説明

物品搬送装置

【課題】長尺柔軟体の固有振動数が低い場合でも不都合がなく、かつ、走行体が停止するときに逆走しないような制振走行速度パターンを生成することができる物品搬送装置を提供すること。
【解決手段】制御手段(27)が、長尺柔軟体の振動を抑制するべく、振動抑制用の制振走行速度パターンを生成して、この制振走行速度パターンに基づいて走行駆動手段(HD)を作動させるフィードフォワード制御により走行体の走行を制御するように構成され、フィードフォワード制御として、長尺柔軟体の振動モデルの逆システムにより、制振走行速度パターンを生成するように構成されている物品搬送装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行経路に沿って走行駆動手段の作動により走行する物品搬送用の走行体と、前記走行体に吊り下げ状態又は立設状態で装備された物品支持用の長尺柔軟体と、前記走行体を設定された走行速度パターンにて走行させるべく、前記走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させて、前記走行体の走行を制御する制御手段とが設けられ、前記制御手段が、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく、振動抑制用の制振走行速度パターンを生成して、この制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードフォワード制御により前記走行体の走行を制御するように構成されている物品搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の物品搬送装置は、例えば、物品を昇降自在に支持する昇降マスト(長尺柔軟体)を走行台車(走行体)に立設状態で装備するスタッカークレーンのように、物品支持用の長尺柔軟体に支持された物品を移載対象箇所に移載するべく、移載対象箇所に対応した目標走行位置まで走行体を走行させ、走行体の走行が停止した状態で、物品を移載対象箇所に移載するものであり、走行体の走行が停止した後に、直ちに物品を移載対象箇所に移載するためには、走行体が停止したときに、物品支持用の長尺柔軟体が揺れていないことが望まれ、また、搬送対象物品の荷崩れや損傷を防止するためには、走行体の走行作動中においても物品支持用の長尺柔軟体が揺れていないことが望まれる。
【0003】
そこで、走行体が停止したときの長尺柔軟体の揺れを抑制するために、制御手段が、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の挙動を検出する検出手段の検出情報に基づいて、長尺柔軟体の振動を抑制するべく走行速度パターンを補正して、この補正された制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードバック制御により走行体の走行を制御するように構成されたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
ちなみに、特許文献1の物品搬送装置では、長尺柔軟体の上下両端の高さに対応して地上側に設置された距離検出手段の検出情報に基づいて、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の挙動を検出するように構成されている。
【0005】
ところが、フィードバック制御により走行体の走行を制御するものでは、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の振動が発生した後にその振動を抑制するので、走行作動中における長尺柔軟体の振動の抑制効果が十分ではないという問題がある。
【0006】
この問題は、ガラス基板や半導体基板等、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の振動によって損傷のおそれのある脆弱な物品を搬送対象とする場合おいて特に顕著となる。
【0007】
走行体の走行作動中における長尺柔軟体の振動を抑制する手段として、フィードフォワード制御により走行体の走行を制御することが考えられる。そして、フィードフォワード制御としては、ノッチフィルタを使用するものが考えられる。
【0008】
すなわち、走行速度パターンを前記長尺柔軟体の固有振動数に対応した除去帯域のノッチフィルタにより振動抑制用の制振走行速度パターンを生成し、この制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードフォワード制御により前記走行体の走行を制御することで、走行作動中における長尺柔軟体の振動をできる限り抑制しながら走行体を走行作動させ、走行体の走行が停止した後の長尺柔軟体の振動を極力発生させないようにするものである。
【0009】
説明を加えると、走行体に指令すべき走行速度値の時間変化を示す台形波形の走行速度パターンを長尺柔軟体の固有振動数に対応した除去帯域のノッチフィルタに入力して生成された制振走行速度パターンにより走行体を走行させることで、長尺柔軟体がもつ固有振動数の振動を励起させないようにして、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の振動を抑制するものである。
【0010】
なお、物品搬送装置における長尺柔軟体であると、その機械振動特性から、1次モードの固有振動数は10Hz程度以下である場合が多く、ノッチフィルタの除去帯域は、そのような固有振動数を含むように設定すればよい。
【0011】
【特許文献1】特開2004−059190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ノッチフィルタによるフィードフォワード制御を行うものでは、走行開始から走行終了まで時間(以下、走行時間という。)が例えば5秒以上あるような比較的長い走行時間を示す走行速度パターンが設定される場合であれば、その設定された走行速度パターンをノッチフィルタに入力することで、長尺柔軟体の固有振動数成分が低減され、入力した走行速度パターンの波形に近い波形の制振走行速度パターンを得ることができるので、このような制振走行速度パターンで走行体を走行させると、元の走行速度パターンで目標としている目標停止位置に近い位置まで走行することができるが、走行時間が例えば3秒以下であるような比較的短い走行時間を示す走行速度パターンが設定される場合には、ノッチフィルタの除去帯域、つまり、長尺柔軟体の固有振動数によっては不都合が生じるものであった。
【0013】
説明を加えると、走行速度パターンは走行駆動手段に対する指令信号の時間的な変化を表わすものであるから、走行速度パターンは時間的な変化に応じた周波数成分を有し、物品搬送装置において一般的な加速及び減速からなる走行速度パターンであると、その波形は、時間軸を底辺とする三角形又は時間軸を下底とする台形に近い形状となる。このような三角形又は台形に近い波形は、周期的な波形の半波長分に相当するので、物品搬送装置において一般的な加速及び減速からなる走行速度パターンは、走行時間の倍の周期に対応する周波数(以下、基本周波数という。)の成分を主な周波数成分として有している。
【0014】
そして、長尺柔軟体の固有振動数に合わせたノッチフィルタの除去帯域内の周波数を基本周波数とするような走行速度パターンが設定された場合には、ノッチフィルタに走行速度パターンを入力すると、走行速度パターンの波形を主に形成する基本周波数の成分がノッチフィルタの作用により減衰してしまい、ピーク信号レベルが入力された走行速度パターンに比べて極端に低い制振走行速度パターンしか得ることができないのである。
【0015】
具体例を挙げて説明すると、固有振動数が比較的低くない長尺柔軟体(例えば、1次モードの固有振動数が4[Hz]以上であるもの。)について走行作動中の振動を抑制すべく、ノッチフィルタの中心周波数を1次モードの固有振動数(例えば、4[Hz]。)に合わせた場合であれば、走行時間が比較的短く基本周波数が比較的高い走行速度パターン(例えば、走行時間が1.5[秒]で基本周波数が0.33[Hz]の走行速度パターン。)が設定された場合であっても、その基本周波数はノッチフィルタの除去帯域より十分低いので、走行速度パターンの主な周波数成分はノッチフィルタの作用で減衰し難くい一方、その走行速度パターンに含まれる高調波成分はノッチフィルタの作用を受けて減衰し、期待通りの制振走行速度パターンを生成することができるのである。
【0016】
ところが、大型の長尺柔軟体のように低次モードの固有振動数が低いもの(例えば1次モードの固有振動数が0.33[Hz]であるもの。)について走行作動中の振動を抑制すべく、ノッチフィルタの中心周波数を1次モードの固有振動数(この例では、0.33[Hz]。)に合わせた場合、走行時間が比較的短く基本周波数が比較的高い走行速度パターン(先の例と同じく、走行時間が1.5[秒]で基本周波数が約0.33[Hz]の走行速度パターン。)であると、その基本周波数はノッチフィルタの除去帯域にあたるので、この走行速度パターンをノッチフィルタに入力すると、走行速度パターンの主な周波数成分がノッチフィルタの作用で減衰してしまい、期待通りの制振走行速度パターンを生成することができないのである。
【0017】
すなわち、従来のものは、長尺柔軟体の固有振動数に対応したノッチフィルタを通して制振走行速度パターンを生成するものであり、設定された走行速度パターンに含まれる周波数成分のうち長尺柔軟体の固有振動数の周波数成分がノッチフィルタにより除去されて制振走行速度パターンが生成されるので、長尺柔軟体の固有振動数の周波数と一致するような基本周波数をもつ制振走行速度パターンの波形が設定されると、入力した走行速度パターンのピーク信号レベル対して大きく低下したピーク信号レベルの制振走行速度パターンしか得ることができず、このような制振走行速度パターンで走行体を走行させると、走行速度パターンにて目標とされていた走行距離よりも極端に短い距離しか走行させることしかできず、走行速度パターンの目標停止位置よりも大きく手前で走行体が停止してしまう。
【0018】
このように、従来の構成では、長尺柔軟体の固有振動数が低い場合、走行体を目標走行位置付近まで走行させることができる制振走行速度パターンを生成できない場合がある。
【0019】
また、従来のようにノッチフィルタにより制振走行速度パターンを生成する場合において、元の走行速度パターンの波形をできるだけ維持するべく固有振動数以外の周波数成分の減衰を避けようとしてノッチフィルタの減衰特性を急峻なものとすると、ノッチフィルタの群遅延特性の直線性が悪くなる。群遅延特性の直線性が悪いノッチフィルタに走行速度パターンを通すと、ノッチフィルタを通す前の走行速度パターンにおける波形変化の大きい箇所(例えば、加速終了箇所や減速終了箇所。)に対応した部分の波形が大きく崩れて、ノッチフィルタを通した後の制振走行速度パターンにおける対応する部分にオーバーシュートが生じ易い。
【0020】
そのため、ノッチフィルタにより生成された制振走行速度パターンの後端部分では速度がゼロより小さい速度成分が発生し易く、このような制振走行速度パターンに基づいて走行体を走行させると、目標走行位置付近で走行体が逆向きに走行してしまい、走行体の挙動が不自然となる。このことは、物品を搬送する装置の動きとして見栄えが悪いばかりでなく、走行体を走行させる走行駆動手段に過大な負荷が掛かり装置の信頼性を悪化させるほか、走行体の位置決め制御を行う場合に、目標停止位置付近で走行方向が反転する走行体を制御対象にしなければならず制御が複雑になるおそれがあるので好ましくない。
【0021】
このように、従来の構成では、目標走行位置付近において走行体が逆走するという不都合が生じ易いものであった。
