説明

磁性シート

【課題】赤燐を用いずとも高い難燃性を有する、電磁波吸収シート又は磁気収束シートとして使用可能な磁性シートを提供すること。
【解決手段】
(A)磁性粉末と、(B)(a)アクリルゴム、(b)フェノール樹脂及びフェノールアラルキル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化促進剤、並びに(e)メラミン構造を有する化合物を含む樹脂組成物を硬化してなるバインダ樹脂と、(C)ホスフィン酸金属塩と、を含有し、上記メラミン構造を有する化合物の含有量が、上記バインダ樹脂の総量を基準として25質量%以上であり、リン元素の含有量が、上記バインダ樹脂及び上記ホスフィン酸金属塩の総量を基準として3.0質量%以上である、磁性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収シート、磁気収束シート等の用途に使用可能な磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器や電子機器においては、放射電磁ノイズ等が、機器内で共鳴やクロストークなどの電磁干渉を発生させ、誤動作や周辺機器の動作に悪影響を生じさせることが問題となっている。このような電磁波障害の発生を防止するためのシールド材として、電磁波吸収シートが用いられている。この電磁波吸収シートは、軟磁性体を含有しており、この軟磁性体が自然共鳴して電磁波を熱エネルギーに変換することによって、電磁波がシートを通過したり、反射したりすることを防止することができる。
【0003】
電磁波吸収シートとしては、電子機器の発火に伴う燃焼を防止する観点から、難燃性のものが求められている。例えば、特許文献1では、難燃剤として、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートとケイ素原子を含むメラミンシアヌレートと赤燐を含有する磁性シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−219348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、従来、高い難燃性を有する電磁波吸収シートを作製するためには、難燃剤として赤燐を使用することが一般的である。しかしながら、特許文献1に記載の磁性シートでは、使用環境によっては、赤燐から遊離リン酸が生じ、電子機器等の信頼性に影響を与えるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、赤燐を用いずとも高い難燃性を有する、電磁波吸収シート又は磁気収束シートとして使用可能な磁性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)磁性粉末と、(B)(a)アクリルゴム、(b)フェノール樹脂及びフェノールアラルキル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化促進剤、並びに(e)メラミン構造を有する化合物を含む樹脂組成物を硬化してなるバインダ樹脂と、(C)ホスフィン酸金属塩と、を含有し、上記メラミン構造を有する化合物の含有量が、上記バインダ樹脂の総量を基準として25質量%以上であり、リン元素の含有量が、上記バインダ樹脂及び上記ホスフィン酸金属塩の総量を基準として3.0質量%以上である、磁性シートを提供する。
【0008】
本発明の磁性シートにおいては、上記特定のバインダ樹脂とホスフィン酸金属塩とを、リン元素の含有量が上記範囲となるように組み合せることにより、赤燐を用いずとも高い難燃性が得られる。
【0009】
本発明の磁性シートにおいて、上記樹脂組成物は、少なくともフェノールアラルキル樹脂を含有することが好ましい。このような磁性シートは、難燃性に一層優れる。
【0010】
本発明の磁性シートは、電磁波吸収シートとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤燐を用いずとも高い難燃性を有する、電磁波吸収シート又は磁気収束シートとして使用可能な磁性シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の磁性シートの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な一実施形態について以下に説明する。図1は、本実施形態の磁性シートを示す斜視図である。本実施形態の磁性シート10は、(A)磁性粉末と、(B)バインダ樹脂と、(C)ホスフィン酸金属塩と、を含有する。
【0014】
(B)バインダ樹脂は、(a)アクリルゴム、(b)フェノール樹脂及びフェノールアラルキル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化促進剤、並びに(e)メラミン構造を有する化合物を含む樹脂組成物(以下、場合により「(B’)樹脂組成物」という。)の硬化物である。
