説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】軽量かつ優れた空気透過防止性能を有するインナー層を有し、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤを効率よく製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム22の外周側にカーカス材24を配置した円筒状体の幅方向両端部にビードリング25を外嵌した1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持し、剛性内型11を内挿した後、吸引を停止して剛性内型11の外周面に移載し、剛性内型11上でカーカス材24の幅方向両端部をターンナップし、1次成形体の外周面に他のタイヤ構成部材を積層して成形したグリーンタイヤGを剛性内型11とともに加硫金型の内部に配置後、加硫金型を所定温度に加熱し、フィルム22を内周側からインフレートさせてグリーンタイヤGを加硫するとともに、フィルム22をタイヤ内周面に密着接合させてインナー層にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関し、さらに詳しくは、軽量かつ優れた空気透過防止性能を有するインナー層を有し、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤを効率よく製造することができる空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の剛性内型の外周面にグリーンタイヤを成形し、成形したグリーンタイヤを剛性内型とともに、加硫金型の内部に配置して加硫を行なう空気入りタイヤの製造方法が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このような剛性内型を用いる製造方法によれば、従来使用していたゴム製のブラダーが不要になり、成形したグリーンタイヤを成形ドラムから取り外す等の工程を省略することができる。また、ブラダーを用いて製造した場合に比べて、加硫したタイヤ内周面を、精度よく所定形状に形成することが可能になるという利点がある。
【0003】
しかしながら、加硫中にグリーンタイヤは加硫金型によって外側から押圧されるだけとなるため、グリーンタイヤの内周面に作用する押圧力は小さくなる。そのため、例えば、タイヤ内周面にタイヤ構成部材のボリュームに偏りがあっても、この偏りを十分に是正することが難しく、加硫したタイヤのユニフォミティを向上させるには限界があった。
【0004】
また、グリーンタイヤの内周面が剛性内型の外周面に押圧されると、加硫したタイヤの内周面に、剛性内型を構成する分割体と分割体とのすき間が跡になって残るため、外観品質を低下させるという問題があった。
【0005】
また、グリーンタイヤのインナー層(最内周面)には、主にブチルゴムが用いられているが、このインナー層と剛性内型の外周面とを容易に剥離させるために剥離剤の塗布等の追加作業が必要であった。
【0006】
さらには、ブチルゴムからなるインナー層では、十分な空気透過防止性能を確保するために、ある程度の厚みが必要になるためタイヤを軽量化するには不利であった。そのため、空気透過防止性能に優れるとともに軽量なインナー層が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−88143号公報
【特許文献2】特開2003−340824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、軽量かつ優れた空気透過防止性能を有するインナー層を有し、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤを効率よく製造することができる空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂にエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの外周側に少なくともカーカス材を配置した円筒状体の幅方向両端部にビードリングを外嵌した1次成形体を成形し、この1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持した状態にして、複数の分割体から構成される円筒状の剛性内型を、この1次成形体に内挿した後、移送保持型による吸引を停止して1次成形体を剛性内型の外周面に移載し、次いで、この剛性内型上で前記カーカス材の幅方向両端部をターンナップするとともに、この1次成形体の外周面に他のタイヤ構成部材を積層してグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを剛性内型とともに加硫装置に設置された加硫金型の内部に配置して、前記剛性内型および加硫金型を所定温度に加熱し、前記フィルムを内周側から与圧してインフレートさせてグリーンタイヤを加硫するとともに、このフィルムをタイヤ内周面に密着接合させ、次いで、加硫したタイヤを加硫装置から取り出し、この加硫したタイヤから剛性内型を取り外すことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、前記1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持する際に、1次成形体の外周側に移送保持型を配置し、1次成形体の内周側から与圧しつつ、移送保持型により1次成形体を外周側から吸引することもできる。前記グリーンタイヤを加硫する際に、例えば、前記フィルムを内周側から0.01MPa〜3.0MPaの圧力で与圧してインフレートさせる。また、例えば、前記加硫金型の内部から外部に空気を吸引しつつ、加硫金型の内部に配置したグリーンタイヤを加硫する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの外周側に少なくともカーカス材を配置した円筒状体の幅方向両端部にビードリングを外嵌した1次成形体を成形し、この1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持した状態にして、複数の分割体から構成される円筒状の剛性内型を、この1次成形体に内挿した後、移送保持型による吸引を停止することにより、内周面のフィルムを傷つけることなく1次成形体を円滑に剛性内型の外周面に移載することができる。
【0012】
次いで、この剛性内型上で前記カーカス材の幅方向両端部をターンナップするとともに、1次成形体の外周面に他のタイヤ構成部材を積層してグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを剛性内型とともに加硫装置に設置された加硫金型の内部に配置して、前記剛性内型および加硫金型を所定温度に加熱し、前記フィルムを内周側から与圧してインフレートさせてグリーンタイヤを加硫するので、タイヤ構成部材の未加硫ゴムが加硫金型の内周面に向かって押圧されることにより周方向に流動し、タイヤ構成部材のボリュームに偏りがあってもその偏りが是正される。これにより、製造するタイヤのユニフォミティを向上させることが可能になる。
【0013】
このようにフィルムを従来のブラダーとして機能させるとともに、グリーンタイヤの加硫の際には、フィルムをタイヤ内周面に密着接合させてタイヤのインナー層にする。このフィルムは熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から形成されているので、ブチルゴムからなる従来のインナー層に比して軽量でガスバリア性が良く、製造したタイヤは、軽量でかつ優れた空気透過防止性能を得ることができる。
【0014】
また、成形したグリーンタイヤを剛性内型とともに、加硫金型の内部に設置するので、従来のように、成形ドラムからグリーンタイヤを取り外す作業が不要になり、グリーンタイヤを加硫金型内部の所定の位置に配置することも容易になる。さらには、インナー層となるフィルムは、タイヤ内周面と剛性内型の外周面との剥離材としても機能するので、剥離剤の塗布等の追加作業も不要になる。このように作業工数を削減できるので生産性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】1次成形体を成形する工程を例示する縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のカーカス固定リングに間隔調整板を連結した状態を例示する縦断面図である。
【図4】1次成形体にインフレート金型を内挿する状態を例示する上半分縦断面図である。
【図5】1次成形体を外周側に膨出変形させている状態を例示する上半分縦断面図である。
【図6】図4のインフレート金型の内部構造を例示する縦断面図である。
【図7】1次成形体を移送保持型により吸引保持する工程を例示する上半分縦断面図である。
【図8】1次成形体に剛性内型を内挿する工程を例示する上半分縦断面図である。
【図9】剛性内型の正面図である。
【図10】図9のB−B断面図である。
【図11】1次成形体が移載された剛性内型を例示する上半分縦断面図である。
【図12】剛性内型の外周面にグリーンタイヤを成形した状態を例示する上半分縦断面図である。
【図13】図12のグリーンタイヤを加硫している状態を例示する縦断面図である。
【図14】図13のC−C断面図である。
【図15】図14の一部拡大図である。
