説明

溶液組成物

【課題】屈曲性を損なうようなフィラーを高充填する手段を用いなくとも、高度の寸法安定性、低反り性に優れた液晶ポリエステルフィルムを与える溶液組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して得られる、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物であって、低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上、前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ポリエステルを含む溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、液晶ポリエステルおよび該液晶ポリエステルを含有する溶液組成物に関する。さらには、該液晶ポリエステルからなるフィルムに関する。
【0003】
近年、通信用・民生用の電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進んでいる。このような状況下、フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」と呼ぶ)は、可とう性を有し、空間的な自由度が大きく、立体的高密度の実装が可能であるため、電子機器への配線、ケーブル、或いはコネクター機能を付与した複合部品としてもその用途が拡大しつつある。
FPCは電気絶縁性のベースフィルムと金属箔とを積層一体化し、該金属箔に回路を作製したもので、ベースフィルムには、高い屈曲性を有することが求められていた。
【0004】
上記のようなベースフィルムを提供するため、芳香族アミン誘導体由来の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有してなる溶液組成物を支持体に流延した後、溶媒を除去して得られる芳香族液晶ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献1)。
さらに、該ベースフィルムとしては、寸法安定性ならびに低反り性等の特性が求められており、該寸法安定性を向上される手法としては、液晶ポリエステルからなるベースフィルムに、無機フィラー等のフィラーを入れることが、広範に用いられていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004-315678号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の液晶ポリエステルからなるフィルムを、FPC等の積層体のベースフィルムとして使用すると、屈曲性としては優れるものが得られるが、該屈曲性に加えて、寸法安定性及び低反り性がより優れるベースフィルムが求められていた。
しかしながら、高度の寸法安定性や低反り性を求めて、前記ベースフィルムにフィラーを高充填すると、屈曲性が悪くなったり、フィルムが裂けやすくなったりする等の問題があることを本発明者らは見出した。
本発明の目的は、屈曲性を損なうようなフィラーを高充填する手段を用いなくとも、高度の、寸法安定性、低反り性に優れた液晶ポリエステルフィルムを与える溶液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決する液晶ポリエステルを含有する溶液組成物を見出すべく、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
[1]芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して得られる、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である、
前記の溶液組成物
を提供するものである。
【0009】
さらに、本発明は[1]に係る好適な実施態様として、下記の[2]〜[7]を提供する。
[2]前記液晶ポリエステルAが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、全構造単位の合計[(1)+(2)+(3)]に対して、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が10〜35モル%、式(3)で示される構造単位が10〜35モル%の液晶ポリエステルAである[1]の溶液組成物
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−NH−Ar3−X− (3)
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレンまたはビフェニレンを表し、Ar2は、フェニレン、ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基からなる群から選ばれる基であり、Ar3はフェニレンおよび下記式(5)で表される2価の基からなる群から選ばれる基であり、Xは、OまたはNHを表わす。)
【化1】


(式中、Ar5、Ar6はそれぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Yは単結合、酸素原子、硫黄原子または−O−(CH2)i−O−[iは1〜3の整数を表わす]を表し、nは1〜3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数あるAr5は同一でも異なっていてもよく、複数あるYは同一でも異なっていてもよい。)
【化2】


