説明

溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】オールラジアントチュウブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた高Si含有溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【解決手段】焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で鋼中Si量が0.3質量%以上2.5質量%以下の鋼板を溶融亜鉛めっきする際に、加熱炉雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/H、均熱炉最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/H、均熱炉最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hと、鋼中Si%とが下式を満たすように雰囲気制御し、均熱炉で750℃以上に加熱して再結晶焼鈍した後に亜鉛めっきする。1≧(HO/H≧100.5Si−3.25、1≧(HO/H≧100.5Si−3.25、(HO/H/(HO/H≧2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、Si含有鋼板を母材として溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも安価に製造できかつ防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。溶融亜鉛めっき鋼板には、亜鉛めっき後合金化処理を施さず、めっき皮膜が亜鉛めっきままのもの(GI)と、亜鉛めっき後合金化処理し、めっき皮膜を鉄−亜鉛合金としたもの(GA)がある。特に鋼中にSiを添加すると穴広げ性の良好な高強度鋼板が製造出来る可能性があり、またSiやAlを含有すると残留γ相が形成しやすく延性の良好な高強度鋼板を提供出来る可能性がある。そのため、Si含有鋼板を母材とした溶融亜鉛めっき鋼板を安定製造できることが必要である。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板はスラブを熱間圧延し、又はさらに冷間圧延した薄鋼板を母材鋼板として用い、この母材鋼板表面を溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において前処理工程にて脱脂した後再結晶焼鈍し、その後、溶融亜鉛めっき、又はさらに合金化処理を行い製造する。
【0004】
溶融亜鉛めっき鋼板製造設備の焼鈍炉のタイプとして加熱炉がDFF(直火型)、NOF型(無酸化型)型で均熱炉がラジアントチューブタイプのもの、加熱炉から均熱炉まで含めて全てラジアントチューブタイプである、オールラジアントチューブ型等の方式がある。近年操業のし易さや炉内ロールにピックアップが発生しにくい等により低コストで高品質なめっき鋼板が製造出来るなどの理由からオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備が増加している。しかしながら、DFF(直火型)、NOF型(無酸化型)と異なり、オールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備は、焼鈍直前の加熱炉に酸化工程がなく地鉄そのものが酸化されないため、Si、Mn等の易酸化性元素を含む鋼板のめっき性確保の点で不利である。
【0005】
オールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備でSi等の易酸化性合金元素を多量に含む鋼板をめっきする方法として、特許文献1に開示されるようなプレめっき処理を施す方法が知られているが、この方法はプレめっきコストがかかる問題がある。
【0006】
特許文献2では炉内雰囲気を制御し酸素ポテンシャルを高めに制御することでSiを内部酸化させることでめっき性を改善することが開示されている。しかしながら良好な外観確保のための要求が近年極めて厳しくなるなか、特許文献2に開示される方法では高Si添加鋼を母材とした場合良好なめっき外観を確保することが難しい。
【0007】
特許文献3には炉内雰囲気を制御すると同時にCOを導入し、Siを内部酸化させることでめっき性を改善することが開示されている。しかしながらCOの導入は炉内汚染の問題や鋼板表面の脱炭などで機械特性が変化するおそれがある。
【0008】
また同様に炉内の露点を高めてSi、Al等の易酸化性元素を内部酸化させることで低Si−高Al系TRIP鋼をめっきするなどの報告が見られる(非特許文献1参照)。しかしながらこの技術では高Si鋼のめっき性改善は不十分である。
【0009】
そのため、これまでSiを多量に含み、機械的特性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備を用いて低コストで製造することは出来なかった。
【特許文献1】特開平2−38549号公報
【特許文献2】特開2004−323970号公報
【特許文献3】特開2005−60743号公報
【非特許文献1】Mahieu、Galvatech01、p.644(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、鋼中Si量が0.3質量%以上2.5質量%以下である高Si含有鋼板を用いて、オールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
背景技術の方法のように雰囲気中の露点を高めるとSiは内部酸化するため、加熱炉や均熱炉中雰囲気中の酸素ポテンシャルの指標であるHO分圧とH分圧の比、HO/Hは高めであることが好ましいが、発明者らはさらに均熱炉の炉内上部の酸素ポテンシャルが炉内下部の酸素ポテンシャルよりも一定割合以上高いと、高Si添加鋼について、単に炉内の酸素ポテンシャルを向上させた場合よりも、また雰囲気中にCOを添加しなくてもめっき性が改善することを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0012】
