説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】本発明は、光沢特性を均一化するクリアインクの打ち込み量を決定する画像処理を提供することを目的とする。
【解決手段】カラーマッチング902は、sRGB規格のR、G、B信号によって再現される色域を、インクジェットプリンタによって再現される色域内に写像するための3次元LUTを用いる。このLUTと補間演算を併用して8ビットのRGBデータをプリンタの色域内のRGBデータに変換するデータ変換を行う。色分解903は、上記色域マッピングがなされたRGBデータに基づき、このRGBデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データ(インクデータ)に、RGBデータを変換する処理を行う。この処理はカラーマッチングと同様に、3次元LUTに補間演算を併用して行う。クリアインク量決定処理904は、光沢特性テーブル912を参照し、画素毎に上掛けするクリアインク量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および画像処理方法に関し、特にクリアインクを用いて画像を記録するための画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、文字や画像などを記録紙やフィルムなどの記録媒体に記録する記録方式として、記録媒体に記録材(色材)であるインクを付着して、記録媒体上に画像を形成するインクジェット方式がある。インクジェット記録装置のインクとしては、染料を色材とする染料インクや、顔料を色材とする顔料インクが広く用いられている。顔料インクは樹脂や水や色材などを有し、染料インクに比べ色材や樹脂などの固形分が記録媒体の表面に堆積する。このとき色材の反射率と記録媒体の表面反射率とが異なるため、顔料インクを付着させた領域と顔料インクを付着させなかった領域とでは光沢が異なることとなる。さらに、色材が記録媒体を全て被覆している場合あっても、記録媒体表面のインクの堆積の仕方によって光の反射方向が異なり、結果として光量の総和が異なる。そのため、色材が記録媒体を全て被覆している場合でも光沢に違いが生じる。なお、ここで、鏡面光沢度、写像性を総称して「光沢」と呼ぶ。
【0003】
上述した理由により、顔料インクを用いて画像を記録すると、画像の濃度や色によって光沢が異なる、「光沢むら」と呼ぶ現象が発生する。光沢むらが発生すると、同一の画像内に光沢が観察されるグロス領域と光沢が観察されないマット領域とが混在し、特に写真画像の場合は好ましくない画像として認識される。
【0004】
光沢むらは、顔料インクを用いるインクジェット記録装置に限らず、トナーを記録媒体に定着して画像を記録する電子写真方式の記録装置でも発生する。例えば、トナーの付着量が多い領域は、定着によって画像表面の平滑性が高くなる。一方、画像が存在しない記録媒体の表面は、トナーの付着していないので画像が存在する領域に比べて光沢が低いため、画像が存在する領域と、存在しない領域とで光沢むらが発生する。さらに、光沢はトナーの付着量、定着温度、定着速度などに依存して変化することが知られており、画像が存在する領域内であっても、光沢むらが発生することがある。
【0005】
光沢むらを抑制するために、色再現に影響しない実質的に無色透明なインク(以下、クリアインク)を用いる方法が知られている。つまり、有色インクで被覆されていない領域に、クリアインクまたは白色インクを付着させて光沢むらを抑制する(例えば、特許文献1)。また、有色インク量とクリアインク量とを組み合わせた際の全データから、階調間の鏡面光沢度のむらを抑制するインク量の組み合わせや、写像性のむらを抑制するインク量の組み合わせを決定する方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-307755号公報
【特許文献2】特願2007-276482号公報
【特許文献3】特開2008-162094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術は、有色インクによって形成するドットと排他関係にある位置にクリアインクのドットを形成する。つまり、有色インクかクリアインクかに依らず、記録媒体の表面すべてをインクで被覆する。この方法は、有色インクによって記録媒体の表面すべてが被覆される中間濃度以上ではクリアインクを使用しない。そのため、前述したように色材が記録媒体を全て被覆している場合には、記録媒体表面のインクの堆積の仕方によって光の反射方向が異なり、結果として光量の総和が異なることから、光沢むらを抑制できない可能性がある。
【0008】
特許文献2の技術は、鏡面光沢度、写像性いずれか一方のむらを抑制する。クリアインクを用いた場合の鏡面光沢度の特性について図1に示す。縦軸に鏡面光沢度、横軸に有色インク量である。なお、例として、図中の折れ線はクリアインク量100%、88%、75%、63%と変化させた場合の各々の鏡面光沢度の特性を示す。また、各プロットは有色インクとクリアインクとの組み合わせによる鏡面光沢度を実験的に測定した値を示す。同様に写像性の特性についても、縦軸に写像性、横軸に有色インク量として図2に示す。なお、例として、図中の折れ線はクリアインク量100%、88%、75%、63%と変化させた場合の各々の写像性の特性を示す。また、各プロットは有色インクとクリアインクとの組み合わせによる写像性を実験的に測定した値を示す。
【0009】
次に特許文献3の方法により、鏡面光沢度むらが小さくなるように選択した場合の鏡面光沢度の測定値を図3に示す。図3において、鏡面光沢度むらが小さくなるように選択した測定値を実線でつないで示す。また、上述の鏡面光沢むらが小さくなるように選択された場合の写像性の測定値、すなわちほぼ実線上にある測定値を図4でも実線で結んで示す。図4からわかるように、むら抑制対象とならない写像性については均一性が得られない場合がある。このように、単なるクリアインク量制御では鏡面光沢度と写像性の均一性が両立できないことがわかる。
【0010】