(式中、Ar7は、フェニレンまたはナフチレンを表し、mは1〜3の整数を表わし、mが2以上のとき、複数あるAr7は同一でも異なっていてもよい。)
[3]式(1)で示される構造単位が、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸および4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸からなる群から選ばれる芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、
式(2)で示される構造単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸およびジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸からなる群から選ばれる芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位であり、
式(3)で示される構造単位が4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、2−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる化合物から誘導される構造単位であることを特徴とする[2]の溶液組成物
[4]式(1)で示される構造単位が2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位であり、
式(2)で示される構造単位がイソフタル酸および/またはジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来の構造単位であり、
式(3)で示される構造単位が4−アミノフェノール由来の構造単位であることを特徴とする[2]または[3]の溶液組成物
[5]前記低分子量化が、前記液晶ポリエステルAを加水分解することを包含する、[1]〜[4]のいずれかの溶液組成物
なお、固有粘度を測定する際に使用する有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)は試薬グレードで充分であり、このような試薬グレードのN−メチル−2−ピロリドンは通常30〜500ppm程度の水分を含有するものであるが、本発明においては、前記の範囲の水分を有する有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)を用いた固有粘度の誤差が許容される。
[6]前記有機溶媒が非プロトン性有機溶媒である[1]〜[5]のいずれかの溶液組成物。
【0010】
また、本発明は、前記いずれかに記載の溶液組成物を用いてなる下記[7]〜[9]を提供する。
[7]前記いずれかに記載の溶液組成物を基材に流延塗布し、溶媒を除去して得られる積層体。
[8]前記いずれかに記載の溶液組成物を金属箔に流延塗布し、溶媒を除去して得られるフレキシブルプリント配線板用基板。
[9]前記金属箔が銅箔である[8]のフレキシブルプリント配線板用基板。
更に、本発明は、下記[10]〜[12]を提供する。
[10]芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルのフィルムであって、
該液晶ポリエステルAの0.5g/dl有機溶媒溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0であり、
室温から250℃まで窒素気流下、5℃/分で昇温し、250℃〜50℃の冷却時の収縮率が0.2〜0.8%である、上記液晶ポリエステルのフィルム。
[11]芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物を形成し;そして
前記有機溶媒を除去する;
ことを包含する、液晶ポリエステルフィルムの製造方法であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0であり、しかも、
前記液晶ポリエステルフィルムを、室温から250℃まで窒素気流下、5℃/分で昇温し、250℃〜50℃の冷却時の収縮率が0.2〜0.8%である、
前記液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
[12]芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物を形成し;
前記溶液組成物を基材に流延塗布し;そして
前記溶媒を除去する;
ことを包含する、液晶ポリエステルフィルムを基材に被覆する方法であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である、
前記液晶ポリエステルフィルムを基材に被覆する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶液組成物によって得られる液晶ポリエステルフィルムは高度の寸法安定性を有し、FPC等の積層体のベースフィルムとして用いた場合、得られる積層体は、高度の屈曲性を維持したまま、低反り性に優れた積層体を得ることができるため、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
<液晶ポリエステルA>
本発明の溶液組成物に適用される液晶ポリエステルAは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、450℃以下の温度で光学的に異方性を示す溶融体を形成し得るポリエステルが好ましく、芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有するものであり、しかも、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として該液晶ポリエステルAを溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が1.2以上の液晶ポリエステルである。さらに、本発明の溶液組成物を有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である。
【0014】
前記液晶ポリエステルの中で好適なものとしては、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位(以下、「式(1)構造単位」と呼ぶ)が30〜80モル%、式(2)で示される芳香族ジカルボン酸由来の構造単位(以下、「式(2)構造単位」と呼ぶ)が10〜35モル%、式(3)で示される芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から選ばれる構造単位(以下、「式(3)構造単位」と呼ぶ)が10〜35モル%の液晶ポリエステルである。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−NH−Ar3−X− (3)
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレンまたはビフェニレンを表し、Ar2は、フェニレン、ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基から選ばれる基であり、Ar3はフェニレンおよび下記式(5)で表される2価の基から選ばれる基であり、Xは、−O−または−NH−を表わす。)
【化3】


(式中、Ar5、Ar6はそれぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Yは単結合、酸素原子、硫黄原子または−O−(CH2)i−O−[iは1〜3の整数を表わす]を表し、nは1〜3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数あるAr5は同一でも異なっていてもよく、複数あるYは同一でも異なっていてもよい。)
【化4】


(式中、Ar7は、フェニレンまたはナフチレンを表し、mは1〜3の整数を表わし、mが2以上のとき、複数あるAr7は同一でも異なっていてもよい。)
【0015】
構造単位合計に対して、式(1)構造単位は30〜80モル%であることが好ましく、40〜70モル%であることがより好ましく、45〜65モル%であることがさらに好ましい。式(1)構造単位が、この範囲であると得られる液晶ポリエステルの液晶性が充分であり、本発明の溶液組成物を得る際の、溶媒に対する溶解性が良好となることから好ましい。
【0016】
構造単位合計に対して、式(2)構造単位は35〜10モル%であることが好ましく、30〜15モル%であることがより好ましく、27.5〜17.5モル%であることがさらに好ましい。
一方、式(3)構造単位は35〜10モル%であることが好ましく、30〜15モル%であることがより好ましく、27.5〜17.5モル%であることがさらに好ましい。
式(2)構造単位、式(3)構造単位が、前記の範囲であると得られる液晶ポリエステルの液晶性が充分であり、本発明の溶液組成物を得る際の、溶媒に対する溶解性が良好となることから好ましい。
【0017】
前記の構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
式(1)構造単位としては、以下の式(A1)〜(A5)で表されるものが挙げられる。なお、下記の構造単位は、芳香環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化5】