上記課題を解決する本発明の手段は下記の通りである。
(1)焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、鋼中Si量が0.3質量%以上2.5質量%以下である鋼板を溶融亜鉛めっきする際に、加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比、均熱炉の最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比、均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比と、鋼中Si%とが、それぞれ下式(1)、(2)、(3)を満たすように雰囲気制御し、均熱炉で750℃以上に加熱して再結晶焼鈍した後に亜鉛めっきを施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (1)
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (2)
(HO/H/(HO/H≧2 (3)
ただし、
(HO/H:加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
(HO/H:均熱炉の最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
(HO/H:均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
Si:鋼中Si%(質量%)
(2) (1)の製造方法において、めっき付着量が片面当たり10g/m以上90g/m以下になるように溶融亜鉛めっき処理し、引き続き鋼板を最高到達温度が450℃以上570℃以下になるように加熱してめっき皮膜中のFe%が7質量%以上15質量%以下になるように合金化処理することを特徴とする(1)の高合金鋼の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、鋼中Si量が0.3質量%以上2.5質量%以下である母材鋼板を使用して、不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造できるようになる。本発明によれば、焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、機械的特性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を安価に製法することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
本発明では、めっきの母材鋼板は、鋼中Si含有量が0.3質量%以上2.5質量%以下である。Si量が0.3質量%未満であれば本発明を適用しなくてもめっき性改善が可能である。Si量が2.5%を越えると本発明でもめっき性改善効果を発現できない。
【0016】
本発明では、Si以外の鋼中化学成分は特に限定されず、溶融亜鉛めっき鋼板に要求される特性、品質を確保するために、Si以外の化学成分を適宜量含有できる。この場合の好ましい範囲について説明する。
【0017】
Mn:鋼の高強度化を図るにはMnを添加するとより効果的である。Mnの下限は特に限定されない。Mn量が4質量%を越えると溶接性やめっき密着性の確保、強度延性バランスの確保が困難になるため上限は4質量%が好ましい。
【0018】
Al:Alが含有されなくてもSiを充分添加すれば機械的特性の確保が可能である。TRIP鋼ではAlはSiと補完的に添加される元素である。Al添加量が3質量%を越えると再結晶焼鈍時にAlが酸化物として表面濃化して生成する酸化皮膜の生成を抑制することが困難で密着性改善が困難であるため、3%質量以下が好ましい。
【0019】
C:残留γ相を形成しやすくするため、0.05質量%以上が好ましい。但し本発明では特に下限を規定するものではない。0.25質量%を越えると溶接性が劣化するため、0.25質量%以下が好ましい。
【0020】
P:Pは不可避的に含有される成分であるがセメンタイトの析出を遅延させ変態の進行を遅らせるため、0.001質量%以上含有させることが好ましい。0.10質量%を越えると溶接性が劣化するだけでなく、表面品質が劣化するため、また非合金化処理時にはめっき密着性が劣化し、合金化処理時には合金化温度を高める必要があるため、延性が劣化すると同時に合金化めっき皮膜の密着性が劣化するため好ましくないが、本発明では特に上限を規定するものではない。
【0021】
なお、高強度延性バランスを制御するため、必要であれば、0.01質量%≦Cr≦1.0質量%、0.01質量%≦Mo≦1.0質量%、0.005質量%≦Nb≦0.2質量%、0.005質量%≦Ti≦0.2質量%の少なくとも1種を、また残留γ相形成促進のため、0.01質量%≦Cu≦0.5質量%、0.01質量%≦Ni≦1.0質量%、0.0005質量%≦B≦0.01質量%の少なくとも1種を必要に応じて添加しても良い。なお、Cr、Mo、Nb、Cu、Niは単独もしくは2種以上の複合添加でSi、Alの内部酸化を促進し、表面濃化を抑制する効果を有するため、これら元素は、機械的特性改善のためでなく、良好なめっき密着性を得るために添加しても良い。
【0022】
