説明

熱障壁被覆の熱伝導率の低減方法および熱障壁被覆

【課題】金属酸化物をセラミックマトリックス中に組み込むことにより熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法が提供される。
【解決手段】熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法は、一つまたは複数の層を形成するように基体上に、セラミックマトリックスと、金属酸化物を形成できる金属分散質とを含む混合物を堆積させ、金属分散質を酸化して一つまたは複数の層の熱障壁被覆を形成するのに十分な温度および時間で、一つまたは複数の層を加熱する、各工程を含む。熱障壁被覆は概略、セラミックマトリックスと、このセラミックマトリックス全体に亘って分散された金属酸化物とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法に関し、より詳細には、本発明は、金属酸化物をセラミックマトリックス中に組み込むことにより熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンは、燃料の形態における化学ポテンシャルエネルギーを熱エネルギーに、さらには、航空機の推進、電力の発生、流体のポンプ輸送などに使用するための力学的エネルギーに変換するためによく開発された機構である。現時点で、ガスタービンエンジンの効率を改善するために利用可能な方法の主なものは、より高い作動温度を使用することのように思われる。しかしながら、ガスタービンエンジン部品に使用される金属材料は現在、その熱安定性の上限のごく近くにある。最新のガスタービンエンジンの最高温度部分において、金属材料は、その融点を超えるガス温度において使用される。これらの金属材料は、それらを空冷するので持ちこたえている。しかしながら、空冷を施すことにより、エンジン効率が低減する。
【0003】
従って、冷却されたガスタービン航空機部品と共に使用するための熱障壁被覆の広範囲な開発がなされてきた。熱障壁被覆を用いることにより、冷却空気の必要量を実質的に低減でき、従って、対応する効率の増加が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な熱障壁被覆(thermal barrier coating)(TBC)の一つは、7YSZとして知られるイットリア安定化ジルコニアセラミックから成る。7YSZ被覆は通常、被覆を堆積させるのに使用するプロセスに依存して、約1W/m℃から1.9W/m℃の熱伝導率を示す。被覆の質量を実質的に増加させずに50%以上この熱伝導率を低減するのは好ましいであろう。被覆はしばしば、回転部品のエーロフォイルに付与され、また、その結果として被覆厚みに実質的な変化は生じないと仮定されているので、被覆密度の少しの増加によって結果として、回転部品に大きな力が加わり得る。従って、理想的な被覆は、熱伝導率の低減と、質量の低減とを結合することであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法は概略、一つまたは複数の層を形成するように基体上に、セラミックマトリックスと、金属酸化物を形成できる金属分散質(dispersant)とを概略含む混合物を堆積させ、金属分散質を酸化して一つまたは複数の層の熱障壁被覆を形成するのに十分な温度および時間で、一つまたは複数の層を加熱する、ことを含む。
【0006】
熱障壁被覆は概略、セラミックマトリックスと、このセラミックマトリックス全体に亘って分散された金属酸化物とを含む。
【0007】
一つまたは複数の層の熱障壁被覆を有する部品は概略、部品と、セラミックマトリックスとこのセラミックマトリックス全体に亘って分散された金属酸化物とを概略含む一つまたは複数の層の熱障壁被覆とを含む。
【0008】
本発明の一つまたは複数の実施態様の詳細は、添付の図面および以下の説明中に述べられる。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明および図面から、また特許請求の範囲から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本願は、図面を含んでいない。
【0010】
ここに開示する一つまたは複数の方法によって、セラミックマトリックス中への金属酸化物の組み込みから生じる低減した熱伝導率を有する熱障壁被覆(TBC)が生成される。金属酸化物は、耐熱特性を示す安定な酸化物であり、また、金属分散質の酸化によりセラミックマトリックス中に形成される。特に、ここで説明するTBCは、被覆される部品上へのセラミックマトリックスと一緒の金属分散質の同時蒸着(co−evaporation)を通して達成される。同時蒸着工程は、セラミック材料と金属分散質との混合物を蒸発させること、または、セラミックマトリックスと金属分散質との二つの別々の供給源を同時に蒸発させること、または別々の工程で各材料を蒸発および堆積させることを含む。同時蒸発堆積物の熱処理によって、結果として、金属分散質の酸化が生じて、セラミックマトリックス中に耐熱性金属酸化物があとに残される。結果として生じたTBCが、低下した熱伝導率および向上した歪み耐性(strain tolerance)両方を示すと考えられる。
【0011】