【図16】加硫したタイヤから剛性内型を取り外す工程を例示する上半分縦断面図である。
【図17】図16の次の工程を例示する上半分縦断面である。
【図18】本発明により製造された空気入りタイヤを例示する子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の空気入りタイヤの製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。なお、同一部材については、加硫前と加硫後とにおいて同一の符号を用いる。
【0017】
図18に、本発明により製造された空気入りタイヤ21を例示する。この空気入りタイヤ21は、一対のビードリング25の間にカーカス材24が架装され、カーカス材24は、ビードコア25aの周りで内側から外側にビードフィラー25bを挟んで折り返されている。カーカス材24の内周側にはタイゴム23およびフィルム22が積層されている。最内周のフィルム22が空気透過を防止するインナー層になっており、フィルム22とカーカス材24とは、介在するタイゴム23によって良好に接合されている。カーカス材24の外周側にはサイドウォール部26を構成するゴム部材、トレッド部28を構成するゴム部材が設けられている。
【0018】
トレッド部28のカーカス材24の外周側にはベルト層27がタイヤ周方向全周に渡って設けられている。ベルト層27を構成する補強コードはタイヤ周方向に対して傾斜して配置され、かつ積層された上下のベルト層27では、互いの補強コードが交差するように配置されている。本発明により製造される空気入りタイヤ1は、図18の構造に限定されるものではなく、他の構造の空気入りタイヤを製造する際にも適用することができる。
【0019】
この空気入りタイヤ11は、インナー層を従来のブチルゴムからフィルム22に代替している点が構造上の大きな特徴となっている。フィルム22の厚さは例えば、0.005mm〜0.2mmである。
【0020】
本発明で使用されるフィルム22は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されている。
【0021】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
【0022】
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。
【0023】
本発明で使用される熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との重量比は、フィルムの厚さや柔軟性のバランスで適宜決定される。例えば、熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との合計重量に対する熱可塑性樹脂成分(A)の重量割合は、10%〜90%が好ましく、20%〜85%が更に好ましい。
【0024】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物には、上記必須成分(A)及び(B)に加えて第三成分として、相溶化剤などの他のポリマー及び配合剤を混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料のフィルム成形加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等であり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、SBS、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0025】
上記のような熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム22は、高分子鎖の面配向性に優れるため良好なガスバリア性を有している。このように、本発明により製造される空気入りタイヤ21では、ブチルゴムよりもガスバリア性に優れたフィルム22がインナー層になるので、従来の空気入りタイヤに比して優れた空気透過防止性能を得ることができる。
【0026】
しかも、従来のブチルゴムからなるインナー層の厚さは、例えば、0.5mm〜5.0mmであるが、このフィルム22の厚さは0.005mm〜0.2mm程度となる。そのため、インナー層を大幅に軽量化することができ、空気入りタイヤ21の軽量化に大きく寄与する。
【0027】
以下に、この空気入りタイヤ21を製造する手順を説明する。
【0028】
