説明

粉粒体の供給量制御方法および粉粒体供給装置

【課題】原料フィーダにおいて、精度良く目標供給量の粉粒体を供給することができる粉粒体の供給量制御方法を提供する。
【解決手段】
粉粒体が入れられるホッパ(2)と、スクリュ(6)からなる送出機構(3)と、これらの重量を測定するロードセル(11)とからなる粉粒体供給装置(1)において、以下の線形式を制御モデルとするサンプル値制御を実施する。
粉粒体の供給量の最新のサンプル値=a*粉粒体の供給量の1ステップ前のサンプル値+b*スクリュ(6)の操作量の最新のサンプル値
係数a、bは初期運転において同定し、実運転中に逐次最小二乗法によって補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホッパに入れられている粉粒体を、スクリュ、搬送ベルト、振動板等の送出機構によって連続的に送り出して外部に供給するとき、ホッパに残っている粉粒体の重量から供給量を算出するようになっている粉粒体供給装置において、粉粒体の供給量を制御する供給量制御方法、および粉粒体供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体あるいは粒体、いわゆる粉粒体によって提供されている工業原料には色々なものがあり、例えば樹脂材料、樹脂の性質を改善する添加剤、顔料、化粧品や医薬品の原料が周知である。このような粉粒体を供給する粉粒体供給装置は、粉粒体が入れられるホッパと、ホッパの下方に設けられて粉粒体を送り出すようになっている送出機構と、装置全体の重量を測定するロードセルとから構成されている。送出機構には色々な種類があり、軸回転するフライトによって粉粒体を送り出すようになっているスクリュ、ベルト上に粉粒体を載せて搬送するようになっている搬送ベルト、傾斜した板を振動させて板上の粉粒体を流動させるようになっている振動機構等が知られている。これらの送出機構を駆動すると、粉粒体はホッパから少しずつ切り出されて送り出され、外部の装置に供給することができる。このとき、粉粒体供給装置全体の重量が測定されているので、重量の減少分から粉粒体の供給量が得られることになる。粉粒体供給装置においては、送出機構の操作量が調整されて、供給量が所望の目標供給量になるように制御されており、制御方法としてPID制御が周知である。しかしながら、粉粒体は、ホッパ内の残存量のような色々な要因によって制御特性が変化してしまう。そうすると、制御パラメータが固定のPID制御によっては最適な制御をすることはできない。また、PID制御は、制御パラメータの調整に熟練を要するという問題もある。そこで、粉粒体供給装置には、調整が容易で精度良く所望の供給量を供給できる制御方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−273634号公報
【0004】
特許文献1には、パラメータが可変の制御モデルを用いて、粉粒体供給装置を制御する制御方法が記載されている。特許文献1によると、制御モデルを表す伝達関数G(s)を、以下のように、一時遅れ要素とムダ時間要素を有する一般的な制御系の式で与える。
(s)=K*e−L・s/(1+T・s)
ここで、K:プロセスゲイン、L:ムダ時間、T:一時遅れ時定数
特許文献1に記載の方法においては、これらのプロセスゲインK、ムダ時間L、一時遅れ時定数Tは、ホッパ内の粉粒体の残存量に依存する可変のパラメータであるとする。そして、試験運転を実施して粉粒体を外部に排出し、まずホッパに粉粒体が90%入っている状態においてこれらのパラメータを同定する。次いで、試験運転を継続し、ホッパに粉粒体が70%、50%、30%残存しているときのそれぞれの状態においてパラメータを同定する。他の残存量におけるパラメータは、線形補完によって同定されたパラメータから求めるようにする。そうすると、ホッパ内の残存量に応じて連続的にパラメータが変化する制御モデルが得られる。特許文献1に記載の粉粒体供給方法においては、このような制御モデルによって制御しているので、ホッパ内の残存量が変化しても比較的精度良く供給量を制御することができる。
【0005】
