説明

生物学的障壁を通した透過を容易にすることのできる組成物

本発明は、生物学的障壁を通した少なくとも1のエフェクターの透過を容易にすることのできる新規な医薬組成物に関する。本発明はまた、罹患した患者にこれら組成物を投与することによる疾患の治療または予防方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的障壁を通したエフェクターの透過を容易にすることのできる新規な疎水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とする物質の生物学的障壁を通した効率的な輸送技術は、バイオテクノロジーの分野で相当の関心が持たれている。たとえば、そのような技術は、密着結合(すなわち、粘膜上皮(腸管上皮および呼吸器上皮および血管上皮(血液脳関門を含む)を含む))によって制御されている生物学的障壁を通した種々の異なる物質の輸送に用いることができる。
【0003】
腸管上皮は、経口投与した化合物、たとえば医薬やペプチドの全身循環系への吸収の主たる障壁を表す。この障壁は柱状上皮細胞(主として、エンテロサイト(enterocytes)、胚細胞、内分泌細胞、パーネト顆粒細胞)の単一層からなり、これら細胞はその頂部表面で密着結合により結合されている。Madaraら、PHYSIOLOGY OF THE GASTROINTESTINAL TRACT;第2版、Johnson編、ラベンプレス、ニューヨーク、pp.1251-66 (1987)参照。
【0004】
腸管腔に入った化合物は、能動または促進輸送、受動経細胞輸送、または受動傍細胞輸送により血流に入ることができる。能動または促進輸送は細胞担体により起こり、タンパク質や糖などの複雑な分子の低分子量分解産物、たとえばアミノ酸、ペントース、およびヘキソースに限られる。受動輸送は、頂部膜および基底外膜の両者を介しての分子の分配を必要とする。このプロセスは、比較的小さな疎水性化合物に限られる。Jackson, PHYSIOLOGY OF THE GASTROINTESTINAL TRACT;第2版、Johnson編、ラベンプレス、ニューヨーク、pp.1598-1621 (1987)参照。その結果、能動または促進輸送によって輸送される分子を除いて、より大きく一層親水性の分子は、大部分が傍細胞経路に限られる。しかしながら、傍細胞経路を介した分子の進入は、密着結合の存在により主として制限されている。Gumbiner, Am. J. Physiol., 253: C749-C758 (1987); Madara, J. Clin. Invest., 83: 1089-94 (1989)参照。
【0005】
密着結合を「緩める」ことにより傍細胞輸送を増大させる方法を見出すことに相当の注意が払われている。傍細胞輸送に対するこの制限を克服する一つのアプローチは、生物学的に活性な成分を吸収促進剤とともに混合して同時投与することである。一般に、腸管/呼吸器吸収促進剤としては、これらに限られるものではないが、カルシウムキレート化剤、たとえばクエン酸塩およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および界面活性剤、たとえばドデシル硫酸ナトリウム、胆汁塩、パルミトイルカルニチン、および脂肪酸のナトリウム塩が挙げられる。たとえば、EDTAはカルシウムをキレート化することによって密着結合を破壊することが知られているが、嚢胞性線維症を罹患する患者の気管の呼吸上皮への遺伝子輸送の効率を促進する。Wangら、Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 22: 129-138 (2000)参照。しかしながら、これら全ての方法の一つの欠点は、たまたま腸管腔または気管腔に存在する近くの分子の区別することのない透過を容易にすることである。さらに、これら各腸管/呼吸器吸収促進剤は、生物学的障壁を通した種々の分子の吸収を促進する手段としての一般的な有用性を制限する特性を有している。
【0006】
さらに、界面活性剤の使用では、これら薬剤の潜在的な溶解性の性質が安全性に関する懸念を起こさせる。詳細には、腸管および呼吸器上皮は、敵対的外部からの毒素、細菌およびウイルスの侵入に対する障壁を提供する。それゆえ、界面活性剤を用いたことによる上皮の剥離の可能性、並びに増大した上皮修復の結果生じる潜在的な合併症は、界面活性剤を腸管/呼吸器吸収促進剤として使用することに安全性の懸念を抱かせる。
【0007】
カルシウムキレート化剤が腸管/呼吸器吸収促進剤として使用される場合、Ca+2枯渇は密着結合に直接作用するのではなく、むしろアクチンフィラメントの破壊、接着性結合部(adherent junctions)の破壊、弱められた細胞接着、およびプロテインキナーゼの活性化を含めて細胞における全体的な変化を誘発する。Clin. J. Cell Biol., 117: 169-178 (1992)参照。さらに、典型的なカルシウムキレート化剤は粘膜表面にのみアクセスすることができ、腔内のCa+2濃度は変わりうるので、一般に充分な量のキレート化剤を投与してCa+2レベルを低下させ、密着結合の開口を迅速、可逆的かつ再現可能な仕方で誘発することはできない。
【0008】
さらに、クロストリジウム・ディフィシル毒素AおよびBなどのある種の毒素は、傍細胞透過性を増大させ、それゆえ密着結合の破壊と関連しているようである。Hechtら、J. Clin. Invest., 82: 1516-24 (1988); FiorentiniおよびThelestam, Toxicon, 29: 543-67 (1991)参照。ビブリオ・コレラの閉鎖帯(zonula occludens)毒素(ZOT)などの他の毒素は、細胞間の密着結合の構造をモデュレートする。その結果、腸粘膜は一層透過性になる。Fasanoら、Proc. Nat. Acad. Sci, USA, 8: 5242-46 (1991);米国特許第5,827,534号参照。しかしながら、これはまた下痢という結果となる。
【0009】
それゆえ、治療学的価値のある大きな親水性分子は、薬物送達の分野で困難な問題を提示する。これら分子は水には容易に溶解し、それゆえ生理媒体に容易に溶解するが、そのような分子は、細胞膜に不透性であるために粘膜層による吸収が妨げられる。上皮細胞膜は、タンパク質がその疎水性セグメントで埋包されているリン脂質二重層からなる。それゆえ、細胞膜は、ペプチドやタンパク質を含む親水性物質の輸送にとって非常に強力な障壁を構成する。
【0010】
細胞膜を通したタンパク質の送達のための幾つかの新規な方法が評価されているが、これらは依然として便利さおよび有効性を欠いている。大抵の一般的な方法は、「タンパク質導入ドメイン」または「膜輸送シグナル」を利用している。これらはウイルスタンパク質に由来するものであるか、またはファージディスプレイライブラリーから合成したものであり、正に荷電したリシンおよびアルギニン残基が高含量であることを特徴とする。Schwarzeら、Science, 285: 1569-1572 (1999); Rojasら、Nat. Biotechnol., 16: 370-375 (1998)参照。マイクロインジェクションおよびエレクトロポレーション法もまた利用されて様々な程度の成功をもたらしている。
【0011】
最近、カチオン性脂質調合物を用いた別の方法が示唆されている。Zelphatiら、J. boil. Chem., 276: 35103-35110参照。Zelphatiらは、細胞質中へのタンパク質およびペプチドの送達のためにトリフルオロアセチル化リポポリアミンおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンを利用している。また、Tothら、J. Drug Targeting, 2: 217-239 (1994)によるリポアミノ酸コンジュゲートおよびリポ多糖コンジュゲートの使用、およびその手順を参照。これら方法はすべて、標的分子に共有結合または他の結合により結合し、標的分子のもともとの電荷を「疎水化し(hydrophobizing)」脂肪親和性の細胞膜を通した透過を可能とする両親媒性分子を利用するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
両親媒性の対イオンの使用は、治療剤の送達のための有効な手段の約束を示す。しかしながら、今日、そのような対イオンとともに投与した治療剤の合計量の約1〜3%しか生物学的障壁を通して有効に透過させることができない。
【0013】
それゆえ、種々の生物学的障壁を通してポリペプチド、医薬その他の生物学的に活性な分子の送達のための効率的、特異的、非侵襲性、低リスクの手段の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、生物学的障壁に非透過性の治療学的に活性な分子、すなわちエフェクターを疎水性の複合体中に包埋することにより、そのような分子を有効に移動させる組成物を提供する。本発明はまた、エフェクターに対する対イオンを使用して少なくとも1のエフェクターを選択的に包埋し生物学的障壁を通して移動させる方法にも関する。詳細には、本発明は、治療学的有効量の少なくとも1のエフェクターに逐次結合した疎水性組成物、および少なくとも1のエフェクターに対する対イオンであって該エフェクターを選択的に包埋し該エフェクターを生物学的障壁を通して有効に移動させるものを含む。たとえば、そのような化合物は、生物学的障壁を通した少なくとも1のエフェクターの経上皮送達に用いることができる。
【0015】
本明細書において用いる「有効な移動(effective translocation)」は、生物学的障壁への組成物の導入が、生物学的障壁を通したエフェクターの少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、さらに一層好ましくは少なくとも20%またはそれ以上の移動という結果となることを意味する。組成物の少なくとも1のエフェクターは、組成物の生物学的障壁への導入が包埋したエフェクターのみの移動という結果となるような仕方、すなわち、包埋されていないまたは遊離の形態で同時に投与した他のいかなる分子も生物学的障壁を通して移動されない仕方で選択的に包埋される。
【0016】
本明細書において用いる「疎水性組成物」は、水に不溶で、少なくとも1の対イオンおよび少なくとも1の薬理学的に許容しうる疎水性薬剤を利用して、物質、たとえば少なくとも1のエフェクターの選択的な包埋、または生物学的障壁を通した有効な移動を容易にする組成物を包含する。本明細書において用いる「生物学的障壁」なる語は、細胞質膜などの生物学的膜並びに粘膜上皮または血管上皮(腸管上皮または呼吸器上皮を含むがこれらに限られるものではない)などの密着結合(閉塞結合(occluding junctions)を含む)によって封じられた生物学的構造、および血液脳関門を包含することを意味する。さらに、当業者であれば移動が上皮細胞や内皮細胞などの組織中の生物学的障壁を通して起こることを認識するであろう。
【0017】
本明細書において用いる「包埋(encapsulation)」なる語は、該少なくとも1のエフェクターの疎水性組成物への導入をいう。包埋の方法は、少なくとも1の両親媒性対イオンとの少なくとも1のエフェクターの複合体の形成、および水または少なくとも部分的に水溶性の溶媒での溶解を含んでいてよい。組成物にはさらに、タンパク質安定化剤、透過性ペプチド、および/または1またはそれ以上の薬理学的に許容しうる疎水性薬剤を添加してよい。組成物の1またはそれ以上の成分は、包埋プロセスの種々の段階で凍結乾燥することができる。
【0018】
疎水性薬剤は、脂肪族分子、環状分子、または芳香族分子などの疎水性分子の単一の分子であるかまたは該分子の組合せであってよい。脂肪族疎水性薬剤の例としては、ミネラルオイル、パラフィン、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、またはトリグリセリド、エーテル、またはエステルが挙げられる。トリグリセリドの例としては、長鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリド、および短鎖トリグリセリドが挙げられる。適当なトリグリセリドの具体例としては、トリブチリン、トリヘキサノイン、トリオクタノイン、およびトリカプリン(1,2,3−トリデカノイルグリセロール)が挙げられる。環状疎水性薬剤の例としては、テルペノイド、コレステロール、コレステロール誘導体および脂肪酸のコレステロールエステルが挙げられる。芳香族疎水性薬剤の例としては、安息香酸ベンジルが挙げられる。
【0019】
少なくとも部分的に水溶性の溶媒としては、たとえば、n−ブタノール、イソアミル(=イソペンチル)アルコール、DMF、DMSO、イソブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、ter-ブタノール、ポリオール、エーテル、アミド、エステル、またはそれらの種々の混合物が挙げられる。
【0020】
本発明はまた、薬理学的に許容しうる担体または賦形剤、またはそれらの組合せを有する疎水性組成物をも提供する。種々の態様において、本発明の組成物はカプセルに入れることができ、あるいは錠剤、水性分散液、懸濁液、またはエマルジョン、クリーム、軟膏、鼻スプレー、または坐剤の剤型をとってもよい。本発明の組成物はまた、腸溶コーティングを施すことができる。
【0021】
疎水性組成物は、適当な対イオンにカップリングした少なくとも1のエフェクターを含んでいてよい。少なくとも1のエフェクターは、治療学的に活性なカチオン性またはアニオン性の非透過性分子であってよく、核酸;グリコサミノグリカン;タンパク質;ペプチド;または薬理学的に活性な薬剤、たとえばホルモン、成長因子、神経栄養因子、抗凝固剤、生物作用性分子、毒素、抗生物質、抗真菌剤、抗病原因子、抗原、抗体、抗体フラグメント、イムノモデュレーター、ビタミン、抗新生物剤、酵素、または治療剤を含むがこれらに限られるものではない。たとえば、アニオン性の非透過性化合物として作用するグリコサミノグリカンとしては、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、およびヒアルロン酸が挙げられるが、これらに限られるものではない。アニオン性の非透過性分子として作用する核酸としては、特定のDNA配列(たとえば、コード遺伝子)、特定のRNA配列(たとえば、RNAアプタマー、アンチセンスRNAまたは特定の抑制性RNA(RNAi))、ポリCpG、または核酸のポリI:C合成ポリマーが挙げられるが、これらに限られるものではない。適当な薬理学的に活性な薬剤としては、ビタミンB12、タキソール、カスポファンギン(Caspofungin)、またはアミノグリコシド抗生物質(たとえば、ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン、またはネオマイシン)が挙げられる。他の適当なタンパク質としては、ホルモン、ゴナドトロピン、成長因子、サイトカイン、神経栄養因子、イムノモデュレーター、酵素、抗凝固剤、抗新生物剤、抗体、抗体フラグメント、および他の治療剤が挙げられるがこれらに限られるものではない。詳細には、これらは、インスリン、エリスロポイエチン(EPO)、グルカゴン様ペプチドI(GLP−I)、αMSH、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン、カルシトニン、インターロイキン2(IL−2)、α1−アンチトリプシン、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、T20、抗TNF抗体、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、エンケファリン、ダラルギン(dalargin)、キョトルフィン(kyotorphin)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヒルジン、ヒルログ(hirulog)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログ、脳由来ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、グラチラマー酢酸(glatiramer acetate)(コポリマー1)、および神経栄養因子が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0022】
本発明の組成物のいずれにおいても、エフェクターは少なくとも1の化学修飾をさらに含んでいてよい。たとえば、化学修飾は、エフェクターへの1またはそれ以上のポリエチレングリコール残基の結合であってよい。さらに、本発明の組成物のいずれも、水、またはn−ブタノール、イソアミル(=イソペンチル)アルコール、DMF、DMSO、イソブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、ter-ブタノール、ポリオール、エーテル、アミド、エステル、またはそれらの種々の混合物よりなる群から選ばれた少なくとも部分的に水溶性の溶媒をさらに含んでいてよい。
【0023】
本明細書において用いる「カチオン性またはアニオン性の非透過性分子」は、正(カチオン性)または負(アニオン性)に荷電し、細胞膜や密着結合などの生物学的障壁を効率的に透過できない分子である。好ましくは、本発明のカチオン性およびアニオン性の非透過性分子は、分子量が200ダルトン以上のものである。アニオン性の非透過性分子は、多糖、すなわちグリコサミノグリカン、核酸、または正味が負に荷電したタンパク質が好ましく、一方、カチオン性の非透過性分子は、正味が正に荷電したタンパク質であるのが好ましい。タンパク質の正味の電荷は、2つの要素:(1)酸性アミノ酸vs塩基性アミノ酸の総数、および(2)正の残基または負の残基を暴露させる、特定の溶媒pH環境により決定される。本明細書において用いる「正味が正または負に荷電したタンパク質」は、非変性pH環境下で正味の正または正味の負の電荷を有するタンパク質である。たとえば、インターフェロンβは、23の正に荷電した残基(リシンおよびアルギニン)および18の負に荷電した残基(グルタミン酸またはアスパラギン酸残基)を含むタンパク質である。それゆえ、中性または酸性のpH環境下ではインターフェロンβは正味が正に荷電したタンパク質を構成する。逆に、インスリンは、2つの正に荷電した残基(1つのリシンおよび1つのアルギニン)および4つのグルタミン酸残基を含む51アミノ酸のタンパク質である。それゆえ、中性または塩基性のpH環境下ではインスリンは正味が負に荷電したタンパク質を構成する。一般に、当業者であれば、すべてのタンパク質がそのアミノ酸組成にかかわらず、そのpHおよび/または溶媒環境に依存して「正味が負に荷電したタンパク質」または「正味が正に荷電したタンパク質」と考えられることを認識するであろう。たとえば、異なる溶媒が溶媒pHに依存して負のまたは正の側鎖を暴露しうる。
【0024】
本発明による組成物はまた、さもなければ上皮障壁に非透過性のより小さな分子の透過を促進すべく用いることもできる。そのような分子の例としては、核酸(すなわち、DNA、RNA、またはそのミメチック)が挙げられ、その対イオンはカチオン性である。逆に、対イオンがアニオン性である場合は、カスポファンギン、ビタミンB12、およびアミノグリコシド抗生物質(たとえば、ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン、またはネオマイシン)などの分子が上皮障壁を通して透過することができる。
【0025】
本発明の対イオンとしては、たとえば、アニオン性またはカチオン性の両親媒性分子が挙げられる。一つの態様において、本発明のアニオン性またはカチオン性の対イオンは、負(アニオン性)または正(カチオン性)に荷電しており、疎水性の残基を含んでいてよいイオンである。適当な条件下、アニオン性またはカチオン性の対イオンは、それぞれカチオン性またはアニオン性の非透過性分子との静電相互作用を確立することができる。そのような複合体の形成は電荷の中和を引き起こし、それによって新たな非荷電の部分(entity)を生成し、対イオンの本来の疎水特性の場合にはさらに疎水特性が付加される。
【0026】
たとえば、適当なアニオン性の両親媒性分子としては、カルボン酸、スルホン酸、およびホスホン酸アニオンなどの有機酸が挙げられ、その場合、両親媒性分子は疎水性の残基を含む。詳細には、対イオンはドデシル硫酸ナトリウムまたはスルホコハク酸ジオクチルであってよい。
【0027】
予期されるカチオン性対イオンとしては、ベンザルコニウム誘導体などの第四級アミン誘導体が挙げられる。適当な第四級アミンは、疎水性残基で置換されていてよい。一般に、本発明により予期される第四級アミンは、構造:1−R1−2−R2−3−R3−4−R4−N(式中、R1、2、3、および4はアルキルまたはアリール誘導体である)を有する。たとえば、第四級アミンはベンザルコニウム誘導体であってよい。さらに、第四級アミンは、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ホスホニウム誘導体またはテトラアルキルアンモニウム化合物などのイオン性の液体生成カチオンであってよい。イオン性の液体生成カチオンは、水溶性塩の構成成分であってよい。たとえば、イミダゾリウム誘導体は、1−R1−3−R2−イミダゾリウム(式中、R1およびR2は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルであってよい)の一般構造を有する。そのようなイミダゾリウム誘導体はさらに、たとえば、ハロゲンまたはアルキル基で置換されていてよい。具体的なイミダゾリウム誘導体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)−イミダゾリウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0028】
ピリジニウム誘導体は、1−R1−3−R2−ピリジニウム(式中、R1は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルであり、R2は、Hまたは炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルである)の一般構造を有する。そのようなピリジニウム誘導体はさらに、たとえば、ハロゲンまたはアルキル基で置換されていてよい。ピリジニウム誘導体としては、3−メチル−1−プロピルピリジニウム、1−ブチル−3−メチルピリジニウム、および1−ブチル−4−メチルピリジニウムが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0029】
本発明はまた、本発明の組成物を用い、少なくとも1のエフェクターを選択的に包埋し、生物学的障壁を通して有効に移動させる方法をも包含する。たとえば、少なくとも1のエフェクターを対イオンにカップリングさせて本発明による組成物を形成させ、ついで該組成物を生物学的障壁に導入し、それによって該エフェクターを生物学的障壁を通して有効に移動させることができる。対イオンはさらに疎水性の残基を含んでいてよい。本明細書において用いる「カップリングした(coupled)」なる語は、第三の分子と比較して互いの優先性(preference)を示す2またはそれ以上の分子という結果となるそのようなあらゆる特異的相互作用を含むことを意味し、エフェクターとイオン性の液体生成カチオンとの間の物理的会合を可能とするあらゆるタイプの相互作用を含む。好ましくは、これには、静電相互作用、疎水性相互作用および水素結合が含まれ、これらに限られるものではないが、溶媒選択(solvent preferences)などの非特異的な会合は含まれない。会合は、生物学的障壁の透過の前または透過の際にエフェクターが解離しないように充分に強くなければならない。
【0030】
幾つかの態様において、本発明は、少なくとも1のエフェクターを生物学的障壁を通して移動させる方法であって、本明細書に記載の疎水性組成物のいずれかを生物学的障壁に導入し、ついで該少なくとも1のエフェクターを該生物学的障壁を通して移動させることを含む方法を提供する。たとえば、生物学的障壁は、上皮細胞や内皮細胞内に位置していてよい。本発明によって予期される生物学的障壁の例としては、密着結合および/または細胞質膜、たとえば胃腸粘膜および血液脳関門が挙げられる。
【0031】
