説明

画像撮影装置、画像撮影方法

【課題】検出器の欠陥素子の影響が周辺の素子にも及ぶ場合にも、高精度に画像補正を行うことが可能な画像撮影装置を提供する。
【解決手段】検出器の読出回路の不具合等によって、電荷が隣接素子(或いは周辺素子)に流出してしまう流出型欠陥素子について、流出の割合を表した信号流出関数f(x)を影響量パラメータ205として記憶部202に保持しておく。中央処理装置20は補正処理として、一般的に行われるオフセット補正やエア補正等の他に、欠陥素子補正処理を行って、正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて流出型欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された流出型欠陥素子の出力信号と上述の影響量パラメータ205とに基づいて流出型欠陥素子の周辺の欠陥周辺素子の出力信号を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像撮影装置等における画像補正に関し、詳細には、欠陥素子を有する検出器からの出力信号の補正に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、複数の方向から撮影した被写体のX線透過像(以下、投影データと記す)からX線吸収係数を算出し、被写体の断層像(以下、再構成像と記す)を得る装置であり、医療や非破壊検査の分野で広く用いられている。特に近年は、医療の現場においてX線検出器の回転軸方向への多段化が進み、これにより1回転で広い範囲の撮影が可能となり、撮影時間を短縮できるようになってきている。一方で、X線検出器に配列される検出素子数が増加するため素子の故障が生じることも多くなってきている。そこで、従来は検出素子やそれを含む検出器を新しいものに交換したり、画像補正を行って欠陥素子の影響を取り除いていた。しかし、新しいものに交換する場合には、新規の検出器を用意するために費用を要するだけでなく、交換作業に時間を要していた。欠陥発生前から交換用検出器を準備する必要もあった。また対応に時間がかかるため、臨床現場では不都合となることがあった。一方、画像補正を行って欠陥素子の影響を取り除く場合には、安価に、早急に対応できるため、臨床現場では有効である。特に、臨床現場でディフェクト(欠陥)が生じた際にも装置のデッドタイム(使用できない期間)をほとんど生じることなく対応でき、有効である。画像補正の方法としては、例えば特許文献1に記載されるように、取得画像に対して周辺の正常素子の画素値を用いて欠陥素子の値を補間するような方法が採用されている。
【0003】
ところで、検出器の素子の故障には様々な原因があるが、例えば、特許文献2の明細書段落[0004]等に記載されているように、欠陥素子から信号の一部が周辺の素子に流出し、欠陥のない周辺素子の出力も異常となる場合がある。これは例えば、検出器の読出回路に異常が生じたためにフォトダイオード等で生じたホールと電子を読み出せなくなった場合等に生じる。フォトダイオードで生じた電荷は素子の容量に保存されて一部は再結合していくが、読出回路の異常のため、電荷の読み出しが行われず、発生した電荷が蓄積され続け、蓄積容量を超えると、一部の電荷が欠陥周辺素子に流入することにより生じると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−79109号公報
【特許文献2】特開平8−75544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように欠陥素子からの信号が流入した欠陥周辺素子の出力は真値からずれているため、そのまま画像を作成するとアーチファクトが生じるという問題があった。また、従来の画像補正と同様に近傍の素子の出力を用いて欠陥素子の出力を補間すると、真値からずれている欠陥周辺素子の出力を用いて補間することとなってしまうため、画像にアーチファクトが生じるという問題があった。また欠陥周辺素子も欠陥と同様に扱うと、その欠陥周辺素子の検出信号を全く使用せずに補正値を求めることとなり、より遠くの素子の信号しか使用できず補正精度が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、検出器の欠陥素子の影響が周辺の素子にも及ぶ場合にも高精度に画像補正を行って、アーチファクトの除去、抑制が可能な画像撮影装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、光を検出して電荷に変換し、電荷量に応じた電気信号を出力する検出素子が複数配列された検出器と、前記検出器の各検出素子にて検出された電気信号を出力信号として収集する信号収集装置と、前記信号収集装置により収集した出力信号に対して所定の補正処理を行って画像データを生成する補正手段と、前記画像データに基づいて画像を生成する画像生成手段と、を備えた画像撮影装置であって、前記検出器に含まれる欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が前記欠陥素子から受ける影響を示す影響量パラメータを予め記憶する記憶手段を備え、前記補正手段が行う補正処理には、前記信号収集装置により収集した出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する欠陥素子補正処理が含まれることを特徴とする画像撮影装置である。
【0008】
第2の発明は、光を検出して電荷に変換し、電荷量に応じた電気信号を出力する検出素子が複数配列された検出器と、前記検出器の各検出素子にて検出された電気信号を出力信号として収集する信号収集装置と、前記信号収集装置により収集した出力信号に対して所定の補正処理を行って画像データを生成する補正手段と、前記画像データに基づいて画像を生成する画像生成手段と、を備えた画像撮影装置による画像撮影方法であって、前記検出器に含まれる欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が前記欠陥素子から受ける影響を示す影響量パラメータを予め記憶し、前記補正手段が行う補正処理には、前記信号収集装置により収集した出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する欠陥素子補正処理が含まれることを特徴とする画像撮影方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、検出器の欠陥素子の影響が周辺の素子にも及ぶ場合にも高精度に画像補正を行って、アーチファクトの除去、抑制が可能な画像撮影装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】画像撮影装置(X線CT装置)1全体のハードウエアブロック図
【図2】中央処理装置20の内部構成を示すブロック図
