説明

空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法

【課題】空気入りタイヤの転がり抵抗を低減する構造を提供すること。
【解決手段】空気入りタイヤ1は、円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体10と、環状構造体10の外側に、環状構造体10の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層11と、ゴムで被覆された繊維を有し、環状構造体10とトレッドゴム層11とを含む円筒形状の構造体2の中心軸(Y軸)と平行な方向における両側2Sに少なくとも設けられるカーカス部12と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの転がり抵抗を低減することは、自動車の燃費を改善するために有用である。タイヤの転がり抵抗を低減するため、例えばシリカ配合のゴムをトレッドに適用する等の技術がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】土井昭政、「タイヤにおける最近の技術動向」、日本ゴム協会誌、1998年9月 Vol.71、p.588−594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている空気入りタイヤの転がり抵抗を低減する手法は、材料に改良を加えるものであるが、空気入りタイヤの構造を変更することによって転がり抵抗を低減できる可能性もある。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減する構造及び空気入りタイヤの転がり抵抗を低減する構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するための手段は、円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体と、前記環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層と、ゴムで被覆された繊維を有し、前記環状構造体と前記トレッドゴム層とを含む円筒形状の構造体の中心軸と平行な方向における両側に少なくとも設けられるカーカス部と、を含むことを特徴とする空気入りタイヤである。
【0006】
上述した手段において、前記環状構造体は、径方向の内側面が粗面であることが好ましい。
【0007】
また上述した手段において、粗面である前記径方向の外側面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0008】
また上述した手段において、粗面である前記径方向の内側面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0009】
また上述した手段において、前記トレッドゴム層のJIS硬度が46以上88以下であり、前記トレッドゴム層が前記環状構造体と接していることが好ましい。
【0010】
また上述した手段において、JIS硬度が46以上88以下であり、前記トレッドゴム層と前記環状構造体とを接着する接着ゴム層を含むことが好ましい。
【0011】
また上述した手段において、前記環状構造体はステンレス鋼であり、粗面である前記径方向の外側面、又は粗面である径方向の外側面及び粗面である径方向の内側面のうち少なくとも一方の面は、前記ステンレス鋼の不動態皮膜を除去する処理を含む粗面化処理がされていることが好ましい。
【0012】
また上述した手段において、前記環状構造体は、析出硬化系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0013】
また上述した手段において、前記粗面化処理は、酸処理であることが好ましい。
【0014】
また上述した手段において、前記環状構造体は、複数の貫通孔を有することが好ましい。
【0015】
上述した課題を解決するための手段は、円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体と、前記環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層と、ゴムで被覆された繊維を有し、前記環状構造体と前記トレッドゴム層とを含む円筒形状の構造体の中心軸と平行な方向における両側に少なくとも設けられるカーカス部と、を含む空気入りタイヤの製造方法であって、少なくとも径方向の外側面が粗面化された環状構造体を得る手順と、前記環状構造体の外側に未加硫のトレッドゴム層を配置する手順と、前記未加硫のトレッドゴム層を加硫して前記トレッドゴム層と前記環状構造体とを結合させる手順と、を含む空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減する構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施形態に係るタイヤの子午断面図である。
【図2−1】図2−1は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の斜視図である。
【図2−2】図2−2は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の第1変形例を示す斜視図である。
【図2−3】図2−3は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の第2変形例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るタイヤが有するカーカス部の拡大図である。
【図4】図4は、環状構造体とゴム層との子午断面図である。
【図5】図5は、本実施形態に係るタイヤの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図6−1】図6−1は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の製造方法の手順を示す説明図である。
【図6−2】図6−2は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の製造方法の手順を示す説明図である。
【図6−3】図6−3は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の製造方法の手順を示す説明図である。
【図6−4】図6−4は、溶接部の厚みを示す断面図である。