【0015】
磁性シート10において、(e)メラミン構造を有する化合物の含有量は(B)バインダ樹脂の総量を基準として25質量%以上であり、リン元素の含有量は(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として3.0質量%以上である。
【0016】
磁性シート10は、上記特定のバインダ樹脂とホスフィン酸金属塩とを、リン元素の含有量が上記範囲となるように組み合せることにより、赤燐を用いずとも高い難燃性が得られる。以下、各成分の詳細について説明する。
【0017】
(A)磁性粉末としては、通常の軟磁性粉末を用いることができる。磁性粉末としては、例えば、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金等が挙げられる。これらの軟磁性粉末は、市販のものを入手してもよいし、公知の方法で合成してもよい。軟磁性粉末は扁平状であることが好ましい。また、軟磁性粉末の粒径は、平均粒径で30μm〜100μmであることが好ましく、50μm〜90μmであることがより好ましい。
【0018】
(A)磁性粉末の含有量は、磁性シート10全体を基準として、30体積%以上であることが好ましく、30〜55体積%であることがより好ましく、35〜50体積%であることがさらに好ましい。(A)磁性粉末の含有量が30体積%以上であると、十分に優れた電磁波吸収特性が得られ、電磁波吸収シートとして一層好適に用いることができる。また、(A)磁性粉末の含有量が55体積%以下であると、磁性シート10の柔軟性が向上し、取扱い性及び貼り付け性に一層優れるようになる。
【0019】
(B)バインダ樹脂は、(B’)樹脂組成物を、例えば120〜180℃に加熱して得られる硬化物である。(B)バインダ樹脂は、(A)磁性粉末及び(C)ホスフィン酸金属塩を結着させて、シート状に保形する機能を有する。
【0020】
(B’)樹脂組成物は、(a)アクリルゴムと、(b)フェノール樹脂及びフェノールアラルキル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、場合により「(b)成分」という。)と、(c)エポキシ樹脂と、(d)硬化促進剤と、(e)メラミン構造を有する化合物と、を含有する。
【0021】
(a)アクリルゴムとしては、エポキシ基を有するアクリルゴムが好ましい。(a)アクリルゴムとしては、市販のアクリルゴムを用いることができ、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
(B’)樹脂組成物中の(a)アクリルゴムの含有量は、(B’)樹脂組成物中の固形分全量を基準として、20〜80質量%とすることが好ましく、30〜70質量%とすることがより好ましい。
【0023】
(b)成分は、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。また、(b)成分としては、ビフェニル構造を有する樹脂が好ましい。(B’)樹脂組成物が(b)成分を含有しない場合には、磁性シート10の難燃性が低下する。このことから、本発明においては、(B’)樹脂組成物に(b)成分を配合することが、優れた難燃性を有する磁性シート10を実現できる要因の一つと考えられる。
【0024】
(b)成分であるフェノールアラルキル樹脂としては、例えば、下記式(b−1)、(b−2)等で表されるフェノールアラルキル樹脂が挙げられ、これらのうち式(b−2)で表されるフェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
式中、nは1以上の整数を示す。nは1〜15の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましい。
【0028】
(B’)樹脂組成物中の(b)成分の含有量は、(B’)樹脂組成物中の固形分全量を基準として、1〜20質量%とすることが好ましく、1〜15質量%とすることがより好ましい。
【0029】
(c)エポキシ樹脂としては、二官能エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂等を用いることができる。ここで、二官能エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を2つ有するエポキシ樹脂であり、多官能エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を3つ以上有するエポキシ基である。
【0030】
(c)エポキシ樹脂としては、多官能エポキシ樹脂が好ましい。(c)エポキシ樹脂として多官能エポキシ樹脂を用いると、(B)バインダ樹脂の架橋構造が一層密になり、磁性シート10の高温高湿度環境下における寸法変化が十分に抑制される。
【0031】
多官能エポキシ樹脂としては、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0032】
