説明

発振回路

【課題】スイッチによる周波数の切り替え時に発生する発振波形の乱れを解消した発振回路を提供することにある。
【解決手段】第1のIDTとしてのIDT12aおよび第2のIDTとしてのIDT12bの極性を反転する際に、スイッチ手段としてのスイッチSW5〜SW8が遮断されて、第1のIDTとしてのIDT12aおよび第2のIDTとしてのIDT12bの並列接続状態が解除される期間である期間Tdにおいては、スイッチSW5〜SW8がすべて遮断状態となる。期間Tdを必要最小限にして十分な値に設定しておけば、何らかの要因で信号V11または信号V21のレベルが若干ずれたタイミングで切り替わったとしても、両信号が同時にハイレベルとなる事態を回避することができる。したがって、スイッチSW5とスイッチSW6、あるいは、スイッチSW7とスイッチSW8が、それぞれ同時に導通状態となることが回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Accoustic Wave)共振子を具備した発振回路に関わり、特に、2値FSK(Frequency Shift Keying)変調を用いる無線送信機に好適な発振回路を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
FSK変調は、デジタル変調方式の一種であり、最も簡易な2値FSKの場合、ベースバンド信号の2値符号に応じて2つの異なる搬送波周波数が割り当てられる。2つの異なる搬送波周波数間の周波数差Δfは、通常、搬送波周波数自体の100〜200ppm程度の小さな値に設定される。
【0003】
このようなFSK変調に適した発振回路として、圧電基板上に隣接した2つのIDT(Inter Digital Transduser)を有するSAW共振子を用いたものがある。(例えば、特許文献1参照。)このSAW共振子は2つのIDT間の相互接続状態を変えることによって、共振周波数が変化する特徴を有しており、その共振周波数差が、FSK変調の周波数差Δfと一致するように設計されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−303359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、スイッチ回路を構成して発振回路に適用した場合、スイッチを切り替える瞬間に、増幅回路から得られる発振波形に乱れが生じることがあった。このような乱れが生じると、FSK変調された搬送波から妨害波が輻射され、周囲の通信システムに悪影響を及ぼしてしまう問題がある。また、その搬送波を受信機が受信する際に、エラーレート(誤り率)が増加してしまう問題もある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、スイッチによる周波数の切り替え時に発生する発振波形の乱れを解消した発振回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明の発振回路は、圧電基板上に第1のIDTおよび第2のIDTが隣接して設けられているSAW共振子と、第1のIDTおよび第2のIDTを任意の極性で並列に接続するためのスイッチ手段とを具備し、スイッチ手段が極性を反転させることで発振周波数が変化するように構成され、極性を反転する際に、スイッチ手段が遮断されて、第1のIDTおよび第2のIDTの並列接続状態が解除される期間を設けられていることを特徴とする。
【0008】
これにより、第1のIDTおよび第2のIDTの極性を反転する際に、スイッチ手段が同時に導通状態となることを防止することができ、発振波形が乱れることがなくなる。
【0009】
圧電基板上に第1のIDTおよび第2のIDTが隣接して設けられているSAW共振子と、第1のIDTおよび第2のIDTを任意の極性で並列に接続するためのスイッチ手段とを具備し、スイッチ手段が極性を反転させることで発振周波数が変化するように構成され、スイッチ手段が遮断状態から導通状態に遷移する際に、スイッチ手段のオン抵抗が徐々に低下することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の発振回路は電界効果型トランジスタで構成され、遮断状態から導通状態への遷移においては、電界効果型トランジスタのゲート端子に対する充放電の電流量を制限することで、オン抵抗が徐々に低下することを特徴とする。
【0011】
