説明

積層金属配線及び薄膜トランジスタ基板、並びにそれらの製造方法

【課題】 IC等の半導体装置や、表示装置に用いられるTFT基板で使用される、Alを含む積層配線の信頼性を高める。
【解決手段】 上層の金属層22を下層のAl又はAlを含む合金材料層21の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲させる。この積層配線は、エッチングによりこれを作製する際に、上層の金属層22よりも下層のAl又はAlを含む合金の材料層21の方のエッチング速度を大きくして、Al又はAlを含む合金の材料層21のサイドエッチングを多くし、上層の金属層22を下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金材料層21の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲させることで作製できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層した配線材料から形成される配線とその形成方法に関する。本発明はまた、この配線形成方法を応用してガラス板等の透明基材上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成して作られる表示装置用のTFT基板とその製造方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】集積回路(IC)等の半導体装置や、情報機器などに用いられるTFTを利用した表示装置には、個々の素子を動作させるため多数の配線が含まれている。表示装置に関して言えば、近年の高精細化・高画質化によって配線に低抵抗・高信頼性が求められている。
【0003】従来、表示装置の薄膜トランジスタ基板の配線は、低抵抗化のためにアルミニウム(Al)(もしくはアルミニウム合金(Al合金))を用いる場合、バリアメタルであるチタン(Ti)(又はタンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の高融点金属)が積層された金属配線を用いてきた。これは、Alの拡散によって素子の特性劣化が引き起こされる問題や、配線材料のAlと画素電極材料の酸化スズインジウム(ITO)との接触抵抗が高いという問題などを解決するためである。このようなAlとバリヤメタルとの積層構造の配線は、表示装置のTFTだけでなく、IC等の半導体装置でも使用されている。
【0004】以下に、図1を参照して、積層構造の配線の形成方法を説明する。まず、図1(a)に示したように、基材10上にAl層11とTi層12を連続的に成膜する。次に、Ti層12の上に配線のレジストパターン(図示せず)を形成する。続いて、このレジストパターンをマスクにして、Cl2 とBCl3の混合ガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)でTi層12とAl層11を一括でエッチングして、図1(b)に示したようにAl層11’とTi層12’の積層構造の配線13を形成する。
【0005】上記の方法で積層金属層のエッチングにより積層金属配線を形成した場合、金属配線の側壁部には図1(b)に見られるようにAlが露出しているために、その後の絶縁膜成膜工程等の高温プロセス中にAlのヒロック等がこの側壁部分から成長し、形成絶縁膜の絶縁耐圧を悪化させる原因となっていた。
【0006】また、上述のように一般に塩素系ガスを用いるドライエッチングでTiとAlをエッチングするとき、Alのエッチングレートの方が早いために、形成した配線の断面形状は図1に示したように、切り立って上層のTi層12’の先端部が張り出した形状となりやすい。これも、この後に形成される絶縁膜の絶縁耐圧を悪化させたり、上層の電極の断切れ(配線層と下地基板との急激な段差のため、下地基板から配線層の上に橋架けするように形成した上層電極層が段差部分で断線する現象)を生じさせる原因となっていた。このようなTi層の張り出しを避けるため、従来はTiとAlのエッチングレートをできるだけ近づける対策が講じられていた。
【0007】更に、上記のように形成した積層配線をTFT基板の配線として使用した場合、配線材料のAlと画素電極材料のITOが直接コンタクトしていると、コンタクト不良(AlとITOとの界面は電流がほとんど流れない)やITOの腐食(AlとITOで電池が構成されて、TFT基板の製造過程で基板を電解液に浸漬したときにITOが腐食する原因となる)などの問題が生じていた。これらの問題を回避するために、従来は、画素電極層の形成に先立ってAlの露出した側壁部分に沿って別にTi層を形成する方法や、あるいは形成した配線の上層Ti層を覆って被処理基板の全面に絶縁膜を形成してからこれをパターニングして配線層に通じるコンタクトホールを形成し、次いでコンタクトホールの底部のバリヤメタルに接続するITOの画素電極層を形成する方法が採用されていたが、これらはTFT基板の製造工程を煩雑にするものであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述の不都合、すなわち積層金属配線の側壁部にAlが露出していることと金属配線部分で急激な段差ができることよる絶縁耐圧の低下の問題、この急激な段差による上層の電極の断切れの問題、TFT基板の配線として使用した場合における配線材料のAlと画素電極材料のITOとのコンタクト不良やITOの腐食の問題、を解決して、信頼性の向上したAlを含む積層金属配線及び薄膜トランジスタ基板を提供すること、そしてまたそれらを製造するための生産性の向上した製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の積層金属配線は、基材上に形成した積層構造の金属配線であり、当該積層構造がアルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金の配線層と、バリヤメタル配線層とを含み、最上層にバリヤメタル配線層が配置されている積層金属配線であって、最上層のバリヤメタル配線層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とする。
