説明

滑り軸受、製造方法及び内燃機関

ライニング(3)がコールドスプレー法又はコールドガスダイナミックスプレー法によって施されている支承構造又は基材(2)を有する、特に、内燃機関の少なくとも1つのシャフトを拘束するための滑り軸受を記載しており、ここで、前記ライニングは、セラミック粒子と焼付け防止剤を有する少なくとも1種の合金粉を包含する少なくとも1種の複合材料から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー又はコールドダイナミックスプレーとして知られている方法によって製造又は形成され且つその耐久性及び性能を向上させる組成物を有する滑り軸受(例として、クランク軸受)に関する。
【0002】
本発明はまた、前記滑り軸受の製造法及び上に記載したような少なくとも1つの軸受を有する滑り軸受を有する内燃(IC)機関に関する。
【0003】
発明の背景
IC機関の大多数は、2行程機関及びオットー/ディーゼルサイクル4行程機関として、その(それらの)運動量を、クランクシャフトと呼ばれるシャフトの回転運動に変換するロッドに連結された1つ以上の往復動ピストンを包含する。ピストンの直線運動は、"爆発"行程中に発生し、且つ該直線運動はクランクシャフトの回転に変えられ、それは乗り物を動かすことや他の仕事を実行するために使用可能である。
【0004】
IC機関の作動は単純且つ概念的によく知られているが、しかし、高負荷をともなうゆえに、クランクシャフトの過度の半径方向運動及び軸方向運動を避けることが不可欠であり、さもなければ、エンジンの耐久性及び信頼性が激しく低下する。
【0005】
クランクシャフトの半径方向運動及び軸方向運動を回避しつつ、それを拘束する部材は軸受と呼ばれる。そのうえ、いくつかのIC機関は、同様に軸受によって拘束された、他の回転可能なシャフト(すなわち、カムシャフト、バランスシャフト等)を有する。
【0006】
言い換えれば、軸受は、相対的な滑り運動を有する他方の面に対して直接的に(又は固体潤滑剤若しくは液体潤滑剤により)支承する面を有する任意の部材である。軸受の主目的は、荷重を、一方の面から他方の摺動面に伝達することである。
【0007】
ほぼ全てのエンジンは、2つの最低限の主軸受を有し、該主軸受をクランクシャフトの各端部に有し、且つクランクピンの数より1つ多い軸受をしばしば有する。主軸受のこの数は、より多数の軸受の余分なサイズ、コスト及び安定性と、より少数のコンパクト性及び軽量性とを兼ね備えるための折衷案である。双方とも、より短く且つより安定なクランクが、より良好なエンジンバランスを生むことになるように、性能に関しての利点を有する。
【0008】
二十世紀の初頭を通じて、かつてIC機関はクランクシャフトを拘束する少数の軸受を常に有していて、なぜなら、これらの旧式エンジンは十分に高い回転数(回転毎分)を許容し得ず、且つ生じた出力が顕著なものではなかったからであった。これらのエンジンはまた、原則として、生じた出力の量を考慮すると、低いエネルギー効率及び高い燃料消費量を有していた。
【0009】
1970年後に、エンジンの開発は、主としてエネルギー効率を向上させることに焦点が合わせられ、且つその結果得られたエンジンは、より小型で、より強力で、それゆえ、それらの出力をずっと高い回転数で発生させた。これらの要因(高い回転数及び発生させられたより大きな出力)の組合せは、軸受の高度の開発を結果もたらした。今日、小型エンジンをさらに効果的且つ強力なものとして作る傾向は、生じた出力を基準にした低い燃料消費量、燃料の高いコスト及び地球温暖化に鑑みた非常に重要な任務故に、これまでより増している。
【0010】
多数のIC機関が、それらの回転可能なシャフトを拘束するための滑り軸受を、他のタイプの軸受(すなわちローラー等)の代わりに使用していることにも留意されたい。滑り軸受は、一般に流体力学的条件下で作動させるために開発されているが、しかし、結局は、主としてエンジンの起動を通じて、一方の面が他方の摺動面に接触し、これにより熱が生成され、且つ表面の少なくとも1つの摩耗が速められる。
【0011】
とりわけ滑り軸受が備え付けられたエンジンを考慮すると、クランクシャフトは、同軸方向に間隔をおいて配置された連続した軸受(2つ、3つ、4つ、5つ、7つ等)によってエンジンブロック内に拘束されている。各々の滑り軸受は、該ブロックの弓形凹部に設置された滑り軸受下部及び、該エンジンブロックにボルト止めされた支持的軸受キャップによって該軸受下部に対してしっかりと締め付けられた、より下方の滑り軸受部を含む。