以下に、クリアインク量と、鏡面光沢度および写像性との関係について図5を用いて説明する。図5は、ブラックインクで記録媒体を100%被覆したベタ地の上にクリアインクの打ち込み量を変えて記録した場合の光沢特性を実験的に計測し、鏡面光沢度−写像性平面上にプロットしたグラフである。グラフ上の数字はクリアインクの打ち込み量である。ここで、光沢特性は、クリアインク量が増えるにつれ、円弧上を時計回りに推移している。このように、クリアインクをカラーインクの上に記録した場合、クリアインク量に応じて鏡面光沢度、写像性ともに変化することがわかる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するため、本発明の画像処理装置は、画像データを、有色インクの色材量を示す有色色材データと、クリアインクの色材量を示すクリア色材データとに変換する画像処理装置であって、有色色材と、クリア色材とを組み合わせて記録媒体に記録したとき生じる光沢の光沢特性を、各前記組み合わせに対応する画像データと対応付けて保持する保持手段と、画像データから変換された、記録媒体上の注目画素の有色色材データと、クリア色材データとの組み合わせに対応する光沢特性を保持手段から読み出して、目標として設定された目標光沢特性との特性差を算出し、特性差が小さくなる組み合わせから注目画素に適用するクリアインクの色材データを決定する決定手段とを備え、光沢特性は、少なくとも鏡面光沢度と写像性とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有色インクとクリアインクとを用いて形成する画像の光沢特性の不均一による光沢むらを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有色インク上に塗布する無色インク量と鏡面光沢度の関係の一例を模式的に表した図である。
【図2】有色インク上に塗布する無色インク量と写像性の関係の一例を模式的に表した図である。
【図3】鏡面光沢度を一定にする無色インク量の一例を模式的に表した図である。
【図4】鏡面光沢度一定にした場合の写像性を模式的に表した図である
【図5】異なるクリアインク量の光沢特性を実験的に測定した値を、鏡面光沢度と写像性平面上にプロットした様子を示す図である。
【図6】記録媒体上に堆積した色材の例を模式的に表した図である。
【図7】記録媒体上に堆積した有色インクの例を模式的に表した図である。
【図8】記録媒体上に堆積した有色インク、クリアインクの一例を模式的に表した図である。
【図9】実施例1にかかるプリントシステムの構成を示すブロック図である。
【図10】再現する鏡面光沢度と写像性を設定するUIの一例を示す図である。
【図11】実施例1にかかる光沢特性テーブルを説明するための図である。
【図12】実施例1にかかる光沢特性テーブルの作成処理のフロー図である。
【図13】実施例1にかかるクリアインク量決定処理の機能構成を示すブロック図である。
【図14】実施例1にかかるクリアインク量決定処理のフロー図である。
【図15】カラーインクのマルチパス記録の例を説明するための図である。
【図16】クリアインクのマルチパス記録の例を説明するための図である。
【図17】実施例2にかかるクリアインク量決定処理の機能構成を示すブロック図である。
【図18】実施例2にかかるクリアインク量決定処理のフロー図である。
【図19】実施例3にかかる目標値とクリアインク量が異なる際の光沢特性を実験的に測定した値を鏡面光沢度と写像性平面上にプロットした様子を示す図である。
【図20】実施例3にかかる目標値とクリアインク量とが異なる場合の光沢特性を実験的に測定した値を鏡面光沢度と写像性平面上にプロットした様子を示す図である。
【図21】実施例3にかかる目標値とクリアインク量とが異なる場合の光沢特性を実験的に測定した値を鏡面光沢度と写像性平面上にプロットした様子を示す図である。
【図22】実施例3にかかるクリアインク量決定処理の機能構成を示すブロック図である。
【図23】実施例3にかかる画像分割を模式的に表した図である。
【図24】実施例3にかかるクリアインク組合せ決定処理のフロー図である。
【図25】実施例3にかかる光沢特性テーブルを説明するための図である。
【図26】実施例4にかかるクリアインク量と色付きとの関係を説明するためのグラフである。
【図27】実施例4にかかるクリアインク組合せ決定処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる実施例の画像処理について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明の実施例をインクジェット方式の画像形成装置を例に説明するが、本発明はトナーを使用する電子写真方式の画像形成装置にも適用することもできる。また、以下の説明においては、特に断らない限り、クリアインクの打ち込み量を変えることが出来る最小の構成単位を画素とよぶ。さらに、図中の同一な構成については、同じ符号を付して説明する。
【0015】
[実施例1]
実施例1では、クリアインクの量を決定する手法として、ハーフトーニングで用いられる誤差拡散法を応用した手法を用いる。通常の誤差拡散法は、画素値を誤差とするのに対し、実施例1では、光沢特性の差分を誤差として処理を行う。
【0016】
また、実施例1の画像形成装置はクリアインクを搭載し、クリアインクが有色インクであるカラーインクに対して上掛けとなる画像を形成する。ここで、「上掛け」とは、図6で示されているように、あるインクを記録媒体上での記録順が最後になるよう記録することを意味する。なお、上掛けの手法としては、最終的にクリアインクを上掛けできればどの手法を用いてもよい。例えば、マルチパス方式の最終パスにてクリアインクを吐出することにより、クリアインクが最表面に堆積される方法(例えば、特許文献3参照)や、クリアインクの吐出ノズルを後端部に配置し、片方向走査によって印字する方法を用いてもよい。ここでは、特許文献3の方法を用いることとして説明を行う。
【0017】
まず、実施例1の原理を説明する。簡単のために縦の画素数が1である1次元画像を用いて説明するが、通常の画像である2次元画像についても基本的な原理は同じである。図7は、クリアインクを使わずにカラーインク702のみで画像を形成した場合における、記録媒体701上に堆積した色材を模式的に表した図である。図8は、画素毎にクリアインクを上掛けした様子を模式的に表した図である。記録媒体701上に画素毎に異なるカラーインク702が堆積しており、一般に異なるカラーインクは光沢特性も異なることから、画素毎に異なる光沢特性になっている。
【0018】
図8は、記録媒体上の画素ごとにクリアインク量を決定して上掛けされた様子を表している。一番左の画素からクリアインクの色材データであるクリアインク量を決定する。まず、一番左の画素のクリアインク量は、その画素における光沢特性が、目標光沢特性である目標値に最も近接するように、事前に取得しておいた光沢情報に基づき、クリアインク801のクリアインク量を決定する。なお、光沢情報は、各画素値に対して上掛けするクリアインク量を変えた場合の光沢特性を表すが、詳細は後述する。ここで、光沢特性の目標値はユーザが装置のディスプレイ上に表示されるUIから設定してもいいし、プリンタの特性から自動的決定してもよいが、詳細は後述する。
【0019】
