細胞の腫瘍形成状態を決定する方法、その使用、及び癌の治療方法
本発明は細胞中のOCDO化合物の量を測定する工程を含む、前記細胞の腫瘍形成状態の検出方法、及びその使用に関する。本発明はさらに、癌の治療法において使用するためのOCDO阻害剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の腫瘍形成状態の決定方法、及びその使用に関する。本発明はまた、癌の治療方法で使用するためのOCDO阻害剤にも関する。
【0002】
癌の診断は様々な基準、具体的には、聴診及び健康診断(内視鏡検査、マイクロファイバー、放射線透視法など)のような目に見える又は触診しうる、症状の徴候を医師に示すことができる基準、並びに赤血球細胞、白血球細胞及び血小板の数、ヘモグロビンレベル、及びクレアチニンレベルを決定することが可能な血液及び尿検査、あるいは患者から採取した試料中の特定の癌マーカーの存在を検出すること、に基づいている。多くの癌マーカーが文献に記載されてきた。一般的にそれらは、とりわけ特定の型の癌に特異的なものであり、さらには、患者の亜集団に特異的なものである。さらに、文献に記載されたマーカーは通常、癌を明確に診断することはできず、さらに、偽陰性又は偽陽性の率がいまだに高い。最終的に、癌発生の後期においてのみ、いくつかのマーカーを検出することができるが、このことは、少なくとも部分的には治療の成功を損なうものである。
【0003】
そのため、初期のいずれの型の癌をも、確実性及び再現性をもって診断することが可能な、新しい癌マーカーが必要とされている。
【0004】
発明の概要
本発明は、個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を検出する方法に関し、この方法は、得られた細胞中に存在する式
【化1】
で示される化合物OCDOの量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0005】
本発明はまた、個体における癌の診断方法にも関し、この方法は、前記個体から得られた試料における細胞中の化合物OCDO、すなわち、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオールの量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明はまた、個体から得られた試料の腫瘍形成状態のマーカーとしての化合物OCDOの使用に関する。
【0007】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、本発明による方法を用いて、前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで、治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、その個体による前記治療への反応の指標となる方法。
【0008】
本発明はまた、癌を発症した個体の前記癌の治療における医薬の有効性を評価する方法であって、
(a)前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D1をアッセイし;
(b)治療的処置期間の後に、工程(a)と同様の方法で、前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D2をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合に、それから、前記医薬が前記癌の治療に有効であると推論する
ことを特徴とする方法にも関する。
【0009】
本発明の目的はまた、癌を発症した個体における前記癌治療の有効性を評価する方法であって、本発明による方法を用いて、前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで、治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、癌治療における前記治療の有効性の指標となる方法である。
【0010】
本発明はまた、ヒト又は動物の癌の治療方法において使用するためのOCDO阻害剤に関する。
【0011】
定義
本発明の目的において、「生体材料」又は「試料」という用語は、生物の組織、標本、又は液体若しくは固体である、生物組織に由来する抽出物を意味することを目的とし、この材料はまた、上記で定義した少なくとも2つの材料の混合物であってもよい。そのため、そのような試料又は生体材料は、具体的には、組織、器官、糞便、又はヒト若しくは哺乳類の体液から調製したもの、又は「インビトロ」細胞培養物から得られたものであってもよく、そのような試料又は生体材料はまた、血液、血清、血漿、尿、髄液、骨液、腹膜水、胸膜液、精液又は腹水であってもよい。一般的には、本発明の試料又は生体材料は、癌組織又は癌であることが予測される組織の生検である。
【0012】
本発明の目的において、「個体」という用語は、ヒト又が哺乳類動物を意味することを目的とする。
【0013】
細胞の「腫瘍形成状態」という用語は、細胞が制御されずに増殖するように、前記細胞の増殖プログラムが変化し、侵襲性及び/又は転移性の悪性腫瘍形成を引き起こす可能性のある、脱分化した状態を意味することを目的とする。
【0014】
「治療」及び「治療する」という用語は、個体の健康状態を改善することを目的とした任意の行為、例えば疾患の治療、防止、予防又は疾患を遅らせることを指す。特定の実施形態においてこれらの用語は、疾患又はこの疾患に関連する症状の改善又は根絶を指す。その他の実施形態においてこれらの用語は、疾患の進行又は悪性度を低減させることを指す。
【0015】
「治療上有効量」という用語は、個体を治療するために十分な量を意味することを目的とする。
【0016】
「癌」という用語は、ヒト又は動物の体の特定の細胞が制御されずに分裂する、いずれの疾患をも意味することを目的とする。癌は一般的には、癌腫、肉腫、及び血液癌から選択される。より具体的には、本発明の癌は、乳癌、肺癌、黒色腫、結腸癌、直腸癌、膵癌、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、カポジ肉腫、精巣癌、前立腺癌、子宮癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、胚性癌腫又は甲状腺髄様癌である。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、腫瘍細胞において初期に表れ、そして細胞分裂特性及び腫瘍の侵襲刺激特性を示すマーカーである、OCDOの同定に関する。本発明は、癌を発症していると疑われる若しくは癌を発症している個体から得られた試料中のこのマーカーの検出、及びそのマーカーをアッセイすることに基づくものである。本発明はまた、癌の治療法において用いるためのOCDO阻害分子にも関する。
【0018】
長い間、コレステロール及びコレステロールの酸化産物がヒトにおいて発癌特性を有することが疑われてきた(Fritz Bischof, Advances in Lipid Research, vol. 7, p. 165-244, 1969)。最初はこれらの効果は限られた数の齧歯類の種において観察され、それは、この対象について研究していた科学者からは無視されるような、矛盾する観察結果であった(Leland L Smith et al., Free Radical Biology and Medicine, vol. 7, p. 285-332, 1989)。特定のコレステロール酸化産物がコレステロールの異化及びステロイドホルモンの生産の途中で生じることが分かっている。特定の数のオキシステロールが、免疫系、神経系及び心血管系における重要な生理学的な機能を担っている。オキシステロールの既知の標的には、リガンド依存性転写因子があり、その中でも最もよく知られているものがLXR受容体(肝臓X受容体)である。オキシステロールは、コレステロールの細胞間輸送、脂質ミクロドメインの形成、胚発生での形態形成に関わるHedgeHog経路の活性化を調節し、また、それらは芳香族炭化水素受容体に対する拮抗特性を有する。
【0019】
特定のオキシステロールがコレステロール代謝、具体的には、メバロン酸の生合成(HMG−CoA−レダクターゼ)、コレステロールのエステル化及びコレステロールエポキシドの加水分解に関与する酵素の活性を調節することが示されてきた(Schoepfer G. Jr.: Physiological Reviews, vol. 80, No. 1, p. 361-554, 2000を参照のこと)。また、酸素含有基(アルコール、カルボニル、ヒドロペルオキシド、ペルオキシド又はエポキシド)の性質、コレステロールの炭化水素骨格におけるその位置、その空間的な方向及び前記炭化水素骨格上の酸素含有基の数により、コレステロール酸化産物が様々な生体標的(膜、酵素、受容体)に対する特異的な認識特性を有する可能性があることも示されてきた。
【0020】
本発明から、コレスタン−3β,5α−ジオール−6−オン(OCDO)が、組織由来の様々な腫瘍株に存在することが示された。腫瘍の細胞分裂におけるこの分子の特性、及びインビトロでは、移植を受けた齧歯類での細胞及び腫瘍への侵襲性おけるこの分子の特性について解析されてきた。この分子が腫瘍細胞においては免疫抑制性サイトカインの発現の刺激を誘導するが、免疫刺激性サイトカインの発現を低下させることもまた示されており、このことは、腫瘍周辺での免疫抑制、その発生の促進、及び侵襲性と一致するものである。
【0021】
コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)が、以下に示す反応である、コレステロールエポキシド(CE)からコレスタントリオール(CT)を生じる加水分解に関与する酵素であることが知られている(Medina et al., Faseb J. 19(4): A285-A285, Part I Suppl. S, 4 March 2005を参照のこと)。
【化2】
【0022】
出願人らは最初の工程において、正常組織の細胞及び腫瘍細胞から得られた細胞抽出物における、ChEHの活性を比較した。ChEHの活性は、ChEHのCT生成に関与するCE基質を、薄層クロマトグラフィーを用いて分離することにより観察することができる。CE及びCT化合物に相当するスポットを14C放射性標識により可視化した。実験の詳細は、この後に詳細に記載したアッセイ1において示し、結果を図1に示す。
【0023】
出願人らは、正常な細胞からはCE及びCT化合物に相当する2つのスポットを可視化することができたが、一方、驚くべきことに、腫瘍細胞からは3つのスポットが現れたことを示した。すなわち、1つはコレスタントリオール(CT)に相当し、2番目のものはコレステロールエポキシド(CE)に相当し(正常な細胞の、相当するスポットと比較して弱い)、そして第3のスポットはCE化合物のスポットに近かったが、それにも関わらず、はっきりと区別できるものであった。
【0024】
乳癌の治療及び予防において、腫瘍抑制性の抗癌剤として既知の方法で用いられるタモキシフェン(tam)がChEHの阻害剤であり、また、既知の抗増殖剤であるPBPE(N,N−ピロリジノ−[(4−ベンジル)フェノキシ]エタンアミン)もまたChEHの阻害剤であることが知られている(これに関しては、本願のアッセイ2で示した参考文献公刊物を参照のこと)。腫瘍細胞をタモキシフェンを用いて処理した場合、出願人らが代謝産物Mとしたこの「第3のスポット」もCTのスポットもいずれも現れなかった。タモキシフェンがChEHを阻害することから、2番目の工程においては、処理した腫瘍細胞のクロマトグラフィープレートにおける「第3のスポット」の出現にChEHの阻害が関与するかどうかを調査した。この実験の詳細は後に記載するアッセイ2において示し、結果を図3A及び3Bに示す。この調査を行うために、タモキシフェン又はPBPEそれぞれで処理した腫瘍細胞の抽出物においてChEH活性を阻害した。細胞と阻害剤とのインキュベーションを3日間維持し、増加用量の阻害剤を用いて逐次アッセイを行った。さらに、阻害剤の用量を増やして行った薄層クロマトグラフィーでは、CE化合物のスポットに近い位置にある「第3のスポット」と同じ時点で、CT化合物が消失することが示された。このことから、本発明により出願人は、「第3のスポット」に関与する代謝産物MがCT化合物の誘導体であるだろうと予測した。
【0025】
3番目の工程において出願人らは、「第3のスポット」に相当する代謝産物Mの形成が、ChEH阻害剤であるタモキシフェンとの24時間を超えるインキュベーションの後に、CE化合物の形成が失われるまで、徐々に生じること;及びこの現象がCE化合物のα及びβ2種類の異性体を用いた場合にも起こることを確認するにより、この実験を完成させた。この、さらなる結果についてはアッセイ3、並びに図2A及び2Bにおいて詳細に示した。その結果、出願人らは、これらのことから、本発明により、「第3のスポット」に関する産物が、クロマトグラフィーにおいてはCE化合物と似た挙動を示すが、クロマトグラフィー支持体への保持の程度がより高い、CT化合物の変換産物であると結論づけた。この結果は、「第3のスポット」に関連する代謝産物Mが、CT及びCE化合物の極性の中間的な極性を有し、かつ、CE及びCT分子2つと類似した構造をもつ化合物であることを示すものである。
【0026】
以下に詳述するアッセイ4では、「第3のスポット」の代謝産物Mが、CT化合物の変換に由来するものであることを確認するために行った研究の全ての情報を示す;このアッセイの結果を図4に示す。
【0027】
最後にアッセイ5では、この「第3のスポット」に相当する産物の、化学構造の同定を可能にする方法を記載する。出願人らはその結果、本発明により、この「第3のスポット」が、腫瘍細胞のみをアッセイした場合に表れる、以下の式に相当する、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオール(OCDO)によるものであることを確認した。
【化3】
【0028】
OCDO産物は新規の産物ではなく、コレスタン−3β,5α,6β−トリオール(CT)のN−ブロモスクシンイミドによる酸化の産物としての記載がある(Fieser L.F. et al.; Rajagopalan S.: Selective oxidation with N-bromosuccinimide. II. Cholestane-3β,5α,6β-triol, J Am Chem Soc, 71, p. 3938-41, 1949)。さらに、OCDOの化学合成についても1908年に、既に記載がある(Robert Howson Pickard et al., J. Chem. Soc. Trans. vol. 93, p. 1678-1687, 1908)。
【0029】
コレスタン−3β,5α,6β−トリオールの変換の結果生じる代謝産物として、この分子の存在が1971年に報告され、OCDOはコレスタン−3β,5α,6β−トリオールを強制給餌したラットの糞便中に見られる場合があることが示された(Roscoe HG, Fahrenbach MJ, J Lipid Res, vol. 12, p. 17-23, 1971)。また、OCDOは、ウシ血清及びヒトの血液中でも、10〜100nmの範囲の濃度で見いだされる場合があることが示された(Yamaguchi M. et al., Biol. Pharm. Bull. 20(9), p. 1044-46, 1997)。
【0030】
OCDOマーカーの同定を可能にする、アッセイ1〜5で行った実験方法の詳細を以下に示す。
【0031】
アッセイ1〜5及び本特許出願で後述するいくつかの実施例においては、American Tissue Culture Collection(ATCC)由来のMCF7腫瘍細胞を用いた。これらの細胞を、2g/リットルの炭酸ナトリウム水溶液、1.2mMのグルタミン(23℃でpH7.4)及び5%のウシ胎仔血清(Gibco)を添加したRPMI 1640培地中、培地1リットル当たりに2.5mlの抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を加え、37℃、5%CO2条件下で培養した。マウス細胞におけるChEHの活性をシリカ薄層クロマトグラフィーにより解析することが望ましい。可視化することが所望される化合物は、上記に定義した、CE及びCT化合物である。クロマトグラフィープレート上のCE及びCTに相当するスポットを可視化するために、14Cで標識したCE及びCT化合物を合成した。
【0032】
a)[14C]5,6−β−エポキシコレスタン−3β−オール及び[14C]5,6−α−エポキシコレスタン−3β−オールの合成
0.35μmolの[14C]コレステロール(58mCi/mmol)を、0.56μmolのメタ−クロロ過安息香酸存在下で200μlのジクロロメタンに溶解する。この溶液を周囲温度で5時間撹拌する。反応混合物を1mlのジクロロメタンに溶解し、そして亜硫酸ナトリウム水溶液(10重量%)、炭酸水素ナトリウム(5重量%水溶液)及び飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄する。有機層を蒸発除去し、そして残渣をRP−HPLC(Ultrasep ES C18 6μm疎水性カラム)により、CH3OH/H2O(容量で95/5)イソクラティック条件下、0.7ml/分で精製する。α及びβ異性体をこれら条件下において速やかに分離し、放射能検出器(Berthold)で検出する。
【0033】
この反応からの全収率は80%であり、得られた産物は、75%のα異性体(CEα)と25% 5のβ異性体を(CEβ)含む。
【0034】
b)[14C]コレスタン−3β,5α,6β−トリオールの合成
この化合物を、文献に記載されているように(Pulfer MK and Murphy RC, Formation of biologically active oxysterols during ozonolysis of cholesterol present in lung surfactant, J Biol Chem, vol. 279(25), p. 26331-26338, 2004)、[14C]5,6−β−エポキシコレスタン−3β−オールから合成した。上記(a)で調製した[14C]CEβ(58mCi/mmol)を1mlのテトラヒドロフラン/H2O/アセトン混合物(v/v/v、4:1:0.5)に溶解する。125μlの過塩素酸を反応媒体に加え、これを周囲温度で4時間撹拌する。
【0035】
この反応混合物を1mlのジクロロメタンで希釈し、炭酸水素ナトリウム(5重量%の水溶液)、次いで水で洗浄する。残渣を疎水性カラム(Ultrasep ES C18 6μm)を用いたHPLCにより、CH3OH/H2O(容量で95/5)イソクラティック条件下、流速0.7ml/分で精製する。収率62%で[14C]CTが得られる。
【0036】
以下のアッセイ1〜5で使用するために、細胞を6−ウェルプレート中に、2ml当たり80000個の密度になるように播種する。播種の36時間後に細胞を、溶媒(PBS緩衝液に溶解した1‰エタノール)又は試験することを所望する化合物で15分間処理する;そのため、アッセイに応じて、このインキュベーションは[14C]CEα(0.6μM、15μCi/μmol)及び[14C]CEβ(0.6μM、15μCi/μmol)又は[14C]CT(1μM、15μCi/μmol)化合物を用いて行う;溶媒の割合は培地の容量に対して2‰を超えないものである。アッセイで必要とされたインキュベーション時間の後、培地を回収し、細胞を冷PBS(リン酸塩緩衝液)(1ウェル当たり2ml)で洗浄し、これを培地と共にプールする。この細胞を次に冷PBS(3ウェルにつき1ml)中にかき集め;ウェルを再度冷PBS(3ウェルにつき1ml)でリンスした。得られた細胞懸濁液を1000rpmで5分間、4℃で遠心分離する。細胞沈殿物と培地を改変Folch法(Ways P. et al., J Lipid Res, 5(3): 318 (1964)により公開された)により抽出する。本明細書の他の部分にわたり、用いられた溶媒は上記で定義したものと同じである。
【0037】
水層及び有機層の放射活性を測定する。有機層はアルゴン下で乾燥させる。残渣を60μlのエタノールに再懸濁し、その後1レーン当たり20μlの割合で、背面がガラス製のシリカプレート(WhatmanLK−6−DF、20×20)にのせ、これを様々なアッセイに用いる(これらのプレートは、100℃で1時間予め加熱しておいた)。移動相としては酢酸エチルを用いる。カセット中でクロマトグラフィープレートを「フォスファスクリーン」プレートに接触させ、一晩置いた。「フォスファスクリーン」をStorm型の「Phosor Imager」を用いて可視化する。プレート上に現れたスポットの濃さの特性がより濃いか又はより薄いかを評価するために、「Imagequant」(商標)コンピュータープログラムを用いた濃度計により、放射活性を定量する。
【0038】
アッセイ1
このアッセイ1においては、健康なマウス細胞及びMCF7マウス腫瘍細胞におけるChEHの活性を示した。この過程は、直前に記載した方法に従って薄層クロマトグラフィーにより行う。結果を図1に示す。
【0039】
この図では、レーンの下段に1点鎖線で示したように、全ての沈着物が同じレベルで調製されたことが分かる。
【0040】
上述した方法により、予め調製しておいた[14C]CE化合物(0.6μM、15μCi/μmol)を左側のレーンにのせた。中央及び右側のレーンは、上述した方法に従って、[14C]CEと共に予めインキュベートしておいた細胞の抽出物に対応する。
【0041】
右側のレーンの下側にのせた細胞抽出物は、体重が20〜25gの、成体C57/Bl6マウス(Charles Riverから供給された)から採取した正常な肝細胞の抽出物に対応する。肝細胞を、Davis(Davis RA et al., J. Biol Chem, 1979, vol. 254, No. 6, p. 2010-2016)のプロトコールに従い、コラゲナーゼを用いた潅流により単離し、そしてコラーゲンでコーティングされた直径6cmのシャーレ中で、1シャーレ当たり200万個の細胞密度で培養した。培地としては、10%のウシ胎仔血清、インスリン(0.5U/ml)及び抗生物質(50ユニット/ml)(ペニシリンとストレプトマイシンの混合物)を含む、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。シャーレを37℃の恒湿インキュベーター中、5%CO2に維持する。細胞が接着した後、細胞くずを除去するために細胞をPBS緩衝液で洗浄し、そして栄養培地を新しい培地と交換する。細胞を翌日のできるだけ早くにアッセイに用いる。
