説明

粉末クラッド製造ラインの運転制御方法及び装置

【課題】板の幅に一致した幅で粉末を供給して圧着することができ、且つ粉末クラッドコイルの幅端面を揃えて巻き取れるようにする。
【解決手段】板コイル2の板1を巻き出す巻戻機3と、板1を引き込んで板1の表面に粉末を圧着して粉末圧着材5aを送り出す粉末圧延機4と、粉末圧着材5aを加熱し粉末を板1に融着させて粉末クラッド5を形成する加熱炉6と、粉末クラッド5を巻き取る巻取機10とを順次備えた粉末クラッド製造ラインの運転制御方法であって、巻戻機3と粉末圧延機4との間の板1の張力を一定に保持しつつ粉末圧延機4入口の板1の蛇行制御を行い、且つ、加熱炉6出口の粉末クラッド5の張力を一定に保持しつつ巻取機10入口の粉末クラッド5の蛇行に追随して巻取機10により幅端面を揃えて粉末クラッドコイル9に巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板の表面に粉末を圧着して粉末圧着材を形成し、続いて粉末圧着材を加熱して板に粉末を融着させることにより製造する粉末クラッドを高品質且つ安定に製造できるようにした粉末クラッド製造ラインの運転制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、ステンレス、耐熱合金等の金属板の両面又は片面に、ニッケル等を主成分とする金属の粉末を一体化することにより、ロウ材層を有する粉末クラッドを製造することが行われており、このような粉末クラッドを製造する際には、図7に示すような設備を使用することが提案されている。
【0003】
図7に示される粉末クラッド製造設備は、母材である板1が巻かれた板コイル2を一定速度で巻き出すようにした巻戻機3と、該巻戻機3から巻き出された板1を引き込んで板1の表面に金属粉末(粉末)を圧着し粉末圧着材5aを形成して送り出す粉末圧延機4と、該粉末圧延機4からの粉末圧着材5aを加熱して板1に粉末を融着させることにより粉末クラッド5を形成する加熱炉6と、該加熱炉6で粉末が融着した粉末クラッド5を冷却する冷却器7と、該冷却器7で冷却した粉末クラッド5を必要に応じて圧延する圧延機或いはピンチロール8と、該圧延機或いはピンチロール8を経た粉末クラッド5を粉末クラッドコイル9に巻き取る巻取機10とを備えてなる構成を有している。
【0004】
前記粉末圧延機4は、対向配置して回転駆動する一対のロール11と、該各ロール11上に粉末を供給する粉末供給装置12とを備え、回転駆動された一対のロール11間に上方から下方へ向け板1を導入しつつ、前記粉末供給装置12により各ロール11上に粉末を供給することにより、前記板1の両面に粉末を圧着させて粉末圧着材5aを形成するようになっている。13a,13bはブライドルロールを兼ねた方向変えロールであり、水平方向に送られる板1を粉末圧延機4に対して鉛直に導くようにしている。
【0005】
前記加熱炉6には通常、図示しない電気ヒータが備えてあり、該電気ヒータは加熱炉6内部の不活性ガスの雰囲気温度を高めて輻射熱により粉末圧着材5aの粉末が融解される温度まで加熱することにより粉末を板1に融着させて粉末クラッド5を形成するようにしている。冷却器7は粉末クラッド5を冷却して板1に融着した粉末粒子を固化させる。
【0006】
前記粉末クラッド製造設備により粉末クラッド5を製造するには、巻戻機3から巻き出した板1を粉末圧延機4により一定速度で引き込むと共に、粉末供給装置12により各ロール11上に粉末を供給することにより板1の両面に粉末を圧着して粉末圧着材5aを送り出す。この時、粉末圧延機4の圧延駆動による板1の引き込みに対して巻戻機3の巻き出しにブレーキを作用することにより、粉末圧延機4と巻戻機3との間の板1には所定の張力が付与されている。
【0007】
粉末が圧着された粉末圧着材5aは加熱炉6に導かれて加熱され、粉末が融解されて板1に融着することにより粉末クラッド5が形成される。この時、加熱によって粉末の粒子表面又はその一部が融解して(液相を出させて)軟化することにより粉末は板1に融着する。続いて、粉末クラッド5は冷却器7に導入され冷却されて粉末粒子が固化された後、圧延機或いはピンチロール8を経て巻取機10に巻き込まれて一定の巻取り速度で巻き取られることにより粉末クラッドコイル9が形成される。粉末クラッド5は巻取機10の巻き取りによって引っ張られることにより粉末圧延機4と巻取機10との間の張力が所定の値に保持される。
【0008】
