説明

硬化性シリコーン樹脂組成物及びそれを用いた発光ダイオード装置

【課題】ガス透過性が小さいだけでなく界面反射が低減された、発光ダイオード装置の封止用として好適な硬化性シリコーン樹脂組成物、及び、良好な発光輝度を有する、一般照明用に使用することも可能な発光ダイオード装置を提供すること。
【解決手段】発光ダイオード装置における封止用に使用する硬化性シリコーン樹脂組成物、及びそれを用いた発光ダイオード装置。前記硬化性シリコーン組成物が、少なくとも、硬化後の屈折率が1.50〜1.55のシリコーン樹脂と、シリコーン樹脂中に1〜30質量%の濃度で均一に分散された平均粒径1〜10μmの酸化珪素フィラーからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子の封止用樹脂組成物及びそれを用いた発光ダイオード装置(LED)に関し、特に、特定粒径の酸化珪素フィラーを一定範囲の濃度で含有する硬化性シリコーン樹脂組成物、及び、該組成物を封止樹脂として用いてなる発光ダイオード装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の光半導体素子の被覆保護用樹脂組成物としては、その硬化物が透明性を有することが必要であり、一般にビスフェノールA型エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と酸無水物系硬化剤を用いて得られる樹脂が用いられている(特許文献1及び2)。しかしながら、これらの透明エポキシ樹脂は、短波長の光に対する光線透過性が低いために、光耐久性が低かったり光劣化により着色したりするという欠点を有していた。
【0003】
そこで、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を一分子中に少なくとも2個有する有機化合物、及び一分子中に少なくとも2個のSiH基を有するケイ素化合物、並びに、ヒドロシリル化触媒からなる光半導体素子の被覆保護用樹脂組成物も提案されている(特許文献3及び4)。しかしながら、このようなシリコーン系の硬化物、特に硬化後の屈折率が1.45以下のシリコーン組成物の場合には、従来使用していたエポキシ樹脂に比べてガス透過性が大きく、保管環境及び使用環境に存在する硫化ガスが透過するという欠点を有していた。
【0004】
上記の欠点は、シリコーン硬化物を透過してきた硫化ガスと、発光ダイオード装置の基板であるリードフレームの銀メッキ表面の銀が反応して、銀メッキが硫化銀に変化する結果、銀メッキ表面が黒化するという問題を生じる。また、チップとして使用される化合物半導体の光学結晶の屈折率が高いため、封止樹脂と光学結晶の界面で光が反射して、発光輝度が低下するという欠点もあった。
【0005】
ところで、一般に、シリコーン樹脂硬化物のガス透過性は、20g/m2・24時間以上であり、特に屈折率が、1.45以下のシリコーン樹脂硬化物のガス透過性は、50g/m2・24時間以上と大きく、外部環境に存在する硫化ガスを容易に透過する。また、硫化ガスは大気中に硫黄酸化物(SOx)として存在するだけでなく、一般的に段ボール箱等の梱包資材中に含有される、硫黄成分に起因するものも存在する。
【0006】
一方、LEDパッケージのリードフレーム表面は、光の反射効率の観点から、一般的に銀メッキ処理が施されている。このような銀メッキリードフレームを、屈折率が1.45以下のシリコーン樹脂硬化物で封止してなる発光ダイオード装置を、硫化ガスの存在する雰囲気中で放置すると、前記したように、シリコーン樹脂を透過した硫化ガスと銀との反応が進行する。その結果、リードフレーム表面に硫化銀が生成するが、この反応によってLEDパッケージ基板の表面が黒化するので光の反射効率が著しく低下し、これが、発光ダイオード装置として有すべき長期信頼性を保つことができない要因の一つとなっている。
【0007】
また、チップとして使用される化合物半導体の光学結晶の屈折率は2.0以上と高いため、屈折率が1.50以下の封止樹脂を使用した場合には、光学結晶の屈折率との差が大きくなり、両者の界面における光の反射率が大きくなる結果、発光輝度が低下することになる。この問題は、屈折率が1.50以上のシリコーン樹脂を使用することにより改善することが出来るものの、一般照明等の分野で要求されている、高輝度LEDの市場に十分対応することができるまでには至っていない。
【0008】
上記の欠点を解決するために、ガス透過性が比較的小さく、界面反射が低減された、硬化後の屈折率が1.45以上となるシリコーン組成物を使用する方法が提案されている(特許文献5)ものの、LEDが一般照明用途に使われ始めた現在においては、更なる発光輝度の向上が求められるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3241338号公報
【特許文献2】特開平7−25987号公報
【特許文献3】特開2002−327126号公報
【特許文献4】特開2002−338833号公報
【特許文献5】特開2004−292807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明の第1の目的は、ガス透過性が小さいだけでなく界面反射が低減された、発光ダイオード装置の封止用として好適な硬化性シリコーン樹脂組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、良好な発光輝度を有し、一般照明に使用することもできる発光ダイオード装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の諸目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シリコーン樹脂に特定の平均粒径を有する酸化珪素フィラーを、1〜30質量%の濃度で均一に分散させることによって輝度を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って本発明は、発光ダイオード装置における封止用に使用する硬化性シリコーン樹脂組成物であって、該組成物が、少なくとも、硬化後の屈折率が1.50〜1.55となるシリコーン樹脂と、該シリコーン樹脂中に1〜30質量%の濃度で均一に分散された平均粒径1〜10μmの酸化珪素フィラーからなることを特徴とする硬化性シリコーン樹脂組成物、及び、該樹脂組成物を封止樹脂として使用してなる発光ダイオード装置である。
【0013】
本発明においては、前記酸化珪素フィラーの屈折率が1.50〜1.56であることが好ましく、前記硬化後の屈折率が1.50〜1.55であるシリコーン樹脂が、(A)非共有結合性の炭素−炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び(C)白金系触媒を必須成分とする付加硬化型シリコーン樹脂組成物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化後のガス透過性が小さいだけでなく界面反射が低減されるので、発光ダイオード装置用封止樹脂として好適であり、これを用いて得られた発光ダイオード装置は輝度が高いので一般照明用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る発光ダイオード装置の一例を示す、説明のための断面図である。
【図2】シリコーン樹脂中に含有させる酸化珪素の量を変更した各場合における、光透過率の波長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明について図面を参照しつつ詳しく説明する。
本発明においては、硬化後の屈折率が1.50〜1.55となるシリコーン樹脂と共に、該樹脂中に平均粒径1〜10μmの酸化珪素フィラーを1〜30質量%の濃度で均一に分散させる。この場合、酸化珪素フィラーとして、硬化後のシリコーン樹脂の屈折率と同程度である、1.50〜1.56の屈折率を有する酸化珪素フィラーを使用することが好ましく、特に1.52〜1.56の屈折率を有する酸化珪素フィラーを使用することが好ましい。
【0017】
このようにすることにより、酸化珪素フィラー含有樹脂の光透過率を80%以上とすることができる(図2参照)ので、封止樹脂の透明性を実質的に確保することができ、酸化珪素フィラーを添加したことによる発光輝度の低下を防止することが出来る。また、酸化珪素フィラーを分散させることによって光の散乱効果が得られるので、LEDパッケージから取り出される発光量が増加し、結果として発光輝度が向上することも考えられる。
【0018】
図1は、本発明に係る発光ダイオード装置の一例を示す、説明のための断面図である。図中の符号1はLEDのチップ、2は導電性ワイヤー、3は銀メッキリードフレーム、4は硬化したシリコーン硬化物、5はモールドパッケージ、6は酸化珪素フィラーを表す。
【0019】
本発明で使用する酸化珪素フィラーの平均粒径は1〜10μmであることが必要であるが、特に1〜6μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が1μm以下であると、樹脂に添加したときに樹脂粘度が上昇するため、樹脂への添加量が制限されるので好ましくない。一方、酸化珪素フィラーの平均粒径が10μm以上であると、硬化前のシリコーン樹脂組成物として長期保存した場合に沈降する可能性があり、保存安定性が保てなくなるので好ましくない。
【0020】
また、本発明においては、封止樹脂であるシリコーン樹脂中に1〜30質量%の濃度となるように酸化珪素フィラーを分散させて使用することが必要であるが、特に5〜15質量%の濃度に分散させることが好ましい。このようにすることによって、フィラーを充填しない場合より、LEDの発光輝度を10%程度向上させることが出来る。フィラーの充填量が1質量%以下であると十分な光散乱効果を得ることができないので、フィラーを充填しない場合より大きな発光輝度を得ることが出来ない。また、30質量%以上であると樹脂の透明性を確保することができないので、結果として発光輝度が低下する場合がある。
【0021】
本発明で使用するシリコーン樹脂は、硬化後の屈折率が1.50〜1.55となるシリコーン樹脂の中から適宜選択することができるが、本発明においては特に、(A)非共有結合性の炭素−炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び(C)白金系触媒を必須成分とする、付加硬化型シリコーン樹脂組成物が好適に使用される。
【0022】
(A)成分:
上記A成分の有機ケイ素化合物としては、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンを使用することが好ましい。
平均組成式(1):
SiO(RSiO)−(RSiO)−SiR
