説明

熱伝導シート

【課題】熱伝導に優れ、かつ耐発塵性に優れた熱伝導シートを提供すること。
【解決手段】熱伝導シートは、膨張黒鉛シートと、該膨張黒鉛シートの上面に形成された膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層とを備えることを特徴とし、該膨張黒鉛シートの下面には、熱硬化性樹脂からなるコーティング層あるいは粘着層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱伝導性を有し、パソコンおよび各種ディスプレイなどの電子機器を含む様々な電気製品の分野で使用することができる熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電気製品の分野では、電気部品の発熱を効率よく冷却する技術が必要とされている。例えば、パソコンの分野では、パソコンの内部にファンを設け、空気を循環させて半導体素子などの発熱部を冷却する方法を採用している。しかし、近年のCPU(中央演算処理装置)の動作周波数の増加に伴って、その発熱量は増大の一途を辿っている。また、近年のパソコン自体の小型化および軽量化に加えて、パソコン使用時の静音化および消費電力低減化の要求も高まっている。そのため、ファンによる空冷方式によらずに、効率良く放熱できる放熱システムが求められている。各種ディスプレイの分野でも同様に、近年の高品質化および高性能化に伴って、その消費電力は増加する傾向にあるため、より効率的な放熱または伝熱システムが必要とされている。より具体的には、プラズマディスプレイでは使用時の発熱による温度上昇を抑えること、その他の有機ELまたは液晶などのディスプレイでは放熱に関する対策が必要とされている。
【0003】
このような状況下、近年、放熱性または伝熱性に優れた熱伝導シートの開発が注目されている。従来の代表的な熱伝導シートとして、アルミナ、シリカなどの無機フィラーと、シリコーンゴムまたはアクリルゴムとを複合化してシート化したものが知られている。この熱伝導シートは、発熱部とヒートシンクまたは筺体との間に配置され、発熱部の熱を外部に伝導するように機能する。また、その熱伝導シートは、柔軟性および密着性に優れるという特徴を有するため、例えば、CPUとヒートシンクとの間などの電気機器の部材間の接触熱抵抗を低く抑えることが可能である。しかし、それら熱伝導シートの熱伝導率は、一般的なものでせいぜい2〜5W/mK程度であるため、熱伝導率をさらに高めたシートの開発が望まれている。
【0004】
そこで、近年、膨張黒鉛シートを熱伝導シートとして使用する試みがなされている(特許文献1および2参照)。膨張黒鉛シートとは、膨張させた黒鉛粉を機械的に圧縮してシート化することによって得られるものであり、かかるシートは、厚さ方向で2〜10W/mK、面方向で50〜500W/mKという高い熱伝導率を有する。また、かかるシートは、可撓性を有し、軽量であり(嵩密度0.5〜1.5g/cm)、耐熱性に優れる(空気中で400℃以上まで安定)という利点を有する。
【特許文献1】特開平11−058591号公報
【特許文献2】特願2004−329034号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように膨張黒鉛シートは、熱伝導シートとして好適となるいくつかの特徴を有する一方で、それらが黒鉛粉を機械的に圧縮して固めただけのものであるため、シート表面から黒鉛粉が離脱(粉落ち)し易い傾向がある。摩擦または振動によって、黒鉛粉の粉落ち、すなわち導電性の粉塵の発生が顕著となると、それらの粉塵によって電子機器の内部でショートなどのトラブルが生じる可能性がある。したがって、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、熱伝導性に優れるとともに、耐発塵性にも優れる熱伝導シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、膨張黒鉛シートと、該膨張黒鉛シートの上面(一方の面)に形成された膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層とを備えることを特徴とする熱伝導シート、あるいは、前記膨張黒鉛シートの下面(他方の面)に粘着層もしくは熱硬化性樹脂からなる膜厚20μm以下のコーティング層をさらに備える熱伝導シートに関する。
【0007】
また、本発明の熱伝導シートは、前記の熱硬化性樹脂が、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂であることが好ましく、前記の粘着層は、支持体と、該支持体の両主面に形成された粘着層とを備え、30μm以下の厚さを有する粘着フィルムからなることが好ましく、また、この粘着フィルムは、1.0KV以上の絶縁破壊電圧を有することが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記粘着フィルムが、前記膨張黒鉛シートの外形よりも大きく、前記粘着フィルムのそれぞれの端部が折り返されて、前記膨張黒鉛シートの側面を被覆している熱伝導シートに関する。