【0019】
式(2)構造単位としては、以下の式(B1)〜(B8)で表されるものが挙げられる。なお、下記の構造単位は、芳香環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化6】

【0020】
式(3)構造単位としては、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位および芳香族ジアミンに由来する構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位であり、これらの構造単位を下記に例示する。
【0021】
フェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位としては、以下の化学式(D1)〜(D6)で表されるものが挙げられる。なお、下記の構造単位は、芳香環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化7】

【0022】
また、芳香族ジアミンに由来する構造単位としては、以下の化学式(E1)〜(E6)で表されるものが挙げられる。なお、下記の構造単位は、芳香環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化8】

【0023】
前記の構造単位にある芳香環に結合している水素原子が置換されていてもよい、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好適であり、中でもメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。また、アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好適であり、中でもフェニル基が好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルの耐熱性および当該液晶ポリエステルから得られるフィルムの寸法安定性を高水準で達成するためには、液晶ポリエステルは、前記の(A1)および/または(A3)の式(1)構造単位と、(B1),(B2),(B3)および(B6)からなる群から選ばれる式(2)構造単位とを含むことが好ましい。これらの構造単位の好ましい組み合せとしては、例えば、以下の(a)〜(d)が挙げられる。
(a):
構造単位(A1),(B2)および(D1)の組み合せ、
構造単位(A3),(B2)および(D1)の組み合せ、
構造単位(A1),(B1)および(D1)の組み合せ、
構造単位(A3),(B3)および(D1)の組み合せ、または
構造単位(A3),(B2),(B6)および(D1)の組み合せ、
構造単位(A1),(B2)もしくは(B3),および(D1)の組み合せ。
(b):上記(a)の組み合せのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(D2)に置換した組み合せ
(c):上記(a)の組み合せのそれぞれにおいて、(A1)の一部または全部を(A3)に置換した組み合せ
(d):上記(a)の組み合せのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(E1)もしくは(E5)に置換した組み合せ。
【0025】
本発明に適用する液晶ポリエステルを構成する構造単位のさらに好ましい組み合せとしては、p−ヒドロキシ安息香酸および/または2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する式(1)構造単位30〜80モル%、4−アミノフェノールおよび/または4,4’−ジアミノジフェニルエーテルに由来する式(3)構造単位10〜35モル%、テレフタル酸,イソフタル酸およびジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する式(2)構造単位10〜35モル%からなるものが挙げられる。
特に好ましい構造単位の組み合せとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する式(1)構造単位30〜80モル%、4−アミノフェノールに由来する式(3)構造単位10〜35モル%、イソフタル酸および/またはジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来する式(2)構造単位10〜35モル%からなるものが挙げられる。
【0026】
<液晶ポリエステルの製造方法>
本発明で使用される液晶ポリエステルAの製造方法は、前記の固有粘度を満足できる製造方法であり、好適には、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸、式(3)構造単位を誘導するヒドロキシ基を有する芳香族アミンおよび/または芳香族ジアミンのヒドロキシ基やアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換して溶融重合して予め高分子量の液晶ポリエステル、好ましくは、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が1.2以上の液晶ポリエステルAを得、かかる液晶ポリエステルAを低分子量化して、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として固有粘度を0.5〜1.0の液晶ポリエステル溶液を製造する方法が挙げられる。
【0027】
まず、前記液晶ポリエステルAを製造する溶融重合について説明する。
前記アシル化の反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、ヒドロキシ基とアミノ基の合計に対して、1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が1.0倍当量未満では、エステル交換・アミド交換による溶融重合時にアシル化物や芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリマーの着色が著しくなる傾向がある。
【0028】
アシル化反応は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
【0029】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0030】
