説明

窒化物結晶の製造方法、反応容器および結晶製造装置

【課題】反応容器の大幅な破損を効果的に防止しながら、品質の高い窒化物結晶を損傷することなく得ることができるようにすること。
【解決手段】反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を装填し、該反応容器中を超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にして、該反応容器内で窒化物結晶を成長させる際に、反応容器としてその一部に圧力調整領域(23)を備えたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物結晶の製造方法、特に圧力調整領域を有する反応容器を用いた窒化物結晶の製造方法に関する。また本発明は、該製造方法を実施する際に用いる反応容器および結晶製造装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
【0003】
アモノサーマル法に用いられる結晶製造装置としては、例えば特許文献1、2に開示されるように、反応容器を耐圧性容器内に装填した状態で、反応容器内で種結晶上に目的とする単結晶を析出させるものが知られている。
アモノサーマル法では、結晶成長を行うために反応容器内のアンモニアなどの溶媒が超臨界または亜臨界状態となるまで昇温・昇圧する。ここで、特許文献1、2に記載されているような内筒方式の反応容器を使用する場合には、反応容器内と反応容器の外側との間で圧力が略等しくなるように調節する必要がある。これは、反応容器内外での圧力が異なると、反応容器が潰れたり、破裂したりして、破損する可能性が高いからである。
【0004】
反応容器内と反応容器の外側との間で圧力が略等しくなるように調節する手法については、以下のものが開示されている。
特許文献2には、反応容器の内圧が高くなることにより発生する反応容器の破裂を防止する手段として、外壁面全体が変形可能な材料で形成された反応容器を使用することが記載されている。これは、反応容器の内圧が上昇すると反応容器が膨らんで破裂を防止するものである(特許文献2)。
一方、アモノサーマル法ではないが、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶成長する場合の反応容器内外での圧力を調整する方法として、反応容器に圧力調整部としてのベローズを有するものが開示されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263229号公報
【特許文献2】特表2006−514581号公報
【特許文献3】特開2003−63889号公報
【特許文献4】特開2010−53017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の内筒容器を使用したアモノサーマル法では、反応容器内外の圧力バランスを保つための調整は極めて難しく、実際に運用することが難しかった。また、結晶成長中には圧力バランスが取れていたとしても結晶の取り出しまでの過程で反応容器が破損してしまうと繰返し使用ができなかったり、反応容器が潰れた場合には成長した結晶に損傷が及んだり、結晶を取り出すことができないなどの問題もあった。
【0007】
本発明者らの検討では、アモノサーマル法では特に反応容器の外側の圧力が上昇しやすく、その結果、反応容器内外での圧力バランスが崩れやすくなるとの課題を見出した。特に、結晶成長終了後に耐圧性容器内を冷却する場合など温度が変化する過程においては、圧力バランスが崩れやすく、この調整をするのが困難であることが判明した。この課題は、反応容器外側の圧力上昇に関するもので、特許文献2に記載の発明では、解決することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、反応容器の一部に圧力調整領域を備えた反応容器を使用することにより、反応容器を大幅に破損させることなく、良質な窒化物結晶を得ることができ、生産性向上に大きな効果があることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、上記の課題は、以下の本発明の窒化物結晶の製造方法により解決される。
[1] 反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して該反応容器を密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を装填し、該反応容器中を超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にして、該反応容器内で結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、
該反応容器の一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記圧力調整領域が、前記製造方法を実施中の圧力変動による変形により前記窒化物結晶に接触しない位置に形成されている[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記反応容器が、原料を配置する原料域と種結晶を配置する結晶育成域を備えており、前記圧力調整領域が前記原料域に形成されている、[1]または[2]に記載の窒化物結晶製造方法。
