説明

窒化アルミニウム単結晶、およびその製造方法

【課題】結晶性がよい、従来の結晶構造とは異なる窒化アルミニウム単結晶を製造する。
【解決手段】反応容器4内の上流側に酸化アルミニウム5を配置し、下流側に窒化アルミニウム基板6を配置し、上流側から窒素ガスを線速度0.5〜75.0m/分で反応容器4内に供給し、上流側に配置した酸化アルミニウム5の温度を1700℃以上2400℃以下の範囲とし、下流側に配置した窒化アルミニウム基板6の温度を該酸化アルミニウム5の温度よりも低い温度に設定することにより、下流側の窒化アルミニウム基板6上に、窒化アルミニウム単結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム単結晶、および該窒化アルミニウム単結晶の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、高い機械的強度、および放熱性能に優れた材質であるため、フィラー、電子・電気部品の基板、放熱部材として利用されている。特に、近年、AlN単結晶は、格子の整合性および紫外光透過性の観点から、青色可視域−紫外域の短波長光を発する発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)等の発光デバイスを構成する基板材料として注目されている。
【0003】
現在、窒化アルミニウム単結晶は、有機金属気相成長法(MOVPE法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)など気相成長法、化学輸送法、フラックス法、昇華再結晶法などの方法で薄膜単結晶やバルク単結晶が製造されている。中でも、化学輸送法、昇華再結晶法によると、板状結晶や針状結晶などの形状の異なる結晶性の高い単結晶が得られるため、様々な検討が行われている。
【0004】
具体的には、アルミナと他の金属酸化物を原料として、窒素雰囲気中、炭素存在下、1650℃以上2200℃以下の温度で加熱することにより、針状、および板状の窒化アルミニウム単結晶を製造する方法(特許文献1参照)、または、上記方法において、アルミナ(酸化アルミニウム)と窒化アルミニウムを原料として、針状、板状の窒化アルミニウム単結晶を製造する方法(特許文献2参照)の方法が検討されている。また、珪素、モリブデン、鉄、またはニッケル等の元素含むソルベント元素含有成長促進剤、カーボンの存在下、アルミナから窒化アルミニウムウィスカーを製造する方法(特許文献3参照)が知られている。これらの方法は、結晶性の高い針状、板状の窒化アルミニウム単結晶を製造できる方法である。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、アルミナ以外の金属酸化物を併用するため、得られる窒化アルミニウム単結晶に不純物が含まれるおそれがあると言う点で改善の余地があった。また、特許文献3においても同様に、他の元素が含まれる可能性があり、さらに、カーボン上に窒化アルミニウム単結晶が成長するものと考えられるため、カーボンの含有量を低減させるといった点でも改善の余地があった。また、特許文献2に記載の方法において、アルミナ(酸化アルミニウム)と窒化アルミニウムを原料とした場合には、実際には、2200℃以上という高温下で加熱した例しかなく、経済性を考慮すると、より低温での窒化アルミニウム単結晶の製造が望まれていた。
【0006】
さらに、特許文献2に記載の方法においては、窒化アルミニウム単結晶のC軸が長手方向に成長する結晶が得られているが、これら従来の方法においては、このような結晶方位の窒化アルミニウム単結晶しか得られないのが現状であった。そのため、様々な用途に窒化アルミニウム単結晶を使用するためには、従来の単結晶とは異なる結晶軸方位に結晶成長した窒化アルミニウム単結晶の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−132699号公報
【特許文献2】特開2006−45047号公報
【特許文献3】特開平9−118598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、従来の化学輸送法、昇華法においては、例えば、C軸が長手方向と垂直な方向に成長する窒化アルミニウム単結晶は製造されていない。このような柱状の窒化アルミニウム単結晶が得られれば、窒化アルミニウム単結晶の用途が広がるものと考えられる