【0009】
また、以上のような本発明の熱伝導シートは、温度傾斜法による厚さ方向の熱抵抗が、7×10−4/K以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明は、(a)膨張黒鉛シートを形成する工程と、(b)前記膨張黒鉛シート表面に膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層を形成する工程とを有する熱伝導シートの製造方法に関する。また、前記工程(b)は、前記膨張黒鉛シート表面に粉末状熱硬化性樹脂を付着させた後に、該粉末状熱硬化性樹脂を加熱溶融させることによって前記膨張黒鉛シート表面を被覆し、引き続き溶融した熱硬化性樹脂を硬化させることによって実施されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性に優れ、電子回路などに有害な導電性の粉塵の発生が効果的に抑制されるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
(膨張黒鉛シート)
本発明の熱伝導シートに使用可能な膨張黒鉛シートは、公知の方法で製造されたものであってよい。膨張黒鉛シートの代表的な製造方法として、天然黒鉛、キッシュ黒鉛などの結晶度の高い黒鉛を、濃硫酸などの酸性物質と硝酸、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤との混合溶液に浸漬し、黒鉛層間化合物を生成させた後に水洗する工程、得られた黒鉛層間化合物を急速に加熱して黒鉛結晶のc軸方向を膨張させることによって膨張黒鉛を生成する工程、得られた膨張黒鉛を圧縮してシート形状に成形する工程を含む方法が知られている。
【0014】
膨張黒鉛シートは、0.1〜1.5mmの範囲の厚さに成形したものを使用することが好ましい。膨張黒鉛シートの厚さが0.1mm未満の場合、シートの強度が不十分となり、取り扱い性が悪く、破損し易くなる傾向がある。一方、膨張黒鉛シートの厚さが1.5mmを超える場合、熱抵抗が大きくなり過ぎ、熱伝導シートとしての特性が低下する傾向がある。
【0015】
膨張黒鉛シートの嵩密度は、0.5〜1.6g/cmの範囲のものを使用することが好ましい。熱伝導シートとして重要な特性となる熱伝導率は、シート材料の嵩密度に比例して変化する。そのため、膨張黒鉛シートの嵩密度が0.5g/cm未満の場合、十分な熱伝導率を達成することが困難となる傾向がある。一方、膨張黒鉛シートの嵩密度が1.6g/cmを超える場合、膨張黒鉛シート本来の特徴である可撓性、柔軟性が低下し、その結果、熱伝導シートとして不適切な材料になってしまう傾向がある。
【0016】
膨張黒鉛シートは、所望の物性を有するように公知の方法に従って製造可能であるが、本発明で使用可能な膨張黒鉛シートは市販品として入手することも可能である。例えば、シート厚さ1.0mmで、嵩密度1.0g/cmの膨張黒鉛シートは、日立化成工業(株)から商品名「カーボフィット」として販売されている。
【0017】
(コーティング層)
本発明による熱伝導シートでは、先に説明した膨張黒鉛シートの一方の主面(上面)に、膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層を備えることを特徴とする。このように、本発明による膨張黒鉛シートでは、シート表面が特定膜厚の樹脂コーティング層によって被覆されることによって、膨張黒鉛シートの利点を低下させることなく、シート表面からの黒鉛粉の離脱(粉落ち)を抑制することが可能である。膨張黒鉛シートの他方の主面(下面)には、同様のコーティング層を追加しても、粘着層(詳細は後述する)を形成してもよい。なお、熱硬化性樹脂からなるコーティング層の膜厚は、20μm以下、より好ましくは10μm以下である。コーティング層の熱伝導率は、通常、膨張黒鉛シートと比較して1桁以上低い。そのため、熱硬化性樹脂からなるコーティング層の膜厚が20μmを超える場合、熱伝導シートの厚さ方向の熱伝導率が大幅に低下することになり、好ましくない。
【0018】
コーティングを形成する熱硬化性樹脂は、特に制限されるものではないが、耐熱性や化学的安定性(経時的に、例えば、吸湿、薬品、あるいはガスなどにより劣化しにくいこと)などの観点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、およびジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、下記一般式(I)で示される構造部位(すなわち、ジヒドロベンゾオキサジン環)を含む樹脂は、特に、耐熱性に優れ、付加反応により硬化が進行するため、揮発性副生成物が発生せず、均一で緻密な樹脂層が形成されることから、好ましい樹脂である。