上記元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。Crは0.01質量%未満では強度調整や内部酸化促進効果が得られにくく、1.0質量%越えではかえってCrが表面濃化するため、めっき密着性や溶接性が劣化する。Moは0.01質量%未満では強度調整の効果や、Nb、もしくはNiやCuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0質量%越えではコストアップを招く。Nbは0.005質量%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、0.2質量%越えではコストアップを招く。Tiは0.005質量%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.2質量%越えではめっき密着性の劣化を招く。Cuは0.01質量%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、0.5質量%越えではコストアップを招く。Niは0.01質量%未満では残留γ相形成促進効果やCuやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくく、1.0質量%越えではコストアップを招く。Bは0.0005質量%未満では残留γ相形成促進効果が得られにくく、0.01質量%越えではめっき密着性が劣化する。
【0023】
S:SはPと同様不可避的に含有される元素であるが、多量に含有されると溶接性が劣化するため0.2質量%以下が好ましい。
【0024】
次に本発明で最も重要な炉内雰囲気の制御条件について説明する。
【0025】
加熱炉雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/H、均熱炉最下部の雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hは、それぞれ下式(1)、(2)を満足する必要がある。
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (1)
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (2)
この根拠となった実験結果を図1に示す。本実験は、鋼中Si量を0.3質量%から3質量%まで変化させた鋼板をオールラジアントチューブ方式の焼鈍炉を備えた溶融亜鉛めっき鋼板製造設備でそれぞれ加熱炉、均熱炉の雰囲気を変化させて通板し、亜鉛めっき、合金化処理し、合金化処理後に、めっき外観を観察して不めっき有無を評価し、まためっき密着性を評価した。
【0026】
図3は、本実験し使用したオールラジアントチューブ方式の焼鈍炉の加熱炉、均熱炉への雰囲気供給系統、排出系統を説明する概略図である。加熱炉1、均熱炉(還元焼鈍帯)2のNガス供給配管3の途中に加湿装置4を設置して加湿し、炉内に供給するNガスの加湿度を変化させるとともに、加熱炉1、均熱炉2に導入する雰囲気ガス流量を調整した。雰囲気ガスはH−Nガスを使用し、H−Nガス供給管5から加熱炉1、均熱炉2の最上部から導入し、下部から排出した。雰囲気ガスの分析は加熱炉1最下部、均熱炉2の最上部及びの最下部で行った。加熱炉1のトータルガス量15000Nm/hr、均熱炉2のトータルガス量1500Nm/hrであり、均熱炉2中のH濃度は10%H、残部Nで、露点は−35℃である。加熱炉1中の露点は+60℃、O濃度は1%、CO濃度は2%であり残部Nである。
【0027】
焼鈍温度は800℃、溶融亜鉛めっきは0.13質量%Al含有Zn浴で460℃の浴に470℃で鋼板を浸入させて、550℃で合金化処理した。不めっきがなく、めっき密着性が良好なものを「○」、少なくとも一方が不良のものを「×」と評価した。
【0028】
本実験では、均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hと均熱炉最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hの比は、全て(HO/H/(HO/H=3に保持した。
【0029】
加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hの影響を調査する実験では、(HO/H=0.06、(HO/H=0.02に保持し、(HO/Hを変化させた。均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hの影響を調査する実験では、(HO/H=0.01に保持し、(HO/H/(HO/H=3に保持しながら(HO/Hを変化させた。図1はその評価結果である。
【0030】
本発明範囲の領域は不めっきがなく良好なめっき密着性を示したが、本発明範囲外は不めっきまたはめっき密着性不良が発生した。本発明範囲の領域で上記の良好な結果を示したのは、雰囲気の(HO/H、(HO/Hを適度に高めて本発明範囲内に設定することで酸素ポテンシャルが増加し、易酸化性元素であるSiを内部酸化させて表面濃化(外部酸化)を抑制するためである。なお(HO/H、(HO/Hが1越えではSi等易酸化性元素のみが内部酸化する条件を外れてFeが酸化し始めてめっき密性が不良となった。また(HO/H、(HO/Hが式(1)、(2)の下限を外れると内部酸化不良でSiが表面濃化し不めっきが発生した。従って均熱炉及び加熱炉の両方で雰囲気を制御することが必要である。均熱炉では最下部の雰囲気が少なくとも式(2)を満たすように制御することが必要である。なお、均熱炉と加熱炉が一体化している炉であっても間に仕切りが存在してガスが混じり合わないような構造になっている炉であってもどちらも同じである。
【0031】
さらに均熱炉の最上部、最下部の酸素ポテンシャルが下式(3)を満たすことが高Si鋼のめっき性改善に効果的であることを見出した。
(HO/H/(HO/H≧2 (3)