したがって、本発明の目的は、酸化アルミニウムを原料とし、しかも、比較的低温下においても、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を製造することを目的とする。さらに、本発明の目的は、従来の単結晶とは異なる方位に伸長する窒化アルミニウム単結晶、即ち、窒化アルミニウム単結晶のC面(C面とは結晶のC軸([001]軸)に垂直な面である)が、長手方向と垂直な方向を向くように成長している窒化アルミニウム単結晶を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、酸化アルミニウムを原料とし、原料よりも上流側から特定の線速度で窒素ガスを供給することにより、比較的低温下においても、下流側の窒化アルミニウム基板上に、結晶性が高く、従来の化学輸送法とは異なる方位に伸長する窒化アルミニウム単結晶を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、反応容器内の上流側に酸化アルミニウムを配置し、下流側に窒化アルミニウム基板を配置し、該酸化アルミニウムの温度を1700℃以上2400℃以下の範囲とし、該窒化アルミニウム基板の温度を該酸化アルミニウムの温度よりも低い温度に設定し、かつ酸化アルミニウムの側から窒化アルミニウム基板の側に向けて窒素ガスを線速度0.5〜75.0m/分で流通させることにより、下流側の窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶の製造方法である。
【0011】
また、本発明においては、下流側に配置した窒化アルミニウム基板の温度を上流側の酸化アルミニウムの温度よりも50℃以上低い温度とし、かつ1500℃以上1900℃以下とすることが好ましい。こうすることにより、窒化アルミニウム単結晶の析出量をより増加させることができる。
【0012】
さらに、本発明においては、下流側に配置する前記窒化アルミニウム基板として、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板を使用することが好ましく、また、下流側に炭素を存在させることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、窒化アルミニウム単結晶の長手方向と垂直な方向にC面が向くように成長した窒化アルミニウム単結晶である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化アルミニウム以外の金属酸化物を原料としなくとも、結晶性の高い窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。また、比較的低温、具体的には、2000℃未満の温度においても、窒化アルミニウム単結晶を製造できるため、工業的利用価値は高い。
【0015】
また、本発明の方法により得られた窒化アルミニウム単結晶は、窒化アルミニウム単結晶のC面が、長手方向と垂直な方位に伸長しているものとすることができる。この柱状の窒化アルミニウム単結晶は、長さが1mm以上、最大外径が1mm以上のものとすることができ、さらに、条件を調整すれば、30〜120時間の反応で長さが10mm〜100mm、最大外径が2mm〜8mmのものとすることができる。このような柱状の窒化アルミニウム単結晶は、様々な用途、例えば、他の方法での窒化アルミニウム単結晶製造用の種結晶、青色発光素子の下地基板、深紫外発光素子の下地基板として使用することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法に好適に使用できる単結晶製造装置の概略断面図である。
【図2】実施例1で得られた窒化アルミニウム単結晶の電子顕微鏡写真である(倍率30倍)。
【図3】実施例1で得られた窒化アルミニウム単結晶のAlN(002)ピークのロッキングカーブ半値全幅測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、反応容器内に配置した酸化アルミニウムと窒化アルミニウム基板を、それぞれ特定の温度に設定し、かつ、酸化アルミニウムの側から窒化アルミニウム基板の側に向けて窒素ガスを特定の線速度で流通させることにより、該窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させ、該窒化アルミニウム単結晶を製造する方法である。
以下、順を追って説明する。先ず、本発明に好適に使用できる窒化アルミニウム単結晶製造装置の一例について説明する。
【0018】
(窒化アルミニウム単結晶製造装置)
図1に、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法に好適に使用できる単結晶製造装置の概略断面図の一例を示す。以下、この図1を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
上記単結晶製造装置1は、上流端部に窒素ガスを供給する供給口2、下流端部に窒素ガスを排出する排出口3を有する反応容器4を具備する。反応容器4内には、上流側に酸化アルミニウム5を配置し、下流側に窒化アルミニウム基板6を配置する。また、窒化アルミニウム基板6よりも下流側に炭素(カーボン)7を存在させることもできる。この炭素7は、窒化アルミニウム基板6と酸化アルミニウム5との間に配置することもできるが、得られる窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、窒化アルミニウム基板6の下流側に配置することが好ましい。
【0020】
