説明

燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造

【課題】冷媒流量制御弁に設けられたモータに付与される振動を好適に緩衝することにある。
【解決手段】燃料電池スタックへエアを供給するエアコンプレッサ30に対しマウント部材80を介して取り付けられ、冷媒の流通量を制御する冷媒流量制御弁24と、前記冷媒流量制御弁24に対して冷媒が導入されるインレットポート40a及び前記冷媒が導出されるアウトレットポート40bにそれぞれ接続されるゴム製の配管チューブ84a、84bとを備え、前記マウント部材80の振動低減方向と、前記冷媒流量制御弁24に設けられた弁駆動部のモータシャフト方向と、前記冷媒流量制御弁24からみた前記配管チューブ84a、84bの曲折方向とは、それぞれ、同一方向に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムにおいて、燃料電池を冷却する冷媒の流通量を制御する冷媒流量制御弁の配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードとを対向配置した燃料電池セルをセパレータによって挟持して複数積層することにより構成された燃料電池が開発され、この燃料電池を自動車に搭載して前記自動車の動力源電池として使用されている。
【0003】
この種の燃料電池は、例えば、水素ガス(燃料ガス)をアノードに供給すると共に、エア(酸化剤ガス)をカソードに供給することにより、前記水素ガスがイオン化して固体高分子電解質膜内を移動し、これにより燃料電池の外部に電気エネルギが得られるように構成されている。この場合、例えば、ラジエータ、冷媒ポンプ、冷媒ポンプの駆動用モータ等を含んで冷媒系が構成され、前記冷媒系に沿って冷媒を循環させることによって前記燃料電池を冷却している。
【0004】
この種の冷媒系に関し、例えば、特許文献1には、燃料電池が所定の出力で作動する際、冷媒ポンプを間欠的に停止させることにより、燃料電池の発電効率を向上させることができるとする技術的思想が開示されている。
【特許文献1】特表2005−518077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池システムの小型化及びコストの低減化を図るために、燃料電池に対してエアを供給するエアコンプレッサと冷媒を循環させる冷媒ポンプとを、単一の駆動用モータによって駆動することが提案されている。
【0006】
この場合、冷媒ポンプは、エアコンプレッサと同時に駆動されるように設けられ、例えば、低温起動時のように冷媒を流通させる必要がない場合であっても、エアコンプレッサと共に冷媒ポンプが駆動されるため、燃料電池システムの低温起動時における冷媒の流通量を制限する冷媒流量制御弁が設けられる場合がある。
【0007】
この冷媒流量制御弁は、例えば、冷媒が流通する配管通路を開閉する、いわゆるバタフライ弁からなる弁体と、前記弁体を全閉状態と全開状態との間で回転駆動させるDCモータと、前記DCモータの回転運動を前記弁体に伝達する伝達機構等によって構成される。
【0008】
しかしながら、冷媒流量制御弁に配設される前記DCモータのモータ軸(モータシャフト)は、モータ軸方向(モータシャフト方向)に沿ってある程度のガタツキを有し、前記DCモータに対してモータ軸方向の強い振動が付与された場合、DCモータを構成するブラシやモータコイルが損傷することが懸念される。
【0009】
また、前記DCモータの内部にモータ軸方向の振動を緩衝する緩衝機構を設けると、冷媒流量制御弁が大型化すると共に、部品点数が増大してコストが高騰するという問題がある。
【0010】
さらに、前記冷媒流量制御弁は、燃料電池システムの通常運転時において、ほとんど作動することがないため、DCモータのモータ軸及び前記モータ軸を回転自在に軸支するベアリングと、常時同じ部位で接触した状態に保持される。このような同一部位で接触した状態に保持された場合において、例えば、燃料電池車両の車体や前記冷媒流量制御弁が取り付けられるエアコンプレッサから振動が付与された場合、前記モータ軸及びベアリングの接触部位で局所的に大きな負荷が付与され、DCモータが作動している状態で負荷が付与された場合と比較してDCモータに与える損傷が大きくなる場合がある。
