説明

移動通信システム

【課題】 当事者によるスイッチ操作無しで緊急事態の通報が得られるようにした緊急通報機能付の移動通信システムを提供すること。
【解決手段】 GPSを備えた移動局A、Bから、GPSで検出した自移動局の位置を基地局に送信し、基地局では、移動局の位置が所定の判定時間以上にわたって変化しなくなったとき、当該移動局に異常が発生したものとして、警告表示を行うようにしたもの。
これにより移動局A、Bでは、緊急スイッチなどを操作しなくても、異常の発生を基地局に通報する構成とができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局と移動局を備えた無線通信システムに係り、特に、緊急通報機能を備えた移動通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば法人タクシーなどにおいては、運営の効率化の見地から、各車両に無線機を搭載して移動局とし、指令センタと各移動局の間や移動局相互間で任意に通信ができるようにしているのが通例であるが、このとき、緊急スイッチの操作により、緊急状態をセンタ側に知らせることができるようにした無線システムが従来から知られている(例えば特許文献1参照)。そして、このシステムでは、緊急事態の発生に際して、タクシー乗員などの当事者によって、緊急発信ボタンが押下されることにより、緊急事態の発生が、例えば基地局などに通報されるようになっている。
【0003】
図5は、このような緊急通報機能を備えた移動通信システムの一例で、図示のように、る基地局と複数の移動局A、Bのそれぞれに無線機T/Rを備え、通信可能エリア内で相互に通信が行えるようにしたもので、このとき基地局が指令センタとなり、移動局A、Bは各車両であり、ここで、Mはマイクロホンで、Sはスピーカのことである。
そして、各移動局A、Bには緊急発信ボタンEBが設けてあり、稼働中、この緊急発信ボタンEBが押下されると、緊急信号が無線機Tから送信されるようになっているものである。なお、移動局はA、Bの2局に限らないことはいうまでもない。
【0004】
そこで、次に、この移動無線システムにおいて、各移動局A、Bにおいて使用される無線機T/Rの一例について、図6により詳細に説明すると、まず、この図6に示した無線機T/Rは、無線機本体部1と制御部2に大別されている。そして無線機本体部1には、受信部11と送信部12が備えられ、これにより受信モードと送信モードに切換えられて動作する。また、この無線機本体部1には、ベースバンド処理部13、周波数シンセサイザ14、アンテナ共用器15が設けられ、外部にはアンテナ16、送話器17、それに受話器18が設けられている。ここで、送話器17は、図3のマイクロホンMのことで、受話器18はスピーカSのことである。
一方、制御部2には、CPU(中央演算処理装置)21とROM22、RAM23、電気的消去書込可能型RAM24が備えられ、外部には操作部25と表示部26、それに緊急発信ボタン27が設けられている。
【0005】
受信モードのとき、アンテナ16で受信された信号は、アンテナ共用器15を介して受信部11に入力される。そして、高周波増幅器111で増幅された後、受信ミキサ112に入力され、周波数シンセサイザ14から供給されている受信局部発信信号により、中間周波信号に周波数変換される。そして、中間周波増幅器113で増幅された後、復調器114でベースバンド信号に復調される。
こうして復調されたベースバンド信号はベースバンド処理部13に供給され、受信信号処理回路131により処理された上で受話器18に出力され、音声として再生される。また、この受信信号処理回路131の出力は、受信データと共に制御部20に供給され、これから表示部26に出力され、必要な表示が与えられるようにする。
【0006】
一方、送信モードのとき、送話器17から出力された音声信号は、制御部20から出力されるデータと共にベースバンド処理部13の送信信号処理部132に入力され、ここで所定の処理が施されてから送信部12に入力される。そして、変調器123で変調処理されてから送信ミキサ122に入力され、ここで周波数シンセサイザ14から供給されている送信局部発信信号により高周波信号に変換され、送信電力増幅部121で電力増幅された上でアンテナ共用器15に供給され、アンテナ16から送信される。
このときの受信動作と送信動作に必要な制御は、制御部20により遂行される。
【0007】
