説明

熱可塑性樹脂成形品

【課題】 生分解性樹脂を含む樹脂組成物の耐衝撃強度と耐熱性のバランス、成型品外観改良。
【解決手段】 生分解性樹脂(A)1〜99重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られた熱可塑性樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃強度と耐熱性のバランスに優れた熱可塑性樹脂成型品に関するものであり、ウェルド等が発生しにくく、成型品外観に優れ、金型に加工されたシボパターンなどの凹凸を容易に成形品表面に複写させることが可能な熱可塑性樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球的規模での環境問題として、石油化学製品の使用増加による石油資源の将来性が危ぶまれている。例えば、ポリ乳酸樹脂は植物であるとうもろこしや芋類を原料として得られる乳酸からなる樹脂であり、生分解性を有する一方で上記石油を原料としない環境対応型の樹脂として知られる。しなかしながら、ポリ乳酸樹脂は、その生分解性から、特に高湿度環境下において長期使用に耐え得る耐久性が懸念され、またノッチ付き衝撃強度および、耐熱性に劣るといった欠点がある。
さらにポリ乳酸樹脂は、170℃の融点を有しているが、結晶化速度が遅いため充分な結晶化度が得られず、耐熱性に劣ると言った欠点がある。
一般にポリ乳酸の結晶性を改良する手段として、金型温度をポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度で、冷却温度を長時間とり成型する方法があるが、金型から離型する際、成型品が変形しやすく、またバリやヒケなどが発生しやすく、外観が良好な成型品は得られにくいという問題があった。
この場合、ポリ乳酸の結晶化速度を早くする方法として、タルクやリン酸エステル金属塩、無機アルミニウム化合物等の無機系結晶核剤を使用する方法(特許文献1、2)が提案されているが、上述の成型品が変形するという問題は改善されず、有効ではなかった。
一方、ABS樹脂は、優れた物性バランスおよび成形加工性を有しており、広範な分野に利用されている。
このため、例えば特許文献3には、脂肪族ポリエステル構造を持つ重合体とABS樹脂を含むポリオレフィンを配合して、自然環境の中で崩壊する高分子の改良技術が提案されている。しかしながら、これら組成物は、耐衝撃性等の物性バランスが不充分で、高湿度環境下での成形品の成形及び使用において樹脂の崩壊や劣化が危惧されるほか、物性安定性について、特に生分解性樹脂の配合比が多い場合には、必ずしも満足できる材料とは言い難い。
また、特許文献4では、ポリ乳酸とABS樹脂のアロイに、カルボジイミド化合物等の耐湿熱剤の使用が提案されているが、耐衝撃性等の物性バランスにおいて不十分である。
さらに特許文献5、6には、ポリ乳酸とメタアクリル酸エステル系重合体からなる樹脂組成物が提案されているが、耐衝撃性が低いという問題がある。
さらには特許文献7には、ポリ乳酸とポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂からなる樹脂組成物が、また特許文献8には、ポリ乳酸とポリブチレンテレフタレート樹脂、さらにはポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂組成物が提案されているが、それぞれ耐衝撃性等の物性バランスに劣るという問題がある。
【特許文献1】特開2003−192884号公報
【特許文献2】特開2003−192883号公報
【特許文献3】特開2000−327847号公報
【特許文献4】特開2005−60637号公報
【特許文献5】特開2004−269720号公報
【特許文献6】特開2005−171204号公報
【特許文献7】特開2006−28299号公報
【特許文献8】特開2006−8868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、生分解性樹脂を含む樹脂組成物における上記の品質上の問題点の改良について鋭意検討した結果、生分解性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂とからなる組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られた熱可塑性樹脂成型品が、耐衝撃強性と耐熱性に優れて、ウェルド等が発生しにくく、成型品外観に優れ、金型に加工されたシボパターンなどの凹凸を容易に成形品表面に複写させることが可能な熱可塑性樹脂成形品であることを見い出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、生分解性樹脂(A)1〜99重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、耐衝撃強度と耐熱性のバランスに優れた熱可塑性樹脂成型品に関するものであり、ウェルド等が発生しにくく、成型品外観に優れ、金型に加工されたシボパターンなどの凹凸を容易に成形品表面に複写させることが可能な熱可塑性樹脂成形品が得られるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する生分解性樹脂(A)としては、ポリエステル系の樹脂であり、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、およびポリブチレンサクシネート・カーボネート等のポリアルキレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネートが好ましい。市販されているこれら生分解性樹脂としては、例えば三井化学(株)製 商品名:レイシア、ユニチカ(株)製 商品名:テラマック、昭和高分子(株)製 商品名:ビオノーレ、BASF社製 商品名:エコフレックス、デュポン社製 商品名バイオマックス、(株)日本触媒製 商品名:ルナーレ、三菱瓦斯化学(株)製 商品名:ユーペック等が挙げられる。
【0008】
また、本発明に用いるゴム強化スチレン系樹脂(B)とは、ゴム状重合体の存在下にスチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体の1種または2種以上とを共重合してなる樹脂である。
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成することのできるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエンースチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、ポリクロロプレンなどのジエン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1−非共役ジエン共重合体、またポリブチルアクリレートなどのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム、さらにはこれらの2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち、特にジエン系ゴムが好ましい。
【0009】
スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、またスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体と共に用いることのできる他の共重合可能な単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル等の不飽和酸系単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられ、それらはそれぞれ一種又は二種以上用いることができる。
【0010】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成するゴム状重合体と単量体合計(スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体および他の共重合可能な単量体)との組成比率には制限はないが、組成物の加工性、物性のバランス面、特に耐衝撃性の面より、ゴム状重合体5〜70重量%、単量体合計95〜30重量%であることが好ましい。
本発明にて使用される上記のゴム強化スチレン系樹脂(B)の製造方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせの方法により得ることができる。
【0011】
本発明において用いられる(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)とは、アクリル酸エステル単量体、またはメタアクリル酸エステル単量体の単独重合体、または2種以上の共重合体である。
【0012】
アクリル酸エステル単量体、またはメタアクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0013】
本発明における樹脂(D)成分として使用することのできるポリカーボネート樹脂とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、;“ビスフェノールA”から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビスビス(4−ヒドロキシジフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3‘−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4‘−ジヒドロキシジフェニル類等を混合しても良い。
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用しても良い。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−(4,4’−(4,4’−ヒドロキシジフェニル)シクロヘキシル)−プロパン等が挙げられる。なお、これらポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することが出来る。
【0014】
本発明における樹脂(D)成分として使用することのできる熱可塑性ポリエステル樹脂とは、多価アルコールと多塩基性カルボン酸類の縮合物等が挙げられ、多価アルコールとしては例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等のグリコール単独あるいは混合物が挙げられる。多塩基性カルボン酸類としては、以下のカルボン酸とカルボン酸エステルであり、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の2塩基酸、または上記カルボン酸ジアルキルエステルが例示される。具体的にはポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0015】
本発明における樹脂(D)成分としては上記ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂を使用することができる。
【0016】
本発明において用いられる上記生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)としては、例えばエポキシ基、イソシアナート基、カルボジイミド基から選ばれた官能基を含有する重合体であり、以下のようなものが挙げられる。
エポキシ基を含有する重合体としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、またはそれぞれの共重合体の置換基としてエポキシ基を有する重合体であり、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・アリルグリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。
【0017】
また、イソシアナート基を有する重合体としては、以下の多価イソシアナート化合物を原料としたポリウレタン等が挙げられ、該ポリウレタンには、未反応イソシアナート基が残存しており、より多くの残存基を有するポリウレタンが好ましい。上記多価イソシアナート化合物としては、脂肪族ジイソシアナート、芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらのジイソシアネートの変性物が挙げられる。このような多価イソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ピリジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネートおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
さらにカルボジイミド基を有する重合体としては、上記ポリイソシアナート化合物の1種または2種以上用いた(共)重合体であるポリカルボジミドが挙げられる。
【0019】
また生分解性樹脂(A)の末端基と反応するその他の官能基として、オキサゾリン基があり、このようなオキサゾリン基を含有する樹脂としては、スチレン重合体、スチレン・アクリルニトリル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体にオキサゾリン基を官能基として含有する樹脂が挙げられる。
【0020】
