説明

湿度センサ装置

【課題】水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置を提供する。
【解決手段】湿度センサ1は、表面電極7と下部電極12との間に電子通過部6を有し大気圧中へ電子を放出可能な電子源10と、表面電極7に対向配置されるアノード電極14と、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として駆動電圧を印加する駆動手段としての駆動電源Edと、アノード電極14と表面電極7との間にアノード電極14を高電位側として加速電圧を印加する加速電圧印加手段としての加速用電源Eaとを備える。信号処理部50は、アノード電極14と表面電極7との間に流れる電流の電流値に基づいて湿度を求める演算手段を備える。電子源10の表面電極7は、電子通過部6が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段としての防湿部8を兼ねている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度センサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、湿度センサ装置などに使用する湿度センサとして、多孔質シリコンを利用した感湿素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、上記特許文献1に開示された感湿素子は、シリコン基板の一表面側に酸化処理を施した多孔質シリコン層からなる感湿部が形成されるとともに、感湿部の中央部上およびシリコン基板の他表面(裏面)それぞれに電極が形成されており、水分の吸着によって抵抗値が変化する。すなわち、上記特許文献1に開示された感湿素子は、周囲湿度に応じて抵抗値が変化する。なお、上述の多孔質シリコン層は、シリコン基板を陽極とした陽極酸化処理により形成されている。
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示された感湿素子のように周囲湿度に応じて抵抗値が変化する感湿素子では出力値に周囲温度の影響による誤差を含むので、この種の感湿素子を利用した湿度センサ装置の出力値の誤差を小さくするには、周囲温度に応じて出力値を補正することが必要である。したがって、この種の湿度センサ装置では、例えば、湿度センサ(上記感湿素子)および温度センサそれぞれの出力を各別の増幅回路により増幅して各別のA/D変換器を用いてディジタル値に変換した後に信号処理部に入力し、信号処理部の演算手段にて温度センサの出力を用いて湿度センサの出力を補正するように構成することにより、周囲温度に関わりなく正確な出力値を得ることができる。
【特許文献1】特許第2559682号公報(第2頁左欄第18行〜第24行、第2頁左欄第47行〜右欄第5行、第2頁右欄第8行〜第20行、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置では、湿度センサとして水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を利用しているので、感湿部における水分の吸着、脱離、乾燥などに伴うストレスに起因して感湿素子の寿命が短く、湿度センサ装置の寿命が感湿素子の寿命により制限されてしまうという不具合があった。
【0006】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
なお、本願発明者らは、多結晶シリコン層に陽極酸化処理を施し更に酸化処理を施すことにより形成した電子通過部を表面電極と下部電極との間に備えた電界放射型電子源に関する研究過程において、電界放射型電子源の表面電極に対向するアノード電極を設けて大気中で電界放射型電子源から電子を放出させた場合、雰囲気の湿度に応じてアノード電極と表面電極との間に流れるエミッション電流の電流値が変化するという知見を得て、この知見に基づいて本願発明を行った。
【0008】
請求項1の発明は、表面電極と下部電極との間に電子通過部を有し下部電極から電子通過部へ注入された電子が電子通過部を通過し表面電極を通して大気圧中へ放出される電子源と、電子源の表面電極に対向配置されるアノード電極と、電子源の表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として駆動電圧を印加する駆動手段と、アノード電極と表面電極との間にアノード電極を高電位側として加速電圧を印加する加速電圧印加手段と、アノード電極と表面電極との間に流れる電流の電流値に基づいて湿度を求める演算手段とを備え、電子源に、電子通過部が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段を設けてなることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、電子源とアノード電極との間の空間の湿度に応じてアノード電極と表面電極との間に流れる電流の電流値が変化し、しかも、電子源に防湿手段が設けられていることにより電子源の電子通過部に水分が吸着して電子源の抵抗値が変化するとともに電子通過部がストレスを受けるのを防止することができるので、水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置として用いることができる。
【0010】