【図7】図7は、従来の加硫金型を用いて本実施形態に係るタイヤを製造する例を示す図である。
【図8】図8は、本実施形態に係る加硫金型を用いて本実施形態に係るタイヤを製造する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
空気入りタイヤ(以下、必要に応じてタイヤという)の転がり抵抗を低減するため、タイヤの偏心変形を極限まで高めると、タイヤと路面との接地面積が小さくなり接地圧が増加する。その結果、トレッド部の変形による粘弾性エネルギ損失が大きくなり、転がり抵抗が増加する。本発明者らは、この点に注目し、タイヤと路面との接地面積を確保し、かつ偏心変形を維持することによって、転がり抵抗を低減し、かつ操安性を向上させることを試みた。偏心変形とは、タイヤのトレッドリング(クラウン領域のこと)が円形を保ったまま垂直に変位する一次モードの変形である。タイヤと路面との接地面積を確保し、かつ偏心変形を維持するため、本実施形態に係るタイヤは、例えば、金属の薄板で製造される円筒形状の環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かってゴム層を設け、このゴム層をトレッド部とする構造を採用する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るタイヤの子午断面図である。図2−1は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の斜視図である。図2−2は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の第1変形例を示す斜視図である。図2−3は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の第2変形例を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係るタイヤが有するカーカス部の拡大図である。タイヤ1は、環状の構造体である。前記環状の構造体の中心を通る軸がタイヤ1の中心軸(Y軸)となる。タイヤ1は、使用時において、内部に空気が充填される。
【0021】
タイヤ1は、中心軸(Y軸)を回転軸として回転する。Y軸は、タイヤ1の中心軸かつ回転軸である。タイヤ1の中心軸(回転軸)であるY軸に直交し、かつタイヤ1が接地する路面と平行な軸をX軸、Y軸とX軸とに直交する軸をZ軸とする。Y軸と平行な方向がタイヤ1の幅方向である。Y軸を通り、かつY軸に直交する方向がタイヤ1の径方向である。また、Y軸を中心とする周方向が空気入りタイヤ1の周方向である。
【0022】
図1に示すように、タイヤ1は、円筒形状の環状構造体10と、トレッドゴム層11と、接着ゴム層200と、カーカス部12と、を含む。環状構造体10は、円筒形状の部材である。トレッドゴム層11は、環状構造体10の外側10soに、環状構造体10の周方向に向かって設けられることで、タイヤ1のトレッド部となる。本実施形態では、接着ゴム層200が、トレッドゴム層11と環状構造体10との間に設けられて、トレッドゴム層11と環状構造体10とを接着し、結合させている。接着ゴム層200が存在しない場合には、トレッドゴム層11と環状構造体10とが直に接して互いに結合している。カーカス部12は、図3に示すように、ゴム12Rで被覆された繊維12Fを有する。本実施形態において、図1に示すように、カーカス12は、環状構造体10の径方向内側を通って、両方のビード部13間を連結している。すなわち、カーカス部12は、両方のビード部13、13間で連続している。なお、カーカス部12は、環状構造体10の幅方向における両側に設けられて、両方のビード部13、13間で連続していなくてもよい。このように、カーカス部12は、図1に示すように、少なくとも環状構造体10とトレッドゴム層11とを含む円筒形状の構造体2の中心軸(Y軸)と平行な方向(すなわち幅方向)における両側に設けられていればよい。
【0023】
タイヤ1は、構造体2の子午断面において、トレッドゴム層11の外側11so(タイヤ1のトレッド面)と、環状構造体10の外側10soとが、トレッド面に形成された溝Sの部分を除いて同様の形状であり、平行(公差、誤差を含む)であることがより好ましい。
【0024】
図2−1に示す環状構造体10は、金属の構造体である。すなわち、環状構造体10は、金属材料で造られている。環状構造体10に用いる金属材料は、引張強度が450N/m以上2500N/m以下であることが好ましく、600N/m以上2400N/m以下であることがより好ましく、さらには、800N/m以上2300N/m以下が好ましい。引っ張り強度がこのような範囲であれば、環状構造体10は、充分な強度及び剛性を確保できるとともに、必要な靱性を確保できる。その結果、環状構造体10は、十分な耐圧性能を確保できる。
【0025】
環状構造体10の引っ張り強度(MPa)と厚み(mm)との積を耐圧パラメータとする。耐圧パラメータは、タイヤ1に充填される気体の内圧に対する耐性の尺度となるパラメータである。耐圧パラメータは、200以上1700以下、250以上1600以下とすることが好ましい。この範囲であれば、タイヤ1の使用圧力の上限を確保し、安全性を十分に確保することができる。また、前記範囲であれば、環状構造体10の厚みを増加させず、また、破断強度の高い材料を用いる必要がないので、量産に好適である。環状構造体10の厚みを増加させる必要がないため、環状構造体10は繰り返し曲げの耐久性を確保できる。また、破断強度の高い材料を用いる必要がないことから、低コストで環状構造体10及びタイヤ1を製造できる。乗用車用として、耐圧パラメータは、200以上1000以下が好ましく、250以上950以下がより好ましい。また、トラック/バス用タイヤ(TBタイヤ)として、耐圧パラメータは、500以上1700以下が好ましく、600以上1600以下がより好ましい。
【0026】
環状構造体10に用いることができる金属材料は、引っ張り強度が前述した範囲であれば好ましいが、ばね鋼、高張力鋼、ステンレス鋼又はチタン(チタン合金を含む)を用いることが好ましい。これらのうち、ステンレス鋼は耐食性が高く酸化劣化しにくい。また、ステンレス鋼は、前述した引っ張り強度の範囲のものを得やすいので好ましい。ステンレス鋼を用いることにより、耐圧強度と繰り返し曲げの耐久性の両立が可能になる。
【0027】
