説明

炭化ケイ素焼結体の洗浄方法

【課題】 炭化ケイ素焼結体の表面のマイクロポアに存在する粒子を除去することができる炭化ケイ素焼結体の洗浄方法を提供する。
【解決手段】 600℃以上の加熱雰囲気を形成する工程と、上記加熱雰囲気内に炭化ケイ素焼結体を挿入し0.5時間以上ウェハを加熱する工程と、上記加熱雰囲気から前記炭化ケイ素焼結体を取り出し冷却する工程と、上記加熱工程と前記冷却工程を交互に複数回繰り返す工程と、を有する炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、半導体各種部材及び電子部品用途向け炭化ケイ素焼結体の湿式洗浄方法に関する。詳しくは、高純度が要求されるダミーウエハ、ターゲット、発熱体等に関する半導体製造用途炭化ケイ素焼結体の有機物汚染、金属元素汚染及びパーティクル汚染等の除去方法に関する。
【0003】
炭化ケイ素は、共有結合性の強い物質であり、従来より高温強度性、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等の優れた特性を生かして多くの用途で用いられてきた。それらの利点が着目され、最近では電子分野、情報分野、半導体分野への応用が期待されている。
【0004】
半導体シリコン集積回路の高集積化、及びそれに付随した細線化に伴って、これらの分野で用いられる半導体各種部材及び電子部品は、高純度化、高密度化が要求されるため、非金属系焼結助剤を用いたホットプレス焼結法や反応焼結法が鋭意研究されている。しかしながら、これらの焼結法で得られた炭化ケイ素焼結体は、高純度化、高密度化でありながら製造前後のプロセス(焼結、加工、及びハンドリング等)で、表面及び表面近傍に汚染を受けている。
【0005】
このため、炭化ケイ素焼結体を半導体各種部材及び電子部品に応用するためには、汚染源となる研磨屑などの粒子等を取り除く洗浄方法が求められていた。
【0006】
炭化ケイ素焼結体の洗浄方法に関する技術としては、(1)特許文献1に、酸洗浄後、1200℃以上の温度で酸化処理し、その後窒素雰囲気で表面処理する方法が開示されている。(2)特許文献2ではシリカ砥粒でブラスト洗浄した後に、フッ酸及び硝酸の混酸で湿式洗浄する方法が開示されている。(3)特開平6−77310号では、フッ酸水溶液に浸清洗浄した後、超純水で濯ぎ、更に酸素・ハロゲンガスで乾式洗浄した後に、酸素処理する方法が開示されている。(4)焼結後の、高純度化は非常に困難なことから、多孔質炭化珪素成形時にハロゲン化水素ガス及び無機酸洗浄処理をして一旦高純度化した後、二次焼結する方法(特許文献4、特許文献5、特許文献6)等が報告されている。
【0007】
従来の洗浄方法によれば炭化ケイ素焼結体の表面に付着した粒子を除去することができる。しかしながら、炭化ケイ素焼結体の表面のマイクロポアに入り込んだ研磨屑等の粒子を取り除くことは極めて困難であった。そのため炭化ケイ素焼結体を加熱処理した際にマイクロポアに入り込んでいた粒子が炭化ケイ素焼結体の表面に移行し、それが炭化ケイ素焼結体の汚染源となるおそれがあった。
【特許文献1】登録181841号
【特許文献2】特開平5−17229号
【特許文献3】特開平6−77310号
【特許文献4】特開昭55−158622号
【特許文献5】特開昭60−138913号
【特許文献6】特開昭64−72964号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、炭化ケイ素焼結体の表面のマイクロポアに存在する粒子を除去することができる炭化ケイ素焼結体の洗浄方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の記載事項に関する:
(1) 600℃以上の加熱雰囲気を形成する工程と、上記加熱雰囲気内に炭化ケイ素焼結体を挿入し0.5時間以上ウェハを加熱する工程と、上記加熱雰囲気から前記炭化ケイ素焼結体を取り出し冷却する工程と、上記加熱工程と前記冷却工程を交互に複数回繰り返す工程と、を有する炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