【0042】
図1の右側のレーンから、CT化合物が最初に現れること、そしてCE化合物のレベルは直接左側のレーンにのせたものと実質的に同じであることが分かる。クロマトグラフィーには両方が現れているが、生成するCT化合物は必ずChEHヒドロラーゼによって変換されたCE化合物から生じるため、最初に標識したCE化合物のみをのせて、スポットの出現を可能にした。
【0043】
一方、中央のレーンにはMCF7マウス腫瘍細胞の抽出物をのせた。この細胞抽出物は、C57/Bl6マウス細胞の肝細胞抽出物と同じ方法で培養した、MCF7細胞から調製した。CT化合物に相当するスポットが示され、その次に互いの位置が近い2つのスポットが現れた。1つは右側のレーンのCE化合物に相当するものであり、もう1つが未確認の代謝産物Mに相当するものである。さらに、この「第3のスポット」はCE化合物の相当するスポットよりも濃い。
【0044】
従って、腫瘍細胞においてはCE化合物の一部が、CE化合物に近いクロマトグラフィーでの挙動を示し、かつ、CE及びCT化合物の間の中間的な極性を示す、代謝産物Mに変換されたと推測した。
【0045】
アッセイ2
アッセイ1のクロマトグラフィープレート上の「第3のスポット」の出現が、細胞中ではCE化合物からCT化合物を生じるChEHの阻害に影響されるかどうかについて解析した。タモキシフェン(Tam)及びPBPEによりChEHが阻害されることが知られている(FASEB Journal, vol. 19, Issue 4, p. A285-A285, Part 1 Suppl. S)。そこで、このアッセイにおいてはこれら2種類の阻害剤を用いた。
【0046】
この実験を行うために、MCF7腫瘍細胞の細胞抽出物をアッセイ1で示したように[14C]CE(−α又は−β)の溶液中でインキュベートし、続いてその後ChEH阻害剤、すなわちタモキシフェン又はPBPEの水溶液中で3日間インキュベートして、これをアッセイ1で使用したものと同じ型のクロマトグラフィープレート上にのせた。[14C]CE−αと共にインキュベートする場合には、1×10−2、1×10−1、5×10−1、1、2.5及び5μM濃度のタモキシフェン溶液を用いる(図3A);[14C]CEβと共にインキュベートする場合には、1×10−2、1×10−1、1、5及び10μM濃度のPBPE溶液を用いる(図3B)。図3A及び3Bは、2つの例で得られたクロマトグラフィープレートを示す。インキュベートするときに多量の阻害剤を用いると、CT化合物及び代謝産物Mによる「第3のスポット」が同時に消失することが示される。逆に、少量の阻害剤では、CT化合物及び代謝産物Mによる両方のスポットは十分であるが、CEによるスポットは弱く、CEが(CT+代謝産物)に変換されたことを示す。このことから、ChEHヒドロラーゼは、相対的に阻害されていない場合には、CTを生じさせることができ、続いて代謝産物Mのスポットもまた現れると結論づけられる。
【0047】
アッセイ3
[14C]で標識したCE(−α又は-β)化合物を用いて、MCF7細胞におけるChEH活性の動力学を解析した。アッセイ2と同様に、細胞を[14C]CE(−α又は−β)とインキュベートする。4、8、16、24、48及び72時間インキュベートした後、抽出物をクロマトグラフィープレート上にのせた。得られたプレートを図2A(CEα)及び2B(CEβ)に示す。図1並びに図3A及び3Bと同様に、レーンの下側に1点鎖線で示したように、沈着物は同じレベルで調製された。インキュベートする時間が短いと、多量のCE化合物をCT化合物に変換する時間がないことが分かる。しかしながら、インキュベートの時間を長くすると、CTスポットがより濃くなる一方でCEスポットがより淡くなることから分かるように、ChEHは次第にCE化合物をCT化合物に変換する。そして同時に、CT化合物が現れると、代謝産物Mに相当する「第3のスポット」が生じるようになる。
【0048】
その結果、出願人は、「第3のスポット」である代謝産物MがCT化合物の誘導体である可能性が高いと考えた。
【0049】
アッセイ4
実施例1〜3で出した結論を確認するために、上記で定義した方法を用いて、MCF7細胞を24、48及び15 72時間の間、[14C]CT化合物とインキュベートした。その後、アッセイ1に示したように細胞抽出物を得て、そしてクロマトグラフィープレートにのせた(図4を参照のこと)。プレートの左端のレーンは[14C]CE沈着物を示し、その隣のレーンに移動対照となる[14C]CT沈着物を示す。その他3つのレーンはインキュベート後のアッセイした細胞抽出物に相当する。24時間インキュベートすると、細胞抽出物のレーン上の[14C]CE化合物のスポットの近くに代謝産物に相当するスポットが見られることが示される。より長い期間インキュベートして、このスポットの濃さがより濃くなるほど、つまり代謝産物Mのスポットが濃くなるほど、CT化合物のスポットが淡くなる。
【0050】
このことは、この代謝産物が真にCT−化合物の変換産物であることを確認するものである。
【0051】
アッセイ5
アッセイ1〜4で出現した代謝産物の化学構造を同定するために、多段階技術を用いた。MCF7細胞を、アッセイ1で定義した10mlの培地中、1シャーレ(直径100mm)当たり0.4×106細胞播種した。播種の36時間後、いくつかの細胞を10μM濃度のCEα中でインキュベートし、残りの細胞を10μM濃度の上述したように得た[14C]CEα中でインキュベートした。72時間後、細胞を冷PBS(リン酸塩緩衝液)で洗浄し、その後冷PBS中にかき集め、そして1000rpmで4分間、4℃で遠心分離する。細胞沈殿物と培地を改変Folch法(本明細書の9ページに既に示した参考文献を参照のこと)により、抽出する。
【0052】
有機層を蒸発させ、メタノール中に再懸濁し、その後RP C18カートリッジに通す(Waters社のSep−Pack)。その後カートリッジをメタノールで洗浄する。蒸発させた後、残渣を20μlのエタノール中に溶解し、その後、イソクラティック条件(CH3OH/H2O(容量で95/5)、流速0.7ml/分)を用いた逆相HPLC(「Ultrasep」疎水性カラム)により精製する。カラムの出口の1mn画分を回収し、標識した化合物、具体的には[14C]CEαから生じる代謝産物、の保持時間を決定するために放射活性を測定する。移動溶媒として酢酸エチルを用いた薄層クロマトグラフィーにより、放射性画分を解析する。放射性標識していないCEαで処理したMCF7細胞由来の目的のHPLC画分を電子衝撃(70ev)及び化学イオン化質量分析で解析する(図5のスペクトルを参照のこと)。
【0053】
このように、MCF7細胞によって生産されたCTの質量が420であり、そのクロマトグラフィーでの挙動が市販されているCTのものと同様であることが確認された。MCF7細胞抽出物中に存在し、上述したように精製した代謝産物の質量分析からは、質量が418であること、すなわちCT化合物に対して2質量単位の喪失が生じたことが示される。アッセイ1〜4において示されたように、代謝産物はCT化合物の生物変換から生じる。そのため、質量の差は、2つの水素原子の喪失に相当する。このことは、CT化合物におけるケトン官能基の出現又は二重結合の出現を示唆するものである。赤外線解析により、ケトン官能基の帯域特性が示され、これは、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオール(OCDO)の形成を示す。OCDO化合物の構造は、核の第6炭素が有する、ヒドロキシル基におけるCT化合物の脱水素から生じる産物に対応する。代謝産物のクロマトグラフィーにおける特性及び質量分析における崩壊プロファイルは、Steraloids社から供給されている、市販のOCDO化合物の標準物質のものと同一であり、これら2つの分子が同一であることが示された。
【0054】
癌の診断方法
そのため、本発明は、個体から採取した試料から得られた細胞の腫瘍形成状態を検出する方法に関し、この方法は、得られた細胞中の、式のOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【化4】
【0055】
本発明はまた、ヒト個体又は哺乳動物由来の生体材料から得られた細胞の腫瘍形成状態を検出するための診断方法に関し、この方法は、得られた細胞が相当量のOCDO化合物を含んでいるかどうかを可視化手段によって決定し、この検出の結果が陽性であった場合には、このことから、前記細胞が腫瘍形成状態にあると推測することを特徴とする。
【0056】
本発明はまた、個体における癌の診断方法に関し、この方法は、前記個体から得られた試料中の細胞におけるOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0057】
本発明に従って、試験した個体由来の試料中の細胞におけるOCDOの量を、試験した個体由来に試料中の細胞におけるOCDOの量を測定したものと同じ実験条件下で、健常人由来の試料中の細胞において測定された値である基準値と比較する。基準値に対して有意に高いOCDOの量は、その後、前記試料中の細胞の腫瘍形成状態の指標となる。用語「有意に高い」とは、基準値よりも統計的に大きい値を意味することを目的とする(p<0.05)。
【0058】
本発明の方法は、一般的に、疾患の進行の初期に、個体における腫瘍の進行の予後を示すことを可能にする。個体からの試料中の細胞が、基準値未満又は基準値と同様のOCDO量を示した場合には、これは予後が良いこと及び良性腫瘍を示すものである。逆に、個体からの試料中の細胞が基準値より高いOCDO量を示す場合には、これは予後不良及び悪性腫瘍の指標となる。
【0059】
一般的に、OCDOの量は可視化手段により決定する。
【0060】
本発明の一実施形態においては、前記細胞の液体抽出物中のOCDO化合物の量を決定(測定)する。一般的に、この液体抽出物は、細胞を溶解し、その後固体及び液体画分を例えば遠心分離によって分離することから得られる。この液体画分が前記細胞の「液体抽出物」となる。
【0061】
液体抽出物中でのOCDOの有無は、薄層クロマトグラフィーによって見いだすことができ、その後、適切な可視化手段を介してクロマトグラフィープレート上のOCDOの有無を検出する。可視化手段を用いるために、OCDOを輸送タンパク質上に固定化するようにできる、OCDOの化学修飾を含めることが可能であり、これをその後モノクローナル抗体を用いて検出する。変形形態では、可視化手段は、クロマトグラフィーの前に行われる、得られた細胞の放射性標識であり、可視化は、プレート上の放射能の定量により行われる。
【0062】
細胞の液体抽出物のOCDO濃度が1μMより高い場合に、前記細胞が腫瘍形成状態にあることが示された。抽出物中のOCDO濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってアッセイすることができる。この濃度はまた、ガスクロマトグラフィーとそれに続く質量分析によってもアッセイすることができる。
【0063】
特定の一実施形態においては、液体抽出物中のOCDOの量を薄層クロマトグラフィーによって決定し、クロマトグラフィープレート上のOCDO化合物を適切な可視化手段により検出する。
【0064】
本発明の目的は、個体から得られた試料における腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用でもまたある。
【0065】
本発明はまた、ヒト個体又は哺乳動物由来の生体材料の腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用に関する。
【0066】
本発明はまた、個体から得られた試料中の細胞における腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用に関する。
【0067】
本発明はまた、ヒト又は動物生体に対して実施される、癌を診断する方法のために使用するOCDO化合物に関する。
【0068】
癌を発症している個体の治療をモニタリングする方法
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、治療中の個体の診断の変化が前記治療に対する個体の反応の指標となる本発明の診断方法を用いて、治療の前及び治療中に個体の診断を確定する工程を含む。
【0069】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、治療中の個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態の変化が、個体の前記治療に対する反応の指標となる本発明の細胞の腫瘍形成状態を検出する方法を用いて、治療の前及び治療中に前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を決定する工程を含む。
【0070】
本発明では、治療の前及び治療中に採取される試料は、同じ実験条件下で採取される。
【0071】
抗癌剤のスクリーニング方法
本発明の目的は、癌を発症している個体における、前記癌を治療するための薬剤の有効性を評価する方法でもまたあり、この方法は、
(a)前記個体から得られた試料中の細胞の液体抽出物におけるOCDOのD1濃度をアッセイし;
(b)治療期間の後に、工程(a)と同じ方法で、前記個体から得られた試料中の細胞の液体抽出物におけるOCDOのD2濃度をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合、この結果から、この薬物が前記癌の治療に有効であると推測すること、を特徴とする。
【0072】
本発明はまた、癌を発症している個体における、前記癌治療の有効性を評価する方法に関し、前記方法は、治療中の個体の診断の変化が、癌を治療するための前記治療の有効性の指標となる本発明の診断方法を用いて、治療の前及び治療中に個体の診断を確定する工程を含む。
【0073】
本発明はまた、癌を発症している個体における前記癌治療の有効性を評価する方法に関し、前記方法は、治療中の個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態の変化が癌を治療するための前記治療の有効性の指標となる本発明の細胞の腫瘍形成状態を検出する方法を用いて、治療の前及び治療中に、前記個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態を決定する工程を含む。
【0074】
本発明では、治療の前及び治療中に採取される試料は、同じ実験条件下で採取される。
【0075】
癌の治療方法
本発明の目的はまた、ヒト又は動物の癌治療において使用するためのOCDO阻害剤でもある。
【0076】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療方法に関し、前記方法は、前記個体に治療上有効量のOCDO阻害剤を投与する工程を含む。
【0077】
一実施形態では、OCDOをエタノール中に溶解し、得られた溶液を次に緩衝液、具体的にはリン酸塩緩衝液で希釈し(通常は1/1000)、そして生じた希釈溶液を個体に、一般的には腫瘍内に注入する。用いる阻害剤に応じて、1μg/kg〜500μg/kgまでの範囲の1日用量を、1〜10週間の間の期間、注入することができる。しかしながら、当業者は、阻害剤を投与する形態ならびに治療用量及び治療期間の両方を、個体及び治療する疾患によって調節することができる。
【0078】
OCDO阻害剤は通常、以下の製品、
ロバスタチン、Ro 48−8071阻害剤、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525Aのような、コレステロール生合成に関与する酵素の阻害剤;
ケトコナゾール及びビタミンEのような、コレステロールのエポキシ化において活性なシトクロムP450阻害剤、リポキシゲナーゼ及び酸化防止剤;
PBPE、PCPE、テスミリフェン、デンドロゲニンA(DDA)、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、ニトロミフェン、クロミフェン、RU 39411、BD−1008、ハロペリドール、SR 31747A、イボゲイン、AC−915、リムカゾール、アミオダロン、トリフルオロペラジン、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525Aのようなコレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)活性の阻害剤;並びに
エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、σ−1及び−2受容体及び特定のアミノアルキルステロールのリガンド、細胞間コレステロール輸送阻害剤、並びに、プロゲステロン及びAhr受容体アンタゴニストからなる群より選択される酵素阻害剤、からなる群より選択される阻害剤;
から選択される。
【0079】
本発明のその他の態様及び利点を以下の図及び実施例に記載するが、これらは本発明を例示するものと見なされるべきであり、本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】MCF7細胞及びマウス肝細胞におけるChEH活性の測定。[14C]CE存在下で細胞をインキュベートし、次に脂質を抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図2】MCF7細胞におけるChEH活性の動力学。MCF7細胞を[14C]CEα(A)又は[14C]CEβ(B)存在下で、4〜72時間に時間を長くしながらインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図3】MCF7細胞における、タモキシフェン及びPBPEによるChEH活性の用量依存的阻害(3日間)。MCF7細胞を[14C]CEα(A)又は[14C]CEβ(B)存在下で3日間、タモキシフェン(A)又はPBPE(B)の濃度を上げながらインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図4】CTの代謝産物Mへの変換。MCF7細胞を[14C]CT(A)存在下で24、48及び72 時間インキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール.M:代謝産物M。
【図5】代謝産物Cのマススペクトル。MCF7細胞をCE存在下でインキュベートし、次に脂質を抽出し、そしてHPLCにより精製し、OCDOに相当する画分を質量分析により解析する。
【図6】健康な組織におけるOCDO生産の解析。様々なマウス器官由来の細胞を、[14C]CT(A)存在下で48時間、タモキシフェンを加えて又は加えないでインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図7】OCDOがインビトロでの細胞増殖に及ぼす効果。ヒト甲状腺髄様癌細胞(TT細胞)を、OCDOの濃度を0.1〜5μMの範囲で上げながら、4日間培養する。このインキュベート期間の後に細胞の量を測定し、そして増殖因子を決定する。
【図8】OCDOがインビボでの腫瘍進行に及ぼす効果。TT細胞をヌードマウスに移植する。このマウスを溶媒(溶媒)又は50μg/kgのOCDOを7日間のうちの5日間、1日1回注入しながら、数週間処理した。腫瘍体積を測定し、時間の関数としてグラフにする。
【図9】リンパ節の解析。リンパ節における腫瘍細胞の有無を解析し、溶媒(溶媒)又はOCDOで処理した動物間で比較する。
【図10】腫瘍の組織形態学的解析。溶媒(溶媒)又はOCDOで処理した動物の腫瘍を固定し、そしてサイトケラチン、カルシトニン及び上皮膜抗原(EMA)に対する抗体の存在下でインキュベートする。ストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体とインキュベートし、次にジアミノベンジジン溶液中でインキュベートし、そしてヘマトキシリンでの染色を行う方法により、可視化する。茶色の染色が、抗体で標識したタンパク質の発現を表す。
【図11】OCDOがサイトカインの発現に及ぼす効果。THP1細胞をインビトロにおいて、10μMのOCDOで4時間処理する。細胞のトータルRNAを抽出し、IL12及びIL10をコードしている遺伝子の発現を決定し、図に表す。
【図12】OCDOの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による解析。OCDOを、5,6−エポキシコレスタノール(CE)、コレスタン−3β,5αa,6β−トリオール(CT)及び7−ケトコレステロール(7−ケト−Ch)などのその他のオキシステロールから分離する。210nmでのUV検出を用いる。
【図13】HPLCによるOCDOの検量線。OCDOを0.1〜5μgまで用量を上げながら注入し、HPLCにより解析する。OCDOに相当するピークの面積を注入した物質の質量の関数として表す。このグラフから、直線的な相関が確認される。
【図14】ガスクロマトグラフィー(GC)によるOCDOの解析。5α−コレスタンとOCDOの混合物をトリメチルシリル化し、その後質量分析装置を備えたガスクロマトグラフィー(GC/MS)により解析する。3つのピークが得られる。第1のピーク(10.62分)は5α−コレスタンに相当し、二番目のピーク(32.43分)はH2Oを1分子失ったOCDO(OCDO−H2O)に相当し、3番目のピーク(36.68分)がOCDOに相当する。
【図15】GCで32.43分に現れたピークの質量分析。質量崩壊プロファイルにより、これがOCDOの脱水産物であることが明らかとなる(M+472.3)。得られた産物の構造を示す。
【図16】GCで36.68に現れたピークの質量分析。質量崩壊プロファイルにより、これがOCDOの脱水産物であることが明らかとなる(M+(−CH3)546)。得られた産物の構造を示す。
【図17】GC/MSによるOCDOの検量線。OCDOを6.25ng〜100ngまで、用量を上げながら注入し、GC/MSにより解析する。OCDOに相当するピークの面積を注入した物質の質量の関数として表す。このグラフから、直線的な相関が確認される。
【図18】タモキシフェンによるインビボでの腫瘍成長の阻害。BALB/cマウスに、TS/A型の乳房細胞を移植する。このマウスをタモキシフェン(タモキシフェン)又は溶媒(溶媒)で処理する。時間経過と共に、腫瘍の体積を測定する。
【図19】腫瘍におけるOCDO含量のGC解析。タモキシフェンで処理した又は処理しなかった動物の腫瘍を抽出する。この抽出物をGC/MSにより解析する。溶媒(A)で処理した動物からの抽出物のGCプロファイルから、OCDOとその脱水産物(OCDO−H2O)に相当するピークの存在が明らかとなる。