【0010】本発明の積層金属配線は、基材上にAl又はAlを含む合金の配線材料層とバリヤメタル配線材料層とを含み最上層にバリヤメタル配線材料層を配置した積層配線材料層を成膜し、エッチングによりこれらの配線材料層をパターニングすることにより積層金属配線を形成する方法であって、最上層のバリヤメタル配線材料層のエッチング速度よりも下層のAl又はAlを含む合金の配線材料層の方のエッチング速度を大きくしてAl又はAlを含む合金の配線材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲させることを特徴とする積層金属配線の形成方法で形成することができる。
【0011】本発明の薄膜トランジスタ基板は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であり、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とする。
【0012】また、本発明の薄膜トランジスタ基板は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ゲート電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタルの層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であり、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とするものでもある。
【0013】本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む基板であり、ソース電極及びドレイン電極がAl又はAlを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であって、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものである薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、Al又はAlを含む合金の材料層とバリヤメタル材料層とを含み最上層にバリヤメタル材料層を配置した積層材料層を成膜し、この積層材料層をエッチングによりパターニングし、最上層のバリヤメタル材料層のエッチング速度よりも下層のAl又はAlを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてAl又はAlを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下方に湾曲させることでソース電極及びドレイン電極を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0014】また、本発明の薄膜トランジスタ基板製造方法は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む基板であり、ゲート電極がアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であって、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものである薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層とバリヤメタル材料層とを含み最上層にバリヤメタル材料層を配置した積層材料層を成膜し、この積層材料層をエッチングによりパターニングし、最上層のバリヤメタル材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下方に湾曲させることでゲート電極を形成する工程を含むことを特徴とするものでもある。更に、本発明の薄膜トランジスタ基板製造方法は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリアメタルの層とを含み、最上層にバリアメタル層が配置されている積層構造の電極であり、ソース電極及びドレイン電極の上方に絶縁膜を被着することなく画素電極を形成した構造の薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、ソース電極及びドレイン電極の積層材料層をエッチングによりパターンニングし、最上層のバリアメタル材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、画素電極材料を被着した場合において画素電極材料が回り込んでアルミニウム又はアルミニウムを含む合金材料に接触しないようにエッチングすることを特徴とするものである。なおまた、本発明の薄膜トランジスタ基板製造方法は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリアメタルの層とを含み、最上層にバリアメタル層が配置されている積層構造の電極である薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、ゲート絶縁膜の開口は端子部のみ行うことを特徴とするものでもある。
【0015】更に、本発明の薄膜トランジスタ基板の製造方法は、透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む基板であり、ソース電極及びドレイン電極がAl又はAlを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であって、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものである薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、Al又はAlを含む合金の材料層とバリヤメタル材料層とを含み最上層にバリヤメタル材料層を配置した積層材料層を成膜し、この積層材料層をエッチングによりパターニングし、最上層のバリヤメタル材料層のエッチング速度よりも下層のAl又はAlを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてAl又はAlを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、その上に着層される画素電極材料との接触を防止することを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明の積層金属配線は、半導体の技術分野で使用する任意の材料の基材上に形成することができる。すなわち、本発明では、基材としてシリコン等の半導体材料又は表面処理を施された半導体材料を用いてもよく、あるいはガラス等のその他の材料を用いてもよい。