【図3】画像撮影装置(X線CT装置)1における処理の流れを示すフローチャート
【図4】欠陥素子補正処理の流れを示すフローチャート
【図5】ディフェクトマップ206の一例を示す図
【図6】欠陥素子補正処理において補間に利用する素子の例(対角配置)を示す図
【図7】欠陥素子補正処理において補間に利用する素子の例(同列配置)を示す図
【図8】本処理の事前に行われるディフェクトマップ作成処理の流れを示す図
【図9】検出器5の各素子の出力値の正常・異常を判別した段階のディフェクトマップ206Bの一例を示す図
【図10】本処理の事前に行われる影響量パラメータ算出処理の流れを示す図
【図11】各検出素子へのX線入射量の調節について説明する図
【図12】入射量調節時に得られる同スライス各チャネルの素子の出力値分布を示す図
【図13】図12に示す各素子の出力値を、全素子正常とした場合に想定される出力値で規格した規格化後出力値のプロファイル41
【図14】各入力レベルでの信号流出の割合157(信号流出関数f(x))を示すプロファイル43
【図15】X線照射量調節の利用されるX線フィルタ111について説明する図
【図16】欠陥素子補正処理における欠陥素子の出力値の再推定処理について説明するフローチャート
【図17】第2の実施の形態の欠陥素子補正処理(2)の流れを説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の実施形態では、本発明に係る画像撮影装置の一例としてX線CT装置1について説明するが、これに限定されない。本発明は、X線診断装置、透視撮影装置、X線コーンビームCT装置等の様々な医用画像撮影装置や、手荷物検査や非破壊検査用のX線CT装置やX線画像撮影装置に適用できる。
【0012】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明に係るX線撮像装置の一実施の形態であるX線CT装置1の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、X線CT装置1は、X線管(X線源)2、コリメータ3、X線検出器5、回転体7、制御装置10、信号収集装置12、中央処理装置20、表示装置21、入力装置22、及び寝台30から構成される。尚、符号8は回転軸方向(スライス方向、体軸方向)、符号9は回転方向(チャネル方向)を示している。
【0014】
X線管2はX線源であり、制御装置10により制御されて被検体33に対してX線を連続的または断続的に照射する。制御装置10は、中央処理装置20により決定されたX線管電圧及びX線管電流に従って、X線管2に印加または供給するX線管電圧及びX線管電流を制御する。
【0015】
コリメータ3は、X線管2から放射されたX線を、例えばコーンビーム(円錐形または角錐形ビーム)等のX線として被検体33に照射させるものであり、開口幅は制御装置10により制御される。被検体33を透過したX線はX線検出器5に入射する。
【0016】
X線検出器5は、例えばシンチレータとフォトダイオードの組み合わせによって構成されるX線検出素子群を回転方向(チャネル方向)9に例えば1000個程度、回転軸方向(スライス方向、体軸方向)8に例えば1〜320個程度配列したものであり、被検体33を介してX線管2に対向するように配置される。X線検出器5はX線管2から放射されて被検体33を透過したX線を検出し、検出した透過X線データを信号収集装置12に出力する。
【0017】
信号収集装置12は、X線検出器5に接続され、X線検出器5の個々の検出素子で得た電荷を収集し、デジタル信号に変換し、ビュー単位にまとめてローデータを作成し、中央処理装置20へ出力する。
【0018】
中央処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置等を備え、制御装置10、信号収集装置12、寝台30、表示装置21、入力装置22を制御する。
【0019】
また、図2に示すように、中央処理装置20は、演算部201、記憶部202、画像再構成部203を備える。
【0020】
演算部201は、入力装置22から入力される撮影条件や指示、或いはROMに格納されているプログラムに従ってX線CT装置1の各部を制御し、X線照射、回転体駆動、寝台移動、信号収集等の各処理を行う。また、演算部201は、撮影条件、撮影データ、作成された画像を表示装置21に表示する。また、演算部201は、信号収集装置12が収集したローデータを取得し、ローデータに対して画像処理(図3に示す補正処理を含む)を施し、投影データ(画像データ)を生成し、画像再構成部203に出力する。
【0021】
記憶部202には、信号収集装置12が収集したローデータの他、補正処理に使用する補正データ(感度・X線分布データ207、オフセットデータ208等)、X線検出器5の欠陥素子等の配置を示すディフェクトマップ206、後述する影響量パラメータ205等が記憶される。また、中央処理装置20の画像再構成部203によって再構成された画像等が記憶される。また、X線CT装置1の機能を実現するためのプログラム、データ等が記憶される。
画像再構成部203は、演算部201から取得した投影データに対して画像再構成処理を施し、被検体33のX線吸収係数分布を示す再構成像を作成し、表示装置21へ出力する。
【0022】
また、中央処理装置20の演算部201は、上述の補正処理において、X線検出器5に含まれる欠陥素子の出力値を推定する欠陥素子補正処理を行う(図3、図4参照)。
この欠陥素子補正処理において演算部201は、信号収集装置12が収集したX線検出器5の出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて欠陥素子の出力信号を推定する。また、推定された欠陥素子の出力信号と記憶部202に記憶された影響量パラメータ205とに基づいて、欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する。
このような欠陥素子補正処理を行うことによって、電荷が周辺の素子に流出し、故障や異常のない正常な周辺素子(欠陥周辺素子)に影響が及ぶ流出型欠陥のある素子の出力値を推定するだけなく、欠陥周辺素子の出力信号の誤りを補正することが可能となる。また、欠陥素子自体の出力信号は、欠陥周辺素子を除く周囲の正常素子の値を用いて推定するため高精度に補正できる。
【0023】
ここで、影響量パラメータ205について説明する。影響量パラメータ205とは、欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が欠陥素子から受ける影響の程度を表すものであり、本実施の形態では、影響量パラメータ205の一例として欠陥素子からの信号流出の割合である信号流出関数f(x)146を求め、欠陥周辺素子の出力値の推定(補正)に用いる。