エステル交換・アミド交換による溶融重合においては、アシル化物のアシル基が、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0031】
エステル交換・アミド交換による溶融重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。また、この際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0032】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換による溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。触媒は、通常、アシル化反応時に存在させ、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合にはそのまま次の処理を行うことができる。また、次の処理を行うときに、前記のような触媒をさらに添加してもよい。
【0033】
エステル交換・アミド交換による重合は、このように溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合とは、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、固化後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、200〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた液晶ポリエステルAは、公知の方法によりペレット化して、後述の低分子量化に適用してもよい。かかる固相重合において、反応温度230〜300℃、反応時間1〜6時間の条件で行えば、液晶ポリエステルAの前記固有粘度は、通常1.2以上、好ましくは1.2〜2.2になり得る。
なお、液晶ポリエステルAの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
【0034】
かくして、比較的高分子量、好適には3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として0.2g/dl溶液としたときの40℃での固有粘度が1.2以上、好ましくは1.2〜2.2の液晶ポリエステルAが得られ、当該液晶ポリエステルAを低分子量化して、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0の液晶ポリエステルに転換する。
前記低分子量化は通常、分解剤を使用して化学分解させることにより低分子量化させる手法が採用される。
【0035】
前記分解剤としては、水あるいは、アンモニア、有機アミンに代表されるアルカリが好ましく、後処理等の簡便さから、水が特に好ましく、すなわち、前記低分子量化としては加水分解によるものが好適である。
【0036】
ここで、加水分解による前記液晶ポリエステルA(前記固有粘度;1.2以上、好ましくは1.2〜2.2)の低分子量化について説明する。
前記のようにして得られた液晶ポリエステルAを、反応溶媒として、有機溶媒、好ましくはN−メチル−2−ピロリドン等を用いて、液晶ポリエステルAの濃度が1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%の液晶ポリエステルA溶液を得、かかる液晶ポリエステルA溶液に対して、液晶ポリエステルA重量に対して、0.02〜10重量%、好ましくは0.03〜3重量%の水を添加する。このようにして水が添加された液晶ポリエステルA溶液を、反応温度80から170℃、好ましくは100〜160℃で、反応時間2〜10時間反応させる方法が適用される。なお、反応温度は、反応途中の液晶ポリエステルA溶液をサンプリングして、前記の手法により固有粘度を求めることで反応追跡を行って決定することもできる。
【0037】
このようにして得られた液晶ポリエステルは、予め公知の手段により、加水分解後の反応溶液から取り出して、本発明の溶液組成物を調製することもできるし、加水分解反応を行った反応溶媒を、そのまま本発明の溶液組成物の溶媒に使用することもできる。
【0038】
<溶液組成物>
次に、溶液組成物について説明する。
該溶液組成物を調製するのに使用される有機溶媒としては、液晶ポリマーを溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジエチルホルムアミド、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルホスホリックアミド及びエチルセロソルブアセテート、並びにパラフルオロフェノール、パラクロロフェノール、ペルフルオロフェノールなどのハロゲン化フェノール類などが挙げられる。これらの溶媒は単独または混合して使用できる。
かかる溶媒の中でも、取り扱いの観点から、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジエチルホルムアミド、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルホスホリックアミド及びエチルセロソルブアセテートから成る群から選択される非プロトン性有機溶媒が好適である。
【0039】
前記溶媒の使用量は、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物を調製するような量であれば、適用する溶媒の種類に応じて適宜選択することができるが、溶媒100質量部に対して液晶ポリマー0.5〜50質量部であることが好ましく、10〜20質量部であることがより好ましい。液晶ポリエステルが0.5質量部未満であると溶液粘度が低すぎて均一に塗工できない傾向があり、50質量部を超えると、高粘度化する傾向がある。このようにして得られた溶液組成物を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度は、0.5〜1.0である。
【0040】
本発明の溶液組成物は、従来広範に使用されている無機フィラー等のフィラーを添加しなくとも、高度の寸法安定性を有する液晶ポリエステルフィルムが得られるものであるが、機械的強度向上を目的として少量の無機フィラーを配合してもよい。フィラーを配合する際の配合量は、該液晶ポリエステルフィルムの屈曲性を損なわない範囲で選ばれ、通常、溶液組成物中5重量%以下であると好ましい。なお、好適なフィラーとしては、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラスまたはアルミナなどの無機物質からなるフィラーであり、これらフィラーは繊維状、板状、粒子状のいずれであってもよい。