【0012】
当初、摺動面はハウス内に嵌められていたが、しかし、技術的な発展とともに、軸受ライニングは丈夫な背面支持体に施された(すなわち鋼板)。ライニング用の適した金属は、鉛基合金、錫基合金、銅基合金(一般に銅・鉛及び銅・鉛・錫)及びアルミニウム合金(一般にアルミニウム・錫・銅、アルミニウム・シリコン・錫及びアルミニウム・錫・銅・シリコン合金)を含む。
【0013】
従来、滑り軸受の製造法は、回転シリンダを一緒に通過する2つの材料ストリップを作ることによって鋼支持面にアルミニウム基合金を接合することを包含し、該方法は機械的変形による2つのストリップの全体の厚みの低下をもたらし、その結果として、ライニング合金と背面鋼との間の接合強度をもたらす。
【0014】
いくつかの代替的な製造法が、溶射系(すなわち高速フレーム溶射−HVOF)、ワイヤ溶射及びプラズマ溶射に分類される堆積法を用いて支持背面鋼に軸受面を備えるために開発されていた。
【0015】
滑り軸受を製造する方法は、いくつかの先行技術文献に示されており、該文献のいくつかを簡潔に後述する。
【0016】
GB1083003の特許事例は、溶射ガン及び鋼に軸受ライニングを付着させるための原料としてワイヤを用いるHVOF法に関する。堆積させられた材料は原料の融点近くの温度に加熱されているので、加熱された材料の部分は半溶融状態で堆積させられることができ、したがって、いくつかの多孔質物及び酸化物は係る堆積法に固有のものである。
【0017】
GB2130250の特許事例もまた、背面支持層に施された機能層を有する多層材料を製造するためのプラズマ溶射と呼ばれる全く同様の方法のもう一つの例である。該方法は最初の参考文献とは異なってはいるものの、それは同じ欠点を有する(高い含有量の酸化物が存在している多孔性コーティング)。
【0018】
US特許6,416,877は、アルミニウム・錫・銅合金がHVOF法を介してオーバーレイとして堆積された軸受をクレームしている。それはまた、軟質金属の鉛の第二の相及びさらにアルミナ20質量%までを基礎とする他の材料組成物をクレームしている。HVOF法は材料の酸化を避けるためにプロセスパラメータに関して調整されてはいたものの、温度は依然として、堆積下で部分的に材料を溶融し且つコーティング性能に影響を及ぼすいくらかの酸化物含量を生むぐらい高い。
【0019】
もう一つの文献(特許出願DF102004043914A1)は、青銅、特に銅と錫の合金、銅と鉛の合金、銅とアルミニウムの合金、錫と銅又はアルミニウムと錫の合金における減摩用金属でコーティングされた滑りベアリング部品に関する。低温ガス吹き込みにより製造された係る減摩用金属は、排水マシーン、特にアキシアルピストンマシーンで、ハーフベアリング、ブシング又はディストリビューションディスクとして適用されている。係る特許出願は、減摩用金属に主要部を接合するために本来用いられてきた溶接法に取って代わる上述の製造法を用いることを意図している。
【0020】
上述の全ての先行技術文献では、いくつかの不利益/欠点を有するベアリングの製造法が判明しているが、それらは本発明の対象によっては顕在化していない。
【0021】
本発明時まで、コールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーの方法により製造された、高い耐スカッフィング性と耐摩耗性の相対する特性と、それに高荷重容量を同時に有する滑りベアリングは存在していなかった。
【0022】
さらに、本発明時まで、複合材料を被覆するためにコールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーを用い、結果生じるベアリングに高い耐スカッフィング性と耐摩耗性の相対する特性をもたらす、滑りベアリングの製造方法は存在していなかった。
【0023】
本発明の目的は、バイメタルである、現在のベアリングより良好な性能を与える平滑なベアリングライニングを形成する方法を提供することである。
【0024】
本発明の概要
本発明の滑りベアリングは、その主たる革新的な観点として、コールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーによって堆積させられた複合ライニング材料(エンジンシャフトの摺動面と接触する材料)の存在を有する。
【0025】
