説明

移動装置、移動装置の制御方法及びプログラム

【課題】推測航法から誘導方式へスムーズに切り替えることができる移動装置、移動装置の制御方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】誘導線に対する位置偏差を検出する検出手段と、推測航法に係る仮想誘導線に対する位置偏差を算出する算出手段とを備え、前記検出手段が検出した位置偏差又は前記算出手段が算出した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する移動装置において、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合する結合手段と、該結合手段が結合した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動装置、移動装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷工場、生産現場、配送センタ等では、物流を自動化する無人の搬送装置が導入されている。搬送装置をある地点から目的の地点へ移動する方式として、誘導線に沿って搬送装置を走行させる誘導方式がある。例えば、磁気誘導方式の搬送装置は、誘導線である磁気テープを磁気センサが検出することにより誘導線を認識し、誘導線に沿って走行する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、複数の誘導線が交差している場合、搬送装置は走行のための誘導線を誤認識することがある。そこで、例えば交差する2本の誘導線の内、1本の誘導線が撤去される。撤去した誘導線に沿って搬送装置を走行させる場合には、推測航法が用いられる。推測航法は、搬送装置を仮想的な誘導線に沿って自律走行させる航法である。搬送装置は、必要に応じて誘導方式から推測航法へ、推測航法から誘導方式へ切り替えて走行を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−097319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、搬送装置の航法を推測航法から誘導方式へ切り替える場合、推測航法と誘導方式との間の切り替えにより発生する誤差(偏差)に対して、搬送装置を駆動又は転舵する車輪が応答するため、搬送装置に振動が発生する場合がある。搬送装置の振動は、その安定走行を損ね、場合によっては搬送物が搬送装置から脱落するおそれが生じる。
【0006】
本願は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、推測航法から誘導方式へスムーズに切り替えることができる移動装置、移動装置の制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に係る移動装置は、誘導線に対する位置偏差を検出する検出手段と、推測航法に係る仮想誘導線に対する位置偏差を算出する算出手段とを備え、前記検出手段が検出した位置偏差又は前記算出手段が算出した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する移動装置において、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合する結合手段と、該結合手段が結合した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本願に係る移動装置では、誘導線に対する位置偏差及び推測航法に係る仮想誘導線に対する位置偏差を結合する結合手段を備えている。移動装置は、結合手段が結合した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する。
【0009】
本願に係る移動装置は、前記結合手段は、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を加算又は乗算するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
本願に係る移動装置では、結合手段は、誘導線に対する位置偏差及び推測航法に係る仮想誘導線に対する位置偏差を、加算又は乗算する。
【0011】
本願に係る移動装置は、前記結合手段は、前記誘導線及び仮想誘導線が交差する位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
本願に係る移動装置では、結合手段は、移動装置が誘導線及び仮想誘導線が交差する位置を通過した場合、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差を結合する。
【0013】
本願に係る移動装置は、前記結合手段は、前記誘導線及び仮想誘導線が接続された位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
本願に係る移動装置では、結合手段は、移動装置が誘導線及び仮想誘導線が接続された位置を通過した場合、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差を結合する。
【0015】
本願に係る移動装置は、前記結合手段は、直線状の前記誘導線及び湾曲した前記仮想誘導線が接続された位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
本願に係る移動装置では、結合手段は、移動装置が直線状の誘導線及び湾曲した仮想誘導線が接続された位置を通過した場合、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差を結合する。
【0017】
本願に係る移動装置は、前記算出手段が算出した位置偏差に第一重みを付ける第一重み付け手段と、前記検出手段が検出した位置偏差に第二重みを付ける第二重み付け手段とを備え、前記結合手段は前記第一重み付け手段が第一重みを付けた位置偏差及び前記第二重み付け手段が第二重みを付けた位置偏差を結合するようにしてあることを特徴とする。
【0018】
本願に係る移動装置では、結合手段は、第一及び第二重みを夫々付けた誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差を結合する。
【0019】
本願に係る移動装置は、前記第一重み及び/又は第二重みを時間経過、移動距離又は位置に応じて変更する変更手段を備えることを特徴とする。
【0020】
本願に係る移動装置では、変更手段は、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差の夫々に付ける第一及び/又は第二重みを時間経過、移動距離又は位置に応じて変更する。
【0021】