[4] 前記反応容器がPt(100-x)Ir(x)〔X=0〜30(重量%)〕からなる、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記圧力調整領域が圧力により変形可能な構造を有する、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記圧力調整領域の反応容器の厚みをT1、前記圧力調整領域以外における反応容器の厚みをT2とした場合に、T1<T2である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] T1/T2が0.5以上1未満である、[6]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 前記圧力調整領域が圧力により変形可能な材料で形成されている、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] 前記圧力調整領域がPt(100-x1)Ir(x1)からなり、前記反応容器の前記圧力調整領域以外の部分がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合、x1<x2(x1、x2ともに重量%)である、[8]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[10] x2−x1が2〜30%である、[9]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[11] 前記圧力調整領域を、反応容器の少なくとも一部を焼きなますことにより形成する、[8]〜[10]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[12] 前記圧力調整領域を、反応容器の少なくとも一箇所を溶接して接続することにより形成する、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【0010】
[13] 反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して該反応容器を密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を設置し、該反応容器中を超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にして、反応容器内で窒化物結晶を成長させるための反応容器であって、
前記反応容器の少なくとも一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする反応容器。
[14] 前記圧力調整領域が、前記窒化物結晶を成長させる際の圧力変動による変形により前記窒化物結晶に接触しない位置に形成されている[13]に記載の反応容器。
[15] 前記反応容器が、原料を配置する原料域と種結晶を配置する結晶育成域を備えており、前記圧力調整領域が前記原料域に形成されている、[13]または[14]に記載の反応容器。
[16] 前記反応容器がPt(100-x)Ir(x)〔X=0〜30(重量%)〕からなる、[13]〜[15]のいずれか1項に記載の反応容器。
[17] 前記圧力調整領域が圧力により変形可能な構造を有する、[13]〜[16]のいずれか1項に記載の反応容器。
[18] 前記圧力調整領域の反応容器の厚みをT1、前記圧力調整領域以外における反応容器の厚みをT2とした場合に、T1<T2である、[13]〜[17]のいずれか1項に記載の反応容器。
[19] T1/T2が0.5以上1未満である、[18]に記載の反応容器。
[20] 前記圧力調整領域が圧力により変形可能な材料で形成されている、[17]〜[19]のいずれか1項に記載の反応容器。
[21] 前記圧力調整領域がPt(100-x1)Ir(x1)からなり、前記反応容器の前記圧力調整領域以外の部分がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合、x1<x2(x1、x2ともに重量%)である、[20]に記載の反応容器。
[22] x2−x1が2〜30%である、[21]に記載の反応容器。
[23] 前記圧力調整領域が、反応容器の少なくとも一部を焼きなますことにより形成されている、[20]〜[22]のいずれか一項に記載の反応容器。
[24] 前記圧力調整領域が、反応容器の少なくとも一箇所を溶接して接続することにより形成されている、[17]〜[23]のいずれか一項に記載の反応容器。
[25] 超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にて窒化物結晶を成長させる結晶製造装置であって、[13]〜[24]のいずれか1項に記載の反応容器と、該反応容器全体を装填するための耐圧性容器を含む結晶製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、容易に反応容器の破損を防止し、品質の高い窒化物結晶を損傷することなく得ることができる。このため、反応容器を複数回用いることができ、生産性向上に大きな効果がある。また、本発明の製造方法により得られる窒化物結晶は均一で高品質であるために、発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として有用である。本発明の反応容器や結晶製造装置を用いれば、このような本発明の製造方法を簡便に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】本発明で用いることができる反応容器の断面図である。
【図3】本発明で用いることができる別の反応容器の断面図である。
【図4】本発明で用いることができるさらに別の反応容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の半導体結晶の製造方法、およびそれに用いる反応容器や結晶製造装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の窒化物結晶の製造方法は、反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を装填し、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、前記反応容器の一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の結晶製造方法で得られる結晶は窒化物単結晶であれば特に限定されないが、例えばIII族窒化物結晶が好ましく、中でも窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などがより好ましい。本明細書においては、窒化ガリウム(GaN)を例として説明するが、本発明の製造方法はこれに限られるものではない。
【0016】
