説明

窒化物半導体単結晶

【課題】Si基板上に、無極性面である(11−20)面の窒化物半導体膜が厚さ1μm以上で形成され、発光デバイスにも好適に用いることができる窒化物半導体単結晶を提供する。
【解決手段】Si(110)基板上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を介して、GaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)からなる単結晶膜、あるいはまた、GaN(11−20)およびAlN(11−20)の超格子構造を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、レーザ発光素子、高速高温動作可能電子素子等に好適に用いられる窒化ガリウム(GaN)および窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物半導体単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNやAlNに代表される窒化物半導体は、広いバンドギャップを有しており、高い電子移動度、高い耐熱性等の優れた特性を有する化合物半導体として、発光ダイオード、レーザ発光素子、また、高速高温動作可能電子素子等への応用が期待されている材料である。
【0003】
前記窒化物半導体は、融点が高く、窒素の平衡蒸気圧が非常に高いため、融液からのバルク結晶成長は容易でない。このため、単結晶は、異種基板上へのヘテロエピタキシャル成長により作製されている。
従来、GaN(0001)またはAlN(0001)単結晶膜は、サファイア(0001)、6H−SiC(0001)、Si(111)等の基板上に、バッファー層を介して形成されていた。
【0004】
これらの基板の中でも、Si基板は、他の基板に比べて、結晶性に優れ、広面積で得られ、低価格であることから、窒化物半導体の製造コストを低減することができ、好適であるとされていた。
また、Si基板上への窒化物半導体膜の形成は、現在のシリコンテクノロジーを継承することができるため、産業技術の開発コストにおける優位性からも、実用化が求められている。
【0005】
しかしながら、Si基板上への窒化物半導体単結晶の成膜に際しては、Siと窒化物半導体との熱膨張係数の相違により、窒化物半導体単結晶膜に割れが生じ、また、Siと窒化物半導体との結晶格子定数の差に起因して、多数の結晶欠陥が生じるため、厚さ1μm以上の単結晶膜を形成することは困難であった。
【0006】
このため、Si基板上に窒化物半導体単結晶を成膜する場合、適当なバッファー層を介して形成する必要がある。
このようなバッファー層としては、例えば、Si(110)基板上に3C−SiC(111)を成膜した場合、Si(111)基板を用いた場合よりも、Siと3C−SiCとの格子不整合が緩和され、3C−SiC(111)の結晶性が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、AlNおよびGaNの超格子構造や3C−SiC(111)層を採用することも提案されている。
【特許文献1】特開2005−223206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、窒化物半導体を発光デバイスに利用する際においては、上記のような基板やバッファー層を採用した場合であっても、上記(0001)面の窒化物半導体単結晶では、電子の正孔の再結合が結晶の自発分極により阻害され、発光効率が低下するという課題を有していた。
【0008】
このため、発光効率の向上の観点から、発光デバイスに適した窒化物半導体単結晶としては、無極性の結晶面である(10−10)や(11−20)面等を用いることが求められていた。
【0009】
これに対して、本発明者らは、結晶面が(11−20)のGaN、AlN等の窒化物半導体膜を形成するにあたり、上述したSi(110)基板を用いて、その上に形成する3C−SiCまたはBPバッファー層について検討し、前記窒化物半導体膜を厚さ1μm以上で形成することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、Si基板上に、無極性面である(11−20)面の窒化物半導体膜が厚さ1μm以上で形成され、発光デバイスにも好適に用いることができる窒化物半導体単結晶を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る窒化物半導体単結晶は、Si(110)基板上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を介して形成され、GaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)からなることを特徴とする。
上記のような構成によれば、Si基板上に、厚さ1μm以上で、結晶性に優れた(11−20)面の窒化物半導体単結晶を形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る他の態様の窒化物半導体単結晶は、Si(110)基板上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を介して形成され、GaN(11−20)およびAlN(11−20)の超格子構造からなることを特徴とする。
このように、GaNおよびAlNの超格子構造を形成することにより、窒化物半導体単結晶の結晶性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したとおり、本発明によれば、Si基板上に、無極性の結晶面である(11−20)面の結晶性に優れたGaN、AlNまたはInN単結晶膜を厚さ1μm以上で得ることができる。
さらに、GaNおよびAlNの超格子構造を形成することにより、窒化物半導体単結晶の結晶性をより一層向上させることができる。
したがって、本発明に係る窒化物半導体単結晶は、発光ダイオード、レーザ発光素子、高速高温動作可能電子素子等に好適に用いることができ、特に、発光デバイスに好適であり、これらの素子機能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る窒化物半導体単結晶は、Si単結晶基板上に、SiCまたは/およびBPバッファー層およびAlNバッファー層を介して形成されたGaN、AlNまたはInN単結晶である。
この窒化物半導体単結晶は、Si単結晶基板として(110)面のSi基板を用い、その上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層を形成することにより、結晶性に優れた(11−20)面の単結晶として得られる。
