説明

無機質素地にドリル掘削して中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔の表面に対する接着力を向上させる化学的2成分モルタル物質およびその使用方法

【課題】中途半端にしか清掃せずおよび/または湿った掘削孔内における表面の接着力を向上させる樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)で構成する化学的2成分モルタル物質を得る。
【解決手段】硬化可能な構成要素として、少なくとも1種類のラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)を含有する樹脂成分(A)と、この不飽和エチレン化合物(a)から反応を阻止するよう分離させた状態で配置した硬化剤成分(B)とを有し、この硬化剤成分(B)は、樹脂成分(A)における樹脂用の硬化剤を含有しており、無機質素地、例えばコンクリートにドリル掘削し、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔内における表面の接着力を向上させる、化学的2成分モルタル剤において、樹脂成分(A)の他の構成要素(b)として、(メタ)アクリロキシアルキルシロキサンおよびポリ(メタ)アクリロキシアルキルシルセスキオキサンのうち少なくとも一方を少なくとも1種類、0.2〜10質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的2成分モルタル物質(以下「2成分モルタル物質」と略称する場合もある)であって、硬化可能な構成要素として、少なくとも1種類のラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)を含有する樹脂成分(A)と、この不飽和エチレン化合物(a)から反応を阻止するよう分離させた状態で配置した硬化剤成分(B)とを有し、この硬化剤成分(B)は、樹脂成分(A)における樹脂用の硬化剤を含有しており、無機質素地にドリル掘削して、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔における表面の接着力を向上させる、該化学的2成分モルタル物質;この2成分モルタル物質を収納するパトローネ、カートリッジおよびフォイル袋体;ならびに、ドリル掘削した孔にネジ付アンカーロッド、鉄筋、ネジ付スリーブおよびネジを化学的に固定させるための2成分モルタル物質の使用方法;に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した種類の化学的2成分モルタル物質は、ネジ付アンカーロッド、鉄筋、ネジ付スリーブおよびネジ等の構造部分を、コンクリート、天然岩石、上塗り部分等の無機質素地にドリル掘削した孔内に固定させるため、特に定着の大きな荷重支持能力を得る必要がある場合に使用する。モルタル物質の使用に際しては、まず、固定すべき構造部分を収容するため、構造部分に対応する寸法の孔を無機質素地にドリル掘削する。掘削屑を孔内から吸引除去した後、樹脂成分を硬化剤成分と混合させた後の化学的2成分モルタル物質を孔内に充填する。その後、モルタル物質を充填した孔に、固定すべき構造部分を挿入し、必要な調整を行う。硬化剤成分と混合させた樹脂成分が反応により硬化した後、構造部分は堅固に保持される。
【0003】
上述の方法で固定した構造部分の荷重支持能力および支持特性は、種々の要因に依存し、文献ではこれらの要因を、内的および外的要因の2種類に分類している。外的要因としては、特に掘削した孔の清掃の仕方、無機質素地(例えばコンクリート)の質、無機質素地の湿度および温度、ならびにドリル掘削の形成方法がある。
【0004】
内的要因としては、モルタル物質の化学組成、モルタル物質の製造プロセス、およびそのパッケージがあり、このパッケージは、一般的に、2種の成分を分離した容器、例えば、パトローネ、ガラス製パトローネ、カートリッジまたはフォイル袋体等の内部に保持する、または吐出装置または注入装置を使用する。
【0005】
特許文献1(独国特許出願公開第102006054471号)は、多成分合成樹脂システムを開示している。このシステムは、特にアンカー手段等の固定手段を窪み、好適には、掘削した孔に固定するために使用する。該多成分合成樹脂システムは、安定性および/または絞り出し特性を確実に向上させるため、少なくとも1種の成分に、1種または複数種のガスを微細に分布させた状態にして含ませる。
【0006】
特許文献2(欧州特許出願公開第1857188号)は、超音波スプレーを使用し、加水分解可能な液体を少なくとも1個の基板表面に塗布し、基板における接着を向上させることを記載している。この場合、加水分解可能な液体は接着促進剤とすることができ、この接着促進剤は、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機ジルコニウム化合物から成るグループから選択した、少なくとも1種類の接着物質を含有するものとすることができる。超音波スプレーを使用することにより、接着促進剤が搬送ガスにより基板表面に塗布される。これにより、基板表面の前処理を行うことができる。
【0007】