これにより、電界効果型トランジスタで構成され、スイッチ手段によって遮断状態から導通状態へ遷移する際に、電界効果型トランジスタのゲート端子に対する充放電の電流量を制限することで、オン抵抗が徐々に低下し、遮断状態から導通状態へ遷移する際に発生する衝撃が緩和され、発振波形が乱れることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の発振回路を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、SAW共振子10の構造を示す模式図である。同図に示すように、SAW共振子10は、圧電基板11の表面に隣接して形成された一対の第1のIDTとしてのIDT12aと第2のIDTとしてのIDT12bと、これらIDT12a,12bを挟むように配置された反射器13a,13b,14a,14bとで構成されている。圧電基板11としては、水晶、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの圧電性を有する単結晶が用いられる。あるいは、表面に酸化亜鉛(ZnO)などの圧電性薄膜を形成した各種の基板が代用されることもある。IDT12a,12b、および反射器13a,13b,14a,14bは、金、銅、アルミニウムなどの導電性材料を用いて、圧電基板11の表面にパターニングされたものである。なお、実際のパターンは、非常に微細で密度の高いものであるため、図1では、構造が判り易いように誇張して描画してある。
【0014】
SAW共振子10が有するIDT12a,12b、および反射器13a,13b,14a,14bは電極D1,D2,D3,D4で構成され、電極D1の一部が反射器13aを形成している。この電極D1の他の一部と電極D2の一部とでIDT12aを形成している。この電極D2の他の一部が反射器14aを形成している。電極D3の一部が反射器13bを形成している。この電極D3の他の一部と電極D4の一部とでIDT12bを形成している。この電極D4の他の一部が反射器14bを形成している。
【0015】
また、SAW共振子10は端子A1,A2,B1,B2を有している。端子A1は反射器13aを形成している電極D1に接続され、端子A2はIDT12aを形成している電極D2に接続されている。端子B1は反射器14bを形成している電極D4に接続され、端子B2はIDT12bを形成している電極D3に接続されている。ここで、端子A1と端子B1、端子A2と端子B2を繋ぐと、SAW共振子10の共振周波数は共振周波数f1となる。一方、端子A1と端子B2、端子A2と端子B1を繋ぐと、SAW共振子10の共振周波数は共振周波数f2となる。このような共振周波数f1,f2に差異が生じるのは、圧電基板11の表面に現れる弾性波の振動形態が変わるためである。ここで、f1<f2であり、周波数差Δf(=f2−f1)は、IDT12a,12bの寸法を変えることにより、共振周波数f1および共振周波数f2の100〜200ppmの値に適宜設定可能である。さらに、設定した周波数差Δfは、周囲温度が変化したとしても変わることがない性質を持つ。このため、SAW共振子10を用いて発振回路を構成すれば、FSK変調に好適な発振回路1(図2参照)となる。
【0016】
図2は、SAW共振子10を用いた発振回路1の基本構成を示すブロック図である。図2において、発振回路1は、少なくともSAW共振子10と、増幅回路20と、スイッチ手段としての4つのスイッチSW1〜SW4とを備えている。スイッチSW1は、SAW共振子10の端子A2と端子B1との間に設けられ、スイッチSW2は、SAW共振子10の端子A1と端子B1との間に設けられ、スイッチSW3は、SAW共振子10の端子A2と端子B2との間に設けられ、スイッチSW4は、SAW共振子10の端子A1と端子B2との間に設けられている。スイッチ手段としての4つのスイッチSW1〜SW4は、図2に示す通り、第1のIDTとしてのIDT12aに設けられた端子A1,A2間と、および第2のIDTとしてのIDT12bに設けられた端子B1,B2間とに任意の極性で並列に接続されている。増幅回路20は入力端子21と出力端子22とを有しており、SAW共振子10の端子A1と端子A2との間に接続される。増幅回路20の作用により、発振が励起され、かつ持続される。
【0017】