係る材料は、バイメタル又はトリメタルのベアリング構想に当てはめられることができ、なぜなら、主目的は、主として表面特性により左右されるベアリング特性(耐荷重性、耐焼付け性及び耐摩耗性)を改善することだからである。それゆえに、ベアリング性能を改善するのには数ミクロンの厚さで十分である。
【0026】
この堆積により層が生じ、これは次に十分且つ効果的な滑りベアリングライニングを形成するために処理される。コールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーによって施された複合材料の使用により、優れた耐スカッフィング性及び耐摩耗性を得ることが可能になる。
【0027】
複合材料は、アルミニウム合金粉末とセラミック粒子及び焼付け防止剤とから成り、全てコールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーによる堆積に先立った機械的ブレンドによって提供される。
【0028】
本発明の滑りベアリングの製造方法は、好ましくは粉末混合物を取得する工程、基材を調製する工程、コールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレーを介して粉末混合物を堆積させる工程、機械加工及び処理操作の工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の滑りベアリング物体の模式図
【図2】本発明の滑りベアリングのライニングの有利な態様の平衡材料(balance material)の顕微鏡図
【図3】本発明の滑りベアリングのライニングの有利な態様のセラミック材料の顕微鏡図
【図4】本発明の滑りベアリングのライニングの有利な態様の焼付け防止剤の顕微鏡図
【図5】他の2つの基準となる材料と比較した本発明の滑りベアリングのスカッフィング特性を表すグラフ図
【図6】他の2つの基準となる材料と比較した本発明の滑りベアリングの耐摩耗性を表すグラフ図
【図7】他の2つの基準となる材料と比較した本発明の滑りベアリングの動的試験負荷を表すグラフ図
【図8】コールドスプレー法を介して製造された複合コーティングの断面図
【図9】コールドスプレー法を介して製造された、エッチングされた複合コーティングを示す図
【0030】
図面の詳細な説明
すでに述べたように、本発明は新規であり且つ進歩性を有しているスライドベアリング1、10、並びにその製造法と、さらに、前述の滑りベアリングを有するIC機関に関する。
【0031】
まず第一に、本発明の滑りベアリングの有利な態様は、理想的にはコンロッドベアリングとして動かされることに留意されたいが、しかしながら、本発明の構想は、任意の種類のベアリングに申し分なく使用することができる。
【0032】
滑りベアリングは、バイメタルとトリメタルに分類されることができる。
【0033】
バイメタル滑りベアリングは、ライニングが施されている構造を持つ。
【0034】
他方で、トリメタルベアリングは、ライニングが施されている中間層を有しており、過酷な環境条件(例えば含塵環境)で運転されるエンジン中での使用にとって好ましい製品である。
【0035】
図1には、バイメタルベアリングが1の数字で示されており、且つトリメタルが10の数字で示されている。
【0036】
本発明の滑りベアリング1、10の物体は、平滑なベアリングライニング3が、コールドスプレーによって結び付けられている支持構造物2を有しており、該ライニング3は、他の滑り表面(すなわち、エンジンのシャフト)と対面する表面である。
【0037】
トリメタルベアリングの場合、ライニング3は間接的に構造物2に結び付けられており、なぜなら、ライニング3が実際に施されている、いわゆる中間層30がそれらの間に備えられているからである。
【0038】
ベアリングの特別な構成は、バイメタル又はトリメタルであれ、本発明の目的のために重要ではなく、該構成はライニング3の特性に帰する。
【0039】
支持構造物2(基材としても知られている)は、有利には、鋼、炭素鋼、鋳鉄、アロイド鋼及びマイクロアロイド鋼、チタン等の非常に強度のある材料から成っており、且つ所望される場合は他の任意の材料から成っていてもよい。鋼ストリップ又は青銅ストリップといったフラットストリップ、コネクティングロッドの大端孔又はハウジングブロックのボア用のプレフォームドハーフベアリングシェルも包含されていてよい。有利には、支持構造物はフラットストリップとして形成されている。
【0040】