このように、影響量パラメータ205を用いて欠陥周辺素子の出力値を補正することにより欠陥周辺素子の計測値を利用しつつ、補正を行うことができ、補正精度を向上できる。
【0024】
また、中央処理装置20の演算部201は、欠陥素子補正処理の他に、X線検出器5のゼロレベルを修正するオフセット補正、X線の照射分布やX線検出器5の感度分布を補正するエア補正等を行う。補正処理及び欠陥素子補正処理の詳細は後述する。
【0025】
回転体7には、X線管2、コリメータ3、X線検出器5、信号収集装置12が搭載される。回転体7は、制御装置10によって制御される回転体駆動装置から、駆動伝達系を通じて伝達される駆動力によって回転する。
【0026】
表示装置21は、液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路で構成され、中央処理装置20に接続される。表示装置21は中央処理装置20によって再構成された画像、設定される撮影条件、各種処理結果等を表示する。
【0027】
入力装置22は、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー、及び各種スイッチボタン等により構成され、操作者によって入力される各種の指示や情報を中央処理装置20に出力する。操作者は、表示装置21及び入力装置22を使用して対話的にX線CT装置1を操作する。
【0028】
寝台30は、被検体33が載置される天板、寝台制御装置、上下動装置、及び天板駆動装置から構成され、図示しない寝台制御装置の制御によって、上下動装置を制御して寝台30の高さを適切なものにする。また、天板駆動装置を制御して天板を体軸方向に前後動したり、体軸と垂直方向であって、かつ天板に平行な方向(左右方向)に移動したりする。これにより、被検体33がX線照射空間に搬入及び搬出される。
【0029】
次に、図3〜図8を参照して、X線CT装置1の動作について説明する。
【0030】
本実施の形態のX線CT装置1の中央処理装置20は、図3に示す処理を実行する。なお、図3に示す処理は、プログラムとして記憶部202に記憶され、中央処理装置20の演算部201によって記憶部202から読みだされ、実行されるものとしてもよいし、処理回路として実装されるようにしてもよい。
【0031】
まず、入力装置22から実撮影の開始が入力されると、中央処理装置20は制御装置10を制御して、X線源2からX線を照射する。X線はコリメータ3によって照射野が限定されて、寝台30に載置された被検体33に向けて照射され、被検体33を透過して、X線検出器5にて検出される。この撮影を、被検体33の体軸を中心として回転板7を周回させることによりX線照射角度を変化させながら繰り返し行い、360度分の計測データを取得する。撮影は、例えば0.4度毎に行われる。更に、この間もX線焦点の位置制御が行われる。信号収集装置6は、X線検出器5で得た電荷を収集し、デジタル信号に変換し、ビュー単位にまとめてローデータを作成し、中央処理装置20へ出力する。
【0032】
中央処理装置20の演算部201は、信号収集装置12からローデータを取得すると(ステップS1)、ローデータに対して補正処理を施して、投影データを作成し、画像再構成部203へ出力する(ステップS2)。次に、画像再構成部203は、複数ビューの投影データを用いて画像再構成処理を行い、被検体33のX線吸収係数分布の再構成像を作成し(ステップS3)、再構成像を表示装置21に表示させる(ステップS4)。
【0033】
ステップS2の補正処理について説明する。
補正処理において、演算部201は、X線検出器5のゼロレベルを修正するオフセット補正(ステップS21)、LOG変換(ステップS22)、X線検出器5の感度分布やX線の照射分布を補正するエア補正(ステップS23)、欠陥素子の出力値を推定する欠陥素子補正(ステップS24)を行う。ここで図3の補正処理の流れは一例であり、本発明はこれに限定されない。例えば、ステップS21〜ステップS24の各処理の順序はこれに限定されず、異なる順序としてもよい。また他の補正を加えてもよい。また、オフセット補正やエア補正が無い場合等も有り得る。
【0034】
図3の例では、演算部201は、まずローデータに対してオフセット補正を行う。
オフセット補正(S21)において、演算部201は、本撮影の事前に作成され記憶部202に保存されているオフセットデータ208を取得し、ローデータから差分する。オフセットデータ208はゼロレベルのデータであり、例えば、X線を照射せずに撮影を行ってローデータを取得し、ビューに対して加算平均処理を行うことにより作成される。
次に、演算部201はLOG変換を行う。LOG変換(S22)では、次式(1)に示す変換処理を行う。
【0035】
Y=aLOG(X)+b ・・・(1)
【0036】
ここで、Xは、変換前の値、Yは、変換後の値、a、bは定数の係数である。
【0037】
次に演算部201は、エア補正を行う。エア補正(S23)では、例えば、本撮影の事前に作成され記憶部202に保存されている感度・X線分布データ207を、LOG変換後のローデータから差分する。感度・X線分布データ207は、例えば被検体33を設けずに、X線管2からX線を照射した際に取得したローデータに対してオフセット補正、ビューに対する加算平均処理、及びLOG変換を行うことで作成される。
【0038】
次に演算部201は、欠陥素子補正を行う。
欠陥素子補正(S24)では、演算部201は、本撮影の事前に予め作成されているディフェクトマップ206を参照する(図8の事前処理A;ディフェクトマップ作成処理)。ディフェクトマップ206とは、X線検出器5の各素子の配置と、欠陥であるか否か及び欠陥である場合は欠陥の種類を表したものである。図5に示すように、X線検出器5の全素子の並びと対応した配列に、素子の種類を例えば、「0;出力値正常」、「1;出力値異常(欠陥素子)」、「2(出力値異常;欠陥周辺素子)」のように表す。図5のディフェクトマップ206は、8×8素子からなるX線検出器5についてのディフェクトマップ206を例示しているが、素子数はこれに限定されない。
【0039】
また、本撮影の事前に、影響量パラメータ205を求め、記憶部202に保存しておく必要がある(図10の事前処理B;影響量パラメータ算出処理)。影響量パラメータとは、欠陥素子が欠陥周辺素子に対して及ぼす影響量を示すパラメータであり、例えば後述する信号流出関数f(x)等である。
【0040】
ディフェクトマップ206及び影響量パラメータ205が既に記憶部202に保存されているものとし、ステップS24の欠陥素子補正処理について図4を参照して説明する。
【0041】
欠陥素子補正処理において、まず、中央処理装置20の演算部201は記憶部202に記憶されているディフェクトマップ206を参照する(ステップS241)。
