説明

熱可塑性樹脂成形品の成形方法

【課題】 本発明は、熱可塑性樹脂成形品の成形方法において、溶融状態の樹脂に含まれる補強繊維の挙動の特性を利用して、スキン層又は成形品の曲げやねじり等の荷重に対する強度を向上すると共に、外観性を向上させる。
【解決手段】 コア層Bとスキン層Aとを有する熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、第1の熱可塑性樹脂ペレット材xと、該ペレット材xより成形溶融温度において低粘度かつ結晶化速度が遅く、かつ補強繊維G…Gを含有する第2の熱可塑性樹脂ペレット材yとの混合材を用い、前記第1のペレット材xでコア層Bを、第2のペレット材yでスキン層Aをそれぞれ成形する。スキン層Aの結晶化が遅れる間に、スキン層Aの表面に露出する補強繊維G1〜G4が沈降する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を用いた成形品の成形方法に関し、成形技術の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
各種樹脂成形品においては、強度と外観性との両立が要求されることがある。このような要求に対して、特許文献1には、結晶化速度の異なる樹脂でなるペレット材を、ペレット材の状態で混合し、この混合ペレットのまま溶融させて射出成形し、結晶化速度の遅い樹脂でなるスキン層と結晶化速度の速い樹脂でなるコア層とを有する成形品を得るものが開示されている。
【0003】
この方法によれば、予備混練などを行わずに、前記ペレット材を混合したものをそのまま射出成形機により溶融させ、射出成形することにより、異種材料同士の混合分散性が低くなり、このことが結晶化速度の遅い樹脂の分散性を低下させる。この結果、結晶化速度の遅い樹脂を不均一に存在させることになり、この樹脂が特に成形物の表面に偏在化することになって、表面に結晶化速度の遅い樹脂でなるスキン層が形成され、このスキン層により成形品表面の平滑化が図られることになる。
【0004】
また、前記特許文献1には、スキン層による成形品表面の平滑性を損なわずに該成形品の強度を向上する方法として、結晶化速度の速い樹脂にガラス繊維等の補強繊維を混入することが開示されている。このとき、結晶化速度の速い樹脂に補強繊維が混入されるので、補強繊維がコア層に含まれることになる。そして、補強繊維がコア層の表面に露出した状態で該コア層が結晶化しても、スキン層により該コア層の外周が覆われているので、成形品表面の平滑性が確保され、成形品の強度と外観性との両立が実現されることになる。
【特許文献1】特開2001−246636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に記載の方法では、成形品の強度と外観性とを両立させることができるのであるが、補強繊維を結晶化速度の速い樹脂に混入させて該補強繊維によりコア層の強度を向上させることにより成形品の強度を向上させるようにしているので、スキン層に大きな応力が発生する曲げやねじりなどの荷重に対する強度は十分でなく、これらの荷重に対してスキン層に亀裂等が生じるおそれがある。
【0006】
また、成形品の軽量化を図るために、コア層が発泡材料で構成される場合がある。この場合には、該コア層に空隙が形成されることになるので、成形品の強度が低下することになる。そして、このようなコア層を発泡材料で構成するものであっても、成形品の十分な強度を確保することが求められることがある。
【0007】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂成形品の成形方法において、溶融状態の樹脂に含まれる補強繊維の挙動の特性を利用して、スキン層又は成形品の曲げやねじり等の荷重に対する強度を向上すると共に、外観性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、コア層とスキン層とを有する熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、第1の熱可塑性樹脂ペレット材と、該ペレット材より成形溶融温度において低粘度かつ結晶化速度が遅く、かつ補強繊維を含有する第2の熱可塑性樹脂ペレット材との混合材を用い、前記第1のペレット材でコア層を、第2のペレット材でスキン層をそれぞれ成形することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、射出成形、押出成形、及びブロー成形のいずれかの成形方法を用いることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第1のペレット材は、発泡剤を含有することを特徴とする。
【0012】
なお、前記発泡剤は、化学発泡剤、又は微細発泡成形で用いられる超臨界状態の二酸化炭素、窒素などである。
【0013】
次に、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第1のペレット材は、ホモPP(ポリプロピレン)であると共に、前記第2のペレット材は、ブロックPPまたはランダムPPであることを特徴とする。
【0014】
次に、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第1のペレット材は、PPであると共に、前記第2のペレット材は、酸変性PPであることを特徴とする。
【0015】
次に、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第1のペレット材は、直鎖状PA(ポリアミド)であると共に、前記第2のペレット材は、分岐状PAであることを特徴とする。
【0016】