ここで、光沢特性が目標値にならない場合、一番左の画素で発生する光沢特性と目標とする光沢特性とには、特性差である差分が生じる。この差分を誤差拡散法における誤差として隣の画素に拡散する。例えば、クリアインクを所定の量だけ上掛けした場合にその画素で発生する光沢特性のうち鏡面光沢度が所望値よりも大きく、写像性が所望値よりも小さい値だった場合、誤差として隣の画素に拡散させる光沢特性は鏡面光沢度が低い値、写像性が高い値になる。
【0020】
次に、誤差として拡散された光沢特性に近づくよう、隣の画素のクリアインク量を決定する。上の例であれば、事前に取得しておいた光沢情報に基づき、その画素における光沢特性が目標値に近づくよう、クリアインク量を決定する。局所的な光沢特性の高低は全体としては相殺されるので、画素単位などの局所的には各々光沢特性の高低差があっても、観測される大局的な光沢特性は均一となる。言い換えれば、各々の光沢特性の高低が互いに相殺するよう、画素毎に上掛けするクリアインク量を決定すれば、大局的な光学特性を均一にすることができる。なお、光沢特性の高低を局所的と大局的とで表現したのは、光沢特性の高低は観測するスケールに依るからである。ここで、局所的な光沢特性の高低とは、人が解像できないサイズの面積(例えば、数10μmオーダーサイズ)における光沢特性の高低である。大局的な光沢特性の高低とは、人が解像できる面積における光沢特性の高低である。なお、大局的な光沢特性の高低は、人の目にはその領域に含まれる局所的な光沢特性の高低差を平均化したものとして知覚される。
【0021】
また、光沢特性の高低が相殺により完全になくならない場合でも、左から2番目の画素で発生する光沢特性と目標値との差分を誤差として隣の画素に拡散させる処理を順次行っていくことにより、大局的な光沢特性の高低むらは低減される。
【0022】
(プリントシステムの概要)
次に、実施例1における処理の詳細を説明する。図9は、実施例1に係るプリントシステムを構成するホスト装置(PC)の内部構成およびインクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)の内部構成を示すブロック図である。
【0023】
PCのオペレーティングシステムで動作するプログラムとして、ここではアプリケーションやプリンタドライバを示す。アプリケーション901は、プリンタで印刷する画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは、種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。例えば、デジタルカメラで撮像したJPEG形式の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、スキャナで読み取ったTIFF形式の画像データやCD−ROMに格納されている画像データも取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウエブ上の画像データを取り込むこともできる。これらの取り込まれた画像データは、PCのモニタに表示されてアプリケーション901を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格のR、G、B信号で表されるRGB画像データが作成される。このRGB画像データは、印刷の指示に応じてプリンタドライバに渡される。また、アプリケーション901は、前述した光沢特性の目標値を設定するための後述のUIを表示する。
【0024】
プリンタドライバは、カラーマッチング902、色分解903、クリアインク量決定904、γ補正905、ハーフトーニング906、および印刷データ作成907の各処理を行う。カラーマッチング902は、色域(Gamut)のマッピングを行う。すなわち、カラーマッチング902は、sRGB規格のR、G、B信号によって再現される色域を、インクジェットプリンタによって再現される色域内に写像するための3次元LUTを用いる。このLUTと補間演算を併用して8ビットのRGBデータをプリンタの色域内のRGBデータに変換するデータ変換を行う。
【0025】
色分解903は、上記色域マッピングがなされたRGBデータに基づき、このRGBデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データ(インクデータ)に、RGBデータを変換する処理を行う。この処理はカラーマッチングと同様に、3次元LUTに補間演算を併用して行う。クリアインク量決定処理904は、光沢特性テーブル912を参照し、画素毎に上掛けするクリアインク量を決定する。なお、詳細については後述する。
【0026】
γ補正905は、色分解903およびクリアインク量決定処理904によって求められた色分解データの各色のデータにその階調値変換を行う。なお、クリアインクは透明であるため、クリアインクの色材量に対してはγ補正を行わない。ハーフトーニング906は、8ビットの色分解データの信号について量子化を行う。最後に、印刷データ作成907によって、上記印刷イメージデータに印刷制御情報を加えた印刷データを作成する。
【0027】
なお、上述したアプリケーションおよびプリンタドライバの処理は、それらのプログラムに従ってCPUにより行われる。その際、プログラムはROMもしくはハードディスクから読み出されて用いられ、また、その処理実行に際してRAMがワークエリアとして用いられる。
【0028】
インクジェットプリンタは、ドット配置パターン化部908、マスクデータ変換部909、ヘッド駆動回路910、記録へッド911を備える。ドット配置パターン化部908は、実際の印刷画像に対応する画素ごとに、印刷イメージデータに対応したドット配置パターンに従ってドット配置を行う。
【0029】
マスクデータ変換部909は、ドット配置パターン化により得られた1ビットの吐出データをマスク処理する。すなわち、記録ヘッド911による所定幅の走査領域の記録を、複数回の走査で完成するための各走査の吐出データを生成する。本実施例では、クリアインクが複数回の走査のうち最終の走査で吐出されるようにマスク処理される。すなわち、マスクデータ変換部509は、クリアインクが他のインクに対して紙面上で最表面となる吐出データを生成する。なお、マスク処理の詳細については後述する。走査ごとの吐出データは、適切なタイミングでヘッド駆動回路910に送られ、これにより、記録へッド911が駆動され、吐出データに従ってそれぞれのインクが吐出される。
【0030】
なお、インクジェットプリンタにおける上述のドット配置パターン化部508やマスクデータ変換部509は、それらに専用のハードウエア回路を用い、不図示の制御部を構成するCPUの制御の下に実行される。なお、これらの処理がプログラムに従ってCPUにより行われてもよく、また、PCにおける、例えばプリンタドライバによって実行されるものでもよい。また、上記ハーフトーニング506および印刷データの作成507の説明においては、PCにインストールされたプリンタドライバによって処理されることを前提に説明してきたが、これに限定されるものではない。ハーフトーニングをプリンタ内部で行う構成であってもよい。