特許文献3(独国特許出願公開第19853489号)に記載の発明は、構造用接着調合剤に含まれ、保護コロイドで安定化したビニル芳香族-1,3-ジエン-ポリマー共重合体を主成分とする、ポリマー分散水溶液または水に再分散可能なポリマー粉末を使用することに関する。この場合、上述のポリマー分散水溶液およびポリマー粉末は、少なくとも1種のビニル芳香族および少なくとも1種類の1,3-ジエンを含有する混合物の乳化重合により、1種類または複数種類の保護コロイドの存在下で製造される。製造に際しては、モノマー相で共重合可能なモノマーを添加する。また、多数の不飽和エチレン化合物の他に、ケイ素官能基を有するコモノマー、例えばアクリロキシプロピルトリ(アルコキシ)シランおよびメタクリロキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン、ビニルトリアルコキシシランならびにビニルメチルジアルコキシシランを使用することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102006054471号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1857188号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第19853489号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では認識されることがなかった、化学的モルタル物質による支持特性に対して大きな影響を及ぼす他の要因が、掘削した孔における清掃の品質および無機質素地の湿度にあることが明らかになった。すなわち、湿った孔、および掘削屑を十分に吸引除去していない孔内では、モルタル物質による支持特性が大幅に減少し、荷重能力の低下が現れる。
【0010】
従来技術では、上述の欠点を克服するために、一方で、より念入りに掘削孔を清掃し、他方で、掘削した孔内を乾燥状態にすることに留意してきた。これは湿った孔では、荷重能力が減少するからである。
【0011】
本発明の課題は、化学的2成分モルタル物質であって、硬化可能な構成要素として、少なくとも1種類のラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)を含有する樹脂成分(A)と、この不飽和エチレン化合物(a)から反応を阻止するよう分離させた状態で配置した硬化剤成分(B)とを有し、この硬化剤成分(B)は、樹脂成分(A)における樹脂用の硬化剤を含有し、無機質素地、例えばコンクリートにドリル掘削し、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔における表面の接着力を向上させることができる、該化学的2成分モルタル物質を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
予想外にも、上述の課題は、樹脂成分に他の構成要素として、メタクリルオキシアルキルトリアルコキシシランおよびポリ(メタ)クリロキシアルキルシルセスキオキサンのうちの少なくとも一方を混合することによって解決することを本発明者は見出した。
【0013】
上述した種類の2成分モルタル物質を所定量使用した場合の構造部分の荷重支持能力は、乾燥しており清掃したドリル掘削による孔のみならず、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔においても、明らかに高まる。硬化剤成分は、通常硬化剤として使用する過酸化物に対する粘液化媒体としての水を含有しているので、中途半端にしか清掃していないドリル掘削孔における荷重能力の向上は、極めて予想外である。メタクリルオキシアルキルトリアルコキシシランおよびポリ(メタ)クリロキシアルキルシルセスキオキサンのうち少なくとも一方の少なくとも1種類を使用することにより、水が存在し、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿ったドリル掘削による孔における荷重支持能力は、乾燥しておりかつ清掃した孔内の荷重支持能力に比べて、大幅に減少することはない。
【0014】
独立請求項に本発明による化学的2成分モルタル物質を記載する。従属請求項には、このようなモルタル物質の好適な実施形態、および無機質素地(好適にはコンクリート)にドリル掘削した孔内に、ネジ付アンカーロッド、鉄筋、ネジ付スリーブおよびネジを、化学的に固定させる2成分モルタル物質の使用方法を記載する。
【0015】
本発明は、化学的2成分モルタル物質であって、硬化可能な構成要素として、少なくとも1種類のラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)を含有する樹脂成分(A)と、この不飽和エチレン化合物(a)から反応を阻止するよう分離させた状態で配置した硬化剤成分(B)とを有し、この硬化剤成分(B)は、樹脂成分(A)における樹脂用の硬化剤を含有しており、無機質素地、例えばコンクリートにドリル掘削し、中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔内における表面の接着力を向上させる、該化学的2成分モルタル剤において、樹脂成分(A)の他の構成要素(b)として、(メタ)アクリロキシアルキルシロキサンおよびポリ(メタ)アクリロキシアルキルシルセスキオキサンのうち少なくとも一方を少なくとも1種類、0.2〜10質量%、好適には、2〜5質量%、更に好適には、3〜4質量%の比率で含有することを特徴とする。
