説明

移動体

【課題】燃料電池スタックを移動体に搭載した場合に、移動体からの衝撃や振動等によって、燃料電池スタックの発電体の間にずれが発生するのを抑制することのできる技術を提供する。
【解決手段】移動体は、発電積層体10と2つのエンドプレート11,12と締結部材14bとを備える燃料電池スタック100と、移動体のボディ又はフレームを構成する構造体110,111,132,133と、を備える。移動体は、さらに、2つのエンドプレート11,12のうちの少なくとも1つと構造体110,111とを連結する第1の連結部120と、締結部材14bと構造体132,133とを連結する第2の連結部130,131と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を搭載した移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水素と酸素とを燃料として発電することのできる燃料電池スタックを搭載した車両が注目を集めている。燃料電池スタックは、1つの電池として機能する発電体を複数積層することによって構成された発電積層体と、その発電積層体を積層方向に挟持するエンドプレートと、を備える。発電積層体を構成する発電体は、電解質膜の両面に白金等の触媒層が形成された膜―電極接合体(以下、「MEA」とも呼ぶ。MEA:Membrane Electrode Assembly)と、その両側に配置されたガス流路としての導電性多孔質体と、さらにその外側に設けられたセパレータと、を備える。
【0003】
このような燃料電池スタックを車両に搭載する場合、燃料電池スタックが車両の加減速や振動に耐えうるような燃料電池搭載構造が求められる。従来、燃料電池スタックを車両に搭載する構造としては、発電積層体を挟持するエンドプレートを車両側の部材に固定するというものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−221854号公報
【特許文献2】特開2005−209468号公報
【特許文献3】特開2007−15589号公報
【特許文献4】特開平5−315005号公報
【特許文献5】特開平5−82157号公報
【0005】
しかし、この技術では、車両からの振動等によって、発電積層体を構成するそれぞれの発電体の間にせん断力が発生し、発電体の間にずれが発生してしまうといった問題があった。なおこのような問題は、燃料電池車両に限らず、燃料電池を搭載する移動体全般に共通する問題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池スタックを移動体に搭載した場合に、移動体からの衝撃や振動等によって、燃料電池スタックの発電体の間にずれが発生するのを抑制することのできる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一形態による移動体は、
移動体であって、複数の発電体が積層されることによって構成された発電積層体と、前記発電積層体を積層方向に挟持する2つのエンドプレートと、前記発電積層体の側面に設けられ前記2つのエンドプレートを締結するように掛け渡された締結部材と、を備える燃料電池スタックと、前記移動体のボディ又はフレームを構成する構造体と、前記2つのエンドプレートのうちの少なくとも1つと、前記構造体と、を連結する第1の連結部と、前記締結部材と、前記構造体と、を連結する第2の連結部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
以上のように構成された移動体によれば、移動体のボディ又はフレームを構成する構造体と、2つのエンドプレートのうちの少なくとも1つとを第1連結部によって連結するので、燃料電池スタックを移動体に固定することができる。また、締結部材と、第2の連結部と、移動体のボディ又はフレームを構成する構造体とが、ずれを発生させる方向の発電体の動きを規制するので、燃料電池スタックを移動体に搭載した場合に、移動体からの衝撃や振動等によって、燃料電池スタックの発電体の間にずれが発生するのを抑制することができる。
【0009】
前記第2の連結部は、前記燃料電池スタックを挟んで向かい合った対称の位置に複数配設されることとしてもよい。
【0010】
このような構成とすれば、燃料電池スタックが種々の方向の衝撃を受けた場合や、衝撃の反動で逆向きの力を受けた場合等に、バランス良く燃料電池スタックを支持し、燃料電池スタックの発電体の間にずれが発生するのを抑制することができる。
【0011】
前記発電積層体は、前記移動体の進行方向に平行な方向又は前記進行方向に垂直な方向に積層されることとしてもよい。
【0012】
これらの構成によっても、燃料電池スタックを移動体に搭載した場合に、移動体からの衝撃や振動等によって、燃料電池スタックの発電体の間にずれが発生するのを抑制することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、燃料電池、燃料電池システム、それらを搭載した車両、飛行機、ロボット等の移動体、またはそれらの製造方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
