説明

焦電型赤外線撮像素子の製造方法および焦電型赤外線撮像素子

【課題】センサ部から電荷転送素子部への熱拡散を最小限に抑える。
【解決手段】焦電センサのセンサ部10Bと電荷転送素子部20とを、それらの間にシリコン犠牲層16を挟み込んで一体とした状態で、センサ部10Bを画素単位でパターニング加工し、センサ部10Bの電極層13と電荷転送素子部20の入力電極22とを接続する引き出し電極30等を形成したのち、最終工程でシリコン犠牲層16を除去して、センサ部10Bと電荷転送素子部20との間に空隙層を形成して熱的に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電センサおよび電荷転送素子部より構成される焦電型赤外線撮像素子の製造方法に関し、さらに詳しく言えば、焦電センサから電荷転送素子部への熱拡散を可及的に小さく抑えて感度を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焦電型赤外線撮像素子は、基本的な構成として、受光素子としての焦電センサと、焦電センサからの出力信号が入力される電荷転送素子部とを備え、例えば人体等を検出する侵入警戒器や電子レンジの調理モニタ等、多くの分野に利用されている。
【0003】
焦電センサのセンサ部には、強誘電体の両面に第1電極層と第2電極層とを配置してなる積層体が用いられる。電荷転送素子部は、例えばシリコン基材の表面にダイオードからなる複数の入力電極を備え、その各入力電極に上記いずれか一方の電極層が電気的に接続される。
【0004】
被測定対象から第1電極層に赤外線が照射されると、強誘電体は分極して第1電極層と第2電極層との間に電圧を発生させる。発生した電圧(出力信号)は、電荷転送素子部の入力電極に与えられ、電荷転送素子部から制御部等に転送されて所定に処理される。これにより、被測定対象の温度情報を非接触で検出することができる。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されている焦電型赤外線撮像素子においては、図10に示すように、強誘電体である焦電薄膜2を、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)もしくはPLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)等のセラミック系の金属材製とし、焦電薄膜2の受光面側にNiCrよりなる受光電極薄膜13を形成するとともに、焦電薄膜2の他方の面に同じくNiCrよりなる第1電極薄膜群3を2次元的に形成している。
【0006】
そして、焦電薄膜2の第1電極薄膜群3側に有機薄膜4を積層して、有機薄膜4上に第1電極薄膜群3に対応するNiCrよりなる第2電極薄膜群6を形成したのち、有機薄膜4にコンタクトホール5を設け、コンタクトホール5内に取り出し電極7を形成して、第1電極薄膜群3と第2電極薄膜群6とを導通させる。
【0007】
このようにして、焦電センサのセンサ部を構成したのち、電荷転送素子部9を焦電センサの上に配置し、電荷転送素子部9に設けられている入力電極としての入力ダイオード10と第2電極薄膜群6とを金(Au)バンプ8にて電気的に接続するようにしている。
【0008】
これによれば、焦電センサと電荷転送素子部との間に空隙が存在するため、焦電センサから電荷転送素子部に熱がある程度伝わりにくくなるが、なおも解決すべき問題点が残されている。
【0009】
すなわち、電気接続導体として用いられている金バンプは熱伝導率が高いため、金バンプを介して電荷転送素子部に熱が伝わりやすい。また、金バンプは製造上高さを高くできないため、それによって形成される空隙も薄層でしかなく、依然として焦電センサから電荷転送素子部への熱拡散が生じ、これが原因で感度が低下する。
【0010】