環状構造体10をステンレス鋼で製造する場合、JIS G4303の分類における、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼を用いることが好ましい。これらのステンレス鋼を用いることにより、引っ張り強度及び靱性が優れた環状構造体10とすることができる。また、前述したステンレス鋼のうち、特に、析出硬化系ステンレス鋼(SUS630、SUS631、SUS632J1)を用いるとより好ましい。
【0028】
環状構造体10の径方向における外側面10soは、粗面である。好ましくは径方向における外側面10soは、算術平均粗さRaが、0.5μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上40μm以下であり、最も好ましくは2μm以上35μm以下である。ここで、算術平均粗さRaは、JISB0601(1994)に従って定義され、基準長さlにおけるZ(x)の絶対値の平均である。ここで、Z(x)は任意の位置xにおける粗さ曲線の高さを表す。環状構造体10の径方向における外側面10soが粗面であることで、粗面の凹部に環状構造体10に直に接する接着ゴム層200が食い込み、粗面の凹部に対し食い込んだ接着ゴム層200がアンカーとなって、環状構造体10とトレッドゴム層11とを強固に結合させる。よって、タイヤ1の耐久性が向上する。環状構造体10の径方向における外側面10soの算術平均粗さRaが、0.5μm以上であると、接着ゴム層200がアンカーとして働く効果がより大きく、より強固に環状構造体10とトレッドゴム層11とが結合される。環状構造体10の径方向における外側面10soが、50μm以下であると、環状構造体10の径方向における外側面10soを粗面とする処理に手間を要さずより簡便である。なお、環状構造体10に直にトレッドゴム層11が接していてもよいが、この場合は、トレッドゴム層11が直接粗面の凹部に食い込んで、環状構造体10とトレッドゴム層11とが強固に結合する。環状構造体10とトレッドゴム層11とを結合させるために、接着剤を併用してもよい。
【0029】
粗面は、環状構造体10の外側面10soを粗面化処理することにより形成できる。粗面化処理として、サンドブラスト処理等の機械的処理、酸処理等の化学的処理が挙げられる。粗面化が達成されれば処理の種類に限定はなく、異なる処理を併用してもよい。処理後に砂などのブラストメディアを除去する必要がないという点で、酸処理等の化学的処理が好ましい。特に、環状構造体10がステンレス鋼で製造されている場合、ステンレス鋼の表面に存在する不動態皮膜を除去する化学的処理が好ましい。ステンレス鋼の表面に存在する不動態皮膜を除去する処理により、ステンレス鋼の表面が活性化され、環状構造体10と接着ゴム層200とが化学的に相互作用して、より強固に結合する。化学的処理として、例えば、硫酸と蓚酸との混合液による処理、リン酸とエチルアルコールとを含有する溶液による処理等が挙げられる。粗面化処理に加えて、環状構造体10の表面と接着ゴム層200との結合を促進させる他の処理を行ってもよい。例えば、環状構造体10がステンレス鋼で製造されている場合、環状構造体10の外側面10soに存在する不動態皮膜を硫酸と蓚酸との混合液により除去したあと、酢酸等の酸を含む、シランカップリング剤の処理液を付着させる処理を行ってもよい。シランカップリング剤として、例えばビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが挙げられる。シランカップリング剤の処理液を環状構造体10の表面に付着させる処理を行う場合、環状構造体10に直に接するゴムの層(本実施形態では接着ゴム層200)には、フェノール樹脂又はレゾルシン樹脂と、例えばヘキサメトキシメチルメラミン等のメチル基を供与する化合物とが配合されていることが好ましい。これにより、環状構造体10に直に接するゴムと、環状構造体10の外側面10soとが、樹脂を介してより強固に結合する。
【0030】
粗面化処理は、環状構造体10が円筒形状に形成された後に行ってもよいし、環状構造体10が円筒形状に形成される前に行ってもよい。例えば、環状構造体10を、後で詳しく述べるように板状部材から形成する場合、環状構造体10の外側面10soとなる側の板状部材の板面を粗面化処理してから、円筒形状を形成してもよい。
【0031】
環状構造体10とトレッドゴム層11とを、接着ゴム層200が強固に結合させることで、環状構造体10とトレッドゴム層11との間で相互に力を伝達できる。接着ゴム層200は、JIS硬度が46以上88以下であることが好ましく、48以上80以下であることがさらに好ましく、50以上72以下であることが最も好ましい。ここで、JIS硬度とは、JIS K6253に準拠して、温度20℃において測定されたタイプAデュロメーター硬さをいう。接着ゴム層200のJIS硬度が46以上88以下であることで、粗面の凹部に対し食い込んだ接着ゴム層200がより効果的にアンカーとなり、環状構造体10とトレッドゴム層11とをより強固に結合させる。接着ゴム層200は、100%伸長時のモジユラスが、1.8MPa以上12MPa以下であることが好ましく、2MPa以上9MPa以下であることがさらに好ましく、2.2MPa以上7MPa以下であることが最も好ましい。環状構造体10とトレッドゴム層11との間に、接着ゴム層200を設けているため、接着ゴム層200の物性を、接着ゴム層200と環状構造体10との接着性を考慮して最適化することができると共に、トレッドゴム層11の物性を、トレッドゴム層11と環状構造体10との接着性を考慮することなく、耐久性や走行性等を考慮して最適化することができる。
【0032】
接着ゴム層200は、厚さが0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。トレッドゴム層11は、厚さが5mm以上15mm以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態においては、トレッドゴム層11と環状構造体10との間には、接着ゴム層200が介在しているが、トレッドゴム層11が環状構造体10と直に接し、トレッドゴム層11と環状構造体10とが結合していてもよい。この場合、環状構造体10の径方向における外側面10soの粗面の凹部にはトレッドゴム層11が食い込み、粗面の凹部に食い込んだトレッドゴム層11がアンカーとなって、環状構造体10とトレッドゴム層11とは強固に結合する。トレッドゴム層11は、環状構造体10と直に接して結合する場合には、JIS硬度が46以上88以下であることが好ましく、JIS硬度が48以上80以下であることがさらに好ましく、JIS硬度が50以上72以下であることが最も好ましい。トレッドゴム層11のJIS硬度が46以上88以下の範囲にあることで、粗面の凹部に対し食い込んだトレッドゴム層11がより効果的にアンカーとなり、環状構造体10とトレッドゴム層11とがより強固に接着する。トレッドゴム層11が環状構造体10と直に接する場合、トレッドゴム層11は、100%伸長時のモジュラスが、1.8MPa以上12MPa以下であることが好ましく、2MPa以上9MPa以下であることがさらに好ましく、2.2MPa以上7MPa以下であることが最も好ましい。