次に、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第2のペレット材は、密度が0.925(g/cm)以下の低密度PEであることを特徴とする。
【0017】
次に、請求項8に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第2のペレット材は、PLA(ポリ乳酸)であることを特徴とする。
【0018】
そして、請求項9に記載の発明は、前記請求項1から請求項8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、前記第2のペレット材は、結晶化速度遅延材を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、第2の熱可塑性樹脂ペレット材は、第1の熱可塑性樹脂ペレット材に比べて成形溶融温度において低粘度であるから、溶融時の流動性が高く、これらのペレット材の樹脂が溶融した状態で表面側に流動し易くなって、成形品の表面に第2の熱可塑性樹脂ペレット材でなるスキン層が形成される。また、スキン層の内部側には、結晶化速度が比較的速い第1の熱可塑性樹脂ペレット材でなるコア層が形成されることになる。
【0020】
ところで、第2の熱可塑性樹脂ペレット材には、補強繊維が混入されているので、成形品の表面にも補強繊維が分散することになる。しかしながら、溶融状態の樹脂に含まれる補強繊維の挙動の特性として、樹脂表面に露出する補強繊維が樹脂内に沈降することになる。
【0021】
そして、第2の熱可塑性樹脂ペレット材は、第1の熱可塑性樹脂ペレット材に比べて結晶化速度が遅いので、補強繊維が樹脂内に沈降するための時間が確保される。この結果、補強繊維が成形品表面に露出することがなくなって、成形品の外観性が向上されることになる。このように、本発明によれば、成形品の強度と外観性とが両立されることになる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、射出成形、押出成形、及びブロー成形のいずれかの成形方法により成形品が成形され、これらの成形方法においては成形に伴う溶融樹脂の流動状態を確実かつ十分に確保可能であるから、前記スキン層とコア層とを確実に分離させることができる。
【0023】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記第1のペレット材に発泡剤を含有させることによって、コア層に空隙を形成して成形品の軽量化が実現される。そして、前記請求項1に記載の発明によりスキン層の強度が向上されるので、成形品の軽量化と強度確保とが両立されることになり、しかも、外観性を損なうこともない。
【0024】
また、請求項4から請求項8に記載の発明は、前記第1のペレット材又は第2のペレット材として用いられる材料の具体的態様である。
【0025】
まず、請求項4に記載の発明では、ホモPPは結晶化速度が速いから第1のペレット材として用い、ブロックPPまたはランダムPPは結晶化速度が遅いから第2のペレット材として用いる。また、請求項5に記載の発明では、PPは結晶化速度が速いから第1のペレット材として用い、酸変性PPは結晶化速度が遅いから第2のペレット材として用いる。さらに、請求項6に記載の発明では、直鎖状PAは結晶化速度が速いから第1のペレット材として用い、分岐状PAは結晶化速度が遅いから第2のペレット材として用いる。また、請求項7に記載の発明では、密度が0.925(g/cm)以下の低密度PEは結晶化速度が遅いから第2のペレット材として用いる。さらに、請求項8に記載の発明では、PLAは結晶化速度が遅いから第2のペレット材として用いるようになっている。
【0026】
そして、これらの材料を用いることによって、前記請求項1に記載の発明の作用効果が確実に得られることになる。
【0027】
さらに、請求項9に記載の発明によれば、第2のペレット材に結晶化速度遅延材を含有させることによって、簡単な方法でスキン層の結晶化を確実に遅らせることができるので、スキン層の表面に露出する補強繊維を確実にコア層側に確実に沈降させる作用が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、成形装置1の構成を示す概略全体図である。この装置1は、外筒11及びスクリュー軸12が備えられた周知構造のスクリューフィーダ10を有し、該フィーダ10の後端部(図1における右側)近傍にペレット材の投入ホッパ13が設けられた構造である。前記スクリュー軸12の先端部には、チェックリング14及び円錐形状のヘッド15が設けられ、前記外筒11の先端部も該ヘッド15の形状に呼応して円錐形状に絞られており、その先端にはノズル16が設けられている。
【0030】
また、前記外筒11の先端側には、金型装置20が配設されている。前記金型装置20は、固定型21と、該固定型21に対して移動可能とされた可動型22とを有すると共に、図示しない型締め機構や射出圧縮・拡張機構を有している。また、金型装置20の固定型21と可動型22との間には、型締めされたときに成形品の形状となるキャビティ23が形成される。そして、前記固定型21に前記ノズル16が接続されていると共に、該固定型21には前記ノズル16の接続部からキャビティ23に連通する通路(ホットランナー)21aが形成されている。
【0031】
一方、図2に示すように、前記投入ホッパ13から投入されるペレット材は、熱可塑性樹脂でなる第1ペレット材Xと、該第1ペレット材Xよりも成形溶融温度において低粘度であると共に結晶化速度が遅い熱可塑性樹脂でなり、ガラス繊維G…Gを含有する第2ペレット材Yとを混合した混合材Zとなっている。なお、第1、第2ペレットX,Yが互いに混合され難い材料が用いられている場合は、混合材Zに分散剤を含有させることになる。
