説明

熱アシスト磁気ヘッド

【課題】導波路および半導体レーザ素子を高精度に位置決めする必要のない熱アシスト磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】熱アシスト磁気ヘッド21は、スライダ22と光源ユニット23とを備えている。光源ユニット23は、半導体レーザダイオード40を備えている。半導体レーザダイオード40は、n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層およびp型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層と、これらのクラッド層に挟まれたn側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層およびp側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層と、これらのガイド層に挟まれた活性層とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱アシスト磁気記録方式により信号の書き込みを行う熱アシスト磁気ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッドのさらなる性能の向上が要求されている。薄膜磁気ヘッドの一例は複合型薄膜磁気ヘッドであり、広く用いられている。複合型薄膜磁気ヘッドは、磁気抵抗(MR)効果素子等の磁気検出素子と、電磁コイル素子等の磁気記録素子とを積層した構造を有している。磁気検出素子および磁気記録素子によって、磁気記録媒体である磁気ディスクにデータ信号が読み書きされる。
【0003】
一般に、磁気記録媒体は、磁性微粒子が集合した不連続体であり、それぞれの磁性微粒子は単磁区構造をとる。1つの記録ビットは、複数の磁性微粒子から構成されている。従って、記録密度を高めるためには、磁性微粒子を小さくして、記録ビットの境界の凹凸を減少させなければならない。しかし、磁性微粒子を小さくすると、体積減少に伴う磁化の熱安定性の低下が問題となる。
【0004】
磁化の熱安定性の目安は、KU・V/kB・Tで与えられる。ここで、KUは磁性微粒子の磁気異方性エネルギー、Vは1つの磁性微粒子の体積、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度である。磁性微粒子の体積Vを小さくすれば、KUV/kBTが小さくなって熱安定性が損なわれる。この問題への対策として、同時に磁気異方性エネルギーKUを大きくすることが考えられるが、このKUの増加は、記録媒体の保磁力の増加をもたらす。これに対して、磁気ヘッドによる書き込み磁界強度は、ヘッド内の磁極を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度でほぼ決定されてしまう。従って、保磁力が、この書き込み磁界強度の限界から決まる許容値を超えると書き込みが不可能となってしまう。
【0005】
このような磁化の熱安定性の問題を解決する方法として、磁気異方性エネルギーKUの大きな磁性材料を用いる一方で、書き込み磁界印加の直前に記録媒体に熱を加えることによって、保磁力を小さくして書き込みを行う、いわゆる熱アシスト磁気記録方式が提案されている。この方式は、磁気ドミネント記録方式と光ドミネント記録方式とに大別される。磁気ドミネント記録方式においては、書き込みの主体は電磁コイル素子であり、光の放射径はトラック幅(記録幅)に比べて大きくなっている。一方、光ドミネント記録方式においては、書き込みの主体は光放射部であり、光の放射径はトラック幅(記録幅)とほぼ同じとなっている。すなわち、磁気ドミネント記録方式は、空間分解能を磁界に持たせているのに対し、光ドミネント記録方式は、空間分解能を光に持たせている。
【0006】
このような熱アシスト磁気ヘッド記録装置として、特許文献1〜7および非特許文献1には、磁界を発生する磁気記録素子を備えたスライダとは離れた位置に半導体レーザ等の光源を設け、この光源からの光を光ファイバやレンズ等を介してスライダの媒体対向面まで導く構造が開示されている。
また、特許文献8〜11および非特許文献2には、スライダの側面に磁気記録素子と光源とを集積した熱アシスト磁気ヘッドや、スライダの媒体対向面に磁気記録素子と光源とを集積した熱アシスト磁気ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO92/02931号パンフレット(特表平6−500194号公報)
【特許文献2】国際公開WO98/09284号パンフレット(特表2002−511176号公報)
【特許文献3】特開平10−162444号公報
【特許文献4】国際公開WO99/53482号パンフレット(特表2002−512725号公報)
【特許文献5】特開2000−173093号公報
【特許文献6】特開2002−298302号公報
【特許文献7】特開2001−255254号公報
【特許文献8】特開2001−283404号公報
【特許文献9】特開2001−325756号公報
【特許文献10】特開2004−158067号公報
【特許文献11】特開2004−303299号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Shintaro Miyanishi他著 ”Near-field Assisted Magnetic Recording” IEEE TRANSACTIONS ONMAGNETICS、2005年、第41巻、第10号、p.2817−2821
【非特許文献2】庄野敬二、押木満雅著 「熱アシスト磁気記録の現状と課題」 日本応用磁気学会誌、2005年、第29巻、第1号、p.5−13
【非特許文献3】H.C.Casey Jr.,D.D.Sell,and M.B.Panish, “Refractive index of AlxGa1-xAs between 1.2 and 1.8 eV”, Applied Physics Letters, Vol.24,No.2,63-65 (1974)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、スライダから遠く離れた場所に光源を配置すると、光を導くために光ファイバ、レンズ、ミラー等を長い距離にわたって使用せざるを得ない。そのため、光の伝搬効率が大幅に低下するという問題や、装置全体の構造が複雑になるという問題が生じる。
また、スライダの側面に磁気記録素子に加えて光源を集積すると、磁気記録素子の歩留まりと光源の歩留まりとの相乗作用により、熱アシスト磁気ヘッドの歩留まりが大きく低下しやすい。
【0010】
例えば、光源の一例である半導体レーザダイオードチップにおいては、チップが受ける応力により、出力、レーザ光の広がり角、寿命等の特性が大きく変わる。したがって、チップを基板等にマウントした後にチップの特性試験を行う必要がある。その結果、ヘッド全体の製造歩留まりに対して、磁気ヘッド部分の歩留まりと半導体レーザダイオード部分の歩留まりとの両方が積算的に影響し、ヘッド全体の歩留まりが著しく低下してしまう。
【0011】
さらに、スライダの媒体対向面に磁気記録素子と光源とを集積した場合も上述と同様の歩留まりの問題が生ずる。その上、この方法では、従来磁気記録素子や磁気検出素子を形成していたスライダの側面とは異なる媒体対向面に磁気記録素子や磁気検出素子を形成することになる。そのため、従来の、例えば、垂直通電型巨大磁気抵抗(CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR(Giant Magneto Resistance))効果素子等の磁気検出素子や、垂直磁気記録用の電磁コイルを備えた磁気記録素子の製造方法の適用が困難である。したがって、十分な性能を備えた熱アシスト磁気ヘッドの製造が非常に困難となる。
【0012】
そこで、スライダの側面に磁気記録素子とともに導波路を形成し、スライダの近くに半導体レーザダイオードを配置し、この半導体レーザダイオードの出力光を導波路に導入するようにした熱アシスト磁気ヘッドが既に開発されている。半導体レーザダイオードは、その光出射端面が導波路の光入射端面に対向する状態で、スライダに取り付けられる。
しかしながら、このような熱アシスト磁気ヘッドに用いられる半導体レーザ素子の光出力はさほど大きくないため、半導体レーザダイオードと導波路との結合効率を高くしなければ、記録媒体を十分に加熱することができなくなる。そこで、導波路の光入射端面への光の入射角が0°となるように、半導体レーザダイオードおよび導波路を高精度に位置決めする必要がある。そのため、熱アシスト磁気ヘッドの組み立てに時間がかかり、生産効率が悪いという問題がある。
【0013】
この発明の目的は、導波路および半導体レーザ素子を高精度に位置決めする必要のない熱アシスト磁気ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の熱アシスト磁気ヘッドは、記録媒体に対向する磁気ヘッド部を有するスライダと、TMモードで発振し、媒体加熱用の光を発生する半導体レーザ素子と、前記磁気ヘッド部に設けられ、磁気記録用の磁界を発生する磁気記録素子と、前記磁気ヘッド部に設けられ、前記半導体レーザ素子の光出射端面に対向する光入射端面を有し、前記半導体レーザ素子からの光を前記記録媒体表面に導くための導波路とを含んでいる。
【0015】
前記半導体レーザ素子は、p型クラッド層およびn型クラッド層と、前記p型クラッド層およびn型クラッド層に挟まれたp側ガイド層およびn側ガイド層と、前記p側ガイド層およびn側ガイド層に挟まれ、少なくとも1つの量子井戸層を含む活性層とを備えている。前記p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなる。前記p側ガイド層およびn側ガイド層は、それぞれAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなり、前記量子井戸層は、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層(0≦x3≦1,0≦y≦0.3)からなる。そして、前記AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/4以下を満たす組成を有している。
【0016】
半導体レーザ素子の光出射端面から出射された光は、導波路にその光入射端面から導入され、導波路を通って、記録媒体表面に照射される。これにより、記録媒体表面が加熱される。
この半導体レーザ素子はTM(Tranverse Magnetic)モードで発振するので、当該半導体レーザ素子の出力光は光伝搬方向に対して電界方向が平行となるTM波となる。TM波では、光入射面への入射角の絶対値が0°より増加すると反射率が徐々に減少していき、所定値に達すると反射率が零となる。反射率が零になる入射角は、「ブリュースター角」と呼ばれる。入射角の絶対値が「ブリュースター角」に対応する値から90°までの間では、入射角の絶対値が増加するにしたがって反射率も増加する。そして、入射角の絶対値が90°のときに、反射率が最大となる。
【0017】
上記構成では、半導体レーザ素子はTMモードで発振するので、半導体レーザ素子の出力光がTM波となる。このため、導波路の光入射端面への光の入射角が0°から少しずれたとしても、光入射端面の反射率が減少するので、半導体レーザ素子と導波路との結合効率は低下しない。この結果、導波路および半導体レーザ素子を高精度で位置決めする必要がなくなる。これにより、半導体レーザ素子と導波路との結合効率を犠牲にすることなく、熱アシスト磁気ヘッドの生産効率を向上させることができるようになる。
【0018】
