説明

燃料噴射量学習制御方法

【課題】 燃料噴射量を正確に学習することができる燃料噴射量学習制御方法を提供する。
【解決手段】 エンジンの組み立て完了時に、そのエンジンの初期フリクションを測定する測定工程S11と、その測定された初期フリクションを考慮して、初期アイドル噴射量を求める算出工程S12と、その求められた初期アイドル噴射量を基準として用いて上記エンジンをアイドル回転させ、その回転数が目標アイドル回転数になるように補正値を学習制御する学習工程S13〜S16とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃料噴射量を学習制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を組み立てた直後などに、エンジンの燃料噴射量のバラツキを補正すべく、燃料噴射量を学習制御することが行われている。
【0003】
そのような学習制御として、例えば、特許文献1に提案されたものがある。その学習制御では、まず、車両のライフサイクルや、車両ごとのバラツキを考慮して、アイドル燃料噴射量(例えば、5mm3)を求め、そのアイドル燃料噴射量を、燃料噴射量の学習を開始する前にあらかじめエンジン制御装置に書き込む。次に、エンジンをアイドル運転して、燃料噴射量の学習を開始する。その学習時に、エンジン回転数が、アイドル回転数(例えば、800rpm)より高い場合には学習値(例えば、燃料噴射期間補正値)を減らし、アイドル回転数になったときの学習値を、”正確に上記アイドル噴射量を噴射している学習完了値”としてエンジン制御装置に保存するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−11511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、組み立てた直後のエンジンは、エンジンの部品同士が馴染んでいないため、慣らし運転が終了した後の通常運転時(正常時)に比べると、摩擦損失などフリクションが大きい状態である。
【0006】
しかしながら、上述した従来の学習制御では、組み立て直後の大きなフリクションを考慮せずに、燃料噴射量を学習しているので、そのフリクションの分だけ燃料噴射量を過大に学習してしまう。
【0007】
つまり、従来の学習制御は、エンジンがアイドル回転数(例えば、800rpm)で安定している時のフリクションが変わらない(経時変化しない)ことを前提に、噴射量を学習している。
【0008】
そのため、工場でエンジンを組み立てた直後や、車両を組み立てた直後に噴射量学習を行うと、エンジン自体の部品の当たりやミッションの部品の当たりが付いていないフリクションが大きい時に噴射量学習を行うことになるので、その結果、学習値(例えば、燃料噴射期間補正値)を大きく誤学習してしまう。
【0009】
これにより車両の運転時に、所望の燃料噴射量よりも燃料を多く噴射するようになってしまい排ガスの悪化や、燃費の悪化を引き起こしてしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、燃料噴射量を正確に学習することができる燃料噴射量学習制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンの組み立て完了時に、そのエンジンの初期フリクションを測定する測定工程と、その測定された初期フリクションを考慮して、初期アイドル噴射量を求める算出工程と、その求められた初期アイドル噴射量を基準として用いて上記エンジンをアイドル回転させ、その回転数が目標アイドル回転数になるように補正値を学習制御する学習工程とを備えたものである。
【0012】
好ましくは、上記測定工程において、上記初期フリクションをモータリングにより測定し、上記算出工程において、上記目標アイドル回転数に対応した初期アイドル噴射量を算出し、上記学習工程において、上記エンジンのアイドル回転数が上記目標アイドル回転数と一致するように、上記初期アイドル噴射量に対する補正値を求め、その補正値を、学習値として上記エンジン制御装置に保存するものである。
【0013】
好ましくは、上記算出工程において、上記初期アイドル噴射量を、上記エンジンのフリクションとアイドル回転数とをパラメータとしたアイドル噴射量のマップから求めるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料噴射量を正確に学習することができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
