説明

精錬用上吹きランス及びそれを用いた溶銑の精錬方法

【課題】 溶銑または溶鋼を酸化精錬するにあたり、効率的な酸化精錬が可能であると同時に転炉型精錬容器の付着地金を効率的に溶解するための上吹きランスを提供する。
【解決手段】 本発明の精錬用上吹きランス1は、上吹きランスの先端部に、鉛直下向きまたは斜め下向き方向の主孔ノズル11及び副孔ノズル12を有し、前記先端部から上方に隔離した位置の上吹きランスの側面部に、水平または斜め下向き方向の二次燃焼用ノズル13を有し、且つ、上吹きランスの内部には、固体酸素源とは異なる粉体を吹錬用の酸素含有ガスとともに前記主孔ノズルを通じて供給するか、または、吹錬用の酸素含有ガスを、前記主孔ノズルを通じて供給するための第1の供給経路と、二次燃焼用の酸素含有ガスを、前記二次燃焼用ノズルを通じて供給するための第2の供給経路と、粉体状の固体酸素源を、搬送用ガスとともに前記副孔ノズルを通じて供給するための第3の供給経路と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱燐処理などの酸化精錬を転炉型精錬容器内の溶銑または溶鋼に施すのに好適な精錬用上吹きランスに関し、詳しくは、酸素含有ガスの供給経路と酸化鉄などの固体酸素源の供給経路とが分離されていて、これらの経路から酸素含有ガス及び固体酸素源を独立して転炉型精錬容器内の溶銑または溶鋼の浴面に供給可能であり、しかも酸素含有ガスとともに固体酸素源以外の粉体の供給が可能であり、且つ、ランス先端部から隔てたランスの側面から二次燃焼用の酸素含有ガスを転炉型精錬容器の炉内空間に供給することが可能な精錬用上吹きランスに関し、並びに、この精錬用上吹きランスを用いた溶銑の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉溶銑を用いる製鋼プロセスにおいては、転炉で脱炭吹錬する前に、溶銑中に含有される燐(P)の大半を酸素ガスや固体の酸化鉄を用いて酸化して除去する、溶銑の予備脱燐処理が一般的に行われている。特に近年、鉄鋼製品に求められる品質要求は以前にも増して厳格になり、今まで以上の燐濃度の低減が求められるようになっている。この品質要求に応えるには、脱燐処理を施す溶銑量を従来以上に増加することや、脱燐処理後の燐濃度を安定して下げることが必要となる。
【0003】
一方、昨今の地球温暖化に代表される環境への影響の軽減要請に対応すべく、製鋼工程におけるスラグ排出量の削減が必須となっている。溶銑の予備脱燐処理でスラグの排出量を削減するためには、溶融して燐酸化物(P25)吸収用の精錬剤として機能するスラグ(「脱燐精錬用スラグ」と呼ぶ)となる脱燐用の精錬剤(以下、「脱燐用精錬剤」と記す)の投入量を低減することが必要である。溶銑の予備脱燐処理における脱燐用精錬剤の主体は石灰であり、上記の品質要求に応えるとともにスラグ排出量を削減するためには、石灰の使用量を低減しつつ、必要脱燐量を維持する技術、即ち、少ない石灰の使用量で効率良く脱燐処理する技術が必要となる。
【0004】
溶銑の予備脱燐処理において、滓化(スラグ化)しない石灰は脱燐反応に寄与しないことから、石灰の使用量を削減するためには、添加した石灰の滓化を促進させることが重要となる。従来、石灰を始めとするスラグの滓化能力に優れた滓化促進用の媒溶剤としてホタル石(フッ化カルシウムを主成分とする鉱石)が知られており、脱燐処理においてもホタル石が用いられてきた。しかし近年、環境規制の強化に伴い、フッ素を含有する媒溶剤の使用が制限されるようになり、そのため、ホタル石を使用しなくても石灰による脱燐反応を促進させる手段が検討され、多数の提案がなされている。
【0005】
そのなかの1つの手段として、石灰系の脱燐用精錬剤を酸素含有ガスや酸化鉄などの酸素源の供給されている場所と同一場所或いは近接した場所に供給し、石灰系の脱燐用精錬剤の滓化を促進させ、少ない石灰系脱燐用精錬剤で効率良く脱燐処理する技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、酸素ガスが供給されている場所に、石灰系脱燐用精錬剤及び吸熱物質を添加して行う溶銑の予備脱燐処理方法が提案されている。特許文献2には、酸素ガスの供給によって溶銑表面に形成される火点領域に石灰系脱燐用精錬剤を添加するに好適な上吹きランスとして、軸心部位置に石灰系脱燐用精錬剤を供給するための粉体吹き込みノズルを配置し、その周囲に酸素ガスを供給するための複数のノズルを配置した、四重管構造の上吹きランスが開示されている。また、特許文献3には、酸素含有ガスとともに石灰系脱燐用精錬剤を供給する供給経路と酸化鉄の供給経路とが分離されていて、これらの経路から酸素含有ガス、石灰系脱燐用精錬剤及び酸化鉄を溶銑浴面に供給して脱燐処理などの酸化精錬を溶銑に施すための五重管構造の精錬用上吹きランスが提案されている。この特許文献3では、酸化鉄供給経路の周囲に緩衝空間を設けることにより、酸化鉄供給経路の破孔を検知することも提案している。
【0007】
ところで、溶融鉄における脱燐反応は温度が低いほど有利であることから、脱燐処理は、1300〜1400℃程度の溶銑の段階で行われている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、1300℃弱〜1350℃程度での溶銑の予備脱燐処理が開示されている。また、最近では、フリーボードが大きく強攪拌が可能であることから、溶銑の予備脱燐処理は、転炉型精錬容器で行われるのが一般的である。しかし、低温であるので、脱燐処理中に飛散した溶銑が転炉型精錬容器の側壁や炉口などに付着・凝固して地金が堆積し、溶銑歩留まりの低下や地金除去作業による生産性の低下を招いていた。
【0008】
この地金付着の問題は、溶銑の予備脱燐処理に限らず、転炉での溶銑の脱炭精錬においても問題になっている。つまり、転炉での溶銑の脱炭精錬では、吹錬中の地金飛散(「スピッテング」と呼ぶ)やスラグ噴出(「スロッピング」と呼ぶ)によって転炉の内壁や炉口に地金が堆積し、炉内への溶銑及び鉄スクラップの装入が阻害されるなどの問題が発生する。
【0009】