量子井戸層がAlGa(1−y)As(1−x3)x3層のように砒素系化合物半導体からなる半導体レーザ素子において、ガイド層をたとえば燐系化合物半導体であるInGaAlPによって形成したとすると、量子井戸層の屈折率とガイド層の屈折率との差が大きくなりすぎるおそれがある。そうすると、光閉じ込め効果が過度に大きくなるから、レーザ共振器端面部分での光密度が大きくなる。この結果、端面光学損傷(COD:Catastrophic Optical Damage)が起こりやすくなる。
【0019】
端面光学損傷とは、半導体レーザを高出力で動作させるために、注入電流を増加させていった場合に、自らの光出力によってレーザ共振器端面が破壊される現象をいう。端面光学損傷は、高出力化を制限する要因となっている。
端面の光学損傷は、次のようにして生ずる。半導体レーザの端面(劈開面)には、多くの界面準位が存在している。電子と正孔がこの界面準位を介して非発光再結合すると、再結合に伴って放出されるエネルギーは熱となる。半導体では、温度が上がるにしたがってそのエネルギーギャップは狭くなるので、放出された熱で暖められた端面のエネルギーギャップが狭くなる。半導体レーザの内部で電子と正孔とが再結合してできた誘導放出光は、端面のエネルギーギャップが狭いため、そこで吸収されて再び熱となり、さらに端面のエネルギーギャップを狭くする。この繰り返しにより、急速に端面が高温になり、溶融して発振が停止する。
【0020】
この発明の構成では、量子井戸層が砒素系化合物半導体であるAlGa(1−y)As(1−x3)x3層からなり、p側ガイド層およびn側ガイド層はそれぞれ砒素系化合物半導体であるAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなる。このため、燐系化合物半導体であるInGaAlPによってガイド層を形成する場合に比べて、ガイド層と量子井戸層との屈折率差を小さくすることができる。この結果、光閉じ込め効果が過度に大きくなるのを防止でき、レーザ共振器端面部分での光密度を低下させることができる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。この結果、導波路と半導体レーザ素子との結合効率が多少悪くても、導波路に導かれる光の出力を一定以上に保つことができる。したがって、導波路および半導体レーザ素子を高精度に位置決めする必要がなくなる。これにより、熱アシスト磁気ヘッドの生産効率を向上させることができる。
【0021】
さらに、p側ガイド層およびn側ガイド層を形成しているAlx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)層は、バンドギャップの調整幅が大きいため、出射ビームの設計が容易である。たとえば、横断面の縦横比が1に近い光ビーム、すなわち、横断面が円に近い光ビームを出力させることが可能となる。
また、前記構成では、量子井戸層は、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層(0≦x3≦1,0≦y≦0.3)からなる。AlGa(1−y)As(1−x3)x3は、量子井戸層として用いられる他の材料、たとえば、InGaPに比べて、バンドギャップが小さい。このため、クラッド層と活性層との間のバンドギャップ差を大きくすることができる。これにより、温度特性の良い、すなわち、温度が変化したときにしきい値電流や動作電流の変動が少ない半導体レーザ素子を備えた熱アシスト磁気ヘッドを実現することができる。
【0022】
また、この発明の構成では、前記AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/4以下を満たす組成を有している。この理由は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0023】
量子井戸層がAlGaAsP層からなる半導体レーザ素子においては、クラッド層はAlGaAs層で形成されるのが一般的である。この発明の構成では、量子井戸層が、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層で形成されているのに対し、クラッド層は(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層で形成されている。このため、クラッド層と活性層との間のバンドギャップ差を大きくすることができるから、半導体レーザ素子の温度特性を向上できる。また、次に詳しく説明するように、亜鉛を拡散させやすくなるため、半導体レーザ素子に端面窓構造を作製するのが容易となる。
【0024】
端面光学損傷(COD)を抑制するために、レーザ共振器端面部分に亜鉛などの不純物を拡散して、活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造を作製することが考えられる。このような端面窓構造を作製するために、亜鉛等の不純物を拡散する場合、不純物を拡散すべき領域が燐を含んでいれば拡散速度が速くなる。
前述したように、この発明の構成では、p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ燐を含む(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層からなる。したがって、亜鉛等の不純物を拡散させやすいので、端面窓構造の作製が容易である。これにより、高出力化に適した半導体レーザ素子を備えた熱アシスト磁気ヘッドを実現することができる。また、(Alx1Ga(1−x1))の組成に対するInの組成の比を、0.49/0.51としているので、p型クラッド層およびn型クラッド層は、GaAs基板と格子整合するため、高品質の結晶を得ることができる。この結果、信頼性の高い半導体レーザ素子を備えた熱アシスト磁気ヘッドが得られる。
【0025】
前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記Alx2Ga(1−x2)As層が、x2≧0.4を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、x2が0.4より小さいと、レーザ共振器端面部分に端面窓構造を作製したとしても、端面部分での活性層のバンドギャップを十分に拡大することができなくなるからである。
この点について、より詳しく説明する。レーザ共振器端面部分に端面窓構造を作製すると、端面部分での活性層のバンドギャップは、ガイド層のバンドギャップと量子井戸層のバンドギャップとの平均値となる。したがって、端面窓構造を作製することによって端面部分での活性層のバンドギャップを十分に拡大するためには、ガイド層のバンドギャップが所定値(具体的には、1.8eV)以上であることが必要となる。一方、ガイド層を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層のバンドギャップは、Alの組成X2が大きいほど、大きくなる。そして、Al組成x2を0.4以上とすることにより、ガイド層のバンドギャップを前記所定値以上とすることができる。
【0026】
半導体レーザ素子の実装空間に制限がある場合には、TMモード発振が要求されることもある。このような場合、前記半導体レーザ素子は、具体的には、前記AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/9以上1/4以下を満たす組成を有していることが好ましい。この構成により、活性層に引っ張り歪が生じることになり、TEモード(Tranverse Electric)よりもTM(Tranverse Magnetic)モードの比率(強度比)を高くすることができる。量子井戸層の格子定数が小さいほど、量子井戸層に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。量子井戸層を形成しているAlGa(1−y)As(1−x3)x3層の格子定数は、Asの組成に対するPの組成の比が大きいほど小さくなる。
【0027】
Asの組成に対するPの組成の比が1/9以上が好ましい理由は、その比が1/9未満では、量子井戸層に生じる引っ張り歪が不十分であるために、TEモードよりもTMモードの比率を大きくすることが困難であるからである。一方、Asの組成に対するPの組成の比が1/4以下が好ましい理由は、前述したように、その比が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0028】
TEモード発振が要求される場合には、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層のP組成を減らせばよい。その場合には、製造上はP組成を零にすることが好ましい。
また、寿命の観点からは量子井戸層はAlを含んでいない方が好ましい。つまり、寿命の観点からは、y=0であることが好ましい。
また、前記半導体レーザ素子は、具体的には、発振波長が770nm以上830nm以下であり、かつ前記量子井戸層の膜厚が9nm以上14nm以下であることが好ましい。半導体レーザ素子をTMモードで発振させるためには、活性層を厚くしてTEモードとTMモードの相対発振しきい値電流を小さくすればよいからである。前記量子井戸層のAlの組成(y)が0のときには、発振波長が770nm以上830nm以下の範囲でTMモードとなる。
【0029】
さらに、半導体レーザ素子の発振波長が770nm以上であることが好ましい理由は、発振波長が770nmより短いと導波路での光の吸収が大きくなるからである。半導体レーザ素子の発振波長が830nm以下であることが好ましい理由は、発振波長が830nmより長いと分子振動による光吸収が生じる上に、導波路のサイズが大きくなるからである。大きな導波路の製造には時間がかかるから、生産効率が悪くなる。
【0030】
また、前記半導体レーザ素子は、具体的には、レーザ共振器の端面部分に、前記活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造が形成されていることが好ましい。レーザ共振器の端面部分に端面窓構造が形成されると、その端面部分において、活性層のバンドギャップを拡大させることができる。このため、内部で電子と正孔が再結合してできた誘導放出光がレーザ共振器の端面部分で吸収されにくくなるから、発熱を抑制できる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。
【0031】
端面窓構造は、レーザ共振器の端面部分に例えばZnを選択的に拡散することによって形成することが、量産性の観点から好ましい。レーザ共振器の端面部分に別の材料(例えばクラッド層と同じ材料)を埋め込んだり、端面部分のみ活性層を薄くしたりする方法等を用いて、端面窓構造を形成してもよい。
この発明の一実施形態では、前記半導体レーザ素子の厚さ方向が前記導波路の厚さ方向に一致するように、前記導波路および前記半導体レーザ素子が配置されており、前記半導体レーザ素子の光出射端面における光ビームの横断面形状が、前記半導体レーザ素子の厚さ方向が短軸方向となる楕円形状である。半導体レーザ素子の出力光はTM波であるので、半導体レーザ素子の出力光は、光ビームの横断面形状の短軸方向に偏光した光となる。したがって、導波路の厚さが薄くても、導波路の厚さ方向に偏光した光を効率よく導波路に導入できる。
【0032】
前記半導体レーザ素子の光出射端面と前記導波路の光入射端面との間の距離が5μm以下であることが好ましい。半導体レーザ素子の光出射端面と前記導波路の光入射端面との間の距離が5μm以下であると、半導体レーザ素子の光出射端面と導波路の光入射端面との間の距離が短いため、導波路の光入射端面に入射される光ビームの形状は、半導体レーザ素子の光出射端面から出射される光ビームの形状と同様に半導体レーザ素子の厚さ方向が短軸方向となる楕円形状となるからである。
