説明

炭素質材料の蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置、その制御方法及びそのプログラム

【課題】蛍光X線分析により炭素質材料に含まれる元素をより迅速且つ容易に定量分析する。
【解決手段】蛍光X線分析装置20は、蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法(例えばICP発光分析法)によって炭素質材料に含まれる含有元素の含有量を求めると共に、蛍光X線測定ユニット30によってこの含有元素の強度値を求め、得られた含有量と強度値との対応関係情報(検量線)をHDD25に記憶し、未知試料を蛍光X線の強度を検出し、この含有元素の強度値とHDD25に記憶された対応関係情報とに基づいてこの未知試料の含有元素の含有量を定量する。蛍光X線分析方法では、炭素に対する感度がないが、第2の測定方法を利用することにより、定量可能とし、試料に含まれている元素の定量を非破壊で迅速に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料に含まれる含有元素を検出する蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置、その制御方法及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素質材料の分析方法としては、炭素質材料を粉砕し炭素質材料に含まれる無機物を酸により可能な限り溶解させ、この溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分析法)や原子吸光分析法などにより分析する方法が知られていた。しかし、この方法では、無機物を完全に溶解することが困難であるため、精密な分析ができないという問題があった。あるいは、炭素質材料を例えば800℃以上の温度で焼成し、残渣を酸溶液に溶解してICP発光分析法により分析する方法もあった。しかし、この方法では、アルカリ金属などが揮散しやすく、精密な分析ができないという問題があった。
【0003】
そこで、炭素質材料を所定量の酸と共に密閉容器へ収容し密閉容器ごと加熱し、炭素質材料に含まれる含有元素を全溶解させ、この溶解液をICP発光分析法や原子吸光分析法などにより分析するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この分析方法では、すべての元素を密閉状態で溶解させるから、元素の含有量をより高精度で分析することができる。
【特許文献1】特開平5−34288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載された分析方法では、炭素質材料に含まれる元素をすべて溶解させるため、溶解処理に手間と時間がかかる問題があり、個別の未知試料を測定する際に、より迅速且つ容易に炭素質材料に含まれる元素の含有量を定量したいということがあった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、炭素質材料に含まれる元素をより迅速且つ容易に定量分析することができる蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置、その制御方法及びそのプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、炭素質材料の分析に蛍光X線分析方法を用い、この蛍光X線分析方法と異なる測定方法で求めた含有量をこの蛍光X線分析に適用するものとすると、炭素質材料に含まれる元素をより迅速且つ容易に分析することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の蛍光X線分析方法は、
炭素質材料に含まれる含有元素を測定する蛍光X線分析方法であって、
蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法によって前記炭素質材料である対応関係測定用試料の含有元素の含有量を求めると共に蛍光X線分析によって該含有元素の強度値を求め、得られた含有量と強度値との対応関係を求めておき、
未知試料の蛍光X線分析によって前記含有元素の強度値を求め、該求めた未知試料の強度値と前記対応関係とに基づいて該未知試料の該含有元素の含有量を定量するものである。
【0008】
また、本発明の蛍光X線分析装置は、
炭素質材料に含まれる含有元素を測定する蛍光X線分析装置であって、
試料にX線を照射し得られた蛍光X線の強度を検出する検出手段と、
蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法によって求めた前記炭素質材料である対応関係測定用試料の含有元素の含有量と前記検出手段によって検出された前記含有元素の強度値との対応関係情報を記憶する記憶手段と、