本発明における反応容器中で超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う場合の結晶成長の条件としては、例えばGaNであれば特開2009−263229号公報に開示されているような原料、鉱化剤、種結晶、溶媒、温度、圧力などの条件を好ましく用いることができる。また、本製造方法に用いる結晶製造装置、及び具体的な手順においても、特開2009−263229号公報に開示されている方法を好ましく用いることができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0017】
具体的に、種結晶、鉱化剤、原料、溶媒、温度、圧力について以下に説明する。
結晶成長では結晶成長の核として種結晶を用いることが好ましい。種結晶としては、特に限定されないが、成長させる結晶と同種のものが好ましく用いられる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)またはこれらの混晶等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、成長させる結晶との格子整合性などを考慮して決定することができる。例えば、種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、Gaなどの金属からNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶及びそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0018】
本発明の結晶成長では、鉱化剤を用いることが好ましい。アンモニアなどの窒素を含有する溶媒に対する結晶原料の溶解度が高くないために、溶解度を向上させるために鉱化剤を用いる。
用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物が好ましい。ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン元素を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。ハロゲン化アンモニウムとしては、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。
【0019】
前記鉱化剤として、フッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、複数種を適宜混合して用いてもよい。
前記鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせは、塩素とフッ素、臭素とフッ素、ヨウ素とフッ素といった2元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とフッ素、塩素とヨウ素とフッ素、臭素とヨウ素とフッ素といった3元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とヨウ素とフッ素といった4元素の組み合わせであってもよい。本発明で用いる鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせと濃度比(モル濃度比)は、成長させようとしている窒化物結晶の種類や形状やサイズ、種結晶の種類や形状やサイズ、使用する反応装置、採用する温度条件や圧力条件などにより、適宜決定することができる。
【0020】
前記結晶成長では、ハロゲン元素を含む鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を0.01質量部以上とすることが好ましく、0.1質量部以上とすることがより好ましく、0.2質量部以上とすることがさらに好ましく、また、50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることがより好ましく、5質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
前記結晶成長で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用することができる。前記鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
前記鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0022】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0023】
本発明の結晶成長においては、種結晶上に成長させようとしている窒化物結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料及び/又は13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0024】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0025】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0026】
反応容器内に充填して結晶成長に用いられる第一溶媒であるアンモニアは、溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましい。具体的には、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0027】
結晶成長においては、全体を加熱して反応容器内を含めて耐圧性容器内全体を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0028】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は結晶性および生産性の観点から、120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0029】