【0033】
前記半導体レーザ素子の出力光の前記導波路の光入射端面への入射角がブリュースター角となるように、前記導波路および前記半導体レーザ素子が配置されていてもよい。この構成によれば、半導体レーザ素子の出力光の導波路の光入射端面での反射率が零となるので、半導体レーザ素子と導波路との結合効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施形態に係る熱アシスト磁気ヘッドを備えたハードディスク装置の構成とHGA(ヘッドジンバルアセンブリ)の構成とを概略的に示す斜視図である。
【図2】HGAの先端部分を示す拡大斜視図である。
【図3】熱アシスト磁気ヘッドの構成を概略的に示す斜視図である。
【図4】熱アシスト磁気ヘッドの媒体対向面に垂直な断面図である。
【図5】媒体対向面から見た熱アシスト磁気ヘッドの概略図である。
【図6】熱アシスト磁気ヘッドの導波路および近接場光発生部を示す斜視図である。
【図7】半導体レーザダイオードの構成を説明するための平面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【図9】図7のIX−IX線に沿う断面図である。
【図10】半導体レーザダイオードの活性層の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図11】クラッド層、ガイド層および活性層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図であって、図11Aは本実施形態のバンドギャップを示すエネルギーバンド図であり、図11Bはガイド層がInGaAlPからなる場合のバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。
【図12】クラッド層、ガイド層および活性層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図であって、図12(a)は共振器端面部間の中央部の各層のバンドギャップを示すエネルギーバンド図であり、図12(b)は共振器端面部に形成された端面窓構造における各層のバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。
【図13】半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図14】半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図15】半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図16】半導体レーザダイオードの製造工程を示す断面図である。
【図17】半導体レーザダイオードの光出射端面近傍の光ビームの横断面形状を示す部分拡大断面図である。
【図18】TM波およびTE波それぞれの入射角に対する反射率の特性を説明するためのグラフである。
【図19】導波路の光入射端面への光の入射角がブリュースター角となるように、半導体レーザダイオードおよび導波路を配置した例を示す部分断面図である。
【図20】導波路および近接場光発生部の製造方法を説明するための工程図である。
【図21】熱アシスト磁気ヘッドの製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照してより詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る熱アシスト磁気ヘッドを備えたハードディスク装置の構成(図1(a))とHGA(ヘッドジンバルアセンブリ)の構成(図1(b))とを概略的に示す斜視図である。図2は、図1の熱アシスト磁気ヘッド21の近傍の拡大斜視図である。ここで、HGAの斜視図(図1(b))においては、HGAの磁気ディスク表面に対向する側を上向きにしてHGAが表されている。
【0036】
[ハードディスク装置]
図1(a)に示すように、ハードディスク装置1は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の磁気記録媒体である磁気ディスク10と、熱アシスト磁気ヘッド21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置12と、熱アシスト磁気ヘッド21の書き込みおよび読み出し動作を制御するとともに、熱アシスト磁気記録用の光を発生する半導体レーザダイオードを制御するための記録再生および発光制御回路(制御回路)13とを備えている。
【0037】
アセンブリキャリッジ装置12は、複数の駆動アーム14を備えている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして揺動可能であり、この軸16に沿う方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、熱アシスト磁気ヘッド21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。熱アシスト磁気ヘッド21における磁気ディスク10の表面に対向する面が、熱アシスト磁気ヘッド21の媒体対向面S(エアベアリング面とも呼ばれる)である。なお、磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17および熱アシスト磁気ヘッド21は、単数であってもよい。
【0038】
[HGA]
HGA17は、図1(b)に示すように、サスペンション20の先端部に熱アシスト磁気ヘッド21を固着し、さらにその熱アシスト磁気ヘッド21の端子電極に配線部材203の一端を電気的に接続して構成されている。サスペンション20は、ロードビーム200と、このロードビーム200上に固着された弾性を有するフレクシャ201と、フレックシャ201の先端に板ばね状に形成されたタング部204と、ロードビーム200の基部に設けられたベースプレート202と、フレクシャ201上に設けられており、リード導体およびその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材203とを含む。
【0039】
配線部材203は、図2に示すように、記録信号用の一対の電極パッド237,237と、読出信号用の一対の電極パッド238,238と、光源駆動用の一対の電極パッド247,248とを有している。
HGA17におけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではない。また、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップを装着してもよい。
【0040】
[熱アシスト磁気ヘッド]
図2〜図4に示すように、熱アシスト磁気ヘッド21は、スライダ22と、光源ユニット23とを備えている。光源ユニット23は、TMモードで発振し、磁気ディスク10を加熱するための光を発生する半導体レーザダイオード40と、半導体レーザダイオード40を支持する光源支持基板230とを備えている。光源支持基板230の接着面2300は、スライダ基板220の背面2201に接合されている。スライダ基板220の背面2201は、スライダ22の媒体対向面Sとは反対側の面である。また、光源支持基板230の底面2301がフレクシャ201のタング部204に、例えば、エポキシ樹脂等の接着剤により接着されている。
【0041】
[スライダ]
スライダ22は、スライダ基板220およびデータ信号の書き込みおよび読み出しを行う磁気ヘッド部32を備えている。スライダ基板220は、直方体状であり、適切な浮上量を得るように加工された媒体対向面Sを有する。スライダ基板220は導電性のアルティック(Al−TiC)等から形成されている。
【0042】
磁気ヘッド部32は、スライダ基板220の媒体対向面Sに対して略垂直な側面である集積面2202に形成されている。磁気ヘッド部32は、磁気情報を検出する磁気検出素子としてのMR効果素子33と、磁界の生成により磁気情報を書き込む垂直(面内でも良い)磁気記録素子としての電磁コイル素子34と、MR効果素子33および電磁コイル素子34の間を通して設けられている導波路35と、磁気ディスクの記録層部分を加熱するための近接場光を発生させる近接場光発生部36と、これらを覆うように集積面2202上に形成された絶縁層38と、絶縁層38の表面から露出した複数の電極パッドとを備えている。複数の電極パッドは、MR効果素子33に接続されている一対の信号端子用の電極パッド371,371と、電磁コイル素子34に接続されている一対の信号端子用の電極パッド373,373と、スライダ基板220と電気的に接続されているグランド用の電極パッド375とを含む。MR効果素子33、電磁コイル素子34および近接場光発生部36の各端面は、媒体対向面Sに露出している。つまり、これらの端面は、記録媒体10に対向している。
【0043】
図4は、熱アシスト磁気ヘッド21の磁気ヘッド部近傍の断面図である。MR効果素子33は、MR積層体332と、このMR積層体332を挟む位置に配置されている下部シールド層330および上部シールド層334とを含む。下部シールド層330および上部シールド層334は、たとえば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等によって形成された厚さ0.5〜3μm程度のNiFe,CoFeNi,CoFe,FeN,FeZrN等の磁性材料で構成することができる。上下部シールド層334,330は、MR積層体332がノイズとなる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0044】
MR積層体332は、磁気抵抗効果膜を含み、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。磁気抵抗効果膜としては、面内通電型(CIP:Current In Plane)巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto Resistance)多層膜、垂直通電型(CPP:Current Perpendicular to Plane)GMR多層膜、およびトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto Resistance)多層膜等を例示できる。
【0045】
MR積層体332は、たとえばTMR多層膜を含む場合、反強磁性層と、磁化固定層と、トンネルバリア層と、磁化自由層とが順次積層された構造を有している。反強磁性層は、たとえばIrMn,PtMn,NiMnまたはRuRhMn等からなる厚さ5〜15nm程度の層である。磁化固定層は、たとえば強磁性材料であるCoFe等、またはRu等の非磁性金属層を挟んだ2層のCoFe等から構成され、反強磁性層によって磁化方向が固定されている層である。トンネルバリア層は、たとえばAl,AlCu等からなる厚さ0.5〜1.0nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によってまたは自然酸化によって酸化された非磁性誘電材料からなる層である。磁化自由層は、たとえば強磁性材料である厚さ1nm程度のCoFe等と厚さ3〜4nm程度のNiFe等との2層膜から構成され、トンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす層である。
【0046】