ここで、図2に示されているように、スイッチ手段としての4つのスイッチSW1〜SW4が、第1のIDTとしてのIDT12aと第2のIDTとしてのIDT12bとの極性を反転させるように設けられている。スイッチSW1とスイッチSW4を遮断(OFF)し、スイッチSW2とスイッチSW3を導通(ON)させれば、端子A1と端子B1が接続され、端子A2と端子B2が接続される。すなわち、SAW共振子10の共振周波数は共振周波数f1となる。一方、図示とは逆に、スイッチSW1とスイッチSW4を導通させ、スイッチSW2とスイッチSW3を遮断すれば、端子A1と端子B2が接続され、端子A2と端子B1が接続される。すなわち、SAW共振子10の共振周波数は共振周波数f2となる。発振回路1は、SAW共振子10の共振周波数に極めて近い発振周波数で動作するため、以上のように、4つのスイッチSW1〜SW4を適宜切り替えて共振周波数を周波数差Δfだけ変移させれば、発振周波数もまた周波数差Δfと等しい周波数差だけ変移させることができる。
【0018】
図3は、増幅回路20の具体例の一つである増幅回路20aの構成を示す回路図である。増幅回路20aは、入力端子21と出力端子22との間に縦続接続された3段の反転増幅器23〜25を備えている。反転増幅器23は、相補的に接続された電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタP1と電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタN1を備え、反転増幅器24は、相補的に接続された電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタP2と電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタN2を備え、反転増幅器25は、相補的に接続された電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタP3と電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタN3を備えている。入力端子21と出力端子22との間には、抵抗器R1が接続されており、これにより各反転増幅器23〜25のバイアス電圧が定まる。さらに、入力端子21にはコンデンサC1が、出力端子22にはコンデンサC2が接続されており、これらによって、発振を生起させるために必要な負性抵抗を得ることができる。反転増幅器24の入出力間には、必要に応じて抵抗器R2が接続され、適切な負性抵抗値を得るための位相調整が行なわれる。
【0019】
さらに、図4は、増幅回路20の他の具体例である増幅回路20bの構成を示す回路図である。増幅回路20bは、増幅回路20aにおける反転増幅器23〜25に代えて、反転増幅器33〜35を備えている。具体的には、反転増幅器33は、反転増幅器23のPチャネルMOSトランジスタP1の代わりに電流源BT1を備えており、反転増幅器34は、反転増幅器24のPチャネルMOSトランジスタP2の代わりに電流源BT2を備えており、反転増幅器35は、反転増幅器25のPチャネルMOSトランジスタP3の代わりに電流源BT3を備えている。このように構成された増幅回路20bは、先の増幅回路20aに比して、電源変動の影響を受けにくい特徴を有する。
【0020】
図5は、スイッチSW5〜SW8、および、それらの駆動回路を含めたスイッチ回路の具体的構成例を示したものである。同図に示されるように、スイッチ手段としてのスイッチSW5〜SW8は、それぞれNチャネルMOSトランジスタで構成されている。スイッチSW5およびスイッチSW8のゲート端子には、信号V1が接続されている。また、スイッチSW6およびスイッチSW7のゲート端子には、信号V1をNOTゲート30で論理反転させた信号V2が接続されている。いま、信号V1をローレベル(一般に接地電位)とすれば、信号V2はハイレベル(一般に電源電位)となり、これにより、スイッチSW5とスイッチSW8が遮断状態、スイッチSW6とスイッチSW7が導通状態となる。すなわち、共振周波数f1が選択される。逆に、信号V1をハイレベルとすれば、信号V2はローレベルとなり、これにより、スイッチSW5とスイッチSW8が導通状態、スイッチSW6とスイッチSW7が遮断状態となる。すなわち、共振周波数f2が選択される。以上のように、共振周波数f1,f2の切り替え動作は、信号V1のレベルを切り替えることで行なわれる。
【0021】