まず、図1、図2に例示する1次成形ドラム1を用いて1次成形体G1を成形する。1次成形ドラム1は、周方向に分割された複数のセグメント1a、1bにより構成され、2種類のそれぞれのセグメント1a、1bは径方向に移動可能になっている。これにより、1次成形ドラム1は拡縮する円筒体になっている。セグメント1a、1bの数はこの実施形態では6個であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
1次成形ドラム1の幅方向両端部には固定リング2を外嵌して、それぞれのセグメント1aを拡径移動させて1次成形ドラム1を円筒状にする。この円筒状にした1次成形ドラム1の外周面にフィルム22、タイゴム23およびカーカス材24を順に積層するように配置して円筒状体を形成する。カーカス材24は、フィルム22およびタイゴム23よりも幅方向両側に突出している。
【0030】
予め筒状に形成されたフィルム22を用いる場合は、その筒状のフィルム22を1次成形ドラム1に外挿して円筒状にする。帯状のフィルム22を用いる場合は、その帯状のフィルム22を1次成形ドラム1の外周面に巻付けて円筒状にする。後者の場合は、帯状のフィルム22とタイゴム23、または、帯状のフィルム22、タイゴム23およびカーカス材24とを予め積層して積層体を形成しておき、この積層体を1次成形ドラム1の外周面に巻付けて円筒状にすることもできる。
【0031】
次いで、カーカス材24の幅方向両端部の外周側にビードリング25を配置した後、カーカス材24の幅方向両端部の外周側にカーカス固定リング3を配置して、カーカス材24の幅方向両端部を固定リング2とカーカス固定リング3とで挟んで固定する。それぞれのビードリング25は、カーカス固定リング3の内側に固定する。このようにして、フィルム22の外周側に少なくともカーカス材24を配置した円筒状体の幅方向両端部にビードリング25を外嵌した1次成形体G1を成形する。
【0032】
次いで、図3に例示するように、それぞれのカーカス固定リング3を間隔調整板4によって連結する。間隔調整板4は、ボルト等の固定部材を用いてカーカス固定リング3に取付ける。
【0033】
次いで、セグメント1a、1bを縮径移動させて、円筒状の1次成形体G1から1次成形ドラム1を抜き取る。これにより、固定リング2、カーカス固定リング3および間隔調整板4によって、1次成形体G1が保持された状態になる。
【0034】
次いで、図4に例示するように、この1次成形体G1に円筒状のインフレート金型5を内挿する。インフレート金型5は、図4、図6に例示するように、コア部5aの幅方向両側に円盤状のサイドプレート6を有するとともに、コア部5aには周方向に分割された複数の押圧プレート8が設けられている。押圧プレート8の数はこの実施形態では5個であるが、これに限定されるものではない。
【0035】
それぞれのサイドプレート6は、コア部5aに設けられたシリンダ6aによって幅方向に移動する。また、サイドプレート6の外周縁部には、膨張収縮するシール部材7が設けられている。
【0036】
それぞれの押圧プレート8は、コア部5aに設けられたシリンダ8aによって径方向に移動するように構成されている。押圧プレート8の外周面は、製造するタイヤの内周面のプロファイルとほぼ同じ形状になっている。
【0037】
1次成形体G1にインフレート金型5を内挿した後は、シール部材7を膨張させて、サイドプレート6によってビードリング25の周辺部分(固定リング2およびカーカス固定リング3)をしっかりと固定する。その後、間隔調整板4をカーカス固定リング3から取外す。
【0038】
次いで、図5に例示するように、それぞれのシリンダ6aをフリーにして、それぞれのシリンダ8aのロッドを伸長させて押圧プレート8を1次成形体G1の内周面に押し当てるとともに、内周側からエアaを注入することにより若干与圧して、1次成形体G1を外周側に膨出変形させる。この際に、それぞれのビードリング25(サイドプレート6)は互いに近接するように移動する。
【0039】
次いで、図7に例示するように、1次成形体G1の外周側に移送保持型9を配置する。移送保持型9には真空ポンプ等の吸引手段が着脱可能に接続されている。移送保持型9は、幅方向に2分割された分割型9aにより構成されている。移送保持型9の内周面は環状に形成されており、吸引手段に連通する多数の吸引孔10が形成されている。
【0040】
次いで、1次成形体G1の内周側からさらにエアaを注入して与圧しつつ、それぞれの分割型9aを組み付けた移送保持型9の吸引孔10を通じて、空気Aを吸込むことにより1次成形体G1を外周側から吸引する。これにより、1次成形体G1を移送保持型9の内周面に吸引保持した状態にする。その後、シリンダ8aのロッドを収縮させて押圧プレート8を後退させ、シール部材7を収縮させて、インフレート金型5を1次成形体G1から抜き取る。移送保持型9による1次成形体G1の吸引は、1次成形体G1を剛性内型11に移載するまで継続する。
