無線ICデバイス
【課題】全体のサイズを縮小化し且つ放射特性を向上させて、リーダライタのアンテナとの信号の伝達効率を高めた無線ICデバイスを構成する。
【解決手段】給電回路基板4とそれに搭載する無線ICチップ5とによって電磁結合モジュール1を構成し、給電用導体8a,8bを介して螺旋状導体7に結合させる。螺旋状導体7と給電用導体8a,8bはモールド樹脂9によりモールドし、その上面に電磁結合モジュール1を貼着することによって無線ICデバイス10を構成する。
【解決手段】給電回路基板4とそれに搭載する無線ICチップ5とによって電磁結合モジュール1を構成し、給電用導体8a,8bを介して螺旋状導体7に結合させる。螺旋状導体7と給電用導体8a,8bはモールド樹脂9によりモールドし、その上面に電磁結合モジュール1を貼着することによって無線ICデバイス10を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁波により非接触でデータ通信を行うRFID(Radio Frequency Identification)システムに適用する無線ICデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の管理システムとして、誘導電磁界を発生するリーダライタと物品に付された所定の情報を記憶した無線ICデバイスとで非接触通信し、情報を伝達するRFIDシステムが利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
図1はその特許文献1に示されている、ICタグ用アンテナにICタグラベルを装着した非接触ICタグ(無線ICデバイス)の例を示す図である。
【0004】
この無線ICデバイスT0は、誘電体基板84の片面に、左右一対の主アンテナ素子81,81と、補助アンテナ素子82と、左右一対の整合部83,83とが形成されてなる。
【0005】
主アンテナ素子81,81は、導体線がメアンダライン状に形成されたメアンダ型アンテナであって、誘電体基板84に左右対称に配置されている。主アンテナ素子81,81は誘電体基板84の両端エリアを占有しており、これら左右一対の主アンテナ素子81,81間に補助アンテナ素子82が配置されている。
【0006】
各整合部83,83はメアンダライン状に形成された導体線(インダクタ)である。整合部83,83の各一端部はそれぞれ主アンテナ素子81,81の内側端部に接続されていて、この整合部83,83の各他端部に無線ICチップ86が搭載されている。
【特許文献1】特開2005−244778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の非接触ICタグには以下のような問題点がある。
(a)無線ICと主アンテナとのインピーダンス整合を行うための整合部を主アンテナと同一平面上に配置しているため、無線タグのサイズが大きくなる。また、主アンテナのサイズや形状により整合部のサイズも変化するため、仕様に合わせて無線タグサイズを変更する必要がある。
【0008】
(b)微小ダイポール形状であるため、小型化にともない特性が大きく劣化するので小型化しにくい。
【0009】
(c)ダイポールアンテナに準拠した構造であるため、導体が近くにあると利得が大きく劣化してしまう。
【0010】
そこで、この発明の目的は、全体のサイズを縮小化し且つ放射特性を向上させて、リーダライタのアンテナとの信号の伝達効率を高めた無線ICデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、この発明の無線ICデバイスは次のように構成する。
(1)無線ICチップと、インダクタンス素子を含み、前記無線ICチップに導通するとともに外部回路に結合する給電回路基板とからなる電磁結合モジュールと、この電磁結合モジュールを搭載するとともに当該電磁結合モジュールと結合する螺旋状の導体からなる放射体と、を備えて無線ICデバイスとする。
【0012】
(2)前記給電回路基板内には共振回路を形成する。
(3)前記給電回路基板内には整合回路を形成する。
【0013】
(4)前記電磁結合モジュールは、その2つの結合部を前記放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合させる。
【0014】
(5)前記放射体は分離された2つの放射体からなり、それぞれの放射体に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させる。
【0015】
(6)前記2つの放射体は、そのそれぞれの螺旋の中心軸を異なる向きに配置する。
【0016】
(7)前記放射体は、例えば導体表面または導体の表面近傍に配置する。
【0017】
(8)前記導体は、例えば電子機器内の回路基板に形成された電極パターンで構成する。
【0018】
(9)前記導体は、例えば電子機器内の液晶表示パネルなどのコンポーネントに設けられた金属板で構成する。
【0019】
(10)前記給電回路は、例えば複数の電極層を備えた多層基板で構成する。
【0020】
(11)前記給電回路は、例えば電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成する。
【0021】
(12)前記放射体は、例えば複数の電極層を備えた多層基板で構成する。
【0022】
(13)前記給電回路および前記放射体は、例えば複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成する。
【0023】
(14)前記複数の放射体には複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、次のような効果を奏する。
(1)螺旋状の導体からなる放射体の内部またはその近傍に電磁界分布の密な部分を作ることができ、小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0025】
(2)前記給電回路基板内に共振回路を設けることによって、RFIDシステムで用いる周波数の信号のエネルギーの授受(送受信)を高効率のもとで行うことができる。また、放射体の形状やサイズを考慮して最適な共振周波数に設定することができる。これにより無性ICデバイスの放射特性を向上させることができる。
【0026】
(3)前記給電回路基板内に整合回路を設けることによってRFIDシステムで用いる周波数の信号のエネルギーの授受(送受信)を高効率のもとで行うことができる。
【0027】
(4)電磁結合モジュールの2つの結合部が放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが誘導性になるため、容量性の電磁結合モジュールとの整合がとりやすくなる。
【0028】
(5)分離された2つの放射体に対して電磁結合モジュールの2つの結合部が結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが容量性になるため、誘導性の電磁結合モジュールとの整合がとりやすくなる。
【0029】
(6)それぞれの螺旋の中心軸が異なる向きに2つの放射体を配置することによって互いに指向性の悪い方向をカバーすることができ、無指向性の無線ICデバイスが得られる。
【0030】
(7)放射体を導体表面または導体の表面近傍に配置することにより、その導体も放射体として作用するので無指向性で且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0031】
(8)前記導体を、電子機器内の回路基板に形成された電極パターンとすることによって、電子機器に備える回路基板をそのまま利用でき、且つ電磁結合モジュールおよび導体の実装が容易となる。
【0032】
(9)前記導体を、電子機器内の例えば液晶表示パネル等のコンポーネントに設けられた金属板とすることによって、電子機器内に設けられるコンポーネントをそのまま利用することができ、大型化・コストアップすることもない。
【0033】