セラミックマトリックスは、熱障壁被覆において有用な任意のセラミック材料から成り得る。代表的なセラミックマトリックスとしては、限定される訳ではないが、酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、およびケイ化物系セラミックス、ハフニウム酸塩(hafnate)およびジルニウム酸塩(zirconate)系セラミックスなどといった酸の塩などを挙げることができる。適切な酸化物系セラミックマトリックスとしては、限定される訳ではないが、シリカ、セリア、ランタニア(lanthania)、スカンジア(scandia)、ハフニア(hafnia)、ジルコニア、および同様のものなどが挙げられる。ジルコニア酸塩系セラミックスおよびジルコニア系セラミックスは、イットリアなどといった材料で安定化するのが好ましく、イットリア安定化ジルコニアは、好ましいセラミックマトリックスである。イットリア安定化ジルコニアは、7YSZとして商業的に入手可能である。
【0012】
上述したように、本発明の方法は、所定の割合での「マトリックス」TBC酸化物の、金属分散質と一緒の同時蒸着を含む。同時蒸着に引き続き、後被覆(post−coating)の、合金に優しい(alloy friendly)酸化熱処理を用いて、金属分散質を酸化し、セラミックマトリックス中に耐熱性酸化物を生成する。「合金に優しい」とは、熱処理を行う際の最高温度が、被覆部品を形成する合金の融点より低いということを意味する。好ましくは、熱処理を行う際の最高温度は、熱処理に晒される被覆部品の任意のかつ全ての部分の初期(incipient)融点より低く、かつ、任意の望ましくない結晶粒(grain)成長が生じるであろう温度および/または時間を下回る。ニッケル基合金から構成される部品の熱処理では、最大熱処理温度は通常、1750°Fから2100°Fの範囲である。
【0013】
金属分散質は、堆積環境中ですぐれて安定であることが要求される。結果として得られる耐熱性金属酸化物は、セラミックマトリックスと、EB−PVD被覆に一般的な処理温度とに適合可能な必要がある。「適合可能」とは、金属が、セラミックマトリックス中に分散し、処理中に安定なままであり、そして、後処理の後に耐熱特性を有する安定な金属酸化物に成功裏に変換されるということを意味する。従って本発明は、任意のかつ全ての適合可能な金属分散質を含むように概略説明されるとはいえ、通常の後被覆熱露出(heat exposure)条件下の適切な金属分散質は、限定される訳ではないが、ジルコニウムおよび同様のものなどといったセラミックマトリックス中で耐熱特性を有する安定な酸化物を形成する任意の金属を含む。
【0014】
実際には、セラミックマトリックスおよび金属分散質両方が、被覆される部品上に一つまたは複数の層で堆積される。好ましくは、セラミックマトリックスおよび金属分散質は、電子ビーム物理蒸着(electron beam physical vapor deposition)(EB−PVD)のプロセスを通して堆積される。所望の割合でセラミックマトリックスおよび金属分散質の堆積を達成するのにさまざまな方法を用いることができると考えられる。一実施態様では、粒子状セラミックおよび固体断片の金属分散質を使用できる。
【0015】
別の実施態様では、セラミックマトリックスおよび金属分散質の前もって形成された各インゴットを被覆蒸気の供給源として使用できる。さらに別の実施態様では、所定の割合で混合したセラミックマトリックスおよび金属分散質両方から構成される単一のインゴットを蒸発させ、部品に付与して被覆し、セラミックマトリックス材料の金属分散質材料に対する同様の所定の割合から構成される被覆を形成することができる。
【0016】
結果として得られた堆積されたTBCは、一つまたは複数の層のセラミックマトリックス酸化物と、その内部に分散された耐熱性金属酸化物とを含むことができる。各個々の層は、セラミックマトリックス酸化物と耐熱性金属酸化物とのさまざまな割合の混合物を含有することができ、結果として、所定の後加熱(post−heating)歪み耐性が得られる。一実施態様では、金属分散質を含有する一つまたは複数の層と、金属分散質を含有しない一つまたは複数の層とを部品上に交互に堆積させることができる。その結果、加熱処理後、結果として得られたTBCには、所望レベルの割れ(cracking)を示すとともに、セラミックマトリックスのみを含有する一つまたは複数の層より高い歪み耐性を有する、耐熱性金属酸化物を有する一つまたは複数の層が含まれる。
【0017】
一層およびTBC全体内の割れの量および増加した歪み耐性は、同時蒸着工程で蒸着させる金属分散質のセラミックマトリックス材料に対する割合を変化させることにより制御できる。連続的に多孔質のまたは傾斜した多孔度の被覆などといった微細構造(microstructure)を作成することもできる。傾斜多孔度被覆を作成するには、複数供給源のEB−PVDを実行し、それによって、金属分散質材料を蒸発させるのに使用する電子ビームの強度を所望量の傾斜に合わせて変化させることができる。二つまたは複数の供給源被覆プロセスを用いるとき、堆積されたTBCの最初および最後の各層を、(使用する蒸発供給源の数に依存して)セラミックマトリックスより高い密度または異なる組成とすることができ、結果として得られるTBCシステムの特性がさらに向上する。例えば、耐酸化性、TBC付着性、および腐食/衝撃耐性を最適化するのにさまざまな材料層の選択もまた可能である。このような材料層は、限定される訳ではないが、イットリア安定化ジルコニア、完全(fully)安定化ガドリニア(gadolinia)ジルコニア、パイロクロア、アルミナ、およびこれらの組み合わせから成ることができる。