反応容器内の温度範囲は、結晶性および生産性の観点から、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料域の温度が、結晶育成域の温度よりも高いことが好ましい。原料域と結晶育成域との温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0030】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上とし、また、通常95%以下、好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とする。
【0031】
反応容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、および/または外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。通常は、原料域の温度と結晶育成域の温度の平均値を平均温度とする。
【0032】
本発明の窒化物結晶の製造方法においては、種結晶に前処理を加えておくことができる。前記前処理としては、例えば、種結晶にメルトバック処理を施したり、種結晶の成長面を研磨したり、種結晶を洗浄するなどが挙げられる。
【0033】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0034】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常−80℃以上、好ましくは−33℃以上であり、また、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。ここで、反応容器に接続したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。なお、結晶成長後には例えば自然冷却または強制冷却により1〜48時間かけて室温まで冷却することができる。
【0035】
耐圧性容器は高温環境での強度に優れた材料からなることが必要であり、その内壁がNi又はCrを含む金属からなることが好ましい。また耐圧性容器は、本発明で用いる反応容器全体を装填することができる内容積を有するものであることが必要である。反応容器を装填して密封したときに、耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間には空隙が存在するが、その空隙の体積は反応容器の内容積を100体積%としたときに、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、また、200体積%以下であることが好ましく、100体積%以下であることがより好ましい。空隙の体積の割合が小さすぎる場合、反応容器の外壁と耐圧性容器の内壁の間隔が狭くなりすぎるために、カプセルの変形により反応容器の外壁が耐圧性容器と接触することがあり反応容器を耐圧性容器から取り出すことが困難になることがある。また、空隙の体積の割合が大きすぎる場合、反応容器の体積が小さくなり生産可能な窒化物結晶の量および結晶の大きさが制限され生産性を低下させることがある。
【0036】
反応容器はアンモニア溶媒や鉱化剤などに対する耐腐食性に優れた材料からなることが必要であり、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることが好ましい。ここでいう該金属を主成分とする合金とは、合金におけるRh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWの合計含有量が合金の全重量の50%以上であることを意味し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。反応容器は、上記金属群のうち、少なくともIr,Pt,Taのいずれかを含むことが好ましく、少なくともIr,Ptのいずれかを含むことがより好ましい。さらに好ましくは、PtもしくはPt(100-x)Ir(x)[x=0〜30(重量%)]合金からなる反応容器である。中でもxは3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0037】
反応容器の具体的な構造は特に制限されないが、典型的な反応容器は結晶育成用の原料を入れる原料域と結晶を育成させる結晶育成域を備えている。結晶育成域には種結晶を設置することができ、結晶育成領域と原料域とはバッフル板で分けられているのが一般的である。
本発明に用いる反応容器は、少なくとも一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする。ここでいう圧力調整領域とは、本発明の製造方法における圧力変動に対して、圧力調整領域以外の領域(非圧力調整領域)よりも形状が変化しやすいために反応容器にかかる圧力をより多く吸収することができる領域を意味する。すなわち、圧力調整領域は、それ以外の領域よりも小さな圧力変動で変形しやすい。圧力調整領域は、例えば、圧力により変形可能な材料で形成されているものであってもよいし、圧力により変形可能な構造を有するものであってもよい。
【0038】
圧力調整領域を圧力により変形可能な材料で形成する場合は、圧力変化に対して変形しやすい材料を圧力調整領域に用い、それ以外の領域には圧力変化に対して変形しにくい材料を用いることができる。例えば、Pt−Ir合金の場合には、Irの含有率を増加させると、圧力変化に対してより変形しにくくなることから、圧力調整領域をPt(100-x1)Ir(x1)、圧力調整領域以外の反応容器をPt(100-x2)Ir(x2)から形成する場合に、x1<x2(x1、x2ともに重量%)とすることが挙げられる。Irの含有率の差であるx2−x1は、圧力変化による変形のしやすさに十分な差を付けるために2%以上に設定することが好ましく、5%以上に設定することがより好ましく、また、適度な強度を得るために30%以下に設定することが好ましく、15%以下に設定することがより好ましい。材料を選択することにより形成した圧力調整領域の具体例を図2に示す。図中、圧力調整領域23はハッチで示されており、非圧力調整領域24は白抜きで示されている。図2(a)は、原料域8を画定する反応容器の側壁と底部を圧力により変形しやすい材料で構成して圧力調整領域23としたものである。図2(b)は、結晶育成域7の上端にのみ種結晶4を設置してその周りだけを非圧力調整領域24として、それ以外を圧力調整領域23としたものである。図2(c)は、結晶育成域7の下方にのみ種結晶4を設置してその周りの内壁だけを非圧力調整領域24として、それ以外を圧力調整領域23としたものである。図2(d)は、原料域8の下方壁面だけを圧力により変形しやすい材料で構成して圧力調整領域23としたものである。このように、圧力調整領域は任意の位置に形成することが可能である。