まず、図3に基づき、本実施形態に係る燃料噴射量学習制御システムの構成を説明する。
【0017】
図3に示すように、燃料噴射量学習制御システム1は、車両のエンジン2と、そのエンジン2に搭載されるエンジン制御装置(以下、エンジンECMという)3と、車両の組立ラインの末端に設けられ各種測定などを行うEOL(End Of Line)設備4と、エンジン2のフリクション(摩擦損失)を測定するモータリングベンチ装置5とを備える。
【0018】
モータリングベンチ装置5は、着火停止状態のエンジン2を所定の回転数で回転させて、その回転時のトルクからフリクションを測定するものであり、その測定したフリクションをEOL設備4に通知するためのベンチ装置側通信手段(図示せず)を備える。そのベンチ装置側通信手段により、アイドル回転時または指示回転時のトルク等がEOL設備4に通知される。
【0019】
EOL設備4は、モータリングベンチ装置5を制御するベンチ制御装置と、モータリングベンチ装置5から通知されたフリクションに応じた燃料噴射量を算出するための算出手段と、その算出手段で算出された燃料噴射量をエンジンECM3に通知するためのEOL側通信手段とを備える(図示せず)。そのEOL側通信手段により、アイドル回転時または指示回転時の燃料噴射量等がエンジンECM3に通知される。
【0020】
エンジンECM3は、エンジン2のインジェクター(図示せず)に接続され、そのインジェクターを開閉制御することで、エンジン2の燃料噴射量を調整する。具体的には、エンジンECM3は、インジェクターへの通電時間をON、OFF制御するための所定の燃料噴射パルスをインジェクターに送信して、インジェクターを開閉制御する。エンジンECM3には、上記燃料噴射駆動パルスや後述する学習値などを記憶するための記憶手段(例えば、EEPROMなど)が設けられる(図示せず)。詳しくは後述するが、エンジンECM3は、アイドル回転または指示回転になるようにエンジン2のインジェクターに通電し、その時の通電時間(燃料噴射量)とEOL設備4から通知された燃料噴射量とから学習値を算出して保存する。
【0021】
次に、本実施形態の燃料噴射量学習制御方法を説明する。
【0022】
本実施形態の燃料噴射量学習制御方法は、エンジン2の組み立て完了時に、そのエンジン2の初期フリクションを測定する測定工程と、その測定された初期フリクションを考慮して、初期アイドル噴射量を求める算出工程と、その求められた初期アイドル噴射量を基準として用いて、上記エンジン2をアイドル回転させ、その回転数が目標アイドル回転数になるように補正値を学習制御する学習工程とを備える。
【0023】
具体的には、まず、測定工程では、モータリングベンチ装置5を用いて、エンジン2の初期フリクションをモータリングにより測定する。
【0024】
次に、算出工程では、測定工程で測定された初期フリクションを考慮して、上記目標アイドル回転数に対応した初期アイドル噴射量を算出する。本実施形態の算出工程では、初期アイドル噴射量を、エンジン2のフリクションとアイドル回転数とをパラメータとしたアイドル噴射量のマップ(図4参照)から求める。
【0025】
次に、学習工程において、エンジン2をアイドル回転させ、そのアイドル回転数が上記目標アイドル回転数と一致するように、初期アイドル噴射量に対する補正値を求め、その補正値を、学習値としてエンジンECM3に保存する。
【0026】
本実施形態の算出工程で用いるアイドル噴射量のマップの一例を図4に基づき説明する。
【0027】
図4は、エンジン2のフリクションと回転数とに対するアイドル噴射量の関係を示した3次元マップである。縦軸がアイドル噴射量、横軸がフリクションとエンジン回転数である。図4において、アイドル噴射量は、フリクションとアイドル回転数を変数とする曲面で表され、その曲面上の3次元曲線が図4中符号Lで示される。このマップによると、測定工程で測定された初期フリクションFと、その測定時の回転数Rとから初期アイドル噴射量Qが求められる。
【0028】
本実施形態のマップは、実験などにより得られ、例えば、各部品の当たりが付いたエンジン(つまり、初期フリクションが消失したエンジン)を、所定の負荷(フリクションに相当する負荷)をかけた状態で、所定の燃料噴射量で運転し、その時の回転数を測定することにより得られる。また、マップをシミュレーションにより求めることも考えられる。
【0029】
