説明

無段変速機の制御装置

【課題】運転者が有段変速モードを使用する場合の可変プーリの偏摩耗を防止すると共に、運転上の違和感を生じさせることのない無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】無段変速モード制御と有段変速モード制御とのいずれか一方を選択可能な無段変速機の制御装置において、有段変速モードが選択された場合に、選択された変速段の使用量情報を取得する使用量情報取得手段と、該使用量情報取得手段により得られた使用量情報に基づき、その使用状況が所定条件を超えているか否かを判定する条件判定手段と、該条件判定手段により所定条件を満たすと判定されたとき、選択された変速段に対応する変速比と異なる変更変速比であって、選択された変速段に対応する変速比における、車速の変化に対するエンジン速度の変化の割合が同じとなる変更変速比に設定する変更変速比設定手段と、該変更変速比設定手段により設定された変更変速比と一致するように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置に関し、特に、無段変速モードと有段変速モード(マニュアルモード)とが切替え可能な無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの回転数を無段階に変速して駆動輪へ伝達する無段変速機の制御装置であって、無段変速モードと有段変速モードの一方を手動により切換えるスイッチを有するものが知られている。例えば、特許文献1参照。
【0003】
この特許文献1には、無段変速モードおよび有段変速モードの一方を手動により選択可能とするモード選択手段を有する無段変速機が開示され、モード選択手段により無段変速モードが選択された場合には、エンジン回転速度が目標回転速度と一致するように無段変速機の変速比が制御される。一方、モード選択手段により有段変速モードが選択された場合には、変速比を離散的に使用し、走行状態に応じていずれかの離散変速比を目標値として選択して、その選択した離散変速比と一致するように変速比制御手段により無段変速機の変速比が制御される。
【0004】
無段変速モードでは、一般に最小燃費率線に沿って車両を運行するべく、そのときのアクセル開度や車速等によって定まる要求駆動力を最も効率よく取り出せるようなエンジン回転速度となるように変速比が無段階に制御される。また、有段変速モードでは、通常の有段(自動)変速機と同じように変速比が離散的に選択・固定制御される。従って、選択された離散変速比内においては、エンジン回転速度が基本的に車速と対応して変化するため、例えば、渋滞時のようにアクセルペダルが頻繁に操作されるようなときでもエンジン回転速度が大きくふらついたりせず、また、加速時は車速の増大と共にエンジン回転速度も上昇するのでそれだけ違和感の少ない運転をすることができる。
【0005】
ところが、特許文献1に開示されたものでは、運転者が有段変速モードを使用し続けると、ベルト式無段変速機の可変プーリのベルト接触面の特定の部分、すなわち、接触軌道面のみを使用し続けることとなり、可変プーリに偏摩耗が生じ、その結果、変速時においてベルトスリップが発生し、ベルトの耐久性が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、このような問題を解決すべく、特許文献2には、モード選択手段により有段変速モードが選択された場合に、変速比を離散的に使用し、走行状態に応じていずれかの離散変速比を目標値として選択して、その選択した離散変速比と一致するように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段を有する無段変速機の制御装置において、有段変速モードが選択された場合に、変速比制御手段の目標値とされる離散変速比を所定の判断結果に基づいて自動的に変更する離散変速比変更手段を備えた無段変速機の制御装置が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−145138号公報
【特許文献2】特開平10−30715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献2に開示された無段変速機の制御装置では、有段変速モードが選択された場合に、変速比制御手段の目標値とされる離散変速比が適宜自動的に変更されるので、可変プーリのある特定の変速比に係る部分のみが使用されることがなく、プーリの偏摩耗を防止ないしは抑制することができる。しかしながら、有段変速モードが選択された場合に、変速比制御手段の目標値とされる離散変速比が適宜自動的に変更されることから、この変更の前後において変速比が異なることがあり得る。この結果、例えば、3速相当の変速比で走行中であっても、離散変速比の適宜自動的な変更により、4速相当の変速比に変更され得るので、例えば、登坂路走行中や高速路走行中においてエンジン出力軸トルクが不足し、エンジン速度の上昇が鈍くなることがあり、このような場合には、期待する車両の加速感が得られず運転者に違和感を生じさせるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる従来の問題を解消すべくなされたものであり、運転者が有段変速モードを使用する場合の可変プーリの偏摩耗を防止すると共に、運転上の違和感を生じさせることのない無段変速機の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一形態に係る無段変速機の制御装置は、無段変速モード制御と有段変速モード制御とのいずれか一方を選択可