尚、前述の如き粉末クラッド製造設備と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2005−186127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ロウ材に用いられる粉末は一般的に高価であり、このため、粉末圧延機4においては図8に示すように板1の幅に一致した供給幅Wで粉末を各ロール11上に供給することによって、粉末を無駄なく板1に圧着させるようにしている。従って、粉末圧延機4入口の板1が蛇行した場合には、板1に対する粉末の圧着位置がずれてしまい、粉末が圧着されない部分が生じて粉末クラッド5の品質が大幅に低下し、又、粉末が圧着されなかった部分を切除する場合には歩留まりが低下する問題がある。
【0010】
このため、粉末圧延機4入口の板1は蛇行を防止する必要がある。しかし、前記クラッド製造設備で用いる板1には、一般に図9に示すような広幅の板材Sを所要幅に切断したスリット材が用いられている。図9に示すような広幅の板材Sは、一般に圧延成形時のロールクラウン等により板厚が幅方向で不均一となっており、このために板材Sを所要幅に切断したスリット材は幅方向で厚さが異なる場合が多い。このように幅方向で厚さが異なる板1を図7に示すようなクラッド製造設備に用いた場合には、板1は蛇行し、そのために、板1が粉末圧延機4の安定した位置に供給されないばかりか、板1がラインから外れて運転が停止される場合も発生する。
【0011】
一方、巻取機10入口において粉末クラッド5が蛇行した場合には、粉末クラッド5が幅方向にずれて巻き取られることになり、このために粉末クラッドコイル9の端面に凸凹が生じて粉末クラッドコイル9の品質が大幅に低下してしまう問題がある。
【0012】
従って、粉末クラッド製造設備においては、粉末圧延機4入口の板1の蛇行を防止すること、及び、巻取機10入口の粉末クラッド5の蛇行を防止することが要求される。
【0013】
このため、粉末圧延機4入口の板1、及び、巻取機10入口の粉末クラッド5の蛇行を防止することが考えられるが、単に上記蛇行を防止しようとしても、板1或いは粉末クラッド5の張力が変動すると蛇行は大きく変化するという問題があり、従って、張力を安定に制御しつつ蛇行制御を行う必要があるが、従来の粉末クラッド製造設備においてはこのような装置を備えたものは存在していない。
【0014】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなしたもので、板の幅に一致した幅で粉末を供給して圧着することができ、且つ粉末クラッドコイルの幅端面を揃えて巻き取ることができるようにして、品質の優れた粉末クラッドコイルを安定して製造できるようにした粉末クラッド製造ラインの運転制御方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、板コイルの板を巻き出す巻戻機と、前記板を引き込んで板の表面に粉末を圧着して粉末圧着材を送り出す粉末圧延機と、前記粉末圧着材を加熱し粉末を板に融着させて粉末クラッドを形成する加熱炉と、前記粉末クラッドを巻き取る巻取機とを順次備えた粉末クラッド製造ラインの運転制御方法であって、巻戻機と粉末圧延機との間の板の張力を一定に保持しつつ粉末圧延機入口の板の蛇行制御を行い、且つ、加熱炉出口の粉末クラッドの張力を一定に保持しつつ巻取機入口の粉末クラッドの蛇行に追随して巻取機により幅端面を揃えて粉末クラッドコイルに巻き取ることを特徴とする粉末クラッド製造ラインの運転制御方法、に係るものである。
【0016】
本発明は、板コイルの板を巻き出す巻戻機と、前記板を引き込んで板の表面に粉末を圧着して粉末圧着材を送り出す粉末圧延機と、前記粉末圧着材を加熱し粉末を板に融着させて粉末クラッドを形成する加熱炉と、前記粉末クラッドを巻き取る巻取機とを順次備えた粉末クラッド製造ラインの運転制御装置であって、巻戻機と粉末圧延機との間の板の張力を一定に保持するための板張力制御手段と、粉末圧延機入口の板の幅方向位置を一定に保持するための板蛇行制御手段と、加熱炉下流の粉末クラッドの張力を一定に保持するための粉末クラッド張力制御手段と、粉末クラッドが蛇行しても巻取機により幅端面を揃えて粉末クラッドコイルに巻き取るための追随巻取制御手段と、を備えたことを特徴とする粉末クラッド製造ラインの運転制御装置、に係るものである。
【0017】
