説明

発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法

【課題】高い熱疲労耐久性を有する発熱部品冷却装置の製造に用いられる熱応力緩和材として好適な、面接合性に優れたアルミニウム・クラッド材を、有利に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】不可避的不純物の含有量を0.1質量%以下とした、アルミニウム純度が99.9質量%以上の高純度アルミニウムからなる柱状の心素材32にAl−Si系合金ろう材からなる所定厚さの皮素材34を重ね合わせ乃至は巻き付けてなる構造の複合ビレット30を用いて、細長なダイス孔を通じて熱間押出することにより、フラットバー形状の複合押出物を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法に係り、特に、弗化物系フラックスを用いるろう付け、又は真空ろう付け等の、ろう付け接合により製造される発熱部品冷却装置において、発熱部品と冷却器(ヒートシンクの場合もあり)を接合する部材として、好適に使用されるアルミニウム・クラッド材を、有利に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、発熱部品冷却装置は、半導体素子や集積回路等の発熱部品と、冷却水通路とヘッダー(必要に応じてフィン)とを組み合わせてなる熱交換器等の構造の冷却器とから構成され、それら発熱部品と熱交換器等の冷却器との間は、はんだ付けやろう付けによって接合されている。具体的には、発熱部品冷却装置の一つである半導体素子冷却装置においては、例えば、図1に示される如く、冷却器たる熱交換器2に対して、発熱部品である半導体素子4が、はんだ(ろう)6により接合されて、かかる熱交換器2内に設けられた冷却水通路8内を流通せしめられる冷却水によって、半導体素子4が冷却されるようになっている。
【0003】
しかしながら、そのような従来の発熱部品冷却装置にあっては、半導体素子や集積回路等の発熱部品と熱交換器等の冷却器との間の温度差や線膨張係数の差により、熱ひずみが生じ、半導体素子や集積回路、熱交換器のそれぞれに、繰り返し、熱応力が作用することとなる結果、熱疲労による割れが惹起され、甚だしい場合にあっては、集積回路の機能が損なわれることとなったり、熱交換器から冷媒の漏洩を生じることがあった。また、半導体素子の場合には、半導体素子と熱交換器との間の膨張率の差によって破壊され、その機能が失われる場合もあったのである。
【0004】
尤も、それら半導体素子や集積回路等の発熱部品と熱交換器等の冷却器とを接合するはんだやろうは、熱応力緩和材として有効であることが知られているのであるが(非特許文献1)、そのような半導体素子や集積回路等の発熱部品と熱交換器等の冷却器との間の温度差や熱膨張係数の差が大きい場合にあっては、その効果は充分でなく、前記した問題を惹起することとなるものであった。
【0005】
一方、特許文献1においては、半導体素子や集積回路等の発熱部品とヒートシンクとの間に、純度99重量%以上のアルミニウム箔を介装して、それらを接合することにより、かかるアルミニウム箔を熱応力緩和材として用いるようにした構造が、提案されている。しかしながら、この場合において、アルミニウム箔の表面には、Al−Si合金等をコーティングしたり、又は蒸着したりして、半導体素子や集積回路とヒートシンクとの接合のためのAl融点降下層を設ける必要があるところ、そのようなAl融点降下層を設けた場合にあっても、アルミニウム箔と半導体素子や集積回路との間や、アルミニウム箔とヒートシンクとの間の接合に対し、ろう量が充分でないために、充分な接合を実現することが出来ず、それらの間に、すきまが生じてしまい、冷却性能が低下する場合が生じていた。しかも、かかるAl融点降下層を設ける作業は面倒であることに加えて、薄く均一に形成することが難しく、その生産性において劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−270596号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人軽金属溶接構造協会発行「アルミニウムブレージングハンドブック」(改訂版)第252〜261頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、半導体素子や集積回路等の発熱部品と熱交換器の如き冷却器との間をろう付け接合することによって製造される発熱部品冷却装置において、高い熱疲労耐久性を有する発熱部品冷却装置の製造に用いられる熱応力緩和材として好適な、面接合性に優れたアルミニウム・クラッド材を、容易に且つ有利に製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0010】