【0011】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、燃料電池システムを大型化させることがなく、冷媒流量制御弁に設けられたモータに付与される振動を好適に緩衝することが可能な燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池と、前記燃料電池へエアを前記酸化剤ガスとして供給するエアコンプレッサと、冷媒通路に沿って冷媒を流通させる冷媒ポンプと、モータを有し前記燃料電池を冷却する冷媒の流通量を制御する冷媒流量制御弁と、前記冷媒流量制御弁に対して冷媒が導入されるインレットポート及び前記冷媒が導出されるアウトレットポートにそれぞれ接続される配管チューブとを含む燃料電池システムにおける前記冷媒流量制御弁の配置構造であって、
前記冷媒流量制御弁と前記エアコンプレッサとの間、又は前記冷媒流量制御弁と前記冷媒ポンプとの間、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化されたポンプユニットと前記冷媒流量制御弁との間に設けられる防振用弾性体の振動低減方向と、前記モータのモータ軸方向と、前記インレットポート又は前記アウトレットポートに接続される前記配管チューブの一方をゴム製材料によって形成し前記冷媒流量制御弁からみた前記一方の配管チューブの曲折方向とが、それぞれ、同一方向に設定されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、冷媒流量制御弁に設けられたモータのモータ軸方向と、防振用弾性体の振動吸収方向と、冷媒流量制御弁に接続されるゴム製の配管チューブの曲折方向とをそれぞれ同一方向に設定することにより、前記冷媒流量制御弁に設けられたモータのモータ軸に対し振動が付与されることを好適に緩和し、前記モータの損傷を好適に回避することができる。
【0014】
この結果、本発明では、防振用弾性体による振動吸収作用と、ゴム製の配管チューブによる振動吸収作用との共働作用によって、例えば、エアコンプレッサで発生する比較的大きな振動や、配管チューブ内を流通する冷媒によって発生する振動等、種々の振動が好適に吸収(緩衝)されて冷媒流量制御弁に対する振動タフネスを向上させることができる。なお、前記防振用弾性体は、冷媒流量制御弁とエアコンプレッサとの間、又は冷媒流量制御弁と冷媒ポンプとの間、若しくはエアコンプレッサと冷媒ポンプとが一体的にユニット化されたポンプユニットと冷媒流量制御弁との間のいずれに設けられてもよい。
【0015】
また、本発明は、前記エアコンプレッサ、又は前記冷媒ポンプ、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化された前記ポンプユニットを支持する2以上の円盤状のマウント部材が径方向において平行に配置されている際、前記マウント部材の径方向と直交し前記エアコンプレッサ、又は前記冷媒ポンプ、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化された前記ポンプユニットの揺動が小さい方向と、前記モータのモータ軸方向とが、それぞれ、同一方向に設定されることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、冷媒流量制御弁に設けられたモータのモータ軸方向と、例えば、エアコンプレッサの揺動の小さい方向とが一致するように、前記冷媒流量制御弁を配置することにより、前記モータに付与される振動を抑制することができる。なお、冷媒流量制御弁に設けられたモータのモータ軸方向と、前記エアコンプレッサに代替する冷媒ポンプ、又はエアコンプレッサと冷媒ポンプとが一体的にユニット化されたポンプユニットの揺動の小さい方向とが一致するようにしてもよい。
【0017】
すなわち、冷媒流量制御弁の取り付け相手である、例えば、エアコンプレッサ等を支持する2以上の円盤状のマウント部材が、その径方向において平行に配設されている場合、前記マウント部材の径方向と直交する方向に冷媒流量制御弁に設けられたモータのモータ軸方向を設定することにより、前記モータに付与される振動(揺動)が緩衝されて、前記モータに対する振動タフネスを向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
燃料電池システムを大型化させることがなく、冷媒流量制御弁に設けられたモータに付与される振動を好適に緩衝することが可能な燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造が適用された燃料電池システムの回路構成図である。
【0020】
<燃料電池システムの構成>
図1に示されるように、燃料電池システム10は、冷媒を循環させる冷媒系11を含む。この冷媒系(冷却システム)11は、アノードに供給される燃料ガス(例えば、水素ガス)とカソードに供給される酸化剤ガス(例えば、エア)との電気化学反応により発電する燃料電池スタック12と、冷媒を冷却する冷却器として機能するラジエータ14と、前記燃料電池スタック12と前記ラジエータ14との間で冷媒を循環させる循環通路(冷媒通路)16とを有する。