【0039】
また、反応容器全体を同じ材料で形成した後に、圧力調整領域とする部分を高温で焼きなます方法も採用することができる。焼きなましの条件は、変形可能な材料とすることができれば特に規定されないが、例えば500〜1200℃で1〜12時間、大気または窒素または不活性ガス雰囲気中で金属を加熱すればよい。なお、本明細書において「焼きなまし」とは、材料に熱処理を施すことにより、熱処理前の材料と比較して軟化させ、展延性を向上させることができればよい。
さらに、圧力調整領域を溶接で形成する方法なども採用することができる。溶接することにより、圧力変化に対して変形しやすい領域とすることができる。溶接方法は特に問わないが、例えば、TIG溶接、ガス溶接等がある。
【0040】
圧力調整領域を圧力により変形可能な構造とする場合は、圧力変化に対して変形しやすい構造を圧力調整領域に形成し、それ以外の領域には圧力変化に対して変形しにくい構造を形成することができる。変形可能な構造の例として、ベローズや、圧力調整領域以外の反応容器の厚みよりも薄くした構造が挙げられる。
ベローズの具体的な構造については、水熱合成法に用いられる構造などを適宜選択して採用することができる。具体的には、図3に示すベローズ25を例示することができる。ベローズの形成位置は得られる窒化物結晶を損傷しない位置であれば特に制限されない。例えば、図3(a)に示すように原料域8の下方に形成してもよいし、図3(b)に示すように結晶育成域7の上方に形成してもよい。原料域8の下方に形成すれば、圧力調整領域が収縮ないし破損した場合であっても、結晶から遠いために結晶に影響が及びにくいという利点がある。一方、結晶育成域7の上方に形成すれば、バッフル板6の開孔に多結晶などが析出して結晶育成域7と原料域8の通気性が低下した場合であっても、結晶育成域7に形成された窒化物結晶を保護しやすいという利点がある。ベローズ25は、原料域8の下方と結晶育成域7の上方の両方に形成してもよい。なお、ベローズの材質は、他の反応容器の壁面と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
反応容器の厚みを調整することにより圧力調整領域を形成する場合は、圧力調整領域の反応容器の厚みをT1、圧力調整領域以外における反応容器の厚みをT2としたときに、T1<T2となるようにする。T1は、強度や取り扱い易さのため、0.2mm以上にすることが好ましく、0.3mm以上にすることがより好ましい。また、T2はコストや取り扱い易さのため、2.0mm以下にすることが好ましく、1.0mm以下にすることがより好ましい。また、T1とT2の厚みの比(T1/T2)は、必要な強度の維持と変形しやすさのバランスを取りやすいという理由で、0.5以上にすることが好ましく、また、1未満にすることが好ましい。厚みを調整した圧力調整領域の具体例を図4に示す。図4(a)と(b)は、原料域8を画定する反応容器の側壁と底部の厚みを薄くしたものである。図4(a)では非圧力調整領域24を画定する反応容器の側壁が内側へ厚くなるように肉厚化して結晶育成域7の内容積が小さくなるように構成されている。図4(b)では非圧力調整領域24を画定する反応容器の側壁が外側へ厚くなるように肉厚化して結晶育成域7の内径が原料域8と変わらないように構成されている。図4(c)は原料域8の底部だけを薄くして圧力調整領域23としたものであり、図4(d)は原料域8を画定する側壁の下方の一部だけを薄くして圧力調整領域23としたものである。図4(c)と(d)のように構成することにより、圧力調整により変形する箇所を任意の位置に限定することが可能である。
【0042】
これらの変形可能な材料や構造は、単独で採用してもよく、または複数を組み合わせて採用して圧力調整領域としてもよい。加工のしやすさ、扱いやすさ、単純な構造を維持できる等の理由から、圧力調整領域の材質がPt(100-x1)Ir(x1)、圧力調整領域以外の反応容器の材質がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合にx1<x2とすること、圧力調整領域を焼きなましで形成すること、圧力調整領域の厚み(T1)を圧力調整容器以外の反応容器の厚み(T2)より薄くする(T1<T2)とすることが好ましい。
【0043】
本発明の効果を達成できる限り、圧力調整領域は反応容器のいずれの部分に形成してもよい。また、圧力調整領域は、一箇所に形成してもよいし、図2(c)に示すように複数箇所に形成してもよい。圧力調整領域は、得られる結晶の損傷防止のために、本発明の製造方法を実施中の圧力変動による変形により窒化物結晶に接触しない位置に形成されていることが好ましい。
【0044】
反応容器の外圧が上昇して、反応容器が潰れた場合に、育成した窒化物結晶が押しつぶされることによる損傷の防止や、反応容器が破損して、反応容器外側の第二溶媒が反応容器内に流入することによる結晶の汚染を防止するためには、圧力調整領域は、反応容器の原料域に形成するのが好ましい。圧力調整領域は、反応容器内の原料域の内表面積(原料域において内容物が接することができる反応容器の内表面積)の10〜100%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましい。また、結晶育成域に調整領域を設ける場合は、窒化物結晶の損傷の防止するため、結晶育成域内に種結晶を配置しない部分を作り、その部分に圧力調整領域を設けるのが好ましい。例えば、結晶育成域最上部(原料域とは反対側の閉端部付近)には種結晶を配置せず、その部分を圧力調整領域にすることができる。なお、圧力調整領域は、反応容器内の全内表面積(内容物が接することができる反応容器の全内表面積)の4%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましく、12%以上であることがさらに好ましく、また、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0045】