(2) 上記炭化ケイ素焼結体を前記加熱雰囲気内に挿入する前に、上記炭化ケイ素焼結体を予備洗浄する工程を有する上記(1)記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
(3) さらに、上記炭化ケイ素焼結体上の粒子を除去する工程を有する上記(1)又は(2)記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
(4) 上記除去工程において吸引手段を用いて上記炭化ケイ素焼結体上の粒子を除去する上記(3)記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
(5) 上記加熱雰囲気における上記炭化ケイ素焼結体の加熱温度は、30℃/分以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
(6) 上記加熱工程における上記炭化ケイ素焼結体の加熱時間は0.5時間以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法によれば、炭化ケイ素焼結体の表面のマイクロポアに存在する粒子を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明が以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。被洗浄体として炭化ケイ素焼結体からなるウェハを例に挙げて説明する。本実施形態にかかる炭化ケイ素焼結体の洗浄方法は、
(ア)600℃以上の加熱雰囲気を形成する工程と、
(イ)上記加熱雰囲気内にウェハを挿入し0.5時間以上ウェハを加熱する工程と、
(ウ)上記加熱雰囲気からウェハを取り出しウェハを冷却する工程と、
(エ)上記加熱工程と前記冷却工程を交互に複数回繰り返す工程と、さらに
(オ)上記ウェハ上に析出した粒子を除去する工程と、を有する。以下工程毎に詳細に説明する。
【0012】
(ア)加熱雰囲気を形成する工程
まず加熱炉を用意する。加熱炉としては昇降式加熱炉等を用いることができる。中でも200mm/分以上で昇降可能な昇降式加熱炉が好ましい。用意した加熱炉の内部温度を600℃以上、好ましくは800℃以上に設定する。600℃未満だとウェハの内周部と外周部の温度差が小さく、マイクロポアに入り込んだ微粒子の押出し効果が得られないからである。
【0013】
(イ)加熱工程
上記加熱雰囲気内にウェハを挿入する。そして0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上ウェハを加熱する。ウェハの加熱時間が0.5時間未満だと効果的に粒子をウェハ表面に押し出すことができないからである。
【0014】
(ウ)冷却工程
上記加熱雰囲気からウェハを取り出す。そして室温(20〜30℃)で1時間冷却する。この際、冷却雰囲気内にウェハに悪影響を与えないガス例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等を流すことが好ましい。ウェハの冷却効果及び洗浄効果を上げるためである。
【0015】
(エ)繰り返し工程
さらに(イ)加熱工程及び(ウ)冷却工程を複数回繰り返す。(イ)加熱工程及び(ウ)冷却工程を繰り返すことで粒子の回収効果が上がるからである。(イ)加熱工程と(ウ)冷却工程は、2回以上、好ましくは6回行うことが好ましい。6回以上になると、回収できる粒子の数が平衡に達し経済的ではないからである。
【0016】
(オ)除去工程
加熱雰囲気からウェハを取り出した後、ウェハの表面に押し出された粒子を、吸引手段等を用いて除去する。(オ)除去工程は、冷却工程が終了する毎に行っても、また全工程が終了した後に行っても構わない。洗浄効果を上げる観点からは冷却工程が終了する毎に行うことが好ましい。
【0017】
上記実施形態によれば、ウェハ表面のマイクロポアMに入り込んだ粒子Pを取り除くことができる。その理由は特に定かではないが図1(a)〜(c)を用いて以下のように考えることができる。
【0018】
図1(a)(b)に示されるように、従来の洗浄方法によれば炭化ケイ素焼結体の表面に付着した粒子Pを除去することができる。しかしながら、図1(b)に示されるように、炭化ケイ素焼結体の表面のマイクロポアMに入り込んだ研磨屑等の粒子Pを取り除くことは極めて困難であった。