特許文献1においては、次のような方法も提案されている。すなわち、設定された最終目標供給量になるように供給量を制御するとき、所定の時間の経過後にこの最終目標供給量に到達するような参照軌道を作成する。参照軌道は、時間をパラメータとして滑らかに変化する目標供給量の仮想的な軌道である。そして、実供給量が、この参照軌道に乗るように操作量を調整する。特許文献1に記載の制御方法においては、このように参照軌道に基づいて制御するので、オーバーシュートが発生し難く、外乱に対しても安定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の制御方法においては、ホッパ内の粉粒体の残存量によって制御特性が変化してしまう点が考慮されているので、残存量の多寡によらずに比較的精度良く粉粒体の供給量を制御することができる。また、参照軌道に基づいて制御するようになっているので、制御が安定して優れてはいる。しかしながら、解決すべき課題も見受けられる。例えば、試験運転に関して問題が見受けられる。特許文献1に記載の制御方法においては、制御モデルに含まれているパラメータは試運転によって同定しなければならず、実質的にホッパに入れられた全ての粉粒体を排出して試運転を実施する必要がある。一般的な原料フィーダの場合には、ホッパの容量は数10L〜数100Lになる。このように大容量のホッパに粉粒体を入れて実質的にホッパが空になるまで試運転すると、時間を要して効率が悪いだけでなく、装置から排出される粉粒体の処置が大変である。さらには、粉粒体の種類によっては、試運転を実施すると特性が変化することがあり、使用済みの粉粒体をホッパに再投入して運転すると、同定したパラメータが役立たない場合もある。そうすると、使用済みの粉粒体は廃棄せざるを得ずムダになってしまう。他の問題も見受けられる。すなわち、制御特性は、ホッパ内の粉粒体の残存量によって変化するが、同等の残存量のときに常に同じ制御特性になるとは限らないという問題がある。例えば、湿度や温度が変化しても制御特性は変化する。さらには、長期間の運転によって粉粒体供給装置の特性が変化する可能性もある。このように制御特性は他の要因によっても変化するが、引用文献1に記載の制御方法においては他の要因による制御特性の変化が考慮されていないので、最適な制御を実施できる保障がない。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決した粉粒体の供給量制御方法および粉粒体供給装置を提供することを目的としており、具体的には、ホッパに入れられている粉粒体を、スクリュ、搬送ベルト、振動板等の送出機構によって連続的に送り出して外部に供給する粉粒体供給装置において、格別に試運転を実施する必要がなく、従って粉粒体をムダに廃棄する必要もなく、色々な要因による制御特性の変化があっても、精度良く所望の目標供給量の粉粒体を供給することができる粉粒体の供給量制御方法、およびそのような制御方法を実施する粉粒体供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、粉粒体供給装置を所定の制御モデルに基づいて制御し、制御モデルを構成している線形式の各係数を、実際に運転されて得られるデータによって逐次最小二乗法によって修正するようにする。粉粒体供給装置は、粉粒体が入れられるホッパと、該ホッパから粉粒体を外部に送り出す送出機構と、ホッパと送出機構とが載置されているロードセルとからなり、送出機構を駆動して粉粒体を外部に供給するときロードセルによって測定される重量の変化から粉粒体の供給量が算出されるようになっている。この粉粒体供給装置を、制御モデルに基づいて所定の周期のステップからなるサンプル値制御によって制御する。具体的には、送出機構の操作量を制御して、供給量が目標供給量になるようにする。制御モデルは、供給量の最新のサンプル値が、供給量の1ステップ前と、2ステップ前と、…、mステップ前のそれぞれのサンプル値と、操作量の最新と、1ステップ前と、…、nステップ前のそれぞれのサンプル値を変数とする線形式によって与えられるモデルである。この線形式を構成している各係数を初期運転を実施して得られた供給量と操作量の複数個のサンプル値から同定する。つまり初期化する。そして、この制御モデルに基づいて、供給量が設定された目標供給量になるように操作量を計算する。そして得られた操作量を出力する。線形式を構成している係数は、運転中に得られた供給量と操作量の最新のサンプル値によって逐次最小二乗法によって補正する。
