説明

積層体の製造方法及び設備

【課題】製造効率を損なうことなく、干渉むらの程度が幅方向で均一な長尺の複層構造のハードコートフィルムを塗布で製造する。
【解決手段】塗膜38の雰囲気の流れを調整する雰囲気調整手段を塗膜38に対向するように搬送路に設けた第1乾燥装置41で塗膜38を乾燥する。この第1乾燥装置41の乾燥工程において塗膜38が所定の速度以下で乾燥する第1領域と、この第1領域よりも速くすすむ第2領域とを、予め特定しておく。特定した第2領域を、塗布位置よりも上流に配された第1加熱装置35で加熱して、第1領域よりも高い温度にする。この第2領域の昇温により、塗膜38の第2領域に対するしみこみ深さを大きくし、塗膜38がセルロースアシレートフィルム31にしみこむ深さを幅方向で一定にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体へしみこむ成分を含む液を支持体上へ塗布するステップ、塗膜を乾燥するステップを順に有する積層体の製造方法に関するものであり、具体的な一例としては、セルロースアシレートを含む支持体上に、支持体へしみこむ有機溶剤を溶媒として含むハードコート層形成用塗布液を塗布するステップ、乾燥するステップを順に有する光学用途ハードコートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードコート層は、各種ディスプレイ、各種レンズ・ディスク、建材、雑貨などの部材表面を強化(耐傷性や耐候性などを向上)するために、以前からよく用いられている。
【0003】
ところが、ハードコート層を光学用途部材の表面上に設けると、干渉むら(干渉縞、色むら、虹彩模様とも呼ばれる)がよく生じる。特に、高画質が期待される薄型大画面ディスプレイで表面反射防止と表面保護とを兼ねる反射防止ハードコートフィルムでは、干渉むらが致命的な欠陥となる。そのため、特に光学フィルム分野では、干渉むら対策が盛んに試みられてきた。
【0004】
干渉むらは、ハードコート層の空気界面での反射光と、ハードコート層と支持体との界面(以下、「ハードコート層−支持体界面」と称する)での反射光とが干渉することによって生じることが古くから知られている。ハードコート層は空気より屈折率が高いので、空気界面での反射光をなくすことはできない。したがって、干渉むらを弱める有力手段としては、ハードコート層−支持体界面での反射光を弱めることが検討されてきた。
【0005】
ハードコート層−支持体界面での反射光を弱める手段としては、(A)ハードコート層と支持体の屈折率を等しくする(あるいは屈折率を極力近づける)ことが多数文献で提案されている。しかし、例えば液晶ディスプレイ用反射防止ハードコートフィルムでは、支持体が偏光板保護を兼ねているために必要な、光学異方性がないこと、親水性が良いこと等の性能を満たすことができる支持体の材質が限られており、現在は主にセルロースアシレートフィルム(特にトリアセチルセルロースフィルム)が多用されている。このように支持体の材質が限定されてしまう場合には、(A)のアイデアで干渉むらを抑えようとすると、ハードコート層の屈折率を支持体と揃えなければならない。しかし、ハードコート材料の屈折率は一般的にトリアセチルセルロースの屈折率よりも高い。ハードコート層中に低屈折率物質を添加したり、トリアセチルセルロースフィルム中に高屈折率材料を添加すれば屈折率を揃えることは可能だが、添加剤を大量に使用すると材料コストが上がってしまう。また、ハードコート層中に低屈折率物質としてシリカ粒子を添加する方法も知られているが、ハードコート層の屈折率をトリアセチルセルロースフィルムに近づけるためにシリカ粒子を大量に添加すると、硬化させた際の架橋構造数が減少し、ハードコート層が本来期待されている膜硬度を保てなくなってしまう問題が起きる。
【0006】
そこで、支持体とハードコート層との屈折率差を完全になくすことを諦めた別アイデアも種々提案されている。代表的手段としては、(B)支持体とハードコート層との間に、支持体とハードコート層の間の屈折率を持つ中間層を設けることが挙げられる。
【0007】
中間層の形成手段も種々提案されており、(1)ハードコート層と別に1層塗布して乾燥して中間層を形成する方式、(2)ハードコート層成分と支持体成分とが混合した中間層を形成する方式、とに大別される。しかし、いずれの方式でも、ハードコート層−中間層界面または/および中間層−支持体界面を挟んで屈折率が非連続的に変化してしまう場合が多く、その場合は干渉むらが残ってしまう。なお、ハードコート層−中間層界面とはハードコート層と中間層との界面、中間層−支持体界面とは中間層と支持体との界面である。
【0008】
発明者は、ハードコート層単層に干渉むらが残っている場合には、ハードコート層上へ干渉薄膜型反射防止層を形成すると干渉むらがより目立つようになることを発見した。一般的に前記反射防止層を多層形成するほど反射防止性能が向上することが知られているが、反射防止層を多層形成して表面反射率を下げれば下げるほど干渉むらが目立ってしまうことも分かった。特に、ハードコート層中に防眩粒子が入っておらず、ハードコート層透明性が高い品種の場合、干渉むらの問題は深刻である。
【0009】
また発明者は、ハードコート層形成用塗液の乾燥むらで塗膜面内に微小な膜厚むらが生じただけでも顕在化してしまうことにも気づいた。反射防止ハードコートフィルムのハードコート層形成用塗液の溶媒としてよく用いられる有機溶剤は概して乾燥速度が速いため、乾燥ゾーン内の溶媒乾燥速度に関係するパラメーター(例えば膜面風速や環境温度など)が塗膜面内で不均一な場合、面内の乾燥速度差が大きく、膜厚むらができやすい。また、反射防止ハードコートフィルムのハードコート層は、塗布速度すなわち生産速度を上げるためになるべく溶媒量を多くして塗液を低粘度にしたいのだが、塗液を低粘度にするほど、乾燥速度不均一時に起きる膜厚むらは大きくなってしまう。
【0010】
乾燥時に起きる膜厚むらを低減させるためには、塗膜の粘度が特に低い初期乾燥工程を低乾燥速度環境にすることがよく行われる。例えば特許文献1では、塗布直後に塗膜面に対向する数mm隔てた位置に板を配置し、塗膜上の空間を狭くして溶媒蒸発ガス濃度を上げ、その空間に塗膜付き支持体を連続搬送させて、塗膜からの溶媒乾燥速度を0.1g/m・s以下に抑えることにより、初期乾燥時に起きる膜厚むらを低減させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−290963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1など数多くある精密乾燥先行技術のどれを組み合わせて試しても、ハードコート層の干渉むらは、干渉型反射防止層の下地として認容できないレベルまでにしか抑えられなかった。本発明者は、ハードコート層は膜厚によって干渉むらが見えやすかったり、逆に見えにくかったりすることを経験的につかんだため、なるべく干渉むらが見えにくくなる塗布量に予め調節して塗布したが、支持体幅方向中央部の干渉むらが狙い通り許容範囲内になった場合は支持体幅方向端部の干渉むらがなぜか悪く、ハードコート層の塗布量を増減させると今度は支持体幅方向端部の干渉むらが許容範囲内である一方、支持体幅方向中央部の干渉むらが悪くなってしまう、という現象に悩まされた。
【0013】
支持体幅方向中央部の干渉むらレベルが許容範囲内になるように塗布量を設定し、干渉むらレベルが許容限度を超えてしまう支持体幅方向端部を廃棄する手も考えられなくはないが、原材料・廃棄コストアップになるので避けたい。
【0014】
また、ハードコート層は厚くするほど干渉むらは弱くなる傾向があるので、ハードコート層の膜厚を支持体全幅にわたってどこまでも増やしていけば、支持体幅方向中央部も端部も干渉むらレベルを許容範囲内に抑えることは可能である。しかし、ハードコート層を厚くするだけで干渉むらレベルをクリア反射防止ハードコートフィルムの許容範囲内に抑えるためには、数十μmもの膜厚にすることが必要になる。それでは、幅方向で一部を切除・廃棄する上述の方法と同様、大きくコストアップしてしまう。さらに、ハードコート層を数十μmもの厚みにしてしまうと、乾燥工程後に通常行うことが多い紫外線硬化工程にてハードコート層が大きくカールしてしまい、ハードコート層上に干渉薄膜型反射防止層を均一塗布することが極めて困難になる。また、たとえ塗布がなんとかできたとしても、膜面から数mmしか離れていない位置に配置されることが多い乾燥ゾーンの板に支持体が引っ掛かり、フィルムが傷ついたり、フィルムが傷ついた際に発塵して製品に点欠陥が生じてしまうのを避けることは極めて困難であることが想定された。
【0015】
したがって、ハードコート層の膜厚を極力厚くせずに、干渉むらレベルを支持体幅方向中央部も端部も許容限度内に収める製造条件を確立することが、特に干渉薄膜多層型反射防止ハードコートフィルムでは最重要課題であることが分かった。
【0016】
そこで本発明者が鋭意分析および解析を行った結果、初期乾燥工程では支持体幅方向中央部に比べて幅方向端部の溶媒蒸発ガス濃度が低くなりがちで、支持体幅方向端部の乾燥速度が中央部より速くなりがちであることが分かった。するとハードコート層塗膜の一部が支持体にしみこんで中間層を形成する際、支持体幅方向端部ではより早く塗膜の固形分濃度が上昇し、それによって支持体へのしみこみが停止して、ハードコート成分が支持体へしみこんだ中間層部分の厚みが比較的薄く、支持体へしみこまずに残ったハードコート層部分が比較的厚くなる。