但し、上式中のRは非共有結合性の炭素−炭素二重結合を含有する一価の炭化水素基を表し、R〜Rは、それぞれ同一又は異種の一価炭化水素基を表す。これらのうち、R〜Rは、脂肪族不飽和結合を除く一価炭化水素基であることが好ましく、R及び/又はRは芳香族一価炭化水素基であることが好ましい。a及びbは、0≦a+b≦500の関係を満足する整数であり、好ましくは10≦a+b≦500の整数である。aは0≦a≦500であるが、好ましくは10≦a≦500の整数であり、bは0≦b≦250であるが、好ましくは0≦b≦150の整数である。
【0023】
前記Rは、炭素数2〜8、特に2〜6のアルケニル基で代表される脂肪族不飽和結合を有し、R〜Rは炭素数が1〜20、特に1〜10の範囲にある基が好適であり、その具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。これらのうち、R〜Rとしては、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を除く、アルキル基、アリール基、アラルキル基などが特に好ましい。また、R及び/又はRとしては、フェニル基やトリル基等の炭素数が6〜12のアリール基等、芳香族一価炭化水素基であることが好ましい。
【0024】
上記平均組成式(1)のオルガノポリシロキサンは、例えば主鎖を構成する、環状ジフェニルポリシロキサン、環状メチルフェニルポリシロキサン等の環状ジオルガノポリシロキサンと、末端基を構成するジフェニルテトラビニルジシロキサン、ジビニルテトラフェニルジシロキサン等のジシロキサンとの、アルカリ平衡化反応によって得ることができる。この場合、シラノール基及びクロル原子を含有しないことが好ましい。
【0025】
上記平均組成式(1)のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記のものを例示することができる。


【0026】
上記の式において、k及びmは、0≦k+m≦500を満足する整数であり、好ましくは5≦k+m≦250で、0≦m/(k+m)≦0.5を満足する整数である。
【0027】
上記(A)成分には、上記平均組成式(1)の直鎖構造を有するオルガノポリシロキサンの他、必要に応じて、3官能性シロキサン単位や4官能性シロキサン単位等を含む、三次元網目構造を有するオルガノポリシロキサンを併用することもできる。
【0028】
(A)成分中の非共有結合性炭素−炭素二重結合含有基の含有量は、全一価炭化水素基中の1〜50モル%であることが好ましく、特に2〜40モル%であることがより好ましく、5〜30モル%であることが最も好ましい。非共有結合性炭素−炭素二重結合含有基の含有量が1モル%よりも少ないと硬化物が得られず、50モル%よりも多いと、機械的特性が悪くなることがあるため好ましくない。
【0029】
また(A)成分中には、芳香族基を全一価炭化水素基の0〜95モル%含有することが好ましく、10〜90モル%含有することがより好ましく、20〜80モル%含有することが特に好ましい。芳香族基が樹脂中に適量含まれた方が、機械的特性が良くなるだけでなく製造もしやすいという利点がある。また、芳香族基の導入により屈折率を制御することができることも利点として挙げられる。
【0030】
(B)成分:
本発明で(B)成分として使用する、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、架橋剤として作用するものであり、該成分中のSiH基と前記(A)成分中のビニル基等の非共有結合性炭素−炭素二重結合を含有する基(典型的にはアルケニル基)とが付加反応することにより、硬化物が形成される。
【0031】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが芳香族炭化水素基を含有する場合には、前記(A)成分の非共有結合性炭素−炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物が高屈折率である場合でも相溶性が高いので、透明な硬化物を得ることができる。従って、本発明で使用する(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、芳香族一価炭化水素基を持ったオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分の一部又は全部として使用することが好ましい。
【0032】
また本発明においては、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの一部又は全部として、グリシジル構造を持ったオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができる。このように、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンにグリシジル構造を持たせることによって、基板との接着性の高い、光半導体用封止樹脂組成物を得ることができる。
【0033】
本発明で使用することのできる(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記のものに限られるものではなく、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−グリシドキシプロピル−5−トリメトキシシリルエチル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメトキシシラン重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0034】