【0009】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、粉粒体が入れられるホッパと、該ホッパから粉粒体を外部に送り出す送出機構と、前記ホッパと前記送出機構とが載置されているロードセルとからなり、前記送出機構を駆動して粉粒体を外部に供給するとき前記ロードセルによって測定される重量の変化から粉粒体の供給量が算出されるようになっている粉粒体供給装置において、所定の周期のステップからなるサンプル値制御によって、前記送出機構の操作量を調整して供給量を制御するとき、供給量の最新のサンプル値は、供給量の1ステップ前と、2ステップ前と、…、mステップ前のそれぞれのサンプル値と、操作量の最新と、1ステップ前と、…、nステップ前のそれぞれのサンプル値を変数とする線形式によって与えられるものとして制御モデルを定め、目標供給量が設定されたとき、所定の設定ステップ数後に供給量が前記目標供給量に到達するように、操作量の最新のサンプル値を前記制御モデルによって計算して、操作量として前記送出機構に出力し、前記制御モデルの線形式を構成している係数は、ステップ毎に得られる供給量と操作量の最新のサンプル値から、逐次最小二乗法によって補正するように構成される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制御方法において、到達すべき供給量の目標値である到達目標供給量が与えられたとき、現在の供給量から前記到達目標供給量に到達する仮想的な供給量の変化の軌道を定めて参照軌道とし、該参照軌道から前記目標供給量を得るように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の制御方法と、比例積分制御とを適宜切り替えて実施するように構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の制御方法において、前記制御モデルは、供給量の最新のサンプル値が、供給量の1ステップ前のサンプル値と、操作量の最新のサンプル値のみを変数とする線形式で与えられる制御モデルであるように構成される。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の制御方法において、前記粉粒体供給装置の運転を開始するときに、操作量を所定時間一定にして運転し、得られた供給量の複数個のサンプル値から前記制御モデルの線形式を構成している係数を同定するように構成される。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかの項に記載の制御方法によって制御されるようになっていることを特徴とする粉粒体供給装置として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によると、粉粒体が入れられるホッパと、該ホッパから粉粒体を外部に送り出す送出機構と、ホッパと送出機構とが載置されているロードセルとから構成されている粉粒体供給装置において、所定の制御モデルを定めてサンプル値制御によって、送出機構の操作量を調整して供給量を制御する。そして、制御モデルは、供給量の最新のサンプル値が、供給量の1ステップ前と、2ステップ前と、…、mステップ前のそれぞれのサンプル値と、操作量の最新と、1ステップ前と、…、nステップ前のそれぞれのサンプル値を変数とする線形式によって与えらるものとして定められている。従って、線形式を構成している係数を調整すれば、装置の制御特性に変化が生じても、制御特性の変化に合わせて制御モデルを調整することが可能になっている。そしてこの制御モデルにおいては、制御特性の変化の要因が特定されていない。つまり、ホッパ内の粉粒体の残存、湿度や温度の色々な要因によって制御特性が変化しても、係数を補正するだけで変化に対応することが可能になる。そして、制御モデルの線形式を構成している係数は、供給量と操作量の最新のサンプル値から、逐次最小二乗法を実施して補正するので、少ない計算数で補正できるだけでなく、自動的に係数が補正されて常に最適な制御モデルが得られることになる。また、このような係数の補正は、実運転中に実施できるので、格別に試運転をする必要もなく、貴重な工業原料の粉粒体をムダにすることもない。そして本発明によると、このように最適に調整された制御モデルによって、次のようにして操作量を得るようにしている。つまり制御モデルによって、所定の設定ステップ数後に供給量が前記目標供給量に到達するように操作量の最新のサンプル値を計算している。このようにして得られた操作量を前記送出機構に出力するので、急激に操作量を変化させるようなこともなく、ロバスト性に優れた制御を実施することができる。以上により、精度良く所望の目標供給量の粉粒体を供給することができると共に安定した制御も実現することができる。