請求項2の発明は、表面電極と下部電極との間に電子通過部を有し下部電極から電子通過部へ注入された電子が電子通過部を通過し表面電極を通して大気圧中へ放出される電子源と、電子源の表面電極に対向配置されるアノード電極と、電子源の表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として単パルスの駆動電圧を印加する駆動手段と、アノード電極と表面電極との間にアノード電極を高電位側として前記駆動電圧に同期する単パルスの加速電圧を印加する加速電圧印加手段と、アノード電極における表面電極との対向面に配設された絶縁体層と、絶縁体層の帯電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段による検出電圧が所定の閾値に低下するまでの時間に基づいて湿度を求める演算手段とを備え、電子源に、電子通過部が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段を設けてなることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、電子源とアノード電極との間の空間の湿度に応じて電圧検出手段による検出電圧が所定の閾値に低下するまでの時間が変化し、しかも、電子源に防湿手段が設けられていることにより電子源の電子通過部に水分が吸着して電子源の抵抗値が変化するとともに電子通過部がストレスを受けるのを防止することができるので、水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置として用いることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記電子源における前記表面電極の膜厚を、前記下部電極から前記電子通過部を通過して前記表面電極へ到達した電子がトンネル可能であって且つ前記表面電極の表面側から前記電子通過部への水分の侵入を防止可能な膜厚に設定してあり、前記表面電極が、前記防湿手段を兼ねていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記防湿手段として特別な構造を設ける必要がないので、低コスト化を図れる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記電子源と前記アノード電極とが収納されたケースを備え、ケースには、前記電子源と前記アノード電極との間の空間へ湿度検出対象のガスを導入するガス導入口が設けられてなることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、湿度検出対象のガスの湿度を精度良く求めることができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1,2の発明では、水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置として用いることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
本実施形態の湿度センサ装置は、図1(a)に示すように、周囲湿度に応じて出力値が変化する湿度センサ1と、湿度センサ1の周囲温度に応じて抵抗値が変化する温度センサ2とを備えており、湿度センサ1が周囲湿度に対応した電流値(アナログ信号)を出力し、温度センサ2が周囲温度に対応した電流値(アナログ信号)を出力する。
【0018】
また、本実施形態の湿度センサ装置は、各センサ1,2それぞれの出力を電流−電圧変換する2つのI/V変換回路21,22と、各I/V変換回路21,22それぞれの出力を増幅する増幅回路31,32と、各増幅回路31,32それぞれの出力をアナログ−ディジタル変換する2つのA/D変換器41,42と、両A/D変換器41,42の出力に基づいて温度補償した湿度を求めて出力するマイクロコンピュータからなる信号処理部50とを備えている。
【0019】
要するに、本実施形態の湿度センサ装置は、湿度センサ1の出力を電圧値に変換し増幅回路31により増幅してA/D変換器41を用いてディジタル値に変換した後に信号処理部50に入力するとともに、温度センサ2の出力を電圧値に変換し増幅回路32により増幅してA/D変換器42を用いてディジタル値に変換した後に信号処理部50に入力し、温度センサ2の出力を用いて湿度センサ1の出力を補正するのである。信号処理部50には、湿度センサ1の出力と湿度値との対応関係を第1のテーブルとして格納した第1のメモリと、温度センサ2の出力に応じた補正値を第2のテーブルとして格納した第2のメモリとが設けられており、信号処理部50の演算回路(図示せず)にて、A/D変換器41の出力値に基づいて第1のメモリから湿度値を読み出すとともに、A/D変換器42の出力値に基づいて第2のメモリから補正値を読み出し、湿度値を補正値により補正する。この構成により、周囲温度に関わりなく正確な出力値を得ることができるのである。
【0020】
ところで、本実施形態の湿度センサ装置では、上述の湿度センサ1として、図1(b)に示すような電子源10を利用している点に特徴がある。なお、図1(b)中の一点鎖線の矢印は電子源10から放出された電子eの流れを示している。また、温度センサ2としては、従来から提供されている各種温度センサ(例えば、サーミスタなど)を採用可能であるが、出力として電圧値が得られる温度センサを採用する場合には、上述のI/V変換回路22が不要となる。
【0021】
電子源10は、矩形板状の絶縁性基板(例えば、絶縁性を有するガラス基板、絶縁性を有するセラミック基板など)11の一表面上に導電層(例えば、金属層、高濃度多結晶シリコン層など)からなる下部電極12が形成され、下部電極12上に電子通過部6が形成され、電子通過部6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)からなる表面電極7が形成されており、下部電極12から電子通過部6へ注入された電子が電子通過部6を通過し表面電極7を通して大気圧中へ放出される。また、湿度センサ1は、上述の電子源10の他に、電子源10の表面電極7に対向配置されるアノード電極14と、電子源10の表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として駆動電圧を印加する駆動手段としての駆動電源Edと、アノード電極14と表面電極7との間にアノード電極14を高電位側として加速電圧を印加する加速電圧印加手段としての加速用電源Eaと、アノード電極14と表面電極7との間に流れる電流を検出する電流検出手段としての電流センサ15とを備え、電流センサ15の出力がI/V変換回路21へ入力される。したがって、上述の演算回路が電子源10のアノード電極14と表面電極7との間に流れる電流の電流値に基づいて湿度を求める演算手段を構成している。
【0022】