すでに述べたように、コールドスプレー又はコールドガスダイナミックスプレー法は、ライニング1の支持構造物2にわたって粉末混合物の堆積を作り出し、処理後に滑りベアリングライニング3になる層を生み出す。
【0041】
コールドスプレー法は、非溶融の小さい粉末粒子(通例、直径1〜50μm)が、圧縮ガスの超音速ジェットにおいて非常に高い速度(毎秒約600〜1000メートル)に加速される、高速の材料成膜法である。目標面と衝突するのと同時に、固体粒子は変形し、且つ一緒に結合して、その際、堆積させられた材料の層が急速に形成される。
【0042】
コールドスプレー法は、供給材料を溶融するために高温加熱源(例えば、フレーム又はプラズマ)を使用しないので、それは大量の熱を被覆された部分に伝達しない。それゆえ、該方法は、熱感受性のコーティング材料を、酸化又は他の空中化学反応により劣化させない。
【0043】
主にこの理由から、コールドスプレー法は、堆積用酸素感受性材料にとって非常に魅力的である。
【0044】
同様に、コールドスプレーは、ナノ相材料、金属間材料又は非晶質材料(それらはしばしば、慣例の溶射技法を用いて吹き付けるには面倒な材料である)からの厚いコーティングを形成するための新しい可能性を提供し、なぜなら、それは粒の成長及び脆性相の形成をしばしば回避するからである。もう一つの利点は、凝固収縮と関連付けられる残留引張応力が除かれることである。
【0045】
最終的に、最後の利点として、それは衝突する固体粒子のペニング効果が、コールドスプレーで堆積させられた材料に有益な圧縮残留応力を引き起こすことをすでに実証していた。
【0046】
コールドスプレー法はすでに知られており、且つAlkhimov他に公布されたUS特許5,302,414に開示されている。
【0047】
コールドスプレーによって堆積させられた、ベアリングライニング3の組成物中での複合材料の使用は、本発明の最も革新的な特徴の一つであり、その際、ベアリング1に、耐スカッフィング性及び耐摩耗性の2つの好ましい特性を付与する。
【0048】
コールドスプレー堆積法によって作り出された複合材料を提供するために、アルミニウム合金粉末(平衡材料と呼ばれる)とセラミック粒子と焼付け防止剤との複合混合物が使用されていた。係る複合材料は、係る混合物をデポジションコールドスプレー装置中に供給する前に該粉末を機械的ブレンドによって提供されるが、それは他の任意の方法によって取得することもできる。
【0049】
アルミニウム合金を有するバイメタル材料に基づくベアリングに関しての現状の種類及び言及した溶射法による今日のベアリング製造と比較した場合、コールドスプレーによって適用された、提案された複合材料は、より良好な耐荷重性、過酷な潤滑状況下での改善された使用条件及び相手面の加速調整を意図する慣らし運転の短縮をもたらすことができる能力を与えるものである。
【0050】
本発明に従って、異なる合金のいくつかの組合せを、いくつかある中で、Al、AlCu,AlSn、AlSnSi、AlSnSiCu、Cu、CuAl、CuSn、CuSnNi、CuSnBi及びCuSnBiNから成る群から使用することができる。言及した全ての合金は、第二の部材の広範な領域を表すものであってよい。
【0051】
潤滑効果及び/又は耐焼付け性を改善することにより表面効果を改善するために、別の材料が要求される。
【0052】
潤滑効果の点での改善は、固体潤滑剤、特に、例えばグラファイト、MoS、BN及びPTFEを添加することによって得られ、且つ焼付け防止特性の向上は、特に、元素Sn、Bi又はMOの添加によって得られる。
【0053】
最終的に、硬質粒子、特に、例えばSiC、CBN、Al、BC,Cr、WC、Si及びMoSiを添加することで、相手面を慣らす能力が改善される。
【0054】
図2に明示されるように、平衡材料(Al合金化)は、5μm〜100μmまでの粒径で相当丸まった形状を示し、セラミック材料(すなわち、図3に示されるようなSiC)は、ずっと小さいサイズで(1μm〜20μmまで)尖った形状を持つ。焼付け防止剤(すなわち、図4に示されるようなモリブデン)は、5μm〜300μmのサイズで一定でない形状を示す。
【0055】
コールドスプレー法を用いた堆積法の開発中、複合コーティング上への付着、粘着及び低多孔質含有分を高めるために、いくつかのパラメータが試みられてきた。下の適切なコーティング堆積膜用に定められた最終的なプロセスパラメータを参照されたい。
【0056】
【表1】

【0057】