【0017】本発明の積層金属配線は、Al又はAlを含む合金(以下、これらを「Al系材料」と総称する)の層とバリヤメタルの層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている。本発明の積層金属配線は、図2(a)に示したように、基材10上に形成した一つのAl系材料層22と一つのバリヤメタル層23から構成してもよく、あるいは図2(b)に示したように、最上層のバリヤメタル層23のほかに、Al系材料層22の下にもう一つのバリヤメタル層24を含む三層構造としてもよい。
【0018】本発明のTFT基板のソース電極及びドレイン電極の基本構造は、本発明の積層金属配線の上述の基本構造と本質的に同じである。
【0019】この明細書において「積層金属配線」とは、本発明のTFT基板におけるソース電極及びドレイン電極と同じように、Al系材料層とバリヤメタル層とを含み最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極や端子その他を包含するものである。そのような電極や端子は、それらに接続する配線が本発明による配線である場合、その配線と一緒に作製すればよい。このように、配線と同一工程で作製されるか否かにかかわらず、最も広い意味において、本発明の「積層金属配線」とは、本発明の積層構造を有する電極や端子を包含するものである。
【0020】バリヤメタル層を構成する材料は、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)もしくはタングステン(W)等の金属、又はこれらの金属の窒化物、酸化物、シリサイド(ケイ化物)でよいが、これらに限定はされず、Alの拡散を効果的に抑制できるその他の任意の材料を使用可能である。また、三層構造の積層金属配線の場合には、最上層と下層のバリヤメタル層の材料は同じであっても異なるものでもよい。
【0021】本発明の積層金属配線においては、最上層のバリヤメタル配線層が下層のAl系材料配線層の露出した側壁から横に突き出すように形成され、そしてこの突き出した部分が自重により下方に湾曲してAl系材料配線層の露出した側壁をなだらかな勾配で覆うことから、この積層金属配線を覆ってその後に形成する絶縁膜を配線わきのこのなだらかな勾配に従って形成でき、そのため急峻な段差をもつ配線を覆って形成した絶縁膜に比べその絶縁耐圧を向上させることが可能である。
【0022】また、最上層のバリヤメタル配線層が下のAl系材料配線層の露出した側壁を隠蔽するように下方に湾曲していることにより、積層金属配線の側壁に沿って絶縁膜を形成した場合にAl系材料配線層の側壁部分から成長するヒロックによる絶縁膜の絶縁耐圧の低下を回避することが可能になる。
【0023】先に触れたように、本発明の薄膜トランジスタ(TFT)基板においては、少なくともソース電極とドレイン電極が上述の本発明の積層金属配線と同様の構造を有し、すなわちそれらは、Al系材料層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であり、最上層のバリヤメタル層が下層のAl系材料層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものとなっている。
【0024】このようなソース電極(あるいはドレイン電極)においては、Al系材料層の露出した側壁がバリヤメタル層の横方向に突き出して下方へ湾曲した部分により覆われるので、ソース電極のAl系材料と画素電極材料のITOとは直接接触することがなく、バリヤメタル層と画素電極との良好なコンタクトが得られ、またITOの腐食が生じることがなくなる。従って、ソース電極と画素電極のITOとの直接の接続が可能となり、そのため画素電極を形成する際にソース電極を覆うカバー膜を形成し、これにコンタクトホールを開口するという煩雑な作業が不要となる。
【0025】また、本発明のTFT基板においては、ゲート電極をソース電極及びドレイン電極と同様に本発明の積層金属配線の上述の基本構造と同じ構造とすることもでき、そうすることでゲート電極の上に形成するゲート絶縁膜の絶縁耐圧の低下を予防することができる。
【0026】画素電極材料としては、上記のように一般にITOが用いられるが、画素電極材料はその他の材料であってもよい。画素電極を接続する電極は、TFT基板の構成に応じて上記のようにソース電極であることもあり、あるいはドレイン電極であることもある。
【0027】本発明では、積層金属配線又はソース・ドレイン電極を作製する際に、下層のAlのサイドエッチング量をコントロールし、上層のバリヤメタルが自重で下方へ湾曲することができるようにして、それによりAl系材料層の側壁部分を覆うようにしている。このサイドエッチング量dは、図3に示したように、Al系材料層25のサイドエッチングを完了し、そしてバリヤメタル層26が下方へ湾曲する前の状態において、バリヤメタル層26の先端からAl系材料層25の側壁までの距離として定義される。このAl系材料層のサイドエッチング量d(μm)は、Cl2 とBCl3 との混合ガスのような塩素系のエッチングガスを用いたRIEを使用する場合、オーバエッチング時間t(秒)に比例して増加し、d=αtの関係式で表される。再現性良くこれをコントロールするには、比例係数αは0.005以上0.04未満となることが望ましい。αが0.005未満ではサイドエッチングの進行が遅くて実用的でなく、0.04以上ではサイドエッチングが速過ぎてコントロールが難しくなり、また下地の基材10等のほかの材料のエッチングが無視できなくなることもある。