【0022】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、長尺柔軟体の固有振動数が低い場合でも不都合がなく、かつ、走行体が停止するときに逆走しないような制振走行速度パターンを生成することができる物品搬送装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的を達成するために、本発明にかかる物品搬送装置は、走行経路に沿って走行駆動手段の作動により走行する物品搬送用の走行体と、前記走行体に吊り下げ状態又は立設状態で装備された物品支持用の長尺柔軟体と、前記走行体を設定された走行速度パターンにて走行させるべく、前記走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させて、前記走行体の走行を制御する制御手段とが設けられ、前記制御手段が、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく、振動抑制用の制振走行速度パターンを生成して、この制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードフォワード制御により前記走行体の走行を制御するように構成されているものであって、その第1特徴構成は、前記制御手段が、前記フィードフォワード制御として、前記長尺柔軟体の振動モデルの逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている点にある。
【0024】
すなわち、制御手段は、長尺柔軟体の振動モデルの逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するので、走行速度パターンを入力とし長尺柔軟体の、例えば、走行体と反対側の端部(以下、先端部分ともいう)等の特定箇所の変位を出力とするシステムにおいて、モデル化されたシステムの入出力の関係を逆にした逆システムの出力を当該システムの入力とすることになり、前記振動モデルで示される当該システムの出力である長尺柔軟体の特定箇所の変位が希望する応答となるようなシステムの入力が、制振走行速度パターンとして与えられる。つまり、走行体を走行させた場合の長尺柔軟体の特定部分の変位の時間変化が、設定された走行速度パターンの波形にできるだけ一致するような、制振走行速度パターンを生成することができる。
【0025】
したがって、例えば、長尺柔軟体の先端部分の変位の時間変化が、その走行速度パターンの波形にできるだけ一致するような、制振走行速度パターンを生成することができ、このような制振走行速度パターンに基づいて走行体を走行作動させると、長尺柔軟体の先端部分の変位の時間変化が走行体の変位の時間変化に一致させるように走行体が走行作動して、長尺柔軟体の先端部分の変位と走行体の変位との偏差が時間的に変動しにくい、換言すると、走行体に対する長尺柔軟体の先端部分の相対位置が時間的に変動しにくいものとなり、前記相対位置が変動する場合でも、その周波数成分は長尺柔軟体の固有振動数を殆ど含まないものとすることができる。
【0026】
このように、長尺柔軟体の振動モデルの逆システムにより生成された制振走行速度パターンに基づいて走行体の走行作動を制御すると、走行体に吊り下げ状態又は立設状態で装備された長尺柔軟体の先端部分の振動が励起されないようにしながら走行体を走行させることができ、良好な制振効果が得られる。
【0027】
そして、逆システムで制振走行速度パターンを生成する場合、走行速度パターンに含まれる信号成分のうち、逆システムの元となったシステムの振動モデルの固有振動数に対応した周波数の成分を減衰させることに加えて、他の周波数の成分を増幅させるようにして制振走行速度パターンを生成するので、元の走行速度パターンのうち固有振動数に対応した周波数帯域の成分が減衰してしまって速度パターン波形が形成されないということもなく、長尺柔軟体の固有振動数と走行速度パターンの基本周波数が近い場合でも、制振走行速度パターンを生成することができる。
【0028】
さらに、制御手段が逆システムにより生成された制振走行速度パターンに基づいて走行体を走行させると、長尺柔軟体の固有振動数に対応した周波数成分をもつような速度変化を避ける形態で、走行体の走行速度が変化することになり、走行体の走行を開始してからは走行作動中において長尺柔軟体の固有振動数の振動が励起しにくい状態が維持される。
【0029】
したがって、走行体の走行を停止させる場面においても、長尺柔軟体の運動状態を固有振動数の振動が励起しにくい状態とすることができるので、走行体の走行を停止させる場面で振動が励起し易い運動状態となっている長尺柔軟体を振動させないように走行体を逆向きに走行させることなく、走行体をそのままの走行方向にて走行させて自然に停止させることができる。
【0030】
以上のように、本発明の第1特徴構成によると、長尺柔軟体の固有振動数が低い場合でも不都合がなく、かつ、走行体が停止するときに逆走しないような制振走行速度パターンを生成することができる物品搬送装置を得るに至った。
【0031】
本発明にかかる物品搬送装置の第2特徴構成は、第1特徴構成において、前記振動モデルが、前記長尺柔軟体の振動のうち低次固有振動モードの振動を対象とした簡易振動モデルであり、前記逆システムが、前記簡易振動モデルの簡易逆システムと、低次固有振動モードの振動の周波数を通過帯域とする低域通過項とからなる低域通過簡易逆システムである点にある。
【0032】
すなわち、長尺柔軟体の振動のうち低次固有振動モードの振動を対象とした簡易振動モデルの逆システムである簡易逆システムを採用すると、システムの入力のうち対象とする固有振動数に対応する周波数についての応答に着目して逆システムを求めればよく、逆システムを伝達関数等にて表現する場合において、逆システムが簡素なものとなり、長尺柔軟体の高次の固有振動モードにも対応した複雑な逆システムを採用する場合に比べて、制御手段にて走行速度パターンを生成するときの処理の簡素化を図ることができる。
【0033】
一方で、低次の固有振動モードの振動を対象とした簡易逆システムにて制振走行速度パターンを生成すると、システムの特性によっては高次の固有振動モードについての周波数成分が簡易逆システムによって増幅されることがあり、このように高次の固有振動モードについての周波数成分が増幅された制振走行速度パターンにて走行させると、簡易逆システムの対象外となっている高次の固有振動モードの振動が却って励起され易くなるおそれがあるが、低次固有振動モードの振動の周波数を通過帯域とする低域通過項を付加することで、簡易逆システムにより高次の固有振動モードについての周波数成分が増幅される場合でも、高次の固有振動モードの周波数を低域通過項の阻止帯域となるようにしておけば、これらの周波数成分に対して低域通過項による減衰作用を与えることができ、高次の固有振動モードについての周波数成分が増幅されるような制振走行速度パターンが生成されることを防止できる。
【0034】
要するに、低域通過簡易逆システムにて制振走行速度パターンを求めることで、制振走行速度パターンを生成するときの処理の簡素化を図りながら、高次の固有振動モードの振動が却って励起され易くなることを防止することができる。
【0035】
また、低域通過簡易逆システムは低域通過項を有しているので、低域通過簡易逆システムはパラメータの1つとして時定数を有することになり、簡易逆システムにて生成される制振速度パターンであると走行体の走行を停止させる場面で逆向きの走行方向の速度成分が発生するような場合であっても、低域通過簡易逆システムの時定数を大きく設定することで、低域通過項のカットオフ周波数を高くして、元の走行速度パターンを低域通過簡易逆システムに入力したときの出力である制振走行速度パターンにおけるオーバーシュートを小さくすることができる。
【0036】
したがって、低域通過簡易逆システムにて制振走行速度パターンを生成することで制振走行速度パターンにおける逆向きの走行方向の速度成分が発生することを抑制することができ、制振走行速度パターンに基づいて走行体を走行させた場合に走行体が逆向きに走行するという不都合を確実に回避することができる。
【0037】
このように、本発明の第2特徴構成によると、制振走行速度パターンを生成するときの処理の簡素化を図りながら、高次の固有振動モードの振動が却って励起され易くなることを防止することができ、しかも、走行体が逆向きに走行するという不都合を確実に回避することができる物品搬送装置を得るに至った。
【0038】
本発明にかかる物品搬送装置の第3特徴構成は、第2特徴構成において、前記制御手段が、前記低域通過簡易逆システムを特定するパラメータを、前記長尺柔軟体についての異なる物品支持条件の夫々について、前記物品支持条件に対応した条件別パラメータとして記憶するように構成され、かつ、前記走行体を走行させる場合には、前記走行体が走行作動するときの前記長尺柔軟体の物品支持条件に対応した前記条件別パラメータにて特定される前記低域通過簡易逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている点にある。
【0039】
すなわち、制御手段は、低域通過簡易逆システムを特定するパラメータを、長尺柔軟体についての異なる物品支持条件の夫々について、物品支持条件に対応した条件別パラメータとして記憶するので、物品支持条件に基づいて、その物品支持条件に対応した低域通過簡易逆システムを特定する条件別パラメータを、テーブル参照方式等により簡単に得ることができる。
【0040】
そして、制御手段は、条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムにより、制振走行速度パターンを生成し、その制振走行速度パターンにて走行体を走行させるので、走行体が走行作動するときの長尺柔軟体の物品支持条件に対応した条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムにて、物品支持条件に対応した制振走行速度パターンを生成し、その制振走行速度パターンにて走行体を走行させることができる。
【0041】
したがって、異なる物品支持条件の夫々について、各物品支持条件に対応する長尺柔軟体の固有振動数を対象とする低域通過簡易逆システムを特定する条件別パラメータを適切に設定しておくことで、夫々の物品支持条件に適した低域通過簡易逆システムを特定するパラメータを簡単に得ることができ、もって、走行体を走行させるときの長尺柔軟体の物品支持条件に適した制振走行速度パターンを生成することができる。
【0042】
このように、本発明の第3特徴構成によると、走行体を走行させるときの長尺柔軟体の物品支持条件が異なっても、その物品支持条件に適した制振走行速度パターンにて走行体を走行させることができ、走行体の走行による長尺柔軟体の振動について、長尺柔軟体の固有振動数を変化させるような物品支持条件の変化に対応した制振効果を得ることができる物品搬送装置を得るに至った。
【0043】
本発明にかかる物品搬送装置の第4特徴構成は、第3特徴構成において、前記制御手段が、前記走行体の走行作動中に、前記条件別パラメータを、前記長尺柔軟体の物品支持条件に対応した条件別パラメータに変更設定し、変更設定後の条件別パラメータにて特定される前記低域通過簡易逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている点にある。
【0044】
すなわち、制御手段は、走行体の走行作動中において、長尺柔軟体の物品支持条件に対応した条件別パラメータに変更設定するので、走行体の走行作動中に、長尺柔軟体の物品支持条件の変化に応じて、条件別パラメータを長尺柔軟体の物品支持条件に適した低域通過簡易逆システムを特定する条件別パラメータに変更設定する。
【0045】