この地金付着を解決するための手段も多数提案されている。例えば特許文献4には、先端部に主孔ノズルを有する上吹きランスの先端部から所定の間隔を隔てた上吹きランスの側面に、水平または下向き方向の二次燃焼用ノズルを配置し、前記主孔ノズルから酸素ガスを供給して転炉内の溶銑または溶鋼を酸化精錬すると同時に、前記二次燃焼用ノズルから酸素ガスを供給して転炉に付着した地金を溶解する精錬方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−328021号公報
【特許文献2】特開2006−336033号公報
【特許文献3】特開2008−208407号公報
【特許文献4】特開2008−138271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在、製鋼工程においては、溶銑の予備脱燐処理を始めとして、酸素源として、酸素含有ガスなどの気体酸素源と酸化鉄などの固体酸素源とを併用し、これらを同一箇所或いは近接した箇所に添加する酸化精錬方法が主流になっている。しかも、その場合に、前記気体酸素源を搬送用ガスとして利用し、脱燐用精錬剤などのフラックスを気体酸素源とともに搬送することにより(特許文献3を参照)、フラックスを気体酸素源の添加位置に投入する精錬方法も行われるようになっている。また、このような精錬を実施する場合にも、転炉型精錬容器の内壁及び炉口に付着した地金を上吹きランス側面の二次燃焼用ノズルから供給する気体酸素源によって溶解することは、鉄歩留まり並びに生産性を確保する上で極めて重要である。
【0012】
このような精錬を実施するための上吹きランスとして、上記従来のさまざまな形状の上吹きランスを検証すれば、何れの上吹きランスも採用することはできない。また、上記従来の上吹きランスを組み合わせたとしても、満足できる上吹きランスにはなり得ない。例えば、特許文献3に提案される上吹きランスの酸素含有ガス供給経路に接続して、特許文献4に提案される二次燃焼用ノズルを設置しても、酸素含有ガス供給経路を介して酸素含有ガスとともにフラックスを搬送すると、このフラックスによって二次燃焼用ノズルが閉塞してしまうという問題が発生する。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶銑の予備脱燐処理のように、溶銑または溶鋼を転炉型精錬容器内で酸化精錬するにあたり、効率的な酸化精錬が可能であると同時に、転炉型精錬容器に付着した地金を効率的に溶解することのできる精錬用上吹きランスを提供することであり、また、この精錬用上吹きランスを用いた溶銑の精錬方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 転炉型精錬容器に収容された溶銑または溶鋼の酸化精錬に使用する精錬用上吹きランスであって、上吹きランスの先端部に、鉛直下向きまたは斜め下向き方向の吹錬用主孔ノズル及び固体酸素源吹き込み用副孔ノズルを有し、前記先端部から上方に隔離した位置の上吹きランスの側面部に、水平または斜め下向き方向の二次燃焼用ノズルを有し、且つ、上吹きランスの内部には、固体酸素源とは異なる粉体を吹錬用の酸素含有ガスとともに前記主孔ノズルを通じて供給するか、または、吹錬用の酸素含有ガスを、前記主孔ノズルを通じて供給するための第1の供給経路と、二次燃焼用の酸素含有ガスを、前記二次燃焼用ノズルを通じて供給するための第2の供給経路と、粉体状の固体酸素源を、搬送用ガスとともに前記副孔ノズルを通じて供給するための第3の供給経路と、を有することを特徴とする精錬用上吹きランス。
即ち、第1の供給経路は、固体酸素源とは異なる粉体(以下「精錬用フラックス」とも記す)を当該経路に導入する精錬用フラックス導入部と、酸素含有ガスを当該経路に導入する酸素含有ガス導入部とを有する。精錬用フラックス導入部は、精錬用フラックスを搬送用ガスとともに導入する導入部であってもよく、この搬送用ガスも酸素含有ガスであることが好ましい。言うまでもなく、精錬用フラックスと酸素含有ガスとが同一の導入部から導入される構造(即ち、前記精錬用フラックスと酸素含有ガスとを前記主孔ノズルを通じて供給する際の比率に予め混合したものが、該導入部から導入される構造)としてもよい。尚、操業においては、精錬用フラックスの導入を停止し、酸素含有ガスのみを前記酸素含有ガス導入部から第1の供給経路に導入してもよい。
また、第2の供給経路は、酸素含有ガスを当該経路に導入する酸素含有ガス導入部を有する。更に、第3の供給経路は、搬送用ガスとともに固体酸素源を当該経路に導入する固体酸素源導入部を有する。尚、操業においては、固体酸素源の供給を停止し、搬送用ガスのみを固体酸素源導入部より第3の供給経路に導入してもよい。ここで、第1の供給経路及び第2の供給経路が酸素含有ガス導入部を共有してもよい。その場合は、前記精錬用フラックスが第2の供給経路に混入することを防ぐための仕切り構造を設けるものとする。
(2) 前記第2の供給経路の末端は閉ざされていて、第2の供給経路で供給される酸素含有ガスが第1の供給経路及び第3の供給経路に合流しないように構成されていることを特徴とする、上記(1)に記載の精錬用上吹きランス。ここで、第2の供給経路の末端とは、該経路の、最もランス先端部に近い二次燃焼用ノズルよりも先(ランス先端部側)の部分を意味する。
(3) 前記第2の供給経路に、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを供給するように構成されていることを特徴とする、上記(2)に記載の精錬用上吹きランス。即ち、第2の供給経路は、前記の何れか1種または2種以上のガスを当該経路に導入する導入部を有する。言うまでもなく、これらのガスが前記酸素含有ガスと同一の導入部から導入される構造としてもよい。
(4) 前記第3の供給経路の周囲に、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスが存在する緩衝空間が備えられ、該緩衝空間に存在するガスの圧力または流量の変化に基づいて第3の供給経路での破孔が検知されるように構成されていることを特徴とする、上記(1)〜(3)の何れかに記載の精錬用上吹きランス。
(5) 前記第1の供給経路、前記第2の供給経路及び前記第3の供給経路が同心円上に配置されていることを特徴とする、上記(1)〜(4)の何れかに記載の精錬用上吹きランス。