本願に係る移動装置は、前記変更手段は前記第一重み及び第二重みを相反的に変更するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本願に係る移動装置では、変更手段は、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差の夫々に付ける第一及び第二重みを相反的に変更する。
【0023】
本願に係る移動装置は、前記検出手段は誘導線を検出する誘導線検出手段を有し、前記変更手段は前記誘導線検出手段が誘導線を検出した時間又は位置に基づいて、前記第一重み及び/又は第二重みの変更を開始するようにしてあることを特徴とする。
【0024】
本願に係る移動装置では、変更手段は、誘導線が検出された時間又は位置に基づいて、誘導線に対する位置偏差及び仮想誘導線に対する位置偏差の夫々に付ける第一及び/又は第二重みの変更を開始する。
【0025】
本願に係る移動装置の制御方法は、制御部を有する移動装置に備えられた検出手段が、誘導線に対する移動装置の位置偏差を検出し、前記制御部が、推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を算出し、前記検出手段が検出した位置偏差又は算出した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する移動装置の制御方法において、前記制御部が、検出した位置偏差及び算出した位置偏差を結合し、結合した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出することを特徴とする。
【0026】
本願に係る移動装置の制御方法では、移動装置の検出手段が誘導線に対する移動装置の位置偏差を検出し、移動装置の制御部が推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を算出する。移動装置の制御部は、誘導線に対する移動装置の位置偏差及び推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を結合し、結合した移動装置の位置偏差に基づいて、移動装置の移動に係る制御量を算出する。
【0027】
本願に係るプログラムは、コンピュータを、推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を算出する算出手段、及び誘導線に対する移動装置の与えられた位置偏差又は前記算出手段が算出した移動装置の位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する手段として機能させるためのプログラムにおいて、コンピュータを、与えられた前記位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合する結合手段、並びに該結合手段が結合した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する手段として機能させる。
【0028】
本願に係るプログラムでは、コンピュータを、誘導線に対する移動装置の与えられた位置偏差及び推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を結合する結合手段、並びに結合した位置偏差に基づいて、移動装置の移動に係る制御量を算出する手段として機能させる。
【発明の効果】
【0029】
本願の一観点によれば、推測航法から誘導線による誘導方式へスムーズに切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】搬送車の構成を示す模式的平面図である。
【図2】前輪駆動部及び前輪転舵部の外観の一例を示す模式的斜視図である。
【図3】制御部の構成及び制御部に接続される搬送車の各構成部を示すブロック図である。
【図4】磁気誘導方式による搬送車の制御例を説明する説明図である。
【図5】デッドレコニングの一例の説明図である。
【図6】推測航法によるガイド偏差の算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】磁気誘導方式と推測航法との間での航法の切り替え例に関する説明図である。
【図8】連続切り替えにともなう前輪の転舵角変化を模式的に説明する説明図である。
【図9】連続切り替えにともなう後輪の転舵角変化を模式的に説明する説明図である。
【図10】連続切り替えに係る処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図11】不連続切り替えと連続切り替えとによる転舵角度の変化例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施例における移動装置を、実施の形態を示す図面に基づいて説明する。本実施の形態に係る移動装置は、例えば搬送車、搬送ロボット等を含む。以下では、移動装置の例として、無人の自動搬送車を挙げて説明する。
なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0032】
本実施の形態に係る搬送車は、誘導方式により搬送物を搬送する。また、本実施の形態に係る搬送車は、搬送路が交差している場合、交差部分を推測航法により走行するときがある。搬送車の誘導方式には、磁気誘導方式、光学誘導方式、電磁波誘導方式等がある。本実施の形態では、床面に貼設した磁気テープの誘導線が発生する磁気を検出させて、搬送車を誘導する磁気誘導方式を例に挙げる。なお、磁気テープの代わりに、床面に磁性物質を埋設してもよい。
【0033】
図1は、搬送車1の構成を示す模式的平面図である。図1の白抜矢印は、搬送車1の前方を示し、搬送車1が走行している場合には前進方向となる。
搬送車1は、矩形状の底面を有する車体2と、車体2の底面に配設された4つのキャスター3とを含む。
車体2の底面の長手方向は、直進する場合の走行方向と略平行である。一方、車体2の底面の短手方向は、長手方向と直交し、車体2の幅方向と略同一である。以下、特に断りがない限り、左右の語を搬送車1の前進方向に対して使用する。4つのキャスター3の内、2つのキャスター3は車体2の左側の2角に配設されている。他の2つのキャスター3は、夫々車体2の前方端及び後方端であって、前進方向に対して車体2の中央線と右側端との略中間に配設されている。
【0034】
搬送車1は、ガイドセンサ(検出手段)4a、4b、左マークセンサ5a、右マークセンサ5b、前輪6a、後輪6b及び制御部7を含む。
車体2の底面の前端及び後端であって、前進方向に対して車体2の中央線と左側端との略中間には、夫々1つずつガイドセンサ4a、4bが設けられている。ガイドセンサ4a、4bは、車体2の幅方向に略一定間隔を隔てて配列された複数の磁気素子からなる磁気センサアレイである。
【0035】
ガイドセンサ4a、4bは、各磁気素子により誘導線10が発する磁気を検出する。また、ガイドセンサ4a、4bは、夫々自身の伸長方向の中心位置と誘導線10の中央線10aの位置との間の距離を、ガイド偏差(位置偏差)として検出する。ガイドセンサ4a、4bは、夫々誘導線10の中央線10aが自身の中心位置に対して左側に変異した場合、負の符号を付したガイド偏差を出力する。一方、ガイドセンサ4a、4bは、夫々誘導線10の中央線10aが自身の中心位置に対して右側に変異した場合、正の符号を付したガイド偏差を制御部7に出力する。
