説明

粒状半導体の製造装置および製造方法ならびに光電変換装置

【課題】 融液から余分な飛沫の発生を抑制するとともに、安定して粒径の揃った粒状半導体を得ることができるとともに、高い結晶性を持った粒状半導体を得ることができる粒状半導体の製造装置および製造方法を提供すること。
【解決手段】 坩堝3のノズル部2からシリコンの融液1を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液1を落下中に冷却して凝固させることによって粒状シリコンを製造する粒状シリコンの製造装置であって、坩堝3を振動させる加振手段7と、坩堝3内を加圧して融液4を排出する加圧手段と、排出された融液1を観察する観察手段9と、観察された融液1の落下状態を調節するために加振手段7を制御する制御手段とを具備している粒状シリコンの製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に用いる粒状半導体結晶を得るのに好適な粒状半導体の製造装置、および製造方法、ならびに光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光電変換装置は性能面での効率の良さ、資源の有限性への配慮、あるいは製造コストの低さ等といった市場ニーズを捉えて開発が進められている。今後の市場において有望な光電変換装置の一つとして、光電変換手段に粒状シリコン結晶を用いた太陽電池が注目されている。その理由は、粒状シリコン結晶を作製する方法として、シリコン原料を赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、この溶融物を液滴(粒状の融液)として自由落下させて粒状シリコン結晶を得る方法で製造された粒状シリコン結晶は、高価な半導体グレードのシリコン材料を用いてCZ(チョクラルスキー)法で作製された単結晶シリコンや鋳造法で作製された多結晶シリコンのように、柱状の結晶を作製した後に300μm程度の薄い基板になるように研削加工する必要がないため、ダイシング工程や研削工程において高価なシリコン材料を無駄にすることがなく、シリコン材料の使用効率に優れているという特長があるためである。
【0003】
粒状シリコン結晶を作製するための原料としては、例えば多結晶シリコンを粉砕した結果として発生するシリコンの微小粒子や、流動床法で気相合成された高純度シリコン等が用いられている。これらの原料から粒状シリコン結晶を作製するには、それらの原料をサイズあるいは重量によって分別した後に、赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、この溶融物を液滴(粒状の融液)として自由落下させる方法(例えば、特許文献1,特許文献2および特許文献4を参照。)がある。また、溶融したシリコンを飛散させて粒子状の結晶にする方法(特許文献3を参照。)もある。
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/22048号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4188177号明細書
【特許文献3】特開平5−78115号公報
【特許文献4】米国特許第6432330号明細書
【特許文献5】特開平1−274859号公報
【特許文献6】特開平3−162507号公報
【特許文献7】特開2002−292265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの方法で製造された粒状シリコン結晶は、シリコンの溶融温度が1414℃と高温であることから、製造装置の上部に設けられた坩堝で加熱され、溶融されて融液となって坩堝の底部の排出孔から排出されることにより液滴(粒状の融液)となり、この粒状のシリコン融液が落下中に固化して粒状シリコン結晶となって、製造装置の最下部の回収部もしくは収集部に貯められることになる。
しかしながら、このようにして得られる粒状シリコン結晶の粒径は均一ではなく分散しており、導電性基板の平面上に整列させて光電変換装置を形成するときに、隣接する粒状シリコン結晶の粒径が異なることにより粒状シリコン結晶間に大きな隙間が形成されてしまい、入射光を有効に吸収することができないこととなるため、光電変換効率を低下させてしまうことが問題となっていた。
【0006】
これに対して、坩堝から融液を滴下させるときに坩堝に振動を加えることにより、粒状の融液の粒径を揃える方法が提案されている。例えば、特許文献5に開示されているように、坩堝のノズル部を弾性的に支持して振動させる方法、特許文献6に開示されているように振動板を用いて融液に直接振動を加えたりすることにより、粒度分布の狭い粒径の揃った粒子を製造する方法が報告されている。また、特許文献7に開示されているように坩堝のノズル部に振動を加えると共に、ノズル部から落下する融液を超音波等により振動させる方法が提案されている。