また、下記構造で表される単位を使用して得られるオルガノハイドロジェンポリシロキサンも、本発明に用いることができる。

【0035】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記のものが挙げられる。

【0036】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は2個以上であることが好ましく、2〜1,000であることがより好ましく、特に2〜300程度のものを使用することが好ましい。
【0037】
本発明で使用する(B)成分としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分の非共有結合性炭素−炭素二重結合を有する基(典型的にはアルケニル基)1個当たり、ケイ素原子結合水素原子(SiH基)が0.75〜2.0個となる量であることが好ましい。
【0038】
(C)成分:
本発明で使用する前記(C)成分としては、白金系触媒が用いられる。白金系触媒には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、キレート構造を有する白金錯体等が挙げられる。これらは単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
これらの触媒成分の配合量は、硬化有効量である所謂触媒量で良く、通常、前記(A)及び(B)成分の合計量100質量部当り、白金族金属の質量換算で0.1〜500ppm、特に、0.5〜100ppmの範囲で使用される。
【0039】
(D)その他の成分:
本発明に使用する付加硬化型シリコーン樹脂組成物は、上述した(A)〜(C)成分を必須成分とすることが好ましいが、更に、必要に応じて各種のシランカップリング剤を添加してもよい。このようなシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等や、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン及びそのオリゴマー等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で使用することも2種以上を混合して使用することも可能である。
【0040】
上記シランカップリング剤の配合量は、組成物全体の10質量%以下(0〜10質量%)であることが好ましく、特に、5質量%以下(0〜5質量%)の量配合することが好ましい。
【0041】
また、本発明に使用する付加硬化型シリコーン樹脂組成物には、光半導体装置の性能を悪化させない範囲で、必要に応じて、例えば、BHTやビタミンB等の酸化防止剤、例えば有機リン系変色防止剤等の公知の変色防止剤、ヒンダードアミンのような光劣化防止剤等や、ビニルエーテル類、ビニルアミド類、エポキシ樹脂、オキセタン類、アリルフタレート類、及びアジピン酸ビニル等の反応性希釈剤、ヒュームドシリカや沈降性シリカ等の補強性充填材、難燃性向上剤、蛍光体、有機溶剤等を添加して、封止樹脂組成物としてもよい。また、着色成分により着色することもできる。
【0042】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、光半導体素子の封止に用いられるだけでなく、例えば、発光ダイオード、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCD、太陽電池モジュール、EPROM、フォトカプラ等に使用することができるが、透明性が高いので、特に発光ダイオードに好適に用いられる。
【0043】
上記封止方法は、光半導体の種類に応じた常法の中から適宜選択すれば良い。本発明の樹脂組成物の硬化条件としては、室温から200℃程度までの温度範囲で、数十秒から数日間程度の硬化時間範囲であれば許容されるが、特に、80〜180℃の温度範囲で硬化時間が1分程度から10時間程度であることが好ましい。
【0044】
本発明の付加硬化型シリコーンゴム組成物中に含有される酸化珪素フィラーの平均粒径は1〜10μmであるが、1〜6μmの平均粒径のものが好ましく、特に、屈折率が1.45〜1.56の酸化珪素であることが好ましい。このような酸化珪素フィラーの具体例としては、龍森(株)製の結晶性シリカフィラー(商品名:クリスタライトX5、クリスタライトVX-S2等)等を挙げることができる。
【0045】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物で被覆保護された本発明の光半導体装置は、装置の耐熱性、耐湿性、耐光性及び発光輝度に優れ、外部環境の影響により基板表面を変色することもないので、信頼性及び高光度の点で優れる光半導体装置である。
【0046】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下における「部」は質量部、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【0047】
<封止樹脂の調製>