また、この(11−20)面の窒化物半導体単結晶は、Si基板上に形成されることにより、従来のSi半導体製造プロセスにおいて用いられている装置および技術を利用することができ、大口径かつ低コストで得ることができるという利点も有している。
【0015】
本発明において用いられるSi単結晶基板は、その製造方法は、特に限定されない。チョクラルスキー(CZ)法により製造されたものであっても、フローティングゾーン(FZ)法により製造されたものであってもよく、また、これらのSi単結晶基板に気相成長法によりSi単結晶層をエピタキシャル成長させたもの(Siエピ基板)であってもよい。
【0016】
また、前記Si(110)基板は、その上にSiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層を形成する前に、水素ガス等によるクリーニングによって、表面の自然酸化膜を除去し、清浄な状態にしておくことが好ましい。
【0017】
さらに、前記Si単結晶基板上に3C−SiC(110)バッファー層のみを形成する場合は、500〜1100℃でプロパン等の炭化水素系ガスを用いて熱処理して、表面を炭化しておくことが好ましい。
予めこのような炭化処理を施しておくことにより、SiCまたはBPバッファー層形成時に、Si単結晶基板表面からのSiの脱離を防止することができる。
【0018】
また、Si(110)基板上に形成されるSiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層は、SiC(110)層のみ、または、BP(110)層のみでもよく、あるいはまた、SiC(110)層およびBP(110)層の2種で形成してもよい。
【0019】
前記バッファー層において、SiCおよびBPの2種を選択する場合には、BP(110)層を形成した上に、SiC(110)層を形成することが好ましい。
BPは、SiとSiCの中間の格子定数を有するため、Si基板とSiC層との間に配置することにより、バッファー層としての効果を向上させることができ、また、SiC層を効率的に欠陥密度の低い膜として形成することができる。
【0020】
さらに、前記SiC(110)またはBP(110)バッファー層上には、AlN(11−20)バッファー層を形成する。
このAlN(11−20)バッファー層は、基板およびSiC(110)もしくはBP(110)バッファー層と、その上に形成されるGaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)との結晶格子不整合を緩和する役割を果たす。
【0021】
前記AlNバッファー層の厚さは、製造コスト面からは、できる限り薄いことが好ましいが、上述したような基板およびSiC(110)もしくはBP(110)バッファー層と、その上に形成されるGaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)との結晶格子不整合を緩和する効果が十分に得られる程度で形成する。具体的には、厚さ1〜500nm程度であることが好ましい。
前記AlNバッファー層は、例えば、気相成長法により、前記SiC(110)またはBP(110)バッファー層上にエピタキシャル成長させることにより形成することができる。
【0022】
前記AlNバッファー層上に、GaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)をエピタキタキシャル成長させることにより、これらの窒化物半導体単結晶を厚さ1μm以上の優れた結晶性を有する膜として形成することができる。
【0023】
さらに、前記AlNバッファー層上に、GaN(11−20)およびAlN(11−20)を、薄膜として交互に積層させ、超格子構造で構成することにより、これらの窒化物半導体単結晶の結晶性をより一層向上させることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
Si(110)基板を反応管内の成長領域にセットし、キャリアガスとして水素を供給しながら、前記Si基板を1100℃に昇温し、基板表面のクリーニングを行った。
そして、プロパンを供給し、基板温度を500〜1100℃として、Si基板表面を炭化した後、プロパンおよびシランを供給し、厚さ100〜2000nmの3C−SiC(110)バッファー層を成膜した。
次に、基板温度を保持したまま、原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)およびアンモニアを供給し、前記3C−SiC(110)バッファー層上に、厚さ1〜500nmのAlN(11−20)バッファー層を成膜した。
さらに、基板温度を1000℃程度に降温し、原料としてトリメチルガリウム(TMG)およびアンモニアを供給し、GaN(11−20)単結晶層を成膜した。
前記GaN(11−20)単結晶層は、厚さ1μm以上まで形成した場合においても、亀裂や欠陥は認められなかった。
【0025】
[実施例2]
実施例1と同様にして、Si(110)基板上に、3C−SiC(110)バッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を成膜した。
そして、基板温度を1200℃以上に昇温し、原料としてTMAおよびアンモニアを供給し、AlN(11−20)単結晶層を成膜した。
前記AlN(11−20)単結晶層は、厚さ1μm以上まで形成した場合においても、亀裂や欠陥は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si(110)基板上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を介して形成され、GaN(11−20)、AlN(11−20)またはInN(11−20)からなることを特徴とする窒化物半導体単結晶。
【請求項2】
Si(110)基板上に、SiC(110)またはBP(110)のいずれか1種以上からなるバッファー層およびAlN(11−20)バッファー層を介して形成され、GaN(11−20)およびAlN(11−20)の超格子構造からなることを特徴とする窒化物半導体単結晶。

【公開番号】特開2008−184360(P2008−184360A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19021(P2007−19021)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】