【0032】
そして、図2に示すように、投入ホッパ13に投入された混合材Zは、図示しないヒータにより加熱溶融されると共に、スクリュー軸12の回転により第1ペレット材Xの溶融樹脂x及び第2ペレット材Yの溶融樹脂yが混合されつつ前方に圧送され、ノズル16から射出されることになる。そして、射出された溶融樹脂x,yは、前記固定型21の通路21aに導入されることになるが、このとき、第2ペレット材Yの溶融樹脂yは成形溶融温度において低粘度であるから流動性が高く、その結果、図3に拡大して示すように、第1ペレット材Xの溶融樹脂xの外部側に第2ペレット材Yの溶融樹脂yによる層が形成された状態となる。
【0033】
この後、図4に示すようにキャビティ23内に第1、第2ペレット材X,Yの溶融樹脂x,yが充填されたときに、図5に示すように、外部側、即ち固定型21又は可動型22に対接する部位に第2ペレット材Yの溶融樹脂yでなるスキン層Aが形成されると共に、内部側に第1ペレット材Xの溶融樹脂xでなるコア層Bが形成されることになる。このとき、スキン層Aの表面側に露出して固定型21または可動型22に当接するガラス繊維G1〜G4が存在している。
【0034】
そして、前記コア層Bは結晶化速度が比較的速い第1ペレット材Xの溶融樹脂xでなるため、速やかに凝固することになるが、スキン層Aは結晶化速度が遅い第2ペレット材Yの溶融樹脂yでなるため、コア層Bが結晶化した後、所定時間溶融状態が維持される。この間、図6に示すように、スキン層Aの表面に露出するガラス繊維G1〜G4がスキン層Aの内部側(コア層側)に沈降し、この後、ガラス繊維G1〜G4が沈降した状態でスキン層Aが結晶化することになる。
【0035】
このようにしてスキン層A及びコア層Bが共に結晶化した後、型開きされて成形品Cが取り出されることになるが、該成形品Cの表面側に形成されるスキン層Aにガラス繊維G…Gが含まれているので、成形品Cのスキン層Aの強度が向上されて、該スキン層Aに大きな応力が作用する曲げやねじり等の荷重に対する剛性を向上させることができると共に、前述のようにスキン層Aは表面に露出したガラス繊維G1〜G4がコア層B側に沈降した後結晶化するので、図7に示すように、成形品Cの表面Csにガラス繊維G…Gが露出することがなくなって、成形品表面Csが平滑化され、外観性を向上させることになる。なお、第2ペレット材Yに含有させる補強繊維は、前記ガラス繊維G…Gに限らず、カーボン繊維等であってもよい。
【0036】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0037】
この実施形態は、前記第1の実施の形態に対して、発泡セルs…sを発現させるための発泡剤が第1ペレット材X′に含有されている点で異なるものであり、装置構成等は同様である。
【0038】
図8に示すように、この実施の形態では、第1ペレット材X′の溶融樹脂x′は、高圧の外筒11内においては発泡セルs…sを発現させることはないが、該溶融樹脂x′,yがノズル16から通路21aに導入され、大気圧環境となったときに該溶融樹脂x′内に発泡セルs…sを発現させることになる。そして、溶融樹脂x′,yがキャビティ23内に充填されたときに、発泡セルs…sを有するコア層Bが形成される。
【0039】
そして、この実施形態においては、図9に示すように、コア層Bに発泡セルs…sが形成されて、成形品の軽量化が図られると共に、この発泡セルs…sの形成による強度低下が前述したスキン層Aのガラス繊維G…Gの補強により補われるので、成形品の軽量化と強度確保とが両立され、しかも、成形品表面が平滑化され、外観性が向上したものとなる。
【0040】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0041】
この実施形態は、所謂Mucell発泡により成形品のコア層Bに発泡セルs…sを形成させるものである。図10に示すように、このときの装置1′の構成は、前記第1の実施の形態のものと同様の構成であって、外筒11の中間部に二酸化炭素(CO)又は窒素(N)の超臨界流体を供給する装置30の出力部分が接続された第1スクリューフィーダ10と、該フィーダ10と同様の構成であって、ノズル16′の先端が第1スクリューフィーダ10の外筒11の先端部近傍に接続される第2スクリューフィーダ10′とを備えたものである。
【0042】
ここで、図11に示すように、前記超臨界流体とは、期待と液体とは共存できる限界の温度(臨界温度)及び圧力(臨界圧力)を超えた状態にある流体のことで、前記臨界温度は、二酸化炭素で31℃、窒素でマイナス147℃であり、前記臨界圧力は、二酸化炭素で7.4MPa、窒素で3.4MPaである。超臨界状態にある流体は、密度が液体に近く、流動性が気体に近い特性を有し、この結果、溶融樹脂中を活発に移動して樹脂分子の奥深くまで均一に拡散・浸透し、微細発泡の種になり得るのである。
【0043】
一方、前記第1スクリューフィーダ10の投入ホッパ13には、前記第1の実施の形態と同様の第1ペレット材Xが投入され、第2スクリューフィーダ10′のホッパ13′には、同じく同様の第2ペレット材Yが投入される。
【0044】
そして、第1ペレット材Xは外筒11内で溶融されつつスクリュー軸12の回転により前方に送られるが、この途中で前記装置30から超臨界状態のCO又はNが外筒11内に供給されるため、超臨界状態のCO又はNが第1ペレット材Xの溶融樹脂xに混入されることになる。
【0045】