上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、板張力制御手段は、粉末圧延機の板の引き込みに対して巻戻機に一定のブレーキ力を作用させることにより板に所定の張力を付与するブレーキ装置と、板コイルの径の変化を検出するコイル径検出器と、コイル径検出器で検出した板コイルのコイル径が変化して巻戻機に作用するモーメントが変化しても板の張力が一定に保持されるようにブレーキ装置のブレーキ力を補正するブレーキ力補正制御器とを有することは好ましい。
【0018】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、板蛇行制御手段は、粉末圧延機入口に設けた方向変えロールと、該方向変えロールと粉末圧延機との間において板の幅端部位置を検出するエッジセンサと、該エッジセンサによる板の検出位置に基づいて前記方向変えロールをスキューさせて板の幅方向位置を制御する蛇行制御器とを有することは好ましい。
【0019】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、粉末クラッド張力制御手段は、加熱炉下流の粉末クラッドの張力を検出する張力計と、該張力計による粉末クラッドの検出張力が設定張力値に維持されるように巻取機による粉末クラッドの巻き取りを制御する張力制御器とを有することは好ましい。
【0020】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、追随巻取制御手段は、巻取機入口において粉末クラッドの幅端部位置を検出するエッジセンサと、粉末クラッドを巻き取る巻取機を軸方向に移動するアクチュエータと、前記エッジセンサによる粉末クラッドの検出位置に基づきアクチュエータにより巻取機を軸方向へ移動し、粉末クラッドの幅方向位置を一定に保持して巻き取るよう制御する追随巻取制御器とを有することは好ましい。
【0021】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、巻戻機の出口に、板の表面を洗浄する洗浄装置を有することは好ましい。
【0022】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、加熱炉の下流に、圧延機又はピンチロールを有することは好ましい。
【0023】
又、上記粉末クラッド製造ラインの運転制御装置において、加熱炉出口に、粉末クラッドを冷却する冷却器を有することは好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の粉末クラッド製造ラインの運転制御方法及び装置によれば、巻戻機と粉末圧延機との間の板の張力を一定に保持しつつ粉末圧延機入口の板の幅方向位置が一定に保持されるように蛇行制御を行うので、粉末圧延機に板の幅に一致した幅で粉末を供給して圧着することができ、よって、粉末を無駄なく板に圧着して歩留まりを向上させることができ、更に、加熱炉出口の粉末クラッドの張力を一定に保持しつつ巻取機入口の粉末クラッドの蛇行に追随して巻取機により幅端面を揃えて粉末クラッドコイルに巻き取るようにしているので、高品質の粉末クラッドコイルを安定して製造できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1は本発明を実施する粉末クラッド製造ラインの全体側面図であり、前記図7と同様に、板コイル2の板1を一定速度で横方向に巻き出すようにした巻戻機3と、板1を鉛直下方に導くための水平回転可能な方向変えロール19と、前記板1の表面に粉末を圧着して粉末圧着材5aを形成する粉末圧延機4と、粉末圧着材5aを再び横方向に向かわせる方向変えロール13bと、粉末圧着材5aを一定温度に加熱して粉末を融解し板1に融着させて粉末クラッド5を形成する加熱炉6と、粉末クラッド5を冷却して粉末を固化させる冷却器7と、圧延機或いはピンチロール8と、粉末クラッド5を巻き取る巻取機10とを備えた構成を有している。尚、図1に示した圧延機或いはピンチロール8は駆動モータを備えて積極的に圧延を行うようにしたものや駆動モータを備えずに軽圧下するようにしたものとしてもよく、又、冷却器7は不活性ガスによって冷却するもの、或いは不活性ガスによる冷却と水冷却とを組み合わせたものとしてもよい。
【0027】
又、図1に示す粉末クラッド製造ラインにおいては、巻戻機3の出口に、板1の表面を洗浄するための洗浄装置14を備えている。
【0028】