【0031】
続いて、本実施例に係る各処理について、より詳しく説明する。本実施例では、光沢特性テーブルを参照し、誤差拡散法を応用した方法を用いることによってクリアインク量決定処理を行う。ここで、光沢特性テーブルとは、入力RGBとクリアインク量と組み合わせに対応した光沢特性を示すテーブルである。まず、前述のUIと光沢特性テーブルについて説明した後、クリアインク量決定処理について説明する。
【0032】
(UI)
図10に光沢設定のUIの一例を示す。ウィンドウ1001は、UIを表示する。スライドバー1002は鏡面光沢度の高低を設定するためのものである。スライドバー1003は写像性の高低を設定するためのものである。設定ボタン1004は設定を保存し、終了するためのボタンである。キャンセルボタン1005は設定を中断するためのボタンである。なお、UIにてユーザが光沢特性の目標値を設定する方法以外でも、次のような方法により目標値を自動で設定してもよい。例えば、図3に示したようなプリンタが再現可能な光沢特性の範囲内で、均一性を実現できる値や、画像特徴量(画素平均値など)に対応した光沢特性を目標値として自動設定してもよい。
【0033】
(光沢特性テーブル)
光沢特性テーブル912には、各RGB値に対してクリアインク量を変えた時の光沢特性が鏡面光沢度値と写像性値として取得できるよう、必要なデータが格納される。格納された具体的なデータ内容を図11に示す。図11の1〜3列目は各RGB値、4列目はクリアインクのインク値、5、6列目は鏡面光沢度および写像性の値である。
鏡面光沢度値および写像性の値で表される光沢特性データは、例えば記録媒体上にRGB値とクリアインクのインク値との組み合わせにより再現されるパッチ画像を印字し、測定器により測色することにより得られる。
【0034】
なお、図11では、クリアインクのインク値が16レベルおきの17つの階調値に対する正反射光色付きデータを格納するテーブルの例を説明したが、クリアインクのインク値のビット数はこれに限られない。RGB値が各色256レベルの階調値である場合、256×256×256×8=134217728の組み合わせに対してそれぞれ正反射光色付きのデータが必要である。これら全ての組み合わせは膨大であり、測定時間とデータ量が大きくなる。そこで、本実施例では、8つの光沢特性データを用いた四面体補間により、その他の光沢特性データについて補間演算する。補間方法としては、立方体補間などを用いてもよい。なお、各RGB値に対して、等間隔な階調値に対応する光沢特性データを用いる必要はなく可変間隔で測定してもよい。また、光沢特性テーブルは、上述した構成に限られず、入力色信号の信号値とクリアインクのインク値との組み合わせに対して光沢特性が対応付けられていればよい。その場合、CMYK等様々な形式に対応することができる。
【0035】
図12は光沢特性テーブル作成処理のフロー図である。ステップS1201において、図11の1〜3列目に対応するRGB値を順に設定する。ステップS1202において、ステップS1201において設定されたRGB値によって示される画像を形成するのに必要な、有色色材データであるカラーインクのインク値を取得する。すなわち、設定されたRGB値から、図9の色分解903によって得られるCMYKデータを取得する。ステップS1203において、図9の4列目に対応する、クリア色材データであるクリアインクのインク値を小さい値から順次大きい値に設定する。
【0036】
ステップS1204において、カラーインクのインク値(図11に示す、入力信号値)で示されるカラーインク量とクリアインクのインク値で示されるクリアインク量との総量が記録媒体に対する上限値を超えているかどうかの判断をする。ここで、上限値が設定されているのは、記録媒体の受容層が保持できるインクの量には限界があるためである。もし、インクの総量が上限値を超えているようであれば、次のRGB値を設定する。超えていないようであれば、ステップS1205において、上述したステップにより取得した各インク値を用いてパッチ画像データを生成し、生成したパッチ画像データをインクジェットプリンタにて印字する。ステップS1206において、印字されたパッチ画像について光沢特性を測定して得られる測定値を入力する。
【0037】
ステップS1207において、クリアインクの図11の4列目に対応する全インク値が設定されたか否かを判定し、まだ設定されていない場合は、ステップS1203以降を、クリアインク量を変えて(順次増やして)繰り返す。全インク値が設定された場合は、ステップS1208に進む。以上のステップにより、あるRGB値に対して、クリアインクのインク値を異ならせた場合の光沢特性データが得られる。
【0038】
ステップS1208において、ステップS1201において設定されたRGB値の全組み合わせが設定されたか否かを判定し、まだ設定されていない場合は、ステップS1201以降を、次のRGB値を設定して繰り返す。測定すべきRGB値の全組み合わせが設定された場合は、得られた光沢特性データを各RGB値に対応させて光沢特性テーブルに格納し、処理が終了となる。以上のステップにより、全てのRGB値の組み合わせに対して、クリアインクのインク値を異ならせた場合の光沢特性テーブルが得られる。
【0039】
(クリアインク量決定処理)
以下、クリアインク量決定処理について説明する。ここでは、画像上における局所的な光沢特性を制御し、局所的な光沢特性の高低を、大局的な光沢特性の高低を認識できない範囲内に均一化する。図13は、クリアインク量決定処理904の機能構成を説明するためのブロック図である。入力部1301は、複数の画素が配列して構成されている画像データから、処理を行うべき注目画素の画素データを1画素ずつ選択して入力画素データを入力する。光沢特性テーブル912は上述した光沢特性を保持する。目標値入力部1302は、前述のUIでの設定や、再現可能な光沢情報から自動で設定された目標値を入力する。
【0040】
光沢特性取得部1303は、注目画素において表現できる光沢特性を取得する。累計誤差メモリ1304は、累計誤差を格納する。加算部1305は、累計誤差メモリ1304に格納された累積誤差とターゲットデータとを加算する。決定部1306は、光沢特性取得部1303において取得した候補光沢特性の中から注目画素で表現する光沢特性とその為に必要なクリアインク量を特定する。誤差拡散部1307は、光沢特性の誤差を注目画素の周辺画素に拡散する。出力部1308は、決定されたクリアインク量を出力データとして1画素分ずつ、または全画素分をまとめてγ補正処理905に出力する。
【0041】
