。測定対象物13の厚さをd、屈折率をn、反射率をRとする。反射光スペクトルI(λ)は、入射光スペクトルS(λ)と下記式(1)で示す関係がある。
【数1】


波長λを周波数vに変換すると、上記式(1)は下記式(2)で示される。
【数2】

【0025】
上記式(2)において、余弦関数の変数が2πの整数倍であるときに、干渉光はピークを有する。従って、ピークとなる周波数は、下記式(3)で示される。
【数3】


ここで、v,v,v,…,vは、ピークの周波数である。また、mは1以上の整数である。すなわち、例えばmが1であるとき、mは2であり、mは3である。cは干渉光の光速である。周波数差は、例えばv−v,v−v、…v−vN−1である。すなわち、下記式(4)で示される。なお、添え字Nは2以上の整数である。
【数4】


従って、上記式(4)を変形すると、光路長ndは下記式(5)で示される。
【数5】


上記式(5)により、ピーク間隔と光路長ndとの相関が示される。なお、上記式(5)の右辺に示す一般式において添え字iは2以上の整数である。
【0026】
次に、温度計測装置1を含む温度計測システム50の温度計測動作について説明する。図3は、温度計測システム50の動作を示すフローチャートである。図3に示す制御処理は、例えば光源10及び温度計測装置1の電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。
【0027】
図3に示すように、干渉光スペクトルの入力処理から開始する(S10:データ入力工程)。光源10は、測定光を発生する。分光器14は、測定対象物13の表面13aで反射した反射光と裏面13bで反射した反射光とが干渉してなる干渉光のスペクトルを取得する。データ入力部16は、分光器14から干渉光のスペクトルを入力する。S10の処理が終了すると、ピーク抽出処理(S12)へ移行する。
【0028】
S12の処理では、ピーク周波数検出部18が、S10の処理で得られたスペクトルの波形からピークを抽出して、抽出されたピークに対応する周波数を取得する。例えば、図4に示すように、干渉光のスペクトルの波形には、複数のピークが存在する。図4は、横軸が干渉光の周波数であり、縦軸が干渉光の強度である。図4に示された干渉光のスペクトルでは、1.92×1014〜1.93×1014Hzの周波数帯において、11個のピークP1〜P11を有する。S12の処理では、分光器14が有する分光波長域の全範囲において、ピークの周波数を抽出する。例えば、上記式(2)を用いて、図4に示す干渉光のスペクトル波形の近似式を求めて、近似式を微分することによりピークの周波数を抽出する。本実施形態では、ピークの周波数は複数抽出される。S12の処理が終了すると、周波数差算出処理へ移行する(S14)。なお、S12の処理及びS14の処理がピーク間隔算出工程となる。
【0029】
S14の処理では、周波数差算出部19が、S12の処理で得られた複数のピークの周波数に基づいて、隣り合うピークの間隔(v−vi−1)を算出する。ピーク間隔は、それぞれのピークを規定する周波数の差として定義される。すなわち、ピーク間隔は、ピーク強度に対応する周波数の差である。S12の処理において、3以上のピークの周波数を抽出した場合には、周波数差算出部19は、ピーク間隔をそれぞれ算出し、算出されたピークの間隔の平均値を算出する。S14の処理が終了すると、光路長算出処理へ移行する(S16:光路長算出工程)。
【0030】
S16の処理では、光路長算出部20が、S14の処理で得られたピークの間隔に基づいて、光路長ndを算出する。光路長ndは、周波数差及び上記式(5)から算出される。S16の処理が終了すると、温度計算処理へ移行する(S18)。
【0031】
S18の処理では、温度算出部21が、S16の処理で得られた光路長ndを用いて温度を算出する(温度算出工程)。測定対象物の温度と光路長とは、例えば図5に示す相関関係を有する。温度算出部21は、例えば図5に示す温度校正データ22を用いて温度を算出する。図5は、横軸が光路長ndであり、縦軸が温度である。温度校正データ22は、予め測定対象物13ごとに取得される。以下では、温度校正データ22の事前作成例について説明する。例えば、温度制御に黒体炉を使用して実測する。温度Tと、温度Tにおける光路長ndを同時に計測する。温度Tは、熱電対等の温度計を用いて測定する。また、光路長ndは、上述したスペクトルのピーク間隔を利用した手法で測定する。そして、温度と規格化された光路長ndを100℃ごとに区分して、3次式で近似することで、近似曲線の係数を導出する。図5の左上に示す数式が3次式の数式である。なお、温度Tに依存した規格化された光路長ndの関数を下記式(6)で表す。
【数6】