反応容器4は、ヒーター8で加熱できるようにする。そして、このヒーター8は、酸化アルミニウム5が配置された上流側と窒化アルミニウム基板6が配置された下流側との温度を各々異なる温度に調整できる構造とすることが好ましい。
【0021】
なお、上記単結晶製造装置において、各部材、例えば、反応容器4、供給口2、排出口3は、当然のことながら、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の温度において、十分に耐えうる材質で構成されるものとする。
【0022】
本発明においては、上記のような単結晶製造装置を使用して、窒化アルミニウム単結晶を成長させることができるが、以下に、その方法をより詳細に説明する。
【0023】
(反応容器)
本発明において、使用する反応容器4は、上記の通り、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の温度、具体的には、1700℃以上2400℃以下の温度において、十分に耐えうる材質で構成される。具体的な材質としては、窒化アルミニウム、窒化硼素の焼結体、カーボンなどが挙げられる。中でも、製造する窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、反応容器4は、窒化アルミニウム焼結体よりなることが好ましい。また、窒化アルミニウム焼結体の中でも、焼結助剤を含まないものを使用することが好ましい。
【0024】
反応容器4の形状、大きさは、特に制限されるものではなく、工業的に製造可能な範囲のものであればよい。中でも、反応容器4の製造が容易で、かつ、窒化アルミニウム単結晶を成長させる際に供給する窒素ガスが反応容器4内に均一に供給し易いという点から、円柱状であることが好ましい。
【0025】
(酸化アルミニウム)
本発明において、原料となる酸化アルミニウムは、アルミニウムが酸化されたものであればよく、市販の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウムを酸化させたものを使用することができる。窒化アルミニウムを酸化させたものについては、前記反応容器外で予め酸化させたものを使用することができるし、前記反応容器内で窒化アルミニウムを酸化したものを使用することができる。工程を簡略化するためには、前記反応容器内で窒化アルミニウムを酸化したものを使用することが好ましい。
【0026】
このような酸化アルミニウムの中でも、より工程を簡略化し、得られる窒化アルミニウム単結晶の収量を高めるためには、窒化アルミニウムを酸化させたものではなく、通常の酸化アルミニウム(以下、窒化アルミニウムを酸化させたものではなく、この通常の酸化アルミニウムをAlとする場合もある。)を使用することが好ましい。
【0027】
本発明において、酸化アルミニウム(Al)を使用する場合には、特に制限されるものではないが、得られる窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、純度の高いものを使用することが好ましい。ただし、市販の酸化アルミニウム(Al)を製造する上で不可避的に混入される不純物を除外するものではなく、酸化アルミニウム(Al)の純度としては、99%以上であることが好ましく、さらに99.9%以上であることが好ましい。
【0028】
上記酸化アルミニウム(窒化アルミニウムを酸化させたものを含む)の形状は、特に制限されるものではなく、基板上のもの、顆粒状のもの、粉末状のものであってもよい。中でも、得られる窒化アルミニウム単結晶の収量を考慮すると、粉末状のものを使用することが好ましく、操作性を併せて考慮すると、0.01〜200μmの粒子径のものを使用することが好ましい。特に、窒化アルミニウム単結晶の収量を高めるためには、上記形状を満足する酸化アルミニウム(Al)を使用することが好ましい。このような条件を満足する酸化アルミニウム(Al)は、市販されており、例えば、和光純薬工業株式会社製の酸化アルミニウム和光特級、株式会社高純度化学研究所製の酸化アルミニウムALO01PB、ALO02PB、ALO03PB、ALO16PB、ALO13PB、ALO14PB、ALO11PB、ALO12PBを使用することができる。
【0029】
(窒化アルミニウム基板)
本発明においては、下記に詳述する条件、即ち、特定の線速度の窒素ガス雰囲気下、及び特定の温度条件下において、上記酸化アルミニウムを原料とし、窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させるものである。窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることにより、純度の高い窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。なお、ここでは窒化アルミニウム基板としたが、その形状は、反応容器の容量、使用する酸化アルミニウム、得られる窒化アルミニウム単結晶の量に応じて、取り扱い易い大きさのものとすればよい。
【0030】