前記粉末圧延機4による圧延速度は、一定温度に加熱する加熱炉6に対して移動する粉末圧着材5aの粉末が融解して板1に融着する適温に維持されるように予め実験等によって求めておいた一定速度で圧延することにより粉末クラッド5を送り出すようにしており、従って粉末圧延機4は一定の速度で板1を引き込むように作用する。尚、加熱炉6内で端末圧着材5aの粉末が融解する領域では、粉末圧着材5a及び粉末クラッド5が加熱炉6内部で固定部材に接触して表面が傷つき品質を低下させないようにするため、粉末圧着材5a及び粉末クラッド5は宙吊りで保持されている。
【0029】
上記に構成において、巻戻機3にはブレーキ装置15が設けてあり、該ブレーキ装置15は粉末圧延機4による板1の引き込みに対して一定のブレーキ力を巻戻機3に作用し、これによって、巻戻機3と粉末圧延機4との間の板1に一定の張力を保持するようにしている。
【0030】
この時、粉末圧延機4において板1の幅と同一の幅でロール11上に粉末を供給して圧着するには、粉末圧延機4入口の板1の幅方向位置を常に一定に保持する必要があるが、板1には図9に示したようなスリット材が一般に用いられるために、板1の厚さ寸法が幅方向で異なること等の要因から板1は幅方向に蛇行し易く、このために粉末圧延機4に対し板1を一定位置に安定して導入することができない。
【0031】
このため、粉末圧延機4入口に板蛇行制御手段を設ける。即ち、粉末圧延機4入口に、粉末圧延機4に引き込まれる板1の幅端部位置を検出するエッジセンサ16を設ける。エッジセンサ16は、例えば図2に示すように、板1の幅端部を板厚方向に挟むよう配列した発光素子17と受光素子18とを有しており、受光素子18による光の受光と板1で遮光された非受光とによって板1の幅端部位置を検出することで粉末圧延機4に対する板1の位置を検出するようにしている。
【0032】
一方、エッジセンサ16の上流に設けたブライドルロールを兼ねた方向変えロール19の両軸には、図3に示す軸受20a,20bを設け、更に、一方の軸に備えた軸受20aを水平方向前方(図3では下方)に移動させると同時に、他方の軸に備えた軸受20bを水平方向後方(図3では上方)に移動させることにより方向変えロール19を水平回転(スキュー)させるようにしたスキュー装置21a,21bを設けている。
【0033】
更に、前記エッジセンサ16による板1の検出位置16aに基づいて、スキュー装置21a,21bで方向変えロール19をスキューさせることにより粉末圧延機4に導入される板1の幅方向位置が常に一定位置に保持されるように制御する蛇行制御器22を設けている。
【0034】
このように、エッジセンサ16と、方向変えロール19のスキュー装置21a,21bと蛇行制御器22とにより板蛇行制御手段が構成されている。
【0035】
一方、粉末圧延機4に引き込まれる板1には微妙な条件の変化によって不安定に蛇行が発生し、特に板1に作用する張力が変化すると板1に蛇行が発生し易い問題がある。又、この蛇行を防止するために、前記スキュー装置21a,21bにより方向変えロール19をスキューする制御を行うが、方向変えロール19のスキューを制御すると板1の蛇行が不安定に発生するという問題がある。従って、板1の蛇行の発生を防止するには、板1の張力を一定値に精度良く保持させておく必要がある。
【0036】
このため、巻戻機3に板張力制御手段を設ける。即ち、巻戻機3に前記ブレーキ装置15を備えて一定のブレーキ力を作用させることにより、板1の張力を一定値に保持させるようにする。
【0037】
しかし、巻戻機3によって板コイル2から板1を巻き出していくと、板コイル2の径は徐々に減少する。板コイル2には粉末圧延機4の引き込みによる引張力が作用しており、板コイル2の径が大きい時には板コイル2に作用する力のモーメントが大きいために、小さな引張力でも巻き出しが行われるが、板コイル2の径が小さくなると板コイル2に作用する力のモーメントが小さくなるため、大きい引張力でないと巻き出すことができなくなる。従って、前記ブレーキ装置15によって巻戻機3に一定のブレーキ力を作用させても、板コイル2の径が変化することによって板1に作用する張力が変化してしまう問題がある。
【0038】
このため、超音波センサ或いは光スキャンセンサ等によって板コイル2の径を検出するコイル径検出器23を設け、該コイル径検出器23で検出した板コイル2の径23aに基づきモーメントの変化分を考慮して板1の張力が一定に保持されるようにブレーキ装置15のブレーキ力を補正するブレーキ力補正制御器24を設ける。