【0017】
その結果、支持体幅方向端部と中央部では中間層厚みおよびハードコート層厚みに差が生じる。支持体幅方向で中間層・ハードコート層膜厚に差が生じると、前述の通り、支持体幅方向のある部分で干渉むらレベルが比較的弱くなるように設計して塗布・乾燥を行っても、支持体幅方向の異なる部分では干渉むらレベルがちょうど悪くなってしまう膜厚になってしまうことが避けられない。つまり、なるべくハードコート層を薄くし、かつ支持体幅方向のどこでも干渉むらレベルを許容範囲内に収めるためには、中間層厚みおよびハードコート層厚みを支持体幅方向均一にすることが必要であることが分かった。
【0018】
そのためには、仮にハードコート層を支持体幅方向均一に塗布した場合、初期乾燥工程でハードコート層の支持体へのしみこみ量を支持体幅方向均一にしなければならない。しみこみ量は主に乾燥速度で支配されるので、しみこみ量を支持体幅方向均一にするためには溶媒乾燥速度を支持体幅方向均一にしなければならない、とまず考えた。
【0019】
そこで、溶媒乾燥速度を幅方向均一にするために、特に支持体幅方向端部に着目して様々な溶媒乾燥速度均一化策を講じたが、支持体端部を中央部と同程度の乾燥条件(溶媒蒸発ガス濃度・風速・温度)にするのは極めて困難であることが次第に分かってきた。
【0020】
乾燥速度を支持体幅方向均一にするのが困難だと分かったため、次には、乾燥速度を上げて速く溶媒を蒸発させ、塗膜中の固形分濃度を上げて速くしみこみを停止させればいいのではないかと考えた。しかし、乾燥速度を上げるために風を強く吹かせると、予想していたことではあるが、強風のせいで乾燥ムラが起きて干渉むらが悪化してしまった。
【0021】
そこで次に、乾燥速度を上げるための支持体全幅加熱を試みた。その結果、驚くべきことが起きた。ハードコート成分の支持体へのしみこみ量の幅方向不均一が若干でも良化することを期待、予想していたのだが、かえって極度に悪化してしまったのである。
【0022】
この驚くべき現象について鋭意考察した結果、初期乾燥時における加熱がハードコート層成分の支持体へのしみこみを促進しているらしいことに想到した。そして、この原理、現象を利用すれば、支持体幅方向の任意の位置でハードコート層の支持体へのしみこみ量を制御することができるだろうことにも想到した。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造方法において、支持体に、前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜周囲の雰囲気の流れと、前記雰囲気における前記塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段に前記塗膜を対向させて、前記塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥工程と、前記初期乾燥工程における前記塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ前記支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に初期乾燥が速くすすむ第2領域とを予め特定しておき、初期乾燥工程で前記第2領域の温度が前記第1領域よりも高くなるように、前記支持体を加熱する加熱工程を有することを特徴として構成されている。
【0024】
前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層は前記セルロースアシレートからなるセルロースアシレート層であり、前記塗布層は透明であり、前記塗布工程では、搬送されている前記支持体としてのセルロースアシレートフィルムに、塗布液を塗布して塗膜を形成し、初期乾燥工程では、雰囲気調整手段に塗膜が対抗するようにセルロースアシレートフィルムを搬送しながら、塗膜の初期乾燥をすすめることが好ましい。
【0025】
前記加熱工程では、前記初期乾燥工程における前記第2領域の乾燥速度が大きいほど、前記初期乾燥工程における温度がより高くなるように前記第2領域を加熱することが好ましい。
【0026】
前記塗布工程では、(1)ローラの周面に巻き掛けられて支持されたセルロースアシレートフィルムに塗布液を塗布し、前記加熱工程は、前記ローラの上流に配される加熱手段により、ローラに向かうセルロースアシレートフィルムの第2領域を加熱すること、または、(2)ローラの周面に巻き掛けられて支持されたセルロースアシレートフィルムに前記塗布液を塗布し、前記加熱工程は、前記ローラの周面のうち第2領域が接触する接触領域を加熱することにより、第2領域を加熱することが好ましい。
【0027】
初期乾燥工程の間に塗膜の一部がしみこんだセルロースアシレートフィルムのしみこみ領域から形成され、セルロースアシレートと塗布層の成分とが混在する中間層を積層体は有し、初期乾燥工程における第2領域の温度と、中間層の厚み及び塗布層の厚みとの関係を予め求めておき、前記関係に基づいて加熱工程における第2領域の温度を設定し、設定された値となるように加熱工程での加熱を行うことが好ましい。
【0028】
所定の固さに達した塗膜に乾燥気体を吹き付けることにより塗膜を乾燥させる乾燥促進工程を有し、初期乾燥工程では、乾燥促進工程よりも小さな乾燥速度で、所定の固さになるまで塗膜の初期乾燥をすすめることが好ましい。
【0029】
また、本発明は、塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造方法において、支持体に、塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、前記塗膜周囲の雰囲気の流れと、雰囲気における塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段に塗膜を対向させて、塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥工程と、初期乾燥工程における塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に初期乾燥が速くすすむ第2領域とを予め特定しておき、初期乾燥工程で第1領域の温度が第2領域よりも低くなるように、支持体を冷却する冷却工程を有することを特徴として構成されている。
【0030】
さらに、本発明は、塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造設備において、前記支持体に、前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布装置と、前記塗膜と対抗して設けられ、塗膜周囲の雰囲気の流れと前記雰囲気における塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段と、雰囲気調整手段を有し塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥装置と、初期乾燥装置における塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に乾燥が速くすすむ第2領域とが特定されると、初期乾燥で第2領域の温度が第1領域よりも高くなるように支持体を加熱する加熱装置とを備えることを特徴として構成されている。
【0031】
上記積層体の製造設備は、前記支持体としてのセルロースアシレートフィルムを搬送する搬送手段を備え、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層は前記セルロースアシレートからなるセルロースアシレート層であり、塗布層は透明であり、塗布装置は、搬送手段により搬送されているセルロースアシレートフィルムに塗布液を塗布し、雰囲気調整手段は、塗膜に対向するように前記セルロースアシレートフィルムの搬送路に沿って設けられ、加熱装置は、前記塗布液が塗布される塗布位置の上流に配されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、側端部の干渉むらを抑えて、干渉むらの程度が幅方向で均一な積層体、例えば複層構造のハードコートフィルムを、製造効率を低下させることなく、長尺に塗布で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明により製造する積層体としてのハードコートフィルムの断面図である。
【図2】ハードコートフィルムを用いた反射防止シートの断面図である。
【図3】フィルム製造設備の概略図である。
【図4】第1乾燥装置における塗膜の初期乾燥の説明図である。(a)は図3のVI−VI線に沿う断面図である。(b)は、塗膜が形成されたセルロースアシレートフィルムを、塗膜の露出面の垂直方向から見た平面図である。(c)は塗膜の乾燥速度を示すグラフである。(d)はしみこみ領域の厚みを表すグラフである。
【図5】第1加熱装置の概略図である。
【図6】第4乾燥装置の概略図である。
【図7】第5乾燥装置の概略図である。
【図8】本発明の別の実施形態としての雰囲気調整手段の概略斜視図である。
【図9】さらに別の実施形態としての雰囲気調整手段の概略平面図である。