本発明において、上記窒化アルミニウム基板は、窒化アルミニウムを材質とした基板であればよい。具体的には、窒化アルミニウム単結晶、または窒化アルミニウム焼結体よりなる基板を使用することができる。中でも、本発明においては、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板(以下、窒化アルミニウム焼結体基板とする)を使用することが好ましい。
【0031】
上記窒化アルミニウム焼結体基板は、公知の方法で製造することができ、市販のものを使用することもできる。窒化アルミニウム焼結体基板を使用することで、窒化アルミニウム単結晶の収率を高くすることができる。この理由は明らかではないが、窒化アルミニウム焼結体は、多結晶体であり、様々な形状、結晶面の粒子が表面に存在しているため、その粒子が窒化アルミニウム単結晶を成長させる際の核となり易いからではないかと考えられる。特に好ましい窒化アルミニウム焼結体基板としては、電子顕微鏡で観察した際、粒子径が1〜30μmの範囲にあるものを使用することが好ましい。
【0032】
また、上記窒化アルミニウム焼結体基板は、得られる窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると焼結助剤の含有量が40000ppm未満のものであるものを使用することが好ましく、特に好ましくは焼結助剤を含まないものを使用することがよい。ただし、上記窒化アルミニウム焼結体基板は、酸素を含むものを好適に使用できる。具体的には、酸素が100〜25000ppm、好ましくは500〜7000ppm含まれているものを使用することができる。この理由も明らかではないが、酸素をある程度含む窒化アルミニウム焼結体基板を使用することで、窒化アルミニウム単結晶の成長を促進しているのではないかと考えられる。このような窒化アルミニウム焼結体基板も、公知の方法で製造することができ、市販のもの、例えば、株式会社トクヤマ製 SH−50、SH−15を使用することができる。
【0033】
次に、上記酸化アルミニウムを原料とし、上記窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させる方法について具体的に説明する。
【0034】
(窒化アルミニウム単結晶の成長方法)
本発明は、1700℃以上2400℃以下の温度範囲に保持した酸化アルミニウムに0.5〜75.0m/分の窒素ガスを流通させ、該酸化アルミニウムの温度よりも低い温度に保持した窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させるものである。
【0035】
本発明において、反応容器の上流側に配置した酸化アルミニウムを保持する温度は、1700℃以上2400℃以下である。該温度が1700℃未満の場合は、窒化アルミニウム単結晶が成長しないため好ましくない。一方、2400℃を超える場合には、温度が高すぎるため、工業的な生産には不向きである。窒化アルミニウム単結晶の工業的生産を考慮すると、酸化アルミニウムを保持する温度は、1800℃以上2200℃以下が好ましく、1850℃以上2000℃未満がより好ましく、1880℃以上1980℃以下であることが特に好ましい。本発明においては、窒素ガスを特定の条件で流通させていることが影響していると考えられるが、上記の通り、2000℃未満の温度において、従来では知られていない結晶方位に伸長する新規な窒化アルミニウム単結晶を成長させることができる。
【0036】
本発明おいて、反応容器の下流側に配置した窒化アルミニウム基板の温度は、反応容器の上流側に配置した前記酸化アルミニウムを保持した温度よりも低い温度とする必要がある。窒化アルミニウム基板の温度が酸化アルミニウムを保持した温度よりも高くなると、該基板上に窒化アルミニウム単結晶が成長しないため好ましくない。窒化アルミニウム単結晶の収量を高くするためには、窒化アルミニウム基板の温度は、酸化アルミニウムを保持した温度よりも50℃以上低いことが好ましく、かつ、1500℃以上1900℃以下であることが好ましい。中でも、結晶の収量、結晶性を考慮すると、窒化アルミニウム基板の温度は、酸化アルミニウムの温度よりも50℃以上低く、かつ、1700℃以上1900℃以下とすることが好ましく、さらに、特に結晶の収量を考慮すると、酸化アルミニウムの温度よりも80℃以上低く、かつ、1800℃以上1900℃以下の温度とすることが特に好ましい。
【0037】
本発明における反応容器内に流通させる窒素ガスの線速度は、0.5〜75.0m/分である。窒素ガスの線速度が0.5m/分未満の場合には、反応器下流側の窒化アルミニウム基板まで原料が供給されず、結晶が析出しないため好ましくない。一方、線速度が75.0m/分を超える場合には、原料が過剰に供給され、多結晶化するおそれがあるため好ましくない。これらを考慮すると線速は、1.0〜50.0m/分が好ましく、3.0〜40.0m/分がより好ましく、5.0〜30.0m/分がさらに好ましい。
【0038】