また、本発明の溶液組成物には、例えばシランカップリング剤、酸化防止剤に代表される添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、本発明の溶液組成物に使用した溶媒に可溶であると好ましい。
【0041】
<積層体>
前記のようにして得られた溶液組成物を、例えば基材に流延塗布して溶液組成物のフィルムを形成し、基材上に得られた該溶液組成物のフィルムから溶媒を除去することで、液晶ポリエステルフィルムを備えた積層体を得ることができる。
該液晶ポリエステルフィルムの厚さは、製膜性や機械特性の観点から、0.5〜500μmであることが好ましく、取り扱い性の観点から1〜100μmであることがより好ましい。なお、液晶ポリエステルフィルムの厚さは当該層の形成時の塗布回数または使用した溶液組成物の粘度によって調整することができる。また、該液晶ポリエステルフィルムの250℃〜50℃の冷却時の収縮率は、好ましくは0.2〜0.8%、より好ましくは0.25〜0.7%である。
【0042】
中でも、前記積層体において、基材として金属箔を用いると、得られた積層体は液晶ポリエステルフィルムを絶縁層として、金属箔を導体層として有し、フレキシブル配線板用基板として好適な積層体となり得る。
【0043】
基材(金属箔)に、本発明の溶液組成物を流延塗布する手段としては、例えば、ローラーコート法、ディップコーター法、スプレイコーター法、スピンコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種手段が挙げられる。
【0044】
流延塗布されたフィルムからの溶媒の除去方法は、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発する方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、取り扱い性の点から加熱して蒸発せしめることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発せしめることがより好ましい。加熱により溶媒を除去する場合、温度80〜200℃において10〜120分間保持すればよい。
【0045】
溶媒を除去した液晶ポリエステルフィルムは、さらに該液晶ポリエステルフィルム中の液晶ポリエステル分子を配向させる場合、温度250〜350℃において30〜3000分間、好ましくは60〜1200分間保持すればよい。なお、溶媒を除去する工程を実施せずに、液晶ポリマーの分子を配向させる工程を実施してもよい。この場合、塗膜中の溶媒が急激に蒸発することで、ボイドなどが発生することを防止する観点から、溶媒を除去する工程を実施する場合と比較して昇温レートを遅くすることが好ましい。
【0046】
このようにして得られた積層体、すなわちフレキシブルプリント配線板用基板は、高寸法安定性及び高耐熱性を有すると共に、吸水性が低いという優れた特性を有するため、その用途はフレキシブルプリント配線板に限られず、近年注目されているビルドアップ工法などにより得られる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、テープオートメーティッドボンディング用フィルムなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。
【0048】
(液晶ポリエステル溶液の固有粘度の測定)
下記の実施例、比較例で得られた液晶ポリエステルのN−メチル−2−ピロリドン(BASF社製、スタンダードグレード、以下「NMP」と呼ぶ)溶液の一部を分取して、NMPで希釈して、濃度0.5g/dlに調整した測定溶液を調製した。該測定溶液を、測定温度25℃において、オストワルド粘度計を使用して固有粘度を測定した。このようにして得られた液晶ポリエステル溶液の固有粘度は、表1及び表2において、「溶液の固有粘度」として示した。
【0049】
(積層体の反り量の測定)
下記の実施例、比較例で得られたフレキシブルプリント配線板用基板の反りを以下のようにして測定した。即ち、フレキシブルプリント配線板用基板を15×15cmに切り出し定盤の上に置き、フレキブルプリント配線板用基板の四隅で持ち上がり量の一番大きいところを反り量とし測定した。なお、測定は室温を23℃、50%RHに調節して行った。また、切り出した後、筒状になる場合は、その筒の直径(φ)をmm単位で測定し反り量とした。
【0050】
(液晶ポリエステルフィルムの線膨張率および収縮率)
下記の実施例、比較例で得られたフレキシブルプリント配線板用基板を塩化第二鉄水溶液(ボーメ度 40°、木田株式会社製)に浸漬することで、銅箔をエッチング除去し、液晶ポリマーフィルムを得た。次いで、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 熱機械的分析装置 TMA120Uを用いて、荷重2.5g、窒素気流下、5℃/分で昇温し、50〜100℃の液晶ポリエステルフィルムの線膨張係数を測定した。フィルムの塗工方向をMD、その直角方向をTDとしたときに、それぞれの線膨張係数を測定した。また、室温から250℃まで窒素気流下、5℃/分で昇温し、250℃〜50℃の冷却時の収縮率を測定した。
【0051】
(実施例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて140℃まで昇温し、温度を保持して4時間攪拌させた。
【0052】
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた樹脂は、粗粉砕機で粉砕後、258℃、3時間窒素雰囲気下で固層重合を実施した。得られた粉末の一部を、偏光顕微鏡観察で観察しながら10℃/分で昇温した結果、400℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示した。
このようにして得られた液晶ポリエステル1の固有粘度を3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として0.2g/dl溶液を調整し、60℃で24時間掛けて完溶させ、ウベローデ粘度計を用いて40℃での固有粘度を測定した結果1.72であった。このようにして得られた液晶ポリエステルの固有粘度は、表1及び表2において、「樹脂の固有粘度」として示した。