【0039】
このように、前記ブレーキ装置15と、コイル径検出器23と、ブレーキ力補正制御器24とにより板張力制御手段が構成されている。
【0040】
上記板張力制御手段によれば、巻戻機3からの板1の巻き出しによって板コイル2の径が小さくなる変化が生じても巻戻機3と粉末圧延機4との間の板1の張力を常に一定に保持することができるので、前記板蛇行制御手段による板1の蛇行が安定して抑制されるようになり、従って、粉末圧延機4に導入される板1の幅方向位置は常に一定に保持されるようになる。
【0041】
一方、巻取機10においては、粉末クラッド5を軸方向の同一位置で巻き取ることによって幅端面が揃えられた高品質の粉末クラッドコイル9を製造する必要がある。
【0042】
しかし、図9に示したように板1にスリット材が用いられているために、板1の厚さ寸法が幅方向で異なること等の要因から粉末クラッド5は幅方向に蛇行し易く、このために粉末クラッド5を一定位置で粉末クラッドコイル9に幅端面を揃えて巻き取ることは困難である。
【0043】
このため、巻取機10に追随巻取制御手段を設ける。即ち、巻取機10の入口部にエッジセンサ25を設ける。該エッジセンサ25は、図2に示したものと同様の構成のものを用いることができる。又、前記巻取機10を図4〜図6に示す構成とする。即ち、巻取機10は駆動モータ26と該駆動モータ26により駆動軸27を介して回転される巻取コア28が、固定台29上に滑り機構30を介して粉末クラッド5のラインに対して直交する方向に移動可能に設けられた移動台31上に設置されている。更に、固定台29には移動台31を巻取コア28の軸芯と平行な方向に押し引きして移動させるシリンダ等のアクチュエータ32を設けている。
【0044】
更に、図1に示すように、前記エッジセンサ25による粉末クラッド5の検出位置25aを入力する追随巻取制御器33を設け、該追随巻取制御器33は、検出位置25aに基づいて前記アクチュエータ32により巻取コア28を軸心方向に移動させて、粉末クラッド5を幅端面を揃えた状態で粉末クラッドコイル9に巻き取るようにしている。
【0045】
このように、前記エッジセンサ25と、移動台31に設置された駆動モータ26及び巻取コア28と、アクチュエータ32と、追随巻取制御器33とにより追随巻取制御手段が構成されている。
【0046】
一方、巻取機10に巻き取られる粉末クラッド5には微妙な条件の変化によって不安定に蛇行が発生し、特に粉末クラッド5に作用する張力が変化すると粉末クラッド5に蛇行が発生し易い問題がある。この時、粉末クラッド5に蛇行が発生すると前記追随巻取制御手段により巻取コア28の位置を軸方向に制御することになるが、制御が遅れると巻き取られる粉末クラッドコイル9の端面に段部が生じて製品の品質が低下してしまう問題がある。従って、粉末クラッドコイル9の端面を揃えて粉末クラッド5を巻き取るためには、巻取機10で巻き取る粉末クラッド5の張力を一定値に精度良く保持する必要がある。
【0047】
このため、巻取機10の上流に粉末クラッド張力制御手段を設ける。即ち、前記加熱炉6の下流(図1では冷却器7の出口)に、粉末クラッド5の張力を計測する張力計34を設ける。該張力計34は図4、図5に示すように、粉末クラッド5の長手方向に間隔を隔てて配置して粉末クラッド5に接触する固定ローラ35,36と、該固定ローラ35,36間に位置して粉末クラッド5を前記固定ローラ35,36間に押込むように移動させる移動ローラ37と、該移動ローラ37に粉末クラッド5の張力によってかかる荷重を検出する荷重計38とを備えている。図4、図5の例では、固定ローラ35,36の下面に接した粉末クラッド5を移動ローラ37により固定ローラ35,36間に押上げるようにしているが、固定ローラ35,36の上面に接するようにした粉末クラッド5を移動ローラ37により固定ローラ35,36間に押下げるようにしてもよい。
【0048】
前記張力計34の荷重計38によって検出された検出張力34aは張力制御装置39に入力している。このとき、加熱炉6内で一定温度に加熱している粉末クラッド5に作用させる張力を種々変化させた際における板1の伸びを計測する実験を予め実施し、この実験により板1の幅縮みが生じない上限値を求め、幅縮みが発生しない或いは発生しても許容範囲内に収まるような設定張力値40を張力制御装置39に予め入力している。従って、張力制御装置39は、張力計34からの検出張力34aが、加熱炉6内で加熱される粉末クラッド5の板1が許容範囲内の幅縮みに収まる設定張力値40に維持されるように、巻取機10の駆動モータ26に指令信号41を出力して巻取機10による巻取速度を制御するようにしている。又、上記したように、加熱炉6内で加熱される粉末クラッド5の張力を設定張力値40に維持することにより、粉末クラッド5が加熱炉6内部で垂れ下がって固定部材に接触することにより粉末クラッド5が傷付くといった問題を防止することができる。