【0036】
車体2の左側に配置された前後のキャスター3の略中間であって、車体3の底面の左端には、左マークセンサ5aが設けられている。また、車体2の右側の前後に配置されたキャスター3の略中間から少し左寄りの底面には、右マークセンサ5bが設けられている。左マークセンサ5aと右マークセンサ5bとを結ぶ方向は、車体2の幅方向と略同一である。
【0037】
搬送車1が直線コースからカーブに入る位置の床面であって、左マークセンサ5a、右マークセンサ5bと夫々対向する位置の床面には、磁気テープの開始マーク11a、11bが貼設されている。開始マーク11a、11bは、磁気誘導方式から推測航法への切り替え位置を示す。図1は、搬送車1が磁気誘導方式から推測航法への切り替え位置より少し手前にある状態を示している。
搬送車1がカーブを抜け、直線コースに移行が完了する位置より所定距離だけ進行方向へ移動した位置の床面であって、左マークセンサ5a、右マークセンサ5bと夫々対向する位置の床面には、磁気テープの終了マークが貼設されている。終了マークは、搬送車1を停止させる場合の停止位置を示す。なお図1では、終了マークは示されていない。
【0038】
左マークセンサ5a又は右マークセンサ5bのいずれかが開始マーク11a、11bからの磁気を検出した場合、搬送車1は磁気誘導方式から推測航法に切り替える位置にある。左マークセンサ5a又は右マークセンサ5bのいずれかが夫々終了マークからの磁気を検出した場合、搬送車1は停止する。
左マークセンサ5a、右マークセンサ5bは、開始マーク11a、11b又は終了マークからの磁気を検出した場合、所定の信号を制御部7に出力する。
【0039】
前輪6aは、車体2の前端に設置された2つのキャスター3の略中間から車体2の後方寄りの位置に設けられている。後輪6bは、車体2の後端に設置された2つのキャスター3の略中間から車体2の前方寄りの位置に設けられている。前輪6aと後輪6bとを結ぶ方向は、車体2の長手方向と略同一である。前輪6a及び後輪6bは、共に搬送車1を走行させる駆動車輪として、また搬送車1を転舵する転舵車輪として機能する。
【0040】
搬送車1は、前輪駆動部61a及び前輪転舵部62aを含む。
図2は、前輪駆動部61a及び前輪転舵部62aの外観の一例を示す模式的斜視図である。前輪駆動部61aは、ホイールモータ61c、半円形旋回外歯ギア61d及びリング状の旋回ベース61eを含む。ホイールモータ61cは、車体2に搭載された図示しない蓄電池から電力の供給を受ける。前輪6aは、ホイールモータ61cの回転軸に取り付けられている。ホイールモータ61c及び半円形旋回外歯ギア61dは、ボルトにより旋回ベース61eに締着されている。
前輪駆動部61aは、前輪6aの回転に伴うパルス列を出力するロータリエンコーダ(図示せず)を含む。
【0041】
前輪転舵部62aは、旋回モータ62c、旋回ピニオンギア62d及び固定ベース62eを含む。旋回モータ62c及び旋回ピニオンギア62dは、固定ベース62eに取り付けられている。固定ベース62eは、車体2に取り付けられる。
【0042】
旋回ベース61eは、固定ベース62eに対して旋回できるように、ベアリングにより支持されている。旋回ピニオンギア62dは、旋回モータ62cと連結されており、かつ半円形旋回外歯ギア61dと噛合している。旋回モータ62cは、車体2に搭載された図示しない蓄電池から電力の供給を受ける。旋回モータ62cの回転駆動は、旋回ピニオンギア62dを介して、半円形旋回外歯ギア61dに所定の減速比で伝達される。こうして、前輪駆動部61aのホイールモータ61cに取り付けられた前輪6aは、旋回モータ62cの回転により旋回する。
なお、前輪転舵部62aは、前輪6aの旋回に伴うパルス列を出力する旋回エンコーダ(図示せず)を含む。
【0043】
制御部7は、ガイドセンサ4a、4bが夫々出力するガイド偏差に基づいて、前輪6a及び後輪6bの各々の転舵角度をフィードバック制御する。
【0044】
図3は、制御部7の構成及び制御部7に接続される搬送車1の各構成部を示すブロック図である。
搬送車1は、後輪駆動部61b及び後輪転舵部62bを含む。後輪駆動部61b及び後輪転舵部62bの構成は、夫々図2に示した前輪駆動部61a及び前輪転舵部62aの構成と同じである。
【0045】
搬送車1は、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gを含む。
前輪駆動部61aが有するロータリエンコーダは、前輪6aの回転に伴うパルス列を前輪速度検出部61fに出力する。ここでのパルス列とは、微小時間である制御周期毎に検出されるパルス数のことである。前輪速度検出部61fは、受け付けたパルス列に基づいて、前輪6aの単位時間当たりの回転数と走行速度(単位は、例えばmm/s)とを算出し、制御部7に出力する。また、前輪速度検出部61fは、異なるパルスの立ち上がりを比較することにより、前輪6aの回転方向を検出し、搬送車1の走行方向として前進方向又は後退方向のいずれかを制御部7に出力する。
【0046】
後輪速度検出部61gは、前輪速度検出部61fと類似の機能を有し、後輪6bの走行速度及び走行方向を算出し、制御部7に出力する。
前輪速度検出部61f及び後輪速度検出部61gは、夫々前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bが有するロータリエンコーダから受け付けたパルス列もそのまま制御部7に出力する。
【0047】
前輪転舵部62aが有する旋回エンコーダは、前輪6aの旋回に伴うパルス列を前輪方向検出部62fに出力する。前輪方向検出部62fは、受け付けたパルス列に基づいて、前輪6aの単位時間当たりの旋回角度(単位は、例えばrad/s)と前輪6aの方向とを算出し、制御部7に出力する。
【0048】
後輪方向検出部62gは、前輪方向検出部62fと同様の機能を有し、後輪6bの単位時間当たりの旋回角度と後輪6bの方向とを算出し、制御部7に出力する。
前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gは、夫々前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bが有する旋回エンコーダから受け付けたパルス列もそのまま制御部7に出力する。
【0049】
なお、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f又は後輪方向検出部62gの機能を制御部7が有していてもよい。かかる場合、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f又は後輪方向検出部62gはなくてもよい。
【0050】