次に、第1スクリューフィーダ10の外筒11の先端部近傍において、第2スクリューフィーダ10′のノズル16′から第2ペレットYの溶融樹脂yが供給され、この先端部近傍において第1ペレットXの溶融樹脂xと第2ペレットYの溶融樹脂yとが混合され、溶融樹脂x,yがノズル16から通路21aに射出される。このとき、これらの溶融樹脂x,yが大気圧環境となるため、超臨界状態であったCO又はNが発泡セルs…sとして発現する。そして、溶融樹脂x,yが通路21aからキャビティ23に供給され、該キャビティ23が溶融樹脂x,yで充填された結果、前記第2の実施の形態と同様に、第1ペレット材Xの溶融樹脂xでなるコア層Bに発泡セルs…sが形成される。なお、第2ペレットYの溶融樹脂yには前記超臨界流体を混入させたくないという要請があるため、第1スクリューフィーダ10の外筒11の先端部において、該外筒11内に溶融樹脂yを混入させるようにしている。
【0046】
この実施形態においても、前記第2の実施の形態と同様の作用効果が得られ、得られた成形品の、軽量化、強度、及び外観性が両立されることになる。
【0047】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。
【0048】
この実施形態は、押出成形装置101により成形品を得るものである。図12に示すように、この装置101は、前記第1の実施の形態で示したものと同様のスクリューフィーダ110を備え、該フィーダ110のノズル116の先端にダイス120が接続されたものである。
【0049】
そして、投入ホッパ113に前記第1、第2ペレット材X,Yの混合材Zが投入され、これらのペレット材X,Yが外筒111内で溶融しつつ、溶融樹脂x,yがスクリュー軸112の回転により前方に圧送される。次に、これらの溶融樹脂x,yがノズル116からダイス120に導入されて、該ダイス120により所定の断面形状に成形が行われ、帯状の成形品C′が得られることになる。
【0050】
図13に示すように、得られた帯状の成形品C′の断面形状は、表面及び裏面側に第2ペレット材Yの溶融樹脂yによるスキン層Aが形成され(図示しないが成形品C′の側面にもスキン層Aは形成されている)、内部側に第1ペレット材Xの溶融樹脂xによるコア層Bが形成されている。そして、この場合も、スキン層Aの表面に露出するガラス繊維G…Gがスキン層Aの結晶化が遅れる間にコア層B側に沈降することになる。
【0051】
この結果、得られた帯状の成形品C′は、スキン層Aにガラス繊維G…Gが含有されているので、成形品C′の曲げやねじりに対する強度が向上し、また、スキン層Aの表面にガラス繊維G…Gが露出することがないので、成形品C′の表面が平滑化され、外観性が向上することになる。
【0052】
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。
【0053】
この実施形態は、ブロー成形装置により成形品を得るものである。図14に示すように、この装置201は、前記第1の実施の形態で示したものと同様のスクリューフィーダ210を備え、該フィーダ210のノズル216の先端に二重円筒型のダイス220が接続されたものである。
【0054】
そして、投入ホッパ113に前記第1、第2ペレット材X,Yの混合材Zが投入され、これらのペレット材X,Yが外筒211内で溶融しつつ、溶融樹脂x,yがスクリュー軸212の回転により前方に圧送される。次に、これらの溶融樹脂x,yがノズル216からダイス220に導入され、ダイス210により円筒状のパリソンPに成形されることになる。この後、パリソンPが金型230,230で挟まれると共に、パリソンP中に空気が吹き込まれる。この空気によりパリソンPは膨張し、金型230,230の壁面と接触して成形品の形状となる。
【0055】
図15に示すように、パリソンPの断面形状は、表面及び裏面側に第2ペレット材Yの溶融樹脂yによるスキン層Aが形成され、内部側に第1ペレット材Xの溶融樹脂xによるコア層Bが形成されている。そして、この場合も、スキン層Aの表面に露出するガラス繊維G…Gがスキン層Aの結晶化が遅れる間にコア層B側に沈降することになる。
【0056】
この結果、得られた円筒状の成形品は、スキン層Aにガラス繊維G…Gが含有されているので、成形品の曲げやねじりに対する強度が向上し、また、スキン層Aの表面にガラス繊維G…Gが露出することがないので、成形品表面が平滑化され、外観性が向上することになる。
【0057】
なお、前記各実施の形態においては、溶融樹脂をスクリュー軸の回転により前方に圧送する構造のものを示したが、シリンダの制御により外筒内でピストンを移動させることにより溶融樹脂を圧送する構造であってもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の各実施例においては、射出成形装置として、東芝機械(株)製の型締力220トンのものを用い、試験片は100×100mmの平板とした。
【0059】
[第1の実施例]
この実施例では、以下の表1に示すように、第1ペレットとしてホモPP(PP:ポリプロピレン)を配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するブロックPPを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとしてホモPPを配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するホモPPを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0060】
前記ブロックPPは、前記ホモPPよりも結晶化速度が遅い材料である。なお、前記ホモPP樹脂としては、出光石油化学(株)製の商品名「MFR21」を使用し、前記ブロックPP樹脂としては、チッソ(株)製の商品名「MFR50」を使用した。
【0061】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。なお、前記ブロックPP樹脂に代えて、ランダムPPを用いて実験を行ったときも同様の観察結果が得られた。