【図20】OCDO及びOCDO−H2Oに相当するGCピークのMS解析。質量分析を用いて、GCにより得られたピーク中に存在する化合物の構造を同定する。
【図21】MCF7細胞における、ChEH阻害剤によるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で3日間、溶媒(T)、コレステロールエポキシド(CE)、タモキシフェン(Tam)、PBPE(PBPE)、ラロキシフェン(Ral)、及びテスミリフェン(DPPE)と共にインキュベートする。CEαと示したレーンは、移動の標準物質としてのせた[14C]CEαに相当する。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【図22】MCF7細胞における、一般的なシトクロムP450阻害剤であるケトコナゾールによるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で3日間、溶媒(対照)又は10μMのケトコナゾールと共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化し、CE及びOCDOの量を定量する。
【図23】MCF7細胞における、アミノアルキルステロール(DDA)によるOCDO産生の阻害。レーン1は移動の標準物質としてのせた[14C]CEαに相当する。レーン2は移動の標準物質としてのせた[14C]CTαに相当する。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で48時間、溶媒(レーン3)、0.1μMのDDA(レーン4)及び1μMのDDAと共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【図24】MCF7細胞における、細胞間コレステロール輸送調節物質及びAhR受容体調節物質によるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CTα存在下で24時間、溶媒(レーン1)、プロゲステロン(レーン2)、U18666A(レーン3)、TCDD(レーン4)、ベンゾ(A)ピレン(レーン5)、レスベラトロール(レーン6)及びPDM2(レーン7)と共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【0081】
実施例1:OCDOは、細胞の腫瘍状態のマーカーである
ヒト、ラット又はマウスの様々な細胞型中でこのマーカーを観察できるかどうかを確認するために、本明細書の以下実施例4に記載した方法を用いて、数多くの腫瘍細胞株におけるOCDOの有無について試験した。試験した各腫瘍細胞株におけるOCDO産生は、以下の表に示したように検出された:
【0082】
【表1】
【0083】
試験した全ての腫瘍細胞でOCDOが認められたことから、出願人らは、OCDOが細胞における腫瘍状態のマーカーとなると結論づけた。
【0084】
しかしながら、予備的な研究として、そして上述したアッセイ1〜5で行った方法と類似の方法により、OCDOを検出することが可能な条件下において様々な健康なマウス組織由来の細胞におけるCE化合物の変換を評価した(図6に示す結果を参照のこと)。前記細胞を[14C]CEα化合物と共にインキュベートし、そしてタモキシフェンを加えた(+)又は加えてない(−)場合に現れる放射性のスポットを、シリカ薄層クロマトグラフィーにより観察した。タモキシフェンがある場合には、CT化合物はもう現れず、このことはChEHの阻害とよく対応することが示され;タモキシフェンを加えずにインキュベートすると、CT化合物は現れるが、CE化合物の近くにOCDOの存在に相当するスポットは現れないことが示される。
【0085】
その結果、OCDOは正常な組織では産生されず、そのためOCDOの検出は細胞の腫瘍状態を予測するための要素を明かに構成し、OCDOが細胞の腫瘍形成状態のマーカーであることが明らかとなる。
【0086】
実施例2:OCDOは発癌性である
上述したアッセイ及び実施例1に基づいて、出願人らは本発明により、腫瘍段階にある細胞においてOCDOが存在することが、この分子それ自体が発癌性ポテンシャルを有する可能性と関連しているのではないかと考えた。
【0087】
文献では、そのような可能性はこれまで報告されていない。
【0088】
コレステロールは変異原性をもたない。OCDO前駆体及びコレステロールエポキシドエピマーが哺乳類細胞において弱い変異原性を有することが述べられている(Peterson AR, Peterson H, Spears CP, Trosko JE and Sevanian, Mutation Research, vol. 203, p. 355-366, 1988)。細菌を用いて行ったAmes試験において、ステロールエポキシドは全く変異原性を示さなかった(Smith LL et al., Mutation Research, vol. 68, p. 23-30, 5 1979; Ansari GAS et al., vol. 20, p. 35-41, 1982)。近年、これらの所見が確認された(Cheng YW et al., Food and Chemical Toxicology, vol. 43, p. 617-622, 2005)。TPA(12−テトラデカノイルホルボール13−アセテート)のような腫瘍プロモーターを有する、OCDOの構造的ホモログが確かに見いだされた(Endo Y. et al., Chem. Pharm. Bull. (Tokyo), vol. 42 (3), p. 462-469, 1994)。しかしながら、OCDOが実験動物においてPKC活性化特性又は腫瘍促進特性を有する可能性を、誰も記述若しくは示唆してさえもいない。この分子がホルボールエステル結合タンパク質に結合することが示されているだけである(Endo Y., Biochem. Biophys. Res. Comm., vol. 194, p. 1529-1535, 1993)。
【0089】
細胞の観点から、OCDOが、
1)ヒト血清由来のTリンパ球によるロゼット形成を阻害する(Streuli R.A. et al., J. Immunol., vol. 123 (6)n, p. 2897-2902);
2)白血球の移動を阻害する(Gordon L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 77(7), p. 4313-4316, 1980);
3)マウスにおいて、NK細胞の毒性を誘導する(Kucuk O. et al., Cell. Immunol., 139, p. 541-549, 1992);
4)マウスにおいて、Tリンパ球によって生じる細胞融解活性を阻害する(Kucuk O et al., Lipids, vol. 29(9), p. 657-660, 1994)、と考えられることが示されているのみであり、これらの効果は1〜20μMの範囲の濃度で認められた。
【0090】
本実施例2を通して、出願人らは、本発明の状況において、OCDOが腫瘍発生に効果を及ぼすことを確認した。このことは、先行技術からは当業者に全く示唆されていなかったものである。
【0091】
a)この実施例2においては、ヒト甲状腺髄様癌細胞株TT(American Tissues and Cells Collection)を用いた。この株を、10重量%のウシ胎仔血清と50IU/gの抗生物質溶液(ペニシリン/ストレプトマイシン)2.5mlを含む、Kaighnにより改変されたF12K培地(Invitrogen社から販売されている)中で培養する。試験に用いたOCDOはSteraloids社のものである。細胞成長に及ぼすOCDOの効果をインビトロで解析するために、TT細胞を、上に定義したF12K培地を入れた6ウェルプレートに播種する(1ウェル当たり200,000細胞個)。TT細胞を2日ごとに溶媒(PBSリン酸塩緩衝液に溶解した0.1%エタノール)又はその溶媒中に0.1、1、2.5又は5μMの濃度になるような量のOCDOを加えたもののいずれかで処理する。播種して4日後に細胞を計測する。図7に示すように、溶媒で処理した細胞の増殖を基準として比較すると、OCDOでの処理により、TT細胞の増殖は濃度依存的に増加する。処理4日後に測定した、OCDO濃度5μMでの増殖誘導係数は1.5であり;その結果、100nM〜5μMの範囲の濃度のOCDOによる増殖の誘導がインビトロで確認された。この増殖刺激係数は、乳房腫瘍細胞において細胞分裂特性を有する分子である、エストロゲンのものと同等である(Medina et al., J Pharmacol Exp Ther, vol. 319, 2006: p. 139-149を参照のこと)。
【0092】
b)出願人らは、腫瘍発生に及ぼすOCDOの効果をインビボでもまた解析する。動物への注入には、この実施例の(a)において上で定義したTT細胞をトリプシンを用いて回収し、PBSリン酸塩緩衝液で2回洗浄し、そして懸濁する。次に、TT細胞(およそ4×106細胞/0.1ml)を6週齢のメスの「Swissヌードnu/nu」マウス(Charles Riverより供給)の側腹部に皮下注射する。50μg/kgのOCDO(処理群)又は溶媒(対照群)のいずれかで、7日のうちの5日間、1日1回、110日間にわたって、動物を皮下的に処理する(用いた溶媒は、リン酸塩緩衝液(PBS)中に溶解した0.1%エタノールである)。腫瘍の発生を測定するために、この動物(1群当たり5又は10マウス)を定期的にモニタリングする。腫瘍の体積を、式L×l2×0.5により算出する。式中、Lは腫瘍の長さ、lは幅である。図8に腫瘍の体積Vを処理期間tの関数として示す。OCDO処理は有意に腫瘍成長を促進し、OCDOで処理した動物の腫瘍体積は、溶媒で処理した対照動物のおよそ3倍大きい。
【0093】
処理75日後に動物を安楽死させ、腫瘍及び様々な器官を組織学的に解析するために切除する。OCDOで処理した動物では、溶媒で処理した動物に比較して、2倍多いリンパ節(LN)の浸潤が認められた(図9を参照のこと)。
【0094】
組織形態学的解析を行った。この解析を行うために、OCDO又は溶媒で処理したマウスの腫瘍及び様々な器官(リンパ節、肺及び肝臓)を切除し、10%の中性緩衝ホルマリン中で固定し、そしてパラフィンブロック中に包埋する。これらの解析用に、切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色する。甲状腺髄様癌に関連する様々なヒト抗原に対する抗体を用いて免疫標識を行う。抗体としては、抗カルシトニンポリクローナル抗体(Dako SAS、Trappes、France、1:1000)、抗サイトケラチンモノクローナル抗体(Dako clone AE1/AE3、1:50)及び抗上皮膜抗原(EMA)モノクローナル抗体(Dako clone E29、1:50)を用いる。パラフィン切片の免疫標識は、抗CEA抗体についてはクエン酸塩緩衝液(10mM、pH6)中、マイクロ波で10分(750W)を2回、又は抗カルシトニン及び抗EMA抗体についてはクエン酸塩緩衝液(10mM、pH6)中、95℃の恒温水槽で40分加熱することのいずれかによる抗原回復技術の後に行う。
【0095】
上記で定義した抗体とインキュベートした後、切片をストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(StreptABComplex/HRP、Dako)で、次いでジアミノベンジジン(DAB)の発色溶液を用いて免疫標識し、その後ヘマトキシリンで染色する。
【0096】
一次抗体を含まない緩衝液中でインキュベートしたものをネガティブコントロールとする。用いた3種類の抗体それぞれについて、この組織学的解析手段により得られた結果を図10に示す。OCDOで処理した動物由来の腫瘍が確かにヒト甲状腺髄様癌であることが示され、これにより、腫瘍由来の細胞によるリンパ節の浸潤が確認される。
【0097】
その結果、実験動物において移植した腫瘍の成長を刺激することにより、出願人らはOCDOがインビボで細胞分裂活性を有することを確認した。
【0098】
実施例3:OCDOはIL10を刺激し、そしてIL12を低下させる。このことはOCDOの発癌活性を説明するものである。
本発明により、OCDOがインビボでの癌細胞の浸潤能を刺激することを確認した出願人らは、OCDOを用いてインビトロで処理したTHP1細胞におけるサイトカインの発現を、インビトロで解析することにより、OCDOのこの効果を確認する。
【0099】
10%のウシ胎仔血清及び抗生物質の混合物を添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco’s modified eagle medium)型の培地中で、THP1細胞(ATCCから入手したヒト骨髄細胞株)を培養する。THP1細胞を10μMのOCDOで4時間処理する。標準的な方法に従ってRNAを抽出する。相補的なDNAを生成し、その後目的の遺伝子の発現を測定するために用いる。インターロイキン12(IL12)及びインターロイキン10(IL10)をコードしている遺伝子の発現を解析した。これらのインターロイキンは、拮抗的な特性をもつ1対のサイトカインを代表するものである。IL12は免疫刺激性のサイトカインであるが、一方IL10は免疫抑制性のサイトカインである。これら2種類のサイトカインの発現の比率は、細胞の免疫抑制物質又は免疫刺激能を評価すること、及び腫瘍進行を促進する又は対照的にそれを遅らせるその能力を評価することを可能にする。
【0100】
ヒトのIL10及びIL12配列に対応した以下のプライマーを用いる。
【0101】
IL10センス:AAA−CCA−AAC−CAC−AAG−ACA−GAC(配列番号1)、
IL10アンチセンス:GCT−GAA−GGC−ATC−TCG−GAG(配列番号2)、
IL12センス:CTA−TGG−TGA−GCC−GTG−ATT−GTG(配列番号3)、
IL12アンチセンス:TCT−GTG−TCA−TCC−TCC−TGT−GTC(配列番号4)。
【0102】
結果を図11に示す。OCDOは免疫抑制性のサイトカインであるIL10の発現を刺激し、そしてサイトカインIL12の発現を低下させる。このメカニズムは、実施例2を通して示した腫瘍細胞の浸潤能の、OCDOによる刺激を説明することを可能にするものである。
【0103】
実施例4:OCDOのアッセイ
A)HPLCによるアッセイ
高速液体クロマトグラフィーHPLC法により、OCDOを分離及び解析した(95 MeOH/5 H2O;0.7ml/分;カラムUltrasepES 6μm、250×4、C18(Bishoff、Leonberg、Germany))。クロマトグラフィーの装置はPerkin Elmer社の、200シリーズのポンプ及び200型のダイオードアレイ検出器を備えたものである。
【0104】
この装置は、装置を制御し、データを処理するためのTurbochrome(商標)を用いる、「PC」コンピューターを備える。
【0105】
培養したMCF7腫瘍細胞の細胞抽出物をアッセイ1に記載したように準備する。およそ6000万個の細胞を溶解し、1200rpmで10分間遠心分離した後に25μlの液体抽出物を得る。この抽出物のうちの20μlをクロマトグラフィーのカラムに通す。
【0106】
得られたクロマトグラフを図12に示す:OCDOが、CT、CE及びケト−コレステロール(7−ケト−Ch)から分離されたことが分かる。OCDOの保持時間は19分である。
【0107】
このようにして得られたOCDOのピークの表面積の測定と試料中に含まれたOCDOの重量を関連づけるために、較正を行う。
【0108】
この較正は、Steraloids社から販売されているOCDOのエタノール溶液を、濃度を上げながら用いることにより行う。容量は、試料20μlに固定して行う。80ng、0.4μg、0.8μg、4μg及び8μgのOCDO量をインジェクションした。Turbochrome(商標)ソフトウェアを用いた積分により、OCDOに相当するピークの面積を測定し、これらの値(y)をOCDOに相当する質量(x)の関数として図13のグラフに示した。40ng〜80ngの範囲の質量のOCDOを定量することができる、好適な直線的な相関が得られる(y=69430x+1381;r2=0.999;n=6×3;p<0.0001;xはμg単位のOCDO;yはμV.s)。この方法では、0.1〜5μgの範囲の量の分子のOCDOを定量することができる。
【0109】
B)質量分析装置を備えたガスクロマトグラフィー(GC/MS)によるアッセイ
Kedjouarによって記載された方法に従って、5α−コレスタンとOCDOの混合物をトリメチルシリル化する(Kedjouar et al., J Biol Chem, 2004, vol. 279, No. 32, p. 34048-61を参照のこと)。試料を、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド/ピリジン(50:50、v/v)の混合物20を用いて、30分間、温度60℃で処理する。試薬を窒素流の下で蒸発させ、そしてトリメチルシリル化(TMS)誘導体をヘキサンに溶解する。RTX−50シリカキャピラリーカラム(内径30m×0.32mm、フィルム厚0.1μm;Restek)を備えた、Hewlett Packardのシステム4890型装置により、これらのGC/MS解析を行う。オーブンの温度は、230℃を1分、次に1分につき1℃の上昇率で230〜240℃を10分、1分につき3℃の上昇率で240℃〜250℃、そして45℃/分の上昇率で290℃まで、その後1分で330℃まで上がるようにプログラムする。
【0110】
インジェクター及び検出器はそれぞれ310℃及び340℃に設定する。得られたGCプロファイルを図14に示す。3つのピークが得られた。1番目のピークは保持時間が10.62である5α−コレスタンに相当する。2番目は保持時間32.43分に相当し、電子衝撃崩壊を用いた質量分析による解析において、これがOCDOの脱水産物(M+(472.3)、M+から1つのCH3基が失われたもの及びM+から2つのCH3基が失われたもの、に相当するという結果を示す(図15を参照のこと)。最後に、3番目のピーク(保持時間36.68分)はOCDOに相当し、その質量崩壊プロファイルを図16に示す。このプロファイルから、質量が546.2(M+から1つのCH3基が失われたもの)、531.2(M+から2つのCH3基が失われたもの)及び472.2(M+からH2O及びOTMS基が失われたもの)であることが決定される。
【0111】
方法の較正は、OCDOのエタノール溶液を、濃度を上げながら用いることにより行う。6.25ng、12.5ng、50ng及び100ngのOCDO量をインジェクションした。これらさまざまなOCDO量について、OCDOに相当するピークの面積を積分することにより、OCDOを定量するための検量線を確立することができた。この方法では、5〜200ngの範囲の量のOCDOをアッセイすることが可能である(図17を参照のこと)。
【0112】
実施例5:タモキシフェンによるインビボでのOCDO産生の阻害
アッセイ2において既に示したように(図3A)、MCF7腫瘍細胞培養にタモキシフェンを加えると、これら細胞中でのOCDO産生が阻害される。以下に、タモキシフェンをインビボに投与することによってもまた、OCDO産生が阻害されることを示す。
【0113】
マウスに移植した腫瘍におけるOCDOの変化を測定するために、実施例4で用いたアッセイ法を用いた。
【0114】
最初に、TS/A細胞の細胞培養を行った。これらTS/A細胞は、マウス乳房腺癌細胞である(Nanni P et al., Clin. Exp. Metastasis, 1983 Oct-Dec; 1(4): 373-80を参照のこと)。この細胞を、2g/リットルの炭酸ナトリウム、1.2mMのグルタミン(23℃でpH7.4)、5%のウシ胎仔血清(Gibco)及び培地1リットル当たり2.5mlの抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加したDMEM培地中、37℃、5%CO2条件下で培養する。
【0115】
トリプシンを用いてTS/A細胞を回収し、PBS緩衝液で2回洗浄し、そして懸濁する。次に、TS/A細胞(およそ4×106 15細胞/0.1ml)を6週齢のメスのBALB/cマウス(Charles Riverより供給)の側腹部に皮下注射する。腫瘍を移植してから27日間、濃度10μM、注入量100μlのタモキシフェン(タモキシフェン処理群)又は溶媒(PBSリン酸塩緩衝液に溶解した0.1%エタノール)(対照群)のいずれかで、37日間の期間にわたり、1日1回、腫瘍内投与で動物を処理する。腫瘍の発生について、動物(1群当たり10マウス)を定期的にモニタリングする。腫瘍体積を、式L×l2×0.5(Lは腫瘍の長さ、lは腫瘍の幅)により算出する。この実験を2度再現した。結果を図18に示す(矢印は処理の開始時を示す)。
【0116】
ここから、タモキシフェンで処理したマウスにおける腫瘍成長の定性的な阻害が、図18から認められる。
【0117】
OCDOによる阻害に関する定性的な情報を得るために、同一の条件下で再度実験を行い、そして28日目に腫瘍を切除した。5倍量(切除した容積に対して)の緩衝液(50mM Tris−HCl、150mM KCl、pH=7.4)を加える。腫瘍をすりつぶし、ホモジネートを2500rpm、4℃で5分間遠心分離する。上清を回収し、次に1倍量のメタノール(上清の容積に対して)及び2倍量のクロロホルムを加える。遠心分離した後(相を分離するため)、有機相を回収する。有機相を乾燥するまで蒸発させ、その後残渣を0.5mlのクロロホルムに溶解する。有機抽出物を0.5mlのシリカカートリッジを用いてろ過する。極性ステロールを順次溶出する。
1)0.5mlのヘキサン/クロロホルム(1/1)混合物、
2)0.5mlのクロロホルム、
3)0.5mlの酢酸エチル及びメタノール。
【0118】
抽出及び精製段階の最中に、14C標識したOCDOの外部標準物質を加えることにより、回収率が86±6%であったことを確認することができる。酢酸エチル画分を蒸発させ、シリル化し(50μl 1/1 アセトニトリル/BSTFA)、そして上述した条件によるGC/MSで解析する(2μl)。
【0119】
図19は、実施例4に示したように行ったGC/MS解析の、ガス相において生成された2つのクロマトグラムを示し、
A)対照動物由来の腫瘍抽出物:腫瘍の重量は2gであった;
B)タモキシフェンで処理した動物由来の腫瘍抽出物:腫瘍の重量は1.45gであった、
に対応する。
【0120】
図19では、未処理マウス(A)と比較して、処理したマウス(B)腫瘍のOCDOに由来するピークが有意に小さくなったことが観察される。質量分析により、この目的のピーク中の分子の構造を同定する(図20を参照のこと)。
【0121】