図2、図3、図4、図5で説明したそれぞれのスイッチ手段を切り替える瞬間に、増幅回路から得られる発振波形に乱れが生じることがあった。このような不具合を解消するべく検討を行なった結果、発振波形が乱れる原因として、以下に説明する2つの事象が関与していることが明らかとなった。
【0022】
第1の原因は、例えば、図2の場合において、スイッチSW1〜SW4が理想的なタイミングで切り替わらないことである。また、第2の原因は、例えば、図2の場合において、スイッチSW1〜SW4の切り替わり時に発生する衝撃である。先ず、第1の原因について図6に基づいて説明する。
【0023】
図6は、スイッチSW1が遮断状態(OFF状態)から導通状態(ON状態)に転じ、スイッチSW2が導通状態(ON状態)から遮断状態(OFF状態)に転ずるタイミングを仮定している。このとき、仮にスイッチSW2の状態変化がスイッチSW1の状態変化に対して一瞬遅れて生じたとする。このような状況は、当該スイッチの駆動回路のタイミング誤差によって、しばしば起こり得る。例えば、図5に示したスイッチ回路においても、NOTゲート30で生じる伝播遅延によって、信号V2の変化は、信号V1の変化に対して僅かに遅れたものとなる。この場合、図6に示すように、スイッチSW1が導通状態へ遷移しているにも関わらず、スイッチSW2がまだ導通状態を保持している状況が出現する。すなわち、本来、どちらか一方のみが導通しているべきスイッチSW1とスイッチSW2が、同時に導通状態となってしまう。すると、同図中に太い実線で示された経路で、SAW共振子10の端子A1と端子A2との間、および、増幅回路20の入力端子21と出力端子22との間が、それぞれ短絡されてしまう。したがって、この間、SAW共振子10が本来の共振特性を消失してしまうとともに、増幅回路20も所定の増幅作用を阻害されてしまう。これにより、増幅回路20から所望の発振波形を得ることができなくなる。同様の不具合は、スイッチSW1が導通状態から遮断状態に転じ、スイッチSW2が遮断状態から導通状態に転ずる瞬間において、仮にスイッチSW1の状態変化がスイッチSW2の状態変化に対して一瞬遅く生じた場合にも発生する。さらに、スイッチSW3とスイッチSW4についても、以上と全く同様の状況が発生し得る。
【0024】
第2の原因は、スイッチSW1〜SW4の切り替わり時に発生する衝撃である。スイッチSW1〜SW4が切り替わった直後には、SAW共振子10の端子B1と端子B2には、これまでと位相が反転した電位が印加される。一方、SAW共振子10は、圧電基板11の内部に蓄えられた振動のエネルギーにより、スイッチSW1〜SW4が切り替わった後も、切り替わる前の振動状態をしばらく持続しようとする。この振動の持続作用により、端子B1と端子B2には、スイッチSW1〜SW4が切り替わる前と同じ位相の電位が、SAW共振子10の内部から励起され続けている。よって、スイッチSW1〜SW4を介して端子B1と端子B2に供給される電位との間に衝突が生じる。このような電位の衝突により、各部の動作波形に一時的に乱れが生じてしまう。
【0025】
図7は、本発明の実施例1に関わるスイッチ回路の具体例を示す回路図である。図7においても、スイッチ手段としてのスイッチSW5〜SW8は、それぞれNチャネルMOSトランジスタで構成されている。スイッチSW5〜SW8を切り替えて共振周波数を変移させるための信号V1は、スイッチ手段としての遅延回路40に入力されるとともに、スイッチ手段としてのANDゲート41、スイッチ手段としてのNORゲート42のそれぞれ一方の入力端子にも入力される。遅延回路40は、信号V1を期間Tdだけ遅延させた信号V3を生成する。遅延回路40は、偶数個のNOTゲートを縦続接続して既知の技術で構成すればよい。信号V3は、ANDゲート41、NORゲート42のそれぞれの他方の入力端子に入力される。ANDゲート41が出力する信号V11が、スイッチSW5およびスイッチSW8のゲート端子に接続されている。また、NORゲート42が出力する信号V21が、スイッチSW6およびスイッチSW7のゲート端子に接続されている。
【0026】