【図10】本発明の別の実施形態であるフィルム製造設備の概略図である。
【図11】本発明のさらに別の実施形態であるフィルム製造設備の概略図である。
【図12】第2加熱装置による加熱方法を示す説明図である。
【図13】第2加熱装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明により製造される積層体は、図1のハードコートフィルム10のように、セルロースアシレート層11と、ハードコート層12と、ハードコート層12の成分及びセルロースアシレートが混在する中間層13とを備える。このように、本発明により製造することができる積層体は複層構造をもつ。セルロースアシレート層11は、セルロースアシレートから成る。ハードコート層12は、セルロースアシレート層11の一方の表面(以下、第1面と称する)11aを保護したり、このハードコートフィルム10を例えば液晶ディスプレイ等の表示装置の露出部材として用いた場合にこのハードコートフィルム10よりも内部に配される部材を保護する。
【0035】
セルロースアシレート層11とハードコート層12とはいずれも透明であるが、構成する材料が互いに異なることから、結果的に屈折率も互いに異なる。セルロースアシレート層11のセルロースアシレートとしてはセルローストリアセテート(TAC)が好ましい。
【0036】
ハードコート層12は、後述のように、セルロースアシレートから成るフィルム(以下、セルロースアシレートフィルムと称する)の一方の面上に、塗布液(以下、ハードコート塗布液)を塗布することにより形成される。中間層13は、塗布されたハードコート塗布液が乾燥されてハードコート層12を形成するまでの間に、形成される。すなわち、ハードコート塗布液は塗布されるとその一部がセルロースアシレートフィルムに前記一方の面からしみこみ、しみこんだ領域が中間層13となる。セルロースアシレートフィルムのうち、ハードコート塗布液がしみこまない非しみこみ領域がセルロースアシレート層11となる。
【0037】
なお、セルロースアシレートフィルムに代えて他のフィルムを用いてもよい。他のフィルムが非透明である場合には、セルロースアシレート層11に代えて形成される層は、非透明なものとなる。
【0038】
以上のようにハードコートフィルム10は、セルロースアシレート層11と中間層13とハードコート層12との3層を有する。ただし、セルロースアシレート層11と中間層13との境界、中間層13とハードコート層12との境界は、目視で確認することができる程に明確である必要はない。例えば、これらの各境界は、表示装置等に用いる光源の光をハードコートフィルム10に入射した際に、光路の変化が認められる程度のものであってもよいし、光路の変化が明確には認められなくても各層11,12,13を成す成分が異なるという成分的な境界であればよい。
【0039】
なお、ハードコート層12に代えて、塗布により形成される他の塗布層としてもよい。他の塗布層を形成する場合であっても、セルロースアシレートフィルムのように塗布液がしみこみ可能な素材に塗布液を塗布する場合には、通常は中間層13が形成される。セルロースアシレートフィルムに塗布液を塗布する場合には、中間層13が特に形成されやすい。セルロースアシレートは、多くの液体との親和性をもつので、塗布されるとその塗布液により膨潤したり塗布液に溶解するからである。もっとも、本発明においては、中間層13を意図的ないし積極的に形成する。中間層13を形成することにより、塗布層としてのハードコート層12とハードコート塗布液を塗布するセルロースアシレートフィルムとの接着力をより高めることができる。また、中間層13を形成しない場合には、セルロースアシレート層11とハードコート層12との界面において光が反射するが、このような光の反射を、中間層13を形成することにより低減することができる。本実施形態では、塗布液として、透明な塗布層を形成するようなものを用いているが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
なお、セルロースアシレート層11には、各種添加剤を含ませてもよい。ハードコート層12は、紫外線(UV)等の光を照射することで硬化したいわゆる光硬化性ポリマー、あるいは熱により硬化した熱硬化性ポリマーで形成されてあることが好ましい。
【0041】
本発明により製造される積層体は、上記のような3層に他の層を加えたものも含む。例えば、図2に示すような反射防止ハードコートフィルムも本発明の積層体の一態様である。図2においては、図1と同じ構成部材については図1と同じ符号を付し、説明を略す。反射防止ハードコートフィルム20は、セルロースアシレート層11と、ハードコート層12と、中間層13と、反射防止部材21とを備える。反射防止ハードコートフィルム20は、所期のサイズのシートにカットされていてもよい。
【0042】
反射防止部材21は、セルロースアシレート層11とハードコート層12と中間層13とからなる薄膜体を形成した後に、形成する。反射防止部材21は、ハードコート層12の露出面に設けられる。反射防止部材21は、ハードコートフィルム10に照射光が第1フィルム面10aから入射する際に、第1フィルム面10aにおける反射を低減する。なお、反射防止ハードコートフィルム20を液晶ディスプレイ等の表示装置に用いる場合には、表示装置の光源側がセルロースアシレート層11、表示装置の視認側が反射防止部材21となるように、反射防止ハードコートフィルム20を配する。
【0043】
反射防止部材21は、単層構造と複層構造とのいずれであってもよい。単層構造と複層構造とのいずれにするかは、照射光の屈折率に応じて決定する。複層構造の場合には、反射防止部材21が所期の反射防止機能を発現するように、層数と各層の屈折率とを決定する。
【0044】
中間層13は、セルロースアシレートフィルムに対するハードコート塗布液のしみこみによって形成され、ハードコート層12の成分とセルロースアシレートとを含むので、セルロースアシレート層11とハードコート層12とのいずれとも異なる屈折率をもつ。中間層13の屈折率は、セルロースアシレート層11の屈折率とハードコート層12の屈折率との間である。中間層13の屈折率は、ハードコートフィルム10の厚み方向において均一である場合もあるし、不均一である場合もある。
【0045】
塗布層がハードコート層12である場合には、塗布されたハードコート塗布液が後述のように乾燥工程と硬化工程とを経ることにより、ハードコート塗布液の硬化成分が重合してポリマーが生成する。中間層13の屈折率の厚み方向でのプロファイルは、セルロースアシレートフィルムの中にしみこんだハードコート塗布液のうち硬化成分が重合したポリマーの、中間層13の厚み方向での濃度プロファイルに対応する。
【0046】
ハードコート層12は、通常、セルロースアシレート層よりも屈折率が高い。したがって、ハードコートフィルム10の厚み方向における屈折率は、セルロースアシレート層11が最も低く、ハードコート層12が最も高く、中間層13がセルロースアシレート層11とハードコート層12との間の値になる。
【0047】
中間層13の厚み方向における屈折率のプロファイルは、セルロースアシレートフィルムの成分と、ハードコート塗布液の成分と、ハードコート層12を形成する諸条件等に応じて異なる態様となる。
【0048】
セルロースアシレート層11の厚みT11は、用いるセルロースアシレートフィルムの厚みと形成される中間層13の厚みT13とによるので、特に限定されない。ハードコート層12の厚みT12は、好ましくは0.1μm以上100μm以下の範囲、より好ましくは0.8μm以上20μm以下の範囲である。なお、ハードコート層12の厚みT12が0.1μm以上であると、0.1μm未満の場合と比べてハードコートとしての前述の作用が確実に得られる。また、本発明は、中間層13の厚みT13を、0.1μm以上20μm以下の範囲とする場合に効果が大きく、0.8μm以上10μm以下の範囲とする場合に効果が特に大きい。中間層13の厚みT13が0.1μm以上の場合には、0.1μm未満の場合に比べて、塗膜38(図3参照)の乾燥速度の幅方向Z2(図4参照)における差によって、干渉むらの程度が幅方向で異なりやすくなるからである。また、中間層13の厚みT13が20μm以下の場合には、20μmを超える場合に比べて、干渉むらレベルの違いが目立つからである。
【0049】
セルロースアシレート層11の厚みT11と、ハードコート層12の厚みT12と、中間層13の厚みT13とは、それぞれ、一定であることが好ましい。3層11,12,13の中でも特にハードコート層12につき、干渉むら抑制の観点で、厚みT12を一定にすることが好ましい。また、3層11,12,13の中でも特に中間層13につき、ハードコートフィルム10での干渉むらの程度を均一にする観点で、その厚みT13を一定にすることが好ましい。中間層13の厚みが一定とは、ハードコート層12と中間層13とセルロースアシレート層11との各界面が明瞭であろうと不明瞭であろうと、各界面に凹凸があろうとなかろうと、塗膜38がセルロースアシレートフィルム31(図3参照)にしみこんだときに、しみこみ領域の厚みが一定であることを意味する。
【0050】