【0041】
次いで、図8に例示するように、円筒状の剛性内型11を、この1次成形体に内挿する。剛性内型11の詳細構造については後述するが、周方向に分割された複数の分割体12のうち、幅方向に分割された一方側の分割体12を最初に、回転機構13を回動中心にして拡径するように移動させ、次に他方側の分割体12を同様に移動させて環状に組み付ける。このような組み付け動作によって、剛性内型11を1次成形体G1に内挿する。
【0042】
その後、移送保持型9による吸引を停止して1次成形体G1を剛性内型11の外周面に移載する。1次成形体G1を移載した後、移送保持型9は、それぞれの分割型9aに分離させて1次成形体G1から取外す。
【0043】
このように本発明によれば、1次成形体G1を移送保持型9の内周面に吸引保持した状態にして剛性内型11の外周面に移載するので、インナー層として機能するフィルム22を傷つけることなく円滑な移載作業を行なうことができる。
【0044】
剛性内型11は、図9、図10に例示するように円筒状であり、周方向に複数に分割された分割体12から構成されている。分割体12は、更に円筒周面を幅方向に二分割するように構成されている。剛性内型11の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属を例示できる。
【0045】
これら分割体12は、対向する円盤状の支持プレート15a、15bの周縁部に回転機構13を介して固定されて円筒状に形成されている。即ち、円筒周面を幅方向に二分割された一方側の分割体12は、対向する支持プレート15a、15bのうち、一方側の支持プレート15aの周縁部に沿って環状に配置され、円筒周面を幅方向に二分割された他方側の分割体12は、他方の支持プレート15bの周縁部に沿って環状に配置されている。
【0046】
対向する支持プレート15a、15bの円中心位置には中心軸14が貫通するように固定されている。中心軸14と一対の支持プレート15a、15bとは、中心軸14の外周面に固定された支持リブ16を介して固定されている。円筒状に形成されている複数の分割体12からなる剛性内型11は、後述するように、それぞれの分割体12が回転機構13を回動中心として、拡径および縮径するように移動する。
【0047】
次いで、図11に例示するように1次成形体G1が移載された円筒状の剛性内型11は、グリーンタイヤGを成形するために、中心軸14を軸支されて成形装置等に取付けられる。
【0048】
この剛性内型11上でカーカス材24の幅方向両端部をターンナップするとともに、この1次成形体G1の外周面に、サイドウォール部26のゴム部材、ベルト層27、トレッド部28のゴム部材等、他のタイヤ構成部材を積層して図12に例示するようにグリーンタイヤGを成形する。このグリーンタイヤGは、トレッドパターンは形成されていないが、製造する空気入りタイヤ21とほぼ同じ大きさで同形状に成形されている。
【0049】
次いで、図13に例示するように、成形したグリーンタイヤGを剛性内型11とともに加硫装置17に設置された加硫金型の内部の所定位置に配置する。この加硫金型は、タイヤ周方向に分割された複数のセクター18aと、上下の環状のサイドプレート18b、18bとで構成されている。
【0050】
各セクター18aを載置する下部ハウジング17bには、下側のサイドプレート18bが固定されており、セクター18aの背面には、傾斜面を有するバックセグメント19が取付けられている。上部ハウジング17aには、傾斜面を有するガイド部材20と上側のサイドプレート18bが固定されている。
【0051】
グリーンタイヤGを保持した剛性内型11の中心軸14の下端部を、下部ハウジング17bの中心穴に挿入した後は、上部ハウジング17aを下方移動させる。この下方移動とともに下方移動するガイド部材20の傾斜面がバックセグメント19の傾斜面に当接し、ガイド部材20の下方移動に連れて、徐々にバックセグメント19とともにセクター18aが中心軸14に向かって移動する。即ち、拡径した状態にあった各セクター18aが縮径するように移動して環状に組み付けられる。そして、環状に組み付けられたセクター18aの上側の内周縁部には、下方移動してきた上側のサイドプレート18bが配置される。中心軸14の上端部は、上部ハウジング17aの中心穴に挿入された状態になる。
【0052】
このように、成形したグリーンタイヤGを剛性内型11とともに、加硫金型の内部に設置するので、従来のように、成形ドラムからグリーンタイヤGを取り外す作業が不要になり、工程を省略することができる。また、上部ハウジング17a、下部ハウジング17bの中心穴は所定の精度で形成されているので、剛性内型11の中心軸14を挿入するだけで位置決めができ、グリーンタイヤGを成形金型内部の所定の位置に容易に精度よく配置することができる。これにより、生産性が向上し、効率よく空気入りタイヤ21を製造することができる。