【0016】
好適には、樹脂成分(A)は、更なる構成要素(b)として、以下の化学式[I]で構成される少なくとも1種類の(メタ)アクリロキシアルキルシロキサンを含有する。
【0017】
【化1】

【0018】
上記の化学式[I]中のRは、以下の化学式[II]で構成される、1個もしくは2個の炭素原子を有する同種、または種類の異なるアルキル基、トリメチルシロキシ基、または(メタ)アクリロキシアルキル基である。
【0019】
【化2】

【0020】
1は、水素原子またはメチル基、nは1〜3の値の整数、およびmは1〜400の値の整数であり、上記の化学式[II]におけるメタクリロキシアルキル基の少なくとも1種類のR基を表す。
【0021】
構成要素(b)として特に好適な代替物は、3-メタクリロキシプロピルペンタメチル-ジシロキサン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)-テトラキス-(トリメチルシロキシ)-ジシロキサン、1,3-(3-メタクリロキシプロピル)-テトラメチル-ジシロキサン、ポリ(アクリロキシプロピルメチル)-シロキサン(好適には、モル質量3,000〜6,000および粘度50〜125cSt)、モノメタクリロキシプロピル-終端ポリジメチルシロキサン(モル質量600〜12,000および粘度6〜250cSt、好適には、モル質量800〜1,200および粘度10cSt)、側鎖基としてアクリロキシプロピルを有するジメチルシロキサン共重合体、メタクリロキシプロピルヘプタイソブチル-T8-シルセスキオキサン、15〜20%の(アクリロキシプロピル)-メチルシロキサン/80〜85%のジメチルシロキサン共重合体、側鎖基としてメタクリロキシプロピルを有するジメチルシロキサン共重合体(好適には、モル質量500〜700)およびメタクリロキシプロピル-終端ポリジメチルシロキサン(モル質量550〜30,000および粘度3〜1,150cSt)を含むグループがある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好適な一実施形態によれば、樹脂成分(A)は、ラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)として、以下に列記する代替物のうち、少なくとも1種類を含有する。すなわち、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、3-アミノプロピルビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル、3-ジエチルアミノプロピルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、2-エチルへキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヘキサンジオールモノビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、ポリエチレングリコール-520-メチルビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリートテトラビニルエーテル、アリルエーテル、ジ(プロピレングリコール)アリルエーテル(メタ)クリレート(異性体混合物)、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ペンタエリスリートアリルエーテル、トリメチロールプロパンアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルベンジルエーテル、ビスフェノール-A-ジアリルエーテル、アリルブチルエーテル、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル、アリルプロピルエーテル、ポリ(エピクロルヒドリン-共-エチレンオキシド-共-アリルグリシジルエーテル)、エチレングリコールモノアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、2〜10、好適には、2〜4のエトキシル化度でエトキシル化したビスフェノール-A-ジ(メタ)クリレート、二官能基、三官能基または多官能基のウレタン(メタ)アクリレート-オリゴマーおよびこれらの硬化可能な構成要素を含むグループよりなる混合物のうち、少なくとも1種類を含有する。ラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)として、2〜30、好適には、5〜15のウレタン(メタ)アクリレートを1単位有する二官能基ウレタン(メタ)アクリレート-オリゴマーが特に好適である。
【0023】
本発明の好適な一実施形態によれば、樹脂成分(A)は、更に他の構成要素(c)として、以下に列記する化合物を含むグループから選択した、少なくとも1種類の反応性希釈剤含有する。すなわち、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタンジオール-1,2-ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール-A-(メタ)アクリレート、ノボラックエポキシジ(メタ)アクリレート、ジ-[(メタ)クリロイル-マレオイル]-トリシクロ-5.2.1.0.2.6-デカン、ジシクロペンテニロキシエチルクロトネート、3-(メタ)アクリロイルオキシメチル-トリシロ-5.2.1.0. 2.6-デカン、3-(メチル)-シクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートおよび/またはドデシル-2-(メタ)アクリレートを含むグループである。