能な無段変速機の制御装置において、前記有段変速モードが選択された場合に、選択された変速段の使用量情報を取得する使用量情報取得手段と、該使用量情報取得手段により得られた使用量情報に基づき、その使用状況が所定条件を超えているか否かを判定する条件判定手段と、該条件判定手段により所定条件を満たすと判定されたとき、前記選択された変速段に対応する変速比と異なる変更変速比であって、前記選択された変速段に対応する変速比における、車速の変化に対するエンジン速度の変化の割合が同じとなる変更変速比に設定する変更変速比設定手段と、該変更変速比設定手段により設定された変更変速比と一致するように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記変更変速比設定手段は、前記選択された変速段に対応する変速比におけるベルトとプーリとの接触軌道面と、設定される変更変速比におけるベルトとプーリとの接触面とが重ならないように変更変速比を設定することが好ましい。
【0012】
さらに、前記ベルトとプーリとの接触軌道面は、相対的に巻き掛け半径が小さい側のプーリにおける接触軌道面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の一形態に係る無段変速機の制御装置によれば、有段変速モードが選択された場合に、使用量情報取得手段により得られた使用量情報に基づき、選択された変速段の使用状況が所定条件を超えていないと条件判定手段により判定されたときには、その選択された変速段に対応する変速比に固定制御される。従って、この状態ではエンジン回転速度が基本的に車速と対応して変化するので、加速時は車速の増大と共にエンジン回転速度も上昇しそれだけ違和感の少ない運転をすることができる。一方、使用量情報取得手段により得られた使用量情報に基づき、選択された変速段の使用状況が所定条件を超えていると条件判定手段により判定されたときには、変更変速比設定手段により、選択された変速段に対応する変速比と異なる変更変速比であって、選択された変速段に対応する変速比における、車速の変化に対するエンジン速度の変化の割合が同じとなる変更変速比に設定され、変速比制御手段によりこの設定された変更変速比と一致するように無段変速機の変速比が制御される。従って、可変プーリのある特定の変速比に係る部分である接触軌道面のみが使用されることがなく、プーリの偏摩耗が防止されると共に、車速の増大と共にエンジン回転速度も上昇するので違和感の少ない運転をすることができるのである。
【0014】
ここで、上記変更変速比設定手段が、選択された変速段に対応する変速比におけるベルトとプーリとの接触軌道面と、設定される変更変速比におけるベルトとプーリとの接触面とが重ならないように変更変速比を設定するようにした形態によれば、選択された変速段に対応する変速比におけるベルトとプーリとの接触軌道面での偏磨耗を抑制することができる。
【0015】
さらに、上記ベルトとプーリとの接触軌道面が、相対的に巻き掛け半径が小さい側のプーリにおける接触軌道面である形態によれば、面圧の大きい接触軌道面での偏磨耗を確実に防止することができ、しかも、選択された変速段に対応する変速比からの変更量を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明が適用されたベルト式無段変速機の制御装置の概略を表わす構成図である。図1において、このベルト式無段変速機10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源として用いられる内燃機関としてエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機構(CVT)18、減速歯車機構20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0018】
エンジン12は、吸入空気量を電気的に調整する電子制御式スロットル弁30を備えており、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量などに応じて電子制御ユニット(ECU)100により電子制御式スロットル弁30の開閉制御や燃料噴射制御等のエンジン出力制御が行われることにより、エンジン12の出力が増減制御される。また、エンジン12には点火回路等の信号に基づいてエンジン回転速度Neを検出するためのエンジン速度センサ32が設けられている。
【0019】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプインペラ14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービンランナ14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプインペラ14pおよびタービンランナ14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプインペラ14pには、ベルト式無段変速機構18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する、機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0020】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに連結され、ベルト式無段変速機構18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された直結クラッチ38が係合されると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。一方、リングギヤ16rとハウジングとの間に配設された反力ブレーキ40が係合されると共に上記直結クラッチ38が開放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、直結クラッチ38および反力ブレーキ40が共に開放されると、エンジン12とベルト式無段変速機構18との間の動力伝達が遮断され、ニュートラル状態が得られる。直結クラッチ38および反力ブレーキ40は何れも油圧式摩擦係合装置で、エンジン12とベルト式無段変速機構18との間の動力伝達を遮断できる断続装置に相当する。