【0034】
図2−2に示す環状構造体10aのように、環状構造体10aの幅方向両側に、鋸の刃形状の凹凸部10Tを設けてもよい。環状構造体10aの径方向外側には、図1に示すトレッドゴム層11が取り付けられるが、凹凸部10Tは、環状構造体10aとトレッドゴム層11との結合を強化する作用がある。このため、凹凸部10Tを有する環状構造体10aは、環状構造体10aとトレッドゴム層11とがより確実に固定され、耐久性が向上するため好ましい。
【0035】
また、環状構造体10は、トレッドゴム層11の径方向外側には露出しないことが好ましい。このようにすれば、環状構造体10とトレッドゴム層11とをより確実に固定できる。さらに、環状構造体10は、トレッドゴム層11内に埋設されていてもよい。このようにしても、環状構造体10とトレッドゴム層11とをより確実に固定できる。
【0036】
図2−3に示す環状構造体10bのように、環状構造体10bは内周面と外周とを貫通する複数の貫通孔10Hを有していてもよい。環状構造体10bの径方向外側と径方向内側との少なくとも一方には接着ゴム層200を介してトレッドゴム層11が取り付けられる。接着ゴム層200は、環状構造体10bと物理的な結合及び化学的な結合により環状構造体10bに取り付けられる。また接着ゴム層200は、トレッドゴム層11と化学的に結合する。貫通孔10Hは、環状構造体10bと、接着ゴム層200との物理的な結合を強化する作用がある。このため、環状構造体10は、化学的及び物理的な作用(アンカー効果)により結合強度が向上するので、トレッドゴム層11は接着ゴム層200を介して確実に固定される。その結果、タイヤ1の耐久性が向上する。なお、接着ゴム層200を介してではなく、環状構造体10bとトレッドゴム層11とが直に接する場合には、環状構造体10bとトレッドゴム層11とが化学的及び物理的な作用により直接結合する。
【0037】
貫通孔10Hは、1つの断面積が0.1mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.12mm以上80mm以下、さらに好ましくは0.15mm以上70mm以下である。このような範囲であれば、カーカス部12の凹凸を抑制し、かつ、接着による結合、すなわち、化学的な結合も十分に利用することができる。さらに、上述した範囲であれば、上述した物理的作用、すなわち、アンカー効果が最も効果的に発生する。これらの作用により、環状構造体10とトレッドゴム層11との結合を強化することができる。
【0038】
貫通孔10Hの形状は問わないが、円形か楕円形が好ましい(本実施形態では円形)。また、貫通孔10Hは、等価直径4×A/C(Cは貫通孔10Hの周長、Aは貫通孔4Hの開口面積)を0.5mm以上10mm以下とすることが好ましい。貫通孔10Hは、形状が円形かつ直径は1.0mm以上8.0mm以下がより好ましい。このような範囲であれば、物理的及び化学的結合を有効に利用できるので、環状構造体10bとトレッドゴム層11とはより強固に結合される。なお、後述するように、貫通孔10Hの等価直径又は直径は、すべて同一でなくてもよい。
【0039】
貫通孔10Hの面積の総和は、環状構造体10の径方向外側の表面積に対して0.5%以上30%が好ましく、より好ましくは1.0%以上20%以下、さらに好ましくは1.5%以上15%以下である。このような範囲であれば、物理的及び化学的結合を有効に利用しつつ、環状構造体10bの強度も確保できる。その結果、環状構造体10bとトレッドゴム層11とはより強固に結合されるとともに、環状構造体10bに必要な剛性を確保できる。なお、貫通孔10Hの間隔は不等間隔であってもよいし、等間隔であってもよい。このようにすることで、タイヤ1の接地形状の制御することもできる。
【0040】
環状構造体10bは、複数の貫通孔10Hが穿孔された長方形形状の板材の短辺同士を突き合わせて溶接することにより製造することができる。このようにすれば、比較的簡単に環状構造体10bを製造することができる。また、環状構造体10bの製造方法はこれに限定されるものではない。例えば、円柱の外周部に複数の穴を形成した後、円柱の内部を削り出すことにより、環状構造体10bを製造してもよい。
【0041】
トレッドゴム層11は、合成ゴムや天然ゴム又はこれらを混合したゴム材料と、当該ゴム材料に補強材として添加される炭素やSiO等を含む。トレッドゴム層11は、無端のベルト状の構造体である。トレッドゴム層11は、外側11soに複数の溝によって形成されるトレッドパターンを有していてもよい。
【0042】
カーカス部12は、タイヤ1に空気を充填した際に、環状構造体10とともに圧力容器としての役目を果たす強度メンバーである。カーカス部12及び環状構造体10は、内部に充填された空気の内圧によってタイヤ1に作用する荷重を支え、走行中にタイヤ1が受ける動的荷重に耐える。カーカス部12は、環状構造体10の径方向における内側面10siと接し、環状構造体10とカーカス部12とは結合している。本実施形態において、タイヤ1のカーカス部12は、内側にインナーライナー14を有する。インナーライナー14によって、タイヤ1の内部に充填された空気の漏洩を抑制する。両方のカーカス部12は、径方向内側に、それぞれビード部13を有する。ビード部13は、タイヤ1が取り付けられるホイールのリムと嵌合する。
【0043】
本実施形態においては、環状構造体10の径方向における内側面10siも粗面である。好ましくは径方向における内側面10siは、算術平均粗さRaが、0.5μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上40μm以下であり、最も好ましくは2μm以上35μm以下である。環状構造体10の径方向における内側面10siが粗面であることで、粗面の凹部にカーカス部12が食い込み、粗面の凹部に対し食い込んだカーカス部12がアンカーとなって、環状構造体10とカーカス部12とが強固に結合する。よって、環状構造体10の径方向における外側面10soのみが粗面である場合と比較して、よりタイヤ1の耐久性が向上する。環状構造体10の径方向における内側面10siの算術平均粗さRaが、0.5μm以上であると、カーカス部12がアンカーとして働く効果がより大きく、より強固に環状構造体10とカーカス部12とが結合する。環状構造体10の径方向における内側面10siが、50μm以下であると、環状構造体10の径方向における内側面10siを粗面とする処理に手間を要さずより簡便である。