本発明にて使用される上記重合体(E)の製造方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせの方法により得ることができ、また1種または2種以上使用することができる。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、その目的に応じて、上記の生分解性樹脂(A)1〜99重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなるもの、生分解性樹脂(A)1〜89.5重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)98.5〜10重量%及び(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)0.5〜40重量%からなるもの、または生分解性樹脂(A)1〜86.49重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.49〜10重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)0.5〜40重量%、及びポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(D)3〜50重量%からなるものである。また、本発明においては、特に上述の可塑性樹脂組成物100重量部に対し、生分解性樹脂(A)の末端基と反応するエポキシ基、イソシアナート基、カルボジイミド基から選ばれた官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量部を配合することが、本発明の目的とする耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性の面より好ましい。
【0022】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性のバランスを調整するために、ゴム強化スチレン系樹脂(B)中のゴム重合体の含有濃度の調整を目的とし、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体の1種または2種以上とを共重合してなるスチレン系共重合体樹脂(F)を配合することができる。
スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体としては、上記ゴム強化スチレン系樹脂(B)の構成成分として挙げたものが挙げられる。さらに耐熱性付与を目的とした場合、スチレン系単量体としては、α−メチルスチレンが好ましく、またN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を用いることが好ましい。
さらにまた本発明の熱可塑性組成物の結晶化速度を上げるために、結晶核剤(G)を配合することができる。
結晶核剤(G)としては、有機スルホン酸金属塩、有機リン酸エステル金属塩、有機酸アミド、有機酸メラミン、有機酸ヒドラジド、芳香族ソルビトール化合物、カルボン酸基含有樹脂の金属塩(アイオノマー)等の有機系結晶核剤が挙げられる。
【0023】
また本発明における熱可塑性樹脂組成物には、上記各成分の他に、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に安定剤、顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0024】
本発明における熱可塑性樹脂組成物の各成分の混合方法としては、バンバリーミキサー、押出機等公知の混練機を用いる方法が挙げられる。又混合順序にも何ら制限はなく、各成分の一括混練はもちろんのこと、予め任意の成分を混合した後に残りの成分を混合することも可能である。
【0025】
本発明における熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、一般的な射出成形法と同工程ではあるが、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填することが必要である。
このような射出成形装置については、通常の射出成形装置を使用することができるが、金型キャビティ表面温度をコントロールするための金型温度調節機(使用温度範囲が140℃程度にまで上昇可能な装置)が必要となる。
また、金型温度調節機としても、通常のものを使用することができるが、特に80℃以上の高温での使用を考慮し、温調媒体としてオイルやスチームを利用することが好ましい。
さらに、金型温度調節機としては、金型のキャビティ表面温度を繰り返し上下するヒートサイクル成形法に用いられる金型温度調節機を使用することが最も好ましい。
【0026】
〔実施例〕
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0027】
生分解性樹脂(A)
A−1:三井化学(株)製 ポリ乳酸 LACEA H−400
【0028】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)
ゴム強化スチレン系樹脂:B−1〜B−4を、それぞれ以下の方法により調整した。
B−1:容積が15リットルのプラグフロー塔型反応槽(「新ポリマー製造プロセス」(工業調査会、佐伯康治/尾見信三著)185頁、図7.5(b)記載の三井東圧タイプと同種の反応槽で10段に仕切られたC1/C0=0.955を示すもの。)に10リットルの完全混合槽2基を直列に接続した連続的重合装置を用いてゴム強化スチレン系樹脂を製造した。プラグフロー塔型反応槽が粒子形成工程を、第2反応器である1基目の完全混合槽が粒子径調整工程を、第3反応器が後重合工程を構成する。
プラグフロー塔型反応槽にスチレン50.8重量部、アクリロニトリル16.9重量部、エチルベンゼン22.4重量部、ゼオン社製Nipol NS310Sを9.9重量部、t−ドデシルメルカプタン0.38重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.045重量部からなる原料を調整し、この原料を3段の攪拌式重合槽列反応器に10kg/hで連続的に供給して単量体の重合をおこなった。3段目の槽より重合液を予熱器と減圧室より成る分離回収工程に導いた。
回収工程から出た樹脂は押出工程を経て粒状のペレットとしてゴム強化スチレン系樹脂B−1を得た。
B−2:上記製法において、スチレン62.2重量部、アクリロニトリル10.3重量部、エチルベンゼン17.5重量部、ゼオン社製Nipol NS310Sを10.0重量部、t−ドデシルメルカプタン0.20重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.055重量部からなる原料を調整し、プラグフロー塔型反応槽に供給した以外は、上記製法と同様におこない、ゴム強化スチレン系樹脂B−2を得た。
B−3:上記製法において、スチレン84.3重量部、エチルベンゼン10.5重量部、旭化成社製ジエン55AEを5.2重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.04重量部からなる原料を調整し、プラグフロー塔型反応槽に供給した以外は、上記製法と同様におこない、ゴム強化スチレン系樹脂B−3を得た。
B−4:窒素置換した反応器にポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.25μ、ゲル含有量90%)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第2鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を入れ、60℃に加熱後、アクリロニトリル12.5部、スチレン37.5部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、該ラテックス100重量部(固形分)に対し塩析剤として硫酸マグネシウム3.0重量部を使用して塩析した後、ゴム強化スチレン系樹脂粒子の1.5倍体積の水を加えて攪拌してから脱水して洗浄した後、乾燥し、ゴム強化スチレン系樹脂B−4を得た。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)