この根拠となった実験結果を図2に示す。本実験は、1.5質量%Si添加鋼を用い、図3に示したオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で、加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/H、均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hをそれぞれ0.15に制御し、さらに均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hと、均熱炉の最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比(HO/Hとの比、(HO/H/(HO/Hを変化させて通板し、亜鉛めっき、合金化処理し、合金化処理後に、めっき外観を観察して不めっき有無を評価し、まためっき密着性を評価した。図2はその評価結果である。
【0032】
(HO/H/(HO/Hを2以上に制御することで高Si鋼であっても不めっきがなく良好な外観を示したが、(HO/H/(HO/Hが2未満になると不めっきが発生し外観不良だった。詳細メカニズムは明らかでないが、鋼板が炉内で加熱炉の上部や下部を通過する際に酸素ポテンシャルの異なる雰囲気に交互に接することで表面が活性化したためと推定される。この表面活性化効果のため背景技術に記載した特許文献2や特許文献3の方法に比べてより優れためっき外観の確保とめっき密着性の確保が可能となったと考えられる。
【0033】
ここで、加熱炉は一般的に鋼板を400〜700℃程度の温度域、均熱炉は700〜900℃程度の再結晶温度域まで加熱するための炉を指し、本来の目的は再結晶温度まで加熱することである。また均熱炉の最上部及び最下部の定義は、炉体高さと比較しそれぞれ炉頂及び炉最下部から15%までの領域を指し、雰囲気はこの範囲に配管を設置し、ここからサンプリングしたガス組成をもって均熱炉最上部及び均熱炉最下部の雰囲気とする。なお加熱炉、均熱炉とも堅型炉である。
【0034】
本発明では雰囲気制御方法として、例えば加湿したNやHを含む可燃ガスの燃焼排ガス等のHOを含むガスを炉内に導入することでHOを炉内に導入して雰囲気制御する方法が挙げられる。また、HOを含むガスは、加湿したNが流れる配管を別途設置し、これを加湿しないN−Hガス配管に接続して混入させても良いし、N中に設置した水タンクを加熱して蒸気を炉内に導入しても良い。但し本発明ではこの方法のみに制限するものではなく、この記載が本発明を不当に制限するものではない。
【0035】
通常炉内へのH−N還元性ガスの導入は、炉下部から導入し、炉上部から排出するようにガス流れを設定する方法が一般的な方法である。しかしながら、炉の上下部の雰囲気を制御するという観点から言うと、加熱炉だけでなく均熱炉上部と下部の雰囲気変更方法は、上記のHOを含むガスを炉体上部から導入し、下部からガスを抜く等の方法が好ましい。なお、H−N還元性ガスを炉下部から導入し、炉上部から排出するようにガス流れを設定する方法では、本発明で記載するパラメータ、(HO/H/(HO/Hは2未満であり、高Si含有鋼板ではめっき性が劣る。
【0036】
雰囲気を制御した場合の炉温は特に規定しないが、炉温度が高くないと鋼板温度が上昇せず、結果として酸素ポテンシャルが高かったとしても内部酸化による表面濃化抑制効果が得られない。そのため重要なのは鋼板温度であり、鋼板温度としては均熱帯で750℃以上の再結晶温度域まで加熱することが必要である。冷延鋼板であれば再結晶させるための温度が通常750℃以上であり、この温度域まで鋼板を加熱すれば本発明の効果が得られる。
【0037】
めっき付着量は、非合金処理材(めっきまま)の場合、耐食性及びめっき付着量制御の点から片面当たり10g/m以上が必要で、コスト、めっき密着性の点から片面当たり150g/m以下が必要である。また合金化処理材の場合、耐食性及びめっき付着量制御の点から片面当たり10g/m以上が必要で、コスト、めっき密着性(耐パウダリング性)の点から片面当たり90g/m以下が必要である。
【0038】
さらに、溶融亜鉛めっき処理する際のめっき浴浸入板温(鋼板のめっき浴中浸漬温度)が浴温に対して−10℃以上+30℃以下になるように制御することが好ましい。−10℃未満では合金化ムラが生じ、30℃越えでは浴中での合金化反応が進みすぎてパウダリング性が劣化したり、Fe溶出が増加しドロス発生が多くなったりするので好ましくない。TRIP鋼などはめっき前に400〜450℃でいわゆるオーステンパー処理したり、DP鋼などは焼鈍後にマルテンサイト変態点以下に急冷したりすることで機械特性を向上させるが、その際に浸入板温が浴温より10℃より低いと上記の合金化ムラが生じる。またTRIP鋼では同様に機械特性の観点から浸入板温が高いと材質劣化するため、再加熱時に温度が高すぎることは好ましくない。そのため、何らかの方法でめっき前加熱による浸入板温調整が必要である。調整方法は特に問わないが、例えばインダクションヒーターなどをめっきポット前に設置して所定の温度になるように再加熱する方法が挙げられる。
【0039】
さらに、合金化処理温度は最高到達温度(板温)が450℃以上570℃以下になるように加熱しめっき皮膜中Fe%が7質量%以上15質量%以下になるように合金化処理することが必要である。450℃未満では合金化が進行せず570℃越えではめっき密着性(耐パウダリング性)が劣化する。Fe%が7質量%未満ではめっき合金化ムラや合金化不足によるプレス加工時のフレーキングが起こる。15質量%越えではめっき密着性(耐パウダリング性)が劣化する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0041】
表1に示す鋼組成と残部がFe及び不可避的不純物からなる熱延鋼板の黒皮スケールを酸洗して除去した後冷間圧延し、厚さ1.6mmの素材鋼板を得た。この素材鋼板を、図3に示した焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で、加熱炉、均熱炉の上部及び下部をそれぞれ雰囲気制御して通板し、850℃で焼鈍した後引き続き、460℃のAl含有Zn浴にて溶融亜鉛めっきを施し、さらに合金化処理を施した(一部は合金化処理を施さなかった)。
【0042】
