説明

細胞分化抑制剤、これを用いた細胞培養方法、培養液及び培養された細胞株

本発明の目的は、幹細胞あるいは胚性幹細胞を、フィーダー細胞を用いずに未分化な状態で培養させ得る分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを用いた培養液およびこの分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞を提供することである。本発明によれば、低分子化合物、特にテトラヒドロイソキノリン誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤、テトラヒドロイソキノリン誘導体を用いて幹細胞を培養することによりフィーダー細胞非存在下で大量にかつ安全で未分化に幹細胞を培養する方法、テトラヒドロイソキノリン誘導体を含む幹細胞の培養液、テトラヒドロイソキノリン誘導体を分化抑制剤として用いて培養、作製された細胞が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、低分子化合物、特にテトラヒドロイソキノリン誘導体を有効成分とする幹細胞分化抑制剤、それを用いる幹細胞培養方法、培養液およびそれを用いて作製された幹細胞株に関する。本発明はさらに、幹細胞の未分化維持作用を有する新規な2環化合物にも関する。
【背景技術】
外傷や病気、さらには加齢などによって傷害を受けた臓器・組織は、再生を促進し、その機能を回復させる必要がある。特に、心臓・肝臓・腎臓・膵臓などの実質臓器は生命維持に必須であるためその機能低下・廃絶は死に直結することから、臓器移植により救命を図る移植医療が盛んに行われている。しかし、恒常的なドナー不足からその解決には新たなアプローチが必要になっている。
最近になり、胚、或いは成体に存在し、無制限に分裂して、ひとつ或いは複数の方向に分化する能力を有すると考えられる幹細胞を利用して組織・器官の作製を行い、欠損組織の補填を行う再生医療が、従来の臓器移植の欠点を凌駕する治療法として注目されている。
具体的には、幹細胞を増殖させた後、分化させ細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築を行い、それを生体内へ移植したり人工臓器として利用したりすることなどが考えられている。幹細胞を細胞移植治療や組織工学に利用できれば、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できると期待される。
幹細胞は、血管、神経、血液、軟骨、骨、肝臓、膵臓など数々の分野で同定されているが、そのなかでも特に全ての細胞型に分化する能力を有する全能性幹細胞は、上述の再生医療分野のほか、創薬、および遺伝子治療に用いるための細胞ならびに組織を容易に提供し得る細胞として特に注目されている。
全能性幹細胞の一例として、胚性幹(EmbryonicStem、以下ES)細胞や、胚性生殖(Embryonic Germ、以下EG)細胞が知られている。ES細胞は、マウスの胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass,ICM)から分離された細胞株である(Evansら、Nature,292,p154,1981年)。個体を構成する細胞は胚盤胞期の内部細胞塊(Inner Cell Mass,以下ICM)あるいは原腸胚上層(epiblast、以下エピブラスト)から派生した一次外胚葉に由来しており、ICMおよびエピブラストは全能性を持った幹細胞群であるといえる。ES細胞は各種個体形成組織への分化能を保持し、正常な胚とキメラ胚を形成させることにより、成体のあらゆる成熟細胞へと分化する能力を保有している。また、試験管内の分化誘導条件によっても、血液細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、神経細胞、色素細胞、膵内分泌細胞など様々な細胞を生成させる能力をもっている(仲野徹、最新医学別冊−再生医学、p81−89、2000)。
EG細胞は始原生殖細胞をLIF(Leukemia Inhibitory Factor)とbFGF(basic Fibroblast Growth Factor)存在下で培養することにより樹立された細胞であり(Matsuiら、Cell、70、p841、1992年、Resnicら、Nature、359、p550、1992年)、ES細胞と同様に各種組織への分化能を有している。
最近になって、マウス以外でもES細胞株の樹立が報告され、マウスES細胞と同様多分化能を有していることが示されている(ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology,31,p15−17,1989年、豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology,33:p901,1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.De v.Biol.,196:p185,1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、アカゲザルES細胞:Thomsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92、p7844、1995年、マーモセットES細胞:Thomsonら、Biology of Production、55、p254、1996年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science,282,p1145,1998年、Reubinoffら、Nature Biotech,18,p399,2000年、カニクイザルES細胞:Suemoriら、Dev.Dyn.222、P273,2001年)。
ES細胞の未分化を維持するには、通常胎仔由来の線維芽細胞をフィーダー細胞として用いて共培養することが必要である。霊長類のES細胞株の未分化維持においても同様の方法が用いられている(Thomsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,p7844,1995年、Thomsonら、Science,282,p1145,1998年、Reubinoffら、Nature Biotech,18,p399,2000年)。
しかし、マウス初代線維芽細胞の調製は煩雑である。即ち、妊娠マウスから13.5から15.5日の胚を取り出し、酵素処理によって胚体を分解し、ディッシュ上に得られた線維芽細胞を回収する。初代細胞であるため、品質管理は複雑で、GMP適応レベルの管理は困難であり、ES細胞の未分化維持能も、用いる胚体により異なる可能性が考えられる。この煩雑な調製作業を経由しないES細胞培養方法として、マウス胚線維芽細胞のセルラインであるSTO細胞(ATCC 56−X)を用いる方法がある。しかし、STO細胞のES細胞未分化維持能は変化しやすく、ES細胞の安定的な培養にはマウス初代線維芽細胞の方が優れている。
また、最近になって異種動物間での内在性ウィルスの感染例が報告されている(van der Laanら、Nature,407,p90,2000年)。医療用途でのヒトES細胞の利用を目的とした培養方法においては異種動物細胞間での接触をでき得る限り回避した培養方法の開発が望まれている。従って、マウス由来細胞を用いる上記のES細胞未分化維持培養方法は、医療用途を目的としたES細胞の培養には適していない。
マウス由来フィーダー細胞を用いない霊長類ES細胞の培養方法として、マウス初代線維芽細胞の分泌成分を培養培地中に加える方法が報告されている(例えば、特開2001−17163号公報を参照)。 しかし、この場合においても培養中のES細胞がマウス細胞から分泌される未同定の因子に曝されることから、このような環境で培養されたES細胞は医療用途の使用には適していないうえに、内在性ウィルスの感染の危険性も残されている。従って、マウス初代線維芽細胞との共培養による欠点が全く解消されていない。
マウス由来フィーダー細胞並びにマウスフィーダー細胞由来分泌成分を用いないマウスES細胞の未分化維持培養方法として、ゼラチンをコートした培養皿を用いる培養方法が既に知られているが、この場合には、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor,LIF)の培地への添加が必須である(例えば、Smithら、Dev.Biol.,121,p1,1987年を参照)。LIFはサイトカインであることから高コスト、保存性などの問題があり大量培養には適していない。加えて、LIFの効果は極めて特定のマウス系統(129/sv系やC57BL/6系)由来のES細胞に限定的であり、他種動物において顕著な効果は見られない。特に霊長類のES細胞においては、培地中へのLIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(例えば、Thomsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,p7844,1995年;及び、Thomsonら、Science,282,p1145,1998年を参照)。
また、LIFによる胚性幹細胞の未分化維持作用を増幅させる低分子化合物としてPD98059(Cell Signaling Technology社製)が報告されているが、PD98059の作用はLIF依存的であり、単独では効果が認められない(Burdonら、Dev.Biol.,210,p30,1999年)ため前述の問題点を解決されない。
従って、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養することを可能にする分化抑制剤はこれまでなく、また、全能性幹細胞を、低コストで安全かつ大量に培養する方法も知られていなかった。本発明の分化抑制剤は、低分子化合物を有効成分として含有するが、低分子化合物が全能性幹細胞の未分化状態を維持することはこれまで知られていなかった。従って、本明細書に記載の一般式(1)〜(10)で示される低分子化合物が有する全能性幹細胞の未分化維持作用は全く知られていなかった。
【発明の開示】
本発明の課題は、幹細胞或いは胚性幹細胞を、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに、未分化状態で培養させ得る分化抑制剤を提供することにある。また、本発明の課題は、このような分化抑制剤を用いて、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに幹細胞或いは胚性幹細胞を未分化の状態で培養する方法を提供すること、このような分化抑制剤を含む細胞培養液を提供すること、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株を提供することにある。本発明のさらに別の課題は、幹細胞或いは胚性幹細胞を、フィーダー細胞或いはフィーダー細胞由来成分を用いずに、未分化状態で培養させ得る新規な2環化合物を提供することである。
本発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、幹細胞ならびに胚性幹細胞を未分化な状態で培養させ得る分化抑制剤、それを用いた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養方法、このような分化抑制剤を含む細胞培養液、およびこのような分化抑制剤を用いて培養して作製された細胞株に関する。
すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
(1) 低分子化合物またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
(2) 低分子化合物が、一般式(1)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。A環は、少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5〜8員環を表す。Xは、主鎖の原子数が0〜10のアルキレン基を表す。原子数0のアルキレン基とは、単結合を表す。該アルキレン基を構成する1つ以上のエチレンが、−C=C−基及び/又は−N=N−基及び/又は−CONH−基で置き換わっていてもよい。また、環Aと結合するボンドが二重結合となる基であってもよい。さらに、該アルキレン基は、置換基として、電子吸引基、電子供与基または水素原子を1つ以上有してもよい。Gは、電子吸引基、電子供与基または水素原子を有してもよい芳香族基を表す。該A環は、−XG基以外の置換基として電子吸引基及び/又は電子供与基を1つ以上有してもよい。]
で表される化合物である、上記(1)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(3) A環が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5もしくは6員環である、上記(2)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(4) A環が、1つの窒素原子を環内に含む5または6員環である、上記(2)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(5) Xで表されるアルキレン基が、置換基としてアルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ニトリル基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる基及び/又は原子を1つ以上有している、上記(2)〜(4)の何れかに記載の幹細胞分化抑制剤。
(6) 低分子化合物が、一般式(2)

[式中、R、R、R、R、X及びGは、前記(2)中の定義と同義である。R、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、上記(2)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(7) 低分子化合物が、一般式(3)

[式中、R、R、R、R、X及びGは、前記(2)中の定義と同義である。R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、上記(2)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(8) 低分子化合物が、一般式(4)

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、前記(6)中の定義と同義である。R10、R11、R12、及びR13は、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。二重片側破線は単結合または二重結合を表す。二重片側破線が二重結合を表す場合、波線部に関して幾何異性体が存在する。これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物である、上記(6)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(9) R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、及びR13が、それぞれ独立に、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ハロゲン原子及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、上記(8)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(10) 低分子化合物が、一般式(5)

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、前記(6)中の定義と同義である。R10、R11、R12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、上記(6)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(11) R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、及びR12が、それぞれ独立に、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ハロゲン原子及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、上記(10)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(12) 低分子化合物が、一般式(6)