【0053】
次いで、液晶ポリエステル1の粉末10gをNMP90gに加え、さらに、NMP重量に対して水重量が1重量%になるように、純水を調整した。この混合物を140℃で4時間加熱することで液晶ポリエステルが完全に溶解し褐色透明な液晶ポリエステル溶液1が得られた。この溶液を攪拌および脱泡し、市販の電解銅箔(商品名:3EC−VLP、三井金属鉱業社製、厚さ18μ)上にフィルムアプリケーターを用いて塗布(塗布厚み400μ)し、ホットプレート上で80℃、6時間乾燥した。
その後、窒素雰囲気下の熱風オーブン中で昇温速度3.2℃/分で30℃から320℃まで昇温し、320℃にて3時間保持する熱処理を行った。室温に降温し、フレキシブルプリント配線板用基板を得た。前記液晶ポリステル溶液1の固有粘度、得られたフレキシブルプリント配線板用基板の反り量、線膨張係数および収縮率を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1での純水の添加量をNMP重量に対して水重量が2重量%になるように、純水を調整した以外、すべて同様の操作を行って、液晶ポリエステル溶液2を得た。この液晶ポリエステル溶液2を使用し、実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線板用基板を得、各種評価試験も同様に実施した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸847g(4.5モル)、4−アミノフェノール416g(2.75モル)、イソフタル酸125g(0.75モル)、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸517g(2.0モル)及び無水酢酸817g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて140℃まで昇温し、温度を保持して4時間攪拌させた。
【0056】
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた樹脂は、粗粉砕機で粉砕後、249℃、3時間窒素雰囲気下で固層重合を実施した。得られた粉末の一部を、偏光顕微鏡観察で観察しながら10℃/分で昇温した結果、400℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示した。
このようにして得られた液晶ポリエステル3の固有粘度は、の固有粘度を3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として0.2g/dl溶液を調整し、60℃で24時間掛けて完溶させ、ウベローデ粘度計を用いて40℃での固有粘度を測定した結果
1.43であった。
【0057】
次いで、液晶ポリエステル3の粉末10gをNMP90gに加え、さらに、NMP重量に対して水重量が0.03重量%になるように、純水を調整した。この混合物を120℃で4時間加熱することで液晶ポリエステルが完全に溶解し褐色透明な液晶ポリエステル溶液3が得られた。この溶液を攪拌及び脱泡し、市販の電解銅箔(商品名:3EC−VLP、三井金属鉱業社製、厚さ18μ)上にフィルムアプリケーターを用いて塗布(塗布厚み400μ)し、ホットプレート上で80℃、6時間乾燥した。
その後、窒素雰囲気下の熱風オーブン中で昇温速度3.2℃/分で30℃から320℃まで昇温し、320℃にて3時間保持する熱処理を行った。室温まで放冷後フレキシブルプリント配線板用基板を得た。前記液晶ポリステル溶液3の固有粘度、得られたフレキシブルプリント配線板用基板の反り量、線膨張係数および収縮率を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
実施例3で純水の添加量をNMP重量に対して水重量が0.05重量%になるように、純水を調整した以外、すべて同様の操作を行って、液晶ポリエステル溶液4を得た。この液晶ポリエステル溶液4を使用し、実施例3と同様にしてフレキシブルプリント配線板用基板を得、各種評価試験も同様に実施した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(比較例1)
実施例1での純水の添加量をNMP重量に対して水重量が0.05重量%になるように純水を調整した以外、すべて同様の操作を行って、液晶ポリエステル溶液5を得た。この液晶ポリエステル溶液5を使用し、実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線板用基板を得、各種評価試験も同様に実施した。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた液晶ポリエステル1の粉末20gをNMP80gに加え、さらに、NMP重量に対して水重量が0.05重量%になるように純水を調整した。この混合物を180℃で4時間加熱することで液晶ポリマーが完全に溶解し褐色透明な液晶ポリエステル溶液6が得られた。この液晶ポリエステル溶液6を使用し、実施例1と同様にしてフレキシブルプリント配線板用基板を得、各種評価試験も同様に実施した。評価結果を表2に示した。
【0062】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して得られる、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である、
前記の溶液組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルAが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、全構造単位の合計[(1)+(2)+(3)]に対して、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が10〜35モル%、式(3)で示される構造単位が10〜35モル%の液晶ポリエステルAである請求項1記載の溶液組成物。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−NH−Ar3−X− (3)
(式中、Ar1は、フェニレン、ナフチレンまたはビフェニレンを表し、Ar2は、フェニレン、ナフチレンおよび下記式(4)で表される2価の基からなる群から選ばれる基であり、Ar3はフェニレンおよび下記式(5)で表される2価の基からなる群から選ばれる基であり、Xは、OまたはNHを表わす。)
【化1】