前記検出手段によって検出された未知試料の前記含有元素の強度値と前記記憶手段に記憶された対応関係情報とに基づいて該未知試料の含有元素の含有量を定量する含有量定量手段と、
を備えたものである。
【0009】
また、本発明の蛍光X線分析装置の制御方法は、
試料にX線を照射し該試料の蛍光X線の強度を検出する蛍光X線分析装置を利用したコンピュータソフトウェアによる蛍光X線分析装置の制御方法であって、
(a)含有元素を含む炭素質材料である対応関係測定用試料にX線を照射し該含有元素の蛍光X線の強度を検出するステップと、
(b)蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法で求めた前記対応関係測定用試料の含有元素の含有量を入力するステップと、
(c)前記ステップ(a)で検出した強度と前記ステップ(b)で入力した含有量とに基づいて前記含有元素の含有量と強度値との対応関係情報を設定するステップと、
(d)含有元素を含む炭素質材料である未知試料にX線を照射し該未知試料の含有元素の蛍光X線の強度を検出するステップと、
(e)前記ステップ(d)で検出した前記未知試料の含有元素の強度と、前記ステップ(c)で求めた対応関係情報とに基づいて該未知試料の含有元素の含有量を定量するステップと、
を含むものである。
【0010】
また、本発明のプログラムは、上述した蛍光X線分析装置の制御方法の各ステップを1以上のコンピュータに実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0011】
この蛍光X線分析方法、蛍光X線分析装置、その制御方法及びそのプログラムでは、炭素質材料に含まれる元素をより迅速且つ容易に定量分析することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように説明することができる。蛍光X線分析方法は、試料にX線を照射して発生する蛍光X線を検出することにより試料に含まれている元素の定性・定量を非破壊で行う測定方法である。この蛍光X線分析方法は、炭素に対する感度がないことから、例えば炭素質材料を測定すると、炭素以外の他の成分しか検出できないから炭素以外の元素の含有量を求めることができず、このため、炭素を主成分とした材料の測定には用いられてこなかった。本発明では、蛍光X線分析方法の特徴である、炭素には感度がないが他の元素では感度がある点と、非破壊で比較的容易且つ迅速に元素の定性・定量が可能である点とに着目し、第2の分析方法で含有元素の含有量を求めると共に、これと同様の試料で含有元素の蛍光X線分析の強度を求め、この含有量と強度との対応関係を予め定めておき、その後、未知試料の蛍光X線の強度を測定し、この対応関係を用いて強度から含有量を求めるのである。即ち、蛍光X線分析方法では炭素質の分析ができないデメリットを第2の測定方法で補いつつ、非破壊で迅速な測定ができるメリットを生かすことにより上記の効果が得られるものとした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の蛍光X線分析方法では、まず、蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法によって炭素質材料に含まれる含有元素の含有量を求めると共に、蛍光X線分析によって該含有元素の強度値を求め、得られた含有量と強度値との対応関係を求める。第2の測定方法は、含有元素を定量可能な測定方法であれば特に限定されずに用いることができる。この第2の測定方法は、炭素質材料に含まれる含有元素を酸に溶解させ、この溶解した含有元素を測定するICP発光分析方法としてもよいし、原子吸光分析方法としてもよい。このうち、測定可能な元素数と測定精度からICP発光分析方法がより好ましい。また、第2の測定方法としては、その他に、例えば液体クロマト法、イオンクロマト法、ICP質量分析法などが挙げられる。なお、ここでは、説明の便宜のため、ICP発光分析方法と原子吸光分析方法とをまとめて「湿式分析方法」と称し、以下説明する。
【0013】
第2の測定方法を湿式分析方法としたときにおいて、この湿式分析方法は、炭素質材料を所定量の酸と共に密閉容器へ収容し密閉容器ごと加熱し、炭素質材料に含まれる含有元素を全溶解させた溶液を用いて測定する加圧酸分解法や、炭素質材料を所定量の酸と共に密閉容器へ収容しこの密閉容器にマイクロ波を照射して加熱し炭素質材料に含まれる含有元素を全溶解させた溶液を用いて測定するマイクロ波酸加熱分解法により行うことが好ましい。こうすれば、第2の測定方法でより正確な含有元素の含有量、ひいてはより正確な対応関係を求めることができ、好ましい。試料を溶解する酸としては、塩酸や硫酸、硝酸などの無機酸を用いるのが好ましい。試料の溶解は、例えば、150℃以上300℃以下、1気圧以上10気圧以下、24時間以上96時間以下などの範囲内のいずれかの条件で行ってもよい。