[式中、R、R、R、R、R、及びRは前記(7)中の定義と同義である。R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、上記(7)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(13) R、R、R、R、R、R、R、R、及びRがそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトリル基、アセトキシ基、アセトキシアルキル基、酸素原子を含んでも良い環状アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノビニル基、ヒドロキシアルキルアミノアルキル基、アリールアミノビニル基、及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、上記(12)に記載の分化抑制剤。
(14) R、R、R、R、R、R及びR10が水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、または低級アルコキシ基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基であり、R13が、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アミノカルボニル基、または低級アルコキシカルボニル基である、上記(8)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(15) R、R、R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R10が水素原子又は低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルコキシ基、または低級アルコキシカルボニル基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基である、上記(10)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(16) RおよびRが水素原子であり、Rがヒドロキシル基またはアセトキシ基であり、Rがアセトキシアルキル基、酸素原子を含んでも良い環状アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、ヒドロキシアルキルアミノアルキル基、又は水素原子であり、Rが低級アルキル基、またはアリールアミノビニル基であり、Rがニトロ基であり、R、R、及びRが同一であっても異なってもよい低級アルキル基、低級アルコキシ基、または水素原子である、上記(12)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(17) 一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R11、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、二級アミノカルボニル基または三級アミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
(18) 一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10及びR12が水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R11が低級アシル基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
(19) 一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13はヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基またはアミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
(20) 一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13はニトリル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
(21) 一般式(10)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R11、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、又はニトリル基を表す。]
で表される化合物またはその塩。
(22) R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、同一であっても異なっていてもよい水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、前記(17)記載の化合物またはその塩。
(23) R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11が低級アシル基であり、R12が水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、前記(18)記載の化合物またはその塩。
(24) R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、前記(19)記載の化合物またはその塩。
(25) R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がニトリル基である、前記(20)記載の化合物またはその塩。
(26) R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、又はニトリル基である、前記(21)記載の化合物またはその塩。
(27) (4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸エチルエステル、(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−メチル−アセトアミド、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N,N−ジメチル−アセトアミド、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−フェニル−アセトアミドである、前記(17)記載の化合物またはその塩。
(28) 2−(3−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミドである、前記(18)記載の化合物またはその塩。
(29) 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(2,3,3−トリメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド、2−(2−アセチル−3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−アセトアミドである、前記(19)記載の化合物またはその塩。
(30) (4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトニトリルである前記(20)記載の化合物またはその塩。
(31) 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−1−イル)−アセトアミドである前記(21)記載の化合物またはその塩。
(32) 前記(17)〜(31)のいずれかに記載の化合物またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
(33) 低分子化合物がアルカリホスファターゼの活性を維持または上昇させる作用を有する化合物である、上記(1)〜(16)又は(32)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
(34) 低分子化合物が、STAT3(signal transducer and activator of transcrption3)を活性化しない化合物である、上記(1)〜(16)、(32)又は(33)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
(35) 低分子化合物が、SSEA−1抗原発現量を増加させる作用を有する化合物である、上記(1)〜(16)又は(32)〜(34)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
(36) 低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有する化合物である上記(1)〜(16)又は(32)〜(35)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
(37) 低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有する2環化合物である、上記(36)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(38) 低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有するアゾ基を含有する2環化合物である、上記(37)に記載の幹細胞分化抑制剤。
(39) 上記(1)〜(16)及び(32)〜(38)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を用いて幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする幹細胞培養方法。
(40) 上記(1)〜(16)及び(32)〜(38)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を用いて胚性幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする胚性幹細胞培養方法。
(41) 上記(1)〜(16)及び(32)〜(38)のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を有効成分として含有する培地。
(42) 上記(17)〜(31)のいずれかに記載の化合物またはその塩を含有する培地。
(43) 分化抑制剤、化合物またはその塩の濃度が10ng/ml〜100μg/mlであることを特徴とする上記(41)または(42)に記載の培地。
(44) 上記(1)〜(16)及び(32)〜(38)のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて未分化状態で培養された幹細胞。
(45) 上記(1)〜(16)及び(32)〜(38)のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて未分化状態で培養された幹細胞を分化させて得られる細胞または組織。
(46) 細胞または組織が生体内へ移植するためのものである上記(44)または(45)に記載の細胞または組織。
(47) 上記(44)〜(46)のいずれかに記載の細胞または/および組織を生体内に移植する治療方法。
(48) 上記(17)〜(31)のいずれかに記載の化合物またはその塩のプロドラッグ。
(49) 上記(17)〜(31)のいずれかに記載の化合物もしくはその塩またはそのプロドラッグを含有してなる医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の化合物Aの構造を示す。化合物Aは、図1中の式(5)のR〜R12が下表に示す基または元素で表される化合物である。
図2は、本発明の化合物B〜Fの構造を示す。化合物B〜Fは、図2中の式(4)のR〜R13が下表に示す基または元素で表される化合物である。
図3は、アルカリホスファターゼ定量1の結果を表す。
図4は、アルカリホスファターゼ染色1の結果を表す。
図5は、STAT3活性化アッセイ1の結果を示す。
図6は、Oct−3/4遺伝子発現量を示す。
図7は、nanog遺伝子発現量を示す。
図8は、SSEA−1抗原の発現量評価1における平均蛍光強度の結果を示す。
図9は、本発明の化合物a〜oの構造を示す。化合物a〜oは、図9中の式(6)のR〜Rが下表に示す基または元素で表される。
図10は、本発明の分化抑制剤を用いた場合のアルカリホスファターゼ定量2の結果を表す。
図11は、SSEA−1抗原の発現量評価2における平均蛍光強度の結果を示す。
図12は、STAT3活性化アッセイ2の結果を示す。
図13は、ES細胞継代培養の結果1を表す。
図14は、ES細胞継代培養の結果2を表す。
図15は、本発明の分化抑制剤の胚性幹細胞未分化維持効果を示す。
図16は、本発明の分化抑制剤の胚性幹細胞未分化維持効果(染色図)を示す。
図17は、本発明の化合物▲1▼の構造を示す。化合物▲1▼は、図17中の式(10)のR〜R13が下表に示す基または元素で表される。
図18は、本発明の化合物▲2▼〜▲10▼の構造を示す。化合物▲2▼〜▲10▼は、図18中の式(9)のR〜R13が下表に示す基または元素で表される。
図19は、アルカリホスファターゼ染色の染色図を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下の用語は他で述べない限り、以下に提供されるように定義される。
本明細書で使用される他の全ての用語は、他に述べない限り、その用語に関する特定の分野でのその語法に関して定義される。
幹細胞:幹細胞とは、特異化された機能を有する他の細胞型、即ち、最終的に分化した細胞、もしくは、より狭い範囲の細胞型に分化可能な他の幹細胞型に分化し得る細胞を指す。
全能性幹細胞:全能性幹細胞とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る細胞のことを言う。
多能性幹細胞:多能性幹細胞とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る細胞をいう。多能性細胞の1つの例は、造血幹細胞であり、この細胞はリンパ球および赤血球のような種々の血液細胞型へと分化し得る。
胚性幹細胞:胚性幹細胞とは、幹細胞の中でも特に前着床段階の胚の、桑実胚または胚盤胞段階から得られた全能性の細胞をいい、ES細胞とも呼ばれる。また、胚性幹細胞には、精子あるいは卵子になると決まっている、胚または胎児(胎仔)の始原生殖細胞に由来する多能性の幹細胞のことをいう場合もある。ただし、この細胞は胚性生殖(Embryonic Germ、EG)細胞と呼ばれて胚性幹細胞と区別される場合もある。本明細書中で用いる胚性幹細胞は、いかなる動物種のものであってよく、例えばヒトを含む霊長類、霊長類以外の哺乳類、鳥類などの胚性幹細胞が挙げられる。
全能性:全能性とは、多能性の細胞および完全に分化した細胞(すなわち、種々の細胞へと、もはや分化し得ない細胞)を含む任意の細胞型へと分化し得る状態を言う。
多能性:多能性とは、必ずしも全ての型にならないけれども、異なる多数の細胞型のうちの1つへと分化し得る状態をいう。
未分化:未分化とは、1つの細胞、或いは複数の細胞からなる任意の細胞集団が、1つまたは複数の、さらに分化が進んだ状態の細胞に分化し得る能力を有する状態である細胞、或いは該細胞を含む細胞集団である状態であることをいう。
フィーダー:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダーとは、全能性幹細胞がその上にプレートされ、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供するものをいう。
フィーダー細胞:本発明を記載する目的のために用いられるフィーダー細胞とは、全能性幹細胞がその上にプレートされる非全能性幹細胞をいい、非全能性幹細胞は、プレートされた全能性幹細胞の増殖の助けとなる環境を提供する。
細胞由来成分:細胞から分泌される成分、内容物、および細胞膜成分など、細胞に由来する全ての成分をいう。
本発明は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を未分化の状態で、増殖および維持させ得る分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを用いた培養液、それを用いて培養し作製された細胞株を提供する。本発明で提供する分化抑制剤、培養方法および培養液は、従来より簡便に、安全に、未分化の胚性幹細胞を増殖しそして維持する。本発明の分化抑制剤を含む細胞培養方法はまた、特定の分化誘導因子、および分化誘導因子の有用な組み合わせについてスクリーニングするために使用され得る。本発明の分化抑制剤、および培養方法を使用して、未分化な胚性幹細胞を増殖させる能力は、重要な治療適用を有する単一もしくは複数の遺伝的改変を有する胚性幹細胞系を産生する能力を含む重要な利益を提供する。
本発明の分化抑制剤は、化学的に安定な低分子化合物で、幹細胞を未分化な状態で維持する活性を有するものであればいずれも用いることができるが、好ましくは下記一般式(1)で表される低分子化合物があげられる。

式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。電子供与基とは、ベンゼン環へ電子を供与し得る置換基、電子吸引基とはベンゼン環上のπ電子を吸引する性質を有する置換基をいう。また、Hammettの置換基定数σを用いてσ<0を電子供与基、σ>0を電子吸引基と定義することもできる(基礎有機反応論、橋本静信ら著、三共出版、1997年)。
A環は、少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5〜8員環を表す。
Xは、主鎖の原子数が0〜10のアルキレン基を表す。原子数0のアルキレン基とは、単結合を表す。該アルキレン基を構成する1つ以上のエチレンが、−C=C−基及び/又は−N=N−基及び/又は−CONH−基で置き換わっていてもよい。また、環Aと結合するボンドが二重結合となる基であってもよい。さらに、該アルキレン基は、置換基として、電子吸引基、電子供与基または水素原子を1つ以上有してもよい。
Gは、電子吸引基、電子供与基または水素原子を有してもよい芳香族基を表す。該A環は、−XG基以外の置換基として電子吸引基及び/又は電子供与基を1つ以上有してもよい。
このうち、A環が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5もしくは6員環であることが望ましい。
また、A環が、1つの窒素原子を環内に含む5または6員環である場合も同様に望ましい。この場合、5員環は不飽和であることが望ましく、6員環は飽和であることが望ましい。
さらに、Xで表されるアルキレン基は、置換基としてアルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ニトリル基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる基及び/又は原子を1つ以上有している場合が望ましい。
たとえば一般式(1)の例としては、式(2)で表されるようなテトラヒドロイソキノリン誘導体および一般式(3)で表されるようなインドール誘導体があげられる。

式中、R、R、R、R、X及びGは、前記と同義である。R、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。

式中、R、R、R、R、X及びGは、前記と同義である。R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。
一般式(2)で表されるテトラヒドロイソキノリン誘導体の具体例としては、式(4)若しくは式(5)で示される構造の化合物および塩があげられる。

式中、R〜R13は、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。
より好ましくは、R〜R13は、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ハロゲン原子及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子があげられる。
また、一般式(4)の場合、さらに好ましくは、R〜R、R、R及びR10が水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、または低級アルコキシ基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基であり、R13が、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アミノカルボニル基、または低級アルコキシカルボニル基があげられる。
Rで表される低級アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−メチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルプロピル、2−エチルブチルなどが挙げられる。好ましくは、メチルである。
Rで表される低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、ヘキシロキシ、ヘプチロキシ、オクチロキシなどが挙げられる。好ましくはメトキシである。
Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられるが、好ましくは塩素または臭素である。
Rで表される低級アシル基として、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルなどが挙げられるが、好ましくはアセチルである。
Rで表される環状構造を形成してもよい低級アルキル基としてシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられるが、好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルである。
Rで表される低級アルコキシカルボニルとして、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポオキシカルボニルなどが挙げられるが、好ましくはメトキシカルボニルもしくはエトキシカルボニルである。
Rで表されるアミノカルボニルとしては、例えば、−CONR(Rは同一でも異なってもよい水素原子、先に例示した低級アルキル基、置換基を有してもよいフェニル基を表す)などが挙げられる。
Rで表される二級アミノカルボニル基としては、例えば、−CONHR(先に例示した低級アルキル基、置換基を有してもよいフェニル基を表す)などが挙げられる。また、三級アミノカルボニル基としては、例えば、−CONR(Rは同一でも異なってもよい先に例示した低級アルキル基、置換基を有してもよいフェニル基を表す)などが挙げられる。
Rで表されるアミノアルキル基としては、例えば、−(CH−NR(nは1〜8を示すが、好ましくは1である。またRは同一でも異なっても良い水素原子、低級アルキル基、環状構造を形成しても良い低級アルキル基(環状構造中には窒素や酸素などのヘテロ原子を1〜3個含んでも良い)、置換基を有しても良いフェニル基を表す)などがあげられる。
Rで表されるアセトキシアルキルとしては、−(CH−OAc(nは1〜8を表す)があげられるが、好ましくはnは1である。
また、式(4)における二重片側破線は単結合または二重結合を表す。さらに、式(4)で表される化合物において、二重片側破線が二重結合を表す場合、波線部(2箇所)に関して幾何異性体が存在する。これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよく、本発明の化合物は、これらの幾何異性に基づく純粋な形態の幾何異性体の任意の混合物であってもよい。
一般式(5)の場合、さらに好ましくは、R〜R、R及びRが水素原子であり、R10が水素原子または低級アルキル基であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルコキシ基、または低級アルコキシカルボニル基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基があげられる。
一般式(4)の具体例として式(4)中、二重片側破線が二重結合であり、Rがアミノカルボニル基である、一般式(7)で表される化合物があげられる。

また、テトラヒドロイソンキノリン誘導体である前記一般式(4)に含まれるさらに具体的な化合物には、次のようなものが例示される。
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(4−ブロモ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3−ブロモ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(4−クロロ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3−クロロ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−m−トリルアゾ−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−p−トリルアゾ−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−メトキシ−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(3−メトキシ−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−ニトロ−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(3−ニトロ−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−スルファモイル−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(3−スルファモイル−フェニルアゾ)−アセトアミド
2−(4−アセチルアミノ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3−アセチルアミノ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(2−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−フェニルアゾ−アセトアミド
(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸エチルエステル
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−1−イル)−アセトアミド
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−メチル−アセトアミド
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−フェニル−アセトアミド
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(2,3,3−トリメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトニトリル
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N,N−ジメチル−アセトアミド
(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸
2−(2−アセチル−3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−アセトアミド
また、一般式(5)の具体例として以下に示す一般式(8)で表される化合物があげられる。

式中、R〜R、R〜R12としては、同一または異なった電子吸引基、または電子供与基または水素原子から選ばれる基または原子が挙げられる。好ましくは、R〜R、R〜R12は、同一または異なった、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、フロイル基、テノイル基、ジアルキルカルバモイル基、アセチル基、ブタノイル基、メトキシカルボニル基、シクロアルキル基、ベンジルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ニトロ基よりなる群から選ばれる基、あるいはハロゲン原子または水素原子が挙げられる。さらには、R〜R、R〜R12はアルキル基、アセチル基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子もしくは水素原子よりなる群から選ばれる基または原子であることが望ましい。
また一般式(5)に含まれる化合物には次のようなものが例示される。
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−p−トリル−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−m−トリル−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−o−トリル−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−(4−メトキシ−フェニル)−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−(3−メトキシ−フェニル)−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−(4−ニトロ−フェニル)−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−(3−ニトロ−フェニル)−アセトアミド
4−[2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセチルアミノ]−安息香酸エチルエステル
3−[2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセチルアミノ]−安息香酸エチルエステル
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−フェニル−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−(2,4−ジメチル−フェニル)−アセトアミド
2−シアノ−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド
一般式(2)および(3)であらわされる化合物の塩としては、薬学的に許容しうる塩が望ましい。例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などを形成してもよい。
また、一般式(4)および(5)であらわされる化合物のエステル化合物も本発明の範囲であり、例えば、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、無機酸エステルなどがあげられる。
一般式(3)に表されるようなインドール誘導体としては、以下の式(6)で表される化合物があげられる。