【0018】
本発明の一つまたは複数の実施態様を説明した。それにもかかわらず、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずにさまざまな変形を行うことができることは理解されるであろう。従って、他の実施態様は、添付の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つまたは複数の層を形成するように基体上に、セラミックマトリックスと、金属酸化物を形成できる金属分散質とを含む混合物を堆積させ、
金属分散質を酸化して一つまたは複数の層の熱障壁被覆を形成するのに十分な温度および時間で、前記一つまたは複数の層を加熱する、
ことを含むことを特徴とする、熱障壁被覆の熱伝導率を低減する方法
【請求項2】
前記混合物を堆積させることは、電子ビーム物理蒸着法を用いて前記混合物を堆積させることを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合物を堆積させることは、粒子状セラミックマトリックスと、粒子状金属分散質とを用いることを含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記混合物を堆積させることは、セラミックマトリックスのインゴットと、金属分散質のインゴットとを用いることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を堆積させることは、セラミックマトリックスと、金属分散質とのほぼ均一な分布物から構成されるターゲットを用いることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
加熱は、前記一つまたは複数の層を加熱することを含み、前記温度が前記部品の初期融点より低いことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
加熱は、約1750°Fから2100°Fの温度で前記一つまたは複数の層を加熱することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
加熱は、前記金属分散質の90%以上を酸化するのに十分な温度および時間で前記一つまたは複数の層を加熱することを含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記金属酸化物を形成することができるどのような金属分散質も実質的に含まないセラミック混合物の一つまたは複数の層を堆積させることをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記混合物を堆積させることは、電子ビーム物理蒸着法を用いることを含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記混合物を堆積させることは、ガスタービンエンジン部品上に前記混合物を堆積させることを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
セラミックマトリックスと、
このセラミックマトリックス全体に亘って分散された金属酸化物と、
を含むことを特徴とする熱障壁被覆。
【請求項13】
前記セラミックマトリックスは、酸化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、および酸の塩から成る群より選択されることを特徴とする請求項12記載の熱障壁被覆。
【請求項14】
前記セラミックマトリックスは、シリカ、セリア、ランタニア、スカンジア、ハフニア、および安定化ジルコニアから成る群より選択される酸化物であることを特徴とする請求項12記載の熱障壁被覆。
【請求項15】
前記セラミックマトリックスは、ハフニウム酸塩およびジルコニウム酸塩から成る群より選択される酸の塩であることを特徴とする請求項12記載の熱障壁被覆。
【請求項16】
前記セラミックマトリックスは、イットリア安定化ジルコニアまたはイットリア安定化ジルコニウム酸塩であることを特徴とする請求項12記載の熱障壁被覆。
【請求項17】
前記金属酸化物は、酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項12記載の熱障壁被覆。
【請求項18】
部品と、
セラミックマトリックスと、このセラミックマトリックス全体に亘って分散された金属酸化物とを含む一つまたは複数の層の熱障壁被覆と、
を含むことを特徴とする、一つまたは複数の層の熱障壁被覆を有する部品。
【請求項19】
前記セラミックマトリックスは、酸化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、および酸の塩から成る群より選択されることを特徴とする請求項18記載の部品。
【請求項20】
前記金属酸化物は、安定化酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項18記載の部品。

【公開番号】特開2006−342427(P2006−342427A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159412(P2006−159412)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】