【表1】

[第2の実施例]
この実施例では、以下の表2に示すように、第1ペレットとしてホモPPを配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有する酸変性PPを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとしてホモPPを配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するホモPPを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0062】
前記酸変性PPは、前記ホモPPよりも結晶化速度が遅い材料である。なお、前記酸変性PP樹脂としては、三井化学(株)製の商品名「アドマー」を使用した。
【0063】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。
【表2】

[第3の実施例]
この実施例では、以下の表3に示すように、第1ペレットとしてPA9T・A(PA:ポリアミド)を配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するPA9T・Cを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとしてPA9T・Aを配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するPA9T・Aを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0064】
前記PA9T・Cは、前記PA9T・Aよりも結晶化速度が遅い材料である。なお、前記PA9T・Aとしては、(株)クラレ製の直鎖が多いタイプのものを使用し、PA9T・Cとしては、同じく(株)クラレ製の分岐が多いタイプのものを使用した。
【0065】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。
【表3】

[第4の実施例]
この実施例では、以下の表4に示すように、第1ペレットとしてホモPPを配合率45%、分散材としてEPRを配合率10%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するLDPE(LDPE:低密度ポリエチレン)を配合率45%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとしてホモPPを配合率45%、分散材としてEPRを配合率10%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するホモPPを配合率45%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0066】
前記LDPEは、前記ホモPPよりも結晶化速度が遅い材料である。なお、前記LDPEは、密度が0.925以下の低密度PEである。また、前記分散材EPRとしては、JSR(株)製の商品名「EP02P」が使用される。
【0067】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。
【表4】

[第5の実施例]
この実施例では、以下の表5に示すように、第1ペレットとしてPBT(PBT:ポリブチレンテレフタレート)を配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するPLA(PLA:ポリ乳酸)を配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとしてPBTを配合率50%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するPBTを配合率50%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0068】
前記PLAは、前記PBTよりも結晶化速度が遅い材料である。
【0069】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。
【表5】

[第6の実施例]
この実施例では、以下の表6に示すように、第1ペレットとして発泡剤入りのホモPPを配合率45%、分散材としてEPRを配合率10%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するLDPEを配合率45%とした混合材を用いて成形した成形品に対して表面外観の目視観察を行った。また、比較例では、第1ペレットとして発泡剤入りのホモPPを配合率45%、分散材としてEPRを配合率10%、第2ペレットとしてガラス繊維を40%含有するホモPPを配合率45%とした混合材を用いて成形した成形品に対して同様の観察を行った。
【0070】
前記LEPEは、前記ホモPPよりも結晶化速度が遅い材料である。なお、前記発泡剤としては、永和化成工業(株)製の商品名「ポリスレン」が使用される。
【0071】
このときの目視観察の結果、実施例では成形品の表面は平滑化されており、良好な外観が確認されたのに対して、比較例では成形品の表面にガラス繊維が露出し、表面粗さが確認された。
【表6】

【0072】
以上、前記各実施例に示したように、第1ペレット材と第2ペレット材とが、結晶化速度の異なる熱可塑性樹脂で構成され、結晶化速度の遅い方の第2ペレット材の樹脂にガラス繊維を混入するようにしたので、結晶化が遅れる間に、ガラス繊維をスキン層内で沈降させることができ、成形品表面の平滑性が向上し、外観性が向上すると共に、ガラス繊維によりスキン層の強度を向上させることができるので、成形品の曲げ等に対して剛性が向上する。