【0053】
次いで、図14に例示するように、剛性内型11および加硫金型を所定温度に加熱し、フィルム22の内周側からエアaを供給することにより与圧して、フィルム22をインフレートさせた状態にしてグリーンタイヤGを加硫する。供給するエアaとしては、一般の空気または窒素ガス等を例示することができる。また、フィルム22をインフレートさせる圧力は、例えば、0.01MPa〜3.0MPa程度である。
【0054】
図15に例示するように、隣接する分割体12と分割体12との隙間から噴出するエアaが、分割体12の外周面とフィルム22の内周面との間に入り込む。これにより、タイヤ構成部材の中の未加硫ゴムが、セクター(加硫金型)18aの内周面に向かって押圧され、これに伴ってセクター18aの周方向に流動する。したがって、グリーンタイヤGのタイヤ構成部材のボリュームに偏りがあってもその偏りが是正され、製造する空気入りタイヤ21のユニフォミティを向上させることが可能になる。
【0055】
尚、フィルム22の内周側からエアaを供給することによる与圧は、各セクター18aおよび上下のサイドプレート18b、18bを組み付けた後にしてもよく、組み付ける前にある程度与圧してもよく、組み付けつつ与圧することもできる。
【0056】
このように従来のブラダーとして機能するフィルム22は、グリーンタイヤGの加硫とともに、タイヤ内周面(フィルム22の外周側に配置されたゴム部材)に密着接合して、フィルム22をインナー層にした空気入りタイヤ21が製造される。
【0057】
フィルム22とタイヤ内周面との接合力をより強固にするために、フィムル22の外周面に予め接着層を設けておくこともできる。タイゴム23は、フィルム22の外周全面を覆うように配置するだけでなく、フィルム22の外周面の一部を覆うように配置することもできる。フィルム22とフィルム22の外周側の部材との一定の接合強度を確保できれば、タイゴム23を省略することもできる。
【0058】
本発明では、従来のブラダーを用いることがなく、ブラダーのメンテナンスが不要になるので、生産性を向上させるには有利になっている。
【0059】
剛性内型11および加硫金型は、種々の熱源によって加熱することができるが、例えば、剛性内型11および加硫金型に埋設した電熱体を用いることができる。電熱体による加熱では、精密な温度コントロールを行なうことができる。また、剛性内型11には冷却装置を設けることもできる。
【0060】
この加硫工程では、グリーンタイヤGの外周面はセクター18aによって所定形状に成形され、内周面はインフレートされたフィルム22によってフィルム22が密着して成形される。そのため、従来のゴム製のブラダーを使用した製造方法や、剛性内型の外周面にグリーンタイヤを押し付ける製造方法のように、加硫した空気入りタイヤの内周面に不要な跡が残ることが無く、滑らかな表面になるので外観品質も向上する。
【0061】
また、加硫金型の内部から外部に強制的に空気Aを吸引しつつ、例えば、真空ポンプにより、加硫金型の外周面に設けた連通孔を通じて真空引きして、負圧状態でグリーンタイヤGを加硫することもできる。これによれば、積層したタイヤ構成部材間の空気やタイヤ構成部材(ゴム部材)中の空気を除去することができるので、製造した空気入りタイヤ21のエア入りに起因する不具合を防止でき、品質を向上させることができる。
【0062】
次いで、加硫した空気入りタイヤ21を、剛性内型11とともに加硫装置17から取り出し、続いて、この加硫した空気入りタイヤ21から剛性内型11を取り外す。剛性内型11の取り外しは、まず、図16に例示するように、剛性内型11の幅方向両側からそれぞれの分割体12の回転機構13を保持して、それぞれの回転機構13と支持プレート15a、15bとの係合を解除する。この状態で、一方の支持プレート15aを中心軸14から取り外し、この一方の支持プレート15aと、回転軸14を固定した他方の支持プレート15bとを、加硫した空気入りタイヤ21の外側に移動させる。
【0063】
次いで、図17に例示するように、幅方向一方側(図17では右側)の分割体12を、回転機構13を中心にして円筒状の剛性内型11を縮径するようにタイヤ内側に回動させる。その後、幅方向他方側(図17では左側)の分割体12を、回転機構13を中心にして円筒状の剛性内型11を縮径するようにタイヤ内側に回動させる。このように分割体12をタイヤ内側に回動させてから空気入りタイヤ21の外側に移動させて取り外す。
【0064】
フィルム22は、分割体12から剥離し易いので、ブチルゴムをインナー層にした空気入りタイヤに比べて剛性内型11を円滑に取り外すことができる。このフィルム22の優れた剥離性によって、タイヤ内周面と剛性内型11(分割体12)との間に剥離剤を塗布する等の追加作業が不要になるので、生産性を向上させるには益々有利になっている。