【0024】
反応性希釈剤(C)は、コモノマーとして機能し、無機質素地または固定すべき構造部分の表面における、硬化したモルタル物質の接着力を更に一層向上させる。
【0025】
本願明細書で使用する用語「(メタ)アクリ…」および「…(メタ)アクリ…」は、「メタクリ…」、「アクリ…」、「…メタク…」のみならず、「…アクリ…」化合物をも含むことを意味する。
【0026】
本発明による他の好適な一実施形態によれば、樹脂成分(A)は、硬化剤用に促進剤(d)を含有し、好適には、該促進剤は、芳香族アミンおよび/またはコバルト塩、マンガン、錫、バナジウムもしくはセリウムから成る。促進剤(d)としては、特に以下の化合物が好適である。すなわち、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジイソプロパノール-P-トルイジン、N,N-ジイソプロピリデン-P-トルイジン、N,N-ジメチル-P-トルイジン、N,N-ジエチロール-P-トルイジン、N,N-ジイソプロピロール-m-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-キシリジン、N-メチル-N-ヒドロキシエチル-P-トルイジン、コバルトオクトエート、コバルトナフテネート、バナジウム(IV)-アセチルアセトネートおよび/またはバナジウム(V)-アセチルアセトネートである。
【0027】
樹脂成分(A)は、さらに、一般的には重合抑止剤を含有することができ、この重合抑止剤としては、例えばメチルヒドロキノン、ヒドロキノン、カテコール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、モノ-t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、P-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-P-ベンゾキノン、ピクリン酸、フェノチアジン、t-ブチルカテコール、2-ブチル-4-ヒドロキシアニソールおよび2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールがある。
【0028】
本発明による化学的2成分モルタル物質は、この種の製造物同様、樹脂成分(A)および/または硬化剤成分(B)内に、少なくとも1種類の無機充填剤を含有し、この無機充填剤としては、石英、ガラス、コランダム、陶磁器、せっ(火へんに石)器、重晶石、軽晶石、石膏、滑石および/または砂粒状、粉末状もしくは整形した形成体の形式とした石灰質があり、整形した形成体としては、好適には、繊維状または球状の形成体がある。
【0029】
本発明による化学的2成分モルタル物質における、樹脂成分の樹脂を硬化させる硬化剤成分(B)の硬化剤は、好適には、少なくとも1種類の有機過酸化物を含む。好適な有機過酸化物としては、ジベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、tert.-ブチルペルベンゾアート、シクロヘキサノンペルオキシド、ラウリルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドおよび/またはtert.-ブチルペロキシ-2-ヘキサノエートがある。好適には、これら過酸化物は、特に増粘剤としての水の添加により粘液化される。また、この種の製造物は当業者にとって既知であり、市場で入手可能である。
【0030】
本発明によるさらに他の好適な一実施形態によれば、樹脂成分(A)は、樹脂の他に液圧によって凝結可能または重縮合可能な無機化合物を含有する。この無機化合物としては、酸化鉄を含まない、または酸化鉄が少ないセメントが好適であり、例えば、アルミナセメントおよび/または石膏がある。この場合、硬化剤成分(B)は、硬化剤および粘液化に必要な水の他に、液圧によって凝結可能または重縮合可能な無機化合物を硬化させるため、水を付加的に含有する。
【0031】
好適には、本発明による2成分モルタル剤は、パトローネ、カートリッジまたはフォイル袋体に充填する。これら容器は、互いに分離している2個以上のチャンバを有し、これら複数個のチャンバ内に上述した種類の樹脂成分(A)または硬化剤成分(B)を、実施形態に応じて使用する他の構成要素と併せて、互いに反応するのを阻止するよう分離した状態で配置する。
【0032】
予想外にも、本発明による化学的2成分モルタル剤を所定量で使用する場合、体系的(システム)性能が向上し、特に体系的堅牢性を高めることが可能であることが判明した。すなわち、得られる大きな荷重支持能力が、無機質素地内にドリル掘削した孔のうち、湿ったおよび/または中途半端にしか清掃していない孔においても維持することができる。中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔において、荷重支持能力を向上させることが可能となることは予期していなかったことであり、本発明による硬化剤成分の硬化剤すなわち、上述した有機過酸化物は、好適には水で粘液化するという事実を考慮した場合、更に一層水を添加することによって、孔の表面に対する接着力が向上することは、特に予想外の結果である。