そして、制御手段は、変更設定後の条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムにより制振走行速度パターンを生成するので、変化後の物品支持条件に適した制振走行速度パターンを生成する。
【0046】
つまり、制御手段は、走行体の走行作動中における長尺柔軟体の物品支持条件の変化に応じて、変化後の物品支持条件の下での長尺柔軟体の固有振動数を対象とした低域通過簡易逆システムにより生成される制振走行速度パターンに基づいて走行体の走行を制御することができる。
【0047】
したがって、走行体の走行作動中において長尺柔軟体の物品支持条件が変化する場合でも、変化後の支持条件の下での長尺柔軟体の固有振動数の振動を励起させないようにすることができる。
【0048】
このように、本発明の第4特徴構成によると、走行体の走行作動中において長尺柔軟体の物品支持条件が変化してその固有振動数が変化する場合でも、走行体の走行による長尺柔軟体の振動について良好な制振効果を得ることができる物品搬送装置を得るに至った。
【0049】
本発明にかかる物品搬送装置の第5特徴構成は、第1〜4特徴構成のいずれか1つにおいて、前記長尺柔軟体の挙動を検出する挙動検出手段が設けられ、前記制御手段が、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく、前記走行体の走行作動中における前記挙動検出手段の検出情報に基づいて、前記制振走行速度パターンを補正して、この補正された制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードバック制御により前記走行体の走行を制御するように構成されている点にある。
【0050】
すなわち、挙動検出手段が長尺柔軟体の挙動を検出し、制御手段は、挙動検出手段が検出する長尺柔軟体の挙動についての情報に基づいて、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく制振走行速度パターンを補正して、この補正された制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードバック制御を行うので、走行体の走行作動中において長尺柔軟体が固有振動数の振動が励起し易い運動状態となるような挙動を示す場合に、その挙動についての情報に基づいて、長尺柔軟体が固有振動数の振動が励起し難い運動状態となるように制振走行速度パターンを補正することで、長尺柔軟体の振動を抑制することができる。
【0051】
したがって、長尺柔軟体の振動モデルについてのモデル化誤差(例えば、走行体の走行作動中の車輪の滑り要素や、駆動系のバックラッシュの要素等、実際のシステムとモデル化されたシステムの差)の影響により、逆システムにて生成した制振走行速度パターンに基づいて走行体の走行作動を制御するフィードフォワード制御により走行体を走行させても長尺柔軟体の振動が励起されにくい運動状態を完全に維持することができない場合であっても、長尺柔軟体が固有振動数の振動が励起し易い運動状態となったときに長尺柔軟体の挙動についての情報に基づいて制振走行速度パターンを補正して長尺柔軟体の振動を抑制することができる。
【0052】
特に、逆システムとして低域通過簡易逆システムを使用する場合には、低域通過簡易逆システムの対象外である高次の振動モードによる振動についても制振効果を得ることができる。
【0053】
このように、本発明の第5特徴構成によると、逆システムによるフィードフォワード制御では対応できないモデル化誤差等に基づく制振効果の不足分をフィードバック制御が補完することにより、走行体の走行による長尺柔軟体の振動について一層良好な制振効果を得ることができる物品搬送装置を得るに至った。
【0054】
ちなみに、長尺柔軟体の挙動を検出する挙動検出手段が設けられていると、長尺柔軟体の振動モデルを同定するためのシステム同定用の走行速度パターンにて走行体を走行させたときの挙動検出手段の検出情報からシステムの時間応答を得て、このシステムの時間応答とシステム同定用の走行速度パターンの周波数特性に基づいて長尺柔軟体の振動モデルを同定することができる。
【0055】
このように、本発明の第5特徴構成によると、フィードバック制御におけるフィードバック情報を得るための挙動検出手段を長尺柔軟体の振動モデルの同定の場合に利用することができ、長尺柔軟体の振動モデルを同定するために別途の検出手段を設けなくても済むので、構成の簡素化を図ることができる。
【0056】
本発明にかかる物品搬送装置の第6特徴構成は、第5特徴構成において、前記挙動検出手段として、前記長尺柔軟体の前記走行体側の端部箇所に、当該端部箇所における変形量に対応した検出情報を出力する歪ゲージが設けられ、前記制御手段が、前記フィードバック制御として、前記歪ゲージの検出情報に基づいて、前記制振走行速度パターンを補正するように構成されている点にある。
【0057】
すなわち、挙動検出手段としての歪ゲージが、長尺柔軟体の走行体側の端部箇所における変形量に対応した検出情報を出力し、制御手段が、フィードバック制御として、歪ゲージの検出情報に基づいて、制振走行速度パターンを補正するので、制御手段は、長尺柔軟体の走行体側の端部箇所における変形量に対応して制振走行速度パターンを補正することができる。
【0058】
つまり、歪ゲージの検出情報は、長尺柔軟体の全体の運動状態の影響を受け易い走行体側の端部箇所における変形量に対応したものであるから、挙動検出手段としてのこのような歪ゲージを用いることで、長尺柔軟体の機械構造の特定箇所の運動状態だけでなく、長尺柔軟体の高次の振動モードによる振動まで含めた全体の運動状態の影響を受けた挙動を一つのセンサにて検出することができ、制御手段は、長尺柔軟体の全体の運動状態が振動を励起させないような状態となるように、制振走行速度パターンを補正することができる。
【0059】
説明を加えると、挙動検出手段が単体の加速度センサであると、長尺柔軟体の機械構造の特定箇所の運動状態しか検出できず、また、挙動検出手段が長尺柔軟体の上下端に配置した光学センサの出力の差分により長尺柔軟体の挙動を検出するものであると、長尺柔軟体が二次モードで振動した場合、その二次モードの振動を検知し難いのであるが、本発明のように挙動検出手段として、長尺柔軟体の走行体側の端部箇所に、当該端部箇所における変形量に対応した検出情報を出力する歪ゲージを設けることにより、二次モードの振動を含めた各モードの振動による全体の運動状態の影響を受けた長尺柔軟体の挙動を一つのセンサにて検出することができるのである。
【0060】
長尺柔軟体の走行体側の端部箇所としては、長尺柔軟体の中間部より走行体側に位置する部分であればよく、好ましくは、長尺柔軟体の走行体側の端部から長尺柔軟体の全長の1/10程度だけ離れた位置より走行体側に位置する部分がよい。
【0061】
また、歪ゲージは長尺柔軟体の走行体側の端部箇所に設けられているので、センサを長尺柔軟体の走行体と反対側の端部に設ける等の場合に比べ、制御手段との接続距離を比較的短くすることができ、信号遅れの抑制や周辺ノイズの影響の低減を図って、フィードバック制御により長尺柔軟体の振動を抑制する場合のフィードバック情報として信頼性を向上させることができる。
【0062】
このように、本発明の第6特徴構成によると、信頼性の高いフィードバック情報によるフィードバック制御により長尺柔軟体の全体の運動状態が振動を励起させないような状態となるようして長尺柔軟体の振動を抑制することができる物品搬送装置を得るに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明の物品搬送装置の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態においては、図1に示すように、物品搬送装置が、物品収納棚1を備えた自動倉庫設備SUに設置されたスタッカークレーン3にて構成されている。
【0064】
物品収納棚1は、物品出し入れ方向が互いに対向するように間隔を隔てて設置されている。各物品収納棚1は、前後一対の支柱1aが左右方向に間隔を隔てて複数立設され、前後一対の支柱1aの夫々には、左右方向に延びる載置支持部1bを上下方向に間隔を隔てて複数配設されている。そして、前後一対の支柱1aと左右一対の載置支持部1bとにより一つの収納部4が形成され、この収納部4が縦横に複数並べて設けられている。
【0065】
各物品収納棚1の間にはスタッカークレーン3の走行経路2が形成されている。走行経路2の床面側には走行レール5が、また、天井側にはガイドレール6が物品収納棚1の長手方向に沿って設置されている。そして、走行レール5の一端側には、スタッカークレーン3の運転を管理する地上側コントローラ7と、走行レール5を挟んで一対の荷載置台8とが設けられている。
【0066】
スタッカークレーン3は、走行レール5上を走行経路2に沿って走行自在な走行体としての走行台車10と、この走行台車10に立設された走行台車10の移動方向で前後一対の四角柱状の昇降用マスト11a,11bと、これらの昇降用マスト11a,11bに沿って形成された昇降経路を昇降自在な昇降台12とを備えて構成されている。これらの昇降用マスト11a,11bの夫々が、本発明の長尺柔軟体に相当し、本実施形態におけるスタッカークレーン3は、これらの昇降用マスト11a,11bのうち後方側マスト11bについての振動を抑制するように構成されている。
【0067】
そして、走行台車10が走行経路2の地上側の走行レール5に走行案内され、かつ、昇降用マスト11a,11bの上端部を連結する上部フレーム15が走行経路2の天井側のガイドレール6に案内された状態で走行台車10が自走することにより、収納棚1の横方向に移動自在としてある。
【0068】
走行台車10の構成について説明を加えると、走行台車10には、走行レール5上を走行自在な前後二つの車輪23が設けられ、それら二つの車輪23うちの車体前後方向の一端側の車輪が、走行用サーボモータM1にて駆動される推進用の駆動輪23aとして構成され、車体前後方向の他端側の車輪が、遊転自在な従動輪23bとして構成されている。
【0069】
走行台車10には、走行台車10の駆動輪23aを回動駆動する走行駆動手段HDとしての走行用サーボアンプSA1及び走行用サーボモータM1と、昇降台12を昇降駆動する昇降駆動手段VDとしての昇降用サーボアンプSA2及び昇降用サーボモータM2とが備えられている。そして、汎用マイクロコンピュータを用いて構成されたクレーン制御装置27が、地上側コントローラ7との間で各種の制御情報を赤外線通信装置28(図3参照)により通信可能に設けられている。詳しくは後述するが、クレーン制御装置27は、地上側コントローラ7が指令する搬送指令に基づいて、走行駆動手段HDに対してモータ回転速度による走行速度値を、また、昇降駆動手段VDに対してモータ回転速度による昇降速度値を指令する。
【0070】
また、走行台車10には、水平方向に測距用のレーザ光を投射する走行用レーザ測距計25が設けられている。走行経路2の地上側コントローラ7側の端部付近には、走行用レーザ測距計25からのレーザ光を反射する反射板26が設けられており、前記走行用レーザ測距計25は、この反射板26に向けて距離検出用のレーザ光を投射して反射板26までの距離を検出する。
【0071】
さらに、走行台車10には、略水平方向に測距用のレーザ光を投射する昇降用レーザ測距計20と、その昇降用レーザ測距計20から投射されたレーザ光の光路を鉛直上方に屈曲させて昇降台12の下面に設置された反射板21に照射するためのミラー22とが設けられている。そして、反射板21にて反射したレーザ光がさらにミラー22にて反射して昇降用レーザ測距計20に到達するようになっており、昇降用レーザ測距計20は、レーザ光の屈曲した光路に沿った反射板21までの距離を検出する。
【0072】