しかしながら、前述の粒状シリコン結晶の製造におけるような高融点、高純度のシリコン融液に振動を加える方法においては、ノズル孔の磨耗や融液柱の長さなどの不安定要因により、得られる粒状シリコン結晶の径が変動してしまうという問題があった。また、融液から余分な飛沫が発生してシリコン原料の利用効率を低減させてしまうという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、融液から余分な飛沫の発生を抑制するとともに、安定して粒径の揃った粒状半導体を得ることができるとともに、高い結晶性を持った粒状半導体を得ることができる粒状半導体の製造装置および製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の課題は、均一な径の粒状半導体が得られるとともに半導体材料の利用効率に優れた、本発明の粒状半導体の製造装置を用いて製造された粒状半導体結晶を用いることで、量産性に富む特性の良好な光電変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させ、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する際、観察手段を用いて前記融液を観察し、その結果を排出条件にフィードバックできる制御手段を介して、前記坩堝を振動させ、または前記坩堝内を加圧して前記融液を排出させることにより、融液の落下状態を調節する(例えば余分な飛沫の発生を抑制する)とともに、安定して粒径の揃った粒状半導体を製造できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の粒状半導体の製造装置および製造方法ならびに光電変換装置は、以下の構成を有する。
(1)坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造装置であって、前記坩堝を振動させる加振手段と、前記坩堝内を加圧して前記融液を排出する加圧手段と、排出された前記融液を観察する観察手段と、観察された前記融液の落下状態を調節するために前記加振手段による振動の振動数(周波数)および振幅を制御する制御手段とを具備していることを特徴とする粒状半導体の製造装置。
(2)前記制御手段は、前記加振手段による振動の振動数を前記製造装置の共振振動数からずれるように制御することを特徴とする(1)に記載の粒状半導体の製造装置。
(3)前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の長さが、所定の長さよりも長いときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の長さよりも短いときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することを特徴とする(1)または(2)に記載の粒状半導体の製造装置。
(4)前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の径が、所定の径よりも大きいときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の径よりも小さいときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することを特徴とする(3)に記載の粒状半導体の製造装置。
(5)前記観察手段は、赤外線を減衰させる光学フィルタおよび撮像装置を有していることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の粒状半導体の製造装置。
(6)坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造方法であって、前記坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させる際に前記坩堝を振動させるとともに前記坩堝内を加圧して前記融液を排出し、次に排出された前記融液を観察してその落下状態を調節するために前記坩堝の振動の振動数および振幅を制御することを特徴とする粒状半導体の製造方法。
(7)基板上に一導電型を呈する粒状半導体結晶を複数配設し、前記粒状半導体結晶の間に絶縁物質を配設し、前記粒状半導体結晶上に逆導電型を呈する半導体層を設けた光電変換装置であって、前記粒状半導体結晶は(6)に記載の粒状半導体の製造方法により製造された粒状半導体を用いたことを特徴とする光電変換装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粒状半導体の製造装置は、(1)によれば、坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造装置において、前記坩堝を振動させる加振手段と、前記坩堝内を加圧して前記融液を排出する加圧手段と、排出された前記融液を観察する観察手段と、前記加振手段および加圧手段を制御する制御手段とを具備していることにより、排出されている液柱を分離させる加振条件を最適状態に維持でき、安定した単分散分布の粒径を得ることができる。また、観察された前記融液の落下状態を調節するために、例えば余分な飛沫が発生しないように、前記加振手段による振動の振動数および振幅を制御することにより飛沫を抑制できるので、投入した半導体材料の利用率を向上させることができる。その結果、粒状半導体の量産性が向上し、粒状半導体の製造の低コスト化を図ることができる。