線速度は、反応容器内へ供給する窒素ガスの総流量を反応容器の断面積で除した値であるが、窒素ガスは温度によって体積が変化するため、本発明における線速度とは、以下の方法で求めた値とする。先ず、反応容器の外部から特定の流量となる窒素ガスを流量制御器により反応容器内へ供給する。該流量制御器は気体の標準状態(0℃、1気圧)下での流量を制御するものである。そして、この供給した窒素ガスの流量を酸化アルミニウムの設定温度における流量に換算する。次いで、この換算した窒素ガスの流量を、酸化アルミニウムを配置した部分の反応容器の断面積で除することにより、本発明における窒素ガスの線速度とする。そのため、本発明における線速度とは、酸化アルミニウム上を流通する窒素ガスの線速度を指し、該線速度は、酸化アルミニウムと温度が異なる窒化アルミニウム基板上を流通する線速度とは異なる値となる。
【0039】
本発明においては、上記範囲の線速度とすることにより、結晶性がよく、従来とは異なる結晶軸方位に結晶成長した窒化アルミニウム単結晶を安定して製造できる。さらに、線速度を上記範囲とすることにより、比較的低温、すなわち、2000℃未満の温度においても、窒化アルミニウム単結晶を成長させることができる。
【0040】
なお、上記窒素ガスは、市販の窒素ガスを使用することができ、純度としては99.999%以上のものを使用することが好ましい。
【0041】
また、本発明においては、窒化アルミニウム基板よりも下流側に炭素(カーボン)を存在させることもできる。該炭素は、窒化アルミニウム基板と酸化アルミニウムとの間に配置することもできるが、得られる窒化アルミニウム単結晶の純度を考慮すると、窒化アルミニウム基板の下流側に配置することが好ましい。当該炭素としては、無定形炭素や黒鉛等が挙げられる。なお、カーボン製の炉本体や反応容器内に使用されるカーボン部材も炭素源として好適に用いることができる。
【0042】
本発明における炭素の役割については、未だ解析中であるが、窒素ガスとの共存下において窒化アルミニウム単結晶が成長しやすい雰囲気を形成しているものと本発明者らは推定している。
【0043】
(その他の条件)
本発明においては、以上の条件で窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることにより、下記に詳述する結晶構造の窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0044】
反応時間(窒化アルミニウム単結晶を成長させる時間)は、特に制限されるものではなく、所望とする窒化アルミニウム単結晶の形状、収量に応じて適宜決定すればよい。反応時間が長くなればなるほど、外径が大きく、長さの長い柱状の窒化アルミニウム単結晶が得られる。ただし、工業的な生産を考慮すると、反応時間は、1時間以上200時間以内であることが好ましい。
【0045】
なお、この反応時間は、全ての条件が整った時点から計測する時間である。つまり、酸化アルミニウム、及び窒化アルミニウム基板の温度、窒素ガスの線速度の全ての条件が設定した条件を満足してからの時間である。そのため、窒素ガスを反応容器内に供給しながら、酸化アルミニウム、及び窒化アルミニウム基板の温度を設定温度にする場合には、設定温度に到達してからの時間が反応時間となる。また、酸化アルミニウム、及び窒化アルミニウム基板を設定温度とした後、窒素ガスを反応容器に供給する場合には、窒素ガスを供給してからの時間が反応時間となる。
【0046】
このような条件で窒化アルミニウム単結晶を成長させた後は、反応容器の温度を室温付近まで低下させ、窒化アルミニウム単結晶が成長している窒化アルミニウム基板を反応容器から取り出すことにより、窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0047】
(窒化アルミニウム単結晶)
本発明においては、反応容器内に窒素ガスを特定の線速で流通させるためであると考えられるが、従来知られていない結晶構造の窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。具体的には、窒化アルミニウム単結晶であって、長手方向と垂直な方向にC面が向くように成長した窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0048】
また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、非常に高い結晶性を有すものであり、具体的には、X線回折装置で測定したロッキングカーブ半値全幅が、200arcsec以下とすることができる。ロッキングカーブの半値全幅とは、試料がブラックの回折条件を満たす角度にX線発生装置と検出器とのなす角度を固定して、X線入射角ωを変化させて得られる回折チャートにおいて、最大検出カウント数の50%以上の値をとるωの範囲であり、この値が小さいほど単結晶の品質が高いことを意味する。
【0049】
また、この窒化アルミニウム単結晶の大きさは、上記の通り、反応時間によって調整することができ、反応時間を長くすることで最外径が8mm、長さが100mmの窒化アルミニウム単結晶とすることができる。
【0050】