本発明の疎水性組成物のいずれも、透過性ペプチドをさらに含んでいてよい。本発明の組成物に用いる透過性ペプチドは、(BX)4Z(BX)2ZXB(SEQ ID NO: 44);ZBXB2XBXB2XBX3BXB2X2B2(SEQ ID NO: 45);ZBZX2B4XB3ZXB4Z2B2(SEQ ID NO: 46);ZB9XBX2B2ZBXZBX2(SEQ ID NO: 47);BZB8XB9X2ZXB(SEQ ID NO: 48);B2ZXZB5XB2XB2X2BZXB2(SEQ ID NO: 49);XB9XBXB6X3B(SEQ ID NO: 50);X2B3XB4ZBXB4XBnXB(SEQ ID NO: 51);XB2XZBXZB2ZXBX3BZXBX3B(SEQ ID NO: 52);BZXBXZX2B4XBX2B2XB4X2(SEQ ID NO: 53);BZXBXZX2B4XBX2B2XB4(SEQ ID NO: 54);B2XZ2XB4XBX2B5X2B2(SEQ ID NO: 55);BqXtZBmXqB4XBXnBmZB2X2B2(SEQ ID NO: 56);B2ZX3ZBmXqB4XBXnBmZB2X2B2(SEQ ID NO: 57);X3ZB6XBX3BZB2X2B2(SEQ ID NO: 58);およびこれらアミノ酸配列のいずれの少なくとも12の連続アミノ酸(式中、Xはいずれかのアミノ酸;Bは疎水性アミノ酸;およびZは荷電アミノ酸;qは0または1;mは1または2;およびnは2または3;tは1または2または3)から選択される少なくとも1のアミノ酸配列を有していてよく、該透過性ペプチドは生物学的障壁を通して移動することができる。
【0032】
詳細には、透過性ペプチドは、SEQ ID NO: 1-15および24-29のいずれか一つのアミノ酸配列を有していてよい。本発明はまた、SEQ ID NO: 22および30-37のアミノ酸配列を有する透過性ペプチドをも提供する。さらに、本発明の透過性ペプチドは、SEQ ID NO: 1-15、22、および24-37によって定められるペプチドのいずれかの少なくとも12の連続アミノ酸を有するペプチドを包含する。透過性ペプチドは、長さが30未満、25未満、または20未満のアミノ酸であってよい。本発明はまた、そのいずれかの残基がSEQ ID NO: 1-15、22、および24-37に示す対応の残基から変化しているが、その透過活性および生理機能を保持したペプチドを依然としてコードしている突然変異体または変異体ペプチド、またはその機能断片をも包含する。たとえば、SEQ ID NO: 1-15、22、および24-37のいずれか一つのアミノ酸配列の断片は、長さが少なくとも10アミノ酸であり、保存的または非保存的なアミノ酸置換を含んでいてよい。
【0033】
一般に、移動機能を保持している透過性ペプチド変異体は、配列中の特定の位置の残基が他のアミノ酸により置換された変異体を包含し、さらに親タンパク質の2つの残基の間の1またはそれ以上の残基の挿入の可能性並びに親配列からの1またはそれ以上の残基の欠失の可能性を包含する。そのようないずれのアミノ酸置換、挿入、または欠失も本発明により包含される。好ましい態様では、置換は保存的な置換である。
【0034】
「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換を透過性ペプチドにおいて行うことができる。「非必須」アミノ酸残基は透過性ペプチドの生物学的活性を変えることなく透過性ペプチドの天然の配列から変えることのできる残基であり、一方、「必須」アミノ酸残基はそのような生物学的活性に必要な残基である。たとえば、本発明の透過性ペプチドで保存されているアミノ酸残基は、とりわけ実質的な変更に従わないと予測される。保存的な置換を行うことのできるアミノ酸は当該技術分野でよく知られている。
【0035】
突然変異は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒体突然変異誘発を含むがこれらに限られるものではない標準法により、透過性ペプチドをコードする核酸に導入することができる。好ましくは、1またはそれ以上の予測された非必須アミノ酸残基において保存的アミノ酸置換を行う。「保存的アミノ酸置換」は、同様の側鎖を有するアミノ酸残基でアミノ酸残基を置換するものである。同様の側鎖を有するアミノ酸のファミリーは当該技術分野で定められている。これらファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝側鎖を有するアミノ酸(たとえば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。それゆえ、透過性ペプチド中の予測された非必須アミノ酸残基を同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置換する。
【0036】
別法として、飽和突然変異誘発(saturation mutagenesis)などによって透過性ペプチドコード配列の全部または一部にランダムに突然変異を導入し、得られた変異体を生物学的活性についてスクリーニングして活性を保持する変異体を同定することができる。突然変異誘発後、コードされた透過性ペプチドを当該技術分野で知られた組換え法により発現させ、該タンパク質の活性を決定することができる。アミノ酸置換はまた、ペプチドの固相合成などの人為ペプチド合成の際に導入することもできる。
【0037】
アミノ酸ファミリーの関連性はまた、側鎖相互作用に基づいて決定することもできる。置換されたアミノ酸は、完全に保存された「強い」残基または完全に保存された「弱い」残基であってよい。保存されたアミノ酸残基の「強い」グループは、以下のグループのいずれかであってよい:STA, NREQK(SEQ ID NO: 17), NHQK(SEQ ID NO: 18), NDEQ(SEQ ID NO: 19), QHRK(SEQ ID NO: 20), MILV(SEQ ID NO: 21), MILF(SEQ ID NO: 23), HY, FYW(ここで、1文字アミノ酸コードは、互いに置換できるアミノ酸によりグループ分けしてある)。同様に、保存されたアミノ酸残基の「弱い」グループは、以下のグループのいずれかであってよい:CSA, ATV, SAG, STNK(SEQ ID NO: 38), STPA(SEQ ID NO: 39), SGND(SEQ ID NO: 40), SNDEQK(SEQ ID NO: 41), NDEQHK(SEQ ID NO: 42), NEQHRK(SEQ ID NO: 43), HFY(ここで、各グループ内の文字は1文字アミノ酸コードを表す)。
【0038】
本発明の透過性ペプチドは、30未満のアミノ酸、好ましくは25未満のアミノ酸、最も好ましくは20未満のアミノ酸を含んでいてよい。
【0039】
本発明で用いる透過性ペプチドは、疎水性残基により修飾するのが好ましい。ついで、透過性ペプチドは、所望のエフェクターを含む組成物の構築物に導入する。透過性ペプチドの疎水化は、透過性ペプチドのC末端に付加され、グリシン、アラニン、またはセリン残基により隔てられた余分のリシンの遊離のアミノ基のアシル化により達成できる。これらリシン残基の遊離のアミノ基はアシル化することができる。透過性ペプチドのアシル化は、ステアロイル、パルミトイル、オレイル、リシノレイル、またはミリストイルなどの長鎖脂肪酸を用いるのが好ましい。
【0040】
本発明の透過性ペプチドは、1またはそれ以上のペプチド結合によりさらに修飾して胃腸管での加水分解からの保護を可能とすることができる。たとえば、1またはそれ以上のアミノ酸残基を、天然に存在しないアミノ酸、たとえば、D−アミノ酸、ノルロイシン、ノルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、エチオニン;およびt−ブチルオキシカルボニル、アセチル、メチル、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアセライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、および2,3−ジニトロフェニル基よりなる群から選ばれたアミノ末端保護基で誘導体化した化合物で置換することができる。同様に、1またはそれ以上のペプチド結合を別の種類の共有結合で置換してペプチドミメチックを生成することができる。
【0041】
本発明の透過性ペプチドはまた、主体によって合成されたペプチダーゼによる開裂を受けない別の種類の共有結合(「ペプチドミメチック」)で1またはそれ以上のペプチド結合が置換されたアミノ酸アナログを含んでいてよい。主体への投与後にペプチド組成物のタンパク質加水分解が起こる場合は、1またはそれ以上の特に感受性のペプチド結合を非開裂ペプチドミメチックで置換することは、得られるペプチド誘導体化合物を一層安定にし、それゆえ治療剤として一層有用なものにする。そのようなミメチック、およびミメチックをペプチド中に導入する方法は、当該技術分野でよく知られている。
【0042】
同様に、D−アミノ酸残基によるL−アミノ酸残基の置換は、化合物の酵素破壊に対する感受性を低くする一つの標準法である。他のアミノ酸アナログ、たとえば、ノルロイシン、ノルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、エチオニンなどは当該技術分野で知られている。また、化合物を、t−ブチルオキシカルボニル、アセチル、メチル、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアセライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、および2,3−ジニトロフェニル基などのアミノ末端保護基で誘導体化することも有用である。
【0043】
本発明の透過性ペプチドはまた、固相合成を用いて合成することもできる。
【0044】
本発明の透過性ペプチドはまた、化学的にさらに修飾することもできる。たとえば、1またはそれ以上のポリエチレングリコール(PEG)残基を本発明の透過性ペプチドに結合させることができる。
【0045】
本発明はまた、細菌タンパク質に由来する透過性ペプチドをも包含する。一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO: 1-8、10-15および25-29のいずれかのアミノ酸配列を有する細菌タンパク質に由来する透過性ペプチドを提供する。そのような透過性ペプチドは、完全(integral)膜タンパク質、細菌毒素、または細胞外タンパク質に由来するものであってよい。透過性ペプチドはまた、ヒトニューロキニンレセプターに由来するものであってもよい。他の態様において、本発明は、SEQ ID NO: 9および24のいずれかのアミノ酸配列を有するニューロキニンレセプターに由来するペプチドを提供する。
【0046】
本発明の組成物は、エフェクターへの透過性ペプチドのカップリングを含む。上記で定義したように、「カップリングした(coupled)」なる語は、第三の分子と比較して互いの優先性を示す2またはそれ以上の分子という結果となるそのようなあらゆる特異的相互作用を含むことを意味し、エフェクターと透過性ペプチドとの間の物理的会合を可能とするあらゆるタイプの相互作用を含む。好ましくは、これには、静電相互作用、疎水性相互作用および水素結合が含まれ、これらに限られるものではないが、溶媒選択などの非特異的な会合は含まれない。会合は、生物学的障壁の透過の前または透過の際にエフェクターが解離しないように充分に強くなければならない。
【0047】
さらに、透過性ペプチドへのエフェクターのカップリングはまた、メディエーターにより間接的に行うことができる。たとえば、そのようなメディエーターは、一方でエフェクター−対イオン複合体を結合させ、他方で透過性ペプチドを疎水化するトリグリセリドなどの大きな疎水性分子であってよい。
【0048】
本発明はまた、治療学的有効量の少なくとも1のエフェクターを透過性ペプチドにカップリングさせ、該エフェクターに対イオンをカップリングさせることによる、本発明の組成物の製造方法をも包含する。そのようなカップリングは、非共有結合によるものであってよい。非共有結合は、透過性ペプチドに疎水性残基を加えて、エフェクターが含まれる疎水性ベシクルの界面に透過性ペプチドが組み込まれることを該疎水性残基が可能とするようにすることによって達成できる。
【0049】
本発明の疎水性組成物は、タンパク質構造の安定化剤をさらに含んでいてよい。本明細書において用いる「タンパク質構造の安定化剤」または「タンパク質の安定化剤」は、水性または非水性条件下でタンパク質構造を安定化することのできるあらゆる化合物をいう。そのようなタンパク質安定化剤としては、ポリカチオン分子、ポリアニオン分子、および非荷電ポリマーが挙げられる。タンパク質安定化剤として機能することのできるポリカチオン分子の1つの例は、スペルミンなどのポリアミンである。タンパク質安定化剤として機能することのできるポリアニオン分子の例としては、フィチン酸およびスクロース八硫酸が挙げられる。タンパク質安定化剤として機能することのできる非荷電ポリマーの例としては、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールが挙げられる。
【0050】
本発明の疎水性組成物はまた、界面活性剤を含んでいてよい。適当な界面活性剤としては、イオン性および非イオン性の界面活性剤が挙げられる。イオン性界面活性剤は、脂肪酸塩、レシチン、または胆汁塩であってよい。非イオン性界面活性剤の例としては、クレモフォア、ポリエチレングリコール脂肪酸アルコールエーテル、Solutol HS15、ソルビタン脂肪酸エステル、またはポロキサマーが挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルの例としては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、およびソルビタンモノパルミテートが挙げられる。
【0051】
本発明の疎水性組成物は、保護剤をさらに含んでいてよい。保護剤の一例はプロテアーゼインヒビターである。組成物に加えることのできる適当なプロテアーゼインヒビターは、Bernkop-Schnurchら、J. Control. Release, 52: 1-16 (1998)(参照のため本明細書に引用する)に記載されている。これらには、たとえば、管腔に分泌されるプロテアーゼのインヒビター、たとえばアプロチニン、Bowman-Birkインヒビター、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリオボムコイド、ニワトリオボインヒビター(ovoinhibitor)、ヒト膵トリプシンインヒビター、カモステートメシラート(camostate mesilate)、フラボノイドインヒビター、アンチパイン、ロイペプチン、p−アミノベンズアミジン、AEBSF、TLCK、APMSF、DFP、PMSF、ポリ(アクリレート)誘導体、キモスタチン、ベンジルオキシカルボニル−Pro−Phe−CHO、FK−448、糖ビフェニルボロン酸(biphenylboronic acid)複合体、β−フェニルプロピオネート、エラスタチナール、メトキシスクシニル−Ala−Ala−Pro−Val−クロロメチルケトン(MPCMK)、EDTA、およびキトサン−EDTAコンジュゲートが含まれる。適当なプロテアーゼインヒビターとしてはまた、膜結合プロテアーゼのインヒビター、たとえば、アミノ酸、ジペプチドおよびトリペプチド、アマスタチン、ベスタチン、ピューロマイシン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチドアナログ、α−アミノボロン酸誘導体、Na−グリコール酸、1,10−フェナントロリン、アシビシン(acivicin)、L−セリン−ボレート、チオルファン(thiorphan)、およびホスホラミドンが挙げられる。
【0052】
好ましい組成物は、活性成分を、(a)希釈剤、たとえば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;(b)アプロチニンまたはトラシロール(trasylol)などのプロテアーゼインヒビター;(c)滑沢剤、たとえば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウム塩またはカルシウム塩、ポロキサマーおよび/またはポリエチレングリコール;錠剤については(d)結合剤、たとえば、マグネシウムアルミニウムシリケート、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン;(e)ポロキサマー、Solutol HS15、クレモフォール、および胆汁酸などのイオン性界面活性剤;所望の場合は(f)崩壊剤、たとえば、デンプン、アガー、アルギン酸またはそのナトリウム塩、またはその沸騰性の混合物;および/または(g)吸着剤、着色剤、香味剤および甘味剤とともに含む、たとえば腸溶コーティング錠剤およびゼラチンカプセルを包含する。坐剤は、脂肪酸エマルジョンまたは懸濁液から都合よく調製される。本発明の組成物は滅菌することができ、および/またはアジュバント、たとえば保存剤、還元剤、たとえばNAC(N−アセチル−L−システイン)、抗酸化剤、安定化剤、湿潤剤または乳濁化剤、溶解促進剤、浸透圧を制御するための塩および/または緩衝液を含んでいてよい。さらに、本発明の組成物は他の治療学的に価値のある物質をも含んでいてよい。本発明の組成物は、常法の混合、顆粒化またはコーティング法によってそれぞれ調製され、約0.001〜75%、好ましくは約0.01〜10%の活性成分を含む。
【0053】
本発明の組成物は、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、プロテアーゼインヒビター、スルホヒドリル基状態修飾剤(sulfohydryl group status modifying agent)、および抗酸化剤よりなる群から選ばれた少なくとも2つの物質の混合物をさらに含んでいてよい。たとえば、非イオン性界面活性剤は、ポロキサマー、クレモフォール、ポリエチレングリコール脂肪酸アルコールエーテル、またはSolutol HS15であってよく;イオン性界面活性剤は脂肪酸塩であってよく;プロテアーゼインヒビターは、アプロチニン、Bowman-Birkインヒビター、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリオボムコイド、ニワトリオボインヒビター、ヒト膵トリプシンインヒビター、カモステートメシラート、フラボノイドインヒビター、アンチパイン、ロイペプチン、p−アミノベンズアミジン、AEBSF、TLCK、APMSF、DFP、PMSF、ポリ(アクリレート)誘導体、キモスタチン、ベンジルオキシカルボニル−Pro−Phe−CHO、FK−448、糖ビフェニルボロン酸複合体、β−フェニルプロピオネート、エラスタチナール、メトキシスクシニル−Ala−Ala−Pro−Val−クロロメチルケトン(MPCMK)、EDTA、およびキトサン−EDTAコンジュゲート、アミノ酸、ジペプチドおよびトリペプチド、アマスタチン、ベスタチン、ピューロマイシン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチドアナログ、α−アミノボロン酸誘導体、Na−グリコール酸、1,10−フェナントロリン、アシビシン、L−セリン−ボレート、チオルファン、ホスホラミドンおよびそれらの組合せよりなる群から選ばれてよく;スルホヒドリル基状態修飾剤は、N−アセチルシステイン(NAC)またはジアミドまたはそれらの組合せであってよく;および/または抗酸化剤は、トコフェロール、デテロキシム(deteroxime)メシラート、メチルパラベン、エチルパラベン、およびアスコルビン酸およびそれらの組合せよりなる群から選ばれてよい。
【0054】
本発明はまた、本発明の組成物の治療学的または予防学的有効量を含む1またはそれ以上の容器を有するキットをも提供する。
【0055】
また、疾患または病的状態の治療または予防方法であって、そのような治療または予防が望まれる患者に該疾患または病的状態を治療または予防するのに充分な量で本発明の組成物を投与することによる方法も記載される。たとえば、治療すべき疾患または状態としては、これらに限られるものではないが、糖尿病、不妊症、ホルモン欠損症および骨粗鬆症を含む内分泌疾患;眼科疾患;アルツハイマー病および他の形態の痴呆症、パーキンソン病、多発性硬化症、およびハンティングトン病を含む神経変性疾患;アテローム性動脈硬化症、凝固能亢進または減退の状態、冠状疾患、および脳血管事象を含む心血管疾患;肥満およびビタミン欠損症を含む代謝性疾患;腎不全を含む腎疾患;種々の実体の貧血を含む血液疾患;自己免疫疾患、および免疫不全を含む免疫およびリウマチ疾患;ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を含む感染性疾患;新生物疾患;および不能症、慢性の痛み、抑鬱、種々の線維症状態、および短身長を含む多因子疾患が挙げられる。
【0056】
本明細書に記載の活性化合物およびその塩の投与は、治療剤の投与に許容されたいかなる方法によるものであってもよい。これら方法としては、経口、口内、肛門、直腸、気管支、鼻内、舌下、非経口、経皮、肺、眼窩内、非経口または局所投与法が挙げられる。
【0057】
また、本明細書に記載の組成物の製造方法も本発明に包含される。たとえば、エフェクターおよび対イオンをいっしょに凍結乾燥し、ついで好ましい溶媒環境下で再構成することができる。凍結乾燥の際には、タンパク質安定化剤、透過性ペプチド、および/または医薬賦形剤または担体の他の成分のいずれの1またはそれ以上をも、エフェクターおよび対イオンに任意に加えることができる。凍結乾燥した物質の再構成の際に、組成物の他の成分を任意に加えることもできる。そのような任意の成分としては、たとえば、pluronic F-68、アプロチニン、Solutol HS15および/またはN−アセチルシステインが挙げられる。
【0058】
また、ワクチン接種を必要とする患者に本発明の組成物の有効量を投与することを含み、その際、エフェクターがワクチン接種の望まれる抗原を含む、粘膜(すなわち経口、鼻内、直腸、膣、または気管支)ワクチン接種法も提供される。一つの態様において、エフェクターは炭疽に対するワクチンとして使用するための防禦抗原(PA)であってよい。他の態様において、エフェクターはB型肝炎に対するワクチンとして使用するためのB型肝炎表面抗原(HBs)であってよい。
【0059】
本発明の1またはそれ以上の態様の詳細は、下記に添付の記載に示してある。本発明の実施または試験に際して本明細書に記載の方法および材料と同様のまたは等価な方法および材料を使用できるが、これから好ましい方法および材料を記載する。本発明の他の特徴、目的および利点は、詳細な記載および請求の範囲から明らかであろう。明細書および添付の請求の範囲において、文脈が明らかにそうでないと規定しない限り、単数形は複数形をも包含するものである。特に断らない限り、本明細書に使用した全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に引用した全ての特許および刊行物は、参照のために引用される。
【0060】
本明細書に記載するように、本発明のカチオン性またはアニオン性の対イオンは、選択的な包埋により生物学的障壁を通した少なくとも1のエフェクターの有効な移動を可能または容易にするために用いることができる。本発明のカチオン性の対イオンは、正に荷電しており、かつ疎水性の残基を含んでいてよいイオンである。本発明のアニオン性の対イオンは、負に荷電しており、かつ疎水性の残基を含んでいてよいイオンである。適当な条件下、カチオン性またはアニオン性の対イオンは、それぞれアニオン性またはカチオン性の不透過性分子との静電相互作用を確立することができる。そのような複合体の形成は電荷の中和を引き起こし、それによって新たな非荷電の部分を生成し、対イオンの本来の疎水特性の場合にはさらに疎水特性が付加される。
【0061】
本明細書に記載のエフェクター−対イオン疎水性組成物の使用は、低い免疫原性、高い再現性、各種治療分子の広範かつ簡単な応用を可能とし、生体での生物学的障壁を通した高度に効率的な送達の可能性を実現する。従って、これら組成物は、多くの巨大分子の効率的な送達のためのリポソームやウイルスなどの従来のトランスポーターを改善する可能性を有する。本発明の方法は、エフェクター−対イオン複合体の使用を採用して疎水性組成物を生成し、密着結合によって封じられた生物学的障壁を通して巨大分子を特異的に輸送するものである。
【0062】
本発明は、生物学的障壁を通して医薬や他の治療剤の送達のために種々の組織、とりわけ上皮組織および内皮組織を特異的にターゲティングする透過用組成物を提供する。当該技術分野で知られた既存の輸送システムは、一般的な応用に供するにはあまりにも制限がある、なぜなら、それら輸送システムは非効率である、それら輸送システムは活性物質の生物学的特性を変化させる、それら輸送システムは標的細胞を殺す、それら輸送システムは生物学的障壁を不可逆的に破壊する、および/またはそれら輸送システムはヒト患者に使用するにはあまりにもリスクが高いからである。