干渉むらは、前述の通り、ハードコートフィルム10の各位置における光の反射と各反射光同士の干渉により発現する色のむらである。具体的には、ハードコート層12側から照射した光が、外部の空気とハードコート層12と界面、ハードコート層12と中間層13との界面、中間層13とセルロースアシレート層との界面のそれぞれにおいて反射し、これらの反射光の干渉でおきる色のむらである。したがって、中間層13の厚みが所定方向で不均一であると、その所定方向における干渉むらの程度は不均一となる。また、中間層13は、後述のようにハードコート層12の形成に伴って形成されるので、中間層13の厚みが所定方向で不均一であると、その所定方向におけるハードコート層12の厚みも不均一になり、干渉むらの程度の不均一さはさらに顕著になる。
【0051】
そこで、本発明では、セルロースアシレート層11の厚みT11及びハードコート層12の厚みT12を、長尺のハードコートフィルム10の幅方向で一定にするのみならず、中間層13の厚みT13を長尺のハードコートフィルム10の幅方向で一定にする。これにより、干渉むらの程度を幅方向で均一にする。
【0052】
積層体の製造設備及び方法について以下説明する。図3には、積層体としてのハードコートフィルム10を製造するフィルム製造設備30を例として挙げる。フィルム製造設備30は、図3に示すように、周方向に回転することにより、周面に接したセルロースアシレートフィルム31を搬送する搬送手段としての複数のローラ32を備える。フィルム製造設備30は、セルロースアシレートフィルムの搬送路の上流側から順に、セルロースアシレートフィルム31の所定領域を加熱する第1加熱装置35、ハードコート塗布液36をセルロースアシレートフィルム31に塗布する塗布装置37、ハードコート塗布液36からなる塗膜38を乾燥する第1乾燥装置41と第2乾燥装置42と第3乾燥装置43、光源46を備える。図3では、セルロースアシレートフィルム31の搬送方向に符号Z1を付す。
【0053】
塗布装置37は、供給されたハードコート塗布液36を流出口から流出する塗布ダイ47と、セルロースアシレート31の搬送路に挟むように塗布ダイ47とは反対側に配され、セルロースアシレートフィルム31を非塗布面側から支持する支持ローラ48とを備える。塗布ダイ47は、セルロースアシレートフィルム31の幅方向に延びたスリット形状の流出口(図示せず)を先端に有し、この先端を搬送路に向けて配される。支持ローラ48は、駆動手段(図示せず)を備え、この駆動手段により、断面円形の中心の軸48aを回転の中心として周方向に回転する駆動ローラである。支持ローラ48は、ローラ32により案内されてきたセルロースアシレートフィルム31を周面で支持し、周方向に回転することにより搬送する。搬送されているセルロースアシレートフィルム31に対して塗布ダイ31から連続的にハードコート塗布液36を流出することにより、セルロースアシレートフィルム31の一方のフィルム面に塗膜38が形成される。
【0054】
塗膜38は、本実施形態では、乾燥する前の厚みが1μm以上150μm以下の範囲となるように形成してある。これにより、前述のような厚みT13が0.1μm以上20μm以下の範囲の中間層13を形成することができる。ただし、乾燥前の塗膜38の厚みは、形成すべきハードコート層12の厚みT12と、ハードコート塗布液36の処方とに基づいて適宜設定するものであるので、上記範囲に限定されない。
【0055】
支持ローラ48は、駆動ローラでなくてもよく、軸48aを中心に回動自在に設けられ、ローラ32で搬送されているセルロースアシレートフィルム31が周面に接触すると回転するいわゆるフリーローラであってもよい。
【0056】
塗布ダイ47から流出したハードコート塗布液36がセルロースアシレートフィルム31に接触し始める塗布位置は、搬送されているセルロースアシレートフィルム31のうち、支持ローラ48に巻きかけられて支持されている範囲とすることが好ましい。
【0057】
塗布ダイ47から流出したハードコート塗布液36がセルロースアシレートフィルム31に接触し始める塗布位置に近接して、被測定物の温度を非接触で測定する温度測定手段(図示せず)が配されてある。この温度測定手段により、塗布位置におけるセルロースアシレートフィルム31の温度を測定する。
【0058】
塗布位置の上流に配してある第1加熱装置35は、塗布位置におけるセルロースアシレートフィルム31の所定領域が所定の温度になるように、支持ローラ48に向かうセルロースアシレートフィルム31を加熱する。なお、図3に示す態様では、第1加熱装置35を、セルロースアシレートフィルム31を非塗布面側から加熱するように、非塗布面側に配してある。しかし、第1加熱装置35を塗布面側に配して、セルロースアシレートフィルム31を塗布面側から加熱してもよい。第1加熱装置35の詳細については、別の図面を用いて後述する。
【0059】
塗布位置の下流に配する第1乾燥装置(初期乾燥装置)41は、搬送路を囲むようにして温度及び湿度を調整すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ51と、チャンバ51に所定の温度及び湿度の気体を所定の流量で送り込む第1送風機52と、第1送風機52から送り出す気体の温度及び湿度と流量とを制御する第1コントローラ53とを備える。
【0060】
チャンバ51には、第1送風機52からの気体が供給される供給口(図示せず)と、内部の雰囲気を外部に排出する排出口(図示せず)とが形成されてある。セルロースアシレートフィルム31がチャンバ31に案内されると、塗膜38に含まれるハードコート塗布液36の溶剤成分が蒸発する。蒸発した溶剤成分、すなわち溶剤ガスの濃度が一定量を超えないように、供給口からの気体の供給と、排気口からの雰囲気の排出とを行う。
【0061】
チャンバ51の外部には、案内された雰囲気から溶剤ガスを除去して、この雰囲気をチャンバ51に供給する気体として再利用するように回収する第1回収機55が備えられる。この第1回収機55により、排気口から排出された雰囲気は、溶剤ガスを除去された後に第1送風機52に送られる。このようにして、チャンバ51に送る気体は循環して利用する。ただし、チャンバ51に送る第1送風機52の気体は、チャンバ51の内部の雰囲気を再利用したものでなくてもよい。この場合には、第1回収機55では、案内されてきた雰囲気から溶剤ガスを除去し、外部に排気する。
【0062】
第1乾燥装置41は、塗膜38に対向するように、セルロースアシレートフィルム31の搬送路に沿って並んで配される複数の雰囲気調整手段54を備える。各雰囲気調整手段54は、セルロースアシレートフィルム31の搬送方向に延びている板である。各雰囲気調整手段54は、搬送されているセルロースアシレートフィルム31の塗膜38と対向する対向面がセルロースアシレートフィルム31の搬送路と略平行な面である。
【0063】
塗膜38の周辺の雰囲気は、塗膜38を備えるセルロースアシレートフィルム31の搬送によって流れだしたり、流れの方向や流速が変化したりする。雰囲気調整手段54は、これらの現象を抑制するように、塗膜38の周囲の雰囲気の流れを調整する。これにより、塗膜38に厚みむらが発生することを防止する。このように、雰囲気調整手段54は、塗膜38の側縁よりも外側から塗膜38の上方に雰囲気が流れこむことを防ぐいわゆる遮風板として作用したり、塗膜38の雰囲気の流れる方向や流れる速度が変化することを防ぐいわゆる整流板として作用する。この雰囲気調整手段54を用いることにより、塗膜38は、第1乾燥装置41の下流に配される第2乾燥装置42、第3乾燥装置43よりも遅い乾燥速度で乾燥がすすむ。
【0064】
第2乾燥装置42は、第1乾燥装置41のチャンバ51、第1送風機52、第1コントローラ53とそれぞれ同じ構成のチャンバ57と、第2送風機58と、第2コントローラ59とを備える。
【0065】
チャンバ57の外部には、第1回収機55と同様の構成をもつ第2回収機60を備え、この第2回収機60により、チャンバ57に送る気体を循環して再利用してもよい。
【0066】
第2乾燥装置42は、第1乾燥装置41と異なり、雰囲気調整手段54が配されてはいないので、塗膜38上には、第2送風機58から供給される乾燥気体がわずかに流れており、このような雰囲気の流れにより塗膜38の乾燥がすすむ。この第2乾燥装置42では、雰囲気の流れにより塗膜38の厚みが不均一にならないように、所定の固さに達した後の塗膜38を乾燥する。このように、第2乾燥装置42では、第1乾燥装置41におけるよりも大きな乾燥速度で塗膜38の乾燥をすすめる乾燥促進工程を行う。
【0067】
第3乾燥装置43は、チャンバ61と、チャンバ61の内部に配されるダクト62と、ダクト62に乾燥気体を供給する第3送風機63と、第3送風機63から送り出す乾燥気体の温度及び湿度と流量とを制御する第3コントローラ66を備える。
【0068】
ダクト62には、乾燥空気を塗膜38に向けて流出する流出ノズル67と、塗膜38上方の雰囲気を吸引する吸引ノズル68とが、搬送方向Z1に交互に形成されてある。このダクト62からの乾燥空気の吹きつけにより、塗膜36の乾燥をさらにすすめる。
【0069】
ダクト62には排気口(図示せず)が形成されてある。この排気口は、吸引ノズル68から吸引したチャンバ57の内部の雰囲気をチャンバ57の外部へ排出する。これにより、チャンバ61の内部は溶剤ガスの濃度を一定値以下に抑えられる。
【0070】
チャンバ57の外部には、ダクト62の排気口に接続し、第1回収機55と同様の構成をもつ第3回収機69を備えてもよい。この第3回収機69により、ダクト62に送る気体を循環して再利用してもよい。