図1に、本発明の結晶製造装置の例を示す。本発明で反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒は、反応容器の内側と外側をほぼ等しい圧力にすることができる溶媒であればその種類は限定されない。そのような第二溶媒としては、例えば、アンモニア、水、アルコール、二酸化炭素などを用いることができる。反応容器の内側と外側の圧力差を小さくするためには、第二溶媒は、反応容器内の第一溶媒として用いられるアンモニアと性質の近い(つまり内容積一定条件において充填率と温度−圧力の関係がアンモニアの温度−圧力変化に近い)溶媒であることが好ましく、アンモニアを用いることが特に好ましい。その理由は、性質の近い溶媒を用いると、原料の溶解析出によって結晶成長反応を行うために温度を上げたとき、特に昇温過程において、反応容器の内側と外側の圧力をほぼ同じに保つことが容易になるからである。通常、反応容器の内側と外側には同質の溶媒を用い、反応容器内の溶媒の充填率と反応容器と耐圧性容器の間の空隙の充填率をほぼ同じにすることが好ましい。具体的には、充填率を百分率で表したときに、反応容器内の溶媒の充填率と反応容器と耐圧性容器の間の空隙の充填率の差が±10%以内にすることが好ましく、±5%以内にすることがより好ましい。より厳密には加熱炉のデザイン、耐圧性容器内の反応容器の配置などにより、反応容器内と反応容器外のアンモニアの温度が異なることがあるため、それぞれの温度に合わせて充填率を変化させ反応容器内と反応容器外との圧力がほぼ同じになるようにすることがより好ましい。
【0046】
反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒がアンモニアである場合、通常は、該アンモニアは原料等と直接触れることはないので、不純物等の物性に関しては特に問題とならないが、反応容器内のアンモニアと反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填されるアンモニアの物理的な物性をほぼ等しくするためには、アンモニアに含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましい。水と酸素の合計含有量は、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。水や酸素量をできるだけ少なくすることは、耐圧性容器の腐食を抑制する観点からも有効である。
【0047】
本発明者らの検討においては、耐圧性容器及び反応容器に用いる材料として特定のものを用いた場合に、特に反応容器の外側の圧力が上昇しやすく、その結果、反応容器内外での圧力バランスが崩れやすくなるとの課題を見出すに至った。この要因については明らかではないが、次のようなことが考えられる。一般的に、反応容器としては、Ptなどの貴金属といった耐腐食性に優れた材料を用いるのに対して、耐圧性容器としてはNi,Crなどを含む高温環境での強度に優れた材料を用いる。つまり、反応容器の内側のアンモニアは貴金属しか接していないが、反応容器の外側のアンモニアは貴金属以外にNi,Cr等のアンモニアを分解させ得る金属に接している。よって、結晶成長反応を行うために温度を上げたときに、反応容器の外側のアンモニアのごく一部が分解して窒素と水素になることにより、圧力がわずかに上昇してしまうことが考えられる。
【0048】
このような場合に、圧力調整領域を少なくとも一部に有する反応容器を使用することで、結晶育成域にある窒化物結晶から離れた反応容器の圧力調整領域が変形することで育成した窒化物結晶に損傷を与えずに窒化物結晶を得ることができる。変形した圧力調整領域は、変形の程度がわずかであればそのまま次の窒化物結晶の成長に利用することができる。また、変形した圧力調整領域は元の形に復元してから次の窒化物結晶の成長に利用することもできる。復元の方法としては、例えば、金型を用いて機械的に成型する方法、水、油、気体を反応容器内に充填することにより内部圧力を上昇させて膨張させる方法、ロール成形機により修正する方法などを挙げることができる。また、変形した圧力調整領域を切断して、新たな圧力調整領域を接合することにより非圧力調整領域のみを再利用することも可能である。
【実施例】
【0049】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
<実施例1>
図1に示す結晶製造装置を用いてアモノサーマル法にてGaN結晶の製造を行った。ここでは、内寸が直径30mm、長さが450mmのRENE41製オートレーブ1を耐圧性容器として使用し、内寸が直径25mm、長さが300mm、厚みが0.6mmの筒状の内筒2を反応容器として使用した。内筒2は、長さが160mmのPt90%−Ir10%合金からなる結晶育成域7と、長さが140mmのPtからなる原料域8で構成されており、原料域8が圧力調整領域23として機能するようになっている(図2(a)参照)。内筒2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3をした状態で、オートクレーブ1と内筒2との間には第二溶媒を充填することができる空隙(オートクレーブ内容積−内筒容積)が約70cm3存在していた。
十分に乾燥した窒素雰囲気グローブボックス内にて多結晶GaN粒子を内筒2の下部領域(原料域)8内に原料5として設置した。さらに下部の原料域8と上部の結晶育成域7の間に白金製のバッフル板6(開口率20%)を設置した。種結晶4としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶(10mm×5mm×0.3mm)4枚とHVPE法によって自発核生成した粒子状結晶(約5mm×5mm×5mm)2個を用いた。これら種結晶4を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種子結晶支持枠に吊るし、内筒上部の結晶育成域7に設置した。真空ポンプを用いて内筒2内を真空脱気して、内筒2内を窒素ガスにて5回パージした後、鉱化剤としてHClガスをアンモニアに対する濃度が3mol%になるように液体窒素温度にて充填した。次にNH3を内筒2の有効容積の約58%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、内筒2を密封した。