(10)給電回路を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、整合回路の占有面積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0034】
(11)給電回路を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成することによって、電極形成回数が少なく、安価に構成できる。また全体に薄型化できる。
【0035】
(12)放射体を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、放射体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0036】
(13)給電回路および放射体を、複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成することにより、全体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0037】
(14)前記複数の放射体に複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させることによって、その無線ICデバイスを複数の通信システムに兼用でき、組み込み先の装置全体の小型化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る無線ICデバイスの構成を図2〜図6を参照して説明する。
図2は第1の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。この無線ICデバイス10は電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、給電用導体8a,8bおよびモールド樹脂9で構成している。
【0039】
上記電磁結合モジュール1は給電回路基板4とそれに搭載した無線ICチップ5とで構成している。
螺旋状導体7および給電用導体8a,8bはモールド樹脂9の内部に埋設されていてモールド樹脂9の外面には電極は露出していない。このモールド樹脂9の上面に電磁結合モジュール1を搭載(貼着)することによって電磁気的に結合させる。
【0040】
図3は図2に示した無線ICデバイスの分解斜視図である。螺旋状導体7は水平方向と鉛直方向に延びる導体の集合体である。給電用導体8a,8bは螺旋状導体7の所定距離離れた2箇所に導通する。電磁結合モジュール1は給電用導体8a,8bに対して容量結合する。
【0041】
図4は電磁結合モジュール1の分解斜視図である。給電回路基板4はそれぞれに電極パターンを形成した誘電体層を積層してなる多層基板で構成している。誘電体層41Aには無線ICチップ実装用ランド35a〜35dを形成している。誘電体層41Bにはインダクタ電極43a,44eを形成している。誘電体層41Cにはインダクタ電極43b,44dを形成している。誘電体層41Dにはインダクタ電極43c,42a,44cを形成している。誘電体層41Eにはインダクタ電極43d,42b,44bを形成している。誘電体層41Fにはインダクタ電極43e,42c,44aを形成している。誘電体層41Gにはインダクタ電極42dを形成している。さらに誘電体層41Hにはキャパシタ電極51,52を形成している。
【0042】
各誘電体層の電極間は図に示すように所定箇所をビアホールで導通させている。
この多層基板の材料としてはセラミックや液晶ポリマー(LCP)などの樹脂を用いることができる。
無線ICチップ5は上記無線ICチップ実装用ランド35a〜35dに実装する。
【0043】
図5は、給電用導体8a,8bとの間に生じる部分を含む給電回路基板4の等価回路図である。ここでインダクタL1は図4に示したインダクタ電極43a〜43eによるインダクタ、インダクタL2は図4に示したインダクタ電極42a〜42dからなるインダクタ、インダクタL3は図4に示したインダクタ電極44a〜44eからなるインダクタである。またキャパシタC1,C2は図4に示したキャパシタ電極51,52とその下部に配置される給電用導体8a,8bとの間に生じるキャパシタである。
【0044】
このインダクタL1,L2,L3とキャパシタC1,C2による給電回路基板4内の共振回路は、放射体となる螺旋状導体7と電磁界結合している。
【0045】
なお、給電回路基板4内に形成する素子としてはインダクタンス素子のみでも構わない。その場合、インダクタンス素子と螺旋状導体7とを直接結合させてもよいし、絶縁して配置してもよい。インダクタンス素子は無線ICチップと螺旋状導体とのインピーダンス整合機能を持っている。また、給電回路基板4内にパターンとしてインダクタンス素子のみを設ける場合でも、そのインダクタンスと浮遊容量のキャパシタンスとによる自己共振を利用してもよい。
【0046】
このようにして給電回路基板4によって無線ICチップ5と螺旋状導体7との間のインピーダンス整合を図るとともに、螺旋状導体7が放射体として作用するための共振周波数を所望の値に設定する。このとき螺旋状導体7の形状やサイズを考慮して共振周波数を設定しても構わない。その場合、無線ICデバイスの放射特性を向上させることができる。
【0047】
給電回路基板4上に前記無線ICチップ5を搭載してなる無線ICデバイス1は、図示しないリーダライタから放射される高周波信号(例えばUHF周波数帯)を螺旋状導体7で受信し、給電回路基板4内の共振回路を共振させ、所定の周波数帯の受信信号のみを無線ICチップ5に供給する。一方、この受信信号から所定のエネルギーを取り出し、このエネルギーを駆動源として無線ICチップ5にメモリされている情報を、共振回路にて所定の周波数に整合させた後、螺旋状導体7に伝え、該螺旋状導体7からリーダライタに送信・転送する。
【0048】
給電回路基板4においては、インダクタンス素子L1,L2,L3とキャパシタンス素子C1,C2で構成された共振回路にて共振周波数が決定される。螺旋状導体7から放射される信号の周波数は、共振回路の自己共振周波数によって実質的に決まる。
【0049】
このように無線ICデバイスを構成することによって、螺旋状導体7からなる放射体の内部またはその近傍に電磁界分布の密な部分を作ることができ、小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0050】
また、電磁結合モジュールの2つの結合部が放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが誘導性になるため、電磁結合モジュールの結合部が容量性である場合に整合がとりやすくなる。
【0051】
また、給電回路基板を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、整合回路の占有面積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0052】
また、電磁結合モジュールが螺旋状導体からなる放射体から直流的に絶縁されるので、無線ICチップが静電破壊されることなく、静電気に対する耐性を高めることができる。
【0053】
図6は図2に示した無線ICデバイスを導体板に実装した状態を示す斜視図である。導体板20は所定範囲に広がる金属板であり、この例ではそのほぼ中央に無線ICデバイス10を取り付けている。導体板20と図2に示した螺旋状導体7とは電気的に導通させる必要はなく、モールド樹脂9によりモールドされたまま導体板20の上面に貼着する。
【0054】
図2に示した螺旋状導体7は給電用導体8a,8bを介して給電されるヘリカルアンテナとして作用するので、螺旋状導体7の内部を通過し且つ外側を回るループを描く磁界が発生し、この磁界が導体板20に対して垂直に通過することによって導体板20の面内方向に電界が誘起され、この導体板20もアンテナの放射体として作用する。この導体板20は無線ICデバイス10より拡がる広い面積を有するので無線ICデバイス10単体の場合より放射利得を大幅に高めることができる。