式中、R〜Rは同一または異なった電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。このうち、好ましくは、R〜Rはアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アセトキシ基、アミノアルキル基、アセトキシアルキル基、アミノビニル基、及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子があげられる。さらには、R、及びRが水素原子であり、Rがアセトキシ基またはヒドロキシル基であり、Rが水素原子、ジアルキルアミノアルキル基、環状アルキルアミノアルキル基、ヒドロキシアルキルアミノアルキル基、またはアセトキシアルキル基であり、Rが低級アルキル基、アリールアミノビニル基であり、Rがニトロ基、R〜Rが同一であっても異なってもよい低級アルキル基、低級アルコキシ基、または水素原子であることが望ましい。
また、一般式(6)に含まれる化合物には次のようなものが例示される。
2−メチル−3−ニトロ−1−フェニル−1H−インドール−6−オール
1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
2−メチル−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オール
2−[2−(4−メトキシ−フェニルアミノ)−ビニル]−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オール
1−(2−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
7−ジメチルアミノメチル−2−(2−ジメチルアミノ−ビニル)−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オール
1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−7−ピペリジン−1−イルメチル−1H−インドール−6−オール塩酸塩
2−(2−ジメチルアミノ−ビニル)−1−(4−メトキシ−フェニル)−7−モルフォリン−4−イルメチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
7−[(3−ヒドロキシ−プロピルアミノ)−メチル]−1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール塩酸塩
7−ジメチルアミノメチル−2−(2−ジメチルアミノ−ビニル)−1−(4−メトキシ−フェニル)−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
7−ジエチルアミノメチル−1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
7−ジメチルアミノメチル−2−メチル−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−オール
1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−7−ピペリジン−1−イルメチル−1H−インドール−6−オール
酢酸 7−アセトキシメチル−2−メチル−3−ニトロ−1−p−トリル−1H−インドール−6−イルエステル
2−(2−ジメチルアミノ−ビニル)−1−(4−メトキシ−フェニル)−3−ニトロ−7−ピペリジン−1−イルメチル−1H−インドール−6−オール
7−ジメチルアミノメチル−2−メチル−3−ニトロ−1−フェニル−1H−インドール−6−オール
7−ジメチルアミノメチル−1−(4−メトキシ−フェニル)−2−メチル−3−ニトロ−1H−インドール−6−オール
本発明の化合物は以下に述べる方法及びそれらに準ずる方法、または公知の方法を行うことにより製造することができる。式(9)で表される化合物の製造法を以下に示す。

等量のチオエーテル誘導体(I)とフェニルアゾアセトアミド誘導体(II)を反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類)に溶解し、原料がなくなるまで還流することにより製造することができる。該誘導体(I)は公知の方法(例えば、Khim.Geterotsikl.Soedin.,No.7,p995(1990)などに記載)により、もしくは、市販品から購入することができる。具体的には、下表1に示すとおりである。

フェニルアゾアセトアミド誘導体(II)は、公知の手法(Materialy Ural’sk.Soveshch.po Spektroskopii,4th,Sverdlovsk 1963,p205(1965),Bulletin del’Academie Polonaise des Sciences,Serie des Sciences Chimiques,14(1),p29(1966),Am.Chem.Soc.,Div.Org.Coatings,Plastics Chem.Preprints,23(2),p486(1963),Zhurnal Obshchei Khimii,35(3),p559(1965)、Zhurnal Obshchei Khimii,32,p526(1962)など)により製造することができる。
式(9)で表される化合物は以下のスキームでも合成可能である。

ベンジルカルビノール誘導体と2−シアノアセトアミド誘導体とを硫酸存在下で反応することにより得られる化合物(IV)とジアゾニウム塩(V)とを反応に悪影響を及ぼさないアルコール水溶液中、塩酸存在下で反応させることにより得られる。ベンジルカルビノール誘導体は様々な誘導体が市販品から購入でき、さらに公知の方法(例えば、J.Gen.Chem.USSR,No.6,p1263(1936)により得る事が出来る。また、ジアゾニウム塩は市販のアミノベンゼン誘導体を塩酸、亜硝酸ナトリウム水溶液により公知の方法で誘導できる。
式(9)で表される化合物のうち、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex,ロシア)、2−(3−クロロ−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex,ロシア)、2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(3−メトキシ−フェニルアゾ)−アセトアミド(Asinex,ロシア)、2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(3−ニトロ−フェニルアゾ)−アセトアミド(PHARMEKS,ロシア)、2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−メトキシ−フェニルアゾ)−アセトアミド(PHARMEKS,ロシア)、2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−m−トリルアゾ−アセトアミド(IBS,ロシア)は市販品であり、サプライヤーから入手することが出来る。
式(9)で表される化合物の中で、Rがメチル基である場合の製造法を以下に示す。反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、アセトニトリルのニトリル類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類)に式(4)で表される化合物(R5=−H)及び炭酸ナトリウムを加えて溶解し、ヨウ化メチルを反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類)に溶解したものをゆっくり滴下し、還流することにより製造することができる。
式(9)で表される化合物の中で、Rがアセチル基である場合の製造法を以下に示す。氷浴下、式(9)で表される化合物(R=−H)及びジメチルアミノピリジンをピリジンに溶解し、無水酢酸を加え、攪拌することにより製造することができる。
式(11)で表される化合物の製造法を以下に示す。

式(9)で表される化合物を反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類)に溶解し、塩化チオニルを反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類)に溶解したものを氷浴下で滴下することにより製造できる。
式(12)で表される化合物の製造法を以下に示す。

エタノールに水酸化カリウム及び式(9)で表される化合物を加え、還流することにより製造することができる。
式(13)で表される化合物の製造法を以下に示す。

式(12)で表される化合物をエタノールに懸濁し、冷却しながら塩化チオニルをゆっくり滴下し、室温で攪拌することにより製造することができる。
式(14)で表される化合物の製造法を以下に示す。

式(12)で表される化合物、該当する1級または2級アミン、HOBt(Advanced ChemTech社、米国)及びトリエチルアミンを反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類など)に溶解し、これにHBTU(Advanced ChemTech社、米国)を反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒など)に溶解したものを加えた。室温で攪拌することにより製造することができる。
式(10)で表される化合物の製造法を以下に示す。

反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、アセトニトリルのニトリル類など)に式(9)及び(11)〜(14)で表される化合物を溶解し、トリフェニルすず水素化物(Aldrich、米国)を反応に悪影響を及ぼさない適当な溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)に溶解したものを前記溶媒に加え、還流することにより製造することができる。
一般式(4)で示される化合物は、適当な溶媒に溶解させることができるが、溶媒中においてはそのままで、或いは下記式(15)で表される還元型で、あるいはその混合物として存在してもよい。