【0071】
図3のフィルム製造設備は、第2乾燥装置42と第3乾燥装置43との両方を備えるが、必ずしもこの態様である必要はない。つまり、乾燥すべき塗膜38の固さとその塗膜の乾燥速度とに応じて、第2乾燥装置42と第3乾燥装置43とのいずれか一方で乾燥を促進させてもよい。
【0072】
本実施形態では、ハードコート塗布液36における硬化成分として紫外線硬化性のものを用いてある。そこで、光源46は紫外線を射出するものとしてある。この光源46は、搬送されてくるセルロースアシレートフィルム31の塗膜38に紫外線を照射する。この紫外線の照射により、乾燥した塗膜38に含まれる硬化成分が重合して硬化し、塗膜38からハードコート層12が形成される。
【0073】
なお、塗膜38の一部は、乾燥する間にセルロースアシレートフィルム31の中にしみこむ。光源46からのUVは、セルロースアシレートフィルム31における塗膜38のしみこみ領域にまで達するので、しみこんだ塗膜38の硬化成分をも硬化させる。これにより、しみこみ領域は、中間層13となる。
【0074】
第1乾燥装置41における塗膜38の乾燥について、図4を参照しながら具体的に説明する。図4においては、セルロースアシレートフィルム31の幅方向を矢線Z2で示す。また、図4においては、セルロースアシレートフィルム31の搬送方向Z1を上向きに採ったときにおける、セルロースアシレートフィルム31と塗膜38との各右側縁に符号31e(R)と38e(R)とを付し、各左側縁に符号31e(L)と38e(L)とを付す。図4の(c)及び(d)の横軸における符号「c」は、幅方向Z2での中央を意味する。
【0075】
塗膜38は、セルロースアシレートフィルム31の幅方向Z2における全域ではなく、図4の(a)及び(b)に示すように、セルロースアシレートフィルム31の両側端部を非塗布域として残すように形成される。つまり、塗膜38の右側縁38e(R)は、セルロースアシレートフィルム31の右側縁31e(R)よりも内側に、また、塗膜38の左側縁38e(L)は、セルロースアシレートフィルム31の左側縁31e(L)よりも内側に、それぞれ位置する。雰囲気調整手段54は、塗膜38のみならず、セルロースアシレートフィルム31の幅よりも大きな幅をもつ。つまり、雰囲気調整手段の側縁は、セルロースアシレートの側縁31e(R),31e(L)よりも外側に位置する。これにより、塗膜38の上方にある雰囲気の流れをより確実に調整することができる。なお、雰囲気調整手段54は、遮風板として作用させる場合には、セルロースアシレートフィルム31からの距離Dが10mm以下の範囲で一定、かつ、塗膜38と接触しない程度となるように、配されることが好ましい。
【0076】
塗膜38の第1乾燥装置41における乾燥速度は、位置によって異なる。具体的には、塗膜38の各側端部38sは中央部38cよりも乾燥速度が大きい。そして、各側端部38sは、中央部38cとの境界から側縁38e(R),38e(L)に向かうに従い乾燥速度が大きくなる。これは、塗膜38の側端部38sの雰囲気は、中央部38の雰囲気よりも溶剤ガスの濃度が低いので、溶剤ガスの拡散速度がより大きいからである。側端部38sと中央部38cとの乾燥速度に差が現れる現象は、雰囲気調整手段54を用いる場合には特に顕著である。乾燥速度を幅方向で略均一にする方法は、種々提案されているので、このような公知の方法を本発明に適用してもよい。しかし、これらの公知の方法で達成することができる乾燥速度の均一化には限界があり、本願発明はフィルム幅方向で乾燥速度が均一ではない状況を前提とし、それでもフィルム幅方向で干渉むらの程度を均一にしようとするための技術である。
【0077】
乾燥速度が大きい領域は、小さい領域よりも、塗膜38における固形分の濃度が速く高くなる。固形分濃度が徐々に高くなり一定のレベルに達するとしみこみが停止する。したがって、図4の(c)のように側端部38sと中央部38との乾燥速度が異なる塗膜38を、第1加熱装置35を用いることなしに乾燥させた場合には、セルロースアシレートフィルム31のうち塗膜38の一部がしみこんだしみこみ領域の厚みは、図4の(d)の二点鎖線に示すように側端部38sと中央部38cとで異なるものとなる。そして、側端部では、中央部との境界から側縁に向かうに従いしみこみ領域の厚みが小さくなる。したがって、得られるハードコートフィルムにおける中間層13の厚みも、(d)の二点鎖線で示すグラフと同様の形状となる。
【0078】
本発明では、第1加熱装置35を用いることにより、しみこみ領域の幅方向Z2における厚みを、図4の(d)の実線で示すように一定にする。具体的には、まず、セルロースアシレートフィルム31のうち、塗膜の中央部38cが形成される領域を第1領域31c、側端部38sが形成される領域を第2領域31bとして特定しておく。すなわち、第1乾燥装置41での乾燥が所定の速度ですすむ領域を第1領域31aとし、この第1領域31aよりも相対的に乾燥が速くすすむ領域を第2領域31bとして予め特定する。そして、第2領域31bを第1加熱装置35による加熱対象とし、この加熱により、初期乾燥工程での第2領域31bの温度を第1領域31aの温度よりも高くする。これにより、塗膜38の乾燥速度が側端部38sと中央部38cとで異なる場合であっても、厚みが幅方向Z2で一定である中間層13を形成する。幅方向Z2における厚みプロファイルが一定の中間層13を形成することにより、積層体であるハードコートフィルム10の干渉むらの程度が幅方向Z2で均一になる。
【0079】
例えば、幅1500mmのセルロースアシレートフィルム31を用い、雰囲気調整手段54とセルロースアシレートフィルム31との距離を5mmとした第1乾燥装置41では給排気を実施せずに雰囲気の温度を23℃、塗膜38の乾燥速度を0.05g/m・sとし、第2乾燥装置42にも雰囲気調整手段54を設けて、この雰囲気調整手段54とセルロースアシレートフィルム31との距離を5mmとした第2乾燥装置42では給気風量を15m/min、雰囲気の温度を35℃とした場合には、塗布開始時における第1領域31aの温度は20℃以上25℃以下の範囲とすることが好ましい。これに対し、第2領域31bの温度はさらに高い温度とし、50℃以上60℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0080】
セルロースアシレートフィルム31の幅を大きくしてこの幅が雰囲気調整手段54の幅に近づくほど、幅方向Z2での(フィルム端部と中央部の)乾燥速度の差は大きくなるので、第2領域31bの加熱温度はフィルム幅が比較的小さい時より高くする。また、第1乾燥装置41でのフィルム幅方向平均乾燥速度を大きくするほど、フィルム幅方向全体で乾燥が速く進んで塗膜の固形分濃度が早く高くなり、塗液のしみこみ停止が早くなって、幅方向Z2でのしみこみ量の差は小さくなるので、第2領域31bの加熱温度は第1乾燥装置41でのフィルム幅方向平均乾燥速度が比較的大きい時より低くする。第1乾燥装置41で給気をし、さらに排気も行う場合には、給気口近傍の乾燥速度がフィルム中央部の乾燥速度より大きくなり、排気口近傍の乾燥速度もフィルム中央部の乾燥速度より大きくなるため、乾燥速度の差に応じて第2領域31bの温度を決める。第1乾燥装置41で塗膜38近傍の全面上方から給気する場合には、側縁に近いほど乾燥速度がより大きくなるので、フィルム側縁の温度をより高くする。第1乾燥装置41で塗膜38近傍の全面上方から排気する場合は、側縁に近いほど乾燥速度がより大きくなるので、フィルム側縁の温度をより高くする。第1乾燥装置41で乾燥速度が比較的速い領域(第2領域31b上)の塗膜38の温度を、乾燥速度が比較的遅い領域(第1領域31a上)の塗膜38の温度よりも高くすることによって、しみこみ領域の厚みを幅方向で均一にするという本発明の技術思想を踏まえて、第1領域31aと第2領域31bとの温度は、セルロースアシレートフィルム31の幅、雰囲気調整手段54と塗膜38との距離、給排気の有無、送風の方向、雰囲気の温度など、セルロースアシレートフィルム31の幅方向Z2における各位置における乾燥速度を考慮して決定すればよい。
【0081】
第1加熱装置35による加熱は以下の方法で行う。第1加熱装置35は、図5に示すように、セルロースアシレートフィルム31の搬送路の非塗布面側に設けてある。第1加熱装置35は、セルロースアシレートフィルム31に対向する対向部がヒータ72とされてある。第1加熱装置35は、それぞれヒータ72からの発熱量を制御するコントローラ73を有する。なお、図5では、説明の便宜上、各ヒータ73及びそれらの配列ピッチを、セルロースアシレートフィルム31及び塗膜38に対して大きく描いてある。
【0082】
第1加熱装置35は、セルロースアシレートフィルム31の搬送路の塗布面側に配してもよい。
【0083】
第1加熱装置35は、複数のヒータ72を備え、複数のヒータ72は、セルロースアシレートフィルム31の幅方向Z2に並ぶ。
【0084】
コントローラ73は、これらのヒータ72を独立して制御し、各ヒータ72のオン・オフの切替を含めた各ヒータ72からの発熱量を制御する。コントローラ73には、各ヒータ72のオン・オフの情報に関する信号とオンにするヒータ72の発すべき熱量の情報に関する信号とが予め入力されてあり、これらの信号に基づいて各ヒータ72を制御する。
【0085】