【0028】上層のバリヤメタル26が自重で下方に湾曲してAl系材料層25の露出した側壁を十分に覆うのに必要なサイドエッチング量dは、バリヤメタル層26に使用する材料の種類と形成するバリヤメタル層の厚さに依存して変化する。最適なサイドエッチング量は、実験により決定することができる。
【0029】また、サイドエッチング量dとオーバエッチング時間tとの関係を示す上記の式中の係数αは、エッチングに使用するガス種に応じて変化し、一定のガス種のもとでは、圧力に依存して変化する。一般に、αはガス圧力が高くなるほど大きくなる。最適なガス圧力は、やはり実験により決定することができる。
【0030】上層のバリヤメタルを下方に湾曲させて下層のAl系材料層の側壁を隠蔽することで得られる本発明の効果、すなわち本発明の積層配線上に形成する絶縁膜の絶縁耐圧を向上させることができ、TFT基板においてソース電極(あるいはドレイン電極)と画素電極とのコンタクトが良好となり、ITOの腐食を回避できるという効果を十分なものにするためには、湾曲して垂れ下がるバリヤメタルがAl系材料層の露出された側壁を少なくとも半分以上、好ましくはほぼ完全に、より好ましくは完全に隠蔽することが望ましい。そのため、図3においてAl系材料層25の露出した側壁から横方向に突き出したバリヤメタル26の長さ(サイドエッチング量dに等しい)は、Al系材料層25の厚さT以上であることが好ましい。
【0031】更に、図4に示したようにTFT基板100においては、バリヤメタル101が垂れ下がらなくとも、Al系材料層102が十分サイドエッチングしており、その上に着層される画素電極材料103が回り込んでもAl系材料層102と接触しないのであれば、同様の効果が得られるのは言うまでもない。この図において、110はガラス基材、111はゲート電極、112はゲート絶縁膜を示している。
【0032】これまでの説明から明らかなように、本発明の積層金属配線の最上層のバリヤメタル層は、配線のアルミニウム部分をパターニング後に形成される(この場合には、バリヤメタル層はアルミニウム部分の側壁にぴったり密着して形成される)のではなく、下層のアルミニウム部分と一緒に、アルミニウム部分のサイドエッチングを多くしてパターニングされ、アルミニウム部分から側方に突き出した部分の自重によるたわみによりアルミニウム部分の側壁を隠蔽するようになるので、一般に、アルミニウム部分(アルミニウム層)の側壁に密着する構造にはならない。
【0033】
【実施例】次に、実施例により本発明を更に説明する。言うまでもなく、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0034】図5(a)に示したように、透明なガラス基材31の上にAl層32(厚さ100nm)、Ti層33(50nm)をスパッタ法により連続的に成膜後、Ti層33の上にゲート電極用のレジストパターン(図示せず)を形成した。このレジストパターンをマスクにして、100sccmのCl2 と100sccmのBCl3 の混合ガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)により、圧力4PaでTi層33とAl層32を一括でエッチングした。このとき、Al層32をサイドエッチングさせるため、20秒のオーバエッチングを行い、これにより約0.3μmのサイドエッチングをAl層32に対して施した。その後レジストを剥離すると、Ti層33のうちのAl層32の側壁から横方向に突き出した部分は自重で下方に湾曲して、図5(b)に示したようにAl層32の露出した側壁を完全に隠蔽した。図5(b)において、34は形成したゲート電極を示し、35は一緒に形成したゲート電極端子を示しており、ゲート電極34とゲート電極端子35はこれらと一緒に形成しやはりこれらと同様の断面形状を持つゲート配線(図示せず)によりつながれている。
【0035】次に,ゲート電極34とゲート電極端子35上に、化学気相成長(CVD)法を用いて、図5(c)に示したようにゲート絶縁膜のシリコン窒化膜36(400nm)、動作層の非晶質シリコン(a−Si)層37(30nm)、チャネル保護膜のシリコン窒化膜38(120nm)を連続的に成膜した。その後、レジストマスク(図示せず)を用いてシリコン窒化膜38をエッチングして、図5(d)に示したようにチャネル保護膜39を形成した。
【0036】続いて、図6(a)に示したように、CVD法でn+型非晶質シリコン層40(30nm)を成膜し、更にスパッタ法でTi層41(20nm)、Al層42(100nm)、Ti層43(20nm)を連続的に成膜した。次に、ソース・ドレイン電極のレジストパターン(図示せず)を形成した。このレジストパターンをマスクにして、Cl2 とBCl3 の混合ガスを用いたリアクティブイオンエッチング(RIE)により、圧力4PaでTi層43、Al層42、Ti層41、n+型a−Si層40、a−Si層37を一括でエッチングした。この時にオーバエッチングを20秒かけることによってAl層42にサイドエッチングを約0.3μm入れた。その後レジストを剥離すると、図6(b)に示したように、Ti層43は自重で下方に湾曲してAlを覆うような断面形状となり、こうしてTi層41、Al層42、Ti層43からなるソース電極44とドレイン電極45を形成した。図示してはいないが、ソース電極44及びドレイン電極45の形成と同時に、同様にTi層43が下方に湾曲した断面形状の、それぞれの電極のための配線も形成した。
【0037】次に、画素電極用のITO層(70nm)をスパッタ法を用いて成膜し、パターニングして、図6(c)に示したように画素電極46を形成した。このときドレイン電極45は端部がTi層43によってなだらかに覆われているため、ITOの画素電極の断切れやAlとの電池効果による腐食などは生じない。