本実施の形態では、図5に示すディフェクトマップ206の(3,3)の画素が流出型欠陥素子に該当し、隣接する(3,2)、(2,3)、(4,3)、(3,4)の画素にその影響が及ぶ例について説明する。流出型欠陥とは、X線検出器5の読出回路に欠陥があるために、フォトダイオードが開放状態にあり、更にそのフォトダイオードで生じた電荷が読み出されることなく隣接する素子(周辺素子)へ流入して、隣接画素(周辺画素)にも出力異常が発生する欠陥である。すなわち、(3,2)、(2,3)、(4,3)、(3,4)にある素子には故障はなく、周辺の欠陥素子(流出型欠陥素子)からの影響によって出力値に異常が生じている。また、欠陥のある(3,3)の画素に該当する素子からは、発生した電荷が読み出せないため、出力値に異常が発生する。
なお、図5のディフェクトマップ206では、流出型欠陥素子のスライス方向及びチャネル方向に隣接する素子のみに電荷が流出している例を示しているが、電荷の流出範囲は隣接素子に限らず、より遠くの素子に及ぶことも考えられるため、「欠陥周辺素子」には、流出型欠陥素子から電荷流出の影響を受けたすべての素子が含まれる。
【0042】
図5のディフェクトマップ206では、欠陥素子(流出型欠陥素子)に「1」が付与される。また、(3,2)、(2,3)、(4,3)、(3,4)の画素のように流出型欠陥素子からの信号流出によって異常出力と判断された素子を欠陥周辺素子とする。ディフェクトマップ206には「2」が付与される。その他、出力値が正常な素子は正常素子とし、ディフェクトマップ206に「0」が付与される。
【0043】
このディフェクトマップ206を参照して、演算部201は、欠陥素子(図5の値「1」)の出力値を推定する(ステップS242)。演算部201は、欠陥素子の出力値を、正常素子の出力値を用いて補間により推定する。
補間に用いる素子は、例えば、図6の斜線部に示すように、欠陥素子(3,3)を中心として対角に位置し(スライス方向及びチャネル方向を二分する方向に位置し)、かつ欠陥周辺素子でない素子(2,2)、(2,4)、(4,2)、(4,4)の出力値を用いることができる。補間演算に用いる数式はどのようなものでもよく、例えば、素子(2,2)、(2,4)、(4,2)、(4,4)の出力値の平均値等によって求めることができる。
【0044】
このように欠陥素子の近傍に位置し、かつ欠陥周辺素子ではない正常素子からの出力信号を用いて欠陥素子の出力値を推定するので、相関の強い、信頼性の高い補間を行える。また欠陥素子から信号が流入している素子(欠陥周辺素子「2」)の信号を用いずに補正を行うため、高精度に補正できる。
【0045】
なお、上述の説明では、流出型欠陥素子(3,3)を中心として対角に位置する4つの正常素子を用いて流出型欠陥素子の補正値を算出する例(図6)を示したが、図6の斜線部に示す正常素子(2,2)、(2,4)、(4,2)、(4,4)のうち幾つかの素子の出力を用いて補正値を算出するようにしてもよい。特に流出型欠陥素子がX線検出器5の端部にある場合、端部側には正常素子が存在しないため、流出型欠陥素子(3,3)から斜め方向に位置する正常素子のうち幾つかを用いて補間することが有効である。例えば(2,1)に流出型欠陥素子がある場合、(1,2)、(3,2)の素子の出力を用いて補間すればよい。また正常素子の出力値の平均を補正値としたが、これに限定されず、更に重み付けの異なる加算平均を用いてもよいし、関数を用いて推定するようにしてもよい。
【0046】
また、流出型欠陥素子と同列(同一チャネルや同一スライス)にあり、欠陥周辺素子でない素子の出力値を用いて流出型欠陥素子の出力値を補間してもよい。例えば図7の斜線部に示すように、欠陥素子(3,3)のチャネル方向またはスライス方向のいずれか一方向にあり、欠陥周辺素子でない素子(1,3)及び(5,3)(または(3,1)及び(3,5))の出力値を用い、線形補間により出力値を推定するようにしてもよい。このように流出型欠陥素子及び欠陥周辺素子を挟み、同列にある正常素子の出力値を用いて補間すれば、1スライスや2スライスの撮影においても適用できる。また、X線検出器5の各素子が1列に配置された1次元検出器の場合にも適用できる。更に補間に用いる素子は2点に限定する必要はなく、より多くの同一チャネルまたは同一スライスのデータを用いて補間してもよい。例えば(3,1)、(3,5)、及び(3,6)の素子の値を用いて、(3,3)の流出型欠陥素子の値を求めてもよい。この場合は更に欠陥素子からの距離に応じた重み付け加算を行ってもよいし、なんらかの関数を用いて推定するようにしてもよい。
【0047】
図4の説明に戻る。
次に、中央処理装置20の演算部201は欠陥周辺素子(3,2)、(2,3)、(4,3)、(3,4)の信号を、ステップS242で求めた欠陥素子(3,3)の推定値及び記憶部202に記憶されている影響量パラメータ205を用いて補正する(ステップS243)。影響量パラメータ205としては、信号流出関数f(x)146を用いる。信号流出関数f(x)146とは、欠陥素子が仮に正常に出力した場合の欠陥周辺素子の出力値に対する欠陥周辺素子への電荷の流出量の割合を表したものである。
【0048】
本実施の形態では、説明の簡略のために周囲4つの欠陥周辺素子に対して共通の信号流出関数f(x)を適用するものとして説明するが、個々の欠陥周辺素子に対して流出量が異なる場合もあり得るため、各欠陥周辺素子に個別の信号流出関数f(x)を適用してもよい。なお、信号流出関数f(x)の決定方法については後に詳しく説明する(図10参照)。
【0049】
ステップS242で算出した欠陥素子(3,3)の推定値zは欠陥素子が仮に正常に出力した場合の出力値xとほぼ等しいと考えられるので、欠陥素子(3,3)から欠陥周辺素子(3,2)、(2,3)、(4,3)、(3,4)へは、z・f(z)だけ信号が流入していることとなる。各欠陥周辺素子の補正後の出力値は、計測値(補正前)からこの流入分を引いた値(計測値‐z・f(z))となる(ステップS243)。
【0050】
このように、計測により得た欠陥周辺素子の出力値を利用して欠陥周辺素子の補正値を求めることで、欠陥周辺素子に入射したX線の信号を利用することができるため、単に隣接する素子から内挿や外挿で推定を行うよりも、高精度な補正が実現できる。
【0051】
次に、ディフェクトマップ作成処理について、図8、図9を参照して説明する。
ディフェクトマップ作成処理において、演算部201は、補正データとして保持している感度・X線分布データ207を用いて異常出力素子を決定する。すなわち、演算部201は、記憶部202から感度・X線分布データ207を読み出し(ステップS51)、感度・X線分布データ207に基づいて異常素子と判定する出力値範囲を決定し(ステップS52)、その出力値範囲に該当する出力値を示す素子を異常素子と判定する(ステップS53)。