(B’)樹脂組成物中の(c)エポキシ樹脂の含有量は、(B’)樹脂組成物中の固形分全量を基準として、1〜20質量%とすることが好ましく、1〜15質量%とすることがより好ましい。
【0033】
(d)硬化促進剤は、エポキシ樹脂の硬化剤又は硬化促進剤として公知の化合物を適宜用いることができる。(d)硬化促進剤としては、イミダゾール類、DBU(ジアザビシクロウンデセン)、DBU−フェノール塩、DBU−オクチル酸塩、トリスジメチルアミノメチルフェノール等のアミン化合物が好ましく、これらのうち、イミダゾール類がより好ましい。
【0034】
イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0035】
(B’)樹脂組成物中の(d)硬化促進剤の含有量は、(B’)樹脂組成物中の固形分全量を基準として、0.01〜5質量%とすることが好ましく、0.1〜3質量%とすることがより好ましい。
【0036】
(e)メラミン構造を有する化合物は、分子内に下記式(e−1)で表されるメラミンから誘導される構造を、少なくとも1つ有する化合物である。
【0037】
【化3】

【0038】
(e)メラミン構造を有する化合物としては、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、メラミン、メラミンオリゴマー縮合物、硫酸メラミン等が挙げられる。これらのうち、(e)メラミン構造を有する化合物としては、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレートが容易に入手しやすい点で好ましい。
【0039】
磁性シート10における(e)メラミン構造を有する化合物の含有量は、(B)バインダ樹脂の総量を基準として25質量%以上であり、好ましくは25〜60質量%である。(e)メラミン構造を有する化合物の含有量が25質量%未満であると、十分な難燃性が得られない。
【0040】
優れた柔軟性を有する磁性シート10を得る観点からは、(e)メラミン構造を有する化合物の含有量は、(B)バインダ樹脂の総量を基準として、25〜60質量%であることが好ましく、25〜50質量%であることがより好ましい。
【0041】
(B’)樹脂組成物中の(e)メラミン構造を有する化合物の含有量は、磁性シート10における含有量が上記範囲となるように、適宜調整することができる。
【0042】
(B’)樹脂組成物は、上記以外の成分を含有していてもよい。例えば、(B’)樹脂組成物は、(f)難燃剤をさらに含有していてもよい。
【0043】
(f)難燃剤としては、リン酸エステル、ホスファフェナントレン化合物、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェートが挙げられる。
【0044】
(B’)樹脂組成物中の(f)難燃剤の含有量は、(B’)樹脂組成物中の固形分全量を基準として、1〜30質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
【0045】
(B’)樹脂組成物は、上記以外の成分を含有してもよい。例えば、(B’)樹脂組成物は、分散剤、カップリング剤等を含有していてもよい。
【0046】
磁性シート10における(B)バインダ樹脂の含有量は、(A)磁性粉末の総量100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、より好ましくは15〜35質量部である。(B)バインダ樹脂の比率が小さくなりすぎると、磁性シート10が脆くなる傾向があり、(B)バインダ樹脂の比率が大きくなりすぎると、磁性シート10の優れた電磁波吸収特性が損なわれる場合がある。
【0047】
(C)ホスフィン酸金属塩としては、ジアルキルホスフィン酸金属塩、フェニルホスフィン酸金属塩等が挙げられる。
【0048】
また、(C)ホスフィン酸金属塩としては、ホスフィン酸アルミニウム塩、ホスフィン酸亜鉛塩、ホスフィン酸マグネシウム塩等が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
(C)ホスフィン酸金属塩は、リン元素の含有量が(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として、3.0質量%以上となるように配合される。例えば、(B)バインダ樹脂がリン元素を含有する場合、(B)バインダ樹脂に由来するリン元素と(C)ホスフィン酸金属塩に由来するリン元素との合計量が、(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として3.0質量%以上となるように、(C)ホスフィン酸金属塩を配合する。
【0050】
リン元素の含有量は、(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として、3.0〜15.0質量%であることが好ましく、3.0〜10.0質量%であることがより好ましい。リン元素の含有量を上記範囲内とすることで、磁性シート10の難燃性が一層向上する。