A.第1実施例:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池スタック100の車両搭載構造を示す説明図である。車両の基本構造である車両フレーム1000は、サイドメンバ105,106と、サイドメンバ105又は106の間に掛け渡されたクロスメンバ110ないし115と、を備える。サイドメンバ105又は106の間には、車両ボディの一部であり、フレーム間に形成される空間を隔てる隔壁132ないし135が設けられている。燃料電池スタック100は、クロスメンバ110,111の上に設置されており、燃料電池スタック100と、クロスメンバ110,111とは、第1連結部120によって連結されている。隔壁132,133と、燃料電池スタック100との間には、第2連結部130,131が設けられており、第2連結部130,131は、燃料電池スタック100と、隔壁132,133とを連結している。なお、図1に示す車両フレーム1000の構造は単なる一例であり、本発明は他の構造の車両にも適用可能である。
【0015】
図2は、燃料電池スタック100の車両搭載構造の詳細を示す説明図である。図2(A)ないし(C)は、燃料電池スタック100をそれぞれZ方向(鉛直方向)、Y方向、X方向から見た平面図である。なお、図示した以外にも、サイドメンバ等の車両構造物は存在しているが、燃料電池スタック100と連結されていないものに関しては省略して描いている。
【0016】
燃料電池スタック100は、燃料電池ケース100Aに収められており、発電積層体10と、エンドプレート11,12と、締結棒14bと、を備える。発電積層体10は、電気化学反応によって発電を行う発電体8を複数備えており、発電体8は、車両の進行方向に対して略垂直方向に積層されている。エンドプレート11,12は、発電積層体10を、積層方向に挟持するように構成されている。なお、エンドプレート11または12のどちらか一方には、燃料ガス等を連通させるための穴や配管等が設けられているが、図面を簡潔にするため省略している。図3以降でも同様である。締結棒14bは、エンドプレート11と、エンドプレート12とを掛け渡すように構成されており、発電積層体10に対して積層方向に圧縮応力を与えている。締結棒14bは、発電積層体10の短絡を生じさせないために、絶縁加工が施されていることが好ましい。または、締結棒14bと発電積層体10との間に絶縁部材(図示せず)を設けることとしてもよい。
【0017】
第1連結部120は、車両の構成部材の一部であるクロスメンバ110,111と、エンドプレート11,12とを連結するように設けられており、燃料電池スタック100を車両上に支持し、固定する働きを有している。第2連結部130,131は、車両ボディの一部である隔壁132,133と、締結棒14bとを連結するように設けられている。第1連結部120および第2連結部130,131は、衝撃に強い部材、例えば金属等で構成されることが好ましい。また、燃料電池ケース100Aには、第1連結部120および第2連結部130,131を貫通させるための穴が設けられていることが好ましい。
【0018】
以上のような構成で車両に搭載された燃料電池スタック100において、車両の振動等によって発電体8の間にせん断力が発生した場合には、発電積層体10の側面に設けられた締結棒14bが発電体8のせん断力方向の動きを規制するため、発電体8の間にずれが発生するのを抑制することができる。さらに大きなせん断力が発生し、締結棒14bのみでは発電体8の動きを規制できない場合であっても、車両の隔壁132,133および第2連結部130,131が締結棒14bを支持するため、発電体8の動きを規制し、発電体8の間にずれが発生するのを抑制することができる。特に、車体に大きな衝撃が加わった場合であっても、発電体8の間にずれが発生するのを抑制することができる。なお、第2連結部130と、131とは、燃料電池スタック100を介して向かい合った対称の位置に設けられることが好ましい。これは、燃料電池スタック100が種々の方向の衝撃を受けた場合や、衝撃の反動で逆向きの力を受けた場合等に、バランス良く燃料電池スタック100を支持することができるようにするためである。
【0019】
図3は、車両フレーム1000に対する燃料電池スタック100のその他の搭載位置を示す説明図である。図3に示すように、燃料電池スタック100は、クロスメンバ110や隔壁132等の車両構造物に囲まれた位置であれば、車両における任意の位置に搭載することが可能である。
【0020】