従って、数字上では以下の表に示すような結果が得られた。対照群は上で定義され、そして対照群に関係する値を100として、その係数をタモキシフェンに関する結果に適用した。
【0122】
【表2】
【0123】
インビボでタモキシフェンが有意にOCDOを阻害することが分かる。
【0124】
タモキシフェンが抗腫瘍活性を有し、同時に、腫瘍を促進するオキシステロールの産生をインビボで阻害するという事実は、OCDOがタモキシフェンの効果に関与することを示すものである。
【0125】
実施例6:PBPEによるインビボでのOCDO産生の阻害
PBPEは、インビトロでの実験においてその抗増殖性効果が確認されている化合物である(アッセイ2で引用した参考文献、及びPayre B. et al., Mol. Cancer Ther., 7(12), 3707-3717による刊行物もまた参照のこと)。実施例5で示したタモキシフェンについての結果と同様の、PBPEのインビボでの結果を確認した。毎日、濃度40μMのPBPEを注入量100μlで腫瘍内に投与した以外は、タモキシフェンでの処理について実施例5に詳述したプロトコールと厳密に同一のプロトコールを用いた。結果を並べて下記表5に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
従って、インビボではPBPEがOCDOの産生を阻害し、腫瘍の退行を生じることの両方の作用をもつことを確認した。
【0128】
実施例7:PBPEによる、様々な腫瘍細胞でのOCDO産生の阻害
上述したアッセイ2から、PBPE溶液中で3日間インキュベートしたMCF7腫瘍細胞の細胞抽出物においては、OCDOと同定した代謝産物の阻害が観察されることが示された。
【0129】
異なる細胞株を用いて、同様の実験を行った。ここでは試験した細胞を40μMのPBPE溶液中で、48時間インキュベートする。以下の表に示した試験した全ての株において、OCDOは100%阻害された。
【0130】
【表4】
【0131】
通常、アッセイ2と同様に得た薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートからOCDO阻害のパーセンテージを確認するためには、放射性代謝産物を、GP Phosphor screen(GE Healthcare)型のユーロピウム感受性プレートとStorm 840 phosphor imagor(GE Healthcare)を用いて前記プレートに基づいて同定し定量する。Image 5 Quant5.2ソフトウェアを用いてデンシトメトリーにより得られたオートラジオグラム上の、放射性標識したオキシステロールの割合を決定する。定量したオキシステロールの量をオキシステロールの総和(CEE+CE+CT+OCDO)で除算し、その間の割合に基づいてパーセンテージを算出する。CEE(CEエステル)の大部分がCEに由来することから、パーセンテージCEは、(CE+CEE)/(CE+CEE+CT+OCDO)の割合に基づいて算出する。
【0132】
実施例8:ChEHが不活性の場合にOCDOは阻害される
本特許出願中でこれまでに確認したように、腫瘍細胞がOCDOを産生することが知られている。このことは、OCDOの産生に必須の変化である、CEからCTへの変換が可能であることからChEHヒドロラーゼが活性であることもまた意味している。この実施例の後に示す表1で確認するように、タモキシフェン、PBPE、ラロキシフェン及びDPPEはChEH阻害剤である。そのため、上述したアッセイ2は、アッセイ2で詳述したようにMCF7腫瘍細胞をインキュベートした場合に生じる産物の量を測定することにより完成される。実施例7に記載したように、CE、CT及びOCDOのパーセンテージを算出する。結果を図21に示す。この図は、薄層クロマトグラフィープレートを示し、レーンの下に示した符号で表すように各レーンは、細胞を溶媒T(PBS緩衝液に溶解した0.1%エタノール)、CE−阻害剤及び4種類のChEH阻害剤と共にインキュベートしたものに対応する。得られた数値を下の表に並べて示す。
【0133】
【表5】
【0134】
ChEHを阻害することが実際にOCDOの阻害を引き起こし、CT産物の量も非常に低下することが示される。
【0135】
実際には、細胞中でのOCDO形成は、
1.コレステロールの有無、
2.CEの有無、
3.コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)の有無、
4.CTの有無、
5.CTがOCDOへと酸化される場所へのCTの輸送、
6.CTのOCDOへの酸化に関わる酵素の有無及び活性、
の複数の指標に依存する。
【0136】
一方をMCF7腫瘍細胞中でOCDOを阻害するの様々な化合物の能力とし、他方をそれらのChEH阻害剤としての質として、両者の間の関係を根拠の確かなものとして確認するために、一定数の産物に関するChEHの阻害係数であるKiを算出し、そしてその同じ産物と共にMCF7細胞をインキュベートした後に、その細胞が産生するOCDOの量を本特許出願のアッセイ2で定義したプロトコールに従って測定する。全ての結果を表1及び2に示す。これら2つの表から、コレステロール生合成に関わる酵素のいずれの阻害剤も、OCDOの産生に使用される可能性のあるコレステロールを減少させると考えられる。具体的には、酵素、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムAシンテターゼ(HMG CoAシンテターゼ)から7−デヒドロコレステロールレダクターゼ及び24−デヒドロコレステロールレダクターゼの阻害剤について示す。
【0137】
ロバスタチンのようなHMG−CoAレダクターゼ阻害剤のカテゴリー内にある阻害剤についての実験を、10μMの濃度で行った。対照の値を100とすると、アッセイ2で示したプロトコールに従ってMCF7細胞をインキュベートした後のMCF7細胞によるOCDO産生の値は1未満であったことが示された。
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
表1及び表2に示されており、かつ、本明細書中でこれまでに同定していない産物を、以下のリストにおいて、それらの化学名により定義する。
【0141】
PCPE:1−(2−(4−(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノキシ)エチル)-ピロリジン;
テスミリフェン:2−(4−ベンジルフェノキシ)−N,N−ジエチルエタンアミン;
タモキシフェン:2−[4−[(Z)−1,2−ジ(フェニル)ブタ−1−エニル]フェノキシ]−N,N−ジメチルエタンアミン;
4OH−タモキシフェン:4−[(Z)−1−[4−(2−ジメチルアミノエチルオキシ)-フェニル]−2−フェニルブタ−1−エニル]フェノール;
ラロキシフェン:[6−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−ベンゾチオフェン−3−イル]−[4−(2−ピペリジン−1−イルエトキシ)フェニル]メタノン;
ニトロミフェン:1−[2−[4−[(Z)−1−(4−メトキシフェニル)−2−ニトロ−2−フェニルエテニル]フェノキシ]エチル]ピロリジン;
クロミフェン:2−[4−[(Z)−2−クロロ−1,2−ジ(フェニル)エテニル]-フェノキシ]−N,N−ジエチルエタンアミン;
RU39411:11−[4−N,N−[ジエチルアミノエトキシ]フェニル]エストラ−1,3,5(10)トリエン−3,17−ジオール。
【0142】
BD−1008:N−(3,4−ジクロロフェネチル)−N−メチル−2−(ピロリドン−1−イル)エタンアミン;
ハロペリドール:4−(4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル)−1−(4−フルオロフェニル)ブタン−1−オン;SR−31747A:(E)−N−(4−(3−クロロ−4−シクロヘキシルフェニル)ブタ−3−エニル)−N−エチルシクロヘキサンアミン;
AC915:N−(3,4−ジクロロフェネチル)−N−メチル−2−(ピロリドン−1−イル)エタンアミン;
リムカゾール:9−[3−[(3S,5R)−3,5−ジメチルピペラジン−1−イル]プロピル]カルバゾール;
アミオダロン:(2−ブチル−1−ベンゾフラン−3−イル)−[4−(2−ジエチルアミノエチルオキシ)−3,5−ジヨードフェニル]メタノン;
トリフルオロペラジン:10−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]−2−(トリフルオロメチル)フェノチアジン;
【0143】
RO48−8071:(4−(6−(アリル(メチル)アミノ)ヘキシルオキシ)フェニル)(4−ブロモフェニル)メタノン;
U−18666A:3−β−(2−(ジエチルアミノ)エトキシ)アンドロスト−5−エン−17−オン;
【0144】
AY−9944:トランス−1,4−ビス(2−クロロベンズアミノメチル)シクロヘキサン;
トリパラノール:2−(4−クロロフェニル)−1−(4−(2−ジエチルアミノ)エトキシ)フェニル)−1−p−トリルエタノール;
テルビナフィン:(E)−N,3,6,6−テトラメチル−N−(ナフタレン−1−イルメチル)ヘプタ−2−エン−4−イン−1−アミン;
SKF−525A:2−ジエチルアミノエチル−2,2−ジフェニルペンタノエート。
【0145】
実験の対象とした、表1及び2の結果を示す阻害剤には、エストロゲン受容体モジュレーター、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、シグマ−1及び−2受容体リガンド、及びスクワレンシンテターゼから7−及び24−デヒドロコレステロールレダクターゼまでのコレステロール生合成阻害剤が含まれる。これらの全ての阻害剤における1つの共通点はすなわち、AEBSリガンドであるということである。
【0146】
表1に示した阻害係数Kiの測定に用いたプロトコールを以下に詳述する。
【0147】
a)AEBSに対するKi
Kiは目的の分子の阻害定数に相当するものであり、以下の方法により測定する。ラット肝臓ミクロソームを、濃度2.5nMのトリチウム化タモキシフェン(GE Healthcare社より供給された)と増加濃度0.01〜1000μMの範囲の阻害剤とを、後述する刊行物に記載されている条件下でインキュベートする:Poirot M. et al., Bioorg Med Chem 2000, vol. 8(8), p. 2007-2016。IC50値は、ChEH活性の50%を阻害するのに必要とされる阻害剤の濃度に相当するものであり、Graph Pad Prism(version 4)データ処理プログラムを用いて決定する。Cheng−Prussofの式(Cheng and Prussof, Biochem Pharmacol, 1973, vol. 22(23), pages 3099-3108)を用いてKi値を算出する。Kiを、Ki=[IC50](1+(トリチウム化タモキシフェン])/Kd)の式により表す。トリチウム化タモキシフェンの濃度は2.5nMであり、及びAEBSに対するトリチウム化タモキシフェンの平衡での解離定数は2nMである。
【0148】
b)ChEHに対するKiの決定
150μgのラット肝臓ミクロソームタンパク質を、2種類の濃度の[14C]CEα存在下で、阻害剤の濃度を0.01〜1000μMまでの範囲で上昇させながら、ChEH活性の測定について上述した条件下でインキュベートする。Dixon法(Dixon M, Biocheml Jl, 1953, vol. 55(1), p. 170-171)から決定されるように、1/Vの値をChEHに対する1/Sの関数としてグラフ上にプロットすることにより得られる2本の線の、X軸上での交点をKiとして測定した。
【0149】
実施例9:シトクロムP450阻害剤によるOCDOの阻害
コレステロールのエポキシ化は、シトクロムP450又はリポキシゲナーゼなどの酵素作用が介在する、大気中の酸素によるコレステロールの自己酸化によって生じる場合がある(Schroepfer G.Jr, Physiological Reviews, vol. 80, No. 1, p. 361-554, 2000を参照のこと)。
【0150】
一般的なシトクロムP450阻害剤、すなわちケトコナゾール、を用いることにより、エポキシステロールCE並びにその誘導体であるCT及びOCDOの産生が阻害されることが示された(図22を参照のこと)。
【0151】
この実験に用いたプロトコールは実施例7において記載したものと同じである。
【0152】
実施例10:アミノアルキルステロールによるChEHの阻害
この実験のために、仏国特許第2,838,741号に含まれ、式:6β−N−[2−(3H−イミダゾール−4−イル)エチルアミノ]コレスタン−3β、5α−ジオール(DDA)を有するアミノアルキルステロールを選択した(de Medina et al., J Med Chem: 2009, vol. 52, No. 23, p. 7765-7777もまた参照のこと)。MCF7腫瘍細胞を[14C]CE(10mCurie/mmol、0.6μM)と共に48時間、上述したアミノアルキルステロール(0.1及び1μM濃度)を加えて又は加えずにインキュベートした。
【0153】
薄層クロマトグラフィーを行い、そのプレートを図23に再現する。このプレートでは、レーン1については[14C]CEと、レーン2については[14C]CTと、レーン3についてはアッセイ1〜5で使用したものと同じ溶媒と、レーン4については[14C]CE及び0.1μMのアミノアルキルステロールと、そしてレーン5については[14C]CE及び濃度1μMのアミノアルキルステロールと共にインキュベートを行う。
【0154】
アミノアルキルステロールがあるとChEHの阻害が引き起こされ、この阻害がアミノアルキルステロールの濃度に依存することが認められる。
【0155】
さらに、ホモジネートにおけるこの阻害についても研究を行った。プロトコールは以下の通りである:トリプシンを用いてMCF7細胞をばらばらにし、5%のFBSを添加したRPMI培地に懸濁する。得られた細胞懸濁液(6000万細胞)を遠心分離し、冷PBSで洗浄し、そして1mlの20 Tris−HCl緩衝液(pH=7.4;150mM KCl)に再懸濁する。凍結/融解(液体窒素/37℃)を5サイクル繰り返すことにより細胞を溶解する。溶液を1200rpm、4℃で10分間遠心分離する。上清を回収し、ブラッドフォード法によりタンパク質を測定する。MCF7細胞溶解物におけるChEH活性の測定は以下の通りに行う:125μlのChEH緩衝液(Tris−HCl、pH7.4、150mM KCl)と15μlのMCF7タンパク質を含む、最終容量150μl中のタンパク質150μgについての酵素活性を測定する。IC50値を比較し、(IC50)細胞=0.6μMであるが、(IC50)ホモジネート=11.2μMであることが明らかになった。
【0156】
IC50値におけるこの差は、試験したアミノアルキルステロールが癌発症に対する抑制特性を示すことを表すものである。
【0157】
加えて、DDA化合物について、実施例6に示すPBPEについての結果と同様の結果が測定された。用いたプロトコールは、連日腫瘍内投与を10μMの濃度で注入量100μlで行った以外は、タモキシフェンを用いた処理について実施例5に詳述した方法と厳密に同一のものである。結果を以下の表に並べて示す。
【0158】
【表8】
【0159】
その結果、この実施例から、DDA産物が最初にOCDOを阻害し、2番目に、インビボで、腫瘍サイズを減少させることが確認される。
【0160】
実施例11:細胞間コレステロール輸送モジュレーター及びアリール炭化水素受容体(Ahr受容体)モジュレーターによる、OCDOの阻害
2種類の細胞間コレステロール輸送モジュレーター、すなわちプロゲステロン及びU18666A(3−β−(2,20−(ジエチルアミノ)エトキシ)アンドロスト−5−エン−17−オン)(Liscum L et al., J. Biol. Chem., vol. 270 (26) p. 15443-15446, 1995を参照のこと)(それぞれレーン2及び3)を試験する。
【0161】
2種類のAhr受容体(アリール炭化水素受容体)モジュレーター、すなわち2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン(TCDD)及びベンゾ(A)ピレンをもまた試験した(それぞれレーン4及び5を参照のこと)。最後に、2種類のAhr受容体アンタゴニスト、すなわちレスベラトール及び1,3−ジクロロ−5−[(1E)−2−(4−クロロフェニル)エテニル]−5−ベンゼン(PDM2)を試験した(「Casper R.F. et al., Mol. Pharmacol., 1999 October; 56(4); 784-90」及び「de Medina et al., J. Med Chem., 2005 January 13; 48(1): 287-91」を参照のこと)。
【0162】
以下の実験を行った:0.5μMの[14C]CT存在下にMCF7腫瘍細胞を置き、その後以下の産物のうちの1つを加えて24時間インキュベートする。
1.対照の溶媒(PBS緩衝液に溶解した0.1%エタノール)(レーン1)。
2.10μMのプロゲステロン
3.10μMのU18666A
4.100nMのTCDD
5.10μMのベンゾ(A)ピレン
6.10μMのレスベラトール
7.10μMのPDM2(Ant.1)
【0163】
薄層クロマトグラフィーを行い、得られたプレートを図24に示す。実施例7に詳述したプロトコールを用いることで、各レーンのスポットから、処理した細胞中でのOCDO産生を定量した。この定量の結果を図24のヒストグラムで示す。
【0164】
MCF7細胞をその他のAhr受容体アンタゴニストと共に上で定義したものと同じプロトコールでインキュベートした場合に、細胞が産生するOCDOの量についてもまた測定し、対照試験を100として、そのOCDO産生を対照に対する割合(%)として表した(上記実験と同じ対照を用いた)。結果を以下の表に示す。
【0165】
【表9】
【0166】
この結果から、細胞間コレステロール輸送モジュレーター及びAhr受容体アンタゴニストがOCDOの形成を阻害することが可能であり、従ってそれらの抗癌作用を用いることが可能であると考えられる。
【図3A】
【図3B】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の腫瘍形成状態の決定方法、及びその使用に関する。本発明はまた、癌の治療方法で使用するためのOCDO阻害剤にも関する。
【0002】
癌の診断は様々な基準、具体的には、聴診及び健康診断(内視鏡検査、マイクロファイバー、放射線透視法など)のような目に見える又は触診しうる、症状の徴候を医師に示すことができる基準、並びに赤血球細胞、白血球細胞及び血小板の数、ヘモグロビンレベル、及びクレアチニンレベルを決定することが可能な血液及び尿検査、あるいは患者から採取した試料中の特定の癌マーカーの存在を検出すること、に基づいている。多くの癌マーカーが文献に記載されてきた。一般的にそれらは、とりわけ特定の型の癌に特異的なものであり、さらには、患者の亜集団に特異的なものである。さらに、文献に記載されたマーカーは通常、癌を明確に診断することはできず、さらに、偽陰性又は偽陽性の率がいまだに高い。最終的に、癌発生の後期においてのみ、いくつかのマーカーを検出することができるが、このことは、少なくとも部分的には治療の成功を損なうものである。
【0003】
そのため、初期のいずれの型の癌をも、確実性及び再現性をもって診断することが可能な、新しい癌マーカーが必要とされている。
【0004】
発明の概要
本発明は、個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を検出する方法に関し、この方法は、得られた細胞中に存在する式
【化1】
で示される化合物OCDOの量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0005】
本発明はまた、個体における癌の診断方法にも関し、この方法は、前記個体から得られた試料における細胞中の化合物OCDO、すなわち、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオールの量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明はまた、個体から得られた試料の腫瘍形成状態のマーカーとしての化合物OCDOの使用に関する。
【0007】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、本発明による方法を用いて、前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで、治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、その個体による前記治療への反応の指標となる方法。
【0008】
本発明はまた、癌を発症した個体の前記癌の治療における医薬の有効性を評価する方法であって、
(a)前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D1をアッセイし;
(b)治療的処置期間の後に、工程(a)と同様の方法で、前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D2をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合に、それから、前記医薬が前記癌の治療に有効であると推論する
ことを特徴とする方法にも関する。
【0009】
本発明の目的はまた、癌を発症した個体における前記癌治療の有効性を評価する方法であって、本発明による方法を用いて、前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで、治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、癌治療における前記治療の有効性の指標となる方法である。
【0010】
本発明はまた、ヒト又は動物の癌の治療方法において使用するためのOCDO阻害剤に関する。
【0011】
定義
本発明の目的において、「生体材料」又は「試料」という用語は、生物の組織、標本、又は液体若しくは固体である、生物組織に由来する抽出物を意味することを目的とし、この材料はまた、上記で定義した少なくとも2つの材料の混合物であってもよい。そのため、そのような試料又は生体材料は、具体的には、組織、器官、糞便、又はヒト若しくは哺乳類の体液から調製したもの、又は「インビトロ」細胞培養物から得られたものであってもよく、そのような試料又は生体材料はまた、血液、血清、血漿、尿、髄液、骨液、腹膜水、胸膜液、精液又は腹水であってもよい。一般的には、本発明の試料又は生体材料は、癌組織又は癌であることが予測される組織の生検である。