【0014】
また、第2の測定方法を湿式分析としたときにおいて、試料を蛍光X線分析方法で測定したのちにこの試料を溶解して湿式分析方法で測定するものとしてもよい。こうすれば、非破壊の分析方法である蛍光X線分析を、試料を溶解する湿式分析より先に実行することにより、同一の試料で強度と含有量とを求めることができるため、より正確な対応関係を得ることができ、ひいては、含有元素量が未知である測定対象の試料(未知試料ともいう)を一層正確に定量分析することができる。あるいは、試料の一部をICP発光分析方法で測定すると共に、これに近接する他の一部を蛍光X線分析方法で測定してもよい。こうすれば、同時進行的に蛍光X線分析と湿式分析とを実行可能であるため、より迅速に対応関係を求めることができ、ひいては迅速に未知試料の定量分析を行うことができる。
【0015】
炭素質材料に含まれる含有元素は、蛍光X線分析方法により強度が検出される元素及び第2の測定方法により定量可能な元素であれば、特に限定されない。また、炭素質材料は、主成分を炭素とするものであれば特に限定されず、ダイヤモンドや黒鉛、無定形炭素、活性炭などとしてもよい。このうち、炭素質材料は黒鉛であり、含有元素は鉄であるものとしてもよい。酸化鉄などの添加剤を加えることにより、黒鉛を製造する際に生じる亀裂や膨張によるパッフィング現象を抑制することがある。酸化鉄の添加量によっては、黒鉛を用いるときに不都合が生じることがあるから、黒鉛に含まれる鉄の含有量の定量に本発明を適用する意義が高い。
【0016】
対応関係は、含有元素の含有量の異なる複数の試料を用いてこの含有量とこの含有元素の強度値とを求めて作成した検量線としてもよい。検量線については、詳しくは後述する。この対応関係は、より多い測定数で設定することが好ましい。こうすれば、より高い精度で定量分析を行うことができる。この対応関係は、含有元素の含有量がより広い範囲となるように求めるものとしてもよい。即ち、対応関係は、含有元素の量がある程度異なる値である、対応関係を求めるための試料(対応関係測定用試料ともいう)を複数用いて求めるものとしてもよい。こうすれば、より広い含有量の範囲で、未知試料の定量分析を行うことができる。あるいは、対応関係は、未知試料の含有元素の量の存在確率が高い範囲にある対応関係測定用試料を複数用いて求めるものとしてもよい。こうすれば、より高い精度で且つ効率よく定量分析を行うことができる。
【0017】
本発明の蛍光X線分析方法では、未知試料の蛍光X線分析によって含有元素の強度値を求め、この求めた未知試料の強度値と対応関係とに基づいてこの未知試料の含有元素の含有量を定量する。蛍光X線分析は、波長分散型を用いてもよいし、エネルギー分散型を用いてもよいが、軽元素(Naなど)の分析精度を考慮するならば、波長分散型を用いることがより好ましい。また、蛍光X線分析の定量分析は、検量線法を用いて行ってもよいし、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)を用いて行ってもよい。測定に用いる試料は、例えば、試料が大きな形状を有している場合はこの試料の母材から切り出したものとしてもよいし、粉末状である場合はプレス成形したものとしてもよい。
【0018】
次に、本発明の蛍光X線分析方法を行う蛍光X線分析装置を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態である蛍光X線分析装置20の構成の概略を示す構成図である。本実施形態の蛍光X線分析装置20は、図1に示すように、未知試料に含まれる元素の定性・定量を行う分析装置として構成され、各種制御を実行するCPU22や各種制御プログラムを記憶するフラッシュROM23、データを一時記憶するRAM24などを備えたコントローラ21と、各種アプリケーションプログラムや各種データファイルを記憶する大容量メモリであるHDD25と、測定者へ情報を表示可能であるディスプレイ26と、測定者が各種指令を入力するキーボード及びマウス等の入力装置27と、オートサンプラー32に載置された試料31へX線を照射するX線照射部34や試料31からの蛍光X線を検出する蛍光X線検出部36を有する蛍光X線測定ユニット30と、を備えている。蛍光X線測定ユニット30は、波長分散型の検出ユニットとして構成され、オートサンプラー32により複数の試料31を順次切り替えて自動測定可能に構成されている。また、蛍光X線分析装置20は、ディスプレイ26に表示されたカーソル等を測定者が入力装置27を介して入力操作するとその入力操作に応じた動作を実行する機能を有している。
【0019】