MR効果素子33と導波路35との間には、下部シールド層330と同様の材料からなる素子間シールド層390が形成されている。素子間シールド層390は、MR効果素子33を、電磁コイル素子34より発生する磁界から遮断して、読み出しの際の外来ノイズを防止する。また、素子間シールド層390と導波路35との間に、さらに、バッキングコイル部が形成されていてもよい。バッキングコイル部は、電磁コイル素子34から発生してMR効果素子33の上下部電極層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させて、磁気ディスクへの不要な書き込みまたは消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図るものである。
【0047】
MR積層体332の媒体対向面Sとは反対側において、シールド層330,334間には、アルミナ等から形成された絶縁層38が形成されている。この絶縁層38は、さらに、シールド層330,334,390の媒体対向面Sとは反対側と、下部シールド層330とスライダ基板220との間と、素子間シールド層390と導波路35との間に延びている。
【0048】
なお、MR積層体332がCIP−GMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334,330の各々とMR積層体332との間に、アルミナ等により形成された絶縁用の上下部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、図示は省略するが、MR積層体332にセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体332がCPP−GMR多層膜またはTMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334,330はそれぞれ上下部の電極層としても機能する。この場合、上下部シールドギャップ層とMRリード導体層とは不要であり、省略される。
【0049】
MR積層体332のトラック幅方向の両側には、図示は省略するが、磁区の安定化用の縦バイアス磁界を印加するためのハードバイアス層が形成される。ハードバイアス層は、CoTa,CoCrPt,CoPt等の強磁性材料からなる
電磁コイル素子34は、垂直磁気記録用が好ましく、図4に示すように、主磁極層340と、ギャップ層341aと、コイル絶縁層341bと、コイル層342と、補助磁極層344とを備えている。
【0050】
主磁極層340は、コイル層342によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気ディスク(媒体)の記録層まで収束させながら導くための導磁路である。主磁極層340の媒体対向面S側の端部のトラック幅方向(図4の奥行き方向)の幅および積層方向(図4の左右方向)の厚みは、他の部分に比べて小さくすることが好ましい。この結果、高記録密度化に対応した微細で強い書き込み磁界を発生可能となる。具体的には、たとえば、磁気ヘッド部32を媒体対向面S側から見た図5に示すように、リーディング側、すなわち、スライダ基板220側の辺の長さがトレーリング側の辺の長さよりも短い逆台形となるように、媒体対向面S側の主磁極層340の先端を先細にすることが好ましい。すなわち、主磁極層340の媒体対向面S側の端面には、ロータリーアクチュエータでの駆動により発生するスキュー角の影響によって隣接トラックに不要な書き込み等を及ぼさないように、ベベル角θが付けられている。ベベル角θの大きさは、たとえば、15°程度である。実際に、書き込み磁界が主に発生するのは、トレーリング側の長辺近傍であり、磁気ドミナントの場合にはこの長辺の長さによって書き込みトラックの幅が決定される。
【0051】
主磁極層340は、例えば、媒体対向面S側の端部での全厚が約0.01〜約0.5μmであって、この端部以外での全厚が約0.5〜約3.0μmに形成されていることが好ましい。より具体的には、主磁極層340は、たとえばフレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成されたNi、FeおよびCoのうちいずれか2つもしくは3つからなる合金、またはこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から構成されていることが好ましい。トラック幅は、たとえば、100nmとすることができる。
【0052】
図4に示すように、補助磁極層344の媒体対向面S側の端部は、補助磁極層344の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部を形成している。補助磁極層344は、アルミナ等の絶縁材料により形成されたギャップ層341aおよびコイル絶縁層341bを介して主磁極層340の媒体対向面S側の端部と対向している。このような補助磁極層344を設けることによって、媒体対向面S近傍における補助磁極層344と主磁極層340との間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなるので、読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0053】
補助磁極層344は、たとえば、厚さ約0.5〜約5μmに形成されている。補助磁極層344は、たとえばフレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成されたNi、FeおよびCoのうちいずれか2つもしくは3つからなる合金、またはこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から構成されている。
ギャップ層341aは、コイル層342と主磁極層340とを離間しており、たとえば、厚さ約0.01〜約0.5μmに形成されている。ギャップ層341aは、たとえばスパッタリング法、CVD法等を用いて形成されたAl2O3またはDLC等から構成されている。
【0054】
コイル層342は、たとえば、厚さ約0.5〜約3μmに形成されている。コイル層342は、たとえばフレームめっき法等を用いて形成されたCu等から構成されている。主磁極層340の後端と補助磁極層344の媒体対向面Sから離れた部分とが結合されており、コイル層342はこの結合部分を取り囲むように形成されている。
コイル絶縁層341bは、コイル層342と補助磁極層344とを離間し、たとえば、厚さ約0.1〜約5μmの熱硬化されたアルミナやレジスト層等の電気絶縁材料から構成されている。
【0055】
導波路35は、MR効果素子33と電磁コイル素子34との間に位置していて集積面2202と平行に延びている。導波路35は、磁気ヘッド部32の媒体体対向面Sから、磁気ヘッド部32の媒体対向面Sとは反対側の面32aまで延びており、図6に示すように、矩形の板状に形成されている。導波路35は、ともに媒体対向面Sに対して垂直に形成された、トラック幅方向において対向する2つの側面351a,351bと、集積面2202と平行な上面352aおよび下面352bとを有している。導波路35は、さらに、媒体対向面Sを形成する光出射端面353と、光出射端面353とは反対側の光入射端面354とを有している。導波路35の上面352a、下面352b、および2つの側面351a、351bは、絶縁層38と接している。絶縁層38は、導波路35よりも屈折率が小さく、導波路35に対するクラッドとして機能する。
【0056】
上面352aおよび下面352bの間隔が導波路35の厚みである。導波路35の厚さ方向とは、導波路35を形成(製造)する際に材料が積層される方向と平行な方向をいい、上下面352a,352bに直交する方向となる。
この導波路35は、光入射端面354から入射した光を、この両側面351a、351b、上面352aおよび下面352bで反射させつつ、媒体対向面S側の端面である光出射端面353に導くことが可能となっている。導波路35の図6におけるトラック幅方向の幅W35は例えば、1〜200μmとすることができ、厚みT35は例えば2〜10μmとすることができ、高さH35は10〜300μmとすることができる。
【0057】
導波路35は、何れの部分においても、絶縁層38を形成する材料よりも高い屈折率nを有する、例えばスパッタリング法等を用いて形成された誘電材料から構成されている。例えば、絶縁層38が、SiO(n=1.5)から形成されている場合、導波路35は、Al(n=1.63)から形成されていてもよい。さらに、絶縁層38が、Al(n=1.63)から形成されている場合、導波路35は、Ta(n=2.16),Nb(n=2.33),TiO(n=2.3〜2.55)またはTiO(n=2.3〜2.55)から形成されていてもよい。導波路35をこのような材料で構成することによって、材料そのものが有する良好な光学特性によるだけではなく、界面での全反射条件が整うことによって、レーザ光の伝搬損失が小さくなり、近接場光の発生効率が向上する。
【0058】
近接場光発生部36は、図2、図4、図5および図6に示すように、導波路35の光出射端面353のほぼ中央に配置されている板状部材である。図4および図6に示すように、近接場光発生部36は、その端面が媒体対向面Sに露出するように導波路35の光出射端面353に埋設されている。図5に示すように、近接場光発生部36は、媒体対向面Sから見て三角形状を呈し、導電材料により形成されている。三角形の底辺36dは、スライダ基板220の集積面2202と平行、すなわち、トラック幅方向と平行に配置されている。底辺36dと向き合う頂点36cは、底辺36dよりも電磁コイル素子34の主磁極層340側に配置されている。具体的には、頂点36cは、主磁極層340のリーディング側エッジと対向するように配置されている。近接場光発生部36は、好ましくは、媒体対向面Sから見たときに、底辺36dの両端の2つの底角がいずれも同じとされた二等辺三角形である。
【0059】
近接場光発生部36は、Au,Ag,Al,Cu,Pd,Pt,RhもしくはIr、またはこれらのうちのいくつかの組合せからなる合金から形成されていることが好ましい。
図5において、頂点36cの曲率半径は5nm〜100nmとすることが好ましい。三角形の高さH36は、入射されるレーザ光の波長よりも十分に小さく、20nm〜400nmとすることが好ましい。底辺36dの幅36Wは、入射されるレーザ光の波長よりも十分に小さく、20nm〜400nmとすることが好ましい。図6における近接場光発生部36の厚みT36は10nm〜100nmとすることが好ましい。
【0060】
このような近接場光発生部36が導波路35の光出射端面353に設けられていると、近接場光発生部36の頂点36c近傍に電界が集中して頂点36c近傍から媒体に向かって近接場光が発生する。
図2に示すように、電極パッド371,371がそれぞれフレクシャ201の電極パッド237,237にボンディングワイヤにより電気的に接続され、電極パッド373,373がそれぞれフレクシャ201の電極パッド238,238にボンディングワイヤにより接続されている。これにより、電磁コイル素子およびMR効果素子の駆動が可能となっている。また、図4のビアホール375aによりスライダ基板220と電気的に接続された電極パッド375が、図2に示すように、フレクシャ201の電極パッド247とボンディングワイヤにより接続されている。これにより、スライダ基板220の電位を、電極パッド247により、たとえばグラウンド電位に制御できる。
【0061】
[光源ユニット]
熱アシスト磁気ヘッド21の光源ユニット23の構成要素について説明する。図2〜図4に示すように、光源ユニット23は、光源支持基板230と、半導体レーザダイオード(光源)40とを備えている。