【化1】

【0019】
このようなジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂としては、下記一般式(A)及び一般式(B)、
【化2】

【0020】
(式中、芳香環に結合する水素はヒドロキシル基のオルト位の一つを除き置換基で置換されていてもよい)
【化3】

【0021】
(式中、Rは炭化水素基であり、芳香環に結合する水素は、置換基で置換されていてもよい)
に示す化学構造単位を含むものが揮発性ガスを抑制する効果が高く好ましく、一般式(A)/一般式(B)のモル比で4/1〜1/9で含むものが耐熱性等の点でより好ましい。これは用いる材料の比率等により調整できる。
【0022】
なお、上記一般式(A)及び一般式(B)で示される化学構造単位における、置換基については特に制限はないが、メチル基、エチル基等のアルキル基などが好ましいものとして挙げられる。また、一般式(A)において、ヒドロキシル基のオルト位の一つは硬化反応のために、水素をもつことが好ましい。前記各化学構造単位の数は、1分子中に含まれる一般式(A)の数をm、一般式(B)の数をnとするとき、m≧1、n≧1かつm+n≧2であればよいが、数平均で10≧m+n≧3であることが硬化物の特性、例えば耐熱性等の点で好ましい。
【0023】
上記各化学構造単位は、互いに直接に結合していてもよく、有機の基を介して結合していてもよい。前記有機の基としては、アルキレン基、キシリレン基等が好ましいものとして挙げられ、アルキレン基としては、
【化4】

【0024】
で示される基(ただし、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基又は置換フェニル基を示す)、炭素原子数が5〜20の鎖状アルキレン基などが挙げられる。これは、用いるフェノール性水酸基を有する化合物(後述)の種類等により選択できる。
【0025】
前記ジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂は、例えば、フェノール性水酸基を有する化合物、ホルムアルデヒド類、第1級アミンから合成することができる。この樹脂は、加熱により開環重合反応を起こし、揮発分を発生させることなく優れた特性を持つ架橋構造を形成する。上記各材料を用いてジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂を作る方法としては、フェノール性水酸基を有する化合物と第1級アミンとの混合物を好ましくは70℃以上に加熱したホルムアルデヒド類中に添加して、好ましくは70〜110℃、より好ましくは90〜100℃で、好ましくは20〜120分反応させ、その後好ましくは120℃以下の温度で減圧乾燥することにより合成することができる。
【0026】
前記フェノール性水酸基を有する化合物としては、フェノールノボラック樹脂、レゾール樹脂、フェノール変性キシレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、メラミンフェノール樹脂、ポリブタジエン変性フェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノール化合物、ビフェノール化合物、トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物などを挙げることができる。ホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの他、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミンのようなホルムアルデヒドを発生するもの等を用いることができる。
【0027】
第1級アミンとしては、具体的にメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂肪族アミン、アニリン、置換アニリン等の芳香族アミンが挙げられる。硬化性の点からは脂肪族アミンが好ましく、耐熱性の点からは芳香族アミンが好ましい。各材料は、フェノール性水酸基を有する化合物、ホルムアルデヒド類及び第1級アミンを、フェノール性水酸基を有する化合物の水酸基1モルに対し第1級アミンを0.2〜0.9モル、ホルムアルデヒドを第1級アミンの2倍モル量以上の比で反応させることが、得られる樹脂の接着性等の面で好ましい。
【0028】
このような樹脂は、日立化成工業(株)製の付加反応型熱硬化性樹脂、商品名「RO樹脂」として入手も可能である。
【0029】
(粘着層)