【0012】
他の発明によると、到達すべき供給量の目標値である到達目標供給量が与えられたとき、現在の供給量から前記到達目標供給量に到達する仮想的な供給量の変化の軌道を定めて参照軌道とし、該参照軌道から目標供給量を得るので、現在の供給量と到達目標供給量の差が大きくても、供給量は滑らかかつ速やかに到達目標供給量に到達することができる。このとき、供給量がオーバーシュートすることもないし、外乱に対する安定性も得られる。つまり、さらにロバスト性が向上することになる。また、他の発明によると、このような制御モデルによる制御は、比例積分制御と適宜切り替えて実施することができるので、必要に応じて好ましい制御方法を選択することができる。さらには他の発明によると、制御モデルは、供給量の最新のサンプル値が、供給量の1ステップ前のサンプル値と、操作量の最新のサンプル値のみを変数とする線形式で与えられるシンプルな制御モデルになっている。そうすると、逐次最小二乗法の計算は2行2列の行列による行列計算で実施できるので、計算数が少なく安価なコントローラによっても容易に計算することができる。そして、このようにシンプルな制御モデルで運転を開始するとき、他の発明によると、操作量を所定時間一定にして運転し、得られた供給量の複数個のサンプル値から制御モデルの線形式を構成している係数を同定するので、サンプル数がわずかであっても、十分に精度良く係数を同定することができ、実質的に試運転は必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る粉粒体供給装置を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る粉粒体供給装置の制御方法を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る粉粒体供給装置1も、図1に示されているように従来周知の粉粒体フィーダと同様に構成されている。すなわち、粉粒体供給装置1は概略的に、粉粒体が入れられるホッパ2と、ホッパ2の下方に設けられており粉粒体を送り出すようになっている送出機構3と、ホッパ2と送出機構3とが載置されている装置支持台4とから構成されている。本実施の形態においては、送出機構3は、所定のピッチのフライトが形成されているスクリュ6と、減速機を介してスクリュ6を回転駆動するモータ7と、所定の径の粉粒体送出管8と、粉粒体送出管8の先端に設けられている排出部9とから構成されている。この粉粒体送出管8と排出部9とからトラフが構成されている。そして、スクリュ6は水平に設けられ、その後方部がホッパ2の下方に位置するように、そして中央部が粉粒体送出管8に挿入され、先端部が排出部9に位置している。従って、モータ7を回転駆動すると、減速機を介してスクリュ6が軸回転し、ホッパ2内の粉粒体はフライトによって粉粒体送出管8内を送り出され、排出部9から外部の装置に供給されることになる。装置支持台4には、ロードセル11が設けられていて、ホッパ2と、送出機構3と、ホッパ2内に入れられている粉粒体の総重量が測定されるようになっている。
【0015】
本実施の形態に係る粉粒体供給装置1も、図1には示されていないがコントローラが設けられ、コントローラによって制御されている。このコントローラに、ロードセル11が信号線によって接続されており、ロードセル11によって総重量が所定の周期でサンプリングされている。従って、送出機構3を駆動して粉粒体を外部に供給するとき、総重量の減少分から、いわゆるロスインウェイト方式によって供給された単位時間当たりの粉粒体の重量、すなわち供給量を算出することができる。コントローラは、この供給量が目標供給量になるように、送出機構3の操作量であるモータ7の回転数を調節する。このような制御を実施するとき、コントローラにおいて供給量と操作量はサンプル値によって扱われ、所定の周期のステップによって処理される。すなわち本実施の形態に係る粉粒体供給装置1は、いわゆるサンプル値制御によって制御されることになる。
【0016】
コントローラにおいては、複数の処理が協働して粉粒体供給装置1を制御するようになっているが、個々の処理を模式的に示すブロック図が、図2に示されている。最上流の供給量設定部21は、到達目標供給量を設定する処理である。オペレータによって到達目標供給量が入力される。後で説明するPI制御演算部22とモデル制御演算部23にはこの到達目標供給量が送られることになる。
【0017】