(式中、Ar5、Ar6はそれぞれ独立に、フェニレンまたはナフチレンを表し、Yは単結合、酸素原子、硫黄原子または−O−(CH2)i−O−[iは1〜3の整数を表わす]を表し、nは1〜3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数あるAr5は同一でも異なっていてもよく、複数あるYは同一でも異なっていてもよい。)
【化2】


(式中、Ar7は、フェニレンまたはナフチレンを表し、mは1〜3の整数を表わし、mが2以上のとき、複数あるAr7は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
式(1)で示される構造単位が、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸および4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸からなる群から選ばれる芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、
式(2)で示される構造単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸およびジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸からなる群から選ばれる芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位であり、
式(3)で示される構造単位が4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、2−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる化合物から誘導される構造単位であることを特徴とする請求項2記載の溶液組成物。
【請求項4】
式(1)で示される構造単位が2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位であり、
式(2)で示される構造単位がイソフタル酸および/またはジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸に由来の構造単位であり、
式(3)で示される構造単位が4−アミノフェノール由来の構造単位であることを特徴とする請求項2または3に記載の溶液組成物。
【請求項5】
前記低分子量化が、前記液晶ポリエステルAを加水分解することを包含する、請求項1〜4に記載の溶液組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒が非プロトン性有機溶媒である請求項1〜5のいずれかに記載の溶液組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の溶液組成物を基材に流延塗布し、溶媒を除去して得られる積層体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の溶液組成物を金属箔に流延塗布し、溶媒を除去して得られるフレキシブルプリント配線板用基板。
【請求項9】
前記金属箔が銅箔である請求項8記載のフレキシブルプリント配線板用基板。
【請求項10】
芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルのフィルムであって、
該液晶ポリエステルAの0.5g/dl有機溶媒溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0であり、
室温から250℃まで窒素気流下、5℃/分で昇温し、250℃〜50℃の冷却時の収縮率が0.2〜0.8%である、上記液晶ポリエステルのフィルム。
【請求項11】
芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物を形成し;そして
前記有機溶媒を除去する;
ことを包含する、液晶ポリエステルフィルムの製造方法であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0であり、しかも、
前記液晶ポリエステルフィルムを、室温から250℃まで窒素気流下、5℃/分で昇温し、250℃〜50℃の冷却時の収縮率が0.2〜0.8%である、
前記液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位から成る群から選ばれる少なくとも1つの構造単位を全構造単位の合計に対して10〜35モル%有する液晶ポリエステルAを、有機溶媒に溶解させて低分子量化して、該液晶ポリエステルAを0.1重量%以上含有する溶液組成物を形成し;
前記溶液組成物を基材に流延塗布し;そして
前記溶媒を除去する;
ことを包含する、液晶ポリエステルフィルムを基材に被覆する方法であって、
低分子量化前の該液晶ポリエステルAを、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノールを溶媒として溶解させ該液晶ポリエステルAの0.2g/dl溶液としたときの40℃における固有粘度が、1.2以上であり、しかも、
前記液晶ポリエステルAの低分子量化で得られた前記溶液を前記有機溶媒で希釈して該液晶ポリエステルAの0.5g/dl溶液としたときの25℃における固有粘度が0.5〜1.0である、
前記液晶ポリエステルフィルムを基材に被覆する方法。


【公開番号】特開2008−195786(P2008−195786A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30861(P2007−30861)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】