【0049】
このように、前記張力計34と、張力制御装置39と巻取機10とによって粉末クラッド張力制御手段が構成されている。
【0050】
次に、上記図示例の作動を説明する。
【0051】
図1に示す粉末クラッド製造ラインでは、巻戻機3により板コイル2の板1は一定速度で横方向に巻き出された後、水平回転可能な方向変えロール19により鉛直下方に導かれ、粉末圧延機4により前記板1の表面に粉末が圧着されて粉末圧着材5aが形成される。粉末圧延機4から導出される粉末圧着材5aは方向変えロール13bにより再び横方向に向かい、粉末圧着材5aは加熱炉6によって一定温度に加熱されることにより粉末が融解して板1に融着され粉末クラッド5が形成される。粉末クラッド5は冷却器7で冷却されて粉末が固化された後、圧延機或いはピンチロール8を介して巻取機10に巻き取られる。
【0052】
前記巻戻機3の出口には、洗浄装置14が設けてあり、該洗浄装置14で板1の表面を洗浄することにより、後段の粉末圧延機4において板1に圧着される粉末が良好に付着するようになる。
【0053】
一定速度で板1を引き込んで粉末を圧着する粉末圧延機4の入口の板1は、エッジセンサ16によってロール11の軸方向位置が常に検出されており、その検出位置16aが蛇行制御器22に入力されている。そして、粉末圧延機4に対して板1が蛇行すると、エッジセンサ16による検出位置16aにより蛇行制御器22はスキュー装置21a,21bを駆動して方向変えロール19を水平回転(スキュー)させ、これにより粉末圧延機4に導入される板1の幅方向位置が常に一定位置に保持される。
【0054】
このように、前記エッジセンサ16と、方向変えロール19のスキュー装置21a,21bと蛇行制御器22とにより構成される板蛇行制御手段によって粉末圧延機4に導入される板1の幅方向位置が常に一定位置に保持されるため、粉末圧延機4において粉末供給装置12により板1の幅と同一の幅になるようにロール11上に粉末を供給しても、粉末を無駄なく板1に圧着できるので、粉末クラッド5の粉末が圧着されない部分を切除する必要がなく、歩留まりを高めることができる。
【0055】
この時、上記板蛇行制御手段によって粉末圧延機4入口の板1の蛇行を防止しても、板1に作用する張力が変化すると板1に蛇行が発生してしまう。
【0056】
このため、巻戻機3にブレーキ装置15を備えて一定のブレーキ力を作用させることにより、板1の張力を一定値に保持させるようにしているが、ブレーキ装置15による張力保持では、巻戻機3による板1の巻き出しによって板コイル2の径が減少すると、粉末圧延機4の巻込みによる引張力によって板コイル2に作用しているモーメントが変化し、このために巻戻機3と粉末圧延機4との間の板1の張力が変化してしまう。
【0057】
この問題に対し、コイル径検出器23によって巻戻機3の板コイル2の径を検出し、検出した径23aをブレーキ力補正制御器24に入力しているので、ブレーキ力補正制御器24は板コイル2に作用するモーメントの変化分を考慮して板1の張力が常に一定に保持されるようにブレーキ装置15のブレーキ力を補正している。
【0058】
従って、前記ブレーキ装置15と、コイル径検出器23と、ブレーキ力補正制御器24とからなる板張力制御手段により、粉末圧延機4入口の板1の張力が常に一定に保持されるので、張力が変動することによって粉末圧延機4入口の板1が蛇行する問題を精度良く抑制することができる。
【0059】
一方、巻取機10によって粉末クラッド5を巻き取る際においても、板1には図9に示したようなスリット材が用いられているために、板1の厚さ寸法が幅方向で異なること等の要因から粉末クラッド5が幅方向に蛇行し、このために粉末クラッド5を粉末クラッドコイル9の軸方向一定位置で巻き取ることは困難であり、粉末クラッドコイル9の端面に凹凸ができてしまう問題がある。
【0060】