【0038】最後に、ゲート電極の端子部の開口のためのパターニングを行って図7に示したように、透明基材上にゲート電極34が形成され、その上方にソース電極44とドレイン電極45が形成されていて、ソース電極44に画素電極46が接続されているTFT基板50を得た。
【0039】この例で作成したTFT基板50においては、ソース電極44とドレイン電極45が最上層のTi層43が下方に湾曲して下層のAl層42の側壁を覆う形で形成されており、画素電極46はAl層42に接触することなくソース電極44に接続できることから、コンタクト不良や画素電極のITOの腐食の問題を回避することができる。また、ゲート電極34用の配線も上層のTi層が下層のAl層の露出した側壁をなだらかに覆う形で形成されているため、それらの配線の上に形成される絶縁膜の絶縁耐圧の低下や上層の電極・配線の段切れの問題も回避される。
【0040】また、このTFT基板50においては、画素電極46はソース電極44に接続されているが、上述のようにTFT基板の構成によって画素電極はドレイン電極45に接続することも可能である。
【0041】図8は、この例で作製したTFT基板50を模式的に示す斜視図であり、この基板50は、表示部(TFTが作製されている領域)51と、表示部51の周辺に複数の端子(図示せず)が位置する端子部52について一括して形成された開口53を備えている。
【0042】このように、ゲート電極の端子部の開口は、TFT基板のうちの表示部の周辺にまとまって位置している端子について、単一の開口内に複数の端子が含まれるようにすることが可能であり、それに応じて比較的大きな開口パターンのマスクを使って行うことができる。そのように比較的大きな開口パターンのマスクは、単にレジスト材料をロール塗布等の方法により所定パターンで印刷することで容易に形成可能である。
【0043】場合によっては、大きなパターン形成に有効な簡単なマスクを利用できる大型マスク露光、スリット露光等で形成したレジストパターンを用いて、ゲート電極端子部の開口を行うこともできる。また、ネガ型レジストを用いた背面露光でゲート電極端子部用の大きな開口のレジストパターンを形成することもできる。この背面露光の場合には、基板の表面(TFTを作成した側)にネガ型レジスト層を成膜し、基板の背面から露光後、マスク又は遮光板を利用して表面側の表示部の露光を行い、次いで現像して、ゲート電極端子部用の大きな開口のレジストパターンを形成する。
【0044】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、Alを含む金属を用いた積層配線や電極を信頼性よく、また絶縁膜の絶縁耐圧を損なうことなく形成でき、製品の信頼性向上に寄与するところが大きい。さらにこの方法を使うことによりTFT基板の生産性の向上に寄与するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の積層構造の配線の形成を説明する図である。
【図2】本発明の積層配線を説明する図である。
【図3】本発明の積層配線のサイドエッチ量を説明する図である。
【図4】本発明の積層構造の電極を例示する図である。
【図5】実施例のTFT基板製造工程の前半を説明する図である。
【図6】実施例のTFT基板製造工程の後半を説明する図である。
【図7】実施例のTFT基板を示す図である。
【図8】実施例のTFT基板の斜視図である。
【符号の説明】
10…基材
21、23、26…バリヤメタル層
22、25…Al系材料層
31…ガラス基材
34…ゲート電極
35…ゲート端子
39…チャネル保護膜
44…ソース電極
45…ドレイン電極
46…画素電極
50…TFT基板
51…表示部
52…端子部
53…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材上に形成した積層構造の金属配線であり、当該積層構造がアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層と、バリヤメタルの配線層とを含み、最上層にバリヤメタルの配線層が配置されている積層金属配線であって、最上層のバリヤメタル配線層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とする積層金属配線。
【請求項2】 前記基材と前記アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層との間に更にバリヤメタルの配線層を含む、請求項1記載の積層金属配線。
【請求項3】 基材上にアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線材料層とバリヤメタル配線材料層とを含み最上層にバリヤメタル配線材料層を配置した積層配線材料層を成膜し、エッチングによりこれらの配線材料層をパターニングすることにより積層金属配線を形成する方法であって、最上層のバリヤメタル配線材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲させることを特徴とする積層金属配線の形成方法。
【請求項4】 前記サイドエッチングの量d(μm)が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線材料層のサイドエッチングを多くするためのオーバーエッチング時間をt(秒)として、d=αtの関係式で表され、αが0.005以上0.04未満となるようなエッチング条件で、前記エッチングを行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタルの層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であり、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板。
【請求項6】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ゲート電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタルの層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であり、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲していることを特徴とする薄膜トランジスタ基板。