光源支持基板230はアルティック(Al−TiC)等からなる基板であり、スライダ基板220の背面2201に接着されている接着面2300を有している。図4に示すように、接着面2300にはアルミナ等の断熱層230aが形成されている。この接着面2300を底面とした際の一つの側面である素子形成面2302上に、アルミナ等の絶縁材料から形成された絶縁層41が設けられている。この絶縁層41の上に電極パッド47,48が形成されている(図2参照)。そして、一方の電極パッド47上に半導体レーザダイオード40が固定されている。
【0062】
詳しくは、図2および図3に示すように、電極パッド47,48は、絶縁層41の表面411にレーザ駆動用電極パッドとして形成されている。表面411は、媒体対向面Sと交差する面、言い換えると、スライダ基板220の集積面2202と平行な面である。電極パッド47は、図4に示すように、絶縁層41内に設けられたビアホール47aにより光源支持基板230と電気的に接続されている。また、電極パッド47は、半導体レーザダイオード40の駆動時に発生する熱をビアホール47aを介して光源支持基板230側へ逃がすためのヒートシンクとしても機能する。
【0063】
電極パッド47は、図2に示すように、絶縁層41の表面411の中央部にトラック幅方向に延びて形成されている。一方、電極パッド48は、電極パッド47からトラック幅方向に離間した位置に形成されている。各電極パッド47,48は、フレクシャ201との半田リフローによる接続のために、さらに、フレクシャ201側に向かって延びている。
【0064】
電極パッド47,48は、それぞれ、フレクシャ201の電極パッド247,248とリフロー半田により電気的に接続されており、これにより半導体レーザダイオード40の駆動が可能となっている。また、電極パッド47は上述のように光源支持基板230と電気的に接続されているため、電極パッド247により光源支持基板230の電位をたとえばグラウンド電位に制御することが可能となっている。
【0065】
電極パッド47,48は、たとえば、厚さ10nm程度のTa,Ti等からなる下地層を介して形成された、厚さ1〜3μm程度の、たとえば真空蒸着法やスパッタリング法等を用いて形成されたAu,Cu等の層から形成することができる。そして、半導体レーザダイオード40は、Au−Sn等の導電性の半田材料からなる半田層42(図4参照)により、電極パッド47に電気的に接続されている。
【0066】
図7は、半導体レーザダイオード40の構成を説明するための平面図であり、図8は図7のVIII-VIII線に沿う断面図であり、図9は図7のIX-IX線に沿う断面図である。
この半導体レーザダイオード40は、基板101と、基板101上に結晶成長によって形成された半導体積層構造102と、基板の裏面(半導体積層構造102と反対側の表面)に接触するように形成されたn型電極103と、半導体積層構造102の表面に接触するように形成されたp型電極104を備えたファブリぺロー型のものである。
【0067】
基板101は、この実施形態では、GaAs単結晶基板で構成されている。GaAs基板101の表面の面方位は、(100)面に対して、10°のオフ角を有している。半導体積層構造102を形成する各層は、基板101に対してエピタキシャル成長されている。エピタキシャル成長とは、下地層からの格子の連続性を保った状態での結晶成長をいう。下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪によって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。
【0068】
半導体積層構造102は、活性層110と、n型半導体層111と、p型半導体層112と、n側ガイド層115と、p側ガイド層116とを備えている。n型半導体層111は活性層110に対して基板101側に配置されており、p型半導体層112は活性層110に対してp型電極104側に配置されている。n側ガイド層115はn型半導体層111と活性層110との間に配置され、p側ガイド層116は活性層110とp型半導体層112との間に配置されている。こうして、ダブルヘテロ接合が形成されている。活性層110には、n型半導体層111からn側ガイド層115を介して電子が注入され、p型半導体層112からp側ガイド層116を介して正孔が注入される。これらが活性層110で再結合することにより、光が発生するようになっている。
【0069】
n型半導体層111は、基板101側から順に、n型GaAsバッファ層113(たとえば100nm厚)およびn型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)114(たとえば3000nm厚)を積層して構成されている。一方、p型半導体層112は、p型ガイド層116上に、p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層(0≦x1≦1)117(たとえば1600nm厚)、p型InGaPバンド不連続緩和層118(たとえば50nm厚)およびp型GaAsコンタクト層119(たとえば300nm厚)を積層して構成されている。
【0070】
n型GaAsバッファ層113は、GaAs基板101とn型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層114との接着性を高めるために設けられた層である。n型GaAsバッファ層113は、GaAsにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。
p型GaAsコンタクト層119は、p型電極104とオーミックコンタクトをとるための低抵抗層である。p型GaAsコンタクト層119は、GaAsにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。
【0071】
n型クラッド層114と、p型クラッド層117とは、活性層110からの光をそれらの間に閉じ込める光閉じ込め効果を生じるものである。n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層114は、(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープすることによって、n型半導体層とされている。p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層117は、(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pにたとえばp型ドーパントとしてのZnをドープすることによって、p型半導体層とされている。n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層114は、n側ガイド層115よりもバンドギャップが広く、p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層117は、p側ガイド層116よりもバンドギャップが広い。これにより、良好な光閉じ込めおよびキャリア閉じ込めを行うことができ、高効率の半導体レーザダイオードを実現できる。
【0072】
高出力化を可能とするためには、端面光学損傷を抑制することが重要である。そこで、後述するように、レーザ共振器端面部分に亜鉛などの不純物を拡散することにより、活性層110のバンドギャップを拡大する端面窓構造140を作製することが好ましい。端面窓構造140を作製するために、亜鉛等の不純物を拡散する場合、不純物を拡散すべき領域が燐を含んでいれば拡散速度が速い。この実施形態では、n型クラッド層114およびp型クラッド層117は、それぞれ燐を含む(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層からなる。したがって、亜鉛等の不純物を拡散させやすいので、端面窓構造140の作製が容易である。これにより、高出力化に適した半導体レーザダイオードを実現できる。
【0073】
また、この実施形態におけるn型クラッド層114およびp型クラッド層117は、(Alx1Ga(1−x1))の組成に対するInの組成の比を、0.49/0.51としているので、GaAs基板101と格子整合するため、高品質の結晶を得ることができる。この結果、信頼性の高い半導体レーザ素子が得られる。
n側ガイド層115は、Alx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば50nm厚)からなり、n型半導体層111上に積層されることにより構成されている。p側ガイド層116は、Alx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)層(たとえば50nm厚)からなり、活性層110上に積層されることにより構成されている。
【0074】
n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層115およびp側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層116は、活性層110に光閉じ込め効果を生じる半導体層であり、かつ、クラッド層114,117とともに、活性層110へのキャリア閉じ込め構造を形成している。これにより、活性層110における電子および正孔の再結合の効率が高められるようになっている。
【0075】
Alx2Ga(1−x2)Asの屈折率は、Alの組成x2に応じて変化する。たとえば、入射光のエネルギー(フォトンエネルギー)が1.38eVであるとすると、x2=0の場合の屈折率(GaAsの屈折率)は、3.590となり、x2=1の場合の屈折率(AlAsの屈折率)は、2.971となる(前記非特許文献3参照)。したがって、AlGa(1−x)Asでは、屈折率の調整幅が広い。
【0076】
n側ガイド層115およびp側ガイド層116を形成しているAlx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1)は、前述したように、バンドギャップ(屈折率)の調整幅が大きいため、出射ビームの設計が容易である。たとえば、横断面の縦横比が1に近い光ビーム、すなわち、横断面が円に近い形状の光ビームを出力させることが可能となる。
ガイド層115,116を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層は、x2≧0.4を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、x2が0.4より小さいと、レーザ共振器端面部分に端面窓構造を作製したとしても、端面部分での活性層のバンドギャップを十分に拡大することができなくなるからである。これについての詳細は、後述する。
【0077】
活性層110は、たとえば、AlGaAsPを含む多重量子井戸(MQW:multiple-quantum well)構造を有しており、電子と正孔とが再結合することにより光が発生し、その発生した光を増幅させるための層である。
活性層110は、この実施形態では、図10に示すように、アンドープのAlGa(1−y)As(1−x3)x3層(0≦x3≦1,0≦y≦0.3)からなる量子井戸(well)層(たとえば13nm厚)191とアンドープのAlx4Ga(1−x4)As層(0≦x4≦1)層からなる障壁(barrier)層(たとえば7nm厚)192とを交互に複数周期繰り返し積層して構成された多重量子井戸構造を有している。無歪の状態でのAlGaAsP層の格子定数はGaAs基板101の格子定数より小さいので、AlGa(1−y)Asx3(1−x3)層からなる量子井戸層191には引っ張り応力(引っ張り歪)が生じている。これにより、半導体レーザダイオード40は、TMモードで発振することが可能となる。なお、TMモードの出力光は、光伝搬方向に対して磁界方向が垂直(光伝搬方向に対して電界方向が平行)となるTM波となる。
【0078】