【0063】
一つの態様において、本発明の組成物は、不透過性のエフェクターおよび該エフェクターに対する適当な対イオンを含む。ついで、以下にさらに記載するように、この複合体を一定の工程で凍結乾燥および再構成して親水性分子および疎水性分子の自己会合を生じさせ、それによって、かつて不透過性のエフェクターを、そしてエフェクターのみを生物学的障壁を通して効率的に移動させる。本発明の組成物は、上皮障壁を通したエフェクターの少なくとも5%(しかしながら、好ましくは少なくとも10%または少なくとも20%)の移動を可能にすることから、その効率によって定めることができる。この効率は、典型的にエフェクターの約1〜3%の移動しか可能にしない当該技術分野で知られた他の組成物よりも高いものである。
【0064】
本発明の組成物は、選択的な包埋を用いることにより、変化を受けていない生物学的に活性な物質(すなわち、エフェクター)の効率的で非侵襲性の送達を示し、それゆえ多くの用途を有する。たとえば、本発明の組成物は糖尿病の治療に用いることができる。血流中のインスリンレベルは厳密に制御しなければならない。本発明の組成物は、たとえば、粘膜上皮を通して高収率でインスリンを送達するのに用いることができる。これまでに当該技術分野で知られている他の非侵襲性のインスリン送達法は、典型的に1〜4%の収率を有し、吸収されるインスリンの量の許容し難い変動を引き起こす。上昇した血中グルコースレベルの他の治療は、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の使用を含む。GLP−1は強力なホルモンであって、食物摂取時に胃腸管で内因性に分泌される。GLP−1の重要な生理的作用は、インスリンの分泌をグルコース依存的な仕方で高め、かくして糖尿病の治療を可能とするものである。
【0065】
さらに、これら組成物はまた、アテローム性動脈硬化症や血栓および塞栓の生成の結果生じる状態、たとえば心筋梗塞や脳血管事故などを治療するのに用いることができる。具体的には、粘膜上皮を通してヘパリンを送達するために本発明の組成物を用いることができる。ヘパリンは確立された有効かつ安全な抗凝固剤である。しかしながら、その用途は非経口投与の必要のために制限されている。そのため、これまでは腸からのヘパリン吸収の増大の指示において限られた成功しかなされておらず、持続した全身的な抗凝固効果は達成されていない。
【0066】
本発明の組成物はまた、血液の成長因子の投与の適用を受ける血液疾患および欠損症を治療するのに用いることができる。たとえば、エリスロポイエチンは赤血球の産生を刺激する糖タンパク質である。エリスロポイエチンは腎臓で産生され、骨髄中で赤血球前駆細胞(committed erythroid progenitors)の分裂および分化を刺激する。内生的に、低酸素および貧血は一般にエリスロポイエチンの産生を増加させ、これが今度は赤血球生成を刺激する。しかしながら、慢性腎不全(CRF)を罹患した患者は、エリスロポイエチンの産生が損なわれている。このエリスロポイエチンの欠損がこれら患者の貧血の主たる原因である。組換えEPOは、透析を受けている患者および定期的な透析を必要としない患者を含むCRFの貧血患者において赤血球生成を刺激する。EPOにより治療される他の貧血状態としては、ジドブジン処置HIV感染患者、および化学療法を受けている癌患者が挙げられる。癌患者で観察される貧血は、疾患それ自体、あるいは同時に投与される化学療法剤の作用と関係する。
【0067】
貧血の他の広範な原因は悪性貧血であり、ビタミンB12の欠乏により引き起こされる。胃腸管でのビタミンB12吸収の複雑なメカニズムは、固有因子(Intrinsic Factor)の分泌および固有因子への結合を含む。このプロセスが悪性貧血患者では異常であり、その結果、ビタミンB12吸収の欠乏および貧血となる。本発明の疎水性組成物は、ビタミンB12を粘膜上皮を通して高収率で送達するのに用いることができる。
【0068】
コロニー刺激因子は、特定の細胞表面レセプターに結合すること、および増殖、分化、拘束、およびある種の末端細胞(end-cell)機能の活性化を刺激することにより、造血細胞に作用する糖タンパク質である。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は、骨髄内の好中球の産生を制御し、好中球前駆細胞の増殖、分化および選択された末端細胞機能の活性化に影響を及ぼす(促進された食細胞能、呼吸バーストに関連した細胞代謝の起爆(priming)、抗体依存性の殺傷、および細胞表面抗原と関連したある種機能の増大した発現を含む)。
【0069】
癌患者では、組換え顆粒球−コロニー刺激因子は、安全で、かつ種々の化学療法の治療プログラムの後に好中球数の回復を促進し、それゆえ有害な感染症を防ぐうえで有効であることが示されている。G−CSFはまた、骨髄移植後に投与したときに骨髄の回復を短縮することもできる。
【0070】
本発明の組成物はまた、種々の適応症のためにモノクローナル抗体を投与するのに用いることができる。たとえば、腫瘍壊死因子(TNF)のシグナルをブロックする抗体の投与は、関節リウマチ(RA)、多関節性若年性関節リウマチ(JRA)並びにそれらの結果としての関節の病理などの病的炎症性プロセスを治療するのに用いることができる。
【0071】
さらに、本発明の組成物はまた、骨粗鬆症を治療するのに用いることができる。最近、組換え副甲状腺ホルモン(PTH)の注射で起こるようなPTHへの間欠的な暴露は、副甲状腺ホルモン機能亢進症で認められるような上昇PTHレベルへの持続的な暴露によって誘発されるよく知られた異化反応よりは、むしろ同化反応という結果となることが示されている。それゆえ、PTHの非侵襲性の投与は、骨粗鬆症を含む種々の欠乏状態において骨量(bone mass)を増大させるのに有利である。Fox, Curr. Opin. Pharmacol., 2: 338-344 (2002)参照。
【0072】
本発明の組成物はまた、細菌感染の治療に用いることができる。ペニシリンの導入以来、病原細菌は抗生物質療法に対する増殖耐性を可能とする新規なメカニズムを着実に獲得してきている。高度に非感受性の細菌病原体の拡大し続ける数は、医師および介護者にとって果てしなく増大する挑戦を提示する。その結果、患者はしばしばIV抗体療法を受けるために長期にわたる入院を余儀なくされ、経済的にも医学的に明らかに不利である。アミノグリコシド抗生物質は強力な抗菌抗生物質であるが、生物学的障壁により有効に吸収されない。それゆえ、本発明の組成物は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ネオマイシン、およびアミカシンなどのアミノグリコシドを粘膜上皮を通して高収率で送達するのに用いることができる。
【0073】
現在のところ、エフェクターの送達(たとえば、ゲンタマイシン、インスリン、ヘパリン、またはエリスロポイエチンの血流への送達(など))には静脈注射や筋肉内注射などの侵襲性の技術が必要である。本発明の組成物の一つの利点は、たとえば経口、鼻内、口内、直腸、吸入、ガス注入、経皮、または坐剤を含む非侵襲性の投与手段により生物学的障壁を通してエフェクターを送達できることである。さらに、本発明の組成物のさらなる利点は、血液脳関門を通過することができ、それゆえエフェクターを中枢神経系(CNS)に送達できることである。
【0074】
本発明の組成物は、生物学的障壁を通して、とりわけ密着結合により「封じられた」細胞を通してまたは細胞間での物質の通過、移動、または透過を容易にする。移動の検出は、たとえば、Schilfgaardeら、Infect. and Immun., 68(8): 4616-23 (2000)に記載されているようなパラサイトーシス(paracytosis)アッセイと組み合わせて疎水性組成物中に導入した造影化合物、たとえば放射性標識、および/または蛍光プローブまたは染料を用いることを含む、当業者に知られたいかなる方法によっても行うことができる。一般に、パラサイトーシスアッセイは、(a)細胞層を本発明により記載された疎水性組成物とともにインキュベートし、(b)該細胞層の切片を作製し、ついで(c)エフェクター、対イオン、または透過性ペプチドなどの本発明の組成物の成分の存在を検出することにより行う。検出工程は、固定化した細胞切片を本発明の組成物の成分に向けられた標識抗体とともにインキュベートし、ついで該成分と該標識抗体との間の免疫反応の検出により行うことができる。あるいは、ペプチドの存在を直接検出するために、放射能標識、または蛍光標識、または染料を用いて成分を標識することができる。さらに、バイオアッセイを用いて成分の移動をモニターすることができる。たとえば、組成物中に入れたエリスロポイエチンなどの生物活性分子を用い、ヘモグロビンまたはヘマトクリットを測定することができる。同様に、組成物とカップリングしたインスリンなどの生物活性分子を用いることにより、血中グルコースレベルの低下を測定することができる。
【0075】
本明細書において用いる「有効な移動」は、生物学的障壁への組成物の導入が、生物学的障壁を通したエフェクターの少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、さらに一層好ましくは少なくとも20%の移動という結果となることを意味する。組成物の少なくとも1のエフェクターは、組成物の生物学的障壁への導入が包埋したエフェクターのみの移動という結果となるような仕方、すなわち、包埋されていないまたは遊離の形態で同時に投与した他のいかなる分子も生物学的障壁を通して移動されない仕方で選択的に包埋される。
【0076】
本明細書において用いる「包埋」なる語は、該少なくとも1のエフェクターの疎水性組成物への導入をいう。包埋の方法は、少なくとも1の両親媒性対イオンとの少なくとも1のエフェクターの複合体の形成、および水または少なくとも部分的に水溶性の溶媒での溶解を含んでいてよい。組成物にはさらに、タンパク質安定化剤、透過性ペプチド、および/または1またはそれ以上の薬理学的に許容しうる疎水性薬剤を添加してよい。組成物の1またはそれ以上の成分は、包埋プロセスの種々の段階で凍結乾燥することができる。
【0077】
疎水性薬剤は、脂肪族分子、環状分子、または芳香族分子などの疎水性分子の単一の分子であるかまたは該分子の組合せであってよい。脂肪族疎水性薬剤の例としては、ミネラルオイル、パラフィン、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、またはトリグリセリド、エーテル、またはエステルが挙げられる。トリグリセリドの例としては、長鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリド、および短鎖トリグリセリドが挙げられる。適当なトリグリセリドの具体例としては、トリブチリン、トリヘキサノイン、トリオクタノイン、およびトリカプリン(1,2,3−トリデカノイルグリセロール)が挙げられる。環状疎水性薬剤の例としては、テルペノイド、コレステロール、コレステロール誘導体および脂肪酸のコレステロールエステルが挙げられる。芳香族疎水性薬剤の例としては、安息香酸ベンジルが挙げられる。少なくとも部分的に水溶性の溶媒としては、たとえば、n−ブタノール、イソアミル(=イソペンチル)アルコール、DMF、DMSO、イソブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、ter-ブタノール、ポリオール、エーテル、アミド、エステル、またはそれらの種々の混合物が挙げられる。
【0078】
本明細書において用いる「エフェクター」なる語は、たとえば、生物学的、治療学的、薬理学的、または診断学的追跡(tracing)のあらゆるカチオン性またはアニオン性の非透過性分子または化合物をいう。アニオン性の非透過性分子は、種々の起源、とりわけヒト、ウイルス、動物、真核生物または原核生物、植物、合成の起源などの核酸(リボ核酸、デオキシリボ核酸)からなっていてよい。目的とする核酸は、たとえば、単なる痕跡量のヌクレオチドからゲノム断片、あるいは全ゲノムに至る様々なサイズであってよい。核酸はウイルスゲノムまたはプラスミドであってよい。
【0079】
あるいは、目的とするエフェクターは、たとえば、酵素、ホルモン、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、生物作用分子、抗原、または抗体などのタンパク質であってよい。本明細書において用いる「生物作用分子」なる語は、生きた細胞または組織に作用を及ぼすまたは生きた細胞または組織から応答を誘起する化合物をいう。生物作用分子の制限されない例はタンパク質である。生物作用分子の他の例としては、これらに限られるものではないが、インスリン、エリスロポイエチン(EPO)、グルカゴン様ペプチドI(GLP−I)、αMSH、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン、カルシトニン、インターロイキン2(IL−2)、α1−アンチトリプシン、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、T20、抗TNF抗体、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、エンケファリン、ダラルギン、キョトルフィン、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヒルジン、ヒルログ、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログ、脳由来ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、グラチラマー酢酸(コポリマー1)、または神経栄養因子が挙げられる。目的とするエフェクターはまた、グリコサミノグリカンであってよく、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、およびヒアルロン酸を含むが、これらに限られるものではない。目的とするエフェクターはさらに、DNA、RNA、DNAミメチック、またはRNAミメチックなどの核酸であってよい。さらに、エフェクターは、薬理学的に活性な薬剤、たとえば毒素、治療剤、または抗病原因子、たとえば抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、または抗寄生虫剤であってよい。目的とするエフェクターは、それ自体が直接、活性であってよいし、あるいはペプチドにより、別個の物質により、または環境条件により、インシトゥで活性化されてよい。
【0080】
「薬理学的に活性な薬剤」および「治療剤」なる語は、本明細書において、生物に投与したときに検出可能な薬理学的および/または生理的作用を誘発する化学物質または化合物をいうものとして同義に用いられる。
【0081】
本発明による疎水性組成物は、その透過性能が、その中に含むエフェクターの性質に実質的に依存しないという事実によって特徴付けられる。
【0082】
本発明による「対イオン」としては、たとえば、アニオン性またはカチオン性の両親媒性分子、すなわち、極性ドメインおよび非極性ドメインの両者、または親水性の特性と疎水性の特性の両者を有する分子が挙げられる。本発明のアニオン性またはカチオン性の対イオンは、負(アニオン性)または正(カチオン性)に荷電しており、疎水性の残基を含んでいてよいイオンである。適当な条件下、アニオン性またはカチオン性の対イオンは、それぞれカチオン性またはアニオン性の非透過性分子との静電相互作用を確立することができる。そのような複合体の形成は電荷の中和を引き起こし、それによって新たな非荷電の部分(entity)を生成し、対イオンの本来の疎水特性の場合にはさらに疎水特性が付加される。
【0083】
適当なアニオン性の対イオンとしては、カルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸アニオンなどの負に荷電した残基を有するイオンが挙げられ、さらに疎水性の部分を含んでいてよい。そのようなアニオン性の対イオンの例としては、ドデシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルおよび有機酸に由来する他のアニオン性化合物が挙げられる。
【0084】
適当なカチオン性の対イオンとしては、ベンザルコニウム誘導体または他の第四級アミンなどの第四級アミン誘導体が挙げられ、該第四級アミンは、疎水性残基で置換されていてよい。一般に、本発明により予期される第四級アミンは、構造:1−R1−2−R2−3−R3−4−R4−N(式中、R1、2、3、および4はアルキルまたはアリール誘導体である)を有する。さらに、第四級アミンはまた、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ホスホニウム化合物またはテトラアルキルアンモニウム化合物などのイオン性液体生成カチオンであってよい。
【0085】
イオン性液体(ionic liquid)は、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンなどのカチオンとBF、PFなどのアニオンとからなる塩であり、比較的低温で液体である。イオン性の液体は、広い温度範囲にわたって特徴的に液体状態にあり、高イオン伝導度を有する。イオン性液体の他の有利な特性としては、非可燃性、高い熱安定性、比較的低い粘度、および本質的に蒸気圧のないことが挙げられる。イオン性液体を反応溶媒として用いた場合、溶質はイオンのみによって可溶化され、それゆえ水や通常の有機溶媒を用いた場合とは全く異なる環境を生成する。このことは高い選択性を可能とし、その応用範囲は着実に広がりつつある。幾つかの例は、フリーデル−クラフツ反応、ディールス−アルダー反応、金属触媒不斉合成その他におけるものである。さらに、ある種のイオン性液体は水および低極性有機溶媒中の溶解度が低く、反応生成物を有機溶媒で抽出した後の回収が可能となる。イオン性液体はまた、高いイオン伝導度のために、たとえば再充電可能な電池の電極として電気化学的に用いられる。
【0086】
上記のように、一つの好ましい態様において、対イオンはイオン性液体生成カチオンであってよい。たとえば、イミダゾリウム誘導体は、1−R1−3−R2−イミダゾリウム(式中、R1およびR2は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルであってよい)の一般構造を有する。そのようなイミダゾリウム誘導体はさらに、たとえば、ハロゲンまたはアルキル基で置換されていてよい。具体的なイミダゾリウム誘導体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)−イミダゾリウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0087】
ピリジニウム誘導体は、1−R1−3−R2−ピリジニウム(式中、R1は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルであり、R2は、Hまたは炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルである)の一般構造を有する。そのようなピリジニウム誘導体はさらに、たとえば、ハロゲンまたはアルキル基で置換されていてよい。ピリジニウム誘導体としては、3−メチル−1−プロピルピリジニウム、1−ブチル−3−メチルピリジニウム、および1−ブチル−4−メチルピリジニウムが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0088】
本発明は、イオン性液体のカチオン性成分の使用に関する。他のイオン性液体とは異なり、本発明によるカチオンの塩は典型的に水溶性である。たとえば、イオン性液体生成カチオンのアニオン相手は、塩素や臭素などのハロゲンであってよい。
【0089】
本発明の組成物は、タンパク質構造の安定化剤をさらに含んでいてよい。本明細書において用いるタンパク質構造の安定化剤は、水性または非水性条件下でタンパク質構造を安定化させる化合物である。タンパク質構造の安定化剤は、フィチン酸およびスクロース八硫酸などのポリアニオン分子、またはスペルミンなどのポリカチオン分子であってよい。タンパク質構造の安定化剤はまた、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールなどの非荷電ポリマーであってよい。
【0090】
フィチン酸およびその誘導体は、幾つかのタンパク質を高親和性で結合させることが知られた生物学的に活性な化合物である。フィチン酸はシクロヘキサン環に結合した6つのリン酸残基を含み、アルギニンの幾つかのグアニジニウム基に結合することを可能としている。たとえば、Filikovら、J. Comput. Aided Mol. Des. 12: 229-240 (1998)を参照。
【0091】
本発明の疎水性組成物のいずれも、透過性ペプチドをさらに含んでいてよい。本明細書に記載する組成物中の小さなペプチド担体の使用は、高い品質および純度を可能とし、生体の生物学的障壁を通した高度に効率的な送達の可能性を達成する。本発明は、短いペプチドモチーフを用いて疎水性組成物を生成し、密着結合により封じられた生物学的障壁を通して巨大分子を特異的に輸送するものである。
【0092】
幾つかの態様において、本発明は、生物学的障壁を通した薬剤および他の治療剤の送達のために種々の組織、とりわけ上皮組織および内皮組織を特異的にターゲティングするペプチド透過システム、すなわち透過組成物を提供する。本発明のペプチド透過システムは、パラサイトーシスに関与する種々のタンパク質からの保存されたペプチド配列を用いて生物学的障壁を通過することのできる透過組成物を生成する。たとえば、ヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae)のORF HI0638によってコードされたまたはORF HI0638に由来するペプチドは、上皮障壁を損なうことなくヒト肺上皮細胞間の該細菌の透過を容易にする。ORF HI0638によってコードされたペプチド配列は、たとえば、ヘモフィルス・インフルエンゼ、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、大腸菌(Escherichia coli)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ブフネラ・アフィジコラ(Buchnera aphidicola)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、およびキシレラ・ファスティジオーサ(Xylella fastidiosa)を含む一般の病原細菌または共生細菌で保存されている。HI0638のN末端配列に相同なペプチドもまた、たとえば、リゾヒウム・ロチ(Rhizohium loti)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、枯草菌(Bacillus subtilis)からのNprB、キンゲラ・デントリフィカンス(Kingella dentrificans)およびエイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)からのピリンを含む他の細菌でも認められる。
【0093】
さらに、同様のペプチド配列は、ヒトNK−1およびNK−2レセプターを含むニューロキニンレセプターファミリータンパク質などの真核生物起源のタンパク質でも保存されている。ニューロキニンレセプターファミリーが、血漿の管外遊出および浮腫生成を含む細胞間透過性の制御に関与していることは知られている。血液または体液の血管から周辺組織への管外遊出、漏出および拡散は、しばしば組織損傷、アレルギー、火傷および炎症に続いて起こる。とりわkえ、血管上のNK−1レセプターが活性化されるとき、血管透過性の上昇のために皮膚炎症が起こる。Inoue, et ah, Inflamm. Res., 45:316-323 (1996)参照。ニューロキニンNK−1レセプターはまた、硬膜および頭蓋外の血漿タンパク質の管外遊出をも媒体し、それによって偏頭痛の病態生理学へのNK−1レセプターの関与が示唆されている。O'ShaughnessyおよびConnor, Euro. J. of Pharm., 236: 319-321 (1993)参照。
【0094】
本発明の例示の透過性ペプチドの配列を表Aおよび表Bに示す。
表A
【表1】