(1) 心材の片面或いは両面に、Al−Si系合金ろう材からなる皮材をクラッドしたものであって、該心材が、不可避的不純物の含有量を0.1質量%以下とした、アルミニウム純度が99.9質量%以上の高純度アルミニウムからなる発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材を製造する方法にして、
前記高純度アルミニウムからなる柱状の心素材に、前記ろう材からなる所定厚さの皮素材を重ね合わせ乃至は巻き付けてなる構造の複合ビレットを用いて、細長なダイス孔を通じて熱間押出することにより、フラットバー形状の複合押出物を形成することを特徴とする発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0011】
(2) 前記複合押出物から、その両端部を切除して、前記心素材から形成された心材層と前記皮素材から形成された皮材層とが複合一体化されてなるクラッド材を得ることを特徴とする上記態様(1)に記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0012】
(3) 前記熱間押出が、間接押出方式にて実施される上記態様(1)又は(2)に記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0013】
(4) 前記複合押出物を、冷間或いは熱間で抽伸加工することにより、目的とする厚さのクラッド材を得る上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0014】
(5) 前記複合押出物を、冷間或いは熱間で圧延加工することにより、目的とする厚さのクラッド材を得る上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0015】
(6) 前記アルミニウム・クラッド材が、0.5mmを超え、3mm以下の厚さを有している上記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0016】
(7) 前記心材が、不可避的不純物の含有量を0.01質量%以下とした、アルミニウム純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムからなることを特徴とする上記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0017】
(8) 前記心材が、不可避的不純物の含有量を0.001質量%以下とした、アルミニウム純度が99.999質量%以上の高純度アルミニウムからなるものである上記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【0018】
(9) 前記皮材のクラッド厚さが、0.005mm〜0.1mmである上記態様(1)乃至(8)の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明に従う発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法によれば、高純度アルミニウムからなる心素材と所定のろう材からなる皮素材とから構成される複合構造のビレットを用いて、フラットバー形状に熱間押出することにより、心素材と皮素材とがクラッド構造において効果的に一体化せしめられてなる所定厚さの複合押出物を形成することが出来、以て、健全なクラッド材を容易に且つ有利に得ることが可能となるのである。具体的には、高純度アルミニウムからなる心素材と所定のろう材からなる皮素材の変形抵抗差に関係なく、それら心素材と皮素材とが効果的に接合されて、心材層と皮材層からなる健全なクラッド材を得ることが可能となったのであり、従って、得られたクラッド材において、皮材層が反って、心材層から剥がれてしまう恐れも、有利に解消乃至は緩和され得ることとなるのである。
【0020】
また、かかる本発明に従う製造方法によって得られるアルミニウム・クラッド材にあっては、その心材層を与える高純度アルミニウム材が、ろう材に比べて、引張強さ及び耐力が極めて小さく、延性が高い特徴を有しているところから、そのような高純度アルミニウム材をクラッド材の芯に使用することによって、高い熱ひずみ緩和特性が有利に発揮され得ることとなるのであり、更に、そのような高純度アルミニウム心材層の片面或いは両面に所定厚さのろう材(皮材)層を配して、アルミニウム・クラッド材とすることによって、半導体素子や集積回路等の発熱部品と高純度アルミニウムとの接合面や、高純度アルミニウムと熱交換器の如き冷却器の接合面には、充分なろう材が供給され得るようになり、以て、良好な面接合性が得られることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の半導体素子冷却装置の一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明において対象とされるアルミニウム・クラッド材を用いて得られた半導体素子冷却装置の一例を示す断面説明図である。