このため制御部20には、図示のように、CPU21が備えられ、このときに必要なプログラムや調整値は予めROM22に格納してある。そして、このときワークエリアとして使用されるのがRAM23である。ここで電気的消去書込可能型RAM24は、例えばフラッシュメモリからなり、同じくこのとき必要な各種のパラメータやテーブルを格納して保持する働きをする。ここで操作部25はマンマシンインターフェースとして設けられているもので、無線機T/Rを操作するのに使用され、表示部26は無線機T/Rの動作状態などの表示に使用される。
このとき、緊急発信ボタン27は、緊急通報用のスイッチとして機能し、緊急事態が発生したとき押下され、制御部20に緊急動作を指令する。
【0008】
このため、CPU21には、更に、この緊急通報に必要な制御のためのプログラムも備えていて、これにより、緊急動作が指令されると、無線機本体1の動作を送信モードにした上で、予め用意してある緊急通報用のデータをRAM23から読出し、アンテナ16から送信されるように制御する。
従って、この従来技術によれば、緊急事態の発生に際して、例えば当該移動局のオペレータなどが緊急発信ボタン27を押下するだけで当該緊急事態の発生を基地局に通報することができる。
【0009】
このとき、更に近年では、移動局にGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を装備し、各移動局の位置も把握できるようにしているのが通例であり、この場合、GPS−AVM(Automatic Vehicle Monitoring:自動車両監視)システムと呼ばれている(同じく特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−128908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術は、緊急事態の通報にスイッチ操作を要する点に配慮がされておらず、的確且つ確実な通報の実行に問題があった。すなわち、タクシーなどの場合、緊急事態としては事故が主なものであり、確率は低いが、ハイジャック(車上強盗)などの犯罪の場合も考慮に入る。
しかし、これらの場合、タクシー乗員など当事者によるスイッチの操作は困難であり、従って、従来技術では、的確且つ確実な通報の実行に問題が生じてしまうのである。
【0011】
本発明の目的は、当事者によるスイッチ操作無しで緊急事態の通報が得られるようにした緊急通報機能付の移動通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、複数の移動局と基地局を備え、相互に無線通信を行うと共に、前記移動局の異常を前記基地局により監視する方式の移動通信システムにおいて、前記移動局において自己の位置を検出し前記基地局に位置情報を送信する位置情報送信手段と、前記基地局において前記移動局から受信した位置情報に基づき当該移動局の位置変化を検出する演算手段とを備え、前記基地局は、前記移動局の位置が予め設定してある判定時間以上にわたって変化しなくなったとき、当該移動局の異常と判定するようにして達成される。
【発明の効果】
【0013】
通常、一定時間以上移動局の位置が変化しない場合、休憩や待機の場合を除き、事故や犯罪に遭遇してしまったものと想定でき、従って、本発明によれは、スイッチ操作無しで緊急事態を通報することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による緊急通報機能付移動通信システムについて、図示の実施形態により詳細に説明する。ここで、まず、図1は、本発明による緊急通報機能付移動通信システムの一実施の形態で、図において、基地局と複数の移動局A、Bのそれぞれに無線機T/Rを備え、通信可能エリア内で相互に通信が行えるようにし、このとき基地局が指令センタとなり、移動局A、Bは車両に搭載されている点は、図5で説明した従来技術の場合と同じであるが、しかし、この図1の実施形態では、各移動局A、Bには緊急発信ボタンEBが無く、代わりにGPSが設けてある点で異なっており、従って、この実施形態において移動局A、Bに使用される無線機T/Rは、図2に示すように、GPS3を備えている。なお、その他の点は、CPU21による制御の内容に違いがあるだけで、ハード構成で見る限り、図6で説明した従来技術の場合と同じである。このときGPS3については、通常のカーナビゲーションシステムとして車両に装備されているものを利用するようにしてもよい。
【0015】
そして、このGPS3は、動作状態にされると、自律的に移動局A、Bの位置、つまりタクシーなどの車両の位置を比較的短い周期で逐次検出し、位置情報を制御部2に入力する働きをする。そこで、制御部2のCPU21は、この位置情報を逐次取り込んで送信部12に供給し、アンテナ16から送信し、基地局で受信されるように制御する。