【0044】
環状構造体10の径方向における内側面10siを粗面化する処理として、上述した環状構造体10の径方向における外側面10soを粗面化するための各種処理を適用することができる。粗面化処理は、環状構造体10が円筒形状に形成された後に行ってもよいし、環状構造体10が円筒形状に形成される前に行ってもよい。例えば、環状構造体10を、後で詳しく述べるように板状部材から形成する場合、環状構造体10の内側面10siとなる側の板状部材の板面を粗面化処理してから、円筒形状を形成してもよい。環状構造体10の径方向における外側面10soを粗面化する方法と、環状構造体10の径方向における内側面10siを粗面化する方法とが異なっていてもよい。また、環状構造体10の径方向における内側面10siと環状構造体10の径方向における外側面10soとを同時に粗面化してもよいし、異なるタイミングで粗面化してもよい。
【0045】
図4は、環状構造体とトレッドゴム層との子午断面図である。環状構造体10の弾性率は、70GPa以上250GPa以下が好ましく、80GPa以上230GPa以下とすることがより好ましい。また。環状構造体10の厚みtmは、0.1mm以上0.8mm以下とすることが好ましい。この範囲であれば、耐圧性能を確保しつつ、繰り返し曲げの耐久性を確保できる。環状構造体10の弾性率と厚みtmとの積(剛性パラメータという)は、10以上500以下とすることが好ましく、15以上400以下とすることがより好ましい。
【0046】
剛性パラメータを上記の範囲とすることにより、環状構造体10は、子午断面内の剛性が大きくなる。このため、タイヤ1に空気を充填したとき、及びタイヤ1が路面に接地したときにおいては、環状構造体10によってトレッド部となるトレッドゴム層11の子午断面内における変形が抑制される。その結果、タイヤ1は、前記変形にともなう粘弾性エネルギの損失が抑制される。また、剛性パラメータを上記の範囲とすることにより、環状構造体10は、径方向における剛性は小さくなる。このため、タイヤ1は、従来の空気入りタイヤと同様に、路面との接地部でトレッド部が柔軟に変形する。このような機能により、タイヤ1は、接地部における局所的な歪み及び応力の集中を回避しながら偏心変形するので、接地部における歪みを分散させることができる。その結果、タイヤ1は、接地部におけるトレッドゴム層11の局所的な変形が抑制されるので、接地面積が確保され、転がり抵抗が低減される。
【0047】
さらに、タイヤ1は、環状構造体10の面内剛性が大きいこと及びトレッドゴム層11の接地面積を確保できる結果、周方向における接地長さを確保できることから、舵角が入力されたときに発生する横力が大きくなる。その結果、タイヤ1は、大きなコーナーリングパワーを得ることができる。また、環状構造体10を金属で製造した場合、タイヤ1の内部に充填された空気は環状構造体10をほとんど透過しない。その結果、タイヤ1の空気圧の管理が容易になるという利点もある。このため、長期にわたり、タイヤ1に空気を充填しないような使用態様に対しても、タイヤ1の空気圧低下を抑制できる。
【0048】
環状構造体10の外側10soと、トレッドゴム層11の外側11soとの距離trは、3mm以上20mm以下であることが好ましい。距離trをこのような範囲とすることで、乗り心地を確保しつつ、コーナーリング時におけるトレッドゴム層11の過度な変形を抑制できる。環状構造体10の中心軸(Y軸)と平行な方向、すなわち幅方向における環状構造体10の寸法(環状構造体幅)Wmは、図1に示す中心軸(Y軸)と平行な方向におけるタイヤ1の総幅(JATMA規定リム幅のホイールに組んで300kPaの空気を充填した状態)Wの50%(W×0.5)以上95%(W×0.95)以下とすることが好ましい。WmがW×0.5よりも小さい場合、環状構造体10の子午断面内における剛性が不足する結果、タイヤ幅に対して偏心変形を維持する領域が減少する。その結果、転がり抵抗を低減させる効果及びコーナーリングパワーも減少してしまうおそれがある。また、WmがW×0.95を超えると、接地時においてトレッド部が環状構造体10を中心軸(Y軸)方向に座屈変形させ、環状構造体10の変形を招くおそれがある。W×0.5≦Wm≦W×0.95とすることで、転がり抵抗を低減させつつコーナーリングパワーを維持し、さらに、環状構造体10の変形も抑制できる。
【0049】
タイヤ1は、図1に示す子午断面において、トレッドゴム層11の外側11so、すなわちトレッド面のプロファイルは、溝Sの部分を除き、環状構造体10の外側10soと同様の形状であることが好ましい。このような構造により、タイヤ1の接地時や転動時においては、トレッド部となるトレッドゴム層11と、環状構造体10とは略同様に変形する。その結果、タイヤ1は、トレッドゴム層11の変形が少なくなるので、粘弾性エネルギの損失はより小さくなり、転がり抵抗もより小さくなる。
【0050】
トレッドゴム層11の外側11soと、環状構造体10の外側10soとが、タイヤ1の径方向外側に向かって突出したり、径方向内側に向かって突出したりすると、タイヤ1の接地部における圧力分布が不均一となる。その結果、接地部には局所的な歪み及び応力の集中が発生し、接地部においてトレッドゴム層11が局所的に変形するおそれがある。本実施形態において、タイヤ1は、図1に示すように、トレッドゴム層11の外側11so(タイヤ1のトレッド面)と、環状構造体10の外側10soとは同様の形状(好ましくは平行)であり、さらに、トレッドゴム層11及び環状構造体10(すなわち、構造体2)の中心軸(Y軸)と平行(公差、誤差を含む)であることが好ましい。このような構造により、タイヤ1の接地部を略平坦にすることができる。そして、タイヤ1は、接地部における圧力分布が均一になるので、接地部の局所的な歪み及び応力の集中が抑制され、接地部におけるトレッドゴム層11の局所的な変形が抑制される。その結果、タイヤ1は、粘弾性エネルギの損失は小さくなるので、転がり抵抗も小さくなる。また、タイヤは、接地部におけるトレッドゴム層11の局所的な変形が抑制されるので、接地面積を確保でき、同時に周方向の接地長さを確保できる。このため、タイヤ1は、コーナーリングパワーも確保できる。
【0051】