本発明による熱伝導シートは、膨張黒鉛シートの上面に膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層を備え、膨張黒鉛シートの下面に粘着層を備える構成としてもよい。熱伝導シートに粘着層を設けることによって、シートからの粉落ちを抑制するとともに、熱伝導シートを所望の設置箇所に容易に固定することが可能である。なお、膨張黒鉛シートの両面にコーティング層を設けた場合には、コーティング層の一方の上に粘着層を設けることによって、上記と同様の効果が得られる。粘着層は、特に限定されるものではなく、当技術分野で公知の技術に従って、例えばアクリルゴムなどの粘着材を使用して形成することが可能である。本発明の好ましい実施形態では、支持体と、該支持体の両主面にそれぞれ形成された粘着層とを備える粘着フィルムを使用して粘着層を形成する。
【0030】
本発明による熱伝導シートでは、膨張黒鉛シートの下面だけでなく、必要に応じて膨張黒鉛シートの側面にも粘着層を設けてよい。そのような熱伝熱シートを製造する場合には、膨張黒鉛シートの外形よりも大きい粘着フィルムを使用することが好ましい。膨張黒鉛シートからはみ出した粘着フィルムのそれぞれの端部をコーティング層に向かって上方に折り返すことによって、膨張黒鉛シートの側面を容易に被覆することが可能となる。このように、膨張黒鉛シートの側面を粘着フィルムで被覆することによって、シート側面からの粉落ちについても抑制することが可能となる。
【0031】
粘着フィルムの構成材料は、特に制限されるものではなく、公知の材料から形成することが可能である。例えば、支持体にはポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子フィルムを使用し、粘着層にはアクリルゴムなどの粘着材を使用することが好ましい。なお、粘着フィルム全体の膜厚は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。また、粘着フィルムは、1.0kV以上の絶縁破壊電圧を有することが好ましい。本明細書中で使用する用語「絶縁破壊電圧」とは、電極間に測定シートを挟んで、電圧を0から上昇させていったときに、絶縁が破壊される電圧を指す。絶縁破壊電圧が1.0kV未満の場合、電子機器などの用途において電位差を有する部材間に熱伝導シートを使用すると、短絡が生じる可能性がある。
【0032】
上述のように構成される本発明による熱伝導シートは、優れた熱伝導率および耐発塵性を有するものとなるが、それらの温度傾斜法による厚さ方向の熱抵抗は7×10−4/K以下であることが好ましい。熱伝導シートの熱抵抗が7×10−4/Kを超えると、十分な放熱特性が得られなくなる傾向がある。熱伝導シートの熱抵抗はシートの厚みやシートの熱伝導率によって適切に調整することが可能であり、また、シートの熱伝導率については、基材である膨張黒鉛の嵩比重と、シートの表面層(熱硬化性樹脂層、粘着層)の厚さにより調整することができる。
【0033】
本発明による熱伝導シートの製造方法は、(a)膨張黒鉛シートを形成する工程と、
(b)膨張黒鉛シート表面に膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層を形成する工程とを有することを特徴とする。工程(a)は、当技術分野で公知の方法に従って実施することが可能である。具体的な方法の一例は先に説明したとおりである。一方、工程(b)におけるコーティング層の形成は、均一かつ所望の膜厚を有する被膜を形成することができれば、通常のいかなる成膜方法を適用してもよい。特に限定されるものではないが、本発明による製造方法において、工程(b)は、(b1)膨張黒鉛シート表面に粉末状熱硬化性樹脂を付着させ、次に(b2)粉末状熱硬化性樹脂を加熱溶融させシート表面を被覆し、次いで(b3)溶融した熱硬化性樹脂を硬化させることによって実施することが好ましい。
【0034】
より具体的には、工程(b1)では、例えば、篩によるふりかけ、および静電付着法などの公知の方法を適用することが可能である。粉末状熱硬化性樹脂の付着量は、強固なコーティングを得るためには、0.01〜50g/mの範囲であることが好ましく、0.1〜10g/mの範囲であることがさらに好ましい。工程(b2)では、粉末状熱硬化性樹脂を付着させた膨張黒鉛シート全体を熱硬化性樹脂の融点以上の温度まで加熱し、粉末状熱硬化性樹脂を溶融させることによって、膨張黒鉛シート表面を被覆する。次に、工程(b3)では、溶融した熱硬化性樹脂をそれらの硬化温度までさらに加熱することによって、熱硬化性樹脂を硬化させ、コーティング層を形成する。なお、工程(b1)〜(b3)に沿った方法において、膨張黒鉛シートは予め製品とする密度まで仕上げた状態で粉末状熱硬化性樹脂を付着してもよいが、低密度の状態で樹脂を付着させ、工程(b2)および(b3)による熱処理の後にロールなどを用いて所望の密度まで仕上げてもよい。上述の工程(b1)〜(b3)に沿った方法を適用することによって、薄くて均一な樹脂層を形成することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例によって説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更することが可能である。