昇降台12は、巻取りドラム18に巻回された一対の昇降ワイヤ14にて吊り下げ支持された状態で設けられている。一対の昇降ワイヤ14は、上部フレーム15に設けられた上部シーブ16及び前方側マスト11a(スタッカークレーン3が地上側コントローラ7から遠ざかる方向に走行する場合の進行方向(以下前進方向という。)で前方に位置する側のマストをいう。)の下部に設けられた中間シーブ17にて案内されている。そして、昇降用サーボモータM2が巻取りドラム18を回転駆動することで、一対の昇降ワイヤ14を送り出し操作及び巻き取り操作して昇降台12を昇降させることができるようになっている。
【0073】
昇降台12には、物品保持部としてのスライドフォーク装置9を出退させることで収納部4或いは荷載置台8との間で物品Q(具体的には、物品Qの底部に位置するパレットP及びこのパレットPに載置された荷W)を移載可能な移載装置13が設けられている。
【0074】
移載装置13には、物品QのパレットPを載置支持するスライドフォーク機構9のほか、このスライドフォーク機構9を出退駆動する出退駆動手段FDとしてのフォーク用サーボアンプSA3及びフォーク用サーボモータM3が設けられている。
【0075】
一対の昇降用マスト11a,11bのうち、スタッカークレーン3の前進方向で後方側の後方側マスト11bの下端部には、後方側マスト11bの下端部における変形量に対応した検出情報を出力する歪ゲージSが設けられている。
【0076】
歪ゲージSを設ける位置である後方側マスト11bの下端部としては、後方側マスト11bの中間部より走行台車10側に位置する部分であればよく、好ましくは、後方側マスト11bの走行台車10側の端部(以下、根元側端部ともいう。)から後方側マスト11bの全長の1/10程度だけ高い位置より走行台車10側に位置する部分がよい。
【0077】
歪ゲージSは、後方側マスト11bの下端部における変形量に対応した量を検出するので、下端部に発生する曲げモーメントを検出することができる。そして、後方側マスト11bの下端は走行台車10と接続されているため、下端部に発生する曲げモーメントは、後方側マスト11bの高次の振動モードによるマスト各部の振動も含めたマスト全体の挙動を反映したものになっており、下端部に発生する曲げモーメントを検出することで後方側マスト11bの全体の挙動に対応した物理量を検出することができる。つまり、歪ゲージSは、後方側マスト11bの挙動を検出する挙動検出手段として機能している。
【0078】
歪ゲージSは、後方側マスト11bの後方側面にだけ単独で設けられているが、後方側マスト11bの前方側面と合わせて一対の歪ゲージを設けても良い。この場合、ブリッジの2辺に組み込む等して夫々の歪ゲージの出力の差を用いることにより、後方側マスト11bの下端部における実際の変形量と、曲げモーメントとして検出される変形量との関係の線形性が向上され、一対の歪ゲージSにより検出される曲げモーメントは、後方側マスト11bの全体の挙動を示す物理量としてより適切なものとなる。
【0079】
なお、歪ゲージSを前方側マスト11aでなく後方側マスト11bに設けたのは、M1やM2の不要輻射の影響をできるだけ避けて、歪ゲージSの検出情報にノイズが混入することをできる限り回避するためである。また、歪ゲージSを後方側マスト11bの下端部に設けることにより、走行台車10に設けられたクレーン制御装置27までの信号線の短縮を図って、ノイズの混入や信号遅れを防止している。
【0080】
走行台車10に設けられたクレーン制御装置27には、図3に示すように、走行用レーザ測距計25及び昇降用レーザ測距計20が接続されている。また、走行用サーボアンプSA1を介して走行用サーボモータM1が、昇降用サーボアンプSA2を介して昇降用サーボモータM2が、フォーク用サーボアンプSA3を介してフォーク用サーボモータM1が、夫々接続されている。
【0081】
上記の走行用サーボモータM1、昇降用サーボモータM2及びフォーク用サーボモータM3は、いずれもエンコーダを備えた同期形ACモータである。そして、走行用サーボアンプSA1及び昇降用サーボアンプSA2は速度制御モードにより対応するサーボモータの回転作動を制御する。フォーク用サーボアンプSA3は位置制御モードにより対応するサーボモータの回転作動を制御する。
【0082】
すなわち、速度制御モードで動作する走行用サーボアンプSA1は、クレーン制御装置27にて走行用サーボモータM1についての回転速度による走行操作指令が指令されると、走行用サーボモータM1の回転速度が当該走行操作指令にて指令された回転速度となるように、走行用サーボモータM1が備えるエンコーダが検出する走行用サーボモータM1の回転速度に基づいて、モータ駆動用の電流(トルク)及びその周波数(速度)を制御する。
【0083】
同じく速度制御モードで動作する昇降用サーボアンプSA2は、クレーン制御装置27にて昇降用サーボモータM2についての回転速度による昇降操作指令が指令されると、昇降用サーボモータM2の回転速度が当該昇降操作指令にて指令された回転速度となるように、昇降用サーボモータM2が備えるエンコーダが検出する昇降用サーボモータM2の回転速度に基づいて、モータ駆動用の電流(トルク)及びその周波数(速度)を制御する。
【0084】
また、位置制御モードで動作するフォーク用サーボアンプSA3は、クレーン制御装置27にてスライドフォーク装置9についての出退量による出退操作指令が指令されると、フォーク用サーボモータM3の回転量が当該出退操作指令にて指令された出退量に対応した回転量となるように、当該フォーク用サーボモータM3が備えるエンコーダが検出するフォーク用サーボモータM3の回転量に基づいて、モータ駆動用の電流(トルク)及びその周波数(速度)を制御する。
【0085】
そして、クレーン制御装置27は、走行用レーザ測距計25が検出する距離情報に基づいて、走行経路2の地上側コントローラ7側の端部付近に設定された走行原点位置からの距離を求め、走行経路2における走行台車10の走行位置を検出するように構成されている。同様に、クレーン制御装置27は、昇降用レーザ測距計20が検出する距離情報に基づいて、昇降経路の下方側端部付近に設定された昇降原点位置からの距離を求め、昇降経路2における昇降体12の昇降位置を検出するように構成されている。
【0086】
以上の構成により、クレーン制御装置27は、移載作業対象とする荷載置台8又は収納部4に対する移載用停止位置に移載装置13を位置させるべく、走行台車10の走行作動及び昇降台12の昇降作動を制御し、そして、移載用停止位置に移載装置13を位置させた後、収納部4あるいは荷載置台8と移載装置13との間で物品Qを移載するべく、スライドフォーク装置9の出退作動と昇降台12の昇降作動を制御するように構成されている。
【0087】
クレーン制御装置27は、上記のようなスタッカークレーン3の制御を地上側コントローラ7からの制御指令に基づいて行う。具体的には、地上側コントローラ7が、移載作業対象とする荷載置台8又は収納部4を指定する情報等で構成された搬送指令を、赤外線通信装置28を介してクレーン制御装置27に対して指令する。
【0088】
クレーン制御装置27は、搬送指令を受信すると、その搬送指令にて指定された荷載置台8又は収納部4についての移載用停止位置に対応する走行位置(以下、目標走行位置という。)に移載装置13を位置させるべく、待機状態にあるスタッカークレーン3の走行台車10の走行位置から当該目標走行位置に至るまでの必要走行距離に基づいて走行用サーボモータM1の回転速度の時間変化である走行用回転速度パターン(本発明の走行速度パターンに相当する。)を生成する。
【0089】
また、クレーン制御装置27は、搬送指令を受信すると、その搬送指令にて指定された荷載置台8又は収納部4についての移載用停止位置に対応する昇降位置(以下、目標昇降位置という。)に移載装置13を位置させるべく、待機状態にあるスタッカークレーン3の昇降台12の昇降位置から当該目標昇降位置に至るまでの必要昇降距離に基づいて昇降用サーボモータM2の回転速度の時間変化である昇降用回転速度パターンを生成する。
【0090】
クレーン制御装置27は、走行用回転速度パターンについて、物品支持条件に対応した条件別パラメータにより特定される低域通過簡易逆システムにより波形整形を行って、制振回転速度パターン(本発明の制振走行速度パターンに相当する。)を生成し、歪ゲージSの検出情報に基づいて制振回転速度パターンを補正して修正制振回転速度パターンを生成し、この修正制振回転速度パターンに基づいて走行駆動手段HDを作動させるフィードフォワード制御及びフィードバック制御によりスタッカークレーン3の走行台車10の走行を制御する。
【0091】
以下にクレーン制御装置27の制御動作について説明する。クレーン制御装置27による制御が対象とする制御系における信号伝達の流れは、図4に示すブロック線図のようになる。
【0092】
説明を加えると、図4に示すように、走行用回転速度パターンで示される回転速度値u(ti)を入力として、まず、後述する低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)によるフィードフォワード制御により制振回転速度値y(ti)が出力される。この制振回転速度値y(ti)は、歪ゲージSにて検出される根元側端部における曲げモーメントに基づいて、フィードバック制御により補正されて、修正制振回転速度値yfb(ti)が生成される。この修正制振回転速度値yfb(ti)が走行駆動手段HDに対して入力されることで、制御対象であるプラントとしてのスタッカークレーン3の走行台車10が走行作動され、所定の動特性を有する昇降用マスト11a,11bの根元側端部から上方側端部にかけての各部分の変位が発生する。なお、フィードバックループでは、高周波ノイズ除去用のローパスフィルタLPFが介在している。また、フィードバックゲインKの値は、適切なものに予め調整されている。
【0093】
次に、クレーン制御装置27の具体的な制御動作を説明する。クレーン制御装置27は、制御周期Th(本実施形態では、10[ms]としている。)毎に、走行用回転速度パターンで示される回転速度値u(ti)を制振回転速度パターンに対応する制振回転速度値y(ti)に変更し、この制振回転速度値y(ti)を歪ゲージSの検出情報としてのマスト根元側端部の曲げモーメントに基づいて補正した修正制振回転速度値yfb(ti)を走行用サーボアンプSA1に出力するようになっている。
【0094】
このように、クレーン制御装置27は、制御周期Th毎に、走行用回転速度パターンで示される回転速度値u(ti)から上述のように算出される修正制振回転速度値yfb(ti)を走行用サーボアンプSA1に出力し、かつ、昇降用回転速度パターンで示される回転速度値を昇降用サーボアンプSA2に出力する。
【0095】
上記制振回転速度パターンは、物品支持条件に対応した条件別パラメータにより特定される低域通過簡易逆システムにより走行用回転速度パターンの波形を整形したものである。ここで、物品支持条件とは、図5に示すように、本実施形態では、移載装置13における物品Qの有無の条件、並びに、低層位置・中層位置・高層位置からなる昇降台12の昇降位置についての3つの条件を組み合わせた第1条件JF1、第2条件JF2、第3条件JF3、第4条件JT1、第5条件JT2、第6条件JT3の6つの条件が設定されている。そして、図6に示すように、これらの各物品支持条件に対応した条件別パラメータとしての第1条件用パラメータP1〜第6条件用パラメータP6がパラメータ設定処理により予めパラメータテーブルPTに記憶されている。
【0096】
パラメータテーブルPTに記憶されている各条件別パラメータの夫々は、パラメータA、b、c、dにて構成されている。パラメータA、b、c、dはパラメータ設定処理において上記物品支持条件毎に同定される簡易振動システムG1(s)の逆システムである低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の伝達関数
【数1】