かくして得られる本発明の化合物またはその塩は、例えば、再結晶、蒸留、クロマトグラフィーなどの通常の分離手段により単離、精製することができる。かくして本発明の化合物が遊離体で得られた場合には、公知の方法あるいはそれに準じた方法によって塩に変換することができる。逆に塩で得られた場合には、公知の方法あるいはそれに準じた方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。化合物またはその塩が不斉炭素を有する場合もあるが、光学活性の混合物(ラセミ体)として得られた場合には、通常の光学分割手段によりそれぞれの光学活性に分離することができる。
本発明の分化抑制剤の濃度としては、0.1ng/ml〜1mg/mlの範囲で使用することが望ましく、好ましくは10ng/ml〜100μg/ml、さらに好ましくは100ng/ml〜10μg/mlの範囲で使用することである。
また、本発明の分化抑制剤はSTAT3(signaltransducer and activator of transcription 3)の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物、特にテトラヒドロイソキノリン誘導体を含む。特定のマウス系統の胚性幹細胞は、マウス胎仔由来の線維芽細胞からなるフィーダー細胞の存在、非存在にかかわらず、LIFによって未分化が維持される。LIFはSTAT3の活性化を介して下流にシグナルを伝えることが知られている(Matsudaら、EMBO Journal、18、15、p4261、1999年)。しかし、最近になってSTAT3を活性化せずに胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制因子が存在することが報告されたことから(Daniら、Developmental Biology、203、p149、1998年)、STAT3を介さない胚性幹細胞の未分化維持機構が存在すると考えられている。さらに、LIFが、霊長類胚性幹細胞の未分化維持に効果を示さないことから(Thomsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,p7844,1995年、Thomsonら、Science,282,p1145,1998年、Reubinoffら、Nature Biotech,18,p399,2000年)、霊長類胚性幹細胞には、LIFおよびSTAT3とは異なるシグナルによって未分化状態を維持する機構が存在することが示唆される。本発明の分化抑制剤にはSTAT3の活性化を介さずに胚性幹細胞の未分化を維持する低分子化合物が含まれる。いいかえれば、LIFとは異なる作用により胚性幹細胞の未分化を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
最近、LIFおよびSTAT3を介さずに胚性幹細胞の未分化を制御する分子のひとつとしてNanog遺伝子が同定された(Mitsuiら、Cell、113、p631、2003年、Chambersら、Cell、113、p643、2003年)。Nanog遺伝子は、マウス、ヒトでその存在が確認され、遺伝子破壊により発現を抑制すると、胚性幹細胞の全能性は失われ、逆に、Nanog遺伝子を強発現させて発現量を増加させると、LIF非存在下でも胚性幹細胞の未分化を維持することができる。従って、Nanog遺伝子の発現量を増加させ得る物質、例えば低分子化合物は、胚性幹細胞の未分化維持、即ち、全能性の胚性幹細胞の培養に利用することができる。
また、Nanog遺伝子の強発現がSTAT3を活性化しないことから、Nanog遺伝子はLIFおよびSTAT3非依存的に胚性幹細胞の未分化を維持する。即ち、Nanog遺伝子の発現量を増加させ得る物質、例えば低分子化合物は、LIFによる未分化維持の効果が認められない胚性幹細胞においても、その培養に用い得ることが示唆される。
本発明の分化抑制剤にはNanog遺伝子の発現量を増加させる低分子化合物が含まれる。即ち、本発明の分化抑制剤にはNanog遺伝子の発現量の増加を介して胚性幹細胞の未分化維持能を発揮する低分子化合物が含まれる。
また、最近の報告によれば、ある種の骨髄由来間葉系幹細胞においても胚性幹細胞と同様に、マウス由来の幹細胞の培養はLIF依存的であるが、ヒト由来の幹細胞はLIF非依存的であることが示されている(Verfaillieら、Nature,418,p41,2002年)。これは、多分化能を示す幹細胞は、胚性幹細胞と同様の未分化維持機構を有していることを示唆し、従って、霊長類幹細胞においても、胚性幹細胞と同様に、LIF−STAT3経路とは異なるシグナルによって未分化が維持されている可能性が示唆される。本発明の分化抑制剤には、STAT3を介さずに細胞の未分化状態を維持する活性を有する低分子化合物が含まれる。
本発明の分化抑制剤は、動物細胞培養用基礎培地である任意の哺乳類細胞培養基本培地に添加して使用することができる。動物細胞基本培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地:DMEM、ノックアウトDMEM、グラスゴーMEM:GMEM、RPMI1640、IMDM(以上 InvitrogenInvitrogen社製、米国)などが挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施態様としての細胞培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。さらにこれらの基礎培地に血清または血清代替物、各種増殖因子、サイトカインなど、細胞増殖や分化制御に関わる蛋白質を添加して用いることもできる。また、任意の化合物を添加しても良い。血清は、幹細胞ならびに胚性幹細胞の増殖および生存性の維持に効果的である栄養素を供給する任意の血清、または、血清ベースの溶液であり得る。このような血清の例には、ウシ胎仔血清(FCS)、ウシ血清(CS)、馬血清(HS)などがあり、また、血清代替物としては当業者に周知のもの、蛋白質、アミノ酸、脂質、ビタミンなどを単独で、或いは組み合わせて用いることができる。蛋白質としてはインスリン、トランスフェリン、アルブミン、ペプトン、FGF(Fibroblast Growth Factor)、EGF(EpitherialGrowth Factor)などが、アミノ酸としてはアルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが、ビタミンとしては、パントテン酸、コリン、葉酸、イノシトール、ニコチン酸アミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシンなどが例示されるがこれらに限定されない。1つの実施態様において、血清はウシ胎仔血清である。より特定の実施態様において、ウシ胎仔血清は約25%と約1%との間の濃度で提供される。さらにより特定の実施態様において、細胞培地でのウシ胎仔血清濃度は15%である。また、他の実施態様において、血清代替物はノックアウト血清リプレースメント:KSR(Invitrogen社製、米国)である。添加し得る細胞増殖因子としては、肝細胞成長因子(HGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、骨形成因子(BMP)、幹細胞因子(SCF)、Wntなどが例示されるがこれらに限定されない。添加し得るサイトカインとしてはインターロイキン(IL)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などが例示されるがこれらに限定されない。また、LIF、ノッチリガンドなどの分化制御因子を添加することもできる。また、添加する化合物は特に限定されないが、任意の蛋白質に対するアゴニストまたはアンタゴニストであってよく、また、任意のリン酸化阻害剤であっても良い。1つの実施態様に於いて、PD98059(Cell Signaling Technology社製)が提供される。また、他の実施態様に於いて6−ブロモインジルビン−3オキシムが提供される。
細胞培地は、抗酸化剤(還元剤)(例えば、β−メルカプトエタノール)も含む。ある好適な実施態様において、β−メルカプトエタノールは、約0.1mMの濃度を有する。他の抗酸化剤(例えば、モノチオグリセロール、もしくは、ジチオスレイトール(DTT)の単独もしくは組み合わせ)が同様の効果のために使用され得る。さらに他の等価な物質は、細胞培養の分野の当業者に周知である。
本発明の分化抑制剤ならびにその有効成分は、任意の培養基材とともにあるいは培養基材に固定して使用することもできる。培養基材には多孔質体を使用することがでる。多孔質体とは、微細な孔を多数有する基材のことをいい、その材質、厚さ、形状、寸法などは特に限定はない。多孔質体の材質は、有機材料、無機材料及び有機材料と無機材料からなる複合材料であっても良い。多孔質体の形状は平板状、球状、棒状、繊維状、中空状のいずれの形態であっても良く、例えば、フィルム、シート、膜、板、不織布、ろ紙、スポンジ、織物、編物、塊、糸、中空糸、粒子等が挙げられる。細胞を培養するにあたって、3次元的に培養できるように細胞を支持する孔の大きさを簡単に制御できることや、基材作製の容易さ及びコストなどを考慮すると不織布がより好ましい。多孔質体の孔の大きさについては、特に限定はないが、細胞を3次元的に支持できるようにすることを考慮すると、平均孔径が、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下がさらに好ましい。繊維径については特に限定はないが、0.03デニール以下が好ましい。
上記の多孔質体は、細胞の接着性や分化維持機能、増殖能を向上させるために、高分子化合物により表面コーティング処理を施されていてもよい。高分子物質とは、1種以上の繰り返し構成単位の単量体が1次元、2次元、3次元的に連なった分子量数百以上の物質のことをいう。高分子物質は、大きく天然高分子物質、半合成高分子物質、合成高分子物質の3つに分類することができ、本発明においていずれの高分子物質も使用することができる。
例えば、天然高分子物質としては、マイカ(雲母)、アスベスト(石綿)、グラファイト(石墨)、ダイアモンド、でんぷん、セルロース、アルギン酸等に代表される糖類及びゼラチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン等に代表されるタンパク質等が挙げられる。半合成高分子物質としては、ガラス、硝酸セルロース、酢酸セルロース、塩酸ゴム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。合成高分子物質としては、ポリホスホニトリルクロライド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体に代表されるような2種類以上の合成単量体からなる共重合体等が挙げられる。
コーティング処理のし易さを考慮すると、有機高分子物質が好ましく、タンパク質やペプチド並びに有機合成高分子物質がさらに好ましい。一つの実施態様に於いて、培養基材はゼラチンである。また、他の実施態様においては、マトリゲル(BD Biosciences社)である。
本発明の分化抑制剤を固定した培養基材を細胞捕捉材として用いることにより、複数の異なる細胞からなる集団から、幹細胞或いは胚性幹細胞を分離し、かつ、培養を行える方法及び装置が提供され得る。即ち、幹細胞或いは胚性幹細胞と、除去対象細胞を含む細胞含有液を本発明の分化抑制剤を固定した、多孔質体などの培養基材からなる細胞捕捉材が充填されている容器に導入し、細胞捕捉材に幹細胞或いは胚性幹細胞を捕捉させ、除去対象細胞を容器外に導出した後に容器ごと培養することを特徴とする幹細胞或いは胚性幹細胞培養方法であり、また本発明の分化抑制剤を固定化した培養基材からなる細胞捕捉材を容器に充填した細胞培養装置であって、前記細胞捕捉材は細胞培養用担体として使用し得るものであり、前記容器は細胞培養に使用し得るものであることを特徴とする細胞培養装置である。除去対象細胞とは、幹細胞或いは胚性幹細胞以外の全ての細胞をいう。また、幹細胞或いは胚性幹細胞から分化して、多分化能を失った細胞もこれに含まれる。細胞捕捉材に導入する細胞含有液としては、幹細胞或いは胚性幹細胞を含有する細胞液であればいかなるものでもよく、一例として、血液、骨髄、砕片組織液、或いは、幹細胞、胚性幹細胞の培養液などがあげられる。
本発明は幹細胞ならびに胚性幹細胞を増殖するための方法に関する。本発明の分化抑制剤を用いて増殖させた幹細胞ならびに胚性幹細胞の培養物を提供することができる。
本発明の分化抑制剤を用いて培養される細胞には、公知の方法および材料を使用して入手し得る全ての幹細胞および胚性幹細胞が含まれる。幹細胞には以下の公知の方法によって入手し得る幹細胞が一例として挙げられる。骨髄細胞(「骨髄移植ガイド」H.J.ディーグ、H.G.クリンゲマン、G.L.フィリップス著/笠倉新平訳)、骨髄幹細胞(Osawaら、Science、273、p242−245、1996年、Goodellら、J.E.Med.183、p1797−1806、1996年、Verfaillieら、Nature,418,p41,2002年)、神経幹細胞(Reynoldsら、Science、p1707−1710、1992年)、組織幹細胞(Goodellら、J.E.Med.183、p1797−1806、1996年、松崎ら、実験医学、19、p345−349、2001年、Blauら、Cell、105、p829−841、2001年)、間葉系幹細胞(Liechtyら、NatureMedicine、6、p1282−1286、2000年。Pittengerら、Science、284、p143−147、1999年)。皮膚幹細胞・表皮幹細胞(室田誠逸編、「再生医学・再生治療」現代化学増刊41、東京化学同人)。
また、培養されるべき胚性幹細胞としては、以下に示す、公知の方法および材料を使用して入手し得る。マウス胚性幹細胞:Evansら、Nature,292,p154,1981年、ウシES細胞:Schellanderら、Theriogenology,31,p15−17,1989年、豚ES細胞:Strojekら、Theriogenology,33:p901,1990年、羊ES細胞:Handyside、Roux’s Arch.Dev.Biol.,196:p185,1987年、ハムスターES細胞:Doetschmanら,Dev.Biol.,127、p224,1988年、サルES細胞:Thomsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,p7844,1995年、カニクイザルES細胞:Suemoriら、Dev.Dyn.222、P273,2001年、ヒトES細胞:Thomsonら、Science,282,p1145,1998年、Reubinoffら、NatureBiotech,18,p399,2000年、ヒトEG細胞:Gearhartら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95,p13726,1998年。また、マウス胚性幹細胞(129SVおよびC57/BL6)は、大日本製薬より購入できる。
本発明により提供される分化抑制剤は、全ての幹細胞および胚性幹細胞に用いることができるが、哺乳類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが望ましく、霊長類の幹細胞および胚性幹細胞に用いることが好ましい。
細胞ならびに胚性幹細胞は、一旦単離されると、本発明の分化抑制剤を使用して未分化な状態で培養され得る。
本発明の分化抑制剤を用いて培養した幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の未分化程度は幹細胞の細胞膜上に存在するアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定することにより確認することができる。未分化な胚性幹細胞ではALPの活性が維持され、分化すると減少することが知られている(Williamsら、Nature、336、p684、1988年。Thomsonら、Science、282、p1145,、1998年。)。不溶性基質を用いた染色法、あるいは水溶性基質を用いた分光学的測定法などによりアルカリホスファターゼ(ALP)活性を検出する方法が挙げられる。
一つの実施態様において、分光学的測定法によりALP活性を定量することができる。培養ディッシュ上の細胞にパラニトロフェニルホスフェイト(pNPP)のアルカリ性溶液を添加する。細胞膜上に存在するALPによってpNPPが加水分解され、パラニトロフェノールが生じる。生成した溶液の405nmの吸光度を測定することによって、アルカリホスファターゼ活性を定量することができる。実施例1(5)に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を添加して培養した胚性幹細胞のALP活性を測定すると、分化抑制剤を含まない培地にて培養したコントロールの胚性幹細胞にくらべ有意に高いALP活性を有していることが示される。即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認される。
他の実施態様において、ALP染色法によりALP活性を検出することもできる。培養ディッシュ上の細胞に、基質としてリン酸エステル塩とジアゾニウム塩を含む反応溶液を添加する。細胞膜状に存在するアルカリホスファターゼによりリン酸エステル塩が加水分解され、次いでジアゾニウム塩とカップリング反応することによりアゾ色素が生じ、ALP活性部位に色素が沈殿する。染色されたコロニー数を計測することにより細胞のALP活性を定量化することが可能となり、即ち細胞の未分化度合いを定量することができる。実施例1(6)に記載の方法により、本発明の分化抑制剤を用いて培養した胚性幹細胞をALP染色すると、分化抑制剤を用いないコントロール細胞に比べ有意にALP活性が高いことが示され、即ち本発明の分化抑制剤が、胚性幹細胞の未分化状態を維持して増殖させ得ることが確認される。
また、胚性幹細胞の未分化程度はOct−3/4遺伝子の発現量を測定することによって確認することができる。Oct−3/4遺伝子はPOUファミリーに属する転写因子で、胚性幹細胞、胚性癌細胞(EC細胞)で、未分化状態特異的に発現し(Okamotoら、Cell、60、p461、1990年)、胚発生においても未分化細胞系譜においてのみ発現し(Scholer、Trends Genet、7、p323、1991年)、さらに、Oct−3/4遺伝子破壊マウスのホモ個体は胚盤胞期で発生を停止することから未分化状態維持に重要な機能を有していることが明らかにされている(Nicholsら、Cell、95、p379、1998年)。また、一方、Oct−3/4遺伝子の過剰発現は胚性幹細胞の分化を促進することが最近明らかにされ(Niwaら、Nat.Genet.24、p372、2000年)、Oct−3/4の発現量をある一定の範囲に保つことが未分化状態の維持に重要である。Oct−3/4遺伝子の発現量を測定する一つの実施態様としては定量的PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いることができる。
一つの実施態様においてはリアルタイムPCR法が用いられ、幅広いダイナミックレンジをもち、簡便で信頼性のある定量測定が可能である。リアルタイムPCR技術には、ABIPRISM7700TM(Applied Biosystems)を使用したTaq Manプローブを用いる方法や、LightCyclerTM(ロシュ・ダイアグノスティック)を用いた方法がある。特に後者の場合はPCRの温度サイクルが数十分で終了する高速反応サイクルのもとで、サイクルごとに合成されるDNAの増幅量変化をリアルタイムに検出できる。リアルタイムPCR法のDNA検出法としては、DNA結合色素(インターカレーター)、ハイブリダイゼーション・プローブ(キッシングプローブ)、TaqManプローブおよびSunriseユニプライマー(モレキュラー・ビーコン)を利用する4種類の方法がある。また、DNA結合色素、例えばSYBR GreenIを利用してOct−3/4遺伝子の発現量を解析することができる。SYBR GreenIはDNAの二本鎖特異的に結合色素であり、二本鎖に結合することで本来の蛍光強度が増強される。PCR反応時にSYBR GreenIを加え、伸張反応の各サイクルの終わりに蛍光強度を測定すれば、PCR産物の増加が検出できる。Oct−3/4遺伝子を検出するには通常のPCRと同様にOct−3/4遺伝子の配列をもとに、市販の遺伝子解析ソフトウェアなどを用いてプライマーを設計する。SYBR GreenIは非特異的産物も検出してしまうため最適なプライマーの設定が必要となる。設計基準としては、オリゴマーの長さ、配列の塩基組成、GC含量、およびTm値などに留意が必要である。
多くの場合、定量PCRにおいて明らかにすることを目的とするのは、サンプル一定量当たりの目的DNA量である。このためには最初に反応系に加えたサンプル量の評価が必要である。この場合サンプル量を反映するような内部標準となる別のDNAを目的DNAとは別に測定し、最初に反応系に加えたサンプル量を補正することができる。サンプル量を補正する目的で用いる内部標準には、通常、組織によって発現量に差がないと考えられているハウスキーピング遺伝子を用いることができる。例えば、解糖系の主要酵素であるグリセロアルデヒドリン酸脱水素酵素(GAPDH)、細胞骨格の構成成分であるβアクチンまたはγアクチン、リボゾームの構成蛋白質であるS26などの遺伝子が挙げられる。
Oct−3/4遺伝子の発現レベルは、本発明の分化抑制剤に暴露された細胞について決定することができる。分化抑制剤に暴露されていない、即ち、胚性幹細胞から分化誘導されたコントロール細胞のOct−3/4遺伝子発現量にくらべ、有意にOct−3/4遺伝子の発現量を維持させることができる活性を有する化合物が、胚性幹細胞の未分化を維持する分化抑制剤であるとみなされる。
最適化された胚性幹細胞の未分化維持培養基材をスクリーニングするさらに他の方法として、ステージ特異的胚抗原(Stage Specific Embryonic Antigen)(以後SSEAと記載)−1、SSEA−3、SSEA−4などの未分化な細胞に特異的に発現する抗原を検出方法が挙げられる(Smithら、Nature、336、p688、1988年、Solterら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A、75、p5565、1978年、Kannagiら、EMBO J.2、p2355、1983年)。
一つの実施態様において、SSEA−1などの表面抗原は、同抗原を認識する特異的抗体(一次抗体)とインキュベートし、さらに蛍光標識のようなレポーターと結合した第二の抗体(二次抗体)とインキュベートことにより、標識することができる。この操作により目的の抗原を発現する細胞が、蛍光性になる。次いで、標識された細胞を標準的な方法、例えばフローサイトメーターを用いて、計数、さらには分取され得る。次いで、標識および非標識細胞の数は、目的とする培養基材の効果を決定するために比較され得る。あるいは、非標識細胞表面マーカー抗体に曝露された後、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)形式において、その細胞は、抗細胞表面抗原抗体(例えば抗SSEA−1抗体)に対して特異的な第二の抗体に曝露され得、そこから、所望の表面抗原を発現する細胞の数が、比色定量的に、または蛍光を測定することにより定量され得る。表面抗原を発現する細胞を定量するさらに他の方法も、細胞培養の当業者に周知である。
本発明によって提供される、幹細胞、または胚性幹細胞の増殖に対する改善された分化抑制剤、培養方法および培養液は、幹細胞または胚性幹細胞が有用であるすべての技術に対して適用されることが予想される。
本発明の分化抑制剤、培養方法および培養液を用いて産生される細胞は、分化させ、細胞移植に用いたり、人工支持組織の利用と併せ人工的な組織構築に使用され、生体内へ移植したり人工臓器として利用されうる。幹細胞の細胞移植治療や組織工学への利用は、ドナーにおける移植片摘出後の組織欠損やドナー不足など、従来の自家移植を含む移植治療が抱える問題点を解決できる。移植のために培養された細胞や組織は、治療のため、採取した人と同一人に戻す場合と他人に移植する場合があるが、本発明の細胞等はいずれにも用いることができる。
本発明の分化抑制剤、それを用いた培養方法、それを含む培養液により得られた、非改変および改変された幹細胞、好ましくは胚性幹細胞の培養物は、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞のモニタリングまたは幹細胞収集を改良する物質についてスクリーニングするために使用される。例えば、推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質は、上記の方法を用いて増殖させた細胞培養物へ添加され得る。推定の幹細胞或いは胚性幹細胞分化誘導物質を欠損した対照細胞培養物と比較して、三胚葉系列への分化を誘導し得る物質は、胚性幹細胞分化誘導因子として同定される。
本発明の分化抑制剤および/または化合物、またはその塩は、優れた幹細胞未分化維持ならびに増殖能を有することから、病気または外傷などにより傷害を受けた組織または器官の治療剤として用いることができる。対象となる疾患としては、例えば皮膚関連では、熱傷、難治性皮膚潰瘍、じょくそう、肥厚性瘢痕、母斑、刺青など、骨関連では、骨折、骨粗しょう症など、軟骨関連では、変形性関節症、慢性リウマチ、椎間板ヘルニア、骨端症、スポーツ障害など、神経関連では、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、外傷による四肢の神経切断、頭頸部外科・胸部外科に伴う損傷、顔面神経麻痺、横隔膜神経損傷、骨盤内神経損傷など、歯関連では歯周病・歯槽膿漏による歯槽骨損傷、無歯症が、毛髪では男性型脱毛症が、角膜では先天性異常、内皮細胞代償不全、角膜感染による混濁、角膜変性症、角膜形状異常など、血管関連では高血圧、慢性動脈閉塞症、虚血性心疾患など、心筋では心筋梗塞、膵臓では糖尿病など、肝臓では肝炎、肝硬変、肝不全などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の分化抑制剤および/または化合物は、上記の疾患に対して予防および/または治療剤として、経口投与または非経口投与のいずれも可能であり、薬学的に許容される担体と混合し、通常、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤など固形製剤として経口投与されるか、静脈内、皮下、筋肉内などに注射剤、坐薬若しくは舌下錠などとして非経口投与される。また、舌下錠、マイクロカプセルなどの徐放製剤として、舌下、皮下および筋肉内などに投与してもよい。一日の投与量は、症状の程度;投与対象の年齢、性別、体重、感受性差;投与の時期、間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類;有効成分の種類などによって異なり、特に限定されないが、通常、哺乳動物1kg体重あたり約0.01〜100mg、好ましくは約0.02〜20mg、更に好ましくは0.1〜10mg、最も好ましくは0.5〜10mgを、通常1日1〜4回に分けて投与する。畜産または水産分野で使用する場合の投与量も上記に準ずるが、投与対象生物1kg体重あたり約0.01〜30mg、好ましくは約0.1〜10mgを、通常一日1〜3回に分けて投与する。本発明の化合物の医薬組成物中の含有量は、組成物全体の約0.01ないし100重量%である。
上記薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。上記賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。上記滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。上記結合剤の好適な例としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
上記崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。上記溶剤の好適な例としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。上記溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。上記懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。
上記等張化剤の好適な例としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。上記緩衝剤の好適な例としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤の好適な例としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。上記防腐剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。上記抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
本発明の分化抑制剤および/または化合物に、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等脹化剤、保存剤などを添加し、公知の方法により静脈、皮下、筋肉内注射剤とすることができる。その際必要により公知の方法により凍結乾燥物とすることも可能である。本発明化合物を例えばヒトに投与する場合は、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤と混合し、医薬組成物として経口的または非経口的に安全に投与することができる。上記医薬組成物としては、経口剤(例、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤)、非経口剤〔例、注射剤、点滴10剤、外用剤(例、経鼻投与製剤、経皮製剤など)、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤など)など〕が挙げられる。これらの製剤は、製剤工程において通常一般に用いられる自体公知の方法により製造することができる。
本発明の分化抑制剤および/または化合物は分散剤(例、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国、HCO60(日光ケミカルズ製)ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコールなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、ブドウ糖など)などと共に水性注射剤に、あるいはオリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコールなどに溶解、懸濁あるいは乳化して油性注射剤に成形し、注射剤とすることができる。経口剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明の分化抑制剤および/または化合物を例えば賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプンなど)、崩壊剤(例、デンプン、炭酸カルシウムなど)、結合剤(例、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースなど)または滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000など)などを添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより経口投与製剤とすることができる。そのコーティング剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ツイーン80、プルロニックF68、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネート、オイドラギット(ローム社製、ドイツ,メタアクリル酸・アクリル酸共重合)および色素(例、ベンガラ、二酸化チタンなど)などが用いられる。腸溶性製剤とする場合、腸溶相と薬剤含有相との間に両相の分離を目的として、自体公知の方法により中間相を設けることもできる。
外用剤とするには、公知の方法に従い、本発明の分化抑制剤および/または化合物を固状、半固状または液状の外用投与剤とすることができる。例えば、上記固状のものとしては、本発明化合物をそのまま、あるいは賦形剤(例、グリコール、マンニトール、デンプン、微結晶セルロースなど)、増粘剤(例、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体など)などを添加、混合して粉状の組成物とする。上記液状のものとしては、注射剤の場合とほとんど同様に油性または水性懸濁剤とする。半固状の場合は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらはいずれも、pH調節剤(例、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウムなど)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウムなど)などを加えてもよい。例えば坐剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明化合物を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の坐剤とすることができる。上記組成物に用いる油性基剤としては、例えば高級脂肪酸のグリセリド〔例、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製,ドイツ)など〕、中級脂肪酸〔例、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製,ドイツ)など〕、あるいは植物油(例、ゴマ油、大豆油、綿実油など)などが挙げられる。また、水性基剤としては、例えばポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、水性ゲル基剤としては、例えば天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体などが挙げられる。
化合物(9)及び(10)のプロドラッグとは、生体内において酵素や胃酸等による代謝反応により、幹細胞増殖作用を有する化合物(9)及び(10)に変換される化合物をいう。化合物(9)及び(10)のプロドラッグとしては、化合物(9)及び(10)がアミノ基を有する場合、該アミノ基がアシル化、アルキル化、りん酸化された化合物(例、化合物(9)及び(10)のアミノ基がエイコサノイル化、アラニル化、ペンチルアミノカルボニル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メトキシカルボニル化、テトラヒドロフラニル化、ピロリジルメチル化、ピバロイルオキシメチル化、tert−ブチル化された化合物など);化合物(9)及び(10)がカルボキシルを有する場合該カルボキシルがエステル化、アミド化された化合物(例、化合物(9)及び(10)のカルボキシルがエチルエステル化、フェニルエステル化、カルボキシメチルエステル化、ジメチルアミノメチルエステル化、ピバロイルオキシメチルエステル化、エトキシカルボニルオキシエチルエステル化、フタリジルエステル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル化、シクロヘキシルオキシカルボニルエチルエステル化、メチルアミド化された化合物など);等が挙げられる。これらの化合物は公知の方法によって製造することができる。また、化合物(9)及び(10)のプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁から198頁に記載されているような、生理的条件で化合物(9)及び(10)に変化するものであってもよい。
化合物(9)及び(10)のプロドラッグはそれ自身であっても、薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、化合物(9)及び(10)のプロドラッグがカルボキシル等の酸性基を有する場合、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、鉄、銅等の遷移金属等)や有機塩基(例、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどの有機アミン類、アルギニン、リジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸類等)などとの塩が挙げられる。化合物(9)及び(10)のプロドラッグがアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸や有機酸(例、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、炭酸、重炭酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等)、アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸等との塩が挙げられる。また、化合物(9)及び(10)のプロドラッグは水和物および非水和物のいずれであってもよい。化合物(9)及び(10)は分子内に1もしくは2箇所幾何異性体(シス−トランス異性体)を生じる場合があるが、任意の比率でシス体、トランス体を有する化合物も本発明に包含される。化合物(10)は分子内に1ないしそれより多い不斉炭素を有する場合があるが、これら不斉炭素に関しR配置、S配置のいずれも本発明に包含される。化合物(9)及び(10)は同位元素(例、3H、14C)などで標識されていてもよい。
化合物(9)及び(10)のプロドラッグとしては、多糖(例:デキストラン、プルラン、マンナン、キチン、キトサンなど)に化合物(9)及び(10)がアミノ基、カルボキシル基、水酸基などを反応点として結合したものでも良い。また、化合物(9)及び(10)がシクロデキストリン(α体、β体、γ体などがあるが、好ましくはβ体またはγ体)などに包摂された複合体でもよい。
【実施例】
次に本発明を具体化した実施例を示す。この実施例は、本発明を実施する当業者を補助するために提供される。これらの実施例は、いかなる様式においても、決して本発明の範囲を制限するものではない。また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。以下の実施例に記載の「室温」は0ないし30℃を示す。「%」は特記しない限り重量パーセントを意味する。
[実施例1]
(1)マウスES細胞培地の作製
ES細胞を増殖させる目的で、Dulbecco’sModified Eagle Medium(以下DMEM)(Invitrogen社製 11995)に、以下に示す最終濃度で因子を添加してES細胞培地を調製した。15%ウシ胎仔血清(Invitrogen社製)もしくは15%ノックアウト血清リプレースメント:KSR(Invitrogen社製)、0.1mM β−メルカプトエタノール(SIGMA社製)、1×非必須アミノ酸ストック(Invitrogen社製 11140−050)、2mM L−Glutamine(Invitrogen社製 25030−081)、103unit/ml ESGRO(CHEMICON International Inc.,社製)。
ただし、ESGROはマウスLIFを有効成分として含有する。ES細胞分化抑制アッセイ用の培地として、上記のES細胞培地からESGROを除いたアッセイ培地を作製した。
(2)マウスES細胞の培養
直径6cmの細胞培養用ディッシュに、蒸留水に0.1%の濃度でGelatin(SIGMA社製 TypeA:from porcinESkin、G2500)を溶解し、滅菌した0.1%ゼラチン水溶液5mlを添加し、37℃で30分以上静置した。ゼラチン水溶液を除いて、マイトマイシンC(協和発酵社製)処理したマウス胚性初代培養細胞(Invitrogen社製 YE9284400)2×10個を播種し、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社製)を含むDMEM5mlで、37℃、5%COインキュベーター(タバイエスペック社製)で5時間以上培養した。マウス胚性幹細胞株D3ES細胞(Rolf Kemler、Max Planck Institut fur Immunbiologie、Stuheweg51、D−79108Freiburg、Germany、より入手可能)を、直径6cm繊維芽細胞フィーダー層上に播種し、5mlのES培地で、37℃、5%COインキュベーターで2日間培養して増殖させた。
(3)マウスES細胞の調製
前記の(2)ES細胞の培養の方法に従って培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄後、0.25%トリプシン溶液(Invitrogen社製 15090−046)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を20mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、再度、0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径15cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。浮遊細胞を含む培地を50mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁してES細胞を得た。
(4)ES細胞分化抑制剤アッセイ1
前記の(3)マウスES細胞の調製で得たD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした96穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3072、米国)に、1ウェルあたり3×10〜1×10個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が90μlになるように播種した。各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または水、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A,B,C,D,E,F:A〜DはASINEX社(ロシア)、E〜FはPHARMEKS社(ロシア)から購入)、あるいはESGROを10μl添加し、37℃、5%COインキュベーターで7日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。またコントロールウェルには、DMSOのみを最終濃度で0.1%となるように加えた。化合物Aの構造を図1に、化合物B〜Fの構造を図2に示した。
(5)アルカリホスファターゼ定量1
ES細胞のアルカリホスファターゼ活性を、p−NITROPHENYLPHOSPHATESOLUTION(MOSS Inc.社製、PRODUCTNO.NPPD−1000、米国、またはSIGMA社製、A−3469、米国製)(以下、p−NPP)を用いて定量した。
前記の(4)ES細胞分化抑制剤アッセイ1に記載の方法で7日間培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、p−NPP100μlを各ウェルに加え、室温で10分間静置した。各ウェルに12.5μlの8M水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応を停止させた。溶液の405nmの吸光度(O.D.405)と690nmの吸光度(O.D.690)を吸光度計(Molecular Devices社製、型式:SPECTRA MAX190)により測定し、O.D.405−O.D.690で算出される値をアルカリホスファターゼ活性とした。定量結果をグラフ化したものを図3に示した。
本発明の分化抑制剤、化合物A〜FはコントロールであるDMSO(0.1%)に比べて有意にアルカリホスファターゼ活性を増幅させた。即ち、本発明の分化抑制剤は未分化なES細胞の培養を支持したことがわかる。
(6)アルカリホスファターゼ染色1
ES細胞をアルカリホスファターゼキット(SIGMADiagnostic社製 Cat.No.86−R)を用いて染色した。前記の(4)ES細胞分化抑制アッセイ1に記載の方法で培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を2mlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、2mlの細胞固定液(25ml クエン酸溶液(SIGMA社製 Cat.No.91−5)、65ml アセトン、8ml 37%ホルムアルデヒド)を各穴に加え、室温で30秒静置する。
固定液を吸引除去し、2mlの脱イオン水を各穴に加えて45秒室温で静置する。
脱イオン水を吸引除去し、ついでアルカリホスファターゼ染色液(1ml 亜硝酸ナトリウム溶液、1ml ファーストレッドバイオレットLBソルト溶液、1ml ナフトールAS−BIアルカリ溶液、45ml 蒸留水)を1ウェルあたり2ml加え15分間室温で静置後、染色液を吸引除去し、脱イオン水2mlで洗浄した。ネガティブコントロールであるESGRO非存在下で培養したES細胞、ポジティブコントロールである、ESGRO(1000ユニット/ml)存在下で培養したES細胞、そして、本発明の分化抑制剤である化合物B(4μg/ml)存在下で培養したES細胞の染色像を比較した(図4参照)。化合物B存在下で培養したES細胞は、ESGRO非存在下で培養したES細胞に比べ、有意に濃く染色されており、高いアルカリホスファターゼ活性を有していることが示された。さらに、本発明の分化抑制剤は、ポジティブコントロールであるESGRO存在下で培養したES細胞と同等の未分化コロニーを形成させることもできた。すなわち、本発明の分化抑制剤は、ES細胞の未分化状態での増殖を強く支持したことがわかる。
なお、化合物A、C〜Fについても、化合物Bと同様に染色された。
(7)STAT3活性化アッセイ1
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした24穴細胞培養用ディッシュ(FALCON Cat.No.3047、米国)に、1ウェルあたり1×10個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞培地が500μlになるように播種し、37℃、5%COインキュベーターで12時間〜24時間培養した。次に、LipofectAMINE 2000(Invitrogen社製、米国)を用いて、添付のプロトコールに従って、pSTAT3−TA−Luc、またはpTA−Lucベクター(Clontech社製、米国)を1ウェルあたり0.9μgをES細胞にトランスフェクションした。また、内部コントロールとして、pRL−TKベクター(Promega社製、米国)を各ウェル0.1μg、同時にトランスフェクションした。37℃、5%COインキュベーターで4時間培養後、培地を吸引し、PBSで2回洗浄したのち、ESアッセイ培地を各ウェル500μlずつ加えた。次いで、各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)または水或いはその混合物に溶解した分化抑制剤、あるいは10〜10,000unit/mlとなるようにESアッセイ培地で希釈したESGROを50μl添加し37℃、5% COインキュベーターで6〜24時間培養した。続いて、ピッカジーンデュアル・シーパンジー(東洋インキ製造社製、日本)を用いて、添付のプロトコールに従って、各細胞のルシフェラーゼ・レポーター酵素による発光シグナルを測定した。図5に示すように、ESGROが容量依存的にpSTAT3−TA−Lucによるレポーター酵素の発現を亢進させたのに対し、本発明の化合物Bは、レポーター酵素の発現を誘導しなかった。
また、化合物A、C〜Fについても同様の実験を行うことにより、レポーター酵素の発現の有無を確認することができる。
[実施例2]
(1)ES細胞分化抑制アッセイ2
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに8×10個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が10mlになるように播種した。各ディッシュに40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜F)、あるいは10units/mlに調製したESGROを1ml添加し、37℃、5%COインキュベーターで7日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。
(2)RNAの単離1
前記の(1)ES細胞分化抑制アッセイ2に示す方法で培養したES細胞からISOGEN(株式会社ニッポンジーン社製、日本)を用い、添付の方法に従ってトータルRNAを抽出した。即ち、培養後のディッシュから培地を除去し、PBS 10mlで二回洗浄し、ISOGENE 1mlに溶解した。室温で5分間静置した後、1.5mlのエッペンドルフチューブに回収した。クロロホルム(和光純薬)を0.2ml加え、15秒間振とうし、2〜3分間室温で静置した。微量遠心機(トミー精工)で4℃、10000rpmで15分間遠心した。上清400μlを新しい1.5mlのエッペンドルフチューブに移し、500μlのイソプロパノール(和光純薬)を加え、室温で10分間静置後、微量遠心機にて4℃、10000rpmで10分間遠心した。上清を除去後、70%エタノール水溶液を1ml加え、振とうした後、微量遠心機にて4℃、10000rpm、約5分間遠心した。上澄みを除去して沈殿を乾燥させた後、30μlの蒸留水に溶解させ、トータルRNA溶液を得た。
このようにして得られたトータルRNAの2μgを鋳型に、DeoxyribonucleaseI(Amplification Grade)(Invitrogen社製)、Oligo(dT)12−18プライマー(Invitrogen社製18418−012)、オムニスクリプトリバーストランスクリプターゼ(QIAGEN社製)を用い添付のプロトコールに従ってcDNAを合成した。即ち、トータルRNA2μgに1μlの10×DNaseI Reaction BuffeR1μlの10×DNaseI(以上Invitrogen社製)と蒸留水を加えて10μlとなるようにした反応液を作製し、室温で10分間インキュベートした。25mM EDTA溶液を1μl加えて、65℃で10分間加熱した。室温に戻した後、2μlの10×Buffer RT、2μlの5mM dNTP Mix、2μlのOligo(dT)12−18プライマー、0.25μlのRNaseOUT(Invitrogen社製、10777−019)、1μlのOmniscript Reverse Transcriptaseを加え、RNaseフリー精製水で全量20μlに合わせ、37℃で60分間インキュベートして、cDNA溶液を得た。このようにして得た合成cDNAの一部を蒸留水で5倍に希釈し、その2μlを鋳型として、ライトサイクラーファーストスタートDNAマスターSYBRグリーンIキット(ロシュ・ダイアグノスティック社製)を用い添付のプロトコールに従ってPCRを行った。Oct−3/4遺伝子、並びに内部標準としてグリセロアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の発現量を測定した。Oct−3/4遺伝子の増幅には、センスプライマーOCT3 up(配列表配列番号1)、およびアンチセンスプライマーOct3 down(配列表配列番号2)を用い、GAPDH遺伝子の増幅には、センスプライマーGAPDH up(配列表配列番号3)、およびアンチセンスプライマーGAPDH down(配列表配列番号4)を用いた。PCR反応液の組成と反応条件を以下にそれぞれ示す。