【表2】

【0095】
表B
【表3】

【0096】
本発明の透過性ペプチドはまた、SEQ ID NOS: 1-15および24-29によって定められるペプチドのいずれかの少なくとも12の連続アミノ酸を含むペプチドを包含する。
【0097】
本明細書に記載するペプチドは、治療学的「積荷(cargos)」のデザイン、すなわち担体(「透過性ペプチド」)と1またはそれ以上の治療剤(「エフェクター」)とのカップリングの基礎として働く。好ましくは、透過性ペプチドを1またはそれ以上のエフェクターにカップリングするために非共有結合が用いられる。透過性ペプチドをリンカーに結合させることができ、これに、たとえばリシン残基の遊離のアミノ基により造影化合物を共有結合することができる。そのようなリンカーとしては、これに限られるものではないが、アミノ酸配列GGKGGK(SEQ ID NO: 16)(本明細書ではIBW-OOlとも称する)が挙げられる。
【0098】
透過性ペプチドを含む本発明の組成物は、直接かまたは間接的のいずれかによる透過性ペプチドのエフェクターへのカップリングを含む。本明細書において用いる「カップリングした」なる語は、第三の分子と比較して互いの優先性を示す2またはそれ以上の分子という結果となるそのようなあらゆる特異的相互作用を含むことを意味し、エフェクターと透過性ペプチドとの間の物理的会合を可能とするあらゆるタイプの相互作用を含む。好ましくは、これには、静電相互作用、疎水性相互作用および水素結合が含まれ、これらに限られるものではないが、溶媒選択などの非特異的な会合は含まれない。会合は、生物学的障壁の透過の前または透過の際にエフェクターが解離しないように充分に強くなければならない。
【0099】
さらに、透過性ペプチドへのエフェクターのカップリングはまた、メディエーターにより間接的に行うことができる。たとえば、そのようなメディエーターは、一方でエフェクター−対イオン複合体を結合させ、他方で透過性ペプチドを疎水化する大きな疎水性分子、たとえば、遊離の脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、またはトリグリセリド、エーテル、または脂肪酸のコレステロールエステルなどであってよい。
【0100】
本発明にはまた、本明細書に記載の組成物の製造方法も包含される。たとえば、エフェクターおよび対イオンをいっしょに凍結乾燥させ、ついで好ましい溶媒環境で再構成させる。凍結乾燥の際には、タンパク質安定化剤、透過性ペプチド、および/または医薬賦形剤または担体の他の成分のいずれの1またはそれ以上をも、エフェクターおよび対イオンに任意に加えることができる。凍結乾燥した物質の再構成の際に、組成物の他の成分を任意に加えることもできる。そのような任意の成分としては、たとえば、pluronic F-68、アプロチニン、Solutol HS15および/またはN−アセチルシステインが挙げられる。
【0101】
たとえば、本発明の組成物の透過性ペプチドまたはエフェクターは、当該技術分野で知られた標準組換えDNA法により製造することができる。
【0102】
本明細書において用いる「ベクター」なる語は、それに結合した他の核酸分子を輸送することのできる核酸分子をいう。ベクターの一つのタイプは「プラスミド」であり、これは環状の二本鎖DNAループであって、その中に別のDNAセグメントをライゲートすることができる。他のタイプのベクターはウイルスベクターであり、この場合は別のDNAセグメントはウイルスゲノム中にライゲートすることができる。ある種のベクターは、それが導入された宿主細胞内で自律的複製をすることができる(たとえば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム性の哺乳動物ベクター)。他のベクター(たとえば、非エピソーム性の哺乳動物ベクター)は、宿主細胞内に導入されたときに宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それが作動可能に連結された遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称する。一般に、組換えDNA法で有用な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態のものである。プラスミドがベクターの最も普通に用いられる形態であることから、本明細書では「プラスミド」と「ベクター」とは同義で用いることができる。しかしながら、本発明は、等価な機能を果たすウイルスベクター(たとえば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを包含することを意図している。
【0103】
組換え発現ベクターは、宿主細胞内での核酸の発現に適した形態の核酸を含み、このことは、組換え発現ベクターが1またはそれ以上の調節配列(発現に使用すべき宿主細胞に基づいて選択され、発現すべき核酸配列に作動可能に連結している)を含むことを意味する。組換え発現ベクター内において、「作動可能に連結した」とは、目的とするヌクレオチド配列が調節配列に該ヌクレオチド配列の発現を可能とするような仕方で連結していることを意味する(たとえば、インビトロ転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞に導入された場合は宿主細胞において)。
【0104】
「調節配列」なる語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御配列(たとえば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図している。そのような調節配列は、たとえば、Goeddel, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、アカデミックプレス、サンジエゴ、カリフォルニア(1990)に記載されている。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞でのヌクレオチド配列の構成的な発現を指令するもの、およびある種の宿主細胞でのみヌクレオチド配列の発現を指令するもの(たとえば、組織特異的調節配列)を包含する。発現ベクターのデザインは、形質転換すべき宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの因子に依存しうることが当業者により評価されるであろう。発現ベクターは、宿主細胞に導入し、それによって本明細書に記載の核酸によってコードされるタンパク質またはペプチド(たとえば、透過性ペプチド)を産生することができる。
【0105】
組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞での本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターの発現のためにデザインすることができる。たとえば、透過性ペプチドまたはエフェクターは、大腸菌などの細菌菌体、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを用いる)、酵母菌体または哺乳動物細胞で発現させることができる。適当な宿主細胞は、Goeddel, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、アカデミックプレス、サンジエゴ、カリフォルニア(1990)でさらに検討されている。別法として、組換え発現ベクターは、たとえば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用い、インビトロで転写および翻訳することができる。
【0106】
原核細胞でのタンパク質の発現は、融合タンパク質かまたは非融合タンパク質のいずれかの発現を指令する構成的または誘導性プロモーターを含むベクターを用い、最もしばしば大腸菌で行われる。融合ベクターは、その中でコードされているタンパク質に、通常は組換えタンパク質のアミノ末端に多くのアミノ酸を付加する。そのような融合ベクターは、典型的に3つの目的を有する:すなわち、(i)組換えタンパク質の発現を増大させる;(ii)組換えタンパク質の溶解度を上昇させる;および(iii)アフィニティー精製におけるリガンドとして機能することによって組換えタンパク質の精製を助ける。
【0107】
適当な誘導性の非融合大腸菌発現ベクターの例としては、pTrc(Amrannら、(1988) Gene 69:301-315)およびpET 1 Id(Studierら、GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、アカデミックプレス、サンジエゴ、カリフォルニア (1990) 60-89)が挙げられる。
【0108】
大腸菌での組換えタンパク質発現を最大にする一つの戦略は、組換えタンパク質をタンパク質加水分解的に開裂する能力が損なわれた宿主細菌でタンパク質を発現させることである。たとえば、Gottesman, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185、アカデミックプレス、サンジエゴ、カリフォルニア(1990) 119-128を参照。他の戦略は、各アミノ酸の個々のコドンが大腸菌で優先して用いられるものとなるように、発現ベクターに挿入すべき核酸の核酸配列を変えることである(たとえば、Wadaら、1992. Nucl. Acids Res. 20: 2111-2118を参照)。本発明の透過性ペプチドまたは組成物をコードする核酸配列のそのような変更は、標準DNA合成法により行うことができる。
【0109】
他の態様では、発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母サッカロミセス・セレビシエ中での発現用ベクターの例としては、pYepSecl(Baldariら、1987. EMBO J. 6: 229-234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz, 1982. Cell 30: 933-943)、pJRY88(Schultzら、1987. Gene 54: 113-123)、pYES2(Invitrogen Corporation、サンジエゴ、カリフォルニア)、およびpicZ(Invitrogen Corp、サンジエゴ、カリフォルニア)が挙げられる。
【0110】
あるいは、本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターは、バキュロウイルス発現ベクターを用いて昆虫細胞で発現させることができる。培養昆虫細胞(たとえば、SF9細胞)でのタンパク質の発現に利用できるバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smithら、1983. MoI. Cell. Biol. 3: 2156-2165)およびpVLシリーズ(LucklowおよびSummers, 1989. Virology 170: 31-39)が挙げられる。
【0111】
さらに他の態様では、本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターは、哺乳動物発現ベクターを用いて哺乳動物細胞で発現させる。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed, 1987. Nature 329: 840)およびpMT2PC(Kaufmanら、1987. EMBOJ. 6: 187-195)が挙げられる。哺乳動物細胞で使用する場合、発現ベクターの制御機能はしばしばウイルス調節配列によって提供される。たとえば、一般的に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、およびシミアンウイルス40からのものである。原核細胞および真核細胞の両者のための他の適当な発現系については、たとえば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1989の第16章および第17章を参照。
【0112】
他の態様では、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞型で優先的に核酸の発現を指令することができる(たとえば、組織特異的な調節配列を用いて核酸を発現させる)。組織特異的な調節配列は当該技術分野で知られている。適当な組織特異的な調節配列の制限されない例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkertら、1987. Genes Dev. 1 : 268-277)、リンパ球特異的プロモーター(CalameおよびEaton, 1988. Adv. Immunol. 43: 235-275)、とりわけT細胞レセプターのプロモーター(WinotoおよびBaltimore, 1989. EMBO J. 8: 729-733)および免疫グロブリン(Banerjiら、1983. Cell 33: 729-740; QueenおよびBaltimore, 1983. Cell 33: 741-748)、ニューロン特異的プロモーター(たとえば、ニューロフィラメントプロモーター;ByrneおよびRuddle, 1989. Proc. Natl. Acad. Set USA 86: 5473-5477)、膵特異的プロモーター(Edlundら、1985. Science 230: 912-916)、および乳腺特異的プロモーター(たとえば、乳ホエープロモーター;米国特許第4,873,316号およびヨーロッパ特許出願公開第264,166号)、発生的に制御されたプロモーターも包含される、たとえばマウスhoxプロモーター(KesselおよびGruss, 1990. Science 249: 374-379)およびα−フェトプロテインプロモーター(CampesおよびTilghman, 1989. Genes Dev. 3: 537-546)が挙げられる。
【0113】
本発明はさらに、本発明の透過性ペプチドおよびエフェクターをコードするDNA分子をアンチセンス方向で含む組換え発現ベクターを提供する。すなわち、該DNA分子は、透過性ペプチドmRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現(該DNA分子の転写により)を可能とするような仕方で調節配列に作動可能に連結される。アンチセンス方向でクローニングした核酸に作動可能に連結した調節配列であって、様々な細胞型でのアンチセンスRNA分子の連続的な発現を指令するものを選択することができ、たとえば、ウイルスプロモーターおよび/またはエンハンサー、または調節配列であって、アンチセンスRNAの構成的で組織特異的なまたは細胞型特異的な発現を指令するものを選択することができる。アンチセンス発現ベクターは、アンチセンス核酸が高効率調節配列の制御下で産生される組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒化ウイルスの形態であってよく、その活性は該ベクターが導入された細胞型によって決定することができる。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子発現の制御の検討については、たとえば、Weintraubら、"Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis" Reviews-Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986を参照。
【0114】
本発明の他の側面は、組換え発現ベクターが導入された宿主細胞に関する。「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」なる語は本明細書では同義に用いられる。そのような語は、特定の当該細胞をいうのみならず、そのような細胞の子孫または潜在的な子孫をもいうことが理解される。引き続く世代では突然変異または環境の影響のゆえにある種の修飾が起こりうるため、そのような子孫は実際は親細胞と同一ではないが、本明細書では同語の範囲に包含される。
【0115】
宿主細胞は、いかなる原核細胞または真核細胞であってもよい。たとえば、透過性ペプチドまたはエフェクターは、大腸菌などの細菌菌体、昆虫細胞、酵母または哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)で発現させることができる。他の適当な宿主細胞は当業者に知られている。
【0116】
ベクターDNAは、通常の形質転換法またはトランスフェクション法により原核細胞または真核細胞に導入することができる。本明細書において、「形質転換」および「トランスフェクション」なる語は、外来核酸(たとえば、DNA)を宿主細胞に導入するために当該技術分野で認識される様々な方法をいい、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒体トランスフェクション、リポフェクチン、またはエレクトロポレーションを含む。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションする適当な方法は、Sambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1989)、および他の実験室マニュアルに見出すことができる。
【0117】
哺乳動物細胞の安定なトランスフェクションのためには、使用した発現ベクターおよびトランスフェクション法に依存して、細胞のごく小部分しか外来DNAをそのゲノムに組み込まないことが知られている。これら組み込み体を同定および選択するには、一般に選択マーカー(たとえば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子を目的遺伝子とともに宿主細胞に導入する。様々な選択マーカーには、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートなどの薬剤に対する耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーをコードする核酸は、透過性ペプチドまたは組成物をコードするものと同じベクターで宿主細胞に導入することができ、または別のベクターで導入することができる。導入した核酸で安定にトランスフェクションした細胞は、薬剤選択により同定することができる(たとえば、選択マーカー遺伝子を導入した細胞は生存するのに対し、他の細胞は死滅する)。
【0118】
培養中の原核細胞や真核細胞などの宿主細胞は、本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターを産生(すなわち、発現)するのに用いることができる。従って、本発明はさらに、宿主細胞を用いて透過性ペプチドまたはエフェクターを製造する方法を提供する。一つの態様において、本発明の方法は、透過性ペプチドまたはエフェクターが産生されるように宿主細胞(透過性ペプチドまたはエフェクターをコードする組換え発現ベクターが導入されている)を適当な培地で培養することを含む。他の態様において、本発明の方法はさらに、培地または宿主細胞から透過性ペプチドまたは組成物を単離することを含む。
【0119】
本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターはまた、当該技術分野で知られた固相ペプチド合成法を用いて製造することができる。たとえば、透過性ペプチドをメリフィールド固相合成法を用いて合成することができる(たとえば、Merrifield, R.B., J. Am. Chem. Soc. 85:2149 (1963); ENCYCLOPEDIA OF MOLECULAR BIOLOGY 806 (第1版、1994))。この方法では、C末端を不溶性のポリマー支持体樹脂(たとえば、ポリスチレンビーズ)に付着させ、それによって固定化アミノ酸を生成する。C末端アミノ酸が樹脂に付着している間の所望でない反応を回避するため、C末端アミノ酸のアミノ基を、たとえばtert-ブチルオキシカルボニル(t−BOC)基を用いて保護または「ブロック」する。ついで、溶液に希酸を加えることにより、固定化したアミノ酸上の保護基、たとえばt−BOCを除去する。固定化ペプチド鎖に第二のアミノ酸を結合する前に、第二のアミノ酸のアミノ基を上記のようにブロックし、ついで第二のアミノ酸のα−カルボキシル基をジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)との反応により活性化する。ついで、第二のアミノ酸の活性化したα−カルボキシル基を固定化アミノ酸の遊離のアミノ基と反応させてペプチド結合を生成させる。ついで、所望の透過性ペプチドまたは組成物に必要な配列に従って、固定化ペプチド鎖の末端アミノ酸にアミノ酸をさらに個々に付加していく。必要な配列にてアミノ酸が付加されたら、たとえば、ペプチド結合を攻撃しないフッ化水素を用いることにより、完成したペプチドを樹脂から遊離させる。
【0120】