【図3】本発明において対象とされるアルミニウム・クラッド材の一例を示す断面説明図である。
【図4】本発明において用いられる複合ビレットの一例を示す図であって、(a)はその正面図、(b)は(a)におけるIV−IV断面説明図である。
【図5】本発明において用いられる複合ビレットの異なる一例を示す図であって、(a)はその正面図、(b)は(a)におけるV−V断面説明図である。
【図6】図4に示される複合ビレットを用いて熱間押出して得られた複合押出物の横断面説明図である。
【図7】図5に示される複合ビレットを用いて熱間押出して得られた複合押出物の横断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここにおいて、図2には、本発明に従って得られた発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材を用いて接合されてなる、発熱部品冷却装置の一つである半導体素子冷却装置の一例が、図1に対応する断面形態において、概略的に示されている。そこにおいて、半導体素子冷却装置10は、冷却器の一つである、従来と同様な構造の熱交換器12に対して、発熱部品の一つである半導体素子14が、アルミニウム・クラッド材16を介して接合されているのである。なお、熱交換器12には、従来と同様に、冷却水通路18が配設されており、この冷却水通路18内を冷却水が流通せしめられることによって、半導体素子14の冷却が行なわれるようになっている。
【0023】
また、そこで、クラッド材16は、図3に示される如く、板状の心材(層)20の両面に、所定厚さの皮材(層)22、22が、一体的に設けられてなる構造を有しており、このクラッド材16が熱交換器12の所定の部位に配置され、更にその上に、半導体素子14が配置せしめられた状態下において、加熱されることにより、かかる皮材22を溶融せしめ、以て、心材20を介して、熱交換器12に対して、半導体素子14が一体的に接合されているのである。
【0024】
ところで、かくの如く、熱交換器12と半導体素子14との接合に用いられるアルミニウム・クラッド材16において、それを構成する心材20は、本発明に従って、不可避的不純物の含有量を0.1質量%以下とした、アルミニウム純度が99.9質量%以上の純アルミニウム(高純度アルミニウム)を、その材質としていることにより、熱応力の緩和が有効に行なわれ得るようになっている。即ち、かかる心材20を与える高純度アルミニウムは、ろう材に比べて、引張強さ及び耐力が極めて小さく、延性が高い特徴を有しており、例えば、99.99質量%Al心材にあっては、引張強さ:30MPa、伸び:30%であって、ろう材の引張強さ:140MPa及びろう材の伸び:10%に比べて、優れた特徴を有しているのである。このため、そのような高純度アルミニウムをクラッド材の心材(層)に用いることによって、高い熱ひずみ緩和性が得られることとなるのである。なお、アルミニウム純度が99.9質量%未満では、そのような効果が充分でなく、熱応力緩和性能が低下することとなる。また、かかるアルミニウム純度は、より好ましくは、99.99質量%以上(不可避的不純物の含有量は0.01質量%以下)であり、更に好ましくは、99.999質量%以上(不可避的不純物の含有量は0.001質量%以下)である。
【0025】
さらに、かかる高純度アルミニウムにおいて、アルミニウムを除く残余の成分は、不可避的不純物であって、その精錬方法に応じて、各種の元素が不可避的に存在することとなるのであるが、そのような不可避的不純物は、合計量において、0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下となるように、調整される。そして、そのような不可避的不純物は、例えば、99.9質量%の高純度アルミニウムにあっては、通常、Fe、Si、Ti、V、Zr、Ga等が10ppm程度或いはそれ以下、更にMnやZn等が数ppm程度若しくはそれ以下の割合とされている。また、99.99質量%の高純度アルミニウムの場合にあっては、Fe、Si、Cu等が数ppm程度若しくはそれ以下の割合で含有され、更に、99.999質量%の高純度アルミニウムにあっては、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti等が、それぞれ1ppm程度或いはそれ以下の割合で含有されているものである。