また、焦電センサのセンサ部の基材と電荷転送素子部の基材は、異種材料としていることから、特に製造プロセスにおいて、その熱膨張率の違いによる接合不良やクラックが発生する等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−21224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、焦電センサから電荷転送素子部への熱拡散を可及的に小さく抑えて感度の向上に寄与するとともに、製造プロセスでの歩留まりをよくして生産性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、焦電センサと、基材の表面に上記焦電センサからの出力信号が入力される入力電極が複数形成されている電荷転送素子部とを備える焦電型赤外線撮像素子の製造方法において、センサ基板の一方の面に絶縁層を介して第1電極層,強誘電体層および第2電極層をこの順序で積層してなる上記焦電センサのマザーセンサ部を形成し、上記マザーセンサ部の上記第2電極層上にシリコン犠牲層および接着剤層を順次形成して積層体を作成する第1工程と、上記接着剤を介して上記積層体と上記電荷転送素子部とを接合する第2工程と、上記積層体から上記センサ基板と上記絶縁層とを除去して上記マザーセンサ部の上記第1電極層を露出させる第3工程と、上記マザーセンサ部を上記焦電センサに含まれる画素単位のセンサ部に分割する第4工程と、電気絶縁性の保護樹脂にて上記各センサ部の表面を覆い、かつ、上記各センサ部間の隙間を埋める第5工程と、上記各センサ部ごとに、上記保護樹脂の表面から上記第1電極層に至る第1コンタクトホールと、上記保護樹脂の表面から上記センサ部間の上記保護樹脂,上記シリコン犠牲層および上記接着剤層を貫通して上記電荷転送素子部の上記入力電極に至る第2コンタクトホールとを形成する第6工程と、上記第1コンタクトホールおよび上記第2コンタクトホールを介して上記第1電極層と上記入力電極とを電気的に導通する引き出し電極を形成する第7工程と、上記シリコン犠牲層を除去して、上記各センサ部と上記電荷転送素子部との間に空隙を設ける第8工程とを行い、上記各センサ部と上記電荷転送素子部とを、それらの間に上記空隙を存在させた状態で上記引き出し電極を介して電気的に接続することを特徴としている。
【0014】
上記第2工程の前工程で、あらかじめ上記電荷転送素子部の上記各入力電極の周りに電気絶縁性の保護膜を形成することが好ましい。
【0015】
上記第3工程において、上記センサ基板と上記絶縁層の除去を研磨,ガスエッチングまたはアルカリ液エッチングのいずれかの方法で行うことができる。
【0016】
上記第8工程において、上記シリコン犠牲層の除去をガスエッチングまたはアルカリ液エッチングのいずれかの方法で行うことができる。
【0017】
上記引き出し電極は、好ましくはアルミニウム材より形成される。また、上記センサ基板および上記電荷転送素子部の基材をともにシリコン材で形成することが好ましい。
【0018】
本発明には、上記焦電型赤外線撮像素子の製造方法によって製造された焦電型赤外線撮像素子も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シリコン犠牲層を除去することにより、焦電センサと電荷転送素子部との間に空隙が形成されるため、その空隙幅をより大きくすることができ、また、引き出し電極の経路長も長くとれるため、焦電センサから電荷転送素子部への熱拡散を可及的に小さく抑えることができる。
【0020】
また、製造プロセスの最終段階までシリコン犠牲層が存在し、その間は中空構造が形成されないため、中間製品(仕掛かり品)は十分な機械的強度を有する状態で加工が行われることから、製品歩留まり率を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1工程を説明するための模式図。
【図2】本発明の第2工程を説明するための模式図。
【図3】図2と同様の模式図。
【図4】本発明の第3工程を説明するための模式図。
【図5】本発明の第4工程を説明するための模式図。
【図6】本発明の第5工程を説明するための模式図。
【図7】本発明の第6工程を説明するための模式図。
【図8】本発明の第7工程を説明するための模式図。
【図9】本発明の第8工程を説明するための模式図。
【図10】従来技術による焦電型赤外線撮像素子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図1〜図9を参照して、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
図1を参照して、まず、シリコンまたは酸化マグネシウム等(好ましくはシリコン)からなるセンサ基板11の一方の面に、絶縁膜12を形成する。絶縁膜12は酸化皮膜であってよい。
【0024】
そして、絶縁膜12の上にスパッタリング蒸着法等により、第1電極層13,強誘電体層14および第2電極層15をこの順序で積層して焦電センサのマザーセンサ部10Aを形成する。なお、この実施形態において、最終的には第1電極層13が受光面側となる。