次に、こうして構成された本実施形態の蛍光X線分析装置20の動作、特に、蛍光X線分析方法と異なる測定方法を利用し、炭素質材料としての黒鉛に含まれる含有元素の定量を行う際の動作について説明する。図2は、炭素質測定処理ルーチンの一例を表すフローチャートであり、図3は、炭素質材料測定値入力画面40の一例を表す説明図であり、図4は、HDD25に保存された対応関係情報25aの一例を表す説明図である。ここでは、まず、対応関係測定用試料を複数用い、湿式分析方法で求めた含有元素としての鉄(Fe)の含有量と蛍光X線測定ユニット30で検出した強度値との対応関係である対応関係情報25aを設定し、その後、未知試料の測定を行い鉄の含有量を求める場合について具体的に説明する。
【0020】
まず、測定者は、種々の鉄含有量を有する複数の黒鉛試料を用意し、湿式分析としてのICP発光分析用の試料と、蛍光X線分析用の試料とを対応関係測定用試料としてこの黒鉛材料の近接した領域からそれぞれ切り出す。そして、ICP発光分析用の試料を酸に溶解させる処理を行う。ここでは、黒鉛を硝酸及び硫酸と共に密閉容器へ収容し密閉容器ごと加熱し黒鉛に含まれる鉄を全溶解させる加圧酸分解法により、測定用の試料を調製するものとした。次に、ICP発光分析法により調製した試料を分析し、各試料の鉄の含有量を求める。そして、測定者は、蛍光X線分析装置20のオートサンプラー32に各試料をセットし、各試料の鉄の蛍光X線強度の測定を行う。図2に示すこの炭素質測定処理ルーチンは、HDD25に記憶され、測定者により図示しない初期画面で「炭素質材料測定」が選択されたあと実行される。
【0021】
このルーチンを実行すると、まず、CPU22は、測定種別が湿式分析を用いて対応関係を求める対応関係用測定であるか、未知試料の本測定であるかを初期画面での選択に基づいて判定する(ステップS100)。対応関係用測定であるときには、図3に示す炭素質材料測定値入力画面40をディスプレイ26に表示する(ステップS110)。この炭素質材料測定値入力画面40には、入力位置を表すカーソル41と、対応関係としての検量線に用いる各数値を入力可能な数値入力欄42と、入力された数値から求めた検量線を表示する検量線表示部46とが含まれている。数値入力欄42には、更に、試料名を入力する試料名入力欄43と、湿式分析により求めた鉄の含有量を入力する湿式分析値入力欄44と、蛍光X線で測定した強度値を入力する強度入力欄45とが各々複数配置されている。ここでは、湿式分析値入力欄44には、湿式分析値として上記ICP発光分析法により分析した値を測定者が入力するものとした。強度入力欄45には、このルーチンで測定した結果がCPU22により自動入力されるが、あとから測定者によって再入力も可能であるものとした。なお、図3及び図4では、強度入力欄45に値が入力されているものを示している。検量線表示部46には、検量線の近似式である近似式表示部47と、数値入力欄42の値を用いて作成した検量線を表示する検量線表示部48とが配置されている。
【0022】
次に、CPU22は、測定者が入力装置27を操作して数値入力欄42に値が入力されたときには入力値を図4に示す対応関係情報25aの該当欄に格納する(ステップS120)。対応関係情報25aには、試料名と湿式分析値(含有量)と蛍光X線強度とが対応付けられて格納されている。次に、CPU22は、対応関係用測定の実行指示がされたか否かを測定実行ボタンが押下されたか否かに基づいて判定し、測定実行ボタンが押下されていないときには、ステップS110以降の処理を実行する(ステップS130)。一方、測定実行ボタンが押下されたときには、CPU22は、対応関係測定用試料の蛍光X線測定を実行する(ステップS140)。この処理では、オートサンプラー32を駆動し、試料31を測定位置に移動し、X線照射部34からX線を照射し、試料31からの蛍光X線を蛍光X線検出部36で検出し、検出した強度値を対応関係情報25aの該当欄に格納する処理を行い、次の試料31があるときには、オートサンプラー32を駆動して試料31を移動し、同様の処理を繰り返して実行するものとした。続いて、CPU22は、すべての試料を測定したか否かを判定し(ステップS150)、すべての試料を測定していないときにはステップS140の処理を実行し、すべての試料を測定したときには対応関係情報25aに格納された値を用いて検量線の近似式を計算してHDD25に格納し(ステップS160)、このルーチンを終了する。この検量線の近似式は、例えば、x軸を湿式分析値とし、y軸を蛍光X線強度値とし、原点を通る直線又は曲線として、最小二乗法などの公知の方法により求めることができる。このようにして、他の測定方法により含有量既知とした試料を用いて対応関係情報25aを設定し、蛍光X線分析用の検量線を作成しておくのである。
【0023】