これに対し、巻取機10に巻き取られる粉末クラッド5の幅端部位置が巻取機10入口に設けたエッジセンサ25によって検出されており、検出位置25aが追随巻取制御器33に入力されており、追随巻取制御器33はアクチュエータ32を作動して移動台31上の巻取コア28を軸芯と平行な方向に押し引きし、常に巻取コア28の同一位置にて粉末クラッド5を巻き取るようにしているので、端面が良好に揃えられた粉末クラッドコイル9を製造することができる。
【0061】
このように、前記エッジセンサ25と、移動台31に載置された駆動モータ26及び巻取コア28と、アクチュエータ32と、追随巻取制御器33とによって構成した追随巻取制御手段により、幅端面が揃えられた粉末クラッドコイル9が形成されるので高品質の粉末クラッドコイル9が製造される。
【0062】
しかし、上記したように粉末クラッド5の蛇行に追随して巻取コア28による巻き取り位置を制御しても、粉末クラッド5の張力が変化すると、粉末クラッド5に蛇行が発生し、このために巻き取り位置の制御が遅れてしまうことが考えられる。
【0063】
これに対し、前記加熱炉6の下流(図1では冷却器7の出口)に、粉末クラッド5の張力を張力計34により検出し、その検出位置25aを張力制御装置39に入力しているので、張力制御装置39は、粉末クラッド5に幅縮みが発生しない或いは発生しても許容範囲内に収まるような値に設定した設定張力値40になるように巻取機10の駆動モータ26に指令信号41を出力し、巻取機10入口の粉末クラッド5の張力が一定に保持されるように巻取速度を制御する。
【0064】
このように、前記張力計34と、張力制御装置39と、巻取機10とによって構成した粉末クラッド張力制御手段により、巻取機10入口の粉末クラッド5の張力が設定張力値40に一定制御されるので、巻取機10による粉末クラッド5の巻き取り位置が安定し、よって幅端面が揃えられた高品質の粉末クラッドコイル9が製造される。
【0065】
上記した如く、巻戻機3と粉末圧延機4との間の板1の張力を一定に保持しつつ粉末圧延機4入口の板1の幅方向位置が一定に保持されるように蛇行制御を行うので、粉末圧延機4に板1の幅と一致した幅で粉末を供給して圧着することができ、よって、粉末を無駄なく板1に圧着して歩留まりを向上させることができ、更に、加熱炉6出口の粉末クラッド5の張力を一定に保持しつつ巻取機10入口の粉末クラッド5の蛇行に追随して巻取機10により幅端面を揃えて粉末クラッドコイル9に巻き取るようにしているので、高品質の粉末クラッドコイル9を安定して製造することができる。
【0066】
なお、本発明の粉末クラッド製造ラインの運転制御方法及び装置は上記形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を実施する形態の一例としての粉末クラッド製造ラインの全体側面図である。
【図2】本発明におけるエッジセンサの一例を示す平面図である。
【図3】本発明における方向変えロールに備えたスキュー装置の一例を示す平面図である。
【図4】本発明における巻取機及び張力計の一例を示す側面図である。
【図5】図4のV−V方向矢視図である。
【図6】図4のVI−VI方向矢視図である。
【図7】従来の粉末クラッド製造設備の一例を示す全体概要構成図である。
【図8】粉末圧延機に引き込まれる板とロール上に供給される粉末との関係を示す平面図である。
【図9】広幅の板材から切出されるスリット材の説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 板
2 板コイル
3 巻戻機
4 粉末圧延機
5 粉末クラッド
5a 粉末圧着材
6 加熱炉
7 冷却器
8 圧延機或いはピンチロール
9 粉末クラッドコイル
10 巻取機
14 洗浄装置
15 ブレーキ装置
16 エッジセンサ
16a 検出位置
19 方向変えロール(ブライドルロール)
21a,21b スキュー装置
22 蛇行制御器
23 コイル径検出器
23a 径
24 ブレーキ力補正制御器
25 エッジセンサ
25a 検出位置
32 アクチュエータ
33 追随巻取制御器
34 張力計
34a 検出張力
39 張力制御装置
40 設定張力値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板コイルの板を巻き出す巻戻機と、前記板を引き込んで板の表面に粉末を圧着して粉末圧着材を送り出す粉末圧延機と、前記粉末圧着材を加熱し粉末を板に融着させて粉末クラッドを形成する加熱炉と、前記粉末クラッドを巻き取る巻取機とを順次備えた粉末クラッド製造ラインの運転制御方法であって、巻戻機と粉末圧延機との間の板の張力を一定に保持しつつ粉末圧延機入口の板の蛇行制御を行い、且つ、加熱炉出口の粉末クラッドの張力を一定に保持しつつ巻取機入口の粉末クラッドの蛇行に追随して巻取機により幅端面を揃えて粉末クラッドコイルに巻き取ることを特徴とする粉末クラッド製造ラインの運転制御方法。