【0026】
なお、かくの如き高純度アルミニウムは、公知の各種の精錬手法に従って得ることが可能であり、例えば、99.9質量%の高純度アルミニウムは、通常の電解精錬法で得られたアルミニウム地金を用いて、分別結晶法(ペシネー法)により、その純度を高めることによって、得ることが出来る。また、99.99質量%の高純度アルミニウムは、通常の電解精錬法で得られたアルミニウム地金を用いて、三層電解法により、その純度を高めることで、得ることが出来、更に、99.999質量%の高純度アルミニウムは、上記した三層電解法で得られた高純度地金を用いて、一方向凝固法やゾーンメルティング法によって、その純度を高めることで、得ることが可能である。
【0027】
そして、そのような高純度アルミニウムからなる心材20の厚さとしては、0.5mmを超え、3mm以下の厚さが採用され、特に、0.6mm以上2mm以下の厚さが、有利に採用されることとなる。なお、心材厚さが0.5mm以下となると、熱ひずみ緩和性が不十分となり、半導体素子冷却装置10の特性に悪影響をもたらすようになり、また、3mmを超えるようになると、冷却性能が低下する等の問題を惹起することとなる。
【0028】
さらに、アルミニウム・クラッド材16における他の一つの構成成分たる皮材22は、Al−Si系合金ろう材を材質とするものであって、そのようなAl−Si系合金ろう材としては、Al−Si系やAl−Si−Mg系等の、公知の4000系合金ろう材を用いることが出来、例えば、Si:4〜13質量%のAl−Si系合金ろう材や、それに、更にMg:0.1〜2.0質量%を含有せしめてなるAl−Si−Mg系合金ろう材を挙げることが出来る。また、そのようなAl合金ろう材には、Cu、ZnやSr等の各種元素の少なくとも1種を更に添加した、公知のろう材を用いることも出来、そこでは、例えば、Cuは5質量%程度以下において、Znは8質量%程度以下において、更に、Feは2質量%程度以下において添加され、更にその他の元素として、Sr:0.005〜0.1質量%程度、Bi:0.2質量%程度以下、Be:0.1質量%程度以下、In:0.001〜0.05質量%程度、Sn:0.001〜0.005質量%程度、Na:1〜100ppm程度において、それぞれ必要に応じて添加される。
【0029】
そして、かかるAl合金ろう材からなる皮材22は、図3に示される如く、心材20の両側の面に、所定厚さにおいて一体的に設けられる他、そのような心材20の一方の側の面に対してのみ設けて、一体的なクラッド材とすることも可能である。また、そこで、心材20の片面或いは両面にクラッドされる皮材22の厚さとしては、一般に、0.005mm以上0.1mm以下が有利に採用され、そのような厚さの皮材22が、心材20の少なくとも一方の面に一体的に設けられて、クラッド材16とされるのである。かかる皮材22の厚さが0.005mm未満となると、熱交換器12と半導体素子14との間のろう付けが不良となり易く、良好な接合を得ることが困難となるからであり、また0.1mmを超えるようになると、余ったろう材が接合部以外に流れ出し、発熱部品冷却装置の機能が損なわれる場合が生じるからである。
【0030】
このように、高純度アルミニウムからなる心材20の片面或いは両面に、Al−Si系合金ろう材からなる皮材22をクラッドしてなるアルミニウム・クラッド材16を用い、これを熱交換器12と半導体素子14との間に配置して、加熱、ろう付けを行なうことによって、熱交換器12と心材20との接合面や、半導体素子14と心材20との接合面には、充分なろう材が供給されることとなり、以て、良好な面接合性が得られ、そしてそれによって、高純度アルミニウムからなる心材20による、それら熱交換器12と半導体素子との間の高い熱ひずみ緩和作用が、効果的に発揮され得ることとなる。
【0031】
そして、本発明にあっては、かくの如き構造のアルミニウム・クラッド材16を有利に製造するために、熱間押出操作が採用されるのである。具体的には、前記した高純度アルミニウムからなる柱状の心素材に、前記ろう材からなる所定厚さの皮素材を重ね合わせ乃至は巻き付けてなる構造の複合ビレットを用い、それを、細長なダイス孔を通じて熱間押出することにより、フラットバー形状の複合押出物を形成することとしたのであり、これによって、その得られた複合押出物から、特性に優れたクラッド材16を、容易に且つ有利に得ることが出来たのである。
【0032】