【0021】
ベルト式無段変速機構18は、上記入力軸36に設けられV溝幅が可変のプライマリ側可変プーリ42と、出力軸44に設けられV溝幅が可変のプライマリ側可変プーリ42と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42、46は、V溝幅を変更するアクチュエータとしての油圧シリンダを備えて構成されており、両可変プーリ42、46の油圧シリンダの油圧が適宜制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の巻き掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。
【0022】
ベルト式無段変速機構18のプライマリ側可変プーリ42およびセカンダリ側可変プーリ46の近傍には、それぞれ、入力軸36および出力軸44の回転速度を検出するための入力軸回転速度センサ60および出力軸回転速度センサ62が設けられている。なお、出力軸回転速度センサ62から得られる出力軸44の回転速度Noutは、換算されて後述の車速Vとしても用いられる。
【0023】
また、車室内の運転席の近傍に設けられたシフトレバー機構64には、P(パーキング)、R(後進)、N(ニュートラル)およびD(前進)等のその操作位置を検出するためのシフト位置センサが設けられている。また、無段変速モードと有段変速モードとが手動により選択操作されると共に、有段変速モードにおいて任意の変速段(変速比)がシフトレバー機構64により選択されたときに作動する、不図示の選択スイッチが設けられている。
【0024】
上述の各種センサやスイッチからの信号はECU100に送られ、周知のように、プライマリ側可変プーリ42およびセカンダリ側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧がそれぞれ制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変えられ、伝動ベルト48の巻き掛かり径(有効径)が変更され、変速比γが連続的または離散的に変化させられる。
【0025】
ここで、無段変速モードとは、エンジン12を例えば最小燃費率曲線上で作動させるように決定された目標入力軸回転速度と、実際の入力軸回転速度とを一致させるようにベルト式無段変速機構18の変速比を無段階に制御するためのモードである。これに対し、有段変速モードとは、従来のオートマチックトランスミッションにおけるシフト制御と同様に、選択された変速段に対応する変速比を決定し、その変速比となるようにベルト式無段変速機構18の変速比を固定制御するモードである。
【0026】
以下、本実施形態による無段変速モードおよび有段変速モード(以下、マニュアルモードと称す)におけるベルト式無段変速機構18の制御の一形態について説明する。本実施形態におけるベルト式無段変速機構18の主たる制御は、図2のフローチャートに示す制御ルーチンに沿って実行される。なお、この制御は所定の周期で実行される。
【0027】
図2のフローチャートのステップ201において、選択スイッチからの信号により無段変速モードおよびマニュアルモードのいずれのモードが選択されているかが判断される。このステップS201において無段変速モードが選択されていると判断された場合には、次のステップS202に進み、通常の無段変速制御処理が行なわれる。すなわち、例えば、実際のスロットル弁開度に基づいて、あるいは、実際のスロットル弁開度および車速に基づいて無段変速モード用マップから目標入力軸回転速度が決定され、これと実際の入力軸回転速度Ninに基づいて所望の変速比となるように制御される。
【0028】
一方、前記ステップS201においてマニュアルモードが選択されていると判断された場合には、ステップS203に進み、このマニュアルモードにおいて選択された変速段nにおける使用量情報が取得され、この取得された使用量情報に基づき、その使用状況が所定条件を超えているか否かが判定される。
【0029】
ここで、使用量情報とは、上述の有段変速モードにおいて選択された変速段nに対応する変速比γnでの、例えば、累積使用時間情報であり、無段変速機10が車両に搭載されて使用開始されたときから、その変速段nに対応する変速比γnでの累積使用時間である。この累積使用時間は、選択された変速段毎に使用時間が積算され、変速段毎の累積使用時間として、ECU100内のメモリーに記憶して保存されている。そして、その使用状況が所定条件を超えているか否かは、例えば、伝動ベルト48が巻き掛けられている、両可変プーリ42、46のV溝を形成するコーン面における接触軌道面の磨耗(偏磨耗)状態が許容範囲内であるか否かにより判定される。なお、この所定条件は、両可変プーリ42、46および伝動ベルト48に用いられている材料等に依存する耐磨性等を考慮して設定され得る。
【0030】