本発明の分化抑制剤(B,D,F)存在下で培養したES細胞のOct−3/4遺伝子の発現は、分化抑制剤を含まない培地にて培養したES細胞に比べ有意に亢進しており、ESGRO1,000ユニット/mlと同等のOct−3/4遺伝子発現維持効果が認められた(図6)。即ち、本発明の分化抑制剤(B,D,F)は、ES細胞の未分化を維持することがOct−3/4遺伝子の発現量から確認された。以上の結果から、本発明の分化抑制剤、化合物B,D,FがES細胞の未分化状態を維持することがOct−3/4遺伝子の発現量からも示された。
また、分化抑制剤A,C,Eについても同様の検討を行ったところ、分化抑制剤(B,D,F)と同様にOct−3/4遺伝子の発現を維持した。即ち、ES細胞の未分化を維持した。
(3)ES細胞分化抑制アッセイ3
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに7.85×10個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が10mlになるように播種した。各ディッシュには、本発明の分化抑制剤Bを最終濃度4μg/mlで、或いは、ESGROを最終濃度1×10unit/mlで培地に添加し、37℃、5%COインキュベーターで1日培養した。
(4)RNAの単離2
前記(3)ES細胞分化抑制アッセイ3に示す方法で培養したES細胞からISOGEN(株式会社ニッポンジーン社製、日本)を用い、添付の方法に従ってトータルRNAを抽出した。即ち、細胞を15mlの滅菌チューブに回収し、卓上遠心機(トミー精工)で1,000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、PBS 10mlで2回洗浄後、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。ISOGENE 1mlに溶解し、室温で5分間静置した後、クロロホルム(和光純薬)を0.2ml加え、15秒間振とうし、2〜3分間室温で静置した。微量遠心機(トミー精工)で4℃、10,000rpmで15分間遠心した。上清400μlを新しい1.5mlのエッペンドルフチューブに移し、500μlのイソプロパノール(和光純薬)を加え、室温で10分間静置後、微量遠心機にて4℃、10,000rpmで10分間遠心した。上清を除去後、70%エタノール水溶液を1ml加え、振とうした後、微量遠心機にて4℃、10,000rpm、約5分間遠心した。上澄みを除去して沈殿を乾燥させた後、30μlの蒸留水に溶解させ、トータルRNA溶液を得た。
このようにして得られたトータルRNAの2μgを鋳型に、DeoxyribonucleaseI(Amplification Grade)(Invitrogen社製)、SuperScript III First−Strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen社製,18080−051)を用い添付のプロトコールに従ってcDNAを合成した。即ち、2μgのトータルRNAに1μlの10×DNaseI Reaction Buffer、1μlの10×DNaseI(以上Invitrogen社)を加え、蒸留水で10μlとなるようにした反応液を作製し、室温で10分間インキュベートした。1μlの25mM EDTA溶液を加えて、65℃で10分間加熱し、室温に戻した後、反応液を8μlとり、1μlの50mM Oligo(dT)20プライマー、1μlの10mM dNTP Mixを加え、65℃で5分間インキュベートした。氷中に1分間置いた後、2μlの10×RT Buffer、4μlの25mM MgCl、2μlの0.1M DTT、1μlのRNaseOUT(Invitrogen社製)、そして、1μlのSuperScript III RTを加えて50℃で50分間インキュベートした。続いて85℃で5分間インキュベートした後、氷中に1分間置いた。1μlのRNaseHを加え、37℃で20分間インキュベートしてcDNAを得た。このようにして得た合成cDNAの一部を蒸留水で5倍に希釈し、その2μlを鋳型として、ライトサイクラーファーストスタートDNAマスターSYBRグリーンIキット(ロシュ・ダイアグノスティック社製)を用い添付のプロトコールに従ってPCRを行った。Nanog遺伝子、並びに内部標準としてグリセロアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の発現量を測定した。Nanog遺伝子の増幅には、センスプライマーNanog_up(配列表配列番号5)、およびアンチセンスプライマーNanog_down(配列表配列番号6)を用い、GAPDH遺伝子の増幅には、センスプライマーGAPDH up(配列表配列番号3)、およびアンチセンスプライマーGAPDH down(配列表配列番号4)を用いた。PCR反応液の組成、及び反応条件を以下に示す。