また、(2)によれば、前記制御手段は、前記加振手段による振動の振動数を前記製造装置の共振振動数からずれるように制御することにより、製造装置が振動することによる高調波成分を抑制することができる。このことにより、吐出した液柱の分裂を安定させて稼動させることができる。また、製造装置の共振による横方向の振動の発生を抑制でき、所定の加えるべき横振動への影響を無くすことができる。
また、(3)によれば、前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の長さが、所定の長さよりも長いときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の長さよりも短いときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することにより、排出される融液の長さが前者では短くなり、後者では長くなるため、融液の長さを一定に保つことができ、従って粒径を均一に調節することができる。このことにより、粒径の分布がさらに均一な粒状半導体にすることができ、光電変換装置の製造プロセスで安定な生産が可能となり、低コストで高い効率の光電変換装置を作製することができる。
また、(4)によれば、前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の径が、所定の径よりも大きいときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の径よりも小さいときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することにより、排出される融液の径が前者では細くなり、後者では太くなるため、融液の径を一定に保つことができ、従って粒径を均一に調節することができる。このことにより、粒径の分布がさらに均一な粒状半導体にすることができ、光電変換装置の製造プロセスで安定な生産が可能となり、低コストで高い効率の光電変換装置を作製することができる。
また、(5)によれば、観察手段は、赤外線を減衰させる光学フィルタおよび撮像装置を有していることにより、強く発光している排出された融液の径や飛沫の存在を明確に撮影することができるので、排出条件へのフィードバックを適切に行うことができ、安定な生産を行うことができる。
また、本発明の粒状半導体の製造方法は、(6)によれば、坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造方法において、前記坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させる際に前記坩堝を振動させるとともに前記坩堝内を加圧して前記融液を排出し、次に排出された前記融液を観察してその落下状態を調節するために前記坩堝の振動の振動数および振幅を制御することにより、粒径の均一な粒状半導体を得ることできるとともに、飛沫の発生を抑制できるため、投入した半導体原料の利用率を向上させることができる。その結果、粒状半導体の量産性が向上し、粒状半導体の製造の低コスト化を図ることができる。
また、本発明の光電変換装置は、(7)によれば、基板上に一導電型を呈する粒状半導体結晶を多数配設し、前記粒状半導体結晶の間に絶縁体を配設し、前記粒状半導体結晶上に逆導電型を呈する半導体層を設けた光電変換装置であって、前記粒状半導体結晶は、上記(6)の本発明の粒状半導体の製造方法によって製造されたものであることから、粒状半導体の径を均一にできることによりアニーリング等の効果を高めることができるとともに、粒状半導体への酸素および炭素の溶存を抑制できるので、電気特性に優れた高品質の粒状半導体結晶を製造することができ、光電変換装置の製造の高効率化および性能の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の粒状半導体の製造装置および製造方法、ならびに光電変換装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明の粒状半導体の製造装置の実施の形態の一例を模式的に表した縦断面図である。また、図2は本発明の粒状半導体の製造装置を用いて製造した粒状半導体結晶を用いた、本発明の光電変換装置の実施の形態の一例を示す縦断面図である。