図14は,クリアインク量決定処理904の動作を説明するためのフローチャートである。クリアインク量決定処理は、まず画像の左上端の画素を注目画素として開始し、続いて右方向に1画素ずつ注目画素を切り替えながら処理を進めていく。最上端列の右端まで処理が終了すると、次に1段下の画素列の左端画素を注目画素とする。このような順番で、処理を進めて行き、画像上の右下端の画素で処理を終了とする。処理が開始されると、入力部1301は、注目画素の画素データを入力する(S1401)。
【0042】
目標値取得部1304は、入力された画素データに対し、光沢特性テーブル912を参照し、8つのクリアインク量の光沢特性(Ki,Si)(i=1〜8)を取得し、決定部1307に出力する(S1402)。なお、Kは鏡面光沢度、Sは写像性、iは番号を表す。上述の9つの光沢特性、同一のRGB値に対して上掛けするクリアインク量が異なる。それから、一つの目標値(Kt,St)が入力される(S1403)。
【0043】
次に、目標値に対し、累計誤差メモリ1304に格納された、注目画素の画素位置に対応する一つの累計誤差(Ks,Ss)が、加算部1305により次式を用いて加算される(S1404)。
Kt←Kt+Ks,St←St+Ss 式1
【0044】
なお、式中の矢印の記号は代入を表す。ここで、注目画素の画素データの横方向の画素位置をxとすると、累計誤差メモリ1304は、1つの記憶領域(Mk0,Ms0)とW個の記憶領域(Mk(x),Ms(x))(x=1〜Wの整数)とを備える。各々の記憶領域には、注目画素に適用される誤差(Ks,Ss)が格納されている。なお、累計誤差の値は後述する方法によって得られるが、処理開始当初は全ての記憶領域において、初期値(Mk(x)=0、Ms(x)=0)にて初期化されている。
【0045】
続いて、決定部1306において、8つの候補光沢のKi,Si値と、累計誤差が加算された後の目標正反射色付きであるターゲットデータとの光沢の差分とを計算する。ここで、差分は次式で計算される。
【0046】
【数1】

【0047】
この式より、差分が最も小さくなるクリアインク量(Ki,Si)を特定し、対応するクリアインク量を出力部1308に出力する。この差分が最も小さくなるクリアインク量に対する誤差Mk=Kt−KiとMs=St−Siとを誤差拡散部1307に出力する。例えば、注目画素で発生する光沢特性が高い場合、この誤差(拡散させる差分)は低となる。なお、クリアインク量は、差分が最も小さくなるものでなくともよく、差分がある程度小さくなるものでもよい(S1405)。
【0048】
更に、誤差拡散部1307において、注目画素の画像における横方向の位置に応じて、以下のような誤差の拡散処理を行う。すなわち、以下の式3ないし式6に従って、記録領域M0およびM(x)に格納すべき誤差を算出し、累計誤差メモリ1304に格納する。
(Mk(x+1),Ms(x+1))←(Mk(x+1)+Mk×7/16,Ms(x+1)+Ms×7/16) 式3
(Mk(x−1),Ms(x−1))←(Mk(x−1)+Mk×3/16,Ms(x−1)+Ms×3/16) 式4
(Mk(x),Ms(x))←(Mk0+Mk×5/16,Ms0+Ms×5/16) 式5
(Mk0(x),Ms0(x))←(Mk×1/16,Ms×1/16)
式6
【0049】
以上により、1画素分の誤差拡散処理が完了する(S1406)。最後に、画像の全画素に対して、ステップS1401ないしS1406の工程が行われたか否かを判定する。全画素に対して各工程の処理が行われていない場合はステップS1401に戻り、行われた場合はクリアインク量決定処理を終了する(S1407)。
【0050】
(マスクデータ変換部)
マスクデータ変換部909では、ドット配置パターン化部908で生成された1ビットの吐出データを各走査の吐出データに変換する。そもそも、ドット配置パターン化部908での処理により、記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定されているので、生成された2値の吐出データをそのまま記録ヘッドの駆動回路に入力すれば、所望の画像を記録媒体に記録することが可能である。一方で、インクジェット記録装置においては、個々のノズルにおけるインク滴吐出特性のばらつきや、記録媒体の搬送精度のばらつき等によって生じ得る画質の劣化を低減させるため、マルチパス方式の記録方法が採用されている。そこで、本実施例におけるマルチパス方式による記録方法を説明する。
【0051】
図15は、カラーインクのマルチパス方式の記録方法を説明するための図であり、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示している。記録ヘッド1501は第1ないし第5の5つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つのノズルが含まれている。マスクパターン1502は、各ノズルが記録を行うエリアを黒塗りで示している。カラーインクにおいては、第5ノズル群に対応したマスクパターンは全て白塗りであり、記録を行わない。各ノズル群が記録するパターンは互いに補完する関係にあり、第1ないし第4のノズル群のパターン全てを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成する構成となっている。
【0052】
各パターン1503ないし1506は、走査を重ねていくことによって画像が完成されていく過程を示している。各ノズル群による走査が終了するたびに、記録媒体は図中の矢印1507の方向にノズル群の幅分ずつ搬送される。よって、記録媒体の所定の記録領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の走査によって初めてカラーインクによる画像が完成する。なお、本実施例では、所定の記録領域の画像を完成させるのに必要な走査の回数をパス数と称する。このように、所定の記録領域が複数のノズル群による複数回の走査で形成されることは、個々のノズルのばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等によって生じ得る画質の劣化を低減させる効果がある。
【0053】
図16は、クリアインクのマルチパス方式の記録方法を説明するための図であり、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示している。クリアインクは、マスクパターン1601により、カラーインクで用いない第5ノズル群の走査により記録される。なお、ここでは最後の1回の走査によりクリアインクが記録される例について説明したが、クリアインクに対するマスクパターンはこれに限られない。すなわち、クリアインクが記録媒体上で最表面に記録されるマスクパターンであればよく、例えばさらに第6ノズル群を備え、クリアインクが複数回の走査によって記録されるマスクパターンを使用することもできる。
【0054】