本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターはまた、Fmoc固相ペプチド合成を用いて合成することもできる。(たとえば、University of Illinois at Urbana- Champaign Protein Sciences Facility, Solid-Phase Peptide Synthesis (SPPS), http://www.biotech.uiuc.edu/spps.htmを参照)この方法では、アミノ酸のC末端を、たとえば、酸に弱い結合を介してリンカー分子を用いて不溶性のポリマー樹脂(たとえば、ポリスチレンビーズ、架橋ポリスチレンビーズなど)に付着させる。C末端アミノ酸が樹脂に付着している間の所望でない反応を回避するため、C末端アミノ酸のアミノ基をFmoc基を用いて保護またはブロックする。ついで、溶液に塩基を加えることにより、固定化したアミノ酸上の保護基、たとえばFmocを除去する。側鎖官能基はまた、塩基に安定で酸に弱い基を用いて保護して所望でない反応を回避する。固定化アミノ酸に第二のアミノ酸を結合する前に、第二のアミノ酸のアミノ基を上記のようにブロックし、ついで引き続くアミノ酸のα−カルボキシル基をヒドロベンゾトリアゾール(HOBt)エステルをインサイトゥウで生成することにより活性化する。ついで、第二のアミノ酸の活性化したα−カルボキシル基および固定化アミノ酸の遊離のアミノ基と塩基の存在下で反応させて新たなペプチド結合を生成させる。ついで、所望のペプチドが組み立てられるまで、固定化ペプチド鎖の末端アミノ酸にアミノ酸をさらに順次付加していく。必要な配列にてアミノ酸が付加されたら、たとえば、トリフルオロ酢酸、および組み立てたペプチド鎖の側鎖に結合した保護基が除去される間に生成したカチオンを中和するのに有効なスカベンジャー(たとえば、フェノール、チオアニソール、水、エタジチオール(EDT)およびトリイソプロピルシラン(TIS))の混合物を用いることにより樹脂から解裂することができる。
【0121】
タンパク質をさらに化学的に修飾して循環中のタンパク質の半減期を上昇させることができることは当業者によく知られている。制限されない一つの例として、ポリエチレングリコール(PEG)残基を本発明の透過性ペプチドまたはエフェクターに結合させることができる。生体分子をPEGとコンジュゲートすることはポリエチレングリコール処理(pegylation)として知られるが、タンパク質の循環半減期を増大させる確立された方法である。ポリエチレングリコールは、その大きな水動力学的容量ゆえにポリエチレングリコール処理した分子の周囲にシールドを生成し、それによって腎クリアランス、酵素による分解、並びに免疫系の細胞による認識から保護する非毒性の水溶性ポリマーである。
【0122】
薬剤特異的なポリエチレングリコール処理法は、近年、「親」分子と同じかまたはそれ以上の生物学的活性を有するポリエチレングリコール処理した分子(たとえば、医薬、タンパク質、薬剤、酵素など)を生成するために用いられている。これら薬剤は、ペグフィルグラスチム(pegfilgrastim)の自己制御クリアランス(self-regulated clearance)、ポリエチレングリコール処理したインターフェロン2αの長くなった吸収半減期に例示されるように、明確なインビボ薬物動態学的および薬力学的特性を有する。ポリエチレングリコール処理した分子は患者にとって一層都合がよく許容しうる投与スケジュールを有し、このことは患者の生活の質に対して有利な影響を及ぼしうる(Yowell S.L.ら、Cancer Treat Rev 28 Suppl. A:3-6 (Apr. 2002))。
【0123】
本発明はまた、生物学的障壁を本発明の組成物が該障壁を通した効率的な透過を可能とするのに充分な量で該組成物に接触させる方法を包含する。本発明の組成物は、インビトロ、イクスビボ、またはインビボで提供することができる。さらに、本発明による組成物は、カップリングした物質の生物学的活性を増強(potentializing)しうる。それゆえ、これら組成物はエフェクターの生物学的活性を増大させるのに用いることができる。
【0124】
疎水性組成物に加え、本発明はまた薬理学的に許容しうる塩基もしくは酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、プロドラッグ、代謝産物、立体異性体、またはそれらの混合物をも提供する。本発明はまた、薬理学的に許容しうる担体、希釈剤、プロテアーゼインヒビター、界面活性剤、または賦形剤とともに疎水性組成物を含む医薬製剤をも包含する。界面活性剤としては、たとえば、ポロキサマー、Solutol HS15、クレモフォール、または胆汁酸/塩が挙げられる。
【0125】
「薬理学的に許容しうる塩」なる語により包含される塩は、本発明の化合物の非毒性塩をいい、一般に遊離の塩基を適当な有機または無機酸または溶媒と反応させて本明細書に記載する化合物の「薬理学的に許容しうる酸付加塩」を生成することにより調製される。これら化合物は、遊離の塩基の生物学的有効性および特性を保持している。そのような塩の代表例は、酢酸塩、アムソネート(amsonate)(4,4−ジアミノスチルベン−2−2’−ジスルホン酸塩)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸、重酒石酸、ホウ酸塩、ブロマイド、酪酸塩、エデト酸カルシウム、カムシレート(camsylate)、炭酸塩、クロライド、クエン酸塩、クラブラン酸塩(clavulariate)、ジヒドロクロライド、エデト酸酸、エジシレート(edisylate)、エストレート(estolate)、エシレート(esylate)、フマール酸塩、グルセプテート(gluceptate)、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシネート(hexylresolcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、ヒドロブロマイド、ヒドロクロライド、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨーダイド、イソチオネート、ラクテート、ラクトビオネート(lactobionate)、ラウリン酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシラート、メチルブロマイド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシレート(napsylate)、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモエート(pamoate)(1,1−メチレン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩、エンボネート(embonate))、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、スバセテート(subacetate)、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩、スラメート(suramate)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクレート(teoclate)、トシレート、トリエチヨーダイド(triethiodide)、および吉草酸塩などの水溶性および水不溶性の塩である。
【0126】
本発明の方法に従い、患者、すなわちヒト患者を疎水性組成物の薬理学的または治療学的有効量で処置することができる。「薬理学的または治療学的有効量」なる語は、研究者または臨床医が調べようとしている組織、器官、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘起する医薬または治療剤(エフェクター)の量を意味する。
【0127】
本発明はまた、生物学的障壁を通して目的とするエフェクターを導入するのに適した医薬組成物をも包含する。本発明の医薬組成物は好ましくは内服に使用するのに適しており、本発明の薬理学的に活性な化合物の有効量を単独で、または1またはそれ以上の薬理学的に許容しうる担体とともに含む。本発明の医薬組成物は、もしあったとしても非常に低い毒性を有する点で特に有用である。
【0128】
好ましい医薬組成物は、(a)希釈剤、たとえば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;(b)プロテアーゼインヒビター、たとえば、アプロチニン、Bowman-Birkインヒビター、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリオボムコイド、ニワトリオボインヒビター、ヒト膵トリプシンインヒビター、カモステートメシラート、フラボノイドインヒビター、アンチパイン、ロイペプチン、p−アミノベンズアミジン、AEBSF、TLCK、APMSF、DFP、PMSF、ポリ(アクリレート)誘導体、キモスタチン、ベンジルオキシカルボニル−Pro−Phe−CHO;FK−448、糖ビフェニルボロン酸複合体、β−フェニルプロピオネート、エラスタチナール、メトキシスクシニル−Ala−Ala−Pro−Val−クロロメチルケトン(MPCMK)、EDTA、およびキトサン−EDTAコンジュゲート、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、アマスタチン、ベスタチン、ピューロマイシン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチドアナログ、α−アミノボロン酸誘導体、Na−グリコール酸、1,10−フェナントロリン、アシビシン、L−セリン−ボレート、チオルファン、およびホスホラミドンが挙げられるが、これらに限られるものではない;(c)滑沢剤、たとえば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウム塩またはカルシウム塩、ポロキサマーおよび/またはポリエチレングリコール;錠剤についてはまた、(d)結合剤、たとえば、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン;所望なら(e)崩壊剤、たとえば、デンプン、アガー、アルギン酸またはそのナトリウム塩、またはその沸騰混合物;および/または(f)吸収剤、着色剤、香味剤および甘味剤とともに活性成分を含む、腸溶の錠剤およびゼラチンカプセルである。本発明の組成物は滅菌することができ、および/またはアジュバント、たとえば、保存剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧を調節するための塩および/または緩衝液を含んでいてよい。さらに、本発明の組成物はまた、他の治療上価値のある物質を含んでいてよい。本発明の組成物は、それぞれ通常の混合法、顆粒化法またはコーティング法に従って調製され、約0.001〜75%、好ましくは約0.01〜10%の活性成分を含む。
【0129】
本明細書に記載する活性化合物およびその塩の投与は、治療剤の投与法として許容されているいかなる方法によってもよい。これら方法としては、経口、口内、肛門、直腸、気管支、鼻内、舌下、非経口、経皮、肺、または局所投与法が挙げられる。本明細書において使用する「非経口」なる語は、消化管以外の他の経路、たとえば、皮下、筋肉内、眼窩内(すなわち、眼窩中あるいは眼球の後ろ)、関節包内、脊椎内、胸骨内または静脈内による注射をいう。
【0130】
意図する投与法に応じて、本発明の組成物は、固形、半固形または液体の剤型であってよく、たとえば、錠剤、坐剤、丸剤、徐放カプセル、散剤、液剤、懸濁剤、エアゾル剤などの好ましくは1回服用剤型であってよい。本発明の組成物は、有効量の活性化合物または薬理学的に許容しうるその塩を含み、さらに医薬科学において常用されるように通常の医薬賦形剤および他の医薬または治療薬剤または治療剤、担体、アジュバント、希釈剤、プロテアーゼインヒビターなどを含んでいてよい。
【0131】
固形製剤については、賦形剤としては、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどを用いることができる。上記で定めた活性化合物はまた、たとえば、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールを担体として用いて坐剤として製剤化することもできる。
【0132】
液体組成物は、たとえば、溶解、分散などにより調製することができる。活性化合物を薬理学的純度の溶媒、たとえば、水、食塩水、水性デキストロース、グリセリン、エタノールなどに溶解または混合して溶液または懸濁液を生成する。
【0133】
所望なら、投与すべき医薬組成物はまた、少量の非毒性の補助物質、たとえば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、および他の物質、たとえば、酢酸ナトリウム、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含んでいてよい。
【0134】
当業者はまた、本発明の疎水性組成物が、それに対するワクチン接種が望まれる抗原を含みエフェクターとして機能する、粘膜用、すなわち経口、鼻内、直腸、膣、または気管支ワクチンとしても用いることができることをも認識するであろう。そのようなワクチンは、炭疽の防禦抗原(PA)またはB型肝炎のB型肝炎表面抗原(HBs)を含むがこれらに限られるものではない所望の抗原性配列を含む組成物を包含する。ついで、この組成物をワクチン接種の必要のある患者に経口または鼻内投与する。
【0135】
「抗原」とは、免疫応答を刺激することのできる分子または分子の一部であって、さらに該抗原のエピトープに結合することのできる抗体の産生を動物またはヒトに誘発することができるものである。「エピトープ」とは、主要組織適合複合体(「MHC」)分子によって認識および結合されることができ、T細胞によって認識または抗体によって結合されることができる分子の当該部分である。典型的な抗原は、1またはそれ以上のエピトープを有する。特異的な認識は、該抗原がその対応のMHCおよびT細胞、または抗体と高度に選択的な仕方で反応するが、他の抗原によって誘起されうる他の抗体とは反応しないことを示す。
【0136】
ペプチドは、該ペプチド内に含まれる特定のエピトープの認識(あるいは正確な適合)によってMHCに結合し、T細胞によって認識され、あるいは抗体に結合するときに、T細胞または抗体と「免疫応答性」である。免疫応答性は、T細胞応答をインビトロで測定することによって、または抗体結合によって、さらに詳細には抗体結合の動力学によって、または該抗体またはT細胞の応答が向けられたエピトープを含む既知のペプチドを競合ペプチドとして用いた結合の競合によって、決定することができる。
【0137】
ペプチドがT細胞または抗体と免疫応答性であるか否かを決定する方法は当該技術分野で知られている。ペプチドは、有効性についてインビトロアッセイおよびインビボアッセイによりスクリーニングすることができる。そのようなアッセイは、動物、たとえばマウス、ウサギまたは霊長類のペプチドによる免疫、およびその結果得られる抗体力価の評価を用いる。
【0138】
さらに本発明に包含されるのは、対応する抗原に対する分泌抗体(IgA)の産生を誘起しうるワクチンであるが、そのような抗体は各種病原体に対する防禦の第一線として機能するものである。経口または鼻内、すなわち粘膜のワクチン接種は非侵襲性の投与経路の利点を有し、分泌抗体を得るための好ましい免疫手段であるが、当業者であればワクチン接種を各種経路、たとえば、経口、局所、または非経口、すなわち皮下、腹腔内、ウイルス感染により、静脈内などで投与できることを認識するであろう。
【0139】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル剤(それぞれ、徐放製剤を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル、チンキ、懸濁剤、シロップおよびエマルジョンなどの経口剤型で投与することができる。
【0140】
化合物を利用する投与プログラムは、患者のタイプ、人種、年齢、体重、性別および医学的状態;治療すべき状態の重篤度;投与経路;患者の腎機能および肝機能;および使用した特定の化合物またはその塩を含む様々な因子に従って選択する。通常の技量を有する医師または獣医師であれば、状態の進行を予防、対抗または抑制するのに必要な有効量の薬剤を容易に決定および処方することができる。
【0141】
本発明の経口剤型は、指示した作用のために使用するときは、0.005、0.01、0.025、0.05、0.1、0.25、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100.0、250.0、500.0または1000.0mgの活性成分を含む評定(scored)錠剤の形態で提供することができる。
【0142】
本発明の化合物は、1日1回の投与量で、または1日分の全投与量を1日2回、3回または4回に分割して投与することができる。さらに、本発明にとって好ましい化合物は、適当な口内ビヒクルの局所使用により口内剤型で、適当なエアゾル剤または吸入剤により気管支剤型で、適当な鼻内ビヒクルの局所使用により鼻内剤型で、または当業者によく知られた経皮の皮膚パッチ剤の剤型を用いて経皮経路により、投与することができる。経皮送達系の形態で投与するには、投与はもちろん投与プログラムの全期間にわたって間欠的であるよりま連続的に行われるであろう。他の好ましい局所製剤としては、クリーム、軟膏、ローション、エアゾルスプレー剤およびゲルが挙げられ、その際、活性成分の濃度は0.1〜15%, w/wまたはw/vの範囲であろう。
【0143】
本明細書に詳細に記載する化合物は活性成分を形成することができ、意図した投与剤型、すなわち経口錠剤、カプセル、エリキシル、シロップなどに関して適当に選択され通常の製薬慣行と合致した適当な製薬希釈剤、賦形剤または担体(本明細書では以上をまとめて「担体」物質と称する)と典型的に混合して投与される。
【0144】
たとえば、錠剤またはカプセルの剤型での経口投与では、活性な薬剤成分は、エタノール、グリセリン、水などの経口、非毒性の薬理学的に許容しうる不活性な担体を組み合わせることができる。さらに、所望もしくは必要な場合は、適当な結合剤、滑沢剤、プロテアーゼインヒビター、崩壊剤および着色剤をも混合物中に入れることができる。適当な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然糖、たとえばグルコースやベータ−ラクトース、トウモロコシ甘味剤、天然および合成のガム、たとえばアラビアゴム、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポロキサマー、ポリエチレングリコール、蝋などが挙げられる。これら投与剤型に用いる滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。崩壊剤としては、これらに限られるものではないが、デンプン、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、キサンチンガムなどが挙げられる。
【0145】
本発明の化合物はまた、ターゲティング可能な医薬担体としての可溶性のポリマーとカップリングすることもできる。そのようなポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピル−メタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパナミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリシンが挙げられる。さらに、本発明の化合物は、医薬の徐放を達成するのに有用な生分解性ポリマーのクラス、たとえば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセテート、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレートおよびヒドロゲルの架橋または両親媒性ブロックコポリマーにカップリングしてよい。
【0146】
上記医薬組成物のいずれも、活性成分としての活性化合物を0.01〜99%、好ましくは0,1〜10%含んでいてよい。
【0147】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様をさらに詳細に説明するために示すものである。これら実施例は、決して、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を制限するものと解されることがあってはならない。
【0148】
実施例1:上皮障壁を通したインスリンの有効な移動を可能にする選択的な包埋の利用
(a)対イオンとしてBKCを用いたインスリンの移動のための組成物:
ウシインスリン、対イオンであるベンザルコニウムクロライド(BKC)、およびフィチン酸を濃度比1:0.5:0.5で凍結乾燥し、ついで、これをエタノール中の0.5%トリカプリンで再構成し、ついで安息香酸ベンジル:ブタノールの1:11比の混合物を加えることにより、組成物を調製した。この組成物の他の成分は表1に示してある。
【0149】
表1:インスリン移動の組成物
【表4】