【0055】
《第2の実施形態》
図7は第2の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。図2に示した無線ICデバイスと異なるのは、螺旋状導体7の形状と、それに対する電磁結合モジュール1の向きである。この無線ICデバイス11は給電回路基板4に無線ICチップ5を実装してなる電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、およびこの螺旋状導体7に対して給電するための給電用導体8a,8bを備えている。螺旋状導体7および給電用導体8a,8bはモールド樹脂9によって樹脂モールドされている。電磁結合モジュール1はモールド樹脂9の図における上面に貼着することによって、給電用導体8a,8bの頂面に対向して容量結合する。
【0056】
このように螺旋状導体7は、その中心軸方向を見た平面図で円形となるように文字通り螺旋状をなしていてもよい。また螺旋状導体7に対する給電用導体8a,8bの引き出し方向は、この図7に示すように螺旋状導体の中心軸方向に沿った方向であってもよい。
【0057】
《第3の実施形態》
図8は第3の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。この無線ICデバイス12は電磁結合モジュール1、螺旋状導体7a,7b、および給電用導体8a,8bを備えている。この例では螺旋状導体として2つの螺旋状導体7a,7bからなり、両者は非連続である。但し螺旋の向きは等しい。
【0058】
このような構成であっても螺旋状導体7a,7bは放射体として作用し、高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0059】
このように、分離された2つの放射体に対して電磁結合モジュール(電磁結合モジュール)の2つの結合部が結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが容量性になるため、電磁結合モジュールの結合部が誘導性である場合に整合がとりやすくなる。
【0060】
なお、図2に示したように螺旋状導体7a,7bおよび給電用導体8a,8bの周囲をモールド樹脂で樹脂モールドしてもよい。
【0061】
《第4の実施形態》
図9は第4の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。図8に示したものと異なるのは、2つの螺旋状導体7a,7bの中心軸の向きが互いに異なっていることである。その他の構成は図8に示したものと同様である。このように2つの螺旋状導体7a,7bの中心軸を異なる向きに配置することによって、指向性の設定が容易となる。すなわち螺旋状導体7aによる指向特性と螺旋状導体7bによる指向特性とがそれぞれ有効であるのでその合成により、ほぼ無指向性を得ることができる。
【0062】
なお、図2に示したものと同様に、螺旋状導体7a,7bおよび給電用導体8a,8bを含む範囲を樹脂モールドしてもよい。
【0063】
《第5の実施形態》
第5の実施形態に係る無線ICデバイスについて図10〜図12を参照して説明する。
図10(A)は第5の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図、図10(B)はその透視斜視図である。この無線ICデバイス14は、図10(A)に示すようにアンテナモジュール21とそれに貼着した無線ICチップ5とから構成している。
【0064】
アンテナモジュール21は図10(B)に示すように、螺旋状導体7と、この螺旋状導体7と無線ICチップ5との間のインピーダンス整合および共振周波数の設定等を行う給電回路部6とを備えている。
【0065】
図11は図10に示した無線ICデバイスの分解斜視図である。給電回路部6は、無線ICチップ実装用ランド35〜35dと、インダクタ電極42a〜42d,43a〜43e,44a〜44eとから構成している。この給電回路部6の等価回路は、図5に示した回路においてキャパシタC1,C2の無い回路に等しい。すなわちインダクタL1,L2,L3からなるT型回路の一方の2端子は無線ICチップ実装用ランド35a,35bに導通し、他方の2端子は螺旋状導体7の所定距離離れた2箇所に導通している。
【0066】
但し第1〜第4の実施形態の場合とは異なり、無線ICチップ5は、螺旋状導体7と直接接続される。なお、インダクタL1,L2,L3の電極間には浮遊容量が発生し、その浮遊容量とインダクタとで給電回路部6は無線ICチップ5と螺旋状導体7との間のインピーダンス整合をとるとともに螺旋状導体7の共振周波数を無線ICデバイスで用いる周波数に調整する。
【0067】
なお、この実施形態では、給電回路部6と螺旋状導体7とを直接接続したが、第1の実施形態のようにインダクタ電極42dと螺旋状導体7との間にキャパシタ電極を配置しても構わない。
【0068】
上記給電回路部6および螺旋状導体7は、共に多層基板に構成している。すなわち、各層に電極パターンを形成した誘電体層を積層し、焼成することによってアンテナモジュール21を構成している。
【0069】
このように、放射体を多層基板で構成することにより、さらにはそれとともに給電回路部を多層基板で構成することにより、放射体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0070】
また、無線ICチップが螺旋状導体からなる放射体から直流的に絶縁された場合、無線ICチップが静電破壊されることなく、静電気に対する耐性を高めることができる。
【0071】
図12はこの第5の実施形態に係る無線ICデバイスを導体板に取り付けた例を示す斜視図である。導体板20は所定範囲に広がる金属板、または金属膜を備えたシートや板であり、この例では無線ICデバイス14をその端部付近に貼着している。
【0072】
《第6の実施形態》
図13(A)は第6の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図、図13(B)はその透視斜視図である。この無線ICデバイス15は図13(A)に示すようにアンテナモジュール21とそれに貼着した無線ICチップ5とから構成している。
【0073】
アンテナモジュール21は図13(B)に示すように、螺旋状導体7と、この螺旋状導体7と無線ICチップ5との間のインピーダンス整合および共振周波数の設定等を行う給電回路部6とを備え、それらをモールド樹脂9でモールドしている。
【0074】
無線ICチップ5および給電回路部6の構成は第5の実施形態の場合と同様である。第5の実施形態と異なるのは、螺旋状導体7の形状が、その中心軸方向を見た平面図で円形となるような螺旋状であることと、螺旋状導体7に対する給電回路部6の面方向のなす向きが螺旋状導体の中心軸に対し垂直であることである。
このような構成であっても小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0075】
なお、図13に示した無線ICデバイス15を、所定範囲に広がる金属板または金属膜を備えたシートや板からなる導体板に対して、図13に示した状態で底面が導体板に対面するように配置すれば、螺旋状導体7により生じる磁束が導体面に対して垂直に通るので導体板との結合が効率良く行われ、高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0076】
《第7の実施形態》
図14は第7の実施形態に係る2つの無線ICデバイスの斜視図である。
この無線ICデバイス16,17はいずれも電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、および給電用導体8a,8bで構成している。電磁結合モジュール1は給電回路基板4とそれに搭載した無線ICチップ5とで構成している。
【0077】