そこで、ステップS203において使用状況が所定条件を超えていない、すなわち、選択された変速段nに対応する変速比γnでの累積使用時間が許容使用時間を超えていないと判定されたときはステップS204に進み、選択された通りの変速段nに対応する変速比γnとなるように、後述の変速比の変更制御が行なわれる。
【0031】
また、ステップS203において使用状況が所定条件を超えている、すなわち、選択された変速段nに対応する変速比γnでの累積使用時間が許容使用時間を超えていると判定されたときはステップS205に進み、前回のルーチンサイクルにおける、選択された変速段が同じn段であったか否かが判定される。ここで、選択された変速段が前回のルーチンサイクルと同じn段であったときにはステップS204に進み、上述のように、選択された通りの変速段nに対応する変速比γnとなるように、変速比の制御が行なわれる。これは、使用状況が所定条件を超えていない状態でマニュアルモードが選択され、それに伴い選択された変速段nに対応する変速比γnに変更された(ステップS204)が、このマニュアルモードの継続中に使用状況が所定条件を超える状況に至ったような場合に、後述するステップS205における制御を行なうと、意図しない変速比の変更が生ずることになり運転者に違和感を与えるので、これを避けるためである。この結果、一旦、マニュアルモードが選択され、それに伴い選択された変速段nに対応する変速比γnに変更された後は、このマニュアルモードが解除されない限りこの変速比γnのままでの運転が継続される。なお、このように、運転者によりマニュアルモードが解除されない限りこの変速比γnのままでの運転が継続されることを防止するために、例えば、アクセルペダルの踏込みが解除されたときに無段変速モードに戻るようにしてもよい。
【0032】
一方、ステップS205において、選択された変速段が前回のルーチンサイクルと同じn段でないとき、すなわち、マニュアルモードに選択されて最初に変速段nが選択されるか、他の変速段から変速段nに選択された場合のように、選択された変速段nに対応する変速比γnでの累積使用時間が許容使用時間を超えているときの最初のルーチンサイクルの場合にはステップS206に進み、変速段nに対応する変更変速比γn‘となるように、変更変速比の制御が行なわれる。
【0033】
ここで、上述のステップS204における、マニュアルモードで選択された通りの変速段nに対応する変速比γnとなるように行なわれる、変速比制御の一形態につき、図3のフローチャートおよび図5の変速線図マップを参照しつつさらに説明する。
【0034】
図3のフローチャートは、ステップS204のサブルーチンとして実行され、まずそのステップS301において、所定の無段変速モードでの走行中にマニュアルモードが選択された時点における、車速およびエンジン速度が、それぞれ、エンジン速度センサ32および出力軸回転速度センサ62からの入力信号に基づき求められる。この時点を、図5の変速線図マップにPmと表すと、このときの車速はV0、およびエンジン速度はNe0となる。そして、次のステップS302に進み、運転上の違和感をなくすべく車速を変化させずにエンジン速度のみを変化させるために、選択された変速段nに対応する変速比γn線と、車速V0との交点Pnでの目標エンジン速度Ne・nが図5の変速線図マップから求められる。そして、ステップS303において、この求められた目標エンジン速度Ne・nとなるように、実際の入力軸回転速度Ninに基づいて、変速比γnに変更制御される。かくて、プライマリ側可変プーリ42およびセカンダリ側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧がそれぞれ制御されることにより、変速比が選択された変速段nに対応する変速比γnに固定される。
【0035】
なお、上では、マニュアルモードにおいて変速段nが選択された場合につき代表的に説明したが、選択可能な変速段として、例えば、変速段1、2、3、4および変速段nが設定されているとすると、これらにそれぞれ対応する変速比は図5に示されるように、γ1、γ2,γ3、γ4およびγnとなる。従って、例えば、変速段3が選択された場合には、図5の変速線図マップにおいて、変速比γ3に固定されることになる。
【0036】
一方、上述のステップS206における、選択された変速段nに対応する変速比γnでの累積使用時間が許容使用時間を超えているときに、変速段nに対応する変更変速比γn‘となるように行なわれる変更変速比制御の一形態につき、図4のフローチャートおよび図5の変速線図マップを参照しつつさらに説明する。
【0037】
図4のフローチャートは、ステップS206のサブルーチンとして実行され、まずそのステップS401において、上述の場合と同様に、マニュアルモードが選択された時点Pmにおける、車速V0およびエンジン速度Ne0が、それぞれ、エンジン速度センサ32および出力軸回転速度センサ62からの入力信号に基づき求められる。そして、次のステップS402に進み、選択された変速段nに対応する変更変速比γn‘における、車速V0を変化させない点Pn’での目標エンジン速度Ne・n‘が図5の変速線図マップから求められる。そして、ステップS403において、この求められた目標エンジン速度Ne・n’となるように、実際の入力軸回転速度Ninに基づいて、変更変速比γn‘に制御される。かくて、プライマリ側可変プーリ42およびセカンダリ側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧がそれぞれ制御されることにより、変速比が選択された変速段nに対応する変更変速比γn’に沿って変化するように制御される。この結果、車速Vが変化するに従って両プーリ42、46のコーン面とベルト48との接触面位置が同一軌跡を取らず変速されていくので、偏磨耗が抑制される。