【0150】
5匹の雄SDラット(体重175〜200g)を、実験18時間前に断食した。被験動物を2群に分け、85%ケタミン、15%キシラジン、0.1ml/100g体重の溶液で麻酔した。各調製物を、経口(200μl/ラット、1.14IUのインスリンを含有)かまたは直腸経由(200μl/マウス、5.7IUのインスリンを含有)で投与した。血中グルコースレベルを、投与後の種々の時間間隔で尾の先端から採取した血液試料で測定した(表2参照)。
【0151】
表2:
【表5】

【0152】
上記から明らかなように、組成物を直腸経由で投与した後にグルコースレベルは徐々にかつ有意に下がり、腸管から血流中へのインスリンの吸収を示していた。
【0153】
(b)対イオンとしてのBKCおよび透過性ペプチドを用いたインスリンの移動のための組成物:
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基をミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 36(「IBW−002V2」とも称する)を疎水化した。ミリストイルによるアシル化は、適当な溶媒(安息香酸ベンジルおよびジメチルホルムアミド、1%重炭酸塩とともに)の存在下、塩基性pH条件下で該ペプチドと塩化ミリストイルとを1:10のモル比でインキュベートすることにより行った。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらに(1)インスリン、(2)対イオンであるベンザルコニウムクロライド(BKC)、および(3)フィチン酸の1:0.5:0.5の比の凍結乾燥物を含んでいた。この組成物の他の成分は表3に示してある。
【0154】
表3:インスリン移動のための組成物
【表6】

【0155】
12匹の雄SDラット(体重160〜190g)を、実験18時間前に断食した。被験動物を2群に分けた。調製物を以下のようにして投与した:ラット#1,2−直腸PBS200μl、ラット#3,4−ペプチドなしの上記直腸200μl組成物(5IUインスリン)、ラット#5−ペプチド含有の経口200μl組成物(1IUインスリン)、ラット#6,7−ペプチド含有の経口200μl組成物(5IUインスリン)。血中グルコースレベルを、投与後の種々の時間間隔で尾の先端から採取した血液試料で測定した。グルコースレベルをインスリン投与後の時間に対してプロットした(表4参照)。
【0156】
表4:
【表7】

10=低
【0157】
図4に示すように、透過性ペプチド組成物をIBW−002V2とともに直腸経由で投与した後にグルコースレベルは両ラットで徐々にかつ有意に下がり、腸管から血流中へのインスリンの吸収を示していた。対照的に、ペプチドなしでは、グルコースレベルの有意の低下は腹腔内投与後にのみ認められた。直腸投与後では血中グルコースレベルの変化は観察されず、これらラットではインスリンの吸収がないことを示していた。
【0158】
(c)対イオンとしてのHMICおよび透過性ペプチドを用いたインスリンの移動のための組成物:
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基をミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 36(「IBW−002V2」とも称する)およびSEQ ID NO: 16(「IBW−001」とも称する)を疎水化した。ミリストイルによるアシル化は、適当な溶媒(安息香酸ベンジルおよびジメチルホルムアミド、1%重炭酸塩とともに)の存在下、塩基性pH条件下で該ペプチドと塩化ミリストイルとを1:10のモル比でインキュベートすることにより行った。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらにインスリン、および対イオンである1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(HMIC)含んでいた。この組成物の他の成分は表5に示してある。
【0159】
表5:インスリン移動のための組成物
【表8】

【0160】
8匹の雄BALB/cマウス(9〜10週齢)を、実験18時間前に断食した。被験動物を4群に分けた。各調製物を、2群のマウスに、経口(70μl/マウス、0.2IUのインスリンを含有)かまたは直腸経由(70μl/マウス、0.2IUのインスリンを含有)で投与した。血中グルコースレベルを、投与後の種々の時間間隔で尾の先端から採取した血液試料で測定した。(表2参照)。グルコースレベルをインスリン投与後の時間に対してプロットした(図3参照)。
【0161】
図3に示すように、透過性ペプチド組成物をIBW−002V2とともに直腸経由で投与した後にグルコースレベルは両ラットで徐々にかつ有意に下がり、腸管から血流中へのインスリンの吸収を示していた。対照的に、対照のペプチド組成物(IBW−001)では、グルコースレベルの有意の低下は腹腔内投与後にのみ認められた。直腸投与後では血中グルコースレベルの変化は観察されず、この群ではインスリンの吸収がないことを示していた。
【0162】
上皮障壁を通したインスリンの移動のための組成物の上記例では、血中グルコースレベルは、腸管から血流中に吸収されたインスリンの量と相関して(すなわち、吸収されたインスリンの量と相関関係を有する量にて)減少する。それゆえ、このドラッグデリバリーシステムはインスリン注射の必要を置換しうるものであり、それによって糖尿病患者のための効率的、安全かつ都合のよい投与経路を提供する。
【0163】
実施例2:上皮障壁を通したヘパリンの有効な移動を可能にする選択的な包埋の利用
(a)対イオンとしてBKCを用いたヘパリンの移動のための組成物:
ヘパリンおよび対イオンであるベンザルコニウムクロライド(BKC)を濃度比1:0.5または1:1で凍結乾燥し、ついで、これをエタノール中の2.5%トリカプリンで再構成し、ついで安息香酸ベンジル:ブタノールの1:11比の混合物を加えることにより、組成物を調製した。この組成物の他の成分は表6に示してある。
【0164】
表6:ヘパリン移動の組成物
【表9】