PI制御演算部22は、従来周知の比例積分制御、すなわちPI制御を実施するブロックである。供給量設定部21から送信された到達目標供給量を目標供給量とする。そして、この目標供給量と実供給量の偏差に応じた比例要素と、偏差の積分に応じた積分要素によって制御するようになっている。PI制御に必要なパラメータは従来周知のようにオペレータによって設定されている。モデル制御演算部23は、本実施の形態に係る粉粒体供給装置1の制御において特徴的なブロックであり、後で説明するように所定の線形式からなる制御モデルによってモデル制御を実施するようになっている。PI制御演算部22とモデル制御演算部23のそれぞれにおいて独立して計算された2個の操作量は、共に制御方式切替部25に入力されるようになっている。
【0018】
制御方式切替部25において、PI制御と本実施の形態に係るモデル制御は必要に応じて切り替えられて、選択された操作量が操作量出力部26に送られる。この切り替えは、オペレータによって実施される。操作量出力部26は、操作量を送出機構3に出力するようになっており、送出機構3が駆動される。送出機構3が駆動された結果得られる測定値、すなわち粉粒体の供給量はPI制御演算部22に入力され、PI制御に使用されるようになっている。また、供給量はシステム同定部28にも入力され、後で説明するように制御モデルはシステム同定部28において同定されることになる。
【0019】
モデル制御演算部23について詳しく説明する。モデル制御演算部23の処理は、いわゆる参照軌道を計算して目標供給量を計算する処理と、所定の制御モデルに基づいてモデル制御をする処理とからなる。参照軌道とは、現在の供給量から、与えられた到達目標供給量Sに滑らかに到達するような軌道のことである。参照軌道は滑らかかつ緩やかに曲率が変化する曲線が好ましく、指数関数等の任意の関数によって定義することができる。本実施の形態においては、以下の1式によって参照軌道r(K+i)が与えられる。
【0020】
【数1】

【0021】
最新、すなわちKステップ目の参照軌道r(K)は最新の供給量y(K)と等しく、ステップ数iが増加するにつれて参照軌道r(K+i)は到達目標供給量Sに漸近する。λの値が大きいと応答性が速くなり、小さいと応答性が低下する。このような参照軌道r(K+i)は、時間をパラメータとして変化する目標供給量として扱うことができる。以下のモデル制御の処理では、この参照軌道r(K+i)のサンプル値を目標供給量とする。
【0022】
モデル制御演算部23について詳しく説明する。本実施の形態において、制御モデルは次の2式によって定義されている。なお、2式の係数a、bはそれぞれ供給量の1ステップ前のサンプル値と操作量に乗じられる係数であるが、真値を得ることはできないので、実際には推定値で与えられることになる。係数a、bは、システム同定部28の説明において詳しく説明するが、初期運転のときに得られる供給量と操作量のサンプル値によって同定されることになる。そして、実運転が実施されている間、係数a、bは逐次最小二乗法によって補正されることになる。
【0023】
【数2】

【0024】
2式において、kに最新のステップKの次の番号を表すK+1を代入すると、以下の3−1式に示されているように、供給量の次のステップのサンプル値y(K+1)は、供給量の最新のステップのサンプル値y(K)と操作量の次回のステップのサンプル値x(K+1)で表すことができる。これは次のステップの予想供給量ということができる。同様に、供給量のその次のステップのサンプル値、つまり最新から2ステップ後のサンプル値は3−2式で与えられ、さらにその次のステップのサンプル値、つまり最新から3ステップ後のサンプル値は3−3式で与えられる。これを繰り返すと、供給量の最新からiステップ後のサンプル値y(K+i)は、3−4式で与えられ、これはiステップ後のステップの予想供給量になっている。
【0025】
【数3】

【0026】