制御部7は、ROM(Read Only Memory)71、CPU(Central Processing Unit)(算出手段、結合手段、制御量を算出する手段、第一重み付け手段、第二重み付け手段、変更手段)72、RAM(Random Access Memory)73及びインタフェース部74を含む。制御部7の各構成部は、バス7aを介して互いに接続されている。
【0051】
ROM71は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)、フラッシュメモリ、FeRAM(Ferroelectric RAM)等の不揮発性メモリである。ROM71は、CPU72が実行するプログラム711及びマップ712を記録する。マップ712は、搬送車1の搬送路に関する情報である。マップ712は、搬送路の状況を直線データ(始点、終点データで規定)と円弧データ(曲率半径、曲率半径の中心、始点、終点データで規定)とに分解し、さらに合成することで、経路情報としてROM71に保持されている。直線データ及び円弧データの始点と終点には、各々に対応する走行ポイント番号が設定されている。
なお、プログラム711又はマップ712を外部の記録手段に予め記録しておき、プログラム711又はマップ712の情報が必要になった場合に、例えば無線通信手段を介して、CPU72がROM71にダウンロードする形態であってもよい。
【0052】
CPU72は、搬送車1の各構成部を制御する。CPU72は、ROM71に記録されたプログラム711を読み出し、実行する。
RAM73は、CPU72による処理の過程で必要な作業変数、データ等を一時的に記録する。なお、RAM73は主記憶装置の一例であり、RAM73の代わりにフラッシュメモリ、メモリカード等が用いられてもよい。あるいは、RAM73の役割をROM71が代替してもよい。
【0053】
インタフェース部74は、ガイドセンサ4a、4bが出力する各ガイド偏差、左マークセンサ5a、右マークセンサ5bが出力する所定の信号をCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪速度検出部61fが出力する前輪6aの走行速度及び走行方向、並びに後輪速度検出部61gが出力する後輪6bの走行速度及び走行方向をCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪方向検出部62fが算出した前輪6aの単位時間当たりの旋回角度及び方向、並びに後輪方向検出部62gが算出した後輪6bの単位時間当たりの旋回角度及び方向をCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gが出力した各パルス列もそのままCPU72に出力する。
また、インタフェース部74は、CPU72から受け付けた走行速度の制御信号を前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに出力する。インタフェース部74は、CPU72から受け付けた転舵角度の制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。
【0054】
次に、搬送車1の動作について説明する。まず、磁気誘導方式及び推測航法による搬送車1の動作を説明する。
図4は、磁気誘導方式による搬送車1の制御例を説明する説明図である。図4の白抜矢印は、搬送車1の前方を示す。図4は、ガイドセンサ4a周囲の車体2前部を示す。ガイドセンサ4aは、磁気テープの誘導線10の中央線10aをピークとする波形を検出する。これによりガイドセンサ4aは、誘導線10の中心を取得する。ガイドセンサ4aは、自身の中心と誘導線10の中心とのずれをガイド偏差として、CPU72に出力する。図4の例では、誘導線10の中央線10aが自身の中心位置に対して右側にずれているので、正のガイド偏差をCPU72に出力する。同様に、車体2の後端に設置されたガイドセンサ4bも正又は負のガイド偏差をCPU72に出力する。
【0055】
CPU72は、ガイドセンサ4a、4bから受け付けたガイド偏差がゼロになるように、転舵角度を変更する制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。CPU72から制御信号を受け付けた前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bは、受け付けた制御信号に基づいて、旋回モータ62cを回転させ、夫々前輪6a及び後輪6bを旋回させる。CPU72は、継続してガイドセンサ4a、4bからガイド偏差を受け付け、そのガイド偏差がゼロになるように、制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。このようなフィードバック制御により、CPU72は搬送車1を誘導線10に沿って走行させる。
【0056】
次に、推測航法による搬送車1の制御を説明する。
推測航法において、制御部7は、デッドレコニングにより算出した前輪6a及び後輪6bの位置から、ガイドセンサ4a、4bの位置を計算し、計算したガイドセンサ4a、4bの位置とマップ712に記録された仮想誘導線とのガイド偏差を算出する。そして、制御部7は、算出したガイド偏差に基づいて、前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bをフィードバック制御する。
【0057】
図5は、デッドレコニングの一例の説明図である。デッドレコニングは、ロータリエンコーダ及び旋回エンコーダからのパルス列に基づいて、搬送車1の現在位置(座標及び方位)を算出する自己位置推定法である。図5は、搬送車1が曲率半径Rの円弧に沿って左旋回する例を示している。
【0058】
XY平面座標において、搬送車1の現在位置を(Xi ,Yi )、搬送車1の現在方位をAi 、微小時間後の搬送車1の位置を(Xi+1 ,Yi+1 )、微小時間後の搬送車1の方位をAi+1 とする。ここで、搬送車1の位置は、ガイドセンサ4a、4bを結ぶ線分と、左マークセンサ5a及び右マークセンサ5bを結ぶ線分との交点で代表されている。搬送車1の方位は、X軸と搬送車1の前進方向とがなす角度で表されている。dAは、曲率半径Rの中心の周りを回転した搬送車1の微小時間後の方位変化角度であり、Ai+1 =Ai +dAである。
【0059】
Uは、円弧に沿った微小時間後の搬送車1の移動距離である。αは、搬送車1の現在及び微小時間後の位置を結ぶ弦の長さである。βは、X軸と長さαの弦とがなす角度であり、β=Ai +dA/2である。
【0060】
【数1】

【0061】
図6は、推測航法によるガイド偏差の算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。図6では、前輪速度検出部61f、前輪方向検出部62f、後輪速度検出部61g及び後輪方向検出部62gが実行する計算をCPU72が行う場合について例示している。
CPU72は、RAM73から前回算出した前輪6a及び後輪6bの位置を読み出す(ステップS101)。ここでの位置情報は、座標とX軸に対する方位とである。なお、推測航法を開始する場合には、ステップS101で、前輪6a及び後輪6bの初期位置を設定する。