(6) 石灰系脱燐用精錬剤を転炉型精錬容器に収容された溶銑に添加し、添加した前記脱燐用精錬剤を滓化させてスラグとなし、溶銑に対して酸化精錬を実施するにあたり、上記(1)〜(5)の何れか1つに記載の精錬用上吹きランスを用い、第1の供給経路から吹錬用の酸素ガスを溶銑浴面に供給すると同時に、第3の供給経路から固体酸素源を吹錬用の酸素ガスが供給されている場所の近傍の溶銑浴面に搬送用ガスとともに供給し、更に、第2の供給経路から二次燃焼用酸素ガスを転炉型精錬容器の炉内空間に供給して酸化精錬を行うことを特徴とする、溶銑の精錬方法。尚、前記石灰系脱燐用精錬剤の少なくとも一部を、第1の供給経路より前記溶銑に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上吹きランスは、その内部に、石灰系脱燐用精錬剤などの、固体酸素源とは異なる粉体を吹錬用の酸素含有ガスとともに主孔ノズルを通じて供給するか、または、吹錬用の酸素含有ガスを主孔ノズルを通じて供給するための第1の供給経路と、二次燃焼用の酸素含有ガスを二次燃焼用ノズルを通じて供給するための第2の供給経路と、粉体状の固体酸素源を搬送用ガスとともに副孔ノズルを通じて供給するための第3の供給経路と、を有しているので、第1の供給経路及び第3の供給経路から粉体を供給しても、二次燃焼用ノズルからは酸素含有ガスのみが噴射され、二次燃焼用ノズルは、閉塞することなく長期間にわたって安定して二次燃焼用酸素含有ガスを噴射する。これにより、転炉型精錬容器の地金付着が抑制され、地金付着に伴う弊害が未然に防止されて、鉄歩留まりの向上や生産性の向上が達成される。また、酸素含有ガス、固体酸素源、及び石灰系脱燐用精錬剤などのフラックスを同一箇所またはそれぞれの近傍に供給することができるので、溶銑及び溶鋼の酸化精錬を効率的に行うことが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る精錬用上吹きランスの例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る精錬用上吹きランスにおいて、緩衝空間への緩衝用ガスの供給経路を示す図である。
【図3】本発明に係る精錬用上吹きランスの他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。尚、以下に例示する上吹きランは典型的な例ではあるが、各部位(ノズル、経路など)の形状、寸法、数、位置などはこれに限定されない。即ち、各部位の目的を適正に実現するために、公知の技術を参考として実使用環境に合わせて構造を設計することができる。
【0018】
図1は、本発明に係る精錬用上吹きランスの1例を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明に係る上吹きランス1は、円筒状のランス本体2と、このランス本体2の下端に溶接などにより接続されたランスノズル3と、ランス本体2の上端部であり、ガス、粉体、冷却水の導入部(ランス本体2の各々の供給設備との接続部)となるランス頂部4と、で構成されている。ランス本体2は、最外管5、外管6、中管7、仕切り管8、内管9、最内管10の同心円状の6種の鋼管、即ち六重管で構成され、銅製のランスノズル3には、その軸心部に鉛直下向き方向の副孔ノズル12が設置され、この副孔ノズル12の周囲には、吐出方向を鉛直斜め下向き方向とする複数個の主孔ノズル11が設置されている。また、ランス本体2の側面部には、ランスノズル3の先端部から上方に隔離した位置に、吐出方向を水平または斜め下向き方向とする複数個の二次燃焼用ノズル13が、ランス本体2の円周方向でほぼ等間隔に設置されている。図1では、鉛直方向に2段であるが、1段であってもまた3段以上としても構わない。尚、上吹きランス1の先端部から上方に隔離した位置の側面部に水平または斜め下向き方向の二次燃焼用ノズル13を設けるとは、二次燃焼用ノズル13からの噴射方向が精錬容器の炉壁に向くようにランス側面部上の位置及び向き(角度)を選定することを意味する。また、ランス先端部に最も近い二次燃焼用ノズル13のランスの先端部からの距離は、一般的なランスノズル3における冷却水路などの設計制約を勘案して、ランス先端から300mm以上離れていることが好ましい。
【0019】
主孔ノズル11は、吹錬用ガスである酸素含有ガス、または、この酸素含有ガスを搬送用ガスとして酸素含有ガスとともに固体酸素源以外のフラックスなどの粉体(「精錬用フラックス」)、つまり石灰系脱燐用精錬剤などの粉体を、転炉などの精錬容器(図示せず)の内部に吹き込むためのノズルであり、副孔ノズル12は、鉄鉱石、ミルスケールなどの固体酸素源を搬送用ガスとともに精錬容器の内部に吹き込むためのノズルであり、また、二次燃焼用ノズル13は二次燃焼用の酸素含有ガスを精錬容器の内部空間に吹き込むためのノズルである。主孔ノズル11は、図1に示すように、先端部になるほど断面が拡大する、所謂ラバールノズルの形状を採っている。一方、副孔ノズル12及び二次燃焼用ノズル13はストレート形状であるが、副孔ノズル12及び二次燃焼用ノズル13もラバールノズルの形状を採っても構わない。この上吹きランス1は、精錬容器の内部に昇降可能となるように、精錬容器の上方で支持装置(図示せず)によって支持されている。
【0020】
図1の上吹きランス1において、主孔ノズル11の設置孔数や口径などの制約は特にないが、上吹きランス1への供給ガス圧などの制約により、必要とする酸素含有ガス供給量から必然的に設置孔数及び口径は決定されるため、これらを満足する範囲内で設定することとする。二次燃焼用ノズル13も、設置孔数や口径などの制約は特にないが、炉形状に応じて付着地金の溶解に適した配置に設定する。ここで、酸素含有ガスとは、酸素ガス(純酸素ガス)、酸素富化空気、酸素ガスと希ガスなどとの混合ガスであって、且つ、空気よりも酸素ガス濃度が高濃度のガスである。副孔ノズル12から吹き込む固体酸素源としては、鉄鉱石の焼結鉱、ミルスケール、集塵ダスト、砂鉄、鉄鉱石などを使用することができる。ここで、集塵ダストとは、高炉、転炉、焼結工程において排気ガスから回収される、FeO或いはFe23を含有するダストである。
【0021】
尚、本発明では、石灰系脱燐用精錬剤の1種である生石灰などのフラックスは主孔ノズル11から酸素含有ガスを搬送用ガスとして吹き込むが、同様に、副孔ノズル12からも、固体酸素源に併せて生石灰などのフラックスを吹き込んでも構わない。当然ながら、副孔ノズル12から噴出される流量、及び、主孔ノズル11から噴出される流量は、各々独立した流量計(図示せず)によって独立して流量制御されている。