例えば、所定強度のX線照射時における感度・X線分布データ207を用いて全素子の出力値の平均値及び標準偏差を算出し、平均値から標準偏差の例えば5倍以上離れた出力値範囲を異常出力範囲とする。そして、各素子について異常出力範囲であるか否かを判定し、異常出力範囲であれば「1」、異常出力範囲でなければ「0」をディフェクトマップ206の該当する画素位置に付与する。図9は、異常出力範囲であるか否かを示した状態のディフェクトマップ206Bを示している。画素(3,2)、(2,3)、(3,3)、(4,3)、(3,4)が出力値異常であり、その他の画素は出力値正常と判定されている。
【0052】
次に演算部201は、異常出力を示す素子が、流出型欠陥素子であるか、欠陥周辺素子であるかを分別する(ステップS54)。分別の方法は、例えば、異常出力を示す素子の配列の仕方から判断する。具体的には、例えば、異常素子が隣接して群を成しており、かつ複数の異常素子に挟まれる素子を流出型欠陥素子(図5の値「1」)と分別する。また、流出型欠陥素子以外の異常素子を欠陥周辺素子(図5の値「2」)と分別する。演算部201は、上述の手順で作成したディフェクトマップ206を記憶部202に保存する。
【0053】
なお、上述のディフェクトマップ作成処理は一例であり、別の方法を採用してもよい。例えばステップS53の異常素子判別ステップにて異常素子を判断するために感度・X線分布データ207を用いずに、別途画像を取得するようにしてもよい。例えば、X線を用いてエア画像を得たり、ファントムを用いて複数種類の画像を取得し、異常素子の判断に用いるようにしてもよい。更に、他の補正のために取得した画像を用いて異常素子を判断してもよい。またX線検出器5に光を照射する機能を更に備え、その光を照射した際に得た画像から欠陥素子を抽出してもよい。また、実撮影の事前に異常素子の判断を行っておくのではなく、実撮影の投影データを用いて再構成像からアーチファクトを抽出し、そのアーチファクトの発生位置に基づいて出力値異常であるか否かを判断するようにしてもよい。また、ステップS52の異常出力範囲決定ステップでは、平均値と標準偏差とを用いて異常出力範囲を求めたがこれに限定するものではなく、所定の閾値により決定してもよい。
【0054】
またステップS54の欠陥素子判定ステップでは、流出型欠陥素子と欠陥周辺素子の両方を異常素子として検出したが、流出型欠陥素子のみ検出するようにしてもよい。流出型欠陥素子はX線(光)を照射しても出力に変化が無いことが多いため、X線画像等から比較的容易に検出できる。この場合はその流出型欠陥素子に隣接する素子を欠陥周辺素子と判断するようにするとよい。ただし、予め流出型欠陥素子と非流出型欠陥素子との分別を行っておくことが望ましい。
更に、ステップS54の欠陥素子分別ステップでは、異常出力を示す素子がチャネル方向及びスライス方向に挟まれる素子を流出型欠陥素子と判別したが、このような分別方法に限定されず、例えば、異常素子にチャネル方向またはスライス方向の一方向のみに挟まれる素子を流出型欠陥素子と判別し、これに隣接する素子を欠陥周辺素子と判別してもよい。また出力値に基づいて欠陥素子、欠陥周辺素子を判別してもよい。この場合、例えば、流出型欠陥素子はフォトダイオードが開放状態にあり、欠陥周辺素子はその信号の一部が流入して増加しているので、感度・X線分布データのようなX線画像を用いて、一定レベル以下の出力の画素を流出型欠陥素子とし、一定レベル以上の出力の素子を欠陥周辺素子と判断するようにしてもよい。
【0055】
次に、影響量パラメータ算出処理について、図10〜図15を参照して説明する。
影響量パラメータ算出処理は、本撮影の事前処理として行われる。
影響量パラメータ算出処理では、X線検出器5の前面にX線遮蔽物を設け、欠陥周辺素子に入射するX線量を調節(遮蔽)した状態で撮影を行い、ローデータを取得する(ステップS61,S62)。X線遮蔽物としては、例えば鉛板やタングステン板を用いる。X線遮蔽物は、欠陥周辺素子(図11の素子152)に対する入射X線を遮蔽し、流出型欠陥素子(図11の素子151)にはX線が入射するように配置される。
このように、欠陥周辺素子に入射するX線量を調整(遮蔽)した状態で、演算部201は信号収集装置6からローデータを取得し、このローデータに対して図3のフローチャートに示した補正処理のうち、欠陥素子補正処理とLOG変換を除く補正処理を行って投影データを作成する(ステップS63)。すなわち、オフセット補正(S631)、エア補正(S633)を行って、投影データを作成する。
【0056】
ここで、得られた投影データのうち、あるスライスのチャネル方向の出力分布の一例を図12に示す。
図12において、点線155はX線遮蔽物の端部位置を表す。また、実線の丸は流出型欠陥素子151が含まれる3スライス目の出力を表す。また、点線の丸は流出型欠陥素子も欠陥周辺素子もない、例えば5スライス目の出力を表している。点線の丸153等は、曲線154上にある。
図12に示す151、152、153の符号は、図11の同一符号の素子の出力値を表すものとする。
【0057】
図12に示す出力分布を用い、演算部201は、欠陥素子を含む3スライス目の出力(実線の丸)を、欠陥素子を含まないスライス(例えば、5スライス目)の出力(点線の丸)で規格化する。すると、図13に示すプロファイル41が得られる。流出型欠陥素子151及び欠陥周辺素子152以外の正常素子では、3スライス目と5スライス目の出力値がほぼ等しいため、規格化後出力値は、直線156上にのる。すなわち、正常素子の規格化後出力値は約「1」となる。
一方、欠陥周辺素子152については、3スライス目と5スライス目とで異なる出力値を示すため、規格化後出力値は直線156(正常素子の規格化後出力値「1」)からずれ量157だけずれる。このずれ量157が、流出型欠陥素子151から欠陥周辺素子152への電荷の流入量である。欠陥周辺素子152が遮蔽されていなければ、X線の入力量は隣の素子153と同程度と考えられるため、遮蔽されない状態かつ正常素子であれば、図12に示す出力値158と同程度の出力を生じたと予想される。従って、上述のずれ量(電荷流入量)157と、欠陥周辺素子152が正常であった場合の出力値158とから、欠陥周辺素子152への信号流出の割合を求めることができる。
【0058】
図14は、各入力X線量レベルでの信号流出の割合を示すプロファイル43である。この結果にフィッティングを行うことで、信号流出を表す関数が決定でき、これからLOG変換後における信号流出の割合を表す信号流出関数f(x)146を決定できる。
【0059】
図10のフローチャートに示すように、中央処理装置20の演算部201は、S63の補正処理後の投影データを用いて欠陥素子から欠陥周辺素子への電荷の流入量を求め(図10のステップS64)、信号流出の割合を求める(ステップS65)。更に、ステップS61〜S65の処理を入力X線量を変えながら繰り返し、各X線量レベルでの信号流出の割合を求め、これらの入力X線量と信号流出の割合との関係から信号流出関数f(x)146を求め、影響量パラメータ205として記憶部202に記憶する(ステップS66)。
【0060】