図1において、1は落下中に冷却され凝固して粒状半導体となる半導体材料の粒状の融液、2はノズル孔、3は坩堝、4は半導体材料の融液、5はヒータ、6は半導体材料供給管、7は加振装置、8は融液の液柱、9は観察装置である。また、図2において、11は粒状シリコン結晶、12は導電性基板、13は接合層、14は絶縁物質、15は半導体層、16は透光性導体層、17は電極である。
この実施の形態の例では、半導体材料としてシリコンを用いた例について説明する。
【0012】
(製造装置および製造方法)
本発明の粒状半導体の製造装置において、坩堝3は、半導体材料であるシリコンを融液4として保持するための温度での強度を、例えば半導体材料のシリコンを溶融する温度である1460℃付近での強度を考慮して、酸化アルミニウム,炭化ケイ素,グラファイト,窒化ホウ素,窒化ケイ素等の材料と、また、シリコンの融液4との反応性を考慮して、高純度の石英とを組み合わせて構成されている。
坩堝3の先端側である底部にはノズル孔2を有するノズル部が設けられている。このノズル孔2を有するノズル部は、炭化ケイ素,ダイヤモンド,酸化アルミニウム,立方晶窒化ボロン,石英等からなり、シリコンの融液4を排出して粒状シリコンを得るための粒状の融液1を形成するためのものである。なお、ノズル孔2はノズル部に複数設けてもよい。ノズル孔2の加工は、機械加工あるいはレーザ加工によって行い、ノズル孔2の下端部の内径は例えば160μm程度の所定の値になるのが好ましい。
このように構成された坩堝3にシリコンの原料を投入して、抵抗加熱ヒータ等のヒータ5で加熱して、シリコンの原料を溶融してシリコンの融液4とする。
粒状シリコンは、シリコンに、所望の導電型および抵抗値となるように、p型またはn型を呈するホウ素,アルミニウム,ガリウム,インジウム,リン,砒素,アンチモン等のドーパントがドーピングされている。p型ドーパントとしては、シリコンに対する偏析係数が他の元素に比較して大きく1により近いという点や、シリコン溶融時の蒸発係数が小さい点からは、ホウ素を用いることが望ましい。
【0013】
坩堝3の上部には加振装置7が接続されている。加振装置7は坩堝3を上下に振動させるが、左右(横方向)の振動を付加してもよい。横方向の振動を付加すると、粒状シリコンの融液同士が衝突して大粒子化するのを有効に抑制することができる。振動の条件は、単振動でもよいが、パルス状の振動でも構わない。
加振装置7は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用いたセラミックアクチュエータ等からなる圧電式、またはコイルと振動軸等からなる電磁式の振動装置等を用いればよい。なお、このとき、熱により振動数や振幅が変動することがあるので、安定に稼動させるには加振装置7を水冷管等によって水冷することが好ましい。
加振装置7により坩堝3を振動させる振動の振動数(周波数)は、ノズル孔2の孔径とシリコンの融液4の吐出速度との関数として設定されるものであるので、加振装置7は、状況に合わせて振動数を変更できるような可変式が好ましい。また、振動数の範囲は、上下の振動の場合、融液4を排出したときのノズル孔2直下の平滑流の液柱の径や速度に依存するので、10Hz〜50kHzまでが望ましい。また、そのときの振幅は1〜1000μmが好ましい。これにより、ノズル孔2より排出される融液4が加振され、平滑な円柱状の液柱の表面に振動数に対応したくびれが周期的に形成され、これが表面張力により成長して遂には切断されて粒状の融液1となるので、粒状の融液1の粒径がほぼ均一となり、良好な結晶性を有する粒径の揃った粒状シリコンを得ることができる。
なお、加振装置7で坩堝3を上下に振動させた場合は、融液4の液柱の切れがよくなり、左右に振動させる場合は、落下する粒状の融液1がバラバラに落下するので粒状の融液1同士がぶつからないので、粒径をほぼ均一に保つことができる。左右に振動させる振動の振動数は好ましくは100〜300Hzで、そのときの振幅は1〜1000μmが好ましい。
【0014】
観察装置9としては、高速、高倍率、長焦点距離の性能を有する撮像装置であるのが好ましい。融液4の排出速度が0.5〜50m/sと大きいため、粒状の融液1の粒径を明瞭に観察するには、例えばシャッター速度1/10000以下の高速度カメラが好ましい。また、粒状の融液1の粒径は100〜2000μmと小さいため、粒状の融液1の粒径を明瞭に観察するには、例えば10倍以上の高倍率カメラが好ましい。また、シリコンの融点は1414℃と高温であるため、離れた場所から観察する必要があるため、長焦点距離カメラが好ましい。
また、前記撮像装置により粒状の融液1の画像データを取り込み、その画像データの分析結果から粒状の融液1の粒径を算出して、加振装置7の振動数に対して、算出された粒径に対応する所定の変調を加える自動制御システムを用いることができる。これによれば、粒径の均一な粒状シリコンを効率よく高い生産性をもって製造することが可能である。なお、粒状の融液1の粒径の測定装置として、レーザ光の散乱を利用した粒径測定装置を用いることができる。