マスクデータ変換部909では、ドット配置パターン化部908で生成された1ビットの吐出データと、図15のマスクパターン1502および図16のマスクパターン1601とのアンド(論理積)を取ることによって、インク毎のマスクデータが生成される。このようにマスクデータを生成すれば、記録媒体上でクリアインクが最上層となる記録が行われるので、クリアインクを上掛けすることが可能となる。
【0055】
以上で説明したように、本実施形態によれば、画像の大局的な光沢特性の高低を低減するよう、画素毎に上掛けするクリアインク量を決定することにより、光沢特性の高低を大局的に均一化し、光沢むらを低減させることが可能である。
【0056】
[実施例2]
実施例1では、大局的な光沢特性の高低を均一化して光沢むらを低減させる手法について説明した。しかしながら、実施例1の手法では、画像を近くから観察すると光沢むらと判断されてしまう場合がある。これは、画像全体における光沢特性の高低が大局的に均一になるようクリアインク量を決定することに起因する。すなわち、ある画素で発生した誤差(光沢特性の高低)が順次蓄積され、蓄積された誤差がその画素が存在する領域から離れた領域において発散されるからである。そこで、実施例2では、誤差の蓄積に上限を設けることで、ある画素で生じた誤差が離れた領域で発散されない手法について説明する。なお、実施例1と異なる点を中心に簡潔に説明する。
【0057】
図17は、実施例2におけるクリアインク量決定処理904の機能構成を説明するためのブロック図である。実施例2では、図12の累計誤差メモリ1304と加算部1305との間に、累計誤差補正部1701を有している。累計誤差補正部1701は、誤差の上限について予め設定された所定の制限値に基づき、累計誤差メモリで算出された誤差を補正する。制限値は、例えば、Kmax=100,Smax=100と設定しておく。ただし、制限値は100に限られず、誤差の蓄積の度合いを考慮して定めればよい。
【0058】
図18は、実施例2のクリアインク量決定処理のフロー図である。累計誤差補正(S1801)以外の処理は、実施例1における図14のフロー図と同様であるため説明を省略する。ステップS1801では、ステップS1406の拡散処理から入力する誤差であるKs値が、Ks≦Kmaxである場合はKs値に対して補正せず、Ks>Kmaxである場合はKs値を0の値に補正する。Ss値に対しても同様の処理を行う。ステップS1407では、ステップS1401ないしS1406およびS1801が画像の全画素に対して行われたか否かを判定する。全画素に対して処理が行われていない場合はステップS1401に戻り、行われた場合はクリアインク量決定処理が終了する。
【0059】
以上の処理を行うことにより、累計誤差メモリ905に保持しているデータは、上限を超える場合は0に初期化されるようになる。その結果、ある画素で生じた誤差が、離れた領域で発散してしまうことを抑制できる。
【0060】
なお、上記では、累計誤差メモリ905に保持しているデータが上限を超える場合について説明したが、他の手法により離れた領域で誤差が発散してしまうことを抑制してもよい。例えば、累計誤差メモリ905に誤差が累計される回数に対して上限を定めておき、累計される回数をカウントし、カウントされた回数が上限を超えた場合にKs値、Ss値を0に補正することで、拡散する位置の範囲を限定してもよい。
【0061】
[実施例3]
上述した実施例1では、画像全体の光沢特性の高低を均一化して光沢むらが低減するように画素毎のクリアインク量を決定した。実施例3では、近接する画素の画素値は類似であると仮定し、分割された領域ごとに光沢特性の高低を均一化させることにより、画像全体において光沢特性の高低を均一化して光沢むらを低減させる。すなわち、画像を分割し、分割された領域内にて複数のクリアインク量の組み合わせにて光沢特性の高低むらを相殺する。
【0062】
実施例3の概要について説明する。例えば、2種類のクリアインク量の組みにて分割領域の光沢特性を目標値に近づける場合を考える。図19に、目標値とブラックインクによるベタ地の上にクリアインク量を上掛けした場合の光沢特性を実験的に測定した測定値のグラフを示す。1901は鏡面光沢度、写像性空間における光沢特性の目標値であり、光沢特性1902はクリアインク量64、光沢特性1903はクリアインク量192の場合の光沢特性を示す。ここで、光沢特性1902と1903とは、目標値に対して光沢特性の高低が完全な相殺関係にある。この時、縦横2画素の領域を考えると、領域内に両クリアインク量が50%ずつ存在すれば、上述の領域の平均の光沢特性は目標値に一致する。
【0063】
このように、複数のクリアインク量の組み合わせで、領域内の平均光沢特性を目標値に一致させることが可能である。引いては上述の実施例でも述べたように、画像全体においての光沢特性の高低を均一化して光沢むらを低減可能である。同様に、図20に示すように3種類のクリアインクの組を用いる場合は,各クリアインク量の比が25%、25%,50%となる組み合わせを用いればよい。なお、光沢特性2001は鏡面光沢度、写像性空間における光沢特性の目標値であり、光沢特性2002はクリアインク量32、光沢特性2003はクリアインク量160、光沢特性2004はクリアインク量192それぞれの場合の光沢特性を示す。
【0064】
また、図21に示すように4種類のクリアインク量の組を用いる場合には、各クリアインク量の比が25%、25%,25%、25%にて目標値と一致する組み合わせを用いればよい。なお、光沢特性2101は鏡面光沢度、写像性空間における光沢特性の目標値であり、光沢特性2102はクリアインク量0の場合の光沢特性を示す。また、光沢特性2103はクリアインク量96の場合の光沢特性を示す。同様に、光沢特性2104はクリアインク量192の場合の光沢特性を示す。さらに、光沢特性2105はクリアインク量224それぞれの場合の光沢特性を示す。ここでは複数種類のクリアインク量を用いる場合を想定して説明したが、目標値と光沢特性が一致するクリアインク量がある場合は、4画素全て同一クリアインク量を用いてもよいし、前述の方法を用いてもよい。
【0065】
実施例の基本的な処理の考え方は以上の通りなので、詳細について説明する。なお、上述した実施例1と異なる点を中心に簡潔に説明する。図22は、実施例3におけるクリアインク量決定処理の機能構成を説明するためのブロック図である。画像分割部2201は、カラーマッチング902から入力される8ビットのRGB画像データによって表される画像を、図23のように、縦に隣接する2画素と横に隣接する2画素からなる4画素ごとに正方形の領域に分割する。画像2301は分割前の画像であり、画素2302は画素を表す。また、画像2303は分割後の画像であり、ブロック2304は分割された、注目領域である4画素の領域を表す。なお、画素の区切りは点線で表わし、分割の区切りは実線で表す。分割された画像データをクリアインク量決定処理904に出力する。クリアインク量決定処理904は、画像分割部2201において分割された注目領域の画素毎にクリアインク量を決定する。