なお、X線遮蔽物によってチャネル方向に入力X線量を調節し、流出型欠陥素子のチャネル方向への影響(信号流出関数f(x))を求めたが、これは一例であり、スライス方向についても入力X線量を調整し、流出型欠陥素子によるスライス方向への影響(信号流出関数)を求めることもできる。例えば、X線遮蔽物によってスライス方向に入力X線量を調整し、素子152の場合と同様に、信号流出関数f(x)146を決定しても良い。更にチャネル方向、スライス方向の両方向に同時に入力X線量を調整し、信号流出関数f(x)146を決定するようにしてもよい。
【0061】
更に、X線フィルタ111を用いてX線照射分布に傾斜を設け、このときのエア画像(被検体のない状態で撮影された画像)を用いて信号流出関数f(x)146を決定してもよい。図15にX線フィルタ111の一例を示す。
図15は、図1のX線CT装置1についての回転軸(スライス)方向断面の概略図である。
【0062】
X線CT装置1は、X線管2から出たX線がX線コリメータ3で照射野を限定されてX線検出器5に至る構造を成すが、更に、X線フィルタ111を挿入可能な構造を付加することにより、X線照射分布に傾斜を設けるようにする。
X線フィルタ111は、図15に示すように、X線管2とコリメータ3の間に挿入される。材質は、X線を完全に遮蔽せず、多少透過するものが好ましい。例えば、アルミニウム等の材質が用いられる。またX線フィルタ111の形状は、所望のX線照射分布に応じた形状をなし、例えば、スライス方向に照射分布の傾斜を設ける場合はスライス方向に厚みが変化するものとし、チャネル方向に照射分布の傾斜を設ける場合はチャネル方向に厚みが変化するものとする。図15では、スライス方向に傾斜を有する三角柱の形状を有するX線フィルタ111を例示している。X線フィルタ111は、X線フィルタ移動機構112にて、図15の矢印106方向に移動されて挿入される。X線フィルタ移動機構112は、駆動装置を備え、制御装置10により動作が制御される。
【0063】
回転軸方向(スライス方向)に厚みの変化するX線フィルタ111がX線管2とX線コリメータ3の間に挿入されると、X線照射分布は、回転軸方向(スライス方向)に傾斜した分布となって、X線検出器5に入力される。この分布の変化を利用すれば、図11に示すようにX線遮蔽物を用いた場合と同様にスライス方向への信号流出関数f(x)146を決定することができる。
すなわち、X線フィルタ111とX線フィルタ移動機構112を更に備え、X線フィルタ移動機構112によってX線フィルタ111の位置を移動させながら、様々な照射量(X線検出器への入力量)でのローデータを取得すれば、信号流出関数f(x)146を容易かつ短時間に算出することができる。これにより、経時的に流出型欠陥素子が生じてしまい、予め信号流出関数f(x)146(影響量パラメータ)を記憶していない場合でも信号流出関数f(x)146(影響量パラメータ)を決定でき、欠陥素子補正処理を含む補正処理を迅速に行うことができる。
【0064】
なお、X線フィルタ111によってスライス方向にX線照射分布に傾斜を設ける場合を記したが、これは一例であり、チャネル方向に傾斜を設ける場合や両方向に設ける場合も有り得る。また、上述の説明では、信号流出関数f(x)がすべての欠陥周辺素子に対して共通の場合を記したが、これは一例であり、チャネル方向とスライス方向でそれぞれ異なる関数としてもよい。また、端部に位置する欠陥周辺素子については、他の素子と異なる信号流出関数f(x)を用いるようにしてもよい。また信号流出関数f(x)は、一定値に限定されず、比例関数、一次関数、多項式関数等、様々な関数により表現されてもよい。例えば、信号流出関数f(x)は、正や負のべきを有するべき関数、その和からなる多項式関数、指数関数、対数関数などが考えられる。また、例えば、信号流出関数f(x)は、入力範囲に応じたステップ関数や、入力範囲で関数を切り替えて表現されるようなものであっても良く、更に、関数の四則演算によって得られる様々な関数が考えられる。また信号流出関数f(x)は、シミュレーションによって決定しても良い。
【0065】
以上説明したように、本第1の実施の形態のX線CT装置1によれば、中央処理装置20の演算部201は、異常出力を示す検出素子をその欠陥の種類に応じて分別し、ディフェクトマップ206を作成し、記憶部202に保持しておく。また、電荷が隣接する素子(或いは周辺の素子)に流出してしまう流出型欠陥素子については欠陥周辺素子への信号流出の割合を表した信号流出関数f(x)146を影響量パラメータ205として記憶部202に保持しておく。そして、補正処理として、一般的に行われるオフセット補正やエア補正等の他に、欠陥素子補正処理を行って、正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて流出型欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された流出型欠陥素子の出力信号と上述の影響量パラメータとに基づいて欠陥周辺素子の出力信号を補正する。
これにより、正常素子からの出力信号を用いて欠陥素子の出力値を補間により推定するため、相関のある素子の信号を用いた信頼性の高い補正を行える。また欠陥素子から信号が流入している素子(欠陥周辺素子「2」)の信号を用いないため、補間の精度を向上できる。更に、欠陥周辺素子の出力値の補正については、計測により得た欠陥周辺素子の出力値から、欠陥素子による影響を取り除くようにして補正値を求めるので、欠陥周辺素子に実際に入射したX線の検出信号(計測値)を利用することができる。そのため、単に隣接する素子から内挿や外挿で推定を行うよりも、高精度な補正が実現できる。
【0066】
なお、欠陥素子補正処理において、更に流出型欠陥素子の値を、補正後の欠陥周辺素子の値を用いて再推定してもよい。
すなわち、図16に示すように、演算部201は、ステップS241〜S243によって欠陥素子及び欠陥周辺素子の補正値を求めた後に、更に、欠陥周辺素子の補正値を用いて流出型欠陥素子の補正値を算出し直す(ステップS244)。
再推定処理(S244)では、流出型欠陥素子の値を推定する際に、隣接する欠陥周辺素子の値を用いる。すなわち、ステップS242で利用した正常素子の値よりも距離の近い欠陥周辺素子の補正値を用いて補間する。補間は、例えば4つの欠陥周辺素子の補正値の平均値を算出すればよい。更に流出型欠陥素子の再推定の際に、補正後の欠陥周辺素子の値と、周囲の正常素子の値とを合わせて補間を行ってもよい。また例えば、同一チャネルの欠陥周辺素子と隣接する正常素子の値を用いて推定しても構わない。この場合は、例えば、図6の(3,3)の欠陥素子の値を、(1,3)の出力値、(2,3)の補正値、(4,3)の補正値、(5,3)の出力値を用いて算出する。同様に、同一スライスで再推定を行ってもよいし、更に、距離に応じた重みを付けて算出するようにしてもよい。