また、f(T)の逆関数を下記式(7)のように示す。
【数7】


光路長nd40は、イニシャル温度Tとその時の光路長ndT0に基づいて下記式(8)により算出される。
【数8】


上記式(5)に基づいて得られた光路長nd40及び光路長ndに基づいて、温度Tを上述した上記式(8)を用いて導出する。S18の処理が終了すると、図3に示す制御処理を終了する。
【0032】
以上、一実施形態に係る温度計測システム50及びその方法によれば、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて表面13aから裏面13bまでの光路長ndを算出して、この光路長に基づいて測定対象物13の温度を算出する。すなわち、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて表面13aから裏面13bまでの光路長ndを算出することで、スペクトルの波形によらず光路長ndを精度よく求めることができる。これにより、測定対象物13の温度を適切に計測することができる。
【0033】
以下では、一実施形態に係る温度計測システム50と対比すべく、スペクトルをフーリエ変換してピークの位置を求める場合を説明する。図6(a)はスペクトルの波形の一例である。図6(a)に示されたスペクトルの波形は、分光器14の分光波長域が光源10から出射される光の波長域よりも充分に広く設定され、且つ分光器14の分光波長の中心周波数と光源10から出射される光の波長の中心周波数とが一致している場合の波形である。図6(a)に示されたスペクトルの波形をフーリエ変換すると、図6(b)に示された波形を得る。図6(b)に示された波形からは、光路長を示すピークの位置を精度良く求めることができる。
【0034】
一方、図6(c)は、スペクトルの波形の別の例である。図6(c)に示されたスペクトルの波形は、分光器14の分光波長域が光源10から出射される光の波長域よりも狭く設定され、且つ分光器14の分光波長の中心周波数と光源10から出射される光の波長の中心周波数とが一致している場合の波形である。図6(c)に示されたスペクトルの波形をフーリエ変換すると、図6(d)に示された波形を得る。図6(d)に示すように、ピークが急峻となるため、光路長を示すピークの位置を精度良く求めることが困難である。
【0035】
また、図6(e)は、スペクトルの波形のさらに別の例である。図6(e)に示されたスペクトルの波形は、分光器14の分光波長域が光源10から出射される光の波長域よりも充分に広く設定されているが、分光器14の分光波長の中心周波数と光源10から出射される光の波長の中心周波数とが一致していない場合の波形である。図6(e)に示されたスペクトルの波形をフーリエ変換すると、図6(f)に示された波形を得る。図6(f)に示すように、波形が崩れるため、光路長を示すピークの位置を精度良く求めることが困難である。
【0036】
このように、フーリエ変換を用いて光路長を示すピークを精度良く求めるためには分光器14の分光波長域が光源10から出射される光の波長域よりも広く設定され、且つ分光器14の分光波長の中心周波数と光源10から出射される光の波長の中心周波数とが一致させる必要があることがわかる。
【0037】
これに対して、一実施形態に係る温度計測装置1及びその方法によれば、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて表面13aから裏面13bまでの光路長ndを算出することで、スペクトルの波形によらず光路長ndを精度よく求めることができる。従って、光源10から出射される光の波長域と、分光器14において分光される光の波長域との関係を厳密に設定することなく、光路長ndを精度良く求めることができる。
【0038】
なお、上述した実施形態は温度計測装置1及び温度計測方法の一例を示すものであり、実施形態に係る装置及び方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0039】
例えば、基板処理装置に一実施形態で説明した温度計測装置1を搭載させてもよい。図7は、基板処理装置の一例である。ここでは、例えばプラズマエッチング装置などの基板処理装置における測定対象物13の例としてウエハ(基板)Twの温度測定に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0040】
測定光の元になる光源10としては、測定対象物であるウエハTwの両端面S1,S2を透過し反射する光を照射可能なものを使用する。例えばウエハTwはシリコンで形成されるので、シリコンやシリコン酸化膜などのシリコン材を透過可能な1.0〜2.5μmの波長を有する光を照射可能なものを光源10として使用する。
【0041】
基板処理装置300には、図7に示すように、例えばウエハTwに対してエッチング処理や成膜処理などの所定の処理を施す処理室310を備える。すなわちウエハTwは、処理室310に収容される。処理室310は図示しない排気ポンプに接続され、真空排気可能に構成されている。処理室310の内部には、上部電極350と、上部電極350に対向する下部電極340とが配設されている。下部電極340は、ウエハTwを載置する載置台を兼ねている。下部電極340の上部には、例えばウエハTwを静電吸着する静電チャック(図示しない)が設けられている。また、下部電極340には、冷却手段が設けられている。この冷却手段は、例えば、下部電極340の温度を制御する。これにより、ウエハTwの温度を制御する。ウエハTwは、例えば処理室310の側面に設けられたゲートバルブ(図示しない)から処理室310内に搬入される。これら下部電極340、上部電極350にはそれぞれ所定の高周波電力を印加する高周波電源320,330が接続されている。