次に、図1および図2のフローチャートに基づき、燃料噴射量学習制御方法の一例を説明する。本実施形態では、工場で組み立てられる各車両のエンジンごとに、以下の燃料噴射量学習制御が各々行われる。
【0030】
まず、図1のフローチャートを用いてモータリングベンチ装置5およびEOL設備4側のフローを説明する。このフローは、例えば、エンジン組み立て完了時に実行される。
【0031】
ステップS11では、モータリングベンチ装置5により初期フリクションを測定する。具体的には、燃料を噴かない状態(例えば、エンジンECM3の電源OFF)で、エンジン2を所定の初期アイドル回転数(例えば、800rpm)で回してモータリングし、その回転時のエンジン2のフリクション(初期フリクション)を測定する。
【0032】
ステップS12では、ステップS11で測定した初期フリクションに応じたアイドル噴射量(初期アイドル噴射量)を、”エンジンのフリクションVSアイドル噴射量マップ”(図4参照)から算出する。
【0033】
ステップS13では、燃料を噴く状態(例えば、エンジンECM3の電源をON)にし、そのエンジンECM3にステップS12で算出した初期アイドル噴射量を送信する。
【0034】
ステップS14では、ステップS13で送信した初期アイドル噴射量が、エンジンECM3に保存されるまで待機する。ステップS14でエンジンECM3から”アイドル噴射量保存完了”を受信したならば、ステップS15に進む。
【0035】
ステップS15では、噴射量学習開始コマンドをエンジンECM3に送信する。
【0036】
ステップS16では、ステップS15でエンジンECM3に指示した噴射量学習が完了するまで待機する。ステップS16でエンジンECM3から”噴射量学習完了”を受信したならば、終了する。
【0037】
次に、図2のフローチャートを用いてエンジンECM3側のフローを説明する。このフローは、エンジンECM3の電源をONまたは、上述したステップS13においてエンジンECM3が起動された時に実行される。
【0038】
ステップS21では、EOL設備4(図2のフローチャートでは、”エンジン、または車両組み立てラインの設備”)から初期アイドル噴射量(例えば、上述した800rpmでモータリング測定したフリクションに相当する噴射量)を受信したか否かを判断する。ステップS21で、初期アイドル噴射量を受信したならばステップS22に進む。
【0039】
ステップS22では、EOL設備4から受信した初期アイドル噴射量を、燃料噴射量学習の基準値としてEEPROMに保存する。その後、EOL設備4に、”アイドル噴射量保存完了”を送信する。
【0040】
ステップS23では、EOL設備4から噴射量学習開始の指示があるまで待機する。ステップS23で、噴射量学習開始コマンドを受信したならばステップS24に進み、噴射量学習を開始する。噴射量学習開始コマンドには、例えば、目標アイドル回転数などのデータが含まれている。
【0041】
ステップS24では、エンジンが目標アイドル回転数(例えば、800rpm)になるように、燃料噴射量パルスを制御し、その時の燃料噴射パルス時間(通電時間)と、EOL設備4から受信した初期アイドル噴射量に相当する燃料噴射パルス時間(通電時間)とを比較し、その差(補正値)を学習値として、EEPROMに保存する。
【0042】
ステップS25では、噴射量学習完了をEOL設備4へ送信する。
【0043】
この後、エンジンECM3は、燃料噴射パルスを生成するときに、ステップS24でEEPROMに保存した学習値で通電時間を補正して、その補正された燃料噴射パルスをインジェクターに出力する。
【0044】
このように、本実施形態では、初期フリクションを考慮した初期アイドル噴射量を基準として学習制御を行うことで、燃料噴射量を正確に学習することができる。
【0045】
すなわち、従来の学習制御は、初期フリクションを考慮していない燃料噴射量を基準としているため、補正値に初期フリクション分が含まれしまう。そのため、エンジンの各部品に当たりが付いて、エンジンから初期フリクションが消失した以後には、補正値に含まれる初期フリクション分だけ、燃料を多く噴射することになってしまう。つまり、その補正値の初期フリクション分だけ誤学習をしていた。
【0046】
これに対して、本実施形態では、初期フリクションを考慮した初期アイドル噴射量を基準としているので、補正値には初期フリクションによる成分が含まれることがなく、誤学習を防止することができる。
【0047】