についての実現問題を解くことで得られる連続時間系の状態方程式について、サンプリング周期Ts(本実施形態では、制御周期Thと同じ10[ms]としている。)により離散化した離散時間系の状態方程式及び出力方程式
【数2】

【数3】

における行列パラメータ、ベクトルパラメータ、及び、スカラーパラメータである。
【0097】
なお、詳しくは後述するが、式(2)の状態方程式における入力変数u(i)は、走行用回転速度パターンにて示される時刻t=tiにおける回転速度値u(ti)に対応し、x(i+1)は、時刻t=tiにおける状態変数ベクトルx(ti)及び回転速度値u(ti)に基づいて算出される時刻t=ti+1(すなわち、時刻t=ti+Ts)における状態変数ベクトルx(ti+1)に対応するである。また、式(3)の出力方程式における出力変数y(i)は、時刻t=tiにおける状態変数ベクトルx(ti)及び回転速度値u(ti)に基づいて算出される制振回転速度値y(ti)に対応し、回転速度値u(ti)に対応するものである。
【0098】
以下に条件別パラメータを構成するパラメータA、b、c、dについて説明する。まず、パラメータAは、
【数4】

により与えられる2×2次元の正方行列パラメータである。式(4)の右辺は、連続時間系の状態方程式
【数5】

における2次元の状態変数ベクトルx(t)の行列パラメータAcと、サンプリング周期Tsとの積AcTsを指数とする行列指数関数である。
【0099】
パラメータbは、
【数6】

により与えられる2×1次元のベクトルパラメータである。式(6)の右辺は、式(5)で表される連続時間系の状態方程式における入力変数u(t)の2×1次元ベクトルパラメータbcに、式(5)の行列パラメータAcを指数にもつ行列指数関数をサンプリング周期Tsに対応した区間[0,Ts]について積分した値を掛けたものである。
【0100】
パラメータcは、
【数7】

により与えられる1×2次元のベクトルパラメータである。式(7)の右辺は、連続時間系の出力方程式
【数8】

における2次元の状態変数ベクトルx(t)の1×2次元ベクトルパラメータccである。
【0101】
パラメータdは、
【数9】

により与えられるスカラーパラメータである。式(9)の右辺は、式(8)で表される連続時間系の出力方程式における入力変数u(t)のスカラーパラメータdcである。
【0102】
クレーン制御装置27は、パラメータ設定処理を実行して、上記条件別パラメータを設定する。以下、図7に示すフローチャートに基づいてパラメータ設定処理について説明する。なお、このパラメータ設定処理は、メンテナンス作業時等に実行される処理である。また、以下の説明では、第1条件JF1についての条件別パラメータP1の設定について説明し、他の物品支持条件に対応する条件別パラメータの設定についての説明を省略するが、他の物品支持条件に対応する条件別パラメータについてもパラメータ設定処理により設定される。
【0103】
パラメータ設定処理では、まず、ステップ#A1にて、スタッカークレーン3の機械状態を第1条件JF1に合った状態とする。具体的には、移載装置13に物品Qが載置されておらず、かつ、昇降台12が昇降経路の下端に位置する状態とする。
【0104】
ステップ#A2で、スタッカークレーン3を第1支持条件JF1の下で、図8に示すような台形波形のシステム同定用回転速度パターンに基づいて走行駆動手段HDを駆動させて、走行経路2に沿って実際に走行作動させる。走行作動するときの歪ゲージSの検出情報から後方側マスト11bの下端に発生する曲げモーメントについての時間応答データを計測し、記憶する。
【0105】
台形波形のシステム同定用回転速度パターンに基づいてスタッカークレーンを走行させた場合に歪ゲージSの検出情報に基づいて得られる曲げモーメントの時間応答波形の一例を示すと図9に示すような波形となる。
【0106】
ステップ#A3で、図9の曲げモーメントの時間応答についての計測データをFFT処理して、図10に示すような曲げモーメントの時間応答波形の周波数分布を求める。
【0107】
ステップ#A4で、曲げモーメントの時間応答波形を構成する周波数分布から後方側マスト11bの1次モードの固有振動数fcに対応する固有角振動数ω(ω=2πfc)と減衰比ξとを導出する。減衰比ξは固有振動数fcを中心とする波形の半値幅Δf(固有振動数fc
の振幅ゲインのピーク値から3[dB]だけ低い値を示す高域側の周波数fH及び低域側の周波数fLの差)に基づいて、
【数10】

により算出している。
【0108】
ステップ#A5で、上記固有角振動数ω及び減衰比ξ並びに後述する補正係数α及び時定数Tの各値を式(11)に代入して低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の伝達関数を導出する。
【数11】

【0109】
式(11)は、後方側マスト11bの根元側端部の変位を入力とし、後方側マスト11bの1次モードの振動により発生するマスト上方側端部の根元側端部に対する相対変位(振れ量)を出力とする振動システムを2次遅れ系のシステムでモデル化した式(12)
【数12】