【0022】
最外管5と外管6との間隙、及び、外管6と中管7との間隙は、上吹きランス1を冷却するための冷却水の流路となっており、ランス頂部4に設けられた給水管(図示せず)から供給された冷却水は外管6と中管7との間隙を通ってランスノズル3の部位まで至り、ランスノズル3の部位で反転して最外管5と外管6との間隙を通ってランス頂部4に設けられた排水管(図示せず)から排出される。給排水の経路を逆としてもよい。
【0023】
中管7と仕切り管8との間隙は、酸素含有ガスを二次燃焼用ノズル13へ供給するための第2の供給経路となっており、ランス頂部4に設けられた、中管7に連通する酸素含有ガス供給管14から中管7の内部に導入された酸素含有ガスは、第2の供給経路を通って二次燃焼用ノズル13に至り、二次燃焼用ノズル13から噴出されるようになっている。但し、仕切り管8の上端部は、酸素含有ガス供給管14の設置部位(酸素含有ガスの導入部)までには至っていないので、酸素含有ガス供給管14から中管7の内部に導入された酸素含有ガスは、仕切り管8と内管9との間隙(後述するように、仕切り管8と内管9との間隙は第1の供給経路である)にも流入し、この間隙を通って主孔ノズル11に噴出するようになっている。また、仕切り管8の下端部は、ランスノズル3の部位までは至っていないので、中管7と仕切り管8との間隙、つまり第2の供給経路を通ったものの、二次燃焼用ノズル13から噴出されなかった酸素含有ガスは、第1の供給経路に合流し、主孔ノズル11から噴出するようになっている。
【0024】
仕切り管8と内管9との間隙は、吹錬用の酸素含有ガス、または、この酸素含有ガスとともに固体酸素源とは異なる粉体(「精錬用フラックス」)、例えば石灰系脱燐用精錬剤などの粉体を、主孔ノズル11へ供給するための第1の供給経路となっている。つまり、ランス頂部4には、酸素含有ガスを搬送用ガスとして、精錬用フラックスを供給するための粉体供給管15(該供給管の設置部位が精錬用フラックス導入部となる)が、仕切り管8に連通して設けられ、また、前述したように酸素含有ガス供給管14が中管7に連通して設けられている。主孔ノズル11から吹錬用酸素含有ガスとともに精錬用フラックスを吹き込む場合には、酸素含有ガス供給管14から供給される酸素含有ガスと、粉体供給管15から供給される粉体及び酸素含有ガスとが、合流して第1の供給経路を通るようになっている。この場合、仕切り管8の下端位置は二次燃焼用ノズル13の設置位置よりも下方であるので、第1の供給経路を通る粉体が二次燃焼用ノズル13に流入することはない。即ち、仕切り管8は、前記精錬用フラックスが第2の供給経路に混入することを防ぐための仕切り構造体として機能する。主孔ノズル11から吹錬用酸素含有ガスのみを吹き込む場合には、粉体供給管15を停止するか、粉体供給管15から酸素含有ガスのみを供給すればよい。
【0025】
精錬用フラックス、つまり、固体酸素源とは異なる粉体としては、固体酸素源以外で精錬を効率的に実現するために投入される公知の(或いは予見しうる)全ての固体物質が適用できる。例えば、前記の石灰系脱燐用精錬剤(生石灰(CaO)や石灰石(CaCO3)、またはドロマイト(CaCO3・MgCO3)、脱炭スラグ、二次精錬スラグなど)の他、スラグの原料(例えば珪石(SiO2)、酸化マグネシウムを含むレンガ屑など)や、滓化促進剤(蛍石、酸化チタン、酸化アルミニウムなどを含むものなど)、等々が挙げられる。尚、通常は、少なくとも石灰系脱燐用精錬剤が精錬用フラックスとして供給される。
【0026】
最内管10の内部は、搬送用ガスとともに固体酸素源を副孔ノズル12へ供給するための第3の供給経路となっており、ランス頂部4に設けられた、最内管10に連通する供給管(図示せず)から搬送用ガスとともに最内管10の内部に供給された固体酸素源は、最内管10の内部を通って副孔ノズル12に至り、副孔ノズル12から噴出されるようになっている。ここで、前記供給官の設置部(図示せず)は、固体酸素源導入部となる。固体酸素源を搬送する搬送用ガスとしては、酸素含有量が空気以下である気体が好適であり、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを使用する。
【0027】
固体酸素源の搬送用ガスとして、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスを使用する理由は以下の通りである。空気は、主孔ノズル11から吹き込まれる酸素含有ガスに比較して酸素ガスの含有量が少なく、また、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスは実質的に酸素ガスを含んでいない。従って、固体酸素源に含まれる微量の金属鉄の搬送中における燃焼を防止することができるとともに、搬送中に固体酸素源と最内管10との接触によって発生する火花による最内管10の燃焼を防止することができる。ここで、還元性ガスとは、プロパンガスなどの炭化水素系ガス及びCOガスであり、非酸化性ガスとは、窒素ガスなどの酸化能力のないガスであり、希ガスとはArガスやHeガスなどの不活性ガスである。
【0028】
内管9と最内管10との間隙は、先端部のランスノズル3の部位で密封されて行き止まりになっていて、ランス頂部4に設けられた、内管9に連通する緩衝用ガス供給管16から供給される、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスが存在する緩衝空間となっている。本発明においては、緩衝空間に存在させるガスを「緩衝用ガス」と称す。
【0029】