本発明によれば、このような従来にはない異なる方位に伸長する窒化アルミニウム単結晶を製造することができる。得られた窒化アルミニウム単結晶は、様々な用途、例えば、発光素子の下地基板の用途で使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、下記の実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[評価方法]
<結晶性の評価>
X線回折装置(BrukerAXS製)にてロッキングカーブの半値幅を算出した。
【0053】
実施例1
単結晶製造装置1にて実験を行った。反応容器4は、円柱状のものを使用した。反応容器4内の上流側に原料として和光純薬工業株式会社製 酸化アルミニウム(Al)(和光特級、純度99.9%)10gを投入した(酸化アルミニウム5)。投入位置は、供給口2の下から下流側へ50mmのところまでとした。この酸化アルミニウムの不純物濃度は塩化物0.005%以下、硫酸塩0.01%以下、鉄0.01%以下であり、粒度は300メッシュであった。酸化アルミニウム5よりもさらに25mm下流側に株式会社トクヤマ製 窒化アルミニウム焼結体SH−50(焼結助剤を含まず、酸素含有量が5900ppmである窒化アルミニウム焼結体)を20mm×30mmに切断し設置した(窒化アルミニウム基板6)。また、窒化アルミニウム基板6のさらに下流側に炭素7を配置した。
【0054】
酸化アルミニウム5の温度を1950℃、窒化アルミニウム基板6の温度を1840℃とし、温度差を110℃とした。
【0055】
窒素ガスは、流量制御器により1L/分となる量を反応容器内へ流通させた。この時、酸化アルミニウム5の上を流通する窒素ガスの線速度は、以下のように求められる。反応容器4に窒素ガス(純度99.999%以上)を流量制御器により1L/分で導入した場合、反応容器内での線速度に換算すると0.72m/分となった。酸化アルミニウム5の温度(1950℃)における膨張を考慮すると、8.1L/分となる量の窒素ガスとなる。その結果、1950℃に保持した酸化アルミニウムの上を流通する窒素ガスの線速度は、5.8m/分となった。
【0056】
保持時間(反応時間)は30時間として実験を行なった。実験後、窒化アルミニウム基板6上には、窒化アルミニウム結晶の析出(成長)が確認された。析出した窒化アルミニウム結晶は上流側から下流側へ向かって成長していた。窒化アルミニウム結晶の最外径は2〜3mm、長さは5〜10mmであり、窒化アルミニウム結晶の析出量は0.48gであった。
【0057】
得られた窒化アルミニウム結晶はX線回折装置(BrukerAXS製)にて評価した。AlN(002)ピークの半値全幅は44arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、AlN(002)ピークが結晶の側面より検出されており、C面が、長手方向と垂直な方向に成長していた。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0058】
実施例2
窒素ガスを流量制御器により3.6m/分となる線速度で反応容器4へ導入させた以外は実施例1と同様に実験を行なった。反応容器内(酸化アルミニウム5)の温度においては、ガス流量が40.7L/分となり、1950℃の線速度に換算すると29.4m/分となった。
【0059】
実験後、窒化アルミニウム基板6上には、結晶の析出が確認された。析出した結晶は上流側から下流側へ向かって成長していた。結晶の最外径は2〜3mm、長さは10〜50mmであった。窒化アルミニウム結晶の析出量は0.74gであり、長く成長している結晶が確認された。AlN(002)ピークの半値全幅は37arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、AlN(002)ピークが結晶の側面より検出されており、C面が、長手方向と垂直な方向に成長していた。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0060】
実施例3
窒素ガスを流量制御器により0.72m/分となる線速度で反応容器4へ導入し、窒化アルミニウム基板6の温度を1740℃とした以外は実施例1と同様にして実験を行なった。窒素ガスの線速度は、酸化アルミニウム5の温度が実施例1と同じため、5.8m/分であった。
【0061】
実験後、窒化アルミニウム基板6上には、結晶の析出が確認された。析出した結晶は上流側から下流側へ向かって成長していた。結晶の最外径は1〜2mm、長さは5〜10mmであった。窒化アルミニウム結晶の析出量は0.11gで、実施例1と比較すると減少していた。AlN(002)ピークの半値全幅は37arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、AlN(002)ピークが結晶の側面より検出されており、C面が、長手方向と垂直な方向に成長していた。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0062】
実施例4
窒素ガスを流量制御器により0.72m/分となる線速度で反応容器4へ導入し、窒化アルミニウム基板6の温度を1875℃とした以外は実施例1と同様にして実験を行なった。窒素ガスの線速度は、酸化アルミニウム5の温度が実施例1と同じため、5.8m/分であった。