で表わされる簡易振動システムG1(s)についての逆システムである式(13)
【数13】

で表わされる簡易逆システムG1_INV(s)を考え、これに時定数Tの低域通過項
【数14】

を掛けたものである。
【0110】
なお、本実施形態においては、フィードフォワード制御のための制振回転速度パターンを得るときに走行用回転速度パターンにて示されるモータ回転速度を入力するので、低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の伝達関数が速度情報を入力とする伝達関数となるように、式(11)の伝達関数には、時間領域における変位についての微分項としてのラプラス演算子「s」が付加されている。
【0111】
また、式(12)に示す通り、簡易振動システムG1(s)において2次遅れ系の伝達関数を用いるに当たって、本実施形態では、振動システムの出力であるマストの振れ量を、歪ゲージSにて曲げモーメントとして計測しているので、入出力の次元を合わせるべく、入出力が共に変位である場合の2次遅れ系の伝達関数の分子に、ラプラス演算子「s」を付加したものを簡易振動システムG1(s)の伝達関数としている。
【0112】
補正係数αは、走行用回転速度パターンを制振回転速度パターンに整形するべく、後述の制振回転速度値算出処理を実行した場合に、制振回転速度パターンにおける制振回転速度値y(ti)のピーク値が、走行用回転速度パターンにおける回転速度値u(ti)のピーク値に略一致するように、低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の振幅ゲイン特性に応じて調整された値が予め設定されている。
【0113】
時定数Tは、1次の固有振動モードの振動の周波数が低域通過項の通過帯域となるように、時定数Tにより定まる低域通過項のカットオフ周波数が、少なくとも1次モードの固有振動数より高くなるように設定すべきであるが、時定数Tが大き過ぎると、簡易逆システムG1_INV(s)の高次モードの固有振動数対応する角振動数についての振幅ゲインが抑制されなくなり、高次モードの振動を励起するおそれもあるため、高次モードの固有振動数に対応する角振動数についての振幅ゲインを適度に抑制できるような時定数Tとするのが好ましい。また、時定数Tが小さ過ぎると、制振回転速度パターンにおける減速走行状態から停止状態に移行する周辺部分においてオーバーシュートが発生するため、制振回転速度パターンによる制振回転速度値y(ti)が逆回転を示す値とならない様に、つまり、スタッカークレーン3が目標走行位置付近で逆走しないように時定数Tを設定するのが好ましい。
【0114】
こうして、ステップ#A5で低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の伝達関数を導出すると、ステップ#A6で、連続系の状態方程式に変換する。GLP_1_INV(s)の伝達関数は分母分子がともに2次式であるので2次元の状態変数ベクトルx(t)を用いて、入力変数u(t)と状態変数ベクトルベクトルx(t)との関係を表わす式(5)の連続時間系の状態方程式、及び、出力変数y(t)と状態変数ベクトルベクトルx(t)との関係を表わす式(8)の連続時間系の出力方程式に変換できる。
【0115】
ステップ#A7で、連続時間系の状態方程式及び出力方程式を、サンプリング周期Tsで離散化した離散時間系のものに変換する。具体的には、式(5)を式(2)に、また、式(8)を式(3)に変換する。
【0116】
ステップ#A8で離散時間系の状態方程式及び出力方程式におけるにおける行列パラメータA、ベクトルパラメータb及びc、並びに、スカラーパラメータdを、第1条件用パラメータP1としてパラメータテーブルPTに記憶する。
【0117】
次に、地上側コントローラ7から搬送指令が指令された場合のクレーン制御装置27の制御動作のうち、走行台車10についての制御動作について、図11に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0118】
まず、ステップ#B1で、走行用レーザ測距計25の測距情報に基づいて検出される走行経路2における現在の停止位置から今回の搬送指令についての目標走行位置までの距離から、台形波形の走行用回転速度パターンを生成する。
【0119】
次に、ステップ#B2で、搬送指令に基づく走行作動や昇降作動を開始する前に、物品支持条件判別処理を実行して、現在の物品支持条件を判別する。すなわち、地上側コントローラ7から指令された搬送指令に基づいて、当該搬送指令にて指令された搬送処理が移載装置13に物品Qが載置された状態で走行台車10を目標走行位置まで走行作動させる卸し用の搬送処理なのか、或いは、移載装置13に物品Qが載置されていない状態で走行台車10を目標走行位置まで走行作動させる掬い用の搬送処理なのかを判別し、かつ、昇降用レーザ測距計20の測距情報に基づいて、現在の昇降台12の昇降位置が高層、中層、低層のいずれに属するかを判別し、第1支持条件JF1〜第6支持条件JT3のいずれに該当するかを判別する。
【0120】
ステップ#B3では、ステップ#B2の物品支持条件判別処理において判別した物品支持条件をメモリー等の記憶手段に保存する。
【0121】
ステップ#B4では、ステップ#B3で保存した物品支持条件に対応する条件別パラメータをパラメータテーブルPTを参照して取得し、ステップ#B5で、条件別パラメータを構成する各パラメータの値を制振回転速度値y(ti)を演算する制振回転速度算出処理の引数として代入する。
【0122】
ステップ#B6で、制振回転速度値算出処理を実行して、次の制御出力タイミングで走行用サーボアンプSA1に出力すべき制振回転速度値y(ti)を算出する。制振回転速度値算出処理では、式(3)の離散時間系の出力方程式にて示されているように、時刻t=tiにおける状態変数ベクトルx(ti)及び回転速度値u(ti)から、制振回転速度値y(ti)を算出する。
【0123】
このように、クレーン制御装置27は、走行用回転速度パターンにて示される各時刻の回転速度値に対応する制振回転速度値y(ti)を制御周期Th毎に順次生成する形態で、低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)による制振走行速度パターンを生成するように構成されている。
【0124】
そして、クレーン制御装置27は、低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)を特定するパラメータを、昇降用マスト11a,11bについての異なる物品支持条件の夫々について、物品支持条件に対応した条件別パラメータP1〜P6として記憶するように構成され、かつ、走行台車10を走行させる場合には、走行台車10が走行作動するときの昇降用マスト11a,11bの物品支持条件に対応した条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)により、制振走行速度パターンを生成するように構成されている。
【0125】
なお、制振回転速度算出処理では、式(2)の離散時間系の状態方程式にて示されているように、その制御出力タイミング(時刻t=ti)における状態変数ベクトルx(ti)及び回転速度値u(ti)から、次の制御出力タイミング(時刻t=ti+Tc、すなわち、時刻t=ti+1)における制振回転速度算出処理で必要となる状態変数ベクトルx(ti+1)を算出し、バッファに記憶するようになっている。
【0126】
ステップ#B7では、フィードバック制御処理を実行し、昇降用マスト11a,11bの振動を抑制するべく、走行台車10の走行作動中における歪ゲージSの検出情報に基づいて制振回転速度値y(ti)を補正する。具体的には、歪ゲージSの検出信号からローパスフィルタにより高周波ノイズをカットして得られる計測信号に基づいて、後方側マスト11bの下端部に発生している曲げモーメントを取得し、この曲げモーメントの絶対値を減らすように、曲げモーメントに所定のフィードバックゲインKを掛けた値を制振回転速度値y(ti)に加算又は減算するネガティブフィードバックを行って、制振回転速度値y(ti)を増速補正又は減速補正した修正制振回転速度値yfb(ti)を算出する。
【0127】
ステップ#B8で、制御周期Thのタイマ割り込みを待って、制御出力タイミングが到来すれば、ステップ#B9に移行して、走行用サーボアンプSA1に対して修正制振回転速度値yfb(ti)を出力する。
【0128】
このように、クレーン制御装置27は、走行台車10の走行作動中における挙動検出手段としての歪ゲージSの検出情報に基づいて、昇降用マスト11a,11bの振動を抑制するべく制振走行速度パターンを補正して、この補正された制振走行速度パターンに基づいて走行駆動手段HDを作動させるフィードバック制御により走行台車10の走行を制御するように構成されている。
【0129】
ステップ#B10では、修正制振回転速度値yfb(ti)を速度制御モードで動作している走行用サーボアンプSA1に出力して走行台車10の走行作動を制御する速度指令モードから、速度制御モードで動作している走行用サーボアンプSA1に対して、走行台車10が目標走行位置に位置するまで走行台車10のクリープ速度に対応したクリープ回転速度値ycを継続して出力して走行台車10の走行作動を制御する位置決めモードに、切り換えるための制御モード切換条件が成立したか否かが判別される。
【0130】
具体的には、クレーン制御装置27は、走行用レーザ測距計25の測距情報に基づいて、走行台車10が目標走行位置から設定距離だけ手前に設定されたクリープ開始位置を越えるか、或いは、修正制振回転速度値yfb(ti)が設定最低速度(本実施形態では、クリープ回転速度値ycと同じ値が設定されている。)を下回ることが設定時間以上継続するかの何れかの条件が成立すると、制御モード切換条件が成立したと判別して、後述の位置決め制御処理に移行して位置決めモードとなる。制御モード切換条件が成立するまでは、ステップ#B11に移行して速度指令モードが維持される。
【0131】
また、速度指令モードが維持される場合、走行台車10が走行作動を開始した後に、昇降体12が昇降してその昇降位置が変化した場合に、変化後の昇降体12の昇降位置による前方側マスト11a及び後方側マスト11bの振動特性にできるだけ対応した簡易逆システムに基づくフィードフォワード制御を行うために、ステップ#B11では、ステップ#B3と同じ物品支持条件判別処理が実行され、現在の物品支持条件がチェックされる。
【0132】
説明を加えると、卸し用又は掬い用の搬送指令が指令されて、走行台車10の走行作動が開始された後はその搬送指令に基づく移載作動を行うまでに移載装置13における物品Qの有無が変化することはないので、走行台車10の走行作動が開始された後に移載装置13における物品Qの有無に基づいて物品支持条件が変化することはないが、例えば、昇降台12が下層に位置する状態でスタッカークレーン3が待機状態であるときに、上層位置に位置する収納部4に収納されている物品Qを掬うための搬送指令が指令されると、走行台車10の走行開始時は物品支持条件が第1条件JF1であったものが、走行台車10の走行が開始された後に昇降台12が上層位置まで上昇することで、走行台車10の走行作動中に物品支持条件が第1条件JF1から第2条件JF2に、さらに、第2条件JF2から第3条件JF3に変化することになる。
【0133】
このように、走行台車10の走行作動中に物品支持条件が変化する場合には、ステップ#B12にて、ステップ#B11の判別結果とステップ#B3で保存した従前の物品支持条件とが比較され、物品支持条件が変化したことが判別されると、ステップ#B3に移行する。
【0134】
そして、ステップ#B3において、変化後の物品支持条件が上書き保存され、ステップ#B4では、変化後の物品支持条件に対応した条件別パラメータがパラメータテーブルPTを参照して取得され、ステップ#B5で、制振回転速度値算出処理の引数に、変化後の物品支持条件に対応した条件別パラメータが代入される。
【0135】
つまり、物品支持条件が変化した場合には、ステップ#B6の制振回転速度値算出処理の引数を更新することにより、物品支持条件が変化した後は、変化後の物品支持条件に対応した条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)から導出される離散時間系の状態方程式に基づいて、制振回転速度値y(ti)を算出できるようなっている。
【0136】
このように、クレーン制御装置27は、走行台車10の走行作動中に、条件別パラメータを、昇降用マスト11a,11bの物品支持条件に対応した条件別パラメータに変更設定し、変更設定後の条件別パラメータにて特定される低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)により、制振走行速度パターンを生成するように構成されている。
【0137】
以上の図11のフローチャートについての説明では、走行台車10を制振走行速度パターンで走行させることについて説明した。次に、ステップ#B10で制御モードが位置決めモードに切り換えられた後の位置決め制御について図12に示すフローチャートに基づいて簡単に説明する。クレーン制御装置27は、図12に示すように、走行台車10が目標走行位置に位置するまで、ステップ#C1及びステップ#C2の処理を繰り返して、走行台車10のクリープ速度に対応したクリープ回転速度値ycを継続して出力する。走行台車10が目標走行位置に位置すると、ステップ#C1及びステップ#C2のループを抜けてステップ#C3に移行し、クリープ回転速度値ycに代えて速度ゼロを出力し、走行台車10の走行作動を停止させる。
【0138】