【0025】
次に、第2電極層15上にシリコン犠牲層16を形成し、さらにシリコン犠牲層16上にスピンナー等で接着剤層17を形成して、焦電センサ側部品としての積層体1Aを作成する(第1工程)。
【0026】
なお、強誘電体層14には、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)またはPLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)等のセラミック系の金属材が好ましく用いられる。また、第1電極層13と第2電極層15には、強誘電体層14と反応して共晶を形成しにくい白金,アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,SRO(ストロンチウムルテニウムオキサイド)等の金属材が好ましく用いられる。
【0027】
次に、図2および図3に示すように、積層体1Aと電荷転送素子部20とを接合して積層体1Bを得る。電荷転送素子部20は、例えばシリコン基材21の表面にダイオードからなる複数の入力電極22が2次元的に形成されたLSIである。接合は、積層体1Aの接着剤層17を電荷転送素子部20の入力電極形成面に対向させてプレスで熱圧着することにより行う(第2工程)。
【0028】
なお、第2工程で電荷転送素子部20に積層体1Aを接合する前に、入力電極22を保護するため、各入力電極22の周りに例えば窒化膜(Si)等の保護膜23を形成することが好ましい。
【0029】
次に、図4に示すように、積層体1Bからセンサ基板11と絶縁膜12とを完全に除去して、第1電極層13が露出した積層体1Cを得る(第3工程)。除去方法は、研磨,ガスエッチングもしくはアルカリ液エッチング等のいずれかであってよい。
【0030】
次に、図5に示すように、マザーセンサ部10Aを例えばフォトリソグラフィ手法等により独立した画素単位ごとのセンサ部10Bに分割する(第4工程)。なお、詳しくは図示しないが、各センサ部10Bの第2電極層15同士は電気的に接続されている。
【0031】
次に、図6に示すように、窒化シリコン(Si)等の電気絶縁性の保護樹脂18により、各センサ部10Bの表面を覆うとともに、各センサ部10B間の隙間を埋める(第5工程)。
【0032】
その後、図7に示すように、保護樹脂18の表面から第1電極層13に至る第1コンタクトホール19aと、保護樹脂18の表面から各センサ部10B間の保護樹脂18,シリコン犠牲層16および接着剤17を介して入力電極22に至る第2コンタクトホール19bとを各センサ部10Bごとに形成する(第6工程)。
【0033】
次に、図8に示すように、第1コンタクトホール19aおよび第2コンタクトホール19bを介して第1電極層13と入力電極22とを電気的に導通する引き出し電極30を形成する(第7工程)。引き出し電極30には、アルミニウム材が好ましく採用される。各センサ部10Bの第2電極層15は、図示しないリード配線により電荷電送素子部20のグランドに接続される。
【0034】
そして、必要に応じて、ダイシングにより所定の画素数を含む大きさにチップ化したのち、図9に示すように、シリコン犠牲層16をガスエッチングまたはアルカリ液エッチングのいずれかの方法により全面除去して、センサ部10Bと電荷転送素子部20との間に空隙層を形成する(第8工程)。その後、好ましくは接着剤17を除去する。
【0035】
本発明によれば、焦電センサのセンサ部10Bと電荷転送素子部20との間に、シリコン犠牲層16の層厚に相当する空隙が形成されるため、その空隙幅を従来のバンプ材によるものと比べてより大きくすることができ、これにより焦電センサのセンサ部10Bと電荷転送素子部20とを良好に熱的に分離することができる。
【0036】
また、引き出し電極30の経路長も長くとれるため、引き出し電極30を伝わって熱が移動する間で熱の多くが放散されるため、焦電センサのセンサ部10Bから電荷転送素子部20への熱伝導をより小さく抑えることができる。
【0037】
加えて、引き出し電極30を比較的熱伝導率の低いアルミニウム材とすることにより、焦電センサのセンサ部10Bから電荷転送素子部20への熱伝導をより効果的に小さくすることができる。
【0038】
また、従来のバンプ方式よりも画素パターンを微細化することができるため、焦電センサのセンサ部10Bをより高密度にすることが可能となる。