この緩衝空間への緩衝用ガスの供給経路を図2に示す。図2に示すように、ランス頂部4に設けられた緩衝用ガス供給管16に、検出器20、遠隔操作弁21、フレキシブルホース22、及び複数の手動遮断弁23を備えた緩衝用ガス導入装置19が接続されており、この緩衝用ガス導入装置19を介して緩衝空間へ緩衝用ガスが供給されるようになっている。検出器20としては、圧力計または流量計、若しくは圧力計及び流量計の双方を設置する。緩衝空間への緩衝用ガスの導入方法としては、遠隔操作弁21を遮断して緩衝空間に緩衝用ガスを密封してもよいし、また、遠隔操作弁21を開放して緩衝空間に緩衝用ガスの圧力を常に働かせてもよい。図2の例では、どちらの操作も可能なように構成されている。尚、フレキシブルホース22は、上吹きランス1が上下に昇降するときの余裕代である。また、図2の例では検出器20をフレキシブルホース22よりも上吹きランス1に近い側に設置しているが、フレキシブルホース22よりも供給側に設置するなどとしてもよく、検出器20をどこの部位に設置しても構わない。但し、緩衝空間の圧力変動の測定値に基づいて破孔を検知する場合には、検出器20を遠隔操作弁21よりも上吹きランス1の側に配置する必要がある。従って、操業のフレキシビリティの観点から、検出器20は遠隔操作弁21よりも上吹きランス1の側に配置することが好ましい。
【0030】
緩衝用ガスとして、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスを使用する理由は、固体酸素源の搬送用ガスとしてこれらのガス種を使用する理由と同一である。即ち、固体酸素源の搬送によって、この固体酸素源の供給経路つまり第3の供給経路である最内管10に破孔が発生して緩衝用ガスと固体酸素源とが接触しても、これらのガス種を緩衝用ガスとして使用する限り、固体酸素源中の金属鉄の燃焼や、固体酸素源と最内管10との接触によって発生する火花による最内管10の燃焼を防止することができるからである。従って、上記以外でも酸素含有量が空気以下の気体であれば緩衝用ガスに用いることができる。
【0031】
最内管10の精錬中での破孔は、以下のようにして検知することができる。即ち、精錬中に最内管10に破孔が発生すると、緩衝空間と最内管10の内部とが連通し、緩衝空間内の圧力が変化する或いは緩衝空間へ供給する緩衝用ガスの流量が変化するので、その変化に基づいて破孔を検知する。具体的な検知方法としては、以下の2つの方法を採ることができる。1つの方法は、検出器20として、圧力計または圧力計と流量計との双方を設置し、緩衝空間に緩衝用ガスを導入した後、遠隔操作弁21を遮断して緩衝空間に緩衝用ガスを封入し、精錬中に緩衝空間内の圧力を検出器20により測定して、破孔を検知する方法である。他の方法は、検出器20として流量計を設置し、遠隔操作弁21を開放して常時緩衝用ガスの圧力を緩衝空間に働かせ、この状態で検出器20により流量を測定し、破孔した場合の流量変化から破孔を検知する方法である。
【0032】
以下、このようにして構成される本発明に係る上吹きランス1を用いて転炉で溶銑の予備脱燐処理を実施する例を説明する。
【0033】
本発明に係る上吹きランス1を転炉内の溶銑の上方所定位置に配置し、主孔ノズル11から酸素含有ガスとして酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けるとともに、副孔ノズル12から、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを搬送用ガスとして固体酸素源を溶銑浴面に向けて吹き付ける。副孔ノズル12から吹き付けられる固体酸素源は、酸素ガスが供給されている場所と同一場所の溶銑浴面に、或いはその近傍に供給される。脱燐処理には、脱燐反応で生成される燐酸化物(P25)を吸収するための脱燐精錬用スラグが必要であり、この脱燐精錬用スラグとなる石灰系脱燐用精錬剤も投入する。
【0034】
石灰系脱燐用精錬剤としては、CaOを含有し、本件の意図する脱燐処理ができるものであれば、特にCaOの含有量に制約はない。通常は、CaO単独からなるものや、またはCaOを50質量%以上含有し、必要に応じてその他の成分を含有するものである。具体的な例としては、生石灰(CaO)や石灰石(CaCO3)、または、ドロマイト(CaCO3・MgCO3)を使用することができ、更に、これらの物質に滓化促進剤として、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムを含有する物質を混合したものも使用することができる。また、脱炭スラグ及び取鍋スラグなどもCaOを主成分としており、しかも燐含有量が少ないことから、石灰系脱燐用精錬剤として十分に利用することができる。
【0035】
溶銑浴面において、酸素ガスが溶銑浴面と衝突する場所(「火点」という)は、酸素ガスと溶銑中の炭素との反応によって高温になっており、火点或いは火点の近傍に供給された固体酸素源は迅速に溶融し、スラグ中のFeO成分を増加させる。これにより、スラグの酸素ポテンシャルが上昇し、つまり脱燐反応に最適なスラグが迅速に形成され、少ないスラグ量であっても、また高温下であっても脱燐処理が可能となる。また、石灰系脱燐用精錬剤を火点或いは火点の近傍に投入することによって、石灰系脱燐用精錬剤の滓化が促進されて脱燐精錬用スラグが早期に形成され、脱燐反応がより一層促進される。従って、石灰系脱燐用精錬剤も主孔ノズル11、または主孔ノズル11及び副孔ノズル12を介して、火点或いは火点の近傍に投入することが好ましい。
【0036】
この吹錬の際、二次燃焼用ノズル13から二次燃焼用の酸素ガスを供給し、脱燐精錬と並行して炉体の付着地金を溶解し、或いは地金付着を防止する。これにより、地金付着に伴う弊害が未然に防止されて、鉄歩留まりの向上や生産性の向上が実現される。
【0037】
この場合、二次燃焼用ノズル13からの酸素ガスの供給量(Q)は、主孔ノズル11からの酸素ガス供給量(QO)の5〜30%の範囲であることが好ましい。Q×100/QOが5%未満では、二次燃焼用の酸素ガスが少なすぎ、二次燃焼発熱量が足りず、付着地金を溶解することができない。一方、Q×100/QOが30%を超えると、二次燃焼発熱熱が過剰となり、炉体耐火物の溶損が促進される。
【0038】
また、二次燃焼用ノズル13からの酸素ガスの流速が速くなりすぎ、二次燃焼用ノズル13からの酸素ガスが直接炉壁に到達すると、付着地金が局所的に溶解するのみならず、炉体耐火物が局所的に溶損する。従って、二次燃焼用ノズル13からの酸素ガス噴流が炉壁に到達するまでの期間に、酸素ガス噴流を炉内で発生するCOガスと反応させ、二次燃焼熱を炉内に均一に分散させることが重要である。
【0039】