下記式(I)で表される末端ビニルジメチルジフェニルポリシロキサン(粘度3Pa・s)100部、下記式(II)で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(粘度15mPa・s)2.5部、塩化白金酸2−エチルヘキシルアルコール変性溶液(Pt濃度は2質量%)0.03部、エチニルシクロヘキシルアルコール0.05部、及び、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン7部をよく撹拌して、屈折率が1.51のシリコーン組成物を調製した。


【0048】
<実施例1〜4>
前記シリコーン組成物に、酸化珪素フィラーとして屈折率が1.55で平均粒径1.2μmの龍森製クリスタライトX5を5質量%となるように分散させ、LEDパッケージを封止したものを実施例1とした。同様に前記シリコーン組成物に前記酸化珪素フィラーを、10質量%、20質量%、30質量%それぞれ分散させ、LEDパッケージを封止したものを実施例2〜4とした。
【0049】
<実施例5〜8>
前記シリコーン組成物に、酸化珪素フィラーとして屈折率が1.55で平均粒径5μmの龍森製クリスタライトVX-S2を5質量%分散させ、LEDパッケージを封止したものを実施例5とした。同様に前記シリコーン組成物に前記酸化珪素フィラーを、10質量%、20質量%、30質量%それぞれ分散させ、LEDパッケージを封止したものを実施例6〜8とした。
【0050】
<比較例1>
酸化珪素フィラーを使用せず、前記シリコーン組成物のみでLEDパッケージを封止したものを比較例1とした。
【0051】
<比較例2〜3>
前記シリコーン組成物に、酸化珪素フィラーとして屈折率が1.55で平均粒径1.2μmの龍森製クリスタライトX5を40質量%、50質量%分散させ、LEDパッケージを封止したものを比較例2及び3とした。
【0052】
前記液状シリコーン組成物の硬化は、150℃で4時間加熱して行わせた。このようにして得られた評価用発光ダイオードの評価サンプルを硫化水素雰囲気に24時間放置し、Agフレーム面の変色を顕微鏡で観察した。次いで通電試験による点灯試験を行い、LEDに20mAの電流を印加して発光輝度の測定を実施した。結果は表1に示した通りである。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、Ag面の変色に関しては、実施例及び比較例共に変色は見られなかったものの、輝度については、実施例1〜8では、平均で200mcd程度の発光輝度が得られたのに対し、比較例1では180mcdの発光輝度しか得られなかった。また、比較例2〜3の場合では、更に発光輝度が低下し、フィラーを入れない比較例1よりも発光輝度が低下したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、硬化後のガス透過性が小さいだけでなく界面反射が低減されるので、発光ダイオード装置用封止樹脂として好適であり、また、これを用いて得られた発光ダイオード装置は輝度が高く一般照明用として好適であるので、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・・LEDチップ
2・・・・導電性ワイヤー
3・・・・銀メッキリードフレーム
4・・・・硬化性シリコーン組成物
5・・・・モールドパッケージ
6・・・・酸化珪素フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオード装置における封止用に使用する硬化性シリコーン樹脂組成物であって、該組成物が、少なくとも、硬化後の屈折率が1.50〜1.55のシリコーン樹脂と、シリコーン樹脂中に1〜30質量%の濃度で均一に分散された平均粒径1〜10μmの酸化珪素フィラーからなることを特徴とする硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸化珪素フィラーの屈折率が1.50〜1.56である、請求項1に記載された硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化後の屈折率が1.50〜1.55であるシリコーン樹脂が、(A)非共有結合性の炭素−炭素二重結合を有する有機ケイ素化合物、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び(C)白金系触媒を必須成分とする付加硬化型シリコーン樹脂組成物からなる、請求項1又は2に記載された硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
発光素子が搭載されるリードフレームを有するプレモールドパッケージの前記リードフレームに発光素子を搭載し、封止樹脂で封止してなる発光ダイオード装置(LED)であって、前記封止樹脂が、屈折率が1.50〜1.55の樹脂中に、平均粒径1〜10μmの酸化珪素フィラーを1〜30質量%の濃度で分散させてなる樹脂であることを特徴とする発光ダイオード装置。
【請求項5】
前記酸化珪素フィラーの屈折率が1.50〜1.56である、請求項4に記載された発光ダイオード装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41496(P2012−41496A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185964(P2010−185964)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】