説明

磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材およびこれを用いて製造した薄膜

【課題】磁気記録媒体における下地膜として用いる下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材およびこれを用いて製造した薄膜を提供する。
【解決手段】at%で、Mn:5〜35%、B:0.1〜10%を含み、残部Crおよび不可避的不純物からなる磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材およびその製造方法。また、上記のスパッタリングターゲット材を用いて製造したCr−Mn−B系薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体における下地膜として用いる下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材およびこれを用いて製造した薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクの小型化、高記録密度化に伴い、磁気記録媒体の研究、開発が行われ、特にCo系磁性層や下地層の改良が種々行われてきた。最近では、Cr−Mn合金をCo系磁性層の下地層として用いることにより、磁気記録媒体の磁気特性が改善できることが報告されている。
【0003】
例えば特開2006−89776号公報(特許文献1)に開示されているように、Mnを5〜35at%含む、Cr−Mnターゲット材を用いた薄膜が磁気記録媒体の下地膜として良好な特性を有することが提案されている。一方、記録密度の向上のためには、このCr−Mn系下地膜の結晶粒微細化が効果的である。下地膜の結晶粒微細化の効果は、その上に成膜される記録膜の結晶粒を微細化することによる保磁力の向上であると考えられる。
【0004】
また、富士時報、Vol.77,No.2,2004,第121頁(非特許文献1)に開示されているように、「垂直磁気記録膜の構造制御」と題して、媒体特性は下地層の結晶粒径や表面形状の影響を強く受ける。その下地層にRuを用いたCoPtCr−SiO2 媒体において、Ruの結晶粒径や表面構造を制御することにより磁性結晶粒の粒径や磁気的な分離構造を制御した例が開示されている。
【特許文献1】特開2006−89776号公報
【非特許文献1】富士時報、Vol.77,No.2,2004,第121頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1は、確かにCr−Mnターゲット材を用いた薄膜が磁気記録媒体の下地膜として良好な特性について得られることは分かるが、しかしながら、さらに高い記録密度を実現するためには、Cr−Mn系薄膜の結晶粒微細化が必要となることが考えられる。しかし、より高い記録密度を得るためのCr−Mn系薄膜の結晶粒径微細化に寄与する添加元素などの具体的な提案が未だなされていないのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、Cr−Mn系合金にBを添加することで、薄膜の結晶粒を劇的に微細化できることを見出し発明に至ったものである。その発明の要旨とするところは、
(1)at%で、Mn:5〜35%、B:0.1〜10%を含み、残部Crおよび不可避的不純物からなる磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材。
【0007】
(2)at%で、Mn:5〜35%、B:0.1〜10%を含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材の原料粉末を熱間で固化成形したことを特徴とする磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材の製造方法。
(3)前記(1)または(2)に記載のスパッタリングターゲット材を用いて製造したCr−Mn−B系薄膜にある。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、本発明によるCr−Mn系薄膜の結晶粒径微細化に寄与する添加元素であるBを添加したCr−Mn−B系薄膜を下地膜として用いた磁気記録媒体は極めて良好な記録特性としてのCr−Mn−B系下地膜用合金および微細粒薄膜製造用スパッタリングターゲット材を提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る合金成分として、Mn:5〜35at%に限定した理由は、磁気記録媒体の下地膜として使用する際の磁気記録媒体の磁気特性を改善するためである。そのためには、5%以上必要である。しかし、35%を超えるとその効果は飽和することから、その範囲を5〜35%とする。好ましくは10〜25%とした。
【0010】
B:0.1〜10.0%に限定した理由は、Cr−Mn系合金にBを添加することにより、薄膜の結晶粒を微細化することができるためであるが、0.1%未満では添加の効果が十分でなく、10%を超えると効果が飽和し、記録密度向上を阻害するCr系硼化物が多量に発生するためである。従って、その範囲を0.1〜10.0%とする。好ましくは0.5〜5%とした。
【0011】
また、固化成形としては、HIP(熱間静水圧プレス)法により行い、その固化成形温度としては、1000〜1250℃が好ましい。1000℃未満での固化成形では、スパッタリングターゲット材の相対密度が低くなってしまう。しかし、1250℃を超えるとその効果は飽和し、経済的にコストが高くなることから、その範囲を1000〜1250℃とする。好ましくは、1100〜1200℃とした。また、そのときの加圧条件としては、140〜150MPaとすることが望ましい。
【実施例】
【0012】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す組成に、純Cr,純Mn、純B粉末をV型混合機にて混合し、これを原料粉末とし、SC缶に脱気封入した粉末充填ビレットを、1200℃でHIP(熱間静水圧プレス)法にて固化成形し、機械加工によりCr−Mn−B系合金およびCr−Mn系合金のスパッタリングターゲット材を作製した。各工程の詳細は以下の通りである。
【0013】
先ず、混合したCr−Mn−B系およびCr−Mn系を、外径205mm、内径190mm、長さ300mmのSC缶に脱気封入した。脱気時の真空到達度は約1.3×10-2Pa(約1×10-4Torr)とした。上記の粉末充填ビレットを、1200℃、147MPaにてHIP成形した。上記の方法で作製した固化成形体を、ワイヤーカット、旋盤加工、平面研磨により、直径76.2mm、厚さ3mmに加工し、銅製のバッキングプレートをろう付けし、スパッタリングターゲット材とした。
【0014】
表1に示す評価項目である、Cr系硼化物の生成については、作製したスパッタリングターゲット材を、直径76.2mmのSi基板にスパッタした。スパッタ条件は、Ar圧:0.5Pa、DC電力:500W、成膜厚さ:500nmとした。このスパッタ膜をX線回折し、その回折ピークよりCr系硼化物の生成を確認した。Cr系硼化物なし:○、少量生成:△、多量生成:×とした。
【0015】
また、スパッタ膜の結晶粒径は、上記のスパッタ膜の断面をTEM観察し、画像解析により相当面積円の径を結晶粒径とした。なお、表1中の結晶粒径はNo.1の結晶粒径を100とした相対値で表しており、数値の小さい方が結晶粒径が微細である。
【0016】
【表1】