電子源10の電子通過部6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図2に示すように、少なくとも、下部電極12の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜である多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)64とから構成されると考えられる。ここに、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板11の厚み方向に延びている)。
【0023】
上述の電子源10では、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に駆動電源Edから駆動電圧を印加すれば、下部電極12から電子通過部6へ注入された電子が電子通過部6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図2中の上向きの矢印は表面電極7を通して放出される電子eの流れを示す)。ここに、電子通過部6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし大気圧中に放出される。なお、本実施形態における電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として印加する駆動電圧を8〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、駆動電圧が大きいほどエミッション電流が大きくなる(つまり、電流センサ15の出力が大きくなる)とともに放出される電子のエネルギが高くなる。ここにおいて、電子源10へ与える駆動電圧はパルス状の定電圧(例えば、8V)であり、駆動電圧を印加していない時にパルス状の逆バイアス電圧(例えば、−6V)を印加するようにすれば、電子源10の電子通過部6へ電子がトラップされることによる電子源10の経時的な劣化を抑制でき、長寿命化を図ることができる。ここで、逆バイアス電圧の絶対値は、例えば、逆方向電流の絶対値が、駆動電圧の印加時に流れる順方向電流の絶対値の10〜30%程度の値になるように設定すればよい。また、アノード電極14と表面電極7との間に与える加速電圧は1kVに設定してあるが、加速電圧は特に限定するものではなく、例えば、1kV〜10kVの範囲で適宜設定すればよい。
【0024】
本実施形態における電子源10の基本構成は周知であり、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として電圧を印加することにより、下部電極12から電子通過部6へ電子eが注入される。一方、電子通過部6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子eはシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、電子通過部6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図2中の矢印の向き(図2における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし放出される。しかして、電子通過部6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、電子通過部6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。
【0025】
図3には湿度センサ1の出力特性の一例として周囲温度が24℃の場合について、湿度センサ1の周囲湿度と電流センサ15により検出される電流の電流密度との関係データを示す。図3から、周囲湿度が高くなるにつれて電流密度が徐々に減少していることが分かる。なお、上述の第1のテーブルは例えば図3の結果に基づいて作成すればよい。
【0026】
以下、電子通過部6の形成方法の一例について説明する。
【0027】
電子通過部6の形成にあたっては、まず、絶縁性基板11上に形成した下部電極12上にノンドープの多結晶シリコン層を例えばLPCVD法などにより形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図2参照)と多数のシリコン微結晶63(図2参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)を形成する。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が2mA/cmの電流)を所定時間(例えば、30秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層を形成する。
【0028】
ナノ結晶化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、図2のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる電子通過部6を形成する。酸化プロセスでは、例えば、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cmの電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなる電子通過部6を形成するようになっている。ここにおいて、上述のノンドープの多結晶シリコン層のうち下部電極12の厚み方向に直交する面内で電子通過部6の周囲に残った部分は素子分離部3を構成する。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、電子通過部6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第1の複合ナノ結晶層は多孔質多結晶シリコン層とみなすことができる。
【0029】