電磁結合モジュール1は、給電回路基板4と無線ICチップ5とで構成している。図2に示したものと異なり、この給電回路基板4は電極パターンを表面に形成したフレキシブル基板で構成している。このフレキシブル基板にはPETフィルムを用いることができる。
【0078】
図14(A)の例ではフレキシブル基板の上面に、無線ICチップと導通する2つのキャパシタ電極を形成している。このキャパシタ電極は給電用導体8a,8bとの間に容量を形成し、容量結合する。
【0079】
図14(A)の構造の給電回路基板4では、給電用導体8a,8bとキャパシタ電極との間のキャパシタンスと、キャパシタ電極のインダクタンスとで無線ICチップ5と螺旋状導体7とのインピーダンス整合を行っている。
【0080】
図14(B)の例ではフレキシブル基板の上面に、無線ICチップと導通する2つのインダクタ電極を形成している。このインダクタ電極は給電用導体8a,8bと電磁界結合する。
【0081】
いずれの構成でも、給電回路基板を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成することによって、電極形成回数が少なくなるので全体に安価に構成できる。また全体に薄型化できる。
【0082】
《第8の実施形態》
図15(A)は無線ICデバイスを備えた携帯電話端末の斜視図、(B)は内部の回路基板の主要部の断面図である。携帯電話端末内の回路基板31には電子部品33,34とともに、無線ICチップ5とアンテナモジュール21とからなる無線ICデバイス18を取り付けている。回路基板31の上面には所定面積に広がる電極パターン32を形成している。この電極パターン32はアンテナモジュール21内の螺旋状導体と結合して放射体として作用する。そのため、無指向性で且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0083】
このように、電子機器内の回路基板に形成された電極パターンを、放射体として作用する導体として利用することによって、電子機器に備える回路基板をそのまま利用でき、且つ電磁結合モジュールおよび導体の実装が容易となる。
【0084】
また、その他の例として、図15(A)に示した携帯電話端末の内部で液晶パネルの背面に設けられている金属パネルに無線ICデバイスを貼付して、その金属パネルをアンテナの放射体として作用させるようにしてもよい。これにより、電子機器内に設けられるコンポーネントをそのまま利用することができ、大型化・コストアップすることもない。
【0085】
なお、各実施形態で示した無線ICデバイスに備える螺旋状導体はヘリカルアンテナとして作用させることができるので、無線ICデバイス用途以外での通信用アンテナとして用いてもよい。例えば円偏波の電磁波を受信するGPSアンテナとして用いるようにしてもよい。その場合、螺旋状導体の所定距離離れた2箇所に対して別途他の通信システム用の電磁結合モジュールを結合するように設けることで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】特許文献1に示されている無線ICデバイスの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。
【図3】同無線ICデバイスの分解斜視図である。
【図4】同無線ICデバイスの給電回路基板の構成および無線ICチップとの関係を示す分解斜視図である。
【図5】給電回路基板の等価回路図である。
【図6】導体板に対する無線ICデバイスの実装状態を示す斜視図である。
【図7】第2の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。
【図8】第3の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図9】第4の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図10】第5の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図および透視斜視図である。
【図11】同無線ICデバイスの分解斜視図である。
【図12】同無線ICデバイスを導体板に取り付けた例を示す斜視図である。
【図13】第6の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図および透視斜視図である。
【図14】第7の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図15】第8の実施形態に係る無線ICデバイスを備えた携帯電話端末の斜視図および内部の回路基板の主要部の断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1…電磁結合モジュール
4…給電回路基板
5…無線ICチップ
6…給電回路部
7…螺旋状導体
8a,8b…給電用導体
9…モールド樹脂
10〜18…無線ICデバイス
20…導体板
21…アンテナモジュール
31…回路基板
32…電極パターン
33,34…電子部品
35a〜35d…無線ICチップ実装用ランド
36a,36b…キャパシタ電極
41A〜41H…誘電体層
42〜44…インダクタ電極
51,52…キャパシタ電極
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁波により非接触でデータ通信を行うRFID(Radio Frequency Identification)システムに適用する無線ICデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の管理システムとして、誘導電磁界を発生するリーダライタと物品に付された所定の情報を記憶した無線ICデバイスとで非接触通信し、情報を伝達するRFIDシステムが利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
図1はその特許文献1に示されている、ICタグ用アンテナにICタグラベルを装着した非接触ICタグ(無線ICデバイス)の例を示す図である。
【0004】
この無線ICデバイスT0は、誘電体基板84の片面に、左右一対の主アンテナ素子81,81と、補助アンテナ素子82と、左右一対の整合部83,83とが形成されてなる。
【0005】
主アンテナ素子81,81は、導体線がメアンダライン状に形成されたメアンダ型アンテナであって、誘電体基板84に左右対称に配置されている。主アンテナ素子81,81は誘電体基板84の両端エリアを占有しており、これら左右一対の主アンテナ素子81,81間に補助アンテナ素子82が配置されている。
【0006】
各整合部83,83はメアンダライン状に形成された導体線(インダクタ)である。整合部83,83の各一端部はそれぞれ主アンテナ素子81,81の内側端部に接続されていて、この整合部83,83の各他端部に無線ICチップ86が搭載されている。
【特許文献1】特開2005−244778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の非接触ICタグには以下のような問題点がある。
(a)無線ICと主アンテナとのインピーダンス整合を行うための整合部を主アンテナと同一平面上に配置しているため、無線タグのサイズが大きくなる。また、主アンテナのサイズや形状により整合部のサイズも変化するため、仕様に合わせて無線タグサイズを変更する必要がある。
【0008】
(b)微小ダイポール形状であるため、小型化にともない特性が大きく劣化するので小型化しにくい。
【0009】
(c)ダイポールアンテナに準拠した構造であるため、導体が近くにあると利得が大きく劣化してしまう。
【0010】
そこで、この発明の目的は、全体のサイズを縮小化し且つ放射特性を向上させて、リーダライタのアンテナとの信号の伝達効率を高めた無線ICデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、この発明の無線ICデバイスは次のように構成する。