量子井戸層191の膜厚は、9nm以上14nm以下であることが好ましい。TMモードで発振させるためには、活性層を厚くしてTEモードとTMモードの相対発振しきい値電流を小さくすればよいからである。
半導体レーザダイオード40をTEモード発振させる場合には、量子井戸層191のP組成を小さくすればよい。その場合には、製造上は、P組成を零にすることが好ましい。
【0079】
量子井戸層191を形成しているAlGa(1−y)As(1−x3)x3は、量子井戸層として用いられる他の材料、たとえば、InGaPに比べて、バンドギャップが小さい。このため、クラッド層114,117と活性層110との間のバンドギャップ差を大きくすることができる。これにより、温度特性の良い、すなわち、温度が変化したときにしきい値電流や動作電流の変動が少ない半導体レーザダイオードを実現できる。
【0080】
量子井戸層191を形成しているAlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/4以下を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、その比が1/4より大きくては、P組成の増大により、量子井戸層191に生じる引っ張り歪が増大し、クラックやリーク電流が発生するおそれがあるからである。
【0081】
さらに、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/9以上を満たす組成を有していることが好ましい。この理由は、TEモードよりもTMモードの比率(強度比)を高くするためである。半導体レーザダイオード40をTMモードで発振させるためには、量子井戸層191に引っ張り歪が生じることが必要である。量子井戸層191の格子定数が小さいほど、量子井戸層191に大きな引っ張り歪を生じさせることができる。量子井戸層191を形成しているAlGa(1−y)As(1−x3)x3層の格子定数は、Asの組成に対するPの組成の比が大きいほど小さくなる。
【0082】
図9に示すように、p型半導体層112内の、p型クラッド層117、p型バンド不連続緩和層118およびp型コンタクト層119は、その一部が除去されることによって、リッジストライプ130を形成している。より具体的には、p型クラッド層117、p型バンド不連続緩和層118およびp型コンタクト層119の一部がエッチング除去され、横断面視がほぼ矩形のリッジストライプ130が形成されている。
【0083】
p型コンタクト層119の側面、p型バンド不連続緩和層118の露出面および(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層117の露出面は、電流ブロック層106によって覆われている。
半導体積層構造102は、リッジストライプ130の長手方向両端における劈開面により形成された一対の端面(劈開面)131,132を有している。この一対の端面131,132は、互いに平行である。こうして、n側ガイド層115、活性層110およびp側ガイド層116によって、前記一対の端面131,132を共振器端面とするファブリペロー共振器が形成されている。すなわち、活性層110で発生した光は、共振器端面131,132の間を往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、増幅された光の一部が、共振器端面131,132からレーザ光として素子外に取り出される。
【0084】
共振器長は、たとえば、200μm以上600μm以下であり、この実施形態では350μmである。また、この半導体レーザダイオード40のチップ幅は、たとえば、50μm以上250μm以下であり、この実施形態では、135μmである。また、チップ厚は、たとえば、30μm以上150μm以下であり、この実施形態では、65μmである。
n型電極103は、たとえばAuGe/Ni/Ti/Au合金からなり、そのAuGe側が基板101側に配されるように、基板101にオーミック接合されている。p型電極104は、p型コンタクト層119および電流ブロック層106の露出面を覆うように、形成されている。p型電極104は、たとえばTi/Au合金からなり、そのTi側がp型コンタクト層119に配されるように、p型コンタクト層119にオーミック接合されている。
【0085】
図7および図8に示すように、共振器の端面部分には、活性層110のバンドギャップを拡大する端面窓構造140が形成されている。この端面窓構造140は、たとえば、共振器の端面部分に亜鉛(Zn)を拡散することによって形成される。
このような構成によって、n型電極103およびp型電極104を電源に接続し、n型半導体層111およびp型半導体層112から電子および正孔を活性層110に注入することによって、この活性層110内での電子および正孔の再結合を生じさせ、たとえば、発振波長が770nm以上830nm以下の光を発生させることができる。この光は、共振器端面131,132の間をガイド層115,116に沿って往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、レーザ出射端面である共振器端面131から、より多くのレーザ出力が外部に取り出されることになる。
【0086】
図11Aは、クラッド層114,117、ガイド層115,116ならびに活性層110の各層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図である。図11Bは、ガイド層を燐系化合物半導体であるInGaAlPで形成した場合の、各層のバンドギャップを説明するためのエネルギーバンド図である。
この実施形態の半導体レーザダイオード40では、活性層110内の量子井戸層191は、砒素系化合物半導体であるAlGa(1−y)As(1−x3)x3層(0≦x3≦1,0≦y≦0.3)からなる。この実施形態の半導体レーザダイオード40では、クラッド層114,117は、燐系化合物半導体((Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P(0.5≦x1≦1))で形成されている一方、ガイド層115,116は、燐系化合物半導体ではなく、砒素系化合物半導体(Alx2Ga(1−x2)As(0≦x2≦1))で形成されている。
【0087】
図11Aおよび図11Bに対比して示すように、砒素系化合物半導体であるAlx2Ga(1−x2)Asによってガイド層115,116を形成した場合(図11A)には、燐系化合物半導体であるInGaAlPによってガイド層を形成した場合(図11B)に比べて、ガイド層115,116のバンドギャップEuを小さくすることができる。したがって、本実施形態による半導体レーザダイオード40では、ガイド層115,116のバンドギャップEuと量子井戸層191のバンドギャップEgとの差(Eu−Eg)を小さくすることができる。
【0088】
一般的に、半導体の場合、バンドギャップ差が小さくなるほど屈折率差が小さくなるので、光閉じ込め効果が過度に大きくなるのを防止でき、レーザ共振器端面部分での光密度を緩和することができる。これにより、端面光学損傷を抑制できるので、高出力化が可能となる。また、Alx2Ga(1−x2)Asガイド層115,116は、InGaAlPからなるガイド層よりも熱伝導率が高いので、熱を効率よく逃がすことができるという利点もある。これによっても、半導体レーザダイオード40の制御を安定化できる上、端面光学損傷の抑制に寄与できる。
【0089】
図12(a)は、共振器端面部間の中央部の各層のバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。図12(b)は共振器端面部に形成された端面窓構造におけるバンドギャップを示すエネルギーバンド図である。
前記実施形態では、共振器の端面部分には、活性層110のバンドギャップを拡大する端面窓構造140が形成されている。したがって、図12(b)に示すように、共振器の端面部分では、活性層110のバンドギャップEgは、共振器中央部の活性層110のバンドギャップEg(図12(a)参照)とガイド層115,116(障壁層192)のバンドギャップEu(図12(a)参照)との平均値となる。つまり、共振器の端面部分では、それらの中間部分に比べて、活性層110のバンドキャップEgが大きくなる。このため、内部で電子と正孔が再結合してできた誘導放出光が共振器の端面部分で吸収されにくくなるから、発熱が抑制される。これにより、端面光学損傷の発生を抑制できるので、高出力化が可能となる。
【0090】
ガイド層115,116を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層が、x2≧0.4を満たす組成を有していることが好ましい理由について詳しく説明する。レーザ共振器端面部分に端面窓構造140を作製すると、端面部分での活性層110のバンドギャップは、ガイド層115,116のバンドギャップと量子井戸層191のバンドギャップとの平均値となる。したがって、端面窓構造140を作製することによって端面部分での活性層110のバンドギャップを十分に拡大するためには、ガイド層115,116のバンドギャップが所定値(具体的には、1.8eV程度)以上であることが必要となる。一方、ガイド層115,116を形成しているAlx2Ga(1−x2)As層のバンドギャップは、それに含まれるAlの組成が多いほど、すなち、X2が大きいほど、大きくなる。そして、x2を0.4以上とすることによって、ガイド層115,116のバンドギャップを前記所定値以上とすることができる。
【0091】
以上に説明したように、前記半導体レーザダイオード40では、高出力化が可能となる。この結果、導波路35と半導体レーザダイオード40との結合効率が多少悪くても、導波路35に導かれる光の出力を一定以上に保つことができる。したがって、導波路35および半導体レーザダイオード40を高精度に位置決めする必要がなくなる。これにより、熱アシスト磁気ヘッド21の生産効率を向上させることができる。
【0092】
図13〜図16は、図7〜図9に示す半導体レーザダイオード40の製造方法を示す横断面図である。
まず、図13に示すように、GaAs基板101上に、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、n型GaAsバッファ層113、n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層114、n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層115、活性層110、p側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層116、p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層117、p型InGaPバンド不連続緩和層118およびP型GaAsコンタクト層119を順に成長させる。なお、活性層110は、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層からなる量子井戸層191と、Alx4Ga(1−x4)As層からなる障壁層192とを交互に複数周期繰り返し成長させることによって形成される。
【0093】
次に、半導体レーザダイオード40の端面近傍に相当する領域に、ZnO(酸化亜鉛)をパターニングする。そして、たとえば、500〜650°Cで約8時間、アニール処理を行うことにより、半導体レーザダイオード40の端面近傍に相当する領域にZnを拡散させる。この際、図8に破線で示すように、Znの拡散が活性層110およびn側ガイド層115を通り越して、n型クラッド層114まで達するように、アニール処理を行なう。これにより、半導体レーザダイオード40の端面近傍に相当する領域に、端面窓構造140が形成される。