第1加熱装置35は、複数のヒータ72のうち、セルロースアシレートフィルム31の第2領域31bが通過するものがオンとされる。これにより、第1領域31aよりも第2領域31bの方が、塗膜38がセルロースアシレートフィルム31の中にしみこみやすくなり、しみこみ領域の厚みが増す。これは、第2領域31bにおける塗膜38の成分の拡散速度が第1領域31aにおける拡散速度よりも大きくなるからである。
【0086】
第2領域31bで乾燥速度が大きくなる位置が通過するヒータ72ほど、その発熱量を大きくするとよい。これにより、第2領域31bにおけるしみこみ領域の厚みを一定にすることができる。また、第1乾燥装置41における乾燥速度が大きくなる場合ほど、ヒータ72の発熱量を大きくして、初期乾燥工程における第2領域31bの温度をより高くすることが好ましい。
【0087】
ただし、第2領域31bの温度を高くするほど、塗膜38の第1乾燥装置41における乾燥速度も速くなり、高くしすぎると、むしろ塗膜38の乾燥が促進されてしまい、塗膜の固形分濃度が早く高くなり、しみこみ領域の厚みの増加を抑制することになる。第1乾燥装置41における初期乾燥速度が大きい箇所ほど、塗布位置における第2領域31bの温度が高くなるように加熱することによってしみこみ成分のしみこみを促進するのが本願発明の目的なので、その加熱設定温度は、第1乾燥装置41における第2領域31b上の塗膜38の乾燥を促進しすぎて塗膜の固形分濃度を高くしてしまい、逆にしみこみを抑制してしまうほどの高温にはしない所定範囲とする。すなわち、塗膜38の乾燥速度としみこみ速度とのバランスをとるように塗布位置における第2領域31bの温度を設定することが好ましく、その方法としては以下の方法が挙げられる。
【0088】
まず、初期乾燥工程時の第2領域31bの温度、すなわち塗布位置における第2領域31bの温度と、得られるハードコートフィルム10における中間層13の厚みとの関係を予め求めておく。そして、求めた前記関係に基づいて、塗布位置における第2領域31bの温度を設定する。設定された温度になるように、第2領域31bを第1加熱装置35で暖める。この方法によると、塗膜38の乾燥が促進されることなくしみこみ領域の厚みを増加させるような第2領域31bの塗布位置における温度を求めることができる。
【0089】
初期乾燥工程時の第2領域31bの温度と、得られるハードコートフィルム10における中間層13の厚み及びハードコート層12の厚みとの関係を予め求めておくことがさらに好ましい。これにより、塗膜38のセルロースアシレート層11における拡散もより考慮して、ハードコート層12の厚みをより確実に幅方向Z2で一定にすることができる。
【0090】
初期乾燥工程時の第2領域31bの温度と、得られるハードコートフィルム10における中間層13の厚みとの関係に代えて、塗布開始時の第2領域31bの温度と、しみこみ領域の厚みとの関係としてもよい。
【0091】
さらに、ハードコート塗布液36のしみこみは、塗布開始時から2秒ないし20秒経過した時点で停止することが多い。第1領域31aと第2領域31bとを特定するための乾燥速度の測定は、ハードコート塗布液36のしみこみが停止する時点以降であれば、ハードコートフィルム10の製造中でも行うことができる。このように、製造過程で乾燥速度を測定して、第1領域31aと第2領域31bとを特定した場合には、特定した第2領域31bの信号をコントローラ73に入力して第1加熱装置35を制御するというフィードバック制御を実施してもよい。なお、塗布されたハードコート塗布液36のしみこみが停止するまでの上記時間は、ハードコート塗布液36の処方や乾燥条件等により変わる。
【0092】
なお、しみこみ領域の厚みの大小は、乾燥する前の塗膜38の温度と乾燥過程の所定時点における塗膜38の温度との差によっても概ね検出することができる。塗膜38のうち、乾燥速度が速い領域ほど、蒸発潜熱で温度が大きく下がるので、塗膜38の温度を検出して乾燥する前と比べて、幅方向Z2で温度が大きく下がる領域を第2領域31bとして特定してもよい。
【0093】
以上の方法により、搬送速度を下げることなく、しみこみ領域の厚みを幅方向Z2で均一にすることができる。結果として、製造効率は低下することなく長尺の積層体であるハードコートフィルム10を製造することができ、また、長尺の積層体であるハードコートフィルム10においては、中間層13も幅方向Z2で均一な厚みとなるとともに、さらにハードコート層12も幅方向Z2で均一な厚みとなるので、得られる積層体であるハードコートフィルム10は干渉むらの程度が幅方向Z2で一定なものとなる。
【0094】
なお、セルロースアシレートフィルム31の温度を高くしすぎると、しみこみ領域の厚みの増加作用を超えて塗膜38の乾燥が促進されるという現象を利用し、第1領域31aを塗膜38の乾燥が促進されるように第2領域31aよりも大幅に昇温してもよい。これにより、第2領域31aのしみこみ領域の厚みを小さく抑える。この方法も、製造効率を低下させない点で有効である。この方法は、第1領域31aを加熱するための加熱装置(図示せず)を、一方の第1加熱装置35と他方の第1加熱装置35との間に配することにより実施することができる。
【0095】
第2の実施形態では、第1乾燥装置41に代えて、図6に示す第4乾燥装置80を用いる。図6においては、図3の第1乾燥装置41と同じ部材、装置については同じ符号を付し、説明を略す。第4乾燥装置80は、搬送路を囲むようにして温度及び湿度を調整すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ81と、チャンバ81に配される雰囲気調整部84と、第1送風機52と、第1回収機55とを備える。なお、第1乾燥装置と同様に第1コントローラ53が設けられてあるが、図示は略す。
【0096】
雰囲気調整部84は、雰囲気調整手段54とダクト86とからなり、チャンバ81の内部に設けられる。ダクト86は、雰囲気調整手段54よりも外側、すなわち、セルロースアシレートフィルムの搬送路側とは反対側に設けられる。第1送風機52は、ダクト86に接続し、所定の温度及び湿度に調整した気体をダクト86に供給する。ダクト86の給気口(図示せず)は、雰囲気調整手段54と対向するように形成されており、気体を雰囲気調整手段54に向けて流出する。
【0097】
雰囲気調整手段54は、ダクト86からの気体の流れ方向を調整する整流板として作用する。これにより、塗膜38は、ダクト86からの気体の吹き付けにより厚みが不均一になることもなく、流れが調整された気体の送り込みにより乾燥がすすむ。
【0098】
第4乾燥装置80を用いた場合にも、塗膜38の乾燥速度のグラフは、第1乾燥装置41を用いた場合と同様の図4の(c)のグラフと同様に凹形状になる。第4乾燥装置80を用いると第1乾燥装置41を用いるよりも側端部38sの乾燥速度が大きくなる傾向があり、側端部38sでの曲線は、図4の(c)の曲線よりも傾きが急になる。このような場合でも、第1加熱装置35により、セルロースアシレートフィルム31の第2領域31bを塗布前に予め加熱しておくことにより、第2領域31bでのしみこみ領域の厚みを増加させ、幅方向Z2で一定の厚みをもつ中間層13を形成することができる。
【0099】
第3の実施形態では、第1乾燥装置41に代えて、図7に示す第5乾燥装置90を用いる。図7においては、図3の第1乾燥装置41と同じ部材、装置については同じ符号を付し、説明を略す。第5乾燥装置90は、搬送路を囲むようにして温度及び湿度を調整すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ91と、雰囲気調整部94と、第1送風機52と、第1回収機55とを備える。なお、第1乾燥装置41と同様に第1コントローラ53が設けられてあるが、図示は略す。
【0100】
雰囲気調整部94は、雰囲気調整手段54と給気ダクト96と排気ダクト97とからなり、チャンバ81の内部に設けられる。給気ダクト96は、雰囲気調整手段54の一方の側縁よりも外側に配され、排気ダクト97は、他方の側縁よりも外側に配される。これにより、給気ダクト96から、雰囲気調整手段54と塗膜38との間に気体を供給し、塗膜38の雰囲気は排気ダクト97で吸引されて外部の第1回収機55に案内される。
【0101】
雰囲気調整手段54は、給気ダクト96及び排気ダクト97による気体の流れ方向を調整する整流板として作用する。これにより、塗膜38は、給気ダクト96からの気体の吹き付けにより厚みが不均一になることなく、流れが調整された気体の送り込みにより乾燥がすすむ。
【0102】
第5乾燥装置90を用いた場合には、塗膜38の乾燥速度は、図4の(c)とは異なり、幅方向Z2で非対称のグラフとなる。具体的には、給気ダクト96側の側端部38bは、排気ダクト側の側端部38bよりも乾燥速度が大きい。この場合であっても、塗膜38の乾燥速度が所定の速度よりも大きくなるセルロースアシレートフィルム31の第2領域31bを特定して、特定した第2領域31bのみを第1乾燥装置35のヒータ72で加熱し、特定した第2領域が通過するヒータ72の発熱量を独立して制御することにより、しみこみ領域の厚みを調整することができる。
【0103】
図3,4,6,7に示す実施形態では、雰囲気調整手段54として、両面が平らな板を用いた場合を図示してあるが、他の形状の雰囲気調整手段を用いてもよい。例えば、雰囲気調整手段として以下のような多孔板や網状物を用いることができる。
【0104】