上記の構成により得られる各信号の波形を、図8に示したタイミングチャート図を用いて説明する。図8に示されるように、信号V1のレベルは、ある期間毎にローレベルからハイレベル、ハイレベルからローレベルへと切り替わっている。すなわち、時刻t1において、ローレベルからハイレベルへと切り替わり、時刻t2において、ハイレベルからローレベルへ切り替わり、時刻t3において、ローレベルからハイレベルへと切り替わっている。遅延回路40の作用により、信号V3のレベルの切り替わりは、信号V1から期間Tdだけ遅れて生じる。すなわち、時刻t11において、ローレベルからハイレベルへと切り替わり、時刻t21において、ハイレベルからローレベルへ切り替わり、時刻t31において、ローレベルからハイレベルへと切り替わる。ANDゲート41の出力である信号V11は、信号V1と信号V3が共にハイレベルとなる期間のみハイレベルとなる。すなわち、時刻t11において、ローレベルからハイレベルへと切り替わり、時刻t2において、ハイレベルからローレベルへ切り替わり、時刻t31において、ローレベルからハイレベルへと切り替わる。一方、NORゲート42の出力である信号V21は、信号V1と信号V3がともにローレベルとなる期間のみハイレベルとなる。すなわち、時刻t1において、ハイレベルからローレベルへと切り替わり、時刻t21において、ローレベルからハイレベルへ切り替わり、時刻t3において、ハイレベルからローレベルへと切り替わる。
【0027】
以上の結果、図8に示されるように、信号V1のレベルが変化した時点から時間である期間Td、すなわち、時刻t1から時刻t11、時刻t2から時刻t21、時刻t3から時刻t31の各期間Tdは、信号V11と信号V21がともにローレベルとなる。すなわち、この第1のIDTとしてのIDT12a(図1参照)および第2のIDTとしてのIDT12b(図1参照)の極性を反転する際に、スイッチ手段としてのスイッチSW5〜SW8(図7参照)が遮断されて、第1のIDTとしてのIDT12aおよび第2のIDTとしてのIDT12bの並列接続状態が解除される期間である期間Tdにおいては、スイッチSW5〜SW8(図7参照)がすべて遮断状態となる。いま、期間Tdを必要最小限にして十分な値に設定しておけば、何らかの要因で信号V11または信号V21のレベルが若干ずれたタイミングで切り替わったとしても、両信号が同時にハイレベルとなる事態を回避することができる。したがって、スイッチSW5とスイッチSW6、あるいは、スイッチSW7とスイッチSW8が、それぞれ同時に導通状態となることが回避され、従来の発振回路の課題であった発振波形の乱れを抑制できる。
【0028】
なお、スイッチSW5〜SW8がすべて遮断状態となる期間Tdは、SAW共振子10の端子B1と端子B2が切り離されて開放状態となるが、端子A1と端子A2は、増幅回路20に常時接続されていることから、発振動作が途切れてしまうことはなく、連続的な波形を得ることができる。
【実施例2】
【0029】
図9は、本発明の実施例2に関わるスイッチ回路の具体例を示す回路図である。図9においても、スイッチ手段としてのスイッチSW11〜SW14は、それぞれ電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタで構成されている。スイッチSW11〜SW14を切り替えて共振周波数を変移させるための信号V1は、スイッチ手段としてのNOTゲート50およびスイッチ手段としての制御ゲート52に入力されており、NOTゲート50が出力する信号V4は、スイッチ手段としての制御ゲート51に入力されている。制御ゲート51が出力する信号V12が、スイッチSW11およびスイッチSW14のゲート端子に接続されている。また、制御ゲート52が出力する信号V22が、スイッチSW12およびスイッチSW13のゲート端子に接続されている。
【0030】
制御ゲート51は、電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタP11と電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタN11とを相補的に組み合わせて構成されている。また、制御ゲート52は、電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタP12と電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタN12とを相補的に組み合わせて構成されている。ここで、PチャネルMOSトランジスタP11およびPチャネルMOSトランジスタP12は、それぞれ、チャネル幅Wとチャネル長Lとのアスペクト比(=W/L)が小さくなるようにゲート電極の寸法が定められている。すなわち、各々の飽和電流値が意図的に少量に制限されている。
【0031】