(1)無線ICチップと、インダクタンス素子を含み、前記無線ICチップに導通するとともに外部回路に結合する給電回路基板とからなる電磁結合モジュールと、この電磁結合モジュールを搭載するとともに当該電磁結合モジュールと結合する螺旋状の導体からなる放射体と、を備えて無線ICデバイスとする。
【0012】
(2)前記給電回路基板内には共振回路を形成する。
(3)前記給電回路基板内には整合回路を形成する。
【0013】
(4)前記電磁結合モジュールは、その2つの結合部を前記放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合させる。
【0014】
(5)前記放射体は分離された2つの放射体からなり、それぞれの放射体に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させる。
【0015】
(6)前記2つの放射体は、そのそれぞれの螺旋の中心軸を異なる向きに配置する。
【0016】
(7)前記放射体は、例えば導体表面または導体の表面近傍に配置する。
【0017】
(8)前記導体は、例えば電子機器内の回路基板に形成された電極パターンで構成する。
【0018】
(9)前記導体は、例えば電子機器内の液晶表示パネルなどのコンポーネントに設けられた金属板で構成する。
【0019】
(10)前記給電回路は、例えば複数の電極層を備えた多層基板で構成する。
【0020】
(11)前記給電回路は、例えば電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成する。
【0021】
(12)前記放射体は、例えば複数の電極層を備えた多層基板で構成する。
【0022】
(13)前記給電回路および前記放射体は、例えば複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成する。
【0023】
(14)前記複数の放射体には複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、次のような効果を奏する。
(1)螺旋状の導体からなる放射体の内部またはその近傍に電磁界分布の密な部分を作ることができ、小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0025】
(2)前記給電回路基板内に共振回路を設けることによって、RFIDシステムで用いる周波数の信号のエネルギーの授受(送受信)を高効率のもとで行うことができる。また、放射体の形状やサイズを考慮して最適な共振周波数に設定することができる。これにより無性ICデバイスの放射特性を向上させることができる。
【0026】
(3)前記給電回路基板内に整合回路を設けることによってRFIDシステムで用いる周波数の信号のエネルギーの授受(送受信)を高効率のもとで行うことができる。
【0027】
(4)電磁結合モジュールの2つの結合部が放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが誘導性になるため、容量性の電磁結合モジュールとの整合がとりやすくなる。
【0028】
(5)分離された2つの放射体に対して電磁結合モジュールの2つの結合部が結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが容量性になるため、誘導性の電磁結合モジュールとの整合がとりやすくなる。
【0029】
(6)それぞれの螺旋の中心軸が異なる向きに2つの放射体を配置することによって互いに指向性の悪い方向をカバーすることができ、無指向性の無線ICデバイスが得られる。
【0030】
(7)放射体を導体表面または導体の表面近傍に配置することにより、その導体も放射体として作用するので無指向性で且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0031】
(8)前記導体を、電子機器内の回路基板に形成された電極パターンとすることによって、電子機器に備える回路基板をそのまま利用でき、且つ電磁結合モジュールおよび導体の実装が容易となる。
【0032】
(9)前記導体を、電子機器内の例えば液晶表示パネル等のコンポーネントに設けられた金属板とすることによって、電子機器内に設けられるコンポーネントをそのまま利用することができ、大型化・コストアップすることもない。
【0033】
(10)給電回路を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、整合回路の占有面積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0034】
(11)給電回路を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成することによって、電極形成回数が少なく、安価に構成できる。また全体に薄型化できる。
【0035】
(12)放射体を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、放射体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0036】
(13)給電回路および放射体を、複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成することにより、全体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0037】
(14)前記複数の放射体に複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させることによって、その無線ICデバイスを複数の通信システムに兼用でき、組み込み先の装置全体の小型化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る無線ICデバイスの構成を図2〜図6を参照して説明する。
図2は第1の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。この無線ICデバイス10は電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、給電用導体8a,8bおよびモールド樹脂9で構成している。
【0039】
上記電磁結合モジュール1は給電回路基板4とそれに搭載した無線ICチップ5とで構成している。
螺旋状導体7および給電用導体8a,8bはモールド樹脂9の内部に埋設されていてモールド樹脂9の外面には電極は露出していない。このモールド樹脂9の上面に電磁結合モジュール1を搭載(貼着)することによって電磁気的に結合させる。
【0040】
図3は図2に示した無線ICデバイスの分解斜視図である。螺旋状導体7は水平方向と鉛直方向に延びる導体の集合体である。給電用導体8a,8bは螺旋状導体7の所定距離離れた2箇所に導通する。電磁結合モジュール1は給電用導体8a,8bに対して容量結合する。
【0041】
図4は電磁結合モジュール1の分解斜視図である。給電回路基板4はそれぞれに電極パターンを形成した誘電体層を積層してなる多層基板で構成している。誘電体層41Aには無線ICチップ実装用ランド35a〜35dを形成している。誘電体層41Bにはインダクタ電極43a,44eを形成している。誘電体層41Cにはインダクタ電極43b,44dを形成している。誘電体層41Dにはインダクタ電極43c,42a,44cを形成している。誘電体層41Eにはインダクタ電極43d,42b,44bを形成している。誘電体層41Fにはインダクタ電極43e,42c,44aを形成している。誘電体層41Gにはインダクタ電極42dを形成している。さらに誘電体層41Hにはキャパシタ電極51,52を形成している。
【0042】
各誘電体層の電極間は図に示すように所定箇所をビアホールで導通させている。
この多層基板の材料としてはセラミックや液晶ポリマー(LCP)などの樹脂を用いることができる。
無線ICチップ5は上記無線ICチップ実装用ランド35a〜35dに実装する。