ところで、目的とする厚さのクラッド材の製造に際しては、一般に、心素材の片面或いは両面に皮素材を重ね合わせ、熱間合わせ圧延を行なう手法が考えられるのであるが、本発明の如き材質の組合せの場合にあっては、心素材の高純度アルミニウム材の強度が、皮素材であるろう材のそれに比べて著しく異なり、そこに大きな差があり過ぎるところから、熱間合わせ圧延時に心素材がよく伸びてしまい、皮素材であるろう材が圧延ロール形状に反ってしまう傾向があり、これにより、心素材と皮素材が剥がれ易くなるという問題を内在しているのである。このために、健全なクラッド材を得ることが困難であるばかりでなく、クラッド率のばらつきも大きくなることとなって、良好なクラッド材を得ることが困難であるという問題も内在しているのである。
【0033】
このため、本発明にあっては、高純度アルミニウムからなる心素材に対して、所定のろう材からなる皮素材を巻き付け或いは重ね合わせてなる複合ビレットを用い、これを、フラットバー形状に熱間押出することによって、皮材が反って心材から剥がれてしまうという問題を効果的に解消せしめ得たのである。また、それによって、心素材と皮素材の変形抵抗差に関係なく、心素材と皮素材が良好に接合され、また、クラッド率のばらつきも効果的に抑制され得て、健全なクラッド材を得ることが可能となったのである。
【0034】
なお、かかる熱間押出に供される複合ビレットは、半連続鋳造法等の常法によって製造された高純度アルミニウムからなる柱状の心素材の周囲に、所定のろう材からなる所定厚さの皮素材を配することによって構成されたものであり、そして、そのような心素材の周囲に配される皮素材は、例えば、圧延板材を円筒形に曲げ加工して、柱状の心素材に溶接したり、円筒形に刳り貫いた所定厚さの皮素材を柱状の心素材に外挿して、嵌め合わせたりして、構成されることとなる。なお、それら心素材や皮素材には、従来と同様に、必要に応じて均質化処理を施すことも可能である。
【0035】
図4及び図5には、そのような複合ビレットの異なる一例が示されている。即ち、図4に示される複合ビレット30は、所定の高純度アルミニウムからなる柱状の心素材32に対して、所定厚さの板状のろう材が半円形状に曲げ加工されてなる皮素材34を巻き付けてなる形態において組み付けられ、そして皮素材34の半円形状の両端部において、MIG溶接により、心素材32に溶着固定されて、MIG溶接部36を構成し、全体として、円柱形状のビレットを与えている。また、図5に示される複合ビレット40は、柱状の心素材42に対して、円筒形状に曲げ加工された所定厚さの皮素材44が巻き付けられ、MIG溶接によって形成されるMIG溶接部46において、心素材42に対して一体的に固定され、全体として円柱形状のビレットとされている。
【0036】
また、このような複合ビレット30、40は、従来と同様にして、直接押出方式や間接押出方式にて、細長なダイス孔を通じて熱間押出され、フラットバー形状の複合押出物が形成されることとなるが、特に、本発明にあっては、間接押出方式が、クラッド率のばらつきを小さくすることが出来るところから、有利に採用されることとなる。また、そのような熱間押出に際しては、一般に、350〜550℃程度の押出温度が、好適に採用されるのである。なお、この押出温度が低くなり過ぎると、熱間押出が困難となるからであり、また高くなり過ぎると、材料の溶融等の問題が惹起されるようになるからである。
【0037】
そして、複合ビレット(30、40)を、細長なダイス孔を通じて熱間押出するに際しては、かかるダイス孔の細長な方向に、心素材(32、42)及び皮素材(34、44)が延びるように位置するようにして、押し出されることとなる。
【0038】
具体的には、図4に示される複合ビレット30にあっては、その(a)に示される上下のMIG溶接部36、36が、細長なダイス孔の長手方向に位置するようにして、熱間押出されるのであり、これによって、心材層52の一方の側の面に皮材層54が形成されてなる、図6に示される如き横断面形態を与える複合押出物50が、形成せしめられるのである。
【0039】
また、図5に示される複合ビレット40にあっては、望ましくは、その皮素材44を固定するMIG溶接部46が細長なダイス孔の端部に位置するようにして、熱間押出されるのであって、以て、図7に示される如き、中心部に心材層62が位置し、その周りを取り巻くように、所定厚さの皮材層64が形成されてなる形態の複合押出物60が、形成されることとなる。
【0040】
そして、このようにして得られた複合押出物50、60においては、その細長な横断面における中央部位において、心材層52、62と皮材層54、64とが、均一なクラッド構造を呈するものであるところから、図6や図7に示される如く、その細長な横断面における両端部が、例えば、一点鎖線にて示される位置において切除されることにより、Aにて示される領域の、心材層52、62と皮材層54、64との厚さが均一な部位において取り出され、以て、目的とするクラッド材として使用され、更には、それを用いて、最終的なクラッド材に仕上げられることとなるのである。尤も、そのような複合押出物50、60において、両端部のクラッド率が不安定な部分が微少であったり、クラッド率の不安定な部分が製品の品質に与える影響が軽微である場合には、コスト低減を図る上において、両端部の切除を省略して、複合押出物50、60をそのまま使用することも可能であることは、勿論である。