【0094】
次に、ZnO層除去する。それから、図14に示すように、ストライプ状の絶縁膜をマスク154として、エッチングにより、P型GaAsコンタクト層119、InGaPバンド不連続緩和層118およびp型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層117の一部を除去する。そうすると、図15に示すように、頂面にマスク層154が積層されたリッジストライプ130が形成される。
【0095】
次に、図16に示すように、表面に電流ブロック層106を成膜させる。このとき、マスク層154がマスクとして機能する。そのため、リッジストライプ130の頂面は電流ブロック層106によって覆われない。
この後、マスク層154を除去する。そして、電流ブロック層106およびP型GaAsコンタクト層119の露出面を覆うように、p型GaAsコンタクト層119にオーミック接触するp型電極104が形成される。また、GaAs基板101にオーミック接触するn型電極103が形成される。
【0096】
前述の実施形態では、量子井戸層が複数個設けられた多重量子井戸構造の活性層を有する素子について説明したが、活性層の構造は、量子井戸層が1個の量子井戸構造としてもよい。
このような半導体レーザダイオード40は、厚さ方向に電圧が印加されることにより、光出射端面(共振器端面)131からレーザ光を出射する。放射されるレーザ光の発振波長は、770nm以上830nm以下の範囲内であることが好ましい。半導体レーザ素子の発振波長が770nm以上であることが好ましい理由は、発振波長が770nmより短いと導波路での光の吸収が大きくなるからである。半導体レーザ素子の発振波長が830nm以下であることが好ましい理由は、発振波長が830nmより長いと分子振動による光吸収が大きくなる上に、導波路のサイズ(特に厚さ方向のサイズ)が大きくなり、導波路の製造に時間がかかるからである。
【0097】
この半導体レーザダイオード40の駆動においては、ハードディスク装置内の電源が使用可能である。実際、ハードディスク装置は、通常、例えば2V程度の電圧を発生する電源を備えており、レーザ発振動作には十分の電圧を供給できる。また、半導体レーザダイオード40の消費電力も、例えば、数十mW程度であり、ハードディスク装置内の電源で十分に賄うことができる。
【0098】
半導体レーザダイオード40のn型電極103は、図4に示されているように、Au−Sn等の半田層42により電極パッド47に固定されている。より具体的には、半導体レーザダイオード40の光出射端面131が図4の下向き、すなわち、光出射端面131が接着面2300と平行になるように、半導体レーザダイオード40が光源支持基板230に固定されている。実際の半導体レーザダイオード40の固定においては、たとえば、電極パッド47の表面に厚さ0.7〜1μm程度のAu−Sn合金の蒸着膜を成膜し、半導体レーザダイオード40をのせた後、熱風ブロア下でホットプレート等による200〜300℃程度までの加熱を行って固定すればよい。また、図2に示すように、電極パッド48と半導体レーザダイオード40のp型電極104とがボンディングワイヤにより電気的に接続されている。なお、電極パッド47と接続される電極は、p型電極104でもかまわない。その場合には、n型電極103が電極パッド48にボンディングワイヤにより接続される。
【0099】
ここで、上述したAu−Sn合金による半田付けをする場合、光源ユニット23を例えば300℃前後の高温に加熱することになるが、この実施形態によれば、この光源ユニット23がスライダ22とは別に製造されるため、スライダ22内の磁気ヘッド部32がこの高温の悪影響を受けずに済む。
そして、上述のスライダ22の背面2201と光源ユニット23の接着面2300とが、図4に示すように、例えば、UV硬化型接着剤等の接着剤層44により接着されている。導体レーザダイオード40および導波路35は、半導体レーザダイオード40の光出射端面131が導波路35の光入射端面354と対向し、かつ半導体レーザダイオード40の厚さ方向と導波路35の厚さ方向とが一致するように配置されている。
【0100】
図17は、半導体レーザダイオード40の光出射端面近傍の光ビームの横断面形状を示す断面図である。半導体レーザダイオード40の光出射端面近傍の光ビーム150の横断面形状は、半導体レーザダイオード40の厚さ方向が短軸方向となる、横長の楕円形状となる。この半導体レーザダイオード40はTMモードで発振するため、その出力光は、光ビーム150の横断面形状の短軸方向に偏光した光となる。
【0101】
また、組立て精度を考えると、半導体レーザダイオード40の光出射端面131と導波路35の光入射端面354との間の距離は、1μm以上であると良い。半導体レーザダイオード40の光出射端面131と導波路35の光入射端面354との間の距離は、1μm以上で5μmであることが好ましく、1μm以上で3μm以下であることが更に好ましい。半導体レーザダイオード40の光出射端面131と導波路35の光入射端面354との間の距離が5μm以下であると、半導体レーザダイオード40の光出射端面131と導波路35の光入射端面354との間の距離が短いため、導波路の光入射端面に入射される光ビームの形状は、半導体レーザダイオード40の光出射端面131から出射される光ビームの形状と同様に半導体ダイオード40の厚さ方向が短軸方向となる楕円形状となるからである。そして、半導体レーザダイオード40の厚さ方向と導波路35の厚さ方向とは一致しているので、導波路35の厚さが薄くても、導波路35の厚さ方向に偏光した光を効率よく導波路35に導入できる。
【0102】
記録媒体10を加熱するための光を発生する半導体レーザダイオードとして、TEモードで発振する半導体レーザダイオードを用いるとすれば、その半導体レーザダイオードの厚さ方向を、導波路35の厚さ方向に対して直交させることが好ましい。このように半導体レーザダイオードを配置すると、当該半導体レーザダイオードの出力光(TE波)の電界方向を導波路35の厚さ方向に一致させることができるからである。しかしながら、このような配置では、半導体レーザダイオードの光出射端面近傍の光ビームの横断面形状は、導波路35の厚さ方向が長軸方向となる楕円形状となる。このような形状の光ビームを導波路35に効率よく導入するためには、導波路35の厚みを大きくする必要があるから、導波路35の作製のためのプロセス時間が長くなる。
【0103】
図18は、TM波およびTE波の入射角に対する反射率特性を示すグラフである。
TE(Tranverse Electric)モードで発振する半導体レーザダイオードにおいては、その出力光は電界方向が光の伝搬方向に垂直な方向、すなわち、半導体レーザダイオードの厚さ方向に垂直な方向であるTE波となる。TE波では、図18に示すように、光入射面への入射角の絶対値が0°から大きくなるにしたがって反射率が増加し、入射角の絶対値が90°になると反射率が最大値となる。
【0104】
これに対して、本実施形態のようにTM(Tranverse Magnetic)モードで発振する半導体レーザダイオード40においては、その出力光は電界方向が光の伝搬方向に平行な方向、すなわち、半導体レーザダイオード40の厚さ方向に平行な方向であるTM波となる。前記半導体レーザダイオード40から出力されるTM波では、図18に示すように、光入射面への入射角の絶対値が0°より増加すると反射率が徐々に減少していき、入射角の絶対値が所定値(たとえば58°〜69°程度)になると反射率が零となる。反射率が零になる入射角θは、「ブリュースター角」と呼ばれる。入射角の絶対値が「ブリュースター角」に対応する値から90°までの間では、入射角の絶対値が増加するにしたがって反射率も増加する。そして、入射角の絶対値が90°のときに、反射率が最大となる。
【0105】
記録媒体10を加熱するための光を発生する半導体レーザダイオードとして、TEモードで発振する半導体レーザダイオードを用いた場合には、導波路35の光入射端面354への光の入射角が0°からずれると反射率が大きくなるため、半導体レーザダイオードと導波路35との結合効率が低下する。このため、半導体レーザダイオードおよび導波路35の位置決めに高い精度が要求される。その結果、熱アシスト磁気ヘッドの生産効率を上げることが困難となる。
【0106】
本実施形態では、記録媒体10を加熱するための光を発生する半導体レーザダイオードとして、TMモードで発振する半導体レーザダイオード40が用いられている。したがって、本実施形態では、導波路35の光入射端面354への光の入射角が0°から少しずれたとしても反射率が減少するので、半導体レーザダイオード40と導波路35との結合効率は低下しない。そのため、導波路35および半導体レーザダイオード40を高精度で位置決めする必要がなくなる。具体的には、光源支持基板230を半導体レーザダイオード40に取り付ける際の両者の位置決めおよびスライダ22を光源ユニット23に取り付ける際の両者の位置決めに、高い精度が要求されなくなる。これにより、結合効率を犠牲にすることなく、熱アシスト磁気ヘッド21の生産効率を向上させることができるようになる。
【0107】
なお、図19に示すように、半導体レーザダイオード40の出力光の、導波路35の光入射端面354への入射角θがブリュースター角となるように、半導体レーザダイオード40および導波路35を配置するようしてもよい。具体的には、光源支持基板230の接着面2300を底面とした際の一つの側面である素子形成面2302が、光源支持基板230の接着面2300を底面とした際の上面2301側にいくほど、導波路35から離れるような傾斜面に形成されている。この素子形成面2302上に絶縁層41が設けられている。この絶縁層41の上に電極パッド47,48が形成されている。一方の電極パッド47上に半田層42を介して半導体レーザダイオード40が固定されている。光源支持基板230の接着面2300と素子形成面2302とのなす角(傾斜角)は、半導体レーザダイオード40からの出力光の導波路35に対する入射角θがブリュースター角θとなるような角度に設定されている。このようにすると、半導体レーザダイオード40の出力光の導波路35の光入射端面354での反射率が零となるので、半導体レーザダイオード40と導波路35との結合効率を高めることができる。
【0108】
なお、半導体レーザダイオード40および電極パッドの構成は、当然に、上述した実施形態に限定されるものではなく、たとえば、半導体レーザダイオード40は、TMモードで発振するものであれば、他の半導体材料を用いた他の構成のものであってもよい。さらに、半導体レーザダイオード40と電極との半田付けは、他のろう材を用いて行うことも可能である。さらにまた、半導体レーザダイオード40を、ユニット基板上に直接、半導体材料をエピタキシャル成長させることによって形成してもよい。
【0109】
[熱アシスト磁気ヘッドの製造方法]
上述の熱アシスト磁気ヘッドの製造方法について簡単に説明する。
まず、スライダ22を製造する。具体的には、スライダ基板220を用意し、公知の方法を用いてMR効果素子33および素子間シールド層390を形成し、さらに下地としてアルミナ等の絶縁層38を形成する。
【0110】
続いて、導波路35および近接場光発生部36を形成する。この工程を、図20を参照して詳しく説明する。図20は、導波路35および近接場光発生部36の形成方法の一実施形態を説明する斜視図である。
まず、図20(a)に示すように、最初に、Al等の絶縁層38a上に、導波路35の一部となる、絶縁層38aよりも屈折率の高いTa等の誘電体膜35aを成膜し、その上に、Au等の金属層36aを製膜し、その上に、リフトオフ用の底部が窪んだレジストパターン1002を形成する。
【0111】