本実施形態においては、子午断面におけるトレッドゴム層11の形状は、トレッドゴム層11の外側11soと環状構造体10の外側10soとがこれらの中心軸(Y軸)と平行であることが好ましい。例えば、子午断面におけるトレッドゴム層11の形状は、台形や平行四辺形であってもよい。子午断面におけるトレッドゴム層11の形状が台形である場合、台形の上底と下底とのいずれがトレッドゴム層11の外側11soであってもよい。いずれの場合であっても、環状構造体10の部分のみ、タイヤ1のトレッド面のプロファイル(溝の部分を除く)と平行であれば好ましい。次に、環状構造体の製造方法を説明する。
【0052】
図5は、本実施形態に係るタイヤの製造方法の手順を示すフローチャートである。図6−1〜図6−3は、本実施形態に係るタイヤが有する環状構造体の製造方法の手順を示す説明図である。図6−4は、溶接部の厚みを示す断面図である。環状構造体10を製造するにあたり、大きな金属の板状部材の両面に粗面化処理を行う(ステップS101)。粗面化処理として、上述したような各種方法が採用されるが、上述した方法には限定されない。次に、図6−1に示すように、平面視が長方形形状、かつ短手方向(図6−1の矢印Sで示す方向)における両端部21TS、21TSの長手方向(図6−1の矢印Cで示す方向)における両端部21TL、21TL側に、短手方向と平行な方向の外側に突出する凸22部を有する板材20を作成する(ステップS102、図6−1)。板材20は、例えば、大きな金属の板状部材を切断することにより得ることができる。
【0053】
次に、板材20の長手方向における両端部20TL、20TLを突き合わせ、溶接によって接合する(ステップS103、図6−2)。長手方向における両端部20TL、20TLは、板材20の長手方向(図6−2の矢印Cで示す方向)と直交することが好ましい。このようにすれば、環状構造体10が径方向に繰り返し変形することにより溶接部に繰り返し曲げが作用した場合、繰り返し曲げが作用する溶接部の長さを短くすることができるので、環状構造体10の耐久性低下を抑制することができる。その結果、環状構造体10をタイヤ1に用いた場合に、耐久性低下を抑制することができる。
【0054】
溶接は、ガス溶接(酸素アセチレン溶接)、アーク溶接、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接、プラズマ溶接、MIG(Metal Inert Gas)溶接、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接、超音波溶接等を用いることができる。このように、板材の両端部を溶接することにより、簡単に環状構造体10を製造することができる。なお、溶接後の板材20に、熱処理と圧延との少なくとも一方を施してもよい。このようにすることで、製造される環状構造体10の強度を向上させることができる。熱処理は、例えば、析出硬化系ステンレス鋼を用いる場合、一例として、500℃で60分保持する。熱処理の条件は、得たい特性によって適宜変更することができるので、前述の条件に限定されるものではない。
【0055】
次に、溶接後の凸部22を除去して、図2−2に示す環状構造体10を得る(ステップS104、図6−3)。なお、環状構造体10に熱処理等を施す場合、凸部22を切断した後に施すことが好ましい。熱処理等によって環状構造体10の強度が向上するため、熱処理等を施す前に凸部21を切断することにより、凸部22の切断が容易になる。環状構造体10が得られたら、環状構造体10の外側に未加硫のトレッドゴム層を配置する。環状構造体10と未加硫のトレッドゴム層との間には、未加硫の接着ゴム層を配置する。環状構造体10の径方向における外面10soに直にトレッドゴム層11が接するタイヤの場合には、未加硫の接着ゴム層を配置しなくてよい。また、カーカス部12を環状構造体10に取り付け、ビード部13をカーカス部12に設けて、グリーンタイヤを作製する(ステップS105)。その後、グリーンタイヤを加硫して(ステップS106)、トレッドゴム層11と環状構造体10とを接着ゴム層200を介して結合させ、図1に示すタイヤ1が完成する。なお、環状構造体10の製造方法は、上述したものに限定されない。円柱を切削加工することにより環状構造体10を製造してもよいし、押出成形により環状構造体10を製造してもよい。また、環状構造体10の粗面化処理は、環状構造体10を円筒形状に形成する前に行っても、環状構造体10を円筒形状に形成した後に行ってもよい。
【0056】
環状構造体10は、図6−3に示すように溶接部201を有する。図6−4に示すように、溶接部201は、その周辺よりも厚みが大きくなってもよい。溶接部201は、溶接部201を除く領域での厚みtが0.1mm以上0.8mm以下、さらには0.15mm以上0.7mm以下であることが好ましい。また、溶接部201は、溶接部201の周辺よりも厚みが大きい部分の厚みが、周辺の厚みの1.3倍以下、さらには1.2倍以下であることが好ましい。この範囲であれば、この範囲であれば、耐圧性能を確保しつつ、繰り返し曲げの耐久性を確保できる。溶接部201を除く領域とは、溶接前における板材20の厚みであり、環状構造体10においては、溶接部201以外であり、かつ厚みが一定になっている領域である。次に、グリーンタイヤを作製し、次にグリーンタイヤを加硫する手順(ステップS105及びステップS106)についてさらに詳しく述べる。
【0057】
図7は、従来の加硫金型を用いて本実施形態及びその変形例に係るタイヤを製造する例を示す図である。図8は、本実施形態に係る加硫金型を用いて本実施形態及びその変形例に係るタイヤを製造する例を示す図である。これまでのような、角度をつけてスチールワイヤーを並列に配置し、ゴムで被覆したものを積層したタイヤは、加硫中にタイヤ内側から加硫ブラダーが膨張しながら接触することで、タイヤ自体も数%膨張して外側の加硫金型に押し当てられる。このため、圧力及び熱が作用して加硫が進行する。しかし、本実施形態に係るタイヤ1が有する環状構造体10は、引張(膨張)方向の弾性率が極めて高いため、ブラダーの圧力によってタイヤ自体の膨張する程度が小さい。そのため、これまでのタイヤが加硫金型の寸法に対して小さい周長でグリーンタイヤを成形するのに対して、本実施形態に係るタイヤは、それより大きい寸法(加硫金型の寸法に近い寸法)でグリーンタイヤ1Gが成形される。
【0058】