【0065】
尚、剛性内型1を円筒状に組み付けるには、図16、図17で例示した剛性内型11を分割する手順と逆の手順を行なえばよい。
【0066】
上記説明したように、本発明では、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム22を巧みに利用して、ブラダー、タイヤのインナー層、剛性内型11(分割体12)との剥離材、として機能させている。これにより、軽量かつ優れた空気透過防止性能を有するインナー層を有し、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤ21を効率よく製造することが可能になっている。
【0067】
上記実施形態では、ラジアルタイヤを製造する場合を例にしているが、本発明はバイアスタイヤを製造する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 1次成形ドラム
1a、1b セグメント
2 固定リング
3 カーカス固定リング
4 間隔調整板
5 インフレート金型
5a コア部
6 サイドプレート
6a シリンダ
7 シール部材
8 押圧プレート
8a シリンダ
9 移送保持型
9a 分割型
10 吸引孔
11 剛性内型
12 分割体
13 回動機構
14 中心軸
15a、15b 支持プレート
16 支持リブ
17 加硫装置
17a 上部ハウジング
17b 下部ハウジング
18a セクター
18b サイドプレート
19 バックセグメント
20 ガイド部材
21 空気入りタイヤ
22 フィルム
23 タイゴム
24 カーカス材
25 ビードリング
25a ビードコア
25b ビードフィラー
26 サイドウォール部
27 ベルト層
28 トレッド部
G1 1次成形体
G グリーンタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂にエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの外周側に少なくともカーカス材を配置した円筒状体の幅方向両端部にビードリングを外嵌した1次成形体を成形し、この1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持した状態にして、複数の分割体から構成される円筒状の剛性内型を、この1次成形体に内挿した後、移送保持型による吸引を停止して1次成形体を剛性内型の外周面に移載し、次いで、この剛性内型上で前記カーカス材の幅方向両端部をターンナップするとともに、この1次成形体の外周面に他のタイヤ構成部材を積層してグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを剛性内型とともに加硫装置に設置された加硫金型の内部に配置して、前記剛性内型および加硫金型を所定温度に加熱し、前記フィルムを内周側から与圧してインフレートさせてグリーンタイヤを加硫するとともに、このフィルムをタイヤ内周面に密着接合させ、次いで、加硫したタイヤを加硫装置から取り出し、この加硫したタイヤから剛性内型を取り外すことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記1次成形体を移送保持型の内周面に吸引保持する際に、1次成形体の外周側に移送保持型を配置し、1次成形体の内周側から与圧しつつ、移送保持型により1次成形体を外周側から吸引する請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記グリーンタイヤを加硫する際に、前記フィルムを内周側から0.01MPa〜3.0MPaの圧力で与圧してインフレートさせる請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記加硫金型の内部から外部に空気を吸引しつつ、加硫金型の内部に配置したグリーンタイヤを加硫する請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−260267(P2010−260267A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112893(P2009−112893)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【特許番号】特許第4407773号(P4407773)
【特許公報発行日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】