次に、図20(b)に示すように、イオンミリング法等を用いて、レジストパターン1002の直下を除いて、金属層36aの不要部分を除去することにより、誘電体膜35aの上に下部が広い台形状の金属層36aが積層されたパターンを形成する。
その後、図20(c)に示すように、レジストパターン1002を除去した後に、台形状の金属層36aの両斜面側からそれぞれイオンミリング法等により各斜面の一部をそれぞれ除去して、断面三角形状の金属層36aを形成する。
【0112】
続いて、図20(d)に示すように、金属層36aを覆うように誘電体膜35a上に誘電体膜35aと同じ材料による誘電体膜35bを成膜し、媒体対向面Sが形成される側に金属層36aの端面を形成するためのレジストパターン1003を積層し、図20(e)に示すように、媒体対向面Sが形成される側とは反対側において、金属層36aおよび誘電体膜35bをイオンミリング法等により除去し、その後、除去した部分に誘電体膜35bと同じ材料により誘電体膜35cを成膜する。
【0113】
さらに、図20(f)に示すように、誘電体膜35b、35c上に、さらに、誘電体膜35bと同じ材料により誘電体膜35dを積層し、所定の幅となるように、誘電体膜35a,35b,35c,35dをパターニングすることにより、導波路35がほぼ完成する。
さらに、その後、図20(g)に示すように、導波路35を覆うように絶縁層38aと同じ材料で絶縁層38bを更に形成することにより、クラッド層としての絶縁層38が完成する。そして、後述するように金属層36aが露出している側から所定距離ラッピングすることにより所定の厚みの近接場光発生部36および媒体対向面Sが形成される。以上の工程により、近接場光発生部36を備えた導波路35を形成することができる。
【0114】
その後、図4に示すように、公知の方法により、電磁コイル素子34を形成し、その後、アルミナ等による絶縁層38を形成し、接続のための電極パッド371等を形成し、その後エアベアリング面やその裏面のラッピングを行うことによりスライダ22が完成する。この後、スライダ22の電磁コイル素子34やMR効果素子33のテストをスライダ毎に行い良品を選別する。
【0115】
続いて、光源ユニット23を製造する。まず、図4に示すように、アルティック製等の光源支持基板230を用意し、その表面に公知の方法により断熱層230a、絶縁層41および電極パッド47,48を形成し、電極パッド47の上に半導体レーザダイオード40をAu−Sn等の導電性の半田材42により固定し、その後、基板の切断分離等により所定の大きさに整形する。これにより、光源ユニット23が完成する。このようにして得た光源ユニット23も、半導体レーザダイオード40の特性評価、特に、高温連続通電試験による駆動電流のプロファイルを観察し、十分に寿命が長いと考えられるものを選択する。
【0116】
その後、図21(a)に示すように、良品とされた光源ユニット23の接着面2300および良品とされたスライダ22の背面2201のいずれか一方または両方にUV硬化型接着剤44aを塗布する。UV硬化型接着剤としては、UV硬化型エポキシ樹脂や、UV硬化型アクリル樹脂等が挙げられる。
そして、図21(b)に示すように、光源ユニット23の接着面2300とスライダ22の背面2201とを重ね合わせた後、電極パッド47,48間に電圧を印加して半導体レーザダイオード40を発光させる。それと共に、導波路35の光出射端面353に光検出器DTを対向配置し、光源ユニット23とスライダ22とを相対的に図21(b)の矢印方向に移動させ、最も光検出器DTの出力が高くなる位置を探し出す。そして、その位置で、外部からUV硬化型接着剤に紫外線を照射することによりUV硬化型接着剤44aを硬化させる。これにより、半導体レーザダイオード40の光軸と導波路35の光軸とを合わせた状態で、光源ユニット23とスライダ22とを接着することができる。
【0117】
[動作]
本実施形態にかかる熱アシスト磁気ヘッド21の動作について説明する。書き込みまたは読み出し動作時には、熱アシスト磁気ヘッド21は、回転する磁気ディスク(媒体)10の表面上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上する。この際、MR効果素子33および電磁コイル素子34の媒体対向面S側の端が磁気ディスク10と微小なスペーシングを介して対向することによって、データ信号磁界の感受による読み出しとデータ信号磁界の印加による書き込みとが行われる。
【0118】
ここで、データ信号の書き込みの際、光源ユニット23から導波路35を通って伝搬してきたレーザ光が近接場光発生部36に到達し、近接場光発生部36から近接場光が発生する。この近接場光によって、後述するように、熱アシスト磁気記録を行うことが可能となる。
近接場光は、入射されるレーザ光の波長および導波路35の形状にも依存するが、一般に、媒体対向面Sから見て近接場光発生部36の境界で最も強い強度を有する。前述したように、半導体レーザダイオード40はTMモードで発振するので、その出力光の電界方向は半導体レーザダイオード40の厚さ方向となる。図4においては、半導体レーザダイオード40の厚さ方向および導波路35の厚さ方向は図4の左右方向となり、近接場光発生部36に到達する光の電界方向は図4の左右方向、すなわち、図5の上下方向となる。したがって、頂点36cの近傍において、最も強い近接場光の放射が起こる。すなわち、磁気ディスクの記録層部分を光により加熱する熱アシスト作用において、この頂点36c近傍と対向する部分が、主要な加熱作用部分となる。
【0119】
この近接場光の電界強度は、入射光に比べて桁違いに強く、この非常に強力な近接場光が、磁気ディスク表面の対向する局所部分を急速に加熱する。これにより、この局所部分の保磁力が、書き込み磁界による書き込みが可能な大きさまでに低下するので、高密度記録用の高保磁力の磁気ディスクを使用しても、電磁コイル素子34による書き込みが可能となる。
【0120】
近接場光は、媒体対向面Sから磁気ディスクの表面に向かって、10〜30nm程度の深さまで到達する。従って、10nmまたはそれ以下の浮上量である現状において、近接場光は、十分に記録層部分に到達することができる。また、このように発生する近接場光のトラック幅方向の幅や媒体移動方向の幅は、上述の近接場光の到達深さと同程度であって、また、この近接場光の電界強度は、距離が離れるに従って指数関数的に減衰する。したがって、非常に局所的に磁気ディスクの記録層部分を加熱することができる。
【0121】
以上に述べたような、熱アシスト磁気記録方式を採用することにより、高保磁力の磁気ディスクに垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを用いて書き込みを行い、記録ビットを極微細化することによって、例えば、1Tbits/in級の記録密度を達成することも可能となり得る。
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0122】
10 磁気ディスク(記録媒体)
21 熱アシスト磁気ヘッド
22 スライダ
23 光源ユニット
32 磁気ヘッド部
33 MR効果素子(磁気検出素子)
34 電磁コイル素子(磁気記録素子)
35 導波路
40 半導体レーザダイオード(光源)
101 基板
102 半導体積層構造
103 n型電極
104 p型電極
110 活性層
111 n型半導体層
112 p型半導体層
113 n型GaAsバッファ層
114 n型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層
115 n側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層
116 p側Alx2Ga(1−x2)Asガイド層
117 p型(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49Pクラッド層
118 p型InGaPバンド不連続緩和層
131 光出射端面
140 端面窓構造
191 量子井戸層
192 障壁層
150 光ビーム
354 光入射端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対向する磁気ヘッド部を有するスライダと、
TMモードで発振し、媒体加熱用の光を発生する半導体レーザ素子と、
前記磁気ヘッド部に設けられ、磁気記録用の磁界を発生する磁気記録素子と、
前記磁気ヘッド部に設けられ、前記半導体レーザ素子の光出射端面に対向する光入射端面を有し、前記半導体レーザ素子からの光を前記記録媒体表面に導くための導波路とを含み、
前記半導体レーザ素子は、
p型クラッド層およびn型クラッド層と、
前記p型クラッド層およびn型クラッド層に挟まれたp側ガイド層およびn側ガイド層と、
前記p側ガイド層およびn側ガイド層に挟まれ、少なくとも1つの量子井戸層を含む活性層とを備え、
前記p型クラッド層およびn型クラッド層は、それぞれ(Alx1Ga(1−x1)0.51In0.49P層(0≦x1≦1)からなり、
前記p側ガイド層およびn側ガイド層は、それぞれAlx2Ga(1−x2)As層(0≦x2≦1)からなり、
前記量子井戸層は、AlGa(1−y)As(1−x3)x3層(0≦x3≦1,0≦y≦0.3)からなり、
前記AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/4以下を満たす組成を有している、熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項2】
前記Alx2Ga(1−x2)As層は、x2≧0.4を満たす組成を有している、請求項1に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項3】
前記AlGa(1−y)As(1−x3)x3層は、Asの組成(1−x3)に対するPの組成X3の比X3/(1−X3)が、1/9以上1/4以下を満たす組成を有している、請求項1または2に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項4】
発振波長が770nm以上830nm以下であり、かつ前記量子井戸層の膜厚が9nm以上14nm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項5】
レーザ共振器の端面部分に、前記活性層のバンドギャップを拡大する端面窓構造が形成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項6】
前記半導体レーザ素子の厚さ方向が前記導波路の厚さ方向に一致するように、前記導波路および前記半導体レーザ素子が配置されており、前記半導体レーザ素子の光出射端面における光ビームの横断面形状が、前記半導体レーザ素子の厚さ方向が短軸方向となる楕円形状である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項7】
前記半導体レーザ素子の出力光の前記導波路の光入射端面への入射角がブリュースター角となるように、前記導波路および前記半導体レーザ素子が配置されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項8】
前記半導体レーザ素子の光出射端面と前記導波路の光入射端面との間の距離が5μm以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−181905(P2012−181905A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54503(P2011−54503)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】