【0012】
本発明の目的において、「個体」という用語は、ヒト又が哺乳類動物を意味することを目的とする。
【0013】
細胞の「腫瘍形成状態」という用語は、細胞が制御されずに増殖するように、前記細胞の増殖プログラムが変化し、侵襲性及び/又は転移性の悪性腫瘍形成を引き起こす可能性のある、脱分化した状態を意味することを目的とする。
【0014】
「治療」及び「治療する」という用語は、個体の健康状態を改善することを目的とした任意の行為、例えば疾患の治療、防止、予防又は疾患を遅らせることを指す。特定の実施形態においてこれらの用語は、疾患又はこの疾患に関連する症状の改善又は根絶を指す。その他の実施形態においてこれらの用語は、疾患の進行又は悪性度を低減させることを指す。
【0015】
「治療上有効量」という用語は、個体を治療するために十分な量を意味することを目的とする。
【0016】
「癌」という用語は、ヒト又は動物の体の特定の細胞が制御されずに分裂する、いずれの疾患をも意味することを目的とする。癌は一般的には、癌腫、肉腫、及び血液癌から選択される。より具体的には、本発明の癌は、乳癌、肺癌、黒色腫、結腸癌、直腸癌、膵癌、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、カポジ肉腫、精巣癌、前立腺癌、子宮癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、胚性癌腫又は甲状腺髄様癌である。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、腫瘍細胞において初期に表れ、そして細胞分裂特性及び腫瘍の侵襲刺激特性を示すマーカーである、OCDOの同定に関する。本発明は、癌を発症していると疑われる若しくは癌を発症している個体から得られた試料中のこのマーカーの検出、及びそのマーカーをアッセイすることに基づくものである。本発明はまた、癌の治療法において用いるためのOCDO阻害分子にも関する。
【0018】
長い間、コレステロール及びコレステロールの酸化産物がヒトにおいて発癌特性を有することが疑われてきた(Fritz Bischof, Advances in Lipid Research, vol. 7, p. 165-244, 1969)。最初はこれらの効果は限られた数の齧歯類の種において観察され、それは、この対象について研究していた科学者からは無視されるような、矛盾する観察結果であった(Leland L Smith et al., Free Radical Biology and Medicine, vol. 7, p. 285-332, 1989)。特定のコレステロール酸化産物がコレステロールの異化及びステロイドホルモンの生産の途中で生じることが分かっている。特定の数のオキシステロールが、免疫系、神経系及び心血管系における重要な生理学的な機能を担っている。オキシステロールの既知の標的には、リガンド依存性転写因子があり、その中でも最もよく知られているものがLXR受容体(肝臓X受容体)である。オキシステロールは、コレステロールの細胞間輸送、脂質ミクロドメインの形成、胚発生での形態形成に関わるHedgeHog経路の活性化を調節し、また、それらは芳香族炭化水素受容体に対する拮抗特性を有する。
【0019】
特定のオキシステロールがコレステロール代謝、具体的には、メバロン酸の生合成(HMG−CoA−レダクターゼ)、コレステロールのエステル化及びコレステロールエポキシドの加水分解に関与する酵素の活性を調節することが示されてきた(Schoepfer G. Jr.: Physiological Reviews, vol. 80, No. 1, p. 361-554, 2000を参照のこと)。また、酸素含有基(アルコール、カルボニル、ヒドロペルオキシド、ペルオキシド又はエポキシド)の性質、コレステロールの炭化水素骨格におけるその位置、その空間的な方向及び前記炭化水素骨格上の酸素含有基の数により、コレステロール酸化産物が様々な生体標的(膜、酵素、受容体)に対する特異的な認識特性を有する可能性があることも示されてきた。
【0020】
本発明から、コレスタン−3β,5α−ジオール−6−オン(OCDO)が、組織由来の様々な腫瘍株に存在することが示された。腫瘍の細胞分裂におけるこの分子の特性、及びインビトロでは、移植を受けた齧歯類での細胞及び腫瘍への侵襲性おけるこの分子の特性について解析されてきた。この分子が腫瘍細胞においては免疫抑制性サイトカインの発現の刺激を誘導するが、免疫刺激性サイトカインの発現を低下させることもまた示されており、このことは、腫瘍周辺での免疫抑制、その発生の促進、及び侵襲性と一致するものである。
【0021】
コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)が、以下に示す反応である、コレステロールエポキシド(CE)からコレスタントリオール(CT)を生じる加水分解に関与する酵素であることが知られている(Medina et al., Faseb J. 19(4): A285-A285, Part I Suppl. S, 4 March 2005を参照のこと)。
【化2】
【0022】
出願人らは最初の工程において、正常組織の細胞及び腫瘍細胞から得られた細胞抽出物における、ChEHの活性を比較した。ChEHの活性は、ChEHのCT生成に関与するCE基質を、薄層クロマトグラフィーを用いて分離することにより観察することができる。CE及びCT化合物に相当するスポットを14C放射性標識により可視化した。実験の詳細は、この後に詳細に記載したアッセイ1において示し、結果を図1に示す。
【0023】
出願人らは、正常な細胞からはCE及びCT化合物に相当する2つのスポットを可視化することができたが、一方、驚くべきことに、腫瘍細胞からは3つのスポットが現れたことを示した。すなわち、1つはコレスタントリオール(CT)に相当し、2番目のものはコレステロールエポキシド(CE)に相当し(正常な細胞の、相当するスポットと比較して弱い)、そして第3のスポットはCE化合物のスポットに近かったが、それにも関わらず、はっきりと区別できるものであった。
【0024】
乳癌の治療及び予防において、腫瘍抑制性の抗癌剤として既知の方法で用いられるタモキシフェン(tam)がChEHの阻害剤であり、また、既知の抗増殖剤であるPBPE(N,N−ピロリジノ−[(4−ベンジル)フェノキシ]エタンアミン)もまたChEHの阻害剤であることが知られている(これに関しては、本願のアッセイ2で示した参考文献公刊物を参照のこと)。腫瘍細胞をタモキシフェンを用いて処理した場合、出願人らが代謝産物Mとしたこの「第3のスポット」もCTのスポットもいずれも現れなかった。タモキシフェンがChEHを阻害することから、2番目の工程においては、処理した腫瘍細胞のクロマトグラフィープレートにおける「第3のスポット」の出現にChEHの阻害が関与するかどうかを調査した。この実験の詳細は後に記載するアッセイ2において示し、結果を図3A及び3Bに示す。この調査を行うために、タモキシフェン又はPBPEそれぞれで処理した腫瘍細胞の抽出物においてChEH活性を阻害した。細胞と阻害剤とのインキュベーションを3日間維持し、増加用量の阻害剤を用いて逐次アッセイを行った。さらに、阻害剤の用量を増やして行った薄層クロマトグラフィーでは、CE化合物のスポットに近い位置にある「第3のスポット」と同じ時点で、CT化合物が消失することが示された。このことから、本発明により出願人は、「第3のスポット」に関与する代謝産物MがCT化合物の誘導体であるだろうと予測した。
【0025】
3番目の工程において出願人らは、「第3のスポット」に相当する代謝産物Mの形成が、ChEH阻害剤であるタモキシフェンとの24時間を超えるインキュベーションの後に、CE化合物の形成が失われるまで、徐々に生じること;及びこの現象がCE化合物のα及びβ2種類の異性体を用いた場合にも起こることを確認するにより、この実験を完成させた。この、さらなる結果についてはアッセイ3、並びに図2A及び2Bにおいて詳細に示した。その結果、出願人らは、これらのことから、本発明により、「第3のスポット」に関する産物が、クロマトグラフィーにおいてはCE化合物と似た挙動を示すが、クロマトグラフィー支持体への保持の程度がより高い、CT化合物の変換産物であると結論づけた。この結果は、「第3のスポット」に関連する代謝産物Mが、CT及びCE化合物の極性の中間的な極性を有し、かつ、CE及びCT分子2つと類似した構造をもつ化合物であることを示すものである。
【0026】
以下に詳述するアッセイ4では、「第3のスポット」の代謝産物Mが、CT化合物の変換に由来するものであることを確認するために行った研究の全ての情報を示す;このアッセイの結果を図4に示す。
【0027】
最後にアッセイ5では、この「第3のスポット」に相当する産物の、化学構造の同定を可能にする方法を記載する。出願人らはその結果、本発明により、この「第3のスポット」が、腫瘍細胞のみをアッセイした場合に表れる、以下の式に相当する、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオール(OCDO)によるものであることを確認した。
【化3】
【0028】
OCDO産物は新規の産物ではなく、コレスタン−3β,5α,6β−トリオール(CT)のN−ブロモスクシンイミドによる酸化の産物としての記載がある(Fieser L.F. et al.; Rajagopalan S.: Selective oxidation with N-bromosuccinimide. II. Cholestane-3β,5α,6β-triol, J Am Chem Soc, 71, p. 3938-41, 1949)。さらに、OCDOの化学合成についても1908年に、既に記載がある(Robert Howson Pickard et al., J. Chem. Soc. Trans. vol. 93, p. 1678-1687, 1908)。
【0029】
コレスタン−3β,5α,6β−トリオールの変換の結果生じる代謝産物として、この分子の存在が1971年に報告され、OCDOはコレスタン−3β,5α,6β−トリオールを強制給餌したラットの糞便中に見られる場合があることが示された(Roscoe HG, Fahrenbach MJ, J Lipid Res, vol. 12, p. 17-23, 1971)。また、OCDOは、ウシ血清及びヒトの血液中でも、10〜100nmの範囲の濃度で見いだされる場合があることが示された(Yamaguchi M. et al., Biol. Pharm. Bull. 20(9), p. 1044-46, 1997)。
【0030】
OCDOマーカーの同定を可能にする、アッセイ1〜5で行った実験方法の詳細を以下に示す。
【0031】
アッセイ1〜5及び本特許出願で後述するいくつかの実施例においては、American Tissue Culture Collection(ATCC)由来のMCF7腫瘍細胞を用いた。これらの細胞を、2g/リットルの炭酸ナトリウム水溶液、1.2mMのグルタミン(23℃でpH7.4)及び5%のウシ胎仔血清(Gibco)を添加したRPMI 1640培地中、培地1リットル当たりに2.5mlの抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を加え、37℃、5%CO2条件下で培養した。マウス細胞におけるChEHの活性をシリカ薄層クロマトグラフィーにより解析することが望ましい。可視化することが所望される化合物は、上記に定義した、CE及びCT化合物である。クロマトグラフィープレート上のCE及びCTに相当するスポットを可視化するために、14Cで標識したCE及びCT化合物を合成した。
【0032】
a)[14C]5,6−β−エポキシコレスタン−3β−オール及び[14C]5,6−α−エポキシコレスタン−3β−オールの合成
0.35μmolの[14C]コレステロール(58mCi/mmol)を、0.56μmolのメタ−クロロ過安息香酸存在下で200μlのジクロロメタンに溶解する。この溶液を周囲温度で5時間撹拌する。反応混合物を1mlのジクロロメタンに溶解し、そして亜硫酸ナトリウム水溶液(10重量%)、炭酸水素ナトリウム(5重量%水溶液)及び飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄する。有機層を蒸発除去し、そして残渣をRP−HPLC(Ultrasep ES C18 6μm疎水性カラム)により、CH3OH/H2O(容量で95/5)イソクラティック条件下、0.7ml/分で精製する。α及びβ異性体をこれら条件下において速やかに分離し、放射能検出器(Berthold)で検出する。
【0033】
この反応からの全収率は80%であり、得られた産物は、75%のα異性体(CEα)と25% 5のβ異性体を(CEβ)含む。
【0034】
b)[14C]コレスタン−3β,5α,6β−トリオールの合成
この化合物を、文献に記載されているように(Pulfer MK and Murphy RC, Formation of biologically active oxysterols during ozonolysis of cholesterol present in lung surfactant, J Biol Chem, vol. 279(25), p. 26331-26338, 2004)、[14C]5,6−β−エポキシコレスタン−3β−オールから合成した。上記(a)で調製した[14C]CEβ(58mCi/mmol)を1mlのテトラヒドロフラン/H2O/アセトン混合物(v/v/v、4:1:0.5)に溶解する。125μlの過塩素酸を反応媒体に加え、これを周囲温度で4時間撹拌する。
【0035】
この反応混合物を1mlのジクロロメタンで希釈し、炭酸水素ナトリウム(5重量%の水溶液)、次いで水で洗浄する。残渣を疎水性カラム(Ultrasep ES C18 6μm)を用いたHPLCにより、CH3OH/H2O(容量で95/5)イソクラティック条件下、流速0.7ml/分で精製する。収率62%で[14C]CTが得られる。
【0036】
以下のアッセイ1〜5で使用するために、細胞を6−ウェルプレート中に、2ml当たり80000個の密度になるように播種する。播種の36時間後に細胞を、溶媒(PBS緩衝液に溶解した1‰エタノール)又は試験することを所望する化合物で15分間処理する;そのため、アッセイに応じて、このインキュベーションは[14C]CEα(0.6μM、15μCi/μmol)及び[14C]CEβ(0.6μM、15μCi/μmol)又は[14C]CT(1μM、15μCi/μmol)化合物を用いて行う;溶媒の割合は培地の容量に対して2‰を超えないものである。アッセイで必要とされたインキュベーション時間の後、培地を回収し、細胞を冷PBS(リン酸塩緩衝液)(1ウェル当たり2ml)で洗浄し、これを培地と共にプールする。この細胞を次に冷PBS(3ウェルにつき1ml)中にかき集め;ウェルを再度冷PBS(3ウェルにつき1ml)でリンスした。得られた細胞懸濁液を1000rpmで5分間、4℃で遠心分離する。細胞沈殿物と培地を改変Folch法(Ways P. et al., J Lipid Res, 5(3): 318 (1964)により公開された)により抽出する。本明細書の他の部分にわたり、用いられた溶媒は上記で定義したものと同じである。
【0037】
水層及び有機層の放射活性を測定する。有機層はアルゴン下で乾燥させる。残渣を60μlのエタノールに再懸濁し、その後1レーン当たり20μlの割合で、背面がガラス製のシリカプレート(WhatmanLK−6−DF、20×20)にのせ、これを様々なアッセイに用いる(これらのプレートは、100℃で1時間予め加熱しておいた)。移動相としては酢酸エチルを用いる。カセット中でクロマトグラフィープレートを「フォスファスクリーン」プレートに接触させ、一晩置いた。「フォスファスクリーン」をStorm型の「Phosor Imager」を用いて可視化する。プレート上に現れたスポットの濃さの特性がより濃いか又はより薄いかを評価するために、「Imagequant」(商標)コンピュータープログラムを用いた濃度計により、放射活性を定量する。
【0038】
アッセイ1
このアッセイ1においては、健康なマウス細胞及びMCF7マウス腫瘍細胞におけるChEHの活性を示した。この過程は、直前に記載した方法に従って薄層クロマトグラフィーにより行う。結果を図1に示す。
【0039】
この図では、レーンの下段に1点鎖線で示したように、全ての沈着物が同じレベルで調製されたことが分かる。
【0040】
上述した方法により、予め調製しておいた[14C]CE化合物(0.6μM、15μCi/μmol)を左側のレーンにのせた。中央及び右側のレーンは、上述した方法に従って、[14C]CEと共に予めインキュベートしておいた細胞の抽出物に対応する。
【0041】
右側のレーンの下側にのせた細胞抽出物は、体重が20〜25gの、成体C57/Bl6マウス(Charles Riverから供給された)から採取した正常な肝細胞の抽出物に対応する。肝細胞を、Davis(Davis RA et al., J. Biol Chem, 1979, vol. 254, No. 6, p. 2010-2016)のプロトコールに従い、コラゲナーゼを用いた潅流により単離し、そしてコラーゲンでコーティングされた直径6cmのシャーレ中で、1シャーレ当たり200万個の細胞密度で培養した。培地としては、10%のウシ胎仔血清、インスリン(0.5U/ml)及び抗生物質(50ユニット/ml)(ペニシリンとストレプトマイシンの混合物)を含む、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。シャーレを37℃の恒湿インキュベーター中、5%CO2に維持する。細胞が接着した後、細胞くずを除去するために細胞をPBS緩衝液で洗浄し、そして栄養培地を新しい培地と交換する。細胞を翌日のできるだけ早くにアッセイに用いる。
【0042】
図1の右側のレーンから、CT化合物が最初に現れること、そしてCE化合物のレベルは直接左側のレーンにのせたものと実質的に同じであることが分かる。クロマトグラフィーには両方が現れているが、生成するCT化合物は必ずChEHヒドロラーゼによって変換されたCE化合物から生じるため、最初に標識したCE化合物のみをのせて、スポットの出現を可能にした。
【0043】
一方、中央のレーンにはMCF7マウス腫瘍細胞の抽出物をのせた。この細胞抽出物は、C57/Bl6マウス細胞の肝細胞抽出物と同じ方法で培養した、MCF7細胞から調製した。CT化合物に相当するスポットが示され、その次に互いの位置が近い2つのスポットが現れた。1つは右側のレーンのCE化合物に相当するものであり、もう1つが未確認の代謝産物Mに相当するものである。さらに、この「第3のスポット」はCE化合物の相当するスポットよりも濃い。
【0044】
従って、腫瘍細胞においてはCE化合物の一部が、CE化合物に近いクロマトグラフィーでの挙動を示し、かつ、CE及びCT化合物の間の中間的な極性を示す、代謝産物Mに変換されたと推測した。
【0045】
アッセイ2
アッセイ1のクロマトグラフィープレート上の「第3のスポット」の出現が、細胞中ではCE化合物からCT化合物を生じるChEHの阻害に影響されるかどうかについて解析した。タモキシフェン(Tam)及びPBPEによりChEHが阻害されることが知られている(FASEB Journal, vol. 19, Issue 4, p. A285-A285, Part 1 Suppl. S)。そこで、このアッセイにおいてはこれら2種類の阻害剤を用いた。
【0046】
この実験を行うために、MCF7腫瘍細胞の細胞抽出物をアッセイ1で示したように[14C]CE(−α又は−β)の溶液中でインキュベートし、続いてその後ChEH阻害剤、すなわちタモキシフェン又はPBPEの水溶液中で3日間インキュベートして、これをアッセイ1で使用したものと同じ型のクロマトグラフィープレート上にのせた。[14C]CE−αと共にインキュベートする場合には、1×10−2、1×10−1、5×10−1、1、2.5及び5μM濃度のタモキシフェン溶液を用いる(図3A);[14C]CEβと共にインキュベートする場合には、1×10−2、1×10−1、1、5及び10μM濃度のPBPE溶液を用いる(図3B)。図3A及び3Bは、2つの例で得られたクロマトグラフィープレートを示す。インキュベートするときに多量の阻害剤を用いると、CT化合物及び代謝産物Mによる「第3のスポット」が同時に消失することが示される。逆に、少量の阻害剤では、CT化合物及び代謝産物Mによる両方のスポットは十分であるが、CEによるスポットは弱く、CEが(CT+代謝産物)に変換されたことを示す。このことから、ChEHヒドロラーゼは、相対的に阻害されていない場合には、CTを生じさせることができ、続いて代謝産物Mのスポットもまた現れると結論づけられる。
【0047】
アッセイ3
[14C]で標識したCE(−α又は-β)化合物を用いて、MCF7細胞におけるChEH活性の動力学を解析した。アッセイ2と同様に、細胞を[14C]CE(−α又は−β)とインキュベートする。4、8、16、24、48及び72時間インキュベートした後、抽出物をクロマトグラフィープレート上にのせた。得られたプレートを図2A(CEα)及び2B(CEβ)に示す。図1並びに図3A及び3Bと同様に、レーンの下側に1点鎖線で示したように、沈着物は同じレベルで調製された。インキュベートする時間が短いと、多量のCE化合物をCT化合物に変換する時間がないことが分かる。しかしながら、インキュベートの時間を長くすると、CTスポットがより濃くなる一方でCEスポットがより淡くなることから分かるように、ChEHは次第にCE化合物をCT化合物に変換する。そして同時に、CT化合物が現れると、代謝産物Mに相当する「第3のスポット」が生じるようになる。
【0048】
その結果、出願人は、「第3のスポット」である代謝産物MがCT化合物の誘導体である可能性が高いと考えた。
【0049】
アッセイ4
実施例1〜3で出した結論を確認するために、上記で定義した方法を用いて、MCF7細胞を24、48及び15 72時間の間、[14C]CT化合物とインキュベートした。その後、アッセイ1に示したように細胞抽出物を得て、そしてクロマトグラフィープレートにのせた(図4を参照のこと)。プレートの左端のレーンは[14C]CE沈着物を示し、その隣のレーンに移動対照となる[14C]CT沈着物を示す。その他3つのレーンはインキュベート後のアッセイした細胞抽出物に相当する。24時間インキュベートすると、細胞抽出物のレーン上の[14C]CE化合物のスポットの近くに代謝産物に相当するスポットが見られることが示される。より長い期間インキュベートして、このスポットの濃さがより濃くなるほど、つまり代謝産物Mのスポットが濃くなるほど、CT化合物のスポットが淡くなる。