【0041】
また、かかる片面クラッド構造や両面クラッド構造の複合押出物50、60は、上記した両端部の切除に先立って、或いは、そのような切除を行なった後、所定の形状を得るべく、必要に応じて冷間或いは熱間で抽伸せしめられたり、最終厚さのクラッド材とするために、冷間或いは熱間で圧延せしめられたりされることとなるが、特に、かかる圧延の採用によって、クラッド材の平坦度を高めることも可能である。なお、そのような冷間抽伸加工や冷間圧延に際し、その途中やその終了後に、通常の焼鈍操作を施すことも可能である。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0043】
−クラッド材の製造−
アルミニウム純度が99.5%(質量基準。以下同じ)、99.9%、99.99%又は99.999%である心材用Al、及びJIS A4004のろう材用Al合金を、それぞれ、通常の連続鋳造法により造塊し、そして、心材用の鋳塊については600℃×3時間の均質化処理を、またろう材用の鋳塊については500℃×1時間の均質化処理を、それぞれ施す一方、ろう材用Al合金の鋳塊については、更に熱間圧延を行なって、所定厚さの板状皮素材を得た。
【0044】
次いで、かかるろう材用Al合金からなる板状の皮素材を、前記得られた心材用Alからなる鋳塊(皮素材)に対して、図4や図5に示される如く巻き付け、その合わせ部をMIG溶接して固定することにより、それぞれ、複合ビレット(30、40)を作製した。そして、このようにして得られた複合ビレット(30、40)を500℃に加熱した後、通常の間接押出方式により、細長な矩形のダイス孔を通じて熱間押出することにより、片面クラッド構造又は両面クラッド構造のフラットバー形状の複合押出物(50、60)を得た。この得られたフラットバー形状の複合押出物の寸法は、70mmw×1.5mmtであった。また、クラッド構成は、片面クラッド構造の複合押出物(50)においては、皮材層(54)の厚さが0.075mm(クラッド率として5%)であり、残りの厚さ(1.425mm)が心材層(52)となった。さらに、両面クラッド構造の複合押出物(60)にあっては、両側のそれぞれの皮材層(64)の厚さを0.075mmとして、皮材層(64)のクラッド率が5%となるようにした。
【0045】
なお、かかる得られたフラットバー形状の複合押出物(50、60)にあっては、その幅方向の両端部は、クラッド率が不安定となるものであるところから、端部から5〜10mm程度の幅において切断除去され、図6や図7に示される如き、クラッド材として使用可能な範囲:Aの部位が取り出された。
【0046】
また、かくして得られた、片面クラッド構造の複合押出物(50)や両面クラッド構造の複合押出物(60)は、その何れにおいても、心材層(52、62)と皮材層(54、64)とが一体的に緊密に接合されてなる、健全なクラッド材であることが明らかとなった。
【0047】
−ろう付け性の評価−
上記において、アルミニウム純度が99.99質量%の高純度アルミニウムからなる心素材を用いて得られた両面クラッド構造のクラッド材(20mm×20mm×1mmt)と、アルミニウム合金(A3003)板材(50mm×50mm×1mmt)とを重ね合わせ、カーボン治具で固定した後、真空ろう付けを行なった。なお、このろう付け時の到達真空度(圧力)は、5×10-5torr以下、最高到達温度は600℃とし、更に、かかる到達温度における保持時間は3分とした。
【0048】
また、比較のために、純度が99.99%のアルミニウム板(20mm×20mm×1mmt)を用い、その表面にノコロックSilフラックス(ノコロックフラックス:平均粒径20μmのSi粉末=3:1)と合成樹脂バインダの混合物を塗布したものと、アルミニウム合金(A3003)板材(50mm×50mm×1mmt)とを重ね合わせ、カーボン治具で固定した後、窒素ガス雰囲気中でろう付けを行なった。なお、上記の混合物の塗布量は、フラックスとSi粉末を合わせた重量として10〜15g/m2 とし、酸素濃度は100ppm以下、最高到達温度は600℃、到達温度における保持時間は3分とした。
【0049】
そして、上記のろう付け操作にて得られた二種のろう付け物について、そのろう付け後の重ね合わせ部を超音波探傷し、接合部を二次元マッピングした画像を解析することにより、面接合率を求め、その結果を、下記表1に示した。この表1の結果よりして、本発明に従って得られたクラッド材を用いた場合にあっては、従来のろう材を単に付与したものに比べて、面接合率が高く、効果的な接合面を形成していることが認められる。