また、本実施形態では、インジェクターの通電時間を学習制御しているので、インジェクターが、エンジンECM3からの指示噴射量通りに、正確に燃料噴射できる。例えば、エンジンECMが、インジェクターに1mm3で燃料を噴射するように指示したら、インジェクターが実際に1mm3正確に噴射する。
【0048】
また、本実施形態では、エンジン組み立て時に、エンジンを一台一台モータリングベンチによりアイドル回転して、一台一台の実際のフリクションを測定し、その測定値から算出されるアイドル回転時の噴射量となるように、インジェクターの通電時間を調整、学習するので、一台一台のインジェクター通電時間を正確に合わせることができる。
【0049】
以上により、工場でエンジンを組み立てた直後や車両を組み立てた直後など、エンジン自体の部品の当たりやミッションの部品の当たりが付く前のフリクションが大きい時に学習しても誤学習することなく正確に学習できるため、排ガスや燃費の悪化をさけることができ、燃料噴射量バラツキを小さくすることができる。
【0050】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0051】
例えば、エンジンを組み立てた直後(または、車両を組み立てた直後)の初期フリクションが決まった値を取るようであれば、モータリングベンチ装置やEOL設備では、初期フリクションの測定や初期アイドル噴射量の算出は行わず、その決まった値を、”エンジンを組み立てた直後の学習基準噴射量”として、エンジン組立前にエンジンECMにあらかじめ書き込んでおき、エンジンを組み立てた直後(または、車両を組み立てた直後)に燃料噴射量学習の基準として使用するようにしてもよい。例えば、同一生産ロットのエンジンなど、フリクションの測定値が略同一となるような場合には、始めに一つのエンジンだけ測定しておき、その測定値を他のエンジンに適用するようしてもよい。
【0052】
また、測定工程で測定された初期フリクションをエンジンECMに入力し、そのエンジンECMで、初期アイドル噴射量を求めるようにしてもよい。その場合、エンジンECMに、図4に示すようなエンジンのフリクションとアイドル噴射量との関係が示されたマップを格納しておくことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る一実施形態による燃料噴射量学習制御のためのフローチャートである。
【図2】本実施形態の燃料噴射量学習制御のためのフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る燃料噴射量学習制御システムを示す。
【図4】本実施形態のアイドル噴射量のマップを示す。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料噴射量学習制御システム
2 エンジン
3 エンジンECM
4 EOL設備
5 モータリングベンチ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの組み立て完了時に、そのエンジンの初期フリクションを測定する測定工程と、
その測定された初期フリクションを考慮して、初期アイドル噴射量を求める算出工程と、
その求められた初期アイドル噴射量を基準として用いて上記エンジンをアイドル回転させ、その回転数が目標アイドル回転数になるように補正値を学習制御する学習工程とを備えたことを特徴とする燃料噴射量学習制御方法。
【請求項2】
上記測定工程において、上記初期フリクションをモータリングにより測定し、
上記算出工程において、上記目標アイドル回転数に対応した初期アイドル噴射量を算出し、
上記学習工程において、上記エンジンのアイドル回転数が上記目標アイドル回転数と一致するように、上記初期アイドル噴射量に対する補正値を求め、その補正値を、学習値として上記エンジン制御装置に保存する請求項1記載の燃料噴射量学習制御方法。
【請求項3】
上記算出工程において、上記初期アイドル噴射量を、上記エンジンのフリクションとアイドル回転数とをパラメータとしたアイドル噴射量のマップから求める請求項1または2記載の燃料噴射量学習制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51595(P2007−51595A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238169(P2005−238169)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】