薄板円筒形状の環状構造体10を用いたタイヤ1を製造する際に、環状構造体10にリフトが作用しないため、図7に示すように、従来のタイヤよりも大きい寸法(外周長)のグリーンタイヤ1Gを成形して加硫する。図7に示す、従来の加硫金型120を用いた場合、サイドプレート120Sa、120Sbが閉じられた後、セクター120Cが閉まるときに環状構造体10が径方向にバックリングするおそれがあった。すなわち、加硫金型120にグリーンタイヤ1Gが投入された後に、セクター120Cが閉まる際、セクター120Cの溝を形成する部分(すなわち突起)がグリーンタイヤ1Gのトレッド部に接触し、そのままトレッド部を内側へ必要以上に押してしまう。これは、ゴム流れが追いつかないためである。その結果、環状構造体10が径方向にバックリングしてしまうおそれがあった。
【0059】
その対策として、セクター120Cが閉まる前にブラダー121を昇圧するという方法があるが、その場合には、加硫前のグリーンタイヤ1Gに圧力を与える。本実施形態に係るタイヤ1は、サイドプレート120Sa、120Sbが閉じているため、ブラダー121の圧力Pbに対して反力Prを発生する。また、環状構造体10は弾性率が高い円筒であるため、自らの周方向の引張剛性によって反力Prを発生する。しかし、グリーンタイヤ1Gのバットレス部BBにおいては反力Prが得られないため、未加硫状態のグリーンタイヤ1Gは圧力Pbに耐えられずに吹き抜けが発生することがある。
【0060】
そこで、本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、図8に示すような、セクター20Cとサイドプレート20Sa、20Sbとの割り位置を適切な位置に変更した加硫金型20を用いて、セクター20Cを閉める前にブラダー21を昇圧する。例えば、サイドプレート20Sa、20Sbが閉じてからセクター20Cが閉じるまでの間に、ブラダー21の圧力を0.2MPa〜2.0MPa、好ましくは0.3MPa〜1.0MPaに上昇させる。このようにすることで、加硫時における環状構造体10のバックリング及びグリーンタイヤ1Gのバットレス部BBからの吹き抜けを回避できる。
【0061】
加硫金型20は、セクター20Cと、それぞれ上下に配置されるサイドプレート20Sa、20Sbとを有する。セクター20Cは、それぞれ周方向に向かって複数に分割されている。サイドプレート20Sa、20Sbは、連続したドーナツ状の円盤である。セクター20Cとサイドプレート20Sa、20Sbとの割り位置SPは、グリーンタイヤ1Gが有する環状構造体10の幅方向内側の位置とする。このようにすることで、グリーンタイヤ1Gがブラダー21からの圧力を受けた場合、バットレス部BBにおいても、サイドプレート20Sa、20Sbから反力Prが得られるので、吹き抜けを回避できる。
【0062】
セクター20Cとサイドプレート20Sa、20Sbとの割り位置SPは、環状構造体10の幅方向外側における端部10eから環状構造体幅Wmの70%以上100%以下の位置とすることが好ましく、さらには、環状構造体幅Wmの80%以上99.5%以下の位置とすることが好ましい。このようにすれば、サイドプレート20Sa、20Sbから反力Prを確実に得られるので、ブラダー21の圧力Pbによる吹き抜けを確実に回避できる。
【0063】
本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、まず、円筒形状の環状構造体10と、環状構造体10の外側に、環状構造体10の周方向に沿って設けられてトレッド部となる未加硫のトレッドゴム層11Gと、未加硫のトレッドゴム層11Gと環状構造体10との間に配置される未加硫の接着ゴム層200Gと、ゴムで被覆された繊維を有し、環状構造体10と未加硫のトレッドゴム層11Gとを含む円筒形状の構造体2Gの幅方向両側に少なくとも設けられるカーカス部12と、を含む空気入りタイヤのグリーンタイヤ1Gを、加硫金型20の内部に配置する。なお、接着ゴム層200が存在せず、環状構造体10とトレッドゴム層11が直に接するタイヤを製造するには、環状構造体10の外側に直に未加硫のトレッドゴム層11Gが配置されたグリーンタイヤを、加硫金型20の内部に配置すればよい。加硫金型20は、環状構造体の幅方向内側の位置でサイドプレート20Sa、20Sbとセクター20Cとが分割されている。
【0064】
環状構造体10は、未加硫のトレッドゴム層11Gの径方向外側には露出しないことが好ましい。このようにすれば、加硫によって、環状構造体10と未加硫のトレッドゴム層11Gとをより確実に固定でき、タイヤ1の環状構造体10とトレッドゴム層11とがより確実に固定される。さらに、環状構造体10は、未加硫のトレッドゴム層11G内に埋設されていてもよい。このようにしても、環状構造体10とトレッドゴム層11とをより確実に固定できる。
【0065】
次に、サイドプレート20Sa、20Sbを閉じた後、セクター20Cを閉じる前に、グリーンタイヤ1Gの内部のブラダー21を昇圧させる。そして、セクター20Cを閉じて加硫を開始する。このようにすることで、本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、加硫時における環状構造体10のバックリング及びグリーンタイヤ1Gのバットレス部BBからの吹き抜けを回避できる。このように、本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、構造を変更することによって転がり抵抗を低減したタイヤ1を製造することができる。
【0066】
次に、環状構造体の表面を粗面とすることで、環状構造体の表面と接着ゴム層との結合が強化されることを示す。環状構造体のモデルとして、析出硬化系ステンレス鋼の切片を用い、これにゴム層を接着した試験片を作製した。試験片の作製は、JISK6256−2(2006)に従った。以下に各試験片の作製方法を示す。
[試験片1]
表面に粗面化処理を行わない析出硬化系ステンレス鋼板(算術平均粗さRa=0.1μm)に対して、以下の配合のゴムを加硫接着した。
天然ゴム・・・・・・・・・・・・・100質量部
カーボンブラック・・・・・・・・・60質量部
亜鉛華・・・・・・・・・・・・・・5質量部
老化防止剤・・・・・・・・・・・・1質量部
イオウ・・・・・・・・・・・・・・6質量部
促進剤・・・・・・・・・・・・・・1質量部
フェノール樹脂・・・・・・・・・・3質量部
ヘキサメトキシメチルメラミン・・・3質量部
加硫時間は、150℃で30分間であった。
[試験片2]
析出硬化系ステンレス鋼板の表面に対し、サンドブラスト法により粗面化処理を行った。粗面化処理後の算術平均粗さRaは、2μmであった。得られた鋼板に対して、試験片1を作製する際に用いた配合のゴムを、試験片1と同様の条件で加硫接着した。
[試験片3]