再推定処理を行うことにより、より近傍の素子の値を用いて欠陥素子の出力値を推定できるため、高精度な補正が実現できる。
【0067】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態の画像撮影装置(X線CT装置)1について説明する。なお、第2の実施の形態の画像撮影装置(X線CT装置)1において、第1の実施の形態のX線CT装置1と同一の各部については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0068】
第1の実施の形態では、生じた電荷が読み出されずに、その信号の一部が周辺の素子に流入する流出型欠陥素子がある場合の信号値の補正について説明したが、第2の実施の形態では、他の原因による欠陥を含む場合の補正について説明する。
【0069】
他の原因の欠陥としては、例えば、X線検出器5から信号が読み出された後の回路(アナログ−デジタル変換器等)で故障が生じる場合や、フォトダイオードからのアナログ読出回路にて、フォトダイオード同士が短絡している場合等もある。このように、フォトダイオードで生じた電荷は読み出されるが出力値に異常が生じる素子を、非流出型欠陥素子とよぶこととする。
【0070】
第2の実施の形態では、補正処理を行う際に非流出型欠陥素子と流出型欠陥素子を分別し、分別結果に応じた補正処理を行うものとする。
図17は、第2の実施の形態における欠陥素子補正処理(2)の流れを示すフローチャートである。
図17の欠陥素子補正処理(2)において、まず演算部201は、信号収集装置6からローデータを取得し(ステップS71)、各素子について出力値が正常であるか異常であるかを判定する(ステップS72)。出力値が正常であれば(ステップS72;Yes)、補正処理を行わず処理を終了し、次の素子について出力値が正常であるか否かを判定する。出力値が正常でない場合(ステップS72;No)、演算部201は、隣接素子への信号流入量を計測する(ステップS73)。信号流入量の計測は、図10のステップS64と同様に行うことができる。そして、流入量が所定の閾値より小さい場合は(ステップS74;Yes)、非流出型欠陥素子と判断し、ステップS75の補正処理へ移行する。
一方、流入量が上述の閾値以上である場合は(ステップS74;No)、流出型欠陥素子と判断し、第1の実施の形態と同様の補正処理(欠陥素子補正処理(1);図4)を行う(ステップS76)。
【0071】
ステップS75において、非流出型欠陥素子と判定された素子については、隣接する素子が正常素子であれば、隣接素子の出力値を用いて補間演算を行い、出力値を補正する。例えば、(3,3)の素子が非流出型欠陥素子と判定された場合は、周辺の最も近傍に位置する(3,2)、(2,3)、(2,4)、(3,4)の出力値を用いて補間する。非流出型欠陥素子では,フォトダイオードで生じた電荷は読み出されているために、その周辺の素子への信号の流出は無いため、補間に利用しても差し支えない。
このように、欠陥の原因によって異なる補正処理を行えば、非流出型欠陥素子については周囲への電荷の流出がないため最も隣接する素子の出力値を用いた補間ができ、信頼性の高い補正を行える。
【0072】
以上説明したように、本発明の画像撮影装置1は、検出器5に含まれる欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が欠陥素子から受ける影響を示す影響量パラメータ205を予め記憶部202に記憶しておき、補正処理として、信号収集装置6により収集した出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された欠陥素子の出力信号と記憶部201に記憶された影響量パラメータ205とに基づいて欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する欠陥素子補正処理を含む信号値の補正を行う。
すなわち、欠陥素子補正処理では、欠陥素子の近くに位置する正常素子からの出力信号を用いて欠陥素子の出力値を補間により求めるため、相関のある信号を得やすく、信頼性の高い補正を行える。また欠陥素子から信号が流入している素子(欠陥周辺素子)の信号を用いないため、補間の精度を向上できる。更に、欠陥周辺素子の出力値の補正については、計測により得た欠陥周辺素子の出力値から、欠陥素子による影響を取り除くようにして補正値を求めるので、欠陥周辺素子に実際に入射したX線の検出信号(計測値)を利用することができるため、単に隣接する素子から内挿や外挿で推定を行うよりも、高精度な補正が実現できる。これにより流出型欠陥素子と欠陥周辺素子に起因するアーチファクトの発生を除去、抑制できる。
【0073】
また、欠陥素子補正処理は、更に、補正後の欠陥周辺素子の出力信号に基づいて欠陥素子の出力信号を推定する再推定処理を含むようにしてもよい。
再推定処理によって、より近接し、相関の大きい配置にある欠陥周辺素子のデータを推定演算に利用できるため、高精度に補正できる。
【0074】
また、信号収集装置により収集した出力信号に基づいて、欠陥素子が、周辺の素子に影響を及ぼす流出型欠陥素子であるか、周辺の素子に影響を及ぼさない非流出型欠陥素子であるかを判別し、その判別結果に応じた補正処理を行うことが望ましい。特に、欠陥素子が、周辺の素子に影響を及ぼす流出型欠陥素子である場合は、上述の欠陥素子補正処理を行うものとする。
このように、欠陥の種類に応じた補正処理を行うことにより、より高精度な補正を行える。
【0075】
また、欠陥素子と欠陥周辺素子とで光の入射量を遮蔽板やX線フィルタ等(調節手段)によって調節し、光の入射量が調節された状態で各素子の出力信号を取得し、取得した出力信号に基づいて、欠陥素子から欠陥周辺素子への信号流出の割合を算出し、この信号流出の割合を影響量パラメータとして、欠陥周辺素子の補正値を算出することが望ましい。
このように、欠陥素子から欠陥周辺素子への信号流出の割合を求め、補正に用いることで欠陥周辺素子の出力信号を高精度の補正できる。
【0076】
また、欠陥素子補正処理において、欠陥素子と同列にある正常素子の出力信号を用いて欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された欠陥素子の出力信号と記憶部202に記憶された影響量パラメータ(信号流出関数)とに基づいて欠陥周辺素子の出力信号を補正することが望ましい。これにより、1次元配列の検出器や、1スライスまたは2スライスのみの撮影を行う場合にも本発明の欠陥素子補正処理を適用でき、実用的である。
【0077】
また、欠陥素子補正処理において、欠陥素子を中心として対角に位置する正常素子の出力信号を用いて欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された欠陥素子の出力信号と記憶部202に記憶された影響量パラメータ(信号流出関数)とに基づいて欠陥周辺素子の出力信号を補正するようにしてもよい。これにより、より近接し、相関の大きい配置にある正常素子の出力信号を用いて補正できるため、信頼性の高い補正を行うことが可能となる。2次元配列の検出器を用いた多スライスを行う際に有効である。