特許文献4に開示されるように、二次燃焼用ノズル13からの酸素ガスの流速が30m/秒まで減衰した時点で、炉内発生COガスと二次燃焼用ノズル13からの酸素ガスとが反応し、二次燃焼反応が生じることが知られている。二次燃焼用ノズル13から供給される酸素ガスの流速が30m/秒となる、二次燃焼用ノズル13のノズル出口からの距離X(m)は、下記の(1)式で与えられる。
【0040】
【数1】

【0041】
但し、(1)式において、VO:二次燃焼用ノズルの出口における酸素ガス噴流の流速(m/秒)、de:二次燃焼用ノズルの出口径(mm)、C=0.016+0.19/(PO−Pe)、PO:二次燃焼用ノズルの絶対圧表示の酸素背圧(kgf/cm2)、Pe:転炉型精錬容器内の絶対圧表示の雰囲気圧(kgf/cm2)である。
【0042】
この距離Xが炉壁に到達しないような適切な範囲で上吹きランスの設計及び吹錬条件の制御を行えば、局所的な地金溶解や炉壁耐火物の溶損が回避でき、二次燃焼反応熱を炉内に均一に分散できる。
【0043】
尚、図1に示す上吹きランス1では、仕切り管8の下端部がランスノズル3の部位に至っておらず、第2の供給経路は第1の供給経路に開口している。このため、二次燃焼用ノズル13から噴出する酸素含有ガスの流量は、主孔ノズル11の総断面積と二次燃焼用ノズル13の総断面積との比に依存し、二次燃焼用ノズル13からの噴出量を独立して制御することはできない。つまり、酸素含有ガス供給管14及び粉体供給管15から供給される酸素含有ガスの総量が、両者の総断面積の比に応じて配分される。これを改善して、より高精度の吹錬制御を行うために、二次燃焼用の酸素含有ガス流量を独立して制御するようにすることもできる。但し、この場合には、上吹きランスの内部構造を図1に示す上吹きランス1とは変える必要がある。
【0044】
図3に、二次燃焼用の酸素含有ガスの流量を、吹錬用酸素含有ガスとは独立して制御することのできる上吹きランスの例を示す。
【0045】
図3に示す上吹きランス1Aでは、仕切り管8の下端はランスノズル3の部位まで至り、ランスノズル3の部位で、中管7と仕切り管8との間隙は、つまり第2の供給経路は密封されている。また、ランス頂部4において、仕切り管8の上端は、中管7の上端位置よりも上方に位置し、中管7と仕切り管8との間に密閉用のシール材が設置されて第2の供給経路は密封されている。そして、中管7に、酸素含有ガス供給管18が連通されている(該供給管の設置部は酸素含有ガス導入部となる)。即ち、酸素含有ガス供給管18から中管7の内部に供給された酸素含有ガスは、中管7と仕切り管8との間隙つまり第2の供給経路を通って、二次燃焼用ノズル13から噴出するようになっている。
【0046】
一方、ランス頂部4においては、仕切り管8には、酸素含有ガス・粉体供給管17が連通している(該供給管の設置部は精錬用フラックス導入部兼酸素含有ガス導入部となる)。つまり、酸素含有ガス・粉体供給管17から仕切り管8の内部に供給された吹錬用の酸素含有ガス、または、酸素含有ガスを搬送用ガスとする精錬用フラックスは、仕切り管8と内管9との間隙つまり第1の供給経路を通って、主孔ノズル11から噴出するようになっている。主孔ノズル11から酸素含有ガスのみを吹き込む場合には、酸素含有ガス・粉体供給管17から酸素含有ガスのみを供給し、主孔ノズル11から酸素含有ガスを搬送用ガスとして粉体を吹き込む場合には、酸素含有ガス・粉体供給管17から酸素含有ガスとともに粉体を供給する。上吹きランス1Aは、その他の構造は図1に示す上吹きランス1と同一構造となっており、同一の部分は同一符号により示し、その説明は省略する。また、この上吹きランス1Aを用いた溶銑の予備脱燐処理も、上吹きランス1を用いた場合に準じて行えばよい。
【0047】
尚、吹錬の状況によっては、第2の供給経路を通じて二次燃焼用ノズル13から酸素ガスを噴出する必要のない場合がある。この場合には、図3に示す上吹きランス1Aにおいては、二次燃焼用ノズル13の閉塞を防止するために、第2の供給経路から、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを供給することができるように構成されている。
【0048】
このように、本発明によれば、上吹きランス1、1Aは、その内部に、石灰系脱燐用精錬剤などの、固体酸素源とは異なる粉体を吹錬用の酸素含有ガスとともに主孔ノズル11を通じて供給するか、または、吹錬用の酸素含有ガスを主孔ノズル11を通じて供給するための第1の供給経路と、二次燃焼用の酸素含有ガスを二次燃焼用ノズル13を通じて供給するための第2の供給経路と、粉体状の固体酸素源を搬送用ガスとともに副孔ノズル12を通じて供給するための第3の供給経路と、を有するので、第1の供給経路及び第3の供給経路から粉体を供給しても、二次燃焼用ノズル13からは酸素含有ガスのみが噴射され、二次燃焼用ノズル13は閉塞することなく、長期間にわたって安定して二次燃焼用酸素含有ガスを噴射する。これにより、転炉型精錬容器の地金付着が抑制され、地金付着に伴う弊害が未然に防止される。
【実施例1】
【0049】
高炉から出銑された溶銑を、必要に応じて高炉鋳床で脱珪処理した後、300トン容量の転炉に搬送し、この転炉で図1に示す上吹きランスを用いて合計4回の溶銑の予備脱燐処理を実施(本発明例1〜4)した。
【0050】
尚、主孔ノズルは、同心円上に均等配列で4本であり、二次燃焼用ノズルは、円周上に均等配列で上下各8本設け、二次燃焼用ノズルと上吹きランスとの成す角度θ(°)は、二次燃焼用ノズルからの酸素ガス噴流の流速が30m/秒となる、二次燃焼用ノズルのノズル出口からの距離X(m)が、下記の(2)式を満たすようにした。
【0051】
【数2】

【0052】
ここで、Xは、(1)式から定まる、二次燃焼用ノズルのノズル出口からの距離(m)、Hは、上吹きランス中心から転炉炉壁までの水平方向の距離(m)であり、また、角度θ(°)は、二次燃焼用ノズルの中心線と上吹きランスとの成す角度であり、鉛直方向を基準(=0°)としている。従って、X×sinθは二次燃焼用ノズルからの水平方向の噴流到達距離(m)を表している。
【0053】
脱燐処理前の溶銑の燐濃度は0.12質量%に統一し、脱燐処理後の溶銑の燐濃度は0.020質量%以下、鉄歩留まりは98%以上を目標とした。鉄歩留まり(η)は、転炉内に装入した溶銑の質量(WO)と鉄スクラップの質量(WS)との総質量(WO+WS)に対して脱燐処理後に出湯した溶銑の質量(W)を百分率で表示(η=100W/(WO+WS))した値である。