【0043】
図5は、給電用導体8a,8bとの間に生じる部分を含む給電回路基板4の等価回路図である。ここでインダクタL1は図4に示したインダクタ電極43a〜43eによるインダクタ、インダクタL2は図4に示したインダクタ電極42a〜42dからなるインダクタ、インダクタL3は図4に示したインダクタ電極44a〜44eからなるインダクタである。またキャパシタC1,C2は図4に示したキャパシタ電極51,52とその下部に配置される給電用導体8a,8bとの間に生じるキャパシタである。
【0044】
このインダクタL1,L2,L3とキャパシタC1,C2による給電回路基板4内の共振回路は、放射体となる螺旋状導体7と電磁界結合している。
【0045】
なお、給電回路基板4内に形成する素子としてはインダクタンス素子のみでも構わない。その場合、インダクタンス素子と螺旋状導体7とを直接結合させてもよいし、絶縁して配置してもよい。インダクタンス素子は無線ICチップと螺旋状導体とのインピーダンス整合機能を持っている。また、給電回路基板4内にパターンとしてインダクタンス素子のみを設ける場合でも、そのインダクタンスと浮遊容量のキャパシタンスとによる自己共振を利用してもよい。
【0046】
このようにして給電回路基板4によって無線ICチップ5と螺旋状導体7との間のインピーダンス整合を図るとともに、螺旋状導体7が放射体として作用するための共振周波数を所望の値に設定する。このとき螺旋状導体7の形状やサイズを考慮して共振周波数を設定しても構わない。その場合、無線ICデバイスの放射特性を向上させることができる。
【0047】
給電回路基板4上に前記無線ICチップ5を搭載してなる無線ICデバイス1は、図示しないリーダライタから放射される高周波信号(例えばUHF周波数帯)を螺旋状導体7で受信し、給電回路基板4内の共振回路を共振させ、所定の周波数帯の受信信号のみを無線ICチップ5に供給する。一方、この受信信号から所定のエネルギーを取り出し、このエネルギーを駆動源として無線ICチップ5にメモリされている情報を、共振回路にて所定の周波数に整合させた後、螺旋状導体7に伝え、該螺旋状導体7からリーダライタに送信・転送する。
【0048】
給電回路基板4においては、インダクタンス素子L1,L2,L3とキャパシタンス素子C1,C2で構成された共振回路にて共振周波数が決定される。螺旋状導体7から放射される信号の周波数は、共振回路の自己共振周波数によって実質的に決まる。
【0049】
このように無線ICデバイスを構成することによって、螺旋状導体7からなる放射体の内部またはその近傍に電磁界分布の密な部分を作ることができ、小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0050】
また、電磁結合モジュールの2つの結合部が放射体の所定距離離れた2箇所に対して結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが誘導性になるため、電磁結合モジュールの結合部が容量性である場合に整合がとりやすくなる。
【0051】
また、給電回路基板を、複数の電極層を備えた多層基板で構成することにより、整合回路の占有面積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0052】
また、電磁結合モジュールが螺旋状導体からなる放射体から直流的に絶縁されるので、無線ICチップが静電破壊されることなく、静電気に対する耐性を高めることができる。
【0053】
図6は図2に示した無線ICデバイスを導体板に実装した状態を示す斜視図である。導体板20は所定範囲に広がる金属板であり、この例ではそのほぼ中央に無線ICデバイス10を取り付けている。導体板20と図2に示した螺旋状導体7とは電気的に導通させる必要はなく、モールド樹脂9によりモールドされたまま導体板20の上面に貼着する。
【0054】
図2に示した螺旋状導体7は給電用導体8a,8bを介して給電されるヘリカルアンテナとして作用するので、螺旋状導体7の内部を通過し且つ外側を回るループを描く磁界が発生し、この磁界が導体板20に対して垂直に通過することによって導体板20の面内方向に電界が誘起され、この導体板20もアンテナの放射体として作用する。この導体板20は無線ICデバイス10より拡がる広い面積を有するので無線ICデバイス10単体の場合より放射利得を大幅に高めることができる。
【0055】
《第2の実施形態》
図7は第2の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。図2に示した無線ICデバイスと異なるのは、螺旋状導体7の形状と、それに対する電磁結合モジュール1の向きである。この無線ICデバイス11は給電回路基板4に無線ICチップ5を実装してなる電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、およびこの螺旋状導体7に対して給電するための給電用導体8a,8bを備えている。螺旋状導体7および給電用導体8a,8bはモールド樹脂9によって樹脂モールドされている。電磁結合モジュール1はモールド樹脂9の図における上面に貼着することによって、給電用導体8a,8bの頂面に対向して容量結合する。
【0056】
このように螺旋状導体7は、その中心軸方向を見た平面図で円形となるように文字通り螺旋状をなしていてもよい。また螺旋状導体7に対する給電用導体8a,8bの引き出し方向は、この図7に示すように螺旋状導体の中心軸方向に沿った方向であってもよい。
【0057】
《第3の実施形態》
図8は第3の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。この無線ICデバイス12は電磁結合モジュール1、螺旋状導体7a,7b、および給電用導体8a,8bを備えている。この例では螺旋状導体として2つの螺旋状導体7a,7bからなり、両者は非連続である。但し螺旋の向きは等しい。
【0058】
このような構成であっても螺旋状導体7a,7bは放射体として作用し、高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0059】
このように、分離された2つの放射体に対して電磁結合モジュール(電磁結合モジュール)の2つの結合部が結合することによって、その2つの結合部から螺旋状の導体を見たインピーダンスが容量性になるため、電磁結合モジュールの結合部が誘導性である場合に整合がとりやすくなる。
【0060】
なお、図2に示したように螺旋状導体7a,7bおよび給電用導体8a,8bの周囲をモールド樹脂で樹脂モールドしてもよい。
【0061】
《第4の実施形態》
図9は第4の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。図8に示したものと異なるのは、2つの螺旋状導体7a,7bの中心軸の向きが互いに異なっていることである。その他の構成は図8に示したものと同様である。このように2つの螺旋状導体7a,7bの中心軸を異なる向きに配置することによって、指向性の設定が容易となる。すなわち螺旋状導体7aによる指向特性と螺旋状導体7bによる指向特性とがそれぞれ有効であるのでその合成により、ほぼ無指向性を得ることができる。
【0062】
なお、図2に示したものと同様に、螺旋状導体7a,7bおよび給電用導体8a,8bを含む範囲を樹脂モールドしてもよい。
【0063】
《第5の実施形態》
第5の実施形態に係る無線ICデバイスについて図10〜図12を参照して説明する。
図10(A)は第5の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図、図10(B)はその透視斜視図である。この無線ICデバイス14は、図10(A)に示すようにアンテナモジュール21とそれに貼着した無線ICチップ5とから構成している。
【0064】
アンテナモジュール21は図10(B)に示すように、螺旋状導体7と、この螺旋状導体7と無線ICチップ5との間のインピーダンス整合および共振周波数の設定等を行う給電回路部6とを備えている。