【0021】
また、前記燃料電池システム10は、前記循環通路16中に設けられ冷媒を所定流量で循環させる冷媒ポンプ18と、前記ラジエータ14をバイパスさせるパイパス通路20中に設けられ冷媒が流通する流路を前記循環通路16又は前記バイパス通路20のいずれか一方に切り換える流路切換弁22と、循環通路16に沿って流通する冷媒量を制御する冷媒流量制御弁24とを有する。
【0022】
なお、流路切換弁22は、ラジエータ14への冷媒の流通量を調整して燃料電池スタック12へ供給される冷媒の温度を調整する温度制御機構であるサーモスタットバルブとして機能するものである。また、前記冷媒系11を流通する冷媒としては、例えば、エチレングリコール、不凍液等の液体冷媒や、フロン(登録商標)等のフッ化炭素系冷媒が含まれる。
【0023】
さらに、前記燃料電池システム10は、燃料電池スタック12のカソードに対して酸化剤ガスとしてエアを供給するエア供給系26を含み、このエア供給系26は、燃料電池スタック12のカソードに連通するエア供給通路28に沿って圧縮エアを送給するエアコンプレッサ30と、前記エアコンプレッサ30から送給された圧縮エアを加湿する加湿器32とを有する。
【0024】
この場合、冷媒ポンプ18及びエアコンプレッサ30をそれぞれ同軸で同時に回転駆動する単一の駆動モータ34が設けられる。すなわち、単一の駆動モータ34のモータ軸34aを、冷媒ポンプ18の回転駆動軸とエアコンプレッサ30の回転駆動軸とで共用し、前記駆動モータ34のモータ軸34aの回転運動が冷媒ポンプ18の回転駆動軸及びエアコンプレッサ30の回転駆動軸にそれぞれ同時に伝達されるように設けられる。
【0025】
さらにまた、前記燃料電池システム10は、燃料電池スタック12のアノードに対して燃料ガス(水素ガス)を供給する水素供給系を含み、この水素供給系は、燃料電池スタック12のアノードに連通する水素供給通路36に沿って水素ガスを供給する図示しない水素タンクや、前記水素供給通路36を開閉する図示しない遮断弁等を有する。
【0026】
なお、前記燃料電池システム10には、前記冷媒ポンプ18及びエアコンプレッサ30をそれぞれ付勢・滅勢する前記駆動モータ34に対して駆動信号を導出すると共に、流路切換弁22に対して弁切換信号(弁動作制御信号)を導出する制御手段として機能するECU(Electric Control Unit)が設けられる。前記ECUは、図示しないRAM、ROM、CPU、I/Oポート等を含むマイクロコンピュータからなる電子制御装置によって構成される。
【0027】
上記のように構成される燃料電池システム10は、図示しない燃料電池自動車に搭載され、燃料電池スタック12で発電する電力が後記する走行モータ(メインモータ)38(図6参照)に供給され、前記走行モータ38によってタイヤが回転することにより燃料電池自動車が走行する。
【0028】
<冷媒流量制御弁の構成>
図2は、循環通路を流通する冷媒の流通量を制御(制限)する冷媒流量制御弁の概略構成図である。この冷媒流量制御弁24は、いわゆるバタフライ弁からなり、冷媒ポンプ18から送給された冷媒が導入されるインレットポート40a(図3参照)及び燃料電池スタック12に対して冷媒を導出するアウトレットポート40b(図3参照)が設けられた弁ボデイ42と、前記弁ボデイ42の内部に配設され、前記インレットポート40aと前記アウトレットポートとを連通させる冷媒通路43を開閉する円板状の弁体44を含む弁機構部46と、モータとして機能し前記弁体44を所定の弁開度だけ回転駆動する弁駆動部48と、前記弁駆動部48の回転駆動力を前記弁体44に伝達する回転駆動力伝達部50とから構成される。
【0029】
弁機構部46は、前記弁ボデイ42内に軸受(図示せず)を介して回転自在に軸支される回転軸52と、前記回転軸52に連結されて前記回転軸52と一体的に回動する円板状の弁体44と、前記弁体44を間にして前記回転軸52の外周面を囲繞する一対のオイルシール54a、54bと、前記回転軸52の一端部に設けられ前記弁体44の弁開度(回転角度)を検出する開度センサ56と、前記回転軸52に係着され前記弁体44を初期状態に復帰させる復帰ばね58とを有する。
【0030】
この場合、前記弁体44の平面形状(円形)は、冷媒通路43の断面と略同一形状からなり、冷媒の流通方向に対して垂直方向に回動するように設けられる。すなわち、回転軸52と一体的に回動する弁体44の回転角度を調整することにより、冷媒通路43に沿って冷媒が流通することが阻止された全閉状態と、冷媒通路43に沿って冷媒が最大限に流通する全開状態との間で弁体44を所望の弁開度に制御することができる。図2中では、ノーマルオープンタイプのバタフライ弁が採用され、弁体44が略水平に位置する全開状態が示されている。なお、弁体44が全閉状態となった場合、循環通路16による冷媒の循環が停止され、燃料電池スタック12に対する冷却作用が停止される。