【0015】
坩堝3内のガス雰囲気は、不活性なアルゴン(Ar)またはヘリウム(He)等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、その不活性ガスは、坩堝3内に生成されるガスを置換するために、坩堝3内の融液4の液面近くに供給することが好ましい。この不活性ガスは、例えば、Ar−He混合ガスを用いるとよい。これにより、坩堝3の材料中に含まれる酸素が遊離し、同じく材料中の炭素と反応して一酸化炭素または二酸化炭素となり、それらが前記混合ガスにより置換されるので、シリコンの融液4に炭素および酸素が混入するのを防ぐことができる。また、坩堝3の内壁の表面を劣化させるような雰囲気ガス内に生成される不要なガスを置換する効果があるので、坩堝3の内壁の表面が劣化して、微量に含有している不純物とともに内壁の一部がシリコンの融液4に落下することによる汚染を防ぐこともできる。このことにより、シリコンの融液4を高純度に維持したまま粒状の融液1として排出することができ、高品質の粒状シリコンを得ることができる。
【0016】
本発明の粒状半導体の製造装置における加振装置7〜坩堝3部の全体の構成は、図1に示している。主要な構成は、坩堝3を振動させる加振手段である加振装置7と、坩堝3内を加圧して融液4を排出する加圧手段ともなる半導体材料供給管6と、排出された融液8を観察する観察手段である観察装置9である。
このような構成の本発明の粒状シリコンの製造装置によれば、坩堝3内でシリコンを溶融して融液4とした後、加振装置7により坩堝3を振動させながら、粒状の融液1を排出する結果、ノズル孔2の直下の融液の液柱8に、加振手段の振動数に応じてくびれが形成され、このくびれが切断に至り、粒状の融液1となって分離される。このため、粒状の融液1の粒径は振動数に特有な一定の粒径となるので、粒状の融液1およびこれにより得られる粒状シリコンの粒径はほぼ均一となる。そして、粒状の融液1からの凝固熱は粒状シリコンの体積に比例し、粒状シリコンの表面からの熱放射および対流による雰囲気の気体への熱伝導は粒状シリコンの表面積に依存しているので、固化した粒状シリコンの導電率・エッチピット等の物性等の品質が、粒径が均一となることにより安定しているので、加振効果を確認することができる。このとき、粒状シリコンの落下状態を加振手段の振動数に対応したパルス画像を前記観察装置9で見ると停止しているように見えるので、加振が有効に働いているかどうかが判断できる。
【0017】
加振条件は、排出されている融液の液柱8の径や速さやガス圧力に依存し、適切な条件からずれ始めると、まず融液から飛沫1aが発生してくる。この飛沫発生現象を捉え、観察された融液から余分な飛沫1aが発生しないように加振手段による振動の振動数および振幅を制御することが安定な生産に有効であることを確認した。つまり、ガス圧力やノズル孔径や融液の排出速度は微妙に変動しており、適切な加振条件からずれたときに発生してくる飛沫1aを観察装置9でモニタリングしておき、飛沫1aが発生したときには、モニタリングしながら加振装置7の振動条件である振動数および振幅、あるいはガス圧力を変化させることで、制御手段(図1では図示せず)を介して適切な加振条件に復帰させる。
例えば、加振装置7の振動数は通常は1〜10kHz程度(通常値)であるが、飛沫1aが発生したときには、通常値に対して−10%〜+10%程度変化させる。また、加振装置7の振幅は通常は1〜1000μm程度(通常値)であるが、飛沫1aが発生したときには、通常値に対して−10%〜+10%程度変化させる。また、加圧手段の圧力は通常は0.01〜0.5MPa程度(通常値)であるが、飛沫1aが発生したときには、通常値に対して−10%〜+10%程度変化させる。このような振動数、振幅、圧力を変化させる幅は、特に限定されたものではなく、モニタリングしながら飛沫1aが発生しない状態になるまで変化させてもよい。
この制御手段を具備していることにより、排出されている液柱を分離させる加振条件を常に最適状態に維持でき、安定した単分散分布の粒径を得ることができる。また、飛沫1aを抑制できるので、投入シリコンはほとんど粒状シリコンの形成に用いられ、シリコンの利用率を向上させることができる。その結果、粒状シリコンの量産性が向上し、粒状シリコンの製造の低コスト化を図ることができる。
例えば、この制御手段は、観察装置9と加振装置7とを結ぶ信号伝送線路上に設けられるものであり、マイクロコンピュータを含む電気(電子)回路装置、コンピュータ装置(端末)を含む電気(電子)装置等である。あるいは、観察装置9で得られた画像に基いて、人手によって加振装置7の振動数、振幅、加圧手段の圧力等を調整するものであってもよい。また例えば、加振装置7の振動数を調整する方法としては、上記の圧電式や電磁式のものに入力する駆動信号の周波数を調整する方法がある。また、加振装置7の振幅を調整する方法としては、上記の圧電式や電磁式のものに入力する駆動信号の振幅を調整する方法がある。