【0050】
このことは、この代謝産物が真にCT−化合物の変換産物であることを確認するものである。
【0051】
アッセイ5
アッセイ1〜4で出現した代謝産物の化学構造を同定するために、多段階技術を用いた。MCF7細胞を、アッセイ1で定義した10mlの培地中、1シャーレ(直径100mm)当たり0.4×106細胞播種した。播種の36時間後、いくつかの細胞を10μM濃度のCEα中でインキュベートし、残りの細胞を10μM濃度の上述したように得た[14C]CEα中でインキュベートした。72時間後、細胞を冷PBS(リン酸塩緩衝液)で洗浄し、その後冷PBS中にかき集め、そして1000rpmで4分間、4℃で遠心分離する。細胞沈殿物と培地を改変Folch法(本明細書の9ページに既に示した参考文献を参照のこと)により、抽出する。
【0052】
有機層を蒸発させ、メタノール中に再懸濁し、その後RP C18カートリッジに通す(Waters社のSep−Pack)。その後カートリッジをメタノールで洗浄する。蒸発させた後、残渣を20μlのエタノール中に溶解し、その後、イソクラティック条件(CH3OH/H2O(容量で95/5)、流速0.7ml/分)を用いた逆相HPLC(「Ultrasep」疎水性カラム)により精製する。カラムの出口の1mn画分を回収し、標識した化合物、具体的には[14C]CEαから生じる代謝産物、の保持時間を決定するために放射活性を測定する。移動溶媒として酢酸エチルを用いた薄層クロマトグラフィーにより、放射性画分を解析する。放射性標識していないCEαで処理したMCF7細胞由来の目的のHPLC画分を電子衝撃(70ev)及び化学イオン化質量分析で解析する(図5のスペクトルを参照のこと)。
【0053】
このように、MCF7細胞によって生産されたCTの質量が420であり、そのクロマトグラフィーでの挙動が市販されているCTのものと同様であることが確認された。MCF7細胞抽出物中に存在し、上述したように精製した代謝産物の質量分析からは、質量が418であること、すなわちCT化合物に対して2質量単位の喪失が生じたことが示される。アッセイ1〜4において示されたように、代謝産物はCT化合物の生物変換から生じる。そのため、質量の差は、2つの水素原子の喪失に相当する。このことは、CT化合物におけるケトン官能基の出現又は二重結合の出現を示唆するものである。赤外線解析により、ケトン官能基の帯域特性が示され、これは、6−オキソ−コレスタン−3β,5α−ジオール(OCDO)の形成を示す。OCDO化合物の構造は、核の第6炭素が有する、ヒドロキシル基におけるCT化合物の脱水素から生じる産物に対応する。代謝産物のクロマトグラフィーにおける特性及び質量分析における崩壊プロファイルは、Steraloids社から供給されている、市販のOCDO化合物の標準物質のものと同一であり、これら2つの分子が同一であることが示された。
【0054】
癌の診断方法
そのため、本発明は、個体から採取した試料から得られた細胞の腫瘍形成状態を検出する方法に関し、この方法は、得られた細胞中の、式のOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【化4】
【0055】
本発明はまた、ヒト個体又は哺乳動物由来の生体材料から得られた細胞の腫瘍形成状態を検出するための診断方法に関し、この方法は、得られた細胞が相当量のOCDO化合物を含んでいるかどうかを可視化手段によって決定し、この検出の結果が陽性であった場合には、このことから、前記細胞が腫瘍形成状態にあると推測することを特徴とする。
【0056】
本発明はまた、個体における癌の診断方法に関し、この方法は、前記個体から得られた試料中の細胞におけるOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0057】
本発明に従って、試験した個体由来の試料中の細胞におけるOCDOの量を、試験した個体由来に試料中の細胞におけるOCDOの量を測定したものと同じ実験条件下で、健常人由来の試料中の細胞において測定された値である基準値と比較する。基準値に対して有意に高いOCDOの量は、その後、前記試料中の細胞の腫瘍形成状態の指標となる。用語「有意に高い」とは、基準値よりも統計的に大きい値を意味することを目的とする(p<0.05)。
【0058】
本発明の方法は、一般的に、疾患の進行の初期に、個体における腫瘍の進行の予後を示すことを可能にする。個体からの試料中の細胞が、基準値未満又は基準値と同様のOCDO量を示した場合には、これは予後が良いこと及び良性腫瘍を示すものである。逆に、個体からの試料中の細胞が基準値より高いOCDO量を示す場合には、これは予後不良及び悪性腫瘍の指標となる。
【0059】
一般的に、OCDOの量は可視化手段により決定する。
【0060】
本発明の一実施形態においては、前記細胞の液体抽出物中のOCDO化合物の量を決定(測定)する。一般的に、この液体抽出物は、細胞を溶解し、その後固体及び液体画分を例えば遠心分離によって分離することから得られる。この液体画分が前記細胞の「液体抽出物」となる。
【0061】
液体抽出物中でのOCDOの有無は、薄層クロマトグラフィーによって見いだすことができ、その後、適切な可視化手段を介してクロマトグラフィープレート上のOCDOの有無を検出する。可視化手段を用いるために、OCDOを輸送タンパク質上に固定化するようにできる、OCDOの化学修飾を含めることが可能であり、これをその後モノクローナル抗体を用いて検出する。変形形態では、可視化手段は、クロマトグラフィーの前に行われる、得られた細胞の放射性標識であり、可視化は、プレート上の放射能の定量により行われる。
【0062】
細胞の液体抽出物のOCDO濃度が1μMより高い場合に、前記細胞が腫瘍形成状態にあることが示された。抽出物中のOCDO濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってアッセイすることができる。この濃度はまた、ガスクロマトグラフィーとそれに続く質量分析によってもアッセイすることができる。
【0063】
特定の一実施形態においては、液体抽出物中のOCDOの量を薄層クロマトグラフィーによって決定し、クロマトグラフィープレート上のOCDO化合物を適切な可視化手段により検出する。
【0064】
本発明の目的は、個体から得られた試料における腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用でもまたある。
【0065】
本発明はまた、ヒト個体又は哺乳動物由来の生体材料の腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用に関する。
【0066】
本発明はまた、個体から得られた試料中の細胞における腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用に関する。
【0067】
本発明はまた、ヒト又は動物生体に対して実施される、癌を診断する方法のために使用するOCDO化合物に関する。
【0068】
癌を発症している個体の治療をモニタリングする方法
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、治療中の個体の診断の変化が前記治療に対する個体の反応の指標となる本発明の診断方法を用いて、治療の前及び治療中に個体の診断を確定する工程を含む。
【0069】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法に関し、前記方法は、治療中の個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態の変化が、個体の前記治療に対する反応の指標となる本発明の細胞の腫瘍形成状態を検出する方法を用いて、治療の前及び治療中に前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を決定する工程を含む。
【0070】
本発明では、治療の前及び治療中に採取される試料は、同じ実験条件下で採取される。
【0071】
抗癌剤のスクリーニング方法
本発明の目的は、癌を発症している個体における、前記癌を治療するための薬剤の有効性を評価する方法でもまたあり、この方法は、
(a)前記個体から得られた試料中の細胞の液体抽出物におけるOCDOのD1濃度をアッセイし;
(b)治療期間の後に、工程(a)と同じ方法で、前記個体から得られた試料中の細胞の液体抽出物におけるOCDOのD2濃度をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合、この結果から、この薬物が前記癌の治療に有効であると推測すること、を特徴とする。
【0072】
本発明はまた、癌を発症している個体における、前記癌治療の有効性を評価する方法に関し、前記方法は、治療中の個体の診断の変化が、癌を治療するための前記治療の有効性の指標となる本発明の診断方法を用いて、治療の前及び治療中に個体の診断を確定する工程を含む。
【0073】
本発明はまた、癌を発症している個体における前記癌治療の有効性を評価する方法に関し、前記方法は、治療中の個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態の変化が癌を治療するための前記治療の有効性の指標となる本発明の細胞の腫瘍形成状態を検出する方法を用いて、治療の前及び治療中に、前記個体から得られた試料中の細胞の腫瘍形成状態を決定する工程を含む。
【0074】
本発明では、治療の前及び治療中に採取される試料は、同じ実験条件下で採取される。
【0075】
癌の治療方法
本発明の目的はまた、ヒト又は動物の癌治療において使用するためのOCDO阻害剤でもある。
【0076】
本発明はまた、癌を発症している個体の治療方法に関し、前記方法は、前記個体に治療上有効量のOCDO阻害剤を投与する工程を含む。
【0077】
一実施形態では、OCDOをエタノール中に溶解し、得られた溶液を次に緩衝液、具体的にはリン酸塩緩衝液で希釈し(通常は1/1000)、そして生じた希釈溶液を個体に、一般的には腫瘍内に注入する。用いる阻害剤に応じて、1μg/kg〜500μg/kgまでの範囲の1日用量を、1〜10週間の間の期間、注入することができる。しかしながら、当業者は、阻害剤を投与する形態ならびに治療用量及び治療期間の両方を、個体及び治療する疾患によって調節することができる。
【0078】
OCDO阻害剤は通常、以下の製品、
ロバスタチン、Ro 48−8071阻害剤、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525Aのような、コレステロール生合成に関与する酵素の阻害剤;
ケトコナゾール及びビタミンEのような、コレステロールのエポキシ化において活性なシトクロムP450阻害剤、リポキシゲナーゼ及び酸化防止剤;
PBPE、PCPE、テスミリフェン、デンドロゲニンA(DDA)、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、ニトロミフェン、クロミフェン、RU 39411、BD−1008、ハロペリドール、SR 31747A、イボゲイン、AC−915、リムカゾール、アミオダロン、トリフルオロペラジン、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525Aのようなコレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)活性の阻害剤;並びに
エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、σ−1及び−2受容体及び特定のアミノアルキルステロールのリガンド、細胞間コレステロール輸送阻害剤、並びに、プロゲステロン及びAhr受容体アンタゴニストからなる群より選択される酵素阻害剤、からなる群より選択される阻害剤;
から選択される。
【0079】
本発明のその他の態様及び利点を以下の図及び実施例に記載するが、これらは本発明を例示するものと見なされるべきであり、本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】MCF7細胞及びマウス肝細胞におけるChEH活性の測定。[14C]CE存在下で細胞をインキュベートし、次に脂質を抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図2】MCF7細胞におけるChEH活性の動力学。MCF7細胞を[14C]CEα(A)又は[14C]CEβ(B)存在下で、4〜72時間に時間を長くしながらインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図3】MCF7細胞における、タモキシフェン及びPBPEによるChEH活性の用量依存的阻害(3日間)。MCF7細胞を[14C]CEα(A)又は[14C]CEβ(B)存在下で3日間、タモキシフェン(A)又はPBPE(B)の濃度を上げながらインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図4】CTの代謝産物Mへの変換。MCF7細胞を[14C]CT(A)存在下で24、48及び72 時間インキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール.M:代謝産物M。
【図5】代謝産物Cのマススペクトル。MCF7細胞をCE存在下でインキュベートし、次に脂質を抽出し、そしてHPLCにより精製し、OCDOに相当する画分を質量分析により解析する。
【図6】健康な組織におけるOCDO生産の解析。様々なマウス器官由来の細胞を、[14C]CT(A)存在下で48時間、タモキシフェンを加えて又は加えないでインキュベートする。脂質を細胞から抽出し、そしてステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析及び分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール、M:代謝産物M。
【図7】OCDOがインビトロでの細胞増殖に及ぼす効果。ヒト甲状腺髄様癌細胞(TT細胞)を、OCDOの濃度を0.1〜5μMの範囲で上げながら、4日間培養する。このインキュベート期間の後に細胞の量を測定し、そして増殖因子を決定する。
【図8】OCDOがインビボでの腫瘍進行に及ぼす効果。TT細胞をヌードマウスに移植する。このマウスを溶媒(溶媒)又は50μg/kgのOCDOを7日間のうちの5日間、1日1回注入しながら、数週間処理した。腫瘍体積を測定し、時間の関数としてグラフにする。
【図9】リンパ節の解析。リンパ節における腫瘍細胞の有無を解析し、溶媒(溶媒)又はOCDOで処理した動物間で比較する。
【図10】腫瘍の組織形態学的解析。溶媒(溶媒)又はOCDOで処理した動物の腫瘍を固定し、そしてサイトケラチン、カルシトニン及び上皮膜抗原(EMA)に対する抗体の存在下でインキュベートする。ストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体とインキュベートし、次にジアミノベンジジン溶液中でインキュベートし、そしてヘマトキシリンでの染色を行う方法により、可視化する。茶色の染色が、抗体で標識したタンパク質の発現を表す。
【図11】OCDOがサイトカインの発現に及ぼす効果。THP1細胞をインビトロにおいて、10μMのOCDOで4時間処理する。細胞のトータルRNAを抽出し、IL12及びIL10をコードしている遺伝子の発現を決定し、図に表す。
【図12】OCDOの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による解析。OCDOを、5,6−エポキシコレスタノール(CE)、コレスタン−3β,5αa,6β−トリオール(CT)及び7−ケトコレステロール(7−ケト−Ch)などのその他のオキシステロールから分離する。210nmでのUV検出を用いる。
【図13】HPLCによるOCDOの検量線。OCDOを0.1〜5μgまで用量を上げながら注入し、HPLCにより解析する。OCDOに相当するピークの面積を注入した物質の質量の関数として表す。このグラフから、直線的な相関が確認される。
【図14】ガスクロマトグラフィー(GC)によるOCDOの解析。5α−コレスタンとOCDOの混合物をトリメチルシリル化し、その後質量分析装置を備えたガスクロマトグラフィー(GC/MS)により解析する。3つのピークが得られる。第1のピーク(10.62分)は5α−コレスタンに相当し、二番目のピーク(32.43分)はH2Oを1分子失ったOCDO(OCDO−H2O)に相当し、3番目のピーク(36.68分)がOCDOに相当する。
【図15】GCで32.43分に現れたピークの質量分析。質量崩壊プロファイルにより、これがOCDOの脱水産物であることが明らかとなる(M+472.3)。得られた産物の構造を示す。
【図16】GCで36.68に現れたピークの質量分析。質量崩壊プロファイルにより、これがOCDOの脱水産物であることが明らかとなる(M+(−CH3)546)。得られた産物の構造を示す。
【図17】GC/MSによるOCDOの検量線。OCDOを6.25ng〜100ngまで、用量を上げながら注入し、GC/MSにより解析する。OCDOに相当するピークの面積を注入した物質の質量の関数として表す。このグラフから、直線的な相関が確認される。
【図18】タモキシフェンによるインビボでの腫瘍成長の阻害。BALB/cマウスに、TS/A型の乳房細胞を移植する。このマウスをタモキシフェン(タモキシフェン)又は溶媒(溶媒)で処理する。時間経過と共に、腫瘍の体積を測定する。
【図19】腫瘍におけるOCDO含量のGC解析。タモキシフェンで処理した又は処理しなかった動物の腫瘍を抽出する。この抽出物をGC/MSにより解析する。溶媒(A)で処理した動物からの抽出物のGCプロファイルから、OCDOとその脱水産物(OCDO−H2O)に相当するピークの存在が明らかとなる。
【図20】OCDO及びOCDO−H2Oに相当するGCピークのMS解析。質量分析を用いて、GCにより得られたピーク中に存在する化合物の構造を同定する。
【図21】MCF7細胞における、ChEH阻害剤によるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で3日間、溶媒(T)、コレステロールエポキシド(CE)、タモキシフェン(Tam)、PBPE(PBPE)、ラロキシフェン(Ral)、及びテスミリフェン(DPPE)と共にインキュベートする。CEαと示したレーンは、移動の標準物質としてのせた[14C]CEαに相当する。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【図22】MCF7細胞における、一般的なシトクロムP450阻害剤であるケトコナゾールによるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で3日間、溶媒(対照)又は10μMのケトコナゾールと共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化し、CE及びOCDOの量を定量する。
【図23】MCF7細胞における、アミノアルキルステロール(DDA)によるOCDO産生の阻害。レーン1は移動の標準物質としてのせた[14C]CEαに相当する。レーン2は移動の標準物質としてのせた[14C]CTαに相当する。MCF7細胞を[14C]CEα存在下で48時間、溶媒(レーン3)、0.1μMのDDA(レーン4)及び1μMのDDAと共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CE:5,6−エポキシコレスタノール、CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【図24】MCF7細胞における、細胞間コレステロール輸送調節物質及びAhR受容体調節物質によるOCDO産生の阻害。MCF7細胞を[14C]CTα存在下で24時間、溶媒(レーン1)、プロゲステロン(レーン2)、U18666A(レーン3)、TCDD(レーン4)、ベンゾ(A)ピレン(レーン5)、レスベラトロール(レーン6)及びPDM2(レーン7)と共にインキュベートする。細胞から脂質を抽出し、ステロールをシリカプレート薄層クロマトグラフィーにより解析し、分離する。クロマトグラフィープレートをオートラジオグラフィーにより可視化する。CT:コレスタン−3β,5α,6β−トリオール。
【0081】
実施例1:OCDOは、細胞の腫瘍状態のマーカーである
ヒト、ラット又はマウスの様々な細胞型中でこのマーカーを観察できるかどうかを確認するために、本明細書の以下実施例4に記載した方法を用いて、数多くの腫瘍細胞株におけるOCDOの有無について試験した。試験した各腫瘍細胞株におけるOCDO産生は、以下の表に示したように検出された:
【0082】
【表1】
【0083】
試験した全ての腫瘍細胞でOCDOが認められたことから、出願人らは、OCDOが細胞における腫瘍状態のマーカーとなると結論づけた。
【0084】
しかしながら、予備的な研究として、そして上述したアッセイ1〜5で行った方法と類似の方法により、OCDOを検出することが可能な条件下において様々な健康なマウス組織由来の細胞におけるCE化合物の変換を評価した(図6に示す結果を参照のこと)。前記細胞を[14C]CEα化合物と共にインキュベートし、そしてタモキシフェンを加えた(+)又は加えてない(−)場合に現れる放射性のスポットを、シリカ薄層クロマトグラフィーにより観察した。タモキシフェンがある場合には、CT化合物はもう現れず、このことはChEHの阻害とよく対応することが示され;タモキシフェンを加えずにインキュベートすると、CT化合物は現れるが、CE化合物の近くにOCDOの存在に相当するスポットは現れないことが示される。
【0085】
その結果、OCDOは正常な組織では産生されず、そのためOCDOの検出は細胞の腫瘍状態を予測するための要素を明かに構成し、OCDOが細胞の腫瘍形成状態のマーカーであることが明らかとなる。
【0086】
実施例2:OCDOは発癌性である
上述したアッセイ及び実施例1に基づいて、出願人らは本発明により、腫瘍段階にある細胞においてOCDOが存在することが、この分子それ自体が発癌性ポテンシャルを有する可能性と関連しているのではないかと考えた。
【0087】
文献では、そのような可能性はこれまで報告されていない。
【0088】