【0062】
CPU72は、前輪速度検出部61f、前輪方向検出部62f、後輪速度検出部61g及び後輪方向検出部62gから前輪6a及び後輪6bのロータリエンコーダ、旋回エンコーダが出力したパルス列を受け付ける(ステップS102)。CPU72は、受け付けたパルス列に基づいて、前輪6a及び後輪6bの走行距離及び方位変化角度を算出する(ステップS103)。
【0063】
CPU72は、走行ポイント番号に基づき、推測航法により走行する仮想誘導線の経路情報をマップ712から読み出す(ステップS104)。CPU72は、ステップS101で読み出した前回位置、ステップS103で算出した走行距離及び方位変化角度、並びに式(2)から前輪6a及び後輪6bの現在位置を算出する(ステップS105)。CPU72は、ステップS105で算出した前輪6a及び後輪6bの現在位置をRAM73に記録する(ステップS106)。ステップS106でRAM73に記録した前輪6a及び後輪6bの現在位置は、図6の処理が次回に読み出された場合、ステップS101で読み出される。
【0064】
CPU72は、ステップS105で算出した前輪6a及び後輪6bの現在位置及び車体2の幾何学的情報から、ガイドセンサ4a、4bの現在位置を算出する(ステップS107)。CPU72は、ステップS104で読み出した仮想誘導線の位置と、ステップS107で算出したガイドセンサ4a、4bの現在位置とから、各ガイド偏差を算出し(ステップS108)、処理を終了する。
【0065】
CPU72は、算出したガイド偏差がゼロに近づく制御量を計算し、前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに制御信号を出力する。微小時間の制御周期が経過する度に、図6の処理が繰り返し呼び出され、CPU72から前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに制御信号が出力される。こうして、搬送車1はPID制御により仮想誘導線に沿って走行する。
【0066】
図7は、磁気誘導方式と推測航法との間での航法の切り替え例に関する説明図である。
図7の上方には、左方から右方へ磁気テープの誘導線10が直線状に貼設されている。また、この誘導線10は、左方から右方へたどる場合、途中で2本に分岐し、1本は図7の下方へカーブし、そのまま下方へ伸びる直線コースを形成している。一方、この下方へ伸びる直線コースの左には、この直線コースと並走する他の直線状の誘導線10が貼設されている。左側に位置する他の誘導線10は、上端から右方へカーブし、図7上方の左方から右方へ貼設された直線状の誘導線10に接続する。すなわち、図7の下方に貼設された2本の誘導線10の各上端からは、互いに反対方向に湾曲し、交差するカーブ部分が連なる。しかし、図7において、破線で示された他の誘導線10のカーブ部分は、搬送車1が誘導線10を誤認識しないように撤去されている。図7の破線で示された他の誘導線10のカーブ部分は、搬送車1が推測航法により走行するための仮想誘導線に該当する。
【0067】
搬送車1が図7の下方左側の直線コースを下から上へ前進し、カーブ部分で右へ転舵して再び直線コースに移行する場合、a、b、c及びdは、搬送車1の前進にともなう前輪6aの各位置を示している。同様にa’、b’、c’及びd’は、搬送車1の前進にともなう後輪6bの各位置を示している。以下、前輪6a及び後輪6bの各位置の対であるa−a’、b−b’、c−c’及びd−d’を搬送車1の位置として使用することにする。
【0068】
搬送車1は、図7の下方左側の直線コースを下から上へ走行する間、磁気誘導方式により走行する。しかし、搬送車1が図7のa−a’に達した場合、左マークセンサ5a、右マークセンサ5bは、開始マーク11a、11bからの磁気を検出し、夫々所定の信号をCPU72に出力する。CPU72は、左マークセンサ5a又は右マークセンサ5bのいずれかから所定の信号を受け付けた場合、前輪6a及び後輪6bの両者について磁気誘導方式から推測航法に切り替える。
【0069】
搬送車1は、図7の例では右へ転舵を開始し、b−b’の位置に到達する。搬送車1がb−b’の位置に達した場合、車両2の前端に設けられたガイドセンサ4aは、図7の上方に貼設され、左方から右方へ伸びる直線状の誘導線10に左方から乗り継ぎはじめる。搬送車1は、さらに転舵と前進とを継続し、c−c’の位置に到達する。搬送車1がc−c’の位置に達した場合、車両2の後端に設けられたガイドセンサ4bは、図7の上方に貼設され、左方から右方に伸びる直線状の誘導線10に左方から乗り継ぎはじめる。
搬送車1は、図7の上方に貼設され、左方から右方に伸びる直線状の誘導線10に沿って左から右へ走行し、d−d’の位置に到達する。
【0070】
従来、前輪及び後輪の両輪について推測航法を開始した搬送車は、b−b’の位置で前輪について推測航法から磁気誘導方式に切り替える。また、従来の搬送車は、c−c’の位置で後輪について推測航法から磁気誘導方式に切り替える。以後、搬送車は前輪及び後輪の両輪について磁気誘導方式を継続する。b−b’とc−c’との間では、従来の搬送車は前輪について磁気誘導方式、後輪について推測航法で走行する。
【0071】
しかし、本実施の形態に係る搬送車1の前輪6a及び後輪6bは、夫々磁気テープへの乗継位置であるb−b’及びc−c’よりも少し前進方向側へ進んだ位置で、推測航法から磁気誘導方式に切り替えを開始する。
【0072】
前輪6aは、例えばbとcとの間の位置であって、ガイドセンサ4aが図7に示す乗継位置bから所定距離だけ前進方向に移動した場合、推測航法から磁気誘導方式に切り替えはじめる。ここでの所定距離は、例えば150mmである。前輪6aは、例えばdの位置に達した場合、推測航法から磁気誘導方式への切り替えを完了する。
後輪6bは、ガイドセンサ4bが図7に示す乗継位置c’から所定距離だけ前進方向に移動した場合、推測航法から磁気誘導方式に切り替えはじめる。ここでの所定距離は、例えば150mmである。後輪6bは、例えばd’の位置に達した場合、推測航法から磁気誘導方式への切り替えを完了する。
【0073】
後輪6bがd’の位置にある場合、左マークセンサ5a、右マークセンサ5bが対向する床には、終了マーク11c、11dが貼設されている。左マークセンサ5a又は右マークセンサ5bのいずれかは、夫々終了マーク11c又は終了マーク11dからの磁気を検出した場合、所定の信号をCPU72に送信する。
【0074】
CPU72は、左マークセンサ5a又は右マークセンサ5bのいずれかから所定の信号を受け付けた場合、搬送車1がカーブ部を抜け、直線コースへ移行を完了したことを認識する。
【0075】
従来、推測航法から磁気誘導方式への切り替えは、瞬時に実行された。一方、搬送車1は、時間的又は位置的な幅をもって徐々に推測航法から磁気誘導方式へ切り替える。以下、従来の推測航法から磁気誘導方式への切り替えを不連続切り替え、本実施の形態における推測航法から磁気誘導方式への切り替えを連続切り替えと呼ぶことにする。