【0018】
また、加振装置7の振動の振動数が製造装置の共振振動数と同じになると製造装置が共振して大きく振動する。このとき、加えた振動数以外に高調波成分が発生し、融液の分裂に悪影響を与えることがわかっている。これは、加振装置7の振動数に応じて融液表面に形成されるくびれに高調波成分が重畳されることにより、液柱の分裂が阻害されるためである。したがって、加振装置7の振動数が製造装置の共振振動数とならないように制御することが重要である。また、製造装置の共振によって横方向にも不要な振動が発生することを抑制できる。このことにより、排出した液柱の分裂を安定させることができる。
【0019】
また、ノズル部から連続する柱状を成して排出される融液の径が所定の径よりも大きくなったときは、加圧手段のガス圧力を下げて排出される融液の速度を低下させることが好ましい。これは、排出速度を絞ることにより、融液の径を小さくする効果があるためである。反対に、排出される融液の径が所定の径よりも小さくなったときは、ガス圧力を上げるように制御することにより、排出される融液の分裂の長さが前者では短くなり、後者では長くなるため、粒状シリコンの粒径を調節することができる。このことにより、粒径の分布がさらに均一な粒状シリコンにすることができ、この方法によって製造した粒状シリコン結晶を用いることにより、低コストで高い効率の光電変換装置を作製することができる。なお、加圧手段は、油圧式や電動式のピストン及びシリンダーを有するもの、圧縮ポンプ等である。
【0020】
また、観察装置9で強く発光している排出された融液を撮影したときは、飛沫1aの出現を見逃すことが多く、これを防ぐために、観察装置9に赤外線を減衰させる光学フィルタおよび撮像装置を取り付けた。このことにより、強く発光している排出された融液の径や飛沫1aの存在を明確に撮影することができるようになり、排出条件へのフィードバックを適切に行うことができ、安定な生産を行うことができる。
【0021】
(光電変換装置)
本発明の光電変換装置は、図2に断面図で示すように、導電性基板407の一主面、この例では上面に、第1導電型例えばp型の粒状シリコン結晶406が多数個、その下部を例えば接合層408によって導電性基板407に接合され、粒状シリコン結晶406の隣接するもの同士の間に絶縁物質409を介在させるとともにそれら粒状シリコン結晶406の上部を絶縁物質409から露出させて配置されて、これら粒状シリコン結晶406に第2導電型例えばn型の半導体層410および透光性導体層411が順次設けられた構成となっている。なお、電極412は、この光電変換装置を太陽電池として使用する際に、透光性導体層411の上に所定のパターン形状に被着形成されるものであり、例えばフィンガー電極およびバスバー電極である。
そして、本発明の粒状半導体の製造装置により作製された粒状シリコンを用いた光電変換装置においては、粒状シリコン結晶406は、高品質でかつ粒径が揃っているため、導電性基板12の一主面上に高密度に配置することができる。
【0022】
また、本発明の粒状半導体の製造装置により作製された粒状シリコンを用いた光電変換装置においては、粒状シリコン結晶406の製造に、構造がシンプルで振幅の大きい加振装置でも安定して多数回繰り返すことができるとともに、酸素や炭素を含む生成ガスを排除することの容易な省エネルギーかつ省資源の粒状シリコンの製造装置を用いることにより、粒状シリコンへの酸素および炭素の溶存を抑制して、酸素の凝集による欠陥や炭化珪素微粒子等の生成を防止した高品質な粒状シリコンとすることができるとともに、粒状シリコンの粒径を均一にできることにより、融液の落下中の温度勾配の設計やアニーリングの設計等のプロセスが容易となりそれらの処理効果を高めることができるので、低コストで光電変換効率の優れた光電変換装置を提供することができる。
【0023】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明の粒状半導体の製造装置およびその製造方法ならびに光電変換装置を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
本発明の粒状半導体の製造装置およびそれを用いて製造した粒状シリコン結晶を用いた本発明の光電変換装置をより具体化した実施例について説明する。
まず、CVD法で作製した炭化珪素の基板を用いて、厚み1mmの円板形状の坩堝3の底板とし、その中心にノズル孔2をレーザ加工によりを形成した。ノズル孔2は、レーザ加工条件を最適化することにより、ノズル孔2の下側の開口部の直径が150μmになるようにした。
坩堝3はグラファイトで形成し、それぞれ内壁を石英で被覆したものを用いた。また、図1に示すように、電磁式加振装置から成る加振装置7を坩堝3上に設けた。
【0025】
次に、坩堝3を、その外側の雰囲気を不活性ガス(アルゴン)の雰囲気に維持できる石英管内に設けるとともに、石英管内において坩堝3の融液4に相当する位置を囲むようにヒータ5をセットした。