【0039】
また、センサ基板11と電荷転送素子部の基材21を同じ材質(好ましくはシリコン基材)とすることにより、例えば2工程での熱圧着時において、熱膨張率の差に起因する接合不良やクラックの発生を効果的に抑えることができる。
【0040】
また、製造プロセスの最終段階までシリコン犠牲層16が存在し、その間は中空構造が形成されないため、中間製品(仕掛かり品)は十分な機械的強度を有する状態で加工が行われることから、製品歩留まり率を大幅に高めることができる。
【符号の説明】
【0041】
10A マザーセンサ部
10B センサ部
11 基板
12 絶縁膜
13 第1電極層
14 強誘電体層
15 第2電極層
16 シリコン犠牲層
17 接着剤
18 保護樹脂
19a 第1コンタクトホール
19b 第2コンタクトホール
20 電荷転送素子部
21 基材
22 入力電極
23 保護膜
30 引き出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦電センサと、基材の表面に上記焦電センサからの出力信号が入力される入力電極が複数形成されている電荷転送素子部とを備える焦電型赤外線撮像素子の製造方法において、
センサ基板の一方の面に絶縁層を介して第1電極層,強誘電体層および第2電極層をこの順序で積層してなる上記焦電センサのマザーセンサ部を形成し、上記マザーセンサ部の上記第2電極層上にシリコン犠牲層および接着剤層を順次形成して積層体を作成する第1工程と、
上記接着剤を介して上記積層体と上記電荷転送素子部とを接合する第2工程と、
上記積層体から上記センサ基板と上記絶縁層とを除去して上記マザーセンサ部の上記第1電極層を露出させる第3工程と、
上記マザーセンサ部を上記焦電センサに含まれる画素単位のセンサ部に分割する第4工程と、
電気絶縁性の保護樹脂にて上記各センサ部の表面を覆い、かつ、上記各センサ部間の隙間を埋める第5工程と、
上記各センサ部ごとに、上記保護樹脂の表面から上記第1電極層に至る第1コンタクトホールと、上記保護樹脂の表面から上記センサ部間の上記保護樹脂,上記シリコン犠牲層および上記接着剤層を貫通して上記電荷転送素子部の上記入力電極に至る第2コンタクトホールとを形成する第6工程と、
上記第1コンタクトホールおよび上記第2コンタクトホールを介して上記第1電極層と上記入力電極とを電気的に導通する引き出し電極を形成する第7工程と、
上記シリコン犠牲層を除去して、上記各センサ部と上記電荷転送素子部との間に空隙を設ける第8工程とを行い、
上記各センサ部と上記電荷転送素子部とを、それらの間に上記空隙を存在させた状態で上記引き出し電極を介して電気的に接続することを特徴とする焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項2】
上記第2工程の前工程で、あらかじめ上記電荷転送素子部の上記各入力電極の周りに電気絶縁性の保護膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項3】
上記第3工程において、上記センサ基板と上記絶縁層の除去を研磨,ガスエッチングまたはアルカリ液エッチングのいずれかの方法で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項4】
上記第8工程において、上記シリコン犠牲層の除去をガスエッチングまたはアルカリ液エッチングのいずれかの方法で行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項5】
上記引き出し電極をアルミニウム材より形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項6】
上記センサ基板および上記電荷転送素子部の基材をともにシリコン材で形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の焦電型赤外線撮像素子の製造方法によって製造された焦電型赤外線撮像素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−249676(P2010−249676A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99727(P2009−99727)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】