走行台車10が目標走行位置に停止するまでにクレーン制御装置27が出力する回転速度値の時間変化は、図13に示すようになる。走行台車10が目標走行位置から設定距離だけ手前のクリープ開始位置に走行するまでは、走行開始位置から目標走行位置まで距離に基づいて形成させる走行用回転速度パターンを低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)にて波形整形して得られる制振回転速度パターンを形成するような制振回転速度値y(ti)を歪ゲージSの検出情報に基づいて補正した補正制振回転速度値yfb(ti)が出力され、上述の制御モード切換条件が成立した後は、クリープ回転速度値ycが出力される。
【0139】
次に、スタッカークレーン3の走行台車10を走行させるときの昇降用マスト11a,11bについての制振効果の検証について説明する。
【0140】
制振効果の検証は、図14に示す試験装置を用いて行った。この試験装置は、装置フレーム31と、この装置フレーム31の下方箇所で床面に敷設された走行レール32上に形成された走行経路33に沿って走行自在な試験機34と、試験機34に搭載された車載コントローラ51に対して走行速度パターンによる走行指令を指令するコントローラ36等で構成されている。
【0141】
装置フレーム31は、走行レール32の両側端部に立設された一対の壁部材37と、これらの壁部材37の上端部を連結するように走行経路33の上端側に走行レール32と平行に設けられた天井レール38等で構成されている。コントローラ36側の壁部材37には、上下一対の上側レーザ測距計39a、及び、下側レーザ測距計39bが設けられている。
【0142】
試験機34は、駆動輪40a及び従動輪40bからなる前後一対の走行車輪40が設けられた走行台車42と、コントローラ36側の駆動輪40aを伝動機構を介して回転駆動させるサーボアンプ35及びサーボモータ41と、走行台車42の前後両端箇所に立設状態で設けられた板部材で構成された前後一対のマスト43a,43b等で構成されている。なお、サーボアンプ35には電源ケーブル30により商用電力が供給されている。
【0143】
前後一対のマスト43a,43bの上端部は連結フレーム44にて連結され、この連結フレーム44が天井レール38に案内された状態で走行台車42の走行方向に移動自在に設けられている。ちなみに、前後一対のマスト43a,43bは全長が1,095[mm]であり、マストの下端部から880[mm]の高さには、鉄板等で構成された積載部45が設けられ、この積載部45には7.7[kg]のダミーウェイト46が固定されている。なお、積載部45には、マストの振動の様子を肉眼にて観察し易いように色付きの液体が封入されたガラス瓶52が、その底面を積載部45に固定した状態で設けられている。
【0144】
また、後側マスト43bの下端部における表面及び裏面には、後側マスト43bの下端部に発生する曲げモーメントを計測するための第1歪ゲージ49及び第2歪ゲージ50が取り付けられている。後側マスト43bの下端部における両面に歪ゲージを設けて、これらの検出情報の差に基づいて曲げモーメントを計測することで、単一の歪ゲージにより曲げモーメントを計測する場合に比べて、後側マスト43bの下端部に発生する実際の曲げモーメントと歪ゲージの変形量に基づいて計測される曲げモーメントとの関係の線形性が向上される。
【0145】
走行台車42及び後側マスト43bのコントローラ36側の端面には、上側反射板47及び下側反射板48が設けられている。そして、前記上側レーザ測距計39aが上側反射板47に対して測距用のレーザ光を投射してその反射光を受光することにより、上側レーザ測距計39aから後側マスト43bの上端部までの距離を計測することができるようになっている。同様に、前記下側レーザ測距計39bが下側反射板48に対して測距用のレーザ光を投射してその反射光を受光することにより、下側レーザ測距計39aから走行台車42のコントローラ36側の端部までの距離を計測することができるようになっている。
【0146】
上側レーザ測距計39a及び下側レーザ測距計39bの検出情報は、コントローラ36に入力され、試験機34を走行作動させたときに上側レーザ測距計39aの測距情報と下側レーザ測距計39bの測距情報の差の変化量を計測することで、試験機34を走行作動させたときの後側マスト43bの上端部の振れ量を計測できるようになっている。
【0147】
走行台車42に搭載された車載コントローラ51は、以下に示す4つの制御モードに切換自在に構成されており、コントローラ6からサーボモータ41についての目標回転速度値の時間変化である回転速度パターンが指令されると、制御モードによって異なる値をサーボアンプ35に出力する。
【0148】
すなわち、4つの制御モードとは、回転速度パターンにて示される回転速度値をそのままサーボアンプ35に出力する無制御モードと、回転速度パターンにて示される回転速度値にノッチフィルタを掛けたものを出力するノッチフィルタ式FF制御モードと、回転速度パターンにて示される回転速度値に低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)を掛けたものを出力する逆システム式FF制御モードと、回転速度パターンにて示される回転速度値に低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)を掛けてからそのときの曲げモーメントに応じて補正したものを出力する逆システム式FF+FB制御モードである。
【0149】
試験機34を試験用の走行速度パターンで走行させ、第1歪ゲージ49及び第2歪ゲージ50による曲げモーメントの時間応答をFFT処理して、後側マスト43bの1次モードの固有振動数fcを調べた結果、1次モードの固有振動数fcは2.2[Hz]であった。この値を参考に、ノッチフィルタ式FF制御モードで使用するノッチフィルタ及び低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)のパラメータを設定してある。
【0150】
ちなみに、試験機34では、ノッチフィルタ式FF制御モードで使用するノッチフィルタの除去帯域の中心周波数を2.2[Hz]に、減衰比ξを0.5に設定し、低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)の1次モードの固有振動数を2.2[Hz]に、減衰比ξを0.027に、時定数Tを0.06[s]に、補正係数αを0.029に設定した。また、逆システム式FF+FB制御モードにおけるフィードバックゲインは+100に設定した。
【0151】
上記4つの制御モードのそれぞれにて試験機34をコントローラ6から遠ざかる方向に走行させた場合について、後側マスト43bの下端部に発生する曲げモーメントや後側マスト43bの上端部の振れ量の変動の様子を図15〜図20の各グラフにて示す。
【0152】
なお、図15〜図18は、加速度及び減速度の絶対値が試験機34の走行加速度に換算して0.2G[m/s2]で、かつ速度指令が開始されてから終了するまでの指令時間が2.5[s]である台形波形の回転速度パターン(各図の(a)における鎖線)による走行指令を車載コントローラ51が受けた場合に車載コントローラ51からサーボアンプ35に対して出力される回転速度値の変化(各図の(a)における実線)、車載コントローラ51の走行制御により発生する後側マスト43bの下端部の曲げモーメントの変化(各図の(b))、及び、車載コントローラ51の走行制御により発生する後側マスト43bの上端部の揺れ幅の変化(各図の(c)ただし、図18を除く。)を表わしたものである。
【0153】
また、図19及び図20は、各図の(a)に示すように、回転速度パターンの加速度及び減速度の絶対値が試験機34の走行加速度に換算して0.1G[m/s2]で指令時間が2[s]の速度パターンによる短時間の走行指令を車載コントローラ51が受けた場合のサーボアンプ35に対する出力変化(各図の(a))、及び、後側マスト43bの上端部の揺れ幅の変化を表わしたものである。
【0154】
各図を比較することにより、逆システム式FF制御モード、又は、逆システム式FF+FB制御モードで試験機34を走行させると、走行作動中及び停止後における曲げモーメント及び振れ量の振動が発生しにくいことが確認できる。
【0155】
例えば、図15と図16又は図17とを比較すると、無制御モードで試験機34を走行させた場合よりも、逆システム式FF制御モード、又は、逆システム式FF+FB制御モードで試験機34を走行させた場合の方が、走行作動中及び停止後における曲げモーメント及び振れ量の振動が抑制されていることが確認できる。
【0156】
また、図16と図17とを比較すると、逆システム式FF+FB制御モードで試験機34を走行させると、走行停止場面での曲げモーメント及び振れ量の振動についての制振効果が著しく向上することが確認できる。
【0157】
さらに、図18と図16とを比較すると、同じフィードフォワード制御による制振制御を行うものであっても、図18に示すノッチフィルタ式FF制御モードで試験機34を走行させた場合よりも、図16に示す逆システム式FF制御モードで試験機34を走行させた場合の方が、走行作動中及び停止後における曲げモーメント及び振れ量の振動が抑制され、しかも、逆システム式FF制御モードであれば試験機34を逆走させなくても、走行停止場面での振動について極めて良好な制振効果が得られることが確認できる。
【0158】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
【0159】
(1)上記実施形態では、物品搬送装置として、走行体に立設状態で長尺柔軟体が装備されたものを例示したが、これに限らず、物品搬送装置は、走行体に吊り下げ状態で長尺柔軟体が装備されたものあってもよく、例えば、物品搬送装置としては、走行体に吊り下げ状態で装備された昇降マストに昇降体が昇降自在に支持されたものや、走行体に吊り下げ状態で装備された索状体にて昇降体が昇降自在に支持されたものであってもよい。
【0160】
(2)上記実施形態では、走行体としての走行台車10が、車体前後方向の一端側の駆動輪23aと車体前後方向の他端側の従動輪23bとが設けれ、単一の走行レール5上を走行自在に構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、車体前後方向の両端側の夫々に左右一対の駆動輪が設けられ、一対の走行レール上を走行自在に構成された4輪駆動方式のものにて走行台車10を構成してもよく、走行体としての走行台車10の具体的構成は適宜変更可能である。
【0161】
(3)上記実施形態では、挙動検出手段が歪ゲージSにて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、前側マスト11a又は後側マスト11bの先端の変位情報、速度情報、又は加速度情報を検出するべくレーザ変位計や加速度センサ等を用いて挙動検出手段を構成してもよく、挙動検出手段の具体的構成は適宜変更可能である。
【0162】
(4)上記実施形態では、走行駆動手段が走行用サーボアンプSA1及びサーボモータM1にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、インバータ及びACモータにて走行駆動手段を構成してもよく、走行駆動手段の具体的構成は適宜変更可能である。
【0163】
(5)上記実施形態では、物品支持条件が昇降台12の3つの昇降高さ範囲及び移載装置13における物品Qの有無に基づく6通りの条件にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、昇降台12の2つ又は4つ以上の昇降高さ範囲や、移載装置13における物品Qの重さに基づく条件にて物品支持条件を構成してもよく、物品支持条件の具体的構成は適宜変更可能である。
【0164】
(6)上記実施形態では、逆システムが、長尺柔軟体の1次モードの固有振動数による2次遅れ系のシステムにてモデル化した簡易振動システムG1(s)の簡易逆システムG1_INV(s)と、2次の低域通過項からなる低域通過簡易逆システムGLP_1_INV(s)にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、低域通過項がない簡易逆システムG1_INV(s)だけのものや、簡易逆システムG1_INV(s)と3次以上の低域通過項からなるものにて逆システムを構成してもよく、逆システムの具体的構成は適宜変更可能である。
【0165】
(7)上記実施形態では、振動モデルが、1次モードの固有振動数による2次遅れ系のシステムにてモデル化した簡易振動システムG1(s)にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、1次モード〜n次モードまでの各固有振動数による2次遅れ系のシステムにてモデル化した振動システムGn(s)にて振動モデルを構成してもよく、振動モデルの具体的構成は適宜変更可能である。
【0166】
なお、走行体を走行させるときの長尺柔軟体の運動方程式から逆システムを求めても良い。長尺柔軟体がスタッカークレーンの昇降マストであり、昇降マストが走行体の走行方向にのみに並進運動する片持ち梁とし、Euler-Bernoulli梁モデルに従うとしたとき、つまり、均一で一様な断面を持ち、変形は小さく、弾性変形のみとし、昇降マストは横振動のみ生じ縦振動は発生せず、重力の影響によるたわみを無視するものとしたとき、長尺柔軟体の振動モデルの逆システムは、以下のように求めることができる。
【0167】
すなわち、昇降マストの長手方向をx方向とし、走行体の走行方向をy方向として、y方向におけるマストの絶対変位をws(x,t)、マストの根元並進変位をwb(t)、y方向に関しての昇降マストの相対変位をw(x,t)とすると次の関係が成り立つ。
【数15】