【0036】
(実施例1)
厚さが2.0mmおよび嵩密度が0.5g/cmの膨張黒鉛シート(日立化成工業(株)製の商品名「カーボフィット」)の一方の面に、静電塗装機を用いて、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む粉末状の付加反応型熱硬化性樹脂(日立化成工業(株)製の商品名「RO樹脂」)を6g/mの量で付着させた。次いで、片面に樹脂が付着した膨張黒鉛シートを、90℃のトンネル炉を通過させ、樹脂を溶融させることによって、膨張黒鉛シートの表面を溶融樹脂で被覆した積層体を得た。
【0037】
次いで、得られた積層体をロールに通すことによって、1.0mmの厚さに仕上げ、膨張黒鉛シートの嵩密度を1.0g/cmとした。積層体をさらに2時間にわたって160℃に保持し溶融樹脂を硬化させることによって、全体の厚さが1.0mmで、コーティング層の膜厚が5μmの熱伝導シートを作製した。
【0038】
次に、得られた熱伝導シートの裏面(被覆されていない面)に、粘着フィルムを貼り付けることによって、粘着層を追加した。なお、粘着フィルムは、厚さ5μmのPETフィルムを支持体とし、その両主面にそれぞれ5μmのアクリルゴムからなる粘着層を有するものであり、全体で15μmの厚さを有し、その絶縁破壊電圧は1.5kVであった。
【0039】
次に、上述の手順に従って作製した熱伝導シートから50mm角の試験片を切り出し、その粘着層を50mm角のアルミニウム製ヒートシンクに貼り合せて固定した。樹脂コーティング面を50mm角のヒーターに乗せ、ヒーターを65℃に加熱しながら、ヒートシンク表面の温度変化を測定した。また、この試験時に、熱伝導シートからの黒鉛粉の粉落ちの状況を目視によって確認した。これらの結果を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
厚さが1.0mmおよび嵩密度が1.0g/cmの膨張黒鉛シート(日立化成工業(株)製の商品名「カーボフィット」)の片面に、静電塗装機を用いて、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む粉末の付加反応型熱硬化性樹脂樹脂(日立化成工業製の商品名「RO樹脂」)を12g/mの量で付着させた。次いで、片面に樹脂が付着した膨張黒鉛シートを、90℃のトンネル炉を通過させ、樹脂を溶融させることによって、膨張黒鉛シートの表面を溶融樹脂で被覆した積層体を作製した。
【0041】
次いで、作製した積層体を、実施例1と同様にして仕上げ、2時間にわたって160℃に保持し溶融樹脂を硬化させることによって、厚さ10μmのコーティング層を有する熱伝導シートを得た。引き続き、実施例1と同様にして、熱伝導シートの裏面に厚さが15μmの粘着フィルムを貼り付けることによって、熱伝導シートに粘着層を追加した。このようにして得られた熱伝導性シートについて、実施例1と同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
厚さが1.0mmおよび嵩密度が1.0g/cmの膨張黒鉛シート(日立化成工業(株)製の商品名「カーボフィット」)の片面に、静電塗装機を用いて、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む粉末の付加反応型熱硬化性樹脂樹脂(日立化成工業製の商品名「RO樹脂」)を17g/mの量で付着させた。次いで、片面に樹脂が付着した膨張黒鉛シートを、90℃のトンネル炉を通過させ、樹脂を溶融させることによって、膨張黒鉛シートの表面を溶融樹脂で被覆した積層体を作製した。
【0043】
次いで、作製した積層体を、実施例1と同様にして仕上げ、2時間にわたって160℃に保持し溶融樹脂を硬化させることによって、厚さ18μmのコーティング層を有する熱伝導シートを得た。引き続き、実施例1と同様にして、熱伝導シートの裏面に厚さが15μmの粘着フィルムを貼り付けることによって、熱伝導シートに粘着層を追加した。このようにして得られた熱伝導性シートについて、実施例1と同様にして同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
粉末の付加反応型熱硬化性樹脂(日立化成工業(株)製の商品名「RO樹脂」)の付着量を25g/mとした以外は、実施例1と同様の材料を使用し、および実施例1と同様の工程を経て樹脂コーティング層の厚さが25μmの熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートの裏面に、実施例1と同様にして、厚さが15μmの粘着フィルムを貼り付けることによって、粘着層を追加した。このようにして得られた熱伝導性シートについて、実施例1と同様にして同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