析出硬化系ステンレス鋼板の表面に対し、以下の方法により粗面化処理を行った。鋼板を、硫酸と蓚酸との混合液に浸して、鋼板表面の不動態皮膜を除去した。除去後の算術平均粗さRaは、5μmであった。次いで、鋼板を酢酸を含むビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド溶液に浸した。次いで、鋼板表面に試験片1を作製する際に用いた配合のゴムを、試験片1と同様の条件で加硫接着した。
【0067】
以上得られた試験片1〜3について、ゴム層の剥離試験を行い、試験片とゴム層との接着力を評価した。剥離試験は、JISK6256−2(2006)に従った。評価結果を以下に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1から、試験片1と比較して、粗面化処理を行って、算術平均粗さRaを0.5μm以上50μm以下とした鋼板を用いて作製した試験片2および3の方が、より強固に鋼板とゴム層とが結合していることがわかる。また、析出硬化系ステンレス鋼板の不動態皮膜を除去する処理により粗面化処理を行った試験片3が、サンドブラスト法により粗面化処理を行った試験片2よりも、鋼板とゴム層とが強固に結合していることがわかる。
【0070】
以上の結果から、環状構造体表面を粗面とすることで、粗面とした環状構造体の面と、粗面とした環状構造体の表面と直に接するゴム層とが、環状構造体の表面を粗面としない場合と比較してより強固に結合することがわかる。したがって、本実施形態に係る、円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体と、前記環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層と、ゴムで被覆された繊維を有し、前記環状構造体と前記トレッドゴム層とを含む円筒形状の構造体の中心軸と平行な方向における両側に少なくとも設けられるカーカス部と、を含むことを特徴とする空気入りタイヤは、耐久性に優れていることがわかる。また、環状構造体がステンレス鋼、特に析出硬化系ステンレス鋼であることが好ましいことがわかる。さらに、粗面化処理は、ステンレス鋼の不動態被膜を除去する処理を含む処理、特に酸処理であることが好ましく、さらに硫酸と蓚酸との混合液により行うことが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0071】
1 空気入りタイヤ(タイヤ)
2 構造体
2S 両側
10、10a、10b 環状構造体
10so 外側
10si 内側
10T 凹凸部
11 ゴム層
11so 外側
11si 内側
12 カーカス部
12F 繊維
12R ゴム
13 ビード部
14 インナーライナー
20 板材
200 接着ゴム層
201 溶接部
S 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体と、
前記環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層と、
ゴムで被覆された繊維を有し、前記環状構造体と前記トレッドゴム層とを含む円筒形状の構造体の中心軸と平行な方向における両側に少なくとも設けられるカーカス部と、
を含むことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記環状構造体は、径方向の内側面が粗面である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
粗面である前記径方向の外側面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上50μm以下である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
粗面である前記径方向の内側面は、算術平均粗さRaが0.5μm以上50μm以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッドゴム層のJIS硬度が46以上88以下であり、前記トレッドゴム層が前記環状構造体と接している請求項1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
JIS硬度が46以上88以下であり、前記トレッドゴム層と前記環状構造体とを接着する接着ゴム層を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記環状構造体はステンレス鋼であり、粗面である前記径方向の外側面、又は粗面である前記径方向の外側面及び粗面である前記径方向の内側面のうち少なくとも一方の面は、前記ステンレス鋼の不動態皮膜を除去する処理を含む粗面化処理がされている請求項1から6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記環状構造体は、析出硬化系ステンレス鋼である請求項1から7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記粗面化処理は、酸処理である請求項1から8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記環状構造体は、複数の貫通孔を有する請求項1から9のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
円筒形状かつ金属であって、少なくとも径方向の外側面が粗面である環状構造体と、
前記環状構造体の外側に、前記環状構造体の周方向に向かって設けられてトレッド部となるトレッドゴム層と、
ゴムで被覆された繊維を有し、前記環状構造体と前記トレッドゴム層とを含む円筒形状の構造体の中心軸と平行な方向における両側に少なくとも設けられるカーカス部と、
を含む空気入りタイヤの製造方法であって、
少なくとも径方向の外側面が粗面化された環状構造体を得る手順と、
前記環状構造体の外側に未加硫のトレッドゴム層を配置する手順と、
前記未加硫のトレッドゴム層を加硫して前記トレッドゴム層と前記環状構造体とを結合させる手順と、
を含む空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1193(P2013−1193A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132513(P2011−132513)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】