そして、昇降マストの等価密度ρ及び等価断面積Aを用いて運動エネルギーETを計算し、昇降マストの等価曲げ剛性EI(ヤング率Eと弾性2次モーメントIの積)を用いてポテンシャルエネルギーEVを計算する。
これらから、運動エネルギーETの変分とポテンシャルエネルギーEVの変分を計算し、「運動エネルギーETとポテンシャルエネルギーEV及び外力による仮想仕事EWの総和を任意の時間区分cで積分し、その値が停留値をとるように運動が行われる」とするハミルトンの原理
【数16】

に代入して各変分の係数が「0」という条件から、以下の運動方程式と境界条件を得る。
【数17】

【数18】

なお、式中のCdは減衰係数である。
【0168】
そして、式(15)式、(17)及び式(18)を時間に関してラプラス変換して、システムの入出力の一般解を求めることができる。例えば、一般解にx=l(マストの先端位置のx座標)を代入することで、マストの根元変位に対する昇降マストの先端の動特性についての伝達関数
【数19】

ただし
【数20】

を得る。
【0169】
したがって、この逆数をとることで、長尺柔軟体の振動モデルの逆システムを得ることができる。なお、この逆システムは、ラプラス変換領域で現されているので、マイコン利用の制御手段に実装するためには逆ラプラス変換をする必要があるが、上式のような複雑な関数を解析的に逆ラプラス変換することは不可能であるため、FILT(高速逆ラプラス変換)法等を用いて数値計算により逆ラプラス変換をすればよい。
【0170】
(8)上記実施形態では、制御手段が、制御周期Th毎に制振回転速度値y(ti)を算出することで制振走行速度パターンとしての制振回転速度パターンをスタッカークレーン3の走行作動時にリアルタイムに生成するように構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、全ての走行速度パターンに対応する制振走行速度パターンを予め生成しておき、搬送指令に基づいて制振走行速度パターンを選択し、そのパターンにより示される制振回転速度値y(ti)を走行用サーボアンプSA1に対して出力するように構成されたものであってもよく、制御手段が制振走行速度パターンを生成する時期は適宜変更可能である。
【0171】
(9)上記実施形態では、制御手段が、スタッカークレーン3に搭載されたクレーン制御装置27にて構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、クレーン制御装置27を地上側に設置し、クレーン制御装置27が、光通信装置等を介して制振回転速度値y(ti)を走行用サーボアンプSA1に対して出力するように構成してもよく、制御手段の具体的構成は適宜変更可能である。
【0172】
(10)上記実施形態では、制御手段が、フィードバック制御において、歪ゲージSの検出情報から取得される曲げモーメントをフィードバック信号とするものを例示したが、これに限らず、例えば、制御手段が、フィードバック制御において、歪ゲージSの検出情報から取得されるせん断力をフィードバック信号とするように構成されたものや、後方側マスト11bの適宜箇所(例えば、上端部)に設けられたレーザ変位計又は加速度センサの検出情報から取得される昇降マストの所定箇所についての変位、速度、又は加速度をフィードバック信号とするように構成されたものであってもよく、フィードバック制御におけるフィードバック信号は適宜変更可能である。
【0173】
(11)上記実施形態では、走行速度パターンとしての走行用回転速度パターンが台形波形であるものを例示したが、これに限らず、例えば、走行用回転速度パターンは、加速度が0から直線的に立ち上がり、一定時間最大加速度を維持し、その後、最大加速度から0まで直線的に減少するように、台形波形の速度パターンを時間で1階積分したS字曲線からなる波形や、時間で無限階微分可能なガウシアン曲線を用いた波形であってもよく、走行用回転速度パターンの具体的構成は適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】本発明の物品搬送装置が備えられた物品保管設備の斜視図
【図2】スタッカークレーンの正面図
【図3】クレーン制御装置の制御構成のブロック図
【図4】制御系における信号伝達の様子を示すブロック線図
【図5】物品支持条件を示す表
【図6】条件別パラメータにおけるパラメータの配列を示す表
【図7】パラメータ設定処理のフローチャート
【図8】システム同定用の走行速度パターンの波形を示す図
【図9】曲げモーメントの応答波形を示す図
【図10】曲げモーメントの周波数分布を示す図
【図11】クレーン制御装置による走行制御のフローチャート
【図12】クレーン制御装置による位置決め制御のフローチャート
【図13】クレーン制御装置が出力する回転速度値の変化を示す図
【図14】試験装置の構成概略を示す図
【図15】無制御モードにおける回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【図16】逆システム式FF制御モードにおける回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【図17】逆システム式FF+FB制御モードにおける回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【図18】ノッチフィルタ式FF制御モードにおける回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【図19】無制御モードにおいて短時間指令が指令された場合の回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【図20】逆システム式FF+FB制御モードにおいて短時間指令が指令された場合の回転速度パターン及び後側マストの振動の様子を示す図
【符号の説明】
【0175】
S 歪ゲージ(挙動検出手段)
HD 走行駆動手段
JF1〜JF3、JT1〜JT3 物品支持条件
P1〜P6 条件別パラメータ
LP_1_INV(s) 低域通過簡易逆システム
1(s) 簡易振動モデル
1_INV(s) 簡易逆システム
A、b、c、d パラメータ
u(ti) 走行速度パターン
y(ti)、yfb(ti) 制振走行速度パターン
2 走行経路
3 物品搬送装置
10 走行体
11a、11b 長尺柔軟体
27 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路に沿って走行駆動手段の作動により走行する物品搬送用の走行体と、
前記走行体に吊り下げ状態又は立設状態で装備された物品支持用の長尺柔軟体と、
前記走行体を設定された走行速度パターンにて走行させるべく、前記走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させて、前記走行体の走行を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく、振動抑制用の制振走行速度パターンを生成して、この制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードフォワード制御により前記走行体の走行を制御するように構成されている物品搬送装置であって、
前記制御手段が、前記フィードフォワード制御として、前記長尺柔軟体の振動モデルの逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている物品搬送装置。
【請求項2】
前記振動モデルが、前記長尺柔軟体の振動のうち低次固有振動モードの振動を対象とした簡易振動モデルであり、
前記逆システムが、前記簡易振動モデルの簡易逆システムと、低次固有振動モードの振動の周波数を通過帯域とする低域通過項とからなる低域通過簡易逆システムである請求項1記載の物品搬送装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記低域通過簡易逆システムを特定するパラメータを、前記長尺柔軟体についての異なる物品支持条件の夫々について、前記物品支持条件に対応した条件別パラメータとして記憶するように構成され、かつ、前記走行体を走行させる場合には、前記走行体が走行作動するときの前記長尺柔軟体の物品支持条件に対応した前記条件別パラメータにて特定される前記低域通過簡易逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている請求項2記載の物品搬送装置。
【請求項4】
前記制御手段が、前記走行体の走行作動中に、前記条件別パラメータを、前記長尺柔軟体の物品支持条件に対応した条件別パラメータに変更設定し、変更設定後の条件別パラメータにて特定される前記低域通過簡易逆システムにより、前記制振走行速度パターンを生成するように構成されている請求項3記載の物品搬送装置。
【請求項5】
前記長尺柔軟体の挙動を検出する挙動検出手段が設けられ、
前記制御手段が、前記走行体の走行作動中における前記挙動検出手段の検出情報に基づいて、前記長尺柔軟体の振動を抑制するべく前記制振走行速度パターンを補正して、この補正された制振走行速度パターンに基づいて前記走行駆動手段を作動させるフィードバック制御により前記走行体の走行を制御するように構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の物品搬送装置。
【請求項6】
前記挙動検出手段として、前記長尺柔軟体の前記走行体側の端部箇所に、当該端部箇所における変形量に対応した検出情報を出力する歪ゲージが設けられ、
前記制御手段が、前記フィードバック制御として、前記歪ゲージの検出情報に基づいて、前記制振走行速度パターンを補正するように構成されている請求項5記載の物品搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−285269(P2008−285269A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130928(P2007−130928)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人計測自動制御学会 刊行物名 第7回(社)計測自動制御学会 システムインテグレーション部門 講演会論文集(CD−ROM) 第7回(社)計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会 SI2006講演概要集 発行年月日 平成18年12月14日
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】