C−1:住友化学(株)製 ポリメタクリル酸メチル スミペックスMG−SS
【0030】
樹脂(D)
D−1:住友ダウ(株)製 ポリカーボネート カリバー200−30
D−2:三井化学(株)製 ポリエチレンテレフタレート 三井PET J125S
D−3:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ポリブチレンテレフタレート ノバデュラン5010
【0031】
エポキシ基含有重合体(E−1〜3)
E−1:東亞合成(株)製 エポキシ基含有アクリル系共重合体 アルフォンUG−4040
E−2:カネカ(株)製 エポキシ含有スチレン系共重合体 カネエースMP−40
E−3:住友化学(株)製 エポキシ基含有エチレン系共重合体 ボンドファースト7L
カルボジイミド基含有重合体(E−4)
E−4:日清紡績(株)製 ポリカルボジイミド カルボジライトLA−1
イソシアナート基含有重合体(E−5)
E−5:ダウ社製 ポリウレタン ペレセン2012−55A
オキサゾリン基含有重合体(E−6)
E−6:日本触媒(株)製 オキサゾリン基変性ポリスチレン エポクロスRPS−1005
【0032】
スチレン系共重合体樹脂(F)
F−1:電気化学(株)製 スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体 デンカIP MS−NC
F−2:スチレン75重量部およびアクリロニトリル25重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体F−2を作製した。
【0033】
結晶核剤(G)
G−1:林化成製 タルク ミクロンホワイト 5000S
G−2:日産化学製 メラミンシアヌレート MC−600
G−3:チバスペシャリティケミカルズ製 ビスベンジリデンソルビトール IRGACLEAR D
G−4:日東化成製 モンタン酸ソーダ NS−8
G−5:ハネウェルジャパン製 アイオノマー Aclyn285
【0034】
〔実施例1〜24、比較例1〜4〕
上記、生分解性樹脂(A−1)、ゴム強化スチレン系樹脂(B−1〜4)、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C−1)、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(D−1〜3)、生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E−1〜6)、およびスチレン系共重合体(F−1〜2)さらに結晶核剤(G−1〜5)を表1および表2に示す配合割合で混合し、30mmニ軸押出機を用いて220℃で溶融混合し、ペレット化した。得られたペレットを80℃にて予備乾燥の後、三井化学エンジニアリング(株)製 「ヒートサイクル用金型温度制御装置:高速HC成形用温調ユニット」をとりつけた日本製鋼所(株)製J−150EP射出成形機を使用し、実施例においては、金型充填時の金型温度を110℃、冷却時の金型温度を40℃に設定し、一方、比較例においては金型温度を60℃(一定)に設定して試験片を作成し、以下の試験を実施した。尚、シリンダー温度は220℃に設定した。
【0035】
○熱変形温度:ISO 75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。単位:℃
○加工性:ISO 1133に基づきメルトインデックス(220℃、10Kg)を測定した。単位:g/10分。
○耐衝撃性:ISO 179に準拠し、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。
○耐久性:65℃、95%RHにて湿熱テストを実施し、耐衝撃性の保持率が50%以下になる時間を耐久性能とした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、生分解性樹脂及びゴム強化スチレン系樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して成型することにより、耐衝撃強度と耐熱性のバランスに優れ、ウェルド等が発生しにくく、成型品外観に優れ、金型に加工されたシボパターンなどの凹凸を容易に成形品表面に複写させることが可能な熱可塑性樹脂成形品が得られるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)1〜99重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)99〜1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
生分解性樹脂(A)1〜89.5重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)98.5〜10重量%及び(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)0.5〜40重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
生分解性樹脂(A)1〜86.5重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.5〜10重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(C)0.5〜40重量%、及びポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(D)3〜50重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を、予め、金型のキャビティ表面温度を該熱可塑性樹脂組成物の熱変形温度以上にまで加熱した金型内に射出充填して得られたことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量部を配合してなる請求項1〜3何れかに記載の熱可塑性樹脂成型品。
【請求項5】
重合体(E)が、エポキシ基、イソシアナート基、カルボジイミド基から選ばれた官能基を含有する重合体である請求項4記載の熱可塑性樹脂成型品。
【請求項6】
生分解性樹脂(A)がポリエステル系の生分解性樹脂である請求項1〜5何れかに記載の熱可塑性樹脂成型品。
【請求項7】
生分解性樹脂(A)がポリ乳酸である請求項1〜6何れかに記載の熱可塑性樹脂成型品。
【請求項8】
金型のキャビティ表面温度を繰り返し上下するヒートサイクル成形法により成形されたことを特徴とする請求項1〜7何れかに記載の熱可塑性樹脂成形品。

【公開番号】特開2008−246954(P2008−246954A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93093(P2007−93093)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】