【0031】
弁駆動部48は、ブラシ付きDCモータからなり、モータハウジング60と、前記モータハウジング60の内壁に互いに対向するように固着された一対の固定子(永久磁石)62a、62bと、前記回転軸52と略平行に配設され一対のベアリング64a、64bによって回転自在に軸支されたモータシャフト66と、図示しない鉄心にコイル68が巻回され前記モータシャフト66に連結されて一体的に回転する回転子70とを含む。なお、図2及び図3中において、前記弁駆動部48に配設されたモータシャフト66の軸方向(モータ軸方向)を、「モータシャフト方向」と矢印で示している。なお、本実施形態では、モータとしてDCモータを例示して説明しているが、これに限定されるものではなく、前記モータには、少なくとも、ステッピングモータ(パルスモータ)、サーボモータ等が含まれる。
【0032】
回転駆動力伝達部50は、モータシャフト66の一端部に装着されたピニオン72と、前記ピニオン72の歯部に噛合する第1ギア74と、前記第1ギア74の軸部74aに形成された歯部に噛合すると共に、前記回転軸52に連結された第2ギア76とを有する。
【0033】
この場合、回転子70のコイル68に通電される電流の向きを切り換えることにより、固定子62a、62bと回転子70(コイル68)との間に発生する磁力の反発力、吸引力によって回転力が生成される。前記弁駆動部48で生成された回転力は、モータシャフト66に連結されたピニオン72、第1ギア74、第2ギア76を介して回転軸52に伝達され、前記回転軸52に固定された円板状の弁体44が回動し、所定の弁開度に設定される。
【0034】
<冷媒流量制御弁の配置構造>
図3は、冷媒流量制御弁の配置構造を示す一部断面側面図、図4は、図3に示される冷媒流量制御弁の一部断面平面図である。
【0035】
弁体44を全閉状態にした際、冷媒ポンプ18と冷媒流量制御弁24との間の冷媒配管が高圧となり、冷媒流量制御弁24は、前記高圧となる冷媒配管の配管長を短縮するために、冷媒ポンプ18の近傍であってエアコンプレッサ30の外部側壁30aに装着される。なお、本実施形態では、防振用弾性体として機能するマウント部材80を、冷媒流量制御弁24とエアコンプレッサ30との間に設けた配置構造を以下に例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、前記防振用弾性体は、冷媒流量制御弁24と冷媒ポンプ18との間、又はエアコンプレッサ30と冷媒ポンプ18とが一体的にユニット化された図示しないポンプユニットと冷媒流量制御弁24との間に配設されてもよい。
【0036】
図3及び図4に示されるように、冷媒流量制御弁24は、略L字状に形成されたブラケット78を介してエアコンプレッサ30の外部側壁30aに固定される。前記エアコンプレッサ30の外部側壁30aとブラケット78との間には、例えば、ゴム等の弾性体からなり円盤状に形成されたマウント部材80が介装され、前記マウント部材80は、ボルト等の締結部材82によってエアコンプレッサ30に締結される。
【0037】
前記マウント部材80は、防振用弾性体として機能するものであり、冷媒流量制御弁24の弁駆動部48のモータシャフト方向と前記マウント部材80の振動吸収方向とが一致又は略一致するように配設されている。このように、モータシャフト方向と振動吸収方向とを一致又は略一致させることにより、冷媒流量制御弁24の内部に設けられた弁駆動部48のモータシャフト方向の振動が吸収(緩衝)され、モータシャフト66の振動によるブラシ(図示せず)やコイル68の損傷を好適に回避することができる。
【0038】
換言すると、モータシャフト方向とマウント部材80の振動吸収方向とが一致又は略一致するように、マウント部材80を介して冷媒流量制御弁24をエアコンプレッサ30に取り付けることにより、比較的大きな振動を発生させるエアコンプレッサ30からの振動が緩衝され、前記振動が冷媒流量制御弁24の弁駆動部48に付与されることが緩衝されて前記弁駆動部48を好適に保護することができる。
【0039】
さらに、図3及び図4に示されるように、冷媒ポンプ18と冷媒流量制御弁24のインレットポート40aとの間及び冷媒流量制御弁24のアウトレットポート40bと燃料電池スタック12との間には、ゴム製の弾性体からなる一対の配管チューブ84a、84bがそれぞれ接続される。この配管チューブ84a、84bは、冷媒流量制御弁24からみて、一旦、所定方向に曲折された後、固定部材86を介して固定される。
【0040】