【0042】
上部電極350は、最下部に位置する電極板351を電極支持体352で支持するように構成されている。電極板351は例えばシリコン材(シリコン、シリコン酸化物など)で形成され、電極支持体352は例えばアルミ材で形成される。上部電極350の上部には、所定の処理ガスが導入される導入管(図示しない)が設けられている。この導入管から導入された処理ガスが下部電極340に載置されたウエハTwに向けて均一に吐出するように、電極板351には多数の吐出孔(図示しない)が穿設されている。
【0043】
上部電極350は、冷却手段が設けられている。この冷却手段は、例えば上部電極350の電極支持体352内に形成される冷媒流路に冷媒を循環させることにより、上部電極350の温度を制御するものである。冷媒流路は略環状に形成されており、例えば上部電極350の面内のうち外側を冷却するための外側冷媒流路353と、内側を冷却するための内側冷媒流路354の2系統に分けて形成される。これら外側冷媒流路353及び内側冷媒流路354はそれぞれ、図7に示す矢印で示すように冷媒が供給管から供給され、各冷媒流路353,354を流通して排出管から排出されて、外部の冷凍機(図示せず)へと戻り、循環するように構成されている。これら2系統の冷媒流路には同じ冷媒を循環させてもよく、図7に示す2系統の冷媒流路を備えるものに限られず、例えば1系統のみの冷媒流路を備えるものであってもよく、また1系統で2分岐する冷媒流路を備えるものであってもよい。
【0044】
電極支持体352は、外側冷媒流路353が設けられる外側部位と、内側冷媒流路354が設けられる内側部位との間に、低熱伝達層356が設けられている。これにより、電極支持体352の外側部位と内側部位との間は低熱伝達層356の作用により熱が伝わり難いため、外側冷媒流路353と内側冷媒流路354との冷媒制御によって、外側部位と内側部位とが異なる温度になるように制御することも可能である。こうして、上部電極350の面内温度を効率よく的確に制御することが可能となる。
【0045】
このような基板処理装置300では、ウエハTwは例えば搬送アームなどによりゲートバルブを介して搬入される。処理室310に搬入されたウエハTwは、下部電極340上に載置され、上部電極350と下部電極340には高周波電力が印加されるとともに、上部電極350から処理室310内へ所定の処理ガスが導入される。これにより、上部電極350から導入された処理ガスはプラズマ化され、ウエハTwの表面に例えばエッチング処理などが施される。
【0046】
上記温度計測装置1における測定光は、コリメータ12に設けられた光ファイバFを介して、下部電極340から測定対象物であるウエハTwへ向けて照射する測定光照射位置まで伝送されるようになっている。具体的には、光ファイバFは下部電極340に例えば中央部に形成された貫通孔344を介して、測定光がウエハTwへ向けて照射されるように配設される。なお、光ファイバFを配設するウエハTwの面内方向の位置としては、測定光がウエハTwへ照射される位置であれば。図7に示すようなウエハTwの中央部でなくてもよい。例えば測定光がウエハTwの端部へ照射されるように光ファイバFを配設してもよい。
【0047】
以上、基板処理装置300に温度計測装置1を含む温度計測システム50を搭載することで、エッチング処理中の測定対象物であるウエハTwの温度を計測することができる。なお、上述したイニシャル温度Tは、ウエハTwを下部電極340に静電吸着させ、所定の処理ガスの圧力が安定したときに測定する。例えば、下部電極340に熱電対を装着し、下部電極340の温度をウエハTwの温度とし、この時の光路長ndをイニシャル長さとしてもよい。また、下部電極340に接触式の温度計を備え、ウエハ搬送時に測定してもよい。なお、ここではウエハの温度を計測する例を説明したが、上部電極やフォーカスリング等のチャンバー内パーツが測定光に対して透過性を有する材質の場合は、該チャンバー内パーツの温度を計測してもよい。この場合、チャンバー内パーツの材質として、シリコン、石英又はサファイア等が用いられる。
【0048】
また、上述した実施形態では、光サーキュレータ11を備える例を説明したが、2×1又は2×2のフォトカプラであってもよい。2×2のフォトカプラを採用する場合、参照ミラーは備えなくてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、分光器14を備える例を説明した。上述した実施形態では、干渉光のスペクトルのピーク間隔に基づいて光路長ndを算出している。このため、例えばWDM(Wavelength Division Multiple)モニタのようにピークの値とピークの周波数を出力する光伝達装置を分光器14の代わりに用いてもよい。また、上述した実施形態では、ピーク間隔は、一のピークに対応する周波数と、一のピークに隣接する別のピークに対応する周波数との差とした。しかし、ピーク間隔はこれに限定されることはない。例えば、図4に示すスペクトルにおいて、偶数番号のピークP2,P4,P6,P8,P10を抽出して、それらのピークの間隔を算出してもよい。すなわち、ピーク間隔は、v2i−v2(i―1)(iは2以上の整数)により示される。また、奇数番号のピークP1,P3,P5,P7,P9,P11を抽出して、それらのピークの間隔を算出してもよい。すなわち、ピーク間隔は、v2i−1−v(2(i−1)−1)(iは2以上の整数)により示される。