次に、オートサンプラー32に未知試料をセットして含有元素の含有量を求める処理について説明する。ステップS100で本測定であると判定されたときには、CPU22は、上記ステップS150と同様の処理である未知試料の蛍光X線測定を実行する(ステップS170)。未知試料の蛍光X線測定を行うと、CPU22は、すべての試料を測定したか否かを判定し(ステップS180)、すべての試料を測定していないときにはステップS170の処理を実行し、すべての試料を測定したときには、上記求めた検量線の近似式と蛍光X線の強度値とに基づいて鉄の含有量を算出し(ステップS190)、算出した値をHDD25に格納してこのルーチンを終了する。なお、含有量の算出は、検量線の近似式に蛍光X線の強度値を代入することにより求めることができる。このようにして、炭素質材料である未知試料に含まれる含有元素の含有量を蛍光X線分析方法により求めることができる。
【0024】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の蛍光X線測定ユニット30が検出手段に相当し、HDD25が本発明の記憶手段に相当し、コントローラ21が含有量定量手段に相当する。なお、本実施形態では、蛍光X線分析装置20の動作を説明することにより本発明の蛍光X線分析装置の制御方法の一例も明らかにしている。
【0025】
以上詳述した本実施形態の蛍光X線分析装置20によれば、炭素に対して検出感度がないが、湿式分析方法の測定結果を利用することにより、炭素質材料に含まれる元素をより迅速且つ容易に定量分析することができる。また、ICP発光分析法を利用するため、比較的多くの元素を比較的高い精度で定量分析することができる。更に、含有元素の含有量の異なる複数の試料を用いて含有量と含有元素の強度値とを求めて作成した検量線を利用するから、比較的容易に含有元素の定量を行うことができる。更にまた、酸化鉄などの添加剤を加えることにより黒鉛を製造する際に生じる亀裂や膨張によるパッフィング現象を抑制した黒鉛中の鉄の含有量を迅速且つ容易に定量することができるから、本発明を適用する意義が高い。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、ICP発光分光分析方法により含有元素の含有量を求めるものとしたが、原子吸光分析方法によって含有元素の含有量を求めるものとしてもよい。
【0028】
上述した実施形態では、蛍光X線分析装置20として本発明を説明したが、蛍光X線分析装置20の制御方法としてもよいし、この制御方法のプログラムの態様としてもよい。また、蛍光X線分析装置20により情報処理して炭素質材料の未知試料の含有元素の含有量を求めるものとしたが、蛍光X線分析装置20で測定した結果と湿式分析で測定した結果を用いて炭素質材料の未知試料の含有元素の含有量を求める蛍光X線分析方法としてもよい。
【実施例】
【0029】
以下には、湿式分析としてICP発光分析方法を用い、炭素質材料として黒鉛を用い、含有元素を鉄として対応関係を設定した例を説明する。まず、任意に選択した黒鉛試料の一部を切り出し、それを更に湿式分析用の試料と蛍光X線分析用の試料とに分け、この処理を4つの黒鉛試料に対して行った。
(ICP発光分析法)
用意した試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、ポリテトラフルオロエチレン製の容器に0.25g収容し、硝酸と硫酸との5:1の混合酸を24ml加え、250℃、2気圧の条件で、加圧酸分解後、ポリテトラフルオロエチレン製の蒸発皿に溶解後の溶液を移し、120℃で加熱し硝酸蒸発処理を行った。得られた試料に少量の硝酸を添加したのち、50mlの定容とし、溶液中の鉄をICP発光分光分析装置(日本ジャーレルアッシュ社製ICAP−55 Spectrometer)を用いて鉄を定量した。なお、分析に要した時間は10日間であった。
(蛍光X線分析)
用意した試料を固体のまま、波長分散型蛍光X線分析装置(PHILIPS社製PW2606)を用い、測定面にX線を照射して鉄の強度測定を行った。なお、分析に要した時間は、0.1時間であった。
(測定結果)
測定結果を表1に示し、湿式分析の鉄含有量と蛍光X線分析の強度との対応関係である検量線を図5に示す。図5に示す近似曲線は、湿式分析による含有量をx(μg/g)、蛍光X線分析の強度値をy(cps)とし、2次関数の近似式として求めると、以下の式(1)が得られた。そして、未知試料の蛍光X線分析を行い、得られた強度値を次式(1)のyに代入すれば、未知試料の鉄含有量をxの値として求めることができる。このように、検量線を求めておき、未知試料を蛍光X線分析で測定し、得られた強度に対応する含有量をこの検量線から求めることにより、極めて短時間に且つ容易な操作により未知試料の含有元素の定量を行うことができる。なお、ここでは、鉄の含有量を求めるものとしたが、蛍光X線で測定可能な元素であれば同様に本発明を適用することができる。
y=−0.0117x2+13.622x … 式(1)
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、元素分析の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】蛍光X線分析装置20の一例の構成の概略を示す構成図である。