【0038】
ここで、上述の変更変速比γn’は、選択された変速段nに対応する変速比γnにおける、車速の変化に対するエンジン速度の変化の割合、すなわち、変化率が同じとなるように、予め実験等により求めて図5の変速線図マップの形態でECU100に保管されている。上では、マニュアルモードにおいて変速段nが選択され、変更変速比γn’が設定される場合につき代表的に説明したが、例えば、変速段3が選択された場合には、これに対応する変更変速比γ3‘は図示されないが、図5の変速線図マップにおいて変更変速比γn’が変速比γnとほぼ平行な線として表されているのと同様に、変速比γ3の変化率と同じ、換言すると変速比γ3と平行な線として表されることになる。
【0039】
ところで、このように選択された変速段nに対応する変速比γnに平行する線として表される変更変速比γn’は、理論的には、変速比γnに関して最大変速比γmax側および最小変速比γmin側にそれぞれ複数存在し得る。従って、これらの複数の変更変速比γn’のうち、いずれに設定するかが考慮すべき問題となる。これに関し本実施形態においては、選択された変速段nに対応する変速比γnにおけるベルト48と両プーリ42,46との接触軌道面と、設定される変更変速比γn’におけるベルト48と両プーリ42,46との接触面とが重ならないように変更変速比γn’が設定されている。これは、ベルト48の厚みを考慮して、この厚みに相当する分、接触面がずれるように変更変速比γn’が設定されているのである。このようにすると、選択された変速段nに対応する変速比γnにおけるベルト48と両プーリ42,46との接触軌道面での偏磨耗を確実に防止することができる。
【0040】
さらに、上述の変更変速比γn’を設定するに際して考慮すべきベルト48と両プーリ42,46との接触軌道面は、相対的に巻き掛け半径が小さい側のプーリにおける接触軌道面とされている。例えば、選択された変速段nが最大変速比γmax付近であるときには、相対的に巻き掛け半径が小さいプライマリ側可変プーリ42、選択された変速段nが最小変速比γmin付近であるときには、相対的に巻き掛け半径が小さいセカンダリ側可変プーリ46における接触軌道面と、設定される変更変速比γn’におけるベルト48と両プーリ42,46との接触面とが重ならないように変更変速比γn’が設定されている。このようにすれば、面圧の大きい接触軌道面での偏磨耗を確実に防止することができ、しかも、選択された変速段nに対応する変速比γnからの変更量を小さくすることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明が適用された無段変速機の制御装置の概略を表わす構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるベルト式無段変速機構の制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態における変速比制御サブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態における変更変速比制御サブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態における変速線図マップの一例を示す。
【符号の説明】
【0042】
10 ベルト式無段変速機
12 エンジン
18 ベルト式無段変速機構
32 エンジン速度センサ
42 プライマリ側可変プーリ
46 セカンダリ側可変プーリ
48 伝動ベルト
64 シフトレバー機構
100 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速モード制御と有段変速モード制御とのいずれか一方を選択可能な無段変速機の制御装置において、
前記有段変速モードが選択された場合に、選択された変速段の使用量情報を取得する使用量情報取得手段と、
該使用量情報取得手段により得られた使用量情報に基づき、その使用状況が所定条件を超えているか否かを判定する条件判定手段と、
該条件判定手段により所定条件を満たすと判定されたとき、前記選択された変速段に対応する変速比と異なる変更変速比であって、前記選択された変速段に対応する変速比における、車速の変化に対するエンジン速度の変化の割合が同じとなる変更変速比に設定する変更変速比設定手段と、
該変更変速比設定手段により設定された変更変速比と一致するように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変更変速比設定手段は、前記選択された変速段に対応する変速比におけるベルトとプーリとの接触軌道面と、設定される変更変速比におけるベルトとプーリとの接触面とが重ならないように変更変速比を設定することを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記ベルトとプーリとの接触軌道面は、相対的に巻き掛け半径が小さい側のプーリにおける接触軌道面であることを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315429(P2007−315429A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143037(P2006−143037)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】