そこで、基地局では、送信されてくる位置情報を逐次受信し、前後のタイミングによる位置情報の比較により、当該位置情報を送信した移動局の位置変化を知り、位置変化が予め設定してある判定時間以上にわたり生じなくなったとき、当該移動局に何らかの異常が発生したものと判断するのである。
【0016】
タクシーなどで、例えば交通事故が発生した場合、緊急事態の発生を通知することになるが、このとき通報者が負傷してしまったとすると、緊急スイッチの操作ができない場合がある。
また、犯罪が行われているとき、対象になった人間は、その動きが極度に制限されてしまうのが通例であり、従って、通常のスイッチなどでは、それを操作するのが難しく、危険を覚悟の上でなければ緊急通報は困難である。
しかして、このような緊急事態に際しては車両が停止されるのが通例であり、従って、この実施形態によれば、緊急スイッチが操作されなくても、車両が停止され、ある時間が経過しただけで、当該移動局に異常が発生したものと基地局で判断できることになり、この結果、的確な通報を確実に得ることができる。
【0017】
ところで、本発明の実施に際しては、上記した判定時間として、適切な時間を設定する必要がある。これは、例えば信号待ちや一時停止に際しても位置の変化が無くなるからである。
また、タクシーの場合は、更に乗客の乗り降りなども考える必要がある上、運行パターンに乗員の「休息時間」や「待機時間」が含まれる場合があるので、これも考慮する必要がある。
そこで、移動局A、Bにおける動作の場合、例えば図3のフローチャートに示すようになり、基地局での動作の場合は、例えば図4のフローチャートに示すようになる。
【0018】
まず、図3の処理にいて説明すると、この処理は、無線機T/Rの動作が立ち上げられたとき開始される。このとき、上記した考慮を要するので、各移動局A、Bが装備されているタクシーの乗員は、停車しなければならない場合には、事態「休息時間」や「待機時間」に際して予め操作部25を操作し、停止モード情報を制御部2に入力しておくようになっている。なお、このときの情報形態は、「セット有り」と「セット無し」の何れかである。
図3の処理が開始されたら、最初は、GPS3から位置情報が入力されるのを待つ(S30)。そして、新たな位置情報が入力されたら、まず、停止モードを取り込み(S31)、次いで無線機T/Rを送信動作にし(S32)、この後、いま受信した新たな位置情報とモード情報を送信部12に入力する(S33)。そして、この後、始めの処理(S30)に戻るのである。
【0019】
このときGPS3は、例えば約20秒の周期で逐次、位置測定を実行するようになっている。そこで、制御部2には、約20秒毎に新たな位置情報が入力されることになり、従って、移動局A、Bからは、約20秒毎に新たな位置情報と停止モード情報が送信されることになる。
そして、この結果、基地局では、約20秒毎に新たな位置情報が受信され、その都度、停止モード情報についても、各々「セット有り」と「セット無し」の何れかが受信されてくることになる。
そこで、次に、図4に示す基地局での処理について説明する。ここで、この図4の処理も、基地局の無線機T/Rが立ち上げられたとき開始される。そして、まず、位置情報と停止モード情報の受信を待つ(S40)。次に、停止モード情報はセットか否かを調べる(S41)。そして、結果がYES、つまり「セット有り」のときは、ここで処理S40に戻る。
【0020】
一方、処理S41での結果がNO、つまり「セット無し」になったら、次に、いま受信した位置情報をメモリに格納してデータMとする(S42)。次いで、1回前のタイミングでメモリに格納されていた位置情報を読出し、それをデータNとする(S43)。この後、データMとデータNが等しいか否かを調べる(S44)。
ここで、まず、データMとデータNが等しくなかったとする。そうすると、これは、移動局A又は移動局Bの位置が変化していること、つまりタクシーが走行していることを意味する。そこで、処理S44での結果がNOのときはカウンタをリセットし(S45)、始めの処理(S40)に戻る。
一方、この処理S44での結果がYESの場合は、移動局A又は移動局Bの位置は変わらず、従って、この場合、タクシーが停止していることを意味する。そこで、今度は、まず、カウンタをインクリメントし(S46)、カウント値Cに1を加算する。
【0021】
次に、このカウント値Cを、予め所定値に設定してある判定値Dと比較し、C=Dになっているか否かを調べる(S47)。