【0078】
なお、上述の実施の形態では、X線検出器5は素子が2次元配列である例を示したが、1次元配列の検出器について本発明を適用することも可能である。また、X線検出器5として、シンチレータとフォトダイオードからなる間接型の検出器について説明したが、これは一例であり、その他の種類の検出器であってもよい。例えば、X線を直接電気信号に変換する直接変換型の検出器であってもよい。また、図1にはX線検出器5と中央処理装置20とが一体となっているX線CT装置1を例示したがこれに限定されず、例えば、欠陥素子補正処理を行う演算装置を別装置として設けてもよい。すなわち外部のX線CT装置で得られた画像データを取得し、取得した画像データに基づいて本実施の形態で示した補正処理(欠陥素子補正処理を含む)を実施してもよい。更に、本発明は、X線検出器に限らず、例えば、可視光、赤外線、紫外線などの様々な波長の光を検出する検出器や、例えば、ガンマ線を検出する放射線検出器にも適用し得る。その他、当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0079】
1・・・・・X線CT装置(画像撮影装置)
2・・・・・X線管
3・・・・・コリメータ
5・・・・・X線検出器
7・・・・・回転体
8・・・・・回転軸方向(スライス方向、体軸方向)
9・・・・・回転方向(チャネル方向)
10・・・・・制御装置
12・・・・・信号収集装置
20・・・・・中央処理装置
201・・・・演算部
202・・・・記憶部
203・・・・画像再構成部
21・・・・・表示装置
22・・・・・入力装置
30・・・・・寝台
33・・・・・被検体
202・・・・記憶部
205・・・・・影響量パラメータ
146・・・・・信号流出関数f(x)
206・・・・・ディフェクトマップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を検出して電荷に変換し、電荷量に応じた電気信号を出力する検出素子が複数配列された検出器と、前記検出器の各検出素子にて検出された電気信号を出力信号として収集する信号収集装置と、前記信号収集装置により収集した出力信号に対して所定の補正処理を行って画像データを生成する補正手段と、前記画像データに基づいて画像を生成する画像生成手段と、を備えた画像撮影装置であって、
前記検出器に含まれる欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が前記欠陥素子から受ける影響を示す影響量パラメータを予め記憶する記憶手段を備え、
前記補正手段が行う補正処理には、
前記信号収集装置により収集した出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する欠陥素子補正処理が含まれることを特徴とする画像撮影装置。
【請求項2】
前記欠陥素子補正処理は、更に、
補正後の前記欠陥周辺素子の出力信号に基づいて前記欠陥素子の出力信号を推定する再推定処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像撮影装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
前記信号収集装置により収集した出力信号に基づいて、前記欠陥素子が、周辺の素子に影響を及ぼす流出型欠陥素子であるか、周辺の素子に影響を及ぼさない非流出型欠陥素子であるかを判別する欠陥素子判別手段を更に備え、
前記欠陥素子判別手段によって流出型欠陥素子と判別された場合に、前記欠陥素子補正処理を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像撮影装置。
【請求項4】
検出器の各素子について、欠陥素子、前記欠陥素子の影響を受けた欠陥周辺素子、正常素子のいずれに該当するかを分別し、分別結果を素子の配置データとともに表すディフェクトマップを生成するディフェクトマップ生成手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の画像撮影装置。
【請求項5】
前記欠陥素子と前記欠陥周辺素子とで光の入射量を調節する調節手段と、
前記調節手段により光の入射量が調節された状態で各素子の出力信号を取得し、取得した出力信号に基づいて、欠陥素子から前記欠陥周辺素子への信号流出の割合を算出し、前記影響量パラメータとして利用する影響量パラメータ算出手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の画像撮影装置。
【請求項6】
前記欠陥素子補正処理において、前記欠陥素子と同列にある正常素子の出力信号を用いて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子の出力信号を補正することを特徴とする請求項1に記載の画像撮影装置。
【請求項7】
前記検出素子は2次元的に配列され、前記欠陥素子補正処理において、前記欠陥素子を中心として対角に位置する正常素子の出力信号を用いて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子の出力信号を補正することを特徴とする請求項1に記載の画像撮影装置。
【請求項8】
光を検出して電荷に変換し、電荷量に応じた電気信号を出力する検出素子が複数配列された検出器と、前記検出器の各検出素子にて検出された電気信号を出力信号として収集する信号収集装置と、前記信号収集装置により収集した出力信号に対して所定の補正処理を行って画像データを生成する補正手段と、前記画像データに基づいて画像を生成する画像生成手段と、を備えた画像撮影装置による画像撮影方法であって、
前記検出器に含まれる欠陥素子の周辺にある欠陥周辺素子が前記欠陥素子から受ける影響を示す影響量パラメータを予め記憶し、
前記補正手段が行う補正処理には、
前記信号収集装置により収集した出力信号のうち正常な検出素子から得られた出力信号に基づいて前記欠陥素子の出力信号を推定するとともに、推定された前記欠陥素子の出力信号と前記記憶手段に記憶された影響量パラメータとに基づいて前記欠陥周辺素子から得られた出力信号を補正する欠陥素子補正処理が含まれることを特徴とする画像撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−231210(P2012−231210A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96825(P2011−96825)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】