そして、坩堝3に設けた半導体材料供給部としての半導体材料供給管6より、半導体材料としてのシリコン原料300gを供給し、同時に半導体材料供給管6よりアルゴンとヘリウム(Ar−He)の混合ガスを供給して、坩堝3内の雰囲気から酸素ガスを排除するとともに1430℃に昇温することによって、坩堝3の内壁から生成されるSiO,CO,CO2等のガスをAr−He混合ガスで置換しながら、シリコン原料を完全に溶融させてシリコンの融液4とした。
この融液4が十分に溶融した状態になるまで待った後、坩堝3の上部に設けた加振装置7(VTS社製電磁式加振装置)を稼動して、坩堝3にノズル孔2の軸方向(上下方向)に平行に、振幅1μmの単振動を与えた。この振動の振動数は20kHzに設定した。その上で、アルゴンガスにより坩堝3内のシリコンの融液4を加圧装置6(圧力制御バルブ)により0.3MPaの圧力で加圧して、底部のノズル孔2より粒状の融液1を排出させた。このとき排出の速さは20m/秒であった。
【0026】
そして、排出されている融液の液柱8を、その液柱8の横に設置した赤外線を減衰させる光学フィルタ付きの撮像装置9(日機装社製粒度分布測定装置)を用いて、融液の液柱8の径や飛沫1aを観察した。飛沫1aが発生したままにしておくと、加振条件がずれてしまい、ついには粒状に分裂しなくなることがわかった。
この飛沫1aを撮像装置9でモニタリングしておき、飛沫1aが発生したときには、加振装置7の振動条件である振動数および振幅、あるいはガス圧力を変化させて、飛沫1aの発生を抑制することで適切な加振条件に復帰させることができ、融液の液柱8の分裂を安定して継続することができた。例えば、径が10〜100μmの飛沫1aが発生したときは、振動数を初期設定値4kHzに対して−10%〜+10%、振幅を初期設定値700μmに対して−10%〜+10%、そしてガス圧を初期設定値0.2MPaに対して−10%〜+10%の範囲でそれぞれを調整することにより、飛沫1aの発生を抑制できる各値を見つけ出すことができた。
一方、飛沫1aの発生を抑制するための制御を行わない場合について、この飛沫1aを集めて重量を測定したところ、全投入重量の10%を超える場合もあり、飛沫1aの抑制によってシリコン原料の利用効率の向上をもたらすことができた。
【0027】
加振装置7の振動の振動数が製造装置の共振振動数(2kHz程度)と同じになったとき、製造装置が共振して大きく揺動した。これにより、加えた振動数以外に高調波成分が発生したことがスペクトルアナライザーで観察された。このとき、融液の液柱8の分裂が困難になり、加振を停止させた。製造装置の共振振動数を前もって調べておき、加振手段の振動数がこの共振振動数とならないように設計することで上記の課題は解決された。
【0028】
また、本発明の製造装置はシリコン材料を多数回投入しては排出する操作を繰り返すことができ、コスト低減にきわめて有利である。しかしながら、得られる粒状シリコンの粒径は徐々に変動していった。粒径が大きくなっていったときは、融液4を排出する0.3MPaのガス圧力を0.25MPaに低下させることで粒径を500μmから460μmに小さくすることができた。逆に、粒径が小さくなっていった場合はガス圧力を0.35MPaにすることで粒径を500μmから540μmに大きくすることができた。
【0029】
上記のように、本発明の加振条件を制御する製造装置により、このとき得られた粒状シリコンの粒度分布は、平均粒径D50が310μmであり、分散を表す標準偏差の3倍(3σ)は20μm(平均粒径の6.5%)となり、従来の40μm(平均粒径の12.9%)以上あった3σを低下させることに成功した。このとき、融液の液柱8の長さは15mm、融液の液柱8の径は80μmであった。なお、平均粒径D50は、横軸に粒径D(μm)、縦軸にQ%(その粒径以下の粒子が存在する割合で、単位は粒子の体積%)をとった累積粒度曲線において、Q%=50%に対応する粒径Dの値をいう。粒度分布の測定には、レーザ回折・散乱式測定装置(日機装社製)を用いて行った。
そして、このようして得られた粒状シリコンを石英基板に載せて、温度制御した溶融炉の中で再溶融させて、酸素・窒素雰囲気下で降温することにより、内部の不純物の含有量を抑えた単結晶シリコンから成る粒状シリコン結晶を得た。
【0030】
次に、得られた粒状シリコン結晶を用いて、図2に示す構成の光電変換装置を作製した。
まず、粒状シリコン結晶406を石英ボートに載せて、高温の石英管の中に導入し、不純物ドーパントを送り込み、粒状シリコン結晶406の表面におよそ0.3μmの厚さのn型の半導体層410を形成した。
次に、導電性基板407としてアルミニウム基板を用い、この上面に粒状シリコン結晶406を配設した後、アルミニウムとシリコンとの共晶温度(577℃)以上で加熱して、多数個の粒状シリコン結晶406の下部を導電性基板407の上面に接合させた。