【0054】
脱燐処理は、酸素含有ガス供給管14から酸素ガスを供給し、粉体供給管15から酸素ガスを搬送用ガスとして生石灰粉(平均粒径1mm以下)を供給し、最内管の内部である第3の供給経路からは窒素ガスを搬送用ガスとして粉体の固体酸素源を供給した。この場合には、第1の供給経路は酸素ガスと生石灰粉との供給経路となり、第2の供給経路は酸素ガスの供給経路となる。
【0055】
上吹きランスとは別に、転炉炉上に設けられたホッパーからも塊状の生石灰を炉内に投入した(上吹きランスからの生石灰投入量:炉上ホッパーからの生石灰投入量=8:2)。但し、脱燐用精錬剤として、CaF2などのフッ素化合物は使用しないで脱燐処理した。また、転炉炉底の羽口からは、攪拌用ガスとして窒素ガスを溶銑1トンあたり0.03〜0.30Nm3/分の流量で吹き込んだ。
【0056】
主孔ノズル及び二次燃焼用ノズルから供給する酸素ガス流量は溶銑1トンあたり0.6〜2.5Nm3/分とした。酸素ガスの原単位は、脱珪に必要な酸素ガスを除いて12Nm3/tとした。主孔ノズルからの酸素ガス流量(QO)に対する二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量(Q)は、つまり、Q×100/QOは6%であった。固体酸素源としては、粉状の鉄鉱石(平均粒度50μm)、砂鉄(平均粒度100μm)、ミルスケール(平均粒度500μm)、鉄鉱石の焼結鉱(平均粒度100μm)のうちの何れか1種を用い、副孔ノズルから吹き付けた。
【0057】
最内管及び内管における破孔の有無を、緩衝用ガス流量変化から検知する方式で監視したが、特に破孔は発生しなかった。
【0058】
また、比較例として、図1に示す上吹きランスの二次燃焼用ノズルを機械的に閉塞し、二次燃焼用の酸素ガスを炉内空間に供給しない脱燐処理も実施(比較例1)した。比較例のその他の脱燐処理条件は本発明例に準じて行った。表1に、本発明例及び比較例における脱燐処理前後の溶銑成分及び操業条件を示す。表1におけるCaO原単位及び固体酸素源使用量は、溶銑1トンあたりの量である。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、上吹きランスからの酸素ガスの吹き付け面の近傍に固体酸素源を供給した全ての本発明例において、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.020質量%以下になり、且つ、鉄歩留まりは98%以上であった。これに対して比較例1では、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.020質量%以下になったが、鉄歩留まりは98%未満であった。即ち、脱燐処理における溶銑のロスは、比較例の2.1%に対して本発明例では1.2〜1.7%であり、顕著に改善された。
【実施例2】
【0061】
高炉から出銑された溶銑を、必要に応じて高炉鋳床で脱珪処理した後、300トン容量の転炉に搬送し、この転炉で図3に示す上吹きランスを用いて合計2回の溶銑の予備脱燐処理を実施(本発明例5〜6)した。
【0062】
脱燐処理中、二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量を一定に制御した結果、主孔ノズルからの酸素ガス流量(QO)に対する二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量(Q)、つまりQ×100/QOは、12%であった。この場合も、X×sinθが(2)式を満たす範囲であることを確認した。その他の脱燐処理条件は、実施例1と同一条件とした。表2に、脱燐処理前後の溶銑成分及び操業条件を示す。表2におけるCaO原単位及び固体酸素源使用量は、溶銑1トンあたりの量であり、また、鉄歩留まりの定義は実施例1と同一である。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すように、二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量が実施例1に比較して増加したことから、二次燃焼発熱量が増加し、地金付着が更に抑制されて、脱燐処理における鉄歩留まりは、ほぼ99%(即ち溶銑ロスがほぼ1%)となり、更に高位になることが確認できた。
【実施例3】
【0065】
高炉から出銑された溶銑を、必要に応じて高炉鋳床で脱珪処理した後、350トン容量の転炉に搬送し、この転炉で図1及び図3に示す上吹きランスを用いて溶銑の予備脱燐処理を実施(本発明例7〜8)した。
【0066】
転炉炉底の羽口から攪拌用ガスとして酸素ガスを溶銑1トンあたり0.3Nm3/分の流量で吹き込んだ。炉底の羽口は二重管構造とし、内管から酸素ガスを、外管からは酸素ガスの流量に応じて冷却ガスとしてプロパンガスを、それぞれ吹き込んだ。固体酸素源としては、鉄鉱石の焼結鉱(平均粒度100μm)を溶銑1トンあたり6kg用い、上吹きランスの副孔ノズルから吹き付けた。二次燃焼用ノズルからの酸素噴流の条件は(2)式を満たす範囲とした。その他の脱燐処理条件は、実施例1と同一条件とした。
【0067】
また、比較例として、図1に示す上吹きランスの二次燃焼用ノズルを機械的に閉塞し、二次燃焼用の酸素ガスを炉内空間に供給しない脱燐処理も実施(比較例2)した。比較例のその他の脱燐処理条件は本発明例に準じて行った。
【0068】
表3に、脱燐処理前後の溶銑成分及び操業条件を示す。脱燐処理中の主孔ノズルからの酸素ガス流量(QO)に対する二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量(Q)、つまりQ×100/QOも併せて示した。表3におけるCaO原単位は、溶銑1トンあたりの量であり、また、鉄歩留まりの定義は実施例1と同一である。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すように、底吹き羽口から酸素ガスを吹き込む強撹拌条件においても、二次燃焼発熱量の増加により、地金付着が更に抑制されて、脱燐処理における鉄歩留まりが更に高位になることが確認できた。
【実施例4】
【0071】