表1に示すように、No.1〜8は本発明例であり、No.9〜17は比較例である。
【0017】
表1に示すように、比較例No.9はMn含有量が低く、特にB含有量が低いために、結晶粒を粗大化している。比較例No.10および12はB含有量が多いために、Cr系硼化物が多量に生成している。比較例No.11はBが含有しないために、結晶粒が粗大化している。比較例No.13はNo.10と同様に、B含有量が低いために、結晶粒が粗大化している。
【0018】
比較例No.14はMn含有量が多く、特にB含有量が多いために、Cr系硼化物が多量に生成している。比較例No.15〜17のNo.15はMn含有量が低く、No.17はMn含有量が多く、特にBがいずれも含有しないために、結晶粒を粗大化していることがそれぞれ分かる。これに対し、本発明例であるNo.1〜8はいずれも本発明の条件を満たしていることから、薄膜製造用スパッタリングターゲット材としての特性に優れていることが分かる。
【0019】
以上のように、磁気記録媒体における薄膜製造用スパッタリングターゲット材において、Cr−Mn系合金にBを添加することで、薄膜の結晶粒を劇的に微細化することが可能となり、安定した高密度のCr−Mn−B系薄膜用合金および薄膜製造用スパッタリングターゲット材を提供することが可能となる極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
at%で、Mn:5〜35%、B:0.1〜10%を含み、残部Crおよび不可避的不純物からなる磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
at%で、Mn:5〜35%、B:0.1〜10%を含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材の原料粉末を熱間で固化成形したことを特徴とする磁気記録媒体における下地膜製造用Cr−Mn−B系スパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット材を用いて製造したCr−Mn−B系薄膜。

【公開番号】特開2009−79235(P2009−79235A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247181(P2007−247181)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】