【0033】
本発明は、さらに、ネジ付アンカーロッド、鉄筋、ネジ付スリーブおよびネジ等の構造部分を、好適にはコンクリートから成る無機質素地に化学的に固定させるための、化学的2成分モルタル剤の使用方法にも関する。
【0034】
以下、本発明を、これに限定するものではない例示的な実施例をより詳細に記述する。
【実施例1】
【0035】
ウレタンメタクリレートオリゴマーをベースとする2成分モルタル物質
この実施例では、まず、化学的2成分モルタル物質の樹脂成分(A)を、以下の工程で製造する。すなわち、以下の表1に記載の樹脂(比較用の樹脂UMA-REFおよび本発明によるUMA-4樹脂)39.3gを、真空状態にある溶解器内において、37.2gの石英砂(例えば、S32)、20.5gのアルミナセメントおよび3gの疎水性の発熱性珪酸と混合することによって、気泡を含まない均質な泥膏状物質を得る。
【0036】
比較用の樹脂UMA-REFは、シロキサンを含有していないが、UMA-4樹脂は、本発明による構成要素(b)を、それぞれ4.0質量%の割合で含有する。すなわち、UMA-4樹脂は、それぞれ、以下のメタクリロキシアルキルシロキサンのうち1つを含む。
シロキサン_1: 3-メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン
シロキサン_2: 1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)-テトラキス(トリメチルシロキシ)-ジシロキサン
シロキサン_3: ポリ(アクリロキシプロピルメチル)-シロキサン(モル質量3000〜6000;粘度50〜125cSt)
シロキサン_4: モノメタクリロキシプロピル-終端ポリジメチルシロキサン(モル質量800〜1200;粘度10cSt)
シロキサン_5: 1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)-テトラメチルジシロキサン
【0037】
上述の方法により得ることができた樹脂成分(A)を、それぞれカートリッジに充填する。
【0038】
2成分モルタル物質の硬化剤成分(B)としては、64質量%の石英粉末および発熱性珪酸の混合物から成る充填剤、12.4質量%のベンゾイルペロキシドおよび残量割合部分としての水を含有し、かつ第2カートリッジに充填する、ベンゾイルペルオキシド懸濁水溶液を使用する。
【0039】
【表1】

【0040】
所定量で、樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)を、カートリッジから押出し、静的ミキサによって混合する。これにより、これら2成分の反応が、反応樹脂およびセメントの硬化によって生じる。この反応した物質をドリル掘削した孔内に注入し、この後、固定すべき構造部分を孔内に挿入および調整する。
【実施例2】
【0041】
上記の2成分モルタル物質によって得られる荷重支持能力の測定に際しては、高強度のネジ付アンカーロッドM12を使用する。このネジ付アンカーロッドは、直径14mmの、深さ72mmのドリル掘削した孔内に、本発明による2成分モルタル物質により固定される。平均破壊荷重の測定は、室温で1時間硬化させた後に実施する。その際、モルタル物質で堅固に固定されたネジ付アンカーロッドを、中心部から抜き出すことにより、計5本のアンカーロッドにおける平均破壊荷重を測定する。
【0042】
検査を行った掘削孔の詳細は以下の通りである。
1.乾燥したコンクリート(比較用の樹脂):乾燥、清掃した掘削孔(掘削屑の吸引-3回のブラッシング-ブラッシング屑吸引)、ネジ付アンカーロッドの設置、および室温で硬化。
2.湿った掘削孔(本発明による樹脂):中途半端にしか清掃しておらず、かつ湿った掘削孔(Putzi操作-1回のブラッシング-Putzi操作)、ネジ付アンカーロッドの設置および室温で硬化。
※)Putzi=自転車の空気入れに類似した、掘削屑の吹き飛ばしに使用する装置。
【0043】
以下、乾燥した掘削孔(完全に清掃)および中途半端にしか清掃しておらず、かつ湿った掘削孔に関し、実施例1に記載したモルタル剤調合物質を使用することによって得られた結合力を、表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
上記の表2から明らかな通り、本発明による2成分モルタル物質は、乾燥かつ十分に清掃したコンクリートに対するアンカーロッドの接着力を向上させるのみならず、中途半端にしかしておらずかつ湿った掘削孔内での使用においても、荷重支持能力の減少を大幅に抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的2成分モルタル物質であって、硬化可能な構成要素として、少なくとも1種類のラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)を含有する樹脂成分(A)と、この不飽和エチレン化合物(a)から反応を阻止するよう分離させた状態で配置した硬化剤成分(B)とを有し、この硬化剤成分(B)は、前記樹脂成分(A)における樹脂用の硬化剤を含有し、無機質素地にドリル掘削した中途半端にしか清掃していないおよび/または湿った孔における表面の接着力を向上させることができる、該化学的2成分モルタル物質において、