【0165】
インビボ実験手順:
4匹の雄CB6/F1マウス(8〜10週齢)を、実験18時間前に断食した。マウスを、0.15mlのキシラジン+0.85mlのケタミンの混合物0.05mlを腹腔内注射することにより麻酔した。ついで、プラスチックチップを用いて組成物(100μl/マウス)をマウスに直腸投与した。ヘパリン投与後の種々の時間間隔で凝固時間を測定して透過性を評価した。投与5分後に尾の先端を切り、50μlの血液試料をガラス毛管に採取した。血餅の生成が観察されるまで、毛管を種々の時間間隔で壊した。このことを投与15分、30分、および60分後に繰り返した。その後、被験動物を屠殺した。結果を下記表に示す。
【0166】
表7:
【表10】

【0167】
(b)対イオンとしてのBMICおよび透過性ペプチドを用いたヘパリンの移動のための組成物:
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基をミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 36を疎水化した。ミリストイルによるアシル化は、適当な溶媒(安息香酸ベンジルおよびジメチルホルムアミド、1%重炭酸塩とともに)の存在下、塩基性pH条件下で該ペプチドと塩化ミリストイルとを1:10のモル比でインキュベートすることにより行った。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらにヘパリン、および対イオンである1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIC)を含んでいた。この組成物の他の成分は表8に示してある。
【0168】
表8:ヘパリン移動のための組成物
【表11】

【0169】
インビボ実験手順:
4匹の雄BALB/cマウス(9〜10週齢)を、実験18時間前に断食した。マウスを、0.15mlのキシラジン+0.85mlのケタミンの混合物0.05mlを腹腔内注射することにより麻酔した。ついで、滑沢剤で覆ったプラスチックチップを用いて組成物(100μl/マウス)をマウスに直腸投与した。ヘパリン投与後の種々の時間間隔で凝固時間を測定して透過性を評価した。投与5分後に尾の先端を切り、50μlの血液試料をガラス毛管に採取した。血餅の生成が観察されるまで、毛管を種々の時間間隔で壊した。このことを投与15分、30分、60分、90分、120分および150分後に繰り返した。その後、被験動物を屠殺した。結果を下記表に示す。
【0170】
同様の実験において、透過性ペプチドの配列を欠く対照ペプチド(SEQ ID NO: 16)を同様に疎水化し、表8に示す組成物に導入し、ついでマウスに直腸投与した。測定した平均凝固時間は、透過性ペプチドの完全コンジュゲートで得られたものと比較してわずかに長くなったにすぎなかった。結果を表9に示す。
【0171】
表9:
【表12】

:血液凝固の出現を示すが、数分後でさえも進行しなかった。
【0172】
上皮障壁を通したヘパリンの移動のための組成物の上記例では、凝固時間値は、腸管から血流中に吸収されたヘパリンの量と相関して(すなわち、吸収されたヘパリンの量と相関関係を有する量にて)増大する。それゆえ、このドラッグデリバリーシステムはヘパリン注射の使用を置換しうるものである。
【0173】
実施例3:粘膜ワクチン接種のための選択的な包埋の利用
(a)対イオンを用いた粘膜ワクチン接種のための組成物:
経口ワクチン接種のための組成物は、対イオン、すなわちベンザルコニウムクロライドで包埋された所望の抗原配列、すなわち炭疽菌のPA抗原、および疎水性薬剤、すなわちトリカプリンを含む。この医薬組成物の他の可能な成分を表1に示してある。そのような組成物はワクチン接種を必要とする患者に投与することができる。
【0174】
(b)対イオンカチオンおよび透過性ペプチドを用いた粘膜ワクチン接種のための組成物:
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸、すなわちミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 34(またはSEQ ID NO: 22, 30-37からの他の配列)を疎水化した。同様に、SEQ ID NO: 1-15, 24-29からの他の配列もまた、透過性ペプチドのC末端で付加し、グリシン、アラニンまたはセリン残基により隔てられた余分のリシン残基により補充することができ、そのようなリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸でアシル化する。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらに(1)所望の抗原配列、たとえば、炭疽菌のPA抗原、(2)1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIC)や1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(HMIC)などの両親媒性対イオンカチオンおよび(3)フィチン酸の凍結乾燥物を含んでいる。他の成分は表8に示してある。そのような組成物はワクチン接種を必要とする患者に投与することができる。
【0175】
(c)対イオンアニオンおよび透過性ペプチドを用いた粘膜ワクチン接種のための組成物:
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸、すなわちミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 34(またはSEQ ID NO: 22, 30-37からの他の配列)を疎水化する。同様に、SEQ ID NO: 1-15, 24-29からの他の配列もまた、透過性ペプチドのC末端で付加し、グリシン、アラニンまたはセリン残基により隔てられた余分のリシン残基により補充することができ、そのようなリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸でアシル化する。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらに(1)所望の抗原配列、たとえば、B型肝炎のHBs抗原、(2)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やスルホコハク酸ジオクチル(DSS)などの両親媒性対イオンアニオンおよび(3)フィチン酸の凍結乾燥物を含んでいる。他の成分は表10に示してある。そのような組成物はワクチン接種を必要とする患者に投与することができる。
【0176】
粘膜ワクチン接種のための上記組成物は、そのようなワクチン接種を必要とする大集団の簡便かつ迅速なワクチン接種を可能とする。この方法の他の利点は、高力価のIgA抗体の産生、およびそれに引き続く上皮粘膜(抗原の暴露部位である)でのIgA抗体の存在である。
【0177】
ワクチン接種の有効性は、特異的な抗体力価、とりわけIgAの測定により、並びに刺激に対する免疫応答、たとえば、抗原の皮下投与に応答した皮膚の過敏反応の測定により、示すことができる。
【0178】
実施例4:上皮障壁を通したアミノグリコシド抗生物質の有効な移動を可能にする選択的な包埋の利用
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸、すなわちミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 34(またはSEQ ID NO: 22, 30-37からの他の配列)を疎水化する。同様に、SEQ ID NO: 1-15, 24-29からの他の配列もまた、透過性ペプチドのC末端で付加し、グリシン、アラニンまたはセリン残基により隔てられた余分のリシン残基により補充することができ、そのようなリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸でアシル化する。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらに(1)アミノグリコシド抗生物質、すなわちゲンタマイシン、(2)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やスルホコハク酸ジオクチル(DSS)などの両親媒性対イオンアニオンおよび(3)フィチン酸の凍結乾燥物を含んでいる。他の成分は表10に示してある。
【0179】
表10:組成物の他の成分
【表13】

【0180】
組成物を被験動物、すなわちマウスに2つの形態:すなわち直腸または注入により腸管ループ(intestinal loop)に投与する。この実験手順では雄BALB/cマウスを使用し、該マウスを実験18時間前に断食させる。腸管内注入では、ついでマウスを麻酔し、腹の中央に沿い、皮膚および腹壁を通して2cmの長さの切開を入れる。腸管ループを切開部から穏やかに引き出し、被験動物の横の湿ったガーゼの上に置く。腸管ループは全手順を通じて損なわないようにし、全時間を通じて湿ったままにしておく。26Gの針を用いて被験化合物をループに注入する。腸管投与では、マウスを麻酔し、ついで滑沢剤で覆ったプラスチックチップを用いて組成物(100μl/マウス)をマウスに直腸投与する。
【0181】
透過性を2つの方法:(a)血中の抗生物質濃度の直接測定、および(b)処理動物からの血清試料中の抗菌活性の測定で評価する。
【0182】
実施例5:上皮障壁を通したカスポファンギンなどのカチオン性抗真菌剤の有効な移動を可能にする選択的な包埋の利用
透過性ペプチドのC末端の2つのリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸、すなわちミリストイルでアシル化することにより、SEQ ID NO: 34(またはSEQ ID NO: 22, 30-37からの他の配列)を疎水化する。同様に、SEQ ID NO: 1-15, 24-29からの他の配列もまた、透過性ペプチドのC末端で付加し、グリシン、アラニンまたはセリン残基により隔てられた余分のリシン残基により補充することができ、そのようなリシン残基の遊離のアミノ基を脂肪酸でアシル化する。ついで、疎水化ペプチドを組成物中に入れ、この組成物はさらに(1)抗真菌剤、すなわちカスポファンギン、(2)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やスルホコハク酸ジオクチル(DSS)などの両親媒性対イオンアニオンおよび(3)フィチン酸の凍結乾燥物を含んでいる。他の成分は表11に示してある。
【0183】
表11:組成物の他の成分
【表14】