この場合、前記配管チューブ84a、84bの曲折方向は、冷媒流量制御弁24の弁駆動部48のモータシャフト方向と一致又は略一致する方向に設定される。その際、モータシャフト方向と一致するように曲折されたゴム製の配管チューブ84a、84bが矢印A方向に沿ってばね性を有することにより、冷媒流量制御弁24へ付与される振動をより一層好適に吸収することができる。
【0041】
従って、冷媒流量制御弁24の弁駆動部48のモータシャフト方向と、マウント部材80の振動吸収方向と、ゴム製の配管チューブ84a、84bの曲折方向とを同一方向又は略同一方向に設定することにより、弁駆動部48のモータシャフト66に対し振動が付与されることを好適に緩和して弁駆動部48の損傷を回避することができる。
【0042】
この結果、マウント部材80による振動吸収作用と、ゴム製の配管チューブ84a、84bによる振動吸収作用との共働作用によって、例えば、エアコンプレッサ30で発生する比較的大きな振動、図示しない燃料電池自動車の車体で発生する振動や、配管チューブ84a、84b内を流通する冷媒によって発生する振動等、種々の振動が好適に吸収(緩衝)されて冷媒流量制御弁24に対する振動タフネスを向上させることができる。
【0043】
なお、本実施形態では、冷媒ポンプ18と冷媒流量制御弁24のインレットポート40aとの間に接続される配管チューブ84a、冷媒流量制御弁24のアウトレットポート40bと燃料電池スタック12との間に接続される配管チューブ84bの両方を曲折させているが、これに限定されるものではなく、いずれか一方のみの配管チューブ84a(84b)をモータシャフト方向と同一方向又は略同一方向に曲折させるようにしてもよい。また、本実施形態では、冷媒流量制御弁24内に振動を緩衝する緩衝機構を何ら設けていないため、前記冷媒流量制御弁24を大型化させることがなく、燃料電池システム10の小型・軽量化を図ることができる。
【0044】
図5は、配管チューブ84a、84bをばね部材に置き換えて前記配管チューブ84a、84bのばね性を模式的に表したものであり、矢印A方向に沿って伸縮する配管チューブ84a、84bのばね性によって冷媒流量制御弁24への振動の伝達が好適に抑制される。
【0045】
図6(a)は、エアコンプレッサに対する冷媒流量制御弁の配置方向を示した側面図、図6(b)は、図6(a)に示される矢印X方向からみた矢視図である。なお、図3と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
図6(a)、(b)に示されるように、エアコンプレッサ30は、第1〜第3支持部材88a〜88cを介して走行モータ38上に3点支持されるように配設される。前記第1〜第3支持部材88a〜88cは、下端部が走行モータ38に固定され、上端部にゴム製の円盤状のマウント部材80が設けられたブラケット90を有し、締結部材82によって固定されている。前記エアコンプレッサ30を複数のマウント部材80を介して支持することにより、前記エアコンプレッサ30で発生する振動が走行モータ38へ伝達されることを抑制することができる。
【0047】
この場合、第1〜第3支持部材88a〜88c中、第1支持部材88aと第2支持部材88bとが相互に対向配置され(図6(a)参照)、第1支持部材88aのマウント部材80の径方向と第2支持部材88bのマウント部材80の径方向とが互いに平行で、第3支持部材88cのマウント部材80の径方向が、前記第1支持部材88a及び第2支持部材88bのマウント部材80の径方向と直交するように設定されている。
【0048】
換言すると、燃料電池自動車のフロント側に第1支持部材88aのマウント部材80が配設され、リア側に第2支持部材88bのマウント部材80が配設され、燃料電池自動車のリア側からみて車体の左側に第3支持部材88cのマウント部材80が配設されている。
【0049】
このように走行モータ38上にエアコンプレッサ30が複数のマウント部材80を介して3点支持された場合、前記エアコンプレッサ30に付与される振動・揺動(揺動範囲)は、図6(b)に示されるように、燃料電池自動車の車幅方向(左右方向)に沿って大きくなり、図6(a)に示されるように、燃料電池自動車のフロント−リア方向に沿って小さくなる。換言すると、前記コンプレッサ30における回転モーメントは、燃料電池自動車の車幅方向(左右方向)に沿って大きくなり、一方、燃料電池自動車のフロント−リア方向に沿って小さくなる。
【0050】
そこで、本実施形態では、冷媒流量制御弁24を、弁駆動部48のモータシャフト方向とエアコンプレッサ30の揺動の小さい方向とが一致又は略一致するように配置することにより、前記弁駆動部48に付与される振動を抑制することができる。
【0051】