【0073】
また、前記第6の実施例では、第1ペレット材に発泡剤を含有させたので、成形品のコア層に発泡セルが形成されて軽量化が図られる。このとき、発泡セルの存在により成形品の剛性は低下するのであるが、ガラス繊維で表面側を補強することにより、前記剛性の低下が補われ、成形品の軽量化と剛性確保とが両立されることになる。
【0074】
また、前記各実施例においては、第1、第2ペレット材として結晶化速度の異なる材料を用いるものであるが、同一材料を用いて、一方に結晶化遅延剤を含有させることによっても、同様の作用効果が得られる。この場合に使用される結晶化遅延剤としては、例えばオリエント化学工業(株)の商品名「CRAMITY81(ニグロシン系結晶化遅延剤)」などである。なお、前記各実施例のように異なる結晶化速度の材料を用いる場合に、結晶化速度の遅い方の材料に前記結晶化遅延剤を含有させ、確実に結晶化を遅らせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、熱可塑性樹脂を用いた成形品の成形方法に関し、樹脂成形品の強度と外観性との両立が可能であるから、製造産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る射出成形装置の全体図である。
【図2】溶融樹脂の流動状態の説明図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】キャビティに充填された溶融樹脂の説明図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】スキン層におけるガラス繊維の沈降の説明図である。
【図7】成形品の表面の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る射出成形装置の全体図である。
【図9】図8の要部拡大図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る射出成形装置の全体図である。
【図11】超臨界流体の説明図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態に係る押出成形装置の全体図である。
【図13】図12の要部拡大図である。
【図14】本発明の第5の実施の形態に係るブロー成形装置の全体図である。
【図15】図14の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0077】
A スキン層
B コア層
G ガラス繊維
X 第1ペレット材
Y 第2ペレット材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層とスキン層とを有する熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
第1の熱可塑性樹脂ペレット材と、該ペレット材より成形溶融温度において低粘度かつ結晶化速度が遅く、かつ補強繊維を含有する第2の熱可塑性樹脂ペレット材との混合材を用い、
前記第1のペレット材でコア層を、第2のペレット材でスキン層をそれぞれ成形することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
射出成形、押出成形、及びブロー成形のいずれかの成形方法を用いることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1のペレット材は、発泡剤を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1のペレット材は、ホモPPであると共に、
前記第2のペレット材は、ブロックPPまたはランダムPPであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1のペレット材は、PPであると共に、
前記第2のペレット材は、酸変性PPであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第1のペレット材は、直鎖状PAであると共に、
前記第2のペレット材は、分岐状PAであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項7】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第2のペレット材は、密度が0.925(g/cm)以下の低密度PEであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項8】
前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第2のペレット材は、PLAであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。
【請求項9】
前記請求項1から請求項8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形品の成形方法であって、
前記第2のペレット材は、結晶化速度遅延材を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2007−276274(P2007−276274A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105885(P2006−105885)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】