【0051】
また、磁性シート10の柔軟性が一層向上する観点からは、リン元素の含有量は、(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として、3.0〜7.0質量%であることが好ましく、3.0〜6.0質量%であることがより好ましい。
【0052】
(C)ホスフィン酸金属塩の含有量は、(B)バインダ樹脂及び(C)ホスフィン酸金属塩の総量を基準として、5〜35質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0053】
磁性シート10は、通信機器、電子機器等における電磁波障害の発生を防止又は抑制するためのシールド材として、すなわち電磁波吸収シートとして、好適に用いることができる。また、磁性シート10は、アンテナ、ICタグ等の分野における、磁気収束シートとしても好適に用いることができる。
【0054】
次に、本発明の磁性シートの製造方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、
(i)(A)磁性粉末、(B’)樹脂組成物及び(C)ホスフィン酸金属塩を含む磁性塗料を調製する混合工程、
(ii)磁性塗料を基材フィルム上に塗布する塗布工程、
(iii)基材フィルムに塗布した磁性塗料を加熱して磁性シートを形成する加熱工程、
を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0055】
混合工程では、原材料として、(A)磁性粉末と、(B’)樹脂組成物の各成分と、(C)ホスフィン酸金属塩と、を準備する。そして、有機溶媒にこれらの原材料を、所定の比率で配合して、液状の混合物である磁性塗料を調製する。
【0056】
ここで、有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等、一般的なものを用いることができる。
【0057】
塗布工程では、混合工程で調製した磁性塗料を、基材フィルムの一面上に塗布する。磁性塗料の塗布方法としては、コーター法、ドクターブレード法等が挙げられる。このとき、磁性塗料の塗布厚みは、所望の厚さに調節することができる。
【0058】
基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム等を用いることができる。基材フィルムの厚みは、例えば1〜1000μmとすることができる。
【0059】
塗布工程では、磁性塗料を基材フィルムに塗布する際に、磁場を印加することによって、磁性塗料に含まれる磁性粉末を所定の方向に配向させることができる。このような塗布工程によれば、電磁波吸収特性に一層優れる磁性シートが得られる。
【0060】
加熱工程では、基材フィルム上に塗布した磁性塗料を、用いた有機溶媒の沸点付近(例えば80〜150℃)にまで加熱して有機溶媒を蒸発除去するとともに、(B’)樹脂組成物を硬化させて、基材フィルム上に磁性シートを形成する。
【0061】
なお、加熱前後に、磁性シートに対して厚み方向にプレスを行うことが好ましい。これによって、(A)磁性粉末と、(B’)樹脂組成物の硬化物である(B)バインダ樹脂と、(C)ホスフィン酸金属塩とが一層密に充填されることとなり、磁性シートの電磁波吸収特性が一層向上する。
【0062】
基材フィルム上に磁性シートが形成された後、該基材フィルムから磁性シートを取り外し、必要に応じて、同様の方法によって形成された磁性シートを積層する積層工程を行ってもよい。これによって、所望の厚みを有する磁性シートを得ることができる。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1〜8、比較例1〜5)
磁性シートを作製するため、以下の原材料を準備した。なお、軟磁性粉末としては、市販のFeSiAl粉末を用いた。
(a)アクリルゴム
・エポキシ基含有アクリルゴム
(b)成分
・フェノールアラルキル樹脂(式(b−1)で表されるフェノールアラルキル樹脂、表中「(b−1)」と表す。)
・ビフェニル構造を有するフェノールアラルキル樹脂(式(b−2)で表されるフェノールアラルキル樹脂、表中「(b−2)」と表す。)
(c)エポキシ樹脂
・JER 180S65(三菱化学株式会社製、商品名):エポキシ樹脂(表中「(c−1)」と表す。)
・JER 828(三菱化学株式会社製、商品名):エポキシ樹脂(表中「(c−2)」と表す。)
(d)硬化促進剤
・キュアゾール 2E4MZ(四国化成工業株式会社製、商品名):2−エチルー4−メチルイミダゾール
(e)メラミン構造を有する化合物
・MPP−A(日本カーバイト工業株式会社製、商品名):ポリリン酸メラミン(表中「(e−1)」と表す。)
・MELAGARD MC8(ITALMATCH株式会社製、商品名):メラミンシアヌレート(表中「(e−2)」と表す。)
(f)難燃剤