【0063】
実験後、窒化アルミニウム基板6上には、結晶の析出が確認された。析出した結晶は上流側から下流側へ向かって成長していた。結晶の最外径は1〜2mm、長さは5〜10mmであった。窒化アルミニウム結晶の析出量は0.10gで、実施例1と比較すると減少していた。AlN(002)ピークの半値全幅は44arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、AlN(002)ピークが結晶の側面より検出されており、C面が、長手方向と垂直な方向に成長していた。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0064】
実施例5
窒素ガスを流量制御器により0.72m/分となる線速度で反応容器4へ導入し、酸化アルミニウム5の温度を1850℃、窒化アルミニウム基板6の温度を1800℃、温度差を50℃とした以外は実施例1と同様にして実験を行った。反応容器内の温度(酸化アルミニウム5の温度 1850℃)においては窒素ガス流量が7.8L/分となり、該温度における線速度は5.6m/分となった。
【0065】
実験後、窒化アルミニウム基板6上には、結晶の析出が確認された。析出した結晶は上流側から下流側へ向かって成長していた。結晶の最外径は1〜2mm、長さは2〜4mmであった。窒化アルミニウム結晶の析出量は0.05gで、実施例1と比較すると減少していた。AlN(002)ピークの半値全幅は50arcsecであり、窒化アルミニウム単結晶であることが確認された。また、得られた窒化アルミニウム単結晶は、AlN(002)ピークが結晶の側面より検出されており、C面が、長手方向と垂直な方向に成長していた。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0066】
比較例1
窒素ガスを反応容器内に充填した後は窒素ガスの供給を停止し、その他の条件は実施例1と同様にして実験を行った。実験後、窒化アルミニウム基板6上に窒化アルミニウム単結晶の析出は確認できなかった。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0067】
比較例2
窒素ガスを流量制御器により0.72m/分となる線速度で反応容器4内へ導入し、酸化アルミニウム5の温度を1600℃、窒化アルミニウム基板6の温度を1570℃とした以外は実施例1と同様にして実験を行った。反応容器内の温度(酸化アルミニウム5の温度 1600℃)においては窒素ガス流量が6.9L/分となり、該温度における線速度は5.0m/分となった。実験後、窒化アルミニウム基板6上に窒化アルミニウム単結晶の析出は確認できなかった。反応条件を表1に示し、得られた結晶の結果を表2に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【符号の説明】
【0070】
1 単結晶製造装置
2 供給口
3 排出口
4 反応容器
5 酸化アルミニウム
6 窒化アルミニウム基板
7 炭素
8 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内の上流側に酸化アルミニウムを配置し、下流側に窒化アルミニウム基板を配置し、該酸化アルミニウムの温度を1700℃以上2400℃以下の範囲とし、該窒化アルミニウム基板の温度を該酸化アルミニウムの温度よりも低い温度に設定し、かつ酸化アルミニウムの側から窒化アルミニウム基板の側に向けて窒素ガスを線速度0.5〜75.0m/分で流通させることにより、下流側の窒化アルミニウム基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
下流側に配置した窒化アルミニウム基板の温度を上流側の酸化アルミニウムの温度よりも50℃以上低い温度とし、かつ1500℃以上1900℃以下の範囲とする請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
下流側に配置する前記窒化アルミニウム基板として、窒化アルミニウム焼結体よりなる基板を使用することを特徴とする請求項1または2に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
下流側に炭素を存在させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項5】
窒化アルミニウム単結晶の長手方向と垂直な方向にC面が向くように成長した窒化アルミニウム単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−208892(P2010−208892A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56866(P2009−56866)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】