高炉から出銑された溶銑を300トン容量の転炉に搬送し、この転炉で図3に示す上吹きランスを用いて、溶銑の脱炭精錬を実施して溶鋼を溶製(本発明例9)した。溶銑の脱炭精錬では、生成する炉内のスラグの塩基度を高めることによって脱燐反応も並行して起こる。
【0072】
脱炭脱燐処理は、酸素含有ガス供給管18から酸素ガスを供給し、酸素含有ガス・粉体供給管17から酸素ガスを搬送用ガスとして生石灰粉(平均粒径1mm以下)を供給し、最内管の内部である第3の供給経路からはArガスを搬送用ガスとして粉体の固体酸素源を供給した。
【0073】
上吹きランスとは別に、転炉炉上に設けられたホッパーからも塊状の生石灰を炉内に投入した。但し、精錬剤として、CaF2などのフッ素化合物は使用しないで脱炭脱燐処理した。また、転炉炉底の羽口からは、攪拌用ガスとしてArガスを溶銑1トンあたり0.15Nm3/分の流量で吹き込んだ。
【0074】
主孔ノズルから供給する酸素ガス流量は溶銑1トンあたり3.2Nm3/分とした。また、二次燃焼用ノズルからは、吹錬開始から終了までの時間のうちの前半に酸素ガスを供給し、後半にArガスを供給した。主孔ノズルからの酸素ガス流量(QO)に対する二次燃焼用ノズルからの酸素ガス流量(Q)は5%であった。二次燃焼用ノズルからの酸素噴流の条件は(2)式を満たす範囲とした。固体酸素源としては、鉄鉱石の焼結鉱(平均粒度100μm)を溶銑1トンあたり6kg用い、副孔ノズルから吹き付けた。
【0075】
また、比較例として、図3に示す上吹きランスの二次燃焼用ノズルを機械的に閉塞し、二次燃焼用の酸素ガスを炉内空間に供給しない脱燐処理も実施(比較例3)した。比較例のその他の脱炭脱燐処理条件は本発明例に準じて行った。
【0076】
表4に、本発明例及び比較例における脱燐処理前後の溶銑成分及び操業条件を示す。表4におけるCaO原単位は、溶銑1トンあたりの量である。鉄歩留まり(η)は、転炉内に装入した溶銑の質量(WO)と鉄スクラップの質量(WS)との総質量(WO+WS)に対して脱炭精錬後に出湯した溶鋼の質量(WI)を百分率で表示(η=100WI/(WO+WS))した値である。
【0077】
【表4】

【0078】
表4に示すように、本発明例9の鉄歩留まりは比較例3に対してわずかに優位であった。即ち、高温処理であって地金付着の少ない条件下であっても、部分的に二次燃焼を実施することで、歩留まりを改善することができた。
【符号の説明】
【0079】
1 上吹きランス
1A 上吹きランス
2 ランス本体
3 ランスノズル
4 ランス頂部
5 最外管
6 外管
7 中管
8 仕切り管
9 内管
10 最内管
11 主孔ノズル
12 副孔ノズル
13 二次燃焼用ノズル
14 酸素含有ガス供給管
15 粉体供給管
16 緩衝用ガス供給管
17 酸素含有ガス・粉体供給管
18 酸素含有ガス供給管
19 緩衝用ガス導入装置
20 検出器
21 遠隔操作弁
22 フレキシブルホース
23 手動遮断弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉型精錬容器に収容された溶銑または溶鋼の酸化精錬に使用する精錬用上吹きランスであって、
上吹きランスの先端部に、鉛直下向きまたは斜め下向き方向の吹錬用主孔ノズル及び固体酸素源吹き込み用副孔ノズルを有し、
前記先端部から上方に隔離した位置の上吹きランスの側面部に、水平または斜め下向き方向の二次燃焼用ノズルを有し、
且つ、上吹きランスの内部には、
固体酸素源とは異なる粉体を吹錬用の酸素含有ガスとともに前記主孔ノズルを通じて供給するか、または、吹錬用の酸素含有ガスを、前記主孔ノズルを通じて供給するための第1の供給経路と、
二次燃焼用の酸素含有ガスを、前記二次燃焼用ノズルを通じて供給するための第2の供給経路と、
粉体状の固体酸素源を、搬送用ガスとともに前記副孔ノズルを通じて供給するための第3の供給経路と、
を有することを特徴とする精錬用上吹きランス。
【請求項2】
前記第2の供給経路の末端は閉ざされていて、第2の供給経路で供給される酸素含有ガスが第1の供給経路及び第3の供給経路に合流しないように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の精錬用上吹きランス。
【請求項3】
前記第2の供給経路に、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスを供給するように構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の精錬用上吹きランス。
【請求項4】
前記第3の供給経路の周囲に、空気、還元性ガス、炭酸ガス、非酸化性ガス、希ガスのうちの何れか1種または2種以上のガスが存在する緩衝空間が備えられ、該緩衝空間に存在するガスの圧力または流量の変化に基づいて第3の供給経路での破孔が検知されるように構成されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の精錬用上吹きランス。
【請求項5】
前記第1の供給経路、前記第2の供給経路及び前記第3の供給経路が同心円上に配置されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の精錬用上吹きランス。
【請求項6】
石灰系脱燐用精錬剤を転炉型精錬容器に収容された溶銑に添加し、添加した前記脱燐用精錬剤を滓化させてスラグとなし、溶銑に対して酸化精錬を実施するにあたり、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の精錬用上吹きランスを用い、第1の供給経路から吹錬用の酸素ガスを溶銑浴面に供給すると同時に、第3の供給経路から固体酸素源を吹錬用の酸素ガスが供給されている場所の近傍の溶銑浴面に搬送用ガスとともに供給し、更に、第2の供給経路から二次燃焼用酸素ガスを転炉型精錬容器の炉内空間に供給して酸化精錬を行うことを特徴とする、溶銑の精錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106028(P2011−106028A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233357(P2010−233357)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】