【符号の説明】
【0050】
1…温度計測装置、10…光源、11…光サーキュレータ(光伝達機構)、12…コリメータ(光伝達機構)、13…測定対象物、14…分光器、16…データ入力部、17…ピーク間隔算出部、18…ピーク周波数検出部、19…周波数差算出部、20…光路長算出部、21…温度算出部、22…温度校正データ、141…光分散素子、142…受光部、300…基板処理装置、310…処理室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有する測定対象物の温度を計測する温度計測装置であって、
前記測定対象物の前記第1の主面へ測定光が照射され、前記第1の主面において反射された前記測定光と前記第2の主面において反射された前記測定光とが干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力手段と、
前記スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出手段と、
前記ピーク間隔に基づいて、前記第1の主面から前記第2の主面までの光路長を算出する光路長算出手段と、
前記光路長に基づいて、前記測定対象物の温度を算出する温度算出手段と、
を備える温度計測装置。
【請求項2】
前記ピーク間隔算出手段により算出される前記ピーク間隔は、互いに隣接するピークの間隔である請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記ピーク間隔算出手段は、複数の前記ピーク間隔の平均値に基づいて前記光路長を算出する請求項1又は2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記温度算出手段は、予め取得された前記測定対象物の温度と前記光路長との相関関係に基づいて、前記測定対象物の温度を算出する請求項1〜3の何れか一項に記載の温度計測装置。
【請求項5】
前記光路長算出手段は、前記ピーク間隔と前記光路長との相関関係に基づいて、前記第1の主面から前記第2の主面までの前記光路長を算出する請求項1〜4の何れか一項に記載の温度計測装置。
【請求項6】
前記測定対象物は、シリコン、石英又はサファイアからなる請求項1〜5の何れか一項に記載の温度計測装置。
【請求項7】
第1の主面及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有する基板に対し所定の処理を行うと共に、前記基板の温度を計測する基板処理装置であって、
真空排気可能に構成され、前記基板を収容する処理室と、
前記基板を透過する波長を有する測定光の光源と、
波長又は周波数に依存したスペクトルを測定する分光器と、
前記光源及び前記分光器に接続され、前記光源からの測定光を前記基板の前記第1の主面へ出射するとともに、前記第1の主面及び前記第2の主面からの反射光を前記分光器へ出射する光伝達機構と、
前記分光器により測定された、前記第1の主面及び前記第2の主面からの反射光が干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力手段と、
前記スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出手段と、
前記ピーク間隔に基づいて、前記第1の主面から前記第2の主面までの光路長を算出する光路長算出手段と、
前記光路長に基づいて、前記基板の温度を算出する温度算出手段と、
を備える基板処理装置。
【請求項8】
第1の主面及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有する測定対象物の温度を計測する温度計測方法であって、
前記測定対象物の前記第1の主面へ測定光が照射され、前記第1の主面において反射された前記測定光と前記第2の主面において反射された前記測定光とが干渉して得られる干渉光のスペクトルを入力するデータ入力工程と、
前記スペクトルのピーク間隔を算出するピーク間隔算出工程と、
前記ピーク間隔に基づいて、前記第1の主面から前記第2の主面までの光路長を算出する光路長算出工程と、
前記光路長に基づいて、前記測定対象物の温度を算出する温度算出工程と、
を備える温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7665(P2013−7665A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140890(P2011−140890)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】