前記樹脂成分(A)の他の構成要素(b)として、(メタ)アクリロキシアルキルシロキサンポリ(メタ)アクリロキシアルキルシルセスキオキサンのうち少なくとも一方を、少なくとも1種類0.2〜10質量%の比率で含有していることを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項2】
請求項1に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、更なる構成要素(b)として、以下の化学式[I]で構成される少なくとも1種類の(メタ)アクリロキシアルキルシロキサンを含み、
【化1】

前記化学式[I]中のRは、以下の化学式[II]で構成される、1個もしくは2個の炭素原子を有する同種または種類の異なるアルキル基、トリメチルシロキシ基、又は(メタ)アクリロキシアルキル基であり、
【化2】

1は水素原子又はメチル基、nは1〜3の値の整数およびmは1〜400の値の整数であり、上記の化学式[II]におけるメタクリロキシアルキル基の少なくとも1種類のR基を表すものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)が、他の構成要素(b)の代替物として、3-メタクリロキシプロピルペンタメチル-ジシロキサン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)-テトラキス-(トリメチルシロキシ)-ジシロキサン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)-テトラメチル-ジシロキサン、ポリ(アクリロキシプロピルメチル)-シロキサン、モノメタクリロキシプロピル-終端ポリジメチルシロキサン、側鎖基としてアクリロキシプロピルを有するジメチルシロキサン共重合体、メタクリロキシプロピルヘプタイソブチル-T8-シルセスキオキサン、15〜20%の(アクリロキシプロピル)-メチルシロキサン/80〜85%のジメチルシロキサン-共重合体、側鎖基としてメタクリロキシプロピルを有するジメチルシロキサン共重合体及びメタクリロキシプロピル-終端ポリジメチルシロキサンを含むグループから選択した、少なくとも1種類を含有すものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、ラジカルに硬化可能な前記不飽和エチレン化合物(a)の代替物として、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、3-アミノプロピルビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル、3-ジエチルアミノプロピルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、2-エチルへキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヘキサンジオールモノビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、ポリエチレングリコール-520-メチルビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリートテトラビニルエーテル、アリルエーテル、ジ(プロピレングリコール)アリルエーテル(メタ)クリレート(異性体混合物)、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ペンタエリスリートアリルエーテル、トリメチロールプロパンアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、アリルベンジルエーテル、ビスフェノール-A-ジアリルエーテル、アリルブチルエーテル、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル、アリルプロピルエーテル、ポリ(エピクロルヒドリン-共-エチレンオキシド-共-アリルグリシジルエーテル)、エチレングリコールモノアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、2〜10、好適には、2〜4のエトキシル化度でエトキシル化したビスフェノール-A-ジ(メタ)クリレート、二官能基、三官能基または多官能基のウレタン(メタ)アクリレート-オリゴマー及びこれらの硬化可能な構成要素を含むグループよりなる混合物のから選択した、少なくとも1種類を含有するものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項5】