【0019】
この場合、ウェハを加熱雰囲気の中に挿入すると、ウェハの外周部から内周部へ熱が伝わる。そして、ウェハの外周部と内周部間の温度差により引張り応力が生じる。そのため、図1(c)に示されるように、ウェハ表面のマイクロポアMに入り込んだ粒子Pは引張り応力によりウェハ表面に押し出される。また、ウェハを加熱雰囲気から取り出し冷却する場合にも、ウェハの外周部と内周部間の温度差により引張り応力が生じ、ウェハ表面のマイクロポアMに入り込んでいた粒子Pが表面に押し出される。このように(イ)加熱工程と(ウ)冷却工程を繰り返すことにより、マイクロポアMに入り込んでいた粒子Pをウェハ表面に効率的に押し出すことができる。そして表面に押し出された粒子を吸引手段等により除去することでウェハ表面が洗浄される。
【0020】
実施形態の変形例
上記実施形態は、従来法と組み合わせて実施しても構わない。ウェハを加熱雰囲気内に挿入する前に、ウェハに例えば水洗浄、湿式洗浄等の予備洗浄を行った後に、本実施形態を実施しても構わない。予備洗浄工程を設けることで洗浄効果が向上する。
【0021】
上記実施形態においては、(オ)除去工程において、吸引機を用いて粒子を除去したが、その他にも表面刷掃法等を用いても構わない。
【0022】
上記実施形態においては、被洗浄体としてウェハを例に挙げて説明したが、被洗浄体はウェハには限定されない。例えば半導体集積回路製造処理装置用部材等を洗浄しても構わない。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に何ら制限されない。
加熱炉としては、図2(a)〜(c)に示すような、加熱コイル11を備える加熱部10と、加熱部10の下方に隣接して設けられた冷却部20と、ウェハボート32及び断熱部31を備えるウェハ配置部30と、を有する昇降式加熱炉を用いた。ウェハ配置部30は、昇降手段(図示せず)により、加熱部10と冷却部20の間を行き来可能に構成されている。また加熱部10と冷却部20の間に備えられたシャッター21により加熱雰囲気及び冷却雰囲気が維持されるように形成されている。
【0024】
被洗浄体としては、12インチサイズの炭化ケイ素焼結体からなる研磨されたダミーウェハ33を用いた。実施例1〜7及び比較例においては、ダミーウェハ33に以下の条件で水洗浄により前処理を行った後に実験を行った。実施例8についてはダミーウェハ33に前処理は行わなかった。尚、各実施例及び参考例において、複数枚のダミーウェハ33によりウェハボート32を充填して実験を行った後、充填したダミーウェハ33のうちの1枚について粒子量等の評価を行った。
【0025】
吸引機としては、図3(a)に示すような、ウェハを吸引保持するウェハ保持部40と、粒子を吸引する吸引部50と、吸引した粒子の粒子数を測定するためのパーティクルカウンター60と、を有する吸引機を用いた。吸引部には、図3(b)の一部拡大断面図に示すように、空気又は窒素を吹き付ける吹き付けノズル51と、吹き付けノズル51の外周に設けられた粒子Pを吸引する吸引ノズル52が備えられている。
【0026】
(実施例1〜3)
上記ダミーウェハを、炉内温度が900℃に維持された図1(a)〜(c)の加熱炉内に挿入し1時間加熱した。その後、上記ダミーウェハを取り出し室温に1時間放置して冷却した。この加熱工程と冷却工程を表1に示す回数繰り返した。
【0027】
その後、上記ダミーウェハを、炉内温度が900℃に維持された加熱炉内に2度出し入れした。そして、上記ダミーウェハ表面(片面)の粒子を、図3(a)の吸引機により吸引除去した。吸引除去した粒子のうち0.3μm以上の粒子の数をパーティクルカウンターで数えた。得られた結果を表1にまとめた。
【表1】

【0028】
(実施例4〜7)
冷却工程が終る毎に吸引機により粒子を吸引除去した点と、表1に示す回数加熱工程と冷却工程を繰り返した点を除き、上記実施例1〜3と同様に実験を行った。
【0029】
(比較例)