【請求項7】 前記アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の下に更にバリヤメタルの層を含む、請求項5又は6記載の薄膜トランジスタ基板。
【請求項8】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む基板であり、ソース電極及びドレイン電極がアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であって、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものである薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層とバリヤメタル材料層とを含み最上層にバリヤメタル材料層を配置した積層材料層を成膜し、この積層材料層をエッチングによりパターニングし、最上層のバリヤメタル材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下方に湾曲させることでソース電極及びドレイン電極を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む基板であり、ゲート電極がアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリヤメタル層とを含み、最上層にバリヤメタル層が配置されている積層構造の電極であって、最上層のバリヤメタル層が下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層の露出した側壁を少なくとも部分的に隠蔽するよう下方に湾曲しているものである薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層とバリヤメタル材料層とを含み最上層にバリヤメタル材料層を配置した積層材料層を成膜し、この積層材料層をエッチングによりパターニングし、最上層のバリヤメタル材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、形成した最上層のバリヤメタル配線層を下方に湾曲させることでゲート電極を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】 前記サイドエッチングの量d(μm)が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の配線材料層のサイドエッチングを多くするためのオーバーエッチング時間をt(秒)として、d=αtの関係式で表され、αが0.005以上0.04未満となるようなエッチング条件で、前記エッチングを行う、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリアメタルの層とを含み、最上層にバリアメタル層が配置されている積層構造の電極であり、ソース電極及びドレイン電極の上方に絶縁膜を被着することなく画素電極を形成した構造の薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、ソース電極及びドレイン電極の積層材料層をエッチングによりパターンニングし、最上層のバリアメタル材料層のエッチング速度よりも下層のアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層の方のエッチング速度を大きくしてアルミニウム又はアルミニウムを含む合金の材料層のサイドエッチングを多くし、画素電極材料を被着した場合において画素電極材料が回り込んでアルミニウム又はアルミニウムを含む合金材料に接触しないようにエッチングすることを特徴とする薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項12】 透明基材と、その上に直接又は他の層を介して形成したゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、ソース電極及びドレイン電極の一方に接続する画素電極と、そしてこれらの各電極に接続する配線及びそれらの配線を外部に接続するための端子を含む薄膜トランジスタ基板であって、ソース電極及びドレイン電極が、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金の層とバリアメタルの層とを含み、最上層にバリアメタル層が配置されている積層構造の電極である薄膜トランジスタ基板の製造方法であって、ゲート絶縁膜の開口は端子部のみ行うことを特徴とする薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項13】 前記ゲート電極の端子部の開口を、レジスト材料を所定パターンで印刷して形成したマスクを使って行う、請求項8から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】 前記ゲート電極の端子部の開口を、大型マスク露光又はスリット露光で形成したレジストパターンを使って行う、請求項8から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】 前記ゲート電極の端子部の開口を、ネガ型レジストを用いた背面露光で形成したレジストパターンを使って行う、請求項8から12までのいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−196092(P2000−196092A)
【公開日】平成12年7月14日(2000.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−369792
【出願日】平成10年12月25日(1998.12.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】