もう一つの鍵となる特徴は、コールドスプレー法によって施工された複合材料を受け入れる面の適切な活性化をもたらす鋼基材2の調製である。基材2の表面上の任意の油質分を取り除くために、溶媒(すなわちアセトン)で該基材2を洗浄する必要がある。そのうえ、自由金属表面は、しばしば、比較的薄い酸化物層によって覆われており、且つ係る酸化はコーティング付着、それから、露出した鋼を脅かすことから、酸化表面は、機械的に、例えば噴射して又は研磨紙で洗浄されなければならない。洗浄プロセスは、コールドスプレー法による堆積膜を受け入れる表面活性化を担う。
【0058】
粉末材料はノズルによって適用され、且つノズルと基材2との相対運動は、ノズルが同じ基材領域を、材料の正確な堆積を保証しながら数回通過する形でもたらされる。
【0059】
ノズルと基材2との係る相対運動は、コーティングエリアとコーティング厚さを設定することを担う。そこで示される実験は、最大コーティング厚さに関して制限されていない。
【0060】
鋼材とは異なる基材材料を用いたコーティング適用もまた、その独自の特性をともなって、完全に実現可能であるが、しかし、全てのアプローチには、良好な接着強度又は付着を提供することを目的としながら、基材活性化のために化学的及び機械的な洗浄が要求される。
【0061】
本発明の滑りベアリング1の有利な一実施態様は、銅5%で合金化されたアルミニウム粉末、炭化ケイ素15%及びモリブデン15%(質量%で記載した含有分)から成るライニング3を有する。この有利な実施態様はMo及びSiCの特定の含有率を有しているけれども、それぞれ述べた材料のそれどころか0.5%が、上で述べたベアリング合金の性能を増大させることが期待されている。それぞれ述べた材料の高い方の含有率は、該材料の25%から生じる堆積させられたコーティング上での亀裂が一部生じることによって制限されている。
【0062】
バイメタルベアリングの場合、最初に純Al(平衡材料)をコールドスプレーにより約80μmの厚さでコーティングし(いわゆる接合用中間層3'を形成する)、それからAlCuMo15SiC15の材料ブレンドを、コールドスプレーにより約1mmの厚さを有するライニングを発生させるために用いる。結果生じる表面は平滑では十分なく、約150μmの厚さを加工によって取り除く。
【0063】
その後、製品を熱処理(すなわち、340℃で1時間)に供して、材料変形能力を取り戻させ、そして引き続き、このすでに熱処理された材料を、ストリップの全厚の少なくとも40%の減少をともなって転造することで、該ストリップをベアリング製造のための一定のプロセスにかけるのに適した厚さをもたらす。
【0064】
熱処理手順(該処理にかける温度、時間等)は、ベアリング1、10の構成に応じて変えてよいことに留意されたい。
【0065】
引き続き、該ストリップを、ベアリングの直径及び長さに従って、矩形形状にカットする。そのようにして製造されたブランクを、最終的なベアリング形状寸法にコイニングし且つ加工する。
【0066】
図8は、コールドスプレー処理を用いて作製されたライニング材料の外観側面を表しており、ここで、黒い領域がSiC粒子であり、且つ灰色の領域がMo粒子である。バイメタルベアリングの場合、純Al中の中間層3'は、断面のエッチング後に姿を現す(図9における鋼と複合材料との間の白色層を参照されたい)。
【0067】
該複合材料の外観側面は、他の溶射処理においてはごく普通に見られる多孔質を示さない。さらに、コールドスプレー法で製造された複合材料は、堆積させられたコーティングの良好な付着を示す。
【0068】
性能試験用の作製サンプルを、以下の特徴により製造した:
外(ハウジング)径:54.426mm
ベアリング長さ:24.485mm
全体の壁厚:1.786m
ベアリング合金厚:0406mm
作製サンプルの硬度:HV5=99。
【0069】
上記仕様に従って作製されたサンプルを、その摩擦挙動(耐スカッフィング性及び耐摩耗性)に関して試験した。
【0070】
試験実施のあいだ、(AlCuMo15SiC15 ライニング3の複合物を有する)本発明の滑りベアリングの1つの有利なバイメタルの実施態様の摩耗性及びスカッフィングを、AlSn20CuとAlSn4Si2Cuのバイメタル合金と付き合わせて比較試験した。双方の評価は、内部試験基準17に従う単純化した台上試験により得た。
【0071】