図8に示すように、第4の実施形態における雰囲気調整手段154は、厚み方向Z3に貫通する孔155が複数形成されてある多孔板である。雰囲気調整手段154では、複数の孔155がマトリックス状に並ぶように形成されているが、千鳥状に並ぶように形成されてもよい。
【0105】
図9に示すように、第5の実施形態における雰囲気調整手段254は、金属等の線条体255を編んだ網状物である。互いに同じ方向に配される各線条体255の距離は、一定としてあるが、不均一であってもよい。また、線条体255は、90°の角度で互いに交差するように編まれているが、公差角度はこれに限定されない。
【0106】
多孔板である雰囲気調整手段154や、網状物である雰囲気調整手段254は、塗膜38から蒸発した溶剤成分の、塗膜38のまわりの雰囲気における濃度を調整する作用をもつ。雰囲気調整手段154,254は、雰囲気調整手段54よりも、塗膜38の雰囲気における溶剤成分の濃度を低めに保持する。ただし、この比較は、雰囲気調整手段54,154,254のいずれの温度も、雰囲気の温度以上にした場合におけるものである。塗膜38の雰囲気の流れを調整する作用は、多孔板における孔の形成密度や網における線条体と線条体との隙間の大きさが小さいほど、弱い。
【0107】
第6の実施形態では、フィルム製造設備30に代えて、図10に示すフィルム製造設備100を用いる。フィルム製造設備100は、フィルム製造設備30の第1乾燥装置41に代えて第6乾燥装置101を備える。
【0108】
第6乾燥装置101は、雰囲気調整手段103とこの雰囲気調整手段103の温度を制御するコントローラ104とからなる第1の雰囲気調整部105を有する。第1の雰囲気調整部105は、セルロースアシレートフィルム31の搬送路に沿って複数備えられてある。なお、第6乾燥装置101は、図3に示す第1乾燥装置41と同様に、搬送路及び複数の第1の雰囲気調整部105を囲むチャンバ51と、第1送風機52と、第1コントローラ53と、第1回収機55とを備えるが、これらの図示は略す。第1送風機52を用いる場合には、セルロースアシレートフィルム31の搬送方向Z1における下流から上流に向けて塗膜38と平行に気体を流すように、すなわち、流出する気体が移動する塗膜38に対して向かい風になるように、第1送風機52を配してもよい。なお、第1送風機52と第1コントローラ53と第1回収機55とは、用いなくてもよい。
【0109】
雰囲気調整手段103はクーラ107を備えるコンデンサ(凝縮器)である。雰囲気調整手段103は、クーラ107がセルロースアシレートフィルム31の搬送路に対向するように配される。クーラ107は、雰囲気よりも低い温度に保持され、コントローラ104により温度が制御される。このクーラ107による冷却により、雰囲気に含まれる溶剤成分がクーラ107の表面で凝縮して液体となる。このように、気体となった溶剤成分がクーラ107の表面で液体となることにより、塗膜38から蒸発した溶剤成分の前記雰囲気における濃度が調整される。この濃度調整により、塗膜38の乾燥が第1乾燥装置41におけるよりも速くすすむ。
【0110】
各雰囲気調整手段103は、起立した姿勢で保持される。各雰囲気調整手段103の下方には、液体を回収する回収容器(図示無し)が設けられる。クーラ107の表面に付着した液体の溶剤成分は、クーラ107の表面を流れ落ちて、回収容器で回収される。
【0111】
雰囲気調整手段103で液体となった溶剤成分を上記のように回収するために、第6乾燥装置101では、セルロースアシレートフィルム31の搬送路が水平とは交差する向きにされ、下流に向かうに従い徐々に傾きが小さくなるように設定されてあるととともに、塗膜38が上向きとなるようにされてある。これにより、搬送路と略平行に配する各雰囲気調整手段103を、起立した姿勢で配することができる。また、第6乾燥装置101から第2乾燥装置42、第3乾燥装置43と下流に向かうに従い、搬送路は徐々に水平に近づくように傾きが小さくされる。
【0112】
なお、雰囲気調整手段103は、塗膜38の雰囲気の流れを調整する作用も備える。
【0113】
この第6乾燥装置101を用いた場合にも、塗膜38の乾燥速度のグラフは、第1乾燥装置41を用いた図4の(c)のグラフと同様に凹形状になる。第6乾燥装置101を用いると第1乾燥装置41を用いるよりも側端部38sの乾燥速度が大きくなる傾向があり、側端部38sでの曲線は、図4の(c)の曲線よりも傾きが急になる。このような場合でも、第1加熱装置35により、セルロースアシレートフィルム31の第2領域31bを塗布前に予め加熱しておくことにより、第2領域31bでのしみこみ領域の厚みを増加させ、幅方向Z2で一定の厚みをもつ中間層13を形成することができる。
【0114】
雰囲気調整手段103の、クーラ107をヒータ(図示無し)に代えてもよい。この場合には、ヒータとして赤外線ヒータを用いることが好ましい。ヒータを有する雰囲気調整手段(図示無し)の場合には、これを雰囲気調整手段103のように起立した姿勢にして配する必要は無い。
【0115】
第7実施形態では、フィルム製造設備30に代えて、図9に示すフィルム製造設備110を用いる。フィルム製造設備110は、フィルム製造設備30の第1乾燥装置41に代えて第7乾燥装置111を備える。
【0116】
第7乾燥装置111は、第6乾燥装置と同様に、第1の雰囲気調整部105を、セルロースアシレートフィルム31の搬送路に沿って複数備える。第7乾燥装置は、さらに、雰囲気調整手段113とこの雰囲気調整手段113の温度を制御するコントローラ114とからなる第2の雰囲気調整部115を有する。第2の雰囲気調整部115も、セルロースアシレートフィルム31の搬送路に沿って複数備えられてある。なお、第6乾燥装置101は、図3に示す第1乾燥装置41と同様に、搬送路及び複数の第1、第2の雰囲気調整部105,115を囲むチャンバ51と、第1送風機52と、第1コントローラ53と、第1回収機55とを備えるが、これらの図示は略す。なお、第1送風機52と第1コントローラ53と第1回収機55とは、用いなくてもよい。
【0117】
雰囲気調整手段113は、セルロースアシレートフィルム31の搬送路を挟んで、雰囲気調整手段103とは反対側のエリアに設けられる。雰囲気調整手段113は、ヒータ117を備え、ヒータ117がセルロースアシレートフィルム31の搬送路に対向するように配される。各雰囲気調整手段113は、起立した姿勢で保持される。
【0118】
ヒータ117は、雰囲気よりも高い温度に保持され、コントローラ114により温度が制御される。このヒータ117による加熱により、塗膜38からの溶剤の蒸発がより促される。これにより、クーラ107の表面で凝縮して液体となる溶剤成分の単位時間における量も増える。このように、塗膜38から蒸発した溶剤成分の前記雰囲気における濃度が調整されるとともに、乾燥が第6乾燥装置101(図8参照)よりも速くすすむ。
【0119】
なお、雰囲気調整手段113も、塗膜38の雰囲気の流れを調整する作用をもつ。
【0120】
フィルム製造設備100,110では、第1加熱装置35を、支持ローラ48よりも上流の搬送路に関し、セルロースアシレートフィルム31の非塗布面側に配してあるが、塗布面側に配してもよい。
【0121】
以上のフィルム製造設備10,100,101では、支持ローラ48に向かうセルロースアシレートフィルム31の第2領域31bに対して、第1加熱装置35により加熱を実施するが、他の態様でもよい。他の態様の例を以下に説明する。
【0122】
第8実施形態で用いる第2加熱装置121は、図12及び図13に示すように、複数のヒータ122を備える。複数のヒータ122は、第1加熱装置35(図3参照)と同様に、第2加熱装置121の一方向に並ぶように配される。第2加熱装置121は、支持ローラ48の周面に対向するように配されるとともに、複数のヒータ122の並ぶ方向が支持ローラ48の長手方向に一致するように配される。第2加熱装置121も、第1加熱装置35と同様に、コントローラ73(図5参照)を備え、このコントローラ73により、複数のヒータ122は独立して発熱のオン・オフと、オンにした場合の発熱量とを制御される。
【0123】
支持ローラ48の周面のうち、セルロースアシレートフィルム31の第2領域31bが接触する領域を接触領域と称する。複数のヒータ122のうち、接触領域に対向するヒータ122を特定する信号がコントローラ73に入力されると、コントローラ73は、特定されたヒータ122をオンにする。これにより、第2加熱装置121は、非接触で支持ローラ48を加熱し、この支持ローラ48を介して間接的に第2領域31bを昇温する。そして、オンにするヒータ122が複数ある場合には、第2領域31bのうち乾燥速度が大きい位置ほど高い温度になるように、各ヒータ122の発熱量を独立して制御する。
【0124】
塗布位置は、支持ローラ48上とされる。セルロースアシレートフィルム31は、塗布位置よりも上流から塗布位置に至るまでの領域を、支持ローラ48の周面に巻き掛けられる。これにより、加熱された接触範囲48bに接する第2領域が昇温する。図13では、巻き掛け範囲を符号RWで示す。ただし、巻き掛け範囲RWの下流端は、塗布位置より下流でもよい。
【0125】
第2加熱装置121は、セルロースアシレートフィルム31が支持ローラ48から離れる支持解除位置から巻き掛け範囲RWの上流端に至る範囲のいずれに対向する位置に配してもよい。
【0126】