【0051】
内筒2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3を閉じた。オートクレーブ1内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、第二溶媒としてNH3をオートクレーブ1内に充填した。このとき、NH3をオートクレーブ1と内筒2の空隙の約60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した。
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーター11,12で構成された電気炉内に収納した。熱電対16で測定したオートクレーブ1外表面の結晶育成域7の温度が620℃、熱電対17で測定した原料域の温度が640℃(温度差20℃:平均温度630℃)になるように9時間かけて昇温し、設定温度に達した後、その温度にて4日間保持した。オートクレーブ1内の圧力は230MPaであった。
【0052】
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで8時間かけて自然冷却し、オートクレーブ1に付属したバルブ9を開放し、オートクレーブ1内のNH3を取り除いた。その後オートクレーブ1を計量しNH3の排出を確認した後、オートクレーブ蓋3を開け、内筒2を取り出した。内筒2上部に付属したチューブ(図示せず)に穴を開け内筒2内部からNH3を取り除いた。
内筒2の原料域8は収縮したが、結晶育成域7は変形せず、結晶を無事に取り出すことができた。また、収縮した原料域8は容易に元の形状に復元することができ、再利用することができた。また、復元せずに原料域8を付け替えることにより結晶育成域を再利用することも可能であった。
結晶を確認したところ、すべての種結晶全面に均一に窒化ガリウム結晶が析出していた。種結晶上に成長した窒化ガリウム結晶をX線回折測定した結果、結晶系は六方晶系であり、立方晶GaNは含まれていないことが確認された。
【0053】
<実施例2>
表1に記載されるように、厚みが0.5mmのPt80%−Ir20%合金からなる結晶育成域7と、厚みが0.5mmのPt90%−Ir10%からなる原料域8で構成されており、原料域8が圧力調整領域23として機能する内筒2(図2(a)参照)を用いること以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長を行う。
内筒2の原料域8は収縮するが結晶育成域7は変形せず、結晶を無事に取り出すことができる。
【0054】
<実施例3>
表1に記載されるように、厚みが0.6mmのPt90%−Ir10%合金からなる結晶育成域7と、厚みが0.45mmのPt90%−Ir10%からなる原料域8で構成されており、原料域8が圧力調整領域23として機能する内筒2(図4(b)参照)を用いること以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長を行う。
内筒2の原料域8は収縮するが結晶育成域7は変形せず、結晶を無事に取り出すことができる。
【0055】
<実施例4>
表1に記載されるように、内筒2の材料をPt90%−Ir10%(厚みは0.6mm)とし、内筒2の原料域8のみを空気中、1100℃で10時間焼きなまして圧力調整領域とし、内寸が直径70mm、長さが1050mmのRENE41製オートレーブ1を耐圧性容器として使用する以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長を行う。
内筒2の原料域8は収縮するが結晶育成域7は変形せず、結晶を無事に取り出すことができる。
【0056】
<比較例1>
表1に記載されるように、厚みが0.6mmのPtからなり、圧力調整領域が形成されていない内筒2を用いること以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長を行う。
内筒2は、原料域8、結晶育成域7ともに収縮し、反応容器内壁が結晶に接触し、結晶の一部にクラックが発生する。
【0057】
<比較例2>
表1に記載されるように、厚みが0.45mmのPt90%−Ir10%からなり、圧力調整領域が形成されていない内筒2を用いること以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。
内筒2は、原料域8、結晶育成域7ともに収縮し、反応容器内壁が結晶に接触し、または結晶同士がぶつかり、結晶の一部にクラックが発生した。
実施例1〜4により、反応容器の少なくとも一部に圧力調整領域を設置することにより、育成した結晶に損傷を与えることなく取り出すことができる一方、比較例1、2のように、反応容器に圧力調整領域を設置しない場合には、反応容器全体が収縮し、反応容器内壁が結晶に接触し結晶にクラックが発生するなどの問題がある。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、III族窒化物の塊状単結晶、とりわけGaNの塊状単結晶の育成に有用である。本発明の製造方法によれば容易に反応容器内外の圧力バランスを保つことができ、品質の高い窒化物結晶を得ることができる。さらに反応容器を複数回用いることが可能であり、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。よって、本発明は産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0060】
1 耐圧性容器(オートクレーブ)
2 反応容器(内筒)
3 オートクレーブ蓋
4 種結晶
5 原料
6 バッフル板
7 結晶育成域
8 原料域
9 バルブ
10 保温材
11 結晶育成域ヒーター
12 原料域ヒーター
13 導管
14 排気管
15 真空ポンプ
16 熱電対1
17 熱電対2
18 破裂板
19 マスフローメーター
20 アンモニアボンベ