【0066】
次に本実施例におけるクリアインク量決定処理904の動作について、図24のフローチャートを用いて説明する。本実施例におけるクリアインク量決定処理904は、分割された領域にある画素のRGB値の平均値と、クリアインク量との関係から、分割された領域の光沢特性が目標値に最も近くなる複数のクリアインク量による組の割り当てを決定する。
【0067】
ステップS2401では、光沢特性テーブル、目標値の読込等の初期化を行う。ステップS2402では、分割された領域に含まれる画素データを読み込む。ステップS2403では、読み込んだ画素データの分割された領域内での平均画素値を算出する。ステップS2404では、平均画素値に対するi番目のクリアインク量の鏡面光沢度Kiと写像性Siとを光沢特性テーブルのデータから参照し、式7から目標値との差分を算出する。
【0068】
【数2】

【0069】
ここでDiは平均画素値に対するi番目のクリアインク量の目標値との差分を表す。
また、上述したように、クリアインク量と光沢特性の関係は、図25に模式的に示すようにLUTになっている。なお、LUT中の画素は分割された領域に含まれる4つ画素の左上の画素が画素1、右上の画素が画素2、右下の画素が画素3、左下の画素が画素4に対応している。
【0070】
ステップS2405では、Diと、差分の最小値Dminとを比較し、Diの方がDminより小さければ、インク量の番号を示すiに1を加えてステップS2406へ、そうでなければステップS2407へジャンプする。ステップS2406では、DminにDiの値を代入し、iをNumに代入する。なお、Numは最小値となるクリアインクの組を表す。
【0071】
ステップS2407では、全てのクリアインク量の組み合わせについてステップS2404ないしS2405の処理を行ったか否かを判定し、行っていればステップS2408へ、そうでなければ、ステップS2404にジャンプする。ステップS2408では全ての分割された領域に対してステップS2404ないしステップS2407の処理を行ったか否かを判定し、行っていれば終了に関する動作を行い、そうでなければステップS2402へジャンプする。
【0072】
なお、画像の分割方法は、縦に隣接する2画素と横に隣接する2画素からなる正方形の4画素に分割する上述の方法に限られず、任意の分割方法を用いてよい。例えば、目視により光沢特性の高低が目立たない範囲であれば、縦に隣接する3画素と横に隣接する3画素からなる正方形の9画素毎で分割してもよいし、縦に隣接する2画素と横に隣接する3画素からなる長方形の領域で分割してもよい。更には、分割された領域同士が同じ大きさでなくてもよく、この場合のクリアインクの組み合わせは、注目領域内の画素数以下の組み合わせを用いることができるのは言うまでもない。
【0073】
以上により、分割された領域ごとにクリアインク量が決定され、大局的な光沢特性の高低を均一化して光沢むらが低減される。
【0074】
[実施例4]
上述した実施例では、画像全体の光沢特性に着目して、光沢むらを低減する方法を述べてきた。本実施零では、別の特性である正反射色付きにも着目し、鏡面光沢度、写像性、正反射色付き全てについて光沢むらを抑制する方法を説明する。ここで、正反射色付きとは、スポットライトなどの光源下に記録装置で形成された画像を置くと、スポットライト自身は無彩色の光を放っているにも関わらず、その光が記録媒体上で反射した正反射光には色が付く現象を指す。実施例4では、この正反射光色付きを含む光沢むらをクリアインクの量の制御により抑制する。なお、クリアインク量を決定する手法として、実施例1同様ハーフトーニングで用いられる誤差拡散法を応用した手法を用いるがこれに限られない。なお、実施例1と異なる点を中心に簡潔に説明する。
【0075】
(光沢特性テーブル)
光沢特性テーブル912には、各RGB値に対してクリアインク量を変えたとき鏡面光沢と写像性、さらには正反射色付きの各値を取得できるよう、必要なデータが格納される。格納された具体的なデータ内容を図26に示す。図26の1ないし3列目は各RGB値、4列目はクリアインクのインク値、5および6列目は鏡面光沢度と写像性の値、7および8列目は正反射光の色付きをL*a*b*表色系で表現したときのa*とb*の値である。
【0076】
(クリアインク量決定処理)
つぎに、クリアインク量決定処理について説明する。図27は,クリアインク量決定処理904の動作を説明するためのフローチャートである。処理が開始されると、入力部1301は、注目画素の画素データを入力する(S2701)。光沢特性取得部1303は、入力された画素データに対し、光沢特性テーブル912を参照し、8つのクリアインク量の光沢特性(Ki,Si)並びに正反射色付き特性(ai、bi)(i=1〜8)を取得し、決定部1307に出力する(S2702)。なお、a、bはL*a*b*表色系で表現したときのa*およびb*の値、iは番号を表す。上述の9つの光沢特性、正反射色付きは、同一のRGB値に対して上掛けするクリアインク量に応じて異なる。正反射色付きの目標値も含む、1つの目標値(Kt,St、at、bt)が入力される(S2703)。
【0077】
次に、入力された目標値に対し、累計誤差メモリ1304に格納された、注目画素の画素位置に対応する1つの累計誤差(Ks,Ss,as,bs)が、加算部1305により次式を用いて加算される(S2704)。
Kt←Kt+Ks,St←St+Ss,at←at+as,bt←bt+bs 式8
【0078】
なお、式中の矢印の記号は代入を表す。ここで、注目画素の画素データの横方向の画素位置をxとすると、累計誤差メモリ1304は、1つの記憶領域(Mk0,Ms0,Ma0, Mb0)とW個の記憶領域(Mk(x),Ms(x),Ma(x),Mb(x))(x=1〜Wの整数)とを備える。各々の記憶領域には、注目画素に適用される誤差(Ks,Ss,as,bs)が格納されている。なお、累計誤差の値は後述する方法によって得られるが、処理開始当初は全ての記憶領域において、初期値(Mk(x)=0、Ms(x)=0、Ma(x)=0、Mb(x)=0)にて初期化されている。
【0079】
続いて、決定部1306において、8つの候補光沢のKi,Si, ai、bi値と、累計誤差が加算された後のターゲットデータとの光沢の差分を計算する。ここで、差分は次式で計算される。
【0080】
【数3】

【0081】