【図2】炭素質測定処理ルーチンの一例を表すフローチャートである。
【図3】炭素質材料測定値入力画面40の一例を表す説明図である。
【図4】HDD25に保存された対応関係情報25aの一例を表す説明図である。
【図5】湿式分析の鉄含有量と蛍光X線分析の強度との対応関係である検量線の図である。
【符号の説明】
【0033】
20 蛍光X線分析装置、21 コントローラ、22 CPU、23 フラッシュROM、24 RAM、25 HDD、25a 対応関係情報、26 ディスプレイ、27 入力装置、30 蛍光X線測定ユニット、31 試料、32 オートサンプラー、34 X線照射部、36 蛍光X線検出部、40 炭素質材料測定値入力画面、41 カーソル、42 数値入力欄、43 試料名入力欄、44 湿式分析値入力欄、45 強度入力欄、46 検量線表示部、47 近似式表示部、48 検量線表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質材料に含まれる含有元素を測定する蛍光X線分析方法であって、
蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法によって前記炭素質材料である対応関係測定用試料の含有元素の含有量を求めると共に蛍光X線分析によって該含有元素の強度値を求め、得られた含有量と強度値との対応関係を求めておき、
未知試料の蛍光X線分析によって前記含有元素の強度値を求め、該求めた未知試料の強度値と前記対応関係とに基づいて該未知試料の該含有元素の含有量を定量する、
蛍光X線分析方法。
【請求項2】
前記第2の測定方法は、前記炭素質材料に含まれる含有元素を酸に溶解させ該溶解した含有元素を測定する、誘導結合プラズマ発光分光分析方法及び原子吸光分析方法のいずれか一方である、請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項3】
前記対応関係は、前記含有元素の含有量の異なる複数の対応関係測定用試料を用いて該含有量と該含有元素の強度値とを求めて作成した検量線である、請求項1又は2に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項4】
前記炭素質材料は黒鉛であり、前記含有元素は鉄である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項5】
炭素質材料に含まれる含有元素を測定する蛍光X線分析装置であって、
試料にX線を照射し得られた蛍光X線の強度を検出する検出手段と、
蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法によって求めた前記炭素質材料である対応関係測定用試料の含有元素の含有量と前記検出手段によって検出された前記含有元素の強度値との対応関係情報を記憶する記憶手段と、
前記検出手段によって検出された未知試料の前記含有元素の強度値と前記記憶手段に記憶された対応関係情報とに基づいて該未知試料の含有元素の含有量を定量する含有量定量手段と、
を備えた蛍光X線分析装置。
【請求項6】
試料にX線を照射し該試料の蛍光X線の強度を検出する蛍光X線分析装置を利用したコンピュータソフトウェアによる蛍光X線分析装置の制御方法であって、
(a)含有元素を含む炭素質材料である対応関係測定用試料にX線を照射し該含有元素の蛍光X線の強度を検出するステップと、
(b)蛍光X線分析方法とは異なる第2の測定方法で求めた前記対応関係測定用試料の含有元素の含有量を入力するステップと、
(c)前記ステップ(a)で検出した強度と前記ステップ(b)で入力した含有量とに基づいて前記含有元素の含有量と強度値との対応関係情報を設定するステップと、
(d)含有元素を含む炭素質材料である未知試料にX線を照射し該未知試料の含有元素の蛍光X線の強度を検出するステップと、
(e)前記ステップ(d)で検出した前記未知試料の含有元素の強度と、前記ステップ(c)で求めた対応関係情報とに基づいて該未知試料の含有元素の含有量を定量するステップと、
を含む蛍光X線分析装置の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蛍光X線分析装置の制御方法の各ステップを1以上のコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−192360(P2009−192360A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33058(P2008−33058)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】