1.0mmおよび嵩密度が1.0g/cmの膨張黒鉛シート(日立化成工業(株)製の商品名「カーボフィット」)の片面に、実施例1と同様にして、厚さが15μmの粘着フィルムを貼り付けることによって熱伝導シートを作製した。このようにして得られた、樹脂コーティング層を持たない熱伝導性シートについて、実施例1と同様にして同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(実施例4)
厚さが1.0mmおよび嵩密度が1.0g/cmの膨張黒鉛シート(日立化成工業(株)製の商品名「カーボフィット」)を使用し、それ以外は実施例1と同様の材料を使用し、および実施例1と同様の工程を経て、樹脂コーティング層の厚さが5μmの熱伝導シートを作製した。
【0047】
次に、得られた膨張黒鉛シートから50mm角の試験片を切り出し、熱伝導シートの裏面に、縦横の寸法を60mmの大きさに切断した粘着フィルムを貼り付けることにより、膨張黒鉛シートの外周の各辺から粘着フィルムが5mmずつはみだした状態とした。なお、粘着フィルムは、厚さ5μmのPETフィルムを支持体とし、その両主面に5μmのアクリルゴムからなる粘着層を有するものであり、全体の厚さが15μmであった。次に、粘着フィルムのはみ出し部をそれぞれ樹脂コーティング層の方向に向かって折り返すことによって、膨張黒鉛シートの側面を粘着フィルムで被覆した。このようにして得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様にして同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
注:粉落ちの程度は以下の基準に従った
◎:粉落ちがない
○:粉落ちがほとんどない(極僅かな粉落ちが確認できる)
×:粉落ちが観測される
表1から明らかなように、コーティング層の膜厚が所定の範囲内となる場合は(実施例1〜4)、膜厚が範囲外となる場合(比較例1)と比較して、熱抵抗が小さく、放熱特性に優れている。また、熱伝熱シートがコーティング層を有する場合には、粉落ちが抑制されているのに対し、コーティング層を持たない熱伝導シート(比較例2)では、黒鉛粉の著しい粉落ちが見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛シートと、該膨張黒鉛シートの上面に形成された膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層とを備えることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記膨張黒鉛シートの下面に熱硬化性樹脂からなる膜厚20μm以下のコーティング層をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記膨張黒鉛シートの下面に粘着層をさらに備えることを特徴とする、請求項1または3に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記粘着層が、支持体と、該支持体の両主面に形成された粘着層とを備え、30μm以下の厚さを有する粘着フィルムからなることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記粘着フィルムが、前記膨張黒鉛シートの外形よりも大きく、前記粘着フィルムのそれぞれの端部が折り返されて、前記膨張黒鉛シートの側面を被覆していることを特徴とする、請求項5に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記粘着フィルムが、1.0KV以上の絶縁破壊電圧を有することを特徴とする、請求項5または6に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
温度傾斜法による厚さ方向の熱抵抗が、7×10−4/K以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項9】
(a)膨張黒鉛シートを形成する工程と、
(b)前記膨張黒鉛シート表面に膜厚20μm以下の熱硬化性樹脂からなるコーティング層を形成する工程と
を有することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
前記工程(b)が、前記膨張黒鉛シート表面に粉末状熱硬化性樹脂を付着させた後に、該粉末状熱硬化性樹脂を加熱溶融させることによって前記膨張黒鉛シート表面を被覆し、引き続き溶融した熱硬化性樹脂を硬化させることによって実施されることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−83716(P2007−83716A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227033(P2006−227033)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】