最新のKステップ目から設定ステップ数Nだけ未来に、予想供給量が参照軌道に載るようにする。つまり、K+Nステップ目において、予想供給量が参照軌道に載るような操作量を計算する。具体的には、1式と3−4式のそれぞれにおいてiにK+Nを代入すると、下の4−1式と4−2式が得られる。この最新からNステップ後の未来における参照軌道r(K+N)と予想供給量y(K+N)が等しいとして計算すると、次回に設定すべき操作量x(K+1)を計算することができる。この計算の意味を説明すると、所定の操作量があり、これを仮に一定値として所定の設定ステップ数Nだけ継続したときに、供給量が参照軌道に到達するような、そのような操作量を求める計算になっている。得られた次回のステップの操作量x(K+1)を制御方式切替部25に送信する。制御モデルにモデル化誤差が無ければ、得られた操作量x(K+1)をNステップの間維持するように制御すると、Nステップ後の未来の供給量は参照軌道r(K+N)に一致するはずである。実際にはモデル化誤差を完全に零にすることは出来ないので、ステップ毎に計算される操作量x(K+1)は少しずつ変化することになる。
【0027】
【数4】

【0028】
システム同定部28において実施する制御モデルの同定について説明する。最初に初期運転による制御モデルの同定を説明する。操作量出力部26から、送出機構3に値が一定の操作量を所定時間、例えば数十秒間出力して初期運転する。そうすると、操作量と供給量のs組のサンプル値が得られる。このs組のサンプル値によって従来周知のように最小二乗法によって1式の係数a、bを同定する。本実施の形態に係る制御モデルは、係数a、bは2個なので、2組の異なるデータがあれば同定することは可能であり、実際には供給量として1ステップ前のサンプル値も必要になるので3組のサンプル値があればよい。しかしながら、サンプル値の個数が少ないと誤差が含まれる可能性が高いので、ある程度の個数のサンプル値によって同定して、係数a、bについて信頼性の高い推定値を得るようにする。この初期運転のときに、逐次最小二乗法において必要となる以下の共分散行列P(s)も計算しておく。なお、初期運転における同定はこのように最小二乗法によっても実施できるが、次に説明する逐次最小二乗法によって係数a、bを同定しても良い。
【0029】
【数5】

【0030】
実運転中にサンプリング周期毎に実施する、逐次最小二乗法による制御モデルの係数a、bの補正方法について説明する。サンプリング周期毎に操作量の最新のサンプル値y(k)と供給量の最新のサンプル値x(k)が得られる。これらの最新のサンプル値y(k)、x(k)と、操作量の1ステップ前のサンプル値y(k−1)によって、以下の6式によって係数a、bを補正する。
【0031】
【数6】

【0032】
係数a、bは推定値で与えられるので、これらをkステップ目のサンプル推定値a(k)、b(k)として、逐次最小二乗法によって推定値を補正する。なお、6−1式は、予測誤差を求める式、6−2式は共分散行列を更新する式になっている。このようにして同定された係数a、bはモデル制御演算部23に送られることになる。
【0033】
本実施の形態に係る粉粒体供給装置1の作用を説明する。ホッパ2に粉粒体を充填する。コントローラにおいて到達目標供給量を設定し、運転開始する。そうするとコントローラは最初、約60秒間の初期運転を実施する。このとき、操作量を一定にして初期運転する。初期運転によって送出機構3を駆動すると、粉粒体が排出部9から外部に供給される。ロードセル11において重量を計測して、サンプリング周期毎に供給量を算出する。初期運転によって得られた供給量と操作量の複数組のサンプル値から、既に説明したようにシステム同定部28において、制御モデルを表す線形式の係数を同定する。コントローラは通常運転に切り替える。供給量設定部21は、PI制御演算部22とモデル制御演算部23に到達目標供給量を送信する。PI制御演算部22と、モデル制御演算部23のそれぞれにおいて操作量を計算する。計算されたそれぞれの操作量は制御方式切替部25に送信される。予めPI制御を実施するモードが選択されている場合には、制御方式切替部25において、PI制御演算部22から入力された操作量を選択する。モデル制御を実施するモードが選択されている場合には、モデル制御演算部23から入力された操作量を選択する。操作量出力部26は、選択された操作量を送出機構3に出力し、送出機構3は駆動され、粉粒体は排出部9から外部に供給される。ロードセル11において重量が計測されて、供給量が得られる。得られた供給量は、PI制御演算部22に送信され、前記したようにPI制御への入力になる。また得られた供給量と操作量はシステム同定部28に送信され、既に説明したように逐次最小二乗法によって制御モデルを構成している線形式の係数が補正される。このように係数が逐次補正されるので、制御モデルは適切に調整され、精度良く粉粒体の供給量を制御することができる。供給量は滑らかに到達目標供給量に達し、以後、到達目標供給量が維持されるように制御される。
【0034】