【0184】
組成物を被験動物、すなわちマウスに2つの形態:すなわち直腸または注入により腸管ループ(intestinal loop)に投与する。この実験手順では雄BALB/cマウスを使用し、該マウスを実験18時間前に断食させる。腸管内注入では、ついでマウスを麻酔し、腹の中央に沿い、皮膚および腹壁を通して2cmの長さの切開を入れる。腸管ループを切開部から穏やかに引き出し、被験動物の横の湿ったガーゼの上に置く。腸管ループは全手順を通じて損なわないようにし、全時間を通じて湿ったままにしておく。26Gの針を用いて被験化合物をループに注入する。腸管投与では、マウスを麻酔し、ついで滑沢剤で覆ったプラスチックチップを用いて組成物(100μl/マウス)をマウスに直腸投与する。
【0185】
透過性を2つの方法:(a)血中のカスポファンギン濃度の直接測定、および(b)処理動物からの血清試料中の抗真菌活性の測定で評価する。
【0186】
他の態様
本発明の特定の態様についての上記で詳記した記載から、上皮障壁および内皮障壁を通した独特の移動方法が記載されたことが明らかであるに違いない。本明細書では特定の態様を詳細に開示したが、これは説明の目的として例示により行ったにすぎず、以下に添付する特許請求の範囲の範囲に関して限定することを意図するものではない。特に、特許請求の範囲により定められる本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の置換、変更、および改変を本発明になしうることが本発明者により想起される。たとえば、特定のタイプの組織、あるいは移動すべき特定のエフェクターの選択は、本明細書に記載した態様の知識を有する当業者であればルーチンな事項であると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】図1は、ORF HI0638および他の病原細菌からのそのホモログのアミノ酸配列アラインメントを示す。
【0188】
【図2】図2は、本発明に用いた透過性ペプチドのアミノ酸配列アラインメント、並びにその生物起源を示す。
【0189】
【図3】図3は、本発明の組成物の投与による上皮細胞膜を通したインスリン移動後の、マウスにおける血中グルコースレベルを時間に対してプロットしたグラフを示す。
【0190】
【図4】図3は、本発明の組成物の投与による上皮細胞膜を通したインスリン移動後の、ラットにおける血中グルコースレベルを時間に対してプロットしたグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1のエフェクターの上皮送達のための組成物であって、該少なくとも1のエフェクターに対する対イオンに逐次カップリングした治療学的有効量の該少なくとも1のエフェクター、および薬理学的に許容しうる疎水性薬剤を含み、該少なくとも1のエフェクターが複合体中に選択的に包埋されており、選択的に包埋された該少なくとも1のエフェクターが生物学的障壁を通して効率的に移動することができることを特徴とする組成物。
【請求項2】
選択的に包埋された該少なくとも1のエフェクターの少なくとも5%が生物学的障壁を通して移動する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
選択的に包埋された該少なくとも1のエフェクターの少なくとも10%が生物学的障壁を通して移動する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
選択的に包埋された該少なくとも1のエフェクターの少なくとも20%が生物学的障壁を通して移動する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
選択的に包埋された該少なくとも1のエフェクターのみが生物学的障壁を通して移動し、包埋していないまたは遊離の形態で同時に投与した他の分子は生物学的障壁を通して移動しない、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
薬理学的に許容しうる賦形剤、薬理学的に許容しうる担体、またはそれらの組合せをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
該少なくとも1のエフェクターが、カチオン性の不透過性分子またはアニオン性の不透過性分子である、請求項1または6に記載の組成物。
【請求項8】
該アニオン性の不透過性分子が、タンパク質、ペプチド、多糖、核酸または核酸ミメチックである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
該多糖が、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、および薬理学的に許容しうるその塩よりなる群から選ばれたグリコサミノグリカンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
該核酸または核酸ミメチックが、DNA、DNA−ミメチック、RNA、またはRNA−ミメチックよりなる群から選ばれる、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
該アニオン性の不透過性分子またはカチオン性の不透過性分子が、インスリン、エリスロポイエチン(EPO)、グルカゴン様ペプチドI(GLP−I)、αMSH、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン、カルシトニン、インターロイキン2(IL−2)、α1−アンチトリプシン、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、T20、抗TNF抗体、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、エンケファリン、ダラルギン、キョトルフィン、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヒルジン、ヒルログ、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログ、脳由来ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、グラチラマー酢酸、および神経栄養因子よりなる群から選ばれた生物作用分子である、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
該アニオン性の不透過性分子またはカチオン性の不透過性分子が、ホルモン、成長因子、神経栄養因子、抗凝固剤、生物作用性分子、毒素、抗生物質、抗真菌剤、抗病原因子、抗原、抗体、抗体フラグメント、イムノモデュレーター、ビタミン、抗新生物剤、酵素、および治療剤よりなる群から選ばれた薬理学的に活性な薬剤である、請求項7に記載の組成物。
【請求項13】
該薬理学的に活性な薬剤が、ビタミンB12、タキソール、カスポファンギン、またはアミノグリコシド抗生物質よりなる群から選ばれる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
該エフェクターがさらに少なくとも1の化学修飾を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
該少なくとも1のエフェクターが、インスリン、エリスロポイエチン(EPO)、グルカゴン様ペプチドI(GLP−I)、αMSH、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン、カルシトニン、インターロイキン2(IL−2)、α1−アンチトリプシン、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、T20、抗TNF抗体、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)、エンケファリン、ダラルギン、キョトルフィン、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、ヒルジン、ヒルログ、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログ、脳由来ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、グラチラマー酢酸、および神経栄養因子よりなる群から選ばれる、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
該化学修飾が、該エフェクターへの1またはそれ以上のポリエチレングリコール残基の結合を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
該対イオンが、アニオン性の両親媒性分子またはカチオン性の両親媒性分子である、請求項1または6〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
該アニオン性の両親媒性分子が、カルボン酸、スルホン酸、およびホスホン酸アニオンよりなる群から選ばれた有機酸を含み、該アニオン性の両親媒性分子が疎水性の残基をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
該アニオン性の対イオンが、ドデシル硫酸ナトリウムおよびスルホコハク酸ジオクチルよりなる群から選ばれる、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
該カチオン性の両親媒性分子が、疎水性の残基を含む第四級アミンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
該第四級アミンが、一般構造:
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4はアルキルまたはアリール残基)を有する、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
該第四級アミンがベンザルコニウム誘導体である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
該対イオンがイオン性の液体生成カチオンである、請求項1または6〜17のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
該イオン性の液体生成カチオンが、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ホスホニウム誘導体およびテトラアルキルアンモニウム化合物よりなる群から選ばれる、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
該イミダゾリウム誘導体が、1−R1−3−R2−イミダゾリウム(式中、R1およびR2は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルである)の一般構造を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
該イミダゾリウム誘導体が、さらにハロゲンまたはアルキル基の置換を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
該イミダゾリウム誘導体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム;1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム;1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム;1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム;1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)−イミダゾリウム;1,3−ジメチルイミダゾリウム;および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムよりなる群から選ばれる、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
該ピリジニウム誘導体が、1−R1−3−R2−ピリジニウム(式中、R1は、炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルであり、R2は、Hまたは炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖アルキルである)の一般構造を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
該ピリジニウム誘導体が、さらにハロゲンまたはアルキル基の置換を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
該ピリジニウム誘導体が、3−メチル−1−プロピルピリジニウム、1−ブチル−3−メチルピリジニウム、および1−ブチル−4−メチルピリジニウムよりなる群から選ばれる、請求項24に記載の組成物。
【請求項31】
該イオン性の液体生成カチオンが水溶性塩の構成成分である、請求項23〜30のいずれかに記載の組成物。
【請求項32】
該疎水性薬剤が、脂肪族分子、環状分子、芳香族分子またはそれらの組み合わせよりなる群から選ばれる、請求項1または6〜31のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
該脂肪族疎水性薬剤が、ミネラルオイル、パラフィン、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エーテル、およびエステルよりなる群から選ばれる、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
該トリグリセリドが、長鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリド、短鎖トリグリセリドおよびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれる、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
該トリグリセリドが、トリブチリン、トリヘキサノイン、トリオクタノイン、およびトリカプリン(1,2,3−トリデカノイルグリセロール)よりなる群から選ばれる、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
該環状疎水性薬剤が、テルペノイド、コレステロール、コレステロール誘導体、および脂肪酸のコレステロールエステルよりなる群から選ばれる、請求項32に記載の組成物。
【請求項37】
該芳香族疎水性薬剤が、安息香酸ベンジルである、請求項32に記載の組成物。
【請求項38】
水、またはn−ブタノール、イソアミル(=イソペンチル)アルコール、DMF、DMSO、イソブタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、ter-ブタノール、ポリオール、エーテル、アミド、エステル、またはそれらの種々の混合物よりなる群から選ばれた少なくとも部分的に水溶性の溶媒をさらに含む、請求項1または6〜37のいずれかに記載の組成物。
【請求項39】
ポリアニオン分子、ポリカチオン分子、非荷電ポリマー、およびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれたタンパク質安定化剤をさらに含む、請求項1または6〜38のいずれかに記載の組成物。
【請求項40】
該ポリアニオン分子が、フィチン酸およびスクロース八硫酸よりなる群から選ばれる、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
該ポリカチオン分子がポリアミンである、請求項39に記載の組成物。
【請求項42】
該ポリアミンがスペルミン、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
該非荷電ポリマーが、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる、請求項39に記載の組成物。
【請求項44】
透過性ペプチドをさらに含む、請求項1または6〜43のいずれかに記載の組成物。
【請求項45】
該透過性ペプチドが、
(a)(BX)4Z(BX)2ZXB;
(b)ZBXB2XBXB2XBX3BXB2X2B2
(c)ZBZX2B4XB3ZXB4Z2B2
(d)ZB9XBX2B2ZBXZBX2
(e)BZB8XB9X2ZXB;
(f)B2ZXZB5XB2XB2X2BZXB2
(g)XB9XBXB6X3B;
(h)X2B3XB4ZBXB4XBnXB;
(i)XB2XZBXZB2ZXBX3BZXBX3B;
(j)BZXBXZX2B4XBX2B2XB4X2
(k)BZXBXZX2B4XBX2B2XB4
(l)B2XZ2XB4XBX2B5X2B2
(m)BqXtZBmXqB4XBXnBmZB2X2B2
(n)B2ZX3ZBmXqB4XBXnBmZB2X2B2
(o)X3ZB6XBX3BZB2X2B2;および
(p)ペプチド(a)〜(o)のいずれかの少なくとも12の連続アミノ酸
(式中、qは0または1;
mは1または2;
nは2または3;
tは1または2または3;および
Xはいずれかのアミノ酸;
Bは疎水性アミノ酸;および
Zは荷電アミノ酸)
よりなる群から選ばれた少なくとも1のアミノ酸配列を含み、該透過性ペプチドが生物学的障壁を通して移動することができるものであることを特徴とする、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
該透過性ペプチドが、
(a)SEQ ID NO: 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 24, 25, 26, 27, 28および29;
(b)SEQ ID NO: 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 24, 25, 26, 27, 28および29よりなる群から選ばれたアミノ酸配列の変異体;ここで該変異体の1またはそれ以上のアミノ酸残基は該透過性ペプチドのアミノ酸配列とは異なり、ただし、該変異体は該アミノ酸配列からの15%未満のアミノ酸残基において異なるものである;
(c)SEQ ID NO: 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 24, 25, 26, 27, 28および29よりなる群から選ばれたアミノ酸配列の断片;および
(d)SEQ ID NO: 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 24, 25, 26, 27, 28および29よりなる群から選ばれたペプチドのいずれかの少なくとも12の連続アミノ酸を含むペプチド
よりなる群から選ばれたアミノ酸配列を含む、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
該断片が、長さが少なくとも10アミノ酸である、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
該変異体のアミノ酸配列が保存的なアミノ酸置換を含む、請求項46に記載の組成物。
【請求項49】
該変異体のアミノ酸配列が非保存的なアミノ酸置換を含む、請求項46に記載の組成物。
【請求項50】
該透過性ペプチドが、1またはそれ以上のペプチド結合によりさらに修飾して胃腸管での加水分解からの保護を可能とする、請求項46に記載の組成物。
【請求項51】
該変異体中の1またはそれ以上のアミノ酸残基が、D−アミノ酸、ノルロイシン、ノルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、エチオニン;およびt−ブチルオキシカルボニル、アセチル、メチル、スクシニル、メトキシスクシニル、スベリル、アジピル、アゼライル、ダンシル、ベンジルオキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、メトキシアセライル、メトキシアジピル、メトキシスベリル、および2,3−ジニトロフェニル基よりなる群から選ばれたアミノ末端保護基で誘導体化した化合物よりなる群から選ばれた天然に存在しないアミノ酸で置換されている、請求項50に記載の組成物。
【請求項52】
1またはそれ以上のペプチド結合が別の種類の共有結合で置換されてペプチドミメチックを生成する、請求項50に記載の組成物。
【請求項53】
該透過性ペプチドが、SEQ ID NO: 3または少なくとも12の連続アミノ酸のペプチドである、請求項45に記載の組成物。
【請求項54】
該透過性ペプチドが、SEQ ID NO: 8または少なくとも12の連続アミノ酸のペプチドである、請求項45に記載の組成物。
【請求項55】
該透過性ペプチドが、SEQ ID NO: 9または少なくとも12の連続アミノ酸のペプチドである、請求項45に記載の組成物。
【請求項56】
該透過性ペプチドが、SEQ ID NO: 12または少なくとも12の連続アミノ酸のペプチドである、請求項45に記載の組成物。
【請求項57】
該透過性ペプチドが、SEQ ID NO: 24または少なくとも12の連続アミノ酸のペプチドである、請求項45に記載の組成物。
【請求項58】
該透過性ペプチドが、長さが30未満のアミノ酸である、請求項45に記載の組成物。
【請求項59】
該透過性ペプチドが、長さが25未満のアミノ酸である、請求項45に記載の組成物。
【請求項60】
該透過性ペプチドが、長さが20未満のアミノ酸である、請求項45に記載の組成物。
【請求項61】
該透過性ペプチドが、該透過性ペプチドのC末端に付加され、グリシン、アラニン、またはセリン残基により隔てられた余分のリシン残基をさらに含み、該リシン残基の遊離のアミノ基がアシル化される、請求項45に記載の組成物。
【請求項62】
該アシル化が、ステアロイル、パルミトイル、オレイル、リシノレイルおよびミリストイルよりなる群から選ばれた長鎖脂肪酸を用いる、請求項61に記載の組成物。
【請求項63】
該透過性ペプチドのアミノ酸配列が、
(a)SEQ ID NOS: 22, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36および37;
(b)SEQ ID NOS: 22, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36および37よりなる群から選ばれたアミノ酸配列の変異体;ここで該変異体の1またはそれ以上のアミノ酸残基は該透過性ペプチドのアミノ酸配列とは異なり、ただし、該変異体は該アミノ酸配列からの15%未満のアミノ酸残基において異なるものである;
(c)SEQ ID NO: 22, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36および37よりなる群から選ばれたアミノ酸配列の断片;および
(d)SEQ ID NO: 22, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36および37よりなる群から選ばれたペプチドのいずれかの少なくとも12の連続アミノ酸を含むペプチド
よりなる群から選ばれる、請求項61に記載の組成物。
【請求項64】
該透過性ペプチドがさらに化学修飾を含む、請求項44〜63のいずれかに記載の組成物。
【請求項65】
該化学修飾が、該透過性ペプチドへの1またはそれ以上のポリエチレングリコール残基の結合を含む、請求項64に記載の組成物。
【請求項66】
イオン性の界面活性剤、非イオン性の界面活性剤、またはそれらの組み合わせよりなる群から選ばれた界面活性剤をさらに含む、請求項1または6〜65のいずれかに記載の組成物。
【請求項67】
該イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、レシチン、胆汁塩、およびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれる、請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
該非イオン性界面活性剤が、ポロキサマー、Solutol HS15、クレモフォア、ポリエチレングリコール脂肪酸アルコールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれる、請求項66に記載の組成物。
【請求項69】
該ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、およびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれる、請求項68に記載の組成物。
【請求項70】
少なくとも1の保護剤をさらに含む、請求項1または6〜69のいずれかに記載の組成物。
【請求項71】
該保護剤が、アプロチニン、Bowman-Birkインヒビター、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリオボムコイド、ニワトリオボインヒビター、ヒト膵トリプシンインヒビター、カモステートメシラート、フラボノイドインヒビター、アンチパイン、ロイペプチン、p−アミノベンズアミジン、AEBSF、TLCK、APMSF、DFP、PMSF、ポリ(アクリレート)誘導体、キモスタチン、ベンジルオキシカルボニル−Pro−Phe−CHO、FK−448、糖ビフェニルボロン酸複合体、β−フェニルプロピオネート、エラスタチナール、メトキシスクシニル−Ala−Ala−Pro−Val−クロロメチルケトン(MPCMK)、EDTA、キトサン−EDTAコンジュゲート、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、アマスタチン、ベスタチン、ピューロマイシン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチドアナログ、α−アミノボロン酸誘導体、Na−グリコール酸、1,10−フェナントロリン、アシビシン、L−セリン−ボレート、チオルファン、ホスホラミドン、およびそれらの組み合わせよりなる群から選ばれたプロテアーゼインヒビターである、請求項70に記載の組成物。
【請求項72】
非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、プロテアーゼインヒビター、スルホヒドリル基状態修飾剤、および抗酸化剤よりなる群から選ばれた少なくとも2つの物質の混合物をさらに含む、請求項1または6〜71のいずれかに記載の組成物。
【請求項73】
該非イオン性界面活性剤が、ポロキサマー、クレモフォール、ポリエチレングリコール脂肪酸アルコールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルまたはSolutol HS15である、請求項72に記載の組成物。
【請求項74】
該イオン性界面活性剤が脂肪酸塩である、請求項72に記載の組成物。
【請求項75】
該プロテアーゼインヒビターが、アプロチニン、Bowman-Birkインヒビター、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリオボムコイド、ニワトリオボインヒビター、ヒト膵トリプシンインヒビター、カモステートメシラート、フラボノイドインヒビター、アンチパイン、ロイペプチン、p−アミノベンズアミジン、AEBSF、TLCK、APMSF、DFP、PMSF、ポリ(アクリレート)誘導体、キモスタチン、ベンジルオキシカルボニル−Pro−Phe−CHO、FK−448、糖ビフェニルボロン酸複合体、β−フェニルプロピオネート、エラスタチナール、メトキシスクシニル−Ala−Ala−Pro−Val−クロロメチルケトン(MPCMK)、EDTA、キトサン−EDTAコンジュゲート、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、アマスタチン、ベスタチン、ピューロマイシン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチドアナログ、α−アミノボロン酸誘導体、Na−グリコール酸、1,10−フェナントロリン、アシビシン、L−セリン−ボレート、チオルファン、ホスホラミドン、およびそれらの組合せよりなる群から選ばれる、請求項72に記載の組成物。
【請求項76】
該スルホヒドリル基状態修飾剤が、NACおよびジアミドよりなる群から選ばれる、請求項72に記載の組成物。
【請求項77】
該抗酸化剤が、トコフェロール、デテロキシムメシラート、メチルパラベン、エチルパラベン、アスコルビン酸、およびそれらの組合せよりなる群から選ばれる、請求項72に記載の組成物。
【請求項78】
カプセルに入れられる、請求項1または6〜77のいずれかに記載の組成物。
【請求項79】
錠剤、エマルジョン、懸濁液、クリーム、軟膏、水性分散液、坐剤、または鼻スプレーの剤型である、請求項1または6〜78のいずれかに記載の組成物。
【請求項80】
腸溶コーティングされている、請求項1または6〜79のいずれかに記載の組成物。
【請求項81】
1またはそれ以上の容器中に請求項1または6〜80のいずれかに記載の組成物の治療学的または予防学的有効量を含むキット。
【請求項82】
該ペプチドが完全膜タンパク質に由来する、請求項44に記載の組成物。
【請求項83】
該ペプチドが細菌毒素に由来する、請求項44に記載の組成物。
【請求項84】
該ペプチドが細胞外タンパク質に由来する、請求項44に記載の組成物。
【請求項85】
SEQ ID NO: 1-8、10-15、および25-29よりなる群から選ばれたアミノ酸配列を含み、細菌タンパク質に由来し、インビボで生物学的障壁を透過する能力により特徴付けられる、単離したペプチド。
【請求項86】
SEQ ID NO: 9および24よりなる群から選ばれたアミノ酸配列を含み、ヒトニューロキニンレセプターに由来し、インビボで生物学的障壁を透過する能力により特徴付けられる、単離したペプチド。
【請求項87】
治療学的有効量の少なくとも1のエフェクターを透過性ペプチドにカップリングさせ、該エフェクターに対イオンをカップリングさせることを含む、請求項44〜63のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項88】
固相合成を用いて透過性ペプチドを合成し、ついで該透過性ペプチドを少なくとも1のエフェクターにカップリングさせ、該エフェクターに対イオンをカップリングさせることを含む、請求項44〜63のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項89】
該少なくとも1のエフェクターおよび該透過性ペプチドのカップリングを非共有結合により行う、請求項88または89に記載の方法。
【請求項90】
非共有結合を、透過性ペプチドへの疎水性残基の結合により行い、その際、少なくとも1のエフェクターが含まれる疎水性ベシクルの界面に透過性ペプチドが組み込まれることを該疎水性残基が可能とする、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
少なくとも1のエフェクターを生物学的障壁を通して移動させる方法であって、
(a)該少なくとも1のエフェクターを対イオンおよび透過性ペプチドにカップリングさせて請求項44に記載の疎水性組成物を生成させ、ついで
(b)該疎水性組成物を生物学的障壁に導入する
ことを含む方法。
【請求項92】
請求項1または6〜84のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、エフェクターおよび対イオンを適当な手段により凍結乾燥し、ついで凍結乾燥した物質を水に部分的に可溶な水性または有機の溶媒またはその混合物中で再構成し、それによって該組成物を生成することを含む方法。
【請求項93】
凍結乾燥工程が、該エフェクターおよび該対イオンを、タンパク質安定化剤、透過性ペプチド、または医薬賦形剤または担体の他の成分とともに任意に凍結乾燥することを代わりに含む、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
少なくとも1のエフェクターを生物学的障壁を通して移動させる方法であって、請求項1または6〜84のいずれかに記載の組成物を生物学的障壁に導入し、ついで該少なくとも1のエフェクターを該生物学的障壁を通して移動させることを含む方法。
【請求項95】
生物学的障壁を通した移動が、上皮細胞および内皮細胞よりなる群から選ばれた組織内で起こる、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
該生物学的障壁が、密着結合および細胞質膜よりなる群から選ばれる、請求項94に記載の方法。
【請求項97】
該生物学的障壁が、胃腸粘膜および血液脳関門よりなる群から選ばれる、請求項94に記載の方法。
【請求項98】
疾患または病的状態の治療または予防方法であって、そのような治療または予防が望まれる患者に該患者において該疾患または病的状態を治療または予防するのに充分な量で請求項1または6〜84のいずれかに記載の組成物を投与することによる方法。
【請求項99】
該疾患または状態が、内分泌疾患、糖尿病、不妊症、ホルモン欠損症、骨粗鬆症、眼科疾患、神経変性疾患、アルツハイマー病、痴呆症、パーキンソン病、多発性硬化症、ハンティングトン病、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、凝固能亢進の状態、凝固能減退の状態、冠状疾患、脳血管事象、代謝性疾患、肥満、ビタミン欠損症、腎疾患、腎不全、血液疾患、種々の実体の貧血、免疫およびリウマチ疾患、自己免疫疾患、免疫不全、感染性疾患、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染、寄生虫感染、新生物疾患、多因子疾患、不能症、慢性の痛み、抑鬱、種々の線維症状態、および短身長よりなる群から選ばれる、
を含むが挙げられる。請求項95に記載の方法。
【請求項100】
ワクチン接種を必要とする患者に請求項1または6〜84のいずれかに記載の組成物を投与することを含み、その際、少なくとも1のエフェクターがワクチン接種の望まれる抗原を含む、粘膜ワクチン接種法。
【請求項101】
ワクチン接種の望まれる抗原が、炭疽に対するワクチンとして使用するためのPAおよびB型肝炎に対するワクチンとして使用するためのHBsよりなる群から選ばれる、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
該組成物を、経口、鼻内、経皮、口内、舌下、肛門、直腸、気管支、肺、眼窩内、非経口、および局所よりなる群から選ばれた投与経路で投与する、請求項98〜101のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−523050(P2007−523050A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526736(P2006−526736)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/IB2004/004452
【国際公開番号】WO2005/094785
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506092318)カイアズマ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CHIASMA, LTD.
【Fターム(参考)】