本発明の分化抑制剤B存在下で培養したES細胞のNanog遺伝子の発現量は、分化抑制剤を含まない培地、ならびに、ESGRO1,000ユニット/mlを含む培地にて培養したES細胞に比べ有意に増加していた(図7)。即ち、本発明の分化抑制剤Bは、ES細胞の未分化を維持する効果を有することがNanog遺伝子の発現量から確認された。
また、分化抑制剤A,C,D,E,Fについても同様の検討を行ったところ、分化抑制剤Bと同様にNanog遺伝子の発現量を増加させた。即ち、ES細胞の未分化を維持する活性を有することが明らかになった。
(5)SSEA−1抗原の発現量評価1
前記の(1)ES細胞分化抑制アッセイ2で培養した細胞をPBSで2回洗浄し、セルスクレイパーで細胞をディッシュから脱離した。細胞数が6×10個になるように2%FBSを含むHanks balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)を300μl加えた。HBSSで50倍希釈したMX−SSEA−1抗体(Kyowa Medex社製)を30μl加え40分間、氷上で静置した。HBSS(1ml)で2回洗浄後、HBSS(300μl)に再分散し、HBSSで20倍に希釈したFITC−Goat anti Mouse IgM抗体(ZYMED社製)を30μl加え30分間、遮光して氷上で静置した。HBSS(1ml)で2回洗浄後、HBSS(1ml)に再分散し、20μg/ml PI溶液(Dojindo社製)を100μl加え、フローサイトメーター測定に用いるサンプルを得た。またフローサイトメーター測定に用いるサンプルは、凝集塊を除く目的で孔径100μmのナイロン・メッシュに通した後に測定を行った。フローサイトメーターはFACSCalibur(BECTON DICKINSON社製)を用い、測定条件データ収集解析ソフトウェアはCELLQuest(BECTON DICKINSON社製)を用いた。結果を図8に示した。各分化抑制剤を添加して培養した細胞の、1細胞あたりの平均蛍光強度、即ち、1細胞あたりのSSEA−1抗原発現強度は、分化抑制剤を含まない培地で培養した細胞に比べ、有意に亢進していた。また、化合物A,C,Eについて同様の実験をしたところ、同様にSSEA−1の発現レベルが有意に高いことを示した。即ち、本発明の分化抑制剤は、未分化なES細胞を維持することが明らかになった。
[実施例3]
インドール誘導体a〜oについても同様の実験をし、以下の結果を得た。
(1)ES細胞分化抑制アッセイ4
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした96穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3072、米国)に、1ウェルあたり3200個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が100μlになるように播種した。各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または水、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(a〜o:a、j〜mはIF LAB Ltd.社、ウクライナ、b、c、f、nはPHARMEKS社、ロシア、d、e、oはSPECS社、オランダ、g〜iはCHEMBRIDGE社、米国から購入)、あるいはESGROを10μl添加し、37℃、5%COインキュベーターで4日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。またコントロールウェルには、DMSOのみを最終濃度で0.1%となるように加えた。分化抑制剤a〜oの構造を図9に示した。
(2)アルカリホスファターゼ定量2
ES細胞のアルカリホスファターゼ活性を、p−NITROPHENYLPHOSPHATESOLUTION(MOSS Inc.社製、PRODUCTNO.NPPD−1000、米国、またはSIGMA社製、A−3469、米国製)(以下、p−NPP)を用いて定量した。前記の(1)ES細胞分化抑制アッセイ4に記載の方法で4日間培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、p−NPP100μlを各ウェルに加え、室温で10分間静置した。各ウェルに12.5μlの8M水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応を停止させた。溶液の405nmの吸光度(O.D.405)と690nmの吸光度(O.D.690)を吸光度計(MolecularDevices社製、型式:SPECTRAMAX190)により測定し、O.D.405−O.D.690で算出される値をアルカリホスファターゼ活性とした。定量結果をグラフしたものを図10に示した。本発明の分化抑制剤、化合物a〜oはコントロールであるDMSO(0.1%)に比べて有意にアルカリホスファターゼ活性を増幅させた。即ち、本発明の分化抑制剤は未分化なES細胞の培養を支持した。
(3)ES細胞分化抑制アッセイ5
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに8×10個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が10mlになるように播種した。各ディッシュに40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(a〜o)、あるいはESGROを1ml添加し、37℃、5%COインキュベーターで4日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。
(4)SSEA−1抗原の発現量評価2
前記の(3)ES細胞分化抑制アッセイ5で培養した細胞をPBSで2回洗浄し、セルスクレイパーで細胞をディッシュから脱離した。細胞数が6×10個になるように2%FBSを含むHanks balanced salt solution(HBSS、Invitrogen社製)を300μl加えた。HBSSで50倍希釈したMX−SSEA−1抗体(Kyowa Medex社製)を30μl加え40分間、氷上で静置した。HBSS(1ml)で二回洗浄後、HBSS(300μl)に再分散し、HBSSで20倍FITC−Goat anti Mouse IgM抗体(ZYMED社製)を30μl加え30分間、遮光して氷上で静置した。HBSS(1ml)で二回洗浄後、HBSS(1ml)に再分散し、20μg/ml PI溶液(Dojindo社製)を100μl加え、フローサイトメーター測定に用いるサンプルを得た。またフローサイトメーター測定に用いるサンプルは、凝集塊を除く目的で孔径100μmのナイロン・メッシュに通した後に測定を行った。フローサイトメーターはFACSCalibur(BECTON DICKINSON社製、米国)を用い、測定条件データ収集解析ソフトウェアはCELLQuest(BECTON DICKINSON社製、米国)を用いた。結果を図11に示した。各分化抑制剤を添加して培養した細胞の、1細胞あたりの平均蛍光強度、即ち、1細胞あたりのSSEA−1抗原発現強度は、分化抑制剤を含まない培地で培養した細胞に比べ、有意に亢進していた。また、化合物b〜oについて同様の実験をしたところ、同様にSSEA−1の発現レベルが有意に高いことを示した。即ち、本発明の分化抑制剤は、未分化なES細胞を維持することが明らかになった。
(5)STAT3活性化アッセイ2
実施例1の(3)ES細胞の調製に記載の方法に従って調製したD3ES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした24穴細胞培養用ディッシュ(FALCON Cat.No.3047、米国)に、1ウェルあたり1×10個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞培地が500μlになるように播種し、37℃、5%COインキュベーターで12時間〜24時間培養した。次ぎに、LipofectAMINE 2000(Invitrogen社製、米国)を用いて、添付のプロトコールに従って、pSTAT3−TA−Luc、またはpTA−Lucベクター(Clontech社製、米国)を1ウェルあたり0.9μgをES細胞にトランスフェクションした。また、内部コントロールとして、pRL−TKベクター(Promega社製、米国)を各ウェル0.1μg、同時にトランスフェクションした。37℃、5%COインキュベーターで4時間培養後、培地を吸引し、PBSで2回洗浄したのち、ESアッセイ培地を各ウェル500μlずつ加えた。次いで、各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)または水或いはその混合物に溶解した分化抑制剤、あるいは10〜10,000unit/mlとなるようにESアッセイ培地で希釈したESGROを50μl添加し37℃、5%COインキュベーターで6〜24時間培養した。続いて、ピッカジーンデュアル・シーパンジー(東洋インキ製造社製、日本)を用いて、添付のプロトコールに従って、各細胞のルシフェラーゼ・レポーター酵素による発光シグナルを測定した。図12に示すように、ESGROがpSTAT3−TA−Lucによるレポーター酵素の発現を亢進させたのに対し、本発明の化合物bは、レポーター酵素の発現を誘導しなかった。
また、化合物a、c〜oについても同様の実験を行うことにより、レポーター酵素の発現の有無を確認することができる。
[実施例4]:ES細胞の継代培養
実施例1の(3)マウスES細胞の調製に記載の方法に従って調製したES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした直径6cmの細胞培養用ディッシュに3×10個の細胞を、ES細胞アッセイ培地が4.5mlになるように播種した。各ディッシュに10〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜F、a〜o)、あるいは10units/mlのESGROを0.5ml添加した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。DMSOのみのコントロールは培地で希釈した1%濃度液を0.5ml加えて最終濃度0.1%とした。37℃、5%COインキュベーターで7日〜30日培養した。培地は毎日交換し、2〜3日毎に3×10個/ディッシュとなるように継代した。
本発明の分化抑制剤を用いて7日、或いは30日間培養したES細胞のアルカリホスファターゼ活性をコロニーアッセイにより定量した。即ち、前記の方法で継代培養したES細胞を、予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした96穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3072、米国)に、1ウェルあたり1×10個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が90μlになるように播種した。各ウェルに0〜10units/mlとなるよう培地で希釈したESGROを10μl添加し、37℃、5%COインキュベーターで4日間培養した。各ウェルから培地を吸引除去し、細胞を100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、p−NPP100μlを各ウェルに加え、室温で10分間静置した。各ウェルに12.5μlの8M水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応を停止させた。溶液の405nmの吸光度(O.D.405)と690nmの吸光度(O.D.690)を吸光度計(Molecular Devices社製、型式:SPECTRA MAX190)により測定し、O.D.405−O.D.690で算出される値をアルカリホスファターゼ活性とした。化合物Bを添加して30日間継代培養したES細胞のアルカリホスファターゼ定量結果を図13に、化合物fを添加して無血清培地で7日間継代培養したES細胞のアルカリホスファターゼ定量結果を図14に示した。
本発明の分化抑制剤、化合物Bおよびfで継代培養したES細胞は、DMSO(0.1%)で培養したES細胞に比べて有意にアルカリホスファターゼ活性を増幅させた。即ち、本発明の分化抑制剤はES細胞の未分化状態を長期培養においても支持したことがわかる。
また、分化抑制剤A,C〜E、a〜oについても同様の検討を行ったところ、分化抑制剤(B,f)と同様にアルカリホスファターゼの活性を維持した。即ち、ES細胞の未分化を維持した。
[実施例5]
(1)カニクイザルES細胞の培養
カニクイザルES細胞培養培地として、DME/F−12,1:1(SIGMA D6421)に、以下に示す最終濃度で因子を添加してカニクイザルES細胞培地を調製した。20%ノックアウト血清リプレースメント:KSR(Invitrogen社製 10828−028)、1×非必須アミノ酸(SIGMA M7145)、2mM L−Glutamine(SIGMA G7513)、1mMピルビン酸ナトリウム(SIGMA S8636)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(SIGMA P0781)。また、カニクイザルES細胞培養用のマウスフィーダー細胞用の培地として、DMEM(Invitrogen 社製 11960−044)に、以下に示す最終濃度で各因子を添加して調製した。10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社製)、2mM L−Glutamine(SIGMA G7513)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(SIGMA P0781)。
直径6cmの細胞培養用ディッシュに、蒸留水に0.1%の濃度でGelatin(SIGMA社製TypeA:from porcinESkin、G2500)を溶解し、滅菌して作製した0.1%ゼラチン水溶液5mlを添加し、37℃で30分以上静置した。ゼラチン水溶液を除いて、マイトマイシンC(協和発酵社製)処理したマウス胚性初代培養細胞(Invitrogen社製 YE9284400)2×10個を播種し、前記のフィーダー細胞用培地を用いて37℃、5%COインキュベーター(タバイエスペック社製)で5時間以上培養した。カニクイザルES細胞(田辺製薬株式会社製)を、マウス胚性初代培養細胞に播種し、5mlのカニクイザルES細胞培養培地で、37℃、5%COインキュベーターで3日間培養して増殖させた。
(2)カニクイザルES細胞の調製
前記の(1)カニクイザルES細胞の培養に記載の方法に従って培養したカニクイザルES細胞をPBSで洗浄後、DMEM(Invitrogen社製 11960−044)に溶解した0.1%コラゲナーゼ溶液(Wako社製 032−10534)もしくは、トリプシン溶液(2.5%トリプシン溶液(Invitrogen社製 15090−046)を10ml、Knockout Serum Replacement(Invitrogen社製10828−028)を20ml、100mM CaCl水溶液を1ml、PBSを69ml混合することにより調製)を加え、37℃で5分間インキュベートした。5mlのカニクイザルES細胞培養培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを脱離後、分散させ、15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を5mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、カニクイザルES細胞を得た。
(3)マトリゲルコートディッシュの作製
グロースファクターリデュースド(GFR)BDマトリゲル(日本ベクトン・ディッキンソン社製、354230、日本)及びBDマトリゲル基底膜マトリックス(日本ベクトン・ディッキンソン社製、354234)を2〜8℃の冷蔵庫で一晩解凍し、冷やしたピペットを用いてゆっくりと混合した。冷却したDMEM/F12 1:1(Sigma社製、D6421、米国)でマトリゲルを20倍希釈し、培養ディッシュに加え、室温で1時間インキュベートした。溶液を除去し、DMEM/F12 1:1で洗浄し、マトリゲルコートディッシュを得た。
(4)ES細胞分化抑制剤アッセイ6
前記の(2)カニクイザルES細胞の調製に記載の方法に従って調製したカニクイザルES細胞を3〜5倍に培地で希釈し、予めマトリゲル(日本ベクトン・ディッキンソン社製)でコートした直径6cmの細胞培養用ディッシュ1枚当たり4.5mlを播種した。次いで、各ディッシュに8〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または培地、或いはその混合物に溶解した本発明の分化抑制剤(A〜F、a〜o)及び6−ブロモインジルビン−3オキシムを0.5ml添加し、37℃、5%COインキュベーターで培養した。2〜4日毎に前記(2)カニクイザルES細胞の調製に記載の方法に従って継代した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。以上の培養細胞を前記実施例1に記載のアルカリフォスファターゼ染色により評価を行った。
化合物Bもしくは化合物fを添加後、2日間培養した細胞のアルカリフォスファターゼ染色の結果を総コロニー数に対する染色されたコロニー数の割合として図15に、6−ブロモインジルビン−3オキシム非存在下もしくは存在下、化合物fを添加し、3日間培養後継代し、3日後のアルカリフォスファターゼ染色写真を図16に示した。
本発明の分化抑制剤、化合物B及びfで培養したカニクイザルES細胞は、DMSO(0.1%)で培養したカニクイザルES細胞に比べて有意にアルカリフォスファターゼ染色されたコロニーの割合が多かった。また、化合物f存在下で継代培養したカニクイザルES細胞は、DMSO存在下で継代培養したカニクイザルES細胞に比べ、有意に染色されていた。さらに、6−ブロモインジルビン−3オキシム存在下では、化合物fの効果は増強された。即ち、本発明の分化抑制剤は、カニクイザルES細胞の未分化状態を支持したことがわかる。なお、化合物A,C〜E、a〜e、g〜oについても同様の検討を行ったところ、分化抑制剤(B,f)と同様にアルカリフォスファターゼの活性を維持した。即ち、カニクイザルES細胞の未分化を維持した。
[実施例6]:化合物の製造方法
[1] 3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニデン−1−アセトアミドの合成