【0065】
図11は図10に示した無線ICデバイスの分解斜視図である。給電回路部6は、無線ICチップ実装用ランド35〜35dと、インダクタ電極42a〜42d,43a〜43e,44a〜44eとから構成している。この給電回路部6の等価回路は、図5に示した回路においてキャパシタC1,C2の無い回路に等しい。すなわちインダクタL1,L2,L3からなるT型回路の一方の2端子は無線ICチップ実装用ランド35a,35bに導通し、他方の2端子は螺旋状導体7の所定距離離れた2箇所に導通している。
【0066】
但し第1〜第4の実施形態の場合とは異なり、無線ICチップ5は、螺旋状導体7と直接接続される。なお、インダクタL1,L2,L3の電極間には浮遊容量が発生し、その浮遊容量とインダクタとで給電回路部6は無線ICチップ5と螺旋状導体7との間のインピーダンス整合をとるとともに螺旋状導体7の共振周波数を無線ICデバイスで用いる周波数に調整する。
【0067】
なお、この実施形態では、給電回路部6と螺旋状導体7とを直接接続したが、第1の実施形態のようにインダクタ電極42dと螺旋状導体7との間にキャパシタ電極を配置しても構わない。
【0068】
上記給電回路部6および螺旋状導体7は、共に多層基板に構成している。すなわち、各層に電極パターンを形成した誘電体層を積層し、焼成することによってアンテナモジュール21を構成している。
【0069】
このように、放射体を多層基板で構成することにより、さらにはそれとともに給電回路部を多層基板で構成することにより、放射体の占有面積および体積を小さくすることができ、無線ICデバイスの小型化が図れる。
【0070】
また、無線ICチップが螺旋状導体からなる放射体から直流的に絶縁された場合、無線ICチップが静電破壊されることなく、静電気に対する耐性を高めることができる。
【0071】
図12はこの第5の実施形態に係る無線ICデバイスを導体板に取り付けた例を示す斜視図である。導体板20は所定範囲に広がる金属板、または金属膜を備えたシートや板であり、この例では無線ICデバイス14をその端部付近に貼着している。
【0072】
《第6の実施形態》
図13(A)は第6の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図、図13(B)はその透視斜視図である。この無線ICデバイス15は図13(A)に示すようにアンテナモジュール21とそれに貼着した無線ICチップ5とから構成している。
【0073】
アンテナモジュール21は図13(B)に示すように、螺旋状導体7と、この螺旋状導体7と無線ICチップ5との間のインピーダンス整合および共振周波数の設定等を行う給電回路部6とを備え、それらをモールド樹脂9でモールドしている。
【0074】
無線ICチップ5および給電回路部6の構成は第5の実施形態の場合と同様である。第5の実施形態と異なるのは、螺旋状導体7の形状が、その中心軸方向を見た平面図で円形となるような螺旋状であることと、螺旋状導体7に対する給電回路部6の面方向のなす向きが螺旋状導体の中心軸に対し垂直であることである。
このような構成であっても小型で広帯域且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0075】
なお、図13に示した無線ICデバイス15を、所定範囲に広がる金属板または金属膜を備えたシートや板からなる導体板に対して、図13に示した状態で底面が導体板に対面するように配置すれば、螺旋状導体7により生じる磁束が導体面に対して垂直に通るので導体板との結合が効率良く行われ、高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0076】
《第7の実施形態》
図14は第7の実施形態に係る2つの無線ICデバイスの斜視図である。
この無線ICデバイス16,17はいずれも電磁結合モジュール1、螺旋状導体7、および給電用導体8a,8bで構成している。電磁結合モジュール1は給電回路基板4とそれに搭載した無線ICチップ5とで構成している。
【0077】
電磁結合モジュール1は、給電回路基板4と無線ICチップ5とで構成している。図2に示したものと異なり、この給電回路基板4は電極パターンを表面に形成したフレキシブル基板で構成している。このフレキシブル基板にはPETフィルムを用いることができる。
【0078】
図14(A)の例ではフレキシブル基板の上面に、無線ICチップと導通する2つのキャパシタ電極を形成している。このキャパシタ電極は給電用導体8a,8bとの間に容量を形成し、容量結合する。
【0079】
図14(A)の構造の給電回路基板4では、給電用導体8a,8bとキャパシタ電極との間のキャパシタンスと、キャパシタ電極のインダクタンスとで無線ICチップ5と螺旋状導体7とのインピーダンス整合を行っている。
【0080】
図14(B)の例ではフレキシブル基板の上面に、無線ICチップと導通する2つのインダクタ電極を形成している。このインダクタ電極は給電用導体8a,8bと電磁界結合する。
【0081】
いずれの構成でも、給電回路基板を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成することによって、電極形成回数が少なくなるので全体に安価に構成できる。また全体に薄型化できる。
【0082】
《第8の実施形態》
図15(A)は無線ICデバイスを備えた携帯電話端末の斜視図、(B)は内部の回路基板の主要部の断面図である。携帯電話端末内の回路基板31には電子部品33,34とともに、無線ICチップ5とアンテナモジュール21とからなる無線ICデバイス18を取り付けている。回路基板31の上面には所定面積に広がる電極パターン32を形成している。この電極パターン32はアンテナモジュール21内の螺旋状導体と結合して放射体として作用する。そのため、無指向性で且つ高利得な無線ICデバイスが得られる。
【0083】
このように、電子機器内の回路基板に形成された電極パターンを、放射体として作用する導体として利用することによって、電子機器に備える回路基板をそのまま利用でき、且つ電磁結合モジュールおよび導体の実装が容易となる。
【0084】
また、その他の例として、図15(A)に示した携帯電話端末の内部で液晶パネルの背面に設けられている金属パネルに無線ICデバイスを貼付して、その金属パネルをアンテナの放射体として作用させるようにしてもよい。これにより、電子機器内に設けられるコンポーネントをそのまま利用することができ、大型化・コストアップすることもない。
【0085】
なお、各実施形態で示した無線ICデバイスに備える螺旋状導体はヘリカルアンテナとして作用させることができるので、無線ICデバイス用途以外での通信用アンテナとして用いてもよい。例えば円偏波の電磁波を受信するGPSアンテナとして用いるようにしてもよい。その場合、螺旋状導体の所定距離離れた2箇所に対して別途他の通信システム用の電磁結合モジュールを結合するように設けることで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】特許文献1に示されている無線ICデバイスの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。
【図3】同無線ICデバイスの分解斜視図である。
【図4】同無線ICデバイスの給電回路基板の構成および無線ICチップとの関係を示す分解斜視図である。
【図5】給電回路基板の等価回路図である。
【図6】導体板に対する無線ICデバイスの実装状態を示す斜視図である。
【図7】第2の実施形態に係る無線ICデバイスの透視斜視図である。
【図8】第3の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図9】第4の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図10】第5の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図および透視斜視図である。