・PX−200(大八化学工業株式会社製、商品名):リン酸エステル(1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート))
(C)ホスフィン酸金属塩
・ホスフィン酸金属塩(リン含有率23%)
(その他)
・バルノックAB(大内新興化学工業株式会社、商品名):安息香酸アンモニウム(アクリルゴム硬化剤)(表中、「(g)」と表す。)
・ハイジライトH43(昭和電工株式会社製、商品名):水酸化アルミニウム(表中、「(D)」と表す。)
【0066】
上記の原材料のうち、磁性粉末以外の原材料を、表1〜3に示す配合比率(質量比)で溶媒(メチルエチルケトン)中に配合して分散液を調製した。
【0067】
調製した分散液に、磁性粉末を、作製する磁性シート全体を基準とする磁性粉末の含有量が45体積%となるように配合して、磁性塗料を調製した。調製した磁性塗料をコーターによって塗布し、160℃で1時間加熱して乾燥及び硬化させて、シートを作製した。このシートを複数作製し、積層してプレスすることにより、厚み0.2mmの磁性シート及び厚み0.3mmの磁性シートを作製した。
【0068】
原材料の配合比率に基づいて、作製した磁性シートに含まれるリン元素の含有量(バインダ樹脂及びホスフィン酸金属塩の総量に対する質量比)を計算したところ、表1〜3に示すとおりであった。また、表1〜3中の比率αは、バインダ樹脂の総量に対する、(e)メラミン構造を有する化合物の比率(質量比)である。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
得られた磁性シートについて、下記の方法で電磁波吸収特性、難燃性及び屈曲性を評価した。結果は表4に示すとおりであった。
【0073】
[電磁波吸収特性]
厚み0.2mmの磁性シートの電磁波吸収特性(透磁率:μ’)を、アジレントテクノロジー社製のインピーダンス/マテリアル アナライザー(商品名:F4991A)を用いて評価した。
【0074】
[難燃性の評価]
厚み0.2mmの評価用磁性シートを用いて、UL94に規定する垂直試験法(UL94 V法)に準拠して、難燃性の試験を行い、UL94に規定する評価基準(V−0、V−1、V−2)に基づいて評価を行った。UL94に規定する評価基準のV−0、V−1、V−2基準を満たすものを、それぞれ「V−0」、「V−1」、「V−2」と評価した。また、いずれの基準にも満たないものを「燃焼」とした。
【0075】
[屈曲性の評価]
厚み0.3mmの評価用磁性シートを折り曲げて、屈曲性を評価した。具体的には、φ2mmの丸棒に、評価用磁性シートを巻きつけて評価用磁性シートの表面を目視にて観察し、クラックが発生していないものを「A」、クラックが発生していたものを「B」と評価した。
【0076】
【表4】

【0077】
表4に示すように、実施例の磁性シートでは、赤燐を用いずとも優れた難燃性を電磁波吸収特性とを両立することができた。これに対して、比較例の磁性シートでは、難燃性が格段に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、優れた難燃性及び電磁波吸収特性を有する磁性シートが提供され、本発明の磁性シートは、電磁波吸収シート又は磁気収束シートとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0079】
10…磁性シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)磁性粉末と、
(B)(a)アクリルゴム、(b)フェノール樹脂及びフェノールアラルキル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種、(c)エポキシ樹脂、(d)硬化促進剤、並びに(e)メラミン構造を有する化合物を含む樹脂組成物を硬化してなるバインダ樹脂と、
(C)ホスフィン酸金属塩と、
を含有し、
前記メラミン構造を有する化合物の含有量が、前記バインダ樹脂の総量を基準として25質量%以上であり、
リン元素の含有量が、前記バインダ樹脂及び前記ホスフィン酸金属塩の総量を基準として3.0質量%以上である、磁性シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、少なくともフェノールアラルキル樹脂を含有する、請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
電磁波吸収シートである、請求項1又は2に記載の磁性シート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212790(P2012−212790A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77799(P2011−77799)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】