請求項4に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、ラジカルに硬化可能な不飽和エチレン化合物(a)として、2〜30のウレタン(メタ)アクリレートの1単位を有する二官能基ウレタン(メタ)アクリレート-オリゴマーを含有するものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)が、更に他の構成要素(c)として以下の代替物、すなわち、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブタンジオール-1,2-ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はトリシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール-A-(メタ)アクリレート、ノボラックエポキシジ(メタ)アクリレート、ジ-[(メタ)クリロイル-マレオイル]-トリシクロ-5.2.1.0.2.6-デカン、ジシクロペンテニロキシエチルクロトネート、3-(メタ)クリロイルオキシメチル-トリシロ-5.2.1.0. 2.6-デカン、3-(メチル)-シクロペンタジエニル(メタ)アクリレートおよび/またはドデシル-2-(メタ)アクリレートを含むグループから選択した、少なくとも1種類の反応性希釈剤を含有するものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、前記硬化剤用に促進剤(d)を含有していることを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項8】
請求項7に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、前記促進剤(d)として、芳香族アミンおよび/またはコバルト塩、マンガン、錫、バナジウムもしくはセリウムを含有していることを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項9】
請求項8に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、前記促進剤(d)として、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジイソプロパノール-P-トルイジン、N,N-ジイソプロピリデン-P-トルイジン、N,N-ジメチル-P-トルイジン、N,N-ジエチロール-P-トルイジン、N,N-ジイソプロピロール-m-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-キシリジン、N-メチル-N-ヒドロキシエチル-P-トルイジン、コバルトオクトエート、コバルトナフテネート、バナジウム(IV)-アセチルアセトネート及び/又はバナジウム(V)-アセチルアセトネートを含有していることを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質において、該モルタル物質は、前記樹脂成分(A)および/または前記硬化剤成分(B)内に、少なくとも1種類の無機充填剤を含有していることを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項11】
請求項10に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記無機充填剤として、石英、ガラス、コランダム、陶磁器、せっ(火へんに石)器、重晶石、軽晶石、石膏、滑石および/または砂粒状、粉末状もしくは整形した形成体とした石灰質を含有するものとし、好適には、整形した形成体としては、繊維状または球状の形成体としたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のモルタル物質において、前記樹脂成分(A)における樹脂を硬化させる前記硬化剤成分(B)は、少なくとも1種類の有機過酸化物、好適には、ジベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、tert.-ブチルペルベンゾアート、シクロヘキサノンペルオキシド、ラウリルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド及び/又はtert.-ブチルペロキシ-2-ヘキサノエートのうち少なくとも1種類を含有するものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質において、前記樹脂成分(A)は、前記樹脂の他に、液圧により凝結可能又は重縮合可能な無機化合物を含有し、前記硬化剤成分(B)は、前記硬化剤の他に、更に水を含有するものとしたことを特徴とする化学的2成分モルタル物質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質を収容する、パトローネ、カートリッジ又はフォイル袋体であって、互いに分離した2個以上のチャンバを有し、これらチャンバ内に前記樹脂成分(A)または前記硬化剤成分(B)を、互いに反応するのを阻止するよう分離した状態で配置することを特徴とするパトローネ、カートリッジ又はフォイル袋体。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の化学的2成分モルタル物質を、ネジ付アンカーロッド、鉄筋、ネジ付スリーブ及びネジを、無機質素地にドリル掘削した孔内に化学的に固定するために使用することを特徴とする化学的2成分モルタル物質の使用方法。

【公開番号】特開2011−208142(P2011−208142A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70834(P2011−70834)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】