この式より、差分が最も小さくなる光沢特性(Ki,Si,ai,bi)を特定し、対応するクリアインク量を出力部1308に出力する。このクリアインク量に対する誤差Mk=Kt−KiとMs=St−Siとas=at−aiとbs=bt−biとを誤差拡散部1307に出力する。例えば、注目画素で発生する光沢特性が高い場合、この誤差(拡散させる差分)は低となる。なお、クリアインク量は、差分が最も小さくなるものでなくともよく、差分が小さくなるものでもよい。なお、α、β、γ、θは定数であり、α=β=γ=θ=1として扱うが、各光沢特性の差分への寄与率を自由に設置することができる(S2705)。
【0082】
更に、誤差拡散部1207において、注目画素の画像における横方向の位置に応じて、以下のような誤差の拡散処理を行う。すなわち、以下の式10〜式13に従って、記録領域M0およびM(x)に格納すべき誤差を算出し、累計誤差メモリ1304に格納する。
(Mk(x+1),Ms(x+1),Ma(x+1),Mb(x+1))←(Mk(x+1)+Mk×7/16,Ms(x+1)+Ms×7/16,Ma(x+1)+Ma×7/16,Mb(x+1)+Mb×7/16) (x<W) 式10
(Mk(x+1),Ms(x+1),Ma(x+1),Mb(x+1))←(Mk(x+1)+Mk×3/16,Ms(x+1)+Ms×3/16,Ma(x+1)+Ma×3/16,Mb(x+1)+Mb×3/16) (x>1) 式11
(Mk(x+1),Ms(x+1),Ma(x+1),Mb(x+1))←(Mk(x+1)+Mk×5/16,Ms(x+1)+Ms×5/16,Ma(x+1)+Ma×5/16,Mb(x+1)+Mb×5/16) (1<x<W) 式12
(Mk0(x),Ms0(x),Ma0(x),Mb0(x))←(Mk×1/16,Ms×1/16,Ma×1/16,Mb×1/16) (x<W) 式13
【0083】
以上により、1画素分の誤差拡散処理が完了する(S2706)。最後に、画像の全画素に対して、ステップS2701〜S2706の工程が行われたか否かを判定する。全画素に対して各工程の処理が行われていない場合はステップS2701に戻り、行われた場合はクリアインク量決定処理を終了する(S2707)。
【0084】
[その他の実施形態]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。すなわち、上述した実施例の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。また、本発明は、複数のプロセッサが連携して処理を行うことによっても実現できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを、有色インクの色材量を示す有色色材データと、クリアインクの色材量を示すクリア色材データとに変換する画像処理装置であって、
有色色材と、クリア色材とを組み合わせて記録媒体に記録したとき生じる光沢の光沢特性を、各前記組み合わせに対応する前記画像データと対応付けて保持する保持手段と、
前記画像データから変換された、前記記録媒体上の注目画素の有色色材データと、クリア色材データとの組み合わせに対応する光沢特性を前記保持手段から読み出して、目標として設定された目標光沢特性との特性差を算出し、該特性差が小さくなる組み合わせから該注目画素に適用するクリアインクの色材データを決定する決定手段と
を備え、
前記光沢特性は、少なくとも鏡面光沢度と写像性とを含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記注目画素で生じる光沢特性を周辺画素に拡散させることにより、前記特性差が小さくなる組み合わせを求めて、前記注目画素に適用するクリアインクの色材データを決定する拡散手段を有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記拡散手段は、前記拡散される光沢特性が所定の値より大きい場合は、前記注目画素で生じる光沢特性の誤差を補正する補正手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記テーブルは、前記有色色材と、前記クリア色材とを組み合わせて記録媒体に記録したとき生じる正反射色付きを、各前記組み合わせに対応する前記画像データと対応付けてさらに保持し、
前記決定手段は、前記画像データから変換された、前記記録媒体上の注目画素の有色色材データと、クリア色材データとの組み合わせに対応する正反射色付きを前記保持手段からさらに読み出して、目標として設定された目標正反射色付きとの色付き差をさらに算出し、前記特性差に加え該色付き差が小さい組み合わせから注目画素に適用するクリアインクの色材データを決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像データを複数の画素からなる領域に分割する画像分割手段をさらに備え、
前記決定手段は、前記複数の画素からなる注目領域内の各画素データから変換された、前記記録媒体上の当該画素の有色色材データと、クリア色材データとの組み合わせに対応する光沢特性を前記保持手段から読み出して、当該読み出された光沢特性の平均が、目標として設定された光沢特性に最も近くなる前記注目領域内の複数の画素を特定し、前記注目領域に適用するクリアインクの色材データを決定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記光沢特性の平均が最も目標に近くなる複数の画素の数は、前記注目領域の画素数より少ないことを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1乃至6のいずれか1項に記載された画像処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
画像データを、有色インクの色材量を示す有色色材データと、クリアインクの色材量を示すクリア色材データとに変換する画像処理方法であって、
有色色材と、クリア色材とを組み合わせて記録媒体に記録したとき生じる光沢の光沢特性を、各前記組み合わせに対応する前記画像データと対応付けて保持する保持工程と、
前記画像データから変換された、前記記録媒体上の注目画素の有色色材データと、クリア色材データとの組み合わせに対応する光沢特性を前記保持手段から読み出して、目標として設定された目標光沢特性との特性差を算出し、該特性差が小さくなる組み合わせから該注目画素に適用するクリアインクの色材データを決定する決定工程と
を備え、
前記光沢特性は、少なくとも鏡面光沢度と写像性とを含むことを特徴とする画像処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2012−223914(P2012−223914A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91181(P2011−91181)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】