摩耗試験のために、基準片をリング装置上で用い、その際、対向面を部分的に加熱油に浸しながら、適用した常用荷重及びシャフト速度を全ての試験長さにわたって一定に保ち、そうして摩耗性を、平坦なサンプルのすり減った体積分について試験の最後に測定した。表IIは摩耗試験のための主たる特徴を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
焼付け試験を、ピンオンディスク試験機上で、油供給を制御し且つ焼付け発生までの試験の間ずっと常用荷重(これは規準化された単位荷重(MPa)に換算される)を上昇させることにより実施した。試験条件についてのさらなる詳細は下の表IIIを参照されたい。
【0074】
【表3】

【0075】
双方の評価のために、各材料についての一連の10回の試験を、試験下で材料の統計学的評価を作製する目的で実施する。
【0076】
最初に試験した材料(既知のバイメタル合金AlSn20Cu)は、高いSn含有量に因るその良好な耐焼付け特性によってよく知られており、これは過酷な潤滑状況下でも良好な表面特性を提供する。他方で、二番目の試験材料(既知のバイメタル合金AlSn10Si4Cu2は、Si含有量に因る良好な耐摩耗特性及び先のベアリング合金材料(AlSn20Cu)と比較した場合により高い硬度を示す。
【0077】
図5は、他の2つの基準となる材料と比較した、本発明の滑りベアリングのライニングに使用される複合材料(AlCuMo15SiC15)のスカッフィング特性を比較するグラフを示す。
【0078】
たて軸上に、単位荷重(MPa)で記される耐焼付け性が示されている。潤滑系に対する、より高い単位荷重が意味することは、油膜厚が金属−金属接触の極限まで減少されるということである。そのように適用荷重を上昇させることで、焼付けによって特徴付けられる突発故障に及ぶまで接触圧力が上昇した。
【0079】
2つの挙げられた特性(摩耗性及び焼付き性)の結果は、試験母集団が類似していることを示す、異なるバーの平均及び任意の重なりの90%の信頼性統計処理を示す。それゆえ、耐焼付け性のために、提案された複合材料(AlCuMo15SiC15)は、Snの高い含有量の点ではバイメタル材料(AlSn20CU)に統計的に類似している。同様に、提案された複合材料(AlCuMo15SiC15)は、提案された考え方が、適合性(耐スカッフィング性)に関する実際の適用下でスムーズに奏されるという点で、常用のバイメタル材料(AlSn10Si4Cu2)より高い耐スカッフィング性を示す。
【0080】
図6は、耐摩耗性に関して評価した、上で述べたのと同じ3つのベアリング材料を示す。グラフは、本発明の滑り軸受対象(AlCuMo15SiC15)の提案された複合コーティングとシリコン含有量が一定のバイメタルの公知材料(AlSn10Si4Cu2)の類似した耐摩耗性を示す。
【0081】
この得られた結果は、提案された材料が、普通は相対する(なぜなら、一様に、良好な摩耗性を提供するベアリング材料は、良好な耐スカッフィング性を提供することができず、逆もまた同じだからである)特性(耐摩耗性及び耐スカッフィング性)を同時に提供することができるという観点に基づき意外である。
【0082】
本発明の滑り軸受対象は、内燃機関での適用のために提案されているので、それは一定の荷重下で実施された試験において適した安定性を示さなければならないのみならず、繰り返し荷重も考慮されなければならない。
【0083】
したがって、作製サンプルを疲労試験にかけ、その際、実験を、滑り運動及び正弦波荷重と同時に、加熱された潤滑状態下で実施する。実際に、提案された考案の荷重容量は、確認されることができる最も重要な特徴である。
【0084】
コールドスプレー法による複合材料の荷重容量は、最も高い荷重容量を有するバイメタル材料と比較されている。結果は図7に見ることができる。本発明に従った複合コーティングは、荷重容量について約10%の改善を示した。
【0085】
(AlCuMo15SiC15)を除いた複合材料は、高い耐摩耗性及び耐スカッフィング性、並びにより大きな荷重容量の所望の特性を同時に達成するために、本発明の滑り軸受対象のライニングの形成に使用できることに留意されたい。本発明は、実際に、ここに記載される有利な実施形態に関わらず、コールドスプレー法によって堆積させられた複合ライニングを有する任意の種類のベアリングに関する。
【0086】
本発明はまた、その特別な構成に関わらず、本件滑り軸受の製造法に関する。つまり、ベアリング作製のための製造プロセスフローは下に示されている:
工程(i)−粉末混合物の調製。
【0087】