さらに、この上から粒状シリコン結晶406同士の間にそれらの上部を露出させてポリイミドから成る絶縁物質409を塗布して乾燥し、下部電極となる導電性基板407と、上部電極となる透光性導体層411とを電気的に絶縁分離するようにした。
この上に上部電極としての透光性導体層411を、スパッタリング装置を用いて、加熱温度は200℃として、全面に約75nmの厚みで形成した。
最後に、銀ペーストをディスペンサーでグリッド状にパターン形成して、フィンガー電極およびバスバー電極からなる電極412を形成した。
【0031】
上記で得られた本発明の光電変換装置について、所定の強度および所定の波長の光を照射して、光電変換装置の電気特性を示す光電変換効率(単位:%)を測定した。電気特性の測定は、ソーラーシミュレータ(WACOM社製:WXS155S−10)を用いて、JIS C 8913に基づいた方法により実施した。
その結果、13%を超える光電変換効率を再現性よく得ることができ、本発明の粒状シリコンの製造装置および製造方法で製造された粒状シリコン結晶が高品質であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の粒状半導体の製造装置および製造方法について実施の形態の一例を模式的に表した縦断面図である。
【図2】本発明の粒状半導体の製造装置および製造方法を用いて製造した粒状半導体を用いた、本発明の光電変換装置の実施の形態の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1:粒状の融液
1a:飛沫
2:ノズル孔
3:坩堝
4:半導体材料の融液
5:ヒータ
6:半導体材料供給管
7:加振装置
8:融液の液柱
9:観察装置
406:粒状シリコン結晶
407:導電性基板
408:接合層
409:絶縁物質
410:半導体層
411:透光性導体層
412:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造装置であって、前記坩堝を振動させる加振手段と、前記坩堝内を加圧して前記融液を排出する加圧手段と、排出された前記融液を観察する観察手段と、観察された前記融液の落下状態を調節するために前記加振手段による振動の振動数および振幅を制御する制御手段とを具備していることを特徴とする粒状半導体の製造装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記加振手段による振動の振動数を前記製造装置の共振振動数からずれるように制御することを特徴とする請求項1記載の粒状半導体の製造装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の長さが、所定の長さよりも長いときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の長さよりも短いときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の粒状半導体の製造装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ノズル部から連続する柱状を成して排出される前記融液の径が、所定の径よりも大きいときには前記加圧手段の圧力を下げ、前記所定の径よりも小さいときには前記加圧手段の圧力を上げるように制御することを特徴とする請求項3記載の粒状半導体の製造装置。
【請求項5】
前記観察手段は、赤外線を減衰させる光学フィルタおよび撮像装置を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粒状半導体の製造装置。
【請求項6】
坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に冷却して凝固させることによって粒状半導体を製造する粒状半導体の製造方法であって、前記坩堝のノズル部から半導体の融液を粒状に排出して落下させる際に前記坩堝を振動させるとともに前記坩堝内を加圧して前記融液を排出し、次に排出された前記融液を観察してその落下状態を調節するために前記坩堝の振動の振動数および振幅を制御することを特徴とする粒状半導体の製造方法。
【請求項7】
基板上に一導電型を呈する粒状半導体結晶を複数配設し、前記粒状半導体結晶の間に絶縁物質を配設し、前記粒状半導体結晶上に逆導電型を呈する半導体層を設けた光電変換装置であって、前記粒状半導体結晶は請求項6に記載の粒状半導体の製造方法により製造された粒状半導体を用いたことを特徴とする光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−210833(P2007−210833A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32095(P2006−32095)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】