雰囲気制御方法については、N中に設置した水タンクを加熱して加湿したNガスが流れる配管を別途設置し、これを炉内に導入することでHO濃度を制御した。また均熱炉最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比、均熱炉最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比の制御は炉上部からの加湿ガスの導入量を変更することで実施した。
【0043】
Al含有Zn浴は、GAは0.13〜0.14質量%Al含有Zn浴、GIは0.16〜0.18質量%Al含有Zn浴を用いた。付着量はガスワイピングにより調節した。製造条件を表2に示す。
【0044】
得られためっき鋼板について、めっき外観、めっき密着性を下記のようにして評価した。評価結果を表2に示す。
【0045】
(1)めっき外観
めっき外観を目視観察し、不めっき、合金ムラの有無に基づき下記のように評価した。○、△が合格である。
○:不めっき及び合金化ムラがないもの
△:不めっきがなく、合金化ムラがわずかにあるもの
×:不めっき又は/及び合金化ムラがあるもの
【0046】
(2)めっき密着性
合金化処理した溶融亜鉛めっき鋼板(GA):めっき鋼板にセロテープ(登録商標)を貼りテープ面を90℃曲げ曲げ戻しをしたときの単位長さ当たりの剥離量を蛍光X線によりZnカウント数を測定し、下記基準でランク分けした。ランク1、2が合格である。
ランク 蛍光X線カウント数
1 0−500未満(良)
2 500以上−1000未満
3 1000以上−2000未満
4 2000以上−3000未満
5 3000以上5(劣)
合金化していない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)については、ボールインパクト試験を行った。落下条件は、1m高さから1.8kgの錘を1/2インチのポンチの上に落として、めっき鋼板の当たった部分をセロテープ剥離し、めっき層剥離の有無を目視判定し、以下のように評価した。○が合格である。
○:めっき層の剥離なし
×:めっき層が剥離
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、本発明法で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、素材鋼板がSi等の易酸化性元素を多量に含有するにもかかわらず、めっき外観とめっき密着性に優れ、オールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、優れためっき品質が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、オールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、Si含有量が0.3質量%以上2.5質量%以下である高Si含有鋼板を母材とし、不めっきのなく美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】鋼中Si(%)と(HO/Hとめっき性の関係、鋼中Si(%)と(HO/Hとめっき性の関係を示す図である。
【図2】(HO/H/(HO/Hとめっき性の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施に使用するオールラジアントチューブ方式の焼鈍炉の加熱炉、均熱炉への雰囲気供給系統、排出系統を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 加熱炉
2 均熱炉(還元焼鈍帯)
3 加湿Nガス配管
4 加湿装置
5 H−Nガス供給管
6 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍炉がオールラジアントチューブ方式の溶融亜鉛めっき鋼板製造設備において、鋼中Si量が0.3質量%以上2.5質量%以下である鋼板を溶融亜鉛めっきする際に、加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比、均熱炉の最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比、均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比と、鋼中Si%とが、それぞれ下式(1)、(2)、(3)を満たすように雰囲気制御し、均熱炉で750℃以上に加熱して再結晶焼鈍した後に溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (1)
1≧(HO/H≧100.5Si−3.25 (2)
(HO/H/(HO/H≧2 (3)
ただし、
(HO/H:加熱炉における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
(HO/H:均熱炉の最上部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
(HO/H:均熱炉の最下部における雰囲気中のHO分圧とH分圧の分圧比
Si:鋼中Si%(質量%)
【請求項2】
請求項1の製造方法において、めっき付着量が片面当たり10g/m以上90g/m以下になるように溶融亜鉛めっき処理し、引き続き鋼板を最高到達温度が450℃以上570℃以下になるように加熱してめっき皮膜中のFe%が7質量%以上15質量%以下になるように合金化処理することを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68041(P2009−68041A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235119(P2007−235119)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】