工程(ii)−基材の調製(洗浄等)。
【0088】
工程(iii)−コールドスプレー法による該粉末混合物の堆積。
【0089】
工程(iv)−適合、加工及び熱処理操作。
【0090】
好ましくは、工程(iii)は、中間層3'の堆積の工程(iii.a)と、続くライニング層の堆積の工程(iii.b)とに細分されている。
【0091】
さらに好ましくは、工程(iv)は、ストリップの熱処理の工程(iv.a)、ストリップの転造の工程(iv.b)、ブランク作製の工程(iv.c)、該ブランクをベアリング湾曲形状にコイニングする工程(iv.d)、最終的に、加工処理によるベアリングの仕上げの工程(iv.e)に細分されている。
【0092】
粉末混合物(工程(i))の調製は、好ましくは、機械的ブレンドによって行われるが、自明のこととして他の解決策も使用することができる。
【0093】
すでに述べたように、基材2の調製(工程(ii))は、好ましくは、表面上の任意の油質分を取り除くための、溶媒(すなわちアセトン)を用いた基材2の洗浄に相当する。工程(ii)は、基材がすでにきれいな場合には、単に選択的なものであってよいことに留意されたい。
【0094】
バイメタルベアリング1の場合、工程(iii.a)は、コールドスプレーによる、中間層3'成分(好ましくは、粉末形の純Al)の、約80μmの厚さでの適用に相当する。
【0095】
工程(iii.b)は、コールドスプレーによる、ライニング層を形成する粉末複合物AlCuMo15SiC15の、好ましくは約1mmの厚さでの適用に相当する。
【0096】
工程(iv.a)は、材料変形を取り戻すための、基材(適用可能である場合、中間層3'を有する)及び適用されたライニングの、好ましくは340℃で1時間の熱処理に相当する。
【0097】
工程(iv.b)は、ストリップの全厚の好ましくは少なくとも40%を減少させるための、転造操作に相当する。
【0098】
工程(iv.c)はブランク作製に当たり、その際、ストリップは、好ましくは、ベアリング直径及び長さに従った矩形形状にカットされる。
【0099】
工程(iv.d)は、ブランクをベアリング湾曲形状(実質的に"C"形状)にコイニングすることに相当し、それは最終的なベアリングの形状である。
【0100】
最終的に、工程(iv.e)は、ライニング表面(先だって十分には平滑でなかった)の加工に相当し、その際、約150μmの厚さが加工によって取り除かれる。
【0101】
明らかに、製造法のいくつかの特性は、使用される材料、結果生じるベアリングの種類及び幾何学的形状等に応じて変化してよく、且つそこから派生する方法は、完全に、付随した請求項の保護範囲に含まれることができる。
【0102】
本発明による少なくとも1つの滑り軸受を有するIC機関はまた新規の発明であり、付随した請求項の保護範囲に同様に含まれる。
【0103】
いくつかの好ましい実施形態が記載されており、本発明の範囲は、付随している請求項の内容によってのみ制限されるが、考えられる均等の範囲を包含している他の考えられる変形態様を含むものと理解されるべきである。
【符号の説明】
【0104】
1、10 滑りベアリングの物体、 2 構造物、 3 ベアリングライニング、 3' 中間層、 30 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライニング(3)がコールドスプレー法又はコールドガスダイナミックスプレー法によって施されている支承構造又は基材(2)を有する、特に、内燃機関の少なくとも1つのシャフトを拘束するための滑り軸受において、該ライニング(3)が、少なくとも1種の合金粉末をセラミック粒子及び焼付け防止剤とともに有する少なくとも1種の複合材料から成ることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
使用される前記複合材料がAlCuMo15SiC15であることを特徴とする、請求項1記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記ライニング(3)が、純Alから成る中間層(3')及び複合材料AlCuMo15SiC15から成るライニング層に相当することを特徴とする、請求項2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記基材(2)が、鋼又は鋳鉄から成ることを特徴とする、請求項1記載の滑り軸受。
【請求項5】