ベンゼンに2−シアノアセトアミド(Aldrich社、米国)を加え攪拌しながら、10℃に上がらないようにゆっくりと濃硫酸を滴下する。室温に戻した後、ジメチルベンジルカルビノール(Lancaster社、英国)を加える。約30分間還流し、室温に放冷後、反応混合液を氷水に注ぐ。抽出した水相を中和し、生じた沈殿を濾別する。乾燥後、イソプロパノールで再結晶することにより標題化合物を得る。
MS(m/z)=217(M+1)
[2] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミドの合成

p−アミノアセトフェノン(Aldrich社、米国)をベンゼンに溶解し、塩酸ガスを通気し、得られた沈殿を濾別し、イソプロパノールにより再結晶することによりp−アミノアセトフェノン塩酸塩を得る。得られたp−アミノアセトフェノン塩酸塩を20%エタノール水溶液に溶解し、氷浴下、濃塩酸で酸性にする。亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し、尿素で処理することにより、ジアゾニウム塩溶液を得る。
3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニデン−1−アセトアミドを20%エタノール水溶液に溶解し、濃塩酸を加える。10℃を越えないように温度を調整し、先のジアゾニウム塩溶液を加える。反応液が変化し、攪拌しながら飽和酢酸ナトリウム水溶液を加える。得られた沈殿を濾別後、イソプロパノールで再結晶することにより標題化合物を得る。
MS(m/z)=363(M+1)
[3] 2−(3−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミドの合成

m−アミノアセトフェノン(Aldrich社、米国)をベンゼンに溶解し、塩酸ガスを通気し、得られた沈殿を濾別し、イソプロパノールにより再結晶することによりp−アミノアセトフェノン塩酸塩を得る。得られたp−アミノアセトフェノン塩酸塩を20%エタノール水溶液に溶解し、氷浴下、濃塩酸で酸性にする。亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し、尿素で処理することにより、ジアゾニウム塩溶液を得る。
3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニデン−1−アセトアミドを20%エタノール水溶液に溶解し、濃塩酸を加える。10℃を越えないように温度を調整し、先のジアゾニウム塩溶液を加える。反応液が変化し、攪拌しながら飽和酢酸ナトリウム水溶液を加える。得られた沈殿を濾別後、イソプロパノールで再結晶することにより標題化合物を得る。
MS(m/z)=363(M+1)
[4] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(2,3,3−トリメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミドの合成

アセトニトリルに2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex社,ロシア)及び炭酸ナトリウムを加え、ヨウ化メチルのアセトニトリル溶液をゆっくり滴下し、還流する。還流物を室温まで放冷後、溶媒を減圧留去し、残渣をジクロロメタンに溶解し、蒸留水で洗浄する。その後無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=377(M+1)
[5] 2−(2−アセチル−3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−アセトアミドの合成

氷浴下、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex社,ロシア)及びジメチルアミノピリジンをピリジンに溶解し、無水酢酸を加える。停止後、前記反応後の溶媒を氷水に注ぎ、ジクロロメタンにより反応生成物を抽出する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=405(M+1)
[6] (4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトニトリルの合成

氷浴下、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex社,ロシア)、塩化チオニル及びDMFを混合し、ゆっくり攪拌する。混合溶媒から過剰の塩化チオニルを減圧留去し、反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=345(M+1)
[7] (4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸の合成

エタノールに水酸化カリウム及び2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex社,ロシア)を加え、加熱還流する。還流物を室温まで放冷後、これに蒸留水を加え、さらに塩酸を加えて中性にした後、エーテルで反応生成物を抽出する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=364(M+1)
[8] (4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸エチルエステルの合成

(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸をエタノールに懸濁し、攪拌する。冷却しながら塩化チオニルをゆっくり滴下し、その後、室温で攪拌する。攪拌混合溶媒から溶媒を減圧留去し、水で洗浄する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=392(M+1)
[9] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−メチル−アセトアミドの合成

(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸、メチルアミン、HOBt(Advanced ChemTech社、米国)及びトリエチルアミンをDMFに溶解し、HBTU(Advanced ChemTech社、米国)のジクロロメタン溶液を加え、その後、室温で攪拌する。攪拌混合溶媒を飽和塩化ナトリウム水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=377(M+1)
[10] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N,N−ジメチル−アセトアミドの合成

(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸、ジメチルアミン、HOBt(Advanced ChemTech社、米国)及びトリエチルアミンをDMFに溶解し、HBTU(Advanced ChemTech社、米国)のジクロロメタン溶液を加え、その後、室温で攪拌する。攪拌混合溶媒を飽和塩化ナトリウム水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=391(M+1)
[11] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−フェニル−アセトアミドの合成