なお、上述の連続切り替えの区間は、一例であり、搬送車1の大きさ、カーブの曲率半径、転舵角度、車体2におけるガイドセンサ4a、4bの位置、走行速度等により異なる。
【0076】
推測航法により得られるガイド偏差をε1、磁気誘導方式により得られるガイド偏差をε2とする。ここでは、式(3)で示されるガイド偏差εout を算出する。
εout =ε1×α+ε2×(1−α)・・・(3)
α(第一重み)は1と0との間で変化するパラメータである。1−α(第二重み)は0と1との間で変化するパラメータである。
CPU72は、推測航法から磁気誘導方式へ切り替える場合、αの値を1から0へ少しずつ変化させてεout を計算する。CPU72は、式(4)より転舵角度θを求め、求めた転舵角度θに対応する制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。
θ=Kεout ・・・(4)
なお、式(4)のKは操舵ゲインである。
【0077】
αを変化させる態様は、様々なものが考えられる。例えば、αの値を300分割し、10ms毎にカウントダウンする。その場合、αは300/300、299/300、298/300、・・・、2/300、1/300、0/300の各値をとる。α=1の場合、εout =ε1となり、推測航法のガイド偏差だけが用いられて転舵制御が行われる。一方、α=0の場合、εout =ε2となり、磁気誘導方式のガイド偏差だけが用いられて転舵制御が行われる。0<α<1の場合、ε1及びε2に夫々重み付けをしたガイド偏差を結合したものがεout となり、推測航法のガイド偏差及び磁気誘導方式のガイド偏差の両者を用いて転舵制御が行われる。
【0078】
図8は、連続切り替えにともなう前輪6aの転舵角変化を模式的に説明する説明図である。図9は、連続切り替えにともなう後輪6bの転舵角変化を模式的に説明する説明図である。図8及び図9において、縦軸は転舵角度を示し、横軸は時間を示している。
一般に、カーブ部における前輪6a及び後輪6bの転舵角は、車体2の長軸方向を0度とした場合、湾曲した搬送路に沿う方向に少しずつ増大し、極大を迎える。その後、前輪6a及び後輪6bの転舵角は減少に転じ、0度に戻る。そして、搬送車1はカーブ部を通過し、直線走行に移行する。
【0079】
図8A、図8B、図9A及び図9Bにおいて、一点鎖線は推測航法により得られるガイド偏差ε1から求められる転舵角変化を、鎖線は磁気誘導方式により得られるガイド偏差ε2から求められる転舵角変化を示している。実線は実際の前輪6a及び後輪6bの転舵角変化を示している。区間sは、連続切り替え区間である。丸Cは、切り替え開始時におけるガイド偏差ε1から求めた転舵角である。白三角HT及び黒三角BTは、共に切り替え開始時におけるガイド偏差ε2から求めた転舵角である。ここでは、白三角HTはガイド偏差ε2から求めた転舵角が丸Cで示したガイド偏差ε1から求めた転舵角より大きい場合を表している。一方、黒三角BTはガイド偏差ε2から求めた転舵角が丸Cで示したガイド偏差ε1から求めた転舵角より小さい場合を表している。すなわち、図8A及び図9Aは黒三角BT<丸Cである場合を示し、図8B及び図9Bは白三角HT>丸Cである場合を示している。
【0080】
デッドレコニングにより算出される自己位置には誤差があるため、推測航法に基づく転舵角と磁気誘導方式に基づく転舵角とにはずれが生じ、そのずれの生じ方には、図8A及び図9Aと図8B及び図9Bとの2パターンがある。図8A及び図9Aと図8B及び図9Bとのどちらのパターンにせよ、従来の不連続切り替えは、転舵角の急な変動を伴うため、搬送車1に振動が生じる原因となり得る。
【0081】
本実施の形態では、図8及び図9に示した区間sについて、前輪6a及び後輪6bの転舵角を太線矢印で示したトレンドに沿って変化させる。そこで、CPU72は、前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する制御信号を生成するための材料となるε outを式(3)から得る。CPU72は、連続切り替えの開始時には、推測航法に係るε1の重みを重くし、磁気誘導方式に係るε2の重みを軽くする。CPU72は、時間経過又は搬送車1の進行につれて、少しずつ推測航法に係るε1の重みを軽くし、磁気誘導方式に係るε2の重みを重くする。これにより、推測航法から磁気誘導方式への連続切り替えがスムーズになる。
【0082】
図8及び図9の区間sにおいて、s秒かけて連続切り替えを行う場合、式(3)のαは例えば1−(t/s)である。tは連続切り替えを開始してからの経過時間(秒)である。
【0083】
搬送車1の前輪6aは、ガイドセンサ4aが磁気テープに乗り継ぐ位置から、所定距離走行した位置又は所定時間走行した位置に達した場合、連続切り替えを開始する。
推測航法から磁気誘導方式へ切り替えはじめる場合、少なくともガイドセンサ4a、4bが磁気テープの磁気を検出することができる位置を搬送車1が走行している必要がある。しかし、デッドレコニングにより算出される自己位置には誤差がある。そのため、算出された自己位置は、マップ712上では磁気テープへの乗継地点であっても、実際にはガイドセンサ4a、4bが磁気テープの磁気を検出することができない位置である場合が考えられる。
【0084】
また、直線状の磁気テープの横断幅は、横断方向が磁気テープの幅方向(長手方向に対して略直角方向)である場合が最も短く、横断方向と磁気テープの幅方向とのなす角度が大きくなるほど、長くなる。搬送車1が転舵しながら直線状の磁気テープに乗り継ぐ場合、ガイドセンサ4a、4bは磁気テープの長手方向に対して斜めに磁気テープを横断する。そのため、磁気センサ4a、4bが検出するガイド偏差は、搬送車1が磁気テープの長手方向に走行している場合に比べて大きくなる。しかし、搬送車1の転舵がさらに進み、ガイドセンサ4a、4bの伸長方向と磁気テープの幅方向とのなす角度が小さくなるほど、磁気センサ4a、4bが検出するガイド偏差は小さくなる。ガイド偏差が小さいほど、PID制御に関する制御量は小さくなるため、搬送車1の転舵角度の変化も小さくてすむ。
【0085】
図10は、連続切り替えに係る処理の手順の一例を示すフローチャートである。図10では、前輪6aについて連続切り替えを行う場合を扱う。後輪6bについての連続切り替え処理の手順も図10と同一である。
【0086】
CPU72は、ガイドセンサ4aから乗り継ぎに係る磁気テープの磁気を検出した旨の信号を受け付けてから所定距離走行したか否か判定する(ステップS201)。CPU72は、搬送車1が所定距離走行していないと判定した場合(ステップS201:NO)、ステップS201に処理を戻す。CPU72は、搬送車1が所定距離走行したと判定した場合(ステップS201:YES)、式(3)に基づいてεout の算出と所定のカウントダウンとをする(ステップS202)。CPU72は、式(4)に基づいて転舵角度θを算出する(ステップS203)。CPU72は、ステップS203で算出した転舵角度θに対応する制御信号を前輪転舵部62aに出力する(ステップS204)。