このように、第1実施例では、燃料電池スタック100のエンドプレート11,12と車両のクロスメンバ110,111とを第1連結部120で連結するため、燃料電池スタック100を車両上に支持することができる。また、燃料電池スタック100の締結棒14bと、車両ボディの隔壁132,133とを第2連結部130,131で連結しているため、車両からの衝撃や振動等によって、燃料電池スタック100の発電体8の間にずれが発生するのを抑制することが可能である。
【0021】
B.第2実施例:
図4は、第2実施例における燃料電池スタック100の車両搭載構造の詳細を示す説明図である。図2に示した第1実施例との違いは、締結棒14bの代わりに、略平板形状の締結プレート14pを用いてエンドプレート11と、エンドプレート12とを締結しているという点だけであり、他の構成は第1実施例と同じである。
【0022】
このように、締結プレート14pでエンドプレート11,12を締結し、締結プレート14pと第2連結部130,131とを連結しても、第1実施例と同様に、燃料電池スタック100の発電体8の間にずれが発生するのを抑制することが可能である。特に、第2実施例の締結プレート14pは、締結棒14bに比べて表面積が大きいため、第2連結部130,131を任意の場所に配置することが可能となる。従って、この点では第2実施例の方が好ましい。
【0023】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0024】
C1.変形例1:
上記実施例では、燃料電池スタック100の積層方向は、車両の進行方向に対して略垂直となっていたが、この代わりに、積層方向が車両の進行方向と略並行となるように燃料電池スタック100を車両に搭載することも可能である。
【0025】
C2.変形例2:
上記実施例では、第2連結部130,131は、燃料電池スタック100を介した対称の位置に2つ配設されているが、これは一例であり、1つ又は3つ以上の任意の数の第2連結部を配設することも可能である。
【0026】
C3.変形例3:
上記実施例では、第2連結部130,131は、隔壁132,133に連結されているが、この代わりに、クロスメンバ等の任意の車両構造物に連結させることが可能である。
【0027】
C4.変形例4:
上記実施例では、締結棒14b又は締結プレート14pと、隔壁132,133との間には隙間があり、その隙間に部材としての第2連結部130,131が設けられているが、この代わりに、隔壁132と隔壁133との間に形成される空間の幅を燃料電池スタック100の幅と等しくし、締結棒14b又は締結プレート14pと、隔壁132,133とを直接連結させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池スタックの車両搭載構造を示す説明図である。
【図2】燃料電池スタックの車両搭載構造の詳細を示す説明図である。
【図3】車両フレームに対する燃料電池スタックのその他の搭載位置を示す説明図である。
【図4】第2実施例における燃料電池スタックの車両搭載構造の詳細を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
8…発電体
10…発電積層体
11…エンドプレート
12…エンドプレート
14b…締結棒
14p…締結プレート
100…燃料電池スタック
100A…燃料電池ケース
105…サイドメンバ
106…サイドメンバ
110…クロスメンバ
111…クロスメンバ
112…クロスメンバ
113…クロスメンバ
114…クロスメンバ
115…クロスメンバ
120…第1連結部
130…第2連結部
132…隔壁
133…隔壁
134…隔壁
135…隔壁
1000…車両フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体であって、
複数の発電体が積層されることによって構成された発電積層体と、前記発電積層体を積層方向に挟持する2つのエンドプレートと、前記発電積層体の側面に設けられ前記2つのエンドプレートを締結するように掛け渡された締結部材と、を備える燃料電池スタックと、
前記移動体のボディ又はフレームを構成する構造体と、
前記2つのエンドプレートのうちの少なくとも1つと、前記構造体と、を連結する第1の連結部と、
前記締結部材と、前記構造体と、を連結する第2の連結部と、
を備える、移動体。
【請求項2】
請求項1記載の移動体であって、
前記第2の連結部は、前記燃料電池スタックを挟んで向かい合った対称の位置に複数配設される、移動体。
【請求項3】
請求項1または2記載の移動体であって、
前記発電積層体は、前記移動体の進行方向に平行な方向又は前記進行方向に垂直な方向に積層される、移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−290470(P2008−290470A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135014(P2007−135014)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】