【請求項2】
板コイルの板を巻き出す巻戻機と、前記板を引き込んで板の表面に粉末を圧着して粉末圧着材を送り出す粉末圧延機と、前記粉末圧着材を加熱し粉末を板に融着させて粉末クラッドを形成する加熱炉と、前記粉末クラッドを巻き取る巻取機とを順次備えた粉末クラッド製造ラインの運転制御装置であって、巻戻機と粉末圧延機との間の板の張力を一定に保持するための板張力制御手段と、粉末圧延機入口の板の幅方向位置を一定に保持するための板蛇行制御手段と、加熱炉下流の粉末クラッドの張力を一定に保持するための粉末クラッド張力制御手段と、粉末クラッドが蛇行しても巻取機により幅端面を揃えて粉末クラッドコイルに巻き取るための追随巻取制御手段と、を備えたことを特徴とする粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項3】
板張力制御手段は、粉末圧延機の板の引き込みに対して巻戻機に一定のブレーキ力を作用させることにより板に所定の張力を付与するブレーキ装置と、板コイルの径の変化を検出するコイル径検出器と、コイル径検出器で検出した板コイルのコイル径が変化して巻戻機に作用するモーメントが変化しても板の張力が一定に保持されるようにブレーキ装置のブレーキ力を補正するブレーキ力補正制御器とを有することを特徴とする請求項2に記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項4】
板蛇行制御手段は、粉末圧延機入口に設けた方向変えロールと、該方向変えロールと粉末圧延機との間において板の幅端部位置を検出するエッジセンサと、該エッジセンサによる板の検出位置に基づいて前記方向変えロールをスキューさせて板の幅方向位置を制御する蛇行制御器とを有することを特徴とする請求項2に記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項5】
粉末クラッド張力制御手段は、加熱炉下流の粉末クラッドの張力を検出する張力計と、該張力計による粉末クラッドの検出張力が設定張力値に維持されるように巻取機による粉末クラッドの巻き取りを制御する張力制御器とを有することを特徴とする請求項2に記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項6】
追随巻取制御手段は、巻取機入口において粉末クラッドの幅端部位置を検出するエッジセンサと、粉末クラッドを巻き取る巻取機を軸方向に移動するアクチュエータと、前記エッジセンサによる粉末クラッドの検出位置に基づきアクチュエータにより巻取機を軸方向へ移動し、粉末クラッドの幅方向位置を一定に保持して巻き取るよう制御する追随巻取制御器とを有することを特徴とする請求項2に記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項7】
巻戻機の出口に、板の表面を洗浄する洗浄装置を有することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1つに記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項8】
加熱炉の下流に、圧延機又はピンチロールを有することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1つに記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。
【請求項9】
加熱炉出口に、粉末クラッドを冷却する冷却器を有することを特徴とする請求項2〜8のいずれか1つに記載の粉末クラッド製造ラインの運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−155270(P2008−155270A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349263(P2006−349263)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】