特開2000―169233号公報の実施例1に開示された従来の湿式洗浄方法に準じて、ウェハの洗浄実験を行った。即ち、ダミーウェハを、準水系有機溶剤(石油系炭化水素、有機酸エステル及びノニオン系界面活性剤の混合溶剤)の原液に、50℃で超音波(100V−26±2kHz)を照射しながら15分浸漬し水濯ぎを行った。次にフッ硝酸水溶液(38%フッ酸:68%硝酸:水=1:1:20)に30分浸漬し、さらに純水に浸漬した後、表面清浄度の測定を行った。上記各処理は、準水系有機溶剤に浸漬する処理以外は、水溶液の温度を常温にして行った。
【0030】
その後、上記ダミーウェハを、炉内温度が900℃に維持された加熱炉内に2度出し入れした。そして、図3(a)の吸引機でダミーウェハ上の粒子を吸引除去し、0.3μm以上の粒子の数をパーティクルカウンターで数え、その結果を表1にまとめた。
【0031】
比較例より、ダミーウェハを加熱することにより、ダミーウェハ表面に多くの粒子が移行することが確認された。比較例に比して、実施例1〜8のほうが粒子量が少なかった。このことより加熱工程と冷却工程を設けることで、ウェハの洗浄効果が上がることが分かった。また実施例1〜3の結果より加熱工程と冷却工程の繰り返し回数が多くなるほど、ウェハの洗浄効果が上がることが分かった。実施例6と7の結果より、繰り返し回数が6回以上になると、吸引できる粒子量は平衡に達することが分かった。また実施例1〜3と実施例4〜6の結果より、吸引処理を行うことによりウェハの洗浄効果が上がることが分かった。実施例2と実施例8の結果より、予備洗浄を行うことにより洗浄効果が上がることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(a)〜(c)は実施形態の解決原理の概念図を示す。
【図2】図2(a)は昇降式加熱炉の概略断面図を示す(その1)。 図2(b)は昇降式加熱炉の概略断面図を示す(その2)。 図2(c)は昇降式加熱炉の概略断面図を示す(その3)。
【図3】図3(a)は吸引機の概略図を示す(その1)。 図3(b)は吸引機の概略図を示す(その2)。
【符号の説明】
【0033】
10…加熱部
11…加熱コイル
20…冷却部
21…シャッター
30…ウェハ保持部
31…断熱部
32…ウェハボート
33…ダミーウェハ
40…ウェハ保持部
50…吸引部
51…吹き付けノズル
52…吸引ノゾル
60…パーティクルカウンター
P…粒子
M…マイクロポア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
600℃以上の加熱雰囲気を形成する工程と、
前記加熱雰囲気内に炭化ケイ素焼結体を挿入し0.5時間以上ウェハを加熱する工程と、
前記加熱雰囲気から前記炭化ケイ素焼結体を取り出し冷却する工程と、
前記加熱工程と前記冷却工程を交互に複数回繰り返す工程と、
を有することを特徴とする炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素焼結体を前記加熱雰囲気内に挿入する前に、前記炭化ケイ素焼結体を予備洗浄する工程を有することを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【請求項3】
さらに、前記炭化ケイ素焼結体上の粒子を除去する工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【請求項4】
前記除去工程において吸引手段を用いて前記炭化ケイ素焼結体上の粒子を除去することを特徴とする請求項3記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【請求項5】
前記加熱雰囲気における前記炭化ケイ素焼結体の加熱温度は、30℃/分以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。
【請求項6】
前記加熱工程における前記炭化ケイ素焼結体の加熱時間は0.5時間以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−187680(P2006−187680A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381856(P2004−381856)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】