ライニング(3)がコールドスプレー法又はコールドガスダイナミックスプレー法によって施されている支承構造又は基材(2)を有する、特に、内燃機関の少なくとも1つのシャフトを拘束するための滑り軸受において、該ライニングが、セラミック成分SiC、CBN、Al、BC、Cr、WC、Si又はMoSiの少なくとも1つを有することを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
滑り軸受の製造法において、該方法が以下の工程:
工程(i)−粉末混合物の調製;
工程(ii)−基材(2)の調製;
工程(iii)−コールドスプレー法による該粉末混合物の堆積;及び
工程(iv)−適合、加工及び熱処理操作
を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記工程(i)が機械的ブレンドによって行われ、しかし、自明のように他の解決手段も使用することができることを特徴とする、請求項6記載の製造法。
【請求項8】
前記工程(ii)が、好ましくは、基材(2)上の任意の油質分を取り除くための溶媒を用いた該基材(2)の洗浄に相当することを特徴とする、請求項6記載の製造法。
【請求項9】
前記工程(iii)が、中間層(3')の堆積の工程(iii.a)と、続くライニング層の堆積の工程(iii.b)とに細分されていることを特徴とする、請求項6記載の製造法。
【請求項10】
前記工程(iii.a)が、コールドスプレーによる、中間層(3')成分(好ましくは、粉末形の純Al)の、約80μmの厚さでの適用に相当することを特徴とする、請求項9記載の製造法。
【請求項11】
前記工程(iii.b)が、コールドスプレーによる、前記ライニング層を形成するための粉末複合物AlCuMo15SiC15の、好ましくは約1mmの厚さでの適用に相当することを特徴とする、請求項9又は10記載の製造法。
【請求項12】
前記工程(iv)が、ストリップの熱処理の工程(iv.a)、ストリップの転造の工程(iv.b)、ブランク作製の工程(iv.c)、該ブランクをベアリング湾曲形状にコイニングする工程(iv.d)、加工処理によるベアリングの仕上げの工程(iv.e)に細分されていることを特徴とする、請求項6記載の製造法。
【請求項13】
前記工程(iv.a)が、材料変形を取り戻すための、340℃で1時間のあいだ施される前記基材(2)及びライニングの熱処理に相当することを特徴とする、請求項12記載の製造法。
【請求項14】
前記工程(iv.b)が、前記ストリップの全厚の好ましくは少なくとも40%を減少させるための、転造操作に相当することを特徴とする、請求項12記載の製造法。
【請求項15】
前記工程(iv.c)がブランク作製に相当し、その際、前記ストリップが、好ましくは、ベアリング直径及び長さに従った矩形形状にカットされることを特徴とする、請求項12記載の製造法。
【請求項16】
前記工程(iv.d)が、前記ブランクをベアリング湾曲"C"形状にコイニングする工程に相当することを特徴とする、請求項12記載の製造法。
【請求項17】
前記工程(iv.e)が、前記ライニング表面の加工に相当し、その際、約150μmの厚さが加工によって取り除かれることを特徴とする、請求項12記載の製造法。
【請求項18】
請求項1から5までのいずれか1項に定義されるような少なくとも1つの滑り軸受(1)を有することを特徴とする内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2012−530227(P2012−530227A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515390(P2012−515390)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003617
【国際公開番号】WO2010/145813
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【出願人】(511308749)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE Metal Leve S/A
【住所又は居所原語表記】Rodovia Anhanguera, Sentido Interior − Capital Km 48,2, 13214−790 Jundiai − Sao Paulo, Brazil
【Fターム(参考)】