上記の構成により得られる各信号の波形を、図10に示したタイミングチャート図を用いて説明する。図10に示されるように、信号V1のレベルは、ある期間毎にローレベルからハイレベル、ハイレベルからローレベルへと切り替わっている。すなわち、時刻t1において、ローレベルからハイレベルへと切り替わり、時刻t2において、ハイレベルからローレベルへ切り替わり、時刻t3において、ローレベルからハイレベルへと切り替わっている。NOTゲート50の出力である信号V4は、信号V1の論理が反転されたものとなるから、時刻t1において、ハイレベルからローレベルへと切り替わり、時刻t2において、ローレベルからハイレベルへ切り替わり、時刻t3において、ハイレベルからローレベルへと切り替わる。
【0032】
時刻t1において、信号V4がローレベルに切り替わると、制御ゲート51の内部において、PチャネルMOSトランジスタP11が導通状態となり、NチャネルMOSトランジスタN11が遮断状態となる。この結果、スイッチSW11とスイッチSW14のゲート端子に電源電位から充電が行なわれ、ローレベルに維持されていた信号V12のレベルが上昇し始める。しかしながら、前述したようにPチャネルMOSトランジスタP11の飽和電流は制限されているため、信号V12のレベルの上昇度合いは、図示した通りに緩慢なものとなる。このため、スイッチSW11とスイッチSW14は、時刻t1以降、徐々にそれらのオン抵抗を下げながら、緩やかに導通状態へと遷移していく。同じく、時刻t1においては、信号V1がハイレベルに切り替わることから、制御ゲート52の内部において、PチャネルMOSトランジスタP12が遮断状態となり、NチャネルMOSトランジスタN12が導通状態となる。この結果、スイッチSW2とスイッチSW3のゲート端子から接地電位へ放電が行なわれ、ハイレベルに維持されていた信号V22のレベルが下降する。NチャネルMOSトランジスタN12は飽和電流値が制限されていないため、信号V22のレベルの下降度合いは、図示した通りに速やかなものとなる。同じく、時刻t1においては、信号V1がハイレベルに切り替わることから、制御ゲート52の内部において、PチャネルMOSトランジスタP12が遮断状態となり、NチャネルMOSトランジスタN12が導通状態となる。この結果、スイッチSW12とスイッチSW13のゲート端子から接地電位へ放電が行なわれ、ハイレベルに維持されていた信号V22のレベルが下降する。NチャネルMOSトランジスタN12は飽和電流値が制限されていないため、信号V22のレベルの下降度合いは、図示した通りに速やかなものとなる。
【0033】
続く時刻t2において、信号V1がローレベルに切り替わると、制御ゲート52の内部において、PチャネルMOSトランジスタP12が導通状態となり、NチャネルMOSトランジスタN12が遮断状態となる。この結果、スイッチSW12とスイッチSW13のゲート端子に電源電位から充電が行なわれ、ローレベルに維持されていた信号V22のレベルが上昇し始める。しかしながら、前述したようにPチャネルMOSトランジスタP12の飽和電流は制限されているため、信号V22のレベルの上昇度合いは、図示した通りに緩慢なものとなる。このため、スイッチSW12とスイッチSW13は、時刻t2以降、徐々にそれらのオン抵抗を下げながら、緩やかに導通状態へと遷移していく。同じく、時刻t2においては、信号V4がハイレベルに切り替わることから、制御ゲート51の内部において、PチャネルMOSトランジスタP11が遮断状態となり、NチャネルMOSトランジスタN11が導通状態となる。この結果、スイッチSW11とスイッチSW14のゲート端子から接地電位へ放電が行なわれ、ハイレベルに維持されていた信号V12のレベルが下降する。NチャネルMOSトランジスタN11は飽和電流値が制限されていないため、信号V12のレベルの下降度合いは、図示した通りに速やかなものとなる。
【0034】
続く時刻t3における動作は、前述した時刻t1におけるものと同一である。
【0035】
以上説明したように、図9のスイッチ回路によれば、各スイッチSW11〜SW14が遮断状態から導通状態に遷移するときは、電界効果型トランジスタのゲート端子に対する充放電の電流量を制限することによって、それらのオン抵抗は瞬時に低下することなく、徐々に低下していく。したがって、スイッチSW11〜SW14の切り替わり時に発生する衝撃が緩和され、従来の発振回路の課題であった発振波形の乱れを抑制できる。
【0036】