【0050】
【表1】

【0051】
−熱ひずみ緩和性の評価−
上記で得られたアルミニウム純度が異なる各種のアルミニウム心材層と、アルミニウム合金ろう材(A4004)からなる皮材層とにて構成されるクラッド材を用いて、熱ひずみ緩和性を評価した。なお、アルミニウム純度が99.9%のアルミニウム心材層の片面に対して、アルミニウム合金ろう材(A4004)からなる皮材層が設けられてなるクラッド材にあっては、その一つの皮材層の厚さが0.075mmとなるようにされている。そして、ぞれぞれのクラッド材について、その熱ひずみ緩和性を、それぞれの心材層の機械的特性により評価し、半導体素子(14)の温度上昇を想定した150℃における耐力が25MPa以下であれば○、それを超えれば×として、その結果を、下記表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
かかる表2の結果から明らかな如く、クラッド材を構成する心材層におけるアルミニウム純度が99.9%以上となることにより、優れた熱ひずみ緩和性を有していることが認められた。
【符号の説明】
【0054】
2,12 熱交換器(冷却器) 4,14 半導体素子
6 はんだ(ろう) 8,18 冷却水通路
10 半導体素子冷却装置 16 クラッド材
20 心材 22 ろう材
30,40 複合ビレット 32,42 心素材
34,44 皮素材 36,46 MIG溶接部
50,60 複合押出物 52,62 心材層
54,64 皮材層







【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の片面或いは両面に、Al−Si系合金ろう材からなる皮材をクラッドしたものであって、該心材が、不可避的不純物の含有量を0.1質量%以下とした、アルミニウム純度が99.9質量%以上の高純度アルミニウムからなる発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材を製造する方法にして、
前記高純度アルミニウムからなる柱状の心素材に、前記ろう材からなる所定厚さの皮素材を重ね合わせ乃至は巻き付けてなる構造の複合ビレットを用いて、細長なダイス孔を通じて熱間押出することにより、フラットバー形状の複合押出物を形成することを特徴とする発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項2】
前記複合押出物から、その両端部を切除して、前記心素材から形成された心材層と前記皮素材から形成された皮材層とが複合一体化されてなるクラッド材を得ることを特徴とする請求項1に記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項3】
前記熱間押出が、間接押出方式にて実施される請求項1又は請求項2に記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項4】
前記複合押出物を、冷間或いは熱間で抽伸加工することにより、目的とする厚さのクラッド材を得る請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項5】
前記複合押出物を、冷間或いは熱間で圧延加工することにより、目的とする厚さのクラッド材を得る請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム・クラッド材が、0.5mmを超え、3mm以下の厚さを有している請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項7】
前記心材が、不可避的不純物の含有量を0.01質量%以下とした、アルミニウム純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項8】
前記心材が、不可避的不純物の含有量を0.001質量%以下とした、アルミニウム純度が99.999質量%以上の高純度アルミニウムからなるものである請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。
【請求項9】
前記皮材のクラッド厚さが、0.005mm〜0.1mmである請求項1乃至請求項8の何れか一つに記載の発熱部品冷却装置用アルミニウム・クラッド材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172929(P2010−172929A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17912(P2009−17912)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】