そして、まず、結果がNO、つまり、C<Dであったときは、ここで処理を終え、そのまま始めの処理(S40)に戻る。
一方、処理S46での結果がYES、つまりC=Dになっていたときは異常にセットし(S47)、このときの移動局(A又はB)に緊急事態が発生したものとし、ここで処理を終了するのである。
ここで、異常にセットされた場合、基地局にあるセンタ管理装置(図示してない)は警報動作を行い、当該移動局が装備されている車両に異常が発生したことを表示する。
【0022】
次に、処理S46における「C=D」の意味するところについて説明する。
まず、このときのカウント値Cは、図4の処理S45によりリセットされ、処理S46によりインクリメトされる。従って、このカウント値Cは、処理S46が連続して実行されたときだけ値0から1づつ増加してゆき、その増加の周期は、上記したように約20秒である。
このとき処理S46が連続して実行されるのは、上記したように、位置情報が変わらなくなり、それが続いているときであり、従って、カウント値Cが1になるのは、最初に位置情報が変わらなくなったときから約20秒経過したときである。
【0023】
そこで、いま、判定値Dとして1(D=1)を設定したとすると、タクシーなどの車両が停止してから約20秒経過したときになり、100に設定すれば、約200秒(3分強)経過したときとなり、従って、この判定値Dを決めてやることにより、停止してから異常がセットされるまでの時間、すなわち上記した判定時間を任意に設定できることになる。
既に説明したように、本発明の実施形態では、位置変化が予め設定してある判定時間以上にわたり生じなくなったとき、当該移動局に何らかの異常が発生したものと判断するものであり、従って、この判定時間について適切な時間を設定する必要がある。
そして、このとき考慮されるべき事項には、上記したように、信号待ちや一時停止による停車に際しては異常がセットされないようにすることである。
【0024】
ここで、信号待ちや一時停止の場合の一般的な停車時間をせいぜい2分とし、それより長い時間、例えば3分に設定すればよく、この場合、判定値Dは200となる。
一方、交通渋滞に巻き込まれてしまった場合や乗客の乗り降りなど、停車を要することが予想できる場合は、予め操作部25を操作し、停止モード情報を制御部2に入力しておくことにより対処でき、故障や犯罪以外の場合は異常がセットされないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る移動通信システムの一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る移動通信システムの一実施形態における無線機のブロック構成図である。
【図3】本発明に係る移動通信システムの一実施形態における移動局の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明に係る移動通信システムの一実施形態における基地局の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】移動通信システムの従来例を示す構成図である。
【図6】移動通信システムの従来例における無線機のブロック構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1:無線機本体部
2:制御部
3:GPS機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動局と基地局を備え、相互に無線通信を行うと共に、前記移動局の異常を前記基地局により監視する方式の移動通信システムにおいて、
前記移動局において自己の位置を検出し前記基地局に位置情報を送信する位置情報送信手段と、
前記基地局において前記移動局から受信した位置情報に基づき当該移動局の位置変化を検出する演算手段とを備え、
前記基地局は、前記移動局の位置が予め設定してある判定時間以上にわたって変化しなくなったとき、当該移動局の異常と判定するように構成されていることを特徴とする移動通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−33431(P2009−33431A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194740(P2007−194740)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】