以上、2つの実施例について説明したが、これらは独立して用いられる必然性はない。両実施例を組み合わせて使用することで、より効果を高めることが可能である。また、以上の実施例は一例に過ぎず、各構成要素が様々な形態を採り得ることは言うまでもない。例えば、スイッチSW5〜SW8またはスイッチSW11〜SW14は、NチャネルMOSトランジスタには限られず、PチャネルMOSトランジスタであってもよいし、NチャネルMOSトランジスタとPチャネルMOSトランジスタを並列に接続したトランスミッションゲートであってもよい。このような各種の置換は、若干の回路変更を伴うが、既知の技術によって容易に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】SAW共振子10の構造を示す模式図。
【図2】SAW共振子10を用いた発振回路1の基本構成を示すブロック図。
【図3】増幅回路20の第1の構成例を示す回路図。
【図4】増幅回路20の第2の構成例を示す回路図。
【図5】本発明の発振回路に用いられるスイッチ回路の第1の構成例を示す回路図。
【図6】図2の発振回路1の動作を示すタイミングチャート図。
【図7】本発明の発振回路に用いられるスイッチ回路の第2の構成例を示す回路図。
【図8】本発明の図7のスイッチ回路の動作を示すタイミングチャート図。
【図9】本発明の発振回路に用いられるスイッチ回路の第3の構成例を示す回路図。
【図10】本発明の図9のスイッチ回路の動作を示すタイミングチャート図。
【符号の説明】
【0038】
1…発振回路、10…SAW共振子、11…圧電基板、12a…第1のIDTとしてのIDT、12b…第2のIDTとしてのIDT、13a,13b,14a,14b…反射器、20,20a,20b…増幅回路、21…入力端子、22…出力端子、23,24,25,33,34,35…反転増幅器、30…NOTゲート、40…スイッチ手段としての遅延回路、41…スイッチ手段としてのANDゲート、42…スイッチ手段としてのNORゲート、50…スイッチ手段としてのNOTゲート、51,52…スイッチ手段としての制御ゲート、A1,A2,B1,B2…端子、BT1,BT2,BT3…電流源、C1,C2…コンデンサ、D1,D2,D3,D4…電極、f1,f2…共振周波数、L…チャネル長、N1,N2,N3,N11,N12…電界効果型トランジスタとしてのNチャネルMOSトランジスタ、P1,P2,P3,P11,P12…電界効果型トランジスタとしてのPチャネルMOSトランジスタ、R1,R2…抵抗器、SW1,SW2,SW3,SW4…スイッチ、SW5,SW6,SW7,SW8,SW11,SW12,SW13,SW14…スイッチ手段としてのスイッチ、t1,t2,t3,t11,t21,t31…時刻、Td…期間、V1,V2,V3,V4,V11,V12,V21,V22…信号、W…チャネル幅、Δf…周波数差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に第1のIDTおよび第2のIDTが隣接して設けられているSAW共振子と、前記第1のIDTおよび前記第2のIDTを任意の極性で並列に接続するためのスイッチ手段とを具備し、前記スイッチ手段が前記極性を反転させることで発振周波数が変化するように構成され、前記極性を反転する際に、前記スイッチ手段が遮断されて、前記第1のIDTおよび前記第2のIDTの並列接続状態が解除される期間が設けられていることを特徴とする発振回路。
【請求項2】
圧電基板上に第1のIDTおよび第2のIDTが隣接して設けられているSAW共振子と、前記第1のIDTおよび前記第2のIDTを任意の極性で並列に接続するためのスイッチ手段とを具備し、前記スイッチ手段が前記極性を反転させることで発振周波数が変化するように構成され、前記スイッチ手段が遮断状態から導通状態に遷移する際に、前記スイッチ手段のオン抵抗が徐々に低下することを特徴とする発振回路。
【請求項3】
前記スイッチ手段は電界効果型トランジスタで構成され、前記遮断状態から前記導通状態へ遷移する際に、前記電界効果型トランジスタのゲート端子に対する充放電の電流量を制限することで、前記オン抵抗が徐々に低下することを特徴とする請求項2に記載の発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−243261(P2007−243261A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58980(P2006−58980)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】