ところで、上記構成の電子源10をディスプレイ用の電子源として用いる場合にはエミッション電流および電子放出効率を高める必要があり表面電極7の膜厚を薄くする方が望ましく、表面電極7の膜厚を10nm程度に設定することが好ましいが、本実施形態では、電子源10を湿度センサ1の構成要素として利用しており、電子通過部6が湿度の影響を受けないようにする必要があるので、電子通過部6が湿度の影響を受けないように表面電極7の膜厚を20nm〜50nmの範囲で設定してある。すなわち、本実施形態では、電子源10における表面電極7の膜厚を、下部電極12から電子通過部6へ注入されて電子通過部6を通過して到達した電子がトンネル可能であって且つ表面電極7の表面側から電子通過部6への水分の侵入を防止可能な膜厚に設定してあり、表面電極7が、電子通過部6が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段としての防湿部8を兼ねている。ここにおいて、本実施形態では、表面電極7の材料として、Auを採用しているが、表面電極7の材料はAuに限定するものではなく、例えば、Cr,Pt,Irなどの他の金属や、TaNなどの導電性窒化物や、HfCなどの導電性炭化物、などを採用してもよい。また、表面電極7の成膜方法としては、スパッタ法を採用しているが、スパッタ法に限らず、電子ビーム蒸着法やCVD法などを採用してもよい。なお、表面電極7は、単層構造に限らず、多層構造としてもよい。
【0030】
以上説明した本実施形態の湿度センサ装置では、電子源10とアノード電極14との間の空間の湿度に応じてアノード電極14と表面電極7との間に流れる電流の電流値が変化し、しかも、電子源10に防湿部8が設けられていることにより電子源10の電子通過部6に水分が吸着して電子源10の抵抗値が変化するとともに電子通過部6がストレスを受けるのを防止することができるので、従来のように水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置として用いることができるのである。また、上述のように表面電極7が防湿手段としての防湿部8を兼ねているので、防湿手段として特別な構造を設ける必要がなく、低コスト化を図れる。
【0031】
(実施形態2)
本実施形態の湿度センサ装置では、図4に示すように湿度センサ1の構成の一部が実施形態1とは相違し、アノード電極14における表面電極7との対向面に配設される絶縁体層16と、絶縁体層16の帯電圧(絶縁体層16とグランドとの間の電位)を検出する電圧検出手段17とを備え、電流センサ15を設けていない点などが相違する。ここにおいて、絶縁体層16の材料は、電子源10から放出された電子により帯電しやすい材料であればよく、例えばブラスチックやシリコンなどを採用すればよい。また、本実施形態では、駆動電源Edが、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として単パルスの駆動電圧を印加する駆動手段を構成し、加速用電源Eaが、アノード電極14と表面電極7との間にアノード電極14を高電位側として上記駆動電圧に同期する単パルスの加速電圧を印加する加速電圧印加手段を構成している。なお、湿度センサ1における電子源10の構造は実施形態1と同じである。
【0032】
ところで、本実施形態における湿度センサ1では、表面電極7と下部電極12との間に駆動電源Edから図5(a)に示すような単パルスの駆動電圧(例えば、最大値がVdでパルス幅が100msecの電圧)を印加するとともに、アノード電極14と表面電極7との間に加速用電源Eaから単パルスの加速電圧を印加した場合、電圧検出手段17の出力電圧は図5(b)に示すようになり、駆動電圧および加速電圧がオフになった時点からの出力電圧の立下り特性が周囲湿度に応じて異なる。図5(b)には立下り特性として実線「イ」と一点鎖線「ロ」と二点鎖線「ハ」との3種類の立下り特性を示してあるが、これら3つの立下り特性は実線「イ」が最も湿度が低い場合、二点鎖線「ハ」が最も湿度が高い場合を示しいる(つまり、実線「イ」、一点鎖線「ロ」、二点鎖線「ハ」の順に湿度が高くなる)。図5(b)から分かるように、電圧検出手段17による検出電圧が初期値V1から所定の閾値Vth(例えば、初期値V1の10%の値)に低下するまでの時間をそれぞれT1,T2,T3とすれば、T1>T2>T3となる。なお、本実施形態では、閾値Vthを初期値V1の10%の値に設定してあるが、閾値Vthは特に限定するものではなく、例えば、初期値V1の5〜50%の範囲で適宜設定すればよい。
【0033】
また、本実施形態における湿度センサ装置では、信号処理部50における演算手段が、電圧検出手段17による検出電圧の立下り特性において所定の閾値Vthに低下するまでの時間に基づいて湿度を求め、温度センサ2の出力に基づいて温度補正を行う点が相違する。
【0034】
以上説明した本実施形態の湿度センサ装置では、電子源10とアノード電極14との間の空間の湿度に応じて電圧検出手段17による検出電圧が所定の閾値Vthに低下するまでの時間が変化し、しかも、電子源10に防湿部8が設けられていることにより電子源10の電子通過部6に水分が吸着して電子源10の抵抗値が変化するとともに電子通過部6がストレスを受けるのを防止することができるので、従来のように水分の吸着により抵抗値が変化する感湿素子を湿度センサとして利用した湿度センサ装置に比べて長寿命化が可能な新規の湿度センサ装置として用いることができるのである。また、上述のように表面電極7が防湿部8を兼ねているので、防湿手段として特別な構造を設ける必要がなく、低コスト化を図れる。
【0035】
(実施形態3)
本実施形態の湿度センサ装置の基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、電子源10とアノード電極14とが収納されたケース70を備え、ケース70には、電子源10とアノード電極14との間の空間へ湿度検出対象のガスを導入するガス導入口72が設けられている点などが相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については説明を省略する。
【0036】