コレステロールは変異原性をもたない。OCDO前駆体及びコレステロールエポキシドエピマーが哺乳類細胞において弱い変異原性を有することが述べられている(Peterson AR, Peterson H, Spears CP, Trosko JE and Sevanian, Mutation Research, vol. 203, p. 355-366, 1988)。細菌を用いて行ったAmes試験において、ステロールエポキシドは全く変異原性を示さなかった(Smith LL et al., Mutation Research, vol. 68, p. 23-30, 5 1979; Ansari GAS et al., vol. 20, p. 35-41, 1982)。近年、これらの所見が確認された(Cheng YW et al., Food and Chemical Toxicology, vol. 43, p. 617-622, 2005)。TPA(12−テトラデカノイルホルボール13−アセテート)のような腫瘍プロモーターを有する、OCDOの構造的ホモログが確かに見いだされた(Endo Y. et al., Chem. Pharm. Bull. (Tokyo), vol. 42 (3), p. 462-469, 1994)。しかしながら、OCDOが実験動物においてPKC活性化特性又は腫瘍促進特性を有する可能性を、誰も記述若しくは示唆してさえもいない。この分子がホルボールエステル結合タンパク質に結合することが示されているだけである(Endo Y., Biochem. Biophys. Res. Comm., vol. 194, p. 1529-1535, 1993)。
【0089】
細胞の観点から、OCDOが、
1)ヒト血清由来のTリンパ球によるロゼット形成を阻害する(Streuli R.A. et al., J. Immunol., vol. 123 (6)n, p. 2897-2902);
2)白血球の移動を阻害する(Gordon L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 77(7), p. 4313-4316, 1980);
3)マウスにおいて、NK細胞の毒性を誘導する(Kucuk O. et al., Cell. Immunol., 139, p. 541-549, 1992);
4)マウスにおいて、Tリンパ球によって生じる細胞融解活性を阻害する(Kucuk O et al., Lipids, vol. 29(9), p. 657-660, 1994)、と考えられることが示されているのみであり、これらの効果は1〜20μMの範囲の濃度で認められた。
【0090】
本実施例2を通して、出願人らは、本発明の状況において、OCDOが腫瘍発生に効果を及ぼすことを確認した。このことは、先行技術からは当業者に全く示唆されていなかったものである。
【0091】
a)この実施例2においては、ヒト甲状腺髄様癌細胞株TT(American Tissues and Cells Collection)を用いた。この株を、10重量%のウシ胎仔血清と50IU/gの抗生物質溶液(ペニシリン/ストレプトマイシン)2.5mlを含む、Kaighnにより改変されたF12K培地(Invitrogen社から販売されている)中で培養する。試験に用いたOCDOはSteraloids社のものである。細胞成長に及ぼすOCDOの効果をインビトロで解析するために、TT細胞を、上に定義したF12K培地を入れた6ウェルプレートに播種する(1ウェル当たり200,000細胞個)。TT細胞を2日ごとに溶媒(PBSリン酸塩緩衝液に溶解した0.1%エタノール)又はその溶媒中に0.1、1、2.5又は5μMの濃度になるような量のOCDOを加えたもののいずれかで処理する。播種して4日後に細胞を計測する。図7に示すように、溶媒で処理した細胞の増殖を基準として比較すると、OCDOでの処理により、TT細胞の増殖は濃度依存的に増加する。処理4日後に測定した、OCDO濃度5μMでの増殖誘導係数は1.5であり;その結果、100nM〜5μMの範囲の濃度のOCDOによる増殖の誘導がインビトロで確認された。この増殖刺激係数は、乳房腫瘍細胞において細胞分裂特性を有する分子である、エストロゲンのものと同等である(Medina et al., J Pharmacol Exp Ther, vol. 319, 2006: p. 139-149を参照のこと)。
【0092】
b)出願人らは、腫瘍発生に及ぼすOCDOの効果をインビボでもまた解析する。動物への注入には、この実施例の(a)において上で定義したTT細胞をトリプシンを用いて回収し、PBSリン酸塩緩衝液で2回洗浄し、そして懸濁する。次に、TT細胞(およそ4×106細胞/0.1ml)を6週齢のメスの「Swissヌードnu/nu」マウス(Charles Riverより供給)の側腹部に皮下注射する。50μg/kgのOCDO(処理群)又は溶媒(対照群)のいずれかで、7日のうちの5日間、1日1回、110日間にわたって、動物を皮下的に処理する(用いた溶媒は、リン酸塩緩衝液(PBS)中に溶解した0.1%エタノールである)。腫瘍の発生を測定するために、この動物(1群当たり5又は10マウス)を定期的にモニタリングする。腫瘍の体積を、式L×l2×0.5により算出する。式中、Lは腫瘍の長さ、lは幅である。図8に腫瘍の体積Vを処理期間tの関数として示す。OCDO処理は有意に腫瘍成長を促進し、OCDOで処理した動物の腫瘍体積は、溶媒で処理した対照動物のおよそ3倍大きい。
【0093】
処理75日後に動物を安楽死させ、腫瘍及び様々な器官を組織学的に解析するために切除する。OCDOで処理した動物では、溶媒で処理した動物に比較して、2倍多いリンパ節(LN)の浸潤が認められた(図9を参照のこと)。
【0094】
組織形態学的解析を行った。この解析を行うために、OCDO又は溶媒で処理したマウスの腫瘍及び様々な器官(リンパ節、肺及び肝臓)を切除し、10%の中性緩衝ホルマリン中で固定し、そしてパラフィンブロック中に包埋する。これらの解析用に、切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色する。甲状腺髄様癌に関連する様々なヒト抗原に対する抗体を用いて免疫標識を行う。抗体としては、抗カルシトニンポリクローナル抗体(Dako SAS、Trappes、France、1:1000)、抗サイトケラチンモノクローナル抗体(Dako clone AE1/AE3、1:50)及び抗上皮膜抗原(EMA)モノクローナル抗体(Dako clone E29、1:50)を用いる。パラフィン切片の免疫標識は、抗CEA抗体についてはクエン酸塩緩衝液(10mM、pH6)中、マイクロ波で10分(750W)を2回、又は抗カルシトニン及び抗EMA抗体についてはクエン酸塩緩衝液(10mM、pH6)中、95℃の恒温水槽で40分加熱することのいずれかによる抗原回復技術の後に行う。
【0095】
上記で定義した抗体とインキュベートした後、切片をストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(StreptABComplex/HRP、Dako)で、次いでジアミノベンジジン(DAB)の発色溶液を用いて免疫標識し、その後ヘマトキシリンで染色する。
【0096】
一次抗体を含まない緩衝液中でインキュベートしたものをネガティブコントロールとする。用いた3種類の抗体それぞれについて、この組織学的解析手段により得られた結果を図10に示す。OCDOで処理した動物由来の腫瘍が確かにヒト甲状腺髄様癌であることが示され、これにより、腫瘍由来の細胞によるリンパ節の浸潤が確認される。
【0097】
その結果、実験動物において移植した腫瘍の成長を刺激することにより、出願人らはOCDOがインビボで細胞分裂活性を有することを確認した。
【0098】
実施例3:OCDOはIL10を刺激し、そしてIL12を低下させる。このことはOCDOの発癌活性を説明するものである。
本発明により、OCDOがインビボでの癌細胞の浸潤能を刺激することを確認した出願人らは、OCDOを用いてインビトロで処理したTHP1細胞におけるサイトカインの発現を、インビトロで解析することにより、OCDOのこの効果を確認する。
【0099】
10%のウシ胎仔血清及び抗生物質の混合物を添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco’s modified eagle medium)型の培地中で、THP1細胞(ATCCから入手したヒト骨髄細胞株)を培養する。THP1細胞を10μMのOCDOで4時間処理する。標準的な方法に従ってRNAを抽出する。相補的なDNAを生成し、その後目的の遺伝子の発現を測定するために用いる。インターロイキン12(IL12)及びインターロイキン10(IL10)をコードしている遺伝子の発現を解析した。これらのインターロイキンは、拮抗的な特性をもつ1対のサイトカインを代表するものである。IL12は免疫刺激性のサイトカインであるが、一方IL10は免疫抑制性のサイトカインである。これら2種類のサイトカインの発現の比率は、細胞の免疫抑制物質又は免疫刺激能を評価すること、及び腫瘍進行を促進する又は対照的にそれを遅らせるその能力を評価することを可能にする。
【0100】
ヒトのIL10及びIL12配列に対応した以下のプライマーを用いる。
【0101】
IL10センス:AAA−CCA−AAC−CAC−AAG−ACA−GAC(配列番号1)、
IL10アンチセンス:GCT−GAA−GGC−ATC−TCG−GAG(配列番号2)、
IL12センス:CTA−TGG−TGA−GCC−GTG−ATT−GTG(配列番号3)、
IL12アンチセンス:TCT−GTG−TCA−TCC−TCC−TGT−GTC(配列番号4)。
【0102】
結果を図11に示す。OCDOは免疫抑制性のサイトカインであるIL10の発現を刺激し、そしてサイトカインIL12の発現を低下させる。このメカニズムは、実施例2を通して示した腫瘍細胞の浸潤能の、OCDOによる刺激を説明することを可能にするものである。
【0103】
実施例4:OCDOのアッセイ
A)HPLCによるアッセイ
高速液体クロマトグラフィーHPLC法により、OCDOを分離及び解析した(95 MeOH/5 H2O;0.7ml/分;カラムUltrasepES 6μm、250×4、C18(Bishoff、Leonberg、Germany))。クロマトグラフィーの装置はPerkin Elmer社の、200シリーズのポンプ及び200型のダイオードアレイ検出器を備えたものである。
【0104】
この装置は、装置を制御し、データを処理するためのTurbochrome(商標)を用いる、「PC」コンピューターを備える。
【0105】
培養したMCF7腫瘍細胞の細胞抽出物をアッセイ1に記載したように準備する。およそ6000万個の細胞を溶解し、1200rpmで10分間遠心分離した後に25μlの液体抽出物を得る。この抽出物のうちの20μlをクロマトグラフィーのカラムに通す。
【0106】
得られたクロマトグラフを図12に示す:OCDOが、CT、CE及びケト−コレステロール(7−ケト−Ch)から分離されたことが分かる。OCDOの保持時間は19分である。
【0107】
このようにして得られたOCDOのピークの表面積の測定と試料中に含まれたOCDOの重量を関連づけるために、較正を行う。
【0108】
この較正は、Steraloids社から販売されているOCDOのエタノール溶液を、濃度を上げながら用いることにより行う。容量は、試料20μlに固定して行う。80ng、0.4μg、0.8μg、4μg及び8μgのOCDO量をインジェクションした。Turbochrome(商標)ソフトウェアを用いた積分により、OCDOに相当するピークの面積を測定し、これらの値(y)をOCDOに相当する質量(x)の関数として図13のグラフに示した。40ng〜80ngの範囲の質量のOCDOを定量することができる、好適な直線的な相関が得られる(y=69430x+1381;r2=0.999;n=6×3;p<0.0001;xはμg単位のOCDO;yはμV.s)。この方法では、0.1〜5μgの範囲の量の分子のOCDOを定量することができる。
【0109】
B)質量分析装置を備えたガスクロマトグラフィー(GC/MS)によるアッセイ
Kedjouarによって記載された方法に従って、5α−コレスタンとOCDOの混合物をトリメチルシリル化する(Kedjouar et al., J Biol Chem, 2004, vol. 279, No. 32, p. 34048-61を参照のこと)。試料を、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド/ピリジン(50:50、v/v)の混合物20を用いて、30分間、温度60℃で処理する。試薬を窒素流の下で蒸発させ、そしてトリメチルシリル化(TMS)誘導体をヘキサンに溶解する。RTX−50シリカキャピラリーカラム(内径30m×0.32mm、フィルム厚0.1μm;Restek)を備えた、Hewlett Packardのシステム4890型装置により、これらのGC/MS解析を行う。オーブンの温度は、230℃を1分、次に1分につき1℃の上昇率で230〜240℃を10分、1分につき3℃の上昇率で240℃〜250℃、そして45℃/分の上昇率で290℃まで、その後1分で330℃まで上がるようにプログラムする。
【0110】
インジェクター及び検出器はそれぞれ310℃及び340℃に設定する。得られたGCプロファイルを図14に示す。3つのピークが得られた。1番目のピークは保持時間が10.62である5α−コレスタンに相当する。2番目は保持時間32.43分に相当し、電子衝撃崩壊を用いた質量分析による解析において、これがOCDOの脱水産物(M+(472.3)、M+から1つのCH3基が失われたもの及びM+から2つのCH3基が失われたもの、に相当するという結果を示す(図15を参照のこと)。最後に、3番目のピーク(保持時間36.68分)はOCDOに相当し、その質量崩壊プロファイルを図16に示す。このプロファイルから、質量が546.2(M+から1つのCH3基が失われたもの)、531.2(M+から2つのCH3基が失われたもの)及び472.2(M+からH2O及びOTMS基が失われたもの)であることが決定される。
【0111】
方法の較正は、OCDOのエタノール溶液を、濃度を上げながら用いることにより行う。6.25ng、12.5ng、50ng及び100ngのOCDO量をインジェクションした。これらさまざまなOCDO量について、OCDOに相当するピークの面積を積分することにより、OCDOを定量するための検量線を確立することができた。この方法では、5〜200ngの範囲の量のOCDOをアッセイすることが可能である(図17を参照のこと)。
【0112】
実施例5:タモキシフェンによるインビボでのOCDO産生の阻害
アッセイ2において既に示したように(図3A)、MCF7腫瘍細胞培養にタモキシフェンを加えると、これら細胞中でのOCDO産生が阻害される。以下に、タモキシフェンをインビボに投与することによってもまた、OCDO産生が阻害されることを示す。
【0113】
マウスに移植した腫瘍におけるOCDOの変化を測定するために、実施例4で用いたアッセイ法を用いた。
【0114】
最初に、TS/A細胞の細胞培養を行った。これらTS/A細胞は、マウス乳房腺癌細胞である(Nanni P et al., Clin. Exp. Metastasis, 1983 Oct-Dec; 1(4): 373-80を参照のこと)。この細胞を、2g/リットルの炭酸ナトリウム、1.2mMのグルタミン(23℃でpH7.4)、5%のウシ胎仔血清(Gibco)及び培地1リットル当たり2.5mlの抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加したDMEM培地中、37℃、5%CO2条件下で培養する。
【0115】
トリプシンを用いてTS/A細胞を回収し、PBS緩衝液で2回洗浄し、そして懸濁する。次に、TS/A細胞(およそ4×106 15細胞/0.1ml)を6週齢のメスのBALB/cマウス(Charles Riverより供給)の側腹部に皮下注射する。腫瘍を移植してから27日間、濃度10μM、注入量100μlのタモキシフェン(タモキシフェン処理群)又は溶媒(PBSリン酸塩緩衝液に溶解した0.1%エタノール)(対照群)のいずれかで、37日間の期間にわたり、1日1回、腫瘍内投与で動物を処理する。腫瘍の発生について、動物(1群当たり10マウス)を定期的にモニタリングする。腫瘍体積を、式L×l2×0.5(Lは腫瘍の長さ、lは腫瘍の幅)により算出する。この実験を2度再現した。結果を図18に示す(矢印は処理の開始時を示す)。
【0116】
ここから、タモキシフェンで処理したマウスにおける腫瘍成長の定性的な阻害が、図18から認められる。
【0117】
OCDOによる阻害に関する定性的な情報を得るために、同一の条件下で再度実験を行い、そして28日目に腫瘍を切除した。5倍量(切除した容積に対して)の緩衝液(50mM Tris−HCl、150mM KCl、pH=7.4)を加える。腫瘍をすりつぶし、ホモジネートを2500rpm、4℃で5分間遠心分離する。上清を回収し、次に1倍量のメタノール(上清の容積に対して)及び2倍量のクロロホルムを加える。遠心分離した後(相を分離するため)、有機相を回収する。有機相を乾燥するまで蒸発させ、その後残渣を0.5mlのクロロホルムに溶解する。有機抽出物を0.5mlのシリカカートリッジを用いてろ過する。極性ステロールを順次溶出する。
1)0.5mlのヘキサン/クロロホルム(1/1)混合物、
2)0.5mlのクロロホルム、
3)0.5mlの酢酸エチル及びメタノール。
【0118】
抽出及び精製段階の最中に、14C標識したOCDOの外部標準物質を加えることにより、回収率が86±6%であったことを確認することができる。酢酸エチル画分を蒸発させ、シリル化し(50μl 1/1 アセトニトリル/BSTFA)、そして上述した条件によるGC/MSで解析する(2μl)。
【0119】
図19は、実施例4に示したように行ったGC/MS解析の、ガス相において生成された2つのクロマトグラムを示し、
A)対照動物由来の腫瘍抽出物:腫瘍の重量は2gであった;
B)タモキシフェンで処理した動物由来の腫瘍抽出物:腫瘍の重量は1.45gであった、
に対応する。
【0120】
図19では、未処理マウス(A)と比較して、処理したマウス(B)腫瘍のOCDOに由来するピークが有意に小さくなったことが観察される。質量分析により、この目的のピーク中の分子の構造を同定する(図20を参照のこと)。
【0121】
従って、数字上では以下の表に示すような結果が得られた。対照群は上で定義され、そして対照群に関係する値を100として、その係数をタモキシフェンに関する結果に適用した。
【0122】
【表2】
【0123】
インビボでタモキシフェンが有意にOCDOを阻害することが分かる。
【0124】
タモキシフェンが抗腫瘍活性を有し、同時に、腫瘍を促進するオキシステロールの産生をインビボで阻害するという事実は、OCDOがタモキシフェンの効果に関与することを示すものである。
【0125】
実施例6:PBPEによるインビボでのOCDO産生の阻害
PBPEは、インビトロでの実験においてその抗増殖性効果が確認されている化合物である(アッセイ2で引用した参考文献、及びPayre B. et al., Mol. Cancer Ther., 7(12), 3707-3717による刊行物もまた参照のこと)。実施例5で示したタモキシフェンについての結果と同様の、PBPEのインビボでの結果を確認した。毎日、濃度40μMのPBPEを注入量100μlで腫瘍内に投与した以外は、タモキシフェンでの処理について実施例5に詳述したプロトコールと厳密に同一のプロトコールを用いた。結果を並べて下記表5に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
従って、インビボではPBPEがOCDOの産生を阻害し、腫瘍の退行を生じることの両方の作用をもつことを確認した。
【0128】
実施例7:PBPEによる、様々な腫瘍細胞でのOCDO産生の阻害
上述したアッセイ2から、PBPE溶液中で3日間インキュベートしたMCF7腫瘍細胞の細胞抽出物においては、OCDOと同定した代謝産物の阻害が観察されることが示された。
【0129】
異なる細胞株を用いて、同様の実験を行った。ここでは試験した細胞を40μMのPBPE溶液中で、48時間インキュベートする。以下の表に示した試験した全ての株において、OCDOは100%阻害された。
【0130】
【表4】
【0131】
通常、アッセイ2と同様に得た薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートからOCDO阻害のパーセンテージを確認するためには、放射性代謝産物を、GP Phosphor screen(GE Healthcare)型のユーロピウム感受性プレートとStorm 840 phosphor imagor(GE Healthcare)を用いて前記プレートに基づいて同定し定量する。Image 5 Quant5.2ソフトウェアを用いてデンシトメトリーにより得られたオートラジオグラム上の、放射性標識したオキシステロールの割合を決定する。定量したオキシステロールの量をオキシステロールの総和(CEE+CE+CT+OCDO)で除算し、その間の割合に基づいてパーセンテージを算出する。CEE(CEエステル)の大部分がCEに由来することから、パーセンテージCEは、(CE+CEE)/(CE+CEE+CT+OCDO)の割合に基づいて算出する。
【0132】
実施例8:ChEHが不活性の場合にOCDOは阻害される
本特許出願中でこれまでに確認したように、腫瘍細胞がOCDOを産生することが知られている。このことは、OCDOの産生に必須の変化である、CEからCTへの変換が可能であることからChEHヒドロラーゼが活性であることもまた意味している。この実施例の後に示す表1で確認するように、タモキシフェン、PBPE、ラロキシフェン及びDPPEはChEH阻害剤である。そのため、上述したアッセイ2は、アッセイ2で詳述したようにMCF7腫瘍細胞をインキュベートした場合に生じる産物の量を測定することにより完成される。実施例7に記載したように、CE、CT及びOCDOのパーセンテージを算出する。結果を図21に示す。この図は、薄層クロマトグラフィープレートを示し、レーンの下に示した符号で表すように各レーンは、細胞を溶媒T(PBS緩衝液に溶解した0.1%エタノール)、CE−阻害剤及び4種類のChEH阻害剤と共にインキュベートしたものに対応する。得られた数値を下の表に並べて示す。
【0133】
【表5】
【0134】
ChEHを阻害することが実際にOCDOの阻害を引き起こし、CT産物の量も非常に低下することが示される。
【0135】
実際には、細胞中でのOCDO形成は、
1.コレステロールの有無、
2.CEの有無、
3.コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)の有無、
4.CTの有無、
5.CTがOCDOへと酸化される場所へのCTの輸送、
6.CTのOCDOへの酸化に関わる酵素の有無及び活性、