図13に示す支持ローラ48は、駆動手段(図示)によって回転するいわゆる駆動ローラとしているが、搬送手段により搬送されているセルロースアシレートフィルム31に接することにより回転するいわゆるフリーローラであってもよい。
【0127】
本実施形態では、支持ローラ48の接触領域48bを、第2加熱装置121のヒータ122により加熱する。ヒータ122としては、赤外線ヒータが好ましい。また、支持ローラ48の接触領域48bを加熱する方法として他の方法を用いてもよい。例えば、支持ローラ48の内部に伝熱媒体の流路を形成し、所定温度の伝熱媒体を支持ローラ48の内部に送り込むことによって、接触領域48bを昇温させてもよい。ただし、伝熱媒体の送り込みは、支持ローラ48さらには塗布ダイ47の微小な振動を招くこともあるので、本実施形態のように、支持ローラ48に接触することなく、外部から周面を加熱する方法がより好ましい。
【0128】
上記のいずれの実施形態も、塗布位置における第2領域31bを、第1領域31aよりも高い温度となるように、塗布前に予め加熱している。ただし、しみこみ領域の厚みを幅方向Z2で一定にするという観点では、第2領域31bを加熱することなく第1領域31aを冷却してもよいし、第2領域31bの加熱と第1領域31の冷却とを併せて実施してもよい。第1領域31aを冷却することは、後工程である乾燥工程での乾燥効率を下げることを意味する。そこで、乾燥効率、すなわち積層体の製造効率を保持する観点では、第1領域31aを冷却することなく第2領域31bを加熱することがより好ましい。
【0129】
上記の製造方法及び設備は、長尺のセルロースアシレートフィルム31を搬送しながら、塗布及び乾燥させるものであるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、積層体の支持体としてのセルロースアシレートフィルム31を静置した状態で、このセルロースアシレートフィルム31に対してハードコート塗布液36を塗布したり、塗膜を乾燥してもよい。
【符号の説明】
【0130】
10 ハードコートフィルム
11 セルロースアシレート層
12 ハードコート層
13 中間層
20 反射防止ハードコートフィルム
30,100,110 フィルム製造設備
31 セルロースアシレートフィルム
35,121 第1,第2加熱装置
37 塗布装置
38 塗膜
41,80,90,101,111 第1,第4〜第7乾燥装置
48 支持ローラ
54,103,113 雰囲気調整手段
105,115 第1,第2雰囲気調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造方法において、
支持体に、前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜周囲の雰囲気の流れと、前記雰囲気における前記塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段に前記塗膜を対向させて、前記塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥工程と、
前記初期乾燥工程における前記塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ前記支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に初期乾燥が速くすすむ第2領域とを予め特定しておき、初期乾燥工程で前記第2領域の温度が前記第1領域よりも高くなるように、前記支持体を加熱する加熱工程を有することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層は前記セルロースアシレートからなるセルロースアシレート層であり、
前記塗布層は透明であり、
前記塗布工程では、搬送されている前記支持体としてのセルロースアシレートフィルムに、塗布液を塗布して塗膜を形成し、
前記初期乾燥工程では、前記雰囲気調整手段に前記塗膜が対抗するように前記セルロースアシレートフィルムを搬送しながら、前記塗膜の初期乾燥をすすめることを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記初期乾燥工程における前記第2領域の乾燥速度が大きいほど、前記初期乾燥工程における温度がより高くなるように前記第2領域を加熱することを特徴とする請求項1または2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程では、ローラの周面に巻き掛けられて支持された前記セルロースアシレートフィルムに前記塗布液を塗布し、
前記加熱工程は、前記ローラの上流に配される加熱手段により、前記ローラに向かう前記セルロースアシレートフィルムの前記第2領域を加熱することを特徴とする請求項2または3記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程では、ローラの周面に巻き掛けられて支持された前記セルロースアシレートフィルムに前記塗布液を塗布し、
前記加熱工程は、前記ローラの周面のうち前記第2領域が接触する接触領域を加熱することにより、前記第2領域を加熱することを特徴とする請求項2または3記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記初期乾燥工程の間に前記塗膜の一部がしみこんだ前記セルロースアシレートフィルムのしみこみ領域から形成され、セルロースアシレートと前記塗布層の成分とが混在する中間層を前記積層体は有し、
前記初期乾燥工程における前記第2領域の温度と、前記中間層の厚み及び前記塗布層の厚みとの関係を予め求めておき、
前記関係に基づいて前記加熱工程における前記第2領域の温度を設定し、設定された値となるように前記加熱工程での加熱を行うことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
所定の固さに達した前記塗膜に乾燥気体を吹き付けることにより前記塗膜を乾燥させる乾燥促進工程を有し、
前記初期乾燥工程では、前記乾燥促進工程よりも小さな乾燥速度で、所定の固さになるまで前記塗膜の初期乾燥をすすめることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造方法において、
支持体に、前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布工程と、
前記塗膜周囲の雰囲気の流れと、前記雰囲気における前記塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段に前記塗膜を対向させて、前記塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥工程と、
前記初期乾燥工程における前記塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ前記支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に初期乾燥が速くすすむ第2領域とを予め特定しておき、初期乾燥工程で前記第1領域の温度が前記第2領域よりも低くなるように、前記支持体を冷却する冷却工程を有することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項9】
塗布液の塗布により形成される塗布層と、前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層とを備える積層体の製造設備において、
前記支持体に、前記塗布液を塗布して塗膜を形成する塗布装置と、
前記塗膜と対抗して設けられ、前記塗膜周囲の雰囲気の流れと前記雰囲気における前記塗膜から蒸発した溶剤成分の濃度との少なくとも一方を調整する雰囲気調整手段と、
前記雰囲気調整手段を有し、前記塗膜の初期乾燥をすすめる初期乾燥装置と、
前記初期乾燥装置における前記塗膜の初期乾燥が所定の速度ですすむ前記支持体の第1領域とこの第1領域よりも相対的に乾燥が速くすすむ第2領域とが特定されると、前記初期乾燥で前記第2領域の温度が前記第1領域よりも高くなるように前記支持体を加熱する加熱装置とを備えることを特徴とする積層体の製造設備。
【請求項10】
前記支持体としてのセルロースアシレートフィルムを搬送する搬送手段を備え、
前記塗布液中の成分がしみこみ可能な層は前記セルロースアシレートからなるセルロースアシレート層であり、
前記塗布層は透明であり、
前記塗布装置は、前記搬送手段により搬送されているセルロースアシレートフィルムに、塗布液を塗布し、
前記雰囲気調整手段は、前記塗膜に対向するように前記セルロースアシレートフィルムの搬送路に沿って設けられ、
前記加熱装置は、前記塗布液が塗布される塗布位置の上流に配されていることを特徴とする請求項9記載の積層体の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−200822(P2011−200822A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72064(P2010−72064)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】