21 窒素ボンベ
22 圧力センサー
23 圧力調整領域
24 非圧力調整領域
25 ベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して該反応容器を密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を装填し、該反応容器中を超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にして、該反応容器内で結晶成長を行う窒化物結晶の製造方法であって、
該反応容器の一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記圧力調整領域が、前記製造方法を実施中の圧力変動による変形により前記窒化物結晶に接触しない位置に形成されている請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記反応容器が、原料を配置する原料域と種結晶を配置する結晶育成域を備えており、前記圧力調整領域が前記原料域に形成されている、請求項1または2に記載の窒化物結晶製造方法。
【請求項4】
前記反応容器がPt(100-x)Ir(x)〔X=0〜30(重量%)〕からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記圧力調整領域が圧力により変形可能な構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記圧力調整領域の反応容器の厚みをT1、前記圧力調整領域以外における反応容器の厚みをT2とした場合に、T1<T2である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
T1/T2が0.5以上1未満である、請求項6に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記圧力調整領域が圧力により変形可能な材料で形成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記圧力調整領域がPt(100-x1)Ir(x1)からなり、前記反応容器の前記圧力調整領域以外の部分がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合、x1<x2(x1、x2ともに重量%)である、請求項8に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
x2−x1が2〜30%である、請求項9に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
前記圧力調整領域を、反応容器の少なくとも一部を焼きなますことにより形成する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記圧力調整領域を、反応容器の少なくとも一箇所を溶接して接続することにより形成する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
反応容器に少なくとも原料とアンモニア溶媒を充填して該反応容器を密閉した後、耐圧性容器内に該反応容器を設置し、該反応容器中を超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にして、反応容器内で窒化物結晶を成長させるための反応容器であって、
前記反応容器の少なくとも一部に圧力調整領域を備えることを特徴とする反応容器。
【請求項14】
前記圧力調整領域が、前記窒化物結晶を成長させる際の圧力変動による変形により前記窒化物結晶に接触しない位置に形成されている請求項13に記載の反応容器。
【請求項15】
前記反応容器が、原料を配置する原料域と種結晶を配置する結晶育成域を備えており、前記圧力調整領域が前記原料域に形成されている、請求項13または14に記載の反応容器。
【請求項16】
前記反応容器がPt(100-x)Ir(x)〔X=0〜30(重量%)〕からなる、請求項13〜15のいずれか1項に記載の反応容器。
【請求項17】
前記圧力調整領域が圧力により変形可能な構造を有する、請求項13〜16のいずれか1項に記載の反応容器。
【請求項18】
前記圧力調整領域の反応容器の厚みをT1、前記圧力調整領域以外における反応容器の厚みをT2とした場合に、T1<T2である、請求項13〜17のいずれか1項に記載の反応容器。
【請求項19】
T1/T2が0.5以上1未満である、請求項18に記載の反応容器。
【請求項20】
前記圧力調整領域が圧力により変形可能な材料で形成されている、請求項17〜19のいずれか1項に記載の反応容器。
【請求項21】
前記圧力調整領域がPt(100-x1)Ir(x1)からなり、前記反応容器の前記圧力調整領域以外の部分がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合、x1<x2(x1、x2ともに重量%)である、請求項20に記載の反応容器。
【請求項22】
x2−x1が2〜30%である、請求項21に記載の反応容器。
【請求項23】
前記圧力調整領域が、反応容器の少なくとも一部を焼きなますことにより形成されている、請求項20〜22のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項24】
前記圧力調整領域が、反応容器の少なくとも一箇所を溶接して接続することにより形成されている、請求項17〜23のいずれか一項に記載の反応容器。
【請求項25】
超臨界および/または亜臨界アンモニア雰囲気にて窒化物結晶を成長させる結晶製造装置であって、
請求項13〜24のいずれか1項に記載の反応容器と、該反応容器全体を装填するための耐圧性容器を含む結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153598(P2012−153598A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13527(P2012−13527)
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】