(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸、フェニルアミン、HOBt(Advanced ChemTech社、米国)及びトリエチルアミンをDMFに溶解し、HBTU(Advanced ChemTech社、米国)のジクロロメタン溶液を加え、その後、室温で攪拌する。攪拌混合溶媒を飽和塩化ナトリウム水溶液、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する。反応生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、これを濾別した後、溶媒を減圧留去する。反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=439(M+1)
[12] 2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−1−イル)−アセトアミドの合成

窒素気流下、アセトニトリルに2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド(Asinex社,ロシア)を溶解したものに、トリフェニルすず水素化物(Aldrich、米国)を溶解したキシレンを加え、還流する。還流物を室温まで放冷し、不溶物を濾別する。濾液から溶媒を減圧留去し、反応生成物を含む残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物を得る。
MS(m/z)=365(M+1)
[実施例7]
(1)ES細胞分化抑制アッセイ7
実施例1の(2)マウスES細胞の培養に記載の方法を用いて培養したD3ES細胞をPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン溶液(Invitrogen社製)を加え、37℃で5分間インキュベートし、未分化のD3ES細胞のコロニーをフィーダーから脱離させた。5mlのES細胞培地を添加し、小径ピペットを使用して細胞コロニーを分散させ、15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機(トミー精工)で800rpm、約5分間遠心してペレット化した。上清を除き、細胞を5mlの新鮮なES細胞培地に再懸濁し、0.1%のゼラチン水溶液で予めコートした直径10cmの細胞培養用ディッシュに播種し、37℃で20分間インキュベートした。20分後、浮遊細胞を含む培地をピペットで回収し、15mlの滅菌チューブに移し、卓上遠心機で1000rpm、約5分間遠心してペレット化した後、上清を除き、5mlのES細胞アッセイ培地に再懸濁する。予め0.1%のゼラチン水溶液でコートした24穴細胞培養用ディッシュ(FALCON社製 Cat.No.3047、米国)に、1ウェルあたり3×10〜1×10個の細胞を、1ウェル当たりのES細胞アッセイ培地が500μlになるように播種した。各ウェルに0.4〜40μg/mlとなるようにジメチルスルフォキシド(DMSO)、または水、或いはその混合物に溶解した実施例6に記載の方法を用いて製造した化合物▲1▼〜▲10▼、あるいはESGROを50μl添加し、37℃、5%COインキュベーターで7日間培養した。DMSOの培地中への持ち込は最終濃度0.1%以下となるようにした。またコントロールウェルには、DMSOのみを最終濃度で0.1%となるように加えた。化合物▲1▼の構造を図17に、化合物▲2▼〜▲10▼の構造を図18に示した。
(2)アルカリホスファターゼ染色
ES細胞をアルカリホスファターゼキット(SIGMADiagnostic社製 Cat.No.86−R)を用いて染色した。前記「ES細胞分化抑制アッセイ」に記載の方法で培養したES細胞の各ウェルから培地を吸引除去し、その細胞を0.5mlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、0.5mlの細胞固定液(25ml クエン酸溶液(SIGMA社製 Cat.No.91−5)、65mlアセトン、8ml 37%ホルムアルデヒド)を各穴に加え、室温で30秒静置する。固定液を吸引除去し、0.5mlの脱イオン水を各穴に加えて45秒室温で静置する。脱イオン水を吸引除去し、ついでアルカリホスファターゼ染色液(1ml 亜硝酸ナトリウム溶液、1ml ファーストレッドバイオレットLBソルト溶液、1ml ナフトールAS−BIアルカリ溶液、45ml蒸留水)を1ウェルあたり0.5ml加え15分間室温で静置後、染色液を吸引除去し、脱イオン水0.5mlで洗浄した。ネガティブコントロールであるESGRO非存在下で培養したES細胞、ポジティブコントロールである、ESGRO(1000ユニット/ml)存在下で培養したES細胞、そして、本発明の化合物▲4▼(4μg/ml)存在下で培養したES細胞の染色像を比較した(図19参照)。化合物▲4▼存在下で培養したES細胞は、ESGRO非存在下で培養したES細胞に比べ、有意に濃く染色されており、高いアルカリホスファターゼ活性を有していることが示された。さらに、本発明の化合物は、ポジティブコントロールであるESGRO存在下で培養したES細胞と同等の未分化コロニーを形成させることもできた。すなわち、本発明の化合物は、ES細胞の未分化状態での増殖を強く支持したことがわかる。
なお、化合物▲1▼〜▲3▼、▲5▼〜▲10▼についても、化合物4と同様に染色された。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を、未分化なまま、期間を延長してまたは無期限に、大量にかつ安全に増殖させることができる。本発明によって提供される分化抑制剤、それを用いた培養方法、培養液は、細胞移植用途で用いる細胞ソースとしての幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を産生するために適用され得る。幹細胞、好ましくは胚性幹細胞を利用することにより得られる多くの恩恵に加え、本発明によって提供される分化抑制剤およびそれを用いた培養方法は、1つもしくは多数の遺伝的な改変を有する胚性幹細胞を産生するために適用され得る。このような適用の例は、疾患について細胞ベースでのモデルの開発、ならびに遺伝病を処置するために移植について特異化された組織の開発を含むが、これに限定されない。
上記の通り、本発明の分化抑制剤および/または2環化合物は、幹細胞を未分化状態で増殖させることができ、その結果培養された細胞や組織を再生医療分野で好適に利用できる。また、本化合物を医薬組成物に応用することができる。
本出願が主張する優先権の基礎となる2003年6月27日付の日本特許出願(特願2003−185398)及び2003年10月14日付の日本特許出願(特願2003−353870)の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に参照として取り込まれる。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子化合物またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
【請求項2】
低分子化合物が、一般式(1)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。A環は、少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5〜8員環を表す。Xは、主鎖の原子数が0〜10のアルキレン基を表す。原子数0のアルキレン基とは、単結合を表す。該アルキレン基を構成する1つ以上のエチレンが、−C=C−基及び/又は−N=N−基及び/又は−CONH−基で置き換わっていてもよい。また、環Aと結合するボンドが二重結合となる基であってもよい。さらに、該アルキレン基は、置換基として、電子吸引基、電子供与基または水素原子を1つ以上有してもよい。Gは、電子吸引基、電子供与基または水素原子を有してもよい芳香族基を表す。該A環は、−XG基以外の置換基として電子吸引基及び/又は電子供与基を1つ以上有してもよい。]
で表される化合物である、請求項1に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項3】
A環が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を環内に含む5もしくは6員環である、請求項2に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項4】
A環が、1つの窒素原子を環内に含む5または6員環である、請求項2に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項5】
Xで表されるアルキレン基が、置換基としてアルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ニトリル基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる基及び/又は原子を1つ以上有している、請求項2〜4の何れかに記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項6】
低分子化合物が、一般式(2)

[式中、R、R、R、R、X及びGは、前記請求項2中の定義と同義である。R、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、請求項2に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項7】
低分子化合物が、一般式(3)

[式中、R、R、R、R、X及びGは、前記請求項2中の定義と同義である。R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、請求項2に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項8】
低分子化合物が、一般式(4)

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、前記請求項6中の定義と同義である。R10、R11、R12、及びR13は、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。二重片側破線は単結合または二重結合を表す。二重片側破線が二重結合を表す場合、波線部に関して幾何異性体が存在する。これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物である、請求項6に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項9】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、及びR13が、それぞれ独立に、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ハロゲン原子及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、請求項8に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項10】
低分子化合物が、一般式(5)

[式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、前記請求項6中の定義と同義である。R10、R11、R12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、請求項6に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項11】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、及びR12が、それぞれ独立に、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ハロゲン原子及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、請求項10に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項12】
低分子化合物が、一般式(6)

[式中、R、R、R、R、R、及びRは前記請求項7中の定義と同義である。R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、電子吸引基、電子供与基または水素原子を表す。]
で表される化合物である、請求項7に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項13】
、R、R、R、R、R、R、R、及びRがそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ニトリル基、アセトキシ基、アセトキシアルキル基、酸素原子を含んでも良い環状アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノビニル基、ヒドロキシアルキルアミノアルキル基、アリールアミノビニル基、及び水素原子よりなる群から選ばれる基または原子である、請求項12に記載の分化抑制剤。
【請求項14】
、R、R、R、R、R及びR10が水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、または低級アルコキシ基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基であり、R13が、ヒドロキシカルボニル基、ニトリル基、アミノカルボニル基、または低級アルコキシカルボニル基である、請求項8に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項15】
、R、R、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが、同一であっても異なってもよい低級アルキル基であり、R10が水素原子又は低級アルキル基であり、R11が、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルコキシ基、または低級アルコキシカルボニル基であり、R12が、水素原子、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基である、請求項10に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項16】
およびRが水素原子であり、Rがヒドロキシル基またはアセトキシ基であり、Rがアセトキシアルキル基、酸素原子を含んでも良い環状アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、ヒドロキシアルキルアミノアルキル基、又は水素原子であり、Rが低級アルキル基、またはアリールアミノビニル基であり、Rがニトロ基であり、R、R、及びRが同一であっても異なってもよい低級アルキル基、低級アルコキシ基、または水素原子である、請求項12に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項17】
一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R11、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、二級アミノカルボニル基または三級アミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
【請求項18】
一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10及びR12が水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R11が低級アシル基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
【請求項19】
一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13はヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基またはアミノカルボニル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
【請求項20】
一般式(9)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13はニトリル基を表す。波線部に関して幾何異性体が存在し、これらの幾何異性体の配置は特に限定されず、それぞれ独立に、E体又はZ体のいずれであってもよい。]
で表される化合物またはその塩。
【請求項21】
一般式(10)

[式中、R、R、R、及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Rは水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基または環状構造を形成してもよい低級アルキル基であり、R及びRは水素原子であり、R10、R11、及びR12は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、又はニトリル基を表す。]
で表される化合物またはその塩。
【請求項22】
、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、同一であっても異なっていてもよい水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、請求項17記載の化合物またはその塩。
【請求項23】
、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11が低級アシル基であり、R12が水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基、または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、請求項18記載の化合物またはその塩。
【請求項24】
、R、R、及びRが水素原子であり、Rが低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、又はフェニルアミノカルボニル基である、請求項19記載の化合物またはその塩。
【請求項25】
、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がニトリル基である、請求項20記載の化合物またはその塩。
【請求項26】
、R、R、及びRが水素原子であり、Rが水素原子、低級アシル基、または低級アルキル基であり、R及びRが同一であっても異なっていてもよい低級アルキル基であり、R、R及びR10が水素原子であり、R11及びR12が、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、低級アルキル基、低級アシル基または低級アルコキシ基であり、R13がヒドロキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、モノ低級アルキルアミノカルボニル基、ジ低級アルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、又はニトリル基である、請求項21記載の化合物またはその塩。
【請求項27】
(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸エチルエステル、(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−酢酸、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−メチル−アセトアミド、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N,N−ジメチル−アセトアミド、2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−N−フェニル−アセトアミドである、請求項17記載の化合物またはその塩。
【請求項28】
2−(3−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミドである、請求項18記載の化合物またはその塩。
【請求項29】
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(2,3,3−トリメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトアミド、2−(2−アセチル−3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−アセトアミドである、請求項19記載の化合物またはその塩。
【請求項30】
(4−アセチル−フェニルアゾ)−(3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−イソキノリン−1−イリデン)−アセトニトリルである請求項20記載の化合物またはその塩。
【請求項31】
2−(4−アセチル−フェニルアゾ)−2−(3,3−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−1−イル)−アセトアミドである請求項21記載の化合物またはその塩。
【請求項32】
請求項17〜31のいずれかに記載の化合物またはその塩を有効成分とする幹細胞分化抑制剤。
【請求項33】
低分子化合物がアルカリホスファターゼの活性を維持または上昇させる作用を有する化合物である、請求項1〜16又は32のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項34】
低分子化合物が、STAT3(signal transducer and activator of transcrption3)を活性化しない化合物である、請求項1〜16、32又は33のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項35】
低分子化合物が、SSEA−1抗原発現量を増加させる作用を有する化合物である、請求項1〜16又は32〜34のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項36】
低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有する化合物である請求項1〜16又は32〜35のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項37】
低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有する2環化合物である、請求項36に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項38】
低分子化合物が、Nanog遺伝子の発現量を増加させる作用を有するアゾ基を含有する2環化合物である、請求項37に記載の幹細胞分化抑制剤。
【請求項39】
請求項1〜16及び32〜38のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を用いて幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする幹細胞培養方法。
【請求項40】
請求項1〜16及び32〜38のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を用いて胚性幹細胞を未分化状態で培養することを特徴とする胚性幹細胞培養方法。
【請求項41】
請求項1〜16及び32〜38のいずれかに記載の幹細胞分化抑制剤を有効成分として含有する培地。
【請求項42】
請求項17〜31のいずれかに記載の化合物またはその塩を含有する培地。
【請求項43】
分化抑制剤、化合物またはその塩の濃度が10ng/ml〜100μg/mlであることを特徴とする請求項41または42に記載の培地。
【請求項44】
請求項1〜16及び32〜38のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて未分化状態で培養された幹細胞。
【請求項45】
請求項1〜16及び32〜38のいずれかに記載の分化抑制剤を用いて未分化状態で培養された幹細胞を分化させて得られる細胞または組織。
【請求項46】
細胞または組織が生体内へ移植するためのものである請求項44または45に記載の細胞または組織。
【請求項47】
請求項44〜46のいずれかに記載の細胞または/および組織を生体内に移植する治療方法。
【請求項48】
請求項17〜31のいずれかに記載の化合物またはその塩のプロドラッグ。
【請求項49】
請求項17〜31のいずれかに記載の化合物もしくはその塩またはそのプロドラッグを含有してなる医薬組成物。

【国際公開番号】WO2005/007838
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511810(P2005−511810)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009379
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】