【0087】
CPU72は、所定のカウントダウンが終了したか否か判定する(ステップS205)。CPU72は、所定のカウントダウンが終了していないと判定した場合(ステップS205:NO)、ステップS202に処理を戻す。CPU72は、所定のカウントダウンが終了したと判定した場合(ステップS205:YES)、処理を終了する。
ステップS202からステップS205までが、搬送車1の連続切り替え処理に該当する。
なお、ステップS201の判定が所定時間の走行に基づいてもよいことは勿論である。
【0088】
図11は、不連続切り替えと連続切り替えとによる転舵角度の変化例を説明する説明図である。図11Aは、不連続切り替えにより搬送車1を走行させた場合の転舵角度の測定値を示す。図11Bは、連続切り替えにより搬送車1を走行させた場合の転舵角度の測定値を示す。図11A及び図11Bにおいて、縦軸は転舵角度を示し、横軸は時間を示している。また、図11A及び図11Bにおいて、細線は前輪6aの転舵角度を、太線は後輪6bの転舵角度を示す。
なお、搬送車1が転舵する場合、前輪6aと後輪6bは互いに反対方向に回転する。図11A及び11Bでは、このことを転舵角度の正負の違いから表現している。
図11A及び図11Bに示す測定は、搬送車1に被搬送物を載置した状態で行われた。
【0089】
図11Aに示す従来の不連続切り替えの場合、前輪6aと後輪6bとのどちらにおいても、切り替え後に転舵角度変化の乱れを示す波が認められる。この転舵角度の乱れは、搬送車の振動の原因になっていた。
一方、図11Bに示す連続切り替えの場合、前輪6aと後輪6bとのどちらにおいても転舵角度は滑らかに変化しており、特段の乱れは認められない。また、搬送車1を視認した結果でも、不連続切り替えでは搬送車1の振動が認められたが、連続切り替えでは搬送車1の振動は認められなかった。実験条件では、搬送車1に被搬送物を載置したため、搬送車1の重心位置は被搬送物を載置しない場合に比較してより高い位置にある。それにもかかわらず、連続切り替えでは切り替えの前後を通して搬送車1の振動は検出されなかった。
このように、搬送車1の航法を推測航法から磁気誘導方式へ切り替えるに際し、連続切り替えを行った場合、従来よりも明らかに優位な効果を奏することが判明した。
【0090】
搬送車1によれば、航法を推測航法から磁気誘導方式へ連続的に切り替えることにより、振動しない安定走行を実現することができる。
ガイド偏差ε1とガイド偏差ε2とを結合したガイド偏差ε outに基づいて、移動に係る制御量を算出することにより、推測航法から磁気誘導方式への連続切り替えが可能となる。また、搬送車1によれば、ガイド偏差ε1とガイド偏差ε2とに、夫々相反して増減するα、1−αの重みを付け、αを所定時間毎に変化させることにより、スムーズな航法の切り替えを実現することができる。
【0091】
搬送車1によれば、推測航法から磁気誘導方式への連続切り替えは、誘導線が交差する搬送路で有効である。
誘導線10の交差位置でのガイドセンサ4a、4bの誤認識を回避するため、一部の誘導線10が撤去された場合、搬送車1の走行に対して推測航法を適用する必要が生じる。かかる場合、推測航法からより安定かつ確実な走行を可能とする磁気誘導方式へ切り替える必要が生じる。推測航法から磁気誘導方式への連続切り替えは、磁気誘導方式へのスムーズな移行に資する。
【0092】
搬送車1によれば、推測航法から磁気誘導方式への連続切り替えは、マップ712に記録された仮想誘導線がカーブしており、このカーブした仮想誘導線が直線状の誘導線10と接続されている場合に有効である。
搬送車1は、カーブ部分の仮想的搬送路で転舵する。このカーブした仮想誘導線から直線状の誘導線10に乗り継ぐために、推測航法から磁気誘導方式へ不連続に切り替えた場合、転舵に伴う搬送車1の振動が発生する。しかし、カーブ部分の仮想的搬送路で転舵しても、推測航法から磁気誘導方式へ連続的に切り替えた場合、搬送車1は振動しない。
【0093】
搬送車1によれば、推測航法により走行している場合、ガイドセンサ4aが磁気テープを検出してから所定時間走行した場合、又は所定距離走行した場合、前輪6aについて推測航法から磁気誘導方式へ連続切り替えを実行する。これにより、デッドレコニングによる自己位置が磁気テープへの乗継位置とずれていた場合でも、搬送車1はスムーズな航法の切り替えを行うことができる。
【0094】
式(3)では、εout をε1×αとε2×(1−α)との加算により求めた。しかし、εout をε1×αとε2×(1−α)との乗算により求めてもよい。あるいは、εout をε1×αとε2×(1−α)との積の平方根により求めてもよい。
式(3)では、ε1とε2の重みとして、α及び(1−α)を用いた。しかし、ε1とε2の重みとして、αはt2、t3及び1−(1/t)等の様々な関数でもよい。tは切り替え開始から切り替え終了へ向かって、所定時間間隔で1から0まで変化させる。かかる場合のαは、時間により決定されるパラメータである。
あるいは、α=x/Lでもよい。ここで、Lは切り替え開始から切り替え終了までの走行距離であり、xは切り替え開始からの走行距離である。かかる場合のαは、搬送車1の位置により決定されるパラメータである。
【0095】
式(3)では、εout をε1×αとε2×(1−α)との加算により求めた。しかし、ε1及びε2に夫々乗ずるパラメータαとパラメータ(1−α)との内、いずれか一方はなくてもよい。例えば、
εout =ε1×α+ε2
としてもよい。αが変化することにより、ε2もεout に対して相対的に変化するので、εout を求める計算量を少なくすることができる。
あるいは、
εout =ε1+ε2×(1−α)
としてもよい。
【0096】
前輪6a及び後輪6bの連続切り替えを開始する時間又は位置は、本実施の形態の例に限らない。連続切り替えを開始する時間又は位置は、図8及び図9に示した、ガイド偏差ε1から求められる転舵角(実線)とガイド偏差ε2から求められる転舵角(破線)との差が小さい地点に基づいて設定してもよい。そのような地点は、搬送車1の大きさ、カーブの曲率半径、転舵角度、車体2におけるガイドセンサ4a、4bの位置、走行速度、搬送物の重量、搬送物の大きさ等の搬送システム全体を考慮し、決定されてよい。すなわち、推測航法から誘導方式への航法の切り替えが、最もスムーズに行われるように、前輪6a及び後輪6bの連続切り替えを開始する時間又は位置は、決定されてよい。
【0097】
搬送車1では、ガイド偏差及び移動に関する制御量をCPU72が算出した。しかし、搬送車1の外部に処理装置を設け、ガイド偏差又は搬送に関する制御量の算出を外部の処理装置が実行してもよい。かかる場合、搬送車1と処理装置との間を例えば無線通信で接続する。CPU72は計算に必要な測定量を処理装置に送信し、処理装置はCPU72から受信した測定量に基づいて、ガイド偏差又は移動に関する制御量の算出を実行し、結果をCPU72に送信する。