の複数の指標に依存する。
【0136】
一方をMCF7腫瘍細胞中でOCDOを阻害するの様々な化合物の能力とし、他方をそれらのChEH阻害剤としての質として、両者の間の関係を根拠の確かなものとして確認するために、一定数の産物に関するChEHの阻害係数であるKiを算出し、そしてその同じ産物と共にMCF7細胞をインキュベートした後に、その細胞が産生するOCDOの量を本特許出願のアッセイ2で定義したプロトコールに従って測定する。全ての結果を表1及び2に示す。これら2つの表から、コレステロール生合成に関わる酵素のいずれの阻害剤も、OCDOの産生に使用される可能性のあるコレステロールを減少させると考えられる。具体的には、酵素、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムAシンテターゼ(HMG CoAシンテターゼ)から7−デヒドロコレステロールレダクターゼ及び24−デヒドロコレステロールレダクターゼの阻害剤について示す。
【0137】
ロバスタチンのようなHMG−CoAレダクターゼ阻害剤のカテゴリー内にある阻害剤についての実験を、10μMの濃度で行った。対照の値を100とすると、アッセイ2で示したプロトコールに従ってMCF7細胞をインキュベートした後のMCF7細胞によるOCDO産生の値は1未満であったことが示された。
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
表1及び表2に示されており、かつ、本明細書中でこれまでに同定していない産物を、以下のリストにおいて、それらの化学名により定義する。
【0141】
PCPE:1−(2−(4−(2−フェニルプロパン−2−イル)フェノキシ)エチル)-ピロリジン;
テスミリフェン:2−(4−ベンジルフェノキシ)−N,N−ジエチルエタンアミン;
タモキシフェン:2−[4−[(Z)−1,2−ジ(フェニル)ブタ−1−エニル]フェノキシ]−N,N−ジメチルエタンアミン;
4OH−タモキシフェン:4−[(Z)−1−[4−(2−ジメチルアミノエチルオキシ)-フェニル]−2−フェニルブタ−1−エニル]フェノール;
ラロキシフェン:[6−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−ベンゾチオフェン−3−イル]−[4−(2−ピペリジン−1−イルエトキシ)フェニル]メタノン;
ニトロミフェン:1−[2−[4−[(Z)−1−(4−メトキシフェニル)−2−ニトロ−2−フェニルエテニル]フェノキシ]エチル]ピロリジン;
クロミフェン:2−[4−[(Z)−2−クロロ−1,2−ジ(フェニル)エテニル]-フェノキシ]−N,N−ジエチルエタンアミン;
RU39411:11−[4−N,N−[ジエチルアミノエトキシ]フェニル]エストラ−1,3,5(10)トリエン−3,17−ジオール。
【0142】
BD−1008:N−(3,4−ジクロロフェネチル)−N−メチル−2−(ピロリドン−1−イル)エタンアミン;
ハロペリドール:4−(4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロキシピペリジン−1−イル)−1−(4−フルオロフェニル)ブタン−1−オン;SR−31747A:(E)−N−(4−(3−クロロ−4−シクロヘキシルフェニル)ブタ−3−エニル)−N−エチルシクロヘキサンアミン;
AC915:N−(3,4−ジクロロフェネチル)−N−メチル−2−(ピロリドン−1−イル)エタンアミン;
リムカゾール:9−[3−[(3S,5R)−3,5−ジメチルピペラジン−1−イル]プロピル]カルバゾール;
アミオダロン:(2−ブチル−1−ベンゾフラン−3−イル)−[4−(2−ジエチルアミノエチルオキシ)−3,5−ジヨードフェニル]メタノン;
トリフルオロペラジン:10−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]−2−(トリフルオロメチル)フェノチアジン;
【0143】
RO48−8071:(4−(6−(アリル(メチル)アミノ)ヘキシルオキシ)フェニル)(4−ブロモフェニル)メタノン;
U−18666A:3−β−(2−(ジエチルアミノ)エトキシ)アンドロスト−5−エン−17−オン;
【0144】
AY−9944:トランス−1,4−ビス(2−クロロベンズアミノメチル)シクロヘキサン;
トリパラノール:2−(4−クロロフェニル)−1−(4−(2−ジエチルアミノ)エトキシ)フェニル)−1−p−トリルエタノール;
テルビナフィン:(E)−N,3,6,6−テトラメチル−N−(ナフタレン−1−イルメチル)ヘプタ−2−エン−4−イン−1−アミン;
SKF−525A:2−ジエチルアミノエチル−2,2−ジフェニルペンタノエート。
【0145】
実験の対象とした、表1及び2の結果を示す阻害剤には、エストロゲン受容体モジュレーター、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、シグマ−1及び−2受容体リガンド、及びスクワレンシンテターゼから7−及び24−デヒドロコレステロールレダクターゼまでのコレステロール生合成阻害剤が含まれる。これらの全ての阻害剤における1つの共通点はすなわち、AEBSリガンドであるということである。
【0146】
表1に示した阻害係数Kiの測定に用いたプロトコールを以下に詳述する。
【0147】
a)AEBSに対するKi
Kiは目的の分子の阻害定数に相当するものであり、以下の方法により測定する。ラット肝臓ミクロソームを、濃度2.5nMのトリチウム化タモキシフェン(GE Healthcare社より供給された)と増加濃度0.01〜1000μMの範囲の阻害剤とを、後述する刊行物に記載されている条件下でインキュベートする:Poirot M. et al., Bioorg Med Chem 2000, vol. 8(8), p. 2007-2016。IC50値は、ChEH活性の50%を阻害するのに必要とされる阻害剤の濃度に相当するものであり、Graph Pad Prism(version 4)データ処理プログラムを用いて決定する。Cheng−Prussofの式(Cheng and Prussof, Biochem Pharmacol, 1973, vol. 22(23), pages 3099-3108)を用いてKi値を算出する。Kiを、Ki=[IC50](1+(トリチウム化タモキシフェン])/Kd)の式により表す。トリチウム化タモキシフェンの濃度は2.5nMであり、及びAEBSに対するトリチウム化タモキシフェンの平衡での解離定数は2nMである。
【0148】
b)ChEHに対するKiの決定
150μgのラット肝臓ミクロソームタンパク質を、2種類の濃度の[14C]CEα存在下で、阻害剤の濃度を0.01〜1000μMまでの範囲で上昇させながら、ChEH活性の測定について上述した条件下でインキュベートする。Dixon法(Dixon M, Biocheml Jl, 1953, vol. 55(1), p. 170-171)から決定されるように、1/Vの値をChEHに対する1/Sの関数としてグラフ上にプロットすることにより得られる2本の線の、X軸上での交点をKiとして測定した。
【0149】
実施例9:シトクロムP450阻害剤によるOCDOの阻害
コレステロールのエポキシ化は、シトクロムP450又はリポキシゲナーゼなどの酵素作用が介在する、大気中の酸素によるコレステロールの自己酸化によって生じる場合がある(Schroepfer G.Jr, Physiological Reviews, vol. 80, No. 1, p. 361-554, 2000を参照のこと)。
【0150】
一般的なシトクロムP450阻害剤、すなわちケトコナゾール、を用いることにより、エポキシステロールCE並びにその誘導体であるCT及びOCDOの産生が阻害されることが示された(図22を参照のこと)。
【0151】
この実験に用いたプロトコールは実施例7において記載したものと同じである。
【0152】
実施例10:アミノアルキルステロールによるChEHの阻害
この実験のために、仏国特許第2,838,741号に含まれ、式:6β−N−[2−(3H−イミダゾール−4−イル)エチルアミノ]コレスタン−3β、5α−ジオール(DDA)を有するアミノアルキルステロールを選択した(de Medina et al., J Med Chem: 2009, vol. 52, No. 23, p. 7765-7777もまた参照のこと)。MCF7腫瘍細胞を[14C]CE(10mCurie/mmol、0.6μM)と共に48時間、上述したアミノアルキルステロール(0.1及び1μM濃度)を加えて又は加えずにインキュベートした。
【0153】
薄層クロマトグラフィーを行い、そのプレートを図23に再現する。このプレートでは、レーン1については[14C]CEと、レーン2については[14C]CTと、レーン3についてはアッセイ1〜5で使用したものと同じ溶媒と、レーン4については[14C]CE及び0.1μMのアミノアルキルステロールと、そしてレーン5については[14C]CE及び濃度1μMのアミノアルキルステロールと共にインキュベートを行う。
【0154】
アミノアルキルステロールがあるとChEHの阻害が引き起こされ、この阻害がアミノアルキルステロールの濃度に依存することが認められる。
【0155】
さらに、ホモジネートにおけるこの阻害についても研究を行った。プロトコールは以下の通りである:トリプシンを用いてMCF7細胞をばらばらにし、5%のFBSを添加したRPMI培地に懸濁する。得られた細胞懸濁液(6000万細胞)を遠心分離し、冷PBSで洗浄し、そして1mlの20 Tris−HCl緩衝液(pH=7.4;150mM KCl)に再懸濁する。凍結/融解(液体窒素/37℃)を5サイクル繰り返すことにより細胞を溶解する。溶液を1200rpm、4℃で10分間遠心分離する。上清を回収し、ブラッドフォード法によりタンパク質を測定する。MCF7細胞溶解物におけるChEH活性の測定は以下の通りに行う:125μlのChEH緩衝液(Tris−HCl、pH7.4、150mM KCl)と15μlのMCF7タンパク質を含む、最終容量150μl中のタンパク質150μgについての酵素活性を測定する。IC50値を比較し、(IC50)細胞=0.6μMであるが、(IC50)ホモジネート=11.2μMであることが明らかになった。
【0156】
IC50値におけるこの差は、試験したアミノアルキルステロールが癌発症に対する抑制特性を示すことを表すものである。
【0157】
加えて、DDA化合物について、実施例6に示すPBPEについての結果と同様の結果が測定された。用いたプロトコールは、連日腫瘍内投与を10μMの濃度で注入量100μlで行った以外は、タモキシフェンを用いた処理について実施例5に詳述した方法と厳密に同一のものである。結果を以下の表に並べて示す。
【0158】
【表8】
【0159】
その結果、この実施例から、DDA産物が最初にOCDOを阻害し、2番目に、インビボで、腫瘍サイズを減少させることが確認される。
【0160】
実施例11:細胞間コレステロール輸送モジュレーター及びアリール炭化水素受容体(Ahr受容体)モジュレーターによる、OCDOの阻害
2種類の細胞間コレステロール輸送モジュレーター、すなわちプロゲステロン及びU18666A(3−β−(2,20−(ジエチルアミノ)エトキシ)アンドロスト−5−エン−17−オン)(Liscum L et al., J. Biol. Chem., vol. 270 (26) p. 15443-15446, 1995を参照のこと)(それぞれレーン2及び3)を試験する。
【0161】
2種類のAhr受容体(アリール炭化水素受容体)モジュレーター、すなわち2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン(TCDD)及びベンゾ(A)ピレンをもまた試験した(それぞれレーン4及び5を参照のこと)。最後に、2種類のAhr受容体アンタゴニスト、すなわちレスベラトール及び1,3−ジクロロ−5−[(1E)−2−(4−クロロフェニル)エテニル]−5−ベンゼン(PDM2)を試験した(「Casper R.F. et al., Mol. Pharmacol., 1999 October; 56(4); 784-90」及び「de Medina et al., J. Med Chem., 2005 January 13; 48(1): 287-91」を参照のこと)。
【0162】
以下の実験を行った:0.5μMの[14C]CT存在下にMCF7腫瘍細胞を置き、その後以下の産物のうちの1つを加えて24時間インキュベートする。
1.対照の溶媒(PBS緩衝液に溶解した0.1%エタノール)(レーン1)。
2.10μMのプロゲステロン
3.10μMのU18666A
4.100nMのTCDD
5.10μMのベンゾ(A)ピレン
6.10μMのレスベラトール
7.10μMのPDM2(Ant.1)
【0163】
薄層クロマトグラフィーを行い、得られたプレートを図24に示す。実施例7に詳述したプロトコールを用いることで、各レーンのスポットから、処理した細胞中でのOCDO産生を定量した。この定量の結果を図24のヒストグラムで示す。
【0164】
MCF7細胞をその他のAhr受容体アンタゴニストと共に上で定義したものと同じプロトコールでインキュベートした場合に、細胞が産生するOCDOの量についてもまた測定し、対照試験を100として、そのOCDO産生を対照に対する割合(%)として表した(上記実験と同じ対照を用いた)。結果を以下の表に示す。
【0165】
【表9】
【0166】
この結果から、細胞間コレステロール輸送モジュレーター及びAhr受容体アンタゴニストがOCDOの形成を阻害することが可能であり、従ってそれらの抗癌作用を用いることが可能であると考えられる。
【図3A】
【図3B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を検出する方法であって、前記細胞中に存在する式
【化5】
で示されるOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
個体の癌を診断する方法であって、前記個体から得られた試料における細胞中のOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法であって、請求項1に記載したように前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は請求項2に記載したように個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、その個体による前記治療への反応の指標となる、方法。
【請求項4】
個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用。
【請求項5】
癌を発症した個体の前記癌の治療における医薬の有効性を評価する方法であって、
(a)前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D1をアッセイし;
(b)治療的処置期間の後に、工程(a)と同様の方法で、前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D2をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合に、それから、前記医薬が前記癌の治療に有効であると推論する
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
癌を発症した個体における前記癌治療の有効性を評価する方法であって、請求項1に記載したように前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は請求項2に記載したように個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、癌治療における前記治療の有効性の指標となる、方法。
【請求項7】
ヒト又は動物の癌の治療方法において使用するためのOCDO阻害剤。
【請求項8】
コレステロール生合成に関与する酵素の阻害剤、具体的にはロバスタチン、Ro 48−8071、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525A;
コレステロールのエポキシ化において活性な、ケトコナゾール及びビタミンEなどのシトクロムP450阻害剤、リポキシゲナーゼ及び酸化防止剤;
コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)活性の阻害剤、具体的にはPBPE、PCPE、テスミリフェン、デンドロゲニンA(DDA)、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、ニトロミフェン、クロミフェン、RU 39411、BD−1008、ハロペリドール、SR 31747A、イボゲイン、AC−915、リムカゾール、アミオダロン、トリフルオロペラジン、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525A;
エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、σ−1及び−2受容体のリガンド及び特定のアミノアルキルステロール、細胞間コレステロール輸送阻害剤、並びにプロゲステロン及びAhr受容体アンタゴニストからなる群より選択される酵素阻害剤、からなる群より選択される阻害剤;
から選択されることを特徴とする、請求項7に記載のOCDO阻害剤。
【請求項1】
個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を検出する方法であって、前記細胞中に存在する式
【化5】
で示されるOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
個体の癌を診断する方法であって、前記個体から得られた試料における細胞中のOCDO化合物の量を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
癌を発症している個体の治療への反応をモニタリングする方法であって、請求項1に記載したように前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は請求項2に記載したように個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、その個体による前記治療への反応の指標となる、方法。
【請求項4】
個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態のマーカーとしてのOCDO化合物の使用。
【請求項5】
癌を発症した個体の前記癌の治療における医薬の有効性を評価する方法であって、
(a)前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D1をアッセイし;
(b)治療的処置期間の後に、工程(a)と同様の方法で、前記個体から得られた試料における細胞の液体抽出物中のOCDOの濃度D2をアッセイし;
(c)D1とD2を比較し;そして
(d)D2<D1である場合に、それから、前記医薬が前記癌の治療に有効であると推論する
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
癌を発症した個体における前記癌治療の有効性を評価する方法であって、請求項1に記載したように前記個体から得られた試料における細胞の腫瘍形成状態を、又は請求項2に記載したように個体の診断を、治療前及び治療中に決定する工程を含み、ここで治療中の腫瘍形成状態における又は個体の診断における変化が、癌治療における前記治療の有効性の指標となる、方法。
【請求項7】
ヒト又は動物の癌の治療方法において使用するためのOCDO阻害剤。
【請求項8】
コレステロール生合成に関与する酵素の阻害剤、具体的にはロバスタチン、Ro 48−8071、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525A;
コレステロールのエポキシ化において活性な、ケトコナゾール及びビタミンEなどのシトクロムP450阻害剤、リポキシゲナーゼ及び酸化防止剤;
コレステロールエポキシドヒドロラーゼ(ChEH)活性の阻害剤、具体的にはPBPE、PCPE、テスミリフェン、デンドロゲニンA(DDA)、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、ニトロミフェン、クロミフェン、RU 39411、BD−1008、ハロペリドール、SR 31747A、イボゲイン、AC−915、リムカゾール、アミオダロン、トリフルオロペラジン、U18666A、AY−9944、トリパラノール、テルビナフィン及びSKF−525A;
エストロゲン受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン膜結合部位(AEBS)リガンド、σ−1及び−2受容体のリガンド及び特定のアミノアルキルステロール、細胞間コレステロール輸送阻害剤、並びにプロゲステロン及びAhr受容体アンタゴニストからなる群より選択される酵素阻害剤、からなる群より選択される阻害剤;
から選択されることを特徴とする、請求項7に記載のOCDO阻害剤。
【図13】
【図21】
【図23】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図24】
【図21】
【図23】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図24】
【公表番号】特表2012−530511(P2012−530511A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516830(P2012−516830)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051320
【国際公開番号】WO2010/149941
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(511311967)
【氏名又は名称原語表記】AFFICHEM
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051320
【国際公開番号】WO2010/149941
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【出願人】(511311967)
【氏名又は名称原語表記】AFFICHEM
【Fターム(参考)】
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