【図11】同無線ICデバイスの分解斜視図である。
【図12】同無線ICデバイスを導体板に取り付けた例を示す斜視図である。
【図13】第6の実施形態に係る無線ICデバイスの外観斜視図および透視斜視図である。
【図14】第7の実施形態に係る無線ICデバイスの斜視図である。
【図15】第8の実施形態に係る無線ICデバイスを備えた携帯電話端末の斜視図および内部の回路基板の主要部の断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1…電磁結合モジュール
4…給電回路基板
5…無線ICチップ
6…給電回路部
7…螺旋状導体
8a,8b…給電用導体
9…モールド樹脂
10〜18…無線ICデバイス
20…導体板
21…アンテナモジュール
31…回路基板
32…電極パターン
33,34…電子部品
35a〜35d…無線ICチップ実装用ランド
36a,36b…キャパシタ電極
41A〜41H…誘電体層
42〜44…インダクタ電極
51,52…キャパシタ電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ICチップと、インダクタンス素子を含み、前記無線ICチップに導通するとともに外部回路に結合する給電回路基板とからなる電磁結合モジュールと、
前記電磁結合モジュールを搭載するとともに当該電磁結合モジュールと結合する螺旋状の導体からなる放射体と、
を備えたことを特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記給電回路基板内に共振回路を備えた請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記給電回路基板内に整合回路を備えた請求項1または2に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記放射体の所定距離離れた2箇所に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させた請求項1〜3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記放射体は分離された2つの放射体からなり、それぞれの放射体に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させた請求項1〜3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記2つの放射体の、それぞれの螺旋の中心軸を異なる向きに配置した請求項5に記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記放射体を所定範囲に広がる導体表面または導体表面の近傍に配置した請求項1〜6のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記導体は電子機器内の回路基板に形成された電極パターンである請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記導体は電子機器内のコンポーネントに設けられた金属板である請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
前記給電回路基板を、複数の電極層を備えた多層基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項11】
前記給電回路基板を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項12】
前記放射体を、複数の電極層を備えた多層基板で構成した請求項1〜11のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項13】
前記給電回路基板および前記放射体を、複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項14】
前記複数の放射体に複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させた請求項1〜13のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項1】
無線ICチップと、インダクタンス素子を含み、前記無線ICチップに導通するとともに外部回路に結合する給電回路基板とからなる電磁結合モジュールと、
前記電磁結合モジュールを搭載するとともに当該電磁結合モジュールと結合する螺旋状の導体からなる放射体と、
を備えたことを特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記給電回路基板内に共振回路を備えた請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記給電回路基板内に整合回路を備えた請求項1または2に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記放射体の所定距離離れた2箇所に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させた請求項1〜3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記放射体は分離された2つの放射体からなり、それぞれの放射体に対して前記電磁結合モジュールの2つの結合部を結合させた請求項1〜3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記2つの放射体の、それぞれの螺旋の中心軸を異なる向きに配置した請求項5に記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記放射体を所定範囲に広がる導体表面または導体表面の近傍に配置した請求項1〜6のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記導体は電子機器内の回路基板に形成された電極パターンである請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記導体は電子機器内のコンポーネントに設けられた金属板である請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
前記給電回路基板を、複数の電極層を備えた多層基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項11】
前記給電回路基板を、電極パターンを形成したフレキシブル基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項12】
前記放射体を、複数の電極層を備えた多層基板で構成した請求項1〜11のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項13】
前記給電回路基板および前記放射体を、複数の電極層を備えた1つの多層基板で構成した請求項1〜9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項14】
前記複数の放射体に複数の異なる通信システム用の電磁結合モジュールを結合させた請求項1〜13のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−20835(P2009−20835A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184830(P2007−184830)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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