同様に、仮想誘導線のマップ712を外部の処理装置又は記録装置に記録しておき、CPU72は、処理装置又は記録装置に問い合わせをすることで、処理装置又は記録装置から仮想誘導線の経路情報を取得してもよい。
【0098】
搬送車1は、航法を推測航法から磁気誘導方式へ切り替える場合、連続切り替えを行う。しかし、搬送車1は、航法を磁気誘導方式から推測航法へ切り替える場合にも、連続切り替えを行ってもよい。また、搬送車1の誘導方式が磁気誘導方式に限らないことは勿論である。誘導方式は、光学誘導方式、電磁波誘導方式等であってもよい。光学誘導方式は、床面に反射テープを貼設し、搬送車に設けた光学センサにより反射光を検出しながら走行する。電磁波誘導方式は、床面に電線を埋設し、電線からの誘導磁界を搬送車に設けたピックアップコイルで検出しながら走行する。
【0099】
搬送車1の推測航法で用いるデッドレコニングは、エンコーダから出力されるパレス列に基づいて自己位置を算出する。しかし、自己位置を求める他の方法が用いられてよい。例えば、搬送車から建物内の壁に設置した反射板にレーザを照射し、複数の反射板からの反射光を検出して自己位置を検出してもよい。搬送車にジャイロセンサを搭載し、基準点からの自己位置を検出してもよい。搬送路周囲の2点以上のポイントから赤外線、超音波、電波等を発信し、受信した信号の位相差から自己位置を検出してもよい。あるいは、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信することが可能な環境にある場合、GPS衛星を利用して自己位置を検出してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 搬送車
2 車体
3 キャスター
4a、4b ガイドセンサ
6a 前輪
6b 後輪
61a 前輪駆動部
61b 後輪駆動部
61f 前輪速度検出部
61g 後輪速度検出部
62a 前輪転舵部
62b 後輪転舵部
62f 前輪方向検出部
62g 後輪方向検出部
7 制御部
711 プログラム
712 マップ
72 CPU
10 誘導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導線に対する位置偏差を検出する検出手段と、
推測航法に係る仮想誘導線に対する位置偏差を算出する算出手段と
を備え、
前記検出手段が検出した位置偏差又は前記算出手段が算出した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する移動装置において、
前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合する結合手段と、
該結合手段が結合した位置偏差に基づいて、移動に係る制御量を算出する手段と
を備える
ことを特徴とする移動装置。
【請求項2】
前記結合手段は、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を加算又は乗算するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記結合手段は、前記誘導線及び仮想誘導線が交差する位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてある
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記結合手段は、前記誘導線及び仮想誘導線が接続された位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてある
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の移動装置。
【請求項5】
前記結合手段は、直線状の前記誘導線及び湾曲した前記仮想誘導線が接続された位置を自身が通過した場合、前記検出手段が検出した位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合するようにしてある
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の移動装置。
【請求項6】
前記算出手段が算出した位置偏差に第一重みを付ける第一重み付け手段と、
前記検出手段が検出した位置偏差に第二重みを付ける第二重み付け手段と
を備え、
前記結合手段は前記第一重み付け手段が第一重みを付けた位置偏差及び前記第二重み付け手段が第二重みを付けた位置偏差を結合するようにしてある
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の移動装置。
【請求項7】
前記第一重み及び/又は第二重みを時間経過、移動距離又は位置に応じて変更する変更手段を備える
ことを特徴とする請求項6に記載の移動装置。
【請求項8】
前記変更手段は前記第一重み及び第二重みを相反的に変更するようにしてある
ことを特徴とする請求項7に記載の移動装置。
【請求項9】
前記検出手段は誘導線を検出する誘導線検出手段を有し、
前記変更手段は前記誘導線検出手段が誘導線を検出した時間又は位置に基づいて、前記第一重み及び/又は第二重みの変更を開始するようにしてある
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の移動装置。
【請求項10】
制御部を有する移動装置に備えられた検出手段が、
誘導線に対する移動装置の位置偏差を検出し、
前記制御部が、
推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を算出し、
前記検出手段が検出した位置偏差又は算出した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する移動装置の制御方法において、
前記制御部が、
検出した位置偏差及び算出した位置偏差を結合し、
結合した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する
ことを特徴とする移動装置の制御方法。
【請求項11】
コンピュータを、
推測航法に係る仮想誘導線に対する移動装置の位置偏差を算出する算出手段、及び
誘導線に対する移動装置の与えられた位置偏差又は前記算出手段が算出した移動装置の位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する手段
として機能させるためのプログラムにおいて、
コンピュータを、
与えられた前記位置偏差及び前記算出手段が算出した位置偏差を結合する結合手段、並びに
該結合手段が結合した位置偏差に基づいて、前記移動装置の移動に係る制御量を算出する手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−174032(P2012−174032A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35948(P2011−35948)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】