このように冷媒流量制御弁24が取り付けられるエアコンプレッサ30の揺動範囲が小さい方向と、前記冷媒流量制御弁24の弁駆動部48のモータシャフト方向とを同一方向又は略同一方向に設定することにより、前記弁駆動部48に対する振動が緩衝されて弁駆動部48における損傷を好適に回避することができる。
【0052】
換言すると、冷媒流量制御弁24の取り付け相手部材を支持する2以上のマウント部材80(第1支持部材88aのマウント部材80及び第2支持部材88bのマウント部材80)が、その径方向において平行に配設されている場合、前記マウント部材80の径方向と直交する方向(第1支持部材88aのマウント部材80と第2支持部材88bのマウント部材80とを結ぶ方向)に冷媒流量制御弁24の弁駆動部48のモータシャフト方向を設定することにより、前記弁駆動部48に付与される振動(揺動)が緩衝されて、弁駆動部48に対する振動タフネスを向上させることができる。
【0053】
なお、冷媒流量制御弁24に設けられた弁駆動部48のモータシャフト方向と、前記エアコンプレッサ30に代替して複数のマウント部材80を介して支持される冷媒ポンプ18、又はエアコンプレッサ30と冷媒ポンプ18とが一体的にユニット化された図示しないポンプユニットの揺動の小さい方向とを一致させることにより、前記と同様に、弁駆動部48に対する振動タフネスを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造が適用された燃料電池システムの回路構成図である。
【図2】図1に示される冷媒流量制御弁の概略構成図である。
【図3】前記冷媒流量制御弁の配置構造を示す一部断面側面図である。
【図4】図3に示される冷媒流量制御弁の一部断面平面図である。
【図5】前記冷媒流量制御弁に接続されるゴム製の配管チューブのばね性を模式的に表した模式図である。
【図6】(a)は、エアコンプレッサに対する冷媒流量制御弁の配置方向を示した側面図、(b)は、(a)に示される矢印X方向からみた矢視図である。
【符号の説明】
【0055】
10 燃料電池システム
11 冷媒系
12 燃料電池スタック
18 冷媒ポンプ
24 冷媒流量制御弁
30 エアコンプレッサ
40a インレットポート
40b アウトレットポート
48 弁駆動部(モータ)
66 モータシャフト(モータ軸)
80 マウント部材(防振用弾性体)
84a、84b 配管チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池と、前記燃料電池へエアを前記酸化剤ガスとして供給するエアコンプレッサと、冷媒通路に沿って冷媒を流通させる冷媒ポンプと、モータを有し前記燃料電池を冷却する冷媒の流通量を制御する冷媒流量制御弁と、前記冷媒流量制御弁に対して冷媒が導入されるインレットポート及び前記冷媒が導出されるアウトレットポートにそれぞれ接続される配管チューブとを含む燃料電池システムにおける前記冷媒流量制御弁の配置構造であって、
前記冷媒流量制御弁と前記エアコンプレッサとの間、又は前記冷媒流量制御弁と前記冷媒ポンプとの間、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化されたポンプユニットと前記冷媒流量制御弁との間に設けられる防振用弾性体の振動低減方向と、前記モータのモータ軸方向と、前記インレットポート又は前記アウトレットポートに接続される前記配管チューブの一方をゴム製材料によって形成し前記冷媒流量制御弁からみた前記一方の配管チューブの曲折方向とが、それぞれ、同一方向に設定されることを特徴とする燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造において、
前記エアコンプレッサ、又は前記冷媒ポンプ、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化された前記ポンプユニットを支持する2以上の円盤状のマウント部材が径方向において平行に配置されている際、前記マウント部材の径方向と直交し前記エアコンプレッサ、又は前記冷媒ポンプ、若しくは前記エアコンプレッサと前記冷媒ポンプとが一体的にユニット化された前記ポンプユニットの揺動が小さい方向と、前記モータのモータ軸方向とが、それぞれ、同一方向に設定されることを特徴とする燃料電池システムにおける冷媒流量制御弁の配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−283319(P2009−283319A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134648(P2008−134648)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】