ケース70は、電子源10とアノード電極14とが収納される直方体状のケース本体70aを備えており、図6を用いて上下方向および左右方向を規定すれば、ケース本体70aの下壁における上壁との対向面に電子源10が配置され、ケース本体70aの上壁における電子源10との対向部位にアノード電極14が配置されている。また、ケース70は、ケース本体70aの左側壁から左側方に突出した円筒状の導入部71の先端面にガス導入口72が設けられ、ケース本体70aの右側壁から右側方に突出した円筒状の導出部73の先端面にガス導出口74が設けられており、導入部71および導出部73それぞれの流路の断面積がケース本体70aの流路の断面積よりも小さくなっている。図6において左側の矢印F1はガス導入口72へ供給されるガスの流れ方向を示し、右側の矢印F2はガス導出口74を通して排出されるガスの流れ方向を示している。なお、導入部71および導出部73の流路の断面積は、ケース本体70aの流路の断面積と同じであってもよいし、ケース本体70aの流路の断面積よりも大きくてもよい。
【0037】
しかして、本実施形態の湿度センサ装置では、ケース70内において電子源10とアノード電極14との間の空間に湿度検出対象のガスが供給されるので、湿度検出対象のガスの湿度を精度良く求めることができる。
【0038】
ところで、本実施形態では上述のケース70を実施形態1の湿度センサ1に適用した例について説明したが、上述のケース70を実施形態2の湿度センサ1に適用してもよく、この場合には、アノード電極14と表面電極7との間に入力電圧を印加することで湿度センサ1の絶縁体層16を帯電させた後に、ガスをケース70内に導入すれば、上記初期値V1のばらつきを低減できるので、ガスの湿度を精度良く求めることができる。
【0039】
また、上記各実施形態の電子源10は、絶縁性基板11の上記一表面側に下部電極12を形成しているが、絶縁性基板11に代えてシリコン基板などの半導体基板を用い、半導体基板と当該半導体基板の裏面側に積層した導電性層(例えば、オーミック電極)とで下部電極を構成するようにしてもよい。また、上記各実施形態における電子源10は弾道型電子放出現象により電子を放出する電子源であって弾道電子面放出型電子源(Ballistic electron Surface-emitting Device:BSD)と呼ばれているが、電子源10はBSDに限らず、大気圧中で電子放出が可能な電子源であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1を示し、(a)は全体構成を示す概略構成図、(b)は湿度センサの概略構成図である。
【図2】同上における要部説明図である。
【図3】同上における湿度センサの特性説明図である。
【図4】実施形態2における湿度センサの概略構成図である。
【図5】同上における湿度センサの特性説明図である。
【図6】実施形態3を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 湿度センサ
6 電子通過部
7 表面電極
8 防湿部
10 電子源
12 下部電極
14 アノード電極
15 電流センサ
Ed 駆動電源
Ea 加速用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電極と下部電極との間に電子通過部を有し下部電極から電子通過部へ注入された電子が電子通過部を通過し表面電極を通して大気圧中へ放出される電子源と、電子源の表面電極に対向配置されるアノード電極と、電子源の表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として駆動電圧を印加する駆動手段と、アノード電極と表面電極との間にアノード電極を高電位側として加速電圧を印加する加速電圧印加手段と、アノード電極と表面電極との間に流れる電流の電流値に基づいて湿度を求める演算手段とを備え、電子源に、電子通過部が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段を設けてなることを特徴とする湿度センサ装置。
【請求項2】
表面電極と下部電極との間に電子通過部を有し下部電極から電子通過部へ注入された電子が電子通過部を通過し表面電極を通して大気圧中へ放出される電子源と、電子源の表面電極に対向配置されるアノード電極と、電子源の表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側として単パルスの駆動電圧を印加する駆動手段と、アノード電極と表面電極との間にアノード電極を高電位側として前記駆動電圧に同期する単パルスの加速電圧を印加する加速電圧印加手段と、アノード電極における表面電極との対向面に配設された絶縁体層と、絶縁体層の帯電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段による検出電圧が所定の閾値に低下するまでの時間に基づいて湿度を求める演算手段とを備え、電子源に、電子通過部が湿度の影響を受けるのを防止する防湿手段を設けてなることを特徴とする湿度センサ装置。
【請求項3】
前記電子源における前記表面電極の膜厚を、前記下部電極から前記電子通過部を通過して前記表面電極へ到達した電子がトンネル可能であって且つ前記表面電極の表面側から前記電子通過部への水分の侵入を防止可能な膜厚に設定してあり、前記表面電極が、前記防湿手段を兼ねていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の湿度センサ装置。
【請求項4】
前記電子源と前記アノード電極とが収納されたケースを備え、ケースには、前記電子源と前記アノード電極との間の空間へ湿度検出対象のガスを導入するガス導入口が設けられてなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の湿度センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38592(P2006−38592A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217793(P2004−217793)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】