本発明の実施の形態に係る粉粒体の供給量制御方法は色々な変形が可能であり、例えば制御モデルについては以下の7式によって定義することも可能である。
【0035】
【数7】

【0036】
制御モデルを7式のように定義すると、係数の個数が多いので逐次最小二乗法の計算数は若干増加してしまう。しかしながら、粉粒体供給装置1の制御特性をより厳密に表現することができるので、精度良く供給量を制御することができる。また、本実施の形態においては、初期運転において操作量を一定にするように運転しているが、PI制御演算部22によるPI制御を実施してもよく、このときに得られる供給量や操作量のデータによっても制御モデルを同定することができる。
【0037】
粉粒体供給装置1についても変形が可能であり、送出機構3はスクリュ6から構成されている必要はなく、ベルト上に粉粒体を載せて搬送するようになっている搬送ベルト、傾斜した板を振動させて板上の粉粒体を流動させるようになっている振動機構等から構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 粉粒体供給装置 2 ホッパ
3 送出機構 4 装置支持台
6 スクリュ 7 モータ
9 排出部 11 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒体が入れられるホッパと、該ホッパから粉粒体を外部に送り出す送出機構と、前記ホッパと前記送出機構とが載置されているロードセルとからなり、前記送出機構を駆動して粉粒体を外部に供給するとき前記ロードセルによって測定される重量の変化から粉粒体の供給量が算出されるようになっている粉粒体供給装置において、所定の周期のステップからなるサンプル値制御によって、前記送出機構の操作量を調整して供給量を制御するとき、
供給量の最新のサンプル値は、供給量の1ステップ前と、2ステップ前と、…、mステップ前のそれぞれのサンプル値と、操作量の最新と、1ステップ前と、…、nステップ前のそれぞれのサンプル値を変数とする線形式によって与えられるものとして制御モデルを定め、
目標供給量が設定されたとき、所定の設定ステップ数後に供給量が前記目標供給量に到達するように、操作量の最新のサンプル値を前記制御モデルによって計算して、操作量として前記送出機構に出力し、
前記制御モデルの線形式を構成している係数は、ステップ毎に得られる供給量と操作量の最新のサンプル値から、逐次最小二乗法によって補正することを特徴とする、粉粒体の供給量制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制御方法において、到達すべき供給量の目標値である到達目標供給量が与えられたとき、現在の供給量から前記到達目標供給量に到達する仮想的な供給量の変化の軌道を定めて参照軌道とし、該参照軌道から前記目標供給量を得ることを特徴とする粉粒体の供給量制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御方法と、比例積分制御とを適宜切り替えて実施することを特徴とする粉粒体の供給量制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の制御方法において、前記制御モデルは、供給量の最新のサンプル値が、供給量の1ステップ前のサンプル値と、操作量の最新のサンプル値のみを変数とする線形式で与えられる制御モデルであることを特徴とする、粉粒体の供給量制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の制御方法において、前記粉粒体供給装置の運転を開始するときに、操作量を所定時間一定にして運転し、得られた供給量の複数個のサンプル値から前記制御モデルの線形式を構成している係数を同定することを特徴とする粉粒体の供給量制御方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の制御方法によって制御されるようになっていることを特徴とする粉粒体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−185691(P2011−185691A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50136(P2010−50136)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】